「ん……んん……ふぁぁっ……起きなきゃ……」 「くしゅんっ」 「う〜……なんかちょっと寒い……?」 「ぐしゅ……風邪引いたかなぁ」 「あれ? 私、布団かけてない」 「おかしいな、そんなに寝相悪くない方だと思ってたんだけど……疲れてるのかな?」 「むにゅう〜……」 「うひゃあ!」 「な、なになに!?」 「むにゅう……すぴぴー」 「あまね!?」 「ふふ……むふふふ……」 「あんた、また人んちに勝手に忍び込んで! あまねんちは隣でしょ!」 「しかも人の布団を奪って、幸せそうな顔で寝てるし」 「むふ……むふふふ……♪」 「うわ、笑ってる……こら、起きなさいあまね!」 「ああーん、いや〜ん」 「なにその寝言……」 「うーん……あたしのお饅頭返してよぉ……もう、佳織ちゃんってば食いしん坊さんなんだからぁ」 「誰が食いしん坊よ! おきろー!」 「ひゃあああ!」 「起きた? あまね」 「ふぇ……佳織ちゃん?」 「そーよ。目さめた?」 「なんで佳織ちゃんがここに居るの? ここはどこ! あたしの布団はっ?」 「そりゃ私のセリフよっ。ここは私の部屋で、あまねの布団はあまねの部屋っ」 「……おおう!」 「わかった?」 「佳織ちゃんのパジャマ……おにゅーだね♪」 「ちがーう!」 「えーでも、とっても可愛いよー?」 「えっ……そう?」 「うんっ、前のも良かったけど、これもイイ! とっても似合ってる」 「そ、そう……あまねがそう言ってくれるなら……買って良かったかも」 「すりすり♪」 「うわぁぁっ!?」 「肌触りがステキ、やっぱりおにゅーは違うねぇ」 「ち、ちょっとなにしてるの、離れなさいよ……あんっ」 「お胸が、ぽよぽよー」 「あ・ま・ね!」 「あはぁー、いい枕ですなぁー」 「こ、こら! もう、早く部屋に戻って着替えてきなさいよ」 「気持ちいいから離れたくないよーぅ」 「ダメだったら、そんな風にされたら私……」 「うん……?」 「私……ドキドキ、してきちゃうじゃない……」 「おやすみなさいましぇー」 「寝るなー!」 「……くぅ……くぅ」 「ほんとに寝るな!」 「ふにゃあ〜 」 「くっ、なんかさっきより幸せそうな顔してて、起こすに起こせないっ」 「佳織ちゃぁん……むにゅむにゅ……」 「……むぅ」 「もう、あと5分だけなんだからねっ」 「むひゅむひゅ♪」 「はぁぁ……」 「そろそろ起きないと本気でマズイわよ?」 「うう、起きたくなーい……」 「ていうか、ひとんちでいつまで惰眠をむさぼってるつもりよ」 「ほら、さっさと自分の部屋に戻って制服に着替えてきなさいよ」 「めんどくさーい」 「すぐそこでしょうが。ほら、窓の向こう! ほんの5メートル先にあるでしょ」 「うん……そうだね」 「ぬぎぬぎ……」 「うわっ、なんでここで脱ぐのよ!?」 「ふえ? だって制服に着替えないと」 「ここは私の部屋で、あまねの部屋はあっち! ここで脱いでどうするのっ」 「わかってるよー?」 「わかってない。ちっとも分かってない」 「寝ぼけてないよぉ」 「はいはい、わかったわかった」 「むー、信じてないなー」 「アンタが起きてちゃんと着替えたら信じてあげるわよ」 「うー、じゃあ佳織ちゃんがチューしてくれたら起きる」 「なっ……!?」 「ば、ばかっ、なに朝から変なこと言ってんのよ!」 「だいたい、ちゅーってなによちゅーって! 私たちまだそんな関係じゃ……」 「くー……すぴー……」 「…………」 「ねるなー!」 「ひゃあ!?」 「朝からバカなこと言ってないで、さっさと自分の部屋に戻りなさい!」 「んー、じゃあ……ぬぎぬぎ……」 「って、何故ここで脱ぐ!?」 「だって、持ってきてるもん」 「へ……?」 「せーふく」 「なんでっ!?」 「そこはまったく覚えてないんだよねー」 「夕べ寝るとき、佳織ちゃんにおやすみを言おうと思ったら、佳織ちゃんのお部屋もう真っ暗でさ」 「あまねはゲームで夜更かしし過ぎなのよ」 「夕べはちょっと熱が入っちゃっただけだよー」 「それでね、おやすみを言わないで寝るのもなーと思って……」 「忍び込んできたってわけ?」 「忍び込んだはいいけど、一気に眠気でばたんきゅーしちゃって」 「少ししたらぽっかり目が覚めちゃって、気付いたら佳織ちゃんとひとつベッドの上だった、と」 「はあ……」 「たぶん無意識に、こういう状況を予測してたんだね」 「ちょっと寝坊しても、制服を持っていけば大丈夫って?」 「そーそー」 「あるわけないでしょ!」 「ありー?」 「まーなんかいろいろとアレがナニした結果、ここに制服があるわけなのさ」 「説明するのめんどくさくなったわね」 「えへ♪」 「でも、お布団ぬくかったなー。もそもそ」 「下着で布団に入るなっ」 「だって眠いんだもん……」 「ほら起きるっ」 「あーうー、お布団から引きずり出されるぅ」 「着替えさせるわよっ」 「え……あ、ひぁ、あははっ、お腹くすぐったい」 「じっとしてなさい」 「だって、ひゃははっ、佳織ちゃんの指が当たって、あんっ」 「へ、変な声出さないの!」 「でも、あははっ、出ちゃうよぉ」 「じゃあ我慢しなさい、でなきゃ口を結ぶっ」 「むぐぐっ」 「はい、ばんざいして」 「むぐー」 「リボンを結んで……っと、これで良し。口開けていいわよ」 「ぷはーっ」 「制服に着替えたことだし、後は寝るだけだぁ……」 「違うでしょ。顔洗って、朝ご飯を食べるの」 「でもまだ眠いし……」 「……アンタだけ置いて学校行くわよ?」 「はう!? 起きます、起きました、結城あまね、只今起床しましたっ!」 「ほんとに?」 「実はまだちょっと眠いの」 「置いてく」 「ああん、佳織ちゃんのいけずぅ」 「あまねに付き合って遅刻する気ないのよ……」 「って、うわあああ! も、もうこんな時間! ち、遅刻しちゃう!」 「え? あー……ほんとだ。これはピンチだね〜」 「ピンチだね〜、じゃないってば!」 「あまね、行くわよっ」 「えっ、ああんっ、待ってよ佳織ちゃーん」 「あまね、トースト食べてっ」 「はむっ」 「ベーコン! スクランブルエッグ! トマト! キウイ!」 「んぐぐ!?」 「最後は野菜ジュース!」 「う……ごくごく……ぷはっ! 死ぬかと思ったぁ」 「よし、行くわよっ」 「えー、食べたばっかだしー」 「そんなこと言ってる場合じゃないのっ」 「はーい」 「ああー、ちょっと待った。口にパン屑ついてる」 「ん……ありがと、佳織ちゃん♪」 「はいはい。あ、そだ、今日の天気は……」 「快晴、傘必要なしっ。今度こそ出発よ!」 「はーい」 「私が付いてる限り、遅刻なんてさせないんだからっ」 「頼りにしてるよ、佳織ちゃん♪」 「あんたはもう少ししっかりしろー!」 「やや? あそこを歩いているのは、春ちゃんとマコちゃんじゃないかね?」 「あ、ほんとだ」 「おーい、春ちゃーん、マコちゃーん!」 「あまね、朝からそんな大声、近所迷惑でしょ」 「あ、そうだね。てへ」 「やっほー、ふたりとも、ご機嫌うるわしゅー」 「あ……ごきげんよう、あまねちゃん、佳織ちゃん」 「ごきげんよう」 「春ちゃんは今日も小動物みたいで可愛いのぅ」 「あうう……あごの下なでないで〜」 「うん。ちっこくて可愛い」 「もう、真琴ちゃんまでひどいよぉ」 「……ごめん」 「ち、ちがうよ、別に怒ってるんじゃないよ。だからそんなに悲しそうな顔しないで」 「…………」 「……してた? 悲しそうな顔」 「うんにゃ。あたしにはいつもとかわらないように見えた」 「小春だけには、なぜか真琴の考えてることが分かるのよねー」 「え? え?」 「でもでもっ、真琴ちゃんは表情豊かだよ?」 「豊かとはちょっと違う気もするけど」 「ふふん、春ちゃんだけがわかるってことは……愛だねっ」 「ふええええ!?」 「愛って、アンタねぇ……」 「愛があるから、マコちゃんのちょっとした違いに気付くんだよ」 「…………」 「あ、愛……愛……はうううう!」 「おー、春ちゃんが混乱してる」 「バカっ、のんびり見ててどーすんのっ」 「ほら、小春って、落ち着いてっ」 「あううう〜」 「あ、そっち……危ない」 「あいたー!」 「あー……言わんこっちゃない」 「うう〜」 「小春、大丈夫?」 「うん……ぐすっ」 「あまね! あんたが変なこと言うから、小春がパニクっちゃったじゃない」 「えー」 「まったく。愛だとかなんだとか、そう恥ずかしいことを臆面もなく……」 「でも、あたし佳織ちゃんのことなら、なーんでも分かるもん」 「これってやっぱり愛だよね。愛」 「い、いきなりなに言い出してんのあんた」 「佳織ちゃんは? あたしの考えてること、分かる?」 「そんな……わ、私は別に、その……」 「ま、どっちでもいいけど」 「いいのかよっ」 「うん。あたしは佳織ちゃんのことなんでも分かる。それでじゅうぶん」 「あぅ……!」 「ねぇそれよりさ、また四人で放課後ゲームやろうよ」 「あ、うん、こないだのゲーム楽しかったね」 「うんうん、楽しくてついエキサイトして、熱くなっちゃった」 「あはは……確かに、あまねちゃんは凄かったね」 「……あまねはハマりすぎなのよ」 「だってゲームって燃えるじゃん」 「はぁぁ……」 「けど、マコちゃん強くてびっくりしちゃった。昔から得意だったの?」 「どうだろう……」 「真琴ちゃんはスポーツが得意だから、反射神経がいいんじゃないかな」 「なるほどっ」 「マコちゃんのことは知らないことがいっぱいだ。謎多き女ってやつだねっ」 「そんなことは……」 「真琴は今年からミカ女に入ったから、新鮮ってのはあるかもね」 「もぎたてフレーッシュ!」 「だから、大声出さないの」 「言わずにはいられなかった」 「マコちゃん、次も勝負だ」 「うん」 「うちに来るのは構わないけど、今度こそ宿題が終わってからにしなさいよ」 「この間みたいに、宿題開始5分で、ちょっと休憩ーなんて言って、ゲームなんてダメなんだから」 「次はだーいじょーぶだよー」 「ほんとかしら。寝癖がついてる人を信用していいのかしらね」 「え、寝癖って誰のこと?」 「あんただ、あんた」 「あたしか」 「ほとんど寝起きで出てきたとはいえ、ミカ女の学生たるものが寝癖なんてダメよ」 「うん」 「今は手櫛で我慢しなさい」 「はーい」 「今朝も、二人は仲良しだね」 「ち、違うわよ! あまねがだらしないから仕方なくやってるの!」 「相変わらず照れ屋さんだね」 「そうなんですのよ、うちの佳織は素直じゃなくて」 「もー、違うったらー!」 「とーちゃーくぅ」 「はいはい、朝から騒がない。みんなの邪魔になっちゃうでしょ」 「今日もまた勉強という名の悪夢と戦う一日が始まるのだった」 「ちゃんと予習と復習をしないから、そういう考えになるんじゃない」 「佳織ちゃんはキビシーなぁ」 「あまねがちゃんとしてないからでしょ」 「佳織ちゃんは、あまねちゃんのお姉さんみたいだね」 「そうかな?」 「ふーむ……」 「そういえばみんな、宿題やってきた? 答え合わせしたいんだけど」 「うん、やろう」 「そうね」 「……し、宿題っ!?」 「数学の宿題があったと思うんだけど……」 「そ、そうだったかのぅ」 「あんた、まさか……」 「や、やだなぁ佳織ちゃん、ちゃんとやってきたよー。あたしの記憶が間違っていなければ」 「ダメじゃん!」 「あうーん、すっかり忘れてたー」 「あらら……」 「今から、やる?」 「数学って何時間目だっけ、えーと」 「うわ、1時間目だ!」 「あと5分ちょい」 「わー、どうしよー」 「あんたって子は……」 「ふえー、佳織ちゃん、宿題みしてぇ」 「ダメ」 「ええー! 佳織ちゃんのケチんぼ! もう朝起こしてあげないんだからっ」 「いつも起こしてるのは私でしょーが」 「むむむ……」 「そうだったかもしれない!」 「あのね……」 「でもでも! たまーに、あたしの方が先に起きることだってあるよね」 「休みの日だけね」 「あ、そっか」 「お休みの日になると、朝早く目が覚めちゃうんだよね」 「あんた中身は子供よね」 「そうです。子どもなのです」 「というわけで、お姉ちゃ〜ん、宿題みして〜」 「お姉ちゃんっていうな」 「じゃあ、お姉さま」 「くっ……」 「お、今度はイケる」 「べ、別にグラッときたりしてないから」 「お姉さまぁ〜ん」 「だーめ。こういうのは自分でやらないと」 「く、もう効かなくなったか」 「佳織ちゃんの言葉はごもっともなんだけど、あたしには残された時間というものがなくて」 「あと3分しかない」 「くああっ」 「しょうがないな、今回だけよ?」 「わーい、ありがと佳織ちゃん、助かるよー」 「佳織、優しいね」 「ほっとけないんだよね」 「う……事実そうなんだけど、実際に言われると否定したくなるっ」 「優しいよね、佳織ちゃん」 「えへへー♪」 「……なんであんたがにやけてんのよ」 「だって佳織ちゃんが褒められると、嬉しくなっちゃうんだもん」 「なんで嬉しくなっちゃうんだろ? 佳織ちゃんのことが好きだからかな」 「あ、あんたはどうしてそういう恥ずかしいことを言うのっ」 「はえ?」 「もういいから、教科書出して」 「はーい。……がさごそ」 「ややっ!?」 「どうしたのよ」 「どうやら教科書は、異次元に消失したようだ」 「なんですって!?」 「むむむっ、数学だけじゃなく、他の教科書もない!」 「アホー! 忘れまくりじゃー!」 「忘れたんじゃないよ、教科書が勝手にお出かけしちゃったんだよ」 「どんな言い訳!? 通用するかっ」 「ああん、ジョークだよぅ」 「教科書は見せてあげるから、とにかく今は宿題のことだけを考えなさい」 「はい……」 「プリントは?」 「まっさらなプリントなら、ここに1枚あります」 「あと1分」 「あああ、もう今回だけは見せてあげるから、早くうつしなさいっ」 「ありがたやー!」 「佳織ちゃん、やっぱり優しいよね」 「うん……ワタシも佳織みたいに、優しくなりたい」 「真琴ちゃんもいつも優しいよ」 「小春……」 「真琴ちゃん♪」 「あたしが殺伐としているというのに、隣から甘い空気が漂ってくるっ」 「はわわっ」 「あんたは口を動かさず、キリキリ手を動かす!」 「ふええ〜ん」 「うーむ、宿題は切り抜けたものの」 「教科書がないと、授業がちんぷんかんぷんっ」 「そりゃそうでしょうとも」 「佳織ちゃん、佳織ちゃん」 「……なに?」 「教科書を忘れたあたくしに、どうか教科書みしてくださいっ」 「結局そうなるのね」 「隣の席が私なのを、感謝しなさい」 「ありがとうございますだー」 「はいはい」 「よいしょ」 「授業中なんだから、もっとそーっとやんなさいって」 「りょーかいでありまっす!」 「……だから声が大きいってば」 「机合体完了!」 「はい、教科書どうぞ」 「ありがと♪」 10分後―― 「くぅ……くぅ……」 「ぬあっ!?」 「ひとに教科書を見せてもらってるってのに寝るかコイツは……」 「にゃぁ……」 「ちょっ!? しかも、もたれかかってくるしーっ」 「ち、ちょっとあまね、起きなさいよ」 「すぅ……すぅ……」 「あまねったら、授業中だって」 「くかー……」 「本気で寝てるの?」 「な、なんでこんなことに……しかも、このいい香り……」 「うう……肩に当たる感触が柔らかい……」 「どうしよう、ちゃんと起こした方がいいよね? でも、もうちょっとだけこのままでも……」 「……って、ダメダメ! やっぱり起こさないと!」 「あまね、あまねっ」 「んぅ……佳織ちゃん……?」 「もう、授業中に寝たらダメじゃない」 「ん……ぅ……」 「ちょっとあまね、ちゃんと聞いてるの?」 「すぅ……すぅ……」 「こら、あまね!」 「佳織ちゃん、あと5分だけ寝かせて〜……むにゃむにゃ」 「あまね〜〜」 「くすくす、あまねちゃんってば……」 「くすくすっ」 「うう……みんなに笑われてる」 「佳織ちゃん、そんなに怒ったら、クワガタみたいに角が生えちゃうよ」 「生えるか!」 「むにゃむにゃ……」 「って、寝言!?」 「こらー! 今すぐ起きなさ〜〜〜い!」 「さっきはちょっと面白かったね」 「うん。笑ってしまった」 「うう……」 「この私が、教室の笑いものに……」 「まあまあ、佳織ちゃんや、そう落ち込まなくてもいいじゃないの。人生にはよくあることだよ」 「元凶はあんたでしょーが!」 「あまねが変な寝言を言うから笑われちゃったんじゃない」 「あたし、そんなに恥ずかしいこと言っちゃった?」 「言っちゃったわね」 「そっかー、ごめんね。ちっとも記憶にないよ」 「寝ちゃってたもんね」 「佳織ちゃんといると、気が緩んじゃうのかな」 「なによ、それ」 「あたしにとって、佳織ちゃんは一番安心する人だから」 「だから寝ちゃったっていうの?」 「うん」 「最近いい陽気だしね」 「それもあるんだけど、佳織ちゃんってあったかくて気持ちいいんだ」 「うっ!」 「それに、いい香りがするし〜」 「……あんたねぇ」 「なんとなくあまねちゃんの気持ち、わかるかも」 「……マジで?」 「うん、ぽかぽかしてたら、眠くなっちゃうもん」 「みんなで佳織ちゃんにくっついちゃえ」 「いいの?」 「許す」 「あまねが許すなっ」 「ああーん、気持ちいいー」 「わわわっ」 「もっと胸があると、より気持ちいいんだけど」 「うっさいわね!」 「春ちゃん、マコちゃん、おいでよ」 「うん」 「失礼する」 「きゃああ!?」 「佳織ちゃぁ〜ん」 「みんなでくっつくと……」 「なんだかちょっと楽しくなってきた」 「もっと佳織ちゃんの体に押しつけちゃえー!」 「ひゃわ! どこ触ってんのよあまねっ」 「わかってるくせに♪」 「もー、みんな離れなさーーーい!」 「……ふっ」 「英語のプリント出して、悟っちゃったみたいな顔してどうしたの」 「宿題ってさ、1日1個が限度だと思うんだ」 「は? 宿題?」 「だってさ、それ以上だと家に帰ったとき、遊べないじゃない?」 「はあ」 「……ふーむ、なるほど」 「あんた、英語の宿題も忘れたわね?」 「か、佳織ちゃん……なぜそれを!?」 「いや、分かるって」 「春だからって抜け過ぎなんだから」 「数学のは忘れてた自覚が微かにあったんだけど、こっちは完全に忘れてまして」 「教科書はあるの?」 「ここにございます」 「じゃあ1人で頑張れるわね」 「ひいー、佳織ちゃんたしけてー」 「甘えるな」 「……1人で頑張るしかないのかぁ」 「英語の時間まではまだ時間があるでしょ、自力で頑張りなさい」 「うう」 「あまねちゃん、どうしたの?」 「なにか困り事?」 「おおー、春ちゃん、マコちゃん、いいところに!」 「えっ」 「英語の宿題見せて〜」 「?」 「もしかして、英語も忘れた……とか?」 「そうなんデス。夕べはゲームに夢中になりすぎて、色々と迂闊な夜だった。さすがに反省しております」 「だから助けてー!」 「人に助けを求めるんじゃない」 「英語の宿題も忘れちゃったなんて、たいへんだ……」 「そうなんだよぅ、まずいんだよぅ」 「わたしじゃ助けにならないかもしれないけど、それでも良ければ教えようか?」 「春ちゃん、ありがとー!」 「うん。あまねちゃん、がんばろう」 「がんばるっ」 「やっぱ春ちゃんは優しいよ〜。どっかのガミガミ言う人とは大違いだね〜」 「な、なによ! いっつも宿題写させてあげてるじゃないっ」 「小春も無理に教えなくてもいいんだからね?」 「でも、お友達が困ってるの、ほっとけないよ」 「春ちゃんが天使に見えるっ」 「小春が天使……天使な小春……かわいい」 「ふ、2人ともなに言ってるの……」 「ワタシも手伝おう」 「ありがとうマコちゃんっ」 「ええと、まずはこのカッコ内に入るものからだけど……」 「これは、inが入るんじゃないかな」 「正解」 「よっしゃー!」 「次は……」 「これは、確かこんな感じだったと思う。前の授業でやってたよね」 「うん、合ってる」 「みんなでやると、はかどるなー」 「このまま、友情パワーで一気に宿題を片づけちゃえ!」 「うん」 「この三択問題の答えは、Cだ―――!」 「Aだと思う……」 「えーっ、どうしてどうして!?」 「直前にこの単語があった場合は、Aになるって先生が言っていたはず」 「あや、そうだっけ?」 「あー、そうだったかも。わたし間違った答え書いちゃった」 「これから直せばいい」 「そうだね、助かったよ」 「なんなのよー……」 「で、で、次の答えはなに?」 「次は、確かBだったと思う」 「うん」 「びーびー、おっけー」 「そんなの、あまねのためにならないんだからねっ」 「今回だけだよぅ」 「いつもそう言ってるじゃない」 「それに……」 「……いつも私だけに聞くのに」 「え、なに?」 「な、なんでもないっ」 「佳織ちゃんも本当は教えたいんだね」 「そんなことないったらっ」 「くすくす」 「もー! ゼッタイちがうんだからー!」 「宿題も後半になってくると一筋縄ではいかないっていうかー」 「あきた」 「あまねちゃん、あと半分だし、がんばろっ」 「あまねはやればできる子」 「春ちゃんとマコちゃんは、優しいなぁ〜」 「……」 「後ろでむすっとしとる誰かさんとは大違いだわ〜」 「……ふんっ」 「時間が惜しいから、先に進もう」 「難問はここからだもんね」 「この長文は教科書にないから、単語を調べるのに時間かかったし」 「そうなんだよ」 「あたしは今、そんな2人の貴い犠牲の上に立っている!」 「そ、そんな、大袈裟だよ」 「ありがとね、2人ともっ」 「2人が困ったときは、必ず助けに行くからっ!」 「う、うん」 「困ったとき、か……」 「どういうときかな?」 「ゲームの攻略だったら、任せて!」 「な、なるほど、そういう場合かー。あまねちゃん、頼りになるもんね」 「おうさ!」 「あと、なんかこう、大ピンチみたいなときも駆けつけるよ」 「大ピンチって、どんなときだろう?」 「大きな犬に吠えられてるときとか」 「それは確かに大ピンチだ……」 「小春、そのときはワタシも駆けつける」 「真琴ちゃんは、地球の裏側にいても駆けつけそうだよね」 「当然だ。小春のピンチはワタシのピンチだ」 「真琴ちゃん……」 「お熱いですのぅ、ひゅーひゅー」 「そ、それより今は、宿題だよ」 「おっといけない、気付かぬうちに現実逃避をしていたようだ」 「えっとー……」 「むむっ、最初の文章からして、意味がわからない!」 「これはね――」 「……あまねったら、ちゃんと理解できるのかしら」 「どうしてそうなるの?」 「ええと、これが先に来る場合は――」 「難しいよー……えーと、こうかな」 「違うわよっ、そうじゃないってば」 「ああもう、見てられない!」 「あまね、惜しい」 「だったら、こうだー!」 「そうじゃないっ」 「……あ、なんでもない」 「佳織ちゃん……」 「……ふんっ」 「……そっか、これも違うんだ。ぜんっぜんわからないよ」 「がんばれあたし、落ち着いてやればできるっ」 「むむっ?」 「きらーん☆」 「答えは、これだー!」 「うん、今度こそ合ってる」 「ふう。小手先の力で通用しないから、外国語って怖ろしいよ」 「でも今、ちょっとコツがわかった気がする」 「この調子でいけば、宿題がスムーズにいきそう!」 「良かったね、あまねちゃん」 「うんっ」 「それじゃ、次の問題も解いちゃいましょうか」 「いぇすっ」 「次は、ジェシカが茶道を習うってことになって、それで、えーと」 「日本の文化を色々と学ぶ話になる」 「そうそう」 「どれどれー、ふむ……おお、なるほど!」 「あまねちゃん凄い。もうわかっちゃったんだ」 「いや、全然」 「えっ?」 「前向きだと、わかった気がしてくるんだよねー」 「あ、あはは……」 「前向きって……凄く大事なことだと思う」 「そうだよねーっ、さっすがマコちゃん、話がわかるぅ」 「やる気って大事だよね、難問でも解ける気になっちゃうもん」 「よぅーし、この調子で、ガンガン解いてっちゃおー!」 「う、うん」 「気になるだけで、解けるわけじゃないでしょうが……」 「これじゃ小春たちを困らせるだけじゃない……はああ、見てられんないわ」 「へ?」 「佳織ちゃん……?」 「佳織ちゃん、椅子持ってきてどうするの?」 「見てられないから、私が面倒みてやるっ」 「おおっ」 「遂に真打ち登場だね」 「単なる世話係の登場よ。これ以上、小春と真琴に迷惑かけられないわ」 「大丈夫だよ、迷惑だなんて思ってないから」 「うん」 「無理しなくていいよ、あまねはすぐ調子に乗って誰かに教えてもらおうとするんだから」 「そういう甘えん坊には、ビシビシ鍛えないと」 「ビシビシ……」 「そうよ」 「佳織ちゃんが教えるなら、わたし達の出番は無さそうだね」 「うん」 「バトンタッチ、よろしくお願いします」 「まっかせておいて」 「さあ、あまね。覚悟しなさい」 「ひっ」 「私は小春たちみたいに、ただ答えを教えたりなんかしないんだから」 「あたしは別に、指導教官が春ちゃんとマコちゃんでも……」 「喝!」 「ひゃあっ」 「そんな根性でどうする! 大人になって社会に揉まれたとき、困るのはあまねなんだから!」 「し、将来を見据えた発言……しかも重い! 真面目だ……佳織ちゃんは真面目っ子だ!」 「い、いいじゃない、たまには真面目だって」 「ともかく、今のあまねに足りないのは、努力と根性よ! わかった?」 「……はーい」 「返事は短く!」 「はい……」 「私が協力してあげるんだから、嘘でも喜びなさいよ」 「大体、さっきまでの前向きさはどこに行っちゃったの?」 「遠いお星様になりました」 「呼び戻せ!」 「1週間前に出された宿題を、急ピッチでやるんだから、やる気は必要なの」 「うん……」 「やる気は戻ってきた?」 「それにはまず、愛する人の口づけを……」 「なにー!?」 「わー、可愛い猫のぬいぐるみ♪」 「この猫のぬいぐるみにでもしときなさい」 「んぢゅっ」 「ぷはっ、これじゃなーい」 「私とするっていうの? は、恥ずかしいから嫌よっ」 「断る理由が恥ずかしいからなんだ。愛する人というのは否定しないって、さすが」 「!?」 「あまねちゃんと佳織ちゃんは、仲良しさんだからね」 「ワタシも見習わないと」 「ち、違うったら!」 「これはその、そこを否定したらあまねが悲しむかもしれないから、嘘でも言えないというか」 「あ、ち、違う、今のナシっ」 「佳織ちゃん、可愛いー♪」 「激烈に可愛い子に、可愛いと言われてしまうとは! かなり複雑っ」 「あの、佳織ちゃん、そろそろ宿題をですね……」 「わ、わかってるわよっ」 「まずは辞書を用意しなさい。話はそれからよ」 「そこからやらないとダメかー」 「当然っ。さあ、早く!」 「なんだか佳織ちゃんが燃えている」 「いいからっ」 「はーい」 「返事は短く!」 「いぇす、まむ!」 「じゃあ、まずは辞書をひきながら自力でやってみなさい」 「えー、佳織ちゃん教えてくんないのー?」 「ダメ。それじゃ意味ないでしょ」 「う〜、さっきより時間がかかるよぅ……」 「こっちの方が、断然覚えるから」 「しかし時間が……」 「だったら、辞書を引くのを早くする」 「ふぇぇ……」 「さあ、その単語の意味がわかれば、この問題は解けるでしょ」 「えーと、えーと……」 「すらすらすら……こう、かな?」 「ちっがーう!」 「違うの?」 「意味が逆」 「ほ、ほほーう」 「ということは、次の問題の答えも……」 「すらすらすら〜っと……どうだっ」 「違うってば! 何度言ったらわかるの!」 「うえーん、佳織ちゃんきびしーよー!」 「さあ、次の問題に行くわよっ」 「はいー!」 「ぷへぇ〜、宿題終わったぁ〜」 「なんとか間に合ったわね」 「ちかれた〜、頭ベリベリぷしゅ〜」 「今回は私も悪かったわ」 「ほえ?」 「あまねがちゃんと宿題をやってるか、気にかけてあげれば良かったと思って」 「あー……」 「あまねなら、宿題を忘れかねないもの」 「さすが、良くわかっていらっしゃる」 「何年の付き合いだと思ってるの」 「えーと、1、2、3……10年は経ってる!」 「お隣さんなんだから、10年じゃ済まないでしょ」 「あ、そっか。ミカ女に入ってからのことだと思った」 「……ミカ女に入ってからも、そんなに経ってるんだ」 「そうだよ」 「だったらますます宿題に気付いてあげなきゃいけなかったんだわ。あまねは忘れるのが普通なんだもの」 「それだとあたしが毎回宿題忘れているような」 「私が言わないと、ほぼ毎回忘れてるじゃない」 「佳織ちゃんに言われると、そんな気がしてくる」 「はー、あまねをこんな風に甘やかしたのは、私かもね」 「でも、そのお陰で助かってるよ」 「それはそうでしょうけど、あんたには自発的に宿題をする気持ちがないの?」 「あるような〜、ないような〜、あるような〜、でもやっぱりないような〜」 「どっちよ」 「いや、あるよ。やる気」 「だって、あたし、佳織ちゃんに宿題みてもらうの大好きだもん」 「はあ? なにそれ」 「えっとね、だからね? こうやって、佳織ちゃんとふたりでいるの好きなの」 「ば、ばか! なに変なこと言ってんのよ!?」 「えー、だってほんとのことだもん」 「だ、だからってこんな時に……」 「えへへ♪ ずーっといっしょにいようね、佳織ちゃん」 「な……!?」 「大人になっても、おばあちゃんになっても、ずーっとずーっといっしょだよ」 「そ、それじゃまるでプロポーズじゃない!」 「あれ? そっかな?」 「もう! 変なこと言ってないで宿題に集中しなさいよっ」 「うわぁぁ? ごめーんっ」 「はぁはぁ……」 「むー、わりと本気なのになー」 「はぁはぁ……え? なんか言った?」 「ううん。なんでもなーい」 「でも、今回はほんと助かったよ。ありがとね」 「やっぱり、最後に助けてくれるのは、佳織ちゃんだねっ」 「べ、別に……」 「えへへ、佳織ちゃん大好き!」 「!?」 「あ、ああ、あんたね、何こんなところで変なこと言っちゃってるの!」 「はえ?」 「教室でそんな恥ずかしいこと言って、恥ずかしいと思わないの? 私の方が恥ずかしくて、恥ずかしいって何度も言っちゃうじゃない!」 「はえ〜……?」 「くっ、無自覚……」 「どったの? 佳織ちゃん?」 「なんでもないわよっ」 「あう、怒られた……」 「佳織ちゃんが照れ屋さんなだけだと思うよ」 「ち、違うわよ、あまねが自覚ないから――」 「まあまあ。わたしだってミカ女に入ってから、ずっと2人と一緒だもん、わかるよ」 「うぐ……小春……」 「ずっと一緒か……ちょっと羨ましい」 「真琴ちゃんとは、これからたくさん思い出を作って行こう」 「うん」 「あたしも思い出いっぱい作るっ」 「マコちゃんだけでなく、佳織ちゃんと春ちゃんともね」 「これ以上……思い出を作るって言うの……?」 「うん、だって大好きだもん!」 「だ、だから、そういう恥ずかしいことを言わないのっ」 「なんで? なんで恥ずかしいの?」 「好きな人に好きって言うのは普通のことだよ」 「ぎゃー! もうだからそれをやめなさいって言ってんのー!」 「ああっ、佳織ちゃんなんで逃げるのー!」 「う、うるさーい!」 「私は今一人になりたいのよー!」 「ああん、待ってよ佳織ちゃーん」 「ついてくんなー!」 「ああ……行っちゃった」 「なんだかんだ言って、仲良しだね」 「ふふふ……うん、そうだね」 「やったー! お昼休みだー!」 「授業中のテンションとは雲泥の差ね」 「好きな時間はテンションが上がるものなのさ」 「まあ、気持ちはわかるけどね。私もお腹ぺこぺこだし」 「今日は宿題も頑張ったから、余計にお腹空いちゃったよ」 「春ちゃーん、マコちゃーん、おべんと食べよー」 「うん」 「今、机をくっつけるから」 「あたしもあたしもー」 「お昼の準備オッケーイ!」 「じゃあ食べようっか」 「うんっ」 「――あ! マコちゃんのお弁当包み、おにゅーだ」 「うん、街で可愛いの見つけたから」 「真琴はこういう可愛いのが好きなんだ」 「好き……かなり」 「そっか、覚えておくね」 「? う、うん」 「お誕生日のプレゼントは、すんごく可愛いのにするね」 「あ、ありがとう……凄く、嬉しい」 「うんうんっ」 「見た目は大人っぽいのに、可愛いもの好きって、なんかいいね。これがギャップ萌えってやつかも」 「ギャップ萌えって、なんなの……」 「あっ! おにゅーといえば、佳織ちゃんのパジャマもおにゅーだったんだよ」 「パジャマのことなんて、報告しなくていいからっ」 「すごく可愛いパジャマなのに、報告しないなんて勿体ないよ」 「お弁当包みならまだしも、パジャマの話なんて恥ずかしいじゃない」 「パジャマの話で動揺するなんて、佳織ちゃんは乙女だな〜」 「う、うるさいわね」 「パジャマの話なんていいから、早くお昼にしちゃいましょ」 「はーい」 「うん」 「お弁当箱オープン! ぱかっ」 「おおっ、今日はハンバーグが入ってる」 「わたしもおかず作ってきたから、良かったらみんな食べてね」 「今日も春ちゃんのお弁当が食べられるー♪」 「お菓子も作ってきたから、お弁当の後に食べよう」 「いつもありがと、小春」 「ううん、好きで作ってくるだけだし、それに……」 「みんなが喜んでくれる顔が嬉しいから♪」 「小春……」 「春ちゃん……」 「その笑顔、癒されるわ……」 「春の柔らかな陽射しのようだよ」 「小春は心のオアシスだ」 「ふぇぇ?」 「小春はこんなに小さいのに、どうして美味しい料理が作れるんだろう」 「練習したからでしょう?」 「違うね。春ちゃんが可愛いからだよ!」 「な、に……!?」 「そうだったのか。納得」 「あんたたちね……」 「そんな風に言われると、プレッシャーだよ。美味しくできてるといいなぁ」 「大丈夫だよ! 春ちゃんのいつも美味しいし!」 「既にそれがプレッシャーじゃないの?」 「あや……」 「あうう」 「と、とにかく、いただきますをしようっ」 「そうね」 「いただきまーす!」 「いただきます」 「いただきます」 「いただきます」 「はむはむっ、ハンバーグおいひい!」 「がっつきすぎよ。ほら、ほっぺたにケチャップ付いてるじゃない」 「ほえ?」 「ほら、取ってあげるからジッとしてなさい」 「ん……ありがと、佳織ちゃん♪」 「誰も取ったりしないんだから、ゆっくり食べなさいよ」 「しかし、空腹があたしを呼んでいるっ」 「はぐはぐっ、うまうま〜っ」 「あまねちゃん、今日はいつにも増して凄い勢いだね……」 「あああ、そぼろが机にこぼれてる」 「はむっ?」 「世話が焼けるんだから」 「ありがと、佳織ちゃん」 「いいわよ、世話をかけられるのは慣れてるし」 「でも落としたら勿体ないから、こぼさないように気をつけること。いいわね?」 「うん」 「ああもう、顔にまだケチャップ残ってる。拭いてあげるから、こっち向きなさい」 「うん」 「えへへ、ありがと」 「どういたしまして」 「はむはむっ」 「……ああ、またご飯粒が左の頬に付いてる」 「あわわっ」 「しょうがないわねぇ……」 「とか言って、やっぱり取ってあげるんだ。佳織ちゃん」 「だ、だって、仕方ないじゃない!」 「佳織、優しいね」 「もうっ、そんなんじゃないってば!」 「これは、あまねの世話するのが癖みたいになってるだけで……」 「ああ、もう! 違うんだからねー!」 「いいじゃんいいじゃん。佳織ちゃんはあたしの嫁ってやつ」 「だ、誰が嫁よ!」 「ふたりとも仲良しだもんね」 「お似合い」 「もうっ、小春たちまで!」 「安心して、幸せになるから! あたしが!」 「あんたがかい!」 「むぐむぐ……」 「んぐっ!?」 「あまね……?」 「んー! んんーっ!?」 「もしかして、喉につまった?」 「(コクコク)」 「はいはい、飲み物のんで。落ち着いて食べなさい」 「ちゅーっ」 「ぷは……ありがと……」 「佳織ちゃんはお姉さんというより、保護者?」 「いやいや〜、どっちかって言うと、あたしの嫁?」 「誰が嫁よ、誰が」 「あ、でも、ホントにそんな感じ」 「小春もすんなり納得しないでよ!」 「ご、ごめん」 「うう〜」 「それにしてもあまねは凄い食欲だな」 「んっ?」 「あーほら、またこぼしてる」 「あわわ」 「ふぅ……そうなのよ、しかもこんなに食べてるのに太らないんだから」 「へええ」 「ちょっとむかつくと思わない?」 「え」 「だってどんなに食べても太らない体なのよ? きー!」 「確かに魅惑的な体だ」 「いやぁん♪」 「なに腰をくねらせてんのよ」 「佳織ちゃんの目が据わってる」 「ちょっとじゃなくて、凄くむかついている?」 「だって太らないのよ? こんな不公平なことってないわ!」 「そうかも。でも食べたいときは我慢できずに食べてしまうな」 「特に、小春のお菓子は美味しいし」 「あ、ありがとう」 「体重が増えないなら、一度くらい死ぬほどケーキやお菓子を食べてみたいっ」 「でも、春ちゃんのお菓子、たくさん食べてるよね」 「ううっ」 「だ、だって小春のは美味しいから、食べるの我慢できないんだものっ」 「気持ちはわかる」 「はあ、あまねが羨ましいわー」 「食べたいなら、食べればいいのに」 「毎晩、風呂上がりに体重計と睨めっこする乙女心が、あんたにはわからんのかっ」 「でも、太るとおっぱい大きくなるよ」 「うっ、胸……?」 「胸……」 「わたし……ぺたんこ……」 「いいなー、わたしも真琴ちゃんみたいにスタイル抜群になりたいなぁ」 「こ、小春」 「大丈夫だ。小春は、今のままが一番いい。すごく、可愛い」 「ええっ、可愛いなんて照れるよぉ」 「佳織ちゃんのおっぱいが大きくなったら、あたし嬉しいな」 「な、なんであんたが喜ぶのよ!」 「一緒に寝ると、気持ち良さそうじゃん?」 「い、いい、一緒に寝るって、あんたねー!」 「触っても良し、顔を埋めるも良し」 「柔らかいおっぱいを堪能するのじゃー」 「ひーっ」 「わわ、佳織ちゃんが暴れてる」 「想像するだけでも、恥ずかしくて死にそうっ」 「しちゃうんだ、想像……」 「だから佳織ちゃん、太っちゃお?」 「冗談じゃないわよっ、なんであまねのために太らなきゃならないのっ」 「でも嬉しいんだけどなー?」 「そりゃ……あまねが喜んでくれることは、してあげたいと思わなくもないような、違うような、その反対なような……」 「あはっ」 「てか、やっぱり恥ずかしくて、そんなのできるかー!」 「やっぱり却下なんだー!?」 「当然でしょ、それとこれとは話が別なのっ」 「ちぇー」 「胸を大きくしたいなら、揉めばいいって聞いたことあるけど」 「えっ」 「それが本当なら、わざわざ太る必要がないと思う」 「それよっ、それだわっ」 「都市伝説なんだけど……それ、自分で揉んでも効かないらしいよ」 「は?」 「誰かに揉んでもらうのが一番いいんだって」 「どこ発信の情報なのよ」 「だから都市伝説だってば」 「佳織の胸を大きくするには、あまねが必要ってこと?」 「その通りっ」 「あ、あんた、私の胸を揉みたいだけじゃないでしょうねっ」 「いやそんなことは……えへへぇ」 「その顔、怪しすぎるっ」 「その都市伝説、まさかあまね発信じゃないでしょうね?」 「いやいや〜……でへへぇ」 「ゼッタイ怪しい!」 「そう言わず、あたしに胸を揉ませておくれ……でへへ、えへへへ」 「そのエロイカサマ師みたいな顔、ゼッタイに嘘だっ」 「さあさあ、佳織ちゃんあたしに身を委ねて」 「ひっ、指がわきゅわきゅ動いてるっ」 「佳織ちゃぁ〜ん」 「イーヤー!」 「春ちゃんは自分でお弁当を作ってるんだよねー」 「マコちゃんもだっけ?」 「うん、そう」 「ほほーう、そう言われると味見させていただかないわけにはいきませんな」 「どれどれー、マコちゃんはどんなの作ってきたのかなー?」」 「あ、あまり見ないで……小春みたいに上手くないから……」 「ああっ、ちっちゃいエビフライ! すっごーい」 「人のお弁当をジロジロ見るんじゃないっての」 「冷凍ものもあるし、ほんとに、大したことないから……」 「いやいや、そもそもお弁当を自分で作るのがすごいって」 「そ、そう……?」 「お、これなーに? お星様のかたちー」 「それはかまぼこを型で抜いただけなんだ……」 「おおー、かわゆーい!」 「でもほんと、他のはあまり見せられたものじゃないんだ」 「そんなことないよ、どれもダイナミックだよ」 「それ、褒めてるのか?」 「……おっ」 「……」 「……?」 「マコちゃんと春ちゃんのお弁当で、決定的な違いを発見!」 「ええっ、ど、どこ?」 「サイズ!」 「おにぎりのサイズ!」 「ん?」 「……あ」 「マコちゃんの方が、ちょっとずつ大きいんだけど、おにぎりのサイズが5倍!」 「あ、ほんとだ」 「それぞれの体にあったサイズだから、それでいいんじゃないの?」 「うん」 「……」 「……真琴ちゃん?」 「……」 「ど、どうしたの?」 「ちょっとショックだ」 「ええっ」 「小春とは同じ学年なのに、食べるサイズがこうも違うものなのか」 「き、気にすることないんじゃないかな」 「どうしてこんなに大きなおにぎりを作ってきてしまったんだ」 「いや、このサイズがいい感じだと思っていたからだ」 「小春のように小さいものを食べていれば、こんなに身長が伸びることもなかったかもしれないのに」 「いやそれ考えすぎだから」 「ワタシも小春のように、そこにいるだけで癒される存在になりたかった」 「癒しは身長と関係ないんじゃないか?」 「ショックだ……ああショックだ……」 「そんなことないよっ」 「あまね……?」 「おっきいのは、いいことだよっ」 「あたし、おにぎりたくさん食べたい派だしっ」 「おっきいおにぎり、あたし大好きだよ!」 「あまね……」 「あまねちゃん……」 「てことはー、真琴が作ったおにぎりは、あまね用ってわけね」 「むしろ、あたし専用で!」 「あはは、そうかも」 「……ぷっ、そうか、あまね専用か」 「うんっ」 「真琴ちゃんが作ったお弁当……じー」 「あ、あんまり見られると恥ずかしいよ……」 「美味しそうだなぁと思って」 「そう?」 「小春に言われると、悪い気はしないけど……」 「どれも心がこもってる感じがする」 「おにぎりが大きいのも?」 「もちろん」 「ふむ……」 「真琴ちゃんの手作りお弁当っていうだけで、いいなぁって思うの」 「そういうもの……かな」 「好きな人の手作り弁当が特別ってやつだね?」 「そ、そんな」 「そーかそーか、春ちゃんにも春だけに春が来たか」 「はうう……」 「……」 「あまねの発言につっこむべきか、そこで押し黙る小春達につっこむべきか……」 「え、ええっと、真琴ちゃん、お弁当とりかえっこしない?」 「あからさまに話題を変えたわね」 「だって、なんて言えばいいかわからないし」 「ワタシのお弁当と交換する?」 「あ、うん。もし良ければだけど……」 「もちろんっ」 「小春のお弁当が食べられるなんて、ワタシは今、1年分の運を使い果たしてる気分だ」 「そんな、大げさだよぉ」 「ああ……もう死んでもいい……」 「いや、さすがにお弁当ひとつで死んでもいいはどうかと思うわよ」 「だいたい、小春のお弁当を食べて『死んでもいい』なんて言ってたら、あまねなんか……」 「ほえ?」 「コイツなんて、しょっちゅうつまみ食いしてるわよ」 「そ、そうか」 「わたし、いつも多く作りすぎちゃうから。あまねちゃんが手伝ってくれて助かってるの」 「はぁ……小春は良い子ねぇ」 「ほんと」 「え? ええ?」 「いいなー、春ちゃんのお弁当……交換しよっ」 「アンタすでに、自分のほとんど食べちゃってるじゃない」 「何を交換するっていうのよ」 「うーん……仕方ない、では、この佳織ちゃんのお弁当から好きなのを選びたまえ」 「私のかい!」 「まあまあ、みんなで分けっこしよ」 「わーい!」 「はぁ……」 「それじゃ……はい、お弁当」 「ありがとう。わたしも、はい、お弁当」 「ありがとう」 「えへへ、真琴ちゃんの大きいおにぎり、さっそく食べよっと」 「な、中身はシーチキンとおかか昆布だから」 「わたしのは見たまんま、炊き込みの具が入ったのと、たまごのおにぎりだよ」 「それじゃあ、いただきます」 「うん」 「はむ……」 「もぐもぐ……」 「はむっ」 「もぐもぐ……」 「はむっ」 「もぐもぐ……」 「かっ……かわいい……!」 「はむはむ」 「なんか、ハムスターとかそういう小動物みたい……」 「春ちゃん、かわゆーい!」 「わ、たくさんおかかが入ってる。美味しい〜」 「エビフライとの相性も抜群だね」 「はぁはぁ……この可愛さ、どうしてくれよう」 「マコちゃんが我を失いかけているっ」 「うう……持って帰りたい……」 「どうどう、落ち着けー」 「あー! 佳織ちゃんのほっぺに、なんか付いてるよ?」 「えっ?」 「ああ、手で取っちゃダメ、汚れちゃう。それ多分マーマレードのジャムだよ」 「あ……うん」 「えーと、ティッシュは……と」 「こうした方が早いっ」 「へ?」 「ぺろっ」 「ひああっ!?」 「はい、ご馳走様でした♪」 「ほ、ほっぺたを舐めるな!」 「佳織、頬が真っ赤だ」 「び、びっくりしただけよっ」 「あまーい。これジャムだー」 「な、舐め取るなんて、犬じゃないんだから!」 「いいじゃん、あたしと佳織ちゃんの仲なんだし」 「理由になってない!」 「もう、手っ取り早いからいいじゃん」 「アンタはもう……」 「じゃあ、利害が一致したというか、需要と供給の関係ってことで」 「なにそれ」 「あたしはお腹が空いてて、佳織ちゃんは頬のジャムを拭き取りたかった」 「ほらね?」 「な、なんか違うような……ううむ」 「そう難しく考えなさんな、佳織ちゃんよ」 「うむむ……」 「佳織ちゃんは、これからもほっぺにジャムを付けていいよ」 「そのときは、あたしがいつでも舐めてあげるから」 「佳織ちゃんのほっぺはあたし専用だからっ」 「勝手に決めるなっ」 「まあまあ、ほら、あたしのほっぺも佳織ちゃん専用にしとくから」 「い、意味わかんないわよ!」 「はやや? 佳織ちゃん、顔が赤いよ」 「う、うるさーい!」 「ごちそうさまでしたっ」 「春ちゃんのおかず、今日もとっても美味しかったよ」 「あまねちゃんの口に合って良かった」 「今日もがっつり食べたわね……」 「春ちゃんのおかずが美味しくて♪」 「ふぅーん……小春の、ね」 「佳織ちゃんの料理も……まあ、お腹膨れるから助かるよ」 「くっ、素直に下手だって言いなさいよっ、変に気を遣われるとむかつくじゃないっ、このこのっ」 「うあーあー、ほっぺたつねられて痛いー」 「あんたが食べるの好きだから、作ってあげてるのに」 「だからー、助かってるってばさぁ」 「ふんっ」 「あ……あのね、実はクッキー焼いてきたの」 「春ちゃんのクッキー!? それはぜひ食べねばっ」 「私ももらうわ。小春のクッキーでも食べないと、この怒りはおさまらないわ」 「今日は新作なの。みんなの口に合うといいけど」 「小春のクッキーなら、どんなものでも食べてみせる」 「ありがとう、真琴ちゃんにそう言われると心強いよ」 「クッキー! クッキー!」 「今日のクッキーは、ザラメをまぶしてみたの」 「お砂糖だね!」 「うん、甘すぎたらごめんね」 「イイよ、イイよ、甘いの大歓迎だよ」 「ちょっとラッピングもしてきたの」 「リボンが付いてて、プレゼントみたいでかわいいー」 「小春らしいラッピングね」 「春っぽく、ピンクにしてみたんだ」 「真琴の感想は?」 「体が震えるほど、かわいい……」 「まあ、予想通りの反応か」 「みんな、どうぞ」 「リボンもらっていいっ?」 「うん」 「なにに使うのよ」 「んー、髪のリボンっ。どう、似合う?」 「あんた既に髪にリボンみたいなのしてるじゃない」 「色が違うじゃないかぁ」 「もしくは制服のリボンの上にリボンっ」 「髪以上にかぶっちゃってるんですけど……」 「首にリボンっ」 「あんたは犬かっ」 「じゃあね〜、小指にこう付けて〜」 「反対側は佳織ちゃんに付けて〜」 「じゃーんっ、あたしと佳織ちゃんを繋ぐ、運命の赤い糸っ」 「うっ!?」 「…………あ、赤くないし、糸じゃないじゃない」 「そこは大体って事で」 「……」 「あ、嫌だったかな」 「……」 「ご、ごめんね、すぐ外すね」 「いい」 「へ?」 「しばらく……このままでいい」 「佳織ちゃん……! えへへっ」 「あ、クッキーが動物の形になってる……」 「えっ、どれどれ。うわー、ほんとだー!」 「……へええ、良くできてるわね」 「かわいい……(ぽっ)」 「色んな型でくり抜いてみたんだ」 「さすが小春。どれがどの動物か、一目でわかるわ」 「これはクマ、こっちはゾウよね」 「色んな種類があるんだねー」 「かわいい小春が、かわいいクッキーを作る……」 「小春はかわいいの最上位種だな」 「そのちっちゃな手で型をくり抜いて、オーブンで焼いている姿を想像するだけで、どうにかなってしまいそうだ」 「……」 「あうう」 「い、いやぁ、マコちゃんの場合、盲目というやつだねぇ」 「そうね。小春が可愛いというのは事実だけど」 「まぁねー」 「と、とりあえず、みんな食べてみて」 「うん、いっただきまーす!」 「いただきます」 「いただきます……はむ」 「んー、おいひー!」 「良かった。たくさん作ってきたから、いっぱい食べてね」 「任せてもらおう」 「うん♪」 「はむはむ、おいしー。ほっぺた落ちるぅ」 「うん、やっぱりお菓子は別腹だわー。特に小春のお菓子はね」 「さすが小春だ」 「みんな、褒めすぎだよ」 「そんなことないよっ、とっても美味しいよっ」 「ありがとう、あまねちゃん」 「このパンダいただきっ」 「あっ、ちょっと狙ってたのに。ひとくち食べさせてー」 「やらないわよー」 「味は一緒なんだから、どれだっていいでしょ」 「全種類コンプリートしたいんだよぅ」 「まだパンダ残ってるんじゃないの?」 「うう、あるかなぁ」 「これはクマだし、こっちはネコだし……」 「むぉっ! こ、これはっ」 「どうしたの?」 「このウサギ、春ちゃんに似てる」 「あ、ほんとだ」 「ええっ、そうかな?」 「小春は小動物っぽいから、ハムスターって感じもするわ」 「えへへ、ハムスターかぁ……」 「あ、わたし、昔からあの丸い輪っかの中を走ってくるくる回るやつやってみたいと思ってたんだ」 「いや、それもどうなのよ」 「ちっちゃくてかわいいってことだよ」 「抱き上げて、もちゃもちゃっとしたくなっちゃう系の」 「もちゃもちゃ?」 「あまねの気持ち、凄く良くわかる……」 「わかるのかよ」 「密度の濃い短い毛を、手で掻き回したい系だよねっ」 「ワタシはそっとなでなでしたい派」 「あたしは毛並みに逆らって、ばばばばっと触りたい派!」 「佳織ちゃんは?」 「ええっ、私は別に……」 「なに派なのっ?」 「う、ううーん……」 「……」 「強いて言えば、食べたい派?」 「ひっ!?」 「!!」 「わきゃっ」 「小春は誰にも食べさせない」 「いやいや、目がマジになられても」 「だって、小春を食べたいって……」 「しかも涙目になってるし」 「……ぐすっ」 「食べちゃいたいくらい、かわいいってことよ」 「マコちゃんは、動物に例えると、鷲とか鷹っぽいよね」 「私が……鳥?」 「しかも、強くて格好良くて大きい鳥っ」 「ワタシ、そんなに強く見えるかな」 「見える見える。美人だし」 「そうなのか……」 「真琴ちゃん、両手を広げて飛ぶ真似をしてみて!」 「あんた、なにお願いしてんのよ」 「ばさっ、ばさっ」 「って、やるんかい!」 「おおっ、まさしく鷲だっ」 「あまねちゃん、鷲を見たことがあるの?」 「ないよ?」 「ええっ」 「それなのにどうして鷲って言えるの?」 「イメージだよぉ」 「ちなみに鷲と鷹の違いは?」 「大きさが違うっ。鷲の方が大きいんだよね」 「知識だけはあるってわけか」 「マコちゃんは背も高いし、スタイル抜群だから、鷲系かも」 「ばさっ、ばさっ」 「もうやんなくていいから、それ」 「ばさっ、ばさっ」 「……気に入ったの?」 「割と」 「そう」 「でもワタシ……ゾウさんが好き……」 「にゃんじゃそらー!?」 「鷲とウサギかぁ」 「春ちゃん、気をつけないとマコちゃんに食べられちゃうかもね」 「えっ」 「鷲に狙われたら、うさぎなんて食べられそうだもん」 「や、やだぁ、あまねちゃんったら」 「私から身を守るフリをして、実は……!」 「ワタシは……」 「はっ」 「……(ぷるぷる)」 「春ちゃんがマコちゃんを見て震えているっ」 「しかも上目遣い」 「真琴の角度から見たその顔は、どんな感じかしらねぇ」 「…………」 「ええっ」 「ウサギの小春が、震えている……」 「見える……小春の頭から、うさ耳が生えているのが」 「真琴ちゃん、わたしのこと食べちゃうの……?」 「かわいい……かわいすぎる……ご飯三杯はいける」 「マコちゃんが、ひとりで悶えてる……」 「さぞかしリアルな想像だったんでしょうねぇ」 「食べるの想像しちゃったのかな」 「いや、そっちじゃなくて、ウサ耳小春の想像だってば」 「どっちもじゃないの?」 「どっちもか……」 「でもさ、春ちゃんがウサ耳付けてたら、かなり萌えるよね」 「反則気味に可愛いわね」 「こ、小春……はぁはぁ……」 「おーい、マコちゃーん」 「既に妄想の世界から、戻って来られなくなってる人も居るみたいだし……」 「ま、真琴ちゃんしっかりして」 「だ、大丈夫、しっかりしてる」 「小春のことは、ワタシが責任を持って面倒みるから」 「へ……?」 「おーい、ちっとも大丈夫じゃないぞー」 「はぁはぁ……安心して、きっと幸せにする」 「ま、真琴ちゃん目が怖いよ!」 「仕方ない……春ちゃんのことは、キミに任せたよ」 「うん。任された」 「えええ!?」 「いい加減正気にもどりなさいっての!」 「……ふぅ」 「ようやく落ち着いてきたみたいね」 「ごめん……しばらく我を忘れていたみたい」 「元に戻って良かったよ……」 「えーっと、春ちゃんがウサギで、マコちゃんが鷲。佳織ちゃんは……」 「私はどんな動物に例えられるの?」 「変な動物だったら、許さないわよ♪」 「んとねー、佳織ちゃんはカバって感じ!」 「は? か、カバぁ?」 「うん、そうそう」 「よりによってカバって……!」 「ほら、この二の腕のぽよぽよ感がカバっぽい」 「さ、触るな」 「そう言わないで、この感触を堪能させて……ああ、この肉厚気持ちいいー、もみもみ」 「揉むなぁー!」 「小春ちゃんもマコちゃんも、この極上の感触を確かめてみてよ」 「ちょっと、なにおすすめしてんのよ」 「え? いいの? どきどき……」 「お言葉に甘えて……」 「って、二人ともなにのってきてんのよ!」 「あ〜ぷよぷよして気持ちいい〜」 「癒し系って感じだよね」 「くっ、ぷぷっ、ちょっ、小春! くすぐったいってば! ぷはははっ」 「わ、ワタシにも……っ」 「はぁはぁ……こ、これは癖になりそうだよぉ」 「ふふふ。春ちゃんもすっかり二の腕の虜だね」 「って、いい加減にしろー!」 「あう……ご、ごめん」 「ありゃ、怒られちった」 「ったく。ひとの腕をなんだと思ってんのよ」 「これは、いわゆる愛情表現だよぅ」 「こんな愛情表現いらんっ」 「えー」 「だいたいカバって、私そんなにダラダラしてないわよ!」 「佳織ちゃん知らないの? カバって、実はすごく走るの速くて、しかも凶暴なんだよ」 「へー、そうなんだ……って、誰が凶暴ですって!?」 「ほら、目が怖いもん〜」 「当たり前だっつーの」 「ていうか、あんたは動物に例えるとなんなのよ」 「自分で言っていいの?」 「あーいや待って。私が付けてあげる」 「うーむ、ネコでもないし、キリンでもないし」 「……」 「なんだろう、なんかありそうなんだけど……うーん、出てこないっ」 「あまねちゃんは元気で明るいから、元気な動物がぴったりなんじゃないかな」 「あと、誰とでも仲良くなっちゃうとか、笑顔がかわいいとか」 「そんな動物いたかしら」 「……お猿さん?」 「あははっ、それいいかも」 「ウキキ?」 「飛び跳ねるところは、イルカさんに似ていると思う」 「あまねがイルカー?」 「私がカバで、あまねはイルカ……なんか不公平だわっ」 「お猿さんもイルカも、賢いよね」 「宿題でウンウン唸ってたあまねが、イルカって……」 「あたしは、ナマケモノがいい!」 「ナマケモノですって!?」 「ナマケモノっ?」 「ナマケモノ……」 「うん、ナマケモノっ」 「数多の動物がある中で、どうしてそれを選ぶのよ」 「だって一日中寝てても怒られないもん」 「いや、別にナマケモノはずっと寝てるわけじゃ……」 「はえ……そなの?」 「動かないだけよ。基礎代謝が少ないんですって。だから食べる量も少ないらしいわよ」 「効率的なんだ」 「そうとも言えるわね」 「佳織ちゃん物知りー」 「たまたま知ってただけよ」 「ナマケモノは眠れないんだ……」 「けどまあ、怠け者っていう語源だけを考えれば、あまねに合ってるかもね」 「怠けてたっけ」 「英語はまだしも、数学の宿題はまる写しでしょーが!」 「あー、記憶の断片にそんなものがあったような気もする」 「まったく」 「でも、ナマケモノみたいに、ゆっくりしたいよねー」 「あーあ、机に突っ伏しちゃって……」 「のんびり、ナマケモノの気分〜」 「あまねちゃん、幸せそう」 「美味しいものを食べて、お腹いっぱいだしね〜」 「このまま放課後まで眠っちゃおうかな」 「次も授業があるんだから寝るなっ」 「あーうー」 「クッキーご馳走様でした……」 「ご馳走様、小春」 「とても美味しかった。さすがだ」 「みんなの口に合って良かった」 「図々しい頼みかもしれないが……また、作ってきてくれないか」 「うんっ」 「あたしの分は、もっと多めによろしくだよ〜」 「注文まで付けるとは、本当に図々しいな」 「えへへ……」 「……とろ〜ん」 「あまねちゃん、今にも寝ちゃいそう」 「ええっ? 寝るなあまねっ」 「むにゅう……」 「授業中はしっかり起きてなさいよ。先生に失礼でしょ」 「それに、新学期もまだ間もないんだから。寝ないで授業を受けなさいよっ?」 「わかってるんだけど、三大欲求には逆らえないよぉ」 「どんな欲求なの?」 「睡眠欲と、食欲と…………あとは、その……ごにょごにょ」 「?」 「こ、小春にはまだ早いことだからっ」 「佳織ちゃんには早くないの?」 「い、いや、そういうわけじゃないんだけど……と、とにかく今わからないなら、わからなくてもいい内容だから」 「はあ……」 「あとは真琴に任せるわっ」 「えっ……」 「真琴ちゃんはわかる? わからなくてもいい内容なの?」 「それは、その……」 「やっぱり言いにくい内容なんだ」 「う、ううーん……」 「返答に困るほどの内容とは……怖いかも」 「じー……」 「な、なによ」 「ジロジロ」 「なんで私をくまなく見てるのよ」 「やっぱり佳織ちゃんは、カバだなーと思って」 「ねぇ知ってた? カバって、実は美味しいんだって……」 「えっ、カバ?」 「うん」 「というわけで」 「って、ちょっ! こら、この腕に噛み付くなっ」 「はむはむ〜♪」 「食うなっ、吸うなっ、舐めるなっ、私はカバじゃなーい!」 「佳織ちゃんの味がする……ちゅぅぅ」 「やだっ、くすぐったいってば〜!」 「うーん、まろやかなこのお味〜」 「あ、アホかー!」 「はむはむ〜」 「ちょっ、くすぐたいってっ……あははっ!」 「もう、あまねってばいい加減に……ひゃはははっ!」 「良くわからないけど……二人が仲がいいことは再確認できたから、良かった」 「こ、こんなの仲がいいなんて言えないわよー!」 「机の片づけ良し」 「たらふく食べて、パワー全開だー!」 「かっおりちゃーん、がばーっ」 「うわっ、ちょっ、首持ってぶら下がるなっ、ぐええっ」 「わわ、佳織ちゃん、大丈夫?」 「けほ……口からなんか出るところだった」 「もうっ、離れなさいあまねっ」 「えへへー、佳織ちゃーん」 「頬をスリスリするなー」 「佳織ちゃんのほっぺた、すべすべー♪」 「しかも、赤くて熱くなってる」 「あ、赤くない」 「ふー」 「ひぃっ、耳元で息を吹きかけるなー」 「あははっ」 「まったくー」 「ねぇねぇ、今日みんなで佳織ちゃんちにお泊まりしない?」 「はあ? 唐突ねぇ」 「ずっとみんなで一緒に遊びたい気分なんだ」 「いきなりそんなこと言ったって、小春や真琴が困るでしょ」 「春ちゃん、マコちゃん、お泊まりしよっ?」 「うん、お母さんがいいって言ってくれれば」 「ワタシも。ダメとは言われないと思うけど……」 「ほんとに大丈夫?」 「うん」 「佳織ちゃんの家がいいなら」 「うちは構わないけど」 「だったら決まりだね!」 「小春と真琴のお母さんがいいって言ったらだからね」 「うんっ」 「あまねは強引なんだから」 「でも、佳織ちゃん、一昨日すっごく楽しそうに準備してたよね」 「な、なんで知ってるのよー!」 「こっそり覗いちゃった」 「なにー?」 「わたしたちがお泊まりする準備?」 「そうだよ、パジャマをおにゅーにしてたし、部屋も掃除してたしー」 「う、うう……」 「4人分の座布団とか、お揃いのティーカップを用意してたもん」 「言うなー!」 「わぁぁ、ありがとう佳織ちゃん」 「別に……座布団は用意したけど、ティーカップは誰かが来たときにでも使えるから部屋に置いただけだし」 「そ、それにほら、ティーカップは観賞用にもなるでしょ? そんなのが部屋にあると、ちょっとお洒落に見えない?」 「凄く……言い訳です……」 「バラしたあまねが言うなー!」 「てへ」 「お泊まり会をするために、わざわざ準備しててくれたんだ」 「それをあまねちゃんが気付いて、わたしたちを誘った……」 「見事な連携プレー……」 「素直に泊まりに来てと言い出せない幼馴染みの心を察してあげるのも、あたしの役目なんだよ」 「いろいろ考えてるんだね」 「コイビトですから!」 「そうだね」 「……むー」 「授業とホームルーム終了っ」 「うちのお母さん、迷惑にならないなら佳織ちゃんのお家に泊まってもいいって」 「こっちも、了承を得た」 「二人もお泊まり出来るんだねっ」 「うん」 「やったー!」 「良かったわね」 「じゃあじゃあ、さっそく、帰ろっ」 「他に用事がないならそうしましょうか」 「そうだね」 「佳織ちゃんの家に着いたら、なにしよっか」 「いつも通りだとゲームになるんじゃない?」 「うんうん、あとお菓子と飲み物で食べ物三昧っ」 「なにか買ってから佳織ちゃんのお家に行こうっか」 「そうだな」 「お菓子くらいならウチにあるし、わざわざ買わなくてもいいわよ?」 「いや、一晩お世話になるのだから、そういうわけにも……」 「うん、せめてもの気持ちだから」 「そう……」 「ありがと、逆に気を遣わせちゃったわね」 「ううん、そんなことないよ」 「よし、お菓子いっぱい買っちゃおっ」 「あんたがお菓子を買うと、独占しかねないのよねぇ」 「買うと言ってもみんなのお菓子なんだから。あまねはそこのところを覚えておくように」 「わかっとりますがなー」 「他にいるものはないかな?」 「他には、なにも用意しなくていいわよ」 「みんなが泊まるのは初めてじゃないんだし、大抵のものは揃ってるから」 「クラッカーとかどう? ぱーん!」 「クラッカーって……誰かのお祝いじゃないんだから……」 「それは誰かのお誕生日に取っておこう」 「えー? 楽しいのにー」 「だったらビンゴ大会とかはどうかな?」 「4人でやってどうするのよ」 「パーティの定番なんだけどなぁ」 「わたしは……4人でお揃いのものが欲しいな」 「ストラップとか?」 「そうだな……例えば、色違いの歯ブラシとか」 「あっ、それいいわね!」 「お泊まりグッズがお揃いだと、一緒に泊まったとき楽しいかなって」 「小春とお揃い……」 「それ……凄くイイっ」 「そうだ。今度、お泊まりグッズを入れるポーチを、みんなの分作ってくるよ」 「ええっ、いいのー!?」 「嬉しいけど、4人分ともなると大変じゃない?」 「少し時間はかかるけど、お裁縫は好きだから、大変じゃないよ」 「さすが小春ねー」 「小春さえ良ければ、お願いしようかしら」 「うん」 「真琴も、いい?」 「小春の手作りポーチ、小春の手作りポーチ、小春の手作りポーチ……」 「あややー、目の焦点が定まってないよー」 「おーい、戻ってこーい」 「はっ!?」 「今のは、夢……? 小春がワタシのためだけに、特製手作りポーチを作ってくれるって……」 「落ち着け、4人分のポーチだから」 「……そ、そうか、夢だったか」 「半分くらい正夢だけどね」 「あたし、ナマケモノ柄がいいなー!」 「4人お揃いなんだから、そんなの採用できるかっ」 「あははっ」 「もっと女の子っぽいものにしなさいよ」 「うーん、じゃあ……」 「ライオン! ガオーっ」 「どこが女の子っぽいのよっ」 「いるよ、可愛いライオン」 「ドーナツ屋のキャラクターじゃあるまいし」 「リボンとか、そういうのがいいんじゃない?」 「そっちの方向かー」 「真琴は、なにか希望ないの?」 「ほ、星とか、ハート型とか……可愛いと思う……」 「へー、いいじゃない」 「真琴がハートを持ち出してくるなんて、ちょっと意外」 「真琴ちゃんは、とっても女の子らしいんだよ」 「あ……で、でも、みんなに合わせるから……」 「3人に似合うものがいいと思う」 「4人が似合いそうなのにしようよ」 「でも、ワタシだけ……雰囲気違うし……」 「いや、うちら全員雰囲気違うから」 「そうかな……」 「うん、それは確実」 「そっか……」 「柄に関しては、小春にお任せするのが無難かもね」 「小春はセンスもいいし、下手に注文するよりよっぽどいい気がするもの」 「ライオンは何卒優先的に……」 「それは却下だっての」 「あうーん……」 「とりあえず、この辺りはお菓子屋さんがないから、繁華街に出ちゃおうか」 「うん」 「とうちゃーくっ」 「なんだか人がいっぱいだね」 「……わっ?」 「小春っ」 「おおっと、春ちゃんが人にぶつかりそうになったところで、マコちゃんが守った」 「小春はワタシが全力で守るから……」 「ありがとう、真琴ちゃん」 「マコちゃん、頼りになるぅ〜」 「……」 「あたしも一緒に春ちゃんを守るよ。三人で春ちゃん護衛小隊だっ」 「うん」 「あ、あう……嬉しいけど……ちょっと恥ずかしい」 「春ちゃんは、あたしたちの後ろにいて!」 「佳織ちゃんは後ろを頼むっ」 「……」 「佳織ちゃん?」 「佳織ちゃん、なに見てるの?」 「あそこの洋服屋さん、5000円以上買うと、エコバッグが付いてくるんだって」 「ふーん……でも、佳織ちゃんエコバックとか使うの?」 「う……それは、いつか使うかもしれないじゃない」 「そういうのって、たいていは使わないで終わるんだよね」 「うるさいわね。いいじゃないお得なんだから」 「佳織ちゃんはお得とかおまけとかに弱いもんねー」 「…………悪かったわね」 「せっかく来たんだし、入ってみよ?」 「そだねー。あたしも新しい服ほしいし」 「制服のまま入ってもいいの……?」 「へいきへいき♪」 「行こう、真琴」 「うん」 「わぁぁ、可愛い洋服がいっぱいだー♪」 「ね、見て佳織ちゃん、この黒いスカート、裾がひらひらしてて良くない?」 「こないだ街でリリ・プラチナムをお見かけしたんだけど、そんな感じのスカートをはいてて素敵だったわ」 「そーなんだ! あたしもこれをはいたら、ハーフに見えるかな?」 「リリ・プラチナムは美人系だけど、あまねは可愛い系だから、服が似合っていても少し遠いでしょうね」 「それは残念っ」 「あまねには、この花柄プリントなんて似合うんじゃないかしら」 「服を鏡に合わせて……おお、いい感じかもー」 「中が透けちゃうから、これをインナーにして」 「太めのベルトに、帽子を被って……」 「今どき流行りの女の子みたいだっ」 「なかなかいい感じじゃない」 「佳織ちゃんにもコーディネートしてあげるっ」 「あ、あまねが?」 「あたしの超絶センスをご覧あれー」 「なんか不安……自分で超絶センスとか言う人って、信用できないわ」 「佳織ちゃんはツンデレだから、えーと」 「それは関係ないでしょ」 「あるよ〜」 「……んーと、かっちりした感じとか、似合うんじゃないかな?」 「こういう色物のシャツに、黒いネクタイをしめて〜」 「おおっ、なかなかいいじゃーん!」 「そ、そう?」 「うん、かなり見た目がツンだよ」 「……一気に買う気が失せた」 「どうして? 長所なのに」 「あたしは好きだよ、佳織ちゃんのツン」 「う……」 「だから……どうして好きとか、言っちゃうのよ……もう、あまねのバカ、恥ずかしいじゃない」 「えへへ」 「あまねが選んだ服、似合うなら……買う」 「似合うよっ」 「そ、そう」 「うんっ」 「じゃあ、買っちゃおうっかな〜」 「他にもなにかいいのがないか探してみよっか」 「そうね」 「えーとー、んっとぉ……これもいいなぁ、あ、こっちもいいなぁ」 「こういう感じのは持ってたわね……こっちは可愛いかも……」 「おお、これはー! ……あ、凄く高い」 「さすがにこれは、オトナっぽすぎるかしら……でも、エコバッグが付いてくるなら……けどなぁ」 「あっ」 「あ……」 「これがいいっ」 「これがいいわ」 「えっ?」 「あ……同じの選んだ……」 「あまねもこのTシャツがいいの?」 「うん、佳織ちゃんも?」 「まぁね。あまねにしては、いいの選んだじゃない」 「えへへ、佳織ちゃんと同じセンスで嬉しいな」 「ねえ、お揃いで買っちゃおうよ!」 「お、お揃いなんて……」 「いいじゃんお揃い」 「で、でもお揃いなんて着たら、変に思われるかもしれないじゃない」 「そうかなぁ、仲良さそうに見えると思うけど」 「エコバッグまであと1000円だから、このTシャツを買えばもらえることになるわけだし……」 「これからの季節は重宝するだろうし、いろんな組み合わせが出来るし……」 「それに、あまねがどうしてもお揃いがいいって言うなら、考えてあげなくもないけど」 「うーん……よし、決めたわ」 「あまね、し、仕方ないから、あんたとお揃いのTシャツ買うことに――」 「あ、やっぱこっちがいいな!」 「え……えええ〜〜〜?」 「……はぁぁ、完全に肩すかしくらったわ」 「佳織ちゃーん、これどう? 肩がふわっとしてて可愛いよー」 「はいはい、そうね」 「もう、あまねったらしょうがないわねぇ」 「お店だと、もうほとんどが夏物の服なんだね」 「制服の衣替えは、まだ先だから、不思議な感じ……」 「本当だね」 「こんなお洋服を作れちゃう人って凄いなぁ」 「小春は洋服とか作らないの?」 「簡単なものは作るけど、こういう可愛いデザインとかを考えるのは難しくて」 「だからお洋服屋さんに来ると、勉強になるよ」 「そっか」 「生地とかもね、色んな種類があるんだよ」 「小春、楽しそう……」 「うん、とっても楽しいよ」 「もっと奥に入って、お洋服見てみようよ」 「うん」 「このスカート、可愛い」 「うん」 「こっちのフリルもいいなぁ」 「……あ」 「なにか、いいの見つけた?」 「う、うん……」 「わぁぁ、ピンクで可愛い〜♪」 「うん……もの凄く可愛い」 「ワタシには、ちょっと女の子っぽすぎるかな……」 「そんなことないよ。きっと似合うよ」 「え……?」 「真琴ちゃんも可愛いもん」 「小春……でも……」 「真琴ちゃんは自分のことになると、急に厳しくなるんだもん」 「ピンク色のお洋服だって、真琴ちゃんに似合うんだよ」 「小春……ありがとう……」 「お礼を言われるようなことは、なにもしてないよ」 「そんなことは……」 「あ、佳織ちゃんの買い物が終わったみたい」 「ちゃんとエコバッグまでもらってる。目的をちゃんと果たすところが、佳織ちゃんらしいなぁ」 「真琴ちゃんは、どうする?」 「……」 「今日は心の準備が出来てないから、また今度にする」 「そのときは小春……その……」 「ワタシの買い物に……付いてきてくれないか?」 「もちろんだよ」 「良かった……」 「今度は買えるといいね」 「うん……♪」 「おいしーいっ♪」 「それ、なんの味、買ったの?」 「クリームソーダ味だよ!」 「へー……気分だけは夏真っ盛りね……」 「クリームソーダは季節関係ないよぅ」 「いや、あるだろう」 「アイスも夏だけじゃなく、冬も食べるし」 「そりゃまあ、時々は……」 「こたつに入りながら食べるアイスクリームって、美味しいよね」 「そうなんだよー。あれは贅沢の極みだねっ」 「その気持ち、良くわかる……」 「おこたに入りながら、みかん、アイス、みかん、アイス、羊羹、アイス、ういろう、アイス、チョコレートっ」 「アイス多いわねぇ」 「あとは、手の届くところに漫画があったら最高だねぇ」 「あまねの冬は、そんな贅沢なのか……」 「そうだよ、あたしの冬は、みんなから羨望の的になってるよ」 「おお……」 「ぐーたらなだけじゃない」 「ナマケモノ!」 「自分で言うなっ」 「しかもそれだけ食べて太らないんだから」 「ちなみに、正直言うとぜんぜん太らないわけじゃないんだよ?」 「そうなの?」 「だいたい脂肪は胸につくけど」 「よけいに腹立つわよ!」 「ふふふ。佳織ちゃんの羨望の眼差しが心地よいのう」 「ぐっ……むかつく」 「まあまあ、佳織ちゃんだったらいくらでもこのオッパイ触っていいからさ」 「な、なによそれ」 「もちろん、佳織ちゃん限定ね」 「ば、バカなこと言ってないでさっさと行くわよ!」 「あ、待ってよ佳織ちゃん」 「もう、わりと本気なのになー」 「お土産のお菓子も買ったことだし、これで用事は終わりかな」 「うん……でも、少し買いすぎたかな……」 「いやいや、ちょうどいいくらいだよ」 「そ、そうかな……」 「さて、そろそろ寄り道は終わりにしましょうか」 「せっかく4人で繁華街まで出てきたのに、もう?」 「早く家に帰ってゆっくりした方がいいでしょ」 「えー、もうちょっと遊んでこうよー」 「うう……」 「けど、他による場所もないでしょ?」 「あたしゲームがやりたいっ」 「それなら私の部屋でも――」 「おおっ、ゲームセンター発見! だーっしゅ!」 「あっ、こら、あまね!」 「みんな早くー!」 「ほんとにゲームセンターに行くのっ?」 「うんっ、ゲームがあたしを呼んでいるっ」 「あっ!」 「……ああ、ほんとに入っていっちゃった」 「行こうか」 「そうだね」 「二人とも、いいの?」 「あまねちゃんがそうしたいならいいよ」 「佳織ちゃんも、行こう?」 「……うん」 「どれからやるか悩んじゃうね、佳織ちゃん」 「いや、私はあまねに付き添ってるだけだから」 「やりたいのとかある?」 「特にないけど……ねぇ、本当にここでゲームをしていくの?」 「ここには、家庭用ゲーム機にはないものがいっぱいあるからね!」 「まあ、UFOキャッチャーとか、ネット通信のカードゲームとかはないけど……」 「そっちにある格闘ゲームは、うちにあるんじゃない?」 「甘いっ、これは家庭用ゲーム機に移植される前のゲームなんだよっ」 「そうなの?」 「そう。だからゲームセンターじゃないと遊べないんだよっ」 「あんた、そういうのやたら詳しいわよね……」 「ふっふー」 「で、結局なにで遊んでいくの?」 「んっとねー、佳織ちゃんといっしょにやりたいな」 「先に言っておくけど、格闘ゲームはやらないから」 「ゲームパッドとは感覚が違うから、難しいもんね」 「いや、そういう理由ではなく、あんたが強すぎるからでしょ」 「初見のゲームなら、互角だと思うけどな」 「それまでに培った土台ってものがあるでしょ」 「そうかもしれないけど、ほら、ビギナーズラックとかあるしっ」 「初見なら、あまねにだってビギナーズラックがあるでしょ」 「お、そうか」 「やれやれ……」 「だったらあれはどう? メダルのゲーム」 「あの大きくて、二人席のやつ?」 「そう。あれ、やったことないんだよね」 「時間がかかりそうね……」 「だったら!」 「佳織ちゃん、こっちこっち」 「えっ」 「簡単で気軽に出来るといえば、プリクラっ」 「プリクラかぁ。それならいいかも」 「佳織ちゃんと、一緒の写真で、手帳に貼るんだー」 「あ、あまねと一緒の写真……?」 「ツーショットだよ。色んなポーズとろうねっ」 「色んなポーズって言われても、どうしていいのかわかんないわよ」 「難しく考えなくてもいいんだよー」 「入ろう、佳織ちゃん」 「う、うん……」 「まぶしー」 「こうして、こう……っと」 「私も半分出すわよ」 「うん。美白モードでいい?」 「あまねに任せるわ」 「はいはーい。あと、背景はハートで」 「なんでハートなのよ!」 「だって、あたしと佳織ちゃんはラブラブだし」 「なっ……!?」 「撮るよー」 「ちょっ、私、顔熱いんだけど」 「美白だから綺麗に写してくれるよ。もっと前に出て」 「カ、カメラに近すぎない?」 「これくらい寄った方が、いい写真になるんだよ」 「どこからの情報なのよ」 「撮ってる子がそう言ってたの」 「そうなの」 「撮るよー、3、2、1……」 「わわわっ」 「う……ちゃんと撮れたかな」 「今度は背中合わせにして」 「ええっ、こ、こう?」 「顔は近づけて〜……」 「か、顔っ? そんなこと言われたって……その……」 「撮るよー、3、2……」 「いやぁぁ、恥ずかしい〜〜」 「観念してっ」 「くぅっ」 「ふぅ……」 「次は、向かい合って片足あげてー」 「こ、こんなはしゃいじゃってるポーズするの?」 「そう。こうすると足が短く見えないらしいよ」 「それは大事ね……」 「片足あげて……と」 「こうして手も繋いじゃって」 「ひぃぃっ!? なにするのよっ」 「佳織ちゃんと私が、ラブラブっていう証拠っ」 「撮るよー、3、2、1……」 「あわわわっ」 「お次は、手でハート型を作って」 「こ、こう?」 「そうそうっ」 「はい、終わりー」 「どっと疲れた……」 「文字はなに書く?」 「任せるわ……」 「ラブラブ、ハートマーク、っと」 「あ、ああ、あんたねー!」 「任せるって言ったのは、佳織ちゃんだよ?」 「そうだけど、他になにかあるでしょう?」 「私と佳織ちゃんの関係で、これ以上相応しい言葉はないと思うんだけど」 「名前とか、親友とか、日付とか、色々あるでしょう!?」 「じゃあ二枚目は、名前にしておくね」 「あまね、かおり、相合い傘」 「最後のは余計だー!」 「これ必須だよぉ」 「もう……」 「三枚目はどうする?」 「日付でいいわよ」 「はーい。えーと、4月……んー、日っと。今年初めてのちょめちょめ♪」 「最後のー!」 「んなぁー、死語なのはわかってるよー」 「違うからっ、変なの匂わせてるところに問題があるからっ」 「初めてのプリクラ以外考えられないのに?」 「そ……そう、なの?」 「うん!」 「そんな風に自信を持って言われると、信じそうになってくるわ」 「えへへっ」 「……まあ、いいわ。どうせどれも他人には見せられないプリクラになっちゃったし」 「大事にするねっ」 「うん……私も……一生取っておく」 「うわ、一生とか言われると、ちょっと恥ずかしい……」 「うっさいわねー!」 「あまねちゃんと佳織ちゃん、プリクラ撮ってるね」 「うん……」 「こ、小春……その……わ、ワタシたちも……」 「真琴ちゃん、いっしょにプリクラ撮ろうよ」 「小春……うんっ!」 「マコちゃんとプリクラ撮るの、初めてだね」 「そ、そうだね……」 「わたしね、あんまりプリクラって撮ったことがないんだ」 「あまねちゃんたちとか、お母さんとかしかなくて」 「ワタシは……初めて……」 「そっか、じゃあほとんど一緒だね」 「うん……」 「プリクラの機械って、いろんな種類があるんだねー」 「どれにしようか」 「んー……あ! あれ!」 「え……」 「『日本の心霊スポット』だって! おもしろそうだねっ」 「え、あの、その……」 「へぇ、フレームっていうのを選べるんだ」 「あ、あの、できればあまり怖くないのに……」 「これなんてどうかな? 心霊写真みたいに肩に青白い手が乗るんだって」 「ひいいいっ!?」 「ふふふ♪」 「ちょっとドキドキするね〜」 「うう……ワタシもドキドキしてきた……別の意味で」 「こ、小春、あっちのプリクラにしないか。ほら、新しく入ったばかりだって」 「ん? 真琴ちゃんがそっちがいいって言うなら」 「ほ……」 「全部声が誘導してくれるから、わたしたちはその通りに動けばいいんだよ」 「うん、わかった」 「どういうポーズで撮ろうか」 「う……ん……並んで、とか……」 「じゃあ並んでみよう」 「うん……」 「真琴ちゃんの隣に立って、前を見て……」 「……」 「……」 「……」 「こ、これはぁ〜」 「小春と並ぶと……大変なことに……」 「わたしの背が低すぎて、不格好な写真になっちゃう」 「小春は悪くない。ワタシがデカすぎるんだ……」 「そんなことないよ、小春がもっと大きければ〜」 「と、とにかく……どう、する?」 「ど、どうしよう」 「横がダメなら、縦……とか」 「それいい考えだよっ」 「ワタシが小春の後ろに立って……」 「なにか二人で出来るポーズみたいの、とってみようか」 「うん……」 「なにがいいかなぁ?」 「ワタシが後ろから、こうやって、小春をぎゅっとしてみるとか」 「えっ」 「……我ながら、大胆なことを言ってしまった」 「やっぱり今の、忘れて……」 「ううん、やってみよう」 「いいの……?」 「うん。じゃあ、始めるね」 「う……う、うん」 「それでは、お願いします」 「し、失礼します……」 「あ……」 「えへへ、なんだか真琴ちゃんに抱きしめられてるみたいで、ドキドキするね」 「ドキドキどころじゃない……」 「そ、そうなの?」 「心臓がバクバクして、頭が……爆発しそう」 「わわ……」 「ひぁっ、次の撮られちゃった」 「つ、次のポーズ、どうしようか」 「……このままで、いい」 「真琴ちゃん……うん♪」 「あっ、春ちゃん達もプリクラ撮ってたんだ」 「久しぶりだし、ちょっとドキドキしちゃった」 「そっかぁ。でも、何度やっても楽しいよね」 「うん」 「そうだっ、今度は4人で撮ろうよ。マコちゃんとは1度も撮ったことないしさ」 「ぜひ」 「反対意見の人ー」 「なーし!」 「多少強引だけど、悪くない案だわ」 「ではでは、お泊まり記念写真を撮っちゃおう!」 「4人も入るとさすがに狭いわね」 「ぎゅぎゅうづめだねっ♪」 「アンタはなんでそんなにテンション上がってんのよ」 「だって、なんか楽しくない?」 「まあ、確かに楽しいけど……」 「あっ、マコちゃん、もうちょっとこっちに来て」 「うん……ワタシ、後ろに立ってるから……」 「ああなるほど、縦に撮るのもありかもしれないわね」 「じゃあ1回めは、階段みたいに縦に撮ろう!」 「あとは輪になるやつ。1度やってみたかったんだよ」 「ふたつめっ」 「みっつめっ」 「よっつめ、いくよー?」 「あまね、早すぎっ」 「みんなもっとくっついて!」 「こう、かな?」 「そうそう。マコちゃんも佳織ちゃんも、もっと寄って」 「こ、これ以上は、くっつき過ぎじゃない?」 「そうしないとフレームに入らないよー」 「ほらほら」 「わぁぁっ!?」 「かかか顔っ、ほっぺたくっついてる!」 「仲良しの証拠♪」 「こんな密着、聞いてないわよ……うう、心の準備がっ」 「撮るよー?」 「うん」 「オッケー……」 「でけたっ」 「てけとーにグリグリ文字書いてー、完璧に完成っ」 「あとはプリクラが出てくるのを待つだけ〜」 「出てきたっ」 「どれどれ?」 「う、最後に撮ったのが微妙な顔になってる……」 「佳織ちゃんらしいよ」 「そんな私らしさ、嬉しくないわよっ」 「でも、思い出に残る、いい写真だと思う」 「うん、いい記念になる……」 「えへへ」 「もっといっぱい思い出作っていこうね」 「うん♪」 「急に佳織ちゃんの家にお泊まりすることになったけど、お邪魔じゃないかな」 「いいわよ。今日はうち、私だけだし」 「そうなんだ」 「親が留守なの。だからあまねも今日を狙ったんじゃないかしら」 「いやいや、そこまで考えてないよ」 「あ、そ……」 「みんなと一緒にいれたら、楽しいじゃんっ?」 「まあ……」 「だったら、お夕飯は考えないといけないのかな」 「ああ……そうね。ピザとか店屋物でいいんじゃない?」 「もし良ければ、わたしが作ろうか」 「小春がっ?」 「小春の料理……」 「いいのっ?」 「うん、せっかく泊めてもらうんだし」 「料理上手な春ちゃんのご飯! 贅沢っ」 「い、いい、いくら払えばいいんだ? いや、いくらでも払う」 「お金は取らないよ」 「ええっ、小春の料理だぞ?」 「わたしはみんなに食べてもらえるだけで幸せだから」 「小春……」 「あたし、幸せになっちゃう!」 「じゃあ小春にお願いしちゃおうかしら」 「手伝えることがあれば、なんでもするから……」 「ありがとうー♪」 「この辺りで、必要なもの買ってく?」 「うん」 「なに作ってくれるの!?」 「リクエストとか、あるかな」 「ハンバーグ、ナポリタン、ウインナー!」 「野菜も食べなさいよ……」 「あー、じゃあねー、ロールキャベツ! ああ、想像するだけでお腹がぐーぐー鳴っちゃうよ」 「ロールキャベツかぁ、うん、わかった。真琴ちゃんと佳織ちゃんは?」 「私は小春が作りやすいものでいいわ」 「ワタシも……小春が作るものなら……なんでも、いい」 「それじゃあ、なにか適当に作るね」 「はぁぁ、適当に作れるなんて、凄いわね」 「そんなことないよ。リクエストがないと、自分が得意な料理になっちゃうし」 「これを機に、小春から料理習おうかな……」 「おおー、佳織ちゃんの料理レベルアップだね!」 「誰かさんのお腹を満たすためにもね」 「それじゃあ、スーパーでちょっと買ってくるね」 「ワタシも行く。荷物、持つから」 「ありがとう」 「私達も行こう、あまね」 「うんっ」 「スーパーは普段あんまり来ないなー」 「たまに、お母さんにくっついて来るくらい」 「楽しいのに、勿体ないっ」 「まあ、商品が沢山あるのは、見ていて楽しいけど……」 「見て見てー、おもちゃ付きソーセージ!」 「アニメキャラクターのカレーとふりかけ♪」 「子供用の商品につられるとは、中身は子供そのものね」 「あと、忘れちゃならないお菓子たち!」 「それはさっき買っただろう」 「これは夜食用だよぅ」 「じゃあさっき買ったのは?」 「やだなぁ、あれは食後用だよ〜」 「食後はフルーツじゃないの?」 「フルーツだったりー、お菓子だったりー」 「ようは、美味しいものが食べれたら、なんでもいいのね」 「キャベツと挽肉と……」 「他の野菜と……これと、これも……」 「あ、真琴ちゃん、カゴ重くない? カートを使えば良かったね」 「平気……」 「カゴがあっという間にいっぱいになってる」 「テキパキしてて、小春はやっぱり慣れてる感じねぇ」 「うんうん……」 「小春はいいお嫁さんになるよね」 「……いいお嫁さん」 「真琴ちゃん、お帰りなさい♪」 「小春、ただいま」 「今日もお疲れさま。でも、真琴ちゃんが居なくて、寂しかったよー」 「ごめん、ちょっと仕事が長引いて……」 「お休みの日は、ずっと一緒に居ようね」 「もちろんだ……」 「あ、そうだ、お風呂にする? お夕飯にする?」 「小春……」 「え?」 「い、いや……こほん、そのエプロン姿、良く、似合ってる……」 「いつもと同じエプロンだよ? 一緒に暮らし始めて結構経つのに、変な真琴ちゃん。ふふっ」 「その笑顔も……可愛い……」 「ええ? もう、真琴ちゃんたら、くすくす♪」 「かはっ……!!」 「どうしたの真琴っ」 「真琴ちゃんが真っ赤になって、ふるふるしてる……具合でも悪いの? やっぱりカゴ重かった?」 「小春がお嫁さんになって、家で出迎える姿を、妄想してしまった……」 「ええっ?」 「小春が、可愛すぎる……っ」 「はわわっ、真琴ちゃ〜ん」 「なにやってんだか……」 「お嫁さんかぁ……」 「佳織ちゃん、お帰りなさ〜い♪」 「あまね、その格好……料理作ってたの?」 「このエプロンのこと? うん、お仕事で疲れた佳織ちゃんに料理を食べてもらおうと思って、頑張って作ってたんだ」 「大食漢のあまねが、私のために料理を作ってくれたなんて……ぐすっ」 「そんな、涙ぐむようなことじゃないよぉ」 「でも……」 「あたしは佳織ちゃんのお嫁さんだもん」 「お嫁、さん……だとッ?」 「なんて破壊力のある言葉なの……腰が砕けそうっ」 「今更なに言ってるの〜」 「そうだ、お風呂も沸かしてるんだけど、お風呂とお夕飯、どっちを先にする? それとも……」 「うーんとね……ぜんぶ!」 「はっ!?」 「どしたの佳織ちゃん、ヨダレ出てるよ?」 「うおおう!? じゅるるっ」 「あ、あ……ああああっ、私ってばなんて想像してんのよー!」 「悶絶してる……」 「想像しちゃったのかな」 「たぶん……」 「悶絶するほど、凄かったのかな」 「行き着くところまで、行ったかもしれない……」 「い、いい、行き着くところまでって、どこよ!?」 「あああ……」 「なまじエプロン姿のあまねが可愛かっただけに、妄想で終わらせたくなかった……うう」 「あたしがどうしたの?」 「きゃわー!?」 「お菓子買ったよー」 「そ……そ、そう、良かったわね」 「あれ、なんで目を反らすの?」 「いや……なんとなく……」 「?」 「そうだ、佳織ちゃんが好きなお菓子も売ってたから買ったんだー♪」 「ええっ!?」 「あまねちゃんが、他の人にお菓子を……?」 「珍しいかも……」 「ふふん、あたし、やるときはやるんだよ」 「おお……」 「……」 「佳織ちゃん?」 「……」 「おーい、佳織ちゃーん」 「……」 「どうして顔が赤くなってるの?」 「そ、それは……」 「はい、お菓子」 「こ、ここで出さなくてもいいわよ……」 「佳織ちゃんの様子が変」 「別に……いつもと一緒だから……」 「そんなことないよー」 「あまね……今はほっといてあげて……」 「……はいー?」 「店頭のたい焼きって、美味しいよね……はむはむ」 「また食べてる……」 「んっしょ、んん……お待たせ……」 「お待たせ……」 「ふおおおおっ!? 荷物が、大量になってしまったー!」 「全部で1、2、3……6袋。随分買ったわねー」 「ごめんね、ちょっと張り切りすぎたみたい……」 「荷物はワタシが持つから問題ない」 「そんな。買ったのはわたしなんだから、自分で持つよ」 「いや、小春にはちょっと重いと、思う……」 「そんなことないよ、持てるよ」 「ちゃんと全部持てる……持てる、はず……持って見せる。んーっ!」 「あやや、全部持ち上がってない」 「しかも、大きい袋は引きずってる……」 「ふぇぇ〜〜?」 「大きい袋は、ワタシに任せて」 「でも……」 「それくらいは、甘えてもいいんじゃない?」 「ワタシなら、問題ない」 「小春はこの後、料理を作らなければならないのだから、ここは体力を温存するべきだと思う」 「そうそう。小春が倒れたら、お夕飯を作る人が居なくなっちゃうわ」 「そんなの、せっかく買った食材が、勿体ないでしょう?」 「でも……」 「だったら、みんなで分担しましょっか」 「それなら小春も持つし、私達も持つし」 「うん」 「重いの2つは、ワタシが持つ……」 「ありがとう」 「小春は、小さいの1つ……」 「ええっ」 「そうね、小春はそれがいいと思うわ」 「あうあう……」 「残りは私とあまねが持つわ」 「あまねも、たい焼き食べてないで、手伝いなさい」 「あたしはこのお菓子袋があるからっ」 「それはほとんど自分の分なんだから、当たり前でしょ」 「重そうだからイヤだなぁ……」 「そう。じゃあ、あまねだけ、お夕食抜きね」 「嘘です、持ちます、ガンバリマス!」 「あまねと、ひとつずつ持って――と」 「残りの一袋は?」 「残りは二人で持ちましょ」 「佳織ちゃんと片方ずつ持つってこと?」 「そう。さあ、半分持ちなさい」 「はーい」 「うん、いい感じに配分されたわね」 「あうう、わたしが小さくなければ全部持てるのに……」 「でも、みんな、ありがと♪」 「どうぞ、みんな入ってー」 「お邪魔しますっ」 「お邪魔します」 「お世話になります……」 「買ってきた荷物はこっちに運んでー」 「うん……」 「もう夕方だし、早速お夕飯作り始めちゃうね」 「おおっ、気合い入ってるねぇ春ちゃんっ」 「うん、美味しいものいっぱい作るね」 「楽しみにしてるよー」 「お肉は冷蔵庫に入れておく?」 「ああ、冷蔵庫は適当に使ってくれちゃっていいから」 「中に入ってるもので、使えそうなものがあったら使って」 「うん、ありがとう」 「お鍋はここで、包丁はこっち……」 「そうだ、クッション、クッション……」 「全部で4つ、と。はい、あまね」 「わーい、ふっかふかだぁ♪」 「そんなに嬉しいの……?」 「うん……すぅぅ……えへへ、佳織ちゃんちの匂いがする〜」 「嗅ぐな嗅ぐな」 「とってもいい香りだよ」 「小春と真琴のも、ここに置いて置くわね」 「可愛い〜、ありがとう〜」 「背もたれにしたら、気持ちよさそう……」 「だったらあたしは、足で挟んでてみよう!」 「普通に使いなさいよ……」 「どーだ、カニ挟み!」 「はいはい、スゴイスゴイ……」 「どぅわっはっはー」 「はぁ……あと、これも一応用意しておいたわよ」 「おおっ、ゲームだ!?」 「しかもパーティゲームとは、今日という日にはおあつらえ向きなチョイスっ」 「あ、あまねの為に買ったんじゃないからね。何人ででも遊べて、いいと思って買ってきただけなんだから」 「美味しい食べ物に、リラックスできるクッションに、ゲームに……あたしが好きなものばっかりだ♪」 「た、たまたまでしょ」 「たまたまなんて、ほんとに起こるものなんだねぇ」 「……そうね」 「小春、このキャベツはどうしたらいい?」 「ロールキャベツに使うから、1枚ずつ剥がしてくれないかな」 「わかった」 「佳織ちゃん、ボウルはどこにあるかな」 「ああ待って、そっち行くから」 がしっ 「ええっ!?」 「行かないでおくんなましっ」 「はあ? すぐそこに行くだけじゃない」 「1人はいやんいやん」 「あのねぇ……」 「あ、小春、ボウルは左側の一番下を開ければあるはずだから」 「えーと……うん、あった」 「こら、あまねは離れろ」 「ああん」 「私も料理手伝うんだから。あまねはゲームでもしてなさい」 「料理するって本気だったんだ……」 「当然。料理が上手くなるビッグチャンスじゃない」 「それは次の機会とかどう?」 「はあっ?」 「キッチンの定員、どうみても二人だし」 「それは……」 「それより佳織ちゃんは、あたしとゲームをしようっ」 「引っ張るな……ああもう、わかったわよ」 「ほんとっ?」 「キッチンに3人立つと、動きずらそうだし、あまねのゲームに付き合ってあげるわ」 「だから佳織ちゃんって好きさー」 「はいはい……」 「それじゃ、ゲーム、ゲーム♪」 「起動して、ディスクを入れて……」 「いきなり本気出しちゃうよー!」 「あんたは手加減しなさいよね」 「はーい」 「……ふぅ」 繁華街に寄り道しちゃったけど、みんなが泊まりに来てくれて嬉しいな。 あまねを驚かそうと思って買ってきたゲームも喜んでくれてるみたいだし。 それに、こうしてゲームが出来てるんだから、もくろみ通りよね。 「キャラクターを選んで……と」 「けど、佳織ちゃんがキッチンに立たなくて良かったよ」 「え? ま、まあ、定員オーバーだし、あまねの相手をする人がいなくなっちゃうから……」 「それもあるけど、佳織ちゃんが手伝うと大変なことになっちゃうから」 「なっ」 「た、大変なことってなによ」 「お鍋を焦がしたり、調味料を間違えたりー」 「む、むうう……」 せ、せっかく楽しい気分になってたのに、こいつはー。 「悪かったわね、どーせ、あたしは料理下手よ……」 「ああん、ふてくされないでよ〜」 「ふてくされてないわよっ」 「……もう、あまねのバカっ」 「下準備はこれでいいかな」 「うん」 「真琴ちゃんに、いっぱい手伝ってもらっちゃってるね」 「手伝うって言ったの、ワタシだから……」 「とっても助かってるよ」 「他に、手伝うこと、ある?」 「しばらくお鍋の中の煮物を煎ってて欲しいの」 「了解……」 「わたしは……あ、お鍋が足り無くなっちゃったから、探さないと」 「下の棚には無かったから、残ってるのは……上かぁ」 「高いところにあるけど、手を伸ばせば届く……かなっ」 ぴょんっ、ぴょんっ 「んっ、はっ、くっ」 「全然ダメだ……大人しく台に上ろう」 「んしょ……」 「く……んんーっ、あと少し……ん、んぅっ」 「取れる、がんばれ……わ、た……しぃ〜〜」 「取れた!」 「ひぁっ? はわわっ、後ろに……倒れるぅ〜〜〜!」 「小春っ?」 「きゃああっ」 「……キャッチ」 「は……ふぅ……助かった……ありがとう、真琴ちゃん」 「危なかった……」 「わたしも……ちょっと、焦った……」 「なにもなくて良かった」 「うん……」 「……はっ!?」 「どうかした……?」 「あ、あの……ま、まま、真琴ちゃん」 「ん?」 「えっと、その……あ、当たってる、というか、その……さわってる……」 「さわってる?」 「あ、あ、あの、助けてくれたのは嬉しかったんだけど、その、真琴ちゃんの、手が……」 「手?」 「……」 「……ワタシの、手」 「あぁんっ」 「!? この、両手の感触、まさか……」 「う、うう……」 「あ……はっ……」 「わあああああ―――っ!?」 「ごっごごごごごごめんっ」 「…………う、うん」 「あのっ、わざとじゃないからっ」 「うん……真琴ちゃんは、助けようとしてくれただけなの、わかってる……」 「……」 「……」 「ほんとに……悪かった……」 「うん……」 「……」 「……」 「ちょっと、恥ずかしかったね……えへへ」 「う、うん……」 「えいっ、く……ぅぅっ」 「たぁーっ!」 「うわっ」 「……また負けたぁぁ〜〜っ」 「やった、10連勝っ」 「手加減してって言ったのに」 「あたしの勝負魂に、火が付いちゃったんだよっ」 「あまねって、ゲームはやたらと上手いわよねぇ」 「えっへん」 「ゲームだけよ、ゲームだけ」 「ひとつでも得意なものがあれば、それでいいのですっ」 「偉そうに……宿題は1人じゃ全然しないのに」 「なんかムカツク……もっかい勝負よっ」 「おうともさー!」 「次こそ勝つんだから」 「よーい、スタート!」 「ええーいっ、と……ととと、うわっ、やったわねー!」 「ていっ、とぉー! やー!」 「くっ、返り討ちにしてやるっ」 「脇が甘いっ」 「きゃああ〜〜〜! ……ぱたり」 「11連勝っ!」 「くっ……まだよ、まだ終わっていないわっ、勝負よあまね!」 「ばっちこーい!」 「……ゲーム、スタート!」 「瞬殺ッ!」 「ちょおおおー!?」 「な、なに今のっ、インチキっ?」 「ふっふっふ……れっきとした技ですよ」 「なんで今日初めてさわったゲームの技がわかるのよ!」 「んとねー、発売前情報をネットで調べておいたの」 「ずる! ずるいわよっ」 「情報は武器だよ、佳織くん」 「くうう……!」 「いいわよ、分かったわよ! もういっかい勝負よ! 今度は同じ手はくわないからっ」 「次に佳織ちゃんが負けると、悪魔の数字、13連敗だね」 「くっ」 「あたしから一本でも取れたら、佳織ちゃんの言うことなんでも聞いてあげるよー」 「調子に乗ってるわね……」 「ふふん、勝てるものなら勝ってみんしゃい」 「必ず勝ってみせる!」 「かかってきんしゃい!」 「その前に、私も説明書を読むわ。情報だけでも、対等じゃないとね」 「どーぞどーぞ」 「ええと、一撃必殺の技……ゲージがたまったら、□ボタン。そんなのわかってるわよ。他にないの?」 「ここにもない……次のページにもない……ない、ない、どこにもない!?」 「あまね、やっぱりあんた……」 「インチキじゃないよ?」 「だって一撃で倒せる技なんて、書いてないわよ」 「そのまま書いてはいないんだよ。だって一撃で倒せちゃうんだから」 「どこかにヒントがあるっていうわけ? むむ……全然わかんないわ」 「じゃあ、その技は封印しておくよ」 「……ふっ、いいの? これでも着実に上手くなってるのよ?」 「いいよ」 「私が勝ったら、なんでも言うことを聞くのよ?」 「オッケーオッケー」 「その余裕な態度……今度こそ絶対に勝ってやるっ」 「準備はいい?」 「い、いつでも!」 「それじゃ、よーい――」 「スタート!」 「てやー!」 「とうっ、ここでジャンプ! 投げ技! 必殺技のコンボ!」 「やったなー? いけ、我が分身!」 「防御で耐えてみせるっ、く……っ」 「わっ、ほんとに耐えた!?」 「ならば次の手を使うまで! こっちの段からジャーンプ!」 「こっちはパーンチ!」 「効かないよっ、てりゃりゃりゃりゃりゃー!」 「きゃあああーっ」 「ふっ……ほとんどの体力を奪っちゃった」 「くぅぅ、あまねの攻撃が速くて避けきれない……」 「あたしの速さに付いてこれるかな?」 「食らいついてみせる! 今回は諦めないわよあまねっ、てぃやー!」 「くっ、しぶとい……っ」 「説明書に書いてあった攻撃技、ダブルコンボー!」 「にょわあああああーっ!?」 「やった!」 「や……やぁ……や〜ら〜れ〜たぁぁ〜」 「やったー! 遂に勝ったー♪」 「伊達にあたしの練習相手になってなかったということか……」 「13連敗なんて不名誉な数字、私に相応しくないわっ」 「遂に負けちゃったなぁ」 「さあ、あまね。約束は覚えているでしょうね? 無効になんてしないわよ?」 「仕方ない。約束だからね。なんでもお願い聞いてあげる」 「ふふん、素直に観念するところは誉めてあげるわ」 「さーて、あまねにはなにをしてもらおうかしらねー」 「わ……佳織ちゃん、もの凄い悪役顔。相当悔しかったんだ」 「負けて悔しがらない人なんていないわよ」 「それで、お嬢様はなにをご所望で?」 「なんでもするのよね?」 「うん」 「そうね〜……」 キス――。 「うわわ、私ったらなんてこと思い付くのかしらっ」 「どったの?」 「な、なんでもないっ」 「あ、ダメだよ。いくら佳織ちゃんでも、キスまでだからね」 「な、ななっ、なにを言ってんのよ!」 「あれ? なんでもするって、そういうことじゃないの?」 「ちがうわよ!」 「あれー?」 「び、びっくりしたぁ……」 「ちぇー、キスじゃないのかー。残念」 「ば、バカ!」 「と、とにかく……そう! か、肩を揉んでもらおうかしら!」 「佳織ちゃん、お年寄りみたい……」 「い、いいのっ。早く揉んでちょうだい」 「はいはーい」 「んしょ……もみもみ……どうですかー? 気持ちいいですかー?」 「う、うん……いいわ」 「けど肩もみなんて、意外と欲がないんだね。あたし、もっと凄いのお願いされると思ってたよ」 「もっと凄いのって、例えば?」 「1週間、登下校の鞄持ちーとか」 「そんなこと考えたこともないわよ」 「お風呂で背中を流すーとか」 「せ、背中……」 「一緒にお風呂に入るなんて、そんなこと……恥ずかしいじゃない」 「女の子同士なんだし、今更照れる仲でもないでしょ」 「ど、どど、どんな仲なのよっ」 「幼馴染みって意味だよ?」 「うっ! そ、そう、そういう意味……」 「ともかく、もっと、うわマジですかいっ、みたいなお願いされるのかと思ったんだよ」 「そんなことできるわけないじゃない」 「いやいや、勝負に負けた以上、どんな命令でも甘んじて受けるつもりだよ」 「それがあたしのポリシー!」 「……そ、そう」 「お、お客さん、右側凝ってますな……もみもみ」 「あん……んっ、あまね……んんっ!」 「ええんか、ここがええんか〜?」 「うう、イタ気持ちいい〜〜〜!」 「お夕飯出来たよー」 「やったー!」 「今、お皿並べるから」 「お皿を並べるくらいなら私も手伝えるわよね。新しいコップ使おっか」 「あたしは待つ係になるよー」 「はあ?」 「どんどん運んでこいやー」 「なにもすることがないのなら、あまねはテーブルを拭いておいて」 「……はぁーい」 「真琴ちゃん、佳織ちゃん、盛りつけしたから、運んでもらえるかな」 「うん……」 「はいはい、任せてー」 「ふきふき……」 「はいあまね、あんたのリクエスト品よ」 「おおっ、ロールキャベルっ」 「どれも美味しそうだ……」 「ああ、こっちはハンバーグ……ポテトに唐揚げ、ドレッシングのかかったサラダ♪」 「自分で作ったドレッシングだから、口に合うといいけど」 「春ちゃんがっ? すごーい」 「コップ、コップ♪」 「これが用意してたコップなんだ」 「うん、北欧のブランドなの。一目惚れしちゃった」 「ほわー、綺麗なガラス色ー」 「他の料理を持ってきた……」 「まだまだ出てくるなんて、春ちゃん凄い」 「たくさん食材買っちゃったし……」 「一応、デザートも後で作るから」 「至れり尽くせりだねぇ」 「飲み物を注いで……と。これで完成かしら」 「うん」 「早速食べよっ、いただきまーす!」 「いただきます」 「いただきます」 「どうぞ、召し上がれ♪」 「はむはむはむっ」 「どうかな」 「おいしー!」 「うん、イケる」 「最高だ……」 「お料理があったかいから、お弁当とは、また違った美味しさだよー」 「お弁当は、お汁になっちゃうおかずが入れられないから」 「そうよね……はむ、はむ。このドレッシング美味しい」 「喜んでもらえて良かった」 「パスタなんて2種類もあるよ! お家でバイキングだよ!」 「どれも美味しいしさ、幸せだよー」 「はいはい、口にミートソース付けて喋らない」 「んぅ……」 「んんー、美味しい、全部食べたい、全ての味付けがあたし好みっ」 「お願い春ちゃん、嫁に来て!」 佳織&真琴「「ダメー!」」 「二人の声が、揃ってる……」 「あっ、いや、その……」 「そ、その……嫁は困る……」 「そ、そうそう。あまねに小春ちゃんは相応しくないんだから」 「いやしかし」 「とにかくダメったら、ダメー!」 「あまね……考え直してくれ……」 「二人とも、目が真剣で怖い……」 「あまね……」 「あまねっ」 「うう、でも春ちゃんの料理は美味しいよー!」 「ごちそうさまでした」 「デザートも、とっても美味しかったわ」 「うんうん……」 「良かった」 「やっぱり春ちゃん、あたしの嫁に――」 「だからダメだっての」 「あ、お風呂もうすぐ出来るから、みんな入ってね」 「あたしお腹いっぱいだから、後でもいいよ?」 「食器を洗わなきゃいけないから、わたしも後でいいよ」 「食器は私が洗うからいいわよ」 「お夕飯を作ってもらった上に、食器まで洗ってもらっちゃ悪いもの」 「そんなことないよ。食器を洗うのは、いつものことだし」 「小春は少し休んでもバチは当たらないわ」 「食器なら、ワタシも洗える……」 「いいのいいの。真琴は小春のお手伝いをしていたんだし」 「それに、お皿は食器洗い機に入れておくだけだから簡単だし」 「佳織ちゃんがそう言ってるんだから、大丈夫だよ」 「あんたは少し手伝う気を見せなさいよ」 「今はお腹が破裂しそうで……」 「はぁぁ……まあ、いいけど」 「みんなのお弁当箱も出しちゃってね。ついでに洗っておくから」 「あっりがとーう!」 「そういうわけだから、お風呂には誰か先に入っちゃってね」 「真琴ちゃん、お先にどうぞ」 「いやいや、小春こそ先に入った方がいい……」 「でもわたしが一番風呂なんて」 「遠慮することはない……」 「そこ、遠慮し合わないの」 「ここは佳織が先に入るとか……食器はワタシが洗っておくから……」 「話がループしてるし。それにお客さんより先になんて、入れないわよ」 「いやいや、最初はこの家の人の方がいい……」 「だったら、みんなで入ればいいよ!」 「えっ」 「みんなで!?」 「そうすれば先を譲り合うこともないし」 「ま、まあ、そうなるわね……」 「4人で入るということは、小春とも……」 「あまねとも……」 「まるごとみんなで入るってことだよ」 「うっ」 「それは……っ」 「食器洗いが終わったら、みんなで入ろう。決まり!」 「……」 「し、仕方ないわね」 「想像しただけで、倒れそう……」 「うん……」 「おっふろだ、おっふろー!」 「こらあまね、はしゃいだら危ないでしょ」 「だってみんなで入れるなんて嬉しいんだもん」 「あんたは恥ずかしくないの?」 「なにを恥ずかしがるの?」 「なにって……ねぇ?」 「う、うん……」 「服を脱いでいるからな……」 「お風呂で服を着てたら、大変だよ!」 「いや、そういうことではないんだが……」 「いつも一緒にいても、こういうのはなんだか照れちゃうね」 「うん……」 「そうでもないよ?」 「そうでもないのは、あんただけだ」 「あれー?」 「あまねと一緒にお風呂なんて、何年ぶりかしら……」 「子供の頃は、よく入ってたよね」 「まあでも、うちのお風呂以外なら、修学旅行とかで入ったけど」 「きゃっ、よく覚えてますこと♪」 「う、うう、うるさいわね〜」 「でもさ、1年以上は入ってないってことだよね」 「そうなるかしら」 「お家が隣同士だから、結構一緒に入ってたりするのかと思ってた」 「一緒にいるんだけど、お風呂はさすがに」 「佳織ちゃん、どう? あたしの体、成長した?」 「な、なに突然言い出すのよっ?」 「だってぇ、あたしの体の成長を知ってるのは、佳織ちゃんだけだし〜」 「誤解を与えるような言い方をするなっ」 「てへ」 一緒に入るっていうだけでも恥ずかしいのに、なに言い出すのよ。 おかげで、あまねのことが気になって仕方がないじゃない。 あまねの成長を誰よりも知ってるのは当然だけど、どの部分が成長してるかなんて…… 「……」 「ああん、ガン見しちゃイヤン」 「見せてるのはあんただろうっ」 「はぁぁ……まあ、少しは胸が大きくなったんじゃない?」 「お尻は? せくしーになった?」 「お尻? うーん……」 「見ているだけで、体が熱くなってくるわ……」 「じゃあせくすぃーだ!」 「そういうわけじゃないけど……」 あまねであれば、お尻の形がセクシーだとか、どうでもいいし。 「佳織の気持ちは良くわかる……」 「心の声を読んだ!?」 「顔に出てるから……」 「佳織ちゃん、可愛い」 「あううっ」 「佳織ちゃん、佳織ちゃん、背中洗ったげるよ!」 「い、いいわよ、一人で洗えるから」 「いいからいいから、遠慮しないでっ」 「ああもう、ちょっと、あまねっ」 「ここに座って。スポンジはこれで、ボディーソープを付けて〜」 「強引なんだから〜」 「ごしごし、ごしごし」 「もう……」 「お痒いところ、ございませんかー?」 「別に……気持ちいいわ」 「えへへっ」 「このまま洗ってもいいけど、丁寧にやってよね」 「少しでもあたしに背中を洗われたいんだね」 「ち、ちち、違うわよっ!?」 「はいはい、ご所望通り、優しく丁寧に洗うね」 「もー、恥ずかしー……」 「ん……?」 「んしょ、んしょ」 「小春、頭に付けてるそれは、まさか……」 「うん、シャンプーハットだよ」 「これがないと髪が洗えないんだ」 「かっ、可愛い……!」 「シャンプーハットを使ってるなんて、ちょっと恥ずかしいんだけどね」 「そんなことはない、小春ならありだ」 「あ、いや、小春が子供っぽいと言っているのではなくて……」 「小春は可愛いから、なにをしても可愛いという意味で……」 「そうかなぁ」 「しかし、洗いづらくないのか?」 「え?」 「こう……腕を上げると、シャンプーハットに当たらないか?」 「平気だよ」 「そういうものなのか……」 「真琴ちゃんは使ったことないの?」 「あるにはあるけど、泡が垂れてきて、目に染みた思い出しかない」 「そ、そっか」 「ああ……」 「それにしても、その姿は……本当に可愛らしい……今にも気を失いそうだっ」 「ええっ?」 「しかし、こんなところで失態は見せられない」 「耐えろ、ワタシ……」 「ま、真琴ちゃん」 「そんなことよりも、今ワタシがしたいこと――」 「いや、しなければならないことは……」 「小春、その……小春の髪を、洗って……やろうか」 「いいの?」 「手が届きづらそうなのが、少しもどかしい……」 「わわ、気を遣わせちゃってごめん」 「いや……そんなことは……ない……」 「じゃあ、お願いしようかな」 「うん……」 「それじゃあ、失礼します……」 「お願いします」 「んっ」 「ど、どうした、目に飛んだのか……?」 「ううん、真琴ちゃんの指が気持ちよかったから」 「そう、か……?」 「うん、真琴ちゃん上手だね」 「そうかな……初めてやるから、いまいち勝手がわからない……」 「初めて? じゃあ素質があるんだぁ」 「ワタシは……小春の専属でいい……」 「えっ?」 「な、なんでもない……」 「う、うん」 「泡が垂れてきたりしてないか?」 「大丈夫だよ」 「小春の頭が……ソフトクリームになってしまった……」 「や、やりすぎだよ〜」 「すまない……今、流す……」 シャーッ 「シャンプーが残っていたりすると大変だからな……しっかり流した方がいい」 「ふにゃあ……」 「……そろそろ、綺麗に流れただろうか」 「ありがとう、真琴ちゃん♪」 「うん……」 「ふはー、いい湯ですなー」 「4人で一緒に湯船に浸かるなんて初めてだねっ」 「ていうか家庭用の浴槽に4人は、狭くない?」 「たくさんお湯があふれた……」 「上がったらお湯が半分しか残ってないかも」 「うん……」 「狭いっていう意見はスルーなのかい」 「ぎゅうぎゅうでも、4人が入れるなら問題ないもん」 「こうやって肌を密着させると、裸同士の付き合いしてるみたいだしー」 「それは女の子同士には使わない言葉じゃないの?」 「ヒトの性別は、元はみんな女性だって、テレビで言ってた! つまり、性別は関係ないってことだよ」 「いや、そんな大きい話はしてないんだけど……」 「でも、わたしもお風呂の大きさは気にならないよ」 「むしろ、小さい方がいいかも」 「そうなの?」 「うん、なんか、安心する」 「狭いところが安心するなんて、猫みたいね」 「小春が……猫……」 「猫耳で長い尻尾が生えた小春……はぁはぁ」 「はい、そこ想像しない」 「はっ!? すまない……」 「赤くなってるマコちゃん、かーわいいー」 「うう……」 「……真琴ちゃん、おっぱい大きくていいなー」 「!? な、なな、なにを……突然……」 「わたしにはないものだから、自然と目が行っちゃうよ」 「真琴ちゃんがうらやましいなー」 「そ、そんなこと……ない……」 「わたしくらい成長してないと、子供みたいだもん」 「可愛くて……いいと思う……」 「そうかなぁ?」 「でも真琴ちゃんの、柔らかくて気持ちよさそう」 「う……」 「わたしもそのうち、大きくなるかなぁ〜」 「なると、いいね……」 「うん。でもミルクをたくさん飲んでるけど、背もちっとも大きくならなんだぁ」 「だから、ちょっと望み薄かも」 「ワタシは、そのままの小春でも……いいと思う……」 「うん、ありがと……えへへ」 「おっぱい談義かぁ。春ちゃんとマコちゃんは仲良しだねぇ」 「佳織ちゃんのおっぱいも見せてもらおうかなー」 「い、嫌よ」 「あっ、腕で隠したっ」 「見せられる自信とか、ないから」 「じゃあ、その胸を隠してる二の腕責めだ〜〜!」 「ひぁぁ〜〜〜!?」 「二の腕ぷにぷに〜」 「こら! 揉むなー!」 「きゃああっ、佳織ちゃんバシャバシャしないで」 「あんたが二の腕を揉むからでしょーが!」 「だって気持ちいいんだもぉん♪」 「だからダメっ、こらぁぁ」 「あはははっ」 「ち、ちょっとそこは……きゃははっ、脇、くすぐったいっ」 「ここか〜? ここがええのんか〜?」 「にゃはははっ、ダメっ、こらあまねっ、いやぁぁ、脇はくすぐったいからダメー!」 「あまねちゃん達、楽しそう」 「うん……」 「春ちゃん、マコちゃん、佳織ちゃんを抑えてて!」 「うん……」 「えええ?」 「よーし、この隙に揉みまくっちゃうよ!」 「ちょっと、こらぁ、あまねー!」 「もみもみ……この揉み心地、おっぱいみたいで最高だよぉ」 「だから、腕を揉むなってば〜〜〜!」 「危うく茹でタコになりかけたよ」 「佳織ちゃーん、牛乳もらうねー」 「うん、ってあんたその格好なに!?」 「冷蔵庫開けて、牛乳取って……っと」 「服を着なさい! ちゃんと髪を乾かして!」 「熱いから、ちょっと涼んでからねー」 「今は夏じゃないんだから、風邪ひいちゃうわよ」 「せめて服だけでも着なさい。家の中を裸で歩くなんて、お行儀悪いわよ」 「てへへ、お説教されちゃったー」 「その顔、ちっとも反省してないわね」 「あたしには、服を着るより先にやらなきゃならないことがあるのさ!」 「ないわよ」 「あるの。牛乳を飲むという崇高な使命がね!」 「はあ……」 「コップに注いで……おっとっと」 「んくっ、んくっ、んくっ……ぷっはー! おいしー!」 「腰に手をあてて飲むなんて、どこの中年よ……」 「やっぱりお風呂上がりの牛乳は、たまんないねっ」 「佳織ちゃんも飲む? はいっ」 「はい、って……それ、あまねの飲みかけじゃないっ」 「うん、そうだけど?」 「それってつまり……これを飲んだら、あまねと……間接キス……!?」 「佳織ちゃん、どったの?」 「う、うん……」 「あ、そっか」 「ごめんごめん、あたしの飲みかけじゃいやだよねー」 「……えっ?」 「新しいコップに注いであげるね」 「あ……うん……」 「はい、どうぞ」 「あり……がと……」 「ささ、ぐぐーっといっちゃって。ぐぐーっと。あ、手は腰にあてた方が気分出るよ」 「うん……」 「んく、んく……」 「どうどう? 美味しくない?」 「ぷはっ、ふぅ……冷たくて、美味しい」 「でしょでしょ? あたしも最後まで一気に飲んじゃおうっと」 「んくんくっ、ぷはー!」 「ああ、間接キスが……」 「え、なに?」 「なんでもないわ……」 「って、あまね……ぷっ、くすくす」 「え? え?」 「もう、口に牛乳のあとが出来てるわよ? 一気に飲み過ぎなんだから」 「待ってなさい、今拭いてあげるから」 「ん……ありがと、えへへ」 「さあ、今度こそ服を着なさいよ。髪もちゃんと乾かして」 「はーい」 「真琴ちゃん、ドライヤー熱くない?」 「ん……平気……」 「小春……乾かしてくれて、ありがとう……」 「真琴ちゃんの長い髪を、一度こうして乾かしてみたいって思ってたの」 「そうなのか……」 「真琴ちゃんの髪、すっごく綺麗だね」 「そ、そうか……?」 「うん」 「小春が丁寧に乾かしてくれているからじゃないかな……」 「ううん、学校でも綺麗な髪だなって思ってたから」 「学校でも……」 「うん、それとね、いい香りがするの」 「学校でも、よく真琴ちゃんを振り返ってる人を見かけるよ」 「それは単に、ワタシの身長が高いから、変だと思っているんじゃ……」 「そんなことないよ。みんな、ぽーっとしてるもん」 「そうか……」 「うん」 「それと、今、初めて知ったけど、髪を下ろすと、すっごく大人っぽくなるんだね」 「それは、老けて見えると……」 「大人っぽく、だよ。どこかのお姫様みたい」 「姫……!」 「……それはないだろう」 「そんなことないよ」 「こんな真琴ちゃんが見られるなんて、今日お泊まりして良かった」 「そんな……」 「本当のことだよ」 「綺麗だし、スタイルもいいし、落ち着いてるし、格好いいし、そんな真琴ちゃんと一緒なんだもん」 「あう……」 「そろそろ髪乾いたかな」 「あ、ありがとう……」 「どういたしまして」 「はぁぁ……顔が、熱くなってしまった……」 「やっぱりドライヤー熱かった!?」 「いや、ドライヤーではなく、その……」 「そんなに褒められると……照れる……」 「褒めるなんて……頭に浮かんだことを話しただけだから」 「あうう……」 「すぅぅ……真琴ちゃんの髪、いい香り〜」 「今日は、一緒の香りだな……」 「うんっ」 「小春は、もう乾かしたのか……?」 「ううん、これからだよ」 「ワ、ワタシが乾かそうか」 「えっ」 「嫌ならいいんだが……」 「ううん、せっかくだから、お願いしようかな」 「……うんっ」 「えへへ……」 「小春の髪は短いから、すぐに乾いてしまうな……」 「でも細くてぺたってなっちゃうの」 「もっとふんわりした可愛い髪型にしてみたいなぁ」 「今以上に可愛くなる、だと……!?」 「そんなに驚くことかな」 「もちろんだ」 「そ、そっか……」 「想像するだけで……結構、くる……」 「良くわからないけど、真琴ちゃんにそう言われると、心がぽっとあったかくなるよ」 「たぶん、とっても嬉しいんだと思う」 「小春……」 「これからも、ずっと……一緒に居てくれるかな」 「うん……」 「えへへ……いっぱい楽しいこと、しようね」 「うんっ」 「シーツ持ってきたわ」 「敷き布団は敷いておいたよ」 「ありがとう」 「川の字に敷いちゃって良かったかな?」 「うん、いいんじゃないかしら」 「あまね、シーツ敷くから向こう側を持って」 「ベッドメイクしちゃうよ!」 「お布団だけどね……」 「端を持って……春ちゃん見て! シーツの海だよ、ばさっ、ばさっ」 「う、うん」 「ほらほら、シーツで遊ばないの」 「はーい」 「わたしも手伝うね」 「助かるわ」 「真琴ちゃん、一緒に敷こう」 「うん……」 「あとこれが枕で、こっちが掛け布団。うん、こんなものかしらね」 「あとは……」 「あとは、誰がどこに寝るか決めるだけだねっ」 「あ、あまね?」 「わたしはどこでもいいよ。真琴ちゃんは?」 「ワタシも……」 「わ……わ、私も、どこだっていいけど……」 「そう言いつつ、佳織ちゃんは端っこが好きだからねー」 「じゃあ佳織ちゃんは端でいいと思う」 「うん……」 「端っこが好きだなんて、ちょっと寂しい子みたいじゃない。言っておくけど端は修学旅行でも人気の場所なのよ?」 「それは荷物が置けるスペースが広いという、魅惑の特権があるからで〜」 「でも、端が空いてるならそこでいいんじゃない?」 「まあ、いいけど……」 「そういうあまねはどこに寝るのよ」 「あたしは、テレビが見えるとこがいい!」 「えっ」 「とゆーわけで、あたしも端っこ!」 「あ、う……」 「ちょっと、あたしから一番離れた場所じゃないのよ。テレビなんて、いつでも見られるじゃないっ……」 「……はぁぁ」 「佳織ちゃん、どうかしたの?」 「なんでもない……」 「お布団、入っちゃおーっと」 「歯も磨いたんだし、お布団でお菓子は食べちゃダメだからね」 「ええっ、夜はこれからなのに!?」 「虫歯になっても知らないわよ」 「あたしの唾液は虫歯に強いのだっ」 「というわけで、はい、みんなにチョコレートっ」 「私らを虫歯にする気かっ」 「いらない?」 「もらっとくけど」 「どぞどぞ」 「あたしも食べよーっと。はむ……ん〜〜んまっ」 「はむ……美味しい」 「はむ……うん……」 「お布団の仲でお菓子が食べられるなんて、お泊まりの特権だよね」 「まあ、普段は食べないわね」 「はむはむ……ふぁぁ〜」 「小春、眠くなった……?」 「う、ううん、平気だよ。せっかくみんなと一緒なんだから、寝られないよ」 「無理しなくてもいいのよ、今日は宿題も出てないし、寝るだけなんだから」 「でも、みんなとお喋りしたいから……」 「そっか」 「あたしは徹夜の覚悟だよ! 深夜の通販番組とか見ちゃうよ!」 「いや、あんたは張り切りすぎだから」 「フィットネスリズム2で、驚きのウエスト7センチダウン!」 「一緒に始めたお母さんは、なななんと13センチもダウンしたのです!」 「20代に買ったワンピースも、ほらご覧の通り、綺麗にはけちゃいました! ……はむっ」 「通販番組、よく見るんだ?」 「ううん、想像」 「たくましい想像力だなおい」 「だってさー、深夜まで起きてられないんだもん」 「遅くまでゲームしてるじゃない」 「丑三つ時になると、ぱたりですよ」 「これは毎日同じ生活リズムの繰り返しで、気付かぬうちに体が覚えた悪しき習慣ですよ。もはや洗脳レベル」 「やめんかい。健康的な生活を送ってるだけじゃない」 「そういう理由ですゆえ、そんなに遅くまでは起きていられないのですっ」 「徹夜の覚悟というのは?」 「出来もしないことを言ってみたまで」 「あんたね……」 「とりあえず、やる気だけは見せたいゆえ、テレビを付けるっ」 30分後――。 「すぅ……すぅ……」 「……あまね」 「んほぉぉ!?」 「見てないならテレビ消すわよ」 「見てた、いや見てないけど、耳で聴いてたっ」 「船漕いでたじゃない」 「おおう、佳織ちゃんに監視されていたようだ」 「……(うつら、うつら)」 「小春も眠そうだ……」 「今日は寝ることにしよっか」 「深夜の通販番組がぁ……」 「また今度にすればいいでしょ。時間なんて、いくらでもあるんだから」 「やる気はあるんだよ……」 「やる気があってもダメってことは、やる気だけじゃダメってことでしょ。出直しなさい」 「はーい……」 「それじゃ電気消すわよー」 「待って、待って! おしっこ漏れちゃう、トイレ!」 「はいはい」 ――5分後。 「ただいま。程良く眠くなって帰ってきました」 「そう。消すわよ」 「あい」 「消灯……暗い……」 「……」 「……」 「……」 「……」 「……今日は、楽しかったなー」 「いつもとそんなに変わらないけどね」 「お泊まり、した……」 「ふぁぁ……うん……」 「四人一緒だなんて、贅沢なことなのかも……」 「普通だってば」 「このまま四人でずっと一緒に居たいね」 「卒業してもさ、ずーっと一緒がいいなぁ」 「……オトナになっても、ずっと一緒よ」 「うん……ずっと一緒だよ……」 「そうだといいなぁ」 「なに言ってるのよ……ずっと、一緒……なんだから……ふぁぁ」 「うん……ふぁぁ」 「私……先に寝るわよ……」 「すぅ……すぅ……」 「小春に越された……みんな、おやすみー……」 「おやすみ……」 「えへへ……おやすみなさ〜い♪ ふぁ〜ぁ……」 途中END 「うー、だるぅ……」 「なんだか今日は、今朝からおかしいのよねぇ」 「ぼーっとするというか、ふわふわするというか……」 「佳織ちゃん、あまねちゃん見なかった?」 「あまね? さあ……その辺にいるんじゃない?」 「いない……」 「じゃあ、トイレとか。図書室って事はないと思うけど」 「あまねがどうかしたの?」 「今日日直だから、黒板を消さないといけないのかなと思って」 「いないなら、次の授業までにわたしが拭いておくけど」 「ああ……なるほど……」 「あまねったら、日直さぼってしょうがないわねぇ」 「黒板は私が消しておくからいいわよ、小春」 「えっ」 「私はあまねの世話係みたいなものだから」 「……」 「なに? 真琴」 「いや……」 「今日、少し違うと思って……」 「私が? いつも通りだけど」 「そうか……それならいいんだ……」 「うん」 「じゃあちょっと消してくるわね」 「うん……」 「あまねが戻ってきたら、お説教しないと」 「はぁぁ……それにしても、どうしてこんなに体が重いんだろう……」 「あーっ、佳織ちゃーん!」 「うっ、耳に響く……」 「あまね、あんた今日、日直なんだから、ちゃんと黒板消さないと」 「あー、忘れてたー」 「なにか用事だったの?」 「いい匂いにつられて、ふらふらと……」 「結局、つきとめられなくて帰ってきたんだけどね」 「そう……」 「あ、黒板消すの、後はあたしがやるから」 「……んじゃ、はい、黒板消し」 「うん」 「きゅっ、きゅっ、きゅ〜っと♪」 「ふぅ……それじゃ私、席に戻ってるから……」 「……あー、うん……はーい」 ………… …… 「……はぁぁ」 「黒板消し終わったよー」 「そう……」 「……佳織ちゃん、調子悪そうだねぇ?」 「えっ? そ、そんなことないわよ」 「でも具合悪そうだよ?」 「平気だってば。いつもこんなもんでしょ」 「そんなことないよ、あたし分かるもん!」 「分かるって、なにがよ?」 「佳織ちゃんのことなら、なんでも分かるの」 「……っ」 「だから具合が悪いのだって、すぐに分かっちゃうんだから」 「強がったって、あたしには隠せないんだからね!」 「あまね……」 「佳織ちゃんは、具合が悪い。図星でしょ」 「……バレたか」 「そうやって素直に認めちゃうところが、ますます具合が悪い証拠だよ」 「う……」 「あまねって、意外と私のこと見てるのね……」 「えっへん! 幼なじみだからねっ」 「でも、そこまで酷くないから、授業は受けてくわ」 「むむっ」 「な、なに……?」 「佳織ちゃん、すとーっぷ!」 「えっ?」 「はい、おでこ出す!」 「は、はいっ」 「あたっ……!」 「うーむ……」 「ち、ちち、ちょっと……あ、あ、あ、あまね……」 「こうやって、おでこをくっつけて熱を測るのが、一番だからね」 「い、いい、一番って……あわわっ」 「思った通り、熱があるよ、佳織ちゃん」 「熱……」 「ああ、そっか、だからふわふわした感覚だったのかぁ」 「しかもこれ、結構熱あるよ? 37度5分は固いね!」 「いや、37度7分……37度8分かなぁ。どんどん上がってる気がする」 「そ、そうかしら……」 「どんどん具合が悪くなってる証拠だよっ」 「そんなことないわよ」 「あるって」 「ないわよ。あるとすれば、それはあまねが……」 「?」 「だから、あまねが……こんなこと、するから……」 「体温計がないときは、こうやって測らないと熱があるか分からないよ」 「額に手をあてる方法だってあるでしょ」 「右手を佳織ちゃんの額に、左手をあたしの額にあてて測るの? それだとわかんないんだよねぇ」 「だってこれだと、ち、近いじゃない……」 「重要なのは、熱を測ることだよ」 「そうだけど、照れるじゃない……」 「照れてる場合じゃないよ、風邪なんだよ?」 「あ、ほら、また上がってきた」 「いや、だからそれは……」 「……あれ……体がますますダルくなってきた」 「ほらー」 「でも、授業は受けていくから」 「もしや、皆勤賞を狙ってるの!?」 「そこまでじゃないけど、いきなり4月から早退というのも、なんかね……」 「佳織ちゃん、真面目っ」 「そしてダメ人間っ」 「はあ……?」 「これから帰れば早退で済むかもしれないけど、無理したら2、3日お休みしなきゃいけなくなるかもしれないんだよ?」 「必要なのは、佳織ちゃんの風邪を治すことっ」 「あまねが正論を言っている……気がする」 「気がするじゃなくて、正論だよー」 「だから、今日は早退だからね!」 「……うー」 「次は丁度担任の先生だから、早退するんだよ?」 「……うん、分かった」 「よしっ。いいこいいこ」 「もう……バカ」 「授業を始めますので、席について下さいね」 「先生!」 「結城さん、どうしましたか?」 「佳織ちゃんが熱あるので、早退します!」 「え……羽村さんが?」 「ええと……熱っぽくて……」 「あたしが測ったところによると、38度くらいあると思われます!」 「だるくて、ちょっとふわふわします……」 「まあ、大変じゃない……」 「か、佳織ちゃん大丈夫? ていうか、大丈夫じゃなかった」 「……そういうことだったのか」 「もっと佳織を気にかけておくべきだった……」 「ちょっと熱っぽいだけだから、そこまで心配しなくても平気よ」 「しかし……」 「大丈夫、あまねが騒ぎすぎてるだけだもの」 「ぶぅ! だって絶対熱あるもんっ」 「そういうわけなので先生! あたしも佳織ちゃんの付き添いで帰ります!」 「ええっ!?」 「あまねちゃん……」 「止めないでおくんなまし。あっしは佳織ちゃんに付き添うって決めたんだ」 「あまね、ひとりで平気よ」 「平気じゃないよ、だるくてふわふわしてるんだよ?」 「そんな状態でひとりで歩いてたら、事故に遭っちゃうよ」 「事故に遭うこと前提かよ……」 「誰が止めようとも、あたしは付き添うからね!」 「あまね……」 「でも、具合が悪いのは結城さんじゃないでしょう?」 「付き添って一緒に早退するなんて、普通は許可されないのよ?」 「問題ありません」 「え? でも……」 「佳織ちゃんとあたしはお隣さんで、幼馴染みで、小さい頃からずっと一緒で……」 「えーと、えーと、そう! 夫婦みたいなものなんです!」 「夫婦……?」 「あ、ああ、あまねちゃん……!」 「あまね……よく言った……」 「ふ、夫婦……」 「えへへ」 「それを言うなら姉妹とか家族でしょうが〜〜〜!!」 「あう……あああ……怒ったら、眩暈が……」 「わわわっ、佳織ちゃんっ」 「とりあえず羽村さんは保健室に行って、保健の先生の判断で早退するか決めて下さい」 「わかりました」 「先生! あたしが保健室に連れて行きます!」 「春ちゃん、マコちゃん、日直お願いしてもいいかなぁ?」 「うん」 「分かった……」 「帰る気満々ね……」 「すみません、先生を困らせて……」 「羽村さんが謝ることではないわ」 「その……私が早退することになったら、あまねも一緒に帰ることを許していただけないでしょうか」 「私も、あまねがいると、安心ですし……」 「そう……」 「先生、お願いします!」 「ふぅむ……」 「そうね、一人で帰るのは辛そうだから、許可します」 「先生、ありがとう!」 「羽村さんは、少し強引ですが心のあたたかい、いい姉妹を持ちましたね」 「ありがとうございます」 「さあ、行ってらっしゃい」 「佳織ちゃん、行こっ」 「うん……」 「熱があるせいか、風が気持ちいいわ……」 「佳織ちゃん、大丈夫?」 「うん……」 「早退できて良かったね」 「保健の先生に保健室で休んでいきなさいって言われたとしても、添い寝してたけどね!」 「いや、そこは大人しく教室に戻りなさいよ」 「風邪ひいてる佳織ちゃんを、放っておけないよぉ」 「そ、そう……」 「測ったら38度近くもあったしさ」 「でも、風邪がうつるかもしれないじゃない」 「まあ……こうして隣を歩いてるだけでも、うつるかもしれないけど」 「咳出てないし、大丈夫だよ」 「そうかしら……」 「あ、そろそろお家が見えたよ」 「やっと帰ってきたわね……いつもより家が遠く感じたわ……」 「ゆっくり歩いてるしね」 「うん……」 「そういえば風邪薬ある?」 「あったはず……」 「よしっ」 「……」 「なにが、よしなの……?」 「それは、あたしが佳織ちゃんのお世話をするからだよ!」 「あまねが……」 「あれっ、なんで眉間に皺寄ってるの?」 「いや……そうなるんじゃないかという嫌な予感が的中したと思って……」 「まあまあ、そう言わず、あたしに任せてよ」 「大丈夫かしら……」 「体が斜めになってる佳織ちゃんよりはね」 「……あう」 「お邪魔しまーす」 「どうぞ……」 「さあ、看病の時間だッ!」 「そんなに興奮気味に言わなくても……」 「興奮だよ、佳織ちゃんを看病だよ? こんなの滅多にないもんっ」 「張り切ってお世話するよー、まずは着替えをしよう!」 「き、着替え? 一人で出来るからいいわよ」 「いいから、いいから」 「着替えはどこかな。佳織ちゃん、クローゼット開けていい?」 ダメに決まってるじゃない! そう言うつもりだったんだけど……ぽーっとしているうちに勝手に開けられてしまった。 あうぅ。 「う、うん……」 「えーとパジャマはどこかな……これにしよ」 「それじゃ制服脱がせるね」 「一人で出来るのに……」 「佳織ちゃんは病人なんだから、あたしに甘えていいんだよ!」 「甘えてというか……恥ずかしいというか……」 「リボンを解いてーっと」 「わわっ、いきなり、そんなとこっ」 「普通、最初に脱ぐのはリボンでしょ?」 「うう、そうなんだけど……」 「リボンを畳んで、次は――」 「ダメ、やっぱり恥ずかしいわよ、これ」 「制服のまま寝るわけに行かないでしょ?」 「だから、私一人でも脱げるから……」 「それだと看病にならないよ!」 「そんなことないってば……」 「スカートの中に手を入れるよ」 「ひぁんっ」 「佳織ちゃんは敏感なんだからぁ♪」 「あーまーねー!」 「くぁぁ……また目の前がクラクラする……」 「熱があるんだから大きな声出しちゃダメだよぉ」 「分かってるわよっ、けど、けど……」 「佳織ちゃんはなにもしなくていいからね。あたしに全てを任せて♪」 「ううう……」 「制服を脱がせて、と。下着は――」 「そこまで脱がないわよっ」 「でも汗とか――」 「汗かいてないからっ」 「そなの? あたしでさえかいてるのに」 「それより早くパジャマに着替えさせなさいよ」 「はーい」 「んしょ、んしょ……」 「……早くしてぇ〜〜〜」 「あ……」 「……なに」 「パジャマのボタンがハート型で可愛い」 「どうでもいいわよそんなことぉ〜〜」 「てへへ」 「――はいっ、着替え終わったよ、せっかちさん」 「せっかちじゃないわよっ」 「ほらほら、そんなに怒るとまた熱が上がっちゃうよ?」 「うう……」 「佳織ちゃん、また熱が上がったんじゃない? 耳まで真っ赤だよ?」 「全部あんたのせいだからっ」 「ほえ……なぜに?」 「なんでもよっ」 「とりあえず、着替えはしゅーりょー」 「……はぁぁ、なんか疲れた」 「熱があるからね。佳織ちゃんは横になって休んでて」 「分かったわ……」 「この調子で、佳織ちゃんのお世話をいっぱいしちゃうぞ」 「あたしの看病は、まだ始まったばかりだ!」 「ものすっごく不安だわ……」 「じゃあ、少し休ませてもらうわね」 「うん、おかゆが出来たら起こすね」 「おかゆ……だと……!?」 「風邪っぴきといえば、お腹に優しいおかゆだよ」 「あまねがおかゆを作ったことなんて、あったっけ」 「ううん、初めてだよ」 「大……丈夫……?」 「おかゆ自体は炊飯器が作るから大丈夫じゃないかな」 「そ、そうよね、大丈夫よね」 「私ったらちょっと心配しすぎよね……それじゃ、おやすみ」 「おやすみー!」 「にゅひひ……」 「……」 「あまね先生のお料理を、とくとご覧あれー!」 「……と言っても、誰も見ている人がいない」 「そうだっ」 「佳織ちゃん、ぬいぐるみ借りるねっ」 「じゃーん! 佳織ちゃんのブター!」 「このブタさんぬいぐるみを観客にしよう」 「よし、キミはこの椅子に座りたまえ。ここはあたしの料理が間近で見える特等席なのだよ」 「えっ、火や油はねが危険じゃないかって?」 「ご安心を! あまね先生はそんな失敗しないのです!」 「やっぱり不安かも……」 「それではブタさん、これからあまね先生は、具合の悪い佳織ちゃんに、美味しいおかゆを作りまーす」 「まずは、洗ったお米を炊飯器に入れて――」 「おかゆモード、ぽん! うむ、これでいいはず、完璧っ」 「確か普通に炊くより少し時間がかかるはずだから、待ち時間で具を作ってしまおう」 「具……」 「鮭とか玉子は定番だよねー。なにを作ろうかな」 「ちょっくら冷蔵庫を拝見ー」 「おお! ここは宝の山だ!」 「玉子と、ネギと……増えるわかめかぁ。これは使い道を間違うと危険そうだ、ぜひ使おう」 「……ぉぃ〜」 「やっぱり栄養があるものを、たくさん入れたいよね〜」 「あ、このカレー粉いいかも。香辛料は食欲を増進させてくれるもんね。あたし冴えてる!」 「あとは〜……」 「コレとコレとコレっ」 「こんなものかな。うむむ、おかゆにはあまり入ってない具まで入ってて豪華だよ」 「けど、これだけの具があれば、風邪なんて一発で治っちゃうよね、ブタさん♪」 「それでは、おかゆに入れる具を作る工程に入ります!」 「まずは野菜を切って……」 「うひゃあ!?」 「……何事っ!?」 「あ、佳織ちゃん。へーきへーき、ちょっと力入りすぎただけだから」 「びっくりした……気をつけるのよ」 「はーい」 「……もすこし慎重に切らないと」 「よーし、いい子だタケノコ、そのまま暴れずあまね先生のいうことを聞くんだ」 ………… …… 「……ふぅ、包丁の出番はこれでオシマイだ」 「次はいよいよ、お鍋の出番だよ!」 「にょわー!」 「こ、今度はなにっ?」 「あ、あ〜〜……大丈夫、ガスの火がぼわっとなっただけだから」 「そう……火傷しないようにね」 「うんっ」 「……はぁぁ、あまねのことが気になって、逆にゆっくり休めないわ」 「けど、せっかく作ってくれてるあまねの気持ちを思うと、手伝おうかとは言えないし」 「私が手伝ったところで、被害を悪化させる危険もあるし……」 「ここで大人しくしているしか、ないのよね」 ………… …… 「おかゆ、でーきたー!」 「出来たの?」 「うんっ、あまねスペシャルのおかゆだよ。食べさせてあげるね」 「えっ、い、いいわよ一人で食べられるから」 「いいの、いいの♪」 「でも……」 「遠慮しないで。佳織ちゃんは病人なんだから」 「……う、うん」 「それじゃ食べさせるよ」 「ふーふー……」 「あ……」 「ちゃんと冷まさないと、お口の中が火傷しちゃうからね」 「あり……がと……」 「風邪ひいて、よかったかな……」 「はい、あーん」 「……あーん」 「どうっ? 味どうっ?」 「!!」 「んんんぐぉぉ〜〜〜っ!?」 「あやや、失敗だった?」 「んーぐー! んんん! んーっ!」 「実は美味しくて悶絶してるんだったりして」 「んんー! んー!」 「あ、違うんだ」 「……んっ、ごっくん!」 「ぐああああ―――っ!! 飲んだ! 私偉いわっ、う……うわぁぁぁぁんっ!!」 「美味しい物を合わせたんだから、そこまで酷い味にはならないはずだけど」 「見た目は、増えるわかめで失敗して、ちょっとおかしなことになってるけどさ」 「じゃあ食べてみなさいよっ」 「いいよ。ふーふー……はむ」 「……どうよ?」 「むっ……」 「むふぉぉぉぉぉ〜〜〜っ!?」 「ほら見なさいよ」 「マズイぃぃ、あたしは天才かもしれないぃぃ」 「やっぱり風邪をひいちゃいけなかったのかも……」 「ん……」 「佳織ちゃん起きた?」 「あれ……私、寝ちゃってたんだ……」 「うん、ご飯食べた後に風邪薬も飲んだしね」 「そっか……」 「ぴこぴこって、なんの音?」 「ああ、これは……」 「うぐー! やられたー!?」 「ゲーム……?」 「うん、ポータブルの」 「そう……」 「もしかして、私が起きるのを、ゲームしながら待ってくれていたとか……?」 「そうだよ、看病だもん。専属ナース?」 「専属って…………」 「あ……おでこに貼ってあるのって……」 「あ、ひえピタ〜」 「佳織ちゃんが寝てるときに貼ってみたんだ」 「あまねが、そんなことを……」 「あ、ありがと。あまねなりに看病してくれてたんだ……」 「えへへ。具合はどう?」 「そうね……少しスッキリしたかしら」 「汗かいてない?」 「言われてみれば、背中の辺りに汗をかいているような……」 「じゃあ別のに着替えて、体を拭こう」 「か、体を拭くの? あまねが?」 「もち!」 「い、いい、いいわよ、ほんとに、一人で拭けるしっ」 「背中は意外と届かないものだよ?」 「気合いでなんとかするわ」 「ダーメ、あたしが拭くのっ」 「あまね〜……」 「パジャマ脱がすよ」 「……うう〜」 「脱ぎ脱ぎ、っと」 「あんまり、見ないでよねっ」 「見るよ! 興味あるもん!」 「き、き、興味って……そんな、そんなの……っ」 「だって佳織ちゃんは、好きな人だもん」 「!?」 「好きな人のは、興味持っちゃうものなんだよ」 「う、う……ぅ……」 「背中向いて」 「……うん」 「タオルでふきふき。佳織ちゃんの風邪が早く良くなーれ!」 「佳織ちゃん、髪を上げてくれるかな」 「う、うん……これでいい?」 「おおっ、なかなかセクシーなうなじですな」 「こ、こらっ、変なこと言うなっ」 「ここも汗かいてるね、ふきふき」 「んんっ」 「首、くすぐったいかも〜……」 「どこが? ここ?」 「んぁぁっ、だから、ひぁぁ〜〜」 「佳織ちゃんは、ここが弱いのかぁ。ふきふき♪」 「ひぁんっ」 「もー、そこばっかり責めないでー!」 「くすぐったいから、もういいってば〜」 「前の方もちゃんと拭かないとダメだよ〜」 「それこそ自分で拭けるし」 「甘えていいんだよ、佳織ちゃ〜ん」 「甘えとかじゃなくて……こっちくるな〜、ひぁっ!?」 「きゃっ」 「わぷっ」 「……つぅぅ、ベッドから落ちたぁ」 「いてて……」 「わっ、これはナイスなマウントポジション」 「うっ」 「ち、ちょっとどきなさい、あまねっ」 「鍵が開いてる……」 「あの〜、呼び鈴ならしたんだけど、いるかな〜」 「あっ」 「小春……真琴……?」 「あ、良かった居たんだ…………ね……」 「ひー!」 「小春、どうした?」 「わっ……」 「はわわわわっ、あまねちゃんが佳織ちゃんの上に乗って、しかも佳織ちゃんは上半身はだ……裸っ!」 「あ、あああっ、い、いや、これはっ」 「ご、ごめんね! あまねちゃんと佳織ちゃんがそういう関係だったなんて……」 「誤解よー!」 「ええっ、でも、でもっ」 「汗をかいたから、あまねに拭いてもらってたところでっ」 「そんなポーズで!?」 「あまねがいたずらして暴れてもつれたらこうなって――!」 「はう……」 「ああっ、真琴ちゃんが気絶しちゃった!」 「勝手に誤解して倒れるなー!」 「誤解されちゃったね、佳織ちゃん。えへへ」 「笑ってる場合じゃないでしょ!」 「真琴、起きて」 「マコちゃーん、朝だよー」 「どんな起こし方よ……」 「真琴ちゃん、しっかり! 真琴ちゃん!」 「佳織とあまねが……うぅ〜ん……」 「……あちゃあ」 「しばらくこのままにしておいた方が良さそうだね」 「仕方ないわね……」 「あまねがあんなことするから……もぅ」 「ごめんなさーい。てへ」 「ちっとも反省してなーい!」 「佳織ちゃん、体に差し支えがあるだろうから、わたし達はそろそろ帰るね」 「二人ともお見舞いに来てくれてありがとう」 「早く良くなってね」 「うん、差し入れもありがとね。後でいただくわ」 「佳織……お大事に……」 「ありがと」 「真琴もね。倒れたとき頭打ったでしょ」 「平気……」 「まあでも目を覚ましてくれて良かったわ。気絶したままだったらどうしようと思ったもの」 「早とちりして、悪かった……」 「い、いや、あんなところを見たら、勘違いされてもおかしくないし」 「春ちゃん、マコちゃん、明日学校でね」 「うん、ばいばいあまねちゃん」 「バイバイ……」 「学校帰りに二人がお見舞いに来てくれたなんて、嬉しいなぁ」 「それはそうだよ、お友達だもん!」 「お友達なら、心配になるよ、きっと」 「……そうね」 「美味しそうなお菓子もらったね」 「後で一緒に食べようか」 「うん♪」 「……さてっ」 「あたしも一度、家に戻るね」 「え、そうなの?」 「大丈夫、すぐに戻ってくるよ。風邪っぴきの佳織ちゃんを、一人にしないって」 「べ、別にそういう意味じゃないわよ」 「強がっちゃって〜」 「違うったら」 「はいはい」 「それじゃ、ちょっくら戻ってくんね」 「佳織ちゃんはゲームしないで寝てることっ」 「あまねじゃないんだから、しないわよ……」 「嘘っ、佳織ちゃんはしないのっ? あたし、毎回お母さんにそう言われるけど、ゲームやっちゃうよ!」 「しないわよ」 「凄い……あたし、佳織ちゃんを尊敬しちゃう」 「うむ、どんどんしなさい」 「うんっ」 「そんじゃ、またねっ」 「はいはい」 「はぁぁ……」 「やっと静かになったわ……」 「あまねに言われたからじゃないけど、寝るとするか」 「……」 「…………」 「さっきまで寝ていたから、眠くないわねぇ」 「あ、ポータブルゲーム機。あまねったら忘れていったのね」 「なんのゲームで遊んでたのかしら」 「ちょっとだけ……さわってみようかしら。ほんのちょっとよ? ちょっとだけ」 「ええと、確かこういうのダンジョンゲーっていうのよね」 「……へぇぇ、面白いじゃない」 ………… …… 「あまねちゃん、衣装チェンジ!」 「ぬぁっ! なんでパジャマ!?」 「今日は朝まで佳織ちゃんと一緒にいてあげるためデス!」 「おやおやそれは……あたしのゲームで遊んでたねっ?」 「た、たまにはいいかなって……」 「へぇぇ……」 「か、勝手に借りて、悪かったわよ」 「いやいや〜。で、何面まで行った?」 「えっ?」 「そのゲーム、面白いでしょ? 何面まで行った?」 「さ、3面まで……それ以上になると、いきなり難しくなるから……」 「じゃあさ、教えてあげよっか」 「一緒にベッドで遊ぼうよ」 「いいの……? 私、風邪ひいてるのに」 「ちょっとぐらいいいよ」 「もしかして、あまねが遊びたいだけ……?」 「それとも、ただ寝るだけの退屈な時間に付き合ってくれてるの?」 「さあ〜?」 「ベッドに入るよー」 「あ……ち、ちょっと……もう」 「はいはーい、横にずれてくださーい」 「……どうしてこうなっちゃうのかしら?」 「どうしてだろうねー?」 「なんで顔がにやけてんのよ」 「さあ〜? えへへっ」 1時間後――。 「終了。いっぱい遊んで疲れたけど、楽しかったわ」 「佳織ちゃんの当面の目標は4面クリアだね」 「4面に行けただけで、十分よ」 「まだまだだよ」 「何面まであるの?」 「噂によると200面はあるらしいよ」 「そんなに潜るの?」 「ちなみにあたしの最高記録は99面。あと1階潜れば3桁なのに」 「じゃあ、あまねはもう少しやってる?」 「ううん、ちょっと眠くなっちゃった……ふぁぁ〜」 「相変わらず気ままねぇ」 「まあでも、私も病人らしく寝ることにするわ」 「うん」 「えへへ、佳織ちゃんと一緒に寝るなんて久しぶりだね」 「よく潜り込んでくるでしょ?」 「こうやって寝ることだよ。昔はよく寝たよね」 「そうね。一緒にお風呂入って、一緒に寝て……」 「あまねの寝相が悪いから、よく下に落とされたっけ」 「それで怒った私が、二人で寝るときは壁側に寝ることになったのよね」 「言われてみれば、そうだったかも」 「佳織ちゃん、むかし、あたしと約束したの覚えてる?」 「約束?」 「大きくなったら、あたしと結婚するって」 「あははっ。そういえば、そんな約束もしたわねー」 「あたし、ずっと覚えてたよ。約束」 「あ、あれは、あたしたちまだ子どもだったから……」 「佳織ちゃんは、あたしのこと好き……?」 「……う、うん」 「あたしも、佳織ちゃんのことだーい好き! ずーっと一緒にいようね♪」 「うん……」 「佳織ちゃん……」 「あまね……」 「好き……だよ」 「……ちゅっ♪」 「ん……」 「ちゅ、ちゅ……はむ……」 「あまね……私も、好き……好き……ちゅっ」 「んん……」 「んはぁ……」 「いつまでも……一緒だよ……」 「うん……」 「ごきげんよう」 「あ、佳織ちゃんだ」 「風邪はもういいのか……?」 「もうすっかり元気になったわ、みんなのお陰ね」 「そんなことないよ。でも良かったね」 「うん、今日からまた二人と一緒にいられるわね」 「……ごほっ」 「あまねちゃん……?」 「いやー、すっかり移っちゃったよー」 「えええ?」 「咳をしてないから風邪は移らない、って言ったの誰よ」 「あたしの知識では、そうだったんだけど、おかしいなぁ」 「私の隣で寝たりするからそうなるのよ?」 「学校に来て大丈夫だったの?」 「うん、熱はないし、咳止めの薬飲んできたから」 「もう少し時間が経てば、完全に止まるんじゃないかな」 「私は休みなさいって言ったんだけどね」 「だって、学校に行きたかったんだもん」 「扁桃腺が腫れて熱が出ても知らないわよ?」 「そのときは、佳織ちゃんが看病してくれるから平気」 「なにが平気なのよ……」 「それにしても、どうして移っちゃったんだろう?」 「空気感染ってやつでしょ」 「咳もしてないのに?」 「一緒にお風呂入ったとか……」 「ううん、私はシャワーで汗を流したくらいよ」 「あ、分かったかも」 「なに?」 「きっと佳織ちゃんとキスしたからだよー」 「なっ!?」 「!!」 「キ、キ……キス……」 「ば、ばか! なに言ってんのよ!」 「きっとそうだよ、それ以外考えられないもん」 「だ、だから、そういうことを人前で言わないでよっ」 「はわわっ、やっぱり二人って……」 「特別な関係……」 「はう……きゅぅぅぅぅ」 「ああっ、また真琴ちゃんが気絶しちゃった!」 「うんうん」 「お願いだから、それ以上はやめて〜〜〜!」 「そっかぁ、だから移っちゃったんだぁ」 「それならしょうがないね。あたしと佳織ちゃんはラブラブだもん」 「佳織ちゃん、大好きだよ♪ 」 「あ……あ……」 「ん? どったの? 佳織ちゃん」 「う……ぐぐ……あまねのバカ〜〜〜!」