――この世界は、楽園である。        無垢な天使が舞い、崇高の羽が祝福している。         歓喜に覆われた世界は、平和そのものだ。           この世界は、楽園である―― 目を開くと、そこにはいつもの光景。 いつもの仲間。いつもの会話。 相変わらずの日常だ。 「……ふう」 飾り付けの花を全て段ボールにしまい込む。 これで大体片付いたかな? 「うん、綺麗になったじゃん! 皆お疲れー!」 「案外早く終わったわね」 「皆さんでやればあっという間です」 「まだ下校時刻まで時間あるね……。 少し部室寄ってこっか?」 「おお! まこちーがやる気だー!」 「俺は……帰って執筆かな」 「ゆっふぃんせんぱーい! 帰り、一緒にどっか寄ってきましょー!」 「うん、そうだね。たりたりちゃん今日いっぱい 頑張ったから……お姉さんが何か奢ってあげる!」 「わーい!」 「お兄さんでしょ」 「お姉ちゃん、私達もどっかで何か食べてから帰ろっか」 「そうね……たまにはそれもいいかもしれないわね」 「あー……かったりぃ。片付けとか誰か適当に やっとけよなー……さっさと帰ろーっと」 「私は一応先生方に片付けが終わった事を 報告しに行ってきますわ」 「私も行くわ」 「……………………」 皆、思い思いの様子でゆっくりと歩き出す。 「さて……俺も帰るとするか……」 とはいえ、急いで帰宅する必要は無い。 適当にぶらついてから帰ろう―― ――長い歴史の中で。 人類はゆっくりと知性を蓄えた。 それでも、人間の本質はどんな時代でも変わらない。 常にその叡智は、利益のみを追い続けていた。 利益……つまり、損得勘定。 誰しも損を避け、得を求める。 それはすなわち、損を他者に押し付け、得を他者から奪うという事。 その事実から目を背けて綺麗事ばかり囀り続ける人間は、絶対に勝者になれない。 勝者になるためには、凶暴な強奪者でないといけないんだ。 それが人間の本質なんだ。 下駄箱で、羽瀬の姿を見つけた。 「よう。もう帰るのか?」 「ああ。〆切が近いんだ」 羽瀬久次来。変態で変人。 一応友人だが、もし自分が女子だったら危険度ナンバーワンの男子生徒として、距離を置きつつマークしている事だろう。 一見穏やかで紳士的に思えるが、その実、それほどまでにイっちゃってる男なのだ、こいつは。 「小説か?」 「いや、今度はエロゲー」 「おお……こりゃまた凄そうだ……!」 羽瀬の変人生活の一面を紹介すると、こいつは“応募フェチ”なのだ。 募集されていないのに、自分の執筆物を出版社や新聞社、マスコミ業界に送り付ける趣味がある。 当然相手にされない事ばかりなのだが、それはそれで構わない、と本人の弁。 文章を書いて、それを業界関係者に送るという行為が楽しいらしい。そこに相手の評価はいらないのだとか。 「いい作品になりそうなんだ。なにせコンセプトが良い。 実にセンセーショナルだ」 「そ、そうですか……」 変人の書くエロゲーの内容なんてド抜けた変態作品に違いない。 詳細を聞かされたら負けだ。適当にあしらう。 「むしろ心配ですらあるんだ。 あまりにも作品が高尚過ぎて、先方から ついに連絡をもらってしまうかもしれない」 「そんな自信作なのか」 「欠点が見当たらなくて怖い……と言っておこうか。 俺はもしかしたらとんでもないものを 生み出してしまったのかと……」 そこまで言えるのも、変人としてゆえか。 「でもお前、自分の作品にいつも自信もって 送り付けてるよな」 「当然だ。我が子に胸を張らない親がどこにいる」 「で、たまには先方から返信来たりするわけ?」 「いや。今までは一度も」 「……………………」 なのになぜ今回も自信満々で作品を送り付け、今度こそ制作会社から返信がもらえると思ってるんだ? その一方的な自信が恐ろしいよ俺は。 「さて、俺はそろそろ行くとする。 世紀の驚愕イチャラブエログロ萌えゲーが 作者の筆を今か今かと待っているからね」 「……うまくいくといいな」 「絶頂の“イク”とかけてるのか。 まったく。ユニークな男だよ那由太は」 言い返すまい。やっぱうまくいかないといいな。 「それじゃあな」 クールに歩き去る羽瀬を見ると、いつも思う。 人間、頭のネジを落としたらおしまいだな、と。 屋上へと続く階段を上り―― 扉を開くと、外から紅色の空気がふわりと舞い込んできた。 夕暮れ時の心地良いそよ風に、心が自然と落ち着いていく。 「よー! 那由太君っ!」 そんな安らぎが、明るく元気な声に上書きされた。 「どうも」 「屋上なんか来て、どうしたの?」 元気だが、煩わしさの無いその声の主は、姫市天美。 朗らかで嫌味の無い、誰からも好かれるクラスメイトだ。 「いや、なんとなくだよ。 天美こそこんなところで何やってるんだ?」 「お嬢様はたまにこうしてここでよく夕焼けを 眺めるんです」 そう答えたのは、天美専属メイドのフーカ・マリネット。 一般生徒が本来着用する指定の制服とは異なるメイド服が異彩を放つが、彼女もEDENの生徒である。 二人は同じ学年・同じクラスにいながら、メイドと主という主従関係で繋がっている。 なぜフーカだけメイド服が許されているのかはよく知らない。姫市家の財力が関与しているのかもしれないな。 「夕焼けを眺めるのが好きなのか。随分風流だな」 「……というよりね、下校する前に一度その日の 出来事とか、思い出とか……そういうのを しっかり心に刻みたいの」 「今日の歓迎会……すごく楽しかったでしょ? だから、忘れたくないなって思って」 夕暮れの山吹色に呼応するような薄紅色の唇が言葉を紡ぐ。 「私達は学生としてEDENに通って……いずれ卒業して、 皆離れ離れになっちゃう。それは避けられない事だよね」 「でも、思い出も一緒に手放したくないんだ。 ここで過ごしたこの時間は、いつまでも大切に していたい」 「そのためには、そうするための“意志”が 必要なのかなって」 「………………」 丁寧に揺れるその唇に見蕩れたおかげで、俺の思考は彼女の言葉に到達できなかった。 意志……か。思い出を大切にするための……意志。 「瞑想するためには、少しの静寂と少しの時間を要します」 「お嬢様にとって、この場所が心を安らぐために 最も適した環境だという事です」 「少しだけ、人に優しくなるための工夫なの」 「…………そう、なんだ」 難しい話にも聞こえる。 でもそれ以上に、尊ぶべき行動のように思えた。 「……凄いんだな、天美は」 「えへへ、やめてよぉ……! 恥ずかしいじゃん」 柔らかいハニカミに、いつもの明るい少女を見た。 「フーカも、わざわざついて来なくたっていいんだよ? 先に帰っててくれていいのに」 「お嬢様のお傍にいる事。それがメイドの大原則です」 「……というか、ワタシがいないと寄り道して 買い食いしますよね?」 「――ぐっ……!」 あ。今のでこれまでの“なんとなくいい事言ってるっぽい雰囲気”がぶっ壊れた。 「そ、そういう話は今しないでよぉっ!」 「ですが事実です」 「んもうっ! せっかく那由太君の前でいい感じに カッコつけられてたのにぃっ!! フーカのバカぁ!」 もう完全にいつもの天美だ。 「ははは」 「那由太君も笑わないでよぉ!」 天美らしい顔を見て、少し安心した。 夕焼けに照らされたその横顔にドキッとしたのは、気のせいという事にしておこう。 「瞑想の邪魔したな。それじゃあ俺はもう行くよ」 「うんっ。また明日ね」 「お嬢様が一人で買い食いしてるとこを見つけたら、 是非ワタシにご一報くださいね」 「フーカってばあっ!!」 主として天美の方が立場は上のはずだが。 同年代の女の子としてはフーカの方が一枚上手のようだ。 音楽室の前を通ると、中で楽しそうに会話をしている三人娘の姿を見つけた。 「あ、期招来君。いらっしゃい」 迎え入れてくれたのは、木ノ葉まころと―― 「ちょうど期招来君の話をしてたんだよー」 ――安楽村晦。 「……ふん」 高梨子小鳥は相変わらずぶっきらぼうな表情だ。 「俺の話って?」 「男子が入部してくれたら嬉しいな、って」 「ああ、なるほど」 合唱部は現在絶賛部員募集中。なにせ部員は彼女達三人だけなのだ。 「三人だけじゃ出来る事も限られちゃうからねー」 三人も四人も変わらないように思うけど……。 「まあ三人は寂しいよな。 いつも合唱部って何してるんだ?」 「皆でお喋りしてるよ、とっても楽しいの」 「え……歌の練習は?」 「さすがに三人じゃ合唱は難しいよー」 「……………………」 そんな適当なノリだったのか……。 「でも、お喋りするだけだったらなおさら男は入り辛いな」 「そんな事ないよ? わたしは期招来君が一緒でも 楽しいと思うんだけどな」 「あ、でもことちーが嫌がるかもねー。 ことちー、男子嫌いだから」 「べ、別に嫌いってわけじゃないけどっ……」 まあ、こいつに関しては仲良くお喋り出来る自信は無い。 「ちゃ、ちゃんと合唱の練習に参加してくれるなら 特別に入部を許可してあげてもいいんだからね……!」 「いや、そもそも練習してないじゃんか」 「ゔゔ……そうなのよねぇ……」 「まあいいじゃない小鳥ちゃん。お喋りも楽しいんだし」 「あんたねえ。そんなんだからロクに練習に 取り組めないのよ。ここが合唱部だって事 忘れてるんじゃないの?」 「まーまー喧嘩しないのことちー」 「私は……まこが不真面目な事ばっか言うから……。 っていうかあんたもよおみそ!」 「えへへ……でも皆で仲良くお喋りする部活も楽しいよ?」 「それはそうかもしれないけど…… 私は合唱がやりたくってここに……」 ……三人の会話を聞く限り、やはりというか、小鳥は真面目に部活動に勤しみたい様子だ。 とはいえ、部員数の問題もあってそれは難しいのだろう。仕方なく日常系アニメのごときヌルいダベり部の様相に甘んじているみたいだ。 「そういうわけだから期招来。 あんた、うちに入部したがってる誰かいたら 連れて来なさいよ」 「え、俺が?」 「期待してるよー。期招来君顔広いしね」 「そんな事ないけどな……」 「べ、別にあんたが入部するっていうんなら…… それでも……か、構わないけどっ…………」 「わあ! ことちーすっごい! もはや古き良きって感じだね!」 「ふふっ、小鳥ちゃんそういうところが可愛いよね」 「う、うるさいわねっ、何の話よっ!」 顔を真っ赤にして反論する小鳥をニヤニヤ顔で観察するまころと晦。 これ以上かかわると明日小鳥から“ちょっと多く作った”という理由で手作りのお弁当を渡されかねないので、そろそろ退散しよう。 廊下を歩いていると、職員室から彬白先輩と志依が出てくるのを見かけた。 「あら、那由太君」 「まだ帰ってなかったのね」 「先生方に歓迎会の片付けが済んだ事をお知らせして いました。教室をあんなに派手にしてしまったので…… 一応の報告、という事で」 とまあ気が利く性格の彬白夜々萌先輩。 俺達よりも一つ学年が上だが、年上として威張る事無く穏やかに後輩に接してくれている。 今回も歓迎会の準備片付けを積極的に手伝ってくれた。面倒見のいいお姉さんって感じだ。 「期招来君は何をしてるのかしら?」 「いや、特に何か用があるってわけじゃない。 ぶらぶらしてるだけだよ」 車椅子に座ったまま落ち着きを崩さない彼女は、黒蝶沼志依。 生まれつき足が悪く、いつも車椅子で生活している。EDENと病院の往復で、遅刻や欠席も多い彼女だが、その点は教師陣に理解されている。 しかし志依の特徴は不自由な足ではなく、なんといってもその洞察力。 相手の心を感じ、読み、察し、全てを理解する。 魔術や妖術がこの世にあるとすれば、彼女はその力の使い手に違いない。 「志依さんにも一緒に来てもらったんですの」 「先生達、私には甘いから」 「そりゃそうだろうな」 足の事があるから強く出られないし、なによりもそのエスパー能力のせいで口の立つ大人でも言い負かされてしまう。 志依の存在は、交渉や報告にはぴったりなのかもしれない。 「……ん?」 「……げ!」 丁度そこに霍が通りかかった。 叶深霍。いつも一人で行動しようとしているが、その弄られ体質のせいで誰かしらに絡まれているヘタレ少女だ。 不良に憧れているらしく、いつも頑張って悪ぶる努力をしているようだが……小さな子が無理して背伸びしているようにしか見えないんだよな。 「あら。可愛いオモチャの登場ね」 「お、オモチャってあたしの事ぉ!?」 「くふふ。それ以外に誰がいるのかしら?」 「ぐぬぬ……黒蝶沼め……!」 志依と霍はなぜかライバル関係にあるらしく、しょっちゅうこうして対立をしている。 が―― 「叶深さん、ちゃんと歓迎会の片付けに参加してたわね。 準備もちゃんとやっていたし……案外協調性があるのね」 「ふ、ふんだ! 別に……他にやる事なかったから……」 「不良だったらあんな事しないものよ? 皆と足並みを揃えるだなんて不良らしくないわ」 「あう……そ、そっか……確かに……」 「そんな事にも気付かずに言われるがまま準備と片付け をこなして……あなたって本当に流されやすい人ね」 「なんだとー!」 ――このように、いつも霍が志依の手の上で踊らされてしまう結果となる。 当然だ。頭の回転の速い志依に対して、霍はあまりにも愚直で分かりやす過ぎる。 まさに格好の餌食。ライバル関係とはいえ、基本的に一方的なのだ。 「ですが、皆と一緒にお手伝いしてくれたからとっても 助かりましたわ。霍ちゃん、いい子いい子」 「いい子じゃないもん! 悪い子目指してるのにぃ! 嬉しくないよっ!」 「はいはい、にわかわにわかわ」 「うっさいっ、にわかわ言うな~~!」 「にわかわ、にわかわ」 「子ども扱いすな~~~っ!! バカじゃんバカじゃん~~っ!!」 年上の彬白先輩からしても、霍は扱いやすいキャラなんだろうなぁ……。 普段は運動部が部活練習をしている校庭だが、さすがにもうこの時間だとさほど活気付いていない。 運動部といえば―― 「あれ、那由太じゃん」 四十九筮も運動部に所属している。 「筮。部活か?」 「ううん、もう部活は終わってた。 一応、挨拶だけでもって思って顔出したんだ」 なるほど。だから体育館の方から歩いてきたのか。 「部活の調子はどうだ?」 「うん、絶好調だよ! 今日は歓迎会の片付けで 休んじゃったけどね」 「一日休むと身体がうずうずしちゃうくらい! あー、明日は朝練頑張ろーっと!」 さすが筮。活動的で疲れを知らない。 「那由太も運動部入れば? 身体動かさないとなまっちゃうでしょ?」 「いや、俺は体育だけで十分だ。 そんな運動神経いいわけでもないし」 「ジジイみたいな事言ってんなって。 汗かいて青春するのも面白いもんだよ?」 などと熱血ワードを平然と口にするも、筮が言うとなぜか爽やかに感じるから不思議だ。 「うちのクラスの男子って、文化系が多いんだよねー。 那由太は帰宅部だし、羽瀬はなんかいっつもカリカリ 文書いてるし」 「メガはどうだ? あいつ結構スポーツできそうな気がするぞ?」 「あいつはダメ。バカだから。バカはスポーツできないの」 脳筋ってヤツか。しかし辛辣だな。 「つってもあたしもそんなに頭いいわけじゃないけどね。 この前のテスト赤点ギリギリだったし……」 「――って事で那由太! 数学の課題写させて~!!」 「――ひでぶー!」 女子とはいえ、筮とはなぜかこんな感じに軽いスキンシップが出来てしまう。 というか、ノリがほとんど男子だからかな。活発で大雑把で、あんまりお淑やかじゃないし。 「俺も数学最近ヤバ目だから、今度皆で勉強会しようぜ」 「ナイス! 部活無い日にしてね!」 そう言いながら立ち去る筮。 決して挫けず、元気を絶やさないスポーツ少女。 本人には絶対に言ったりはしないが、筮も結構脳筋タイプだよな……と思う。 教室に戻ると、玖塚姉妹が二人っきりで何かをしていた。 「あ、期招来君だ」 「あら期招来。忘れ物?」 「いや。そういうわけじゃないんだけどな。 二人は何してるんだ?」 「数学の課題をやってるの」 「え、なんでまた。帰ってからやればいいじゃないか」 「今日は歓迎会とかそのお片付けとか色々あったから、 帰ったらすぐに寝ちゃいそうで……」 「だから今のうちに終わらせて、 一緒に夕飯食べて帰ろうって事にしたのよ」 「夕飯作る気力もない気分だよ……」 なるほど、それで教室で自習してるのか。 「……食事はつつじ子が作ってるのか?」 「うん。私、お料理得意なんだ」 「ま、家事は上手そうだもんな」 「ふん。どうせ私はお料理下手糞ですよーだ」 「そうは言ってないって」 「お姉ちゃんは一人で何でも出来ちゃうから……。 せめてお料理くらいは力になりたいなって」 健気な妹だ。 「……で、代わりに勉強は私が見てるってわけ」 「お姉ちゃん頭いいから」 「あんたがバカなのよ。ほら、続きやるわよ」 この二人は、いつも一緒で姉妹仲もよい。 面倒見のいい姉のあざみ子がつつじ子に勉強を教え、料理が得意な妹のつつじ子が代わりに食事を作る。 互いに互いの欠点を埋めて、支え合っている。実にいい関係だと思う。 「俺はそろそろ行くよ。邪魔しちゃ悪いし」 「うん。また明日ね、期招来君」 「よそ見しない!」 二人の和やかなやり取りを聞きながら、俺は教室を後にした―― 校門で、御伽&猶猶コンビを見つけた。 「あ、那由太君。那由太君も一緒に行く?」 「どこに?」 「商店街に新しく出来た喫茶店ですよ! 猶、ずっと行ってみたくて」 「こんな時間から遊びに行くのか? 二人とも元気だなぁ」 「だって……帰ったところで特にやる事も無いしね」 「まあそうですよね。 一旦帰っちゃうと外出るの面倒ですし」 外出届出さないといけないんだもんな。 「那由太君、一緒に行こうよ。 女の子二人に囲まれて、ハーレムだよ?」 「いや違うだろ。男二女一で猶猶の逆ハーレムだ」 「いやん♪」 御伽はこう見えて男性だ。 胸の膨らみは無い(はずだ)し、あそこにはアレが生えている(はず)。(さすがに確認したわけではない) しかし、彼は女子用の制服を着用し、女子トイレや女子更衣室を利用し、女子体育の授業に参加している。 EDEN公認の“男の娘”というわけだ。なぜ許されているのか知らんが。 「二人とも仲良いよな。学年も性別も違うのに」 「人間って、違う部分が多ければ多いほど、 案外惹かれあったりするものなんだよ?」 「じゃあ二人は付き合ってるのか?」 「まさかぁ! 私達女同士だよ? 女同士で付き合うなんて……レズじゃんかぁ!」 「そ、そこら辺は難しい問題なので猶は ノーコメントにしておきます……」 だそうだ。猶猶は一応、御伽の事を“女子”として慕っているらしい。まあもっと大きく“変な人”という認識なのかもしれないが。 「……ん?」 「あ、メガ君」 「……なんだてめえら。邪魔だ、どけ」 飯槻メガ。クラス一の問題児。わかりやすくいうと不良。 なのだが、案外人付き合いがよかったりして、周囲から孤立している、という事は無い様子だ。 今回だって歓迎会の準備片付けを文句を言いつつもなんだかんだ手伝ってくれていた。 もちろんそれというのは―― 「メガ君。私達と一緒に喫茶店行く?」 「えー! 飯槻先輩と一緒は嫌ですよー! この人乱暴なんですもん」 「てめえ本人を前にしてそういう事堂々と 言うんじゃねえ! 少しは怖がれ!」 「つーか誰が行くか! 女男と生意気後輩と茶店なんて 死んでもごめんだぜ」 「夜々萌先輩も来るんだよ?」 「ちょっと待ってろ。タキシードに着替えて来る」 「嘘だよん」 「てめえゆっふぃん、不良なめてんじゃねーぞこらぁ!!」 ――この通り、メガは彬白先輩にメロメロなのだ。 歓迎会の手伝いも彬白先輩に促されたからに違いない。 見た目は凶悪で手つきは凶暴なメガだが、その特性を知っておくと何かと扱いやすいキャラクターとして生まれ変わる。 「おい期招来。てめえ今失礼な事考えてただろ」 「いや、別に。どちらかというと、 お前を誉めるような事考えてたよ」 「ち……どいつもこいつもふざけやがって」 挨拶も無しに去っていくメガ。ポケットに忍ばせたその握り拳が、いつか俺達に向けて振り下ろされる日が来るのだろうか。 「さて……私達もそろそろ行こっか」 「はい。そうですね。門限もありますし」 「んじゃあね、那由太君。デートはまた今度改めて」 「那由太先輩、また明日でーす!」 二人もすぐに行ってしまった。 さて、俺はどうするか―― 校門を出て、帰路を歩く。 といっても、目的地まであっという間だ。 どこかへ寄る必要も無いだろう。今日は色々あった。直帰して、身体を休めたいと思う。 海に囲まれたこの孤島にやって来た転入生。歓迎会を楽しんでくれていた様子だ。きっと上手く皆となじめる事だろう。 この島での生活も、この寮での生活も、きっとすぐ慣れる―― “《らくえんらん》楽園欒”―― EDENに通う生徒達が住まう大型寮だ。 そもそもこの“天使島”は無人島だった。そこを政府が開拓し、居住可能な島に作り上げたのだ。 この島の歴史はまだ浅い。多くの人が本土からやって来ている。 EDENが全寮制なのは、そういった理由もある。親元を離れて単身で入学している生徒がほとんどだ。 そういった生徒を収容するために、楽園欒は存在する。俺達の家であり、心を落ち着けられる場所なのだ。 いつものように、自室へと続く廊下を歩く。 個室には、風呂・トイレ・キッチンなどが完備され、部屋の中だけで問題無く生活できるようになっている。 ちなみに寮の消灯時間は決められているが、守っている生徒は少ない。人目を盗んでこっそり友人の部屋へ行き来したりしている生徒が大勢だ。 とはいえ正面口の門限はあるので、その時間内に帰寮しないといけないし、その時間を超えて寮長に内緒で外出する事は難しい。 消灯時間と門限は共に22時。それ以内に帰宅し、自室にこもるべし。 「……ふう」 ようやく一息つける。 共用の食堂はまだこの時間ならやってるから、そこで何かを食べてもいいし、適当に自炊してもいいな。 いや、それよりもまず―― 「……疲れた」 ベッドへダイブ。 「とにかく今は……寝たい」 早朝の歓迎会の最終準備、放課後の歓迎会の片付け。 長い一日だった。明日に備えてこのままゆっくりしよう。 「……………………」 「でも……楽しかったな……」 何気ない日常に、有難みを感じる時がたまにある。 当然のように誰かと会話を交わして、当然のように誰かと触れ合って。 当然のように呼吸をして、当然のように生きている。 誰に感謝するわけでもない。 その当然を噛み締めて、幸せに思っているだけ。 EDENには、その当然が満ちている。 まさしく楽園だ。 いつまでも、この世界が続きますように―― 「むぅ…………」 アラームが鳴る前に目が醒めた。たっぷり眠ったおかげだろう。 「ふぁ~あ…………」 差し込んでくる朝の陽射しが眩しくて……とか、そんな爽やかな寝起きじゃないが……。 ……でも、いい朝だ。 「……さて、支度支度っと」 「――お、那由太君!」 「おはようございます」 寮の廊下で天美とフーカに出会った。 フーカは常に天美と一緒だ。メイドとして主を監視し同行する義務があるのかもしれない。 「一緒に登校しようよっ♪」 「すぐそこだけどな」 EDENと楽園欒はほぼ隣り合わせに建っている。歩いてすぐに行き来できる距離だ。朝のHRのギリギリまで自室で寝てても遅刻しないくらい。 「物理の課題やった? あれって今日提出だよね」 「ああ、やったよ」 「難しかったよねぇ、あれ。私、番号的に 今日あたり順番回ってきそうな気がするんだ」 「番号?」 「……? 出席番号だよ?」 「……………………」 あれ……? 出席……番号……。 ……出席番号、だっけ? 「物理の先生、ただでさえ怖いのに あーん、ピンチだよー」 「だってよフーカ。お嬢様がピンチだぞ」 「今すぐ期招来さんと結婚して名字を変えたら どうですかぁ? そしたら出席番号ずれて 問題解決だと思いますけどぉー」 「フーカ投げやり過ぎ!」 「つー事でぇー、期招来さん、うちのお嬢様を どうか末永くよろしくお願いしまーすぅ」 「なんでそうなるんだよっ」 「うう……これも今日の物理の授業を乗り切るため……! 那由太君、不束者ですがどうぞよろしく……」 朝から学園モノの日常会話が繰り広げられている。穏やかな一日の始まりだ。 「あ、そだ。英語の発表もあるんだよね……。 そっちも不安だよぉ。フーカ助けて~」 「困った時は勢い任せに広東語を連呼してその場を しのぐのも一つの手かと。相手を圧倒して煙に巻く のは、窮地ではとても有効な方法ですよ」 「広東語かぁ……私一切喋れないよ……」 「お嬢様助ける気ないだろお前……」 呑気な会話を心地良く感じながら、俺達はEDENへと向かった。 EDENに近付く事で、生徒達の喧騒が大きくなる。 俺達と逆方向から歩いて来る生徒もちらほら。そういうヤツのほとんどは、コンビニや商店街などに寄ってから登校しているのだろう。 「あ、ゆっふぃんだ。おはよー!」 「天美ちゃん、フーカちゃん、那由太君。おはよっ」 「おはよう。随分早いな」 「なんだか朝早くに目が醒めちゃったの。 ……あ、私こっちだから」 「ゆっふぃんさん、校舎へは向かわないんですか? これからどちらへ?」 「商店街。今日はお弁当作らなかったから、 ご飯買っておこうかなって思って」 「なるほど。昼はお店混むからな」 「そうなんだよねー。朝ならまだ人少ないから、 今のうちだね」 「それじゃあまた後でな」 「うん、またねー!」 「商店街かぁ……」 「……ん? どうした、ボーっとして」 「私、あんまりそっちの方行った事無いんだよね」 「え、そうなのか!? じゃあいつも買い物とか どうしてるんだよ」 「ワタシが全て担っていますので」 さすが専属メイド……! 主の身の回りのものは全てメイドが用意してるのか。 「カラオケとか、ゲームセンターとか…… 皆の話聞いてると、興味あるんだけどね。 一度も行った事無いんだ」 「そういう遊びもした事無いのかよ!」 「ワタシが禁じています。お嬢様が不健全な交遊を 覚えないように心がけるのもメイドの務めなのです」 「そ、そこまでしなくちゃいけないのか……」 なんだか、随分窮屈なんだな……。 「………………」 天美が一瞬だけフッと寂しげな表情を浮かべたのを、俺は見逃さなかった。 でも……俺にはどうする事も出来ない。 フーカにはフーカの義務があるし、やり方がある。 それを天美が納得しているのかどうかは知らないが、それは二人の問題だ。俺がとやかく言っていい事じゃない。 「……行こうか」 余計な事は考えないようにして、俺達は再び校舎へと歩き出した。 校庭を横切りながら下駄箱へと向かう最中、筮の姿を見かけた。 「筮ちゃん。おはよー!」 「おはよ。今日は三人で登校?」 「寮の廊下で期招来さんとたまたまお会いしまして」 「筮は朝練か?」 「うん。まだ時間あるし、体育館で ひとっ走りしよっかなって」 いつもの事だが、朝から元気なヤツだ。 「そういうわけだから、じゃねー!」 そう言って筮は颯爽と駆けて行った。体育館に行く前からすでに走っている。 「部活かぁ……なんかちょっと憧れるなー」 「天美はどっかに入部しようとか思わなかったのか?」 「私はほら……ね」 ちらりとフーカに目くばせする天美。 “そういう規則”があるのかもしれない。天美とフーカの間には。 教室へ続く廊下を、ゆっくりと進む影が。 輪郭でわかる。志依だ。 「おはよう、志依」 「あら、おはよう。期招来君、朝からお盛んね」 「どういう意味だよっ」 「姫市さんにマリネットさん。美女二人をはべらせながら 登校して、それだけじゃ飽き足らずに私にも声をかける なんて」 「美女っ……!? んもう、志依ちゃんったら!」 「美女っ……!? んもう、志依さんったら!」 主人の言い方をわざと真似るフーカ。年相応の無邪気さを感じるが、その分メイドとしての服従精神は感じられない。 「ねえ那由太君。私って美女かな? 一緒に登校して、ちょっと意識しちゃったりした?」 「えっ……!? い、いや……それは……」 「ねえねえ、どうなのよそこら辺。 ドキドキしちゃう? ソワソワしちゃう? 男の子の率直な考え聞かせてよぉ!」 そう言いながら天美は、俺の服の裾を無遠慮に引っ張ってくる。 「天美……おまえ、そういう事するから……!」 「くふふっ、期招来君。あんまり羽目を外さないようにね」 「誰のせいで……あ、こら!」 ニヤニヤと笑いながら、志依は去っていった。あいつなんでこんな朝早くに登校してるんだ? 「天美、服引っ張るなってばっ……! ほら、行くぞ……!」 「ねーねー、私美女ー?」 「期招来さん……お嬢様は置いておいて…… ワタシはどうなんでしょうか……?」 追及してくる二人から逃げるように教室に入った。 「おう那由太。早いな」 羽瀬をはじめ、もうすでに数名が登校している。意外とこの時間でも人いるんだな。 「羽瀬こそ早いじゃないか」 「文筆家として退廃的な生活を送っているとね、 たまには人間らしい暮らしがしたくなるものなんだ」 わけわからん。 「何飲んでんだ?」 「モーニングコーヒーを欠かしたことは無い」 初めて聞いたぞ。しかもコーヒー牛乳じゃねえか。 「朝練に励む運動部を眺めているんだ。 人間観察が執筆の糧になる事を俺は熟知している」 「ほら、校庭の隅に座っている陸上部のあの子。この 時間に登校していながら、朝練に参加せずに黙って 見学している。怪我などは見受けられない。どう思う?」 「さあ……」 「生理に違いあるまい。重い方かな? 軽い方かな?」 朝から飛ばしまくってんなこいつは。 「……おや、天美くんとフーカくんも一緒か。おっはー」 「おっはー♪」 「……お嬢様。彼にあまり近付かない方が……」 実に懸命だ。フーカよ、この穢れ切った狂人から無垢な主人を守ってやってくれ。 「……なあ、那由太」 「なんだよ」 「……今日もいい天気だなぁ」 「だな」 雲を眺めながら、窓の隙間から薫る朝の冷ややかな風を一身に浴びる。 それだけで、今日一日が上手くいきそうな予感がした。 「晴れてると、体育外じゃん? 女子の体操服見放題じゃん? 窓側の席の俺達ってそれだけで勝ち組じゃん?」 「……………………」 詩的な感じでちょっといい事考えてたのに、一つ前の変態の呟きのせいで台無しなのであった―― 昼休み―― 「……ねえ、那由太君。ちょっと……いいかな」 今朝とは違い、少し沈痛な面持ちの天美に話しかけられた。 「――探し物?」 「うん、そうなの……どこかに落としちゃったみたいで」 「今、フーカにも探してもらってるんだけど。 那由太君も協力してくれないかな。 昼休みの間だけでもいいから……」 珍しくフーカが一緒じゃないと思ったら、そういう事だったのか。 「ああ、構わないよ。別にやる事無いし」 「ホント? ありがとう、助かるよっ」 「……で、その探し物って?」 「――黒い箱」 教室で、御伽と猶猶が二人並んで食事しているのを見つけた。 「あ、那由太先輩に姫市先輩っ。 お二人も一緒にご飯食べませんかー?」 「いや、今ちょっと探し物してるんだ」 「探し物……?」 「黒い箱なんだけど……知らないかな?」 「黒い箱……? えっと……ちょっとわからないかも」 「姫市先輩のものなんですか?」 「うん。そうなんだ。私の宝物なの」 宝物……!? そんな大切なものだったのか。 「黒い箱だね。それらしいものが見つかったら知らせるよ」 「うん、ありがとう。助かるよ。 猶っちも、もし見つけたら私に知らせてね」 「はいっ、了解ですっ!」 「それにしても猶猶……お前当然のように うちの教室に現れるよな」 彼女は後輩。つまり別のクラスだ。学年が違うので、教室の階も違う。 にもかかわらず毎昼こうして俺達に会いにうちの教室を訪れている。今となっては彼女の来訪を疑問視するクラスメイトは誰もいない。 「えへへ……いいじゃないですか別に。 学年の違う教室に入っちゃいけないなんて 校則ありませんし♪」 「まあそうだけどさ……」 「それに、ゆっふぃん先輩達に会えるのは お昼休みと放課後だけですもん! 貴重な時間なんですから!」 「いや……毎日毎日、昼休みと放課後一緒にいたら もう十分だろ……」 「会おうと思えば寮でも会えるからね。 楽園欒って女子区画と男子区画あんま離れてないし」 「そもそも私、女子区画だよ、天美ちゃん」 「えっ!? そうだっけ!?」 御伽……そこまで女性扱いされているんだな……! 「猶猶は特に御伽に懐いてるよな……。 なんでだ? こう見えてこいつ男だぞ?」 「あー、乙女に向かって酷いんだー! そんな事言う那由太君なんか嫌いだぞー!」 女子に言われた気がしてちょっとショック。 でも惑わされるな俺……! こいつ男なんだ……! 「ゆっふぃん先輩優しくて面白いんですもん」 「面白い……? 私そんなに面白いかなぁ?」 「はい。女の子以上に女の子っぽいのに実は男の子な とことか、ものすっごく面白いですっ!」 「たりたりちゃん虐めてやる~~っ! ほっぺたびよ~~んっ!!」 「あわわわふにゅにゅにゅにゅ~~~っ!!」 やっぱり御伽は男性扱いされるのを嫌うんだな。 そして猶猶は性別が入り混じった御伽の不可思議さに惹かれているらしい。 「……って、そんな事より箱を探さないと」 会話中も教室内をぐるりと見回してみたが、黒い箱は見当たらなかった。 慣れ親しんだこの光景に、そんな奇妙な異物があったらすぐにでも目に留まるだろう。どうやらここには無いらしい。 「天美。別の場所を探そうか」 「うん、そうだね」 御伽と猶猶に別れを告げてから教室を出る事にした。 校舎を出て、校庭へとやって来た。 「一応毎日ここを通ってるわけだから…… 落し物する可能性は少なからずあるはずだけど……」 「さすがに校庭を隅々まで探すのは難しいよね……」 とはいえ、大部分は開けているわけだから、少し調べるだけで異物の有無は確かめられるだろう。 「校庭の真ん中には無いみたいだな……。 って事は……隅っこか」 桜の木の下や銀杏の木の下。ベンチのある木陰や体育倉庫付近。死角になるところはいくらでも考えられる。 「とりあえずあっちに行ってみよう」 校庭の敷地の外周を歩きながら、体育倉庫付近に辿り着いた。 「ん……? 体育倉庫の扉、開いてるな」 「さすがにそこには無いと思うけど……」 ……いや、どうだろうか。 校庭に落ちていたのを見つけた生徒が、何かの備品と間違えて倉庫に運んだかもしれない。 「……一応調べてみよう」 そう思って、体育倉庫の中を覗いてみると―― 「――んひっ!?」 「………………」 不良練習に励む霍を発見した。 「期招来…………と姫市……!?」 「霍ちゃんだ! こんなところで何してるの……? ――って、あータバコ!」 「ひううっ!?」 「いけないんだいけないんだー! 不良なんだぞそういうのー!」 「え、えっと……あたし不良だよ……?」 「ねえねえ、一口吸わせて♪」 「ひーん! ただの冗談じゃんかー!」 ジョークとはいえ、フーカがいたら大変な事になっていただろう一言だ。 「――ってお前も差し出すな!」 「ひぎゅうっ!」 「う、うう……だって欲しいって言うから……」 「素直に聞き入れるな! 純粋過ぎるぞ、少しは人を疑え! そもそもそれシガレットチョコだろ」 「ぽりぽり……あ、ホントだ。これチョコだ。おいしー♪」 結局貰ってるし。 「ぽりぽり」 結局こいつも食べ始めてるし。 「ぽりぽり」 これじゃあ不良練習じゃなくてただのおやつタイムじゃないか。人目を避けて体育倉庫に来てまでやる事か? 「……ったく。とにかく箱を探さないと……」 「――って志依!?」 「あら、皆さん。こんなところで奇遇ね」 「げげっ! 黒蝶沼志依……!」 「し、志依ちゃん……! なんで体育倉庫なんかに……」 「叶深さんあるところに黒蝶沼志依あり、よ。ぽりぽり」 「ってあー! あたしのタバコ食べてるー!」 い、いつの間に……! 「ラスイチだったのに……! うう……」 「……ふう、ごちそう様。落ち込まないで叶深さん。 今朝、マフィンを焼いてきたの。一緒に食べましょう」 「ふ、ふんだ! 敵の施しなんか受けないもんねっ!」 「あら残念。ところで二人はどうしてここに?」 「探し物してるの」 「探し物……それってもしかして黒い箱かしら?」 「し、知ってるのか!?」 「くふふっ……それは……どうかしら?」 「知ってるなら教えて、志依ちゃんっ」 「どこにあるかまではわからないけど…… 少なくともここには無いわよ」 「そ、そうなのか……?」 「ええ。他の場所を探してみる事ね」 うーむ。志依がそう言うならそうなのだろう。 「ってか志依、なんで俺達の探し物の事知ってるんだ?」 「あなたがさっき言ってたからよ」 「……あ」 そうか。そう言えば俺、“とにかく箱を探さないと”って呟いたんだった。 「なんだ……それを聞いただけか」 「からかってごめんなさい。でも……実際こんなところに 探し物があるとは思えないけど?」 「志依ちゃんの言う通りだね……行こっか、那由太君」 「ああ、他のところを回ろう。 それじゃあな、二人とも」 「ええ、探し物見つかるといいわね」 「はむはむ……んじゃね……もぐもぐ……」 マフィン食ってるし……! 「さて、別の場所に行くか……」 「………………」 「…………ん?」 あれ……? 俺が呟いたのって、“とにかく箱を探さないと”って言葉だったよな。 確か……その箱の色までは言及してなかったはず。 なのに志依は俺達の探し物が“黒い箱”だと知っていた。 あいつ……なんで箱が黒いってわかったんだ? 「……ん? どうしたの那由太君。早く行こうよー」 「あ、ああ……今行くよ」 黒蝶沼志依……相変わらず謎めいた女だ。 「……ん?」 廊下を歩いていると、珍しい組み合わせの二人に視線を奪われた。 「あ、期招来君と姫市さんだー」 「あ、筮ちゃんと晦ちゃんだー」 「二人で何してるんだ?」 「あたしは部活の昼練で体育館に。 晦は昼ご飯買いに行くんだって」 「それで、途中まで一緒に行ってるの」 なるほど。クラスメイトだし、目的地の方向が同じなら一緒に歩くのはおかしくないな。 晦はこの調子で何事にもあっけらかんとした性格だし、筮はおおざっぱで細かい事を考えない性格だ。 この二人、案外相性いいかもしれない。 「二人こそ何してんのさ、床ばっか眺めて」 「探し物してるの。どこかに黒い箱を落としちゃった みたいで……」 「黒い箱……? へー、姫市さんのー?」 「うん。そうなの。大切なものなんだけど……」 「そりゃ大変だ。廊下で落としたの?」 「ううん、気が付いたら無くなってて……。 どこで落としたのかもわからないんだ」 「だからこうして手当たり次第探してるってわけ」 と言いながら、視線を落としてキョロキョロと周囲を窺う。 「事情はわかったけど…… 傍から見たらおかしな光景だなぁ」 「そんなガン見しなくても、黒い箱なんてものが廊下に 落ちてたらすぐに気付くと思うよー」 それもそうだな。 「天美、手伝ってあげたいんだけど…… あたし部活の練習があるからさ」 「あ、うん、そうだよね。ありがとう。 その気持ちだけで嬉しいよ」 「晦も早く音楽室行かなきゃ。急げ急げー」 「合唱部も昼練してるのか?」 「ううん。皆で音楽室でダベってるだけー」 「なんだよ、じゃあ別に急ぐ必要ないじゃないか」 「そうでもないんだよ。だって晦がいないと まこちーとことちーの二人だけになっちゃうじゃん」 「……? それの何が問題なんだ?」 「え……だって…………ねえ?」 含みを持った言い方でわざとらしく誤魔化す晦。 「え……な、なんだよ」 「ふっふっふー。女の子にも色々あるんだよ。 まだまだだね、期招来君。もっと乙女心を 勉強したまえー」 「ぐっ……!」 こんな能天気ぽわぽわ少女になんだか負けた気がして、ちょっと悔しい。 というか、本気で意味がわからん。 まころと小鳥が二人っきりで音楽室で晦を待ってるとして、それの何が問題なんだ?二人だと寂しいとか、そういう事か? 「という事で、それじゃあねー」 「じゃね! 黒い箱、見かけたら教えるよ」 悩む俺を置いて、二人は行ってしまった。 仕方ない、俺達も移動するか―― 「――那由太君」 「ん?」 「乙女心を勉強したいなら、私が色々教えてあ・げ・る♪」 「……は?」 「……んもう。“は?”じゃないよぉ。告白っぽい言い方 したんだから、勘違いしてちょっとはドキッとしてよ。 ホント、乙女心わからんちんなんだから……」 「あ、おい天美、ちょっと待って――」 なぜか不機嫌になった天美を追って、俺は廊下を後にした―― 「……あぁ?」 階段でメガと出会った。 「何やってんだてめえらこんなとこでよ」 「ちょっと探し物をね」 面倒なので適当に返す。 「探し物ぉ? はっ……階段で何か落としたのか? 間抜けなヤツだぜ、ったく」 「階段かどうかわからないんだけど……。 黒い箱なんだ。飯槻君、知らない?」 「知るかよ。つーか知っててもてめえらに教えてやる 義理なんてねえし」 堂々とした非協力的な態度だ。こいつらしいと言えばこいつらしいが。 まあ初めから当てにできるようなヤツじゃないし、気にせずこの辺りを探してみるか―― 「あら……?」 「夜っ々っ萌っさんっ!!」 「皆して階段で何してるんですか?」 「探し物っす! 姫市のバカが黒い箱落としちまって…… 俺がこうして二人に指示出して探してるっす!」 「おいこら期招来! もっとそっち探せ! 隅だよ隅! そういうとこまできっちり見逃すなっつーの!」 「なんだよ急に……彬白先輩が来た途端 やる気になりやがって……」 「まあまあ。手伝ってくれるのは有難い事だし……ね?」 「おら姫市! 喋ってんじゃねえよ! 口よりも手動かせ!」 「へい、親分!」 彬白先輩の前でテキパキとしたところを見せたいのか、メガはむしろ手よりも口を動かして、司令官としての存在感を先輩にアピールしている。 「探し物ですかぁ……でしたら私もお手伝しちゃおう かしら。えっと……黒い箱でしたよね?」 「や、夜々萌さんはどうぞそこでお休みに なられててくださいっ……! おら期招来! 茶でも淹れて差し上げろ! あと椅子!」 無茶言うな。 「天美さんのものなのよね? でしたらデザインは 女の子っぽくって可愛らしい感じのものなのかしら?」 「いえ、普通の箱です。でも、見たらすぐにわかると 思うんですけど……」 簡素な形をした黒い箱か……。 確かにそんなものが校舎の中にあったらすぐに目に付くと思うんだけどな。 「うーん……無いねえ」 「……だな」 一通り探してみたが、やはり目的物は見つからなかった。 「残念ですけど、ここではなかったみたいですね」 「彬白先輩、せっかく手伝っていただいたのに…… なんかすみません……」 「ううん、そんな事無いですわ。気にしないでください」 「……おいお前ら。一列に並べ」 「……は?」 「いいからほら! 俺の横に並べって!」 突然のメガの指示に、俺と天美は意味も分からず従った。 「えー夜々萌さん。このたびはー、我々の探索活動に お付き合いいただいてー、まことにー、ありゃっしたー」 ぺこりとお辞儀をするメガ。 えっと……俺達も後に続いた方がいいのか? 「ありゃっしたー」 「あ、ありゃっした……」 「そ、そんな……いいですわっ、頭なんか下げて くださらなくてもっ! こちらこそ見つけて さしあげられなくてごめんなさいっ」 四人がお辞儀し続けているこの状況。なんだこれ。 「え、えっと……そういう事ですから、 私はそろそろ行きますね……」 「去りゆく夜々萌さんに、敬礼っ!」 メガの威勢のいいその命令に、俺と天美は思わず反射的に身体を動かしてしまう。 「うう……なんだか恥ずかしいですわぁ……!」 「夜々萌さん……今日も優しくて麗しかったぜ……!」 「――けっ。にしても無駄骨だったぜ。 なんでこの俺が探し物の手伝いなんか……!」 彬白先輩を見送った後、メガは俺達に目を合わせる事無く立ち去り出した。 「あ、飯槻君っ」 「ああっ!?」 「飯槻君も、手伝ってくれてありがとねっ!」 「……はあ?」 「去りゆく飯槻君に……敬礼っ! ずびしっ!」 天美司令の小気味の良い指示に俺も敬礼姿で応える。 「けっ! 夜々萌さんがいなかったらこんな面倒な事 してなかったっつーの……! アホか……」 「ありゃっしたー!」 メガのヤツ、なんか恥ずかしげな感じだったな。 あいつをあんな風にしてしまうくらい、天美の誠意は純粋だという事か。 「さ、それじゃあ行こうか」 「ああ」 別の場所を調査すべく先頭を歩く天美司令に俺は付き従って歩いた―― 「音楽室……か」 音楽室の前で天美の足が止まった。 「今日、音楽の授業でここに来たもんね……。 もしかしたらここにあるかも。入ってみよっか」 天美に同意して、音楽室の扉を開く―― 中では、小鳥が一人でピアノを弾いていた。 「期招来と……天美? あれ、フーカは?」 「フーカは今別行動中だよー」 「ふーん……天美がフーカと一緒にいないなんて なんだか珍しいわね」 「お前こそ一人でいるなんて珍しいじゃないか。 いつも合唱部でつるんでるだろ」 「みそは学食でご飯買ってくるってさ」 「まころは?」 「し、知らないわよっ……そのうち来るんじゃないの?」 なんとなく、違和感。 ちょっと意外だな。女子ってどんな時でも誰かと行動を共にするイメージがあったから、なおさら。 晦は別件があるからわかる。ただ、特に用事がない様子のまころとは、一緒に音楽室に来る事だって出来たはずだ。 「同じ部活の部員で、しかも仲の良いクラスメイト なんだから、二人で音楽室まで来ればいいのに」 「い、色々あるのよっ……! あんたにはわからないでしょーけど……」 「ふーん……」 「晦ちゃんがいないとね……」 「うるさいわよ天美っ」 天美には小鳥の言う“色々”がわかるらしい。 「で、何しに来たのよ。見ての通り今は私一人よ」 「黒い箱を見かけなかったか? もしかしたらこの部屋にあると思って」 「黒い箱? 何それ。フルートとかクラリネットとかの 楽器ケースの事?」 「ううん、そんな大きいモノじゃなくて……」 天美は小鳥に探し物の経緯や箱の詳細を説明した。 「うーん……そんな箱、音楽室には無いみたいだけど……」 「そうみたいだな……」 「別の場所で落としたみたいだね。ごめんね小鳥ちゃん。 ピアノの練習中にお邪魔しちゃって」 「いいわよ別に。気にしないで」 「ああ、そう言えばピアノ弾いてたな。 次の楽園祭で演奏するのか?」 「ら、楽園祭は…………」 ……ん? 小鳥の言葉が突然歯切れ悪くなった。 何かマズい事でも聞いてしまったのだろうか。 「……私達部員三人よ。ただでさえ歌声が足りないのに、 そのうち一人をピアノ伴奏に回してどうすんのよ」 「……確かに」 「……ほら、ここにはお目当てのものが見つから なかったんでしょ? 他探しなさいよ」 「そうだね……那由太君、行こっか」 「あ、ああ……そうしよう」 半ば小鳥に追い出される形で、俺達は音楽室を退室した。 「なあ、天美。ところでフーカはどこにいるんだ?」 フーカも俺達と同じく探し物を手伝っているらしいが、そもそもどこを探しているのだろうか。 「フーカなら屋上にいるよ」 屋上……。 そう言えば天美は放課後によく屋上に足を運ぶんだった。確かにそこで落し物をする可能性はあるだろう。 「フーカの様子を確認してみよっか。 もしかしたらもう箱見つけてるかもしれないし」 「そうだな。屋上に行ってみよう」 穏やかな陽射しと、少しだけ潮の香りの混じった風。 心地の良い青空の静けさに迎えられた先に待っていたのは―― 静止したままどこか遠くを眺めている、物憂げなフーカだった。 「……お嬢様」 俺達の存在に気付いたフーカは、止まった時間を再び始動させる。 「……なにしてるんだ、ボーっとして」 「いえ……別に」 少しだけ元気が無いように感じる。 校庭の喧騒が遠くに聞こえてしまうくらい、屋上の空間は妙に孤立していた。 「……箱、見つかった?」 「そうですね……屋上には無いように思います」 「そっか……もっと別の場所か……」 「天美、他を当たろう。フーカも一緒に来いよ」 「……いえ、ワタシはもう少しここを探してみます」 ……? ここに探し物は無いんじゃなかったのか? 探索が不十分だからもっと入念にここを探し直すって事か? 「…………………………」 にしては動かない。また彼女の時間は止まってしまった。 「この空の向こうに……ワタシの帰るべき場所が……」 「え…………」 今……なんて……。 「行こうか、那由太君」 「で、でも……フーカは……」 「屋上はフーカに任せよう?」 「いいのかよ……」 「お願いだから……ね?」 天美もどこか悲しげな顔だ。 どういう事だろう。天美はフーカをそっとしておきたいような様子だ。 「……わかったよ」 事情はわからない。 主とメイド。友人と友人。明るい少女と世話焼きな少女。 そんないつもの楽しい二人の関係とは異なる、独特の暗黙がそこに在る。 それが何か俺には知り得ないが……ここから立ち去るべきと天美が言うなら、その言葉に従おう。 「……………………」 「ワタシの……本当の主は――」 「そういえばさ――」 「ん? どったの?」 「黒い箱って具体的にどんなものなんだ?」 ふと、天美に質問した。 勢いで探し物に巻き込まれたわけだが、そもそも対象物を俺は詳しく聞いていない事に今さらながら気付いたのだ。 「どんなって言われても……ホントに、 ただの普通の箱だよ。これくらいの 大きさで……模様とかもあんまり無くて」 両手で箱の大きさを示す。ティッシュケースより一回り大きいくらいのサイズだろうか。 「結構大きいんだな」 もっと小さいものならまだしも……それくらいならすぐに視界に入るはずだ。 「どこで落としたか思い出せるか?」 「うーん……朝、部屋を出る時に見たのが最後だよ。 お昼になって、無くなってた事に気付いたんだ」 その間に消失したという事は、場合によっては寮の中や通学路という可能性もあるのか。 「そもそも、それくらいの大きさのものをいつも どこに忍ばせてるんだよ」 「カバンだよ? そんな重たくないし」 「いつも持ち歩いてるのか?」 「うん。大切なものだからね」 大切なもの―― 「…………なあ」 聞いていい事かわからなかったが、つい聞いてしまった。 いや、質問する事自体はそんなにおかしくはないはずだ。だって俺はこうして探し物を手伝っていて……少なくとも、質問する権利はあるはずだ。 だが、なぜだか聞いちゃいけないような気がして……。だからその質問には、勇気が必要だったんだ。 「ちょっと聞きたいんだが」 覚悟を決めて、問う―― 「その箱の中には何が入っているんだ――?」 どうしてこんな些細な質問のために、こんなにも緊迫感を過らせないといけないのか。 「………………」 天美は―― 「……そこ」 フッと手をかざし、その細い指を伸ばした。 「え……?」 「……誰かいる」 誰か……? 誰かってなんだよ。 ここはEDENだ。今は昼休みだ。廊下の端に誰かいてもおかしくはないだろう。 「………………」 天美の指が示す方向に視線を向ける。 廊下の果て。階段の折り返し場所。 「……知り合いでも見つけたのか?」 「……………………」 「…………?」 天美はしばらくの沈黙の後―― 「あ、おい天美……!」 何も言わず逆方向へと立ち去ってしまった 「……………………」 廊下の曲がり角。すぐそこが階段だ。 人がいてもおかしくないだろう。わざわざ指摘するほどの事でも無い。 箱の中身を問われて、苦し紛れに話題を変えようとしたのか? それとも……何か奇妙なものでも見えたのか……? 例えば、幽霊とか。 「………………」 曲がり角はすぐそこだ。 少しだけ早足で、天美が先ほど指差した地点に向かう。 天美が言った“誰か”……。 どこだ? 誰もいないみたいだけど……。 いや、一人いる。 階段の上の方に、一人―― 「――っ!」 反射的に、唾を飲み込んだ。 おかしくない。 別に人がいてもおかしくない。 誰かがこちらを向いたまま直立してても、決しておかしくはないんだ。 ならばどうして―― どうしてこんなに肌寒い――? 「……………………」 目が、合っている。 呑み込まれている。 廊下を曲がって、相手はちょうど階段の上にいて。 たまたま、向かい合ってしまっただけ。 それだけの事で、どうして俺は……。 俺は…………。 「…………っ」 ――いない。 その存在も、俺を縛っていた現象も、もういない。 なんなんだ……!? 今俺は……どこに行っていたんだ……!? 「――那由太君っ」 「――っ!?」 「どうしたのー? 早く行こうよー!」 「はあっ……はあっ……はあっ……!」 いつもの世界……いつもの天美……。 いつもの……俺だ………………。 「はぁ…………はぁ…………」 「……ああ、今行く」 天美の明るい声に導かれるように、俺は日常へと戻っていった―― 「あ…………」 昼休みの終了の時間を告げるチャイム音。 突発的に始まった俺達の共同作業は、終わりの時を迎えた。 「……残念だね」 「力になれなくて申し訳ない」 「そんな事無いよ! 私のために頑張ってくれて嬉しかった!」 「それに……一緒に色々回れて、楽しかったよ」 「……っ!」 「ありがとねっ、那由太君っ!」 「………………」 面と向かって嬉しかった、楽しかったと言われ、思わず赤面してしまった……。 天美も同じ気持ちなのだろうか。珍しく恥ずかしがっていた様子で小走りで教室へ向かっていった。 「“残念だね”……か」 探し物を結局見つける事が出来なかったから“残念”なのか―― それとも、俺との時間が終わってしまう事が“残念”なのか―― 「………………」 俺も天美と一緒で、“嬉しかった”し“楽しかった”よ。 「……さてと」 俺も教室に戻るか―― ただのクラスメイトだと思っていた。 元気で明るくて、誰にでも優しい子だと思っていた。 実際、そうなのだろう。 姫市天美―― 彼女の朗らかな引力に、俺は今、困惑している―― ――放課後。 授業を終え、帰り支度を終え。 帰宅するものは寮へ。部活があるものは部室へ。遊びに行くものは商店街へ。 それぞれがそれぞれの場所へと散っていく。 俺は―― 「……もう少し探してみるか」 特にこの後予定はない。急いで帰る必要は無い。 天美の探し物―― 天美にいい格好をしたいわけではない。恩を売っておきたいわけではない。 単純に、気になるのだ。 天美の言う“宝物”……それが何なのか俺は知らない。 しかし、そんな宝物が入った箱ならば、さしずめその黒い箱は“宝箱”ではないか。 見てみたい。そんなものが、この日常の世界でどのような特異な悦びを放っているのか。 天美とフーカはもう帰宅したようだ。 結局箱は見つからずじまい。 天美はフーカと一緒に寮内を探すと言っていた。その表情は、半ば発見を諦めているかのようだった。 見つかるといいな、と思う。昼休みに一緒に探索した仲だ。そりゃあ見つかってくれればと思うさ。 出来る事なら見つけてやりたい。それで彼女が喜んでくれるのならそれが一番だ。 しかし、目的の箱がどこにあるかなんて見当もつかない。 それらしい場所は昼休みに大体回っていて……。 「…………いや」 一か所―― まだ、気になるところがある。 ちょうどいい。そこに行ってみよう。 屋上にやって来た。 ここは天美が自分の一日の思い出を綴る場所でもあり。 今日の昼、フーカが追想に耽っていた場所でもある。 二人に深く関与している箇所。二人の世界の中心に思える地点。 「誰も……いないな……」 ここはすでにフーカが探索したはず。 しかし、なぜか俺の脚はここに導かれてしまった。 説明できない感情が、ここに俺を引き寄せたのだ。 「………………」 案の定―― ――宝箱はそこにあった。 「本当に……黒い箱だ」 何かの暗喩ではなく、言葉通り、ただの黒い箱。 全ての光を吸収しそうなくらいの黒に見えるのに、それでいて夕日を控え目に反射して上品な光沢を纏っている。 こんなもの、見落とすわけがない。 「………………」 俺も天美も屋上は探さなかった。当たり前だ。ここはフーカに任せたのだから。 フーカは……これを見つけられなかったのだろうか。こんなにもあからさまに、屋上の中心に点在しているこの異様な宝箱を。 「……どうするか、これ」 フーカがなぜこの箱を見落としたのかはさて置き。 さすがにこのままここに放置しておくわけにはいかない。いずれ誰かが見つけて勝手に持ち出される可能性もある。 なによりこれが天美の探している箱なのであれば、きっちりと彼女にこれを渡してあげないと。 「………………」 俺はゆっくりとその箱を持ち上げて―― 「……意外と軽いな」 ――寮に持ち帰る事にした。 「うーむ……」 黒い箱をじっくりと眺める。 「見れば見るほど……なんというか……まあ……」 見ていると吸い込まれそうになる一方で、その漆黒は見る者を拒むような排他を醸し出している。 綺麗でもあり不気味でもある。現実離れした印象だ。黒という色が、ここまで人間の心を揺さぶる色だったとは。 「中身……気になるな……」 これ、開くんだろうか。 鍵穴とかは特に見当たらないけど……。このままぐっと蓋に力を入れれば、カポッと開きそうなんだよな。 これがもし天美の探している箱なのだとしたら、中に入っているのは……彼女の宝物。 「……………………」 開けてみてもいいだろうか。 中を弄ったりせず、確認した後すぐに閉じたら。絶対に中を確認した事は天美にはばれないはず。 中身の事を口にしなければ、開けていないのとほぼ同然だ。だったら……。 「………………」 「………………」 「…………」 …………やめておこう。 勝手に人のものを覗き見るのは失礼だ。それがその人にとっての宝物ならなおさら。 今日はもう遅い。今から天美を呼び出すのも悪いし、そもそも女子区画に侵入するのは難しいだろう。 明日……改めて渡そう。 「……………………」 …………やっぱ……ちょっとだけ……。 チラッとだけなら……。 「いやいやいや、ダメだ。やめろ俺!」 悪魔の囁きを振り払うべく枕に顔を埋めながら、必死で睡魔を引き寄せたのだった―― ――翌朝。 「…………むう」 起きた。 「箱は――」 寝起きでありながら、どうしてもあの箱が気になってしまう。 寝る前に机に置いておいた黒い箱。きちんとあるだろうか。 「………………」 ――ある。 どこに置いても異物感しか生まない真っ黒な立方体。寝惚け眼でもしっかりとその存在を捉える事が出来る。 昨夜置いた場所から微塵も動かずに、その箱はどっしりとその身を構えていた。 「……って、当たり前だよな」 夜中に誰かがこっそり忍び込んで盗んだりするわけないし。部屋の扉は施錠しているが、そんな事それ以前の問題だ。 「さて……」 身支度を整えて、その箱を持ち上げる。 「……相変わらず軽いよな」 本当に……なにが入っているのだろうか。 「………………」 「…………」 「……」 いやいや、ダメだダメだ。見てるとどんどん開けたくなってきてしまう。 さっさと登校してさっさと天美にこれを返そう。 通学路を歩きながら、周囲をちらちらと確認する。 天美の姿は見当たらない。まだ出発していないのだろうか。 もしかしたら早めに出て、朝から箱探しに勤しんでいるかもしれない。 だったら早く渡してやらないとな。 教室に向かう足が、自然と早足になった。 扉を開くと―― 天美はそこにいた。 しかし、俺の予想とは違い探し物をしている様子はなく、ジッと静かに空を見つめている。 空というか……さらにその向こう側を睨んでいる感じだ。 「……天美、おはよう」 「あ、那由太君。今日も早いねぇ」 凍結は解け、いつもの天真爛漫な表情で迎えてくれた。 「フーカは?」 「ん。いないよ。今日は私一人で登校したの」 なんとなく、理由を聞けなかった。それよりも大事な話が喉のすぐそこまで迫っていたからだろうか。 「昨日言ってた箱なんだけど……」 カバンから、例の箱を取り出した。 「もしかして、これじゃないか?」 「あ……!!」 天美の目と口がみるみると大きくなっていくその様が、この箱が天美のものである事の何よりの答えとなった。 「昨日の放課後、屋上で見つけたんだ」 「ありがとうっ! これだよこれっ! よかったぁ……もう見つからないって思ってたよ!」 「そっか。よかったな」 「うんっ! ありがとう那由太君っ!」 その一言で、全てが報われた。 「どういたしまして」 喜んでもらえて良かったよ。 「一晩預かってくれてたんだね」 「夜中に返しに行くのも悪いと思って……」 「あはは……そうだよね。 あ、でも……それじゃあ――」 「――中身……見た?」 瞬間的に、背筋が凍った。 「い、いや……見てないけど……」 「……ホント?」 なんだろう。 俺は後ろめたい事は何もしていないはずなのに。 どうしてこんなにも追い詰められているんだろう。 「見てないって……ホントに……」 「……そっか。ならいいんだっ」 「……………………」 緊張の糸がゆっくりと緩んだ。 「……そんな、人には見られたくないものが 入ってるのか?」 「……うーん……別にそういうわけじゃないけど、ね」 自分の手に戻った箱をコロコロと両手で捏ね繰り回しながら、天美は少し歯切れ悪く答えた。 「……なあ、天美。昨日もちょっと聞いたけどさ」 「……それ、何が入ってんの?」 「………………」 時間が止まらないように、無理して言葉を紡ぐ。 「いや、言いたくないならいいんだけど…… 宝物って言うから、どんなもんかと……」 「その……別に、どうしても知りたいってわけでもないし、 隠し事なら俺は全然……」 「――食べ残し」 「え……」 「前に皆でね、お食事会した事があって……」 何を、急に……。 「その時はさすがに全部食べ切れなかったんだ。 でも捨てるのは勿体無いって話になって、それで……」 「あ、食べたのは私じゃなくてフーカなんだけど。 ……んー、でもこの場合、私が食べたって方が 合ってるのかな。難しいよね、こういうのって」 「天……美……?」 「とにかく、これはフーカとの…… 皆との思い出の品なんだ」 「………………」 「見つけてくれて、ありがとねっ、那由太君!」 天美はそのままその箱を自分の通学カバンにしまった。 「……中身、確認しなくていいのか?」 「ん?」 「いや、中に大事なものが入ってるんだろ? さっきから一回も開けてないじゃないか。 中身が無事が、自分の目で見てみなくて平気なのか?」 「うん。平気だよ」 まったく、疑いようがないくらいに。天美は平然とそう答えた。 「どうして……」 「那由太君の事、信用してるから」 それは―― 答えになっているのか――? 俺が箱を開けていないとして。中身を弄っていないとして。 俺が放課後その箱を発見するまでに、別の誰かが箱を開けたり、中身を弄ったりしているかもしれないじゃないか。 俺に対する信用どうこうの話ではない。 なのになぜ天美は……俺を信用している、と答える――? “だから絶対に大丈夫”と言わんばかりに自信満々でそう答える――? 「………………」 「…………そっか」 ――理解を示そう。 深く追求する事じゃない。 中身の正体も。中身の無事も。 天美の不可思議も。フーカの怪しさも。 全部俺には関係の無い事だ。首を突っ込む必要の無い事だ。 静かに目を瞑ればいい。 探し物は無事見つかり、天美から満面の笑顔で感謝の言葉をもらった。これで良かったじゃないか。 箱探しの一件は、万事解決だ―― 放課後になった。 今日はこれから商店街に向かう予定だ。ノートを新調しないといけない。 ついでに本屋に行って参考書も漁ってみるか。漫画の新刊とかもチェックしたいし。 「あ……」 「お」 天美だ。 偶然下駄箱で一緒になった。彼女も帰宅するところなのだろうか。 「那由太君……今帰り?」 「あ、ああ……まあ。寄るところあるけど」 少しだけ気恥ずかしいのはどうしてだろう。 今までは普通に喋れていた。目を見て笑い合えていた。 でも、箱探しの一件で親密になってから……天美の事を強く意識してしまうようになって……。 天美も少しソワソワしているように見える。俺と同じ気持ちなのだろうか。 ……俺と同じ気持ちだといいな。 「えっと……フーカは……?」 「私だって一人になりたい時くらいあるよ」 「そ、そっか……まあそうだよな」 今朝といい、いつも一緒ってわけでもないのか。 常に二人で行動しているイメージがあった。もしかしたらこれまでちょくちょく個別に帰ったりしていたのかもしれない。 そう考えると……俺は今まで、天美をしっかり注視していたわけじゃないんだな。 「フーカは私の専属メイドだけど…… たまには私のお守から解放してあげないと」 「そうだよな。うん、いい事だと思う」 「……嘘だけどね」 「え……?」 今……なんて……? 「――寄るところって?」 「え……」 「さっき言ってたじゃん。これからどこか寄るんでしょ?」 「あ、ああ……。そうなんだ。ちょっと商店街に 行こうかなって思ってて……」 「そうなんだっ! ちょうどよかったかもっ!」 「ちょうどよかったって……なにが?」 「私も一緒に行ってもいい?」 「…………っ」 心臓が、トクンと跳ねた。 喜びと緊張が、一気に押し寄せてきたイメージ。 「一緒に……って……」 「……邪魔、かな……?」 「そ、そんな事ないっ!」 慌てて発したその声は、本当に無防備で子供じみた情けない声色で―― 「そんな事……ないよ」 自分がいかに困惑しているのかを、あからさまに相手に伝えている返答だった。 「じゃあ……一緒に……行きたい……」 「私、那由太君と一緒にデートしたいよ」 もう一度、心臓が跳ねた。 喜びと、緊張と、困惑と、焦燥と。 それらを上回る強烈なワクワクが、俺を瞬時に苛んだ。 「――ああ、一緒に行こう」 こうして俺と天美は、二人っきりで放課後を街で過ごす事になった―― 「わあ……ほら那由太君、あっちに面白そうなものが 売ってるよー!」 そう言っておもちゃ屋の入り口に駆け寄る天美。 ノートや参考書を買い終え、俺と天美はぶらぶらと商店街を散歩していた。 ただ歩いているだけなのに、天美はもうテンションマックスといった感じだ。 「んー……やっぱりこの時間は相変わらず賑わってるねぇ」 「ほらほら、あっちにも変なのが……って、那由太君? どうかした?」 「……あのさ、今更なんだけど」 「ん……?」 「天美をここに連れて来てよかったのかな?」 「え? どういう事?」 「だって天美、こういう場所に来ちゃいけないんだろ?」 三人で登校した時のフーカの言葉を思い出す。 主が不健全な交遊に溺れないように、無用な外出を制限しているという話だ。 それは俺にしてみれば少し不自由過ぎるように感じたが、メイドとして主の成長を手助けするために必要な事なのかもしれない。 だから……俺は天美をその束縛から救うつもりは無いし、フーカの責務を援護するつもりはない。 「こうやって放課後一緒に街で歩いてるのって…… フーカのやってる事に反してる気がするんだ」 「ああ……んー……まあ、そうだねぇ」 「そ、そうだねぇって……」 随分呑気な答えだな。 「いいの。だって一緒に遊びたかったんだもん」 「天美……」 「私だって年頃の女の子なんだよ? 誰かと一緒に街に遊びに出かけたいよ。 EDENと寮の往復だけなんて物足りない」 「それはそうだろうけど……こんな事して、 フーカに怒られるんじゃないか?」 「籠の中の鳥さんみたいな生き方を強要してくる メイドなんかには従わないもんねーだ!」 「おいおい……」 「それにね……? この前はああやって話を合わせたけど……」 「街に来るの、これが初めてってわけじゃないんだよ? 実はこうやってたびたび遊びに来てるんだ。 フーカの目を盗んで」 「え、そうなのか!?」 「うん。だって、遊びの無い人生なんてつまんないよ。 そんな人生を私が送ったところで、フーカだって 嬉しくないに決まってる」 そうか……だから天美はさっき、この街の様子を“相変わらず”と称したのか。何度か足を運んだ事がないと言えない言葉だ。 「若いうちにたくさん遊んどかなきゃ! いっぱい遊んで、こっそり夜中に寮に戻るの」 「大丈夫なのかよ……バレたりしないのか?」 「いつも部屋の前でフーカが腕組んで待ってるんだよ」 「バレてんじゃん!」 「ほっぺた膨らましてね、またやりましたねーって」 「怒られるのか」 「めっちゃ怒られるー」 にこやかにいう事か。 「それじゃあ……今日も?」 「うん。多分ね」 「おいおい、だったらやっぱ今すぐ帰った方が――」 「大丈夫大丈夫。気にしないで。 那由太君の名前は出さないから。 一人で遊びに出かけたって事にしておくからね」 「いや、そういう問題じゃなくて……」 「――あ……むしろ那由太君と一緒だったって 言った方がいいのかも。 そしたらフーカも安心してくれるかな」 「え……」 「フーカ、那由太君の事信用してるし」 「そう……なのか?」 「うん。それに……私もそうだよ。 今朝言ったよね? 信用してるって」 「ああ……言われた」 「フーカと私が信頼してる人と一緒なんだから きっとそんなに怒られないよ」 そういうものなのだろうか。 でも……二人からそういう風に思ってもらえているのは、とても嬉しいな。 「ねえねえ! あのね、私行きたいところがあるんだ!」 「ん?」 「――あそこ! ズビシィッ!」 突然威勢よく天美が指差した場所は―― 「いっただっきまーすっ♪ あむっ!」 ハンバーガーを元気に頬張る天美。その表情はまさにご満悦って感じだ。 「もぐもぐっ、んぐ……新しいメニューが出るとね、 んぐんぐ、つい食べてみたくなるんだよー、もぐもぐ」 「いつもこっそり遊ぶのはぁ……んぐんぐ、大体ここっ! 一人でも入りやすいし……もぐっもぐっ、なによりも ハンバーガー美味しいんだ! ぱくぱく」 食べながら喋ってしまうくらい、興奮しているのだろう。咀嚼音混じりに漏れるその明るい声がなんだか可愛らしい。 「天美がファストフードとはなぁ……意外だ」 「――ごっくんっ! そうかなぁ? 私がハンバーガー食べてるの変?」 「変じゃないけど……なんかあんまり ジャンクフードは食べなそうなイメージ」 「なんで?」 「だって天美ってお嬢様なんだろ?」 「へ? お嬢様? 私が?」 「ああ……違うのか?」 「ええっ!? 全然違うよーっ! 普通の女の子だよ私!」 「いや、普通の女の子には専属メイドなんていないって」 「フーカは……まあ、たまたまで……」 たまたま……? 「実家の使用人で同い年の女の子がいて……。 それで二人一緒に教育の一環でEDENに入学したの」 「私は寮暮らしをする事で生活スキルを身につけるため。 フーカは私に付きっ切りになる事でメイドのスキルを 身につけるため」 「実家に使用人がいる時点で十分お嬢様だよ」 「そんなつもりは無いってば……」 頬に付いたケチャップを拭き取りながら、天美は控え目に言葉を続けた。 「仮にそうだとしても、今の私は普通の一生徒。 別に両親のお金を自由に使えるわけでもないし…… フーカに身の回りのこと全部任せてるわけでもないよ」 「確かにメイドとしてフーカはよくやってくれてるけど。 二人っきりの時は立場関係なく普通に喋ったりするし、 お互いのだらしないところも知ってる」 「本当に……普通の女の子なんだよ? 私も……フーカも」 そうなのか……。 なんだか意外だ。フーカが天美にフレンドリーに接する場面は何度か見てきたが……それでもメイドとしての立場を崩す事は無かった。 二人が……立場関係なくお喋り……ねえ。なんだか微笑ましいな。 「私とフーカは主とメイドである前に、ただの友達で…… 年頃の、普通の女の子なの」 「――那由太君には……私の事、 普通の女の子として見て欲しい」 「え……」 また……跳ねた……心臓―― 「――あぐあぐもぐもぐばくばくばくっ!!」 「――ごくんっ! ぷふぅ……ごっそーさまーっ!」 照れ隠しなのか、天美は勢いよく残りのハンバーガーを胃袋に詰め込んだのだった。 ――那由太君には……私の事、普通の女の子として見て欲しい。 天美が呟いた、その一言。 それはきっと、大切な言葉。 彼女を深く想うために、俺がしっかりと胸に刻むべき言葉―― 普通の女の子として……か。 とっても素敵なお願いだ。 やっぱり天美は素敵だ、と思う。 そんな素敵な天美が、俺は―― 「――ねえ、もしよかったら……なんだけどさ」 「……もう少しお話しよう?」 夜風に髪をなびかせながら、天美は優しく俺に問うた。 「え……でもこれ以上はさすがにフーカに怒られるだろ」 「私が一人遊びして寮に戻るのはいつももう少し後なの。 だから、その時間に合わせてフーカは私の部屋の前に 居座るんだよ」 「フーカはこの時間に私が帰るって思ってない だろうから……まだ私の部屋の前にはいないはず」 「いや、でもこれからどっかに行ったら結局……」 「私の部屋においでよ」 「……!」 「寮の裏口からなら女子区画にすぐ入れるよ。 誰にもバレずに部屋に来れるんだ」 「で、でもっ……!」 天美の部屋になんて……さすがに……! 「嫌……?」 上目遣いで仕向けられたその瞳は―― まるであの“宝箱の黒”のように、人を引き付け、吸い寄せる―― 「……ふふっ、決まりだねっ!」 「それじゃあ早く行こうっ! 那由太君に話したい事 あるんだ! ほら、こっちこっち!」 「話したい事って……おい天美、走るなって!」 俺の手を引いて駆け出す天美を追いながら、俺は心臓にどんどんと熱が灯っていくのを感じた―― 「ここが……天美の部屋……」 天美に連れられ、ついに入ってしまった。 楽園欒に入寮して、誰かの個室に入ったのはこれが初めてだ。 広さや間取りなどはほとんど変わらないんだな。当たり前だが。 しかし自分の部屋とは大違いだ。 ぬいぐるみや小物など、女の子らしいもので溢れている。 天美が年頃の女の子である事を痛感する。 「普通の女の子……か……」 「おまたせー」 天美が戻ってきた。 「フーカは?」 「怒ってたー」 テヘっと舌を出す仕草が可愛い。この空間でそれをされると酔いが回ってしまう。 「さて……あ、そんなかしこまらなくてもいいよ。 適当にくつろいでてよ」 「くつろげって言われても……」 こんな時間に女の子の部屋で二人っきり。否が応でも意識してしまう。 天美は何とも思っていないのだろうか。あんなに気軽に誘って……俺の事を異性として意識してくれていないのだろうか。 「話したい事があるって……私、言ったよね?」 「ああ」 「えっと……少し言い辛いお話なんだけど……」 少しだけ、声のトーンが落ち着いた。 思わず呼吸を止めて、天美の視線を追ってしまう。 「私……一個、嘘吐いた。それを謝りたくて」 「嘘……?」 「うん……。悪い……嘘」 気のせいだろうか。 天美の頬が少しだけ赤いように見える。 「今日の放課後……下駄箱で那由太君と会ったでしょ?」 「ああ」 その時の会話の成り行きで、一緒に商店街に行く事になったんだ。 「たまたま会ったように見せかけてたけど……違うの。 下駄箱に行く那由太君を追っかけてたんだ」 「え……どうして……」 「嘘って言うのは……その時言った言葉」 「“私だって一人になりたい時くらいある”……。 あれ……嘘」 「一人は嫌だよ」 「あなたと一緒がいい」 「………………」 「それが……今夜、私があなたに話したい事……」 その一言を言い終ると、天美はふう、と小さく一息ついた。 その息遣いの、なんと美しい事か。 「そっ…………か……」 下駄箱で俺が商店街に寄ると伝えた時、天美は“ちょうどよかった”と言っていた。 フーカと一緒じゃないのかと尋ねた時、天美は“たまには自分のお守から解放してあげないと”と言っていた。 そうか……嘘、か……。 初めから天美は、今日の放課後俺と二人っきりでデートするつもりだったんだ。 フーカには悪いが、俺にとっては優しくて甘い嘘だ。 「私……困らせちゃってる……?」 「………………」 こんな時に彼女に不安そうな表情をさせてしまって。 天美も……フーカも……俺を信用していると言ってくれている。その気持ちに応えたい。 男として、天美の誠意を受け止めたい。 「――ん、んんっ!? ちゅっ……!?」 その瞬間、二人から音が消失した。 「んっ……ちゅ…………ちゅぷ、ちゅ…………ちゅっ」 残されたのは、甘い香りと柔らかなまどろみ。 唇が触れ合うこの音は、ここでは物音に分類されない。 もっと高尚な何か―― 「ちゅ……ぷちゅ…………ん、んっ…………ちゅぷっ……」 「――ぷはぁっ…………! はぁ…………はぁ…………んっ、はふぅ…………。 那由太君…………もしかしてイケメン……?」 「男らしく応えたつもりなんだけど……」 もう天美の顔に、不安の色は無い。 その代わり、美麗な紅色が頬を彩っていた。 「初めて……だったんですけど」 「……謝ろうか?」 「もうっ……これ以上私を火照らせて どうするつもりよぅ……!」 照明を反射させて輝くその瞳が、だんだんと蕩けていく。 輝きが眩くなるほど、頬の赤みも増していき―― 「嫌だったら言ってくれ」 「ドキドキが止まらないの」 「謝って欲しければ、いくらでも謝るよ」 「身体が熱くって……自分が自分じゃないみたい」 「いっぱい火照らせちゃって、すまない」 「もう我慢出来ないよ……!」 「愛してる。天美――」 「抱いてください――」 俺達はそのまま、たった一つへと融解した―― 「ふっ…………あっ…………」 下着姿になった天美は、少し押しただけでポテンとベッドに倒れ込んだ。 「どうしよう……! これ、想像以上に恥ずかしい……!」 「俺も」 「もっと可愛い下着にしておけばよかった……! うう……私、バカぁ……」 「いや、十分可愛いって……」 そう。可愛いんだ。 天美は可愛い。 明るくて優しくて、善意の塊のような存在。 彼女が笑うと辺りに花が咲き、俺の心に熱が灯る。 人を、周囲を、そうさせてしまうくらいの可愛さなんだ。 「初めてなの……私。こういう事……全部」 「ああ」 「那由太君……キスも、エッチも……私の初めて、 全部あなたが奪うの……?」 「そのつもりだよ」 「ん……は…………ぁぁん…………。 うん……全部あなたに捧げる……」 「あなたに全部捧げるために……私は純潔を 守ってきたのかもしれないな……」 潤んだ瞳と震えた声が、俺を芯からくすぐる。 全身が喜びを謳う。その歓喜を性熱にかえて、彼女の芯に送り返したい。 優しいセックスが、出来そうな気がした。 「あ、あのね……身体、触って欲しい……かも」 「見続けられてると……物凄く恥ずかしくって……。 なんかしよう……? ね……?」 「……わかったよ」 ゆっくりと、天美の身体に指先を伸ばす―― 「んっ……はっ、あぁっ…………んっ」 ブラジャーの上から、天美の乳房に触れてみた。 僅かに触れただけなのに、天美はピクンと初々しい反応を見せてくれる。 「ひゃぁっ…………あっ、ん…………はふっ、んっ……! こ、これはこれで……恥ずかしい、ね……」 「でも……やっぱり、嬉しい……よ…………。 好きな人に……触れてもらえると……嬉しい……」 「俺も……天美に触れられて、嬉しいよ」 「うん……んっ、はふっ、あっ、んっ……!」 先ほどよりも少しだけ大胆に、天美の身体をまさぐった。 「はぁっ、んっ、ひゃふっ、やっ……んっ、くふうっ! ぱ、パンツ……触られてる……んっ、あそこ……ひっ、 んっ……あっ、ひぃんっ……!」 「パンツの上から……エッチなとこ……指で……ひっ! あっ、そこぉ……あっ、んっ、ひあっ……あぁぁんっ!」 下着の布一枚越しに、天美の熱を感じ取る。 俺と同じくらい天美も性熱を帯びてきているようで、とても嬉しい。 「天美……これ以上は、下着が……」 「う、うん……そうだね……汚れちゃう……。 ――って、私そんなに濡れてきてる……!?」 「ああ……かなり」 「ひ、ひぃぃん……恥ずかしいって……! もう……バカぁ……」 照れ隠しすら愛おしい。 「腰、少し浮かせて」 「ん……」 白い肌が、目の前に拡がった。 「うわ…………恥ずかし過ぎるって……。 全部見えちゃってるじゃん……!」 「全部綺麗なんだな」 「そんなじろじろ見ちゃやだぁぁ……! おっぱいも……あそこも……や……ひぃんっ」 もじもじと悶えながら、俺の腕を引っ張った。愛撫でその羞恥を紛れさせたいのだろう。 「あっ、はっ…………あっ、ああぁんっ!」 「指……直に当たると……こんな……身体、ひあっ、 震えちゃうんだ……! くひいっ……!」 「下着越しに触るより……熱く感じるな」 「くぅん、乳首、そこ……や……らめ……ひぃんっ! あんまり……コリコリ、しちゃ……らめなのぉっ! あっ、ふあぁっ……!」 彼女の体温と、彼女の感触を、しっかりと指に刻む。 温かく、柔らかい。目の前の少女がとても芸術的であると知った。 「きゃっふ……ふっ、んっ……あっふぅ…………! ねえ、那由太君……そんな……触られると……んっ、 私……切ない……あそこが切ないよぉ……!」 「那由太君の指が……手が、すごく気持ちいいの……! 頭、くらくらしちゃう……変に……なるぅ……!」 涙目で、乞う。 「もっと……変にさせてぇ……!」 瞬間、全身の細胞が芯の一点で発火した。 「私……もっと変になりたいよ……。 気持ち良くしてほしい……那由太君を感じたい……!」 「好きな人と一緒になりたい……優しくしてほしい……! あったかくしてほしい……女にしてほしい……!」 覚悟は出来てるみたいだ。 しっかりと、彼女を抱きしめよう。 「あ、あのね……その前に……電気、消したい」 「なんで?」 「だって私、してる時絶対変な顔しちゃう……。 だから……暗くして」 「ダメ」 「ええ……意地悪言わないでよぉ……!」 「意地悪じゃないさ」 電灯のスイッチはドアの傍にある。 電気を消すにはそこまで行かなくちゃいけない。 「今、天美から離れたくない……!」 「んっ……」 それが、挿入の引き金となる―― 「ぐっ…………くううううっ…………っっ!!」 侵入する異物を拒む、強烈な抵抗感と圧迫感。 そしてうっすらと滴る赤い筋。 全て、天美が処女である証だ。 「はぐっ、んっ……ぁっ……ふっ、はぁっ……!! んっ、くぅ……はっ、はっ……はあぁっ……!!」 「天美……力、抜いて……!」 「そうしてる……つもり……はぐっ、うっ……ぐうっ!」 押し返してくる膣肉の波に逆らいながら、俺は腰を進めていく。 「はっ、はっ……ぐうぅぅぅぅ…………くひいんっ!?」 「ごめん、痛かったかっ!?」 「だ、大丈夫…………んっ、大丈夫、だよっ……!」 「はぁっ……はぁっ……へ、平気、だから……んっ、 もっと……奥に……来てぇ…………はふっ、ぐぅっ」 歯を食いしばり、脂汗を浮かべて。天美は無理して笑顔を向けてくれた。 未だ破瓜の出血は止まらない。痛いに決まってる。 それなのに……天美は……。 「無理するな……少し休憩しようか?」 「やだっ……セックス、するぅ……!」 「でも……!」 「セックスするのぉっ!」 子供が駄々をこねるように、天美は俺の腕を掴んで訴えた。 「無理してないよ……。んっ、くぅ……い、痛いけど、 でも……それ以上に……那由太君をもっと深くで 感じたいのっ……!」 「こんな中途半端のままの方が辛いよ……。 きちんと……一番奥で……繋がりたい……。 焦らさないで……? 痛いの平気だから……」 「天美……」 彼女のおねだりは、本当に俺を狂わせる。 「俺だって……天美と、一番深いところで繋がりたい」 「うん……。だったら……来て……。 私の痛みとか、気にしないで……。 私の願い叶えてよ……」 身体の損傷よりも、愛情の欲望を気にかけて欲しい、と。 「……わかった」 出来る限り膣に負担をかけないようにしながら……。 「ひゃっ……ぐっ、ひぐぅぅんっ……!」 お互いが望んでいる清らかな接続を目指して……。 「んっ、あっ……ぐっはぐぅ…………あっ、んっぎぃ……! あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ…………!」 「んっ、ひゃふうううぅうう~~~~~~っっ…………! あっ、くっひいっ、くっふううぅう~~~~っ……!!」 俺と天美は、最奥で芯と芯を絡め合った。 「はあっ……はあっ……んっ、はあっ……ぐぅ、 んっ、はあっ……はあっ……!」 「はぁっ……はぁっ……天美……全部、入ったよ……」 「うん……あそこの中……すっごく重たい……! なんか……ずっしりしてる……」 「これ、那由太君と繋がってるって事なんだよね……。 身体も……心も……」 そう。その異物感が身体の繋がりの証。その体温が心の繋がりの証。 「ねえ……それ……動かして、みて……っっ」 「大丈夫なのかよっ……」 「うん……。平気だよ……。 余計な事、気にしちゃダメだってば」 「それよりも……お互いの心が望んでる事、しよう……? “優しい”って、きっとそういう事だよ」 「そう……かもな」 俺は天美に優しくしてあげたい。初めてなんだからなおさらだ。 だから……お互い求め合おう。 痛みを忘れて。欲望に身を委ねて。 「はぁっ! んっ、んっ! あっ! んっ! くっ……はふっ、あっ、ああんっ!?」 「那由太君のが……出たり……んっ、ふっひっ……!? 入ったり……んっ、してるぅっ、くううっ……!! 私の中を……太いのが、んっ、はっ、くひゃんっ!!」 「はあっ、はあっ、はあっ!」 腰の動きに合わせて、目の前の天美の身体がブルンブルンと大胆に震える。 その様が理性を奪う。無我夢中にさせる。 「きゃっひっ、は、激しいっ……んっ、はっ、はくぅ! 激しいよっ、あそこ、すごいのっ、んっ、はあんっ!」 揺れる乳房が、震える四肢が、響き渡る嬌声が。俺の腰遣いをさらに促すのだ。 「んっはぁんっ、奥に当たってるよぉっ! あっ、くは! 硬いの来てるっ、奥に……はぁっ、すごっ……ひっ!! 嘘、でしょ……ひぃっ!」 「そこっ……お腹だよぉっ……!? セックスってっ、 んっ、ひゃふっ、こんなとこまで……届くのぉっ!? あふっ、んっ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ――」 子宮口をノックすると、そのリズムに合わせて天美の喘ぎが小刻みなものへと変化した。 どうやらそこが好ましいらしい。腰を捻じ入れて、執拗にそこを責め立てる。 「ひゃっ、あっ、あっ、あっ、そこっ、あっ、らめっ、 んっ、あっ、あっ……! そこ、そこ感じちゃうからっ、 らめらよっ、ひっ、あっ、ひっ、ひぃっ……!!」 「那由太君っ、私そこ気持ちいいのぉっ、あっ、あっ! 私の弱いとこっ、んっ、熱いので、硬いのでガシガシ しないでへえっ、あっ、あっ、あっ……あっ、ああっ!」 言葉では嫌がっているが、天美はこの抽送を望んでいる。 亀頭が最奥にぶつかるように、自ら腰を動かしているのが何よりの証拠だ。 「はあっ、はあっ……天美、いっぱい感じてくれっ……!」 「んっ、くぅっ、感じる余裕なんてないよっ……! 頭っ、んっ、おかしくなっちゃうっ……!」 「あそこ、熱過ぎるのぉっ! ひゃふっ、ひいっ!! 熱くて……んっ、もう……なにがなんだか、あっ! 自分でもよく、んっ、わからなくって……はぁぁんっ!」 天美の言う通り、膣は異様な熱さに満ちている。 俺の性器が熱いのか、天美の性器が熱いのか。それとも、二人とも熱を纏い過ぎているのか。 いずれにせよ、この夥しい性熱は俺達の行為が残り時間あとわずかである事を示している。 だって……こんなのもう……耐えられない……! 「んっ、ひゃっ……私、もう限界っ、だよっ……! 那由太君っ、私……私いっ……!!」 「ああっ……俺ももうっ……はあっ、はあっ!」 「はあっ、はあっ、じゃ、じゃあ……じゃあ一緒に イこうっ……! 私、一緒にイキたいっ……!!」 こんな、思考回路もままならないような状況下で―― それは、なんて素敵な提案だろうか――! 「はあっ……はあっ……はあっ……!!」 受け入れるに決まってる。喜ばしいに決まってる。 頭が上手く回らないこんな状態でも、それがいかに魅力的か、ちゃんとわかるよ。 「ああ……一緒にイこう……天美っ!」 「うんっ……うんっ!!」 互いの頂点を合わせるために、留めていた絶頂欲を今解き放つ。 「あっ、あっ、私っ、イクっ、イっちゃうっ……!! あっ、あっ、あっ、あっ、あっ…………!!」 「はあっ、はあっ……くっ、くうっ……っっ!!」 「や……あっ、イクイクイクイクイクっ……!! イクっ、イクっ、イクっ、イクっ…………!! イっっっっクううううううううううっっ…………!!!」 まるで祝砲のように―― 二人の愛情が熱い液体となって、同時に迸った。 「んっ、あっ……!! あっ、あっひいいぃんっ……!! あっ、やっ、やだっ……あひっ、ひいっ…………!! んっ、……んっくぅ……はっ……あぁっ、あぁんっ!!」 「ぐっ……!!」 「熱いのが……来てるっ、ドクドク、入ってくるっ……! ひゃひっ、んっ、これ、射精っ……!? こんなに、 んっ、出るのぉっ……!? ひっ……ぁっ……!」 俺も自分で驚いてる。まさかこれほど大量に吐精してしまうなんて。 「んっ、ひっ……まだ、震えてるっ…………!! ドクン……ドクンって……ひゃっ、ふあっ……!! 精液……熱いよ、これ……はふっ、信じらんない……!」 初めて味わう中出しの刺激に、天美は困惑しながら最後の絶頂潮の一滴をしぶかせた。 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……んっ、中出しって…… んっ、すごいんだね……はぁっ、はぁっ……身体が、 浮かび上がった気分だよ……」 「気持ち良かったか……?」 「うん……気持ち良かった。 やだ……私、かなりイっちゃったね……」 「俺もいっぱいイった」 互いに息を整えながら、落ち着きを取り戻す。 「はぁ……はぁ……。ヤってる最中はもう夢中で…… 色々考えてる余裕無かったけど……んっ、はふぅ……」 「今振り返ってみると……すごく恥ずかしいね、 セックスって……。はぁ……はぁ……私きっと…… おかしな事、いっぱい言ってたと思う……」 「そんな事無いよ。すごく可愛かった」 「……私のイキ顔見た?」 「いや、自分の射精に夢中で……あんまり」 「そっか、よかった。 ……きっとすっごくスケベな顔してたと思うから」 「そりゃ残念だ。今度は見るよ」 「もう、おバカぁ……!」 “今度は”という言葉を自然に口にしてしまった。 その事が、とてつもなく嬉しい。 天美との初エッチは、時間にしてほんのわずかの出来事だったかもしれない。 しかし、俺と天美はまだ繋がったままだ。 きっと、その接続は強固で。きっと、永遠で。 そんな予感がする。今日が二人の始まりの日になるに違いない。 「……誰もいない?」 「ああ、大丈夫そうだ」 周囲を見渡して、人影が無い事を確認する。 「よし、それじゃあ今のうちに……」 「あ、那由太君っ」 「ん……?」 「これ……」 彼女が手渡してきたのは―― 「手紙……?」 ピンクの可愛らしい封筒に包まれた、一通の手紙だった。 「さっき、エッチした後急いで書いたんだ。 すっごく大切な事。どうしても忘れて欲しくなくて……」 「え、えっと……?」 「今読まないでっ!」 「は、はい?」 「恥ずかしいから……後で読んで」 「後で……」 何が書かれているのだろうか。 「やっぱりこれ、後じゃなくて今――」 「――ちゅっ♪」 「――んむっ!?」 「……えへへ」 「……っ、お、おい天美……!」 「それじゃあ……おやすみっ♪」 「………………」 え、えっと……。 「…………はっ」 頬を赤らめている場合じゃない。唇に残った感触を堪能している場合じゃない。 早く……女子区画を出て、自分の部屋に戻らなくては。 「……ふう」 自室に戻った途端、緊張が一気に解けた。 「俺……天美と……」 エッチしてしまった。キスをしてしまった。 「はぁ…………」 なんだ、身体中に湧き上がるこの熱は。 尋常じゃないほどの浮遊感。このまま空を飛んで行ってしまいそうだ。 「………………」 抱えきれないほどのこの幸福を、もっとたっぷり味わっていたい。 でも、張っていた気が緩和されたおかげで疲労がドッと襲い掛かって来て……。 「ね、眠い……」 このまま眠ってしまおう。 「……あ、そうだ。手紙……」 後で読んでって言われたな。 今は……頭が働かないから……。 「明日読もう……」 とりあえず、失くさないように机の引き出しの中に入れて、と。 「……おやすみ、天美」 小さく、あの子の名前を呟いて―― ただただ胸の鼓動を数えて――この温もりを咀嚼出来るだけ咀嚼して―― ゆっくりと瞼を下ろし、盛りだくさんの一日を終えるとしよう―― 「ん…………」 目覚ましの音に起こされ、ゆっくりと瞼を開ける。 今日もいつも通りの一日が始まる。 いつものように顔を洗って、朝食を摂り、制服に着替えて、髪を整えて、登校する。 何気ない日常だ。 「………………」 そんな何気ない日常に、有難みを感じる時がたまにある。 当然のように誰かと会話を交わして、当然のように誰かと触れ合って。 当然のように呼吸をして、当然のように生きている。 「昨日のあれは……夢じゃなかったんだよな」 誰に感謝するわけでもない。 その当然を噛み締めて、幸せに思っているだけ。 「もし……あれが、現実なのだとしたら……」 いつも通りの一日が。何気ない日常が。 俺の当然が、大きく変わった事になる。 もっと幸せになった事になる。 「……………………」 「……天美、可愛かったな」 綺麗な肌、美しい声、優しい笑顔。 蠱惑的な裸体、官能的な喘ぎ声、淫蕩な欲情顔―― 「――って、いやいやいや。朝から何考えてるんだ俺は!」 “あの”天美は……なんとも非現実的だった。 今さらだけど、本当に夢じゃなかったんだよな……? あまりにも現実離れしていたから……どうにも夢だったんじゃないかと疑ってしまう。 「……………………」 「……朝飯食お」 “あの”天美を思い返していると、よからぬ感情が湧き上がってきそうなので、食事でそれを誤魔化す事にした。 「………………」 なんとなく、腑抜けている。 昨日の出来事がいまだに信じられなくて……。 どこからが現実で、どこからが夢だ……? もしかして、全部夢なのか……? 「…………うーん」 考えても考えても、はっきりとした答えが見つからない。 寝惚けてるのかも、俺。 「――ってぇ!?」 「おっはー、那由太ー! 背中無防備過ぎー!」 駆け足で現れた筮が、挨拶がてらに俺の背中を叩いて軽快に追い抜いた。 「誰でも背中は無防備だっつーの!」 「あははー、じゃあまた教室でー!」 「ああ、朝練頑張れよー!」 急いでたって事は朝練なんだろう。 「今朝の俺、そんなに気合抜けてるのかな……」 「おう、羽瀬」 「那由太か。本調子じゃない様子だな」 「ぐっ!?」 早々に見抜かれた。 「昨日の夜、好きな子と結ばれて、初エッチして、 夢現を彷徨ったまま抜け出せていない感じだ」 「ふん。サイコ野郎め」 図星の時は無視に限る。 「なあ、なんでエロゲーって告白したその時にすぐ エッチしたりするんだろうな?」 「知らねえよ!」 「――あら、期招来君。おはよう」 「うわあ!?」 一番出会っちゃいけないヤツと出くわしてしまった。 「……気がかりに惑わされている表情ね。悩み事かしら?」 「ほっといてくれ!」 「昨晩、好きな女の子と身も心も結ばれて、そのあまりの 幸福感に現実味を感じられていないという様相だわ」 「ほう。志依くんも同意見か。さすがだ」 くそう、人間離れしたエスパー共め! 「ところで志依くん。なにゆえ世のエロゲーは 告白した直後にエッチするのだと思う?」 「エロゲーだからよ。言うまでもないわ」 「朝から慧眼なお言葉をいただいた。目が醒める思いだ」 「那由太、聞いてくれ。 “告白直後即セックス是エロゲーの常識也”だ!」 「うるせえ!」 「くふふふっ!」 羽瀬の暴走と志依の好奇の視線から逃れるべく、急いで教室に入った。 そこには―― 「あ、那由太君。おっはー!」 夢現の中で俺と結ばれたお姫様が、すでに登校していた。 「あ、天美……おは、よう……」 「ん? なんか元気ないね。どうかしたの?」 「いや、別に……」 元気ないっていうか……。 そんな、目を合わせながら明るく挨拶されて、普通でいられるわけないだろ! 「そうなんだよ天美くん。 那由太のヤツ、朝からおかしいんだ」 「んー……風邪でもひいちゃった?」 「そうなのか? 那由太。元気出せ。 “告白直後即セックス是エロゲーの常識也”だぞ?」 その励まし方意味わかんないから。 「つか風邪じゃないって。大丈夫……」 「そっか。具合悪かったらちゃんと言うんだよ? 無理したらメッだからね?」 「……はい」 やっぱり―― 昨日の“あれ”は、夢だったのだろうか―― 雲がゆっくりと空を渡るように。 俺の心もゆっくりと意識を取り戻していく。 そうだ。俺が天美と結ばれるだなんて。そんなのあり得ない。非現実的過ぎる。 あれはきっと夢か幻か、とにかく何かの間違いだったんだ。 今ここに在るのは何気ない日常で。 今日はいつも通りの一日で。当然のように“当然”を過ごしている。 それで十分幸せじゃないか―― 「……さてと」 いつものように、授業をぼんやりと聞いて、無作為に時間を浪費して、夕焼け空を迎える。 この島の空はどの時間でも美しい。楽園なんだ。当たり前だ。 「帰りに本屋寄って漫画買ってくか」 昨日は天美と一緒で、カッコつけたせいで買えなかったんだよな。 「………………」 そう……。 昨日、俺は天美と一緒に……放課後、過ごして……。 確かな感触が身体に残っている。色々な感情を胸に刻んだ気がする。 ……夢、か。 「……天美…………」 小さな声でその人の名前を呟くと―― 「――ん? なーに?」 「うわっ!?」 俺のささやかな願いを聞き入れてくれた神様によって、彼女は召喚された。 「今、私の名前呼んだ?」 「い、いや……別に……!」 天美……いつからそこに……! 「あのさ、那由太君。今時間ある?」 「え……時間? まあ、大丈夫だけど……」 「じゃあ、ちょっと来て欲しい場所があるんだっ」 そう言って俺の腕を掴んで走り出す天美。 「お、おい……天美っ、ちょ……!」 それはまるで、昨日天美が威勢よく俺を引っ張って彼女の自室へ連れ込もうとした時のようで―― 「屋上…………」 「フーカはね、先生に呼び出されたみたい。 今日は先帰ってていいよって言われてるの」 「放課後の屋上って、誰もいないんだよ。 私、いつもこの時間ここにいるから知ってるんだ」 「……天美?」 「――昨日の続き、しよっか」 「…………!」 「夢みたいな事……もっとしたいもんね?」 やっぱり―― この島の空は、絶品だ―― 「お、おい……天美っ……!」 「平気だよ……私に任せて……?」 「でも…………」 「いいからいいから……んっ、んっしょっ……!」 不慣れな手つきで、天美は俺のズボンからペニスを露わにさせた。 「ごくんっ……はぁぁんっ……ごくっ」 ズボンのチャックから顔を覗かせたペニスを目の当たりにして、生唾を飲み込みながら興奮を高めている。 「すごい……改めて見ると……ホントに……すごいね」 「あ……少しずつ膨らんでる……! これ……勃起…… んっ、はふぅ……勃起、だよね……?」 外気に晒されたせいか、それとも美少女の視線に晒されたせいか。 俺の股間は屹立を禁じ得ない。 「昨日以来だね……これ。 その……ぉ、おちん……おちん、ちん……」 「……っ」 「おちんちんって、やっぱり不思議……。 私には無いからさ……熱くなったり硬くなったり…… 勃起、不思議だね……んっ、はふぅん」 驚いた。天美の口からそんな淫らな単語が飛び出るなんて。 「はふぅん……おちんちんのここ……カリ首……。 ちょっと角ばってるね……勃起するとどんどん 出っ張りが大きくなってくよ……?」 あの可愛らしい声で、男性器を呼んでいる。俺のペニスを……じっと見つめながら、うっとりとした顔を浮かべてくれている。 「ねえ……おちんちん、ご奉仕していい? 私……好きな人のおちんちんに、ご奉仕したいな」 「……頼む……っ」 乾いた喉奥を辛うじて振り絞って、なんとか天美のおねだりに応じた。 「うん……ありがとう。 丁寧に扱うから……だから、楽にしててね?」 「んっ……れろっ…………!」 「っ!」 柔らかな舌先が、敏感な亀頭にそっと触れる。 それだけで、下半身に鋭い電気が流れた気分だ。 「れろっ…………えろぉ…………れろっ、ちゅ……! んっ、れろっ……れろっ……れろぉっ……!」 「うっ……くぅっ!」 「んっ、はふぅん……あ、ご、ごめん……! 気持ち悪かった……?」 「いや……そ、そんな事ないっ……!」 「でも……おちんちん、びくってなって……」 「気持ち良かったんだ……。 だから……もっとやって欲しい」 「気持ち……良かったの……? 私の舌……」 「ああ……」 改まって言うのは少し恥ずかしいが、事実なのだから仕方がない。 「そっか……ふふっ、わかった。 うんっ。もっとやってあげるよ」 「私だっていっぱいおちんちんとイチャイチャ したいし――れろっ、れろぉんっ……!」 「……っ! くぅ……」 「れろっ、はふぅ、れろ…………ぺろぺろぺろ……! れろぉ……んっ、れろっ、ちゅっ、れろぉっ……!」 やっぱり気持ちいい。粘性の感触が、無骨な陰茎をヌルヌルと纏わり滑っていく。 「れろっ……んちゅ、はふぅ、おちんちん、れろぉっ、 ピクピクしてるね……れろっ、れろぉっ……ふふっ、 おちんちん可愛い……れろれろっ」 あの姫市天美が、俺のペニスを熱心に舐め回している。 物理的快楽と同じくらい、精神的征服感が高まっていく。 「れろっ……ぴちゅむっ……んっ、れろぉ……はふぅ、 れろれろっ……んっ、れろぉぉんっ……ぺろぉんっ!」 好きな女の子に自分の性器を口奉仕させるなんて。強烈な背徳感だ。 もちろんこの行為を強要しているつもりは無い。天美は自ら口淫を申し出てくれたんだ。 それでも……牡の本能が、愉悦を捉えてしまう。ペニスに備わっている征服欲が、美少女の唇に触れて膨張してしまう。 「んれろっ、はっふっ、勃起すごいねぇ……れろれろっ、 私の舌……感じてくれてるんだね……はふぅん、 嬉しいな……れろっ、んちゅっ」 「おちんちんってこんなにわかりやすく反応してくれる んだね……ぺろぺろっ……。んっ、れろっ、私も…… 舐め甲斐があるよ……れろれろっ」 亀頭だけでなく、陰茎の正面部だけでなく。 天美は幹の角度を変えて、側面や裏面までしっかりと舌を巡らせている。全方位から、アイスクリームを舐め回すように。 「れっろっ……んれろっ……はふぅ、れろぉんっ……! えろぉ、えろぉ、えろぉ……れろれろっ……んっ、 れろぉぉんっ……!」 「あ、天美っ……! そろそろ……咥えて欲しいっ……!」 「れろっ、んっ……咥える……? れろれろっ……。 それって……ぺろっ、おちんちん、パクッて……?」 「あ、ああ……」 快楽に溺れ切った俺の身体では、そんな単純な返答すら難しい。 気を抜くと情けなく善がってしまいそうだ。天美の前でそんなカッコ悪い姿は避けたい。 一方で、より深い刺激を求める自分がいる。 そんな刺激を与えられたら。いずれこの気張りを上回るであろう快感によって俺の我慢は屈服すると予想できてしまうのに。 それでも牡として、刺激を求めてしまうのだ。 「ふふっ、うん……いいよ。フェラチオ……だよね? うん……したい。私、那由太君のおちんちんに フェラチオしてあげたいよ……」 「初めてだから上手くしてあげられるか わかんないけど……頑張るね……ちゅっ」 無垢と淫蕩を混ぜ合わせた笑みを浮かべながら、ペニスを見つめる天美。 「おっきなおちんちん……咥え切れるかな。 歯立てないようにしないとね」 「それじゃあ……咥える、ね……? えーっと……コホン。あぁーーー…………」 「――かぷぅ」 「あむぅ……はふっ、あむあむあむっ……! んっ……んむぅ……はむはむぅ……あむぷぅ……!」 「くぅっ……!」 下半身の先端が、瞬間的に甘いまどろみに包まれた。 「んちゅっ、あむあむ……かぷぅ……はぷっ……! んむんむっ……あむふぅ、はふっ、ちゅぷぅっ」 口から零すまいと懸命に唇を波打たせて、天美は俺の肉棒を咥え込んでいる。 「ちゅぷっ……はっふっ、ひゃふぅ……んちゅっ、 あむあむっ……んちゅっ、ちゅぷっ、あむぅ……!」 その健気さと官能的な刺激が、一気に性欲を掻き立てた。 「んちゅむぅ、んちゅ、気持ちいい……? 私のフェラ……ちゅっぷ、勃起するぅ……? ちゅちゅっ、ぴちゅぅ……!」 「ああ……気持ち、いいっ……!」 「ほっかぁ……ちゅぷ、うん、おひんひん口の中で むくむくーって勃起してるもんね……ちゅぱっ……!」 「気持ちいいって思ってくれてるんだね……ちゅるるっ、 あむあむぅ……良かっはぁ……はふぅ、ちゅっぷっ」 咥えながら喋られると、吐息が亀頭にかかってそれもまた気持ちいい。 「はふっ、やっふぁ……おひんひん大きひねへぇ……。 あむあむ……顎、外れひゃうよほぉ……ちゅぷぅ」 「……辛いか?」 「ちゅぷぅ……ううん、大丈夫らよぉ……ちゅぷっ。 むしろ……はふっ、あむあむ……嬉しい……あむぅ」 「嬉しい……?」 「うん……ちゅぷぅ、らって好きな人のおひんひんだもん、 ちゅにゅっ、ぴちゅ……自分のお口で、ちゅぷ、勃起 させてあげられて、ちゅっ、嬉しいに、決まっへるよぉ」 「………………」 喜びが、興奮に変わる。 「んちゅぶっ、ずっちゅっ、あむっ、あっ、あふぅ……! んむぐむぐっ……ちゅぶっ、あむっ、ふぐぅ……!」 これ以上性器を肥大化させると、天美の口にさらに負担をかけることになる。 天美が苦しむのは不本意だ。でも欲情を止められない。 「ちゅぶっ、ちゅっぷっ、んちゅ……い、いいんだよ……。 ぴちゅ、遠慮しないで……勃起してぇ……ちゅっぱっ」 「天美っ……!」 「その方が……ちゅっぱっ、私も……ちゅく、 嬉しいんだってばぁ……ちゅぷっ、ぴちゅぅ」 俺の心情を察して、優しい言葉をかけてくれた。 心が繋がったのを感じられて、嬉しい。 嬉しいから、より興奮してしまう。今はそういう行為の最中なんだ。 「この……出っ張ったとこ……ちゅっ、れろっ……。 ここ、舌でくりゅくりゅするのが……いいのかなっ、 はふっ……んちゅっ、にゅちゅっ、ちゅぶっ……!」 「ううっ……っ!」 「あはぁぁっ……んっ、ちゅっ、おひんひん、れろおっ、 ちゅっぶっ、跳ねてるっ、ちゅにゅっ、ぴっちゅっ! すごひっ、ねっ……ちゅっ、ぴちゅにゅっ……!」 舌音と唾音を響かせながら、天美は激しい口奉仕を繰り出している。 口元から滴る涎なんて気にならないくらいに、俺のペニスと向かい合ってくれているのだ。 「ちゅぷっ、んちゅっ……ちゅっ、にちゅっ……! れろっ……れろぉっ、んっ、えろぉっ、ちゅにゅっ! はふっ、ちゅぷっ、ちゅぱっ、ちゅぱぁっ……!」 天美がかつてないほど愛おしい。 こんな熱い感情をこれ以上抱えていられない。放出を止められない。 「ちゅずっ、ぴちゅっ、んんっ……お、おひんひんっ、 ちゅぷぅ、もっとっ……あふっ、震えてっ、来たぁ、 ちゅっ、んちゅっ……!」 「天美……俺、そろそろっ……!」 「んちゅっ、ぴちゅ、あ……んちゅ、もひかひて……ちゅ、 射精、かな……ちゅずっ、じゅるるっ……!」 ペニスを振って、肯定を示す。 「あぁん、ちゅずっ、そっかそっか……ちゅずっ、ぴちゅ、 射精っ、んちゅっ、したいんだねぇ……ちゅぱちゅぱっ」 「うん……いいよ、ちゅるるっ、ぴちゅずぅ……そのまま、 んっ、ちゅっ、私の口の中に……ちゅっぱっ、はふぅ、 出ひへぇ……ちゅるるるっ、れろちゅむぅ……!」 「ええっ……!? い、いいのか……!?」 「うん……もちろんだよぉ……ちゅっ、ぴちゅむぅ」 口の中に……そのまま……!?そんな事したら―― 「んっちゅっ!! んっちゅっ!! んっちゅっ!! んっちゅっ!! んっちゅっ!! んっちゅっ!!」 「くぁ…………!?」 俺の躊躇を掻き消す激しい口遣いに、精液が一気に上昇を開始した。 口内射精しちゃっていいものかわからないけど……。 「ちゅずずっ、ちゅぶっ、じゅっちゅっ、ちゅぶぶっ!! んくちゅっ、ちゅむっ、ぴちゅずずずずっ……ちゅぅ!」 もう止められない―― 「天美、だ、出すぞっ……!」 「ちゅぶっ、はぶちゅっ、じゅっぶうっ、じゅるるっ!! ぴちゅぴちゅっ、んちゅっ、ちゅぶぶぶっ、ぴちゅっ! じゅっぶっ、ぶじゅりゅりゅっ、じゅっぶっふぅっ!!」 天美の激しい首往復が、俺の絶頂への承認となった―― 「――んんっ!? んぶっ、ぶっふうっ!? んんっ!? んっ、んっ、じゅっ!? じゅぶうっ!? んじゅ!? んじゅぶぶぶぶううぅううぅぅうぅぅうっ…………!?」 目を見開いてその放出を受ける天美。 柔らかくて温かな彼女の口腔が、俺の熱い白濁によって彩られていく。 「んっじゅっ、じゅぶっ、ひゃふっ、じゅるるっ、 いっぱひっ、出てりゅっ、ちゅぶうっ……ちゅっ!? んっ、ちゅぶぶっ、くちゅっ、じゅっぶうっ……!!」 「精液、あふっ、熱ひっ、ちゅっぶっ、ぴちゅっ……!? ドロドロで、ひゃふっ、ちゅむ、熱ひよぉっ、ぴちゅっ、 んっ、んっ、ちゅぷ、むちゅ、あむぅ、んひぃ……!」 そう言いつつも天美は舌先をグリグリと鈴口に当てて、精の通り道を作ってくれている。 口の中で行われている事を、俺はこの目で確認出来ない。しかしきっとそこでは、想像以上に艶めかしい動きで舌が巡っているのだろう。 「んちゅっ、んっ、んっ、んっ……んっ、んっ、んっ……」 「天美っ……!?」 「ごくっ、ごくっ、あっふっ、ちゅぶぶっ、ごくっ、 んちゅっ、あむあむあむぅ、ごくっ、んっ、あむぅ、 むぐむぐっ、はむはむはむぅ……ごくぅっ……!」 唇を閉め直して精液を零さないように咥え込んでから、天美は喉を鳴らし始めた。 「の、飲まなくっていいってっ!」 「――ごくんっ!」 「――ぷはあっ……! えへへ、もう飲んじゃった♪」 元気よく口を開ける。そこに俺の精子は残っていない。 「はふぅ……精液って……んっ、はっふぅ、 ネバネバしてて、喉に引っ掛かるね……。 熱くて……んっ、ふへぇ……苦くて……」 「う、うぇ……うう……す、すっごく…… うえぇぇ……すっごく美味しかったよっ♪」 絶対嘘だ。今うええって言ったもん。 「む、無理するなって……吐き出しても良かったんだぞ?」 「飲んだ方が喜んでくれるかなって」 「天美……」 この少女は、どこまで俺を想ってくれているのだろうか。 「――はぁぁむっ!」 「――っ!?」 「――じゅずずずずずずずずずずず~~~~~~っっ!!」 「くぅ……!? ぐっ!?」 「んずずずずず~~~っ!! じゅずずずず~~~っ!! じゅっずっ、じゅっずっ、じゅっずっ……ずずずっ!!」 「――ぷはぁっ! んっ、ごっくんっ……!! はふぅ……おちんちんの奥に残ってたヤツも、 ちゃんと飲んだよっ♪」 苦い精液を飲み干して、それでも天美は笑顔を見せるのだ。 言葉や動作、彼女の一つ一つが心に沁みる。温かく伝わる。 全身が歓喜で構築される。でも今この場面においては、この歓喜は興奮の一材になるんだぞ? 「天美……俺っ……」 「うん……私も、だよ」 心が繋がっているから、言葉は要らない。 「フェラチオしてたら……んっ、はふぅ、 お口に射精されたら……精液飲んだら……」 「おちんちん可愛がってたら、私、興奮しちゃった……。 あそこがね……熱いの……」 「あのね……だから、私……ね……」 「天美――」 「――ひゃっ……!?」 言葉は要らない。 こんなにも気持ち良くしてもらったんだ。歓喜と興奮を分け与えてもらったんだ。 今度は俺が、彼女を喜ばせ、欲情させる番だ。 「はぁっ……はっ、あぁっ……あっ……はぁぁっ……!」 蕩けた息が、俺をいざなう。 「一応確認しておくけど……ホントにここ、 誰も来ないんだよな……?」 「うん……大丈夫だってば……! んっ、あぁんっ……!」 そんな事より早く、と言わんばかりに天美は視線を俺のペニスに向けている。 まあ、ここは屋上の扉から死角になっている。仮に誰か来たらドアの音でわかるから、すぐに服を着ればなんとかなるか……。 「もう……あそこ、濡れちゃってる……。 トロトロになっちゃってるの……はふっ、んっ……! フェラしてたら……興奮、しちゃって……」 「すごく……切なくなってるでしょ……? 那由太君に……塞いで欲しい……」 お尻を突き出して、その陰部を俺に見せつける。 差し出された割れ目からは透明な糸が零れ落ち、その昂ぶりをいやらしく示していた。 「準備出来てるみたいだな」 「うん……早く、入れて欲しい……。 那由太君と……早く、繋がりたいよ……!」 呼吸を乱しながら、天美は乞う。 「はぁっ……はぁっ……んっ、はぁんっ……! だから、ね……お願い……!」 「私のおまんこ……メチャクチャにして……!」 「――っ!」 彼女の淫靡な声に、瞳に、穴に―― 吸い込まれる―― 「あっ……あっはあぁぁあぁあぁぁあっっ…………!!」 昨夜、処女を奪った挿入の時とは異なる、喜悦と倒錯に満ちた喘ぎ声。 「ああぁっ、あっはぁぁっ、はあっ、き、来たっ……! おちんちん、あぁん、おまんこに、来たよぉっ……! んっ、はぁぁっ……!」 「ひゃっ、あっ、あっ……はぁぁんっ……! おちんちん、やっぱり気持ちいいっ……んっ、 はっふっ、はぁっ、くひっ、気持ち、いいよぉっ!」 うっとりとした表情で男根の刺激を味わいながら、天美は卑語交じりに可愛らしく悶えた。 「あぁん、さっきお口でペロペロしてたおちんちんが…… んっ、射精、ドピュドピュしてたおちんちんが…… 今、私のおまんこの中にいるんだね……はふんっ」 「なんだか、あっ、変な気分、だよっ……! セックスで繋がるのって……はふっ、まだ、 慣れないね、ひゃふっ、ぁぁんっ……!」 「そう、だな……! 俺も不思議な気分だよっ……!」 自分の部位が彼女の身体に収納されているなんて、改めて考えるとおかしな話だ。 「これ……いつか慣れるのかな……はふぅ」 「かもな……回数を重ねたら……慣れるんじゃないか」 「うん……はふぅ、私達……これからきっと…… はぁん、いっぱいセックスするんだよね……?」 「だから……こうやって繋がるのも……少しずつ 慣れていくの、かも……あぁんっ、はぁんっ!」 出来る事なら、いつまでも新鮮な気持ちでいたいと思う。 だって、そうすれば毎回天美のこの可愛い喘ぎ声を聞く事が出来るのだから。 「はふっ、んっ、そ、それにしてもさ……ぁぁんっ、 二日連続でセックスしちゃうなんて…… しかも、今回はお外で……」 「誘ったのは……天美だろ?」 「そうだけどさぁ……はふぅん、これ、 いけない事なのかな……? 私悪い子?」 いいか悪いかは別にして、俺もこうしたかった。 昨晩の幸福を確信させるために、天美の感触を求めていたよ。 「はぁっ、あっ、あっ……お、おちんちん、奥まで、 ひゃふっ、ゴリゴリって……あっ、あぁっっ……!!」 「昨日より……奥に来てる気がする……はっ、んっ! 那由太君……おちんちんおっきくなったぁ……?」 「たった一日で大きさが変わるわけないだろっ……!」 「そ、そっか……でも……勃起すごいよね……! さっき射精したばっかなのに……もうギンギンで、 はふっ、おまんこのお肉……掻き分けてる……!」 射精直後だから、感じやすくなっているんだ。 天美に可愛くおねだりされて、淫惑な恥部を見せつけられて。 滾りは容易く戻ってくる。むしろフェラチオされていた時以上の性熱が灯っているほどだ。 「那由太君のおちんちん……私、好きだよ……はっ、んっ! 好きな人の身体の一部だからっていうのもあるけど…… あっ、ふあっ……!」 「手とか口で刺激すると……ピクンってなって可愛いし、 はっ、んふぅんっ……でも、今みたいに男らしく勃起 してくれるし……あっ、あふっ、んんっ……!」 「可愛いし、カッコいいし、素敵なおちんちんだよねっ、 あっ、ふあっ……好きな人のおちんちんが、あぁっ、 素敵なおちんちんで……私嬉しいな……はぁっ……!」 後背位で俺の抽送を受けながら、天美は続けた。 「わ、私……エッチな事ばっか言ってるね……。 やだ……あっ、ふっ、セックスしてるからかな……。 ぁっ、んっ、ひっ……!」 「おちんちんが好きだなんて……これじゃあスケベな子 みたいだよぉ……はふっ、あっ、あぁんっ……!」 「でも俺は……そう言ってもらえてすごく嬉しいよ」 「そう、かな……えへへ……はふぅ」 恥ずかしがりつつも、淫らな心情を打ち明ける天美。 こうやって本音を口にしてくれるのは、身も心も全て俺に晒しているからだろうか。 「はぁっ……あっ、んっ、あぁんっ……か、硬いのっ、 んっ……奥に、ひゃっ……あっ、来て、るっ……! んっ、はふっ、んっ、んっ…………!!」 「気持ち……いいっ……んっ、はぁっ……! フェラチオで……んっ、おまんこ、 溶けちゃってるから……あっ、あっ、あっ……!」 「んっ、ふっ……今おちんちんでそんなにされると…… くうっ、あっ、あっくうっ!? ひっ、ひいんっ!? 感じちゃうっ! 感じちゃうよぉっ!!」 天美は身体を大きく打ち震わせて、快楽を叫んでいる。 「はぁっ……はぁっ……好きなだけ感じてくれ……!」 「あぁんっ、あっ、あっ……はふっ、くひぃっ!? あふっ、うんっ……うんっ、うんっ……!! 私っ、おちんちんちゃんと感じてるよっ、はっふっ!」 「気持ち良くなるの、我慢しないっ……んっ、あっふっ、 おちんちんで……はぁん、おまんこ、熱くなりたいっ、 気持ち良く……なりたいのっ……! あぁっ、あんっ!」 可愛らしい嬌声が、俺の下腹部に何度もこだまして響き渡る。 「声出ちゃうよぉっ……エッチな声っ、出ちゃうっ……! 恥ずかしいけど……んっ、我慢出来ないのぉっ……!」 「おちんちんにガシンガシンってされると……はっ、あっ! いやらしい声、漏れちゃうの……あっふぅ、あっ、んっ、 あっ、あっ、あっ、あっ、あぁっ……!!」 「校庭にいる運動部の連中にも聞こえちゃうかもなっ……」 「い、いやぁっ……意地悪言わないでぇっ……! そんなの……はふっ、恥ずかし過ぎっ……!」 「この声は……那由太君だけのものなんだからぁ……! 那由太君の前でしかエッチな声出さないもんっ……!」 俺だってこの声を、この身体を、この優しさを。天美を全部独り占めしたいし、独り占めされたい。 「でも喘いじゃうっ……はふっ、おちんちん良過ぎて、 んっ、エッチい声出ちゃうのっ、は、恥ずかしひっ、 あっ、あっ、あぁんっ、あっはぁぁんっ……!」 「周りとか気にするなっ……! 天美のその声聞くと、俺も興奮する……!」 「う、うん……那由太君がそう言うなら……あっ、ひっ、 私、気にしないぃ……ぁぁぁんっ、いっぱい喘ぐぅ…… あふっ、んっ、はふぅぅんっ……!」 そもそも、きっと天美は周囲を気にして制御出来るほど、理性を残していないだろう。 だったら諦めて、この瞬間に、この空間に、この快楽に溺れてしまった方がいい。 その方が、きっといい思い出になる。 「はっ……あっ、あっ……くふうっ、あぁんっ……! そ、こっ……ああぁんっ、奥っ……奥うっ……!!」 「はあっ、はあっ……ぐっ……っっ!」 「そこいいよぉっ……はっ、ふっ……んんっ……! おまんこの一番奥……そこが……一番、好き……! あっ、んっ、一番……感じちゃうっ……!」 「那由太君だけの場所っ……んっ、那由太君の おちんちんだけが……触れていい場所なのぉっ、 あっ、ふあっ、あんっ……んんんんっ……!」 子宮口を肉棒の先端でノックすると、天美は目をギュッと閉ざして身悶えた。 その反応が可愛くて、嬉しくて。俺はストロークを繰り返す。 「あっ、あっ、あぁんっ……はぁんっ……! おちんちん、ガシガシっ、そこっ、はふっ、 そこぉっ、あっ、あっ、あっ…………!」 「や、いやぁんっ、な、那由太君っ、そこばっかりっ…… あぁんっ、私、そこ責められたらっ、はっ……んっ、 おかしくなっちゃうんだよぉっ!?」 「いいさ、おかしくなっていいっ……!」 「んっ、ふぁっ、んっ、おかしくなるっ、 スケベになるよっ、あっ、あっ、あっ……!」 「私……エッチな気持ち、どんどん湧き上がって…… んっ、いやらしい子になっちゃうよぉっ!! 那由太君の前で……エロい子になっちゃうっ!!」 今はそれが許される時だ。 いや、今だけじゃない。これからはいつだってそれは認められる。 俺と天美の間には、この行為を受け入れ、求めるような、そんな感情が芽生えているんだ。 だから……好きな時に好きなだけエッチになってくれて構わない。俺はそんな天美をどんな時でも受け入れて、求めて、そして愛す。 「ぁぁっ……んっ……那由太君……すごく優しいっ……! はふっ、んっ、あっふっ……あぁんっ……!」 「優しいっ……? そ、そうか……!?」 結構激しく腰動かしてるつもりなんだけど。 「うん、優しいよ……はふっ、あっ、あっ…… あぁんっ、絶対、優しいって……んっ、くふうっ!」 「おちんちんは今、激し目だけど……んっ、ひゃふっ、 でもそれは私がそうして欲しがってるからで…… あっ、あっ、はぁっ……!」 「私が欲しい事、望む事、全部してくれる……んっ、 すぐに察知して、与えてくれる……だから、 那由太君は優しいっ……!!」 「これは……はぁっ、はぁっ……天美のためだけじゃ なくって……俺自身もこうしたいから……っ!」 「だったら……お互いの望みが一致してて、 とっても嬉しいよっ……!」 「…………っ!」 その通りだ。 俺がしたい事、俺がして欲しい事。天美がしたい事、天美がして欲しい事。 きっと同じなんだ。だからこんなにも深く繋がる事が出来る。だからこんなにも嬉しくて、温かいんだ。 セックスってきっとそういう事なんだ。 「那由太君の想い……すごく伝わるよ……! はふっ、んっ……あなたの優しさ……伝わるっ……! だから嬉しいのっ……!」 「俺も……天美の気持ち……感じ取れるよ……! こんなの……初めてだっ……!」 今の俺と天美の感情は、清らかなものも淫らなものも、きっと生き写しのように合同だ。 改めて実感する。俺達は今、一つになっている。 生まれも性別も、生きてきた環境も違う二人が、こんなにも融合して、感情を共有し合っている。 「はっ、はっ……あっ、あっ、あっ……ああんっ……! んっ、あっ、ああっ! あっ、あっ、あっ、あっ!!」 だからわかる。天美が今、切羽詰まっているという事が。 「天美……一緒にイこうっ……!」 「うんっ……そうしたいっ……! 私も、那由太君と一緒にイキたいって思ってたっ……! 同じ事考えててくれて……嬉しいっ!」 笑いながら、絶頂への階段を上る。 その頂上へはすぐに到達してしまい―― 「あっ、イクっ、イクうっ、お、おまんこっ、はふっ、 イっちゃうよっ、イっちゃうっ、私っ、イっちゃうっ、 あっ、あっ、イっちゃううううううううううっっ!!!」 「くっ……俺もっ……イクっ!!」 「あっ、あっ、あっ、あっ、ああぁぁぁあぁあぁあああ ぁあぁぁああぁあ~~~~~~~~~~っっっ!!! おまんこイっちゃうよぉおぉおぉおおおぅっっ!!!」 「あっひゃっ……!!? いっ、イってるっ……! おまんこっ、ああんっ、イってるっ、お潮吹いてるっ、 やっ、止まんないっ……あっ、あっ、あぁぁあっ……!」 結合部からピュッピュッと淫液が飛び散った。それに合わせて天美の腰もいやらしく振り乱れる。 「あぁんっ、はふっ、おまんこ、熱いよっ……あっ、んっ、 こんな……あっ、ふあぁあっ、恥ずかしっ、ひいっ!! あっ、んっ、んっ、ん~~~~~~~っっ…………!!」 いくら羞恥に悶えようと、その放水を止める事は出来ない。 それは俺も同じだ。勢いよく駆け上ってくる精液は、とめどなく噴出し続けている。 「ひぃっ、あっ、くっひっ、熱々の精液っ、あっ、んっ、 奥に、ドクドクって注がれてるっ、あっ、射精っ……! これ、中出しいっ……ああんっ、はぁぁんっ……!!」 「那由太君っ、激しいよっ……んっ、おちんちんすごひっ、 きゃひっ、この射精、昨日より出てるって……あっ、 ふあっ、ひぃっ、あっ、あっ、あっ…………!!」 天美にとって、中出しは初めての事では無い。 昨日よりも量が上回っているかどうかはわかりかねるが、きっと経験済みだからこそ射精量に意識を傾ける事が出来るんだ。 そんな天美が、この射精量に満足してくれている。男として、これほど嬉しい事はない。 「あっ、あっ……あっ……おちんちん……んんんっ、 まだ……ドクドクって……はっ、はぁぁっ……!!」 「はふぅぅぅ……おちんちん……落ち着いたぁ……あぁん」 その膣肉で、ペニスの絶頂が終わった事を感じ取ったようだ。名残惜しそうにそう呟いている。 「はぁっ……はぁっ……天美も……治まったみたいだな。 随分出したじゃないか……」 「んっ……や、だぁ……お潮の水溜まり……見ないでよぉ」 床に滴った二人分の淫液が、俺達の情熱の証となる。 「はふぅ……んっ……精液……お腹の中にたっぷり 注がれちゃった……えへへ、たぷたぷだよ?」 「ごめん……あまりにも気持ち良くって。 遠慮しないで、思いっ切り出した」 「うん……嬉しいよ。いっぱい射精してくれて…… ありがとねっ、那由太君っ♪」 理性を失って夢中で性を貪ってしまったが、その可愛い笑顔で救われた気持ちになれる。 快楽と愛情をたっぷりと感じ合ったセックスだった。 「こっちこそ……ありがとう、天美」 夕焼け空のどこか寂しい輝きを反射させるその水溜まりが、二人だけのこの時間を美しいものに昇華してくれるのだった―― 「――付き合おっか」 温かな夕日が、彼女をより美しく彩った。 「えへへ……今さらだけどね」 挑発的に動くその唇に視線を奪われながら、俺はこの橙色の芸術に没入していく。 「俺さ……」 「んー?」 「夢かと思ってた」 「何が?」 「昨日の事」 それと……今、この瞬間。 「あはは……わかるよ。 ……うん。昨日、急展開だったもんね」 「私的に大事件の一日だったよ。 那由太君が帰った後も……ドキドキが止まらなくて」 「天美も俺と同じだったんだな」 「うん……私もね、あんな素敵な出来事…… 信じられなかったよ。幸せ過ぎて……怖いくらい」 その通りだ。二人でいる時の幸福感は、現実離れし過ぎているほどに幻想的なんだ。 「ねえ……夢じゃ……ないんだよね? 嘘じゃないんだよね?」 「ああ。現実だ」 「それじゃあ……それを証明してよ」 「天美………………」 「今……この瞬間が、本物だって誓って」 その誘いに、俺は強い意志をもって応えた。 「――ん……」 呼吸と時間が同時に止まる。 空間は二人だけのものと化し、ここが世界の中心となる。 「ちゅっ…………ん、ちゅる……ちろ……ちゅっ……っ」 「――ん…………ふぅ…………。 んんっ……あったかいね……唇……」 「天美こそ」 「……ずっと一緒にいられるといいな」 「そのつもりだよ」 俺のこの心は本物で、現実で。 天美のその笑顔も、真実なんだ。 恐れる必要は無い。 「――ああ。付き合おう」 「うんっ!」 こうして―― 俺と天美は恋人同士になった―― 「……やはりここにいましたか、お嬢様」 「フーカ」 「……あらま、期招来さんもご一緒でしたか」 「呼び出しの用事は終わったのか?」 「はい。進路調査の話でしたがもう済みました。 期招来さん、お嬢様のお守、ありがとうございました」 「ははは……お守って」 「もうっ、フーカすぐ私の事子ども扱いするんだもん! 同い年なのにぃ!」 「お嬢様、帰りましょう」 「うん。そうだね」 突風のようなそよ風が俺と天美の間に靡いた。 「那由太君は……?」 「俺は……商店街に寄ってから帰るよ」 「そっか……じゃあまた明日」 「ああ。また明日」 「………………」 別に買い物なんて明日でもよかったんだが。 でも……これ以上天美と一緒にいると、自分がおかしくなってしまいそうな気がしていた。だからフーカの登場は俺にとっては有難かった。 EDENから楽園欒までの距離はごく僅かだとしても。二人っきりじゃなくフーカも含めた三人だとしても。 それでも。今はこの熱を冷ましたかった。 「恋人……か」 この幸福を噛み締めるには、いくらかの知性と理性が必要だ。 冷静になろう。夢のようなこの現実を。しっかりと受け入れ、喜ぶために。 「ふう……」 とりあえず商店街をぶらついてみる。 なんだかいまだに実感が無い。 俺……天美と付き合う事になったんだよな。 不思議な気分だ。俺が……あの、可愛い天美と。 「昨日今日と、色々あったな……」 二回もエッチした。にもかかわらず、やっぱり感情が浮足立っている事は否めない。 いずれこの関係にも慣れていくんだろうか。俺の日常の一部になり、当然になり、他愛ない一つになるのだろうか。 ……いや。そうしないといけない。いつまでもふわふわしていたらダメだ。 天美と一緒に生きる事。これからそれが、俺にとっての当たり前になるんだ。 そんな楽し過ぎる未来を。俺は守っていくんだ―― 「……随分遅くなっちゃったな」 今日はもう帰ろう。 「ん…………?」 今……誰かがそこの道を……。 「………………」 ……自分でも理由はわからない。 自分の足がまるで誰かに操られているかのように、勝手に動き始めた感覚だ。 単純な好奇心なのだと思う。 その横道を、俺は覗き込んだ。 「………………」 「…………誰も、いない」 それはそれでおかしな話だ。 ここに誰かが入って行ったのなら、その人物の人影があるはずなのに。 「って事は……見間違いだったのか……?」 確かに誰かが歩いていたように見えたけど……。 「…………っ!」 また……! 女性だ。今度ははっきりと見えた。 いや、まて。彼女どこから現れた。 この路地には誰もいなかった。それなのに突然現れて―― そして……突然消えていった―― 「………………」 再び俺の足が勝手に歩き出すその前に。 俺は生唾を飲み込んだ。 「なんなんだ……一体……」 少しずつ大きくなっていく心臓の鼓動を好奇心で覆い隠し、俺は再び足を前に出した―― 辿り着いたのは―― 「ここは……」 街外れの廃ビルだ。今はどの階も空きテナントとして開放されている。 が、ビル自体がもう古いので、誰もここを借りようとはしない。 人気のない。生活感のない。 置き去りにされ、忘れられた空間だ。 そこに―― 彼女はいた―― 「――やめた方がいい」 「うっ…………!」 鼓膜を介さず、脳に直接忍び込んでくるような声。 神秘は時に不気味になる。彼女が纏う“謎”は、俺には荷が重すぎる。 「………………っ」 どうして彼女を追ってここまで来てしまったのか。俺は彼女に何を求めているのか。彼女の正体は何なのか。 わからない。でもなぜか、その“謎”は俺が解明しないといけない気がする。 そうしないと……潰されてしまう。彼女の“不気味”に。 「……一昨日の、昼……校舎で会ったよな」 「絶対に、やめた方がいい」 「それ……EDENの制服、だろ……? お前も……EDENの生徒なのか?」 初対面で不躾な口調だったかもしれないが、今はとにかく強がっていたい。 少しでも下手に出ると、その威圧に絞め殺されそうな気がして。 「あの時目が合ったよな……? 覚えてるよな……?」 「やめた方がいい」 「目が合った瞬間……いきなり消えちまったけど……。 あれ……なんだったんだよ……!?」 「絶対に、やめた方がいい」 「――何がだよっ!?」 「あの女は、やめた方がいい」 「――っ!」 あの……女……!? 「あの女って……」 「姫市……天美……」 「――っ!」 天美……? 姫市天美って……あの姫市天美か? 可愛くて、優しくて、俺の大好きな……あの? 天美が……なんだって? やめた方がいい、だって? 何をやめろって言ってんだ?恋人関係をやめろって事か? お前はなんでそんな事知ってるんだ?俺と天美が付き合ってる事をどうして知ってるんだ? お前は俺の何を知ってるんだ?天美の何を理解してるんだ? わかったような事言うな。天美は可愛くて……優しくて……。 お前が俺達の仲をどうこう言える立場なのか? お前は何様だ? お前は何者だ? お前は――何者だ――? 「――はっ!?」 上半身が激しく跳ねて、その勢いで瞼が開いた。 「俺の……部屋だ」 ここは、寮の自室。 あれ―― 俺、いつの間に―― 「……えっと……なんで……?」 ……どうやって寮に戻ったんだっけ? 「えっと……俺、確か……」 「ぐっ……!?」 思い出そうとすると、心臓と頭が同時に悲鳴を上げた。 「あっ……ぐぐっ……!? な、なんだよ……これ……!」 胸と脳の疼きに、思わず目を細めてしまう。 こんなの初めてだ。俺……どうしちまったんだ……!? 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 呼吸を乱しながらも、現時刻を確認した。 「う、嘘だろ……もう朝の7時かよ……!?」 しっかり眠り明かしたって事か……! 記憶は曖昧だが、いつの間にか帰宅して、そのまま眠ってしまったのだろう。 信じられないが、そうとしか考えられない。現に俺はこうして、自室で朝を迎えている。 「……とりあえず、登校する準備しないと」 頭痛や動悸も治まってきた。 改めて深呼吸して、いつもの一日を始めよう―― 寮を出て、EDENへと向かう。 通学路と呼ぶにはあまりにも短いこの道。もうすっかり歩き慣れたこの道。 ゆっくりと歩きながら、ぼんやりと現状を確認する。 「昨日俺……何したんだっけか」 いつものように登校して、いつものように授業を受けて。 放課後は……えっと……。 「……っ……!」 やはり、痛みが飛び散る。 記憶が曖昧だ。その記憶を辿ろうとすると、鋭い痛みが伴う。 「よくわかんないけど……昨日の事は 気にしない方がよさそうだな……」 苦しい思いをしてまで、記憶を呼び戻す必要は無い。 もしかして羽瀬辺りに変な酒を飲まされて……二日酔いってヤツになっちまったのかも。 だから記憶がおぼろげなんだ。だから痛みが激しいんだ。 きっとそうだ。その程度の出来事。 自分が今まで築いてきた日常に支障はない。 今日もルーティーンをこなすだけ―― 「失礼しましたー」 挨拶をして、職員室の扉を閉める。 教室へ行くと、今日の日直が自分だった事を知った。 職員室に行き先生の指示を仰ぐ。一時間目の英語の授業で使う教材を教室まで運べ、との事だ。 教材は体育倉庫にあるらしい。 「面倒だけど……行くか」 運動部員が朝練しているのを眺めながら、体育倉庫までやってきた。 鍵は預かっている。教材は中にあるらしい。 「それにしても、英語の授業で使う教材が なんで体育倉庫にあるんだよ……」 意味わからん。体育倉庫を物置か何かと勘違いしてないか? 愚痴同然の疑問を頭に浮かべながらも、体育倉庫の鍵を開けた。 倉庫内は薄暗く、当然誰も中にいない。 改めて室内を眺めると、少し不気味な雰囲気だ。朝だというのに、どこか排他的で素っ気ない空気感に満ち溢れている。 「えっと……教材は……」 ここからさっさと出るべく、目的のものを探そうと倉庫内を見回してみると――     「……………………」 異質。 ただただ、異質。 間違いなく、この体育倉庫に在ってはならない存在。 「なんだよ……これは……」 真っ黒な立方体がポツンと、倉庫の床に置かれていた。 誰かが置き忘れたようには見えない。 その箱は、明らかにその存在を主張している。 明確な意図をもって、ここに置かれている。 「……………………」 倉庫に不似合いなこの異物から、視線を外す事が出来ない。 むしろ、もっと見たくなってしまう。もっと知りたくなってしまう。      この箱の真意を。 箱の、中身を――  「開けて……いい、かな……」   周囲には誰もいない。肯定も否定も聞こえてこない。    俺はゆっくりと箱に手を伸ばし―― 「――っ!」 中身のそれと視線を交わし合った―― 「ゔ…………!」 「ゔっ、わっ……!」 「うわああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああっっ!!!」           ――この世界は、花である。       甘美な蜜が溢れ、美麗な香が舞い散っている。        花弁に覆われた世界は、純潔そのものだ。           この世界は、花である―― 目を開くと、そこにはいつもの光景。 いつもの仲間。いつもの会話。 相変わらずの日常だ。 「――さて、と」 身体をグッと伸ばして、息を吐き出した。 歓迎会の片付けは終わった。つまり、この長かった一日がようやく落ち着こうというのだ。 「そろそろ帰るとするか」 「ゆっくりとシャワーでも浴びたいものですわね」 「しかしなんともいい一日だった。 人を喜ばせる事の素晴らしさを知ったよ」 「転入生、楽しんでくれたみたいで良かったよ」 その通りだ。歓迎会なんて押し付けがましいかなとも思ったが、自己満足で終わらないで安心した。 「よし、それじゃあ俺は帰るわ。お疲れさん」 皆に挨拶して、教室を出た。 日が傾き、少しずつ風が冷たくなっていく。 この短い通学路で、この時間に浴びるこの風は、なんだかとても心地良い。 この島には自然が溢れている。 居住区を外れると、森林や草原がある。商店街を突き抜けてまっすぐ歩けば港に出る。 この風だけじゃない。海も、山も、そして花も。 この島の自然は、どれも人を優しくさせてくれる。 「……週末あたり、ちょっと海の方にでも行こうかな」 ぼんやりとそう思わせてくれる天気だった。 「ん…………」 朝―― 「ふぁ~あ……」 昨日の歓迎会の準備や片付けで随分疲れたからな……。まだ眠り足りない感じだ。 とはいえ。ゆっくりしている時間は無い。 まだまだ眠いが、支度をして部屋を出た。 朝の挨拶があちこちから聞こえてくる。 今日もいつもと同じような一日が始まるのだ。 「おや期招来さん。おはようございます」 寝惚け眼でも、その服を見たらすぐに誰だかわかる。 「フーカ。おはよう」 「あらま。眠そうですねぇ」 「昨日の疲れがまだ残ってるんだ。 それに加えてこの天気……」 「ふふっ、今日も今日とてポカポカしてていいお天気です」 「だな。この島は天気もいいし、空気も美味い」 「はいっ♪」 他愛のない世間話に、にこやかにほほ笑むフーカ。 こんなにも穏やかな笑顔が見れて、朝からラッキーだ。おかげでいつの間にか眠気もどこかへ行ってしまう。 「フーカ、そのメイド服暑くないのか?」 「いいえ、そんな事ありませんよ」 「でもフーカって夏でも冬でもそのメイド服だよな。 気温の変化ってあんまり関係ないのか?」 「この格好には、すっかり慣れていますから」 慣れてる、か。そりゃそうだろうな。 フーカといえばそのメイド服。まさにトレードマークだ。 「それに、メイド服以外の格好をしてしまったら、 メイドがメイドじゃなくなってしまいます」 おお、並々ならぬこだわりがあるようだ。 「もしかして……いつもその服装なのか?」 「いいえ? 休日は私服ですよ?」 「………………」 たった一言でこだわりを覆されたのだった。 「あ、那由太君、フーカちゃん。おはよー」 「おはよ」 「おはようございます、ゆっふぃんさん」 同級生相手に、頭を下げて挨拶するフーカ。 「フーカちゃんは相変わらず丁寧だねぇ。 私の事さん付けしなくてもいいんだよ?」 「いくらクラスメイトでも、さすがにメイドが そんな馴れ馴れしい言葉遣いをするのは……」 「いや、クラスメイトなんだから 馴れ馴れしくしていいんだよ」 「確かにフーカは誰に対しても丁寧だよな」 後輩の猶猶相手でも、敬語だった気がする。 「もっとガツガツいってもいいんだぞ?」 「そうだよー。男子相手だといき辛いなら、 私とかどう? ほら、女の子同士なら平気でしょ?」 「ふふっ、そうですね。誰とでも仲良くなれる ゆっふぃんさんとでしたら、少しだけ慣れ慣れしく 出来る気がします」 おお、さすがフーカ。御伽の性別ネタを上手くかわして気の利いた回答を返したぞ。 「メイドである以上、どなたに対しても失礼があっては いけません。学友として、これからもこのフーカに ご指導のほどよろしくお願いいたしますね」 そう言って今一度頭を下げた後、フーカは自分の席へと去っていった。 「うーん……完璧なメイドっぷりだ。 同じ女としてちょっと憧れちゃうな……」 「確かに……メイドとして完璧だよな」 「………………」 「……ん?」 「同じ! 女として! ちょっと憧れちゃうな!」 「………………」 「同じ!! 女として!! ちょっと――」 「あー、はいはい」 俺は拾わない。面倒臭いからだ。 「ぶー、那由太君の意地悪。ぷんぷんっ!」 いかにもぶりっ子のように頬を膨らませる御伽を無視して、俺も自分の席についたのだった―― 昼になった。 午前の授業は座学ばっかりで、身体が硬直してしまった。 気分転換に少し歩くとしよう―― 世界から武器が消えたとして、争いが無くなる事はない。 武器が無ければ拳で殴る。 腕が無ければ言葉で詰る。 喉が無ければ視線で謗る。 命ある限り、人間は勝利を渇望し、そのために他者と争い続ける。 勝利のために、凶暴性を発奮させる。 永遠なんだ。人間の悪意は。 教室では、何やら羽瀬が女子達の前で高説を行っていた。 「いいか諸君。エロゲの売り上げに関わる最重要項目とは なんだと思う?」 「――ぶっ!?」 こいつ女子の前の何言ってんだ!? 「値段……とか?」 「絵の可愛さに決まってます!」 「甘いよたりたりちゃん。エロゲだよ? やっぱりエロさが一番大事だよ!」 「ちょ、お前ら何普通に議論してるんだよ!?」 「おお、那由太か。丁度いい。 お前にも資本主義の真理を教えてやる」 「羽瀬がエロゲの企画書作って メーカーに送ったんだって」 「ああ、そういやいつだったかそんな事言ってたな」 “応募”フェチとしてのプレイの一環なんだろうけど。 「もしかして、先方から返信が来たのか?」 「時間の問題だろうな」 「来てないんかい!」 「……の割にはエロゲで一山当てる方法を知ってるって 言うからさ。こうして問い詰めてるわけよ」 少女筮よ。そんなの知ってどうするつもりなんだ。 「……一山当てるどころか、送った企画書の感想すら もらえてないお前が何を語るんだよ」 「ちなみに俺の18禁用ペンネームは“ローリー羽瀬”だ」 聞いてねえよ。 「んで、羽瀬先輩っ、話の続き続き」 「――うむ、そうだな、話を戻そう。 エロゲの売り上げに最も必要な要素の話だったよな」 「……ごくり」 一人、本気でこの話題にのめり込んでしまった純真無垢な少女まで呼び寄せている状況だ。 「エロゲにおいて最も大切な要素……。 それは値段でも絵でも、ましてやエロスでもない……」 「――危険度だ」 「危険度……!」 「そう。ユーザーは独特の選民思想を持ってるんだ。 その矜持を刺激するものこそが危険度」 「危険であれば危険であるほどいい。 ユーザーは常にスリルを求めている。 それに対価を払うと考えろ」 「危険なゲームは世の中から忌み嫌われ、 アングラの世界でのみ認められるものとなる」 「コアなエロゲユーザーは隠れキリシタンのように そのゲームを人知れずプレイし、孤独な自尊心を 満たすのだ」 「……で、具体的にはどんな内容が危険なのよ?」 「現世で禁じられ、ゲームの中でしか 許されなくなった寵愛。 過激だが純真、サイコだがジャスティス」 「言わずもがな。ロリゲーだ」 「あぁ……だからローリー……」 「ロリコンは罪の可否に関わらず今やどんどんと 異教徒として魔女裁判に駆られている」 「そんな社会背景があるからこそ、ロリへの欲望を持った 人間は逆に増大し、そのコンプレックスを力に変えて いる。抑えつける事で、欲は決して消えはしないのだ」 「言ってる事はなんとなくわかるけどさ。 エロゲのジャンルでロリモノなんて よくある話じゃないのか?」 「甘いな那由太。思考停止とはまさにこの事。 現代社会が産んだ知的被害者か、 はたまた競争産業が産んだ負の奴隷か」 エロゲの話でそこまで言われる筋合いはない。 「いいか。ロリ度と危険度は比例する。 登場人物の年齢が下がっていくにつれて、 どんどんと禁忌に近づいて行くのだ」 「しかしそのご法度をユーザーは望む。 一線を越えてなおロリを求め続けるのだ」 「18より17、17より10、10より5、 そして5より0……」 「0っ!?」 「当たり前だ。数値は低くなるほどクレイジー。 ユーザーは常に未見の秘境に飢えている」 「こいつエイジズムの塊だ……!」 「かつては一桁の自然数で満足した。しかし今は違う。 目の肥えたユーザーはさらにハイレベルなものを求める」 「馬鹿な……0って無だぞ!?」 「“0”ももはや常識概念となりつつある。 危険領域の最前線を行くメーカーは、 すでに数値の範囲を自然数から実数へと広げた」 「つまり……!」 「お察しの通り。マイナスだ」 「マイナス……!」 「18歳など老衰! 10歳など姥捨て山!  0歳でニュートラル! -5歳でいよいよ ロリの世界だ!」 「数直線は伸ばされた! 0で留まって諦めた者に 希望の光が差し込まれたのだ!」 奥深すぎだろロリゲー……。 「しかし言い換えれば危険なチキンレースはまだ 続くという事……。人間の業の深さ、どす黒い欲望を 持つエロゲユーザーの渇望をなめてはいけない」 「彼らはさらに求める。危険を。至高のロリを」 「日和ったメーカーは取り残される。 ロリったメーカーだけが生き残れるのだ」 「つってももう無理じゃん。 -100歳とか意味わかんないじゃん」 あ、ついに会話に入ってきた。 「マイナス方向に突き進んでもキリがないって事は…… ま、まさか……!?」 「――虚数……!!」 「そう。imaginary numberの 頭文字をいただいて“i”……これが理論上、 ロリの行き着く最終危険地点……!」 「i歳……!」 「うむ。虚構に生きるエロゲロリキャラの 年齢が虚数なんだ。なんか虚構で虚数で、 二乗した気がして一周まわってむしろ現実だ」 「こ、この人、なんかヤバさが本物な気がします……!」 「いいか。それに比べたら君達の年齢なんて あまりにも些細な事なんだ。 迷える少女霍くんよ、今いくつだ?」 「《ピー》●■歳!」 「うわあ!」 流され易過ぎだろ! 「霍ちゃん……ピー音入れるの大変だから、 あんまりそういう事言うの止めようね……」 危険だ……この会話、危険な気がする……! 「ちなみに今のエロゲでマストなのは、“統一性”だな。 俺が先日送った企画書も、ちゃんと一つのコンセプトに 基づいた作品となっている」 「ああ、それは理解しやすい話題っぽいね。 コンセプトを絞るって大事だし」 「登場するヒロインに共通項があるんだ」 「……ヒロイン全員妹とか?」 「ヒロイン全員男の娘とか!」 「出てくる女の子がみんなブルマとかスク水とか 着てると萌え~ですよねっ♪」 「で、どういう企画にしたんだ?」 「ヒロイン全員痔」 「なんと!」 「ゆえに座位が出来ない……」 「知らんがな……」 「人気投票一位が予想される妹キャラには イボ痔枠を与えた。幼馴染の同級生は切れ痔だ」 「他には他にはー?」 「なんで乗り気なんだよ」 「オリジナルの痔ももちろん用意してある。 萌え痔、デレ痔、縞パン痔、語尾痔、法隆痔……」 「一部説明を聞かなくても想像出来るものもあるな」 「個人的に語尾痔が気になります痔ぃ……」 さっそく語尾に痔をつけやがった。 「――ちなみに魔法少女モノだ」 「マジかよ、戦う系かよ!」 「決め台詞は“もたもたしてっと 次の世紀末がやってきちまうぞ!”だ」 随分勝気な口調だなあ……。 「変身する時はケツ穴に自分の指を突っ込むんだ。 痛みに耐えれば耐えるほど魔力が増幅する」 「自ら痛みを生み出さないと戦う事が出来ない。 しかしやり過ぎは禁物。 出血したらそれどころじゃないからな」 「ひえ~~……! なんか具体的な話になってきました~~……! 猶、若干引き気味です~~……!」 割と序盤から具体的だったっつーの。 「内股でしか歩けなくなったら、魔力が十分に 溜まった証拠だ。強力な魔法で敵を討つ」 「必殺技の名前はもちろん……」 「――痔・エンドだ」 「わっはははは!」 くそう、こんなので笑っちまった……! 「……とまあこんなところだ。 俺にかかればこれくらいの作品を産み出す事は容易い。 市場独占も夢じゃない。どんとこい独禁法!」 「で、諸君らがもしどうしても俺の成功にあやかりたい というのなら、この企画を共同作という事にしても――」 「――誰が乗るか、そんな話!」 校舎を出て、校門へ向かって歩くと―― 合唱部三人娘と遭遇した。 「あ、期招来君だー」 「今日は音楽室じゃないのか」 「外でランチしようって話になったのよ」 「ああ、なるほど」 昼食を外で食べる事については特に校則で制限されていない。 昼休みの時間内であれば、EDENの敷地外で食事する事も許されているのだ。 「ご飯の後はカラオケへゴー!」 「そんな時間あるわけないでしょ」 「それに、平日の昼間に制服でそんな事したら 怒られちゃうと思うよ?」 校則で外食が許可されている事は知れ渡っているので、飲食店の関係者は昼間にEDENの生徒が来店しても驚いたりしないだろう。 現にこの時間、商店街の飲食店に出向くと大勢の生徒の姿を確認することが出来る。 しかしさすがにゲームセンターやカラオケなどの娯楽施設となると話は別だ。昼休みの時間内であったとしても、入店は許可されないだろう。 「それよりもまず、お店を決めないと」 「そうだねぇ。えっと……まこちーはイタリアンが いいんだよね?」 「う、うん……」 「で……ことちーは……」 「私は新しく出来たパン屋さんがいい」 「うーん、意見が割れちゃってるねー」 「…………くわっ」 「………………ぁぅ」 小鳥は鋭い眼光を放って、まころを威嚇している。 見よ、それを受けて小動物のように縮こまっているまころの無力な姿を。 「うーん、このままじゃ昼休みが終わっちゃうよー。 どうにかしないといけませんなー」 「という事で、ここは期招来君に決めてもらいましょー!」 「ええっ!? 俺っ!?」 「期招来君、やっぱりイタリアンだよね? パスタでモッツァレラでアルデンテで、 そりゃあもうトレビアーンだよね!?」 「お昼休みなんだし、もっと手軽に食べられるものの 方がいいでしょ!? 期招来、あんたもパンの方が いいと思うわよね? あんたパン超好きでしょ?」 いや、俺別にそこまでパンが好きってわけじゃないけど。あとまころ、トレビアーンはフランス語だ。 「っていうか、俺じゃなくって晦に決めてもらったら いいじゃないか」 「え…………」 「だって、お前達ちょうど三人なんだからさ。 多数決したら必ず決まるだろ?」 「い、いや……期招来、ちょっと待って。 こういう時にみそに意見を求めちゃうと……」 「イタリアンかパン屋か。晦の一票で決定な。 恨みっこなしだ」 少数意見を抹殺する決め方はあまり好ましくないが、時間も無い事だし、なにより仲良しの三人がそんな事で関係を崩すとは思えないし。 「で、晦はどっちがいいんだ?」 「えー? 晦が考えるのー? うーん、そうだねー……晦はねー……」 「――ラーメンが食べたい!」 「ら、ラーメンっ!?」 急遽、第三案が現れたぞ!? 「ぁぁ…………」 「また……面倒な事に……」 「みんなでラーメン食べようよー!」 「えっと……イタリアンとパンの どっちかって話じゃないのか?」 「みそちはそういうの気にせず自分の意見を 言っちゃう子だから……」 「……しかも、一度言い出すと もう絶対曲げないのよね……」 「晦、味噌ラーメンがいいな。晦なだけに!」 な、なんだこの屈託のない笑顔は!?何の疑いもなく、心からラーメン案を推してるぞ!? 「……悪気が無いのがさらに手におえない」 「うう……なんか……とっても不本意な形で 話がまとまろうとしてる気がする……」 「って事で、ラーメンでいいかなー? いいよねー?」 「………………」 「………………」 「…………はい」 「それじゃあさっそくラーメン屋さんにしゅっぱーつ! んじゃね、期招来君っ!」 「お、おう……」 遠い眼をしている二人を尻目ににこやかに歩き出す晦を、俺は力無くひらひらと手を振って見送った。 なんか……多数決よりも遥かに暴力的な決議方法を垣間見てしまった気がする。 「合唱部の三人の関係って……絶妙なバランスなのかも」 屋上の扉を開くと、穏やかな風がふわっと舞い込んできた。 「……お」 その風に靡かれながら、空を眺める少女が一人。 「あら。奇遇ね」 「一人で何してるんだ?」 「あなたと一緒よ」 というと……? 「この心地良い風を、堪能しているのよ」 「ああ……なるほど」 志依の視線は、遠くを捉えている。 奥に見える山の頂上か、それともその頂を覆う雲か、それとももっとその先の何かか―― 「気持ちいいもんな。ここの風って」 「この島の自然を一身に浴びているの。 愚かなしがらみから解放された気分だわ」 「志依にもそういう悩みとかがあるのか?」 「あら? 私を誰だと思ってるの?」 「超人エスパー」 「普通の女の子よ。年頃の……ね」 その言葉と同時に、淡いそよ風が志依の髪を撫でた。 絶妙のタイミングだ。志依が風を起こしたとしか思えない。風使いの能力者め。 「……ちょっとした疑問なんだけど」 「ええ。どうぞ」 「志依って、その車椅子で階段とかどうしてるんだ?」 屋上に来るまでに階段を上らなくてはいけない。 いや、そもそも俺達の教室も一階じゃないから階段は必須だし、日常生活で段差に直面する事は多々あるはずだ。 「この車椅子の万能さを知らないようね」 「上り下り出来るようになってるのか?」 「ビームだって出るんだから」 確かに肘掛けのタッチパネルにたくさんのボタンがある。攻撃用機能が備わっていてもおかしくは無い。 「見せてあげましょうか? 校庭で過ごす呑気な下民達を ここから一掃する様を。ほんの数秒で火の海なんだから」 「強力なビームだな」 「くふふふっ……私にかかれば人類の滅亡なんて 容易い事なのよ……。ふふっ、くっくっくっ……! くっひっひっひっひっ!」 悪役っぽく笑う志依。なんだか楽しそうだな。 「こりゃあ志依には逆らわない方がよさそうだ」 「物わかりがいい子は好きよ。期招来君は今日から 私の悪の組織の部下に決定ね」 志依は確かに雰囲気あるもんな。ラスボスって感じだ。 「さっそくだけど命令よ。私を教室まで送り届けなさい」 「階段の上り下りも自由自在なんだろ?」 「部下が悪の大首領様のお世話をするのは当然なんだから」 「へいへい……」 車椅子の取っ手を掴んで、志依を丁寧に運ぶ。 「~~♪ ~~~~♪」 階段を下りている間、志依はやたらと嬉しそうだった。 EDENと楽園欒を繋ぐ道をのんびりと歩く。 この時間にここを歩いている生徒は、朝の通学時間に比べたらさすがに少ない。 とはいえ、今の俺のようにいつも一定数はいるのだ。 そもそも昼休みというのは、あくまで一日の授業カリキュラムの中の一休憩に過ぎない。 が、特にその時間の行動範囲を限定されているわけではない。EDENと寮は距離的にあまりにも近いため、こうして一時的に帰寮する事が可能だ。 もちろん午後の授業の前にきちんと教室に戻る事が前提になるが……。 「あー、ったりー。 このまま午後の授業フケちまおっかなー」 とまあ、今にもその前提に逆らおうとしているヤツが目の前に一人―― 「……ん?」 「おう」 「んだよ期招来かよ。お前もサボる気か?」 「いや、そのつもりはまったく無いけど」 メガはサボるのだろうか。 まあこいつが授業をエスケープするのは珍しい事ではない。 昼休み後に姿を消したり……そもそも朝から休んだり。 病院通いの志依のように出席率は低い。しかしこいつがあまり登校しないのは、志依のようにちゃんとした理由があるわけではなく……。 「ふん。俺は今日サボろうかねぇ」 単なるサボタージュ。実に不良らしい。 「午後英語だぞ。出席率ヤバいんじゃないか?」 「知らね。どうでもいいし」 ちなみにメガはこの通りの不良だが、別に俺はこいつを恐れたり避けたりする事は無い。 不良といっても、そこまで悪いヤツには思えないのだ。歓迎会の時も準備や片付けなどは一応付き合ってくれたし……。(彬白先輩のおかげなんだろうけど) こいつの素行に直接迷惑をかけられた事が無いというのも理由の一つだろうか。 「けっ……英語とか数学とか…… 将来なんの役に立つんだよ」 メガは……俺をあまり気に入っていないようで、いつも喧嘩腰で睨んでくる。まあ俺に限らず誰にでもそうなんだが。 そんな威嚇に怯える事無く普通に接しているのがなおさら彼の神経を逆撫でしているのかもしれない。だとしてもこちらは態度を改めるつもりは無いのだけれど。 「メガ、普段授業サボってる時どこで何してるんだ?」 「あ? てめーには関係ねーだろ」 というようなギラリとしたガン飛ばしに臆する事無く話を続ける。 「彬白先輩が気にしてたぞ」 「マジかよそれを早く言えよたまんねーなおい!」 女性の先輩の名前を出すだけで陥落できる不良。これだからメガは怖くないんだよ。 「まあ……適当だよ。街をぶらついたりよ。 最近は寮に帰る事が多いけどな」 「部屋に戻って何してるんだよ」 「今ハマってんだよ。ボトルシップによ」 大雑把な性格の不良のくせして、なんとまあチマチマした趣味を……! 「お前も男ならわかるだろ? 船が少しずつ完成していくロマンをよ」 「まあ……わからなくはないけど。 俺もプラモデルとか好きだし」 「そうかよ。わかったよ。そんなに言うなら 俺の自慢のコレクション今度見せてやるよ」 どうやらそのコレクションとやらを誰かに見せたいらしい。 「つー事で俺は午後はフケるわ。 夜々萌さんにはよろしく言っといてくれ」 「何をよろしく言うのか全然わからんけど、 サボりはほどほどにな」 「新作の完成を楽しみにしてやがれコラ」 不良らしからぬ捨て台詞を吐いて、メガは寮へと歩いて行った。 「うーん……」 それにしても……。 「霍といいメガといい……どうしてうちのクラスの 不良はちゃんとした不良に成りきれないんだろう……」 散歩がてら、楽園欒へと戻った。 授業の合間の僅かな休み時間では無理だが、昼休みくらい長い時間があると、こうして寮とEDENを行き来する事が出来る。なにせこの寮は校舎のすぐそばなので。 寮で昼食を摂る生徒もいるくらいだ。自分の部屋で食べてもいいし、寮の食堂で食べてもいい。そのあたりは割と自由だったりする。 そういう事もあって、この時間の楽園欒は結構混雑しているのである。 「……ん?」 生徒達の人影の中に、知り合いの姿を見つけた。 あれは―― 「あら、那由太君ではないですか。ごきげんよう」 嫌味の一つもない、上品で爽やかなお辞儀だった。育ちの良さを思い知らされる。 「……はい、飴ちゃんですわ」 そして、当然のように受け渡される飴。 なぜか彬白先輩は挨拶代わりに飴をくれる。この飴……売ってるとこ見た事ないけど、どこで購入してるんだろう。 「彬白先輩。お昼ご飯、寮なんですか?」 「はい。実は……忘れ物をしてしまいまして。取りに 戻ったその足で、食事も寮で済ませてしまいました」 「ああ、なるほど」 忘れ物があっても、このように取りに帰れる距離なのが生徒として有難かったりする。 「俺もよく忘れ物するんです。で、昼に取りに戻って……」 「午後の授業で使うものだったので、事なきを得ましたわ」 「何忘れたんですか?」 「えっと……体操着です。あはは……」 わお。 体操着。先輩の体操着。彬白夜々萌先輩の体操着姿。 うーむ。夢が膨らむ。 っていうか、その膨らんだ胸や尻を包み込む先輩の体操着姿を想像しただけで股間が膨らむ。 「彬白先輩の体操着姿って、そう言えば見た事無いです」 「学年も性別も違いますもんね」 「先輩はいつも丁寧でふんわりした印象なので、 運動してる姿があんまり想像出来ません」 「うう……そうですわね……。 私……どんくさくって……」 「あ、すみません……! そういうつもりで言ったわけでは……!」 「いいえ、いいんです。実際その通りなのですから」 「特に最近は自分の思うように動けないんですの。 体操着が……合ってないみたいでして……」 「体操着が……?」 「制服とか体操着は、EDENに入学した時に 買ったものを今も使っていますから……。 その間に成長して、少しキツくなったんだと思います」 成長期って事か。 「制服は、それを着たまま動き回る事が無いので 気にならないんですが……体操着は、どうしても……」 そう言いながら、自分の胸を見つめる彬白先輩。 おお、これは――! 「特に胸のあたりが……体操着ですと……キツくて……。 それと……ブルマですとお尻の方も……うう……」 成長期――万歳――! 「――って、やですわ私ったら! 男の子相手にそんな話……ごめんなさい那由太君、 困っちゃいましたよね?」 「いえいえ、そういうの全然ウェルカムです」 「な、那由太君……?」 「まあ卒業まであと一年もないのに、今更大き目の サイズの体操着を新調するのもあれですしね。 我慢するしかないんじゃないでしょうか」 「そ、そうですわね……。はぁ……卒業までこのサイズで 頑張ってみます」 よし。世の男子の目の保養はなんとか守ったぞ。 「うぅ……おっぱい……お尻……これ以上大きく なりませんように……!」 「………………」 静かに呟かれた彬白先輩の願望が叶う事のないよう、無言の意志力で徹底抗戦したのであった―― …………真昼間から何してるんだ俺は。 「さてと……」 放課後は、特にこれといってやる事が無い。 さっさと帰って自室でゆっくりするのもいいだろう。 「――期招来さん」 「ん?」 フーカに声をかけられた。 「今からお帰りですか?」 「ああ。別に用事もないからな。フーカは?」 「ワタシもです。もしよろしければ一緒に帰りませんか?」 「ああ。と言っても寮はすぐそこだけどな」 「――そう言えばさ」 「フーカってなんでメイド目指してんの?」 横に並んで世間話をしながら、話題を提供してみた。 「……はい?」 「いや……確か、いつか出会うであろう主人に立派に お仕えするために、今のうちからメイドの修行を してるんだったよな?」 「はいっ。ワタシはまだ誰にもお仕えしていない、 フリーメイドです。いつご主人様にお仕えする日が 来てもいいように、向上心を忘れた日はありません」 「……なんでそんなに、メイドになりたがってんの?」 今はフーカ=メイドという方程式が成立している事に誰もツッコまなくなってしまったが、そもそも彼女がメイドを志している理由を俺は知らない。 どうして立派なメイドを目指しているのだろうか。クラスメイトに丁寧語を使ってまで。日々メイド服に袖を通してまで。 「……ワタシには、この生き方しかないからです」 「……ん?」 「ワタシは、日本人ではありません」 「ああ、そうなんだ」 そりゃそうか。名前がもう異国のものだもんな。 「幼少期に色々ありまして……幼いながら、 一人でこの国にやってきました」 「えっ!? 一人で!? 生活はどうしてたんだ!?」 「えっと……まあ一応、住まいはちゃんとありまして……」 「そ、そうか……」 幼くして一人で暮らすなんて、いくら平和なこの国でも不可能に近い。さすがに住む当てはあったようだ。 「ですが……祖国を離れて生活するワタシは…… 幼い頃から常に孤独でした」 「だからこそ、メイドになる事で自分の存在意義を 見出したいのです」 「………………」 「………………」 「………………」 「………………」 グッと拳を握って決意を示すフーカ。 「え……!? 今ので話終わり……!?」 「は、はい? そうですが……何か?」 「い、いや、なんでメイドになる事が 自分の存在意義を見出す事になるんだよ!?」 孤独云々の話も、メイドとどう関連しているのかよくわからなかった。 「んー、そうですね。詳しくお話すると長くなって しまうと思うのですが……それでもよろしいですか?」 「ああ。構わない」 プライベートな話になりそうだが、フーカは気にせず語ってくれそうだ。 よし。フーカの異常なまでのメイドに対する熱意の謎を今こそ暴いてみようじゃないか。 「えーっと……まずですね、ワタシの生い立ちを もう少し説明しますと……」 「ふむふむ」 「そもそもワタシは……あっ!!」 「うえっ!?」 突然の大声。なんだ急に!? 「――っという間に、もう寮についてしまいました♪」 「ありゃホントだ」 なにせ校舎の隣だからねえ。 「自分語りをしたいのはやまやまですが…… このお話の続きはまたの機会という事で」 「……だな」 「はい。それでは期招来さん。また明日」 「………………」 行ってしまった。 鈍感な俺だが、これくらいはわかる。 話したくなかったんだろうな。自分の過去。自分の夢の理由。 思えばフーカがこれまで誰かに自分の話をしているところを、俺は見た事が無い。 毎日メイドの格好をして登校しているという時点でワケアリだ。隠し事の多い少女なのだろう。 色々追及してしまったが……野暮だったかな? 「……ま、別にいっか」 向こうは大人の対応で話を途切れさせたんだ。これ以上俺が気にする必要無いか。 「………………」 「でも……やっぱちょっと気になるな」 隠されると、なおさら―― ――朝。 ――というか、もう昼。 「ふあ~~あ……」 目覚ましに急かされない朝というのは、実に気持ちがいいものだ。もう昼だが。 「そろそろ起きるか……」 今日は日曜日。ゆっくりと部屋でぐうたらして休みを漫喫したいところだ。 んが。 「部屋にいてもやる事無いし、出かけるかぁ……」 そう。この部屋、あんまり時間潰せないんだよな。 漫画はもう大体読み飽きちゃったし……最近は全然ゲームも買ってない。 「久しぶりに新作を漁るかぁ」 支度を終えて、寮を出る。 天使島は離島とはいえ、一応ゲームや漫画などの娯楽品も最新のものを取り揃えている。 店の数はそこまで多くないが、物の入手はさほど困難ではないのだ。 まあ、逆に言えば……この島で若者が行く店なんて限られているので、休みの日にそこに行くと大体誰か知り合いとエンカウントしてしまうわけだが。 「――あら?」 ――ちょうど、こんな具合に。 「おお、フーカ」 「期招来さん、偶然ですね。お買い物ですか?」 「まあな。フーカも?」 「はい。お部屋に飾るアロマキャンドルを買いに」 オシャレ女子だな。 「……ってか」 「……?」 「私服」 「はい?」 「私服じゃん、フーカ」 「え、ええ。そうですね。今日はお休みですので」 「メイドもお休みか」 「えっと……そ、そういうわけではありませんが……」 「あのメイド服は皆さんにとっての制服みたいな ものなのです。……寮にいる時や授業が無い日は ワタシも私服なんですよ」 そういえば以前、休日は私服って言ってたもんな。 「それにしても珍しいな、メイド服じゃないフーカ」 「そ、そうでしょうか……なんだか恥ずかしいですね」 「いや、恥ずかしがる事なんてないよ。 その私服も似合ってる」 「ああん、あんまりじろじろ見ないでください~!」 そう言われると余計に視姦して辱めたくなるのが男ってもんだ。 「うう……こ、こんな事ならもう少し オシャレしてくればよかったです……」 「いや、十分オシャレ女子だよ」 俯いてもじもじと恥ずかしがるフーカ。 いつも優雅で丁寧な素振りをしているおかげで忘れがちになるけど、やっぱ中身は年頃の女の子なんだなぁ。 「――そういや、フーカってなんでEDENではいつも 制服じゃなくってメイド服着てるんだ?」 港のベンチに腰掛けながら、フーカに他愛ない質問を投げかけた。 なんとなく二人で歩き、なんとなく海の方まで来てしまった。潮風に揺れるフーカの後ろ髪が艶っぽい。 「……? メイドがメイド服を着るのは当然ですよ?」 「いや、まあそうなんだろうけどさ。 一応フーカもEDENの生徒なんだから、 制服着用の義務があると思うんだが……」 「そのあたりはアレですね。 色々理由はあるんですけど……」 「一言で言えば“メイドだから”です」 実に説得力のある力強い答えだった。 「夏も冬も同じメイド服で乗り切ってるもんな」 制服だと、夏服・冬服などがあるし、いくらか過ごしやすいようにカスタマイズも可能だ。 しかし、メイド服に季節は関係ない。年中同じ姿で夏の暑さと冬の寒さを乗り切らなくてはいけないのだ。 「慣れてるって言ってたけど……立派なもんだ」 「あはは……えっと、実はですね……」 「ん?」 「暑い日は、夏用の生地の薄いメイド服に変えてるんです」 「えっ!? そうなのっ!?」 「はい。見た目は変わらないんですけどね。 色もデザインも一緒ですので」 「知らなかった……」 「じゃあ冬用のもあったりするのか?」 「寒い日のために、生地の厚いものも ちゃんと用意しています」 「それだけじゃなくて……シャツの下に何枚も 肌着を重ね着したり……スカートの下に、 タイツとスパッツを重ね穿きしたり……」 めちゃくちゃ庶民的だ! 「多分……皆さんが着用されているEdEnの制服より、 あったかいんじゃないかと……」 なんてこった。フーカは俺の想像以上にちゃっかり者だった。 「……秘密ですよ?」 「あはは。でも別に秘密にする必要無いんじゃないか? そういう一面を明かした方が、皆にとっても親近感が 湧くと思う」 「いえいえ。メイドたるもの、常に清楚に、神秘的に、 靴下は三つ折りで! そんな野暮ったい事は誰にも 話してはいけないのです」 メイドってわざわざ秘密を設けてまで神秘性を演出するものなのか? 「でも俺に話しちゃってるぞ?」 「そうなんですよ。困ったものです」 和やかに笑いながら、フーカは俺の目から海の向こうへと視線を移した。 「本当に…………困ったものです、期招来さんは」 「…………?」 「メイドの裏事情って……本当はご主人様くらいの御方 じゃないと、お話ししてはいけないんです。 ……普通の人には絶対に明かしてはいけないんですよ?」 「でも……お話ししてしまいました」 「そして……これからもきっと色々お話しすると思います」 視線が戻ってきた。 それまでよりもどこか蠱惑的な瞳―― 「……どうして俺に話したんだ?」 「期招来さん、話しやすくって」 回答が速い。フーカの言葉には躊躇が無い。 何かを急かされているようだ。 彼女のテンポに乗って、たどたどしい言葉しか出てこない。 「そ、そうか……? 自覚は無いけどな」 「いえ、話しやすいっていうのは少し違いますね。 もちろんそういうところもありますが……」 「あなたは……他の人よりも…… ご主人様っぽい、です」 少しだけフーカの言葉がテンポを崩した事で、余計にその一言が強調された。 「……その自覚も無いよ」 「――期招来さん、お願いがあります」 かつてないほど、強い視線。 「このワタシ、フーカ・マリネットを あなたのメイドにさせてくださいませ」 かつてないほど、強い決意。 「え……!? そ、それって……」 「ワタシのご主人様になってください」 ――その言葉に。 俺は何て答えるべきなのだろうか。 肯定するにしろ、否定するにしろ、色々な事を考慮しなくてはいけない。 フーカは……メイドになりたがっている。その情熱は俺もよく知っている。 メイドとしての彼女に足りないもの。それはたった一つだけ。 従属すべき主の存在だ。 俺が……彼女の唯一欠けたピースになる……? そんな事が……出来るのだろうか……? フーカの要望に―― 何て答えるべきなのだろうか――? 「すっかり暗くなってしまいましたね」 「そうだなぁ」 随分長話してしまった。 フーカと落ち着いてこんなに喋ったのは初めてだったけど……とても楽しかった。 知れば知るほど、彼女は一人のメイドである前に一人の女性であり。 そして、可愛いのだ。 「そろそろ寮に戻りましょうか……?」 「ああ。一緒に帰ろう」 帰宅する先は同じ場所だ。必然的にフーカを送り届ける事になる。 「あ……そうだ」 「……ん?」 「今でもいいですし……別に寮に戻ってからでも いいんですが」 「ワタシ、確認したい事がいくつかございます。 どういたしましょうか……?」 「どう、って……」 今すぐか、寮に戻ってからかって事か? 「何を確認したいのか知らないけど、 今出来るなら今したらいいんじゃないか?」 「今……ですか」 「ああ。なんか気になるし」 フーカは少しだけ思案すると、周囲をキョロキョロと見渡して―― 「……そうですね、かしこまりました。 ワタシとしましても、早い方が好ましいですし」 「――という事で、どうぞこちらへ」 突然俺の手を握って、歩き始めた。 「え……!? フーカ、どこ行くんだ……!?」 フーカに連れられて、商店街の脇道に入った。 辺りは暗く、当然誰もいない。 「こんなところに連れ込んで……どうしたんだよ?」 「ですから……確認するんです」 「だから何を」 「おちんちん」 「――ぶっ!?」 急に何を言い出すんだこの子は……!? 「言うまでも無い事です。ワタシはメイドとして、 そのお身体の隅々までしっかりと把握して おかないといけません」 「例外の箇所などないのです。おちんちんの確認も…… メイドの立派なお仕事なのです」 あまりに唐突だったが……聞き間違いじゃなかったようだ。 「って、ちょっと待て、確認って……どうやって……」 「………………」 「…………まさか……!」 「はい♪」 全てを理解したうえで、フーカは満面の笑みで俺の焦燥に応えた。 「お任せ下さい。粗相のないようにしっかり 頑張らせていただきますっ♪」 「ま、待てって……! こんな場所で……おいっ!」 「ワタシも初めてですのでいささか不安はあります…… ですが、それ以上に喜びの方が大きいです」 「さあ、全てをワタシに任せてください。 今まで蓄えてきたメイドスキルを余すところなく 発揮いたしますので!」 「メイドスキルをそんな事のために使うなって!」 「ようやく……ご奉仕できる。 本物のメイドになれる……! ワタシの長年の夢が……叶う……!」 「という事で……どうぞよろしくお願いいたしますっ!」 「ねっ? ご主人様っ♪」 それが―― 俺が主となってから初めてフーカが発した呼称だった―― 「はふぅん……ご主人様ぁ……♪ さぁ……ワタシの中へ、いらっしゃいませぇ……!」 うっとりとした顔と、甘い猫撫で声。 完全にフーカの中で、“そういうスイッチ”が入ってしまったようだ。 「あ、あのさ……一応聞いておくけど……」 「これ……セックスする流れなんだよな?」 「ええ、ご主人様のお身体チェックという名目で」 名目って言ったぞ! 「本当にするのか!?」 「はい、もちろんです。寮に戻ってからでも 良かったのですが……ご主人様が今すぐと おっしゃったので」 「いや、そんなつもりじゃなくて……」 「ご主人様を我慢させるわけにはいきません。 発情したおちんちんはメイドであるこのワタシが 責任をもってお引き受けいたします」 発情してねえよ。っていうかそもそもセックスするなんて想定していなかった。 「フーカ、初めてって言ってたけど……」 「正真正銘、処女でございます」 「いいのかよ、こんな簡単に純潔を棄てちゃって……」 「簡単? 何をおっしゃっているんですか? ワタシのお願いに対して、ご主人様はしっかりと 悩んでくださったじゃないですか」 「あれは……そんなに簡単なご決断だったのですか?」 「………………」 そうだ……俺はしっかりと悩んだ。フーカの唐突な要望に、なんて答えるべきかしっかりと苦悩した。 フーカの覚悟は本物だった。 俺のメイドになりたいというその言葉。それは、彼女が彼女なりに、“最も主に相応しい人物”を選んだ末の頼みだったんだ。 選別理由は俺にはわかりかねるが……それでも、フーカが悩みに悩んでようやく辿り着いた答えが“俺”だったんだ。 その気持ちを受けて……俺だって悩んださ。 気軽に返答したりしなかった。メイドを従えるご主人様なんてこれまでの人生で想像もした事がなかったけど……出来る限り現実的に考えてみた。 そして受け入れたんだ。フーカの願いを。俺はフーカの主になる事に決めたんだ。 俺の覚悟は、フーカの覚悟に及ばないものかもしれないけど……それでも俺なりに決断したんだ。 「――って、いやいや! 主になるとは言ったけど、 いきなりセックスする展開は聞いてないぞ!?」 「メイドの主になるとは……そういう事ですっ♪」 「……っ!」 フーカは嬉しそうに俺の股間からペニスを露出させた。 「あはぁ……♪ 素敵なおちんちん……! なんともご奉仕し甲斐のありそうな、 ご立派な風格です……!」 「初めまして、おちんちん様……♪ メイドのフーカ・マリネットです。 こうしてお会いするのはこれが初めてですねぇ」 「これからは、ワタシがあなた様のお世話をさせて いただく事になりました。不束者ではありますが…… どうぞよろしくお願いしますね」 「ギンギンでブリブリで、もうどうしようもないくらい 勃起した時は、どうぞこのフーカのおまんこの中で 思う存分暴れてくださいませ……ふへへ……じゅるり♪」 「ふ、フーカ……! ダメだってば……!」 「ああん、どうして止めるんですかご主人様ぁ……! メイドとその主は……お互いの心と身体を しっかりと理解しておかなくてはなりません」 「ワタシは……ご主人様のおちんちんを知りたい。 ご主人様は……ワタシのおまんこ知りたくないですか?」 潤んだ瞳が理性を奪う。 「仮にセックスがメイドの仕事だとして…… フーカの本心はどうなんだよ……!?」 「俺とエッチするのは、嫌じゃないのか? メイドの 任務だから仕方なく……なんて考えているなら、 俺は主としてそんな事止めるように命令するぞ」 「んっ……あはぁん……ご主人様……お優しいんですね」 潤んだ瞳に加えて、生温かい吐息までが俺に襲い掛かる。淫惑に溺れるのは時間の問題だと察した。 「ワタシは……ご主人様としたいんです。 そのあたりはちゃんと込み込みの上で 期招来さんをご主人様にお選びいたしました」 「そ、そうなのか……」 それって……主としてだけではなく、異性としても俺が相応しいって考えてくれたって事か? 「本当に……いいんだな?」 「初めてはご主人様に捧げるって決めてましたから」 何を言っても、彼女から躊躇が返ってこない。 その決意が頑なである事はわかるが……なんだか狂信的だ。メイドってそういうものなのか? メイドにとって貞操観念とはそんなに優先順位の低いものなのだろうか? 「ご主人様はワタシとするのが嫌なのですか?」 ぐっ……潤んだ瞳と甘ったるい吐息で迫るなって……! 「いやってわけじゃ……な、ないけど……」 「でしたらいいじゃないですか。 ワタシはご主人様のお身体を把握できて、 ご主人様は性欲を満たせて、一石二鳥です」 やっぱり……頑なだ。強固過ぎる。 彼女のメイドの覚悟、主に奉仕できる喜びというのは、こんなにも揺るぎないものなのか。 「ご主人様……ワタシを“一人前のメイド”にして ください……! どうか……お願いしますっ……!」 だったら……俺も戸惑うわけにはいかない。 主として、フーカの意志にはまだ及ばないかもしれないが、それでも出来る限り彼女の願いに応え、喜ばせてあげよう。 「わかったよ……フーカ」 それが俺の選んだ道。主としての生き方なのだから―― 「んっ……くっ、はっふぅっ…………!!」 亀頭が膣肉を掻き分けた瞬間、フーカが苦悶の声を漏らしながらビクビクとわずかに痙攣した。 「はっ……ぐっ……んっ、んんっ……くっ、ひっ!」 「フーカっ、大丈夫か……!?」 「はっ、はひっ……んっ、んんっ……!」 「はっ、はっ……ご、ご主人様……はふぅ、 おちんちん、ご立派です、ね……んっ、くぅっ……!」 そう言ってもらえるのは嬉しいが、それは言い換えれば今のフーカにとって負担が大きいという事だ。 「あ……え、遠慮しないでください……! ささ…… 奥まで……んっ、ずっぽりと……どうぞどうぞ……! フーカのゴールはまだまだ先ですよぉ、はふぅ」 「へ、平気なのかよ……」 「はい……お願いしますっ……! ご主人様にお気遣いいただくなんて……メイドの恥で ございます……んっ、はふぅ……!」 「どうか……ワタシの事は気になさらず……んっ、くぅ、 根元までしっかりと繋げてくださいませっ……!」 破瓜の血を滴らせながら、フーカはそう語った。 これも全て彼女の覚悟なんだ。 メイドとしての覚悟―― 俺もそれを受けて、主としての覚悟を示さなくては―― 「それじゃあ……このまま入れるぞ……!」 「はひ……子宮の入り口で……おちんちん様のご到着、 お待ちしておりますから……んっ、はっぐっ!」 強張った膣圧に逆らいながら、ぐりぐりと腰を捻じ入れていく。 「はっふうっ、んぐぐっ、きゃっ……ひっ……! 硬いのが……んっ、お腹の底に……はふっ、ぐっ!!」 「もう少しだ……我慢してくれっ……!」 「んっ……んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ……!! はっ、ぐっふうっ……あっ、あっ……ひっ、んひぎっ!」 フーカの痙攣が一層強まったところで―― 「ひいっ、あっ、やっ、きゃっ、きゃひいいぃんっ!!?」 俺はようやく、幹を完全に挿入し切ったのだった。 「はあっ、はあっ、これが……ご主人様のおちんちん……! ご主人様との……セックス……!」 「ああ……嬉しい、です……メイドとして、んっ、くぅ、 これほどの喜びはございませんっ……はぐぅぅ……!」 「そ、そうか……はぁ、はぁ……そりゃ何よりだ……」 強烈な締め付けを股間に纏いながら、フーカの言葉に応える。 痛みは当然感じているのだろうが……嬉しいというその言葉はきっと真実なのだろう。 そう思ってしまうくらい、彼女の中は異常な膣熱に満ちていた。 「はふっ、さぁ……んっ、ご主人様……! お好きな ように……おちんちんを動かしてくださいませ……!」 「ワタシの身体を……たっぷりと味わってください……! そして……メイドであるこのワタシに……ご主人様の おちんちんを……教えてくださいっ、刻んでくださいっ」 「わかってる……苦しかったら言うんだぞ?」 フーカの様子を気にかけながら、俺はゆっくりと抽送を開始した。 「あっ……あっ……あっ……んっ、あぁんっ、あふっ! んっ、んっ、んっ……!」 腰のリズムに合わせて、フーカが淫靡な吐息を漏らす。 「はっ……んっふ、おっ、おおっ、おちっ、おちんちんっ、 はあぁっ、おちんちんっ、中で動いてっ、ますっ……! んっ、あっ、あっあっ……!」 「はあっ……はあっ……!」 「んひっ、ひゃふっ……ご主人様っ、あっ、ああんっ、 いかがですか……ワタシの身体は……!? はふっ、 あっ、あっ、あっ、あっ……あっひっ、あっ、あっ!」 「ご主人様のそのご立派なおちんちんを……あっ、んっ! ワタシのおまんこは……んっ、ちゃんと満足、あふっ、 させられるでしょうか……はっ、ああんっ、あっ、あっ」 「ああ……すごく、気持ちいいよっ……!」 「はふっ、ひっ、こ、光栄ですっ……! メイドとして……これ以上嬉しい事はございませんっ!」 「ワタシも……とても、気持ちがいいですっ……! 初めてのセックスで、はふっ、こんな、興奮出来る なんて……さすがご主人様ですぅっ……!!」 「あっ、ああんっ、ご主人様が、こんな素敵なものを お持ちだなんて……はふっ、い、色んな意味で、 ワタシ、これから頑張らないといけませんね……!」 どういう意味だよ。 「ああ……ワタシ、幸せです……! メイドとしてようやく報われた気分です……はっ、 んっ、あぁぁんっ!!」 「ずっとメイドに憧れて……ご主人様を探していて……! 誰かに従属したかった! 誰かのそばにいたかったっ!」 「その夢が……ようやく今日、叶いました……! ワタシ……こんな素敵なお方の……こんな 素敵おちんちん持ちの男性のメイドに……!!」 「こんな俺でよければ……これからもよろしくなっ、 フーカっ!」 「はひっ! ワタシこそっ……メイドとしても女としても、 まだまだ未熟ではありますが……す、末永く、はひっ、 よろしくお願いいたしますうっ!!」 「ああんっ、今の、ホントは三つ指ついて丁寧に お辞儀するところなのにぃっ! この体勢じゃ それも出来ませんっ、あふっ、ひっ……!」 「それどころか……あひぁっ! ご主人様の嬉しい お言葉におまんこ感じちゃってますっ……!! 喘ぎながらよろしくだなんて……あっ、きゃぁんっ!!」 「ご主人様ぁ、セックス中につき、ちゃんとしたご挨拶も 出来ませんでっ、申し訳ございませんっ……! スケベ声のままこんな……お許しくださいませぇっ!!」 「いや、そんな事気にしなくていいって……! 今のフーカも十分可愛いし……!」 「あぁん、そう言っていただけると助かります……! ワタシ、正直今……かなりのスケベメイドモードですっ」 「ご主人様のおちんちんチェックタイムなのに……んっ、 ワタシの方が……はふっ、それどころじゃないくらいに、 はふっ、セックスに夢中になってしまって……ひいっ!」 「いいんだフーカ……! 今は……気持ち良くなってくれ!」 「で、ですが……はっふっ、ご主人様を差し置いて…… んっ、メイドがセックスを楽しんでしまうなんて……!」 「俺も十分感じてるってっ! 俺の勃起、フーカも感じるだろ……!?」 「はっ、はっ……はふっ、は、はひっ……んっ、んっ! そ、そう言えば、いつの間にか……かなりのお勃起っ!」 「ワタシ……んっ、はぁん、初めてのセックスで……んっ、 おちんちんチェックの余裕無かったんですが……はぁん、 改めておまんこで感じるおちんちんは……その……!」 「素敵度マックスと申しましょうか……! と、とにかく、 はふっ、ご立派もご立派っ……! たくまし過ぎる素敵 お勃起状態のようですねっ……! んっ、はっふぅ!」 「フーカの中が気持ち良過ぎるから……!」 「さ、さようでございますかっ……このご立派お勃起が、 ワタシのおまんこの影響なのでしたら、はふっ、んっ!」 「ワタシも……あっ、んっ、女としての自信、ちょっと 湧いちゃいますぅ……! あっ、ひあっ!!」 フーカよ、遠慮なく調子に乗っていい。 だってメチャクチャ気持ちいいんだ。 「んっ、あっ、あっひっ……ご主人様……! こ、このおちんちん……尋常じゃないお勃起ですけど、 あっ……くっひっ、んっ、んっ……!」 「こ、これって……ひっ、ああん、お射精……んっ、 そろそろな頃合いという事で、あっ、ああんっ、 よろしいでしょうか……!? はっ、ふひっ!」 ええ、それでよろしいです。 「はぁっ、はぁっ、俺……もう……!」 勃起や射精に“お”をつける不自然な丁寧口調を気にかける余裕がない程度に、俺はもう限界だ。 「で、でしたら……そのまま中出し、お願いいたしますっ! んっ、ご主人様の精液……是非、ワタシにくださいっ、 あっ、ワタシのおまんこに……精液っ、どうかっ……!」 「外は……ダメなんですからねっ……! んっ、くぅ、 ワタシ、メイドとして……はっ、はっ、ご主人様の 精液チェックも……この機会にしておかないとっ……!」 多分フーカにそんな余力はない。きっとこれも“名目”なのだろう。 でも、それで構わない。フーカの希望に応えてあげたいし、何より俺もこの膣圧に包まれたまま、お射精を迎えたい。 「わかった……このままイクからなっ……!」 「ど、どうぞ……お気の済むまま……! んっ、あっ、 おちんちんの中身……全て、ワタシのおまんこに 出し切ってくださいませぇっ……!」 「精液っ、いっぱいいただきたいですっ……! ワタシ、ご主人様のザーメンデビューしたいっ……! 濃厚ザーメンいただけるようなメイドになりたいっ!」 「このワタシを、隅々まで、おまんこの一番奥まで…… んっ、あふぅっ、余すところなく、全部っ……全部っ、 “メイド”にしてくださいませぇっ……!!」 フーカが望む真の“メイド”を目指して―― 「くっ……出るっ!!」 「あっ、あっ、あぁぁあぁぁあぁあぁあああぁっっ!!? あっはぁあぁあぁあぁああぁああぁあああっっ!!!?」 俺のペニスは脈動を叫びながら、白の彩でその願いを成就させた―― 「あぁあんんんっ!!? き、来てますっ、あひいっ!? この熱いの、ドクドクしてるの、こ、これが精液っ!? あっ、あっ、あぁっひいいいいいっ!!?」 「ワタシ、ご主人様に中出ししていただいてますうっ!! メイドのおまんこに、ご主人様のおちんちんが、あふっ、 ただ今お射精中っ、ひっ、すごひっ、嬉しひっ!!」 大量の透明液をほとばしらせながら、フーカは俺の中出しに倒錯している。 その身を支えている右足はガクガクと覚束なく震え、今にも挫けそうなほど快楽に乱れていた。 「ひゃひっ、中出し、素敵ですっ……んっ、あっふっ!! おちんちんまだ震えてますうっ……! んっ、んっ、 さすがのお勃起です、中身もたっぷり……ひっ、んひ!」 「やぁん、気持ち良過ぎて、ワタシも、イっちゃうっ……! あ、ああぁ……おまんこ……ご主人様の素敵おちんちん にイカされてしまいますぅ……あっ、あっ……!」 足の震えが下半身に伝染し、やがてその身体全体にまで行き渡る。 それがようやく落ち着いて……。 「はぁっ……はぁっ……あぁん、いっぱいイっちゃい ましたぁ……ご主人様の初おちんちんで……ワタシ、 はしたないところいっぱい見せてしまいましたぁ……」 「あふぅ、申し訳ございません……ご主人様ぁ……。 ワタシ……自分でも驚くくらい、スケベメイド でしたぁ……あっ、んっ、お許しくださいませぇ……」 「はぁ……はぁ……謝らなくていいって……! 俺も……かなり出しちゃったし……」 膣裂から白濁がガプガプとむせ返っている。 上品なフーカの印象とかけ離れた、その陰部の下品な現状が、たまらなく愛おしい。 「はっ……はっ……おちんちんの硬さ……精液の熱さ…… しっかりとおまんこに刻みましたよ……! マーキング、ばっちりです……!」 「これでもう……ワタシは身も心もご主人様のもの……! ああん、ご主人様あぁ、これからワタシを…… メイドとしてたくさん可愛がってくださいねぇ♪」 甘い瞳でありながらも、その視線は俺を真っ直ぐ見つめている。 性交直後で蕩け切ったこんな状況でも……いや、こんな状況だからこそ、フーカは俺に主としての一言を求めているんだ。 それに……俺はこう返す―― 「――ああ。これからよろしくな、フーカ」 「ふぅ……夜風が気持ちいいですね」 「ああ、そうだな」 夜道を、フーカと並んで歩く。実に穏やかな気分だった。 「でも……あそこがなんだかスースーします……。 膜が破れちゃったからでしょうか……」 「んなアホな」 「ふふっ、えへへっ、へへっ♪」 フーカは、こんなにもフニャフニャと笑う少女だったか。 きっと痛かったり、恥ずかしかったりしたんだろうな。 でも、今こうして笑顔で俺と向き合ってくれている。 その一番の理由は……“メイド”であるから。 フーカは今日、俺のメイドになった。だから喜んでいるのだ。 俺も今日、主になった。 フーカのように、喜ぼう。 フーカとともに生きる日々を、喜んで迎えよう―― 「……さて、そろそろ行くか」 身支度を整えて、通学カバンを持ち上げる。 まだ少し早いが……こんな朝もいいだろう。 部屋でボーっとして過ごすのもなんだか勿体無い。 せっかく早起きしてしまったんだ。朝の空気を吸いにもう出発しよう。 「あら……?」 扉を開けると、そこにフーカの姿があった。 「おはようございます、ご主人様」 「ああ、おはようフーカ」 ご主人様……か。 その呼ばれ方はどうにもむず痒くてまだ慣れない。 でも、自分で決めた事だ。早く適応しないと。 「随分お早いご出発ですね」 「なんだか目が醒めちゃって」 もしかして、フーカとの一件があったからかもしれない。 「そういうフーカも早起きだな」 「ワタシはご主人様をお迎えに参ろうと……」 「え……?」 「もうご支度が整っていらっしゃるようですから、 ワタシの出番はないようですね。 遅れてしまって申し訳ございませんでした」 「な、何の話……?」 「では、このまま登校するとしましょう。 メイドとしてご一緒させていただきますね」 「えっと……ちょっと聞きたいんだけど」 「はい? なんでしょう?」 「フーカは……メイドとして具体的に、 俺にどんなお世話をするつもりなんだ?」 そう言えばちゃんと確認していなかった。 そして、どうやらちゃんと確認しておかないといろいろ厄介な事になりそうだった。 「はい。主に身の回りのお世話……例えば、 朝の身支度のお手伝いや通学のご同伴、お食事の準備、 お茶淹れ、就寝前の子守歌、歯磨きゴシゴシ、夜伽……」 「ちょ、ちょっと待った!」 後半ものすごく有難迷惑なものが幾つか聞こえた気がする。 「か、確認しておいて正解だったぜ……!」 「えっと……どうかしましたか?」 「あのな、俺別に子供じゃないんだから、 そんなお世話される必要無いぞ?」 「確かにご主人様はお子様ではありませんが……。 ご主人様はご主人様です。 “お世話される存在”なのです」 「メイドはご主人様にお世話をし、 ご主人様はメイドにお世話をされる。 そうする事で互いの存在意義が成立するのです」 なんか話が大きくなってる気が……。 「フーカは俺をお世話しないと、メイドとしての在り方を 見失っちゃうってのか?」 「その通りです。メイドなのにご主人様をお世話しない なんて、なんとまあ、どういう事でしょう? 意味が分かりません」 「ワタシがご主人様のお世話をする事。 それはメイドの基本的人権であり、 ワタシのレーゾンデートルであり――」 「わかったよ、わかったから!」 フーカのメイド暴走をなんとか食い止める。 「お世話するのはいいけど……せめてその範囲を 俺に指定させてくれ」 「といいますと?」 「うーん……そうだな……」 「登下校を一緒にしよう。まあ短い通学路だけど……」 それならフーカにとっても楽だろうし、なんか恋人っぽくていいじゃないか。 「はあ……では、お食事のご用意は……?」 「うーん、それは自分で何とかするよ。 食費もかかるだろうし」 「お部屋のお掃除や、お洗濯などは……」 「いや、だから自分でやるって……」 「子守歌や歯磨きゴシゴシ……」 「禁止」 「夜伽」 「禁止!」 「夜這い」 「禁止っ!」 「夜のお楽しみ……ニャンニャンタイム…… ナイターゲーム……逆レイプ……」 「言い方変えてもダメっ! 全部禁止っ!」 「え~~~っ!!? ぶ~ぶ~!!」 ( `3´)≡3というような顔で、全力で俺に非難を浴びせてきた。 「そんな怒んなって! 俺だっていきなり自分の時間が 無くなったら困るんだよ」 「……ご主人様はワタシと一緒に 過ごすのがお嫌なんですか?」 ( ;3;)というような顔で、今度は俺に同情を誘ってきた。 「そりゃあ嫌じゃないけどさ……」 「じゃあご一緒しましょうよぅ♪」 (*≧∇≦)ノというような顔で、俺の背中を勢いよく叩いてきた。 こんなに表情豊かな子だったっけか? 「わ、わかったよ。わかったからバシバシ叩くなって」 主の背中を遠慮なく叩くとは、随分フレンドリーなメイドである。別にいいけど。 「それじゃあさ、昼ご飯は一緒にしよう。 それでいいだろ?」 「お食事……ですか」 「ああ、昼飯と登下校。それで勘弁してくれ」 「……わかりました。メイドとしてご主人様の栄養管理も したいですし、時には自分の料理の腕を振るいたい 気持ちもありますし……」 「食事と登下校と夜のマル秘ニャンニャンナイターゲーム。 その三点セットがワタシの日課のお世話という事で、 今回は手を打ちましょう」 「おい、一個余計なのが入ってるぞ!」 立派なご主人様への道のりは、なかなかに大変そうだ―― 「へー! 那由太君、フーカちゃんのご主人様に なったんだぁ」 「えへへ……皆さん、そういう事ですので 一つよろしくお願いいたしますねっ♪」 友人たちに関係を打ち明ける。 恥ずかしいが……まあいずれバレる事だ。隠していても仕方がない。 「ご主人様ですかぁ……なんだかすごい話です。 やっぱあれですか? 豪邸に住んでるんですか?」 「君と同じで寮暮らしだよ」 「ずるいよずるいよ! 僕ちんも可愛いメイドちゃんが欲しい! エッチでスケベで淫乱なメイドちゃんが欲しい!」 「あらあら、別にフーカさんは普通のメイドちゃんで あって、エッチなメイドちゃんではないですわよ?」 「ふっふっふっ……それはどうでしょう」 「ってなんでそこで乗っかるんだよ!?」 「フーカ……まさかあんた、 那由太にエッチなご奉仕を……!?」 「企業秘密ですっ♪」 「否定しろって!」 まんざら嘘でないから厄介だ。 「まぁ、那由太にそんな度胸があるとは思えんな。 エッチな事なんて絶対してない。してないはず。 してないもんね。してたらやだやだやだ~~!」 情緒不安定な狂人は放っておこう。 「という事で、これからご主人様のお弁当はワタシが 作る事になりました。皆さんももしご興味がござい ましたら、遠慮なくおっしゃってくださいね」 「あ、私興味あるー! フーカちゃんお料理上手だもんね。 今度教えてよー」 「猶もフーカ先輩のお弁当ちょっと食べてみたいですー!」 「わかりました。今度からお弁当少し多めに 持っていきますので、皆さんで食べましょう」 「わーいっ♪」 約束通り、二人で下校。 せっかくなので寄り道して帰ろうという話になり、そのまま商店街へ。 「――やっぱみんなの前でご主人様って呼ばれるの、 恥ずかしいな」 「ですが、ご主人様はご主人様なのですから、 ご主人様以外に呼びようがありません」 「もちろんご主人様も、皆の前でワタシの事を “この駄メイドがっ!”とお呼びくださって 一向に構いませんよ?」 「遠慮しておくよ」 別に駄メイドだと思わないし。 「まぁ……俺はフーカのご主人様になったんだもんな。 その呼ばれ方にも早く慣れないと。恥ずかしがってる 場合じゃないよな」 「はいっ♪ ご主人様である事に、 誇りを持ってくださると嬉しいです」 誇り……か。 「そういうのはよくわからないけど、こうして フーカと一緒にいられるのは嬉しいって思うよ」 「え……?」 「主になった事でフーカと親密になれるのなら…… 俺はそれだけで十分だよ」 「ご主人様……!」 フーカは、足を止めて、瞳を潤ませて、声を震わせて。 「ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様 ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ぁぁっ!!」 俺の事を連呼しながら、歓喜のままに抱き付いてきた。 「フーカ!? どうしたいきなりっ!?」 「だってご主人様がイケメン発言するからぁっ!! お外なのにっ、そんなメイド殺しの口説き文句 言うからぁっ!!」 そんなつもりは無い。 「あぁん、ワタシ嬉しいです……! ご主人様のメイドになれて……本当によかった……!」 そんなに喜ばれるような事なんだろうか。 よくわからないけど……まあフーカが嬉しいなら、それでよしとするか―― 「ふー…………!」 数学の課題をなんとか終えて時計を見ると―― 「げ、もう1時か……!」 こんな遅い時間になっていたとは。 「さっさと寝ないと」 明日……昼にフーカの弁当が食べられるのか……。 楽しみだな。フーカの手作り弁当。 きっと美味いんだろうな。 ああ―― 料理上手なメイドに尽くしてもらえるって、幸せだ―― 「……ちゅっ」 深いまどろみの中―― 「ちゅ……ちゅ……んっ、ちゅ…………ちゅっ……」 彼女の夢を見た。 「はふぅ、んちゅ……ご主人様ぁ……ちゅっ、ちゅっ」 彼女は、俺と淡い口付けを交わし―― 「ちゅっ……ご主人様、はふぅん……ちゅっ、ちゅっ」 やさしく微笑んでくれた。 「ちゅず…………んっ、んちゅ…………ちゅっ、んっ……」 ああ、なんて可愛いメイドだろう。 彼女の唇を独り占め出来るなんて。 主になって良かった――! 「ちゅっ、ちゅぷ…………んちゅ、ちゅずっ……!」 「ん…………!」 「はふっ、ちゅ…………ちゅぷ、ちゅず……んちゅ、 ちゅっぴ、ちゅぷぅ……!」 キスにしては、なんだか随分情熱的な気がする。 「ちゅ……はっ、ふぅ……んっ、くふぅ……! ちゅっ、ぴちゅ……はぁ、はぁ……んちゅぅ……!」 そもそも、俺の唇になんの感触も無い。 フーカのその柔らかな唇を圧し付けられている感覚が、まったく……。 「ちゅ……ちゅぅ、ちゅぷ、ぴちゅぅ……ちゅぶぶっ。 んっ……はっ……あっふぅ……ちゅぷぅ~……」 その分、股間に強烈な刺激を感じる。 これはもうあれだ。あれだよあれ。 あの――いわゆる―― 「…………ん?」 「ちゅぷ~~」 「………………」 「ちゅぷ~~?」 「………………」 「ちゅぷ、ふぁ、ごひゅひんひゃま。 おひゃようふぉふぁいまふ」 「おはよう、フーカ」 ――かなり突飛な夢だった。 フーカに朝フェラされているという夢。 俺……溜まってるのかな。 「……………………」 「ちゅぷ~~……んっ、はふぅ」 「………………」 「んちゅ、ちゅぷっ、ちゅぷ~~っ」 「………………」 「…………」 「――そうじゃなくって!!」 寮全土に響き渡るくらいの大声で、全部まとめてツッコんだ。 「何やってんだよフーカ!?」 「ちゅむ、何って……早朝のおちんちんチェックですが」 「何もおかしな事言ってないって顔でおかしな事言うな」 「れろ……ぺろぺろ……れろぉぉん…………! あふぅ、美味しい……♪」 「くんくん、くんくんくん……すんすんすん……! あはぁん、いい匂い……!」 「色、匂い、艶、感触、どれをとっても健康そのもの。 ご主人様のご立派ペニス、今日も今日とてたくましくて 安心いたしました。……あむぅ」 「何言ってんだって……っっ!」 俺の言葉を遮るように、口技が股間を巡る。 まるで人体の操縦桿を制圧されたかのように(事実そこは男の弱点箇所なわけだが)俺は彼女の口撃で容易く骨抜きになってしまう。 「ああん、ちゅむ、はむ、ワタシ……嬉ひいでふよ……。 ちゅぷく、ご主人様のお身体、今日もお元気で…… ちゅぷむっ、はぷぅ」 「あむあむ、ご健康でお盛んなご主人様にお仕え 出来る事……んちゅむ、メイドとひてほっても 喜ばひく思ひまふぅ……ちゅむぅ」 咥えたまま喋られると、一気に非現実的な快感に苛まれてしまう。 「これも……っ、メイドの仕事の一環か……!?」 「あむふぅ……その通りです……。 ご主人様のお身体の色んな事情は……常にメイドが 把握していないといけませんので……んちゅっ」 「夜伽は禁止って言っただろっ……!?」 「ですが……むちゅ、ちゅぷ、モーニングニャンニャン を禁止されたわけではありませんので……ちゅずずっ」 なんて融通の利かないメイドなんだ……! 「つーかなんで部屋に入って来れるんだ!? 鍵かけておいたはずだぞ!?」 「合鍵を作っておきました。 ワタシがお預かりしております」 「合鍵!? なんで!?」 「ご主人様のお部屋のお掃除もメイドのお仕事です……。 今後お部屋に出入りする機会もたくさんあるでしょう から……メイドとして、鍵は必須なのです」 グッバイ、俺のプライベート……! 「そもそもなんでこんな事してるんだよっ!? 朝っぱらから勝手に部屋に入って来て……こんな……!」 「ですからぁ、あむあむ、これはモーニングおちんちん チェックといって……由緒正しいメイドのお世話手法 の一つなのです……ちゅぷ、むちゅぅ」 「そんなの聞いた事無いぞ!? フェラする必要あるのかよ!」 「確かに視診や触診でも事足りるのですが…… なにせご立派な朝勃ちでしたもので」 「ぐっ……!」 フーカとキスする夢を見たからか? いや、きっと逆だ。こんなちゅぱ音を聞かされたら、そんな夢も見るってもんだ。 「……といいますかですね。今朝、早速お部屋の お掃除をしにこの室内を確認しまして…… 本棚の奥からエッチな本を発見しました」 「ぎょっ!?」 「ご主人様の性欲管理もメイドのお仕事です。 溜まっているようでしたら遠慮なくワタシを お使いくださいませ」 「使うって……そんなっ……!」 「溜まっているのですかぁ? ご主人様ぁ」 フェラされて、屹立棒を天に突き立てて、そんな状態でその質問に否定を答える男が世に存在するだろうか。 「朝のご機嫌なお勃起を確認いたしましたので……んちゅ、 こうしてワタシがお世話させていただいております。 はむ、ちゅぷ、ちゅぱちゅぱ」 「あ、余談ですがエッチな本はワタシの方で 処分させていただきましたので、あしからず」 「ええ!?」 グッバイ、俺のプライベート&コレクション……! 「ご主人様が立派な紳士になるために、ワタシ全力で 協力する覚悟です……! ちゅっ、んちゅむっ!」 「ワタシはご主人様の専属メイド……! エッチな事も全てワタシの管轄です」 「ご主人様がワタシ以外の女性に興奮しないように…… 女ったらしの煩悩牡野郎なんかではなく、常にメイド を愛するメイド萌え紳士になれるように……」 「このおちんちんの調きょ――躾けの方は、どうぞ ワタシにお任せ下さい……ぺろぺろ」 「今調教って言おうとした!」 「いえ、決してそんな事は……ちゅむ~」 「ってか躾けも同じだ!」 フーカって、こんなに独占欲が強いヤツだったのか……! それもメイドとしての自覚ゆえだろうか。 「とにかく……俺の部屋の掃除は禁止! 前決めただろ!? ランチと登下校だけって!」 「ぶ~ぶ~。ちゅむちゅむ……む~む~」 咥えながら頬を膨らませて反意を示すフーカ。 気持ちがいいし、可愛いが、ここで屈したらのちのち困った事になるに違いない。 「部屋の掃除とか言って理由付けしてるけど、 実はこういう事したかっただけなんだろ……!?」 「ぎくっ……! ちゅぱちゅぱちゅぱっ!!」 「――っ!!」 熱心な口奉仕が、図星の証。負けずに続けるぞ。 「俺の身体検査も……全部エッチな事するための 言い訳か……!? この変態メイドめ!」 「ああん、変態メイドって言われたぁっ!! 鬼畜ご主人様だぁっ! こういうの好きっ! こういうのメイドの憧れぇっ!!」 変なツボに入ったようだが、気にせず問い質した。 「別に俺だってこういう事嫌がったりしないよ。 むしろ喜ぶよ。だから不意打ちじゃなくって、 きちんと申し出てくれた方が有難いんだが……」 「ご主人様は女の子にエッチなお誘いをさせる おつもりですか……」 「ぐぬぬ……それは……」 手厳しい反論だ。 「それに……んちゅむ、メイドとしてお掃除や体調管理 をしたいのは事実です……ちゅむ、ちゅぷぅ」 「じゃあせめて俺に一言告げてから……」 「そしたらエロ本隠されちゃうじゃんか……あむあむ」 そこか……! 「ご主人様には……ちゅむ、ワタシだけを見てて欲しい んですぅ……ちゅぷ、他の女の子に目移りして欲しく ないんですぅ……ちゅぱっ、ちゅずずっ」 「フーカ…………」 「ワタシ……ご主人様だけのメイドだもん……。 ご主人様は……ワタシだけのご主人様だもん……。 ちゅっ、むちゅ……ちゅっぷ」 「ご主人様はワタシとエッチしないとダメなんだもん。 ちゅむ、ぴちゅ、ワタシ以外の女の子に興奮したら ダメなんだもん……ちゅぴっ、あむあむ、ちゅぷ」 ここにきて、その“だもん”口調はマズい。なんかもう色々許しちゃいそうになる。 「ご主人様ぁ……メイド萌えになってぇ……? お願いですよぅ……ちゅっ、ぴちゅ……」 「ぐっ……!」 とどめの上目遣い。わかっててやってるのだとしたら、こりゃ敵わない。 「わ、わかったよ……! 俺はフーカ以外の女の子と エッチなんかしないから……!」 「……あむあむ、ホントですか?」 「ああ、約束する」 興奮はさすがに制御できないから何とも言えないが、エッチしないという事は約束できる。 というか、もともと誰かとエッチする予定もないし、こうしてフーカと主従関係になった以上、それはいけない事かなとなんとなく察していたところだ。 改めてそれを口約束する事に、異論はない。 「……フーカは……俺にメイド萌えになって欲しいのか?」 「そしたら……ちゅむ、他の女の子じゃなくって、 ワタシに夢中になるじゃないでふかぁ……ちゅぷ」 他にメイドがいない限りはその通りだけど……。 「じゃあいっそ“フーカ萌え”の方がいいのでは」 「フーカ萌え……ちゅぷ、なんですかその最高に 素敵過ぎる単語は……!」 「いや、言い換えればただの“好き”ってだけなんだけど」 「ご主人様がワタシを好きになってくだされば……ちゅ、 そんなに幸せな事はありません……ちゅぷ、おちんちん ご奉仕するお口も勢い付くってもんです……ちゅぷ!」 「ちゅぷちゅぷ……ご主人様は…… “フーカ萌え”なんですか?」 「それは…………」 それとなく保留し続けてきた事なのかもしれない。 俺はフーカの主で、フーカは俺のメイドで。 お互い主従関係で結ばれていて。 メイドであって彼女じゃない。主であって彼氏じゃない。主従関係であって恋愛関係じゃない。 でもセックスして……フェラされて……。それらはメイドのお仕事という理由で正当化されて……。俺は流されるままにそれらを許可してしまって。 これ以上だらしないのは男として不本意だ。フーカにも失礼だし……俺もこの件をなあなあのままにしたくない。 という事で―― 「フーカ萌えだよ」 「ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱ ちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱちゅぱっ!!」 フーカはそりゃあもう荒れ狂うフェラテクで、その羞恥を必死になって誤魔化したのだった。 「ちゅむちゅむ……ちゅぱっ……んっ、はふぅ……。 ――はっ……! く、咥えてばっかりですと 刺激も単調ですよね……! 申し訳ございませんっ」 「えっと……ではお次は舌でペロペロ系という事で……。 ――れろっ、れろぉぉ……ぺろぉんっ、れろっ、ぺろっ」 「ぅっ……!」 舌を伸ばして、陰茎をべっとりと舐め回し始めるフーカ。 「れろぉぉっ……れろっ、れろぉぉっ、えろぉんっ……! えろえろぉっ、ちゅむ、れろぉっ、れろっ、ちゅっ、 ちゅるるっ、れろれろっ、れろっ、えろぉんっ!」 その姿は、淫蕩な中にも可愛らしさが窺える。 そして何より、俺を気持ち良くさせようという奉仕精神のような真心が感じられるのだ。 「はふっ、れろれろっ、んっ……おひんひん、れろっ、 舌でつんつんすると……れろぉっ、ビクンってなって、 はふっ、なんだか、可愛いれふ……れろれろっ」 「不思議です……ご主人様のおひんひんは、れろっ、 とってもご立派でたくまひいのに……れろぉっ……! 時折……すごく可愛く思えるんれふよぉ……ぺろっ」 そう言いながら、フーカは舌先でカリ首をノックしている。 「フーカ……それ、気持ちいい……!」 「あ、ほうれふか……? でひたら……れろっ、ちゅっ、 こうひて、いっぱいしてさしあげまふからね……! れろれろっ、んちゅっ、れろ、れろぉぉんっ……!」 「ぐっ……!」 途端に精液が込み上げてきた。 俺が目を醒ます前から口淫されていたんだ。自分でも知らぬ間に、十分に昂ぶっていたのかもしれない。 「んちゅっ、れろっ、はふぅ、お勃起……お勃起ぃ……! れろれろっ、えろぉっ、れろぉんっ……!!」 「ご主人様っ……はふっ、おちんちんむくむく 膨らんでます……! んれろっ、ちゅっ……! 朝から絶好調ですねっ……れろっ、ちゅぷっ……!」 「フーカがそうさせたんだろ……!?」 「んふぅ……そう言っていただけると嬉しいです……。 ワタシ……ちゅむ、お口奉仕ちゃんと出来てる みたいで……はふっ、ちゅぷぅ」 十分な舌技だ。今にも射精してしまいそうなほど。 「ちゅぷっ、ぴちゅぅ……ご主人様ぁ……ちゅっぷっ、 お射精、どうぞお願いひまふ……ちゅずっ、ぴちゅっ」 「朝の精液チェックのお時間ですよ……ちゅぷぴちゅ、 たっぷり……精子、出ひてくらひゃい、ドピュドピュ ひてくらひゃい……ちゅっ、んちゅぶっ……!」 そんなチェックを日課にさせてたまるかという気持ちも、すぐに性欲に掻き消されていく。 「ちゅっずっ、ぴちゅっ、ちゅっ、んちゅぶぶっ……! はふっ、だ、出ひて、ちゅぷ、お射精っ、ちゅむっ、 どうぞ、思いっ切り……ひゃふっ、ぴちゅむっ……!!」 「くっ…………っっ!」 そしてそのまま我慢の限界を迎え―― 「ちゅむっ、んちゅぶっ――わきゃっ……!? ひゃっ……ぷっ、わぷっ、おちんちん、跳ねて…… ひゃぁっ!?」 「きゃふっ!? んっ、ぷっふっ!? ひゃっ、お射精、すごひっ、んひっ、わぷっ!? わぷぷぷぷっ!?」 暴れ馬のように乱れる脈動に、フーカは口元から亀頭を取りこぼしてしまう。 それと同時に精液が発射された。フーカの顔を捉えていた鈴口は、そのまま無遠慮に彼女の顔面を白く汚していく。 「ひゃっ……んっ、きゃぁっ……!? 熱ひっ……! 精液……こ、こんな……熱かったんですね……!」 「わふっ!? んぷっ……まだ出てるぅ……んっ、あぁん、 はふっ、顔が……ご主人様の精液で……はふっ、んっ、 ドロドロぉ……! はぁん……♪」 「ご、ごめんフーカっ……! 一度出始めると…… はぁっ、はぁっ……止めらんなくて……」 「いいえ、ご主人様……謝らないでください……。 お射精をねだったのはワタシです。ご主人様は それに応えてくださっただけ……」 「むしろ……謝るのはワタシの方です……。ご主人様の 精液……お口の中でいただくつもりでしたのに…… おちんちんの勢いがあまりにすごくて、つい……」 顔を白濁塗れにさせながら、フーカは淫靡に告げる。 「あぁん、申し訳ございませんご主人様ぁ……。 フェラチオ初めてで……口内射精まで導いて 差し上げられなくて……はふぅ、んっ……」 「お口奉仕が出来ないなんてメイドの名折れ……! どうかこの駄メイドに、もう一度チャンスを お与えください……ご主人様ぁ……!」 「い、いや、フーカのフェラは十分上手だったって……! だから俺はイっちゃったわけだし……」 「朝一の搾りたてザーメンをごっくん出来なくてなにが メイドでしょう……! このフーカ・マリネットが メイドの意地と生き様、お見せいたします……!」 「っつってももう出しちゃったから――」 「――あぁむっ!」 「――っ!」 顔に付着した白濁を払う事無くペニスに喰らいつくフーカ。 それこそが俺の懸念の返答だと言わんばかりだ。 一発出し終えたのなら次発をすぐに充填させてみせる、と。メイドの奉仕スキルをとくと味わえ、と。 「んちゅっ、ちゅっぷ、一発出し終えたのでしたら、んっ、 すぐに次を充填させてみせますっ、ちゅぷ、メイドの ご奉仕スキルをとくと味わってくださいましっ……!」 ご覧の通り。ムキになってもう一発引っ張って、口内に出させるつもりだ。 たった今、陰茎内の精を出し切ったばかりの俺はというと―― 「ぐっ……くぅ!」 フーカの口技に、すっかり翻弄されている。 「ちゅむっ、んっ、お射精した直後ですので、ちゅぷ、 おちんちん物凄く熱いですっ、ちゅぷ、お勃起も、 まだまだたっぷり残ってます……ちゅぴゅっ!」 「それに、先ほどのお射精の残りも香ばしく……んちゅず、 はふっ、精液……まだこんなところにも……ちゅっぷ、 ちゅずずっ……はふぅ、美味しいですっ、ちゅるっ!」 「くぅ……吸うなって……!」 「ぷふぅ、れろれろっ……んっ、鈴口に付いた精液も、 今舐め取って差し上げますね……れろぉっ……! んっ、れろぉぉぉぉ~~~~~…………!!」 亀頭が舌の粘膜で包まれる。膣肉とは異なる快楽だ。 「早朝の身体検査なら、もうその精液使ってくれよ……!」 「ああん、精液チェックは新鮮なものでなくては いけません……! 外気に触れたらダメなんですぅ、 ちゅぷっ、ぺろぺろっ」 「お口なら口内射精、おまんこなら膣内射精……! メイドの穴に中出ししてようやくチェック出来る のですよぉ……ちゅぷ、ぴちゅちゅぷっ!」 なんとまあ厳しいルールだ。 それを自分に課しているフーカは、意識高い系のメイド……いや、単純に淫乱スケベ系のメイドか。 「んっ、精液……中にまだこんなに詰まって……ちゅぷ、 これ、さっきの残りですか……? ちゅぷ、それとも、 ちゅるるっ、ずずっ、新しいヤツですかぁ……?」 「どっちでもいいから……あんまり吸い上げるなってば!」 「ちゅずずっ……!? なぜですかぁ……!? こうしておひんひん吸い込むと……ちゅずずずずっ!! 搾りたてザーメンが昇ってくると思うのですが……」 だからだ。今無理矢理精液を求められると、性器が強制的に射精の準備を始めてしまい―― 「はふぅ、おひんひん素敵勃起でふぅ……♪ ちゅずずぅっ、ちゅっずずずず~~~~っ!!」 フーカの可愛さとか無邪気さを味わう余裕もなくなるくらい、性欲の熱暴走に狂わされてしまうのだ。 「ちゅっずっ! ちゅっずっ! ちゅっずっ! ちゅっずっ! ちゅっずっ! ちゅっずっ! ちゅっずっ! ちゅっずっ! ちゅっずっ!」 「ちょ、フーカ……待てって……!」 「ちゅっずっ、ちゅっずっ……んー? なんれふかー? ちゅっずっ、ちゅっずっ、ぷちゅぷちゅ、ちゅぷぅ!」 俺の悶えを楽しんでいる様子で、リズミカルに口を動かすフーカ。 間違いなく、これは抗えない。すぐに第二波を迎えてしまう事だろう。 「ちゅずっ、むちゅぶっ、ちゅっぷっ、ちゅずずっ!! んっ、あふっ、ちゅぶっ、おひんひん、ちゅぶりゅっ、 お勃起ぃ、すんばらひいぃ、ちゅりゅずずっ!!」 「ピクピクひて……ちゅむっ、ぴちゅ、ひゃっきの、 んちゅ、お射精の前と……ちゅぴっ、にゅぷぅ、 おんなじ状態ぃ、ちゅるるっ、にっちゅっ、ぴちゅっ!」 「くぅ……もう……ヤバい、かもっ……!」 「はふっ、んへぇ……待ってまひたぁっ……! ごひゅひんひゃまぁ……ちゅぷ、お射精っ、ちゅるるっ、 よろひくお願ひひまふぅ……ちゅむ、ちゅずずっ!」 「もう一度ぉ、今度はこのお口の中にどっぴゅんひて くらさいまへぇ……ちゅっ、ぴちゅ、ワタシ、しっかり お口で受け止めまふからぁ……ちゅっ、んちゅぱっ!」 射精の昂揚感と深い刺激と淫らなまどろみと……。全てがごっちゃになって、もうわけがわからない。 ただただ、切羽詰まってしまう―― 「んっ、ちゅっちゅぷ、ちゅずずっ、ちゅずぷっ!! 出ひてっ、くらひゃひっ、ちゅっずっ、ずじゅりゅっ、 おひんひん、イってぇぇぇえっ……ちゅずずっ!!」 「んじゅずずずずずずずずずず~~~~~~っっっ!!! じゅぶぶぶぶぶぶぶぶぅぅ~~~~~~~っっっ!!!」 「――っっ!?」 「んじゅぶっ!? んんっ!? んちゅっ、ちゅぶっ!? んっ、んっ……ちゅっ、ちゅっ、ちゅるるっ……!?」 一体いつこれだけの精量を補填したというのか。 一発目の射精からそれほど間が無かったにもかかわらず、自分でも驚くほどの精液がフーカの口腔で爆ぜ散った。 「んちゅっ、んんっ……!? あふいっ、ひゃふっ!! せーえひ……あふあふぅ……♪ んっ、くふうっ!!」 「は……ひょ、ひょうだ……味見もしませんと……。 んっんっ、んっんっんっ……ごくっ、ごくっ、ごくっ!」 「うっ……!」 亀頭に口付けたまま精液を飲み込んでいる。 自分の尿道とフーカの食道が、結合したような感覚。底知れない心地良さだ。 「んっ、んっ……ごくごくっ……ちゅっ、ずずずずっ! ちゅるっ、ごくごく……んっ、ごっくんっ!!」 「――ぷはぁっ……はあ、はあ……あふっ、んんっ……! ご主人様ぁ……精液……とっても濃厚で……喉に 引っ掛かるくらい……はふぅ、ネバネバでしたぁ……」 「味、量、色、熱さ、粘度、濃度……全て素敵数値です。 あはぁん……この可愛らしい金玉袋ちゃんは…… 素晴らしいザーメン製造機ですね……ちゅっ♪」 恥ずかしいところを責められ、多分その間恥ずかしい顔を晒して。 仕舞には玉にキスまでされて、なんかもう完全敗北だ。 「はぁ……はぁ……はぁ……もう十分だろ……?」 「はい……♪ 先日はおまんこにご主人様のおザーメン いただきましたが……今朝はお口にもいただけて…… 嬉しいです。メイドとして幸せ者です……!」 どちらもフーカが搾り取ったんだろ、という言葉など、今は当然出てこない。 連続射精ですっかり疲労してしまったからだ。 「はぁ……はぁ……ふ、フーカ……今何時……?」 「えっと……8時32分です」 「はぁ……はぁ……はぁ…………」 「んだよ…………もぉ~~…………!」 「遅刻じゃん……」 「えへへぇ♪」 可愛い顔しよってからに。 「朝からにゃんにゃんしてたんでしょ?」 「ち、違わいっ!」 「遅刻はいかんよー、遅刻はー。 にゃんにゃんで遅刻はいかんよー」 「………………」 全てを察したような視線でからかってくる御伽に、その日は屈するしかなかった―― 「なあ、フーカ」 港のベンチでフーカと並んで座る。 あの日、ここで彼女の主になってから、数日が経過した。 主人というよりも、恋人のような間柄だ。それがむず痒くて、でも嬉しくて。毎日を優しく過ごす事が出来ている。 ここの潮風は心地良く、どんな言葉も受け入れてしまうような、そんな柔らかさがある。 だから、聞いてみた。 「どうして……“メイド”なんだ?」 以前同じ質問をした事がある。 “この生き方しかないからだ”とフーカは答えた。 その真意を知りたい。ちゃんとフーカを理解したいのだ。 「…………お話ししなくてはいけませんか?」 「……言いたくないのか?」 フーカの底知れぬ従属欲。彼女がそもそもメイドになりたがった理由。 それを、今一度聞いてみたい。改めて、今度は主としてそれを知りたかったのだ。 「うーん……」 少しだけ子供っぽく、フーカは思案した。 「ワタシは孤独なんです。誰一人として、頼れるもの がいません。幼い時からずっとそうでした」 「ああ。そう言ってたな」 「だから……メイドに憧れていました。 メイドはご主人様に付き従う存在。 常にご主人様のお供。一人じゃない」 「孤独から逃れたかったんです。 誰かに依存できる立場が欲しかった。 だから……メイドなんです」 「………………」 依存、か。 単純な孤独なら、友人や恋人で抗えばいい。 しかしフーカの孤独はどうやら特別なようだ。 依存しないと拭えないもの。 だから、メイドという立場を求めた。主に従属する事で、相手に依存できるから。 公的な依存。フーカは主従関係を孤独の払拭のために“利用”しているんだ。 「ワタシが初めてご主人様とエッチした時の事 覚えていますか?」 「ああ。路地裏で、いきなり」 「とても素敵でロマンチックな夜でした。 ワタシ、あの日の事を一生忘れないでしょう」 俺だって、今でも鮮明に覚えている。 あの日のフーカの言葉が、今の俺達の関係を築いたんだ。 「ワタシは、メイドとしてご主人様の全てを 知っておかなくてはいけません。 体調・悩み・嗜好・性癖……全部」 「ま、まあ……情報共有しておくに越した事はないからな」 「その逆も、メイドとご主人様の関係を 構築するにあたって、時に必要なのです」 「え……?」 「――ワタシの孤独な過去、聞いていただけますか?」 「………………」 「――ワタシの夢の理由、聞いていただけますか?」 ただの昔語りをする姿勢じゃない。 覚悟を問われている。それらを知っても変わらずフーカの主でいられるかの覚悟を。 「言いたくないんじゃないのか?」 「はい、あまり言いたくないですね」 「じゃあなんで……」 「あなたがワタシのご主人様だからです」 ああ、そうか。 「ご主人様には……ワタシの全てを知って欲しいんです。 ワタシは、ワタシの全てを知っている方にお仕えしたい。 だからワタシの秘密も聞いて欲しい」 「それってワタシの……メイドとしてのワガママですか?」 「……いや、そんな事無いよ」 フーカがメイドとして俺を事細かに知り尽くすように。 俺も……主としてフーカの全てを受け入れなくては。 「……話してくれ」 俺も覚悟が出来た。 フーカの孤独を知り、夢を知り。 彼女に相応しい主になるんだ―― ――ワタシは、とある貧しい国に生まれました。 この島からとても遠く……とても小さな国です。きっとご主人様もご存じないでしょう。 両親と三人家族でした。まだ幼かった頃ですのではっきりとは覚えていませんが……穏やかな毎日だったと思います。 多分、それで十分でした。貧しくても、家族がいて。声があって、笑顔があって。それだけで幸せでした。 遊ぶものも無いので、よく空を眺めて時間を潰していました。雲の流れを追ったり、雲の数を数えたり。ワタシの数少ない幼少期の記憶です。 今でも……屋上などで雲を眺めます。この空とあの空は繋がっているのかな……なんて。少しだけ心が落ち着くんです。 6歳の時でした。誘拐されました。 貧しい国でしたので、治安も当然悪く……。男も女も、若者も老人も、赤の他人なら全ての人々を疑わないと生きていけない、愚かな国なのです。 ワタシはその現実を、幼い時に思い知りました―― 家族で街へ出かけた時の事です。 優しそうな女の人達に手招きされて。 丁度両親はワタシを見ていない時で。 「ほら、お菓子あげるからこっちにおいで」 何も知らない子供のワタシは、ふらふらとついて行ってしまったのです。 「パパとママは?」 「んと、あっちにいるよ」 「……おい、見張っとけ」 「……ああ、わかってるって」 一瞬の事でした。 「それっ!」 「――がっ……!?」 「ずらかるよっ!」 「んーーっ、んんんーーっっ!!」 「暴れんじゃないよっ……このっ!」 それからの事はあまり覚えていません。 覚えていたのかもしれませんが、頭がその記憶を抹消したのかもしれません。 「ちくしょうっ! 最悪だよったく……!」 「だって……あいつら、追いかけて来やがって……!」 「見張ってろって言っただろっ!」 「仕方ねーだろっ、ああするしかなかったんだ……!」 「ちっ……大人二人殺した手土産がみなしごの ガキ一匹かよ……! 割に合わな過ぎだぜ……」 「ど、どうするよこいつ……! 親がいなきゃ身代金もせびれねーぞ……?」 「仕方ねえ……いっそ人買いにでも売るか……。 奴隷くらいにはなんだろ」 「そ、そうか! それならガキも処分出来るし、 金も手に入るし……!」 「こんなガキじゃはした金くらいにしか なんねーだろうけどな……くそっ!」 「でも、だったら今すぐガキ売っぱらって トンズラこかねーと!」 誘拐犯の会話を、ワタシはどこか他人事のように聞き流していました。 彼女達が殺したという“大人二人”が、両親を指しているのは幼いワタシでもわかりました。 だからだと思います。他人事のように考えたかった。 ボーっと。ただボーっと。 静かに成り行きを待ちました。 結局、ワタシは警察に保護されました。 警察が来たのは翌日。治安が悪いので、こんな事件は日常茶飯事なんです。だから調査や救助に時間がかかってしまった。 人質として、一日を過ごしました。 身体と心を弱らせながら……ボーっと……。 「……誘拐犯がどうなったのかは覚えていません。 警察はワタシを助けた後……家族を失ったワタシの 身の置き所を面倒くさそうに話し合っていました」 「祖国にはそういったみなしごは珍しくありません。 そんな子供たちを収容するための孤児院があって…… ワタシはそこに拾われました」 「そこにいる子は……皆、何かしらの悲しい事情を 抱えている子達で……」 「こんなところいちゃいけないと思いました。 だから誰とも関わらず、一人でたくさん勉強して、 逃げるようにこの島に来たんです」 「どうしてだかわかります? だって皆目が死んでるんですもん」 「あんな場所に居続けたら……ワタシもすぐにああなって しまう。ううん、その時はもうなっていたかもしれない」 「死んだまま生きるのが怖くて……孤児院でも一人でした。 だからワタシは、ずっと一人だったんです」 「……とても情けないお話です」 「……いや、涙を禁じ得ない苦労話だ」 「祖国では、メイドという慣習も比較的一般的だった んですよ。無数の貧乏人の屍の山の頂上に、一握りの 金持ちが立つんです。そんな国なんです」 「メイドって、安全で安定の象徴でした。 ワタシの国の女性は……皆メイドに憧れてたなぁ……」 治安の悪い国で生きていくにあたって、最も安全で安定なのは“金持ちに付き従う事”だ。 フーカにとって、そんな環境下でメイドという立場を求めるのは……ごく自然な事だったんだな。 「こんな辛い人生から脱却するためにも、 いつかメイドになるんだって心に誓って」 「……俺は金持ちじゃないから、職業としての 安全と安定を供給できない」 「でも幸せです」 即答だった。 「ご主人様がワタシに、何をお与えくださっているか…… ご自覚ありますか?」 「うーん……」 「ふふっ♪」 俺の答えをニコニコ顔で待つフーカを見て、安心できた。 あんな過去を語ってすぐに笑顔を浮かべられるんだ。その凄惨な思い出は、いくらか払拭できているらしい。 「ねえご主人様。エッチしましょうか」 「え、今?」 「はい♪」 「……急じゃない?」 「とんでもございません! ヒロインの悲しい回想の 直後は、主人公の優しいハグから純愛セックスと 続くのがエロゲーの基本です!」 何言ってんだこの子は。 「いくら夜だからって……こんな場所じゃな」 「見せつけて差し上げましょうよぅ! ここを歩く方達に、ワタシとご主人様のラヴパワーを!」 そう言いながら、フーカはまるで子供のように甘えて来た。 昔語りをしたからだろうか。その話が重たかったからだろうか。 でも、俺もわかるよ。こんな時は人肌が恋しいもんな。 「――さて、と。そろそろ帰ろうか」 「え~! セックスは~?」 「俺の部屋おいでよ」 「わーい、ご主人様大好きー!」 フーカの孤独と夢を知った。 彼女は幼い頃、幸せを奪われた。だから孤独だった。 彼女は今、幸せを求めている。それを夢見ている。 俺が主として、彼女に与えてあげるべきものは一つだ―― 「ご主人様……なんという事でしょう」 ある日の放課後。 フーカが申し訳なさそうな表情で俺の席にやってきた。 「ん?」 「女子会というものに誘われまして」 「フーカちゃん借りていい?」 もうすでに女子じゃないんだが。 「この後、皆さんでお茶しようって話になりまして」 「あたしもさ、今日は部活無いから行こうかなーって 思ってさ。だったら大人数の方が楽しいじゃん」 「フーカ先輩のお話、根っ掘り葉っ掘り聞きたいですー!」 「あ、那由太君はダメだよー。女子オンリーだから」 「という事でして……」 一応皆も気を利かせて、俺に確認を取るようにしてるんだな。 なんかちょっとそれが気恥ずかしかったり。 「いいよ。いってらっしゃい」 「本当ですか、ご主人様!?」 「ああ、別に交友関係まで口出さないから」 孤独だったフーカが友達と仲良くするのは、むしろ主としても喜ばしい事だ。 「俺は先帰ってるから」 「申し訳ございません、一時的であれメイドが ご主人様のお傍を離れるなんて……」 「いいってば。気にするな」 「フーカの心はいつもご主人様のお傍に おりますからねー!」 「うん。じゃあまずはその話から 詳しく聞かせてもらおうか」 「どこまでヤったか根っ掘り葉っ掘り教えてね」 「ヤ、ヤヤ、ヤっただなんて…… ゆっふぃんさんってば過激です~!」 「よーし! 今日はフーカ先輩の コイバナ聞きまくるぞー!」 きゃーきゃーと騒ぎながら、女性陣(うち一人男性)は教室を出て行った。 「フーカのヤツ、余計な事言わなきゃいいけど……」 「俺達もあのメス共に対抗して、女子会しようぜ!」 「さて、俺は帰るか」 せめて男子会として誘え。 直帰しようと思ったが、適当に商店街をぶらついた。 最近はいつもフーカと一緒にいる。登下校や昼食はもちろん、休みの日なんて朝から晩まで。 一人でこうしてゆっくりするのが、少し新鮮に思えた。 「それだけ、フーカと過ごす事が もう当然になってるんだな……」 「ん……?」 今……! 「……………………」 「……………………」 ――廃ビルの一室。 なぜか、ここだと思った。 確信があるわけじゃないけど……でも、自然と足がここに向かったというか。 とにかく理由なんてない。ここに辿り着いてしまったのだ。 ここなら、彼女に会えると思ったから―― 「――こんばんは」 丁寧な挨拶だが、向こうから歩み寄ろうとする融和性など一切感じられない、冷ややかな声。 ニヤニヤして……まるでこちらがどう反応するか試しているような印象だ。 「……ああ、こんばんは」 「はじめまして」 はじめまして……? はじめまして……か? 「前に一度……会ってると思うんだけど」 だからこうしてこんな場所に俺は立っている。 まるで過去の邂逅に導かれたかのように。 「……一度? 一度ぉ!?」 「本当に……一度?」 「………………」 首元に巻き付いた蛇が、舌を出し入れしながら噛み付く機会を窺っている。 足をもがれた獲物を前に、猛獣が自身の空腹をひとしきり愉しむ余裕を見せながら、舌なめずりしている。 そんな、強烈な圧倒。 「あなたでは、彼女の孤独を埋められない」 「……っ!?」 今……なんて……!? 「あなたでは、彼女の夢を叶えられない」 孤独……夢……。 それは……俺とフーカのキーワード……! 「あなたでは、彼女を幸せに出来ない」 「お前……一体何者だ」 「あなたこそ、一体何者ですか?」 「俺は…………期招来……那由太」 「私の知ってる期招来那由太とは、違う」 「え……」 「私の知ってる期招来那由太とは、輪郭が違う」 「俺を知ってるのか……!?」 「知らない事もある」 なんなんだ……? 「例えば……その声とか」 なんなんだよ……!? 「そんな声してるのね」 なんなんだよ―― 「――っ!?」 意識が霧散した。 細胞が粉々になっていく―― 「――私の…………」 身体が白光に蝕まれていく―― 「私の名前は――」 ああ―― “何か”が欠けて、終息していく―― 「――しゅ……ん……ま……」 「ご……ん……ま……! ごしゅ…………さま……!」 「――ご主人様っ……!」 「ん…………」 「良かったぁ……」 「フーカ……」 「心配しましたよ……。すごくうなされていたみたいで」 「え……」 うなされて……いた……? 「何か悪い夢でもご覧になっていたのですか?」 「……どう、だろう」 寝汗がぐっしょりだ。フーカの言う通り、悪夢に苛まれていたらしい。 「……起こしに来てくれたのか」 「はい、ご様子を窺いに」 時計を見ると……もう登校の時間だった。 「もしかしたら催していらっしゃるんじゃないかと 思って……喜び勇んで参上したんですけどね……」 「朝勃ちどころか……苦しそうにうなされていたので……」 そう言いながら頬の汗をハンカチで拭いてくれた。優しい感触が心地良い。 「……ありがとう」 「いえ……ちゅっ♪」 ついでに口付け。今はその温もりが有難い。 「……少しは落ち着きましたか?」 「おかげ様で。もう大丈夫だ」 「もう起き上がって大丈夫なんですかっ……!?」 「変な夢を見てただけだよ。別に病気とかじゃないから」 「そう……ですか。 ――あ、でしたらすぐに朝食のご用意を……」 「――名前……」 「はい……?」 「かばね……」 「ぇ……」 「かばね…………って、言ってたな……」 ――私の…………。 私の名前は―― かばね……。 カバネ? 《かばね》姓? 《かばね》屍――! 「屍……って……言うのか……?」 「ご、ご主人様……突然……何を……」 「フーカは……知ってるか……? 屍って女の子を……」 「か、屍……ですか……?」 自分でも何言ってるんだろうと思った。 悪夢の中の少女の名前。そんなものをフーカに問うなんて、俺はまだ寝惚けているのかもしれない。 「……申し訳ございません……ワタシにはちょっと……」 「……だよな。変な事聞いてすまん」 「……いえ」 フーカの顔色が優れない。いきなり俺が変な話題を切り出したので、奇妙に思っているのだろう。 「……ごめん。朝食の前にシャワー浴びてくる。 汗びっしょりなんだ」 「あ、はい……かしこまりました。 タオルと着替えと、あとお食事をご用意して お待ちしております」 フーカにそう告げて、俺は浴室へ向かった。 「………………」 「…………屍……」 今日もここで、フーカと二人で他愛ないお喋りをしている。 この場所で、この風に煽られながら……俺達はこれまでどれほどの言葉を紡いだだろうか。 はじまりは、主とメイドの契約。 そしてある時は、彼女の不幸な過去。 ここは俺達にとって、とても大切な場所で。 だから、大切な話はここでするって決めていた。 「――ずっとフーカのご主人様でいたい」 「は、はい……?」 「ずっとだ。ずっとがいい。卒業してもずっと……」 「ご主人様、突然なにを……」 「ダメか? 俺じゃフーカの主は務まらないか?」 「い、いえ……そんな事ありません! ただ……あまりにも唐突だったもので……」 「きちんと考えたつもりだよ」 彼女の境遇を知って、目指すべき未来を考えたんだ。 「フーカの孤独を癒したい。もう一人にはさせない」 「フーカを幸せにしたい」 「ご主人様……!」 「嬉しいです……ご主人様……!」 「フーカ……!?」 勢いよく抱き付いてきた。 「ワタシも……ずっとご主人様のメイドでいたい……!」 「お、おい……フーカってば……」 周囲の目を気にして呼びかけるが―― 「ワタシをこんなに喜ばせたのはご主人様です……! だからギューってするのやめませんっ!」 そんなものは気にせず、フーカは大胆に抱擁してくるのだった。 「大切な人と永遠を誓うのは……ワタシの夢でした。 愛する御方とずっと一緒にいたいって、強く願って いました……!」 「ワタシは……ご主人様を愛しています。 あなたを……心から……愛しています……!」 「辛い過去があった上でご主人様と結ばれる未来が あるのなら……あの出来事もまた、ワタシの人生の 大切な一部なのかもしれません」 「ご主人様ぁ……ワタシの人生……幸せですっ……!」 左目に涙を浮かべながら、フーカははっきりとそう告げた。 彼女に欠けていたもの彼女が欲していたもの。彼女が夢見ていたもの。 それをしっかりと与えたい。だから俺も強く彼女を抱き返す。 「俺も愛してる」 「はい……!」 「幸せにするよ」 「はいっ……!」 「これからも……ずっと一緒に、幸せでいよう」 「はいっ!」 フーカは俺のメイドで。俺はフーカの主で。 金銭で結ばれた主従関係では無い。 俺達は幸福で結ばれている。時に幸せを与え、時に幸せを与えられ。 そんな関係を永遠に築く事こそが幸せなのであり。 だから俺達は、永遠の幸福を誓うんだ。 「……ちゅっ♪」 「……?」 「えへへ……誓いのキスです」 「ワタシがあなたのメイドで…… あなたがワタシのご主人様である事を誓うキス……」 「……ちゅっ♪」 「今のは……それがずっと続く事を誓うキス……」 「ずっとずっと……幸せでいましょうね、ご主人様っ!」 「――あぁっ、あっ、あふぅ、あっはぁぁぁああっ……!」 フーカの嬌声が青空の下に響く。 周りには誰もいないはずだけど……。それでも背徳感は禁じ得ない。 「あふうっ、んっ、お、おちんちんっ、はぁぁんっ! ご主人様のおちんちん、あっ、あっ、あぁぁんっ!」 「気持ちいいですうっ、はふっ、ご主人様あっ! あぁんっ、あふっ、おちんちん、気持ち良過ぎぃっ!」 「はぁっ……はぁっ……フーカ、あんまり大声で叫ぶと 誰かに見つかるぞ……!?」 「だってぇ、ご主人様と繋がれて、すっごく嬉しいから、 黙ってるなんて無理ですぅっ、あっ、あっ、んっ!」 予想通り、こうなった。 フーカとセックスすると、いつもこうなる。遠慮する事無く思いっ切りその快楽を叫ぶのだ。 「おちんちん、こんなに深いところでいただいて……んっ、 喘がずにはいられませんよぉ……はぁんっ……!!」 「だからするなら帰ってからの方がいい って言ったのに……」 「だ、だってぇ……ワタシ、もう我慢出来なく なっちゃってぇ……」 「手繋いで街を歩くだけで……んっ、心臓と…… あとおまんこが、んっ、くふっ、キュンキュン しちゃうんですよぉ……? はぁんっ……!」 「エッチ……したくなっちゃいますよぉ……! スケベメイドのスイッチ入っちゃうんですっ……! 場所とか選んでいられませんよぉ……!」 デート中にいい雰囲気になってしまい、そしてそのまま結局始めてしまった。 「ご主人様だって……んっ、はふっ、初めから、んっ、 こんなにご立派お勃起モードで……あっ、んはっ! やる気満々じゃないですかぁ……!?」 「それは……そうだけど」 否定はできない。フーカに誘われて屹立しないままでいられるわけない。 「んっ、あぁん、もう始めちゃったんですぅ……! 諦めて愉しみましょう……ね?」 もちろん、楽しんでいないわけがない。フーカとのセックスは、いつだって素晴らしいものだ。 ただ……出来ればもう少し落ち着いた場所だったら良かったな……というだけ。 「あふっ、あっ、んっ……ゴリゴリしたおちんちんが、 ふぁっ、あっ、んっ……奥に、来てますぅ……んっ、 ワタシの……奥、にぃ……!」 まあフーカが幸せそうだからそれでいいか。 なんだかんだ言って、俺自身もすぐにでもフーカを抱きたかった気持ちはあるわけだし。 「――よし、もっと激しくいくぞ!」 「あっ、あひいっ!! あっ、あっ、あぁあんんっ!!」 「や、だぁっ、ご主人様っ、おちんちんっ、くひぃ!? しゅ、ごひっ、んひっ、あっ、あっ、ふあぁっ……!!」 ここまで来て加減なんて出来るはずもなく。 性欲のままに、フーカを味わいたい。この艶めかしい膣肉の感触に溺れたい。 劣情の一心で、俺はストロークを振り乱した。 「あふうっ、んっ、ご主人様っ……んっ、しゅ、素敵っ、 おちんちんガシガシってぇ、素敵ですぅっ、あっ!」 「ご主人様もぉ、んっ、はふっ、盛ってくださってる んですねぇっ、あぁんっ、はふっ、んっ、んんっ!」 「この状況で我慢なんて出来ないって……!」 「ワタシと同じですね……んっ、くひぃん……! 一緒にエロエロになりましょう……はうっ! んっ、んんっ! あっはぁぁっ……!!」 互いに理性を失ってしまった。 フーカといるとそういう事は日常茶飯事だ。 それだけ俺はフーカを愛し、求めている。フーカもそうだと嬉しい。 「はあっ……はぁっ……はぁっ……!」 「んっ、んんっ、はふっ、あっ、んっ、んんっ、ふひっ!」 EDENを卒業してから、数年が経過した。 あの港で誓った言葉は、いまでも俺の胸の中で響いている。 時折、振り返って考えてみる事がある。彼女をきちんと幸せにできているのか、と。 不安になったりはしない。俺達はまったくもって順調だ。 でも、だからといって決して忘れない。いつだって胸中に問い掛けながら生きている。 「はぁっ、はぁっ……フーカ……俺がお前を……っ、 幸せにするからな……!」 「んっ、あっひっ、わ、ワタシもう十分幸せですよぉっ! これ以上幸せになったら……はふっ、パンクしちゃう くらいですっ……んっ、ふへぇっ!」 いいじゃないか。リア充らしく爆発すべし。 「ご、ご主人様も……んっ、幸せ、ですかぁ……!? ワタシと一緒で……んっ、退屈、してませんかぁ!?」 「退屈なんてしてないよ……! フーカと一緒にいると……いつも楽しいっ……!」 「それは……はふっ、とっても嬉しいですっ……! ん、んっ! メイドとして……恋人として…… そう言っていただけると、嬉しいっ……はふぅ!」 フーカの辛い過去を知っているから。その分、目一杯幸せにしてあげたいと心から思う。 主として、恋人として。フーカに幸福を与える事が俺の何よりの喜びだ。 「はっ、んはっ……ご、ご主人様っ、ご主人様っ……!」 「ん……なんだ……?」 「ちゅー! ちゅーちゅー!」 「ああ、はいはい」 「んちゅっ……んんっ、ちゅっ、ちゅ……んんっ、ちゅっ」 「……ちゅ…………ん、ちゅ…………っ、ちゅ」 差し出された唇の上から自分の唇をかぶせる。 丁度いい。喘ぎ声を抑えさせたくなったら今度からこうして塞いでしまおう。 「ちゅっ、ちゅちゅっ……んちゅっ、ちゅぷ……! はふっ、ちゅっ……んちゅ……ちゅぅ……!」 啄むようなキスが、何度も俺の唇をつつく。 「ちゅっ、ちゅちゅっちゅっ、ちゅっ……んちゅっ! ぴちゅ、ちゅっ……ちゅっ、ちゅっちゅっ……んちゅぅ」 柔らかい感触が心地いい。挿入しながら堪能するフーカの唇は、また格別の味だ。 「――ぷはぁっ! んっ、はあっ、はぁっ……んっ、 あふっ、あぁぁんっ、あっはぁぁぁあぁん……!」 「ご主人様あぁ……セックスで繋がったままキスすると、 あっふっ、んっ、なんだかもっとエロエロですねぇ、 んっはっ……んっ、あふぅ……」 「俺も丁度そう思ってたところだよ」 「えへへ……だったらもっとちゅーっ! ちゅー、ちゅー、ちゅーっ!」 まるで子供のような甘え方だ。 フーカは基本大人びていて、メイドらしくしっかりした性格だけど……。 たまにこうして子供っぽくもなる。口調も。表情も。 それがたまらなく愛おしいのだ。 「ちゅ……」 「んちゅ……んちゅ、ちゅ…………はふぅ、ちゅぅ……! ちゅぷ、ちゅ…………んちゅ、ちゅぅ…………」 互いの体温を確かめ合うような口付け。 股間と唇で、熱情を知る。 「んちゅ、ちゅっ、ひゃふ、ごひゅひんひゃまぁ、 ちゅ……ちゅぷ、ちゅっ、ちゅっ……んちゅぅ!」 「ちゅ……フーカ……ちゅっ、ちゅっ……っっ!」 「ちゅぶっ、ちゅっ、ちゅずっ、ちゅっ、んっ、んっ、 ごひゅひんひゃまぁ、ちゅ、ごひゅひんひゃまぁ、 ごひゅひんひゃまごひゅひんひゃまごひゅひんひゃまっ」 呼び合うだけで昂ぶれるのだから、もう俺達は誰にも止められないだろう。 「ごひゅひんひゃまぁ、愛ひてまふよぉっ、ちゅっ、 ぴっちゅっ、ちゅぶぶっ、ちゅっちゅっちゅっ!!」 「――ぷふぅ……んっ、はふぅ……! ご主人様ぁ……んっ、ワタシ……こんなにご主人様を 求めても……まだ求め足りませんよぅ……!」 蕩けた瞳で強く俺を見つめるフーカ。 その口元からは淫靡な唾糸が俺の唇へと伸びている。 彼女が震えると、その糸も一緒になって揺れる。その様があまりにも眩惑で、興奮が加速してしまう。 「んんっ……お勃起ぃ……お勃起きてますぅ……! あっ、あぁっ、あっはぁぁっ……!!」 「フーカ……俺、そろそろ……!」 「はひっ……ワタシも……んっ、はぁっ、はぁっ……! おまんこ……さっきから限界で……んっ、ふあぁっ……」 「ご主人様のおちんちん良過ぎですし……んっくぅ! それに……キスまで……しまくっちゃったからっ、 ふっ、ひっ……おまんこ、もうキュンキュンで……」 「それじゃあこのまま一緒にイクぞ……!」 「ふひぃんっ、はひっ、ご一緒させてくださいっ……! 中出しの素敵お射精に……ワタシの潮吹きをお供にっ! はっ、あっ、あぁぁんっ……!!」 一度暴れ出した腰遣いは、もう止められない。 絶頂に向けて一直線に駆け上っていく。 「はふっ、あっ、あっ……あっ、あっ、あっ……! ら、らめっ、ワタシ、イクっ、あっ、あっ、あっ! イクイクイクイクっ、あっ、あっ、ああぁぁっ!!」 「ご主人様あっ、お勃起気持ち良過ぎて、ワタシっ、 イっちゃいますっ、お勃起ぃ、お勃起いいっ!! お勃起お勃起お勃起ぃっ!! んっひいいっ!!」 そして、俺達はそのまま―― 「――くぅっ……!!」 「あっ、イクっ、イクっ、イクっ!! ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様ご主人様っっ!! ごっ主人様ぁぁあぁああ~~~~~~~っっっ!!!」 勢いにまかせて、感情の全てを放水させたのだった。 「んんんっ、ふはぁぁっ!! 熱々の精液がっ……!! くひぃんっ、いっぱい、来てますよぉっ、おちんちん ドクドクってしてますっ、ひあぁっ!!」 「気持ち……んっ、いひっ!! 中出しっ、ご主人様の 中出しいっ、最高ですっ、ワタシ……おまんこイキ まくっちゃいますっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!」 身体を痙攣させて大胆な潮吹きを繰り返すフーカ。 俺もその震動に合わせて、肉棒を脈打たせた。 「んっ、くひぃ、何度味わってもたまりません……! 中出し、素敵ぃ、ご主人様に精液注いでもらう事って、 メイドとして本当に嬉しい事なんですっ……んんっ!」 「はぁっ……はぁっ、俺も、主としてメイドのフーカと エッチが出来て……幸せだっ……!」 「はひぃ……んっ、はっふっ……んっ、んんんっ……! ワタシの身体はご主人様だけのもの……! お好きなだけ種付けしてくださいませぇ……はふぅ」 フーカの甘い息を浴びながら、ゆっくりと呼吸を整える。 「はぁ……はぁ……。フーカ……以前お前は俺に こう言ったよな? メイドとして……ご主人様 には自分の全てを知って欲しいって」 「はい……申し上げました……」 「今も同じ考えか?」 「もちろんです……」 「……それじゃあさ――」 少しだけ息を飲み込んで、言葉を続けた。 「その右目って……なんなんだ?」 その問いに、フーカは表情を変えなかったように思う。 「――生まれつきです」 「……そうか」 返答がそれだけならば、俺もこれ以上詮索するべきじゃないだろう。 フーカが、メイドとして主に後ろめたい想いなど抱えているはずがない。それが全てだ。 「眼帯の中……どうなってるか……見たいですか?」 「……!」 「……………………」 「……いや、いいよ」 フーカは笑った。実に挑発的に。 「ご主人様……いつまでも、ワタシと一緒に いてくれますよね?」 いつもの質問。当然、俺の答えは変わらない。 「――ああ。いつまでも一緒だよ、フーカ……」 : この時間の校庭は、相変わらず賑わっているな。 昼練をする運動部員。それを眺めながら食事する一般生徒。 今日はいい天気だ。いつもよりも人が多いように思う。 「あ、期招来……!」 「お、あざみ子」 こりゃ珍しい。 何が珍しいって……一人でいる事が。 いつも一緒の彼女はどうしたのだろうか。 「つつじ子は一緒じゃないのか?」 「期招来……か。うん、まあ頼りないけど…… 話をするくらいなら丁度いいかも……」 「……?」 「……今、ちょっと時間ある?」 「ああ……大丈夫だけど」 「じゃあ……ちょっとこっち来て」 なんだろう……? 少し深刻なご様子だ。 ある程度の重々しい話題を覚悟しながら、俺はあざみ子の後ろを歩いた。 「……ここでいいかしら」 校舎裏。 先ほどの場所とは打って変わって、周囲に誰もいない。 誰かに聞かれたくないような話なのかもしれない。 「えっと……話っていうのはね……その……」 「つつじ子の事か?」 「ういっ!? にゃ、にゃんでわかったにょぉっ!?」 やっぱりか。 「もしかしてあんた実は志依さんっ!? 期招来の格好をして私を騙してるってわけっ!? 正体見せなさいよこのぉ、車椅子出しなさいよこのぉ!」 「玖塚姉妹って基本いつもセットじゃん。 今日は単独行動してるもんだから、 そりゃあ何かあったのかなって思うよ」 「ぐぬぬっ……期招来のくせに鋭いじゃない……!」 あれ? これ俺ちょっとバカにされてる? 「まあ……その通りよ。つつじ子の事で話があって……」 「どうせ姉妹喧嘩でもしたんだろ」 「ぎゃふんっ!」 図星らしい。 「くぅ……期招来にそこまで見透かされるなんて……! ものすっっっっごく悔しいっ……!!」 「俺……そんなに推察力無い人間に思われてるわけ……?」 それはそれで、ものすっっっっごく悔しいっ……!! 「で、何があったんだよ」 「何があった……っていうわけじゃないんだけどね。 最近あの子の様子がちょっとおかしいのよ……」 「様子が?」 「普段一緒に下校してるんだけど……最近は何か用事が あるとかで先に一人で帰る事が多くって……」 「寮の部屋をノックしてみたら、まだ帰ってないのよ? 一体何してるのかしら……」 「直接聞いてみろよ」 「聞いたわよ。そしたら――」 「だからぁ……用事だってば」 「用事って何なのよ。こんな遅くまで どこで何してたのかって聞いてるの」 「もう……お母さんみたいな事言わないでよ……」 「だって、あなたが内緒にするから……」 「そんなのお姉ちゃんにいちいち言う必要無いでしょ。 放っておいて」 「あ、ちょっと……つつじ子っ……!」 「……っていうわけなのよ」 「なるほど、確かにお前母親みたいだな」 「そういう事が言いたかったんじゃなくてっ!!」 「私は……ただ、あの子が心配で……」 「心配……ねぇ」 「そ、そうよ……悪い? だって夜遅くまで帰ってこないのよ!? 私にも言えない何かをしてるのよ!?」 「今まで私に隠し事なんてしてこなかったのに……! もしかして、変な事に手を出しちゃってるのかも……!」 「落ち着けよ。つつじ子だって子供じゃないんだし、 一人になりたい時くらいあるだろ」 「あ~~んっ、つつじ子がグレた~~っ! いかがわしいバイト始めちゃった~~っ!」 「ああもう……」 妹の事となると猪突猛進思考になるのは相変わらずだな。 「飛躍し過ぎだって。どうせ買い物とか買い食いとかだろ」 「どうして私に言えないのよぉっ!?」 「いや……知らないけどさ」 「ふーぞくぅっ、ふーぞくぅっ!」 「………………」 妹思いとは聞こえがいいが……度を過ぎるとおせっかいってヤツだよな。 「へるすぅっ、そーぷぅ、恋人ごっこぉっ! でりばりーでしょっ、でりばりーなんでしょぉっ!!」 「うーむ……」 あざみ子の妹に対する面倒見は時折過保護に思えるが……。 ここまで姉を心配させるつつじ子にも問題はあるのも事実。 「わかったよ。ちょっと俺からも問い質してみる」 「本当っ!?」 「ああ。あざみ子の名前を出さずそれとなくな。 姉に聞かれたくないような事でも、俺になら あっさり打ち明けてくれるかもしれないし」 「た、助かるわっ、よろしくね、期招来っ!」 「ああ」 「つつじ子を性欲と金欲のスパイラルから救ってあげてっ! 身体が侵される前にっ、心が冒される前にっ、 色々犯される前にっ!」 プレッシャーだなぁ……。 ――という事で。 「なあ、つつじ子。ちょっといいか?」 「あ、期招来君。何か用かな?」 「ああ……少し話が」 「えっと……長くなりそう?」 「どうだろう。もしかして用事があるのか?」 「うん。この後、ちょっと……」 なるほど、確かにあざみ子の言う通りだ。 「へー。用事って何なんだ?」 「ふふっ、内緒だよ」 む……俺にも言えない内容なのか。 「話かぁ……あ、でも丁度いいかも」 「ん?」 「実は私も話があるんだ。ちょっとついてきてもらえる?」 「え……俺に話?」 「ほら、早くして。私、用事があるって言ったでしょ? あんまり時間無いんだから」 「お、おう……」 昼に続き、今度はつつじ子に連れていかれる。 つつじ子が立ち止まったのは、階段の踊り場。屋上へ続く扉の前だ。 「ここなら誰もいない……よね」 「お前も周りを気にするような話があるんだな」 「ふふっ。お前“も”って事は……」 悪戯っぽい表情で、つつじ子は話を始めた。 「お姉ちゃんから何か言われたんでしょ?」 「……ぐ」 「さっき教室で私にこの後の用事を聞いたのも…… お姉ちゃんにそう頼まれたから?」 「つつじ子……お前……」 「お姉ちゃんが私の事気にしてるのはわかってるんだ。 期招来君はそれに巻き込まれちゃったんだね」 「………………」 どうやら全てお見通しのようだ。 ぼんやりしているようで、案外姉よりも一枚上手をいく。つつじ子はこれでなかなか侮れない。 「わかってるなら……これ以上心配かけるなよ」 「あはは……うん。悪いなって思ってるんだけどね」 「じゃあ安心させてやれって。お宅のねーちゃん、 心配の仕方がなんか鬼気迫る感じだったぞ」 「む~……私もう子供じゃないのにな。 お姉ちゃん、ちょっと過保護だよぉ……」 それには同意するが、姉妹仲が良いという裏付けでもある。微笑ましいじゃないか。 「――で、実際何してるんだよ」 「……あのね。ここに連れてきたのは、そのお話」 「……誰にも言えない事してるのか?」 「えへへ……まあね」 ……意外だな。優等生のつつじ子らしからぬ言動だ。姉が心配するのも納得出来る。 「それって……一体何なんだ……?」 姉を振り回してまで隠匿しているその真相。好奇心を膨らませながら、俺はつつじ子にストレートに聞いてみた。 「それはね……」 「それは……?」 「実は……私、いつも放課後に……」 「いつも……放課後に……?」 「――教えてあーげないっ♪」 「えっ……!?」 「誰にも言えない事なんだもん。お姉ちゃんにも内緒だし、 期招来君にも内緒だよっ」 「ちょ……ここにきてまだ秘密引っ張るのかよ!」 「教えるつもりなんて元から無かったよ?」 「じゃあなんでわざわざこんな人目のないところに 連れてきたんだよ!?」 「それは――」 「――っ!?」 突然しゃがんで、何をするかと思えば―― 「はぁ……はぁ……っっ」 俺の股間に手を伸ばして……! 「んっ……はふぅ……んっ、んんんっ……!」 無遠慮に……制服の上からペニスを……! 「お、おいつつじ子、いきなり何してんだよっ……!」 「はぁっ……んっ、はぁぁっ……期招来君をここに 連れてきたのは……こうするため、だから……んっ」 「は…………」 俺のペニスを触るために……人目のない階段の踊り場に連れ込んだってのか……!? 「どういう意味だよ……それ」 「んっ……私が放課後何してるか…… 詮索しないで欲しいの……はふぅ」 「はぁ……!?」 そう言いながら、指を自在に動かして俺のペニスを握り触るつつじ子。 彼女の狙いはまったく不明だが、艶めかしいその手つきから送られる刺激に、少しずつ足腰が砕かれていく。 「期招来君……お姉ちゃんから頼まれてるんでしょ? 私が放課後何してるか調べて来てって」 「まあ……な」 「あのね、秘密にしていたいんだ……。 だから、詮索しないで……?」 「それと……この行為と、何の関係があるんだよっ」 「だからぁ……んっ、はふっ、おちんちん 気持ち良くさせてあげるから……その代わり、 これ以上探らないって約束して欲しいの」 「お前、だからってこういう事を軽々と……」 「んっ、はふっ……軽々とやってるつもりはない、よ……」 「どうだかな……いくら深入りされたくないからって…… 普通こんな事しないだろ……!?」 「それだけ私の秘密を黙認してて欲しいって事っ」 「んっ……私だって恥ずかしいんだからね…… こんなの……初めてなんだから――」 「くっ…………!」 「わ……おっきい……!」 恥ずかしい……か。 なるほど、確かにつつじ子の顔は真っ赤だ。窓から差し込む夕焼けに彩られただけではこうはならない。 「これが……おちんちん、なんだね……んっ、はふっ。 すご……いね、なんか……ゴツゴツしてる……」 「ズボン越しに触ってた時よりも、熱くて硬い……! う、うぅ……実物を目の当たりにすると…… これまで以上に恥ずかしいよぉ……」 「恥ずかしいなら、もうこんな事やめろって……!」 「だって……こうしないと期招来君、 私の事詮索するでしょ?」 「お姉ちゃんに頼まれたんだよね……? 私が放課後何してるか解明するために、 尾行でもするつもりだった?」 「そこまでは考えてないって……!」 「お姉ちゃんにバレたら全部パーになっちゃうの。 だから……私の事は気にしないで……お願い?」 「くっ……!?」 ペニスを扱く手捌きが加速した。彼女の想いが強まった証拠だ。 「んっ、んしょっ……はふっ、んしょっ、んっ……! はぁっ、んっ、んっ、はふっ、んんっ……!」 「おちんちん……熱いよ、くっふっ、んっ、んんっ! 勃起……どんどん勃起してく……はふぅんっ、んっ!」 “こんな事”してまで秘密にしたいつつじ子の行動……。 むしろ気になってしまう。 あざみ子じゃないが、俺も心配になってしまうくらいだ。 「んっ、はふっ、んしょ……この……幹の部分を こうやってゴシゴシすると……気持ちいいんだよね、 きっと……はふっ、んっ……」 「だって……ここ擦るたびに……おちんちん、 ピクン……ピクン……ってなって……あふぅ、 むくむく勃起してくんだもん……んっ……」 この手コキを受け入れるという事は、つつじ子の要求を呑むという意思の表れでもある。 彼女の秘密は俺も興味がある。調査して、秘密を明かしたい気持ちはある。 しかし、今ここで彼女を圧し払ってこの場から逃げる事なんて出来ない。 「んっ……はふっ、おちんちん……震えてる……! 熱くなりながら……震えが止まらないよぉ……!」 だって……気持ちいいんだ。この股間の快楽にもう少し身を委ねていたいんだ。 それはすなわち、“身体はつつじ子の要求を呑んでいる”という事。 つつじ子の秘密は気になるが……ペニスはそれよりも直近の快楽を欲している。詮索はしないから、もっと気持ち良くしてほしいと主張している。 その欲望に……理性が上書きされていく―― 「勃起……すごい事になってるよ……? ほら……もうこんなにもっこり膨らんで……」 「恥ずかしいって言ってるわりには……上手いじゃないか」 「私上手い? そっかぁ……。 じゃあこういうお仕事向いてるのかな」 「お、おい……! ホントにそっち系のバイト してるんじゃないだろうな!?」 「だからぁ……詮索しないでって言ったでしょ? そのためにこうしてエッチな事してるんだから」 「そうだけど……くぅっ!」 ペニスを握る力が強まった。 俺の追及心を性刺激で誤魔化すつもりだ。 「んしょ……シコシコぉ……はっふっ、シコシコシコぉ、 んっ、んっ、んっ……んんんっ……!」 「ぐっ……っっ!」 悔しいが、抗えない。屹立が止まらない。効果絶大だ。 このままでは……つつじ子の行動にこれ以上首を突っ込まない事を、有無を言わさず、強制的に身体で約束させられてしまう。 「は……ふぅ……ん、恋人でもない人のおちんちんを こんな風にして……お姉ちゃんに知られたらきっと 怒られちゃうよ……んっ、あっふぅ……」 「ねえ、お姉ちゃんには内緒にしておいてね? それも……この手コキで約束して」 「わ、かってるっ……さすがにこんな事 されたなんて言わないって……」 これ以上つつじ子の事で、あざみ子に余計な心配をかけたくない。 そもそも俺だって階段で手コキされたなんて誰にも知られたくないし。 「つつじ子……お前、姉ちゃんに心配かけるのも ほどほどにしておけよな……」 「うん……そうだね。反省しながらおちんちん扱いてるよ」 「言ってる事とやってる事が真逆なんだよ……!」 「だから、んっ、反省はしてるって言ってるんだよ…… んっ、んっしょ、んっしょ……はふぅ」 「少なくとも今……こうして手コキする事で……んっ、 お姉ちゃんに対して秘密をさらに一つ作っちゃった のは間違いないわけだからね……んしょっ、はふっ」 「貞操観念が緩いって怒られるだろうな」 「それもそうだけど……どっちかっていうとお姉ちゃんは きっと……別の理由で怒ると思う……かな」 扱きが減速した。何かを脳内で逡巡させたらしい。 「つつじ子……?」 「……ごめん、なんでもない。こればっかりは、 姉妹の仲は関係ないもんね」 「……?」 何の話だ……? 「ねえ期招来君……私そんなに貞操観念緩いかなぁ?」 「お前、男性器握りながらよくそんな事聞けるな」 「他の人のおちんちんにはこんな事しないもん。 期招来君は特別なの」 「どういう意味だよ」 「ふーっ♪」 「くおっ……!」 「きゃっ……ふふっ、ぴくんってしたぁ♪ ふーっ、ふーっ、ふーっ……」 「い、息吹き掛けるなっ……!」 「えへへ……おちんちんって面白いんだね」 こんな状況でよく楽しんで性器観察が出来るもんだ。ふてぶてしいヤツめ。 「そりゃあ俺は言うなればあざみ子から送り込まれた 調査員だからな。他の男と違って特別なのは当然だ」 「そういう意味じゃないのにぃ……シコシコぉ……」 シクシク的な感じで扱かないで欲しい。 「でもそれ面白いね。お姉ちゃんが放った刺客を、 こうしてエッチな事して骨抜きにして…… なんか私、セクシーな女スパイみたいじゃない?」 骨抜きというか……やってる事は性的な司法取引だ。 「お姉ちゃんもまさかこんなやり方で期招来君を 手籠めにしてるとは思ってないだろうな……。 なんかちょっと気分がいいよぉ……シコシコシコ……」 「あのな、あざみ子はお前を困らせるために 俺に相談してきたんじゃないんだぞ? あくまでお前を心配して……」 「わかってるけどぉ、それは今は余計なお世話なのっ! おちんちんふーーっ!」 「――ぐぅ……!」 だとよあざみ子。ホント、こいつの隠し事ってなんなんだろうな。 「ねえ……おちんちん、勃起凄過ぎじゃない……? これ、大丈夫なのかな……?」 「あんまり大丈夫じゃない……かも」 「それって……どういう意味?」 「そろそろ出ちゃいそうって事だ」 会話中もずっと扱かれ続けていたせいで、俺のペニスはもう絶頂寸前まで滾ってしまっている。 「おちんちん……射精しそうって事なのかな……?」 「うん……していいよ。そのためにこうやって 手コキしてたんだから……遠慮せずに射精して」 その言葉から続く真意が読み取れる。 即ち、その射精をもってして、これ以上の追及はしないと誓え……と。 「んしょ、はふっ、んしょぉ……シコシコシコぉ……! シコっ、シコっ、シコっ、シコっ、シコっ……!!」 「くぅっ……っ!」 この快感に逆らうなんて出来ない。 約束が強要される。 つつじ子が、恥ずかしがりながら、無理してまで手コキをする事で隠したがっている放課後の秘密が、いよいよ遠ざかっていく。 「期招来君……射精、して……? いっぱいイっていいんだよ……シコシコシコぉ……!」 理性を奪う甘いその言葉と、淫惑な彼女の上目遣いに―― 「っっ……!!」 「シコシコぉっ! シコシコぉっ! シコシコぉっ!  シコシコ! シコシコ! シコシコ! シコシコ! シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコ……!」 「――んっ、わっ!? ……きゃあっ!? ひゃっ、おちんちん……んきゃああっ…………!!?」 限界を迎えた俺の性器は、その細い指に囲まれながら熱い吐精を遂げたのだった。 「ひゃっ……んっ、はぁっ……! すごっ……ひぃんっ! おちんちん、弾けてるっ……これが……射精っ、ひゃ、 んっ……んっ、精液……吹き出してるぅ……!」 「しっかり握っておかないと……おちんちん、手から 零れ落ちちゃうよ……んっ、はふっ、震え止まんない、 ビクビクって……あっ、んっ、あひゃぁっ……!」 つつじ子の美しい手を、白濁が淫らに彩っていく。 一度決壊した欲望は、もう止めることが出来ない。最後の一滴を解放させるまで、射精は続いていく。 「んんっ……はふぅ、先っぽの割れ目から……精液、 まだ溢れて来るよ……んっ、はふ、じわじわぁって…… 射精……すごいよ……精液エロいぃ……ぁはぁっ……」 「は…………ぁぁん……ようやく……射精終わったぁ……」 残されたのは、精液塗れの亀頭と、射精を浴びて同じく精液に染まった彼女の手。 それらを眺めながら、つつじ子はうっとりと溜め息を漏らす。 「ん……はぁっ……手がベトベトになっちゃったよ……。 精液で……ドロドロぉ……はふぅん……」 「ほら、見てぇ……精液糸引いてる……。 指でこうすると……にちゃにちゃ、ねちゃねちゃ……。 すっごくエッチだよぉ……あはぁぁん……」 「制服にも……少しかかっちゃったかも……。 んっ……はふぅ、お洗濯したら、ちゃんと 取れるのかな……」 「……悪かったよ」 「ううん、謝る必要なんてないんだよ。 私がそうさせたんだから」 「でも……これで約束してくれたはずだよね? 射精しちゃうくらいおちんちん気持ち良く させたんだから……その代わり……ね?」 「………………」 「……ああ。わかってる」 「ふふっ、ありがとう……♪」 射精を終えて冷静さが頭に戻って、ようやく。 男の性欲を逆手にとったつつじ子の狡猾さに恐怖を感じてしまうのだった―― 「――あ、思ってたよりも時間経っちゃってた。 私もう行くね」 「……ああ」 「ついてきちゃダメだよ?」 「わかってる」 手コキでイカされた身として、大人しく彼女の言葉に従うしかない。 つつじ子は……あんな事をしておきながら何とも思っていないのだろうか。 恥ずかしがっていたみたいだったが……自分の手で射精に導いた男を前に、こんなにも平然としていられるものなのだろうか。 「ねえ期招来君……またして欲しくなったら…… 私、してあげてもいいよ?」 「……っ!」 「なんてねっ♪ えへへ……」 平然と……なんてとんでもない。 むしろ積極的じゃないか。背徳だというのに、清々しいほどに。 「……用事とやらに遅れるぞ?」 「あ、そうだった。それじゃあねー。また明日ー!」 「………………」 なんだか……今日一日で、つつじ子の印象が大きく変わったな。 のんびりとしていて温和な少女だと思っていたが……。 姉に絶対の隠し事を持つような一面もあるらしい。しかも、それを手コキと引き換えに黙認させるくらいな大胆な一面も。 エッチな事をしてしまった以上、俺はつつじ子の秘密をこれ以降究明する事は出来ない。 気になるけどな……。 「……まあいいや。色々あって疲れたし、 今日はさっさと帰ってさっさと休もう」 そう考えていたのだが―― 「まだ帰ってこないのよ~~っ!」 「……………………」 ――部屋に来訪した姉がそれを許してくれないのだった。 「ねえ、確認してくれたんでしょ!? あの子なんて言ってた!?」 「いや……俺にも秘密にされたよ」 「そうなんだ……! 私だけじゃなくって…… 誰にも言えないような秘密って事なのね……」 「そうらしい。悪い事に手出ししてないといいな」 「ちょっと、何他人事みたいに言ってるのよっ! あの子が何をしてるか判明するまで、期招来にも 協力してもらうんだからね!」 「ええっ!? なんでだよっ」 「当然でしょっ! あんたはもう事情を知っちゃった わけだし……あんただって真相を知りたいでしょ?」 「それは……確かに興味あるけどさ」 「それに、これは私達姉妹の問題なのよ? 結果次第じゃ 私達の仲が悪くなって、姉妹の絆が崩壊しちゃうかも しれない……あんたはそれを黙って見てるわけ!?」 「いや、そこは俺関係ねーよ?」 「へー、冷たいのね。クラスメイトなのに。 友達の姉妹がどうなろうと、関係無いんだ。 へー、へー、へー、へー、へー、へー」 へぇへぇ鳴る懐かしのボタンを連打する仕草で床を何度も叩きながら嫌味をかますあざみ子。 「でも、俺は協力しないからな」 「何よ、まだ言うかこのバカきま! バカ那由太! おバカおバカおバカおバカ!」 「こっちにも事情ってもんがあるんだよ」 「どういう事よ……」 「それは……言えないけど」 「何それ。もしかしてあんた、 つつじ子に釘刺されてるわけ?」 「企業秘密だ」 「むぷぅ…………」 頬を膨らまして俯いたその仕草は、あざみ子にしては幼げで不釣り合いなものだった。 「……私、もう部屋に帰るわ」 「悪かったな、何もしてあげられなくて」 「……仕方ないわよ」 残念そうな表情のまま扉に向かうあざみ子を、俺は出来る限りの表情で見送るしかない。 「ねえ……あんたさ」 「……ん?」 「……………………」 「………………」 「…………?」 「……なんでもないわよ、バカきま」 立ち止まったまま。俺の方に振り返るわけでも無く。 こちらを見る事に怯えているような、そんな弱々しさで。 精一杯の強がりを残して、あざみ子は去って行った。 「……………………」 つつじ子に手コキされて。 そりゃあ気持ち良かったさ。男として抗えない快楽だった。 俺は……あざみ子を裏切った事になるのだろうか。 あざみ子だってバカじゃないんだから。 きっと……色々考えていて―― 「つつじ子、ご飯一緒に――」 「あ、うん。そうなんだ、それじゃあ 私が代わりにそれやっておくよ」 「ううん、大丈夫だよ。じゃあまたね」 「えっと……電話?」 「……うん」 「あ、あのね……ご飯、一緒に……」 「ごめん、私ちょっと先生に頼まれた用事があって」 「あ……う、うん……そう……」 「……………………」 ふーむ。 残されたあざみ子のなんと不憫な姿か。 関与してはいけないとはいえ、見ていられないな。 「えーっと……」 「んーっと……」 「うーんと……」 「もぐもぐもぐ……」 「………………」 ここか。 一人で弁当食ってるし。何が“先生に頼まれた用事”だよ。 「ねえ、つつじ子……あんた今日も……」 「うん、ちょっと寄ってくとこがあるんだ。 お姉ちゃんは先帰ってていいよ」 「あ、あのさ……いい加減何してるかくらい私に――」 「………………」 「――期招来、今から私に付き合いなさいよ」 「……まあ、見てられないって思ってたところだ」 「説明不要で助かるわ」 「何させる気だよ」 「つつじ子を尾行するのよ」 「だから、俺はもう協力しないって!」 「何意地張ってんのよ。いいからほら、早く行くわよ」 「あざみ子一人でやればいいだろ?」 「私が無理矢理あの子の秘密を暴こうとして……それで 仮にあの子が何してるか知ったところで、問題の解決 にはならないじゃない」 「なんでだよ。お前、つつじ子が放課後何してるのか 知りたがってるんじゃないのか?」 「あのねぇ……あんた全然わかってないのね」 「…………?」 「言ってるでしょ。問題の解決にならないって。 今の私達の問題は何なのか、ちゃんと考えて」 「……つつじ子が周囲に内緒で謎の行動をしてる事が 問題なんだろ?」 「全然違うわよ」 「じゃあ何が問題なんだよ」 「姉妹の仲が悪くなっちゃってる事よ」 「あ…………」 「あの子はね、放課後何してるかを隠してるの。 誰にも知られたくないの」 「それを無理矢理暴いたところで……私があの子の行動を 把握したところで……仲が修復するわけじゃないのよ」 「むしろ力任せに秘密を探った事で、今の険悪な雰囲気が もっと悪化しちゃうかもしれない」 「でも……お前はつつじ子が何してるのか調べたいんだろ」 「そうよ。心配だもの。変な事に手を出してるようなら、 姉としてあの子を止めないと」 「喧嘩になってもか?」 「だからあんたに頼んでるんじゃないの」 「どうしろっていうんだよ!?」 「仲を取り持って欲しいのよ」 「……………………」 「どうせあの子から詮索を止められてるんでしょ? だから協力出来ないって言ってるんでしょ?」 「そんなの知った上でこっちは頼んでるのよ。 あんたが私とつつじ子のどちらの要求を重んじるか、 そんなのどうでもいいの」 「姉妹のピンチなの。助けて」 「………………」 「助けなさい。いいわね?」 「……ああ」 「喧嘩になった時のあの子はなかなか手強いわよ」 「覚悟しておく」 「私、感情的になるつもりだから」 「あんま叱ってやるな」 「行きましょう」 「一つだけ。俺だってつつじ子の約束を 破るつもりはないんだ」 「俺は断った。お前に無理矢理 付き合わされただけだからな」 「こんな時に自己保身なんていい度胸してるじゃない」 「それくらいの施しを受けたんだよ」 「わかったわ。あんたの顔は私が立ててあげる。 あんたは私が力ずくで尾行に付き合わせて……。 あとはなるようになっただけ」 「助かる。それじゃあつつじ子を追いかけるか」 「待って。私からも一つ」 「む…………」 「ねえ、施しって何?」 「ぎく」 「あの子、あんたに何したわけ? 随分ちゃんとした契約を交わしたみたいだけど……」 「突発的な事故だったんだ」 「何か高価なものでも貰ったの?」 「一時の快楽を少々」 「……意味わからないんだけど」 「詳しくは言えない。それも契約事項だ」 「…………でしょうね。諦めるわ」 つつじ子、すまん。お前を暴く。 でも手コキは二人だけの秘密だ。それで勘弁してくれ。 「ふーむ……」 やって来たのは商店街だ。 つつじ子の足取りに躊躇は無い。目的地に向かって一直線といった様子だ。 「どこに行くつもりなのかしら……」 買い物だろうか……? いや、その可能性は少ないな。 日課になるような買い物なんて考えられない。 毎日同じ時間に同じ場所に通う理由……。 例えば―― 「習い事……とか?」 「習い事って……例えば何よ」 「わからないけどさ……料理だったり手芸だったり 色々あるだろ」 「ぐっ……あの子、私を差し置いて花嫁修業なんか 始めちゃったってわけ……!? それはそれで…… いかがわしい系の事より腹立たしいじゃないの……!」 自分勝手な姉め。 「……………………」 時折、足を止めて周囲をキョロキョロと見渡すつつじ子。まるで誰にも見られていない事を確認しているみたいだ。 「なかなか鋭いわね……あの子」 「この距離なら気付かれてないと思うけど……」 物陰に隠れながら、つつじ子を追う。 そんな中、彼女はようやくある店の前で立ち止まり―― 「入って行ったぞ」 人目を気にしつつ、そのまま店の中へと消えていった。 「こ、ここは…………!!」 「マジか…………!!」 さすがに……想定してなかった展開だ。 「……どうする?」 「どうするって……ねぇ」 お互い顔を見合わせてしまう。 判断が難しいところだ。 「えっと……俺はどっちでもいいぞ?」 「うう……私は……かなり厳しいっていうか……」 「その気持ちはわかる。でも正直、俺は少し気になるな。 怖いもの見たさっていうか……」 「うう……ここは姉として、妹のプライドを 守ってやるべきなのかしら……」 「仲直りしたいんだろ? 今はとりあえず つつじ子の考えを知るべきじゃないか?」 「た、確かに……なんであの子、こんな事……」 “こんな事”……。 まあ、つつじ子のイメージからは随分かけ離れてるけども。 でも、彼女の目的を知るためには、まずはこの店の扉を開けなくてはいけないんだ。 「行くぞ、あざみ子。覚悟を決めろ」 「覚悟なんて決まらないけど……う、うん。 行くしかない……もんね」 あざみ子からしてみれば、そりゃあ苦しい決心を強いられている事だろう。 なにせ、長年ともに歩み生きてきた妹の、ある意味で最も知ってはいけない一面を、これから知る事になるのだから―― 「ご主人様のオムライスに、おまじないをかけまーすっ♪」 「こうして……こうして、はい、出来上がりっ! ハートのマークで、萌え萌えキュンっ♪」 「……………………」 「おお……もう……」 正しい。この店において、つつじ子の振舞いは実に正当だ。 ただ、見てられない。見てるとこう……胸の奥を抉られるような、そんな苦痛に苛まれてしまうのだ。 「アミコちゃん、こっちのパンケーキ 4番テーブルにお願い」 「かしこまり~♪」 慣れた手つきで配膳を行うつつじ子。 “アミコちゃん”としてこの店のウエイトレスのルールを全うする事に、なんら羞恥はないようだ。 「うう……つつじ子、どうしてこんな仕事を……」 「確かに……謎だな」 「今さらよ……! メイド喫茶なんて……萌えなんて…… 今さら過ぎるわよっ……!」 「えっと……ご注文は……?」 「レモンティー」 「グレープフルーツジュース、濃いめ」 「か、かしこまり~……」 つつじ子に見つからないように、店の隅の席から彼女の動向を観察する。 「萌え萌えラブリーキュンキュンキュンっ♪」 「くぅ……可愛いっ、可愛いわつつじ子……! 私の知らないつつじ子の全てが今ここに……!」 「ご主人様に、愛の呪文をかけちゃいましたぁ♪ これでご主人様はぁ、アミコのと・り・こ♪」 「ぐおおおっ……! む、胸の奥に広がる もどかしくも温かいこの感情は何……!? こ、これが、これこそが萌えだっていうの……!?」 「あざみ子、落ち着けよ」 「はぁ、はぁ……輝いてるわ、つつじ子……! お姉ちゃん嬉しいっ、お姉ちゃん大興奮っ……! でも……思いっ切り複雑っ……!!」 そりゃあこんな姿、姉に見せたくないわな。 姉だけじゃなく誰にも言えない秘密にしていたのも納得だ。 「はいっ、ご注文の萌え萌えアラモードですっ」 「アミコちゃん可愛いね、写真撮っていい?」 「勝手に写メ撮ったらダメなんだぞーっ。 アミコとお写真したい場合は、チェキを注文してねっ」 「うおー、アミコちゃん萌えーっ!」 「アミコちゃん萌えーっ!」 なぜお前もいる。 「お疲れ様でしたー。お先失礼しまーす」 仕事を終えたつつじ子が、店の裏側から現れたのは日がとっぷりと暮れた後の事だ。 「…………あざみ子、気は確かか?」 「うう……まだ信じられないわ……。 あの子があんな萌え萌えでキュンキュンな仕事を……」 「まあ、気持ちはわかる」 「あの後、萌えポーズ連発の撮影会までしてたのよ!? ステージでアイドル曲歌ったのよ!? 振り付け完璧だったのよ!?」 「あんな子じゃなかったのに……どうしてこんな事に……」 「とりあえず……つつじ子を追おう」 「振り付け……いつ練習してたのよ……。 どうせなら私も一緒に……」 ぶつくさ呟くあざみ子を無理矢理引っ張りながら、尾行を再開させた。 開けてはいけない箱を開けてしまった俺達の足取りは重い。 時間的におそらくもう帰るだけだと思うが……今後、つつじ子とどんな顔で接するべきか早くも困惑している自分がいる。 きっと尾行されていた事を知らないつつじ子は変わらず俺を迎え入れてくれるだろうが……。 彼女の顔を見ると、あの萌え萌えキュンキュンなつつじ子を思い出してしまって、まともに会話出来そうにない。 きっとあざみ子も同じだろう。 「ふんふんふ~ん♪」 一仕事終えた顔を浮かべながら満足げに歩くつつじ子がどこか遠い存在だ。俺達の気も知らないで……。 「あ、あら……」 店を出て、さらに商店街の奥へと歩いている。 寮はあっちじゃないぞ……!? 「こんな時間に、まだどっか行くつもりなのか……!?」 「まさか……で、でりばりーっ……!? 萌え萌えでキュンキュンなでりばりーっ……!?」 そんなものがあるのだとしたら俺が大金払ってでもつつじ子を指名したいくらいだが、その事は口が裂けても姉には言うまい。 「とりあえず尾行を続けるぞ」 「うう……つつじ子ぉ……! これ以上お姉ちゃんを驚かせないでぇ……」 そんな魂の呟きを耳にしながら、俺達は引き続きつつじ子から距離を保ってその背中を追った。 相変わらず、目的地をしっかりと見据えている足取りだ。 明確な意志を持って歩いているように見える。一体どこへ行くつもりなのだろう……。 「また……バイトかしら」 「わからん。どうだろう」 「でも、こんな夜遅いバイトなんて……そんなのもう…… いかがわしい系のヤツしかないじゃない……!」 いやいや……コンビニの夜勤とか、居酒屋やカラオケの店員とか、割と色々あるだろ。 「エッチなバイトはダメなのにぃ……萌え系でもうすでに やっちゃった感出てるのにぃ……!」 妹の事となると頭の中ぱっぱらぱーになるのかこいつは。 「お、立ち止まった」 「ここのお店に用事があるって事……?」 「……よしっ」 決心を口にして、つつじ子は建物の中へと入っていった。 ここは―― 「雑貨屋……?」 いや、雑貨というには限定的な店だ。 骨董品や占い道具とかを売っているような、随分と怪しげな店……。 というか、取り扱っているものをよく見てみると、祭壇の宝飾品やら新祭具やら……言うなれば、宗教的な臭いが……。 「おいおい……!」 それはそれで厄介だぞ……! ある意味いかがわしいバイトよりもよっぽど面倒というか……! 「つつじ子……どうして……」 「ん…………?」 隣であざみ子が、口を無防備に開いたまま茫然としている。 そしてすぐに―― 「お、おいっ!」 あざみ子は何かに後押しされるように、走り出してしまった。 「あざみ子、見つかるぞっ!」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ!」 見つかるどころか、あざみ子はつつじ子のところへと駆け寄っていき―― 「――つつじ子っ!」 「え……お姉ちゃん……?」 「…………どうも」 「期招来君まで!」 勢いよく店の中に入って行ったあざみ子を見て、俺は観念してつつじ子の前に姿を現したのだった―― 「もう、詮索しないでって言ったでしょー!」 「す、すまん……あざみ子がどうしてもって言うから……」 「うう……あんな事までしたのにぃ……。 でもま、あれはあれで役得だったからいっか♪」 「ちょっとつつじ子、これはどういう事なのか 早く説明しなさいよ!」 気が気じゃない様子で、あざみ子が急かす。 「あなたこの店で何してたの?」 「ああ、それはね……」 「これが欲しくって……」 差し出されたのは、ついさっきこの店で購入した商品。 「それは……!」 「十字架……?」 「ちゃんとしたのって結構高いんだよ」 「そうか、だから金を工面するためにアルバイトを……」 「えっ……期招来君、どうしてバイトの事を……!?」 「まあ……お金のために、でりばっちゃうようなもの に手を出さないでいてくれた事は安心したわ……。 でも……あれはあれでこうふ……心配したんだから」 「お姉ちゃんも私のバイトの事知ってるの!?」 「悪いけどガッツリ見てたわよ。 萌え萌えキュンってどういう事よ」 「あ、あれはお店の決まりで……」 「アミコって誰よ、あなたにはつつじ子っていう 可愛くて立派な名前があるじゃない」 「え、えっとね……お姉ちゃんの名前から取ってるんだよ。 あざみ子……だから、アミコ……」 「え……な、なんで私の名前を……?」 「お仕事中も、お姉ちゃんの事を 忘れないようにって思って」 「つつじ子……あなた……!」 「……本当は?」 「身バレした時お姉ちゃんのフリするためです」 「こらー!」 「ひ~~んっ、だってあんな事やってるなんて 誰にも知られたくないんだもん~~っ!」 「私だって同じよ! 事と場合によっては、 アミコの正体が私だって勘違いされてたかも しれないのよ!?」 双子で顔似てるもんな。 「そもそもなんでメイド喫茶なのよ……!? お金を貯めるためのバイトなら他に いくらでもあったでしょ……」 「だって……いいじゃん、メイドさん。可愛いもん」 「ま、まあ……確かにアミコちゃんは 超絶萌えだったけど……」 「私だって女の子だもん……。フリフリした格好で 萌え萌えでキュンキュンな事してみたいよぉ……。 期招来君だってそういうの好きだよね!?」 「なんで俺にふるんだよ。別に好きじゃねーよ」 「どうせバイトするなら……普段の生活じゃ 味わえないような体験がしたかったの……。 ああいうの、実はちょっと憧れてたから……」 意外だな。でもまあ、女の子なんて皆そんなものなのかもしれない。 となるとあざみ子もああいうのに憧れたりするんだろうか。それはそれで見てみたい気もする……。 「というかさ、まあバイトの内容は人には言い辛い事 だったとはいえ……別に十字架の事まで内緒にする 必要ないだろ」 「そ、そうよ……それが欲しかったからバイトして お金貯めてるって正直に言えばよかったのに…… なんで隠したのよ」 「それは言えないよぉ……特にお姉ちゃんには」 「なんでよっ」 「期招来君には話してもいいかなって思ったけど…… 期招来君の口からお姉ちゃんに伝わっちゃったら 困るから、皆に内緒にしてたの」 「だから、どうしてそこまでして私に秘密にするのよ!?」 「それはね――」 「――はい、プレゼント」 「え…………」 「これねー、お店で見つけた時、絶対お姉ちゃんに あげようって思ったんだ。どうせならサプライズが いいかなって」 「もう見つかっちゃったし……今渡しちゃうね。 受け取って、お姉ちゃんっ」 「つつじ子……あなた……」 突然の事に、あざみ子は言葉を失っている。 どう対処していいかわからず、目線を泳がせながら続く言葉を必死に探している様子だ。 そんな姉の困惑を楽しむかのように、つつじ子はにこやかに話す。 「お姉ちゃんに心配かけてたのは、私も知ってるよ。 その点はごめんなさい」 「バイトは……言うのちょっと恥ずかしかったし、 プレゼントも、内緒にしておきたかったし。 一つも話せなくてごめんね。いっぱい困らせちゃった」 「えっと……お姉ちゃん、いっぱいいっぱい…… ごめんなさい。お姉ちゃんなら、この十字架の意味 わかってくれるよね? プレゼント、喜んで欲しいな」 「それじゃあ……あなたの隠し事は…… 全部、私のため……?」 「うんっ♪ そうだよー。大好きなお姉ちゃんのためっ」 「お姉ちゃん。ほら……。 コートゥリーヌレータルシァ・サバト・リフォシェス、 だよ♪」 あざみ子は―― 「――うえ~~~~~んっ!」 子供のように泣きじゃくったのだった。 「わあ、お姉ちゃんっ!?」 「ぎばねぎ~~っ」 「はいはい」 「ながなおりでぎだ~~~っ!!」 「よかったな」 「ふふっ、お姉ちゃん可愛い♪」 姉妹のささやかなすれ違いはこうも円満に解決した。 姉妹仲を懸念していたあざみ子だったが……二人の絆に疑いの余地なんて無い。 玖塚姉妹は、こんなにも温かく、こんなにも優しいのだ。 そんな事、初めからわかり切っていた事だ。 二人に振り回された結果、それを再確認してしまったよ。 ――で。 「あ、お姉ちゃん。期招来君だよ」 「おはようっ、期招来。一緒に登校しましょっ」 「期招来君、私達と一緒にご飯食べよう?」 「期招来、三人で一緒に帰りましょ」 「むぅ…………」 ――玖塚姉妹と仲良くなってしまったぞ。 あざみ子とは……妹の調査の協力の一環で、俺の部屋で二人っきりで話したり、一緒に尾行した仲だ。 つつじ子とは……ちんこ扱いてもらった仲だ。 姉妹喧嘩の一件で、今まで以上に二人との距離が縮まった。 それ自体は良い事だと思うんだが……。 「うーむ……」 また、巻き込まれてる感―― 「……おまたせ」 「……うん」 「何よ、話って……。二人っきりで改まって……」 「今度は隠し事しないようにしようって思って」 「そうね。またこの前みたいな事になったら困るわ」 「で……話って何なのよ?」 「お姉ちゃんから話してよ」 「え……私?」 「うん。あるんでしょ? 話……私に、言っておかないといけない事」 「そ、そんなの……別に……」 「無いの?」 「ゔぐ……」 「姉妹だよ?」 「ゔう……っ…………、ゔぅ…………」 「そ、そう……ね。姉妹だもんね……。 嘘は……バレちゃうか……」 「うん。それに、姉妹だからハッキリしておかなくちゃ いけない事もある」 「……つつじ子は無いの? 私に……言っておかないといけない事」 「……あるよ。私から話した方がいい?」 「…………ううん。私から話す。お姉ちゃんだもん」 「うん」 「え、えっと…………うう、いざとなったら 話し辛いわね……」 「頑張って、お姉ちゃん。 コートゥリーヌレータルシァ・サバト・リフォシェス だよっ」 「う、うん……ありがと……頑張る……」 「あの……ね、その……つ、つつじ子…… あなた、す、好きな人とか、いる……?」 「うん。いるよ」 「そ、そう……なんだ」 「お姉ちゃんは?」 「あ……あはは……私? 私は……」 「う、うん……まぁ………………いる、かな」 「そっかぁ。誰?」 「ふぇっ!? そ、それは……ちょっと……」 「当てていい?」 「だ、ダメダメっ! それよりつつじ子、 あなたこそ誰が好きなのか言いなさいよっ!」 「えー、お姉ちゃんが言ったら言うよ」 「うぐっ……」 「一緒に言お?」 「そ、そう……ね。せーので……言いましょうか」 「うん」 「それじゃあ……いくわよ。せーのっ――」 「あ、ちょっと待って」 「な、何よっ!?」 「手繋ごっか?」 「………………」 「…………ぅん」 ん……じゃあ、言おう? せーのっ―― 「ん……?」 「うお」 「期招来、まだ起きてるー?」 「遊びに来たよっ♪」 「でねー、ちょっと聞いてよ。この子ったら まだメイド喫茶のバイト続けてるのよ?」 「え、そうなのか? もう金は要らないはずだろ?」 「えへへ……だってぇ、楽しいんだもん。 メイドさんになるの」 「フーカさんにね、アドバイスしてもらってるんだ。 お辞儀の角度とか、メイド服の着こなし方とか」 「本格的にハマっちゃったんだな」 夜中、二人が俺の部屋に遊びに来た。 戸惑ってないと言えば嘘になる。 でも、せっかく来訪してくれた彼女達を冷たくあしらうわけにもいかず……。 「ねー見て、つつじ子。ほら、期招来のパンツー♪」 「あー、期招来君のパンツー♪」 「おいこら、勝手にタンスを開けるな!」 「なんか、色々物色したくなっちゃうね」 「やめろ。お茶のおかわり飲むか?」 「あ、大丈夫だよ。ありがとね」 「私も平気ー。ねえねえ、どれが勝負パンツなのよー?」 「やめなさい」 無邪気な二人を前に、俺は今どんな顔をしているだろうか。 俺の懸念が杞憂だったら、と願う。 でも……一方で、俺はどこかで二人の事を―― 「というか、何しに来たんだよ、二人とも」 「え? ああ、遊んでてすっかり忘れてた」 「用があるのか? だったら早く本題を話してくれ」 「それもそうね。もう夜も遅いし……。 まあ話はあっという間に終わる事なんだけどね」 「あ、でも順番決めてなかったよ」 「そう言えば……! どうしよっか」 「んー、じゃんけん!」 「いいわよ、じゃんけんぽん!」 「うう、負けたぁ……」 「ふっふっふっ。私の勝ち。 こういうのはお姉ちゃんからって決まってるのよ」 「いいもん。先とか後とか、関係無いもん」 「おい、何の話だよ」 「ええっと……それじゃあ私から話すね」 「…………?」 それまでリラックスしていたあざみ子は、瞬時に姿勢をただし俺の瞳を直視した。 「私、あなたの事が好きよ」 「……っ」 「私の恋人になってください」 「………………」 「……ふぅ。用件はそれだけ。 ね? あっという間でしょ?」 「お姉ちゃん、カッコよかったよ」 「えへへ……ありがと。 まあ……ちょっと恥ずかしいわね、やっぱり……」 「ううん。真剣な表情で、相手の目を見て…… それで好きって告白するなんて、立派だよぉ」 「……………………」 「……期招来君。突然で驚いたかもしれないけど…… お姉ちゃんの告白に、ちゃんと答えてあげて?」 「……………………」 驚いたりしないさ。なんとなく予想はしていたんだ。 その答え。俺が彼女に……いや、彼女達に返す言葉は―― 「あ、ううん。いいの、答えは」 「え……?」 「……つつじ子、ちょっと手伝ってくれない?」 「……そっか。うん、わかったよ」 「お、おい……なんだよ、どういう事だ……?」 つつじ子が突然立ち上がり、俺の背後へと回った。 そして―― 「……っ!」 「んしょ……期招来君、動いたら嫌だよ?」 「は……」 後ろから肩に手を回して、俺の腕を制するつつじ子。 目的も理由もわからない。情けない事だが、思わず茫然としてしまった。 「お姉ちゃんは準備してて。心と身体の準備」 「うん……そうする」 目の前ではあざみ子が何らかの決心を鈍らせないようにと唇を噛んでいる。 そして自ら制服のボタンに手をかけて……その場で脱衣を始めたのだ。 それが何の準備かわからない俺は、困惑するしかなかった。 「おい二人とも……何する気だよっ!?」 「私は……お姉ちゃんを応援するの」 「意味わかんないって!」 「じっとしててね。服……脱がすから……」 回された白い手が、俺の身体をなぞっていく。 「くっ……!」 つつじ子が、大胆な手つきで俺の服を乱す。密着のおかげで、こんな時でも背中で彼女の乳房を感じてしまう自分がいた。 「んしょ……はふっ、んっ、んっしょぉ…………! これを……ずらして……っと」 「おいっ……!!」 こいつ、平然とペニスを取り出しやがった……! 「はい、お姉ちゃん。おちんちん出たよー」 そして、平然とそれを姉に伝えやがった……! 「あ、うん……ひっ! 覚悟してたけど…… や、やっぱおちんちんってなんかすごいね……」 「ふふっ、お姉ちゃんのリアクション、可愛い……♪」 「あんたはよく平気でいられるわね……。 おちんちん……なんか、こう…… グロいっていうか……ねえ……」 「あー、お姉ちゃん、好きな人の身体を そんな風に言ったらダメなんだよー?」 「あわわっ、ご、ごめんっ! そ、そうだよね……。 初めて見るとはいえ……グロいなんて失礼だよね……。 ごめんね期招来……怒らないで?」 「いやいや! そういう段階じゃなくて!」 なんで俺、こいつらの前でちんこ晒されてるんだ!? 「ん……勃起は……うん、まあ入れる分には問題無い って感じかな。期招来君、なんだかんだ言いながら 興奮してるんだね。おっぱい当たってるから?」 「くっ……おっぱいわざと当ててたのかよ……! 相変わらず計算高いな……。 ――ってか、今入れるって言ったか!?」 「うん。これくらいの硬さなら出来るよね?」 入れる……挿入するのか? ペニスを。女性器に。 誰の穴に入れるというのか。 考えるまでも無い。 目の前でいつの間にか全裸になってペニスを見つめながら唇を噛む力を強めているあざみ子に決まってる――! 「お姉ちゃんのおまんこに、しっかり入れるんだよ? この状況で今更説明要らないと思うんだけど……」 「いや、説明必要だぞ! なんで俺、あざみ子と セックスする展開になってんだ!?」 「期招来……私とじゃ、いや?」 「え……そ、そういう問題じゃなくって……」 「いやじゃないなら……いいじゃん」 「いいじゃんってお前……」 「どうせなら期招来にも楽しんで欲しい」 「あと……意外に思われるかもしれないけど…… 私初めてだから……優しくして欲しい……」 全然意外じゃないぞ!? 「お姉ちゃん、準備出来た?」 「うん……心も……身体も、準備出来たよ……」 股間に手を伸ばしたあざみ子が、ゆっくりと近づいてくる。 「お、おい、あざみ子……!?」 「痛い……のかな。不安だけど……頑張らないとだよね」 「勇気出して、お姉ちゃん! 好きな人と思いっ切り繋がっちゃって!」 「お前、ホントに――」 「ごめんね、期招来……。告白の答え聞く前に こういう事するのは反則かもしれないけど――」 「――私の処女……もらって?」 「――っ!」 「くぅっ……んっ、くっ…………!」 股を拡げたあざみ子が、向かい合いながらそのまま俺のペニスに接近し……。 「ひっ……あぐぅ……くっふぅ……んっ、んんっ! くぅ……ぐぅ…………!」 亀頭を肉膣の中へと収納していったのだった。 「はふぅ……くぅ、おちんちん、熱い……くぅ……! んぐっ、予想以上に……熱くて……硬いぃ……!」 「お、お姉ちゃん……大丈夫? 痛い……?」 「うん……くふぅ、正直、痛い……はっ、うぅ……! おちんちん、入れてみたら、んっ……見た目以上に 大きく感じる……! あっぐぅ……!」 「が、頑張れー、お姉ちゃん……。 好きな人のおちんちんなんだから、 おっきい方が嬉しいはずだよ……?」 「そう、よね……あぐっ、ひっ、この痛みは……んっ、 おちんちんが大きいおかげ……なんだもん……! 我慢しなきゃ……むしろ喜ばなきゃ……ふへへ……」 脂汗を浮かべながら初挿入に耐える姉と、そんな姉の破瓜を不安そうに見つめる妹。 「なんなんだよ……これっ……!」 「はぁ……はぁ……くふっ、わ、私……あなたの事 好きなのよ? 好きな人とセックスしたいって 思うのは当然じゃない……! あぐぅ……」 「息切らせながら何言ってんだよ……!」 「告白の答え聞いたら……はふっ、んっ…… セックス出来ないかもしれないでしょ……」 「………………」 それはつまり、俺の答えをあざみ子はなんとなく察していて……。 だから、全てが明確になる前に暴走しておきたかったって事なのか……? 「既成事実でも作るつもりかよ……!?」 「はぁ……ん、それはそれですごく素敵な話だけど…… んっ、さすがにそれはルール違反……! するわけ、んっ、ないでしょ……」 「じゃあ……今回だけって事か?」 「……期招来は今回だけのつもりなの? それもう告白の答えじゃん、バカきま」 「そ、そういうつもりで言ったんじゃないっ」 「それ以上言及しないで……! 今は……余計な事考えたくないの……! セックスを楽しみたいのよぉ……!」 「えっとね……とりあえず“今は”付き合って。 出来る限り気持ち良くさせるから……ね?」 今は……? なんだよその含みのある言い方は。 「――んれろぉぉぉぉぉんっ……!」 「――っ!? つ、つつじ子っ……!?」 「んちゅむぅ、れろぉっ、れろちゅっ……はふぅ…… ねえ、期招来君……お姉ちゃんの言う通りにして あげて……? ちゅぷぅ」 「お姉ちゃんの気持ちはさっきの告白でもうわかったよね? だったら……あなたがその告白をどう受け止めようと、 このセックスだけは大事にして欲しいの……れろおっ」 「くっ……!」 背後からつつじ子が甘く囁いてくる。 以前俺のペニスを扱いたその細い指が、今度は乳首を攻め立て、興奮を煽る。 「お前もお前でなんなんだよっ……!」 「私はぁ……あはぁ、お姉ちゃんのお手伝い……ちゅぷっ」 「はあ……?」 「いきなりセックスするってなると、期招来君 空気読まずに断ってきそうだし……」 「んっ、あぁん……まあ、こいつのそういうとこ、 私は好きなんだけどね……あふぅっ」 「うん、それわかるよぉ……。ちゅっ、ちゅぷっ、 なんか変に真面目なんだよね、期招来君って……」 「そうそう……んっ! あっ、あっ、あぁんっ……!」 「二人で話を進めるなっ!」 一方は腰を動かし喘ぎ、一方は舌を伸ばし舐める。 両者の深いまどろみに、全身をゾクゾクさせてしまう。 「だからぁ……ちゅっ、ぺろぉっ、んっ、はふぅ、 こうして私が期招来君を押さえ付けて、 お姉ちゃんの初エッチに協力してあげてるのっ」 「キスとか……その愛撫とかは関係無いだろっ……!」 「えへへ……それは別にいいじゃん……。 お姉ちゃんとのセックス見てたら……れろれろ、 私も何かしたくなってきちゃったんだよぉ」 つつじ子の拘束なんて正直たかが知れている。思いっ切り肩を振り回せばすぐに解けるだろう。 しかし、俺は抵抗しない。しようとも思わない。 なぜなら、こうなってしまった以上、俺自身この快楽に身を委ねていたいのだ。堕落し続けていたいのだ。 つつじ子はそれを知っているから、その程度の拘束で俺の自由を制したつもりになっている。 まるで以前の手コキの時のように。男の本能や性欲に対する脆弱さをよく理解している少女だ。 「はふっ、んっ……首筋にキスマーク残しちゃおっと……。 んちゅずずずずずず~~~~~~っっ……!」 「ぐっ……くぅっ!」 「――ぷはぁっ……! はあぁん、えへへ……キスマーク 出来たぁ……期招来君、ちゅーってされてる時乳首 ちょっと勃ったぁ?」 「知るかっ……!」 「んっ、はふっ、乳首はわかんないけど…… おちんちんはぴくぴくしてたわよ……んっ、あぁんっ!」 「ふふっ、そうなんだ……。じゃあもっとちゅーって した方がいい? その方がおまんこ気持ち良くなる?」 「ううん、それはダメ……嫉妬しちゃうから……」 「そっか、わかったよ。 ぺろぺろするくらいに留めておくね」 「期招来……これ終わったら私もキスマークするからね」 二人はこちらの返答など待たずに、仲良く俺を弄び、蹂躙し続けている。 息の合ったチームワークはさすがといったところだ。正直抵抗する気力など完全に失われてしまった。 いまだにこの行為の意味はわからないけど……もうそれもどうでもいい。快楽に溺れたい……! 「はふぅんっ……んっ、おちんちん……あぁんっ、 動いてるっ……あっ、あっ、おまんこの奥で 行ったり来たりしてるっ……んっ、ひゃっ……!」 「やぁぁんっ、おまんこまだ痛いのに……はひぃっ! そこ、おちんちんでゴシゴシされると……きゃひっ、 あっ、あっ……変になるっ……私っ、あっ、くひっ!」 「れろぉっ、お姉ちゃん、おまんこ気持ちいい……?」 「うん、き、気持ちいい……はへぇっ、あっ、んはっ! セックス気持ちいいよぉっ、あっ、あっ……あぁんっ!」 今やすっかり結合の虜となったあざみ子を前に、俺も自ら腰を振りまくってしまう。 「んっ、そ、そこぉっ! そこの、はふっ、おまんこのっ、 奥の……柔らかいとこぉっ、そこおちんちんでガンガン されると、気持ちいいっ! 私変な声出ちゃうぅっ!」 「だってぇ、期招来君……れろぉぉんっ……! お姉ちゃんのおまんこ、いっぱいゴシゴシ してあげて……?」 「……っ!」 耳元の淫靡な声に容易く煽られながら、俺はひたすらに性欲を高めていく。 「んっ、ふはっ、ひぃっ! 気持ちいいっ……! あっ、あっ、そこいいよぉっ、私そこ弱いっ! おまんこ気持ちいいっ、あっ、あっ、へぁっ!」 「はっ、はっ、はっ、はっ……!」 「おちんちんいいっ! 勃起どんどん来てるっ!! おまんこ、削られちゃううぅっ、こんなの、ひっ、 耐えらんないっ、イクっ、イクっ、イクっ、イクっ!!」 「俺も……もうっ……!」 「おちんちん勃起し過ぎぃっ、あっ、ひあっ……!! 私のおまんこも一緒になって膨らんで……あぁあっ!! もうダメ、イクよっ、あっ、イっちゃうっ、ああっ!!」 「れろぉん……ふふっ、二人ともすごく切なそう……! れろれろっ……はふぅ、いっぱい気持ち良くなってね。 れろぉぉ…………っっ」 「……っっ!」 甘い肉圧、甘い感触、甘い刺激、甘い声。 それらの全てに理性を奪われながら―― 「んっ、んっ、ん、ん、ん、ん、ん、ん、ん、んっっ!! いっ、イクううっ、あっ、あっ、おまんこイクううっ、 あぁぁああぁあぁあああぁっっ…………!!!」 「あっはぁああぁぁああああああああああっっっ!!! やあぁあっ、おまんこおっ、おまんこおおっ!!! 気持ちいいのおおっ、あっはぁぁんっ、んんんっ!!!」 俺はあざみ子の中で精の全てを放出したのだった。 「んっ、んんっ、ひっ、あ、熱いの来てるぅ……!? 中に入ってきてるよ、ひあっ、こ、これっ、あふっ、 ひっ、んんっ、あぁんっ!!」 「これ精液だよねっ、おちんちんの、精液っ……んっ、 くうっ、おちんちんもイってるぅっ!! 私のおまんこと一緒に、おちんちんも、射精っ、ひっ!」 膣の絶頂痙攣がペニスの芯へと伝わり、射精の脈動と一体化していく。 その震えに加減を挿む事など不可能だ。快楽のままに精を送り出すのみ。 「おちんちんものすっっごく震えてるうっ!! んっ、ひゃっ、信じらんないっ、はっ、ひいっ!! おまんこ、精液で溢れちゃうっ、くうううっ!!」 「れろれろぉ、んっ、れろぉっ、期招来君……れろっ、 おちんちんだけじゃなくって、全身が震えてるよ……? れろっ、きっと中出し気持ちいいんだね……ぺろぉん」 艶めかしい刺激が体内と体外で同時に纏わり付いて来る。 日常の生活で絶対に体験する事のない官能。それを受けて、射精の限りを尽くしてしまう。 「はぁっ……はぁっ、はぁっ……ううっ」 「んっ、ひあっ……おちんちんまだ震えてる……。 精液出し切ったのに……ぷるんって……はぁんっ」 「お姉ちゃん、中出しどうだった?」 「んっ……あふぅ、すっごく……あったかいの……。 好きな人の精液って……こんな感じなんだ……」 「いいなぁ……私も味わってみたいよ」 「うん……今度はつつじ子の番ね」 その言葉を受けて、つつじ子が手の力を緩めた。 おかげでハッとする。 そう言えば最初、二人はじゃんけんをしていて……何かの順番を決めている様子だった。 今度はつつじ子の番、と言った。 つつじ子の……番? 「それじゃあ……よいしょっと」 なぜ立ち上がる? なぜ服を脱ぐ? 「期招来君……はい、横になって……」 なぜ俺を仰向けにさせる――? 「…………!?」 「ふふっ……久しぶり、おちんちんちゃん♪ 今回もよろしくね♪」 「ちょ、ちょっとつつじ子っ……! あなたどうして期招来ジュニアと顔なじみなのよ!?」 「えへへぇ、内緒だよー」 「またお姉ちゃんに隠し事ぉ!? これ以上心配かけるんじゃ――」 「ほらほら、お姉ちゃん。おちんちん勃起させてあげて? でないと挿入出来ないよぉ」 「あ、ああ……うん、そう、ね……」 「おい……何を……」 「金玉袋のとこ、わしゃわしゃーってしてあげると いいんじゃないかな」 「射精してぐったりしちゃったもんね……。 それは……私の責任だから、もう一回射精 出来るように金玉マッサージしたげる……」 そう言いながら、あざみ子が俺の股間に口を近付けた。 「あむぅ、はむはむ、あむぅ……!」 「くっ……!」 玉舐め……! 「何……やってんだっ……くぅっ!」 「こらぁ……動かないの……! 私今……おまんこ ぐーって締めながら玉舐めしてるんだから……。 あんま余裕無いんだから、じっとしてて」 「出来立てほやほやのザーメン、入れたまんまに しておきたいんだよね?」 「もちろん。初エッチで出してもらった好きな人の ザーメンですもの……記念にずっととっておきたいもん。 まん肉締めながら玉フェラ頑張るわよ……! あむぅ!」 「うっ……あ……」 「あむあむぅ、やっぱこっちも熱いのね……ちゅむぅ、 はむぅ、おちんちんの幹だけじゃなくって、 玉袋もすごい熱……はむぅ……!」 陰茎ではなく、陰嚢に向けて口奉仕を繰り出すあざみ子。 射精直後の敏感な性器を間接的に刺激され、俺のペニスはムクムクと屹立を取り戻していく。 「んっ……あふぅん……精液塗れのトロトロちんこぉ、 あはぁん、いやらしいな……」 「少しずつ……勃起してるよ……! んっ、じゅるりっ。 やっぱり……期招来君のおちんちん……すごく魅力的で、 見てるだけでおまんこ興奮しちゃう……!」 「はぁっ……くぅ……つ、つつじ子、お前の番って事は、 ぐっ……これからお前も……俺とセックスするつもり なのか……?」 「そうなんだけど……私の番っていうのは、 セックスの順番の事じゃないの」 「じゃあ何の順番なんだよっ……!」 「告白の順番だよ」 「は…………」 「お姉ちゃんから告白したでしょ? その次は……私の番」 「あのね、期招来君……今は金玉の刺激に夢中かも しれないけど……これはきっちり聞いて欲しいの」 「あむあむぅ……ぷふぅ……はぁ、はぁ……」 「あ、お姉ちゃんそれ止めないで」 「なんでよ。大事な話なんだから、 そっちに集中させた方がいいでしょ?」 「だってぇ、なんかお姉ちゃんにまじまじと聞かれてると 恥ずかしいの~っ。お姉ちゃんは……玉舐めしてて……」 「そう……わかった。頑張ってね……。 コートゥリーヌレータルシァ・サバト・リフォシェス なんだから……あぁぁむっ!」 「うん……ありがとう、お姉ちゃん」 相変わらず俺を置いて二人で話が進んでいく。 俺は終始わけがわからないまま、陰嚢の心地良さに性欲を取り戻すだけだ。 「ねえ……期招来君。私も……勇気出すよ。 お姉ちゃんがしたみたいに、正直になる」 「私、期招来君が好き。愛してるの。 大好きなんだよ。心から」 「え…………」 なんで――? だって、さっきあざみ子が、俺に―― 「私、期招来君の恋人になりたいな」 「ちょ、待てって……それって――ぐあっ!?」 「んんっ、くっ……あひっ、ぎぃぃぃっっ……!!」 このタイミングで挿入されると思っていなかったので、完全に思考を乱されてしまった。 いや、もともとまともな思考なんて構築出来ていなかった。だって、俺はあざみ子に告白されたはずで、それはつつじ子も傍で聞いていたはずで……。 「んぎっ、ひっ……ぐひぃ……きっっっつぅ……!! おちんちん、硬い……ひっ、ぎっ……!」 「お姉ちゃんのセックス見てたから、覚悟はしてたけど、 あっ……ぐふぅ、おちんちんって、やっぱりおまんこに 入れると、んんっ、ちょっと苦しいね、ヒリヒリするっ」 「あむあむぅ、んちゅぅ、むちゅぅ、つつじ子…… 入れてすぐはまだ痛いけど……んちゅ、その内 慣れるから……あむぅ、大丈夫よ……あんむぅ」 「うん……でも、慣れる前にこの痛み……はふっ、 しっかり覚えておくつもり……んっ、くひっ!」 「だってこれも期招来君とのセックスの一環……! 初エッチの思い出だもんね……ぐぎぃ……!」 破瓜の血液を滴らせながら、つつじ子は無理しつつ腰を落としていく。 騎乗位となってしっかりと結合していく中、つつじ子の意図に疑問を巡らせながら、俺はその刺激に堕ちていった。 「んっ、かっふっ、くひっ、ひっ……痛っ……いひぃ! んんんっ、でも……頑張らないと……好きな人の、 おちんちんと……もっと深く、繋がるため……!!」 「あむっ、あむ、はむはむ、頑張れぇ、つつじ子ぉ、あむ」 玉袋と幹が同時に温かいまどろみに包まれる。 こんな快楽、初めてだ。どこもかしこも温かくって、それだけで意識が朦朧としてしまう。 「んくぅ、はっ……ひぃん、おちんちんの勃起 いい感じだよぉ……はふっ、ちゃんと……んぐっ、 中折れしないで、バキバキ勃起のままぁ……!」 「さっきお姉ちゃんの中に出したばっかりなのに……ん、 はぁっ、はぁっ、ちゃんと再勃起出来てるよ……! お姉ちゃんの金玉奉仕のおかげだね……ありがと……」 「あむふぅ、期招来のちんちん……あむっ、ちゅむ、 勃ちやすいのよ、きっと……あむぅ……!」 「だって、はむ、こうして玉皮、甘噛みしただけで…… んむぅ、おちんちんすぐに勃起したのよ……あむぅ」 「そ、そうなんだ……はふっ、あっ、あっ……んっ、ぁん、 期招来君って……おちんちん勃起しやすいタイプ……?」 「私……他の男の人のおちんちんの勃起事情なんて 全然知らないから……比較出来ない……よ……んんっ!」 「知るか……俺だって他の男の事情なんて……! ってか、そんな事どうでもいいっ……!」 「なんで……つつじ子、お前も……お前もなんだよっ!?」 「なんで……って……はふっ、んんっ……! そんなの……単純な話……だよ……」 「私もあなたを好きなの……それ以上でもそれ以下でも ないんだよ……私もお姉ちゃんも、あなたを好きって だけの話……んっ、はっ、んんっ……!」 「姉妹揃って……同じ相手が好きって事か……!?」 「うん……あっ、あっ……んんはぁっ……! お姉ちゃんが期招来君を好きなのは知ってた……。 でも、私も期招来君の事好きなの……」 「だから告白したの……んっ、順番は……お姉ちゃんが 先だったけど……想いの強さなら、はふ、お姉ちゃんに 負けないよ……?」 「私も負けるつもりはないけど……でも、期招来……。 そういう事だから、あむぅ、私だけじゃなくって、 つつじ子の事も考えてあげて……? あむちゅっ」 「なんだよ……それ……!」 そんな事、こんな状況で言われても……! 「私達……ああぁんっ! 同じ人を好きに なっちゃったんだよっ♪ あふっ、あぁんっ! えへへ……なんだか楽しいねっ……♪」 嬉しげに語る事だろうか。 でもつつじ子のその喜色には他意は無いように思う。 「ふふっ……あむちゅぅ、そうね……あむぅ……! 楽しい……わね……あむあむあむぅ」 あざみ子も同様だ。屈託の一つも感じられない。 俺だけが、正しく理解できていない。色んな常識や倫理に縛られている。 「はぁ、はぁ……私、ね……んっ、あふぅ、 お姉ちゃんの好きな人が……んっ、素敵な人で 良かったって思うよ……あぁんっ!」 「私もよ……あむぅ。大切な妹が……れろぉん、 私も好きになっちゃうくらいの男を選んでくれて…… なんだか安心したんだ……あむぅ、はむはむぅ」 「お姉ちゃん……んっ、あぁん、 男を見る目あるね……ふふっ」 「つつじ子こそ……あむあむあむっ!」 なんだこれ……!? 本当に……なんなんだ……!? 「ちょ、ちょっと待ってくれよ、二人とも……! 二人同時に、同じ相手に告白とか……おかしいだろ!?」 「私だってそれは考えたわよ……。せっかく仲直り 出来たのに……お互いが同じ人を好きになって」 「んっ、はっふぅ、大好きなお姉ちゃんが、 恋敵になっちゃうなんて……私は嫌だよ。 お姉ちゃんとずっと仲良しでいたい……!」 「んっ、はふっ、でも、私の想いを知ってるつつじ子が、 私のために身を引くなんて、それは辛い……! つつじ子にも……幸せになって欲しいっ……!!」 「お姉ちゃんが私のために無理してその恋心を 押し殺す必要なんてないよ……。期招来君を 好きなら……そのままでいて欲しいっ……!!」 二人のその心からの叫びは、次の言葉を言うまでも無く導いている。 即ち、“だからこうしているのだ”と。 “こうしてる”……即ち、三人で性に耽っている。 これが……この状態が……姉妹の結論って事か? 「一緒に……あなたを好きで居続けたい……!」 「私達……三人で幸せになりたい……!」 「…………!」 三人で……幸せに…………? 「………………」 「お、俺は…………」 二人の気持ちに、どことなく気付いていた。 でも、どうしていいかわからずに、出来る限り問題から目を背け続けていた。 ……考えた事も無かった。恋愛において、そんな事許されないと思っていた。 三人で……幸せになる。 そんな事、出来るのか……? 「期招来……んっ、あむぅ、私の告白には……あむ、 答えなくっていいって言ったわよね……」 「私も……あなたの恋人になりたいって言って…… でも答えを待たずにすぐに挿入したよ……」 「こういう……事よ……あむぅ、ちゅむぅ……! 私が、私達があなたにお願いしたいのは…… こういう……事……はむはむっ……」 「普通の……一対一の恋人じゃないの……んっ、はふっ。 私達姉妹と……一緒に、付き合って欲しいの……。 私と、お姉ちゃんを……恋人にして欲しいの……」 「どっちか選ぶ必要なんてないんだから……あむぅ!」 「どっちも愛してくれればいいだけ……あぁんっ!」 「今度は答えて……? ちゃんと……あなたの言葉で、 私達の告白に答えて欲しい……」 「期招来君……。私達と……付き合って……?」 俺は―― 二人の想いを知って、それを受け止める事が出来るのか――? 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」 「は、初めから……俺は、どちらか一方を 選ぶなんて出来ない……!」 あざみ子は優しい女の子だ。妹を思うその心が、彼女の可愛さを育んでいる。 つつじ子は優しい女の子だ。姉を思うその心が、彼女の逞しさを育んでいる。 二人とも、等しく優しく、ゆえに等しく魅力的だ。 この姉妹は幸せになるべきだと思うし、俺が一方を選択する事でもう一方を不幸にさせたくない。 俺が彼女達の想いを受け止める事で、二人を幸せにできるのであれば―― 「出来るのかな……俺に……」 「出来ないなら射精したらダメなんだよ?」 「つつじ子のおまんこに中出ししたら、 それって私達と付き合うって返事とみなすから」 「生理現象を意思決定に使うな……!」 「私に中出ししたんだから……つつじ子にも中出しして あげないと不平等でしょ……?」 「お姉ちゃん、一緒に期招来君のおちんちんイカせ ちゃおう? いっぱいエッチな気持ちにさせて、私の おまんこに中出しさせて……それで告白大成功だよっ♪」 「ふふ、そうね……そうしましょ……れろぉぉんっ♪」 「くあっ……!?」 艶めかしく、舌が袋を蹂躙する。 同時に、膣の締まりも強まった気がする。 姉妹が、まさしく本気になったのだ。 全力で俺を堕としにかかってきたのだ。 「んっ、あっ、んっ、おちんちん、おまんこでいっぱい ゴシゴシしてあげる……おまんこぐぐーって締めて、 しっかり抱きしめてあげるのぉ……!」 「はっ、あぁんっ……こうやっておちんちんに私のまん肉 纏わり付かせたまま腰を動かすと……きっと気持ちいい よね……? だって、私も気持ちいいもん……はぁん!」 「れろぉぉん、れろれろ……おちんちんのタマタマ…… さっきからすごくざわついてる……! んちゅぅ、むぅ」 「きっとつつじ子のおまんこが気持ち良くって……んっ、 反応してるんだね、あむぅ、はむはむ……ふふっ、 可愛いな……♪ れろぉぉんっ!」 気持ちいいという言葉では言い表せない、桁外れの快楽。 こんなもの―― 「んっ、んっ、おちんちんっ、ほらぁっ、おちんちん 気持ち良くなってっ、射精していいんだよ? んっ、んっ、ほらほらぁっ、あぁんっ……!」 「れろぉぉん、金玉袋、虐めたくなっちゃう……。 すごく可愛くて、れろれろ……いっぱいキスしたく なっちゃうよ……れろっ、えろぉん、ぺろぺろぺろ……」 敵うわけがない―― 「くぅ…………!!」 「んはぁんっ、イキそうなの……!? おちんちん、 ぶぶぶーって震えてるけど……はっ、ぁぁんっ、 期招来君、射精しちゃいそう……!?」 「だったらいいんだよ、遠慮しないでたくさん出して……! だって……んっ、はひぃ、私ももうイキそうなんだから、 んっ……はっ、あぁんっ……!」 「えろおぉん、れろれろぉ……射精してる瞬間、 金玉袋がどうなるのか……ちゃんと見ててあげる……! れろれろぉ、ぺろぉんっ、ちゅ、ちゅぷぅ!」 「あぁっ、おちんちんの勃起しゅごひぃっ、あっ、あぁ! こんな熱くさせて……んはぁっ、ひっ、私、こんな 勃起おちんちん抱き締め続けてたら……もう……!」 「あっ……い、イクっ、イっっクぅぅ…………!! イっちゃう、私、イっちゃうっ、あっあっ、あぁっ!! イクイクっ、イっちゃう、イっっっクぅぅぅっっ!!!」 「ひゃっ……ひっ、ひいいっ、あっひいいいいいっっ!? んひいっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……ひっ!! あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ…………!」 急激な快楽指数の上昇に翻弄されながら、つつじ子は俺の中出し射精を受け止める。 「んひっ、あっ、イク、イク、イク、イク、イクっ!! イっちゃう、私っ、おちんちんで、イっちゃうのっ、 ひっ、あぁぁっ、あっひっ!!」 「こんな気持ちいいの初めてえっ、あっ、あぁんっ!! 一気にイカされちゃったっ、あひいっ、ひっ、ひっ!! おまんこ、お潮止まんないのぉっ、あっひぃっ!!」 絶頂の覚悟が出来ていなかったようで、身体を打ち震わせながらその快感に喘いでいる。 それは俺も同じだ。噴出した射精欲はすぐさま頂点へと登り詰め、そのまま一気に達してしまった。 「んんっ、あっ……ふあっ……あぁぁんっ、この…… んっ、ビクビクしてる感じ……あっ、ふあっ……! 期招来君も……イってる……? んっ、んんっ……!」 「んれろぉ、そう、みたいだよ……ちゅぷ、あふむぅ……。 おちんちんとおまんこの繋ぎ目から……んちゅ、ぷちゅ、 白いのが……漏れてきてるもん……れろぉん」 「それじゃあ……この熱くてトロトロしたのが……あぁん、 精液……なんだね……はふっ、あっ、あっ、あっ……」 「んっ……はぁっ……あぁん……。はふぅ、期招来君…… 私のおまんこと……お姉ちゃんの舌で……おちんちん、 しっかりイっちゃったんだね……あぁん……」 「イク時の金玉……すごくじゅわーって膨れて…… んぷちゅ……なんだか切なそうだった……ちゅっぷっ。 面白いね、男の人の性器って……」 「おちんちんも……イク時、おへその裏でぐぐぐって 勃起して……はっ……あぁん……爆発しちゃう んじゃないかって思ったくらいだよ……」 「はぁ……はぁ……はぁ……」 似たようなもんだ。中身を全力で爆ぜさせたんだから。 「ねえねえ……。ところでぇ……私に中出し射精 したって事はぁ……」 「私達の告白……受け入れてくれる……って事?」 「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」 「…………わかったよ」 「きゃんっ♪ やったぁ♪」 「嬉しいっ……ちゅっ♪」 大量の白濁を搾り取られ、ぼんやりとした意識の中、俺はそう答えるしかなかった。 姉妹をいっぺんに手に入れた。これから俺は、二人同時に付き合うんだ。 やっていけるだろうか……。 「一緒に幸せになろうね、つつじ子」 「うんっ。そうだね、お姉ちゃんっ」 淫液塗れの二人の笑顔はどこか呑気に思えて……。 「……はは」 乾いた笑いを漏らしてしまうのだった―― 「私右ー♪」 「じゃあ私は左っ」 二人に挟まれながら登校する俺。 左右の手をそれぞれが握り、横に広がって歩く。 周囲の目を考えると、かなり恥ずかしい状況だ。 「期招来君の手、柔らかいよね」 「え? そ、そうか……?」 「ふにふにしたくなる。ふにふに……ふにふに……」 「つつじ子っ、エッチいのは今ダメよっ」 「エッチくないよ。手の平をふにふにしてるだけだもん」 「うぅ……私もやる。ふにふに……ふにふに……」 「………………」 「お弁当作って来たんだよー」 「私も。手作りよ」 「ええ!? 二人とも!?」 「さ、食べて食べてっ」 「あ、有難いけど……二つはちょっと……」 「男の子なんだから、それくらい大丈夫でしょ?」 「う、うーむ……」 「はい、あーん……」 「ん……あーん……」 「ぱく。もぐもぐ……」 「……どう?」 「うん。美味しい」 「そっかぁ、良かったぁ。手作りの玉子焼きだよ」 しょっぱい味付けだ。つつじ子はしょっぱい派らしい。 「今度は私っ。はい、あーん……」 「あ、あーん……」 「ぱく。もぐもぐ……」 「ど、どうよ……?」 「うん。美味しいよ」 「ふぅ……と、当然ねっ」 って、こっちは甘いぞ。姉妹で玉子焼きの味付けが違うのか。 「今度は唐揚げを……」 「あ、私もっ」 「ああもうっ! それぞれお弁当作ってくるなら、 せめてメニューは被らないようにしてくれ!」 「あー。やろうやろう」 つつじ子が指差したのは、ゲームセンターの入り口に置かれたプリントシール機だ。 「いいわね、三人で撮りましょう」 「ほらほら、期招来君、笑って」 「お、おう……」 「ふふっ……これ携帯に貼ろーっと」 「期招来、じゃあ次は私と二人っきりで撮るわよ」 「えー!? ズルいズルい―! 私はー!?」 「ちょっと待ってなさい」 「ぶー」 「え、えっと……」 「ほら、笑って!」 「でも……」 「いいからっ! ほら、早くっ!」 「わ、わかったよっ」 「じゃあ次私の番だよ。期招来君はそのまま。 お姉ちゃんは外ー」 「はいはい……」 「期招来君。ちゅーしながら撮ろう?」 「うえっ!?」 「ちゅ、ちゅーっ!?」 「はいちゅー」 「い、いや、それはさすがに……」 「恋人なんだからちゅーするの当たり前なんだよ?」 「で、でもお前、誰かに見られでもしたら……」 「そ、そうよつつじ子、ずるいわよっ! ぶーぶー!」 「ほら、早くしないと撮られちゃうよ、急いで急いで!」 「急かすなって!」 「はいちゅー………………ちゅっ」 「完璧……! これ拡大して部屋の壁に貼りまくろーっと」 「うう……いいなあ……。 私もキスしながら撮ればよかった……」 「じゃあ次はぁ……お姉ちゃんと!」 「…………?」 「という事で、期招来君はあっちー。 お姉ちゃん、おいでおいでー」 「……ふふっ、そうね。姉妹で撮りましょっか」 「じゃあねぇ、ポーズはぁ…………ちゅっ♪」 「――ひゃん! んもう……つつじ子ったらぁ……」 「ふふふ、みんな仲良しー♪」 「恥ずかしい…………ふふっ」 あの日から、俺達は“三人”になった。 登下校も三人で。 食事も三人で。 デートも三人で。 そして―― 「れろれろぉっ、れろぉんっ、はふっ、れろっ……! ぴちゅぴちゅ……れろっ、ちゅぷぅ……!」 「ちゅるっ、れろっ、ぴちゅ……れろっ、ぴっちゅっ。 れろれろっ、えろぉっ、れろぉぉんっ…………!!」 ――エッチもこうして三人だ。 「はむちゅぅ……れろぉっ、やっぱこうやって おちんちんとイチャイチャするの楽しいね……。 ちゅぱっ、れろっ、んっ、はふぅ……!」 「れろれろぉっ、ちゅぷぅ、つつじ子ったら……れろっ、 それ、なんかすっごくスケベ……れろぉん」 「スケベでいいもん。こうしておちんちんと仲良く 出来るなら……れろれろぉん……スケベで……いい」 デートを終えて、寮に戻るなりすぐこれだ。 最近では彼女達に翻弄される事に、すっかり慣れてしまった。楽しいとさえ思っている。 「あむちゅぅ、お姉ちゃんだって……れろっ、デート中 期招来君の股間しょっちゅう見てたでしょ……れろっ、 私、気付いてたんだよぉ……? れろぉ」 「んな、何言ってるのよっ、私は別にそんな事……」 「ふふっ……お姉ちゃんのむっつりー……♪ れろれろれろぉ…………」 「んもう……れろっ、れろぉん、ぺろぉぉんっ……」 まるで世間話をするかのトーンで、陰茎に舌を伸ばしながら二人は仲良く会話を続けている。 俺はそんな彼女達を和やかに思いながら、少しずつ欲望を高めていく。 「んっ……ぷふぅ、このね、先っぽの切れ目に 舌を入れるのが楽しいの……れりゅ、くにゅぅ」 「あ、わかるよそれ……れっろぉ、この鈴口…… なんか舌入れたくなるもんね……にゅりゅぅ…… んにゅりゅぅ…………」 「……くぅ……!」 「ん……はふっ、おちんちん気持ちいいのかな……? 舌で蓋して苦しくない……?」 「ああ、大丈夫……むしろ気持ちいい……」 「じゃあもっとやるー……れりゅにゅぅ……! くにゅぅ、ちゅにゅぅ…………」 つつじ子の柔らかい舌先が、鈴口を拡げて尿道に触れる。 下腹部の先端が温かさに包まれて、俺の呼吸は乱されてしまった。 「はふぅ、にゅちゅ、れろちゅぅ……にゅりゅぅ……! ねえ……このまま咥えたいな……にゅちゅぅ……。 パクってしていい?」 「頼む……」 「うん……にゅっりゅ、あぁぁぁむちゅぅ…………! はむ、あむちゅぷぅ……」 「あ、おちんちん……つつじ子に食べられちゃった……」 「えへへぇ……今、おちんちんは私のお口の中なのー。 はふっ、ちゅっぷ、お姉ちゃんは休憩なんだよ…… あむっ、はふむぅ……」 「うう……んもう、我慢出来ない子なんだから……」 「おひんひんの事で我慢なんかしてたら勿体ないよぉ……。 あふあむあむぅ、はむちゅぷぅ、くちゅむっぷぅ……」 付き合ってみて思う。つつじ子の方が比較的積極的だ。 元からその傾向は見受けられた。日常生活においても、つつじ子の方がやや自由奔放で、姉を振り回している。 何かあってもあざみ子が見守ってくれているという安心感のせいだろうか。 「ちゅぷ、あむあむぅ、ちゅりゅっ、ちゅっぱっ…… んちゅっ、ちゅずず、ぴちゅむぅ……ちゅぱぱっ!」 「あぁん、いいなぁ……おちんちん……。 私も後でパクパクするんだからねっ……!」 それゆえ、あざみ子はどうしても理性のブレーキが強い。 恋愛においても、つつじ子の前ではしっかり者で居続ける事が癖になっているのだろう。 「んっ、はぁん……期招来、聞いてるの……!? 私、この後のおちんちん、予約してるんだからっ……!」 「き、聞いてるって……!」 「つつじ子の中で全部イったら許さないわよっ……! 私の分の精液も、ちゃんと残しておく事っ!」 「ちゅぷちゅぷ、んふふー……れろ、ぴちゅ…… 中のザーメン……全部搾り出しちゃうもんねー…… ちゅぷちゅぷっ」 「んもう、つつじ子ぉっ! それダメぇっ!」 あざみ子の事を理性のブレーキが強い、なんて表現したが……それはあくまで日常的な話だ。 性的な行為中は普段と打って変わる。 「ちゅぷちゅぷ、んちゅずっ、ちゅっぱっ、ちゅぱっ、 はふっ、れろっ、ちゅぷぅ……あむあむあむぅ……」 「ん、はぁん……おちんちんまだかな……。 早く舐めたいな、咥えたいな……あっはぁ……」 「ちゅぷぅ、あむちゅっ、まだだよぉ、お姉ちゃんっ。 ちゅぱっ、ちゅずずっ、れろぉぴちゅぅ……」 「焦らさないでよぉ、早くぅ、おちんちん早くぅ……!」 このように、全力で妹と張り合う。子供っぽい一面を晒すのもお構いなしだ。 あざみ子に根付いた物わかりのいい大人を演じる理性も、性欲の前では形無しなのだ。 「んっ、ぷふっ、ちゅぷぅ……ねえねえ、期招来君…… おひんひん……んちゅぅ、お口の中に入れらぁたまま 尿道んとこチロチロされるの気持ひいいんでひょ……?」 「ぴっちゅぷ、わかるよぉ……んちゅぅ、らって 舌入れるたびにピクンピクンってひてるんらもん……。 ちゅ……ふふっ♪」 「こうひてぇ……舌でぐぐぐーって穴をこじ開けてぇ、 んにゅ、んっっにゅぅぅ……にゅにゅぅ、ちゅにゅぅっ」 「くぁっ……!」 「んふふぅ、ほぉらぁ……おひんひん弾けたぁ……♪ 勃起もいっぱいひてるひ……ちゅぱぁっ、ぴちゅっ、 興奮ひてるんらねぇ……ちゅっぷぅ、ぴちゅ」 つつじ子の舌遣いはあまりにも蠱惑的で、興奮を留める事など出来ない。すぐにでも絶頂地点を見据えてしまうほどだ。 「んんっ、ぴちゅぷぅ、勃起ぃ、はふぅん……来た来たぁ、 このブルブル感……射精準備完了の合図なんらよね…… 私知ってるんらから……にゅむむぅ」 「ぁぁあんっ、はふっ、おちんちん、もうイク準備 出来たって事だよね……? らったら……んちゅ、 にゅむ、ちゅずぷぅ……!」 「ぐっ…………ぅっ!」 「んふふ、いいよぉ、イっていいんらよぉ……はふっ、 私の口の中で……この勃起おちんちん、いっぱい 射精してね……ちゅぷぅ、ぴちゅ、あむふぅ……」 つつじ子も、俺の急激な屹立に気付いたようだ。 もっと長くこの居心地を感じていたかったが、一度開門された精液の波は止められない。そのまま送り出すのみだ。 「ちゅぷっ、はふっ、んちゅっ、ちゅぴぃ……んちゅっ、 あっ、んっ、あはぁん……ちゅるるっ、ちゅ…………! おひんひん、勃起いっぱいぃ、ちゅっぱぁっ!」 「ん、熱くて……はふはふっ、ちっちゃく震えて……ん、 ちゅずりゅ、にゅりゅりゅ、これ、来ちゃうよね、 特大射精、あっ、んん、ぴちゃぁっ、来りゅぅ……!!」 「出るぞっ……つつじ子っ……!」 「あむあむぅ、んっ、いいよぉ、おいでおいでぇっ……! 欲しいの、私……ちゅぷじゅうぅ、おちんちんから 濃厚精液……いっぱい欲しいっ……!!」 「んっ、んっ、ちゅずっ、ちゅうずずっ、じゅるるっ!! 吸い上げたげる…………じゅりゅりゅりゅりゅっ……! ちゅずずずずずぅぅぅぅぅぅっ…………じゅじゅじゅ!」 「――っ!」 そのバキュームが精の通りを加速させ―― 「んっ、じゅっぶぷちゅずううううううううっっ!!?」 「ぷぶふぶううっ!!? じゅうぶぶっ、ぴちゅぶっ!? おひんひん、出てるっ、ちゅぶぶじゅぶっ……!!? んちゅっ、射精、来てるよほぉっ、ちゅぶぶうっ!!」 その喉奥目掛けて、白濁を思いっ切り発射してしまった。 「んじゅっぶっ、ちゅっぶっふっ、ぶっふうっふうっ!! んぐぶっ……や、やぁ……熱いのいっぱひぃ……ちゅず、 しゅごひっ、よほぉっ……ちゅっぶっ……!!」 「喉の奥に……ザーメンがぺったりくっ付くぅ……はふぅ、 んちゅぶずずぅ……はふっ、はふはふっ、熱くて…… ドロドロぉ、あふぅ、あっ、ちゅぶっ、くちゅぅ……」 頬を精液と唾液で膨らませながら、つつじ子は口内の淫液を零すまいとしっかりと呼吸を繰り返している。 「ちょ、期招来出し過ぎ……! 私の分も残しておいてよぉっ、全部出さないでっ!」 「くぅ……無茶言うなって……!」 自分で操縦桿をコントロール出来ない。つつじ子の舌に主導権を奪われっぱなしだ。 「はふぅ……ようやく……止まった……かなぁ……? おひんひん……落ち着いた……感じぃ……んっ、 ちゅずぅ……」 「ほ、ほりゃほりゃぁ……お姉ひゃん……見へぇ……。 口ん中……ザーメン……いっぱいらのぉ…………。 んれぁぁぁぁぁ………………」 「ん……わ……ホント、だ……白いのがいっぱい……! うう、つつじ子もらい過ぎよぉ……! いいなっ、いいなっ……」 「んふふふー……♪ ゆっくり味わうんらー……。 あむふ、ん、ん……ぶくぶくっ、ぶくぶくぶくぅ……」 口を開けて中身をあざみ子に見せつけた後、再び口を閉じて唾液と精液をブレンドさせる。 「ぶくぶくぶく……がぶぅ、あぶあぶぶくぶく……! んぶっくんぶっくっ…………ぶくぶくぶくぅ……」 頬の膨らみに合わせて聞こえる泡音が実にいやらしい。 「はふっ、んっ、くちゅ……あっふっ……ぶくぶくっ。 これ……飲むのー…………んっ、んっ……」 「んっ、ごくっ、ごくっ、ごくっ……はふっ、はふっ、 んっくっ、んっくっ、んっくっ……こくこくこく……」 ゆっくりと頬袋がへこんでいく。変わりに喉が活発に動いている。 「んぐ、んぐ……ぶくぶくぶくぅ……んぶっ、んぐっ。 ぶくぶくぶく……んぶぐっ、こく……んっ、ごくっ」 泡音と喉音を鳴らしながら、いやらしく精を嚥下していくつつじ子。 俺は果てた身体を休めながら、そんな彼女を眺め続けるしかなかった。 「んぐぅ、喉にひっかかるやつあるよぉ……濃くて、 おっきい塊みたいなヤツ……んっ、ごくごくっ……」 「これ……このままだと飲み込み辛いから…… 噛み砕かないと……はふっ、んっ、ぶくぶくっ……」 そう言って……。 「ねっちゃねっちゃにっちゃにっちゃっ……!! にゅっちゅにゅっちゅねっちゃねっちゃっ……!!」 顎を上下に往復させて白濁の粒を咀嚼しだした。 「くっちゃくっちゃ……ほらほらぁ、お姉ちゃん、 精液がね……くっちゃくっちゃぁ、奥歯で潰れて、 んっちゃんっちゃ……糸引くんだよぉ……くちゃぁ」 「うぅ……つつじ子、その音……やらしいっ……!」 「えへへぇ……くっちゃくっちゃにっちゃにっちゃっ……」 まるでキャラメルを砕く様な咀嚼音を大胆に響かせている。きっと自分の成果物を姉に見せつけたくて、わざと音を鳴らしているのだろう。 「くっちゃくっちゃねっちゃねっちゃっ……にちゃぁっ。 くちゅ、にちゅにちゅ……くちゅにちゃぁ……!」 口を開けて、わざとらしく音を立てて。性の最中では、そんな下品で行儀の悪い行為こそ肯定されるものだ。 「……くちゃぁぁぁ……にちゅにちゅ……くっちゃっ! うん、もういいかな……」 「ぶくぶくぶくぶく……くちゃくちゃ…… ぶくぶくぶく……ねちゃねちゃ……ぶくぶく……」 「――ごっくんっ♪」 「――ぷはあっ!! ご馳走様でしたっ♪」 実に満足げな一声とともに、つつじ子はようやく口の中を空にさせたのだった。 「うう……つつじ子、お行儀悪いわよぉ……。 あんな品の無い音鳴らして……。 食事中はお口閉じないとダメなのにぃ……」 「ふふ、羨ましかったでしょー……?」 「うう……ふ、ふんっ。次は私の番だもん。 羨ましくなんか……ないもんっ」 「ちょっと待て、あざみ子……。少し休ませてくれ……」 「ダーメっ。おちんちん予約したはずよ? すぐに始めちゃうんだからっ」 「はぁ……はぁ……無茶言うなって……!」 「これ以上おちんちんおあずけされたら…… 私、切な過ぎてどうにかなっちゃいそうだし……」 「精液なら私がまた引き上げてあげるから。 安心して勃起しなさい。あぁぁぁぁむっ!」 「くおっ……!」 俺の制止を聞かず、今度はあざみ子が大胆にペニスを咥え込んだ。 「くちゅぴちゅ……もぐもぐ……やっぱり……ちゅぶっ、 あったかいわね、おちんちん……」 「さっきまで私があっためてたからねー……」 「うん……すっかりホカホカぁ……ちゅぷ、 ぴちゅむぅ、ちゅぱぁっ……」 「…………っ!」 再び粘膜の熱に包まれて、身体を跳ねさせてしまう。 なにせ射精直後だ。感度も高まっている状態でまたフェラされて……。 「んぴちゅ、んっ……!? おふっ、くふうぅ……!?」 「勃起ぃ……んっ、勃起勃起勃起ぃ……! ちゅぷぅ、 おひんひん、勃起してるじゃん……ちゅっぱぴちゅっ!」 隆起しないわけがない。中身はまだ伴っていないのに、生理反応として膨らんでしまうのだ。 「ぴちゅぶちゅ、はふぅ、射精してふにゃちんになった って思ったら……すぐにまた勃起ギンギンっ……! あんたのおちんちん、ホントに立派よね……」 「うん……私もそう思うな……。期招来君のおちんちん、 すっごく素敵でたくましいオスちんちんだよぉ……♪」 「はぁ……はぁ……そりゃどーも……」 嬉しくもあるが、そう何度も射精をねだられて応えられるかどうか……。 ここはあざみ子のテクに期待しよう。 「ちゅぷりゅ、ぴちゅ……イった後でもすぐに勃起出来る ような素敵ちんこぉ、はふっ、ちゅぷ、ちゅぅ……! フェラチオ、頑張り甲斐があるわ……」 「ちゅぱっ、ちゅっぷっ、ちゅぱぁ……女として、 こんなおちんちんにご奉仕出来るなんて……ちゅぷ、 なんだかすごく……幸せぇ……ちゅぷぅ、ぴちゅっ」 啄むようなキスを繰り返しながら、あざみ子が蕩けていく。 その口遣いは、射精を遂げて無防備となったままのペニスにしてみればとても心地良い。 これならきっと、すぐにでも先ほどの性熱を再び帯びる事が出来るだろう。 「ん……好きな人のご立派ちんこ……はふぅ、 いっぱいキスしたくなっちゃう……ちゅっ、 ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっ……!!」 「ちゅっぷちゅっちゅっ、ぴちゅ、ちゅっちゅっ! あぁん、ピクピク弾けて……おちんちん可愛いな……。 ちゅっちゅっちゅっ」 唇の形を変幻自在に変えながらキスをして、そして何度も咥えるあざみ子。 やはり行為中は普段と比べて積極的だ。こんなあざみ子も可愛いと思う。 「はぁん、あむぶふーっ……ちゅぷちゅぷ、ちゅぱぁ…… 私……ちゅぷ、このおちんちんに夢中なの……ちゅぷぅ」 「いつだってこのおちんちんにご奉仕してたい……。 おちんちんを通して……ちゅぷ、期招来に喜んで もらいたい……ちゅぱぁ……」 「はぁっ、はぁっ……十分嬉しいよ……。 ありがとう、あざみ子……」 「まだ足りないの……! もっとしたいの……! おちんちん……もっと愛でたいのぉ……ちゅぱぁっ」 「今日だってずっとそう思ってたんだから……! デート中……ズボンずっと見てた……ちゅぷっ。 ズボンの中の……おちんちんの事ばっか考えてた……」 「やっぱりー! むっつりー!」 「う、うるふぁいっ……! つつじ子は今休憩中 なんだから、静かにしてないとダメなんだからねっ」 「むー……。こんな立派なおちんちんを前にして 黙って見てるなんて退屈だよぉ……。 オナニーでもしてよっかな……」 「あ、そうだっ! ええっとぉ……じゃあ、金玉揉んであげるね」 「う……おっ!」 細い感触が外気に晒されている下腹部を巡った。 「あはぁ……金玉ぁ……中身コリコリぃ……! ここでさっきの濃厚ザーメンが作られてるんだね……。 あはぁぁん……いいな……金玉いいなぁ……」 「ちゅぷ、くちゅぷぅ……つつじ子ぉ……金玉揉み揉み、 別にいいけど……私のフェラ邪魔しちゃダメよ……?」 「うん、もちろんだよお姉ちゃんっ」 やはり、こういう時はいつも二人で話を終わらせてしまう。俺の意見をあえて聞かないのだ。 二人とも……俺を手の上で性的に踊らせる事を楽しんでいるんだろうな。いいチームワークっぷりだ。 俺自身、二人に翻弄される事がいつからか楽しく感じられている。 「ちゅぱちゅぱぁっ……んちゅ、ねえ……ちゅむぷぅ、 中身、もう補充されてる……? ちゅずぷちゅっ…… タマタマ……満杯状態……?」 「どう……だろうな」 「ちゅずりゅっ、でも、口の中ですっごく熱く なってるよ……? 硬くて……んちゅぱふうっ、 勃起、しっかりしてる……」 「こんだけ立派に勃ってるんだもん……精液、ちゃんと 詰まってるに決まってるわ……ちゅぷっ、ぴちゅっ」 「玉袋も熱々なんだよ……。急いで精子作ってるのかな。 ふふ……頑張れー……わしゃわしゃ……」 「はぁ……はぁ……っっ」 あざみ子のキス含みフェラと、つつじ子の玉愛撫。 それらを同時に受ける事で、俺の下半身はすっかり欲望を取り戻してしまった。 「ちゅぷっ、はふっ、んっ、くちゅ……あぁんっ……! 勃起ちんこぉ、いい具合よぉ……ちゅぷっ、ぴちゅっ」 「これ……このままイカせたい……! 今度は私の口の中に……出して欲しい……! ちゅっ、ずじゅ、濃厚ザーメンいっぱい欲しいっ……!」 「お姉ちゃん、思いっ切り搾り取っちゃえっ♪」 「うん……ほうふる……! ちゅっ、くちゅぷっ、ぴちゅっ、ずじゅっ!! んっ、ちゅずずっ、ぴちゅずずずうっ…………!!」 俺の射精欲を察してか。あざみ子は根元から陰茎を吸い上げるようにして精液を引き上げ始めた。 「ずじゅじゅ~~~~~~~~っっ…………!! んちゅっ、ぴちゅ、じゅぶずずずずずぅぅっっ……!!」 「くっ……あぁっ……!」 「ちゅっぷう、ずずぅ、出ひてっ、ちゅずずっ……!! 精子ぃ、いっぱい出ひてぇっ、ちゅずずっ、んちゅぅ! ずっじゅっ……ちゅぷずずずぅ…………!!」 「お願ひっ、ちゅぷ、ずずっ……んちゅずずっ……!! おひんひん、中身全部……ちゅっずっ、ずっじゅっ、 ドピュドピュって、射精ひてぇっ……ちゅぷっ……!!」 そんな彼女の願望を思いっ切りぶつけられて、興奮しないでいられるわけもなく。 「イク……っっ!」 「ずじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ じゅじゅじゅじゅじゅううううっっっ…………!!!」 「――くふぶうっ!!? ぶぶぶっ、んぶぶぶっ!! ちゅぶぶっ、くちゅぶぶうっ、ちゅぶぶっ……ちゅっ、 ぶっちゅ、じゅぶぶうっ…………!!?」 その口の中で、本日二発目の絶頂を迎えてしまった。 「んっじゅうぶうっ……じゅぶっ、くちゅぶっ……!? あふひっ、あふあふぅ……ちゅっ、精液っ……ちゅ、 熱ひっ……ひゃふっ、ちゅぶぶっ……!!」 「んっ……あはぁん、ちん皮すごく盛り上がって……! 射精の時……金玉ってこんなにぷっくり膨らむんだ…… 金玉可愛過ぎぃ……あはぁぁっ……!」 「ちゅぷぅ……んっ、口ん中ぁ……ザーメン……ちゅるる、 まだ来てるぅ……あふっ、零れちゃう、あふひぃっ、 勿体ないよほぉ、ちゅるるっ、ずちゅずずずっ……!」 「くぅ…………!」 つつじ子同様、あざみ子もその口内の精液を零さないように吸い上げながら、脈動の落ち着きを待っている。 射精を煽ってか、それとも無意識か。その間、口の中で亀頭を舌先でつんつんと突いて時間を過ごしていた。 「んちゅ、ちゅぷ、ちゅっ、ちゅっ……ちゅにゅぅ、 はっ、ふぅ……ちゅにゅ……もう……終わっふぁ……?」 「はぁ……はぁ……ああ……」 「じゃあ……ごっくんふるー…………ちゅっ、ぴちゅっ」 「ん…………ぷふ、はふっ、んふっ、はふ…………んんっ、 えるるるろえぇぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~っっ…………」 亀頭から口を離し、中身が豊富である事をつつじ子に確認させてから……。 「ぶくぶくぶくぅ……ぶくぶくっ、ぶっくぶっくぅ……! んっ、はふっ、ぶくぶくぶくぶくぶくぶくぶく……」 つつじ子がそうしたように、唾液と精液をブレンドさせ始めた。 「ぶくぶく……がぶがぶ、ぶくぶくぶくぅ……ぶっくぅ、 んはふっ、はふっ、あふ、ぶくぶくぅ、ちゅぶぶっ……」 「お姉ちゃん……リスさんみたいだよ……」 「飲みゅかりゃ……見れれね……? んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ……」 「んっくっ、んっくっ……ぶくぶく……んっくぅ……! はふっ、あふぅ……ぶっくぶっく……ごくごくごく……」 「精液、喉に引っ掛からない?」 「あふぅ、うん……ちゅずう、なんか……喉に、んちゅ、 ごくごく……おっきいヤツ張り付くぅ……んぐむっ」 「噛み潰してからごっくんすると、飲み込みやすいよ」 「んー……くちゅっ、くちゅ、くっちゃくっちゃっ……! くちゃくちゃくちゃぁ……にちゃにちゃにちゃぁ……!」 つつじ子のアドバイスを受けながら、唾を分泌させ、咀嚼し、舌の上で転がし……味わうようにして精飲を行っていく。 「くっちゃくっちゃ……にちゅにちゅ、にちゃぁ……! はふっ、くちゃくちゃぁ……くっちゃぁ、にちゅぁっ」 「ん、お姉ちゃんもくちゃくちゃさせてる……! 音、やらしいね……」 「うん……くちゃくちゃ……でも、こうしたくなる……! 口開けて、くちゃくちゃ、音立てた方が……くちゃぁ、 なんか、んっちゃ、エッチな気がして……くちゃぁ……」 「お下品だけどエロくて……私、精液くちゃくちゃ する音……好きかも」 「くっちゃくっちゃ、ねっちゃねっちゃ……くちゃっ、 くちゃくちゃ……ぶくぶく、がぶぶぅ、くちゃぁ……!」 「ごくごく、くちゃ……ごくっ、こくんっ……くちゃぁ、 んっ、んっ、んっ…………くちゃくちゃ…………!」 「ごっくんっ……!! んっ、っぷっはぁっ…………!! は……ふぅ……全部……飲んだぁ…………! ほらほら……れらぁぁぁぁぁぁ………………!」 「うんっ……! 空っぽ……あれだけ出してもらった 精液……全部胃の中……?」 「お腹いっぱいっ♪」 「えへへ、よかったね、お姉ちゃんっ」 精飲を遂げたあざみ子。自分がした事と同じだけの行為を姉と平等に分かち合えたつつじ子。 二人とも、満足げだ。 「期招来君も……満足?」 「ああ……二人のおかげで、思いっ切り 気持ち良くさせてもらったから……」 「私のお口でイカせて……」 「私のお口でもイカせて……」 「でも、これで終わりじゃないよ? もうちょっとおちんちんとイチャイチャしたいー」 「え……?」 「今度は……二人の舌で満足させてあげるっ」 「……ぐあっ……!」 立て続けに絶頂へと導かれたペニスに、またも艶めかしい刺激が……今度は二方向から。 「れろぉぉん、れろれろぉ、おひんひんれろぉぉ……!」 「えろえろえろぉ、れろれろれろっ……! いっぱい出してくれた……お礼……れろぉん」 それまでのフェラと精飲に中てられて激しい熱情を纏った二枚の舌が、陰茎を嫐り回す。 「あ……かはぁっ……!」 気持ちいいとかそういう事でなく。 色々準備出来ていない状態で、そんな強烈な性快楽を過度に与えられたら―― 「れろれろぉっ、勃起ぃ、また勃起ぃ……♪ れろれろっ、勃起ちんこ大好きぃ、れろぉんっ」 「立派なおちんちんだよぉ、れろれろっ、ちゅぷれろっ、 勃起もっとしてぇ……おちんこ、カッコよくなってぇ、 れろれろっ……」 「うっ……っっ!」 すぐにでも狂う。箍が外れて、秩序を失って。 自分でも抑制出来ないような射精が、訪れる――! 「んっ、れろれろぉ、さっきあれだけおちんちん 咥えてたのに……れろぉ、こうしてまた、れろっ、 舐めまくりたいって思っちゃう……!」 「おちんちんって不思議ぃ……れろぉんっ、見てるだけで、 引き寄せられちゃうよ……れろれろっ、私、どんどん スケベになっちゃう……!」 「はふぅ、えろぉぉん、れろれろっ、ぴちゅぅ……! 私も、おちんちん見てるだけで興奮して……スケベに なっちゃって……れろれろっ、れっろっ……!」 「自分が自分じゃなくなっちゃう感じぃ……れろぉんっ、 私、こんなにスケベじゃなかったのに……今、もう…… おちんちんに夢中だよぉ……れろぉっ、ぴちゅっ……」 すっかり男性器の虜になっている二人。 元々二人の貞操観念は緩かったのかもしれない。つつじ子なんて付き合う前から手コキしてきたくらいだし。 現に今もこうして、三人で恋人関係を成立させている。彼女達が色んな面で他人とは異なる考え方を持っているのは間違いない。 「れろおおおおぉぉんっ、えろおぉぉぉぉぉぉぉんっ!! れろれろれろれろっ、れろれろれろれろっ、れろぉぉん」 「ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっ、れろれろれろっ!! れろぉぉぉぉ~~~~~~~~~…………れろぉんっ! れろぉぉぉぉんっ、れろれろれろぉぉぉぉん…………!」 「っ……!」 陰茎が、アイスバーのように舐め尽くされていく。 粘膜に擦られ、唾液に溶かされ、そのまま霧散してしまいそうな感覚が下腹部に走る。 つまり、射精感だ。またイキそうなのだ。 「んちゅ、れろぉっ、おちんちんまた震えたぁ……! ガマン汁トロトロだし……もう、イっちゃう……?」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」 「返事も出来ないくらい切ないんだね……。 私も…… れろ、おちんちん奉仕してると、おまんこ切なくなるの、 んぺろぉ、このままオナニーしたくなっちゃうくらい」 「はふぅ、気持ちはわかるけど……今はオナニーより…… おちんちんのお世話だよ……お姉ちゃん? れろぉん、ぴちゅぅ」 「んっ、えろぉ、私だって……頑張るよ……れろっ、 コートゥ……、んっ、はふ、リーヌレータルシァ…… サバト、れろぉ、リフォシェスぅ、なんらからぁ……」 「おちんちん、すぐイカせてあげるからね……れろぉっ! コートゥリーヌ……れろぉ、レータルシァ、サバト、 あふ、れろっ、リフォシェス、れろぉ、だもんね……」 二人分の舌刺激が、陰茎に纏わり満ちていく。 「だから……なんなんだよその呪文は……!」 さっきイったばっかりだっていうのに……いや、イったばっかりでこんな事されているからこそ、俺のペニスはもう―― 「んはふっ、れろれろっ、せっかくだからっ、れろっ、 私達が、射精のカウントダウンしてあげる……えろぉっ。 射精……5秒前だよ……!」 「んはふっ、れろれろっ、ちゅ、ぴちゅ……精液、 遠慮しないでいっぱい出してぇ……れろちゅぅ、 濃いザー汁いっぱいぶっ放してぇ……4っ……!」 「私の顔……濃厚精液で真っ白に汚して……? ちゅぷ、れろれろっ、イカくっさいザーメン顔に して欲しいな……はふぅ、れろれろっ、3っ……!」 「んっ、れろっ、かけるなら私の顔にいっぱいかけてっ、 れろっ、私も、ザーメンパック欲しいっ、れろれろっ、 顔射されたいっ、ちゅっちゅっ、ちゅぅ、2ぃ……!」 「おちんちんっ、れろっ、勃起おちんちんんんっ、れろぉ、 はふ、れろっ、私達に、ちゅっ、れろっ、精液、んっ、 ちょうだいいっ、れろっ、れろれろっ、1ぃ……!!」 その瞬間―― 「わぶぶっ、ぶっふっ!? わぷっ、ぷふっ、ふひっ!? きゃふっ、んっ、んっぷふううっ……!!?」 「んぷひっ、ひゃっぷうっ!!? んっ、熱いのっ、ひっ、 来たっ、来たぁっ……わぷぷ、わっぷううっ……!!?」 自分の意識から乖離した肉棒が、その脈動で暴れ回るようにして精液を振り撒いた。 「んっ、くひいっ!? ひゃ……まだ、出てる……! 何回も射精してるはずなのに……わぷうっ、まだ、 おちんちんイってる……ひゃぁん…………!!」 「ぷふうぅ……精液、いっぱい来たよぉ……あふうっ、 ひっ、くひい……トロトロのが、顔中にぺったりぃ、 ぁっ、あっはあぁん……れろれろぉ……ぺろんっ」 一体どこにこれだけの精子を補充していたというのか。 自分でも気付かぬ間に大量の白濁を生成してしまうほどに、どうやら俺は二人の舌技に溺れ切っていたようだ。 「んっ……ちゅぷぅ、ぷちゅぅ……あっはぁん…… 喉も、顔も……いっぱい精液もらえたぁ……あはぁん、 気持ち、良かったぁ……!」 「口内射精と顔射……両方してもらえたよ……。 はふっ、んっ、あぁぁん……れろっ、ちゅぷぅ……。 いっぱいスケベになっちゃった……♪」 「くんくんくん……すんすんすん……。 お姉ちゃん……ちょっとイカ臭い……?」 「くんくん、すんすんすん……。 つつじ子だって……ぺろんっ」 「やぁん……れろれろっ」 顔に付着した精液を互いに舐め取り合っている。 まったく……本当におかしな姉妹だ。どういう環境で育ったら、こんな性的観念が培われるのやら。 「あぁん……それにしても、いっぱい出してもらえたよ。 射精、一気に三回も……!」 「私達にかかれば……こんなにたくさん、おちんちんから 精液搾り取れるんだね……ふふっ、なんだか……あふぅ、 いい気分かも……あぁぁん……」 「期招来君……私達のテク……覚えてくれた? これからも……仲良くお付き合いしていこうね……♪ ふふふっ♪」 「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」 なかなかの脅迫だ。 二人平等に交際しないと……“仕返し”されてしまう。 「つつじ子を悲しませるような事したら…… 金玉の精子……ぜーんぶ搾り出しちゃうんだからっ」 「お姉ちゃんの事……ちゃんと大切にしないとダメだよ? おちんちんに誓ってね……?」 本当に……本当におかしな姉妹だ。 自分の事よりも先に相手を思い遣る言葉が出て来るのだから……本当におかしな、そして優しい姉妹だよ。 「――み……い…………」 「バ…………たい…………」 …………? 「――バカみたい……」 ……………………。 俺は―― 「――あ、そうだ……!」 「んー?」 「どうかしたの?」 「数学のノート、新しく買わないといけないんだった」 「ちょっと文房具屋に寄ってくる。 二人は先に帰ってていいよ」 「私も一緒に行くー♪」 「え……でも」 「つつじ子が行くなら私も行くわよ」 「別について来たところで何も楽しくないと思うけど……」 「好きな人と一緒にいるだけで楽しいんだよ」 「そっか……じゃあ――」 「――ぐっ!?」 「……つつじ子?」 「は……ぐっ……くぅ…………っっ! がっ…………くっ…………はぐぅ!」 「ちょっと……つつじ子!? どうしたの突然……!!」 「ご、ごめん……なんか急に頭が痛くなっちゃって……!」 「だ、大丈夫か……!?」 「やっぱり……私、帰るね……!」 「あ、ああ……そうした方がいい。あざみ子」 「うん……わかってる。私が責任もって送っていくから」 「俺も一緒にいた方がいいか?」 「平気、だよ……。ちょっとした頭痛、だから……っっ」 「とりあえず早く横になった方がよさそう……。歩ける?」 「うん……」 「じゃあ行きましょう。期招来、それじゃあね」 「あ、ああ。買い物終わって帰ったら、様子見に行くよ」 「……………………」 なんだろう。あんなつつじ子、初めて見た。 頭痛持ち……という話は聞いた事がない。ただの体調不良だといいんだけど……。 「……ふぅ」 文房具屋でノートを買った後、薬局に寄って頭痛薬も買っておいた。 効き目があるかわからないけど……無いよりはマシだろう。 「……つつじ子が心配だし、早く帰るか……」 買い物は済んだし、寄り道せずに直帰しよう。 「え…………」 なんだよ…………ここ…………。 「俺……どうしてこんなとこに……」 早く帰らないといけないのに……。 つつじ子の様子を確かめないといけないのに……。薬渡さないといけないのに……。 何で―― 「……バカみたい」 何で―― 「バカみたい」 何が―― 「バカみたい」 「何が…………」 「ホント、バカみたい」 「何がバカなんだよっ!?」 「あなた達が」 「……っ」 俺は―― ――彼女を知っている。 「また会ったわね」 「俺達が……バカみたいだって……!?」 「また会えて嬉しいわ」 「どういう意味だよ、何がバカなんだよ……!!」 「もしかして、私に会いに来てくれたの?」 「答えろよ…………! 屍……!」 「はぁぁぁぁぁぁっ…………!」 彼女の言う“あなた達”とは……。 きっと、俺と玖塚姉妹の三人の事。 「俺達の関係に、口出しするな」 「……そんな恋愛は成立しない」 「三人で付き合ってる事は…… まぁ、確かに異常かもしれないけど……」 「でも、それが俺達にとって正しい事なんだ……! あるべき形なんだよ!」 「あなた達は、いずれ破綻する」 「勝手な事言うな! 三人が幸せになるために、 こういう恋愛があってもいいはずだ!」 「人数の問題じゃない」 「…………っ」 何だって……? こいつは……そこを指摘してるんじゃないのか……? 「あんなもの……本当の愛とは言えない」 「……というか、そもそもなんで 俺達の関係を知ってるんだよ」 「なんで俺はここにいるんだ……? なんで俺はお前の名前を知っているんだ……?」 「お前は……一体誰なんだ……?」 「私はいつでもここにいるし、いつでもあなたを見ている」 「会いたくなったらいつでもいらっしゃい。歓迎するわ」 「なんなんだよ……お前は……!」 「だから……だからね……」 「私も……会いたくなったらすぐにあなたのところへ――」 ――どうか、したの? 「――いや、なんでもない」 「随分ボーっとしてたわね……また夜更かし?」 「……そんなところだよ」 彼女達が作ってくれた手作りのお弁当を、今日も口に運ぶ。 合計二人分なんだ。気を引き締めて食べないと。 「つつじ子、もう頭痛は大丈夫か?」 「もうっ、その話何度目ー? あれから一回もなってないって。全然大丈夫だってば」 「なんだったのかしらね、あれ」 「うーん、わかんない。過労でも寝不足でもないし……」 「あんな事、初めてだったもんね。 二度とないといいけど……」 「きっと勉強のし過ぎだよ。 ほら、あの時はテストが近かったから……」 「もともと勉強なんてあんまりする子じゃないくせに」 「ふふっ……だからぁ、息抜きも兼ねて、 今日の午後の授業は三人でサボっちゃおー!」 「何言ってんだよ急に」 「いいじゃんいいじゃんっ。授業抜け出して、 三人で内緒のデートだよっ」 「そういうわけにいかないでしょ、おバカなんだから……」 「えーっ。ぶーぶー」 唇を尖らせて拗ねるつつじ子の頭を、あざみ子が優しく撫でる。 いつもの日常だ。何度も眺めてきた光景だ。 違和感などない。全てを、受け入れられるはずだ。 それなのに―― あなた達は、いずれ破綻する。 それは、指摘される前から心のどこかにずっと追いやってきた事で。 今が幸せだから、そんな事から目を背けて、日々の楽しさに溺れて。 でも……俺達の未来は……いつか…………。 「またボーっとしてる」 「……ん。ああ、ごめん」 「具合でも悪いの? 保健室、行く?」 「いや、大丈夫だよ」 「そうだっ! 皆で仮病で保健室行ってさ、 そこでエッチい事するの! きっと楽しいよ!」 「またサボりの話ー? でも……保健室エッチかぁ。 それはそれでアリかも……」 「おいおい、あざみ子まで何言ってんだ」 「元気ない期招来君を、私達で元気付けてあげよー!」 「ある意味、余計体力消耗して元気なくなると 思うんだけど…………」 「そんな不健全なサボりなんてしないからな!」 二人は……何も考えていないのだろうか。 この微妙で絶妙に不安定な、関係性の成立に。 「――ねえ」 「……ん?」 「私達が期招来と付き合って、一か月経ったわね」 「そうだねー。あっという間だったよ」 「……どう思う?」 「よく続いたと思う」 「まったくだわ……」 「色々あったよね。登下校したり、 デートしたり、エッチしたり」 「全部三人だったわ」 「……うん」 「つつじ子はさ……ホントは私なんか抜きで、 二人で付き合いたいって思ったりしないの? 私の事……邪魔な存在だって思ったりしないの?」 「そんな風に考えたりしないよ」 「……そっか」 「お姉ちゃんは? 私の事邪魔だって思うの?」 「私は…………」 「………………」 「………………」 「……三人が幸せになる方法があるといいね」 「そうね……。そんな方法があれば……きっと……」 「――あのね、もう一度言うね」 「私ね。一か月も、よく続いたと思う」 「……うん」 「もう十分だよ」 「そうね……」 「本当に……まったくだわ……」 「……………………」 あの日から、俺はずっと―― 彼女の言葉を反芻していた。 あなた達は、いずれ破綻する。 屍の謎は多い。 彼女が何者で、なぜ俺達の恋愛事情を知っているのか。 そして彼女の目的は何なのか。 何もわからない。 普通なら……よくわからない不気味な女の戯言として、適当に聞き流すだろう。 でも、なぜか俺は彼女の一言一言を真剣に受け入れてしまい―― 「……?」 誰だろう、とは思わない。なんとなく予想出来ている。 それを踏まえて、今の俺の顔は不適切だ。笑って出迎えてあげないと……。 「開いてるよ」 「あざみ子……」 「うん、こんばんは……」 彼女の来訪は予想通りだ。 その悲しげな表情も……覚悟はしていた。 「ちょっと、話があって」 「ああ……別に構わないけど」 「つつじ子は今日は来ないわ。私……一人」 「そうなのか。それで、話って?」 「うん。ちょっと……言い辛い話題なんだ」 「………………」 つつじ子が来ない事も知っている。 そして、彼女から吐露されるその話題も、おそらく俺は―― 「だから……逆に改まって欲しくないっていうか……」 「ちょ……!」 あざみ子はいきなり俺の目の前で服を脱ぎだした。 「何やってんだよ急に……」 「今さら驚く事でもないでしょ? この一か月……散々エッチしてきたんだし」 「ま、まあ、そうだけどさ……」 「したいの。いい?」 「…………」 随分と、追い詰められた表情だ。 話があると言っていた。それなのにどうしてセックスを要求する? 「抜け駆け……じゃないよね? つつじ子も……わかってくれるはず」 「しましょう? 今日は二人っきり……。 優しくね、抱いて欲しい」 「………………」 「…………わかった」 セックスか。この展開は予想していなかったけど……。 あざみ子がこのエッチで何かを体現しようとしているのはわかった。 だから、受諾しよう。 あざみ子の気持ちを知りたいし……。 何より俺は、あざみ子の恋人なのだから―― 「んっ……んっ、はぁぁっ…………!」 甘い吐息がこちらまで伝わってくる。あざみ子は、いつも以上に俺を求めているのだ。 「おちんちんの準備、出来てる……? 手とか口とかで硬くさせた方がいい?」 「いや……大丈夫」 「じゃあ……入れて。私の方はもう準備出来てるから」 すぐにでも、という姿勢だ。珍しいように思う。 「……何かあったのか?」 「話があるって言ったでしょ」 「だったらセックスしてる場合じゃないと思うんだけど」 「逆よ……セックスしてる場合なの」 ペニスを握りながら答えるその様は、少しでも早く挿入をねだっているようで。 「入れてくれたら話す……」 「出来るのか?」 「ふふっ……多分。おちんちん気持ちいいから…… きっとふにゃふにゃになっちゃうだろうけど……」 「その方が正直になれるでしょ? 裸になって…… 心も身体も全部晒して……恥じらいなく喘いでる時の 私って、すごく素直だから……」 逆に言えば、そういう状況にならないと口に出来ない話題って事だ。 導いてあげよう。俺のペニスで。 彼女の髄まで丸裸にして、本音を引き寄せるんだ―― 「はっ……くっ、ふうっ……んっ、んんんっ…………!!」 挿入と同時に、下腹部が高熱に包まれる。 言葉通り、しっかり準備が出来ていたようだ。 「んっ、おちんちん、おちんちんだぁっ、はふぅっ、 好きな人の……期招来のおちんちんだぁっ……!!」 「そんなっ……改まって口にする事か……!?」 「んっ、はぁぁん、だって、これってよく考えると…… あっ、くひっ、すごい事なんだよっ……あっ、んっ!」 「色んな男性の中から一人だけを愛して……その人の事 全部好きになって……あっ、ふっ、あふあぁっ、んっ」 「その気持ちを理解してもらった上で……あぁぁんっ、 自分のおまんこに……その人のおちんちん入れて もらうの……。はふっ、あっ、あぁんっ……!」 「すごい、事だよね……はふっ、物理的な繋がりだけ じゃなくって……こう、気持ち的にも……繋がってる っていうか……はぁっ、あっ、あぁんっ……!」 恋人同士のセックスとは、そういうものだ。肉欲や劣情だけに留まらない、清らかな感情を伴う。 それが愛おしくて、心地良くて、性欲とは異なる温かさに促されて……相手を貪ってしまうんだ。 行為は同じでも、心は違う。とても優しい瞬間なんだ。 「はっ、ふっ、あぁん……女の子が……男の人の おちんちん入れてもらうためには……ちゃんと、 資格があると思うんだ……ぁぁんっ、んはぁっ」 「資格……?」 「そう……資格。私には……それが無い……」 「私、あなたと別れる……」 「……………………」 「はぁっ、はぁっ……あれ、驚かない……」 「……いや、驚いてるよ」 「んっ、くふっ、そ、そう……はふっ、あぁぁんっ!」 重くて辛い話だ。素面で打ち明けるには耐えられない。 だからこうして、その想いをセックスに紛れさせて、性の勢いに頼って、誤魔化して……。 「やっぱり、はふっ、三人で恋愛するのは、あぁんっ、 難しいよね……はふっ、んっ、んっ……」 「何かにつけて比べちゃう……。少しでも差があると、 はふっ、私、嫉妬しちゃう……お姉ちゃんなのにね、 情けないよ……」 「それは、普通の事だと思う」 「期招来だって平等に……私達を愛するなんてきっと 大変でしょ……? 今それが出来ているとしても、 んっ、これからもそれが続くとは限らない……」 「だから……別れる?」 「きっと私、あの子の邪魔になってる……はぁっ、んっ、 あの子の純粋な恋心には……余計な存在はいらないのよ、 んっ、はふあっ…………!」 時折、俺の腰遣いとは無関係な喘ぎ声が混じる。 きっとそれは、あざみ子なりの強がり。 わざと喘いで、健気に言葉尻を隠して。 少しだけ涙腺が緩んだ。 「私はね……あなたと同じくらいあの子も大切なの……。 あなたと付き合う事で、あの子の恋愛が窮屈になるの なら……私はそれを望まない……」 「あの子に幸せになって欲しい。もちろんあなたにも。 このままだと……きっと共倒れしちゃう。だから……」 「……だから?」 「だから……身を引くの」 涙腺が緩んでいるのは、あざみ子も一緒か。 「身を引くって……それであざみ子は平気なのか?」 「平気なわけないじゃない。私があなたの事 どれだけ好きだと思ってるのよ」 「別れるなんて辛くて……苦しいから……」 「だからこうして、最後のセックス、してるの……」 膣圧がキュッと高まった。 この一時の温もりで、あざみ子の恋心が報われるとは到底思えない。 それでも彼女は決断し、この行動に至った。 そこには、俺の知り得ない強大な覚悟があって。 「あざみ子…………」 優しく抱き締める事しか出来ない自分が歯痒い。 「俺が二人に平等に愛を注ぐとして…… それでも駄目なのか……?」 「平等かどうかは、受け取る側が決める事だから」 「………………」 「期招来は悪くないよ。一か月、私達のために 立派にやってくれた」 「でも……はっ、あぁん、もうそれもおしまい。 夢の時間は、もうおしまいなの……」 「でもっ……!」 「こういうのは、きっと早い方がいい。 ずるずる続けると、もっと辛くなる。 関係が壊れた時……皆がもっと傷付いて不幸になる」 「それは嫌なの。今、この選択が皆にとって 一番“幸せ”な答えなの……」 「あざみ子が幸せになってない!」 「んっ……くっふっ、はふぅ……二人が幸せになる事が、 私の幸せ……はあぁんっ」 聞き分けのいい姉を演じているだけだ。無理してる。それは俺にもわかってる。 でも……全部あざみ子の言う通りなんだよ。屍の言う通りなんだよ。 三人で一緒に居続ける未来なんてない。いつか破綻する。 やがて来るであろうその時に全員が苦しみたくないから、今、まだ傷口の浅いこの時期に、自らの手で関係を終わらせる。 賢いし、理性的だ。一人の自己犠牲で済むなら、それが一番なのかもしれない。 でも……それでいいのか? 俺は男として、あざみ子と決別するべきなのか? 「期招来は……深く考えなくていいの。 んっ、おちんちん、動かしてるだけでいいんだよ」 「もとはと言えば私達姉妹が同じ人を好きになって…… そのままアタックしちゃったのが原因なんだから……」 「誰かに……言われたのか?」 「……ん?」 「これからも三人で付き合って、それが上手くいくなんて あり得ないって……誰かに忠告されたのか?」 「誰かって……誰よ」 「………………」 「……いや、なんでもない」 あの女にそそのかされたわけじゃなさそうだ。 「……私が自分で考えたのよ。 このままで本当にいいのか、って」 「つつじ子は何て言ってるんだ?」 「何も伝えてないわ。 言ったらどうなるか、わかるでしょ?」 「きっとお前を止めるだろうな。あざみ子一人が不幸に なる展開なんて、つつじ子が絶対に許さない」 「そう。だから言ってないの」 「……………………」 俺だって許したくないよ。あざみ子の決意が全面的に正しいなんて思ってない。 本当に、そうするしかないのだろうか。 「……さっき、つつじ子に嘘吐かれちゃった」 「え……?」 「そんな風に考えたりしない……って。 あの子ってば、ホント嘘吐くの苦手なんだから」 「私お姉ちゃんなのよ? そういうの……すぐにわかっちゃうんだから」 「……何の話だ?」 「なんでもない。ねえ、おちんちんもっと深くー」 気を取り直した猫撫で声。 可愛いが、今それに溺れるほど俺もバカじゃない。 「だから余計な事考えないでってば……! 私が今欲しいのは、おちんちんの快楽……!」 「三人の未来なんてないの。私と期招来には 時間が無いの。もう恋人でなくなるんだから…… せめて、最後のセックスをいい思い出にさせて」 「自信無い。まだ決めかねてるんだ。 あざみ子、本当にこれでいいのか……?」 「うん。もう決めたの。二人を応援するよ。 幸せになって欲しい」 「だって……私の大好きな二人だもん」 「あざみ子………………」 「期招来が少しでも私の事を想ってくれるなら…… 最後にさ、気持ち良くしてよ……素敵なおちんちん、 期待してるよ……」 俺の価値観では、彼女の幸福は計れない。 あざみ子がこんなにも穏やかに、優しく頼んでいるんだ。 俺は“まだ”あざみ子の彼氏だ。 彼氏として、彼女の要求に応えてあげよう。 全力で、抱き締めてあげるんだ―― 「んっ、はふぅ……お、おち、あぁぁんっ、おちんちん、 はぁっ、はぁっ……硬く、なったぁ……?」 「それが今の俺に出来る事だから……」 「んんん……ぁぁん、嬉しい、よ……んっ、はふっ! 勃起おちんちん、嬉しい……!」 「最後だもん……。私、おちんちんいっぱい感じたい……! 私のおまんこ……あなたのおちんちんでメチャクチャに してぇ……!」 「……っ!」 潤んだ瞳でそんな事を言われたら……! 「きゃふっ、あぁっ、あはぁぁぁぁんんんっ!!」 理性が失われる。歯止めが利かなくなる。 性欲の権化となり、オスとして目の前の肉壺を貪り尽したくなる―― 「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!! 激ひっ、あっ!! おちんちん、勃起おちんちん、激し、過ぎっ、あぁんっ、 あはぁぁっ!!」 「おまんこっ、壊れちゃうくらい、腰、ガシガシっ、ひっ、 すごひよっ、んっ、あっ、あぁんっ!!」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」 これからあざみ子がどうしていくか、どういった形で幸せを求めていくか。 行為中にそんな事考えられない。 一度点火された欲望の炎は、正常な思考回路を煙でくらましていく。 「きひぃんっ!! あふっ、くうっ、くひっ、やぁっ!! 勃起っ、勃起ちんちんっ、勃起ちんちんんんんっ!! あっ、あっ、気持ひいいっ、勃起ちんちんいいよぉ!!」 「あっ、あ、あ、あ、あ、あっ!! おまんこの奥まで 届いて……はふっ、ひっ、熱いの感じるっ!! ちんこの熱、おまんこに響くうっ、ひっ、ひいっ!!」 本当は彼女を止めるべきだったのかもしれない。 三人でじっくり話し合って、どうするのが最善か議論すべきだったのかもしれない。 それを呼びかける力の全ては今、腰へ―― 抽送の原動力となって、あざみ子を犯す―― 「んふうっ、はぁぁっ、期招来の体温、子宮に伝わるよっ、 はぁっ、んっ、身体が、ポカポカになるうっ、んんっ、 熱くなってく、変になってくぅっ!!」 「気持ちいいっ、気持ちいいのっ、これっ、これ好きっ! これ欲しかったのっ、好きな人のおちんちんでっ、 切ないくらいおまんこ熱くして欲しかったのぉっ!!」 俺だってよくわからないんだ。 あざみ子の幸せも、自分の幸せも。 だからこうして考えるのを放棄して、快楽に溺れていたい。 「ちんこでおまんこ熱くさせられたらっ、はっ、あぁん! 私、すぐイキたくなっちゃうっ……おまんこっ、お潮 出したくなっちゃうっ…………!!」 「好きな人のおちんちんに犯されてるんだもんっ……! イキたくなるのは、はぁぁんっ、当たり前っ……!! あっ、あふうっ、あっ、あっ、あぁっ……!!」 ここで性欲に負けず、毅然とした態度であざみ子を止める事が出来たなら。 それが本当の意味での、あざみ子の彼氏の役目なのだとしたら。 「あっ、ふあっ、あぁんっ……くひぃ……!! 期招来は……!? 期招来はどう……!? おちんちん、射精しちゃいそう……!?」 「私、もうイキそうだよっ……素敵勃起ちんこで、 もう十分おまんこ解れたっ……期招来は、あぁぁんっ、 おちんちんはどうなの……!?」 それが出来ない俺は……俺達は……。 あいつの言う通り―― 屍の言う通り―― 「俺ももう、イクっ……!!」 「うんっ、それじゃあ……一緒に……はふっ、んっ、 最後の瞬間、一緒にイこう……? 一緒に、一番気持ち良くなろう……?」 その膣圧に、全てが有耶無耶にされていく。 「んっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、 あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……!!」 「んんんっ、あっっっはあああぁあああああああっっ!! ひいっ、あひいいいいっ、あっひいいいいいっっ!!!」 肥大化した性欲が、生温かな膣の中で爆発した。 「くはぁぁっ、あぁっ、おちんちん、射精してるうっ!! んっ、あっ、あっ、熱いの出てるっ、いっぱいっ……、 くうっ、ひっ、あっ、あっ、あっ…………!!」 「私も、気持ち良くって、イっちゃうよぉっ……!! 中出しで、おちんちん射精で、おまんこっ、絶頂っ、 潮吹きいいいっ、ひいいいっっ……!!」 俺の脈動に合わせて、あざみ子も腰を震わせる。 甘い淫液を迸らせながら、その絶頂快楽に倒錯しているのだ。 「んっ、んんっ、あっ、あっ、あっ、まだイクっ、んっ、 んっ、んっ、んっ、イクっ、イクっ、イクっ、んっ、 イクっ、イクっ、んっ、んっ、んっ………………!!」 放熱とともに、あざみ子の瞳と声が蕩けていく。 「はっ、あっ、あぁあんっ……やっぱり……いいっ……! おちんちん……すごく……いいよぉ……はふぅ、 素敵……はふっ、あっ、あぁっ…………」 「このおちんちんでイカされると……なんだか色々、 どうでもよくなっちゃうね…………」 「はぁ……はぁ……俺も、セックスしたら……、 冷静でいられなくなる……」 「はぁ……はぁ……だから……んっ、はふっ、 これでよかったんだよ……はふぅ」 「私達の恋愛は……これでおしまい……。 これ以上深く考える必要無いんだから……。 ゆっくり……絶頂した後の余韻に浸ろう……?」 「あざみ子…………」 少しずつ冷えていく自分の脳内が、彼女を慮ってしまう。 それでも、彼女はそれを望んでいない。 俺と妹の幸せのためという無理矢理な論法で、歪な三人の関係に幕を閉じようとしている。 それをわかっていながら、彼女の熱の残り火を噛み締める事なんて……。 「――あざみ子がここに来る前……つつじ子が来たんだ」 「え……」 服を着て落ち着いたところで、俺は話を切り出した。 「つつじ子にも同じ事を言われたよ。別れて欲しいって」 「嘘……」 「あいつはセックスをねだらなかったけどな。 セックスしたらおバカになって、 まともに会話する自信が無いんだと」 「……まあ、そういう事だから、あざみ子が来るのも、 なんとなく予想してた。別れようって言われるのも、 覚悟してたんだ」 決別の言葉に驚かなかったのはそのためだ。 「……つつじ子が先に来た事、なんで隠してたのよ」 「お前言ったよな? 最後のセックスをいい思い出にさせてって」 「だから黙ってた。さっきのセックスは、 全力であざみ子だけを愛したよ」 「………………」 「つつじ子がお前より先に行動を起こしてたって言ったら、 お前は迷うだろ? 決意が鈍るだろ?」 「……だから黙ってた」 「期招来にしては……賢いじゃない」 「でも、隠し通すつもりはなかった。 ちゃんと伝えるべきだと思ってたから、 今話したよ。終わった後ですまん」 「ううん。気……遣ってくれたんだね。 ありがとう……いい男ね、あんたホントに」 心臓がバクバク鳴っている。 続くあざみ子の質問に、俺はどう返すべきだろうか。 「それで……何て答えたの?」 「つつじ子から別れを切り出されて……何て答えたのよ?」 「………………」 俺達の子供じみた関係が終わりを迎えるなら。 それぞれがそれぞれの幸せを祈って、それぞれの道を生きていくのなら。 何一つ、後ろめたい事などなく、正直に―― 「俺は――」 「――ふう。随分涼しくなってきたわ」 「……今夜は……冷えるかもしれないわね」 「……ん?」 「あれは…………」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」 「あら期招来君。こんばんは」 「志依っ、あざみ子見かけなかったか!?」 「玖塚さんならついさっき、私の前を走り去って行ったわ」 「どこ行ったかわかるか!?」 「……………………」 「…………さあ?」 「くそっ……!!」 「なかなかに騒がしいわ。何があったのかしらね」 「まあ……ある程度は想像出来るけど」 「……………………」 「期招来君、後悔のないようにね。 今の玖塚さんはきっと手強いわよ」 「彼女……泣いてたから」 「今夜は……静かな夜にはならなそうね」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」 あざみ子は、俺との会話の最中、すぐさま立ち上がり部屋を飛び出して行った。 その時の彼女の顔がただならぬものだったから、俺も居ても立っても居られなくなって、こうして彼女を追っている。 あざみ子……どこに何しに行ったんだ……!? 「はぁ……はぁ…………あ……!」 全速力で走ったせいで乱れた呼吸を整えていると、偶然御伽と遭遇した。 「あ、那由太君。こんなところで何してるの?」 「御伽……!」 「って、すごい汗! どうしたの一体……?」 御伽の穏やかな空気感が、今はどこかもどかしい。 俺は御伽の肩を掴んで、勢い任せに詰問した。 「あざみ子とすれ違わなかったか!?」 「きゃっ……!? な、なに、いきなり……!? え……? あざみん……?」 「ああ、どこに向かったか教えて欲しい!」 「そんな事言われても……あざみんだよね? うーん……見てないと思う……」 「くっ…………!」 この時間、この道に通行人は少ない。 知り合いが全力疾走していたら、嫌でも目に留まるはずだ。 「えっと……私、商店街で買い物した帰りだから……。 それで会わなかったって事は、あっちの道を行った んじゃないのかな」 御伽が指差した方向は―― 「EDENか……」 一体なんのために――!? 「何があったか知らないけど……あざみんの事なら つつじんに聞いた方がいいんじゃないの?」 「………………」 「……つつじん、寮にまだ帰ってないの?」 「つつじ子は……その……」 つつじ子が今どこにいるか俺は知らない。 あざみ子が来る前に俺の部屋に来て、決別の意志を口にして……。 会話を無理矢理終わらせる形で、彼女はゆっくりと俺の部屋から出て行った。その後自室に戻ったのか、外の空気を吸いに行ったのか、俺にはわからない。 いずれにせよ、今つつじ子と顔を合わせるのは難しいだろう。あざみ子の事となるとなおさらだ。 「……わかった。御伽、ありがとう」 「うん。あんまり力になれなくてごめんね」 「那由太君……すごく不安そうな顔してたけど……。 大丈夫、なのかな……」 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」 息が苦しい。 久しぶりに走った。体育でもこんなに頑張った事は無い。 「つつじ子……やっぱりあなたも…… 同じ事考えてたのね……!」 つつじ子はさ……ホントは私なんか抜きで、二人で付き合いたいって思ったりしないの?私の事……邪魔な存在だって思ったりしないの? そんな風に考えたりしないよ。 ……そっか。 ――嘘だと思った。 つつじ子は……本当は私の事邪魔に思ってる。 そう感じたから、私が身を引こうと―― 「なのに……なのに……!!」 あなたも同じ気持ちだったなんて―― 「私、お姉ちゃん失格だ……!!」 とりあえず校門へとやって来た。 「あ? 期招来じゃねーか。こんな時間に何やってんだよ」 「メガ! お前こそどうしてここに……」 「俺はよ、工具箱忘れちまってよ。 あれがないとボトルシップが出来ねーから――」 「そんな事よりメガっ! あざみ子見なかったか!?」 「玖塚姉ぇ!? んだよ急に。 知らねえよそんなヤツの事なんか」 「すれ違ったりしなかったか!?」 「あー、覚えてねえ。つーか玖塚姉の事は 玖塚妹に聞けよ」 ダメだ……メガだと当てにならない。 「くっ……!」 「なんだぁ……あいつ……?」 ゆっくりと階段を上っていく。 着実に、あの子を追い詰めていく気分だ。 「………………」 そんなつもりは無いんだ。 私はただ……あの子に幸せになって欲しくて。 お似合いだと思う。期招来はいいヤツだ。つつじ子の事を大切にしてくれる男だ。 だから、それでいいと思った。自分が身を引けばすべて丸く収まるって思った。 なのにあの子も、同じ事を考えてて……。 「……ううん、同じじゃない」 もっと……私よりももっとわかりやすく。 はっきりとした方法で、身を引こうとしている。 そこが私と同じじゃないから。 私はせめて、こんな時だけでも姉として―― 「…………っ」 つつじ子を―― 止めるんだ―― 「あれ、那由太じゃん。まだ帰ってなかったんだ」 部活の練習終わりと思われる筮に出くわした。 「筮、あざみ子見かけなかったか!?」 「いきなり何よ……!? あざみ子? うーん……」 「あ、そう言えば誰かが校舎の中に入って行くの 見かけたけど、今考えたらあれあざみ子だったかも」 校舎の中……。 「ありがとう、助かった!」 「あ、ちょっと那由太っ……!」 「んもう……何焦ってんだろ……。 あざみ子の事ならつつじ子に聞けばいいのに……」 肌寒い向かい風が一陣、私を拒絶するかのように吹きすさんだ。 反射的に閉じた目を、ゆっくりと開く。 「――つつじ子!」 「……お姉ちゃん。来たんだ」 さほど驚いている様子は無い。 私がここに来る事は、ある程度覚悟していたのだろう。 「どうして屋上にいるってわかったの?」 「私を誰だと思ってるのよ!? 姉妹なんだから あなたの行くところなんて全部お見通しよ!」 「でも……私が身を引こうとした事までは見通せなかった」 「――っ」 「私はね、お姉ちゃんが身を引こうとしてるのわかってた。 きっと自分一人で辛いの抱え込む気なんだって」 「それが嫌だったから、私が先に行動を起こした。 お姉ちゃんよりも早く……期招来君のところへ行って、 別れ話を切り出した」 「あなたが身を引いても、私は嬉しくないっ!!」 「それは私も同じだよ」 「同じじゃないわっ! 全然違うっ!」 「私は……ただ、期招来と別れて……前みたいに、 普通のクラスメイトの関係に戻るつもりだった……。 その上で、二人を応援するつもりだった……!」 「でもあなたは違う! 死のうとしてる!」 つつじ子が立っているのは、落下防止の柵の外。 あの子にとって身を引くとは、そういう事なのだ。 「それは違うでしょ! そんな事して 私が喜ばない事くらいわかるでしょ!?」 「うん……。でも、私は元には戻れない。 好きな気持ちを押し殺して、二人を応援なんて出来ない」 「私はお姉ちゃんみたいに出来た人間じゃないの。 きっと嫉妬する。イライラする。 いつか我慢出来なくなる」 「そしたら、私達……きっと仲悪くなっちゃうよ。 それはダメだよ」 「だから! 私が身を引こうと――」 「だからそれ、嬉しくないって。有難迷惑だって」 「血を分けた姉の自己犠牲の上に成り立つ恋愛を 続けて……私、楽しくない。満たされない。 全然嬉しくないんだよ」 「それでも……死ぬなんて……!」 「私が死んだらお姉ちゃんが悲しむのもわかる」 「お姉ちゃんを……悲しませたくないよ」 「だったら、バカな事は止めて早くこっちに――」 「これはね、私のワガママなの」 「私達のこじれた恋愛関係は、もうリセットするしかない。 “三人”を“二人”にするしかない」 「それがお姉ちゃんの望むやり方じゃない事はわかる。 でも、私はこれでいいと思う」 「私がいなくなれば……残ったお姉ちゃんは、 無理矢理にでも期招来君と一緒になれる」 「私の事なんか気にする必要なくなるんだよ。 だってその時はもう……私はいないんだから」 「バカな事言わないで!」 「……なんでだろう…………。恋愛なんて…… ただ一時の喜怒哀楽でしかないはずなのに……」 「そんな刹那的なものに……自分の命までも 賭けちゃうなんて……自分でも信じられないよ」 その時のつつじ子は―― 「ねえ、お姉ちゃん……」 迫る自分の死を、まるで他人事のように観察していて―― 「どうして私達、期招来君じゃないとダメなんだろうね?」 「それは――」 テオドール・ベクトルって言って……。 「私……自殺するほど恋愛に夢中だったのかなぁ……?」 「誰かのために、何かのために、自分の命を引き換えに するほど……お人好しだったかなぁ……?」 「でも……こういう事だよね?」 「そういう事よ」 「これでいいんだよね?」 「それでいいのよ」 「うん……」 虚ろな瞳―― つつじ子はきっと、判断力を失っていて―― 「ダメよつつじ子っ、ダメえええええええっっ!!!」 「…………玖塚つつじ子……」 「――さようなら」 「さようなら」 「あ゙あああああああああああああああああああああああ あああああああああああああああああっっっ!!!!」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」 さっきから、狂ったような胸騒ぎが鳴り止まない。 心臓の鼓動が、謎の頭痛が焦燥感を生み、俺の足を急がせる。 「はぁ、はぁ……つつじ子……あざみ子……!」 つつじ子から別れ話を持ち出されて……。 俺は静かに、それを断った。 自ら身を引く事は無いと思った。そうする事でつつじ子が不幸になるのは目に見えているし、あざみ子だってきっと喜ばないだろうと思った。 それを出来る限り丁寧に、言葉を選んでつつじ子に語りかけた。 その時のつつじ子は、何かこう……。 自分を客観視しているような、俺の話をまるで他人事のように聞いているかのような、そんな空虚な様相で……。 その後、案の定あざみ子にも同じように別れ話を切り出された。 二人は優しいから。お互いを想って。そのために自分の気持ちを押し殺して。 それが不憫で。不幸の前兆で。どうしても幸せの為とは思えなくて。 姉妹で幸せになる方法は無いのか……? 俺では、二人を幸せに出来ないのか……? 「はぁ……はぁ……はぁ……」 教室にも廊下にも、どこにもあざみ子はいなかった。 あともう……いるとしたら、ここ―― 「あざみ子……!」 なんとなく、思う。 あざみ子がここにいるとしたら―― きっとつつじ子も―― そこには―― あざみ子が立っていた。 さすが、双子の姉妹だと思った。 そっくりだ。 あの時のつつじ子と、顔が。 客観的で。無関心で。あまりにも場違いな―― 空虚―― 「あざみ子…………」 「――ねえ、期招来」 恐ろしく冷たい声―― 「つつじ子はなんで私に、十字架をプレゼントして くれたんだと思う?」 「え…………?」 「強烈な皮肉だと思わない?」 何言ってるんだ……? 「あざみ子……ここで何やってる?」 「あの子なりの嫌味なのよ」 「ここにつつじ子がいるのか?」 「十字架を送り付けたという事は――」 「私はもう要らないという意志。 私をもう克服したいという意志」 「お、おい……あざみ子……」 「私はね、きちんと返すつもりだった。 全部終わったら……つつじ子に、ちゃんと……」 「でもあの子は、私を取り除こうとした。 異物扱い……障害物扱いした」 「あの子にとって私は…… ただの亡霊だったのかもしれない」 なんなんだ、このあざみ子は……!? まるで人間味が無い。ロボットのようだ……。 「そっか……つつじ子は……そっかぁ……」 「ここでも私は……あなたに拒絶されるの」 「わけわかんねえよ! あざみ子、どうしちゃったんだよ!?」 「――あっち」 「は……?」 やはり静かに、あまり興味も無い素振りで。 端的に簡潔に、指だけ伸ばして俺を促した。 「あっち……って……」 あざみ子が伸ばした指は……屋上の隅……。 ……の、もっと先。 もっと下―― 「うわああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああっっ!!!」 屋上から確認出来る彼女の姿形は―― 人間が織り成す輪郭としてはあまりにも異質で―― ゆえに一目で、“もう”人間に値しない事が見て取れた。 「ああああああああああああああああああああああああ ああああああああああああああああああああっっ!!!」 溜まっていた感情を、恐怖に変えて喉奥から放出する。 悲しいというより、怖い。 この凄惨な光景が。つつじ子の結論が。あざみ子の冷静さが。 全く理解出来なくて、ただひたすら怖いのだ―― 「ああぁ…………あ、あぁぁ…………あぁぁっ……!!」 「つつじ子が……つつじ子が…………!!」 「………………」 「つつじ子が死んじまった! なんでだよっ!? ここで何があったんだよっ!!」 「どうしてつつじ子が死なないといけないんだよっ!? 意味わかんねえよっ、なんなんだよおおおっ!!」 「期招来……」 「あざみ子っ、お前なんでそんなに落ち着いてるんだよ!? つつじ子が、つつじ子が死んじゃったんだぞっ!? それなのに、なんで――」 「……はい、箱」 「は――?」 箱……? 箱……? ハコ………………?    「こんな時に、何……言って――」 ハコニ―― スイコマレル―― 「……………………」  本能が呼びかけている。   これを開けなくては――    なにをもってしても――     ハコヲアケナクテハ―― 「コートゥリーヌレータルシァ・サバト・リフォシェス」      「――ぁ」         「――さようなら」 サヨウナラ――           ――この世界は、仮面である。        信念と欲求が交錯し、打算が駆け巡っている。        欺瞞に覆われたこの世界は、虚像そのものだ。           この世界は、仮面である―― ――そう言えば。 今日やって来た転入生は、これまでどんな生活を送って来たんだろうか。 本土からやって来たと言っていた。きっと俺達の知らない都会事情をたくさん体験してきたのだろう。 俺は―― 俺も本土出身だけど―― EDENに入学して……天使島での生活が、この毎日が当たり前となって……。 すっかり本土の暮らしを忘れてしまった。 本土での日々があまりにも昔に感じられる―― この島に来る前、俺はどんな毎日を送っていたんだっけ―― 「………………」 「……どうした?」 「記憶が、曖昧だ……」 「記憶?」 「大事な思い出を、忘れてる気がする」 「ほう、それはどんな思い出だ?」 「思い出せないから困ってるんだよ」 「思い出せないのなら、その程度だって事だ」 「……………………」 その通りだ。まさしく、本当にその通りだ。 きっと人間が記憶出来る容量には限界がある。 人間は無意識に、大切な思い出とどうでもいい思い出を取捨選択して、重要なものだけ脳に保管するのだ。 消えていった思い出は……脳が不要と判断するような、他愛無いものに違いない。 だから、俺が何かを忘れているのならば―― それはおそらく、どうでもいい記憶―― 「――きゃっ……!?」 「ご、ごめんなさいフーカさん……!」 「いいえ……こちらこそすみません……。 そちら側はどうしても反応が遅くて……」 「あ……そうですよね」 「まこってば、もうちょっと周りに気を配りなさいよ。 フーカは右目が視えないんだから」 「小鳥ちゃん、そんなはっきりと……!」 「いえ、事実ですので……。ご迷惑おかけしました」 「フーカさん、その段ボールは私が運ぶよ。 フーカさんは休んでて」 「って、あんたもそういうの出来ないでしょうが!」 「あ、あははは……」 「……ったく。ほら、つつじ子。片手じゃ持ち辛いでしょ。 私が運んであげるから……」 「ふふっ、小鳥ちゃん優しいね」 「ねー」 「うるさいっ。ほら、あんた達は元気なんだから、 ちゃんと残りの片付け頑張るわよ」 「小鳥ちゃん、頼もしい……」 「ええ、全くです。生まれつきとはいえ…… 皆さんのお力になれないこの身体を、時々 歯痒く思います」 「でも、私達には私達にしか出来ない事もきっと あると思うよ。頑張ろうね、フーカさんっ!」 「…………そうですね。その通りです。 一緒に頑張りましょう、つつじ子さんっ」 「んしょ…………んしょ…………」 「あら高梨子さん。重そうなもの運んでるわね。 私の出番かしら? 手伝うわ」 「ああもう、あんた達少しは自重しなさいよっ!!」 「くっふふふふ!」 「ふう……すっかり遅くなっちゃったな……」 歓迎会の後片付けを終え、短い通学路を歩いて下校する。 俺の隣を歩いているのは―― つつじ子だ。 「ふふっ、お疲れ様、期招来君」 「つつじ子もな」 「私は大した事してないよ。ほら……この腕だから」 ふんわりと笑う彼女の表情には、生まれつきの障害を語る重々しさなど無い。 ずっとその片腕で生きてきているんだ。とっくに受け入れ、その生活にも慣れているのだろう。 「それより、荷物持ってもらってるのやっぱり 申し訳ないよー」 「気にするなって。大丈夫だよこれくらい」 片付けを終えた俺は、丁度つつじ子と帰るタイミングが重なった。 どうせ行く先は同じ楽園欒だ。他愛無い会話を口にしながら、ゆっくりと歩く。 片腕で通学カバンを持つのも大変だろう。こういう時だけでもと、力になってあげた。 「私、そんなに非力じゃないんだよ? いつもだってちゃんとカバン持って登校してるし……。 もっと重いモノだって持てるんだから!」 「例えば?」 「んー……期招来君だって持ち上げられちゃうよ!」 そんなバカな。 「こう……腕を回して、がっちり身体を抱えて…… そのままぐぐーって」 左腕で円を描いて上半身を反らすつつじ子。残念ながら彼女の自慢の剛腕で持ち上げられる自信が無い。 「だからカバン自分で持つのにぃ……」 「とか言ってる間にもう着いた」 「あはは……あっという間だよね」 「こんだけ近いと朝ギリギリまで寝てられる。いい事だ」 「でも……一緒に歩ける時間はほんのちょぴっと」 「……ん?」 「カバン、ありがとう。その気持ちが嬉しかったよ」 「ああ。どういたしまして」 つつじ子の通学カバンをそっと手渡す。 持ち手を噛み締めるように握り、そして―― 「それじゃあまた明日ねっ」 ふんわりと微笑んで、颯爽と立ち去って行った。 「…………ふう」 長い一日を終えて、ようやく一人になった。 今夜は自室でゆっくりしよう。 いつもよりも少し早目に到着したかな? 周囲では、ゆっくりと登校する生徒達が後を絶たない。 これがもう少し後になると、それぞれが早足になって……。 最終的に一分一秒を争うほどのギリギリの戦いとなる。 昨晩ぐっすり眠れた事もあって、今朝はスッキリ起床して登校の準備も捗った。 せっかくだし、適当にうろついてから教室に向かおうかな―― だからこそ、“自分”は思う。 人間は皆、誰しもギフトを持っているはずなんだ。 ギフトの凶暴性こそが人間を人間たらしめる純然な証。 これはもはや定義の話なんだ。 昇降口に向かうと、見知った面子が何やら神妙な顔で集まっていた。 「うーむ…………」 「おはよう。何やってんだ?」 「あ、那由太君。おはようございます」 「EDENの謎を追及しているところよ」 「は?」 EDENの謎……? 「…………ああ」 少し考えて、皆の立ち位置や視線の先から見当がついた。 「そこか」 「ええ。相変わらず不気味な扉よ」 皆が注目しているのは、下駄箱から少し外れた鉄板。 常に鍵をかけられたまま閉ざされている、謎の扉だ。 「三人とも、この扉の前で何してたんだ?」 「そりゃあおめー、今日こそこいつを開けるために――」 「彬白先輩が登校して来たところに、偶然を装いながら 待ち構えていた飯槻君を見かけてね。彬白先輩を助ける つもりで間に割って入ったの」 ああ、なるほど。 メガ、意外と健気な努力家体質なんだな。ストーカー気質ともいう。 「たまたまその場所がこの扉の前だったのよ」 「ふん……黒蝶沼……邪魔な女だぜ。 期招来まで現れやがって……」 「悪かったな」 「……やっぱ開かねえ」 「おい、力任せに弄るなよ。壊れたらどうするんだ?」 「けっ、壊れて鍵が開いたら面白いんだけどな」 「うーん……やっぱり開かないですわね、ここ」 「彬白先輩はここが開いてるの見た事ありますか?」 「いいえ、EDENに入学してから一回も……」 「不思議ね。何かの用途があるなら、 一度くらいは使われてもいいと思うのだけれど」 「私も最初は気になって色んな人にこの扉の事 聞いて回ったんですけど……」 「開いているのを見たという人は一人もいませんでした。 そのせいか、変な噂話もどんどん広まっていって……」 「噂話?」 「理科室の実験で焼け死んだ生徒の死体が保管されている、 とか……悪い事をした生徒へのお仕置きのつもりでこの 部屋に閉じ込めてそのまま忘れ去られてしまった、とか」 「実は幽霊のための教室で、夜な夜なこの部屋で 幽霊の生徒相手に授業が行われている…… なんて噂もありましたわ」 「や、ややややもももも先輩っ、俺……ここ、ここ、 怖くないっすからねっ…………!!」 「それ以外にも噂は絶えません。生徒に見つからないため に定期テストを作るための部屋だとか、校長先生の愛人 用の部屋だとか……そういうお話も聞いた事があります」 「ホラーから都市伝説まで選り取り見取りね」 「それだけ皆から興味を持たれてるって事だよな……」 「一見すると普通の扉なのですが……。 鍵さえあれば簡単に開きそうな……」 そうなんだよな。 別に老朽化してるわけでもないし、この扉だけ他の部屋と作りが違うってわけじゃない。 ただ、開かないだけ。 窓やガラスが無いから、中がどのような構造になっているかわからない。 建物の間取りから考えると、それほど大きな空間があるとは思えないんだけどな。 「現実的には……やはり物置か何かでしょうか」 「ま、そうでしょうね」 「でもよぉ、じゃあ何入ってんだよ、んなとこに」 「一階の……しかも建物の入り口付近の物置に収納 しておくのですから……持ち運びが困難なもの…… 屋外でよく使うもの……かしら」 「だったら体育倉庫にしまっておけばいいはずです」 「体育倉庫には入らないようなものなのかしら」 「もしくは……一般生徒が使用するような体育倉庫には、 入れておきたくないもの……」 「………………」 志依の意味深な言い方から、不吉なものを連想せざるを得ない。 「こここここ、怖くねえからなマジでっ!」 「し、志依さんっ、あんまりメガ君を 怖がらせないであげて……」 メガ……思いっ切り心配されてるぞ。 「まあ、今ここで皆で悩み合ったところで、 長年の謎が解けるわけでもないし。 気にしないのが一番だと思うよ」 「そうですわねっ……。扉の中は気になりますけど……。 頑張って考えたところで答えには辿り着けそうに ありませんわね」 「それに、こういうのって実際は大した事のないもの だったりするじゃないですか。だから、謎は謎のまま にしておいた方が楽しい事なのかもしれません」 「はぁ……さすが夜々萌さんだぜ……。 大人の余裕……いい事言う……」 「私は……卒業までにこの扉の奥へ足を踏み入れたい ものだわ。私立てないけど」 「こだわるなぁ」 「こういうの、好きなのよ。謎、隠し事、疑問、矛盾……。 足が不自由な分、頭を働かせたいものなのよ」 「それでは志依さん。真相がわかりましたら 是非教えてくださいっ」 「ええ、もちろん。焼死体、朽ち果てた白骨、 幽霊の授業風景、悪意に満ちた抜き打ちテストの束、 校長先生の禁断の蜜月……全て写真に収めてみせるわ」 「も、もうっ、志依さんったらっ!」 「……ちなみに志依は、この中は どうなってると思ってるんだ?」 「そうね…………」 「期招来君……あなたに害をもたらす 悪の秘密結社のアジトってとこかしら……。 くっくっくっ……ひっひっひ~~~っ…………♪」 実に志依らしい答えだな―― 校庭には、朝練に励む運動部員の姿が。 きっと体育館も同じだろう。 「ん……?」 顔を隠すほどの荷物箱を抱えてふらふらと歩く羽瀬を見かけた。 「羽瀬、何やってんだ?」 「お、おお、那由太か……悪い、これ半分持ってくれ……」 「ん」 「ふぅ……前方の視界が明るい……」 「なんなんだよ、この荷物」 「こんなところにいるという事は……那由太も体育館か?」 「あ、ああ……別に用事は無いけどなんとなく……。 “も”って事は羽瀬もか?」 「ああ。昇降口で四十九とすれ違ってな。 体育倉庫からの荷物運びを命じられた」 「なるほど」 「部員達の洗濯済みユニフォームだそうだ。 はぁ……はぁ……これがまた、なかなかに重たい」 「そうかぁ……?」 これくらい大した事無いと思うが。 「力仕事は管轄外なんだよ。今年一番の重労働だ」 いかに不摂生な生活をしているかがわかる言葉だ。 「とにかく、早く体育館に行って筮にこれ届けようぜ」 「はぁ……はぁ……なあ那由太……」 「なんだ?」 「一緒にこれ着て街を駆け巡ろうぜ」 「勘弁してくれ」 「残念だよなぁ……洗濯済み。クリーニングにも 打ち勝つ頑固な汗染み、残ってないかなぁ……」 「勘弁してくれ」 「全裸になってさ、直に女子のユニフォームを着るわけよ。 洗ったとはいえ使用済みである事は変わらん」 「包まれるよなあ……! 全身が幸福に包まれちゃうよなあ……!」 「勘弁してくれって」 筮、頼む相手を間違えてるぞ。 非力だし変態だし、何一つ相応しくないぞ。 「ぜえっ、ぜえっ……な、長旅だった…………!!」 「羽瀬、お前ホント体力無いよなぁ……」 「はぁ……はぁ……ず、頭脳労働担当キャラには 褒め言葉だな……くくく、ぜえぜえ……」 今朝の体育館は―― 絶賛朝練中だ。 そこには当然、筮の姿もある。 「おーい、筮ー」 「あ、那由太じゃん。あんたも来たの?」 「ああ。羽瀬の手伝いで。はい、これ」 「はぁ……はぁ……。 ほれ、これでミッションコンプリートだ……」 「どうもー」 「そ、そんな軽々と!」 「あのねぇ……別に重くないでしょこれくらい。 ただユニフォームが入ってるだけなのよ? 布よ布!?」 「ふう……朝から過酷な試練だった……。 那由太、酸素ボンベ持ってるか?」 「あるわけないだろ」 そこまでかよ。 「まったくもぉー……羽瀬、あんたもっと 運動しなさいって! こーのもやしっ子っ!」 「い、痛い……」 「筮、今朝も朝練か。大変だな」 「そんな事無いって。好きでやってる事だから」 それにしたって毎朝の日課で、走り回ったり飛び回ったりするのは立派だと思う。 「那由太はどっか部活に入ったりしないの?」 「筮を見てるとそんな気無くすな。 朝練に昼練に放課後練……身体が参っちまいそうだ」 「練習楽しいよ? 朝早く起きるのは大変だけど…… こうしてバスケが朝から出来るって考えたら、 寝起きもよくなるってもんさ!」 確かにバスケをしている筮の顔は生き生きしている。本当に運動する事を楽しんでいるんだろうな。 筮は女子バスケ部のエースらしい。 それくらいの実力があるからこそ競技を楽しめるのだろうし、それゆえ練習を苦に思わず継続出来る。 その結果、さらに技術が上昇しもっと競技が楽しく感じる。よくあるスポーツエリートスパイラルだ。 「羽瀬は? あんた背高いんだし、 バスケやればいいじゃん」 「黙れ脳筋。健康に生きる俺に、道を踏み外させる気か」 「誰が脳筋じゃっ!!」 「頭ぶったっ……! こいつ……人類の至宝が 詰まったこの頭を……!」 「ポルノライターを有難がる人類があってたまるか!!」 「……ふん。わかってないな」 「……何さ」 「四十九。よく覚えておけ。運動は身体に悪い」 「はあ?」 「人間はそもそも運動するように出来ていない。 走ったら呼吸を乱し、鍛えれば筋肉が悲鳴を 上げるのがなによりの証拠だ」 「それはやり過ぎってだけの話でしょ。 適度な運動はむしろ気持ちいいわよ」 「ん? 俺は今セックスの話を しているつもりはないのだが……」 「あたしもそんな話してないっつーの!」 人類の至宝(仮)を構築する脳細胞が少女の乱暴なツッコミによって消失していく……。 「そもそも怪我や疲労のリスクを背負ってまで身体能力を 向上させて何になる? 初めから運動を回避する事に 専念していればいいだけの話だ」 「あーもう、屁理屈。那由太、なんか言ってあげてよ」 「なんか言って納得するような素直な男じゃないよ、 こいつは」 「ポルノをなめるなよ、四十九。人類の原点は性にある。 性を司り、性を究めるポルノライターこそ人類の祖に 他ならない」 「話変わってるし!」 「さあ、崇めよ! 我を崇めよ! エロを崇めよ! エロエロエッサイム、エロエロエッサイム!」 「煩悩塗れの至宝なんてあたしがぶっ壊してやる! このっ、このっ、このっ!」 「ひーん!」 筮に一方的に叩かれ続ける羽瀬。 生きていくにあたって最低限の身体能力(主に回避能力)が必要である事を、皮肉にも身をもって証明してしまった。 「ところで筮、お前今ユニフォームだよな? 見た感じ 他の部員もユニフォーム着てるみたいだけど……」 「ああ、今着てるのは練習用のユニフォーム。 運んでもらったのは試合用だよ。同じユニ2着持ってて、 練習用と試合用に使い分けてんの」 「へー、わざわざ練習のためのユニフォームがあるのか」 「やっぱ、ジャージとかとは動きやすさが違うからね」 「試合用を体育館に運んだって事は……」 「近いうちに対外試合があるんだ。だからそのため」 「そうか、頑張れよ」 「試合が近くなると練習量も増やさないといけないからね。 うん、頑張るよ」 「――だってよ、羽瀬。これ以上邪魔しちゃ悪いし、 そろそろ行こうぜ」 「――はっ! えっと……どういう状況だ?」 「もう行くんだよ」 「ああ、そうだな」 「じゃね、二人とも。また教室で」 「おう」 「四十九。お前の試合用ユニフォーム、俺に貸してくれ」 「なんでよ」 「俺の汗をたっぷり染み込ませておきたいんだ」 「さっさと出てけ!」 「そしてお前の汗がたっぷり染み込んだその練習用 ユニフォームと交換だ。汗の交換だ。エールの交換だ。 青春だろ?」 「那由太ぁ~~っ!」 「はいはい……」 暴走するマッドジーニアスを無理矢理引っ張りながら(とはいえ虚弱なほどに無抵抗だったが)、俺達は体育館を後にした―― 校舎裏へやって来た。 通常、訪れる意味合いの無い場所。 ここに来る理由はただ一つ。 なんかそれっぽいイベントが起こりそうだからだ。 で、散歩がてら来てみると―― 「――では、やってみてください」 「う、うん……こほん」 「お、お帰りなさいませぇ、ご主人様~」 「ふふっ、なかなかいい感じですっ♪」 「え、へへ……そうかなぁ……へへぇ」 ほら見ろ。どう考えてもオモシロ展開しか視えてこないナイスな組み合わせの二人が、これまた珍妙な練習をして俺の興味を惹きまくってくれている。 「何やってんだ?」 「げげ~っ、期招来っ!」 「あ、期招来さん。おはようございます」 軽やかに挨拶するフーカと、ばつの悪そうな顔をする霍。 「霍、メイドにでもなるのか?」 「ち、違うし!」 「あ……でも霍さん、メイド服とか似合いそうですね」 「無理だよぅ……!  あたし萌えとかそういうのよくわかんないし」 「じゃあなんでメイドごっこなんかしてるんだ?」 「メイドごっこじゃなくて……フーカにね、 メイドのやり方教えてもらってんの」 「は?」 「んと……こう、悪い人間になるためには、 まずいい人間ってどういう事かきちんと 知る必要があるのかなって思ってさ……」 「ほうほう」 「あたしが立派な不良になるために、まずはその真逆を 考えてみようと思って。敵を知るにはまず味方から っていうし」 その言葉の使い方、物凄く間違ってると思うぞ。 「で……フーカに相談した、と」 「フーカって優等生じゃん? 丁寧で、謙虚で、気遣い出来て……」 「あ、ありがとうございます……。 ワタシ、霍さんにそんな風に思われてたんですね……」 俺としても驚きだ。霍のヤツ、意外とちゃんと他者を正当に評価出来てるんだな。 「つまり霍は、フーカから人間性を教わる事で その真逆の不良の極意を得ようとしてるんだな?」 「そういう事」 「人間性なんて大それたことを教えられる立場じゃ ありませんけど……せめてメイドの作法くらいは と思い、こうしてレクチャーしているところです」 なるほど。霍にとって自分が目指す人物像とは真逆を勉強しているわけか。 確かにあんまり人に見られたくないだろな。こんな人気のない場所でやってるのも頷ける。 「ねえねえフーカぁ。続き教えて」 「はい。ご挨拶の際は、このようにスカートの裾を 摘みまして……片足を後ろに下げるのです」 「そして軸足の膝をそのまま軽く曲げてお辞儀をします。 これをカーテシーというんです」 「なんかそれ漫画とかで見た事あるかも。上品だよね」 「では、やってみてください」 「ん。えっと……スカートの端っこ摘まんで……。 片足を斜め後ろに持ってって……」 「お、お帰り、なさい、ませぇ……ご主人、様ぁ~……!」 「片足立ちする必要はありませんよ。 後ろに引いてつま先を地面に添える程度です」 「そ、そっかっ」 「そして、お辞儀の際は背筋を曲げないように してください。上半身は伸ばしたままです」 「んー……難しいなぁ」 「んと……つま先はちょこんとして…… 背筋曲げないで、んっ……よ……」 「お帰りなさいませ……ご主人様ぁ~……」 「ふふっ、完璧ですっ♪」 「ホント!? わーいっ、ねえ期招来、見てた!? あたし完璧だってー!」 「いや、これ何の意味があるんだよ」 喜んでいるところに思わず水を差したくなるくらい、本来の目的とずれている気が……。 「このように、ご主人様に対しての敬意や敬服の気持ちを 忘れてはいけません。常日頃ご主人様を尊重する気持ち を持つ事で、メイドの心構えは完成するのです」 「誰かをお慕いし敬うという事は、それだけ他人に優しく なれるという事でもあるのです。敬意をもって接する べきは、何もご主人様だけじゃないのですよ」 「全ての人間……とまではいかなくとも、自分の身近な 方々に、常に尊敬の念を抱くようにしましょう。 その穏やかな心がメイドの作法を育んでくれます」 「うっす、師匠!」 単純明快な霍は、もうすっかりフーカの言葉を呑み込んだようだ。洗脳されたともいう。 「ワタシが人間性を語るのはおこがましいですが…… 善き人間というのは、誰にでも優しく出来るような 御方の事だと思いますよ」 「そっか……誰にでも優しく……か」 「はいっ。その点、霍さんは優しくて穏やかで可愛らしい 方ですので、まさしく善き人間だと思います♪」 「へ? ふ、ふひひ、そうかなぁ……照れるなぁ……」 「――って、それじゃあダメなんだよぅ!! あたし悪い子になりたいのっ、良い子じゃダメなのぅ!」 「ふふふっ、にわかわぁ……♪」 霍って誰の手の上でも踊れるよな。一種の才能だと思う。 「と、とにかく、不良になるためには……。 さっきの逆の事すればいいんだから……」 「人に優しくない人間になればいいのか……ふむふむ」 一人で納得してる霍を差し置いて。 「フーカ、お前まだご主人様いないんだよな?」 弟子を生温かい瞳で眺める師匠に声をかけた。 「霍のメイドになるってのはどうだ?」 「霍さんがワタシのご主人様……ですか?」 「あたしいっ!?」 「なかなか面倒見る甲斐がありそうだぞ?」 「霍さんですかぁ……ふふっ、可愛らしいご主人様です♪」 「わっ……ふひっ!?」 子供をあやすように霍の頭を撫でるフーカ。 「ふふ……ふふっ、にわかわぁ……にわかわぁ……♪」 「あひ……ふ……ふひぃ……っっ」 フーカの母性に霍も抵抗を示すことが出来ない。 「霍さんはとっても素敵な方ですけど…… こんな可愛いご主人様と一緒にいたら、 ワタシ、駄メイドになっちゃいそうです」 「確かに。霍のふにゃふにゃした感じは、 他人を堕落させる秘薬だもんな」 「なんだとーぅ!」 「ほら霍。フーカに特訓付き合って もらったんだから、お礼」 「あ、うん。そっか、そうだね……」 「えっと……一本吸う?」 「まあ! いいんですか?」 「期招来も。ん」 「お、サンキュー」 差し出された箱から一本いただいた。 包み紙を取って口元へ運ぶ。 「ぽりぽり……」 「ぽりぽり♪」 「ぽりぽり」 三人で校舎裏でタバコを美味しくいただいたのだった。 「美味しいですっ♪ ありがとうございます、霍さんっ」 「う、ん……どういたしまして……ふへぇ~……」 この少女が他人に優しくない人間になるための道のりはまだまだ先が長そうだ。 教室に入る前に、なんとなく音楽室にやって来た。 三人娘はいるだろうか―― 「あー、期招来君だー」 いたいた。相変わらずのんびりとした空気感だ。 「遊びに来たのー?」 「そんなとこ」 「全く……部外者が気安く訪ねてこないでよね。 一応練習中なんだけど」 「練習? そうは見えないけど」 「ぐっ……」 「朝練という名のお喋りだよね」 「私は練習したいんだけどね」 と言いつつも晦とまころのノリを受け入れているあたり、小鳥もまんざらではないのかもしれない。 「何の話してたんだ?」 「えっとねー、皆の名前の話ー」 「名前?」 「うちのクラス、珍しい名前の人多いなって」 本当に合唱とは無関係のお喋りしてるんだな……! 「やっぱその中でもことちーの名前が一番話題性あるよね。 高梨子小鳥って、ものすごく惜しいんだもん」 「惜しいって、何が?」 「だってさ、“タカナシ”って名字。 普通は小鳥が遊ぶって書くじゃん」 「ああ、普通かどうかわからないけど、 “小鳥遊”で“タカナシ”って読むな」 「もし小鳥が遊ぶ方の“小鳥遊”が名字だったらさ、 “小鳥遊小鳥”で小鳥塗れだったのにー!」 お、ホントだ。 「何よ小鳥塗れって!」 「惜しいよねぇ……」 「あのねえ……アニメやラノベじゃないんだから そんな難しい漢字の名字なわけないでしょ」 「エロゲーは?」 「エロゲーなら……まあ、アリなのかもしれないけど……」 「でも小鳥って名前可愛いよねー。何か理由あるのー?」 「んっと……空から落ちてくる私の事を小鳥と見間違えた からとか……確かそんな理由だったような……」 なんじゃそりゃ。 「珍しいと言えば、まこの名字も珍しいわよね」 「うん、よく“このは”って読み間違われるよ」 「“きのは”なんだよねー」 「まころって名前はどういう由来なんだ?」 「真心を持ってもらえるようにって、お母さんが」 「いいねー、素敵だねー」 「みそは? 誕生日が大晦日だから?」 「お味噌が好きだからだよー」 絶対嘘だ。 「ところで三人は、毎朝こうして集まってるのか?」 「んー……まあ、毎朝ってわけじゃないけど」 「でもね、早く登校した時とかは、今朝みたいに 音楽室に行くの。そしたら大体誰かしらいて……」 「なるほど。特に時間を決めてなくても なんとなく集まっちゃうんだな」 本当に仲の良い三人だ。 「せっかく集まってるんだから練習したいんだけど……。 まあ、いつものごとくこんな感じでお喋りしちゃって グダグダ……」 「あはは…………」 「それもこれもあんたのせいよおみそ。あんたが 話し好きだから、結局歌わないでお喋りばっか……」 「……そう言えば、みそちっていつも音楽室にいるよね。 私が向かう時には、先にいるにしろ後から来るにしろ、 大体会ってるような……」 「晦がいないと色々大変だからねー……」 「……?」 「そんなこんなで期招来君。朝暇だったら音楽室に 遊びにおいでー。いつでも歓迎だよー」 「ちょっとおみそ! これ以上練習の 邪魔になるような事しないで!」 「ふふ……でもたまにはいいかもねっ」 「まこ……あんたねぇ……」 「まあ、邪魔にならない程度に考えておくよ」 「むしろ入部してくれたら嬉しいんだけどなー……。 考えてくれてるー?」 「え? あ、ああ……前にそう言われたっけ?」 合唱部の誘い……。 確か、以前言われたような……言われなかったような……。 「まあ……それも考えておくよ」 「女子ばっかりだから入り辛いかもしれないけど……。 男子パートも募集中だから、もし興味があったら 遠慮なく言ってね」 「…………ふん」 「わかった。それじゃあ俺はこれで」 これ以上長居したら本当に部員扱いされかねないので、さっさと退散する事にした―― 「ふー……遅くなっちゃったな」 先生に用事を頼まれて、気付けばこんな時間になってしまった。 ウチのクラスの担任……美人教師だからな。頼み事は断れない。 「さて、早く帰ろうっと」 カバンを取りに、教室に戻ると―― 「あ――」 椅子に座りながら、放課後の夕焼けに照らされた少女が一人。 「つつじ子……何してるんだ?」 「えっと……お勉強」 勉強……? 確かに、教科書とノートの開かれた机に向かっているようだが……。 「勉強なら寮に戻ってやればいいだろ。 なんで教室で一人残って……」 「そうなんだけどね……自分の部屋だと、どうしても怠け ちゃったりするし……EdEnだと、もしわからない ところがあったら先生にすぐに聞きに行けるでしょ?」 「ま、まあそうかもしれないけど」 それで、この時間まで一人で自習してたのか。 「何ていうか……随分熱心だな。あれ? もしかしてなんかテストとかあるんだっけ?」 「そういうわけじゃないよ。単純に、 お勉強頑張ってるだけなんだ」 「そ、そっか……。でもだったら図書室の方が――」 あれ……? 図書室……? EDENにそんなもの、あっただろうか――? 「……つつじ子は、なんでそんなに勉強頑張ってるんだ?」 「ん……。まあ、特に具体的な理由はないんだけど……」 「しいて言えば、立派な人間になるため……かな?」 「立派な人間……」 とても漠然としている。 そりゃあ誰しもそんな人間になれたらいいなと考えるだろうけど……。 実際口に出す事が出来るヤツなんて世の中にどれだけいるだろうか。 「ほら、私ってドジなとこあるでしょ? この身体だから、 色んな人に迷惑かけちゃったりもするし……」 「だから、出来る範囲で、やれるだけの事はやろうって 思ってて……」 目標を語るには―― 随分と寂しそうな瞳じゃないか―― 「何か……あったのか?」 「………………」 「ここに、来たのはさ――」 “ここ”―― EDEN? 天使島? それとも―― 「実家から、追い出されちゃったんだ。それで……ね」 「……………………」 「腕の事もあると思う。きっと……お父さんもお母さんも、 不自由な私の事を負担に感じてたと思うんだ……」 「でもね。それだけじゃなくって……」 「病気がね……ちょっと……」 「……………………」 こちらから聞き出す話題ではなかったので、静かにつつじ子が紡ぐ言葉を待った。 しかし、少し待っても吐露は続かなかった。静謐な沈黙が、今の彼女の感情を物語っていた。 「……一緒に帰ろうか」 「うん。そうするー」 もう勉強にも身が入らないだろうし。それに時間も頃合いだ。 つつじ子の語りは、またの機会に―― 「さっきつつじ子が勉強してるところを見て、 ふと気付いたんだけどさ――」 「んー?」 「左利きなんだな」 「うん。右手ないからね」 「あ、いや、そういうつもりじゃ……」 「いいよ別に。生まれた時からこうだから、 今更気にしたりしないし」 「利き腕もなにも、一本しかないから…… 小っちゃい時から何をするにも左腕だったんだ」 「物心ついた時には、左手で読み書き出来るように なってたよ。慣れって不思議だねぇ」 その左手をかざして、プラプラと振り回す。彼女の通学カバンは今、俺の手の中だ。 「俺も左利きなんだ。つつじ子と一緒だな」 「え、そうなの? でもそれ……」 俺の左手首の腕時計を指差すつつじ子。 思いもよらぬところを見ていてくれたようで、恥ずかしいながらもなんだか少し嬉しい。 「腕時計って普通利き腕と逆の腕に巻くよね……? 左利きなのに左腕にしてるんだ……?」 「ああ。まあな」 理由は―― ――あれ? どうしてだっけ? 「いつもしてるよね、それ。大切なもの?」 「まあ……貰い物なんだ。昔……」 「へぇ……。いいな、腕時計って……ちょっと憧れる」 「つつじ子もすればいいじゃないか」 「利き腕に巻くと書きものの時とかに邪魔でしょ? 利き腕って何かと動かすから……どこかに引っ掛け ちゃったりするのも怖いし……期招来君、よく平気だね」 「そうだな。別に不自由に感じた事は無いけど」 この腕時計を邪魔だなんて思った事は、今までに一度もない。 それだけ、この腕時計は―― 「私は……片腕しかないから、自分で腕時計を 巻く事すら出来ないよ。だから……憧れ」 「………………」 腕の事、つつじ子は平然と口にするけど。 こちらはそれに乗っかっていいかどうかわかりかねるんだよな。気を遣う話題である事は間違いないわけだし。 「義手……とか」 「肩凝りそうだよー!」 「でもさ、高性能なヤツとかならアリじゃないか。 時刻表示はもちろん、体温とか室温とか、ボタン一つで 確認出来て……指からビームも出ちゃったりしてさ」 「ふふっ、期招来君は男の子だねぇ……」 良かった。失礼に当たらなかったようだ。 「予算次第だよ。期招来君、少し負担してくれる?」 「もちろん。3000円くらいでいいか?」 「ふふふっ、大助かりだぁ」 「一枚噛む立場として言わせてもらうと、 ロケットパンチの機能は必須で頼むぞ」 「任せといて! ふふふふっ」 「ふー……」 寝る支度を終えたところで、ふと考える。 「…………病気、か」 どんなものかわからないけど。 気遣う事が、一つ増えた。 「……………………」 いや、違うな。 優しくしてあげる理由が、一つ増えた。 俺が出来る事なんて僅かだと思うけど。 少しでも彼女の支えになれたらいいなと、そう思えた。 下校した時の他愛のないあの笑顔を思い出しながら、静かにそう願った―― とある休日―― 適当に買い物を終え、海の見える景色をぶらぶらと歩いていると―― 「だーれだ?」 いきなり暗闇に襲われた。 「え…………!?」 だーれだ……? 「え、えっと…………」 声からして女の人のようだ。 聞き覚えはあるけど……すぐに思い当たらない。 落ち着いた声色。両目を塞ぐ二本のヒンヤリした細い手。 そして、街中でいきなり“だーれだ?”を仕掛けてくるくらいフランクな性格。 彼女の正体は―― 「――わからん!」 「正解は……」 「――私でした」 「………………」 ……はい? 「驚いた?」 「……まあ。多少は」 「あなたならわかってくれると思ったのに。残念……」 「予想外過ぎて、考えもしなかった」 「悲しませてくれるわね。添えた指の爪を立てて、 目玉くり抜いてやればよかった」 登場して早々、物騒な事を口にする屍。 「失うなら、右目と左目どちらがいい?」 「いや……なんというか、結構馴れ馴れしいんだな」 「どういう事?」 「もっとこう、根暗な性格かと思ってた」 「失礼ね。私あなたの事大好きなのよ? 好きな人にちょっかい出す事がそんなにおかしい?」 ニヤリと不気味に笑って、相変わらず俺の反応を試している。 そのせいで、好きとか言われても全然嬉しくない。俺を弄ぶための言葉遊びにしか聞こえないからだ。 「恋する乙女心をもっと理解して欲しいわ」 「……昼に会うのは初めてか?」 いつも夕方や夜に会ってる気がする。 この前こいつに会ったのは……いつだったっけ? 思い出せないな……。というか俺、屍とどういう知り合いなんだっけ? 「私、吸血鬼だから。基本太陽の光は苦手なの」 「冗談に聞こえないんだが……」 相手の言動を見透かした上で会話をするそのやり方は、志依のそれによく似ている。 しかし、志依はその手段で会話を楽しんでいるのに対し、彼女からは全く目的が見出せない。 空虚で人間味が無い。その点で志依と異なっている。 「ここにはよく来るのか?」 「あなたに会いに来たのよ」 「……俺に?」 「会いたくなったらすぐにあなたのところへ会いに行く って宣言したはずだけど。忘れちゃったのかしら?」 そんな事、言われたような言われてないような。 「屍、お前普段どこに住んでるんだ?」 「どうしてそういう事を聞くの?」 「あ、いや……確かに女の子相手にいきなりこんな事 聞くのは不躾だったかもしれないけど……」 「なんかいつも、いきなり現れて、いきなり消えて。 幽霊みたいだなって思って」 「失礼しちゃうわね。 幽霊なんてこの世にいるわけないじゃない」 「まあ……そうかもしれないけど」 吸血鬼が幽霊を否定するのもおかしな話だと思うが。 「あなた達と一緒よ」 「一緒……」 的を射ないが、楽園欒を指しているのだろうか。 確かに彼女はEDENの制服を着ているし。以前一度、校舎で見かけたような気もする。 全寮制であるEDENの生徒なのだとしたら彼女の住まいは楽園欒のはずだ。 見た事無いけどな。楽園欒で屍の姿を。 「人を根暗だとか、幽霊だとか、吸血鬼だとか……」 「吸血鬼は自分で言ったんだろ」 「でも、私の事女の子扱いしてくれたから。 ちょっとだけご褒美をあげる」 「え……?」 女の子扱い……ああ、さっき住まいを聞いた時、咄嗟に気を遣ってそんな事言ったっけ。 「今あなたに想いを寄せている人……。彼女について」 「な、なんだよいきなり!」 「あの子もまあ……私はオススメしないのだけれど」 「っていうか、あの子って誰だ? 俺、今別に誰からも好かれてないと思うんだけど」 「あの子と結ばれたところで、“行きたい場所”に 行けるとは限らないわよ」 「だから何の話を――」 「それともう一つ。あなた、何か忘れている事は無い?」 「は……はあ? 忘れてる事って……」 「忘れてしまった事を無理に思い出す必要は無いの。 あなたは別に、“何も”してないのだから」 「“何か”をしたのは……あなたではない、別のあなた」 「別の俺……? わけがわかんないって――」 「素敵な時計ね。今何時かしら」 突然、屍の視線が俺の左腕に移った。 大切な腕時計を屍の気紛れの話題の種にされたくなかった俺は、反射的に左腕を背に回して時計を隠した。 「……………………」 それが気に食わなかったのだろうか。屍は少しだけ悲しい顔を浮かべていた。 「……本当に、あなたは止まったままなのね。 そんな事誰も望んでいないっていうのに」 「……今度は何の話だよ」 「今日は彼女と一緒じゃないのね。 彼女はバイトかしら?」 「はぁ?」 どうしていつもこう、こいつの話題は唐突なんだ? 「彼女ってのが誰の事かわからないけど…… 俺の身の回りでバイトしてる女子なんていない」 「……そう」 「そもそもEDENはバイト禁止で、 それはちゃんと校則で――」 「うん。いい兆候だわ」 「……?」 「素晴らしい記憶力」 なんだよ。こいつは俺の何を確かめてるんだよ。 「屍……お前さっきから何が言いたいんだ?」 「失った記憶を取り戻してはいけない。 あなたにそれは重過ぎる」 「その記憶は、罪人のためのもの。あなたは無実だわ。 それは……私が保証する」 「記憶とか……罪とか……全く意味がわかんないんだけど」 「海が好きだから。ごめんね」 「は――」 「――那由太?」 「何やってるのよ、ボーっとして」 「………………」 「いや、ごめん。なんでもない」 「早くしないと映画始まっちゃうよー」 「ああ、今行く」 確かに―― 最近、記憶があやふやだ―― 今夜も星空が美しい。 この島は自然に満ちている。 空と地を遮る人工のしがらみは何一つない。星の光をダイレクトに味わう事が出来る。 「ふぅ……」 眠る前に、なんとなく夜風を感じてみた。 「ん……?」 自室に戻る途中―― 「あ……期招来君」 つつじ子と遭遇した。 「これからおでかけか? もう門限過ぎてるぞ?」 「いや、えっとね……誰かいないかな、って」 誰かって……。 「入り口にはもう誰もいなかったよ。さすがにもう遅いし」 「そっか……困ったな」 「……? どうかしたのか?」 「実は……部屋のドアの調子が悪いみたいで……」 「鍵が閉まらなくなっちゃったの。 それで……誰かに助けを求めてるんだけど、 皆もう眠っちゃってるみたいで……」 なるほど。それで入口に来てみたわけか。ここなら俺みたいにまだ起きてる誰かがいるかもしれないからな。 「期招来君……悪いんだけど、 ちょっと確認してもらっていいかな?」 「俺が? まあ……別に構わないけど」 「ほんと? ありがとう、助かるよぉ」 「でも、いいのか? 夜中に女子の部屋に行って……」 「今は緊急事態だから、問題なし!」 だそうだ。 「寝ようと思って施錠を確認したら、 壊れてる事に気付いたんだ」 「明日の朝でもよかったんだけど……。鍵かけないまま 眠るのもなんだかちょっと気持ちが悪くて。 ごめんね、夜遅くに」 「いや、大丈夫だよ」 「――ここが私の部屋だよ」 夜の女子区画という事で、周囲に気を配りながらつつじ子の部屋の前までやってきた。 「鍵……中で見せてもらってもいいか?」 「うん。どうぞ」 「それじゃあ……お邪魔します」 そのつもりで来たとはいえ、女子の部屋に入るのは緊張するな―― 「おお……!」 ここが女子部屋か。 当たり前だが、間取りは男子のものとさほど変わらないんだな。 「あ、あんま見ないで……」 「ああ、ごめんごめん。でも綺麗な部屋じゃん。 かなり片付いてる」 「誰かに鍵の修理を頼むつもりだったから。 事前に整理整頓したんだよ」 「そうなのか」 それにしても、やっぱところどころ女子らしい感じがするな。 カーテンや小物など。男子の部屋にあるものとは色や形などが異なって、新鮮だ。 「……女子部屋に入るのは初めて?」 「そりゃあな」 「そっか……なんかごめんね。初めてが私で」 「い、いや、そんな事無いよ」 「しかも理由が鍵の修理って……」 「そうだった。で、問題の鍵は……?」 「それなんだけど……」 部屋の扉に改めて向かい直って、鍵の様子を確認する。 「鍵が上手くかからなくって……。 止め具が少しずれちゃってるみたい」 「ああ、本当だ」 「多分、一方を押さえたまま端っこを力任せに 引っ張れば、歪みが元に戻ると思うんだけど。 私、この身体だからどうしても……」 「気にするな。ちょっと待ってろ」 消耗した金属部分の歪みを少しずつ曲げていく。 両手が使える男子の力をもってすれば、その修理はあっという間に完了した。 「ん、出来たよ」 「あ、すごーい! もう直った!」 「やっぱ男の子の力ってすごいんだね! 期招来君、ありがとう!」 これしきの事で羨望を浴びる事が出来るとは。いい気分だな。 「それじゃあ、俺はこれで」 「あ、待って!」 「ん?」 「えっと……お、お茶でも飲んでく?」 「え……」 「お礼もしないで帰すのはなんだか悪いし……」 「よ、夜遅いから、あんまり長居させるのも悪いとは 思ってるんだけど……あ、もう歯磨いちゃった?」 「いや、まだ……」 「じゃあ……ね?」 「――ずずず……」 「ど、どう……?」 「うん、美味しいよ」 「そっか……良かったぁ」 「さすがつつじ子だ」 「ただのインスタントのココアだけどね」 差し出されたマグカップには、ネコのイラストが描かれている。 いかにも、女子!って感じだ。 「なんか……不思議な感じだな。 自分の部屋に男の子がいる」 「俺も不思議な気分だよ。女子の部屋にいるなんて」 「うん。しかもその男子が期招来君だなんて。 変な感じ。まあ私が呼んだんだけどね……」 「あ、変っていうのは悪い意味じゃなくって……! こんなの初めてだから、人を部屋にいれるなんて珍しく って、だからすごく意識しちゃうっていうか……!」 「意識……?」 「あ…………うぅ…………」 つつじ子が赤面すると……。 つられて俺も恥ずかしくなってしまう。 「あのさ、ずっと気になってたんだけど……」 「んー?」 「それ」 部屋に入った時から目に付いているものを指差した。 「十字架?」 「ああ……うん。島の商店街に骨董品屋さんがあって…… そこでたまたま見つけたんだ。結構高かったんだよ?」 「何か意味でもあるのか?」 「私の実家、実は敬虔な宗教一家でね。 毎日十字架にお祈りするんだ」 「へえ……」 「そういう家に生まれたから、両親程じゃないけど、 私も一応は神様の教えを信じてて……」 「そっか、それで十字架をお店で見つけて……」 「今まで日課だったお祈りを再開させるために買ったんだ」 知らなかった。つつじ子にそんな一面があったなんて。 昔……まだ私が小っちゃかった頃―― 両親が旅行で家を空ける時があったんだ。私はお留守番。面倒はおばあちゃんが見てくれた。 それで、おばあちゃんにお願いしたの。家の近くの裏山に連れてって……って。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」 私は、おばあちゃんの目を盗んで―― 「えへ、えへへへへぇ……」 「探検だー!」 両親から危険だと言われて止められていた裏山の探検を開始した。 ずっとやってみたかったわくわくする冒険。 非日常の詰まった大自然の世界を、存分に味わってみたかった。 「行った事のない道に行ってみよー!」 子供だから、自然の危険をわかってなくって。 「ふふ……楽しみだねー?」 今日も“彼女”に話しかける。 一人っ子だった私は、寂しさを紛らわすためにいつもお人形と一緒だった。 私が生まれた時にお母さんが買ってくれたお人形。大切な大切な、私のパートナー。 そんな親友を抱えながら、山の奥を歩いた。 「なんか……暗いね」 不安を彼女に打ち明ける。 いつの間にか周囲は薄暗くなっていた。 「うう……来た道……わかんなくなっちゃった……」 お腹も減って、喉も乾いて。 温もりの無い山の空気が怖くって……。 「おうち……帰りたいよ……! ママぁ……パパぁ……」 「お、おばあちゃあああああんんんんっっ!!」 「うわああああああああああああんんんんんんっっ!!!」 私は恐怖と孤独で泣き喚いた。 それでもじっとしてられなくて。 「おばあちゃんどこぉ~~~~~~~~っ!? うえええぇ~~~~~~んんんんっ…………!!」 あてもなく歩いて。 その時だった。 「――わ」 「え…………」 ゆっくりと景色が反転していったのを、今でもよく覚えている。 「わっ、ひゃ…………あああああああああああっっ!!?」 足を踏み外して、崖から落ちちゃったの。 目を醒ましたら、そこは病院のベッドだった。 身体中が痛かったけど……なんとか生きていた。お人形を下敷きにしたおかげだったみたい。 両親からは物凄く怒られた。 その時、自分の病気も発覚してね。 「……………………」 「お人形、ダメになっちゃった……」 生まれた時から大切にしていた相棒を失った事が、悲しかったな……。 「それから退院して、家に戻って……。 でも、私の家に居場所はなかった」 「そうだよね。両親やおばあちゃんに迷惑かけて……。 病気まで抱えちゃって……」 「学校と病院を行き来する生活の中で、 私は次第に親の目に息苦しさを感じ始めて……」 「それで、“ここ”に来た。逃げるように家を出たの」 「……………………」 悲しげに過去を語るつつじ子の瞳は、どこか優しく、そしてどこか濁っていた。 「病気って……」 「心の病気だよ。崖から落ちた時のショックで……」 「それはまだ治ってないけど……。 でも、今の私に必要な事は治療じゃなくて、 失った家族の信頼を取り戻す事」 「そのためには……良い子にならないといけないんだ。 立派な人間にならないといけないんだ」 だからつつじ子は、自分を律して、いつも頑張って……。 「私はそこまで宗教を重んじていなかった。 子供だったし、教義もよくわからなくって」 「でも、家を出て寮暮らしをするようになって、 お祈りの大切さを知ったんだ」 「一人じゃどうしようも出来ない事って、世の中には いっぱいある。こんな身体だから、特にね」 「そういう時、神様にすがったりする事で気持ちが 安らぐんだよ。少しだけ楽になれるの」 「期招来君みたいに健康な人には、もしかしたら あんまりピンと来ないかもしれないけど…… 私は、何かにすがるって行為にすごく救われるんだ」 「……そっか」 「私が家を出るきっかけになったのは、病気のせい…… もとを正せば、自分の無鉄砲な行動のせいなんだけどね」 「でもね、ここに来る前に十字架に誓ったんだ。 立派な人間になるって。そして、必ずまたこの家に 戻ってくるって」 「十字架を眺めると、その時の決意を 思い出す事が出来るの」 「だからふんぱつしちゃった。えへへ……」 いつもの柔らかなつつじ子の笑顔だ。包み込むような優しい表情が懐かしく心地良い。 「……苦労してきたんだな」 「誰かに話すつもりはなかった。 変に気を遣わせちゃうし……」 「でも、期招来君には話したよ。全部……包み隠さず」 「……どうして俺に?」 「なんでだろうね。自分でも驚いてるよ」 「話しやすいから……かな」 「それとも……好きだから、かな……」 「…………っ」 心臓が跳ねて、目が泳ぐ。 「な、なーんてねっ! あはははははっ」 「変なお話はこれでおしまいっ! ほら、期招来君、 もう遅いから……! えっと……そろそろ……」 「あ、ああ、うん、そうだな……」 つつじ子に促されて、慌てて立ち上がる。 「それじゃあ、ね……」 「ああ……鍵、もしまた調子が悪くなったら いつでも声かけてくれ」 「うん……また明日。おやすみ……」 「……………………」 それとも……好きだから、かな……。 その言葉の後、俺達は一度も目を合わせなかった。 床に視線を固定し、俯きながら挨拶を済ませた。 そのせいで確認出来なかったけど……。 つつじ子……俺と同じくらいに頬を赤らめていたのだろうか。 そうだと嬉しいな―― 「那由太ー、おっはよー!」 「おお、筮。おはよう。今日は朝練無いのか?」 「うん、今朝はお休み。 ねえ那由太、数学の宿題やったー?」 「ああ、まあ一応」 「ホント!? ねえ、後で見せて! お願いお願いお願いお願いお願いっ!」 「お前なぁ……」 「今度なんか奢るから! だから、ね!? この通り!!」 「…………ったく」 「よっしゃ! サンキュ那由太! あんたいいヤツ!」 「そりゃどーも……」 「って、あれ……? あー、つつじ子じゃん。 おっはー!」 「い゙っ……!?」 「あ、筮さん。おはよう――って、あ……」 「あ、あれ……? 行っちゃった……」 「……ふう」 「…………あんた達、何かあったの?」 「い、いや……別に何も」 「じーーー…………怪しい…………」 「怪しくないって!」 「ホントかなぁ……。あんた達もしかして……」 「そ、それより筮! 数学の宿題見せる代わりに、 何奢ってくれるんだよ!?」 「裏拳か飛び膝蹴りかかかと落とし」 「どれもいらねえよ!」 「――い゙っ!?」 「――ゔい゙!?」 「お、おはよう……つつじ子……」 「お、おはようっ……!!」 「………………ふう」 「やあ那由太。おはよう」 「羽瀬、おはよう」 「何かあったのか?」 「いや……なんでもない」 「気まずい相手と遭遇して慌ててやり過ごした後 みたいな顔してるけど……何かあったのか?」 「何言ってんだよっ!」 「昨夜、異性の部屋の中で伏線たっぷりの回想シーンを 打ち明けられた後にいい雰囲気になって、その事が忘れ られないみたいな顔してるけど……何かあったのか?」 「お前はもう黙ってろ!」 うーむ……。 「……ふう」 やっぱやり辛いな……。 「那由太くーんっ」 「ん?」 「これからみんなで商店街の喫茶店に行こうって 話になって」 「もしこの後ご予定がなかったら…… ご一緒にいかがでしょうか?」 「ああ、別に構わないよ」 「よーし、那由太君確保完了ー!」 「ゆっふぃん隊長、こっちは玖塚先輩を確保しました!」 「確保だなんて……もう、猶猶ちゃんってば……」 「よくやったたりたり隊員! それじゃあ5人でレッツゴーだね!」 「え……? 5人……?」 「私と、たりたりちゃんと、フーカちゃんと、つつじん。 それに那由太君だね」 「な、那由太君っ……!?」 俺がその場にいる事に気付くなり、つつじ子は―― 「ひ~~~~~んっ!!」 赤面したまま走り去ってしまった。 「あらら……どうした事でしょうか……」 「つつじん、那由太君と一緒だと 何かまずかったのかなぁ……?」 「さ、さぁ……」 「ゆっふぃん隊長!」 「んー? なんだねたりたり隊員」 「玖塚先輩の代打を発見したので、確保しました!」 「なんだよぅ……どういう事だよぅ……」 「うむ! 見事な活躍であるぞ、たりたり隊員!」 「え、なになに、何がどうなってんのー!?」 「それじゃあ皆で喫茶店に乗り込むぞー! 上陸作戦スタートだー!」 「ふふふっ、楽しみですっ♪」 「い、意味わかんないんだけど……」 「ほら、霍ちゃん。早く行きますよー!」 「え……あ、あの……霍ちゃんって…………」 「あたし……先輩…………」 ドンマイ、霍――! 「……………………」 なんとなく、星空を眺めている。 昨日と同じ事をしたら、また何かが起こるかもしれない。そんな根拠のないジンクスにすがりたかったからだ。 「…………すがる」 何かにすがるという行為に救われる。そう言っていたな。 彼女は今夜も、祈っているのだろうか―― 「――期招来君」 なるほど。 「ちょっと、頼みたい事があって……」 こうして人は救われるのか。 「鍵……また壊れちゃったみたいなんだ。 お願い、出来るかな?」 「…………」 「もちろん」 「今夜も……夜更かしさんなんだね」 「星にすがってたんだ」 「……期招来君、言ったよね? 鍵の調子がまた悪く なったら、いつでも声かけて……って」 「だから……声、かけました」 少しだけ怯えているような。 そんな気弱な声だった。 「……どれどれ」 つつじ子に背を向けて、扉の鍵部分に向き直す。 「期招来君……あのね……」 「また止め具が歪んだのかな……?」 「今日は……逃げてごめんね……」 「んー……特に問題はないようだけど……。 これホントに壊れてるのか……?」 「私……臆病だよね……ごめんね」 「ん……? 溝に何か入ってるな……」 「ずるくて……ごめんね」 鍵穴に小さな糸くずが詰まっていた。 明らかに人為的なものだ。 「……よ、っと」 取り出した糸くずが、こう訴えている。 “ごめんね”と。 先ほどから俺の背後で連呼されているその一言を、今一度この糸くずが代弁している。 「…………鍵、直ったよ」 「……さすが期招来君だね」 「………………」 「………………」 「………………」 今夜はココアは振る舞われない。 優しい甘みも、香ばしい香りも、可愛らしいマグカップも。 無言の俺達の前では不要なものだ。 「う…………うぅ…………」 「………………」 昨夜と違う事がもう一つ。 お互い、恥ずかしいのを我慢して。 無理しながら、目を合わせている。 床に逃げない。今夜は、想いを視線に乗せてぶつけ合う。 「おこ……ってる?」 「とんでもない。鍵が壊れたら相談してくれって 言ったのは俺の方だから」 「その鍵……きっとまたすぐ壊れるよ。 明日も……明後日も……」 「そしたらそのたびに俺を呼べばいいさ」 「…………ごめんね。色々。本当に、怒ってないの?」 「いや。むしろ可愛かったよ。あからさまに避けて。 まあ……少し気まずかったけど」 「失礼だったよね……ごめん」 「謝ってばっかりだ」 「嫌われたくなくて」 きっと、怖いのだろう。目が潤んでいる。表情が曇っている。 それでも視線を外さない。つつじ子は強い。 「今日もお祈りした?」 「もちろん」 「どんなお祈りしたんだ?」 「好きな人が今夜も私の部屋に来てくれますように」 「………………」 「それと……もう一つ」 「勇気を……出せますように」 まだ視線を外さない―― 「その願いは、叶ったのか?」 「ん……どうかな。確かめてみていい?」 「……ああ。どうぞ」 「うん。期招来君。私、期招来君が好きだよ」 「………………」 「付き合ってください」 結局―― つつじ子は一度も視線を外さなかった。 「……ふう。言えたぁ……お祈りの成果かな?」 「立派だった」 「私ね、立派な人間になりたいの。 そのために頑張ってるんだよ」 「知ってるよ。よく知ってる」 つつじ子がもう十分立派な人間だって事、俺は知ってるよ。 「つつじ子、俺は――」 「君のその頑張りを、もっとそばで支えたい」 「わ…………」 「……ありがとう。嬉しいなっ」 彼女の強く優しい視線に促されて―― 俺も勇気を出す事が出来た。 つつじ子を見習って、立派な人間になるための第一歩だ。 彼女に相応しい男になるために。 俺なりに頑張ろう。つつじ子の後に続こう。 「あったかいねー…………」 二人で壁にもたれながら、ぼんやりと座る。 隣り合ったつつじ子は、体重を俺に預けてくれている。 「いつの間にか……もう深夜だね……。 期招来君、眠くない……?」 「大丈夫だよ。つつじ子は?」 「全然眠くないよー……」 それにしては、まったりとした声だ。 「ねえ……あのね……」 「……ん?」 「このまま……さ」 「……しよっか?」 「つつじ子……」 「えへへ……勇気出し過ぎちゃったかな?」 「……いや、そんな事無いよ」 俺も、恋人として。 つつじ子の全てが知りたい。 今まで知らないようにしていた事も、全部。 「うん、しよう」 彼女が抱えている負担を、しっかりと理解するんだ―― 初めて見る彼女の乳房や性器よりも。 まず、そっちに目がいってしまう。 「そう、なってるんだな」 「あ……う、うん。そうなんだ……。 ごめんね、気持ち悪いよね……」 「す、すまん、そんなつもりじゃ――!」 「こんな身体じゃ男の人もげんなりしちゃうかな……。 せっかくいいムードなのに、私のせいで……」 「この腕に生まれて恨んだ事は無いし、そう思わない ように生きてきたけど……今、初めてこの腕じゃ 無きゃよかったって思えるかも」 「つつじ子!」 彼女にネガティブな言葉は似合わない。 穏やかな見た目に反して、いつも強く生きてきた子だ。 その身体と、その過去と、その恋心を胸に。懸命に生きてきた立派な少女なんだ。 「変な事言ってごめん。つつじ子の身体の全部を 知っておきたかったんだ」 「変な形してるよ?」 「そんな事無いよ。それに俺は、つつじ子の全てを 知りたい。恋人として理解したい」 「だから……俺の求めるその身体を、 つつじ子も胸を張って欲しい」 優しく、彼女の肢体に触れる。 その右腕の、行先を失っている輪郭にも。 目で、感触で、彼女を受け入れる。それが俺が今出来る一番の思い遣りだ。 「んっ……はっ、あぁぁん…………!!」 「そこ……誰かに触られた事無いから……はっ、 んっ、なんか……変な感じ……!」 「痛いか?」 「ううん、優しい……優しいよ……。 期招来君、すごく優しい……」 「だから変な感じなの……。そこは、きっと誰も、 優しく触りたくない場所だろうから……」 「……ん?」 「だって……普通に考えたら、そんなとこ気持ち悪い から……。誰だって触りたくないよ……」 「でも、期招来君は触ってる……優しく触れてくれてる。 なんかね、変な感じだよ……」 「それだけ俺はつつじ子の事を想ってるんだ」 ここを触れるだけで想いが伝わるなら、俺にとってこんな簡単な事は無い。 この右腕も、俺が愛する彼女の一部だ。いつか彼女にもここを誇ってもらえるように、俺が率先して愛してあげよう。 「んっ……はっ、あぁっ……んっ、はふっ、んっ、んっ」 「期招来君、右腕……こすこす、変なのぉ……! あぁっ、あっ、ふぁっ……んっ、んっ……!」 「さっき言ったよな? こんな身体じゃ 男の人もげんなりしちゃうって」 「見ろ、ほら……」 「ん……わ……!」 すっかり屹立した肉棒を示す。 つつじ子の体温に触れて、可愛い声を聴いて、その身体の全貌を知って、興奮しないわけがない。 「勃起ぃ……すごいぃ……!」 「これをつつじ子に入れたいんだ」 「おちんちんってそんなにおっきいんだね……! 初めて見たよ……迫力あるね……!」 「正直自信無いけど……でも入れて欲しい……! 私、期招来君の全てを受け入れたい……! この身体で、おちんちん受け止めたいよっ……!」 その真心が、俺の腰を前進させた―― 「んっ……ぐっ……ひっ、くひっ、ひぎっ、ぎぃ……!!」 「キツいか、つつじ子……!?」 「へ、平気ぃ……ぐひぎっ、んっ、ぎ……ひぃ……!! 大丈夫だから、そのまま入れて……はっ、ぐぅ……!」 辛そうな吐息が歯の隙間から漏れている。 少しでもその負担を軽減させてあげたい気持ちはあるが、ここで腰を緩めたら彼女と深く繋がる事が出来ない。 それは俺もつつじ子も望んでいない。芯までしっかりと結合したいんだ。 「もう少しだから、我慢してくれっ……!」 「ふぎっ、ひっ……んぎっ、ぎひぃ……!!」 つつじ子の様子を確認しながら、俺はゆっくりと膣奥へと向かっていく。 「ふっ、あっ……おちんちん、奥に……くひっ……! 来てる、あぐひっ、硬いの……おまんこの、奥の、 ところに……当たってるよっ、ふっ、ひっぎっ……!」 「ああ、全部入った……!」 ようやく根元まで圧し進める事が出来た。つつじ子が破瓜の刺激に耐えてくれたおかげだ。 「初めてだったんだな」 「うん……。私の身体を受け入れてくれる人なんて、 期招来君くらいだよぉ……」 「そんな事無いって」 「ううん。お母さんもお父さんも……私の事、 煩わしく思ってたみたいだし……」 「あ、それはどっちかっていうと身体じゃなくって病気が 原因か……。でもまあ、この腕じゃなかったら、両親の 接し方もまた違ってたかもしれないな」 腕の欠損をコンプレックスと思うのは当然だ。 そこに両親達の負の感情が起因するとしたら、それはとても悲しい話だと思う。 その分、優しく、丁寧に愛してあげようと思う。 「んっ……はっ、ふぅ……おちんちん、あったかぁい……」 「どうだ、初めての感想は?」 「はぁん……痛いけど、気持ち、いいよ……。 好きな人とこうして繋がれて……すごく嬉しいな」 「あんな太いおちんちん、入っちゃうもんなんだね……。 自分の身体の事なのに、不思議だな……。この身体、 もう十分知り尽くしたつもりでいたのに……」 「自分でも把握していない、つつじ子の身体の いいところがいっぱいあるって事だ」 「うん。素敵な事だと思う。 おちんちん、動かして欲しいな」 「わかった」 身体を晒す羞恥を耐え、腕を明かす背徳を乗り越え、破瓜の刺激に慣れ、ようやくつつじ子は笑った。 その笑顔に促されるように、俺は抽送を開始させていく。 「はぁっ、くっ、はふっ、あっ、あぁぁんっ……! お、おちんちん、にゅにゅーって、入ってくるっ、 す、ごひっ、んひいっ……!」 「おまんこから、くちゅくちゅって音が……あぁんっ、 いやらしい音が、聞こえてくるよ、はふっ、あっ、 ひっ……!」 まだ大丈夫な様子だ。少しずつ、ストロークを加速させていこう。 「あぁっ、あんっ、ほ、ほら、おちんちん、出入りする たびに……く、くちゅくちゅー、くちゅくちゅーって、 あぁっ、ひっ、ひぃっ!」 「おまんこ、エッチな音出しちゃってる……! こんなの初めて、私、こんなスケベな音出せるんだ……」 「いい音だよ……こんな音鳴らせるなんて、 いい身体じゃないか……」 「んっ、もっと……聞きたい、エッチい音、欲しいな」 もっと往復しろという事。拒否するわけがない。 「あぁっ! あっ、あっ、あっ、あっ……!! あっ、あっはっ、あひっ、くひいっ、あっひいっ!!」 「す、ごひよぉっ、おまんこからエッチなお汁が 溢れて来て、はっ、あぁんっ、くちゅくちゅ、 ぶくぶく、水の音、泡の音、やらし過ぎなのぉっ!!」 「セックスって、はっ、ひっ、こんなエッチで、スケベで、 気持ちいい事、だったんだっ、んっ、あぁんっ、私、 これ好き、セックス、好き、だよ、ハマっちゃうかもっ」 「俺も……つつじ子とのセックス、最高だ……!!」 「うん、私、これからもっ、あっ、あっ、いっぱい、 期招来君とセックスしたいっ、期招来君と、エッチな 思い出いっぱい作りたいよっ!!」 これ以上ない言葉だ。男ならば、その言葉を聞いて滾らないわけがない。 「んっ、おちんちん勃起ぃ、勃起すごひのっ、ひっ!! 勃起っ、んんっ……あっ、んっ、勃起いっ!!」 「期招来君、ど、どうしよう、私……んっ、ひっ……! おまんこ気持ち良くって、あっ、あっ、ああんっ……!」 「遠慮しなくていいんだっ……! 好きなだけ、感じて欲しいっ」 俺も、余すところなくつつじ子を堪能しているのだから。 「あっ、あぁんっ……感じちゃう……ふっ、ひっ!! 奥の方ガシガシされて、私、エッチな気持ちに なっちゃうよぉっ……!!」 気付けばつつじ子自身も、自ら腰を動かして摩擦刺激を求めている。 嬌声は高鳴り、震えも幾多に刻んでいる。心から興奮してくれているのだ。 「んっ、あっ、あぁぁんっ……くひっ、やっ、あぁんっ! おまんこ、か、感じるっ、よぉっ、気持ちいいよぉっ!」 「おちんちん嬉しいのぉっ、誰かに、こんな風にっ、ひっ、 優しくされて、私っ、今すごく幸せぇっ、あぁんっ!!」 「はぁっ、はぁっ、つつじ子っ……!!」 改めて、彼女の“身体”に優しく触れる。 「んっ、ふっ、ひゃっ、あぁぁん、あっ、あっ……! あぁっ、はぁっ、そこ、ひゃふ、そこぉっ……!!」 「私の、右腕、あっ、あっ……おまんこガシガシ されながら、はふっ、右腕……こすこすぅ……! はぁあんっ……!」 「嬉しいよっ、女として、人として、私の全部が、 受け入れられてる……! くっ、ふぁっ……!」 「ああ……! 俺はつつじ子の全部を愛してる……!」 「ひゃふっ、ひ……おまんこキュンキュンだよぉっ!! あぁぁっ、あぁんっ……!!」 その腕に、彼女のルーツを感じながら、性欲を昂ぶらせていく。 身も心も一つになっていく感覚。射精欲などすぐに充填された。 「期招来君っ、お、おちんちん、勃起いいっ……!! 勃起すごいよっ!? んっ、ギンギンで、バキバキで、 ブリブリ勃起だよぉっ!?」 「もう……イキそうなんだっ……!!」 「はっ、あぁっ、ふひっ、ひぃんっ……! わ、私も、私もっ、だよっ、あっ、あぁんっ!!」 「初めての告白で、初めてのセックスで、 好きな人に私の全部を受け入れてもらって……!」 「こんなの、おまんこイクに決まってるよぉっ!! お潮出まくるのぉ、おまんこ嬉し泣きしちゃうのぉっ!! あっ、はぁぁっ、あぁぁんっ!!」 「だったら、一緒にっ……!!」 「うん、イクっ、イクうっ!! イクイクイクううっ!!」 つつじ子も限界を迎えているようだ。 だったらこのまま。欲望の波に従って。 「あっ、あうっ、ひっ……! イクよっ、イクっ……! もう、イっちゃう、あっ、あっ、あぁっ……! おまんこっ、イク、イクっ……!!」 「ブリブリ勃起のおちんちんで、私、もうダメぇっ!! イっちゃうのっ、あっ、あぁんっ、イクイクっ!! イっっっクっ…………ひいいいいいいいいっっ!!!」 「ああっ、熱いの来たぁっ!! はふっ、あっ、あっ!! おまんこにっ、熱いのおっ、あっ、あぁぁぁんんっ!!」 その瞬間、二つの性器が激しく迸った。 「んっ、あひいっ!? トロトロしたのっ、出てるよぉ! おちんちん、ビクビクしながら、熱いのっ、はひっ! 注がれてるっ、流し込まれてるうっ!!」 「ぶぶぶーって、ぶぶぶーっておちんちんっ!! あっ、あっ、まだ、出てる、ぶぶぶー、ぶぶぶー! 潮吹きおまんこに、おちんちんぶぶぶーってぇっ!!」 「はぁっ、はぁっ……っっ!!」 射精はまだ止まらない。つつじ子の中の居心地の良さが、ペニスの脈動を落ち着かせてくれない。 「あっはぁっ!! 中出しだぁっ……!! 精液出されてるよぉっ、好きな人の子種ぇっ……!! あっ、あぁん、いっぱい、ぶぶぶー…………!」 「嬉しくて、気持ち良くって、お潮吹きまくりぃ……!! 初エッチなのにおまんこイキまくっちゃってるのぉ…… あっ、はぁぁっ、私、スケベだよぉ……!」 結合部から大量の淫液が滴っている。 二人の絶頂液が、トロトロと流れ落ち、シーツに色濃く滲んでいった。 「はぁっ……はぁっ、期招来君、いっぱい出したぁ……。 あっ、はぁぁん……射精、気持ち良かった?」 「はぁ……はぁ……ああ、最高だった……!」 「うん……私も最高だったよぉ……。 おちんちんにメロメロぉ……あはぁん……」 お互い、絶頂の余波で性器がピクピクと痙攣している。 まだ理性が完全に戻っていない状況で。しっかりと見つめ合う。自分の覚悟を伝え合う。 「はふぅ、あぁん……期招来君……ありがとう……。 私、あなたと一緒なら……立派な人間になれるかも しれない……はぁ……はぁ……」 「私はまだ未熟で……この身体のせいでいっぱい 迷惑かけちゃうかもだけど……はふっ、んっ……」 「でも……愛してるよ。大好きだよ。よろしくね?」 「はぁ……はぁ……はぁ……」 「ああ、こちらこそよろしく。つつじ子――」 「――ちゅっ」 優しいキスをもって、二人の初夜の幕を引いたのだった―― 「さて……」 時計を見て、通学カバンに手をかける。 「ふぁ~あ」 部屋を出る前に、もう一回だけあくび。 「……ふう。そろそろ行くか」 「おはよう、期招来君」 「おはよう、つつじ子」 「昨日はよく眠れたか?」 「うーん、あんまり。なんか色々信じられなくって」 「それに、あそこもね……ちょっとヒリヒリしてて」 「そうなのか。ごめん」 「あ、ううん。期招来君のせいじゃないよ」 「いや、俺のせいだろ。俺しかいないじゃん」 「私が……調子に乗って腰振りまくったから」 「ああ……。まあ確かに、あの時のつつじ子、 すごい積極的に自分から腰振ってた」 「もおっ! 恥ずかしいからそういう事言わないでっ!」 自分から言ったんだろうに。 「あら……。期招来さんと、つつじ子さん。 おはようございます」 「おはよう、二人とも」 「フーカと志依か、おはよう」 朝から現実離れした二人に遭遇した。 「珍しい組み合わせだねぇ」 「登校の際、偶然志依さんにお会いしまして」 「お似合いでしょ?」 お似合い、か。確かに。 車椅子で生活する儚い病弱少女と、それを介護する美人メイド。創作物によくある組み合わせだ。 しかも二人ともある共通点を持つ。志依は足、フーカは右目。それぞれに事情有りだ。 「こうして志依さんの車椅子を手押ししていますと、 志依さんのメイドになってご奉仕している気分に なります」 「だってよ、志依。フーカ随分嬉しそうだぞ。 ご主人様になってみるのはどうだ?」 「マリネットさんが私のメイド? そうねぇ……」 「彼女“も”他に負けず劣らずのワケアリね。 安直に判断するのは賢明じゃないわ。 とりあえず保留という事かしら」 「あらら、残念です」 「ふふ、早くあなたの本性が知りたいわ、マリネットさん」 楽しそうにフーカを挑発する志依。朝から元気だ。 「ところで、お二人とも偶々一緒になったんですか?」 「いや、違うよ」 「寮で待ち合せたの」 「あら、興味深いわね」 「エスパー志依なら、もう察しがついてるんじゃないか?」 「くふふふ……」 「えっと……と言いますと?」 「私達、付き合う事になったんです」 「ふぇ」 「ふぇーーーーーーーーーーーーっっ!!?」 「くっふふふふふふっ!!」 「まさか那由太君とつつじんがねぇ……」 「でも喜ばしい事ですっ♪」 「いやー、なんか意外だわ。 あんた達、前からそんな仲良かったっけ?」 「前から……うーん、どうだろうな」 「私は、ずっと前から期招来君と一緒だった気がするよ」 「……つつじ子、そんな恥ずかしい事をよくもまあ」 「恋は人の知能指数を低下させるものさ。 玖塚くん、一つ忠告しておこう」 「――那由太はこう見えて不能者だぞ。気をつけたまえ」 「何教えとるんじゃ!」 「あはは……そう、なのかな?」 「ちらりと俺を見るな!」 「未確認なの?」 「それは……え、えっと……その……」 「まさか……もうお済ませになられたとか?」 「…………っ」 「わーーー! つつじん顔真っ赤!」 「どうだった? 那由太きゅんのご子息、 ちゃんと勃った?」 「つつじ子に変な事言わすな! ってかあんたがそんな事に興味持つな!」 「ねぇねぇフーカ……。 不能者ってなぁに……?」 「霍さんは知らなくていい事ですよー。 いい子いい子、にわかわー」 「………………」 案の定、ネタにされてしまった。 でもこの賑やかな感じが、少し有難かったり。 どんな事でも“楽しく”盛り上がってくれるのは、こいつらの長所だ。 いい仲間だと思うよ。 「……那由太君、窓の外見ながらボーっとしてる」 「今いい事言ってる風のモノローグに耽ってるところ だから、そっとしておいてあげて」 「そっかぁ。いい彼女だねぇ」 「……………………」 つつじ子、予想以上に鋭いな―― 「んーーーーーっっ!!」 伸びをして、改めて身体を覚醒させる。 「ふう」 ソワソワした気持ちを出来る限り抑えながら、身の回りを確認した。 「財布持った、時計持った、ハンカチ持った、携帯持った」 以上。持ち物検査終わり。 男子に比べて、女子のつつじ子は色々持ち歩くんだろうな。 今日もカバン、持ってやろうかな。 「――よし、行くか」 休みの日。 初めてのデート。 隣にはもちろん―― 「ぺろぺろ」 つつじ子だ。 「はふぅ、これ美味しいよ。期招来君も食べる?」 「ああ、ならちょっとだけ」 「ぱく」 「うん、美味しい」 「ねー。ぺろぺろ」 ソフトクリームを一口貰う。間接キスもお構いなしだ。 「ごめんね、荷物持ってもらって。 アイス食べ終わったらちゃんと自分で持つから」 「いいよ。気にするなって」 「えへへぇ」 ゆっくりとした足取りで、二人並んで商店街を歩く。 デートって言っても、やる事はあまりない。この島で遊ぶところなんて、商店街くらいしかないのだ。 「あ……」 そんな中、つつじ子の視線を奪ったのは……。 「可愛いよね。あそこ」 最近出来たメイド喫茶だ。 「ああいうの興味あるのか?」 「うーん、全くないって言ったら嘘になるけど。 別に入るほどの事でもないかな」 「期招来君は? 可愛いメイドさんいっぱいいるよ?」 「可愛い女の子はつつじ子一人で十分だ」 「やだもうっ!! ぺろぺろぺろっ!!」 なぜ叩く……。アイス零すぞ……。 「……でもああいう格好つつじ子には似合うだろうなぁ」 「メイド服? 確かに着てみたいかも」 「あ、そうなのか? 意外と前向きなんだな」 「私だって女の子だもん。ああいうひらひらした 可愛らしい服に憧れはあるよ」 「今度フーカに頼んでみたらどうだ?」 「うーん、貸してくれるかなぁ。フーカさん、 メイドに並々ならぬプライド持ってるから、 着ただけのコスプレメイドは許してくれなさそう」 「そうだなぁ……」 「よいですか、つつじ子さん。メイド服というのは、 清らかな奉仕精神を宿した者だけが袖を通す事を 許される神聖な衣服なのです」 「それを、可愛いから、という理由で着ようとするなんて、 メイドというものを甘く見ているとしか思えません! そもそもメイドというのはどーたらこーたら……」 「ああ……なんか小言たっぷりのフーカが 想像出来ちゃうな」 「メイドの事は……フーカさんには内緒という事で」 「だな」 「あら、お二人様。こんにちは」 「うわあ!」 噂をすれば! 「……? 何慌ててらっしゃるのですか?」 「な、なんでもないよー……」 「そうですか。ところで先ほど、フーカ・メイド・小言 という不吉な関連ワードがこのあたりから聞こえてきた 気がするんですが……お心当たりはございませんか?」 「気のせいじゃないかな?」 「むぅ……そうでしょうか。誰かがワタシのよからぬ 評判を流布していたように感じたのですが……」 地獄耳過ぎる。これもメイドスキルの一環なのか!? 「そ、それよりもフーカさんはここで何を……?」 「はい。ワタシはこのメイド喫茶の顧問メイドを 任されておりまして」 「ここで働くメイドさん方に、メイドの心得講座を 開いて、メイドとはなんたるかを一からお教え しているのです」 「そ、そんな事を……!」 「ここのメイドさんは皆さん“可愛いメイド服が着たい” というなんともよこしまな理由で働いている子が 多くてですね……」 「そういう方の性根をしっかり鍛え、心身共にメイド らしく振る舞えるように育むのが、ワタシの講座の 目的なのです」 「お、おお……」 さすがフーカ……俺達の予想のさらに上を行く過剰なメイドっぷりだ。 「お二人は……もしや逢引き中ですか?」 「そんなこそこそしたもんじゃないけどな」 「あらあら、それでしたらワタシはお邪魔でしたね。 失礼しました、すぐに退散いたしますので!」 そう言ってすすすー……っと後ずさりしていき―― 「御情事の際は……くれぐれも屋内で……♪」 「ふ、フーカさんっ!」 危険な一言を残して去って行ったのだった。 「もう、フーカさんってば……!」 「と、とりあえず行こうか。 メイド講座に巻き込まれないうちに」 「そ、そうだね……。私も、可愛いからっていう理由で メイド服に興味を持つような自分の考えを改めるよ……」 手に残った溶けかけのアイスクリームを食べ切って、一言。 「私は……別にお外もアリかなって思うよ?」 フーカもそうだが、つつじ子もなかなか手厳しい。 「ふぅ……」 少しだけ、息を吐き出す。 今さら緊張などしているつもりはないが、やっぱり長い時間二人っきりでいると無意識のうちにカッコつけてしまっているらしい。 意図せず一人になった事で、僅かに素に戻れる。 つつじ子曰く―― 「おしっこー」 らしい。 「この後……ご飯にでも行くかな」 ベンチに座りながら、彼女の帰りを待っていると―― 「だーれだ?」 「やめろ」 「だーれだ?」 「やめろ、屍」 「正解。すごいすごぉい」 「つつじ子とデート中なんだ。邪魔しないでくれ」 「私あの子嫌い」 「知り合いなのか?」 「性格悪いと思わない?」 「俺が言ってるつつじ子はお前の知ってるつつじ子とは 違う女の子だ」 「憎たらしい……死ねばいいのに」 「とにかく、どっか行ってくれ」 「屋上から落ちて死ねばいいのに」 「どっか行けって……!!」 「あなたは彼女の右腕になるつもりでいる」 この―― 全部知ったような口調で話されるのが、イラつくんだ。 「お前に何がわかる」 「でも、本来は逆であるべき」 「はあ?」 「彼女があなたの右腕になるべき」 「何バカな事言ってるんだよ。俺の右腕はこの通り健在だ」 「私は……あなたの右腕になる覚悟があった」 気になる言い方だった。 先日“その覚悟”を心に決めた俺だから、つい引っ掛かってしまったのかもしれない。 なぜ屍が俺にそんな心遣いをする必要があるのか。大きな苦労を背負うような、覚悟を。俺は右腕を失っていないにもかかわらず。 おかしな話だ。 おかしな話だが、そんな事よりも気になるのは―― なぜ、過去形なんだ――? 「もう一度忠告するけど。あの子の“行きたい場所”に、 あなたは絶対に辿り着けない」 「………………」 いつものように意味の分からない言葉で俺を圧倒する屍。 これ以上つつじ子をバカにするような言葉を黙って聞いているわけにはいかない。 ガムシャラに、勢い任せに抗った。 「うるさいっ! 意味わかんないんだよ! 早くどっか行けっ!」 まるで、その敵意を真っ向から押し返されたように―― 「え……」 暗闇に置き去りにされた。 「なんだよ、ここ……どこ、だよ……」 「だーれだ?」 落ち着いた声色。両目を塞ぐ二本のヒンヤリした細い手。 そして、街中でいきなり“だーれだ?”を仕掛けてくるくらいフランクな性格。 彼女の正体は―― 「正解ー♪ よくわかったねっ」 「わかるよ。それくらい」 ん……? 「えへへ、ただいま。ごめんね、待たせちゃって」 あれ……? 「いや、大丈夫だよ。夕飯食べに行こうか。 どこ行きたい?」 つつじ子には右手が無いのに……。 「んー、そうだねー。商店街のイタリアン!」 どうして“だーれだ?”が出来たんだ……? 「わかった。じゃあ行こう」 つつじ子の“行きたい場所”へ―― 「ふう、お腹いっぱいだよー」 「だな」 なんだ。 簡単じゃないか。 やっぱりただのハッタリだ。俺を惑わすためだけの虚言だ。 つつじ子の望む場所。俺が全部叶えてやる。どこへだって連れて行ってやる。 行けないわけが無いんだ。 「む……!」 「霍ちゃんだ」 行動範囲が限られてるこの島の休日の商店街は、やっぱり知人との遭遇率が高いな。 「で、デートっ!?」 「そうだけど。なんできょどってんだよ」 「デートしてる人……初めて見た」 だからって、そんな怯えなくても。 「っていうか……不能者って何……?」 「………………」 「不能者……なんなんだ……!?」 「あはは……」 羽瀬……お前の残した爪跡の罪は大きいぞ……!! 「ただいまー♪」 「うん。ただいま」 ぶらぶら歩いて、もう遅くなってしまった。 「門限にはなんとか間に合ったみたいだね」 「ああ。遅くまで連れ回しちゃってごめんな」 「ううん。私だって少しでも長く 期招来君と一緒にいたいから……」 周りに誰もいないのをいい事に、左手の指を俺の身体に這わせてくるつつじ子。 「――という事で、この後どうするー?」 「ど、どうって……」 「あ……もしかして、お外の方が良かった?」 「おいっ……!」 「ふふっ、私はどっちでもいいんだよーっ♪」 彼女の人懐っこい貞操観念には毎度驚かされる。 「期招来君はどうなの?」 「だ、だから俺は……外だろうが中だろうが……」 「その話じゃなくって」 「え……」 「期招来君も……少しでも長く、私と一緒にいたいって 思ってくれてる……?」 おちゃらけたと思ったら突然真面目になったり。その緩急に振り回されっぱなしだ。 「……そりゃあ、まあ」 「じゃ、決まりだねっ♪」 「お、おいつつじ子っ!」 「今日は期招来君のお部屋で……ね?」 「………………」 「……ああ、わかったよ」 予感していたし、期待もしていたけれど。 それでも、こうして彼女と落ち着いて触れ合えるのは嬉しい事だ。 この温もりを、いつまでも感じたいと思う。 卒業しても、ずっと……一緒に―― 「ふう、終わった終わった」 午後の授業と帰りのホームルームを終えて、ようやくの開放感。 「んー」 「よし、帰るか」 「うんっ」 「ねえ、期招来君。唐突だけど、週末のお休み空いてる?」 「ん? 空いてるけど」 「よかったぁ。じゃあさ、お出かけしない?」 「またデートか?」 「私、行きたい場所があるんだ」 「行きたい場所……」 もう一度忠告するけど。あの子の“行きたい場所”に、あなたは絶対に辿り着けない。 あんな言葉、信じてない。 ハッタリで、虚言で、気にする事なんて全くない戯言だ。 なのにどうして、屍の言葉はこんなにも脳にこびり付いて離れないんだ――? 「聞いてる? 期招来君っ」 「あ、ああ……聞いてるよ」 「ホント? じゃあ私がどこに行きたがってるか 言ってみなさいっ」 「だから、ちゃんと聞いてたって」 「――教会だろ?」 きっと、辿り着ける。 あんな妄言に、俺とつつじ子の幸せを妨げられてたまるか。 「じゃ……行くか」 休日の朝。 準備を整えて、一呼吸。 屍の言葉はいまだに拭い切れていないが、せっかくのデートだ。あんなもの忘れてしまおう。 「えっと……どっちの方角なんだ?」 「こっちだよ。私について来て」 「こっち、って……」 EDENも、商店街も、港も無い。 山しかない方向だ。 言わば島の奥。人間の生活区域に適した平地から離れた、未開拓の自然域だ。 「大丈夫なのか、そっちは」 「うん、平気だよ。山を登るわけでもないし。 少し森の方行くだけだから」 簡単にそう告げて、つつじ子は前進した。 足早なのは、目的地を期する気持ちのせいなのか。 それとも―― 「はぁ……はぁ……」 気付けば結構長時間歩いている。 確実に、森の深い領域に踏み込んでいるはずだ。 にもかかわらずつつじ子は―― 「………………」 何も言わず、変わらないペースで進んでいる。 「な、なあつつじ子、ちょっと休憩しないか?」 「ううん。早く行こう?」 簡潔な言葉。少しでも前へ進もうとする揺るぎない態度。 彼女はこんなに体力があっただろうか。息一つ切らしていない様子だが……。 「……………………」 なんだかいつものつつじ子とは違う気がする。 もう一度忠告するけど。あの子の“行きたい場所”に、あなたは絶対に辿り着けない。 嫌な予感が過りっぱなしだ。 「………………くそっ」 つつじ子に聞こえない程度の声を吐いて、雑音を振り払う。 ハイキングというには過酷すぎる行程だ。 こんな事ならもっときちんと運動の準備をしておくべきだったな。 ……なんて後悔していると―― 「…………着いたぁ」 なんだか久しぶりのような、いつものつつじ子の可愛らしい声が聞こえてきた。 「え…………」 これが……つつじ子の来たがっていた、教会……? 壁はボロボロで、ところどころ朽ち果てている。 まるで廃墟だ。 「なんで、山奥に……こんな教会が……!」 しかもボロボロで……今にも、崩れ落ちそうな……。 「……つつじ子は、ここに以前来た事があるのか?」 「ねえ、中入ろうよ」 「どうして、こんな場所を知ってたんだ?」 「見せたいものは、この中に」 「どうして、あんな森の中を迷わず 真っ直ぐここに辿り着く事が出来たんだ?」 「きっと、素敵な思い出になる」 つつじ子は、静かにそう告げて中に入って行った。 「……………………」 さっきからずっと。ここに来るまでずっと。 彼女に違和感を覚えている自分がいる。 それも全部、屍が変な言葉で俺を惑わせたから……? でも、辿り着く事が出来た。やっぱりヤツの忠告は何の意味も成さなかったんだ。 怯える必要なんてないんだ。 俺とつつじ子を妨げえるものは、もう何も―― でも―― だったら、なぜ―― 俺は少しだけ、つつじ子に怯えているんだろう―― 「ここは…………」 この場所は―― 俺の脳を、なぜか蝕む―― 静謐―― そして、退廃―― 壁や柱に刻まれたヒビが。割れた窓から差し込む夕日が。人間を拒む。この空間を自然と融和させる。 乱雑に散った瓦礫の配置すら意味があるように思えた。 それくらい、自分が気安く踏み込んでいい世界じゃないように思えた。 奥の十字架は、俺には圧倒的過ぎて。 この世の不吉の全てを司りながら、堂々と陽に照らされ続けていた。 「――この教会の十字架、見覚えあると思わない?」 冷ややかな声が響き渡る。この静寂を壊す事に、躊躇いは無いのだろうか。 「……つつじ子の部屋にあったものと同じだ」 「そう。ここはね、私の実家と同じ宗派なの」 「この教会……この十字架……この空間……」 「ここなら、夢が叶う。未来を祈れる。勇気をもらえる」 「だから……ここに来たのか?」 「うん。そしてあなたをここに連れて来たかった」 変わらず淡々とした声色で、つつじ子は俺を射抜く。 荒廃したこの教会に包まれた右腕を持たない少女があまりにも異質で。 唾を飲み込みながら、ひたすらに見蕩れた。 「こんなに大切な人が出来たんだ。自分の全てを 捧げてもいいって思えるくらい、愛してる人」 「その人に、この心と、この身体を…… 受け入れてもらってる。こんな素敵な人に、 好きって言ってもらってる」 「神様。私立派になりました。ここにいる期招来那由太君 のおかげで、人を愛し、人に愛される人間になりました」 「きっと……見直してくれますよね?」 十字架に、その向こうにいる神に、つつじ子は問い掛ける。 その対象は口に出さなかったが、俺にはすぐにそれがわかった。 両親だ。 つつじ子、俺が保証するよ。 きっと君の両親は、見直してくれる。つつじ子の成長を喜び、彼らもまた君を受け入れてくれる。 「コートゥリーヌレータルシァ・サバト・リフォシェス」 「……ようやく、言えた。神様に報告出来たよ」 「神様は、なんて?」 「続けなさいって」 「ん?」 「神様がね、後押ししてくれた。 頑張れ、って……そう言ってくれてる」 十字架を前にしたつつじ子は、いつも積極的で。 「期招来君……」 いつも俺はそんな彼女の勇気ある言葉に、翻弄され。 「ずっと一緒だよ」 そして喜んでいるんだ。 「つつじ子、こっちおいで」 「うんっ」 細い髪の一本一本が、柔らかく舞い踊る。 朽ちた石壁の隙間からピアスの針のように差し込む太陽の光が、少女をより美しく彩る。 誰もいない空間。物音一つしない静寂。 浮かんでは消える玉響に見守られながら―― 俺達は一つになる事で、尊い未来を神様に誓った。 「んっ、はっ、あふぁっ……あっ、あっ……来たっ、 来たぁっ……! おちんぽ……来たぁっ……!!」 「神様の前だけど……いいのか……!?」 「神様の前だからだよぉ……はっ、あぁんっ……! 神様に、あっ、あっ、私達のラブラブっぷり、 見せつけたいのぉ、あっ、ふひぃっ!」 「だから……おちんぽ、もっと激しくして……! おまんこにいっぱいちょうだい……あっ、はぁんっ」 耳元に甘い声が弾けた。 彼女の蕩けるようなその声を聴くだけで、全身が泡立って屹立が進む。 「あっ、ん……勃起好きぃ……私、この勃起…… 大好きだよぉ……はひぃんっ……!」 「こうやって……んっ、はっ、んっ、期招来君とセックス してると……すごく幸せなの……ふわふわーってなって、 あっ、ふぅ……空、飛んでっちゃいそうだよぉ……」 「俺も幸せだよ、つつじ子……」 「うん……一緒になれて……すごく嬉しいの……」 立ったままピストンを浴びて、片腕だとバランスが取り辛いだろう。 俺は彼女の背中に手を回して、倒れないように支えながら腰を動かし続けた。 「はっ、あぁん、おちんぽ、もっとガシガシ、来てぇ……。 あっ、ふあっ、あぁんっ……!」 「ああ、辛かったら言うんだぞ」 「大丈夫……期招来君にされて、辛い事なんて 一つも無いよ……はふっ、んっ……」 その言葉を信じ、立位のまま前後の往復運動を加速させる。 「んっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……!! ちんぽ、いいよぉ、おちんぽぉっ、あぁあっ……!!」 「つつじ子、ずっと一緒って……」 「うん……! 私、ずっとあなたと一緒がいいの……! んっ……! どんな事があっても……ずっと……」 「そう、だな……ずっと一緒だ……」 「うん……約束、だよぉ……! はっ、あぁんっ、んっ、んっ、くふぅ……ふぅんっ」 つつじ子も腰をクネクネ動かして、自ら刺激を求めてくれている。 それが嬉しくて、俺はさらに腰遣いを激しくさせた。 「あっ、ふひっ! くひぃ、おちんぽ激しっ……! あぁん、大好きっ、勃起おちんぽ大好きぃ……!」 「おまんこ、興奮止まんないよ……んっ、おひっ……! セックス、気持ちいいのぉ、あっはぁぁっ……!!」 「はぁっ、はぁっ……つつじ子は、 この教会の事、どうして……?」 「んっ、あっ、ふあっ、前に、皆で、来た事、 あるような……んっ、ないような……はぁっ」 行為の激しさのせいだろうか。うまく思考がまとまっていない様子だ。 「そんな事よりっ、んっ、くぅ……! 期招来君っ、そのまま、中に出してね……、 おちんぽ、中出しだよ……?」 「神様の見てる前で、子種、いっぱい子宮にちょうだい、 んっ……あっ、ひゃっ……おまんこ、ザーメンで いっぱいにして欲しいな……?」 「いいんだな……?」 「もちろんだよ……神聖な場所で、神聖なセックス……! 神聖な中出しで……永遠を誓うの……! 楽しみなんだ……!」 永遠、か。 つつじ子がそんな先まで考えていたなんて。 俺もずっと一緒にいたいって思ってた。ずっとこんな日が続けばいいって思ってた。 でもそれはただの漠然とした願いで……。 しっかり考えた事無かったよ。 卒業して、お互いの進路が離れ離れになっても、何らかの形で付き合い続けたいなって……。時折そんな風に思ったりもするけど。 でも、先の事なんてわからないから。いつだって深く考えてなくて。 「あっ、んっ、ちんぽぉっ、おちんぽぉっ……!! あっはぁぁんっ、おちんぽいいのおっ!! 気持ちいいのぉっ……!!」 でもつつじ子は、大胆に、そして真剣に。永遠を誓った。 俺を信頼しているからだろうか。神様に後押ししてもらったからだろうか。 俺が彼女を受け止めなければ。俺以外に彼女を受け止められる男はいないんだ。 「おまんこキュンキュンだよぉ……はふっ……ひっ!! まん肉を、グリグリっておちんぽのカリで引っ掻き 回されると……キューンって気持ち良くなるぅ……!」 「私これ大好きなのぉ、おちんぽのグリグリぃ……! まん肉ごしごし、たまんないんだよぉ……はひぃんっ!」 神の御前だっていうのに、躊躇なく淫語を口にしながら喘ぐつつじ子は、いつもよりもどこか大人っぽい印象だ。 「んくぅ、はふぅん……! おちんぽ入れてもらうと…… 私、すごくエッチになっちゃうの……はっ、んっ……」 「でもね、それだけ期招来君を愛してるって事なんだよ、 くっ……ひっ……愛してるから、スケベなの……!」 「俺も、つつじ子とこうしてる時は…… すごく興奮して、夢中になれるんだ……!」 「うん……私、遠慮しないの。セックスしてる時、 思いっ切り喘いで……善がって……楽しんじゃうの」 「セックスを楽しむ事が、好きな人を愛するって事だと 思うし……んっ、それは、私がずっと望んでいた、 立派な人間になる事だと、思うから……はぁんっ」 人を全力で愛する事。愛する事を全力で楽しむ事。 確かにそれが出来る人間こそ立派と言える。 つつじ子は体現してるんだ。立派な人間を目指す身として、全力で俺を愛し、全力で恋を楽しんでいるんだ。 「神様の前だからこそ……私はセックスを楽しむの……! 立派になったところ、証明したいんだもん……!」 「そっか……俺も全力で協力するよ……!」 「十字架を通して……お父さんとお母さんに伝わるかな……。 私の成長……」 「ああ、きっと伝わるよ……!」 抽送を繰り出しながら、つつじ子を思い遣る。 「はぁ……はぁ……んっ、あぁん、お父さん……お母さん……! 見て……今の私……見て……!」 「こんな私でも……右腕無くても、病気患ってても、 はっ、あぁん……こんな素敵な人と……愛し合う事が 出来てるんだよ……!」 「この人と一緒にいると……すごく楽しいの……! おちんぽ入れられると……おまんこすごく気持ち いいの……! あっ、はぁんっ……!」 「見ててね……いっぱい精子注いでもらうんだから……! いっぱい……愛情をもらうんだから……!」 「私……立派になったよね……? 胸張って帰るから、 あっ、はぁぁん、二人とも、私を……彼を…… この恋を、私達の未来を、受け入れてくれるよね……?」 何も答えない十字架の代わりに、腰を大きく突き入れてつつじ子を諭す。 きっと、大丈夫だよ……と。 「うんっ……うんっ! 期招来君大好きっ、おちんぽ大好きっ!!」 「私、嬉しいよぉっ! 神様の前で、メロメロに なっちゃうぅ……はっ、ひぃんっ、おちんぽの 虜になっちゃうのぉっ、あぁんっ、くはぁんっ!!」 「イキそうなのか……?」 「うん、もう……ひっ、我慢、出来ない、よぉ……! おちんぽで、私の、おま、おまんこ……んっ、んんっ、 もう、限界、なのぉっ、あひっ、ひっ、ひぃっ!!」 「期招来君も、勃起ブリブリだもんね……!? あっ、はぁっ……もう射精しちゃうよね……!? んっ、ひぃっ……!」 「ああ、俺ももうそろそろ……!」 「じゃあ、イこうよっ、神様に見せつけようっ……!? その向こうの、お父さんと、お母さんに、私達の愛を、 いっぱい示そう……!?」 「そうだな……! イクぞ、つつじ子っ……!」 「うんっ……あっ、はぁぁっ!!」 つつじ子が、羞恥を棄て、快楽に溺れ、全力で性に倒錯する覚悟なら。 俺もそうしよう。最高の瞬間を、愉しむんだ―― 「あっ、ひっ、勃起しゅごひっ、んっひっ、あっ、あっ! これ、これぇっ……!! 射精来るよっ、勃起ぃっ、 ちんぽブリブリだよぉっ!!」 「私もイクうっ!! 勃起ちんぽでおまんこイクうっ!! あっ、あっ、イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ!」 「ああああぁぁあぁぁぁあぁぁああんんんんんっっ!!! イっっっクうううっ!! あっ、あっ、あっ、あっ、 あっ、あっ、あっ、あっ、あぁあぁぁあああっっ!!!」 ビクンビクンと大きな痙攣を伴って、つつじ子は絶頂の衝撃に砕けていった。 「んっ、はぁぁっ、出るっ、出るっ……!! いっぱい、出るっ、んんっ、お潮出るよっ、あ、あぁん、 あっはぁぁんっ!!」 「溢れてくるのぉっ、好きな気持ちが、お潮になって、 びゅっびゅって溢れてくうっ、いやあぁっ、あっ! 止まんない、よっ、ひっ、あひぃっ、んっひいっ!!」 俺も足腰を打ち震わせながら、その射精快楽に酔い痴れていく。 「んっ、あ、あったかいよぉ……!! 精液だぁ……! ザーメン、どくどく流れて来てる……! んっ、 お潮でスーってなってるおまんこに……ザーメン……♪」 「中出しぃ、されてるのぉ、はっ、ふぅ……! 気持ちいいよぉ……幸せぇ……あっ、あぁんっ……! もっとぉ、ザーメンもっとぉ……!」 つつじ子に煽られずとも、この膣をもってすれば最後の一滴まで全て搾り出してしまう。 「ん……はっ、ふぅ……おまんこの中……熱くなってるぅ、 は……あぁん……精液で、たぷたぷぅ……」 「はぁ……はぁ……全部出し切ったからな……!」 「赤ちゃん孕んじゃうよ……! 妊娠確実……! こんなに出してもらったんだもん、赤ちゃん二、三人分 は絶対着床してる……」 「いっぺんに全部産むんだっ……♪ 期招来君が孕ましてくれた子は、全部……!」 絶頂後の消耗で足元が覚束ない。妖しく笑うつつじ子の瞳に吸い込まれそうになるほどだ。 「ん……私……こんなにエッチを愉しんでるんだもん。 好きな人とセックスして、愛し合って……。 すごく、立派だよね……?」 その質問は―― 「はぁ、はぁ……ああ……つつじ子は立派な人間だよ……」 俺にではなく、その向こうの十字架に向けられたもので。 「ふふ…………ふふふふふふっ……!」 俺の疲弊し切った声による肯定ではなく、十字架からの返答を受けて。 つつじ子は、少しだけ、ほんの少しだけ不気味に微笑んだのだった―― まだ人気もまばらな早朝。 うみねこの鳴き声に迎えられながら、俺は港に立っていた。 隣には、つつじ子。俺の大切な女性だ。 「……いよいよだな」 「うん……」 この一歩は、二人の旅路の始まり。 少しだけ緊張はある。 でもそれ以上に、喜びが勝る。 つつじ子のご両親に挨拶して……二人でアパートを借りて……。 安月給でもいい。彼女を、彼女との未来を支えていけるだけのお金と時間さえあれば、俺はこれ以上なく幸せなんだ。 「あ……あの船じゃないかな」 「……そうみたいだ」 本土行きの船。 EDENを卒業した俺達は―― 新しい未来へ、向かっていく―― 「静か……だな」 「うん……」 到着した船便は静かに波に晒され続けている。 人影は無い。まだ出発時刻には余裕があるからだろうか。 「まず……私のおうちに行こう。 私がきちんと成長したところ、家族に見せたいんだ」 「きっと喜んでもらえるさ」 胸を張って凱旋出来るだけの優しさと強さが、今のつつじ子にはあるんだ。 「私、期招来君となら、なんだって出来る気がする。 期招来君となら、どこへだって行ける気がする」 「つつじ子の願い、俺が全部叶えるよ」 「うん……ありがとう」 静かだな。 船員はどこだろう。 操縦士はどこだろう。 誰もいない。静かな世界だ。 「コートゥリーヌレータルシァ・サバト・リフォシェス」 彼女の小さな呟きが、青空に浮かんで消えた。 いつの間にか―― うみねこの鳴き声すら聞こえなくなった。 波の音すら、もう聞こえない。 本当に静かだ。 まるであの日の教会のように―― 「ん……期招来君……」 つつじ子が俺に寄り添ってくる。 俺はそんな彼女の小さな身体を優しく抱き締めながら―― 「行こう……一緒に行こう」 「つつじ子の、俺達の“行きたい場所”へ――」 被験者は、島から出てはいけない。 ギフトを持ったまま、外に出る事は許されない。 あなた達は……ここから出られない。 教室へ向かう最中。 偶然、廊下でお喋りしている二人を見かけた。 「うーん……そうですか。 ゆっふぃん先輩も知らないとは……」 「うん、ごめんね。 ……って、あ、那由太君だー。おはおはー♪」 「おはよう。二人一緒に登校か?」 「もっちー♪」 相変わらず仲良いコンビだな。 「那由太先輩かぁ……。うん、丁度いいかもっ!」 「何の話だ?」 「人を探してるんですよー。ゆっふぃん先輩って 顔広いから知ってると思ったんですけどね」 「御伽ってそんなに知り合い多いのか」 「男女分け隔てなくお喋り出来るからねっ♪」 意味深だが事実だ。 「で、猶猶が探してる人って?」 「はい……猶、この前商店街を一人で歩いてたんですよ。 買い物の帰りで……時間は夜の20時くらいだった でしょうか」 「ふと、猶の前を女の人がスーッと……。その時、 なんでかわかんないんですけど、気が付けば猶は その人の事、目で追ってしまってました」 「でも、いつの間にかいなくなってて……」 「少し不思議な話だよねぇ」 「ふーむ……。で、猶猶はどうして その人を探してるんだ?」 「いやー、その女の人、物凄く美人さんだったんですよ! 目で追っちゃったのはそのせいかもしれないですねぇ」 「でもまあ、いくらなんでもその情報だけじゃ 調査は難しいだろ。手がかりが少なすぎる」 「いえいえ、実はその人、EDENの制服を着てた んですよ。つまり、うちの生徒って事ですっ!」 「おお……!」 「うちの学年にはあんな美人女子いないですからね。 それは間違いないです。それでゆっふぃん先輩に 聞いてたところだったんですけど……」 「どうです、那由太先輩っ。心当たりありますか?」 「いや……美人な女子ってだけじゃあな。 というか俺別に顔広くないし」 「でもでも、美人で可愛い女子って、男子からしてみたら やっぱり抑えてあるもんですよね? だからこういうの ってむしろ男子に聞いた方がいいかなって思いまして」 「もうすでに聞いたんだろ? そこの男子に」 「私女子だよーっ! 心は乙女だもんっ」 「――との事ですので、那由太先輩ならと 思ったんですが……うーん、先輩の学年 じゃないんでしょうか……」 「EDENの制服を着た、美人な女生徒ねぇ……」 ………………。 そりゃあまあ。 一応、嫌な予感はしている。 「髪の色とかは?」 「真っ黒でした。ロングのストレートで…… なんかこう、お上品な感じがしましたよぉ」 「身長は?」 「猶よりおっきかったと思いますね……。 ゆっふぃん先輩と同じくらいかな……?」 「……………………」 「あのさ……」 「こんな感じ?」 「おーーーーーっ!! これこれ、まさしくこの人ですっ!」 ……やっぱりか。 「すごいですね、那由太先輩っ! ドンピシャですよっ! どうして知ってるんですか!?」 「いや……以前会った事があって」 「へー、知り合いだったんですか!」 「知り合いっていうのかな」 「身近なところに情報提供者がいてよかったね」 「はいっ! 灯台下暗しってやつです! 猶の日頃の行いがいいからでしょうか!」 「で! で! で! 那由太先輩、あの人何者なんでしょうか!? 名前は!? クラスは!? 寮の部屋番号は!?」 「い、いや、そこまで知らないって! EDENでも寮でも会った事ない……と思うから、 クラスも部屋もわからないし……」 「……名前が屍って事だけしか俺は知らないよ」 「屍ちゃんですかぁ……。名字は?」 「名字は……確か……」 あれ……? 名字、なんだっけ? そもそも俺、あいつの名字聞いた事あるっけ? いや、知ってるはず。確か……屍の名字は―― 「んー、まあいいや。 とりあえず屍ちゃんを捜索しましょう!」 「は……? 何を急に……」 「だって、わからない事は会って本人に聞くのが 一番確実じゃないですか」 「そりゃそうだけど……そもそもお前、 屍に会ってどうする気だよ?」 「決まってるじゃないですか。友達になるんです」 平然とそう答える猶猶。 「どんな人なんでしょうか……。なんとなくクールな 印象でしたけど、話してみると案外オチャメなところ もあるかもしれませんね」 「い、いや……ちょっと待てって。 そんな、いきなり友達だなんて……」 「いきなりだとおかしいですか? すぐに友達になろうとしちゃ何かマズいんですか?」 「マズいってわけじゃないけど……」 「猶が何もしなくても、向こうから進んで猶と友達に なってくれるなら話は別ですけど。そんな事きっと無い でしょうから、猶から行くのが当然じゃないですか」 「それは……」 「那由太君、無駄だって」 「御伽……」 「知ってるでしょ? たりたりちゃんの性格」 「ん……あ、ああ……」 そうだ。こいつはそういうやつだった。 仲良くなりたいと思ったら、相手が先輩だろうが異性だろうが、問答無用で迫って来て……。 最初は、御伽と仲良くなったんだっけ。男の娘がいるって噂を聞きつけて、興味を持った猶猶が後輩であるにもかかわらずうちの教室に乗り込んできて。 そこからすぐに御伽と意気投合して。その後、御伽の周りの俺達とも遠慮なく仲良くしだして。 猶猶は、積極的に人と繋がっていく事が出来る少女だ。臆さず、堂々と友情を育んでいく。 その行動力を久しく忘れていた。怯えずに進んでいくのは、猶猶からしてみたら当然の事なんだよな。 「そう、だな。止められないな」 「うん。それに私も会ってみたいな、屍ちゃんって子。 なんだか興味がある」 「すっごい可愛いんですよっ。きっとゆっふぃん先輩も 驚くと思いますっ」 「そっかぁ、私もお友達になれるかなー」 「はいっ、きっとなれますよ! 猶が間を取り持つので!」 すでに猶猶は屍と友達になるのを前提にしているぞ……! 「という事でぇ……今日のお昼休み、 一緒に屍ちゃんを探しましょう!」 「おーっ♪」 「まあ、頑張ってくれ」 「那由太先輩もですよ?」 「ええっ!? なんで俺もっ!?」 「那由太先輩、屍ちゃんの知り合いなんですよね? だったら先輩も調査隊に加わって、特定に協力 してくれないとっ!」 「マジですか……」 「はいっ、という事でよろしくお願いしますねっ!」 「那由太君、一緒に屍ちゃんを見つけようっ!」 「………………はぁ」 思いっ切り深く、溜め息を吐き出した。 流れで変な事に巻き込まれてしまった。 正直、あいつにはあんまり関わり合いたくないんだけどなぁ……。 ――で。 あっという間に昼休み。 「さあ、お二人とも、さっそく行きましょう!」 「自分の教室のように入ってくるなぁ、猶猶は」 先輩の教室なんだけど。 「細かい事はいいじゃないですか。 ささ、調査開始ー!」 「わーいっ! 探偵みたいだねっ」 「…………はぁ」 本日二度目の、大型溜め息―― 体育館にやってきた。 学年のわからない相手だ。いっそ部活の方向から調査してみるのはどうだろうという考えからだ。 「あ、那由太じゃん。ゆっふぃんに猶猶も。なんか用?」 「筮先輩、お昼も練習ですかぁ。大変ですね」 「まあ、本格的な動きはしてないよ。 ちょっとした基礎練だけ」 と言いつつもしっかりユニフォームに着替えてるあたり、筮のやる気が窺い知れる。 「あのね、人を探してるんだー。 屍ちゃんって言うんだけど」 「屍……? かばね……カバネ……」 「筮先輩、知ってますかー?」 「うーん……聞いた事あるような……」 「ホントですかっ!?」 「ないような……」 「どっちだよ」 「あはは……ごめん。よくわかんないや」 まあそりゃそうか。 「その子どこの部活なの?」 「それがわからないんだよ。だから運動部に知り合いが 多い筮ちゃんに聞いてみようと思って」 「なるほどー……。うちの部はもちろん、他の部でも 屍って名前の子は聞いた事ないなぁ……」 「そっかぁ……残念。不発でした」 「そもそも、屍はどっかの運動部に所属してそうな イメージないけどな」 なんかジメジメしてて、活発な印象からかけ離れている。 「でもでもぉっ、あれだけの美人ですから。 むしろどんなスポーツやらせても全部軽々こなし ちゃうような、万能キャラかもしれませんよ?」 美人にどういう偏見持ってるんだこいつは。 「ええ!? 何その子、そんな子だったら 是非うちに入部して欲しいんだけど!」 「なんとなくだけど、多分そいつは バスケ別に上手くないと思うぞ」 「そうなの?」 「まあ俺の勝手な想像だけど」 「私は逆に、美人って文化系の部活に 所属してるイメージがあるなぁ……」 「ちぇー」 「ふふっ、筮ちゃんの嫉妬の仕方可愛い♪ 文化系じゃないけど、筮ちゃんは十分美人だよっ」 「へへへっ、ありがとゆっふぃん♪」 「文化系ですか……。じゃあ、合唱部の皆さんに 後で聞いてみましょうか!」 「無駄だと思うぞ。あいつら他の文化部と交流ないし」 「あの三人娘は、あれで結構内輪タイプだからねぇ」 知り合いも少なそうだし、作ろうともしていなさそうだ。 「そもそもその子、部活やってんの?」 「さあ?」 「なにさ、じゃあ意味ないじゃん!」 「意味ないって事はないよ。 とりあえず屍は運動部周辺とは無縁だって事が わかっただけでも良しとしよう」 「そうだね。それじゃあ別の場所に行こっか」 「ふーん……よくわかんないけど、見つかるといいね。 頑張って!」 軽々と明るい言葉を放つ筮と別れて、俺達は体育館を後にした―― 「あ、すーぎしーらせーんぱーいっ!!」 廊下に猶猶の声が響く。 上級生にこうも大声で話しかけられるなんて、さすがとしか言いようがない。 「な、猶猶さん、恥ずかしいのでもう少し声を小さく……」 言われた方が恥じらっているほどだ。 「えっと……皆さんお揃いで。 どうかされたのですか?」 「ええ。実はちょっと人探しをしていまして」 「まあ、探偵ごっこですか!」 「はい、探偵団ですっ♪」 違うだろ。 「屍ちゃんって名前の女の子なんですけど……。 彬白先輩、ご存じありませんか?」 「俺達の学年にそんな名前の女子生徒はいないので…… だったら先輩の学年かなと思いまして」 「カバネ・チャン……中国の方かしら」 「あ、いえ。カバネ・チャンじゃなくって、 屍ちゃんです」 「あら、そうですか。カバネ・チャン……ふーむ……」 「そういったお名前、聞いた事ありませんわね……。 私の学年にはいらっしゃらないと思います」 「むむー、そうですかぁ……」 「先輩の学年じゃないって事は……」 「私達の学年にも、上にも下にも、該当者なし……」 「EDENの生徒じゃないって事か……!?」 「だとしたらあの制服はなんなんですか!? 屍ちゃん、うちの制服着てましたよ!?」 「ただのコスプレ?」 「または知り合いから借りた、とか」 そうなると面倒だ。対象範囲を絞る事が出来ない。 「……不確かではあるけど、一応EDENの生徒の線で もう少し探してみるか」 「うん、それがいいと思うよ」 「申し訳ございません……お力になれなくて」 「いえいえ、彬白先輩は悪くありませんっ」 「それで……そのチャン・カバネさんにお会いして、 皆さんは何をされるおつもりなのでしょうか……?」 まだ間違えてる。面倒だから修正しなくていいや。 「お友達になるんです!」 「まあ! 素晴らしいですわね」 「えへへー!」 猶猶の無邪気な言葉に中てられたのか、彬白先輩は優しい手つきで彼女の頭を撫でた。聖母が赤子をあやすかのような光景だ。 「国際交流はとても良い事だと思います。 言語や文化の壁はあるでしょうが…… 是非頑張ってくださいませ!」 「………………」 彬白先輩……結局最後まで勘違いしたままだったな……。 昼休みの時間を使って、寮に向かった俺達。 何か手がかりを期待してここまでやって来たわけだが……。 「あぁ……!?」 出会ったのはガンを飛ばしてくるヤンチャ者が一人。 「あれ、こんなとこで何やってんだ?」 「サボりだよ。二限目から」 朝はいたはずだよな。いつの間に……。 「相変わらず人知れずワルだねぇ……。 たりたりちゃん、あんな先輩見習っちゃダメだからね?」 「はい。猶は飯槻先輩みたいな落ちこぼれはゴメンです」 「おいこらそこのカマとチビ! なめた事言ってんじゃねーぞこらぁっ!!」 「オカマじゃなくって男の娘っ♪」 「オチビじゃなくってお手頃サイズっ♪」 さすが、俺の友人の中でも特に手強い系の二人だ。メガの脅しにもまったく屈さず、ニコニコ顔のまま軽くあしらっている。 「ふん……お前らこそ何してんだよ」 「んー……まあちょっと人探しをな」 「はあ? んだよそれ」 「まあ……一応メガ君にも聞いてみよっか」 「そうだな。減るもんじゃないし」 「気に障る言い方してんじゃねーぞっ!」 期待薄だが、情報が手に入れば儲け物という事で。 「屍ちゃんって女の子について調べてるんですが……。 飯槻先輩、何か知りませんか?」 「屍ぇ……!? 誰だよそれ」 「……やっぱ知らないか。 さすがにメガ君は当てに出来ないよね」 「……いや、そうでもないぞ」 「ん? どういう事?」 「こいつは、ほら。授業サボっていつも街を ふらついてるだろ?」 「多分俺達よりも多く、街を歩いている人間と すれ違ってるはずなんだ」 「そっか! それじゃあ、他の人よりも 屍ちゃんと遭遇してる可能性が高い!」 「そういう事。街で遊んでるって事は それだけ街の知り合いも多いだろうし……」 こいつの知り合いなんておそらく不良仲間くらいだろうが、それでも情報網としては規模が大きそうだ。 「なあメガ。よーく思い出してくれ。 屍って名前の女子生徒の事……」 「こんな感じのヤツなんだけど……どうだ?」 「うーん、そんなヤツ、見た事あっかなぁ……」 「頑張れチョイワル少年!」 「うーん……うーん……!」 御伽の茶々を気にしないくらい真剣に思い出してくれているようだ。 有難い。なんだかんだ言って根は真面目なヤツだよな。 「……で、どうだ?」 「…………知らね。見た事も聞いた事もねえわ」 「だあぁっ!!」 やっぱダメか……。 「メガなら意外と知ってると思ったんだが……」 「でもさ、メガ君が遊ぶようなところって、 アウトローな感じのお店とかでしょ? 屍ちゃんそういうところに行くのかなぁ?」 「確かに……見た感じ、不良とかには一切縁のない 感じの人でした。ワルの飯槻先輩が付き合うような ダメ人間コミュニティに関係してるとは思えません」 「誰がダメ人間だこら。その身長もっと潰すぞ」 「べーっだ」 「確かに、それもそっか。メガの不良仲間の先に 屍がいるわけないしな」 よくよく考えてみると、メガって観察力無さそうだから、街を歩く通行人の顔なんかいちいち覚えて無さそうだし。 「つーかそもそも俺、別に不良仲間とつるんだりなんか してねーよ。レディースの知り合いなんか一人も いねーし」 「え、それじゃあいつもサボってる時誰と遊んでるんだ?」 「一人で部屋でボトルシップ作ってるだけだが?」 「……………………」 なんてインドアなワルなんだ……! 「……なんか、泣けてくるね。 メガ君、寂しくなったらいつでも言ってね」 「おいゆっふぃん、なんだその可哀想な人を見る目は!?」 「悪い事には付き合ってあげられませんけど…… それ以外なら一緒に遊んであげますから」 「夛里耶てめえ後輩のくせになんで 上から目線なんだよ!?」 「俺……一応お前の事、友達だと思ってるんだぜ?」 「うるせえよ、この俺をぼっち扱いすんな!!」 「――とまあ、ひとしきりメガ君弄りも終わったし」 「そろそろ行きましょうか」 「そうだな」 「てめえら覚えてやがれよっ!!」 EDENを出て、寮へと繋がる通学路を歩く。 「あら……」 志依の姿を発見した。 「期招来君に由芙院さんに夛里耶さん。 何か事件が起きそうな組み合わせね」 「変な事言うな」 「しぇー先輩。何してるんですかー?」 「病院に向かうところなの。これから検査なのよ」 「あ、そうなんだ。早退かぁ」 「一人で大丈夫か? 病院まで送ってこうか?」 「優しいのね。ありがとう、大丈夫よ」 「でもぉ……車椅子だと、ここから病院まで 結構大変な気が……」 「もう慣れてるわ。それに…… こう見えて私、実は歩けるの」 「は?」 「本気を出せば100メートル10秒台で走れるのよ。 見せてあげましょうか?」 志依はどんな発言でもトーンを変えないから、その言葉が本気か冗談かわかりにくい。 「わー、見てみたいです! 全力疾走するしぇー先輩!」 「乗っかるな、猶猶」 でも俺も見てみたい。 血管浮かばせて目を見開いて歯を食いしばって、汗だくになりながらストライド走法する志依の姿を。 「三人は……探偵活動中かしら」 「さすがっ! 話が早いねっ」 「人探ししてるんですけど……しぇー先輩、 聞き込みしてもいいですか?」 「可愛い探偵さんだこと。少しだけなら時間があるわ」 「えっと……屍ちゃんっていう子を探してるんです。 EDENの制服を着てたので、うちの生徒だと 思うんですけど……」 「屍…………」 志依の顔が少しだけ曇った……。錯覚だろうか。 「あまりその子には関わらない方がいいんじゃないかしら」 「何か知ってるのか?」 「いいえ、そんな気がするだけよ」 ……? どういう事だ? 「その子については、私は何も知らないわ」 「そっかー……残念です」 「志依ちゃんなんでも知ってる感じがするから、 何か手がかりが手に入ると思ったんだけどな」 「その屍ってヤツはな、どこか志依と似てるんだ。 飄々としてて、掴みどころが無いっていうか……」 「あら、そうなの? お友達になれそうね」 「実は志依の姉か妹か……そんなオチって事はないよな?」 「くふふっ……! 私の家族構成なんか聞いて どうするつもりかしら。それも調査の一環なの?」 「あ、いや……そんなつもりじゃ」 「でも気になるかもー、志依ちゃんの事」 「わかりますー! しぇー先輩はミステリアスな人 ですから、探偵としての解明欲求を刺激されますっ!」 「光栄だわ。でも自分の事を明かさないからミステリアス というのよ。ここで私が容易く質問に答えてしまったら、 それこそ私はミステリアスじゃなくなるわ」 「た、確かに……」 「探偵なら探偵らしく、フットワークを使って私の謎を 解き明かしてみる事ね。屍という人間の謎も、 そうやって調べているのでしょう?」 意地悪ではあるが、筋の通った正論だ。 「わかりました……いつか必ずしぇー先輩の姉妹の謎、 暴いてみせますからっ!!」 そしてそういう挑発が大好きな猶猶が、本来の目的を忘れて燃えている。 「一応確認するけど……志依は屍の事をホントに 知らないんだよな?」 「くふふ……ええ……知らないわ……。 くっふふふふふっ♪」 「………………」 これでもかというくらいの含み笑いで返された。 まあいい。これ以上志依を問い詰めても具体的な言葉は貰えないだろう。きっと煙に巻かれるに違いない。 「志依ちゃん、相変わらず悪役っぽい存在感だね」 「くふふ……カタストロフ計画を実行に移す時が来たら、 あなた達も私の本当の姿を知る事になるでしょうね」 「そのカタストロフ計画って、もしかして世界征服 しちゃうようなヤツですか!? 人類を補完して、 滅亡させちゃうようなヤツですか!?」 「真相は自分達の力で暴きなさい、探偵諸君」 「くー! しぇー先輩の悪の怪盗的なセリフに、 探偵としてのアイデンティティが疼きますっ!」 悪の怪盗というより、悪の科学者だな。 「なんというか、志依は“事件の黒幕”っぽい感じだよな」 「あら、その“事件”という言葉が 何を指すのかとても気になるわね」 「ん……?」 「事によっては……期招来君の予想は否定しないわ」 「………………」 ……やっぱり、冗談なのかどうなのか判別し辛い。 「でも安心しなさい。今はまだあなた達探偵諸君と 敵対するつもりはないから。調査の邪魔はしないわ。 味方のままでいてあげる」 「あ、まだそれの続きだったのね」 「一つ。味方として改めてもう一度忠告してあげるわ」 「屍という存在には、深く関わってはいけない」 「もし関わったら……その時は……」 「そ、その時は…………?」 「くっふふふふふふふふっ!!」 「………………」 行ってしまった。 「か、完璧です……! 完璧な悪役風味ですっ!」 「志依ちゃん、去り際サマになってるねぇ……! ラスボス間違いなし!」 「さすがしぇー先輩ですね! なんか燃えてきました!」 「……………………」 さっきの志依の言葉……。 なんとなく、ごっこ遊びに聞こえないんだよな。 本心を見せつけない志依だから……というのはもちろんだけど、今回はなおさら。 だって俺は、屍の事を少しだけではあるが知っているから。 志依の言う通りな気がする。 「深く関わってはいけない……か」 「……ん? どうしたの、那由太君」 「那由太先輩、早く次の場所行きましょうよー!」 「あ、ああ、今行く!」 志依が何かを知っているかどうかはわからないけど。 今この段階で、心から言える事がただ一つ。 何も起こらなければいいな―― 「……ふう」 「うーん……なかなか屍ちゃんの正体が掴めないねぇ」 その後も色々調査してみたが、成果は一向に得られず。 「……このくらいにしておくか」 「そうだね……残念だけど、またの機会に」 「うーむ……猶は諦めませんよ……!」 ん……? 「こうなったら、続きは放課後に!」 「えぇ…………」 「さっすがたりたりちゃん! そうこなくっちゃ!」 「えぇ…………」 「という事でゆっふぃん先輩、那由太先輩! 放課後また頑張りましょう!」 「えぇ…………」 「うん、目指せ名探偵っ!」 「えぇ…………」 「えぇ…………」 虚しく抗い続ける弱々しい孤独な念は。 最後まで二人に届く事は無かった―― 「…………はぁ」 ――で。 これまた、あっという間に放課後。 「調査開始ー!」 上級生の教室なんて一切臆さず、相変わらずの我が物顔で登場する猶猶。 「ホントにやるのか……?」 「もちろんです! 手当たり次第聞き込みしますよ! 猶は友達を作るための苦労は厭わないのです!」 手段は問わないと言え。 「でもさ、聞き込みって言ったって…… 俺達だけじゃ範囲は限られてるんだぞ?」 「そう来ると思って、今回から新探偵を用意しました!」 「新探偵?」 「こちらです、どーぞーっ!」 と言いながら引っ張られてきたのは―― 「え……? はい……?」 「霍ちゃんでーすっ! いえーいっ!」 「わーっ、にわかわにわかわーっ!」 「な、何……何これ、何ぃ……!?」 まったく状況を把握していない。 「なんで霍なんだ?」 「そこにいたから、丁度いいと思って」 そんな理由かよ。 「あと……いくら猶でも、いきなりがっつり迫ったら 屍ちゃん戸惑っちゃうと思うんです」 「でも、霍ちゃんがいれば、きっと屍ちゃんも 心を開いてくれるかなって。なにせ霍ちゃん可愛いし。 しかもよくきょどるし!」 「な、なんだよぅ! バカじゃんバカじゃん!」 「なるほど……! 初対面の相手に突然友達になろうって 言われたらつい驚いちゃうけど、自分よりも挙動不審の 人がいたら戸惑いたくても戸惑えない……!」 そ、そうかぁ……? 「霍ちゃんは相手を油断させるには ばっちりの存在なんです!」 「でも、霍一人が加わったところで、 やる事は変わらないんだろ? また当てもなく歩き回るつもりか?」 「確かに……まずどこを探るか決めておかないとね」 「そこで提案があります。猶が以前屍ちゃんを 見つけた場所に、今から行ってみませんか?」 「そこに行けば、屍ちゃんにまた会えるかもしれない ですし……何かわかるかもしれませんよ」 「なるほど……適当に探し回るよりは建設的か」 「確か商店街って言ってたよね? じゃあとりあえずの目的地は商店街だー!」 「おーっ!」 仲良しコンビが元気な声を張り上げ、それが出発の合図となった。 「意味わかんないんだけど……。 探偵って何……? 調査って何……?」 「頑張れ霍。俺もお前と似たような立場だ」 やる気満々のあのコンビには逆らえない。こうなった以上、どうする事も出来ないのだ。 「霍ちゃーん、出発ですよー!」 「何だよぅ……どこ行くの…………」 「っていうか……あたし先輩……。 なんで……ちゃん付け……?」 ドンマイ、霍――! 「しゅびどぅば夛里耶ちゃーん♪ しゅびどぅば猶猶ーん♪」 「ふふっ、たりたりちゃん、元気だねー!」 にこやかな顔で先陣を切る二人。 後続は、それにやや呆れ気味な俺と、なんだかんだできちんとついて来てる霍だ。 「おおっ! 見てくださいっ! 霍ちゃんってば横断歩道の白いとこだけを歩いてます! に、にわかわ……!」 「ち、違うし! たまたまだし!」 早速年下に弄られている……。 「どうもどうもー、商店街の皆さまー! 猶猶ですよー♪ 今日も元気な猶猶をよろしくお願いしまーす」 「おいうるさいぞ!」 「わーい、そこのおばちゃんから なんか貰っちゃいました―♪」 早速コミュニケーション取ってる……! 「冷やしきゅうりですー」 「し、渋い……!」 「はい、みなさんどうぞっ」 仕方ないのできゅうりをばりぼり食べながら歩いた。 「ばりばりぼりぼり♪」 「ばりぼり……ぼりばり……」 「……なんなんだ俺達は」 「霍ちゃん、ホントにきゅうりいらないんですか?」 「い、いらないしっ」 「美味しいですよ? 90%以上が水分なんですよ?」 「じゃあ水飲むし!」 「霍ちゃん、きゅうり苦手なの?」 「霍はもっと子供っぽいものが好きそうだなぁ」 「バカじゃんバカじゃん! きゅうりくらい食べれるし!」 「どうぞー♪」 「ぼりぼり……うひぃ」 嫌いらしい。 「ぼりぼりぃ……ぼりぼりぃ……くぅ~~~っ!」 「いや、そんな無理しなくても……」 事情もわからず付き合わされて、嫌いな食べ物頑張って食べて。 健気なヤツめ。 「……で、猶猶はどこで屍を見かけたんだ?」 「んーと、その日の事を思い出しますね。 まずカラオケ行って……」 「カラオケ? 一人で?」 「ヒトカラの鬼なんです、猶」 意外な一面。 「で……その後ゲーセンで遊んで……」 「その日のたりたりちゃんが遊んだルートを なぞっていくといいかもしれないね」 「じゃあまずはカラオケから、調査開始ー!」 「おいおい……」 「はーっ!! いっぱい遊びましたねー!」 「うん、楽しかったねーっ♪」 「猶猶なんか、カラオケで演歌ばっか歌うんだもんな」 「そうそう! しかも拳入れまくり! もう大笑いだよー!」 「いいじゃないですかー! 猶は心を込めて歌うタイプなんですーっ!」 「ぷぷぷ、ぷくくく……! こいつの歌う時の くわっとした顔ってば……ぷくーっ!!」 「ぷっふふふっ! わはは、わっはっはっはっ!! あっはっはっはっはっ……!!」 「……ふう。あーつまんなかった!」 珍しく霍も物凄く楽しんだようだ。 「そんな事言ったら、クレーンゲームに夢中な霍ちゃんも 面白かったですよー。瞬き一つしないで呼吸を止めて クレーン睨みまくって!」 「うん、あのね、あたし一個上……。 期招来とかゆっふぃんとかと同じクラスだよ?」 「……とまあこんな感じで楽しい時間でした! ゆっふぃん先輩と、那由太先輩と、霍ちゃんと、 たくさん遊んで。いい思い出になりましたよ」 「一応先輩なんだけどなぁ」 なんか本来の目的と大きくずれている気がするが。 「で、これからどうするんだ?」 「んー、猶はその後に屍ちゃんを見かけたんです。 ちょうどこの辺りで……」 「この辺り……」 猶猶が指差した方向に視線を向けると―― 「――っ!?」 「ん? 那由太先輩、どうかしましたか?」 「お、おい、今屍がそこ歩いていったぞっ!?」 「ええっ!? 本当ですか!?」 「誰もいなかったように見えたけど……」 「いや、何言ってんだよ、あんなはっきりと……」 「ははぁ……そう言って猶達を驚かせようとしてるんじゃ ないですかぁ? まったく、いやですね那由太先輩。 やり方が古典的です」 「そうじゃないって! 本当に見えたんだ!」 「……ホント?」 「嘘吐く必要無いだろ!」 「た、確かに……」 「とりあえずあっちに行ったみたいだ、追いかけよう!」 いつしか俺も夢中になって屍の姿を追い求めるようになってしまった。 しかし―― 「はぁ……はぁ……はぁ……」 近辺を探索しまくっても、屍を見つける事は出来なかった。 「おかしい……こっち側に歩いていったはずなのに……!」 「はぁ……はぁ……んもう、 見間違いじゃないんですかー?」 「そんなわけないっ!」 あの独特の、静かで冷徹な空気感。間違うわけがない。 そして何より、俺は屍と目が合ったんだ。 見つけられるなら見つけてみろと言わんばかりの挑発的な視線で……。 俺を試すつもりなのかなんだか知らないが、生意気な態度じゃないか。こうなったら絶対に見つけてやる。 「この辺りにいるのは間違いないんだ。 ここからは二手に分かれないか?」 「おお、なんか本格的ですね!」 「屍の顔を知ってるのが俺と猶猶だけだから……。 御伽は猶猶と一緒に、向こう側を探してくれ。 俺は霍と一緒にこっち側を探す」 「うん、わかった。1時間後にこの場所で待ち合わせよう」 「よし、俺達も行こう、霍」 「なんかわけわかんないんだけどっ! 屍って誰だよぅっ!!」 「うーん……」 那由太先輩と分かれた猶達は、路地裏までやって来た。 「こんなとこにいるはずないよね……」 「ですよねえ。那由太先輩が見たのって、 本当に屍ちゃんだったんでしょうか……」 疑わしいですが、ちゃんと信じてあげなきゃ。 だって那由太先輩は、猶のワガママに付き合ってくれてるんだから。 ううん、那由太先輩だけじゃなくって、ゆっふぃん先輩も。ああ、あと霍ちゃんも。 屍ちゃんと友達になりたいっていう猶の一心のために、皆が頑張ってくれている。それなのに、猶が先輩を疑うなんて失礼だよね。 「……ねえ、たりたりちゃん」 「ん? どうしました?」 「たりたりちゃんは、どうして屍ちゃんと友達に なりたがってるの?」 薄暗く、人気のない場所で、ゆっふぃん先輩が静かにそう聞いてきた。 「誰かとお友達になりたいって気持ちに 理由なんて必要ありませんよ」 「でも、たりたりちゃんはお友達たくさんいるでしょ? それなのに、どうして……」 「お友達は多いに越した事はありません」 「それは、そうだけどさ……。どうしてこんなに 屍ちゃんにこだわるのかなって」 「……………………」 「うーん…………」 「寂しそうに、見えたんです」 隙間風が少しだけ吹きすさんだ気がする。 「寂しそう……? 屍ちゃんが?」 「はい……。姿を見たのはほんの一瞬でしたけど……。 その時の表情は……なんというか……とても孤独で……」 「誰かを、大切な人を探し求めている感じでした」 「大切な人を……」 「屍ちゃんがどうしてそんな顔をしていたのか、 猶にはわかりません。そもそも見間違いだった のかもしれないし……」 「でも、なんだかあの表情が忘れられなくて。 助けてあげたい、手を差し伸べてあげたい。 そう思ったんです」 「だから、探してます。友達になりたがってます。 きっと仲良しになれると思うんです」 「……………………」 変な……話だったかな。 感覚的な理由で、わかり辛かったかもしれない。ゆっふぃん先輩が求めているような答えじゃなかったかもしれない。 でも、ゆっふぃん先輩もきっとわかる。同意してくれる。 あの……屍ちゃんの寂しそうな瞳を見たら、きっと―― 「え…………?」 今……足音……? 「聞こえたよね、はっきり……!」 「はい、向こうの方から……」 どうして足音が……? ここには誰もいないのに。何もないのに―― 「わ…………」 「……………………」 いつの間にか―― 「え…………あ…………」 目の前にいた―― 「屍…………ちゃん…………?」 「私を、探していたの?」 「屍ちゃん、ですよね……」 「この人が…………」 路地の奥から出てきたのかな。 ううん、でも向こう側には誰もいなかった。確かに誰も……。 どこから? いつ? どうやって? わからない。不思議。奇妙。 でも、それよりもまず―― 「屍ちゃんっ!」 会えて良かった―― 「えっと、ようやく会えましたっ! あなたの事、ずっと探してたんですよっ!」 「はじめまして、猶猶って言いますっ。 あ、実ははじめましてじゃないんですよ? 覚えてますか? 猶の事」 「前に一度、商店街ですれ違った事があるんです。 あれは……歓迎会の後だから、1週間前の事かな?」 「……………………」 「あ、お名前は那由太先輩から聞きましたっ。 期招来那由太先輩……知り合いなんですよね? 猶も知り合いなんですよっ」 「期招来…………那由太…………」 「はいっ、EDENで、猶の一個上の先輩なんですっ。 那由太先輩に屍ちゃんの事相談して、一緒に探して もらってるんです」 「あ……今はここにはいないんですけど……。 きっとまだすぐそのあたりに……」 「あなたは――」 「はい?」 「あなたは、どうしてそんなに不安定なの?」 「え…………」 「…………っ」 何の……話だろう? 「あ、えっと……猶の事は猶って呼んでくださいっ! 猶も勝手に屍ちゃんって呼んでるんで。 一緒に仲良く呼び合いっこしましょうっ」 「男? 女?」 「猶は見ての通り女の子ですよー! あのですね、猶が屍ちゃんに会いたかったのは 理由があって! 猶は屍ちゃんのお友達に――」 「女だとしたら、とても不安定」 「……っ」 どういう意味……? さっきから少し噛み合ってない感じ。 屍ちゃん、ぼんやりとしてる。 それでいて猶の事を全て見透かしているような……。 「友達? 少し違う気がする」 「ほ、本当ですよっ! 猶は屍ちゃんとお友達に なりたくて、こうして――」 「嘘言わないで。もっと別の狙いがあるくせに」 「そ、そんな事は…………」 もしかして……。 ――気付いてる? 「友達だなんて……都合のいい言葉……」 だとしたら……どうして? 初対面なのに、気付くわけがない。 「私に、その気はないわよ」 今まで誰にも明かしてないのに――! まだ、誰にも――! 「女と言うわりには、まるで男のようね」 気付かれてる――! 「お、男と言えばですね、こっちの人はゆっふぃん先輩 って言って、実はこう見えて男の娘なんです……! ――って、あれ……?」 誤魔化すつもりでゆっふぃん先輩を紹介しようと振り向いたら―― 「……ゆっふぃん先輩…………?」 いない……。 どこにも。 跡形も無く。 「あ、あれ……さっきまでここにいましたよね? どこ行っちゃったんでしょう……あ、あれぇ……?」 屍ちゃんを見つけたから、那由太先輩にその事を知らせに行ったのかな……。 それならそうと言ってくれればいいのに。 何も言わず。足音も立てずに。 まるで存在を薄くしてそのまま消失したかのように、静かにいなくなってしまった。 「“あなた達二人”……どちらも不安定だわ……」 「性別が……不安定……」 「……っ!」 「でも、“二人”だなんて言い方、 私はあまり認めたくない」 「“あなた達”には、それなりの怨みがあるのだから――」 「わっ……!?」 突然の、白光―― 理性と記憶が、掻き混ぜられていく――! 「はっ、はっ、はっ…………」 あれ……? え、えっと…………。 「誰も…………いない…………」 その場に残されたのは、猶一人だ。 「う、嘘……屍……ちゃん……?」 さっきの光は何……? 屍ちゃん、どこ行っちゃったの……!? 「……………………」 これから、どうしよう……。 屍ちゃんには一応会えた。その事を那由太先輩に報告するべきかな……。 でも、ここにいないゆっふぃん先輩が今、那由太先輩のとこに向かってるのかも。 それにそもそも、ここにもう屍ちゃんはいない。 会えただけで、“本当の”目的はまだ達成できてない。 「屍ちゃん…………」 なんか……色々気付いてたっぽい……。 どうして知ってるんだろう? 猶の秘密。 この奥から、誰かの手招きを感じる。 那由太先輩と合流するよりもまず、屍ちゃんとしっかり話し合った方がいい気がする。 友達になりたいっていうのは、本当だよ。 「ゆっふぃん先輩は……」 きっともう、那由太先輩のとこだよね……。 じゃあ、猶は気にせず、もう一度―― 彼女のところへ―― 「うーん……やっぱりいない」 通りをスーッて歩いていく姿を、確かに見たんだけどな。 「んー、期招来ぃ、なんだよぅ……。 あたしわからんちん……」 「ああ、ごめん。お前も大変だよな。色々巻き込まれて」 「そう思うならちょっとは説明しろよぅ」 「えっと……俺達は今人探しをしてるんだ」 「……屍?」 「あれ、なんで知ってんだ?」 「あんた達がさっきからずっと言ってるじゃん。 屍はどこだ、とか、屍を見つけた、とか」 「ああ……そっか」 ふむ……。 案外こいつが情報を握ってたりして。 「霍は知ってるか? 屍って女の事」 「知るわけないじゃんか」 まあそりゃそうだよな。 「なんでそいつ探してんの?」 「猶猶が友達になりたいんだと」 「友達……」 「せっかくだし、お前も屍と友達になってみたらどうだ? お前友達少ないだろ?」 「ひいっ!? ハッキリ言われたぁっ!!」 でも、屍と霍ってあんまり相性良さそうに思えないな。 それは霍だけじゃない。多分猶猶も。 そもそも屍と仲良く出来るようなヤツなんているのか……? 「……どんな子なんだよぅ」 「嫌味っぽくて、いつも相手を試してるかのような態度で。 何でも知ってる口調で、上から目線なんだ」 「黒蝶沼志依っ!!」 「志依はそれを楽しんでる。善悪の境を しっかり見極めてる。屍にはそれが無いんだ」 「えー、そうかなぁ。黒蝶沼、いつもあたしの事 からかってばっか……」 「それは霍がからかい甲斐があるからだよ」 「ふん……」 「志依の事嫌いか?」 「………………」 「…………別にー…………知らんし」 俺と目を合わせてくれなくなったので、この話題は止めにしておこう。 「まあ、いずれにせよ屍を見つけないとな。 友達作りはそれからだ」 「あ、あたしは別に、そいつと友達になるつもりは 無いんだからねっ!」 「それは会ってみてから決めろ」 「……………………」 「……期招来ー?」 「……強いて言うなら――」 「ほ?」 「……静かなんだよ。屍は」 「ん……?」 「誰よりも静かで、誰よりも生気が無い」 「死んでるんじゃないかって思う」 「期招来…………?」 あの時―― 「だーれだ?」 俺の目を塞いだ手は、ものすごく冷たかった。 体温など無かったんだ―― 不気味な場所に辿り着いた。 廃墟みたいなビルの一室。 もう使われてないらしく、すっかり老朽化しちゃってる。 「………………」 猶……どうしてこんなとこに来たんだろう。 自分でもよくわからないけど、足が勝手に……。身体が勝手に、この場所へ導いた。 まるでここに何かがある事を、最初から把握してるかのように……。 「……屍、ちゃーん…………」 一応呼びかける。返事は無い。 自分の声が永遠にこだましちゃうんじゃないかってくらい、静かだ。 商店街からそこまで離れてないはずなのに、人の気配も、物音も、まったく感じられない。 ここだけ……現世から切り取られたような、そんな孤独感。 孤独―― あの時の屍ちゃんの表情も、孤独―― 「……っ」 今、向こうから何か聞こえたような……。 静寂過ぎるせいで、どんな小さな音でもすぐに反応出来てしまう。 「扉……?」 よく見ると、壊れかけた壁に紛れて、一枚の扉がある事に気付いた。 錆びてないみたい。動くかも……。 「あっちに……屍ちゃんが……?」 行ってみよう。勇気を出して。 屍ちゃんに聞いてみるんだ。屍ちゃんの事。猶の事。 もし猶の目的が達成できなかったとしても。 “せめて”……友達として―― 朽ちた扉のノブに手をかけて、そのまま開くと―― 「――ひっ」 想像していなかった光景が、そこに拡がっていた。 「んっ、はっ、あぁぁっ……あふっ、あっ、あんっ……!」 え…………!? ゆっふぃん先輩…………!? なんで……? え……? 何……これ…………? 「はっ、くぅ、んっ、んっ、んっ…………!! あっふっ、ひゃ……あっ、あぁんっ…………!」 部屋の中央で、足腰をふら付かせながら。 手で……扱いている。 あれを。 男性器を。 「はぁぁん……や、だぁ……もう、んっ、んんっ……!」 え、これって……。 「はぁっ……あふぅ、手、止まんない……くひぃ……!」 オナニー……!? 「嘘…………」 「はっ、はっ…………ひいっ!? たりたりちゃんっ……!?」 「あ…………あっ…………ひっ……」 ゆっふぃん先輩と目が合った。 猶がいる事に、ようやく気付いたんだ。堂々と扉を開けて入って来たのに。 今まで気付いていなかったという事。それほどまでに、自慰に夢中だったという事。 「やあぁ……ひぃん、ダメ、ひっ……んっ、くぅ! 見ないでぇ……ひっ、ひぃっ……!!」 手を上下に動かしながら、そう訴えかけるゆっふぃん先輩。 「ゆ、ゆっふぃん先輩、こんなところで……あ、う……、 な、何を……」 我ながらおかしな事を聞いてるなと思った。 何してるかなんて、一目瞭然なんだもん。 オナニーしてる。でもなんで? 「見ちゃ、やだってばあ……ひっ、んっ、んっ、んっ! あふっ、ひぃぃ…………!」 ゆっふぃん先輩、顔真っ赤だ……! あ、当たり前だよね……。こんなとこ見られたら、誰だって恥ずかしいに決まってる。 目を背けた方がいいのかな。いや、そもそも、ゆっふぃん先輩がその行為を中断すればいいだけの話じゃ……。 「あっ、あっ、あっ、あっ、あうっ、あうっ、あうっ、 あうっ、あうっ、あうっ、あうっ、あうっ、あうっ!」 手を止めない。むしろ加速させている。 猶に見られてるのに。なんで? 男の人の自慰ってそういうものなの?こういう時、猶が気を遣って見ないようにしないといけないの? 男の人のあそこの事情なんて猶にはよくわかんないけど……。 確かな事が、一つ。 ゆっふぃん先輩は路地裏で消えた後、那由太先輩の元へ向かったわけじゃなかったんだ。 ここで……こんな事してたんだ。 「んっ、んっ、んっ、んっ、や、あぁっ……んっ、んっ! シコシコっ、止まんないよぉ、ひぃっ、んっ、んっ!!」 「え、えっと……ゆっふぃん先輩、 とりあえず落ち着いてくださいっ……」 「む、無理ぃ……ひいっ、無理なのぉ……!! シコシコ、止めらんない、どんどんシコっちゃうぅ……」 「ひえぇ…………」 猶に見られてるの、お構いなしだよぉ……! 「と、止めらんないってどういう事ですかぁ……!? そ、そういうのしたくなっちゃったのはわかりました けど、いったん手を止めてくださいよっ……!」 「んっ、んっ、んっ、んっ、む、無理ぃ……!! おちんちん止まんないいっ、オナニー……、 んっ、オナニー止まんないのぉ、ひいっ、ひいっ……!」 そ、そういうものなのでしょうかっ……!? 男の人って、一度催すとこうも制御が利かなくなってしまうものなのでしょうかっ…………!? 「はぁっ、お、お願いっ……止めてっ……!! んっ、私のおちんちん、止めてぇっ、ひぃ…………!」 「そ、そんな事言われてもっ、猶には出来ませんっ……! それから手を放せばいいだけの話じゃないですかぁっ!」 「んっ、あひいっ、ひっ、止めてっ、ひっ…………!! お願いだからっ、もう、ひっ、ひっ、おちんちん、 ひっ、止めてよぉっ……ひぃ…………!!」 「だから猶には――」 ――背筋が凍った。 ――いたんだ。 いつからかわからない。 今さっき? だとしたらどうやって? 部屋の扉は一つしかないのに?その扉は、入って来たばかりの猶の背中にあるのに? ――ずっと前から、いたんだ。 ゆっふぃん先輩の隣で、ずっと―― 「ふふふっ…………」 「止めてよっ、屍ちゃん…………ひっ、くひぃっ! お願いだから……もう、ひっ…………んひっ!」 「ダメ」 「あっふっ、くはぁっ!! あっ! あっ! あっ!! おああっ!! おぁっ、おぁっ、おぁっ!?」 端的な否定をきっかけに、ゆっふぃん先輩の手がより乱暴に往復し始めた。 「もっと、歪に」 屍ちゃんの声は恐ろしいほどに静かで、冷たい。 「もっと、醜悪に」 恐ろしいほど……? 「だってあなたは、“あなた達”は不安定なんだから」 そう言えば、すっかり忘れていた。 こんな薄暗い廃ビルを一人で散策して。 よく怖くなかったな。猶、怖いの苦手なのに……。 「んっ、ダメだよぉっ、たりたりちゃんが見てるっ! ひっ、こんなの……ダメだってぇっ、くっひぃっ!」 なぜか、平気だった。恐怖という感情を忘れていた。気にせず一人でここまで辿り着いてしまった。 きっと屍ちゃんに導かれたせいだ。 “これ”を見せつけられるために。 今になってようやく。 恐怖が足先から頭にかけて駆け巡った―― 「ひ、ひぃ…………あひっ、ひぃ…………!!」 「たりたりちゃん、お、お願い……見ないでぇっ……! くっ、んっ、はっ、はっ、はっ……!」 視線が動かせない。 ゆっふぃん先輩が恥ずかしがってるのがわかるから。見ない方がいいって考えてるはずなのに。 でも、顔が、眼球が、動かない。 初めて見る男性器への好奇心のせい……? それとも、“それ”すらも屍ちゃんが――? 「ふっ、はふぅっ、お、おひっ、おひいっ!! おちんちんシコシコ、止めらんないよぉっ!! シコシコぉっ、ひいっ、シコシコぉっ!!」 「たりたりちゃんが見てるのにぃ……ひっ、は、恥ずかし、 ひっ、恥ずかしいよっ、おちんちん見られて、ひっ、 恥ずかしいのに、シコシコしまくっちゃうよぉっ!!」 可愛くて優しいゆっふぃん先輩のイメージからかけ離れた異物が、その身体の中央でそそり勃っている。 「んっ、おちんちん、ひっ、おちんちんシコるうっ!! シコシコっ、ひっ、オナニーしちゃってるのぉっ……! 恥ずかしっ、ひっ、恥ずかしいっ…………!!」 ゴツゴツした硬そうなものを握りながら、必死に扱いてる。 切なげな表情を浮かべて。恥ずかしそうな声を漏らして。夢中になって手を前後に往復させている。 「オナニーっ…………んひぃ、オナニーっ……ひぃっ! 見られてるのにぃ、私、オナニーぃ……ひぃぃんっ……」 先端の丸っこいところ(亀頭って言うんだっけ?)が、手のリズムに合わせて皮から出たり入ったりしている。 手を引くと、頭がニュッと現れて。手を押すと、頭がミュッと皮に包まれる。 「おひいいっ、おっ、くっひっ!! オナニっ……ひっ、 ダメなのに、恥ずかしいのにっ、お、オナニっ、んっ、 オナニっ、オナニっ、オナニっ、オナニっ…………!!」 「おちんちん気持ちいいのぉっ……オナニ~ぃぃ……!! 勃起するぅ、あふっ、おちんちん、勃起、くひいっ!! 止まんないよぉっ、オナニーオナニーオナニーっ……!」 あれが、男性器……。 猶にはない、男の人にしかないもの……! 普段仲良くしてるとつい忘れがちになるけど、こうして目の当たりにして改めて痛感する。 ゆっふぃん先輩は、男の人なんだ……! 「ああぁぁっ……おちんちん来たぁぁ…………!! 精液、昇って来たぁ…………あぁぁっ、あぁぁっ……」 「出ちゃうよぉぉ……イっちゃうよぉぉ…………!! あっ、あっ、これ、おちんちん、イク感じのヤツっ…… 私、イっちゃう、あぁぁぁぁああぁぁぁあ………………」 気持ちよさそう。あれを扱くと、どんな感覚になるのかな。 「あぁぁぁ……あっ、あっ、あっ……イクっ……!! イクぅ……あぁぁあ……イクイクイクぅ…………!! おちんちん、イクうっ……ひっ、イクぅぅぅ……!」 ゆっふぃん先輩のあんな顔、初めて見た。あんな声、初めて聞いた。 あれがおちんちんの力なんだ。 男の人を、こんなにもふにゃふにゃにさせちゃう。 たった一本の棒で、恥じらいを気にする余裕なんて忘れちゃうくらい、快楽に夢中になっちゃう。 「おちんちん~~っ……おちんちん~~っ…………!! あ~~~っ、あ~~~っ、イクイクイク~~~っ……! あひ~~っ…………い、イクイクっ、あぁぁ…………!」 欲望の詰まった、肉の棒。 「イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ! イクっ!」 初めて見た。おちんちんも、それに弄ばれる男の人も。 「――イってらっしゃい」 そして……多分、傍でそれを弄んでいる女の人も。 「あっ、あっ、あああああああああああああっっっ……! お゙っっ…………っひいい~~~~~~~~っっっ!!」 「あっ、あひいっ、ひいいっ、んっひいいいいいっ!! おちんちん~~っ、お、おちんちん~~~~っっ!!!」 「う…………わ…………!!」 すごい……!! 真っ白い液体が、ビュクビュクーって……!! 「やっ……精液来てるぅ、昇って来てるうぅ…………!! イクっ、イクイクうっ、射精っ、射精しちゃうよぉっ!」 「見られてるのにっ、精液出ちゃうっ…………!! おちんちん気持ちいいっ、オナニー……ひっ、 オナニー気持ちいいっ、オナニーっ…………!!」 あれが精液……!! ドロドロで、濃厚で……!! あんなものが、人間の体内で生成されてるなんて……!! 「まだまだ」 「おちんちん、まだイクうっ、ひっ、きゃふっ……!! 精液まだ来るっ、溢れて来るうっ、んっ、んっ!! あっ、あっ、あっ、あっ、あっ…………!!」 「ふふふっ……」 屍ちゃんはゆっふぃん先輩に一切触れていない。 にもかかわらず、まるで糸で操っているかのように、ゆっふぃん先輩の自慰を使役している。 「んっ、んんっ……もう止めてよぉ…………!! ひいっ、お願い、もう……おちんちん、 イカせるの……止めてぇ……ひぃ…………!」 どういう事? なんで……? 「恥ずかしいからぁ……おちんちん止めてぇ……!! シコシコ、もうらめなのぉ……ひぃん…………」 まるで魔法……! 人を操作して、堕落させて、快楽に溺れさせる魔法……! 「はぁ……はぁ……はぁ…………! と、止まった……はぁ……はぁ…………」 「ゆ、ゆっふぃん先輩…………」 「た、たりたりちゃん……ごめんね…………。 はぁ……はぁ……驚いた……よね…………」 「え、ええ……そりゃあもう……かなり……」 「な、なんか……身体が勝手に…… こうなっちゃったんだ……」 「どういう、事ですか……」 「私にもよくわからないよぉ…………」 泣きそうな声。 先ほどの精液を制服に付着させながら、ゆっふぃん先輩は困惑の視線を屍ちゃんに向けた。 彼女は―― 「まだまだ」 「んっひいいっ、おっほおおぉおおおおぉおぉおっ!!?」 やっぱり静かな、冷たい声で。 ゆっふぃん先輩の自慰を再び煽ったのだった。 「ええっ!? おっ、おっほっ!? なんでっ……!? んひっ、ひいっ、にゃんでぇっ……!?」 「今イったのにっ、ようやく射精したのにぃっ!! にゃんでまだ扱かせるのっ、オナニーもう終わり だよぉっ、ひっ、ひいっ!!」 射精を遂げたペニスは萎むどころかさらに真っ赤に膨らみ、その男らしさを示し続けている。 「屍ちゃんっ、もう終わりにしてぇっ、ひいっ、あひっ! オナニーもう終了、ひいっ、シコシコもう店仕舞いっ! ……おっ、おおううっ!? おううっ!?」 「………………」 屍ちゃんは何も答えない。 沈黙したまま、じっとゆっふぃん先輩を眺め、辱めている。 「んっ、あひっ、おっ、おっ、おっ、おっ、おっ……!! おっひっ、んほおっ、おっ、おっほおぉううっ!?」 そのせいで、部屋に響くのはゆっふぃん先輩の奇声と、ぐちゅぐちゅという手コキの水音ばかり。 「う…………ごくっ」 猶の心臓の音、聞こえてないよね……? あんな激しい痴態を見せつけられて、生唾呑み込みながら心臓バクバクさせてるの、誰にも気づかれてないよね……? 「はぁっ、はぁっ、あんなに出したのに、もう勃起……! こんなに、おほっ!? 勃起ぃ……!? ひいっ……!」 「にゃんでなのぉ……いつもなら、ひっ、一回の射精で、 ちんこすぐ落ち着いてくれるのに……ひっ、ひっ……! どうしてこんな……ひいっ……!」 「勃起、ぷりっぷりぃ……私のちんこ、おかしいよぉっ! おかしくなったぁっ……! 屍ちゃん、ちんこ変に しないでぇっ…………!!」 女の猶にはおちんちんの知識なんて皆無だけど。 さっきの射精には、本来なら欲望を発散出来るだけの十分な威力が備わっていたらしい。 「おっひっ、おひっ! おおっ、おおうっ…………!! オナニーっ……オナニーっ!! オナニーっ!! オナニーっ! オナニーっ! オナニーっ!!」 「勃起止めらんないぃっ、扱けば扱くほど、おっ、ほっ!? 勃起しちゃううっ、もっこりしちゃううっ!! オナニーバカになるうっ!!」 それなのに、あの男根の屹立……!自分の身体の異変に戸惑うゆっふぃん先輩のあの表情……! どうやらこれは、異常事態なんだ。 そして、その原因は間違いなく―― 「なっちゃえ。オナニーバカに」 「ダメだよぉっ、そんなのなりたくないいっ……!! こんな、お猿さんみたいにちんこシコシコっ……!! いけないんだよぉっ、ひいっ、おひいっ!!」 言葉とは裏腹に、その手のスピードは緩まない。 「んっ、ちんこぉっ、ちんこシコシコぉっ、ひいっ!! ち、ちんこ、ちんこシコシコぉ、シコシコちんこぉっ!」 方法も目的もわからないけど、屍ちゃんがそうさせてるんだ。 隣で愉しそうにニヤついてるあの顔がそれを物語ってる。 「もう許して、オナニー終わりにしてぇ! こんなオナニー、私したくない~……おひっ!? 見られながら……公開オナニーショーなんてダメぇ!」 「んっ、ひっ、ちんこもうやだあぁっ、あひいっ!! 勘弁してよぉっ、恥ずかしいんだよぉっ、ひいっ!! ちんこぉっ、おっ、おおうっ、ちんこおっ……!!」 ゆっふぃん先輩は涙を浮かべながら、無理矢理手淫を強要されている。 可哀想だけど……猶にはどうする事も出来ない。 目を逸らす事すら出来ないんだ。なぜか……直視してしまう。 ゆっふぃん先輩の淫らなその姿を。 「わっ、ひっ!? ん勃起いいんっ、ん勃起いいんっ!? ちんこもっと勃起いいいんっ!! ひいいんっ……!?」 「わぁっ…………!」 ムクムクと膨れ上がるペニス。 人間の器官とは思えない迫力っぷりに、猶はただただ目を見開くばかりだ。 「あひいっ!? や、気持ちいいっ!! オナニーしゅご、 ひっ、ノってきたぁっ、ちんこノリノリになってきたぁ、 ひいっ、ひいんっ!!」 「もうやなのにいっ、見られて恥ずかしいのにいっ、 一回イってもう充分なのにっ! ちんこまだ勃起っ、 勃起いんっ! 勃起いんっ! 勃起いんっ!!」 ゆっふぃん先輩、股間の隆起に戸惑ってるみたい。自分で抑制出来ないんだろうな……。 「ぼっきっきダメだよぉっ、ダメなのにぃっ!! あっ、あひっ、んひっ、んっ、んっ、ノリノリオナニー しちゃうっ、私っ、スケベになるうっ!!」 「あひいっ、あっ、あっ、きもちーーっ!! ちんこきもちーーっ、きもちーーのーーっ!! あひーっ、ひーっ、ひーっ! ひーひーひーっ!!」 「………………!」 ゆっふぃん先輩…………。 目が……蕩けてる……! 目がクルクル回って、あらぬ方向を巡って……! そのまま、トロンってふやけて、滲んで……! 「おほーっ!? おほーっ!? おほっ、おっ、ほーっ!? シコシコーっ、ち、ちんこシコシコーっ!! たまんないよこれぇっ、ちんこーーっ、おーーっ!!」 今までの羞恥が全部丸ごと、快楽に変わったみたいに。 思いっ切り、善がってる――! 「ひっ、んひーっ! ちんこきもちーーーっ!! オナニー気持ちーっ! ひいっ、オナオナっ!! ちんちんっ、ちんちんちんーーっ!!」 大胆に。遠慮なく。 「シコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコシコっ! オナニーオナニーオナニーオナニーオナニーオナニーっ! 気持ちいいよぉ、気持ちいいよぉ、気持ちいいよぉっ!」 他人の目なんて気にせず。全力で。 「ぁぁあぁぁあぁぁぁああぁぁぁぁあぁ~~~…………! ちんこシコシコっ、ちんこシコシコっ、ぁぁぁ~~……! おちんちん、おちんちん、ちんちんちんちんちんっ……」 堕ちていってる――! 「――夛里耶猶猶」 「にゃっ……!?」 「よく見ておきなさい。由芙院御伽のこの浅ましい姿を」 「ふぇ……ひぃ…………」 なんで猶にそんな事言うの……!? なんか、屍ちゃん、意地悪……! ってか、そもそも……猶の名字とか、ゆっふぃん先輩の本名とか……ちゃんと紹介したっけ……? 「おおおぉおぉおっ!? おほおぉおおっ!? ちんこ暴走ぉぉっ! 私のっ、私のちんこおおっ!! 勃起いっ、勝手に……ひいっ、ひいいいいっ!!」 猶の思考を妨げるように、嬌声が耳をつんざいた。 「この痴態も、あなたの一面なのだから」 え……? あなた……? 今猶に向けて言ったの? じゃああなたって猶の事? この痴態って、今のゆっふぃん先輩の状態って事だよね? 「おちんちんちんちんちんちんちんっ…………!! ぁぁぁぁっ、あぁおぁおあぁおあおぁおおあぁっ……! オナニーオナニーオナニオナニオナニオナニオナニ……」 今こうしてペニスに善がってるゆっふぃん先輩は、猶のもう一つの側面って事……? 「シコシコちんちんっ! シコシコちんちんんんっ!! オナニオナニオナニオナオナオナオナオナおなおなおな おなおなおなおなおなお猶猶猶猶猶猶猶猶猶…………!」 「うひぃ……!」 怖いよ……! こんなゆっふぃん先輩、見たくない……! 「やめて、ください……! 猶の名前、呼ばないで……!」 「イクイクっ、またちんこイクううっ!! あはあっ♪ オナニーでイクっ、オナオナでイクううっ!! ちんこぉっ、ちんこイクのおっ、あへへぇぇっ♪」 理性なんて一つも感じられない。 ぐにょぐにょで、くちゃくちゃだ。 「ちんちん~~っ♪ おひっ、おっひいっ!? おひっ! シコシコぉっ♪ シコシコおっ♪ シコシコおおおっ!! あひっ、あひっ♪ おっ、おっ、んほおぉおっ♪」 ゆっふぃん先輩の顔も、声も、目線も、足元も。 もうふにゃふにゃでぐちゃぐちゃだ。 「おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪」 「ちんちんんんっ♪ ちんちんんんんっ♪ おひっ!? おうっ、おおっ♪ ちんちんきもちーっ、ちんこーっ♪ 勃起ちんこーっ♪ おほおっ、おっほほっほおぅっ♪」 笑ってる……? いつもの可愛い笑顔じゃない。 どこか人間味の無い、まるでゾンビのような空虚さ。 「シっコシっコぉっ♪ シコっシっコぉっ♪ おっ!? おおんっ、おひいっ!? ぼ、ぼぼ、勃起いっ♪ もっと勃起いっ♪ んへへへぇっ、ちんちんシコシコぉ」 笑顔なのに怖い。 ゆっふぃん先輩、怖いよ……!!いつもと違って可愛くないよ……!! 「あっ、あっ、イクっ、イクっ、あっ、あっ、あっ……! ちんこイクううっ、あっ、あっ、私、またオナイキする、 ひっ、あっあっあっあっあっあっあっあっ…………!」 「止めて、ちんこ止めて、このままじゃ、ひっ、特大射精、 ひいっ、来ちゃうっ、あっ、シコシコっ、あっ……ひっ、 ダメダメえっ、ひいっ、ホントにイっちゃうぅうっ!!」 欲望に負けた人って、あんな顔になるんだ。 狂気的だ。恐ろし過ぎる。 「あうっ♪ あうっ♪ あうっ♪ あうっ♪ あうっ♪ あうっ♪ あうっ♪ あうっ♪ あうっ♪ あうっ♪」 まるでアシカのように鳴きながら、リズムを刻んでいる。 「おほおぉおおぅぅぅっ♪ んおおっ♪ んおおっ♪ んおおっ♪ んおおっ♪ んおおっ♪ んおおっ♪」 ここにいるのはゆっふぃん先輩じゃない。 「ちんこぉ♪ ちんこぉ♪ ちんこぉ♪ ちんこぉ♪ ちんこぉ♪ ちんこぉ♪ ちんこぉ♪ ちんこぉ♪」 性欲の化け物だ。 「イクっ♪ イクっ♪ ちんこイクっ♪ あひっ、ひっ! おちんちんイクぅっ♪ イクイクイクイクイクイク……」 そうなってしまったのは全部―― 「ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、 ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、 ひいぃぃぃいぃいぃいぃぃ~~~~~~………………」 彼女のせい―― 「――もう一回、イってらっしゃい」 「ひいぃいぃ~~~~~~~~~~~~~っっっ!!? おっ、おひいいっ、おひいいっ!!? ひいっ!!? ひっ、ひぃぃぃぃ~~~~~~~~~っっっ…………!」 初めて聞く、ゆっふぃん先輩のこんなにも情けない声。 「おぉぉ~~~~~~~~~~~~っっ!? おおっ!? おっ!? おっ!? おおぉぉおぉおぉぉおっ……!? おぉっ、おぉおおぉおぉ~~~っ……ぉぉぉおぉっ!?」 下品で、汚くて、いつもの先輩の印象からかけ離れた、あまりにも醜い声。 「ザーメンまだ出るうっ!! おっ、おぉぉぉっ!? 精液、止まんにゃひっ、嘘おっ!? ひいっ!? 私のおちんちん、どうなってるのぉぉっ!?」 「おっ、おおぉっ!? おっほおおぉぉぉぉっ……!? 溢れる溢れるっ、にゃんでへえっっ!? おほっ!? ドピュドピュ止まってぇっ、んひひぃぃんっ!!」 あの華奢な身体のどこに、あんな量の白濁液を蓄えていたのだろう。 人間の身体って、瞬間的にこんなにも夥しい体液を分泌できるものなの……!? 「ひいっ、ひいっ……いつものオナニーと全然違うっ……! ひいっ、何これえっ、イキ過ぎ、出過ぎっ、ひっ、 気持ち良過ぎぃ……ひぃ…………!!」 「こんなオナイキ味わったら、ひっ、もう、私……ひぃ、 普通の手コキじゃイケなくなるぅ……! ひっ、ひっ、 あっ、あっ、あっ、あっ、あっ…………♪」 がに股になって腰をピクピク震わせて、最後の一瞬までその余韻に浸っている。 見てるだけでわかる。絶対に気持ちいいんだ、あれ。 射精とかした事無いけど、どう見ても気持ち良さそうだもん。 「ひっ…………ひっ……おっ、おっ、おっ……♪ おふぅ、ちんこぉ、まだ、ピクピク……おっ♪」 「ひっ、ひっ……気持ち、いい……よぉ…………ひぃ♪ ドクンドクンって……んほっ!? お、おぉぉ……♪」 「……………………」 屍ちゃんは、何も言わずにゆっふぃん先輩から視線を外すと―― 「あ…………あぁぁ~~~~……ひぃ~~………………」 まるで魔法が解けたかのように、ゆっふぃん先輩の身体がその場に倒れ込んだのだった―― 「う…………ぁ………………」 「――ゆ、ゆっふぃん先輩っ!」 自分の意識よりも先に身体が動いていた。 何よりも早く、ゆっふぃん先輩の元へ駆け寄っていく。 「だ、大丈夫ですかっ!?」 「はっ……はっ……た、たりたり……ちゃん……!」 まるでフルマラソンを走り終えたかのような消耗顔だ。 「だ、大丈夫……じゃ、ない……かも」 「そ、そりゃあそうでしょうとも……! こんなに出したんですから……!」 床には、飛び散った白濁がところどころに水溜まりを作っている。 全部この身体から放たれたものだ。さぞや減量してるに違いない。 「え、えっと……男の人の身体の事は よくわかりませんけど……」 「何か飲みますか……!? 多分今すぐ水分とか補給した方がいいですよね!?」 男の人の身体の精液量が低下した時って、何が効くんだろう……!? 「えっと、牛乳とか買って来ましょうか!?」 「牛乳関係ないよぉ……」 「そ、そうですか……? でもおちんぽミルクって言うくらいですし……」 「イカは!? イカ! イカ成分減ってますよね!?」 「たりたりちゃん、こんな時までギャグキャラ……」 こんな時……? 「――はっ!」 そうだった……! 今は……。 とにかく色々、おかしい状況だった……! 「か、屍ちゃん……! ゆっふぃん先輩に何したんですか……!?」 「……?」 「と、とぼけないでくださいっ! 何か……催眠術みたいなので、ゆっふぃん先輩を エロエロモードにしたんですよねっ!?」 「やり方とかそういうのは今は置いておくとして…… なんでそんな事したんですか!? イタズラにしては、 猶はちょっとショッキングですっ!」 「私が……由芙院御伽を……エロエロモードに、した?」 「そうですよぉっ! 何言ってんだこいつ的な顔しないでくださいよぉっ!」 「はぁ……はぁ……はぁ……」 「見てくださいこのぐったりっぷり! いくらなんでも出させ過ぎですよっ! 限度ってもんがないんですか屍ちゃんの催眠術には!?」 「あなたは一つ、間違えている」 「え…………?」 「たりたり……ちゃん……っ……」 「あなたはこう言った。 私が、由芙院御伽を、エロエロモードにした……と」 「え、ええ……言いましたとも。 現にさっきまで、ゆっふぃん先輩は――」 「それは大きく間違えている。 正しくは――」 「たりたりちゃぁぁん…………たりたりちゃぁぁんっ……」 「私が、由芙院御伽を、エロエロモードに“している”」 はい……? 「たりたりちゃぁぁぁぁんっ!! あはあああっっ!!」 「――ひえっ!?」 「あっ……ぐ、うぅ…………!」 ゆっふぃん先輩に押し倒されて、尻もちをついてしまう。 「ゆっふぃん先輩、何を……」 そのまま上半身を崩され、仰向けになったところで―― 「はっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!」 「ひ…………!」 ――異常を察知した。 「ひえ…………ひいっ!」 「へぇっ! へぇっ! へぇっ! へぇっ! へぇっ! へっへっへっへっへっへっへっへっへっへっへっ!!」 隆起したペニスを晒して。舌を出したまま荒い呼吸を繰り返して。 まるで発情した牡犬だ。 さっきあれだけ射精して、ぐったりしてたはずなのに。 どうして、こんな濁った瞳に……!? 「………………」 「あ…………」 原因は、あの子だ……! 視界の奥で不気味に笑うその姿が、あまりにもあからさま過ぎる……! 「か、屍ちゃん、ゆっふぃん先輩にまた 何かしたんですかっ……!?」 「“また”というより、“まだ”」 まだ? まだ催眠術の効き目が切れていないって事? 「はへぇっ、はへぇっ、はへぇっ…………! た、たりたりちゃんっ、ごめんねっ……! はっ、はっ、はっ、はっ、はっ…………!」 「私……ち、ちんこ……はへぇっ……! もう、我慢の……限界ぃ……ひぃ……! 勃起、はち切れるぅ……!」 「ゆ、ゆっふぃん先輩……! このまま、ヤっちゃうおつもりですか……!?」 「私だってダメだって思ってるんだよぉ……!? それなのに……へっ……へっ……へっ……! おちんちんの勃起が、暴走して……!」 我慢汁をドロドロと滴らせながら、ペニスを握り構えるゆっふぃん先輩。 美少女顔なのに……レイプ魔のように盛っている。 「だ、ダメですよ、ホントにそれはダメです……! 猶、まだ処女なんですから……!」 「うう、そんな事言われたら、余計に勃起するぅ……! 処女まんこ入れたいぃ……勃起ちんこ捻じ込みたいぃ」 カクカクと腰を振って、その欲望を示している。 「ダメですってばっ……! 猶だってこんな形で 初エッチしたくありませんっ……!」 いや、でもこれはこれで……。 というのも……“こんな形”でしか、猶の欲望は成就しそうにない気がする。 ゆっふぃん先輩は本来アウトだけど……顔だけ見たら……まあ……。 「う、うひっ、ひぃ、ちんこ、ドクンドクンって 言ってるよっ……入れたくて入れたくて……、 たまらないのっ、ひっ、ひぃ……!」 「屍ちゃん……たりたりちゃんは私の親友なの……! そんな子を相手にレイプだなんて……絶対ダメ……! お願いだから……もう許して……!」 「ダメ」 「ですよね~…………」 屍ちゃんの目的は相変わらず不明だけど。 ゆっふぃん先輩は望まずして猶を犯そうとしている。 自分ではどうする事も出来ないらしく、ペニスはバカ正直に膣肉を欲している。 猶は……どうしたらいいんだろう。 上手く抵抗出来ない。ゆっふぃん先輩は一応年上の男子だから、力ではきっと勝てないだろうし……。 そもそも、抵抗したいって気持ちが湧いてこない。 これも……屍ちゃんの魔術的な力のせい? それとも……猶が潜在的にゆっふぃん先輩とのセックスを望んでいるせい? 「はへっ! はへっ! はへっ! はへっ! たりたりちゃんっ、ご、ごめんねっ、はへぇっ! 先に……謝っとく……はっ、はっ、はへぇっ!」 「ちんこ、止められそうにない……かも。 腰が勝手に、おまんこ求めちゃうんだ……! カウパー溢れて来るっ、おまんこ欲求強過ぎぃ……!」 「り、理屈はわかりませんけど……ゆっふぃん先輩が 自分でどうする事も出来ないのは見てわかります……」 「でも……だからって初めてを捧げるわけには――」 「――って入れたーーーーーっっ!!?」 セリフの途中なのに! 大事な純潔なのに! おちんちん入れられちゃったーーーーーっっ!!? 「うひーーーーーーっ!!? い、痛いっ、痛いですぅ! おちんちん痛いっ、おっき過ぎっ、ひっ……! ひいいっ!!」 「あーーーっ…………まんこ来たーーっ…………! ぬくぬくーーっ…………! まん肉ぬくぬくーーっ!」 「い、痛いですっ、抜いてくださいっ、くひいっ!! 太いよおおっ、おちんちん、ひっ、太くて……ひっ! 痛いいいっ、いたたっ、ひっ、いっだぁっ……!」 「あったかくてもっと勃起するぅ! あはぁぁっ♪ 待望のまん肉ぅ……♪ あぁん、気持ちいい……! まんこまんこまんこぉ……♪ あはぁぁぁぁっ……♪」 猶がこんなにも痛がっているにもかかわらず、ゆっふぃん先輩は変態おやじっぽい声色で膣の居心地のよさに浸っている。 「ダメですってばっ、ゆっふぃん先輩っ……くひいっ!! こんなのアウトですっ、うう……あひっ、くふっ! 猶達の友情に、ひっ、くぅ、肉体関係は不要ですうっ!」 「あーーっ、たまんなひーーーっ……!! まんこ最高っ! 処女まんたまらんっ!」 「ちょ、ゆっふぃん先輩っ……! くっ、ひっ……! キャラ変わってますっ、落ち着いてぇっ!」 「はへっぇ、はへぇっ、あひぃんっ! まん肉包まれると……勃起が止まんなくなるぅ……! はっ、はっ、はっ…………!」 「もっとまん肉欲しいっ……処女まん貪りたいっ……! あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……!」 興奮を小刻みな呼吸に変えて、腰を動かし始めた。 「ぐっ……ひっ!? ひぎっ、痛いっ、痛いですっ……! それマジで痛いっ、うひーーっ!!」 「ちょ、先っぽごりごりなんですけどぉっ!? ゆっふぃん先輩のおちんちん、トゲとかイボとか 付いてるんじゃないですかっ!?」 「あはぁん……♪ そういうのがあった方がまん肉 掻き混ぜられるのにねぇ……。残念だけど、 私のちんこは普通だよぉ……」 「ひーん……この痛さ、普通じゃないってぇっ……! さきっぽのとこ、絶対モーニングスターみたいに なってますよぉ……うひぃ」 初めて入れられる男性器の衝撃。 痛くて、下半身がはち切れそう。 こんなキツいんだ。こんな苦しいんだ。 「うっ……ぐぅ、あっ、あっ……はふっ! あ、あれ……? う、うぅ……そもそも、モーニングスターって…… 朝で星とか、どういう時間帯なんでしょう……?」 「あへぇぇっ……わかんない~…………あへぇぇ……♪」 なんか痛過ぎてわけわかんなくなってきた。 「くぅっ……ふぎぎ、ってかゆっふぃん先輩っ……! 見た目美少女なのに……ちんこ、立派過ぎですよっ……! もうちょっと女の子要素に寄せてくださいっ……!」 「そんな事言われてもぉ……あっ、あっ、あっ……! たりたりちゃんのまんこが気持ち良過ぎて、 勃起しまくっちゃうんだよぉ……はふぅ……!」 「嬉しくないですうっ、ひぃぃぃっ……!」 男性器ってみんなこうなるものなのかな。 比較対象を知らないから、ゆっふぃん先輩が他の男よりも大きいかどうかよくわからないや。 でも、猶的にはとても大きいです。そりゃあもう、受け止めきれないサイズです。 極太サイズになっちゃってるのって、やっぱり……。 「もぐもぐもぐ」 この人の力……?ってかポップコーン食べてる。映画鑑賞気分……!? 「はっ、んっ……ふうっ、やっぱり、あぁん、ちんこは 正直だよぉっ、はぁぁんっ……! 可愛い女の子の おまんこ相手だと、こんなにふっくらしちゃうの……!」 「か、可愛いって言ってもらえるのは光栄ですけど……、 んっ、ぐぐっ、ひっ……勃起はもうちょっと控えて いただきたいですっ……!」 「無ぅぅ~理ぃぃ~……はぁぁん♪ まんこ気持ちいいんだもんっ、ぼっきっきしまくるよぉ! んぐへぇぇぇ……」 「ゆっふぃん先輩、さっきから声が スケベオヤジみたいですぅ、ひ~んっ……!」 「スケベにもなるよぉ……、だって処女まんセックス してるんだもん、ちんこぷりっぷりになるよぉ……!」 「くっ、ひあっ……せめてもう少し可愛く……! いつもの美少女モードを維持させてくださいよっ……!」 「私もよくわかんないんだけどぉ……身体が、心が勝手に、 あっ、あへぇっ、まんこ欲を暴走させちゃうの……! ぐへっ、ぐへへぇっ……!」 「むしゃむしゃ」 屍ちゃんのせいだ……! キモオタ的スケベオヤジの術をかけてるに違いない……! 「くへぇっ、あっ、あっ、あっ、あへぇっ……! うへへぇっ……もっとまんこぉ……まんこぉっ……♪」 「うっ、ぎぎっ……! ど、どうせゆっふぃん先輩と ヤるんだったら、清純派モードの先輩とヤリたかった ですぅ、うっ、ぎっひっ!」 「ごめんねぇっ、たりたりちゃん……! 私も、んっ、 そもそもこんな事、あへぇっ、しちゃダメだって 思ってるんだけど……あへっ、あへぇっ!」 「おちんちんがどんどん進んでいくんだよぉっ、まん肉 求めて、子宮目指して、勃起が伸びてくの……はへぇ! スケベになってくのぉ……じゅるりっ……!」 「くぅっ……自分の意志じゃないのはわかってます……! だからせめて……猶も、んっ、この謎のレイプ展開、 はっ、はっ、なんとか、楽しみたい……!」 多分、ゆっふぃん先輩以上に可愛くて女性らしい男性なんて、この世にいないと思う。 だったら、猶的に“一番アリな男性”なんだ。後にも先にもこの人以上にアリな男なんていない。 おちんちんは別に好きじゃないけど……。ゆっふぃん先輩となら、親友だし、まだ気持ち的になんとかなる……はず。 ぶっちゃけ何回か、この人いいなって思った事あるし。もちろんその度に自分でブレーキかけてたけど。 でもそれくらい、この人は見た目が女性的だから……。このレイプは、絶対にまだマシな方……! 「んほぉっ……!? あっ、あへぇっ……! ちんこ滑って来たぁっ……まんこつるつる……! たりたりちゃん、愛液来てる……?」 「う、はふ、自分ではわかんないですけど……。 なんか、痛いの慣れてきたような……」 「おっ、おほぉ……それは私的に有難いよぉ……! 痛がらせるつもりはないの、ホントだよ……。 ちんこ、気持ち良くなりたいだけぇ……」 「どうせだったら、たりたりちゃんも感じて欲しい……。 私の勃起ちんこで、このセックス、処女喪失レイプ、 楽しい思い出にして欲しいんだよ……」 「そ、それは猶も同じなんですけどね……はっ、はっ」 痛いより気持ちいい方がいいに決まってる。 そしてそう感じられる事の出来る相手……だと思う。猶的に。ギリギリ許容範囲。 全然痛くないなんてあり得ないけど。 でも……ちょっと気持ちいい……かな。 目の前で鼻の下を長くしてる美少女を見てると、そう思っちゃったりなんかして。 「んっ、んっ……あっ、あっ、あっ……はふっ、んっ! あぁっ、ああん……はっ、あっ、あぁぁっ……!」 「あぁぁん、たりたりちゃん、可愛いよたりたりちゃんっ! 喘ぎ声いいねっ……初めて聞いたけど、勃起しちゃうっ!」 「んっ、恥ずかしいですっ、けど……っ、はふっ! んっ、くふっ、あぁん……あふっ、ひっ……!」 エッチなんて初めてだから。なるべく相手に変な声聞かれたくない。 でも、ゆっふぃん先輩の方がエロい声出しまくってるし。 そもそもゆっふぃん先輩、今、正常な思考回路があるかよくわかんないし。後になったら記憶さっぱりって事も十分考えられるから、遠慮する必要無いのかも。 ……という事で。 「あっ、あぁんっ! おちんちん、奥に……ひいぃんっ! 来てますうっ、ゆっふぃん先輩の勃起おちんぽぉっ! 猶のまんこに来てるのぉっ、あっ、あっ、あぁんっ!」 エロゲっぽく喘いでみたりもして。 「あへぇっ♪ たりたりちゃん、もっと感じてぇっ!! 私のオスちんぽっ、いっぱい楽しんでぇっ……! あっ、あっ、あふっ、ひいっ、あへぇっ!」 私がノると、ゆっふぃん先輩もノリノリになる。 刺激の強ささえ我慢すれば、これはこれでアリかも。実際おまんこ気持ちいいし。 「んっ、あふっ、へぇっ! あひっ、ひいっ……! 子宮に、ちんぽがっ、来てるっ、ひあっ、あっ、あっ! それ、らめれふうっ、気持ち、いひいっ、ひいっ!」 「む…………」 「ちんぽのモーニングスター的な刺激、大分慣れましたぁ、 あふうっ、おまんこ、良い感じですよぉっ、あぁんっ!」 「んへぇっ、そう言ってくれて、私も嬉しいよぉっ……! 処女奪った責任とって、たりたりちゃんのまんこ…… もっと気持ち良くさせてあげたいよっ……!」 「処女喪失、はふっ、キツいけど、んっ、ちんぽに ヤられるなら、ゆっふぃん先輩が一番です……! んっ、んっ、んっ……!」 「美少女顔眺めながらおまんこ気持ち良くなれるなんて、 あっ、はぁんっ! 猶的には、むっちゃアリですっ、 まだちょっと痛いけど、この状況、んっ、アリっ……!」 呼吸が少しずつ切羽詰まっていく。 それは、ゆっふぃん先輩も同じで……。 「あっ、あっ、私、ち、ちんぽ、気持ち良くって……! あっ、あぁんっ、あっ、あふっ、ひっ、ひっ、ひっ……」 「もう、ダメ、かも……イクっ、イクっ、イクぅ……! あっ、射精しちゃうよっ、あっ、あひいいっ!!」 どうやら絶頂目前らしい。 あまりにも切ない表情。泣きそうで、辛そうで。でもその気持ち良さに溺れていて。 そんな先輩の表情だけで、猶もイキそうになる―― 「んっ、猶も、おまんこ限界ですよっ……はふっ! 初エッチで、潮吹きしちゃいそう、ですっ、んっ!」 「一緒にイこうねっ、あふっ、私達、仲良しだもんっ……! んっ、あっ、あへぇっ、ちんぽとまんこも、あへえっ! 息合わせよう……ねっ……!?」 「は、はひっ、“イキ”合わせたいですっ……! で、でもっ、さっきのオナニーの時みたいな射精量は、 んっ、はっふっ、ちょっと怖い気がしますっ……!」 「あんだけ出されたら、あふっ、猶のおまんこ、絶対に ザーメン受け止めきれません……あふっ、ひっ……! そこらへんは、少し自重してイって欲しいですっ……!」 「無ぅぅ理ぃぃ~~~っ…………射精量の調整なんて 出来ないもんっ……ちんぽが出したい分だけ出すのぉ! それが射精なのっ、だから気持ちいいのっ……!」 でしょうね。おまんこの絶頂だってそうですもん。自分で水量の操作なんて絶対無理。 でも、それはわかってても。あの精液量は恐ろしい。あんなに出されたら、猶のまんこどうなっちゃうんだろう? 「はひぃ、私、もうイクっ、イクっ、イクイクっ、イクっ! 可愛い処女まんの中で、ちんぽぶっちぎっちゃうよぉっ、 あひいっ、おっ、おっ、おおっ!!」 「んっ、猶これが初エッチなんですよぉっ!? せめて……くひっ、中出し、お手柔らかにお願いします、 あっ、んっ、んふっ……!」 射精を気にする余裕が、どんどん失われていく。 猶も……このペニスの快感に、勝てなくなる……! 世の中の女子が、おちんちんに夢中になる気持ち、ちょっとわかるかも――! 「あっ、あぁんっ♪ イクイクっ♪ イクっ♪ イクっ♪ ちんぽっ、ちんぽっ、ちんぽっ、イクイクイクぅっ♪」 「あっ、んっ、猶も、イクっ、おまんこっ、イっちゃうっ、 あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あ、あ、あ、あ、 あ、あ、あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ――」 互いの震えがどんどん小刻みになって、一番引き金を溜めたところで―― 「おぉぉおぉおぉおぉおおぉおおぉおおおんんんんっ!!? おっほおおっ、おっ、おおんっ!? おっほぉんっ!?」 「あっはああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁぁあんんんっ!!! ひゃっ、おまんこっ、イきゅっ、ひっ、ひいいっ!!?」 二つの性器が一気に爆発して、結合部から盛大な絶頂液が弾け飛んだ。 「イクイクうっ、まんこに中出しっ、あひっ、ひいっ!! これっ、これきもちーっ、ちんぽでまんこレイプっ♪ 中出しレイプっ、最高だよおっ、おっほおぉぉっ!!」 「ひっ、んっひょおおぉおおおっ!!? お腹、にっ……、 ひいっ!? 熱いの来てるっ、おひっ、ひいいっ!!? 飛ぶ飛ぶ飛ぶ飛ぶ、浮かび上がる、射精圧ーーーっ!?」 「これが、精液っ!? ドロドロっ、しゅごっ、ひーーっ! ちょ、先輩っ、出し過ぎ、ひっ、ひいっ、あっひぃ!! おっ、おっほおっ、んほおおおおおおおおおおっ!!?」 潮吹きの快感なんてほんの一瞬で。 すぐに中出し精液の重量感が猶を苛んだ。 「だ、出し過ぎですってっ、言ったでしょ先輩っ! オナニーのノリでイっちゃダメですってばぁっ! ひっ、ひいっ!! んっほぉ、熱いの、重た過ぎっ!?」 「あーーーっ♪ ちんぽあーーーっ♪ ぎぼぢーのーーっ、中出しぎぼぢーーーーっ!! んひょーーーーっ、おーーーーーーーーっ!!」 全然聞いてない……! 「ひえっ、くひいっ!? お腹の底、重たいっ……! 何これっ、子宮の奥まで、ドロドロでいっぱいっ……!」 「精液、詰め込み過ぎぃっ! こんな、あひっ、ひいっ! 入らないって、猶のお腹、いっぱいになっちゃうからぁ! もうダメっ、ひえっ、中で出さないでえっ!」 「んほーっ♪ んほーっ♪ ドピュドピューっ♪ ドピュドピューっ♪」 射精快楽があまりにも強過ぎるのか、ゆっふぃん先輩は狂ったような表情でペニスの脈動に浸っている。 猶は……身体の芯からドロドロの液体の熱で温められてるこの現状に、嫌悪を抱きながら―― 「んっ、くうっ……熱い、けど……ひゃふっ、 やっぱ……気持ちいい……かもぉ……ひぃん……」 それでもそれなりに感じちゃうのは、女性器の本能的な反応なのかな……。 「あぁん……たりたりちゃんの処女まんこぉ……、 私、すっごく好きぃ、めっちゃ興奮したぁ……!」 「もっとしたいっ、もっとイキたいっ……! 中出しぃ、中出しでぇっ、まんこ汚したいよぉっ、 ちんぽでまんこ犯しまくりたいよぉっ……!」 「はぁっ……はぁっ……はぁっ…………! ゆ、ゆっふぃん先輩…………」 この人は、今の射精で理性が吹き飛んでしまって……。 きっともう、猶の言葉は届かない……。 「はぁ…………はぁ…………先輩、美少女顔のくせに…… すっごいスケベです……今……」 「まだヤりたいんですかぁ……? はぁ……はぁ……。 わかりましたよぉ……猶も……付き合ってあげます……」 多分、こんな機会は二度とない。 もしシラフでゆっふぃん先輩とエッチする事になっても、お互いそこは踏み込めないだろうし。 だから、先輩が狂っちゃってる今……こんな状況だからこそ。 美少女セックス(ちんぽ有り)を愉しもう―― 「……………………」 「…………むー……」 「んー……いない感じ?」 「いない感じだ」 適当に当ても無く歩いて、見つかるはずがない。そんな気がする。 「屍って、どういう子なの?」 「普通じゃない」 「な、なんじゃそりゃ」 「よく知らないけどな。多分普通の人間じゃないっぽい」 「……な、何それ……!? 普通の人間じゃなかったら、なんだって言うんだよぅ」 「……吸血鬼」 「ひえぇぇ…………!」 または、幽霊……とか。 「うおっ……!」 「うわあっ!? び、ビビったぁっ!!」 ホント神出鬼没だな、こいつは。 「ねえちょっと聞いてよ」 「なんだよ突然……あ、こいつが屍ね」 「ど、ども……」 「どもども」 「で、いきなり現れて何の用だよ」 「というか、私を探してたんじゃないの? 用があるのはそっちの方でしょ?」 「いや……まあそうなんだけどさ」 猶猶の付き合いで探してたから、俺達はあんまりこいつに用が無いんだよな。 「ちょっと聞いてよ、って?」 「うん。なかなか思い通りいかなくって」 「……?」 「もうちょっとこう……どす黒い感じを想定してた」 「な、何の話だよ……」 「憎しみ合って、傷付け合って、お互いが崩壊するような、 そんな凄惨な展開」 「それをね、傍から見て、意味深に微笑むわけよ。 “ふふっ”……って」 「そのつもりだったのに、なんかイチャラブに なっちゃった」 「はあ?」 さっきからこいつが何言ってるのか、全然わからん。 「とりあえず、一緒に来る?」 「………………」 「……どうする?」 「………………」 い、行きたくねぇ…………! どうせろくでもない事に巻き込まれるに決まってる。 屍は……とにかく謎で、何者か全くわからない。正体も、目的も、“何が出来るのか”も。 ついて行った先に、俺が喜ぶようなモノが待っているとは思えない。 思えない……んだけど……。 「……よし、じゃあ行こう」 自分でも気付かないうちに、首を縦に振ってしまっていたらしい。 まあ、時間の問題だったさ。どうせ断れない。 身体が、心が勝手に導かれてしまうんだ。屍の意志に。 意味わかんないけど、本当にそうなっちゃうんだ。思考すら操作されて……屍の言う通りになってしまう。 彼女が一緒に来いと言うのなら、俺はそうするしかないんだ―― 「え、えっと……あたしは……」 「霍は商店街の待ち合わせ場所で待っててくれ。 俺もそこで合流するつもりだし、猶猶達も 戻ってくるかもしれない」 「それは無いと思うんだけどな……」 あーもう。そういう事言われるとますます行きたくなくなる! 「…………ごくりっ」 「あれが吸血鬼……! 初めて見た……!」 「お前、猶猶と御伽には会ったか?」 「会った」 ……だろうな。 「お前を探してるのは俺じゃなくてあいつらなんだ」 「あなたは私の事探してくれないの?」 「二人の手伝いで探してはいたけどな……」 「私はあなたに求められたい」 ジメジメとした薄暗い路地裏でそんな事を囁かれて、ロマンチックな気持ちになんてなれるわけがない。 淡々としていて無機質。屍は底が知れない。 「お前を求めてるのは猶猶だ。友達になりたいんだと」 「そんな事を言われたような……」 「なってやれよ、友達に」 「あなたは?」 「はい?」 「あなたは友達?」 「友達……まあ、そんな感じかな。 後輩だけど、俺達に気兼ねなく接してくれて――」 「――そうじゃ、なくって」 「……っ」 珍しく、少しだけ強い口調だった。 「私と友達?」 「は…………?」 俺が……屍と……友達か……だと? 「……さあな」 友達と言える付き合いなんて、していないように思う。 すごく殺伐としているし、屍は俺に色んな部分を見せてくれていないみたいだし。 そんな関係で、仲良くなんてなれないだろ。 「………………」 「…………ふふっ」 いつもの笑い。しかしいつもよりも笑っていない様子で。 屍はそそくさと路地裏の奥へと進んでいった。 「どこへ行くのやら……」 「う…………」 廃墟と化したビルの一室に入った瞬間、その濁った空気に思わず眉をひそめてしまった。 「なんだここは……」 自然溢れるこの島の清らかな酸素とはまるで違う。 色んな負の感情を凝縮して漂わせた、そんな不可視の邪気に満ちている気がする。 まるで別世界だ。天使島にこんな場所があったなんて……。 「ここに来るのは初めて?」 「ん…………」 あれ……? どうだったかな……? こんな奇妙な空間、一度来たら忘れないと思うんだけど。 はっきりと、初めてである事を断言できない。 気のせいだろうか。初めてじゃない気がする……。 「こんなとこに連れ込んで、何を見せるつもりだよ」 「あなたにも協力して欲しい」 「はぁ?」 「多分、あなたの力が必要」 「だから……どうしてお前はいつもそうやって、 要点を省いた返答をするんだよ!」 毎度毎度、理解不能だ。 「いつも……? そっか……」 「少しでも私の事を記憶してくれているのなら、 それは嬉しい」 素晴らしい記憶力。 失った記憶を取り戻してはいけない。あなたにそれは重過ぎる。 「……っ……!?」 なんだ、今のは……? 「ここ」 「………………」 いつのまにか、一枚の扉の前に屍が立ち止っていた。 「な、なんだよ……」 ここ……? その扉の向こうに、何が……? 「………………」 そこに、俺の力が必要なモノが転がっているってのか? 「………………」 屍は何も言わず―― その扉を静かに開いた―― 転がっていたのは、モノではなかった―― 「あへぇぇっ、あっ、あぁんっ、あへえっ!! あへえっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!」 「んほおぉっ、おっほぉぉんっ、あっ、あぁっ♪ あひっ、んっ、んっ、んほおっ、んっほおぉっ♪」 ――人間だった。 ――変わり果てた友人達の姿だった。 「んっ、んひいっ! まだ出るうっ、ちんぽっ……! おっ、おっほっ♪ まだ射精するうっ、ひいっ♪」 「猶のお腹、もうたぷたぷですうっ、あっ、あっ……! ぽっちゃりキャラぁっ、精液太りっ、あっ、あぁっ! こんなのダメですよぉっ、あっはぁっ♪」 「……な…………!」 干からびた喉を振り絞って吐き出した言葉は―― 「なんだよ、これ…………」 ありきたりな絶望セリフだった。 「まいっちゃうよね。イチャラブ路線……」 「なんなんだよ、二人とも何してるんだよ……」 何してる、はおかしいか。 見ればわかる。セックスだ。 御伽は男だから、性交は成立する。 しかし……この淫液の量は。この堕ち切った表情は。この品の無い声は。 この狂った世界は……一体なんなんだ……!? 「もっとこう……苦しむかなと思ったんだけど」 「……お前が“こう”させたのか?」 「うん」 あっさりと。平然と。何の後ろめたさも無く肯定しやがった。 二人が俺の友人だと知っていて、あまりにも簡単に。 「……止めさせろ」 「私が求める展開には」 「今すぐ止めさせろ」 「あなたの力が必要なの」 「いいからさっさと止めさせろっ!!」 「んっ、おっほおおっ!! イクイクぅうっ……♪ また、またドッピュン~~~~~~っっ♪」 「あひっ、あ、あっへええっ、猶のまんこもイクうぅっ! あっ、あへえっ、あへっ♪ あっへえぇえええぇっ♪」 俺の激昂が、二人の嬌声に掻き消されていく。 変わり果てた二人に対する恐怖。この状況が理解出来ない不安。無条件に湧き上がる屍への怒り。 よくない感情達が、俺の中で渦巻いていく。 「元々の標的は、一人」 「でも……なんか流れで。こうなっちゃって」 「………………」 的を射ない屍の発言が、今は物凄く腹立たしい。 「夛里耶猶猶を、陥れたかった」 「なんでだよっ!」 「順番だから」 「これ以上わけわかんない事言うなっ!」 「あなたなら出来る。夛里耶猶猶を苦しめる事が出来る」 「俺が……なんで猶猶にそんな事しないと いけないんだよっ!?」 「なぜ? なぜ…………なぜ…………」 ――あなたも彼女に怨みがあるんじゃないの? ……は? 「恨み……? そんなもの無い」 「私はあるけども」 「知らねえよ! 俺は別に猶猶を恨んでないし、 お前が恨んでたとしてこのやり方は間違ってる! 俺は手を貸さない!」 「夛里耶猶猶を犯して」 「っ!」 「由芙院御伽は……今かなりイっちゃってるから。 私が足止めしておく」 「今のあなたなら、今の彼女を、遠慮なく犯せると思う」 「だから……俺は、そんな事――」 「え…………」 気が付けば、目の前に猶猶がいた。 「ひっ…………!?」 猶猶も驚いている。 そりゃそうだ。一秒前まで御伽がいた場所に、なぜか今は変わって俺がいて―― 「い、い、い、い、ぃ、ぃ、ぃ、ぃ…………!」 自分の股間がいつの間にか勝手に露出している。しかし外気に晒されていない。 スースーしない。むしろ温かい。 「い、ぃ、ぃ、い、ぃ、ぃ、い、い、い、ぃ、ぃ、い、 い、い、い、ぃ、ぃ、い、い、い、い、い、ぃ――」 なぜなら、俺のペニスは、今―― 「――い゙や゙あ゙ああああああああああああああああああ あああああああああああああああああああっっ!!!?」 「――っ!?」 怒涛の金切声に、頭が真っ白になる。 え……? 何がどうなって……!? 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!? ひいっ!? あっ、あひっ!? え、どうして、くひっ、ひいっ!?」 「那由太先輩っ……!? なんでぇっ、ひっ、ひえっ!? 嘘っ、ひっ、ひいいっ!?」 「う、あ……猶猶っ……っっ!」 驚きながら、震えながら、涙を流しながら。猶猶は俺と目を合わせている。 普段絶対に見せる事のない怯えきった彼女の表情に、俺はなんて言っていいかわからず、途切れ途切れに声を漏らしてしまう。 「嫌……です、こんなの、嫌……! ホントに……嫌、なの…………!」 「これは……ち、違う、んだ……! いつの間にか、俺…………」 「――屍ちゃああああああああああんんんんっっ!!!」 怒号にも似た絶叫は、俺では無くその背後で佇む彼女にぶつけられた。 「そんな大声で呼ばなくても、ちゃんとここで見てるから」 「んふーーっ、ふっ、ふっ、ふっ……んふーーっ、 ひーっ! ひーっ! ひーっ! ふひーーーっ!」 屍は……御伽を辱めていた。 御伽の背後に立ち、手を回し、膨らみ切った男性器を扱いている。 御伽は抵抗を示さず、赤面のまま荒い息遣いを繰り返して足をふら付かせている。 なんなんだ、この状況は――!? 「これ屍ちゃんでしょおおおっ!!? ダメだって、ダメなのホントにいいっ!! 屍ちゃん、 猶がこれダメだってわかってるんでしょぉ!?」 「うん」 「だったら、ひっ、ひいっ、ホントにこれもう止めてっ、 お願いっ、ひっ、やめてぇっ!!」 「そうはいかない。夛里耶猶猶にはこっちの方が 効き目があると思ったから、あえてこうしてる」 「なんで猶にこんな事すんのおおぉぉっ!? ひいっ、やだやだやだあああああっっ!!」 「だから、あなたに怨みがあるんだってば」 「猶何もしてないもんっ、ひいっ、嫌だよっ、んぎぃ!! 嫌なのおおっ、嫌だああああああああああっっ!!!」 子供のようにダダをこねる猶猶。 しかし、彼女の抵抗はまったく俺に届かない。 こんなにも嫌悪しているのに、手足をばたつかせる事も無く、力任せに俺をはねのけるわけでもなく。 声だけだ。身体はまるで俺を受け入れている。 これは……屍が……? 「はっ、はっ……くう、なんだよ、どういう事だよっ……」 気付いたらこの状況だった。 猶猶と御伽、二人がドロドロになりながらセックスをしているのを見つけたところまでは覚えている。 いつの間にか、こんな体勢で、俺は猶猶と繋がっていて。 ペニスを晒した覚えはない。猶猶に挿入した覚えはない。 そして、こんなにも彼女に嫌がられる覚えもまたない。 とにかく意味が分からない。 意味が分からないとなったら、疑うべきはまず屍だ。 あいつが全部仕組んだって言うのか? 猶猶と御伽の異様なセックスも。この事態も。 「んぎっ、ひっ、屍ちゃん、意地悪過ぎぃっ、ひいっ! んぎぎ、どうして、恨まれる事なんて猶してないのに、 ひっ、ぐひいっ!!」 「もう、おしまいにして、屍ちゃん……こんな、ぐっぎっ! あっ、ぐぎぎっ、ひっぎいっ……!!」 猶猶は、この凌辱の行く末を屍に投じている。 挿入している俺では無く、背後で俺達を見下ろしている屍に。 猶猶もわかっているらしい。俺にはどうする事も出来ないって事を。 この事態の原因が屍にあるって事を。 「おいっ……屍っ、なんで俺に……くうっ、 こんな事させてるんだっ……!?」 「個人的に怨みがある夛里耶猶猶を苦しめるため」 何度も繰り返した単語を、脳に根付かせるように今一度吐き出した。 ――恨み。 屍と猶猶の間に、過去何があったのか俺は知らない。 でも、俺が猶猶とこうする事が、猶猶を苦しませる事になるらしい。 「はぁっ、はぁっ……な、猶猶……悪い……! よくわかんないけど……こんな事に……!」 「ひっ……喋らないで……くださいっ……! そんな、ひっ、繋がったまま、声……嫌だ……!」 まさしく。屍の狙い通りに。猶猶はあからさまに苦しんでいた。 思いっ切り嫌がられてる。そりゃまあ俺と猶猶は別に男女の仲じゃないから……。不可抗力でこうなったとしても猶猶にとっては大いに不本意だろう。 しかし、俺だって好きでこんな事してるわけじゃないんだ。瞬きを経たら、いきなりこんな展開になってて。 戸惑ってるし、申し訳ないと思ってる。 そんな俺に対して……。 「嫌だよおっ、那由太先輩となんてっ、嫌だああっ!! ひいっ、セックス嫌あっ、ちんぽ嫌ああああっっ!!」 その拒絶はあんまりじゃないか――! 「失礼だなぁ。今入れてる彼のちんぽも、 さっきまで入れてた由芙院御伽のちんぽも、 同じちんぽなのに」 「おひっ……!? 屍ちゃん、シコシコらめぇっ!! おひいいっ、ひーーーーっっ!!」 「同じちんぽでも……見た目が違うっ……! ゆっふぃん先輩と、那由太先輩じゃ……くぎいっ!! 見た目が、全然……くひっ、んぎぎっ!!」 「顔の見た目は違っても、ちんぽの見た目は それほど変わらないよ?」 「顔が超重要なのおおおおっっ!!!」 「うーん、やっぱり失礼」 内心、同感だ。 この現象の原因と思われる屍に庇われるのは複雑だが……猶猶も、もう少し言葉を選んで欲しいというか……。 「屍ちゃん、猶の目的、わかってたんでしょぉっ!? だから怒ってるのっ!? それでこんな仕打ち……! 猶が一番嫌がる仕打ちをしてるのっ……!?」 「だったら謝るから、ごめんっ、ごめんなさいっ!! もう許してっ、こんなセックス止めさせてええっ!!」 「夛里耶猶猶の狙いは最初から把握していた。 だからって別に怒ってはいないけど」 「んひーーっ!! おっほっ、ちんぽおっほっ!! おひっ、ひーーっ、きもちーーーーっ!!」 「うん、ちょっとしー」 「あ、はひ…………」 「夛里耶猶猶への怨みはもっと根幹に関わる事だから。 今どんな狙いが私に向けられていようと、私の復讐は 基本的に変わらない」 「重くもならないし、軽くもならない。 初めから、こうするつもり」 「ふ、復讐……!? 意味、わかんないよぉ……! 猶なんでそんなに恨まれてるのぉ……!? ひっ、ぎぃぃ……! ぎひぃ……!」 猶猶は、屍に恨まれる自覚が無いらしい。 それもそうだろう。猶猶が屍に興味を持ったのは話を聞く限り偶然だったようだし。顔見知りという関係でもなさそうだった。 なのに、なぜ遺恨があるんだ?屍はなぜ、猶猶を恨んでいるんだ? 「はぁっ……はぁっ……くっ、はぁっ……! 猶猶……はっ、はっ……!」 「お前の……本当の目的ってなんだ……? 屍と友達になるって事じゃなかったのか……?」 「キモいから喋んないでくださいいっ!!」 「し~つ~れ~い~……!!」 「ぐひぎぎぎぎいぎっひっぎひひいっ!!? おぎぎっ、ちんぽいただだだだあだだだっっ!!?」 なぜか、俺に変わって屍が怒ってくれている。 あまり見せた事のないあからさまな不快感を、御伽のペニスへの握力を強める事で露わにした。 「か、屍っ……御伽に八つ当たりするなっ……!!」 「あ、ごめんね」 「ふひぃ、へ~きぃ……痛いくらいが気持ちいいのぉ……」 「……多分本人答え辛いと思うから、 代わりに私が答えるね」 「――夛里耶猶猶の本性はレズ。ガチのヤツ。痛いヤツ。 反射的にキモイって言っちゃうくらいの男嫌い」 え…………。 「ひぃ……ふぅ、ひぃ…………レ……ズ…………?」 「お、男嫌いじゃないですっ! 別に猶っ、 那由太先輩の事、嫌いじゃないっ!」 「だってさっきから、失礼な事ばっか」 「それは、セックスしてるからぁぁっ!! 男のちんぽ入れられてるからあっ!!」 「由芙院御伽の時は、そうでもなかった」 「だってゆっふぃん先輩見た目美少女なんだもんっ!! だからまだ我慢出来たのっ!」 「ちんぽの感触、痛かったし、辛かったけど…… でも女の子って思えば、むしろ嬉しくて……」 「ね? ガチのヤツでしょ?」 「な、猶猶……!」 「はぁっ、はぁっ……んっ、んふぅ…… そうだったの……たりたりちゃん……!」 全然知らなかった。そんな事、今まで一度も……。 「彼女が私を探してたのも、そのため」 「そのため……って……」 「セックスしたかったんでしょ、私と」 「言うなぁっ!!」 ……セックス? 猶猶が、屍と? レズだから……屍に一目惚れして、興味を持った? 偶然出会って、美人だと言いながらここまで固執したのは……。 屍と、セックスするため……!? 「私みたいな女子がタイプなの?」 「はっ、はっ、う、うう…………うっひぃ……!」 「私とセックスする事を夢見てたの?」 「はぁっ、はっ……ふひっ、ひぃん……!」 「私をおかずに、オナニーしてたの?」 「ひっ……ひっ……ひいっ…………!!」 「どうなの?」 「――そうですよぉっ!! タイプですよぉっ!! めちゃしこですよっ、ヤりまくりたいですよぉっ!!」 「偶然街で一目見た時から、おまんこビビッて来ちゃった んですよぉっ!! 疼くんですよ、昂ぶるんですよっ! おかげで毎日オナニー三昧ですよぉっ!!」 「今までそんな事なかったのにっ! 屍ちゃんを知って からオナニー止まんないんですっ!! 猶、オナ狂っ! 猶オナあっ、猶オナあっ!!」 「ね? 痛いヤツでしょ?」 「でもぉ、友達になりたかったのはホントっ!! セックス出来なくても、そういうの抜きに…… んひっ……友達になりたかったぁっ!!」 「ごめんなさい」 「ひーーん、フラれたああっ!!」 そうだったのか…………! 猶猶は……レズだったのか…………! だからこんなにも俺とのセックスを嫌がってるんだな。 俺は男だから。俺は御伽のように女を錯覚出来ないから。 「猶猶、悪い……すまん……!」 「ほ、ホントですよっ、最悪ですっ! 男とセックスなんて……こんな気色悪い事、 猶的に絶対にあり得ないんですうっ!!」 「はぁっ、はぁっ……っっ!」 「んっ、くひっ、那由太先輩の意志じゃないって事は わかってます……でも、でもぉっ、ひぃんっ!!」 「せめて見た目女子に寄せてくださいよぉっ!! それならまだ我慢出来るのにっ!! んぎっひっ!!」 「それは……出来ない。無茶言うな……!」 むしろ……。 「――くっ……!!」 「ひっ……!!? こ、この勃起……まさか…………!!」 入れてからもうどれくらい経っている? そもそもこの行為の開始の記憶が無い。気付けば“こう”なっていた。 だから、自分が今こんなにも昇り詰めている事が、おかしいのか、それとも当然なのか……。 正しく判断出来ない――! 「今さっき……はぁ、はぁ……謝ったばっかだけど、 もう一回、先に謝るっ…………!」 「やだっ、謝るとかいらないっ、やだやだやだああっ!!」 「もう……出るっ……!」 「やだああああああああああああああああああっっ!!!」 レズなら、この桁外れの嫌悪も仕方ない。中出しなんて最も嫌がる事だろう。 俺だってそれくらい察する事が出来るから、この事態をなんとかしてやりたい。 が…………。 「んしょ……んしょ、んしょぉっ! おちんちんしゅっしゅ……おちんちんしゅっしゅ……。 はい、しゅっしゅっしゅっ……はふぅ」 「ひいっ、んほーっ! ちんぽーーっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ おっ♪ イっク♪ イっク♪ イっク♪ イっク♪ イっク♪」 屍は俺達を解放させてくれそうにない。 屍にその意志がない以上、俺はもう……このまま……。 「ぐっ――」 「ひっ、ひいいいいぃぃいぃぃいぃぃいいぃぃいいい いぃぃぃいぃぃ~~~~~~~~~~~っっ!!!」 「くぅぅっ…………!!」 出してしまった。 嫌がってる女性の、膣の中に。 「ひええっ!! いやああああああああっっ!!! これ知ってるっ! さっき経験済みっ! この熱いの……これ、これぇぇぇっ……!!」 こんな、レイプ魔みたいな事を――! 「射精だこれぇっ! 中出しじゃんかぁっ!! 熱いっ、ちんぽドクドクしてるっ!! 精液出してるっ、たくさん、ひっ、ひいっ!!」 「嫌だって言ったのにぃっ!! なんでえっ!? なんで出すんですかバカぁっ!! ひっ、ぐっひっ!! 射精、しないでよおっ!!」 「そんな事言われても……っっ!!」 バカって言われた。ショック。 でもそれどころじゃない。言ってるそばから第二波が溢れてくる。 「んぎぎぎいっ!? ひぎっ、ぐっひいいっ!!? 嘘、まだ来るんですかぁっ!? もう最悪ううっ!!」 俺だって後輩の女子にこんな事したくない。 でも、精の流動はもう抑えきれないほど強まっていて……。 「ぐぐっ、ひっぐっ、んぐっ、ふぐっ……!! 中出しっ、い、いやっ、オスちんぽの……精子、 ホント嫌あっっ……!!」 「や、め……ろっ、俺の身体、止めさせろ、屍っ……!」 「そんな事するわけないでしょ」 「おひぃんっ!! おひぃんっ!! びゅるるぅっ!! ちんぽびゅるるうっ♪ おっひいいっ♪ びゅるるるるる~~~~~っ♪」 御伽のペニスを扱きながら、屍が冷淡に答える。 「くぅっ、屍ちゃん、もう、い、いい加減に……して……」 「猶が……悪かったから……はふっ、くぅっ……! もうオナネタにしない……エッチしたいなんて 思わない……友達になりたいなんて思わない……!」 「だから……もう、やめてよこれぇ……あふっ、ぐふぅ」 「だから、別にあなたが私をどう思っていようと 関係無いってば」 「私は私で、本来の目的を果たす。 夛里耶猶猶に復讐を遂行する。ただ、それだけ」 「なんでぇ……!? 意味わかんないよぉ……。 もう…………いやぁ…………」 力無く猶猶がそう呟いたと同時に―― 「――っ!?」 いきなり真っ暗になった。 「え……?」 「な、何、急に……」 「――くっぎぎぎぎぎぎっ!!?」 暗闇の中、猶猶の悲鳴が上から聞こえてきた。 上から――? 「――ぎゅっぶぶふうっ!!?」 「かっ…………はっ……!?」 本当にもう―― わけがわからない―― 「んちゅっ、ちゅぶりゅっ、ちゅうぶぶぶぶっ!!? ぐちゅぶっ、ぴちゅぶうっ、ぶっじゅぶりゅぅ!!?」 目の前には、情けなく拡がる猶猶の顎。 目線を下げると、膨らみ切った猶猶の腹。 耳元には、苦痛を孕む猶猶の水声。 「ちゅぶっ!? な゙、にごれっ、じゅっぶっ、 ちゅぶりゅ、ぐりゅじゅぶりゅぅっ!!?」 「はっ……くぅっ!?」 膣感が走る。 俺は今、猶猶に挿入しているのか……? この粘質、温もり、締め付け。どれをとっても女性器の感覚だ。 体位を変えて、また俺は猶猶と……。 しかも、今度は―― 「んっひっ♪ フェラっ♪ ちんぽフェラっ♪ たりたりちゃんのお口を、勃起ちんぽで犯しちゃうっ♪ あへぇっ、あっへっへっへっへっへっへぇっ♪」 「ちゅぅ、ぴちゅっ、ぴっちゅむぅっ! ぢ、ぢんぼっ!? はふっ、んっ、ちゅぷっ、ちゅるりぃっ……!」 「あっはぁっ、小っちゃいお口で頑張ってちゅぱちゅぱ してるの見ると、勃起しまくるよぉっ、おひいっ♪ ちんぽ気持ちいいっ、もっとちんぽフェラしてぇっ♪」 「むちゅぷぅっ、ちゅっぷっ、ぷちゅ、むっちゅぶっ! ひぃっ、ちゅる、猶、なんでフェラ……!? んちゅっ、ちゅっぷっ、ぴちゅぶっ!」 猶猶の口を貫いているのは、御伽のペニスだ。 さっきまで俺と猶猶の行為を一歩下がった位置から眺めていたはずなのに、いつの間にかここまで接近して、フェラを強要している。 ……いや、強要という言葉はおかしい。 俺も御伽も、猶猶を無理矢理犯したいなんて思ってない。 なぜか、身体が勝手に動くんだ……!気付けばこの体勢になってて、欲望に流されてしまうんだ……! 「あひっ、ひいっ、ちゅぷぅ、むちゅはぁっ……! なんなのコレぇっ、ひっ、ちゅぷっ、ぴちゅっ!」 「さっき那由太先輩に中出しされて、ようやく終わった と思ったのに、ちゅぷむちゅ、こ、今度は……ひいっ、 こんな、ちんぽだらけ、ちゅぷっ、ひいっ……!!」 口奉仕を交えながら、恐怖を吐露する猶猶。 それもそうだ。彼女を責めているのは、俺と御伽だけじゃない。 御伽と同じ位置に佇んでいた、もう一人の人間。 ヤツも、いつの間にかこの輪に入っていて―― 「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ……あっはぁっ!」 腰を振って、猶猶を苦しめているのだ。 「はっ……はっ……か、屍、お前……!」 まるで男の腰遣いだ。何かを出し入れしている。そんなピストン運動を繰り出している。 “何か”なんて決まっている。今、この状況で、恨み相手の身体に突き刺すものと言えば―― 「――んじゅっばっ! お尻いっ、お尻におちんぽ 入れられてるよおおおおぉぉおおぉじゅぶぶぶっ!!?」 「んはあっ、んはあっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!」 ペニス……! 屍は……猶猶の肛門にペニスを入れているのか……!? 「はぁ、ぐっ、か、屍、それ、どういう事だよっ……!?」 「はぁっ……んっ、んふぅ、はふぅ……! ん……? これ……? だって……もうおまんこ満杯 だから……そしたらもうお尻しかないかなって……」 「そうじゃなくて……はっ、はっ……! お前の股間のそれ……もしかして……!」 ペニスバンドには見えない。道具にしては、あまりにも精巧過ぎる。 本物、なのか……!? 「おちんちんだけど?」 「ひっ…………!?」 「ま、マジ……かよっ……!」 そりゃあ、こいつの口から一度も……自分が女だなんて言ってもらった覚えはないが……。 そもそもちゃんとした自己紹介された記憶が無い。屍が男であっても……おかしくはない……。 けど、まさか本当に……!? 「ぐひいっ、ちゅぶっ、んぎっひいいっ!? 屍ちゃん、男の娘だったのぉっ!? ちゅぷっ、 ぴちゅっ、くっちゅうっ!!」 「猶……それを知らずに、好きになって……ちゅぷっ、 男相手に、エッチしたがって……ちゅりゅぷっ……!」 「ひがっ、あっがぁっ……!? んっ、くちゅぶっ……! じゃあ猶は、はひっ、男の娘をオカズに……オナニー してたんだ……ひぃ、ちゅぷみちゅぅっ!!」 「屍ちゃんっ、私嬉しいよっ……!! 男の娘仲間だねっ、あっ、あっ、あぁんっ♪」 「なんで……なんで猶の周りは男の娘ばっか なんじゃああああじゅぶぶぶぶうぶぶっ!!」 女だと思っていた。だって見た目は完全に女で……。 御伽みたいなケースは稀だと考えていたけど、まさか屍もとは……! 「はぁっ……はぁっ…………っ!?」 ――いや、ちょっと待て。 俺達、いつの間にか全員全裸になってる。 そのおかげで、わかる。 屍……乳房があるじゃないか――! 「屍、お前本当に男なのか……!?」 「おちんちんがあるのは男。 おちんちんがないのは女」 「じゃああなたはどっちなの――?」 は……。 あなた……? 俺の事、だよな……? 俺は男で……この通り、ペニスもあって……。 レズの猶猶に嫌がられる程度には、間違いなく男だ。 こいつ、何を言って―― 「性器の有無でしか性別を決められないなんて、 物凄くくだらない事だと思う」 「はっ……はっ……どういう、事だよ……」 「別にあなたからおちんちんが無くなったところで、 私はあなたを変わらず男だと思う」 「あなたが私の事を女だと思っていたのなら、 おちんちんがあったって私を変わらず女だと思ってよ」 「…………っ、……っ」 思ってよ、って……。 「そんなのどうでもいいぶじゅぶうっ!! お尻いっ、お尻いいいいいいじゅぶぶぶぶっ!!」 「アナルセックス嫌なのおっ、なんかホモっぽいっ!! 猶レズなのにっ、なんでっ、そんなところにちんぽ 入れられなくちゃいけないのおっ!!?」 「だからそれは、今おまんこが満杯で……」 「じゃあ何もしないで突っ立っててよっ!! 無理して穴探してツッコまないでよおっ!!」 「だからそれは、あなたへの復讐で……」 「もうわけわかんなくて狂うううじゅぶぶぶじゅぶっ!! ぴちゅぶうぶっ、くっちゅぶぶぶぶっ、ちゅぷるりぃ!」 「はぁっ♪ はぁっ♪ あったかいっ♪ 口の粘膜トロトロおっ♪ ちんぽによく合うっ♪ あっはぁぁん♪ あっへぇ、あっへぇ、あっへぇ♪」 猶猶の言う通りだ。 狂ってる。ここに存在するあらゆるものが。 原因はこいつ。最も狂っており、最も冷酷で最も怪奇な人間。 人間かどうかも、もうわからない。吸血鬼か? そういう化け物の類なのか? 俺も、わけわかんな過ぎて狂っちまいそうだ……! 「ちょっ、那由太先輩っ……んぐっ、ぐっひっ、ちゅぶ、 んぐぎひぃ、何勃起させてんですかっ……くひっ! 猶レズだから……オスちんぽ、嫌なんですってばっ!」 「んな事言われたって……くぅっ……!」 ついさっき射精したばっかだってのに、全然ペニスが萎えてくれない。 むしろ滾る一方だ。自分でも驚くくらい、異様な熱を帯びていて……。 「んっ、んはぁっ、あぁん……! 狂っちゃうよっ……! こんな、ちんぽはち切れるくらいの勃起……あへぇっ! 私おかしくなっちゃうぅ、んほほぉぉぉ~~~っっ!!」 それは御伽も同じのようだ。さっき屍に手コキされて達していたようだが、まだまだ精は尽きていない様子。 思えば俺がこの場所へ来た時にはすでに御伽も猶猶も精液塗れだった。 あれが全て御伽が放ったものなのだとしたら、相当な量を射精した事になる。猶猶のこの腹の膨らみも考慮するなら、なおさらだ。 それでもまだ隆起し続けているのだから、その絶倫っぷりはあまりにも人間離れしている。 屍の仕業と考えた方が正しいだろう。 「あひぃんっ、……ご、ごめんねたりたりちゃん……。 レズだからちんぽ好きじゃないんだよね……? フェラなんてしたくないよね……?」 「う、うう……ちゅぶぅ、はひぃ……猶は……ちゅむ、 かれぴっぴのちんぽっぽよりかのぴっぴのまんこっこを 舐めたいですよぉ……ちゅぷっ、ぴちゅぅ……!」 「そうだよね、レズの子がちんぽ咥えても 楽しくもなんともないよね……」 「んちゅ、んっ、ん……ゆっふぃん先輩には申し訳ない ですけど……実際その通りです……ちゅぷ、ちゅぱっ」 「ん…………ねえ……たりたりちゃん……」 「ちゅぷぅ……は、はい……? なんでしょう……?」 「あっへぇ♪ ちん皮引っ張ってぇーーっ!!」 「んもうっ、なんでそんなにちんぽバカなんですかぁっ!! 美少女顔が台無しですよぉっ!! あむあむあむぅ!!」 「あひいっ!? 気持ちいいっ!? ちん皮伸びるぅっ! あっ、あっ、はぁぁっ♪ あっひいひいひいいいっ♪」 「あむっ、かぷかぷかぷぅ……ちゅむっ、かっぷぅ!! ゆっふぃん先輩のバカぁ……がぷがぷがぷぅっ!」 「あへっ♪ 甘噛み具合が丁度いいのぉっ!! あっ、もっと引っ張っていいからぁっ!! ちんぽの皮、ぴろーんってしてぇっ♪」 「んぐむぅ、ちゅぷっ、がぶぅぅ……ちゅぱっ、 んちゅぶっ、がぶぅ~~~っ…………!!」 御伽の箍が外れているのは、屍のせいだ。 御伽は普段調子のいい性格だが、あれでしっかり相手の事を考えて行動している。 猶猶がレズだと知って、自身の性欲をぶつけるような自分勝手な人間では無い。 それでも“ああ”なっているという事は……。 男性器の欲望のまま猶猶をひたすら責めたてる事しか頭にないんだ。今の御伽は性欲に狂った存在なんだ。 そして、俺も御伽のようになってしまう。この性熱の昂りを、止められるとは思えない。 「んむぅ~~……くちゅぷぅ……ちんぽ目の前で 見てると……んちゅっ、ぴちゅ、あひっ…… やっぱキモイぃ……ちゅぷっ、ずじゅっ」 「いくら持ち主が美少女でも……この形状、 全然可愛くないですぅ……ちゅぶっ……」 「もっとぉっ、もっとちん皮あむあむってしてぇっ♪ ふへへ、んぐへへぇっ……」 「……ってか、ずじゅ、今のゆっふぃん先輩、 全体的に可愛くないぃ……あむあむぅ……」 「アヘ顔だし、金玉震えっぱなしだし……むしゃむしゃ、 んちゅむ、ちんぽ硬くて味ないし……ぴちゅ、 美少女ちんぽ……もっと甘いと思ってたぁ……!」 「んっ、はへぇっ、こんなにたくさんフェラして もらえるなら……んっ、あっへっぇ、ちんカス たっぷり溜めておくんだったよぉ……あひぃっ」 「いらないですよぉそんなのぉ……ちゅずぅっ、ひぃん、 んくちゅぴっちゅぅ……!!」 「そんな事言わないでぇ……んっ、はっふぅっ♪ ちんカス……チーズみたいで美味しいんだよぉ……? 食べた事無いけど……」 「ちんカスなんていらないぃ……あむくちゅ……、 そもそも猶……んちゅぶ、今お腹いっぱい――」 「――んぐがぶべぇっ!!?」 突然、猶猶が目を見開きながら呻いた。 「んがっ……がぶぶっ、ちゅぶっ、んっ、ぐっぶうっ!? ぐっ、ぐっ、がっ…………がっ、がぎっ……!?」 「あひっ……!? たりたりちゃん、急にどうしたの……ひっ!?」 「おっ、おごごっ、おごっ、おごっ、おごっ、おごっ――」 「――ごぼぼぼぼぼぼぼぼおぼぼぼおおぼぼおっっ!!?」 「ひ、あひいいっ!!?」 「なっ……!?」 あまりに唐突過ぎて、俺は膣快楽を忘れて状況の整理を求めた。 「あっ、あがっ……!? がぎひっ!? ひっ、ひっぎっ、ぐぎひっ、ひっ、ひががぁっ!!?」 猶猶は―― 「おぼぼぼぼぼおっ!! おげぼげぼげぼげぼおっ!!?」 驚愕と苦痛を顔に浮かべながら、とめどなく嘔吐を繰り返している。 「あっ、んっほっ!? おひっ、ひっ、ひいいっ!!? んっほおぉぉおぉおぉおぉっ!!?」 「ちゅぼぼっ、おぼぼっ、ちゅぶっ、ぐちゅぶうっ!! げぼげぼおっ、おぼぼっ、げろろろろおっ、ちゅぶっ!」 「あへぇぇっ、たりたりちゃんのゲロがっ……あひっ! 私のちんぽにかかるっ、フェラちんぽ、ゲロ塗れに なるうっ、あっひいっ!!」 「あぶぶっ、ぐぶっ、ちゅっぶうっ、はふっ、や、だ、 んぐっ、喉から、ザーメンっ、ぐぼぼぼっ、おぼぉっ! 溢れで、んぐっ、ちゅぼっ、来るっ、じゅっぼぉっ!!」 なんで、急に――? 「はぁぁぁっっ…………んっ、んっ、あふぅぅっ……♪」 屍が、何かをしたのだ。 「んっ、アナルのちんぽが……ぐぶっ、ちゅぶぶっ……! 腸の奥まで、伸びて……ひっ、ぐがぁっ!?」 「あぎっ、ぎっひっ、お腹ん中っ、掻き回してるっ、 くぐぎいっ!? はぎっ、ぎゃっ……ぎゃぎいっ!?」 ペニスが伸びる……!? なんだそれ。どういう仕組みだ? 「はっ、あぁっ……んっ、んしょっ……! こう……胃をね、ぐりぐりと……んっ」 怪物か? 妖怪か? いや、屍を正しく形容する言葉を探す意味など無い。 こいつは今、こんなにも加虐的に猶猶を責め、その結果猶猶は嘔吐を繰り返しながら苦悶に顔を歪めている。 そして、俺も御伽も、当の猶猶も。そんな屍を止める事が出来ない。 どうする事も出来ず、ただ劣情に敗北するだけだ―― 「ぎっ、ひっぎっ!! やべでっ、ぐびぎいっ!! おながっ、いだいっ、ひぎっ、ちゅぶっ、ぎいっ!!」 「ザーベンダング……ぢんぼで掻ぎ乱ざないでぇっ……! あっ、がっ、ぎぎっ、ひんぎっ、ひょっぎいっ!!」 「――ん゙っ!? おっ、おぼげぼぼぼぼぼぼぼぼおっ!! おごろろろろろおぼろろろぼっろぼっろろろろおっ!!」 胃液ではなく、精液を吐き出す猶猶。 あの腹の膨らみの中身が、屍の抽送の荒ぶりで喉奥に押し上げられたというのだろうか。 あれって子宮内の精液じゃないのか!? どこがどうなって胃に移動して、食道経由で口から出てくるんだ!? 「うひょぉっ♪ おっ、おっ、ザーゲロ塗れのちんぽっ、 もっと咥えてっ……! はひぃんっ、おほぉ……! ちん皮引っ張りながらっ、ちんぽもっと舐めてぇっ!」 「んじゅぶっ、ぐぼぼぼっ!!おぼおっ、ぐっぼおっ!! ぐぶっ、ちゅぶっ、ぐるじっ、じゅっぶっ……!! がぶっ、げぶぶっ、ぐぶうっ、ぎゃっぶうっ……!!」 今日だけで何度も痛感したこの気持ち。即ち―― わけがわからない。 わけがわからないが……。 「くっ……! ぁっ……!」 一つだけ、はっきりとわかる事がある。 「んがぁっ……がぶっ、ぎっ……ぎゃぶうっ……!! んごごっ、ぐっぶっ、じゅぶっ、がっ、ぎぎっ!!」 猶猶が苦しむたびに、膣が締まるのだ。 それが、あまりにも気持ち良くて、嘔吐のたびに射精感を高めてしまう。 「うっ……あぁっ……! だ、ダメだっ……! くっ、気持ち、いいっ……!」 「んぐぶっ、ちゅぶぶっ、どのぢんぼもっ、はぐっ、 勃起っ、ぼっぎぃっ、ぼっぎじでるっ……んっ、 ふっぐっ、ぎゅぶぶっ!」 「ばんごん中のぢんぼもっ、アナルん中のぢんぼもっ、 口ん中のぢんぼもっ、じゅぎゅっぶっ、全部っ、ひっ、 あぐっ、ぐっふっ、ぼっぎっ、ぼっぎぃっ!!」 「だって……あひっ、ザーメンゲロかけられながら フェラされるの、気持ち良くって……あっ、んっ!」 「もっと……欲しくなっちゃうよっ……んっ、ひぃんっ! ダメだってわかってるのに、苦しませたくないのにっ、 あっ、あぁんっ……!」 御伽が腰を前進させる。猶猶の喉の奥に亀頭を捻じ込ませる。 「んぐぐぐぐぼぼぼぼごぼぼぼおっ!!?」 吐瀉物を押し返すように、男根が蓋をした。苦しくないわけがない。 「ごめんねっ、ごめんっ! 止まんないのっ!! 勃起しちゃうの、あっ、射精したくなっちゃうのっ!!」 「んごっ、ごっぼおっ、ごぶぶっ、ぎゅぼぼっ、ぐぼっ! ぎぼぼっ!? じゅぶぶっ、ぐっぶぶぶぶぶぶっっ!!」 「苦しいよね、嫌だよね、ごめんねっ、ごめんねっ! ひっ、あっ、気持ちいいっ、んっ、んっ……!! 後で怒っていいから……あ、あ、ちんぽ気持ちいいっ」 謝りながら、昂ぶっている。 俺も同じ気持ちだ。 レズとして、異性のペニスなんて膣に入れられたくないだろう。 それを知りつつも、挿入を外す事が出来ない。興奮を止められない。 「すまん、猶猶……! 俺も……どうしようもないんだっ」 「んじゅっぶっ、ぎゅぶうっ! んぐぐっ、ひぶうっ!! やだ、やだぁっ、んじゅぶぶぐぶむじゅうっ!!」 「後でどんな仕返しでも受ける覚悟だよ……くっ!」 「私も同じ気持ちだよ……! だからっ……今だけ、ちょっと我慢してっ……! んっ! んっ! んっ! んっ! んっ!」 「ぎゅっぶっ! ぎゅっぶっ! ぎゅっぶっ! ぎゅっぶっ! ぎゅっぶっ! ぎゅっぶっ!」 「し、仕方ないよねっ……!? こんなに勃起しちゃった んだもん、全部出さないともう終われないよねっ!? たりたりちゃんもわかってくれるよねっ!?」 「あっはぁっ♪ 腰動かしても大丈夫だよねえっ!? ちんぽ欲暴走させて口内射精まっしぐらでも、 全部許されるよねぇっ!? おほぉっ、んほっ♪」 御伽のストロークに合わせた悶え声が、リズミカルに響いた。 「あっひっ! あっひっ! あっひっ! あっひっ! あっひっ! あっひっ! あっひっ! あっひっ!」 「ぼじゅぶっ! ぼじゅぶっ! ぼじゅぶっ! ぼじゅぶっ! ぼじゅぶっ! ぼじゅぶっ! ぼじゅぶっ! ぼじゅぶっ! ぼじゅぶっ!」 唾液を火花のように迸らせながら、猶猶は品の無い水声を漏らし続けている。 「んっはああっ! ちんぽ気持ち良過ぎっ……!! なんなのこれぇっ、私……またイクっ……! イカされちゃうよっ……!! はへっ、はっへえ!」 「ぐっぶっ、じゅぶぶぼっ、ぎゅっぼっ、ぐぶびいっ!! がぶぶっ、ちゅぶぷっ、ぴちゅ、むちゅぶぶうっ!!」 「今日何回もイってるのに、まだちんぽ出したがってる、 射精……また……あひっ! あっ、あっ、あっ、あっ!」 「俺も……もうっ……限界だっ……!」 「あ、皆もうイク感じ? じゃあ私もイこうかな……」 「んぐぶぶぶぶぶぶぶ~~~~~~~~っっっ!!?」 猶猶の各穴を塞ぐペニス達が、一斉に膨れ上がる。 そして―― 「はっ……くううっ、うっ、ぐうっ!!」 「イクぅっ♪ イクぅっ♪ イクぅっ♪ イクぅっ♪ イクぅっ♪ イクぅっ♪ イクぅっ♪ イクぅっ♪」 「んっ、よっ…………ほっ、んっ…………っと!」 「――ばぶぶぶぶぐぶぐぶぐうぶぐぐぶぐうじゅぶぐぶ ぎゅぶじゅぶぐっぐうぶぶじゅぶじゅぶぶぶぅっ!!?」 全てのペニスが、何かに導かれるように一斉に弾けた。 「あっはあっ♪ またイクっ! ちんぽっ♪ 私のちんぽっ♪ イクっ、イクっ、イクううっ♪」 「じゅぶばばばっ、ぐっばばっ、じゅぶぶぶぅっ!! ぢんぼっ、熱っ、あっぢっ、ぎゅっばっ、ぎぶびぃ!! ぐるじっ、ぐるじいいっ、ごぼぎゅごぼぉっ!!?」 「ぎぼぢっ♪ あっ、へっ♪ 出しちゃう出しちゃうっ♪ ごめんねたりたりちゃんっ、一滴残らず全部出しちゃう よおっ♪ はぁぁんっ♪ んひょほーーーーーっ♪」 「んぐぶっ、ぶっほおぉっ!? おほおっ!? ひいっ、 おぶぶっ、じゅっぶびいっ、ぎゅっぶっ、おっひっ!! ぢ、ぢんぼっ、全部暴れて、ひいっ、ぐぶぶぶっ!!」 「ん~~っ…………ん~~~っ!! ふんぐ~~~~っっ…………!!」 御伽は狂い、屍は力み、猶猶は苦しむ。 それぞれがそれぞれの痴態で、絶頂を遂げている。 「くっ……ぐあっ……!」 俺も先ほど猶猶に中出しした直後であるにもかかわらず、こんな大量の精液を膣に放ってしまった。 自分でも驚いている。俺の身体、完全におかしくなってしまった―― 「んっ……もうちょい、もうちょいあるのっ……♪ 奥に詰まってるヤツも、吸い上げてっ、ひあぁんっ! お願い、あっ、あふっ、奥の硬いヤツぅ、ひぃっ!」 「んぐっ、ぶぶっ、じゅっぶっ、ずっ、ずずずずずっ! ずずずずずず~~~~~~~~~~っっ…………!!」 「あひあぁぁ~~~~~~~~~……!! んほぉぉ~~~~~~~~~~…………!!」 御伽の要望通り、猶猶は口内を陣取る亀頭を吸引し、精液を搾り上げている。 御伽を思い遣っての行為ではない。きっとそうさせられているんだ。屍によるなんらかの手段で。 「ずずずずず~~~~~~~~~~~…………!! くちゅむっ、ちゅずずっ、じゅっずずずずずずぅぅ!!」 「んっ、ぶくぶく……ぐぶっ、ぐびっ、ぐびっ……!! ちゅむちゅむ……ごくごくごく、ごくごくごくっ……!」 「ごくごく、んっ、んっ、んっ……ごっくごっくっ……! ぐぶぶっ……ぐっぶっ、ちゅずずずずず…………!」 「――ごくんっぐうっ!! ぶはああっ!! ぜえっ!! ぜえっ!! ぜえっ!!」 「はふぅん……♪ あぁぁん、射精直後のちんぽに……」 「――ゔっ!? ゔぇぇっぶっ!!? ゔっ!? おぼげええええええええええええええええええっ!!!」 口を解放された瞬間、入れたばかりの精液が口から溢れ返った。 「げぼぼぼぼぼおおおおおっっ、んげぼおおおおっ!! おげえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙っっ!!」 「たりたりちゃんのゲロ精液がこれまたあったかいのぉ♪ ぬくぬく~~……んあぁぁ……♪」 あの白濁が、誰にものなのかわからない。 口内射精した御伽の精液なのかもしれないし、腸内を巡って昇ってきた屍の精液なのかもしれない。 子宮を膨らませた俺の精液という可能性だってある。この場は全ての理不尽を許容している。おかしな事だらけなんだ。 「げぷぅ、おげぷー……うげえっ、うっ、おえぇっ……! おげえ゙ぇぇ…………!! げ、ゲロぉ…………! ぎ、ぎぼぢわるいっ…………おえぇぇっ……!」 「はぁっ……はぁっ、んっ、はふぅ…………! たりたりちゃん…………だ、大丈夫…………!?」 「――おげぇっぷ! 大丈夫なわけ……ないですっ……! こんな……どこもかしこも精液塗れにされて……! 猶……レズなんでずよぉ……!? ふがぁ……」 鼻の穴からも精液が滴っている。 どういう原理だ? 猶猶の体内の管は今、無秩序に精液を循環させているのか? 「もう……死にそう……! なんで、ぐぶっ、おえっ! 猶が……こんな、目に……ふが、んが、くひぃ……!」 「ん…………あふぅ……たりたり、ちゃん…………」 「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」 射精を止められなかった俺と御伽は、冷めていく性器と思考回路とともに、ボロボロになった猶猶をただ見つめる事しか出来ない。 下手な言葉は無意味だ。俺も御伽も男なのだから。 猶猶を性の慰みにした男達の労わりの想いなんて、レズの彼女に響くはずがないのだから―― 「………………」 「……あいつら……まだかなー」 「……ぽりぽりぽり」 「――ふーーっ……疲れたぁ……」 「…………っ」 いつの間にか一人だけ服を着て。 まるで一仕事やり終えた顔で、満足げに息を吐き出しやがった。 足元には、猶猶が果てているというのに。 「正直……あんまり楽しくなかったな。 こういう事の何が気持ちいいんだろ……」 「屍……お前、なんなんだよ……!」 「……皆あんなに楽しそうにやるもんだから…… どの程度なのか少し確かめてみたけど…… やっぱり私には向かないな……」 「何が目的で俺達にこんな事させたんだよっ……!?」 「……ん? 何?」 「どうして猶猶の事恨んでるんだよっ……!? いくら恨んでるからって、どうしてこんな酷い事が 出来るんだよっ……!?」 「お前……一体……何者なんだよっ……!?」 少し、涙声だった。 「はっ…………はっ…………ひぃ…………! お゙、お゙え゙ぇぇぇ………………」 猶猶が不憫過ぎて。 自分で自分を止められなかった事が悔し過ぎて。 「はぁっ……んっ、はふっ……私も……たりたりちゃんに こんな事するつもりなんか無かったっ……!」 「私の思考回路を性欲一色にしたのは、屍ちゃんだよね? どうして……そんな事したのかな……?」 「………………」 「そこまでして、たりたりちゃんを恨んでたって事? いくら復讐とはいえ、こんなのいけないんだよ……?」 言葉は優しいが、その声には一定の力強さを感じる。 御伽もまた、憤っているのだ。 自分の身体を勝手に利用された事に対して。 その結果、大切な友人を望まずして穢してしまった事に対して。 「……私の復讐相手は、別に夛里耶猶猶だけじゃない」 「え…………」 「たりたりちゃんだけじゃない……って…………。 じゃ、じゃあ……他に誰を……!?」 「――あなた」 ピッと人差し指を向けたその相手は―― 「わ、私…………?」 「直接的な怨みは、夛里耶猶猶にある。 間接的な怨みは、由芙院御伽にある」 「……いや、そうでもないかも。 この場合どっちの方が直接的って事になるのかな……? うーん……難しい…………」 こいつは……御伽にも……恨みが……? だから、御伽も巻き込んでこんな事を……? 「私は屍ちゃんに会った事なんてないはずだよ……!? それなのに、どうして恨まれてるの!?」 「他にも怨んでいる人間がいる」 「それって…………」 この現場に巻き込まれたヤツ……。 つまり……。 「俺……も……?」 「………………」 なんだよ……。 こいつは俺も恨んでるのか……? 俺、何かこいつにしたっけ……? 恨まれるような事……過去に……。 「あなたは殺す」 「なっ……!」 殺す――!? 殺すだって――!? 「そんな事言われる筋合い無いぞっ……!! なんで俺がお前に殺されないといけないんだよっ!」 「そう頼まれたから」 頼まれた? 俺を殺せって? 誰だよ、そんな事言うやつは―― 俺を殺したがってるヤツって、いったい誰なんだよ―― 「さて……そろそろ例のブツを……」 「あ、待てっ……どこ行くんだよ……!?」 俺達を置いて、マイペースに歩き出す屍。 まだ聞きたい事がいっぱいあるんだ。納得できない事だらけなんだ。 「復讐だろうがなんだろうが、こんな事許されない……! 絶対にお前は間違ってる……!」 「………………」 御伽も猶猶も、いいヤツらだ。人に恨まれるような人間じゃない。 ここまでされても仕方ないといえる事を過去にしたとはどうしても思えないんだ。 「事情はわからないけど、ちゃんと謝れっ……! そして説明しろっ……!」 猶猶の具合を考えると、謝って済む話じゃないかもしれない。 それでも、けじめは必要だろ。こんな凄惨な事を仕掛けておいて、何も無しなんて許されるわけがない。 「私が悪いの?」 「当たり前だっ! 何が復讐だっ!」 「何も知らないくせに」 「お前の事は何も知らないけど、 猶猶と御伽の事はよく知ってる!」 「信頼できる二人だ! だから俺は二人を信じる!」 「那由太君……!」 何も知らない俺だが、この復讐はやり過ぎに違いない。 猶猶と御伽が、こんな目に遭っていいわけないんだ。それだけは断言出来るんだ。 「はぁ……はぁ…………屍、ちゃん…………」 「屍ちゃんが……猶の事……恨んでるなら…… はぁっ、はぁっ……猶は…………猶は…………」 「――まずその事を謝ります……ごめん、なさい…………」 「………………っ」 息絶え絶えのその一言に、屍の眉が動いた。 僅かだが、それは心の機微の証拠―― 「屍ちゃん。私があなたに何かしたのなら、私も謝りたい。 だから、ちゃんと事情を説明して?」 「………………」 「二人がこう言ってるんだ。 これでもまだ説明無しで済ますつもりか?」 「………………」 「…………私は…………」 「――別に“あなた”にその言葉を 言われたいわけじゃない」 “あなた”―― ここで言う“あなた”って、誰だ……? 猶猶と御伽……どっちだ……? 「……屍ちゃん…………!」 「あなたは……私達を許すつもりは……ないの……?」 「……私にはまだやる事がある。 “あなた”の相手をしている暇はない」 「お、おいっ、屍――」 「こっちに来なさい――」 その言葉が誰に向けられたものか、それはすぐにわかった。 眼光が、あまりにも俺を強く射抜き過ぎている―― 「――くっ……!?」 眩しい――! なんだ――? 雷のように、白光が世界を覆って―― 「え………………」 は…………。 嘘、だろ…………。 「なんで……教室…………?」 だって俺……さっきまで…………。 「――ぐっ!?」 頭に激痛が走った。 それまでを思い出そうとした瞬間、脳が引き千切れたような感覚が流れて……。 「くっ……はっ…………はっ…………」 遠い場所にいた気がする。 薄暗くて、生臭くて。 美しい天使島と真逆の……穢らわしい空間に。 そこで誰と何をしていたんだっけか。 思い出せない。何も。 今のこのふわふわとした気分は、まるで悪夢から目を覚ました直後のようだ。 「俺……寝てたのか?」 午後の授業を聞きながら、眠ってしまって。 放課後も居眠りしたまま、落陽を迎えてしまって。 だとしたら最悪だ。誰か起こしてくれればいいのに。 「……………………」 静かだ。 当然か。もうすぐ夜だ。生徒は誰もいないだろう。 教員は……どうだろうか。いてもおかしくはない。 というか、今何時だろう。 時計を探す。教室の時計……。 ……ああ、そうだ。 俺、腕時計をしている……。 でも、ダメだ……。 この時計は、時間が―― というより、俺の時間はもうずっと……止まっていて―― 声が――聞こえる―― あなたは殺す。 俺は、殺される――? 誰に――? 誰が俺を殺せと頼んだ――? そいつはなぜ、俺に恨みがある――? 「あ…………」  「ああ…………」   「あああああ………………!」    「あああああああああっっ…………!!」 止められない。 きっと俺は―― 殺される―― 「ァァァァァァ…………」 背後に気配を感じる。 「………………」 「ァァァァァァ」 「……そんな顔、しないで」 どんな顔してる? 「私の身にもなってよ」 どれだけ辛い思いをしてきたんだ? 「しっかり、殺してあげる」 誰に言われて、俺を―― ………………。 何が……ごめんなさい、よ…………。 何が……友達になりたい、よ…………。 それは……今さら都合良過ぎでしょ……!           ――この世界は、シェルターである。       心と心が火花を散らし、悦楽の刻を切り取り貪っている。         脆弱な繭に覆われたこの世界は、薄氷そのものだ。           この世界は、シェルターである―― うるさいな―― 誰かのノイズが、さっきからずっと頭の中で響いている。 さっきから。 さっきっていつだろう。 ノイズの声の主は、誰だろう。 問い掛けられている。 ねっとりと、粘り気のある声で。 “何か忘れている事は無いか?”と―― 「……そんなもの、ない」 大切な人の名前。 大切な思い出。 大切な感情。 全て、俺の中でしっかりと保存されている。 忘れてなんかいない。 忘れてしまった事を無理に思い出す必要は無いの。あなたは別に、“何も”してないのだから。 “何か”をしたのは……あなたではない、別のあなた。 「……………………」 賑やかな空間が、少しだけ息苦しい。 今日はもう帰ろう。 歓迎会を終え、転入生を迎え入れ。 明日からまたいつもの日常が始まる。 どうせ明日なんてものは、問答無用でやってくるんだ。 受け入れ、流されるしかない。 無限に続く“明日”という日常に、身を委ねていくだけだ―― 「………………」 少しだけ、身体が重い。 寝不足だろうか。いや、そんな事は無い。 なんだか、自分の身体が自分のものじゃないみたいな……。 そんな、客観的な疲労。 「……ふぅ」 それでも立ち止まる事など出来ない。 足取り重いまま、俺は“日常”の中に吸い込まれていった。 愚者達は、理性という名の言い逃れでその人間の本能を隠す。 綺麗事という甘美な嘘で人間の証明を隠す。 なんておかしな話だろうか。 利益追求こそが人間らしく在る事の出来る最大の意義なのに。 そこに暴力が介在するからこそ、人間でいられるというのに。 昼休み。 校庭を歩いていると―― 珍しい組み合わせの二人を見かけた。 「んっ……んしょっ、んしょっ……」 「ま、まころさん……もう少しですっ……! 頑張りましょうっ……!」 覚束ない足取りでふらふらと蛇行しているその後ろ姿に、思わず声をかけてしまう。 「二人とも、何してるんだ?」 「き、期招来さん……! これまた……ナイスタイミングですっ……!」 「はぁ……はぁ……! これ、少しでいいから持ってもらえるかな……」 「あ、ああ……」 二人は箱に入った何かの荷物を運んでいる途中らしい。 手ぶらだった俺は、それぞれの荷物を少しずつ軽減してあげた。 「よっ……っと」 「ふー……視界が開けた……!」 「すみません、突然こんな事お願いしてしまって……」 「いや、大丈夫だよ。で、これどこ運べばいいんだ?」 「体育倉庫なの」 ここからさほど遠くはない。 「それじゃあ、腕が痺れる前に体育倉庫に向かおう」 「ふぅ……到着です」 「期招来君のおかげでなんとかなったよ。ありがとう」 「いや、どういたしまして」 倉庫の床に箱を置いて、一息ついた。 「まころさんってば、この荷物全部お一人で 運ぼうとしてたんですよ」 「えっ……そうなのか!?」 「あはは……もともとは、職員室に用事があったんだけど、 そこで体育の先生に頼まれちゃって」 「この量を一人じゃ無理だろ」 「うん、だから何回も往復するつもりだったんだけど……。 偶々その場にいたフーカさんが手伝うって言ってくれて」 だからフーカと一緒だったのか。 困っているまころを見かけて、フーカのメイドとしての奉仕魂が疼いたのかもしれない。 「箱、こっちの隅に置いておけばいいみたい。 あとはわたしがやっておくね」 「あ、でしたらワタシも……」 「フーカさんは休んでて。目が視えないのに、 無理させちゃってごめんね」 「あ……いえ……」 「まころも無理するな。俺がやるから」 「そんな……悪いって」 「いや、まころだって別に力持ちってわけじゃ ないんだから。バリバリの文化系じゃんか」 「そうだけど……それを言ったら期招来君だって帰宅部」 「俺は男だからさ。いいよ、休んでなって」 「う、うん……期招来君も、フーカさんも、 巻き込んじゃってごめんね……」 「お気になさらずに」 箱を一つずつ持ち上げて、倉庫の隅に運ぶ。 「――ん?」 その際、ふとあるものが目に入って来た。 「――鎖……?」 それは、あまりにも自然に、無造作に。倉庫の床に我が物顔で広がっていた。 まるでずっと前からここに放棄されていたかのように。 ここを陣取るのがさも当然のように。 無骨な鎖が、一帯で山積みに置かれていたのだ。 「どうかしたの? 期招来君」 「いや……これ」 持ち上げると、ジャラジャラという金属音が鳴り響いた。 「鎖だぁ……」 「鎖ですねぇ……」 「だよな。間違いなく、鎖だよな」 ここは体育倉庫だ。教室や寮の自室などでは見かける事のない非日常的な道具が転がっているのは当たり前だ。 でも……鎖って……。さすがにこいつの居場所はここではないはずだ。 そもそもこれ、何に使うものだろう。 授業や部活などで使うとは思えない。 何かを縛ったり括ったり仕切ったりするならば、縄で十分なはずだ。 鎖……縄でなくて鎖。 体育倉庫に保管されている道具として、その必要性が全く想像出来ない。 誰が何のために、ここに……? 「こんな鎖、前からここにあったっけ?」 「さぁ……。わたし、体育倉庫なんて あんまり入った事無いから……」 「ワタシもです……。以前から鎖が置いてあったかどうか、 ちょっと思い出せません……」 俺も同じだ。どこに何が置かれているかなんて意識した事ないからな……。 「でも、もし前々から鎖があったのなら、 その時きっと気付くと思うんだ」 そして、俺はこれまで鎖の存在に気付いた事は無かった。 そして今、鎖を発見した。 「という事は……この鎖はここ最近 置かれたものなのかな……」 「かもしれないな」 「鎖なんて何に使うんでしょうかね。 体育で使った事ありましたっけ?」 「体育ではさすがに……。うーん……」 「あ。でも、この倉庫って、体育以外の授業で使うような 道具も置いてあったりする何でも物置みたいなとこだし、 この鎖は別の授業で使ってたりするのかも」 「うーん……体育に限らず、授業のカリキュラムで 鎖が必要になる事って考えられないよなぁ」 鉄臭い鎖を手の中でジャラジャラと鳴らしながら、使用意図を考えてみる。 なんか……気になるな。場違いなこの鎖が、どんな目的でここに保管されているのか。 「悪い事した生徒を縛るためのもの……でしょうか」 「ロープでいいと思うんだよな。持ち運びも楽だし」 というか、生徒を拘束するような事態なんてあり得ないと思うんだが。 「そもそもこの鎖って、誰のだろう?」 「誰のって……普通に、EDENの備品じゃないのかな」 「案外個人の私物かもしれませんね。こっそり EdEnの体育倉庫を自分の物置として使って、 ここに隠している……みたいな」 「でも、ここ共用の体育倉庫だよー? 生徒の私物を隠して保管する事なんて出来るかなぁ?」 「生徒のものじゃなくて、教師の私物って線はどうだ? 職権濫用でこっそりここに置きっ放しにしてる、とか?」 「出来なくはないかもしれないけど……。 そんな事する意味がわからないよ~」 まあそうだよな。使用目的が判明しない限り、誰のものなのかなんてわかりっこないか。 「案外長いなこれ……。色々使い道ありそうだけど」 「うーん……鎖ですか……。ワタシには 人を縛る以外の使い方が思い浮かびません」 「わたしも……。鎖ってそういうものだよね……。 こう……悪い子を括り付けて、グイッグイッと……」 「二人とも……なんかおっかないぞ」 「で、ですがそれが普通なのでは……?」 「うんうん。鎖で緊縛するんだよ」 なんという過激な発想……!彼女達はこの道具を何だと思ってるんだ……!? 「期招来さんはいかがですか? この鎖の使い道……何か思い当たります?」 「うーん、考えたけどさっぱりだ。 普段鎖なんて使わないから、 何のためのものか全然想像出来ない」 「逆に、この鎖が期招来君のものだとしたら、 何に使いたい?」 「この鎖を……俺が使う…………?」 長くて硬いこいつ。ずっと握っていたら、手に臭いがうつってしまいそうなくらい鉄成分たっぷりのこいつ。 鎖で……何をするか……。 人を縛る…………。 緊縛…………。 「いや~~んっ! 動けません~~っ!」 「ひ~~んっ、えすえむだよ~~っ!」 「……おおっ…………!」 「ワタシが駄メイドなばっかりに……緊縛プレイで お仕置きされてしまうのですね……ああっ、鬼畜っ! しかし、これこそメイドの宿命っ……!!」 「身体が動かせないよぉ……も、もしかしてわたし…… このままあんな事やこんな事されちゃうの……? ひ、ひぃ……ダメだよぉ、ひえぇぇ……!」 「お許しくださいっ! お許し、お許しぃっ! どうか、どうかこの卑猥で淫乱なスケベメイドを、 許してくださいませぇっ、あひ~~~んっ!」 「助けてぇっ! えすえむぅ、えすえむはダメぇっ! こんなのあぶのーまるなんだよぉ? ひぃぃ……! 大人の遊びはダメなのぉ、もう許してぇっ…………!」 「…………ごくり」 少女達の純白の肌に、鎖の痕を印していく。 そんな、過激な束縛プレイ―― 「期招来さん……?」 「――はっ!?」 い、いかんいかん。二人がさっきから変な事ばっかり言うから、俺も似たような事を想像しちゃったじゃないか。 「ま、まあ……とにかく、この道具の持ち主も目的も、 よくわかんないって事で……」 「そうですね……残念ですが」 「これ以上考えても、謎は深まるばかりだもんね」 「荷物運びは終わったし……じゃ、そろそろ出ようか」 「期招来さん、一つお伺いしたいのですが」 「ん?」 「期招来君は……やっぱりこう……えすえむみたいなのが 好きだったりするのかな?」 「はあ!?」 「先ほどの妄想内のワタシ達がそんな感じでしたので」 「――ぶふっ! なぜそれをっ!?」 「あの……ワタシ、別に縛られるような 悪い子じゃありませんよ?」 「うん……。わたしもだよ。 縛り付けないといけないのは悪い事した子だよ? わたし……別に悪い子じゃない……」 「っていうか、なんで俺の妄想を――!?」 「だって……ねえ」 「はい……鎖の使い道なんて、ホントもう…… それくらいだけですから」 だからって、俺がいかがわしい妄想をした事まで見破るとは……恐るべし、過激発想症候群患者達だ。 「ワタシが考えてる鎖の緊縛は……例えば躾けやお仕置き など……そういった類の行為なのですが……」 「期招来君のは、なんだかえすえむっぽかったよ? かなりえっちい感じだったよ?」 「ぐっ…………!」 「鎖の緊縛と聞いて、期招来さんはえすえむを想像 されるのですね。それは期招来さんだからなのですか? それとも殿方は皆さんそうなのですか?」 「し、知らないって……!」 「期招来君……わたしの身体、鎖で縛りたいの? わたしの純白の肌に、鎖の痕を印していきたいの?」 「うるさいっ!」 「実はワタシ、えすえむぷれいというのに少し興味が ありまして……。なにせメイドですから、こう…… 従属欲求が……半端ないのでございます……」 「もしそういった事にお詳しいようでしたら、色々 お話聞きたいのですが……縛ったり……叩いたり…… あと、滴らせたり……」 「やめなさいっ!」 「期招来君、鎖で女の子を縛りたい欲求あるのー? それってえすえむだよねー!? えすえむなんだよねー!?」 「身体に垂らしても平気なヤツってどこに売ってる んでしょうか……!? あれにご興味ありますか!? 奴隷のように屈服するメイドってどう思います!?」 「なんでそんなに食いつくんだよー!?」 「わたしの事縛りたいー!? どうなの期招来くーん!」 「口にはめるあのボールみたいなのって 何て名前なんですかー!? 教えてください期招来さーん!」 SMに興味を持った年頃の少女達の純粋な質問攻めから逃れるべく、俺は全力疾走で倉庫を出たのだった―― 「はい、どーぞっ♪」 「ありがとうございます、彬白先輩」 「いえいえ、お好きに使ってくださいね、つつじ子さん」 廊下で、彬白先輩とつつじ子の姿を見つけた。 何かを受け渡しているようだ。 「何やってるんだ?」 「あら、那由太君」 「参考書をもらってるの」 「参考書?」 「去年私が使っていたものですわ」 「先輩、もう要らなくなったからくれるって」 「ああ、なるほど」 「那由太君もいかがですか? どうせ捨ててしまうものですし…… 誰かのお役に立つのなら、それが一番です」 「わっ……!」 紙袋の中に、参考書がどっさり。 「こんなに持ってるんですね……!」 「はい。あるだけ持ってきましたわ」 相当な量だ。持ってくるのだけでもきっと苦労しただろう。 「私もさすがに全部はいただけないし……」 「那由太君、遠慮しないでどうぞ。 せっかくですから軽くして欲しいですし」 「それじゃあ……お言葉に甘えて」 いくつか物色して、数冊いただく事にした。 「もうよろしいのかしら?」 「はい、十分です。助かりました」 もらった参考書をパラパラとめくる。 おお、カラフルで可愛い字体の注釈が所々見受けられるぞ。 彬白先輩の苦労の滲んだ参考書なら、やる気も倍増しそうだ。 「少し余ってしまいましたわ……。 どなたか他に、参考書を必要としている 後輩ちゃんはいらっしゃらないかしら……」 「そういう人はたくさんいると思うんですけど……」 そう言いつつ周囲を見回すと―― 「お」 カモ発見。 「霍ちゃん。ちょいちょい」 「ふぇ……? んー?」 彬白先輩の手招きに、ふらふらとおびき出される霍。 「はい、飴ちゃん。あーん」 「うん、あーん」 無防備に口を開き、手懐けられたところで……。 「参考書はいかがですか?」 「うう、あたし勉強嫌い……」 「飴ちゃんあーん……」 「ん、あーん……」 「はい、一冊どうぞ」 「うん……どうも……」 ものの数秒で、完全に屈服した。 年上の包容力と霍の踊らされっぷりは、これほどまでに相性のいいものなのか。 「ふふっ……霍ちゃん、彬白先輩の妹みたい」 「というか……ペットみたいだ」 「んーーっ」 何か反発しているようだが、飴を舌の上で転がし中なので口を開いて文句を叫べない。 「あと一冊……他には……」 「あれー? 皆で何してるのー?」 「ひっ、みそかつっ!」 「晦だよー!」 晦が自ら歩み寄って来た。そしてなぜ怯える、霍。 「今、参考書を配り回っているんです。 晦さんもお一ついかがですか?」 「あーん……」 参考書より飴を欲しがっている。 相手は先輩だというのにこんな馴れ馴れしく出来てしまうのも、彬白先輩のおっとりとした雰囲気のおかげだろう。 「ふふっ、はい、どうぞ♪」 「あむぅ……ん、りんご味ぃ~♪」 「ご一緒に参考書はいかがですか?」 「わーいっ!」 ハンバーガーを注文した相手にポテトを勧めるマニュアルで、彬白先輩は最後の一冊を見事捌き切った。 「……ふう。これで完売ですわっ」 「いやあ、お見事。後輩の扱い、お上手です」 霍や晦は特に扱いやすい相手だろうが。 「いえいえ、皆さんとってもいい子達で、 もっと飴ちゃんあげたくなっちゃいますっ」 「ふふっ……彬白先輩って優しくておっとりしてて、 すごく憧れます」 「確かに、彬白先輩っていつも余裕たっぷりですよねー。 オトナのオンナって感じー」 「あら、やだもう、何も出ないですわよっ」 と言いつつ、缶から飴を取り出して皆に配る彬白先輩。 「面倒見いいですよね。弟とか妹とかいるんですか?」 「いえいえ、私一人っ子ですのよ」 そうなのか。ちょっと意外だ。 後輩の面倒見に慣れてるようなので、てっきり年下の妹弟がいるものだと思ってた。 「でも、弟や妹は欲しかったですわ。 皆さんは兄弟はいらっしゃいますか?」 「私は一人っ子です」 「晦も一人っ子だよー。期招来君は?」 「俺は――」 あれ……? 俺の―― 俺の兄弟――兄妹――姉弟―― 兄――姉――弟――妹―― ――家族―― ――どうなってるんだっけ――? 「…………いないよ」 「皆さん一人っ子なんですね」 「こういう話って普段あんまりしないから面白いですね」 「霍ちゃんはー?」 「ひぅっ……!」 ん……? 霍の顔が一気に赤面した……? 「むむむ……その反応……もしや…………!?」 「あ、あたしは…………」 「そのきょどり具合……まさか………… 大家族の予感…………!」 「え、えっと…………弟と、妹がいて……」 「こんなところに……伏兵が……!?」 「あたし……四人姉弟の……長女……」 「にわかわですわーーーーーーっっ♪」 「ぶひゅう!?」 我慢の限界といった様子で、彬白先輩が霍に抱き付いた。 「四人姉弟の一番年上だなんて……! 人は見かけによらないよー…………」 「確かに……俺も初めて知ったから驚いた……! こいつ、お姉ちゃんって感じじゃないのにな」 「ふふっ、でもきっと家庭では、優しくていいお姉ちゃん なんだと思うよ。ほら」 つつじ子が笑顔で指差した先には―― 「にわかわにわかわーーーーっ♪ むぎゅーーーっ♪」 「よ、よしよし、わかったから…… わかったから落ち着いてっ……! よしよし、いい子だからぁっ……!」 先輩相手でも、反射的に長女らしいなだめ方をしてしまう霍なのであった。 ――夜。 「……ふう」 なんとなく夜風に当たりたい気分だった俺は、少しの間寮を出て、建物の裏側で涼んでいた。 「もう遅いし……そろそろ寝るか」 自室に戻る所で―― 「……ん?」 こそこそ動く人影を捉えた。 「誰だろう……?」 廊下を曲がって行った……? あの姿は―― 「………………」 「――おい」 「うおっ!?」 「ぽぐばっ!?」 やっぱり。羽瀬とメガだ。 「……んだよ、期招来かよ。 寮長かと思ったじゃねーか」 「寮長ならまだマシだな。 もし女子に見つかったら羞恥の極みだ」 「ま、まあな……」 「……? どういう事だよ?」 「つーかおめえ、何やってんだよこんな時間に」 「いや、夜風を浴びに」 「もう門限の20時過ぎてんだぞ?」 「まあ……そんな決まり、誰も守ってないし」 「けっ……!」 不良のくせにルールに厳しいな。 「そっちこそ何やってるんだよ」 「……気付いてないのか?」 「ん?」 「俺はてっきり、ほのかなメスの微香におびき出された 無垢な狼が現れたのかと」 「何の話だよ」 「ああ、言い訳は無用。淫靡な香りに太刀打ちできる オスなど、むしろオスとは言えないさ。 男は皆哀しき狼なのさ、そうだろうフレンド?」 「ああ、その通りだブラザー」 現時点で相当面倒臭い展開に足を踏み入れてしまっている事は間違いない。 「……帰るわ」 「待ちたまえ迷えるウルフよ! ここに君の求めている答えがある!」 「なんだよ……」 「おい、そんなヤツの事なんてもういいから、 さっさと例のブツを……」 「ふふふ……焦るなフレンド。 早漏して蹌踉のまま早老なんて 聡朗とは言えないで候?」 羽瀬が手に持っている袋から何かを取り出した。 それは―― 「パラダイス、降誕!」 「おおっ!!」 エロ本……? 「見て見て那由太。パラダイム、転換!」 「いや意味わかんないって」 自信満々で掲げられた本を手に取り、中身をめくってみる。 「…………………………」 「くっくっくっ……! 我の秘蔵のコレクションに、 魂を震わせるがいい!」 なるほど、エロ本の貸し借りをしようとしてたから、コソコソと人目を忍んでいたのか。 「どうだいフレンド達? パラダイスのギフトに、 パラダイムがシフトするだろう!?」 「……………………」 「夜明け来ちゃう!? 第三次性長期来ちゃう!?」 しかし……この本は、さすがに……。 「二次じゃねーか」 「む……?」 「てめー、なんだよこの萌え萌えな絵はよぉ」 「俺はリアルな女の裸が見てーんだよ、 アニメとかの女体なんて全然興奮しねーんだよ!」 「おいおいフレンド、いくらなんでもその相違はないだろ。 二次元絵で欲情するなんて今の若者のマスト事項だぞ?」 「オタクみてーな事言ってんじゃねーよっ! こんな目のデカい絵に欲情出来るわけねーだろ!」 「なんと……! 今更目の大きさをツッコむとは……! 古風なボーイだぜ」 「那由太はどうだ? 二次元絵こそ 無限の可能性だと思わないか?」 「無限の可能性が秘められてるかどうかはさておいて、 まあ、アニメやゲームの絵も俺はアリだと思う」 「だろ? やっぱりテクノロジーがホモサピエンスを 支配しているこのご時世において二次絵は――」 「でもこれロリばっかじゃん」 「夜明けぜよぉ……」 がっくり肩を落とす羽瀬。 「百歩譲って二次絵のエロ本が今の若者のマストだと しても、ロリはさすがに……」 「ガキの絵見てどう興奮しろってんだこらぁっ!!」 「そんな……なぜわかってもらえない……!?」 「いや、俺達そういう趣味は……」 「ふん。君達は同性愛をどう思う?」 いきなり話題を変えてきたぞ。 「どう思うって言われても……」 「まさか、お前ホモなのか……!?」 「……っ!」 身じろぐ俺とメガ。 思い起こせば、羽瀬の変態的言動はなんか色々超越し過ぎている。 もしかして性別の垣根を越えた博愛主義者って事も……! 「同性愛はね、なぜか美化されるんだ」 「は……?」 「本来マイノリティであるはずだが、その差別が社会問題 として取り上げられている。最近では一つの愛の形 として受け入れるべきという風潮まであるくらいだ」 「一方でロリコンはどうだ? 異常者と虐げられ、変態と罵られる。 差別をしても問題にすらならない」 「同性愛もロリコンも、偏愛という点では変わりない。 生まれつきかもしれないし、 幼少期の環境の影響かもしれない」 「本人が望まずして得てしまった性癖だったとしても! 同じ偏愛で、同性愛は認められ、ロリコンは迫害されて いるのだ!」 なんかローリーが熱弁を始めたぞ。 「好きでロリコンになったわけではない人間も いるだろう。思春期を迎え、いつの間にか幼児しか 愛せない自分に気付く」 「しかし彼は人間が当然のように与えられている “愛する”という権利を行使する事が出来ない。 愛しただけで、愛でただけで社会は罰してくるからだ」 「どんなに好きでも、どんなに純愛でも。 恋した相手に触れる事すら叶わない。 こんな不遇があって許されるだろうか?」 「一方で同性愛は少しずつ社会に認められつつある。 腐ったメス共はホモに騒ぎ、美しささえ覚えている ほどだ。こんな不公平が許されるだろうか?」 羽瀬の発言を聞いて気分を害した方がいらっしゃったら、俺の方から謝っておこう。申し訳ございません。全て彼個人の妄言です。 「ロリコンはなぜこうも社会悪になってしまったのか!? 純愛なのに!? 好きな人を想うと少しだけ心が 優しくなれるのは、皆と同じだというのに!!」 「何が言いたいんだよてめえ」 「一緒に新しい扉を開こう!」 「うるせえっ!」 「どぅびゅしーっ!?」 「俺を変な道に連れ込むな!」 「ひ~んっ、一緒に夜明けを迎えるぜよぉ~!」 「けっ……とっておきの裏モンがあるって聞いたら……。 とんだフカシだぜったく……」 「あ、メガ…………」 行ってしまった。 「……彼には少し早い桃源郷だったか」 「しかし那由太はもういい頃合いだろう? 新しい刺激に餓えてると見た。この餓狼めっ。 このこのぉっ!」 殴られてもめげずにロリ本を勧めて来る羽瀬に―― 「――こんどぐびあっ!?」 俺も拳を振るわざるを得なかった。 「俺はロリコンじゃないから、お前の純心や 社会の不遇はよくわからないけど……。 一つだけ、一般人としてロリコンに忠告しておいてやる」 「――ほどほどに、だ」 そう言って俺はその場を立ち去った。一人の穢れた青年を残して。 「ほどほどに……か。那由太、さすがだな。 そんなお前が眩しいぜ……」 「わかったよ……。俺、今からホモになる。 ロリコンよりホモの方が幸せになれる気がする!」 「那由太っち待ってー!」 「うわああああっ!?」 帰り道。のんびりと通学路を歩いていると―― 「ん……」 同じく帰寮途中の小鳥と目が合った。 「あんたも帰り?」 「ああ。合唱部は今日練習ないのか?」 「まあねー」 「一人……なんだな。 晦やまころと一緒に帰ったりしないのか?」 「別にいっつもあの子達と一緒ってわけじゃないわよ」 そういうもんなのか。 女子の友情ってよくわからないな。トイレについていくくらい行動を共にする時もあれば、同じ目的地にもかかわらず個別で帰寮する時もある。 「もうすぐ楽園祭だよな。部活、休んでる場合なのか?」 「身体を休める事だって立派な練習の一つよ。 ……まあお喋り中心の文化部が言うセリフじゃないけど」 「今年は何やるんだ?」 「……お楽しみって事で」 堂々とした表情に思えない。言葉の割にどこか悲観的だ。 何かあったのかもしれないが……これ以上聞ける雰囲気じゃないな。 「あぁら」 気付けば、ゆっくりと前進中の志依に追い付いた。 「高梨子さん。今日は木ノ葉さんと一緒じゃないの?」 「やめてよ志依まで」 「いつも一緒だと気が張っちゃうのかしら?」 「あんたねぇ……」 「安楽村さんはもう帰っちゃったの?」 「ああもうっ……私志依苦手……! なんでもお見通しって感じなんだもん」 「私は高梨子さんの事好きよ。 素直じゃないところが特に」 「……?」 よくわからない会話だ。 「ぽかーんとした顔ね、期招来君。あなたの事も好きよ。 鈍感なところが特に」 「バカなだけよ」 「む……」 彼女達が何の話をしているのか謎だが、鈍感でバカと言われたのだけは理解出来る。 「なんだよ二人して」 「志依みたいに物わかりが良過ぎるのも困るけど…… 期招来みたいに物わかりが悪過ぎるのも困りものね」 「だからなんなんだって」 「乙女の会話よ。 男の子には永遠に理解出来ないでしょうね」 だそうだ。それなら仕方ない。男として慎ましくしていよう。 「……期招来はさ、友達と喧嘩とかしないの?」 「なんだよ急に」 「いいから答えなさいよ」 喧嘩……か。 「うーん、まあ無いな」 「そもそもあんたの友達って誰よ」 「ぇ゙」 なんか、改めて問われるとかなり答え辛いな……。 「ま、まあ……羽瀬、とか……?」 真っ先に出て来る名前と言えば……やっぱあいつだろうか。 一番最初に名前を挙げるのは少し悔しい気もするが、気を遣わずにグーパンでツッコめる程度に仲のいい間柄だと思ってる。 「メガとかも、まあよく話すかな」 「ふーん……羽瀬とか飯槻とかと喧嘩しないんだ」 「喧嘩するくらい自分の意見をぶつけたりしないし、 相手の意見を否定したりしないし」 「友達でも?」 「男ってそんなもんだよ」 「……そ」 興味なさげに、一言。 「じゃあさ、女子の友達っているの?」 「まあ、一応」 「例えば誰よ?」 「例えばもなにも、小鳥とか志依とか」 「ぐぬっ……!」 「きゃあ♪」 「なんだよ」 「あんた、本人を前にして、面と向かって 恥ずかしげも無くよくそんな事言えるわね」 「いや、結構恥ずかしかった」 「でも素敵だったわ。イケメンよ、期招来君」 「どーも」 「女子の友達とも、喧嘩とかしないの?」 「した事ないな。小鳥とも志依とも、 今まで俺と喧嘩した事ないだろ?」 「そうね。あんた張り合いないし」 「私と期招来君は相性抜群ですものね」 「そういう事だ。他の女友達も同じだよ」 「……あっそ」 やっぱりつまらなそうに、短い一言を地面に向かってペッと吐き捨てた。 「…………小鳥はあるのか? 友達と喧嘩した事」 「――ぎゃふん」 「くっふっふっふっ!」 「な、なんだよ……」 「あのねえ…………あるわけないでしょ。 あの子はあんた以上に張り合いないんだから」 「あの子って誰?」 「うーわ……」 「くっふふふふふふっ!!」 「あ……まころ?」 「あんた、喧嘩売ってる?」 「もしかして、晦か?」 「私と初めてやってみる? 友達との喧嘩ってやつ」 「……遠慮しておきます」 「ふんっ」 つんつんした顔のまま、早足で小鳥は歩き去っていってしまった。 「なんなんだ……あいつ……」 「まあ……あの子もちょっと重症よね」 「志依は相変わらず全能みたいだな」 「でもこの足だから。 わかっていても何もしてあげられないの」 「何かするのはあなたよ、期招来君。 高梨子さんを助けてあげるのは……私じゃなくてあなた」 「は、はぁ…………」 「エロゲーの主人公みたいに、ちゃちゃっと ヒロインちゃんのお悩みを解決してあげて」 「……………………」 志依、楽しそうだ。 「今のセリフで〆て、そのままカッコよく 退場したかったところだけど……」 「車椅子でそれは難しいわ。 期招来君、私を寮までしっかりと運びなさい。 ありきたりな暗転処理なんて許さないんだから」 「……はいはい」 志依の言動は時々わからないが、今物凄く楽しそうなのはわかる。 俺みたいな凡人が理解出来ない事を全て察し、把握しているからこそ見える景色があるのだろう。 それが、今回は志依の愉悦に触れたという事。 「くふふっ、くっふぅ、くふふふふっ……♪」 何が何だかわからないままだが、上機嫌な志依を押して歩くのは結構好きだったりするので……まあいいか。 「出来れば最後まで“残って”……あなたの主人公っぷり を傍で観察していたいものだわ」 「よくわかんないけど、そうなるといいな」 「ええ。願うしか出来ないから……そう願い続けるわ――」 のどかな青空だ。 思わずぼーっとしてしまう。 時間は……そろそろ正午だろうか。生徒達は皆賑やかに昼休みを過ごしている。 EDENの午前中の授業は、大体11時30分に終了する。 そして昼休みを挿んで午後の授業へ。昼休み中に正午を過ごす事になる。 で、その印となるのが―― このチャイム。 正午を伝えるこのチャイムのみ、他のチャイムとは異なる音色になっている。 そして、このチャイムは島に張り巡らされた放送網を通じて、島内全土に響き渡るのだ。 天使島における時報みたいなもの、というとわかりやすいだろうか。 真昼間を告げるその時報の最中、各生徒はそれぞれ好きな事をして過ごしている。 昼飯を食べている者。部活の昼練をしている者。お喋りしている者。午後の提出物を必死でこなしている者。 最近では……携帯で電話してる女子も見かけるな。寮生活で実家から離れているから、家族と会話しているのかもしれない。 彼女もまた、昼間の電話を終えたその一人―― 「あ……那由太……君」 「御伽、ご飯もう食べ終わったか?」 「う、うん……」 「電話してたみたいだけど……」 「それも……もう済んだよ」 「そっか」 由芙院御伽。 内向的で物静かな少女。 「誰に電話してたんだ?」 「え、えっと……実家の家族……」 「そっか……」 「いい天気だよなー」 「そう……だね」 空に目を向ける俺と異なり、彼女はあまり窓の外を眺めようとしていない。 いつものように、虚ろに視線を泳がすだけだ。 御伽がなぜそんなにも遠慮がちなのか。 ふと、気になる時がある。 彼女の陰りの理由、一体何なのだろう―― これは普通のチャイムの音。 ホームルームが終わり、EDENでの一日が終わった事を示す音だ。 「ふー、さてと……」 今日はどうするかな。 適当に商店街に寄ってぶらつくのもいい。直帰してゲームや漫画に耽るのもいい。 どうしたものか―― 「――っと」 「ひっ……!」 「わり」 「う、あ…………」 「………………」 俯きながら席を立った御伽に、帰ろうとするメガの肩がぶつかってしまった。 御伽は―― 「……っ、くぅ…………!」 そのまま床にしゃがみ込んでしまった。 「お、おい……御伽、大丈夫か……!?」 「那由太……君……?」 「肩、ぶつかったみたいだけど……。そんな痛むのか?」 「う、ううん……平気、だよ……。 ちょっとかすっただけだから……」 ならどうしてこんなに苦しそうにうずくまるんだ……!? 「はぁっ…………はぁっ……っっ!」 「な、なんだよ、どうした……御伽っ!?」 御伽はそのままぐったりと、床に突っ伏したのだった―― 「ん…………」 「……気が付いたか?」 「あれ……私…………」 「なんか、しゃがんだまま具合悪そうになって……」 「あ…………那由太君…………」 「少し様子を見て、ヤバそうだったら保健室に運ぼうかと 思ってたところだ。目醒ましてよかったよ」 「うん……ごめん、心配かけて」 「寝不足か?」 「ううん……ちょっと、ね」 意識を取り戻した直後で、ダウナーな様子だ。 でも……御伽って元からいつもこんな感じなんだよな。って事はもう本調子に戻ったと考えていいのだろうか。 「立てるか?」 「うん。大丈夫だよ」 「送ってくよ。一緒に帰ろう」 「えっ……!? それは…………」 「何かマズいか? どうせ同じ道じゃないか」 「……あ、でも……那由太君なら……大丈夫、か……」 「…………?」 自分に言い聞かせるように、独り言を呟いてから―― 「あのね……私……」 「男の人が、苦手で」 珍しく俺の目と向かい合うまでに視線を上げて、そう告げたのだった―― 「ふーん、そうなんだ」 「うん……だから、さっきメガ君とぶつかった時も、 ちょっと変な風になっちゃって」 「あいつ、乱暴だもんな」 「ううん、私がボーっとしてたから悪いの。 いつも……下ばっか向いてるから……」 「たまにね、こういう時があるんだ。 男の人の身体に触れて、それでちょっと…… 気分が……悪くなって……」 「そっか。まあ、気持ちはわかるよ。思春期だしな。 俺だって女子と話す時は少し気を遣うっていうか……」 「あ、ううん、そういう事じゃなくってね……」 「――本当に……苦手なの。本当に……」 俯きながら吐き出されたその一言は。 なにやらずっしりとした重みを孕んでいるらしく、すぐに地面へと捨てられたのだった。 「……女子とだとそんな事無いのにね」 「そんな、男が苦手なのか」 「男性恐怖症……みたいなもの、かな。 触れ合うのとかはもちろん……目を合わせるのも、 辛かったり……ね」 「授業だって、男の先生の時は話があんまり入って 来なくて……。うちのクラスの担任の先生が女性で ほんと良かったって思ってる」 「男の人だ、って意識しちゃうと……頭の中が真っ白に なっちゃって……混乱、しちゃうんだ……」 だから御伽は、いつも視線を虚ろに漂わせて……。 内向的な性格になったのは、それが原因に違いない。 「暗い、よね……こんなの。男の人相手に…… おどおどして、怯えて、怖がって……」 「俺はそんな風には思わないよ」 「気休めはやめてよ。 こんな根暗な女のどこが――」 「でも御伽、今全然普通じゃん」 「え…………」 「男が相手だと、混乱して怯えちゃうんだろ? でも今、そんな風になってないじゃないか」 「あ……それは……」 「俺も……一応男なんだけど」 「それは……ね」 「那由太君は……平気、なんだよ」 「……?」 たまに。ごくたまに。 目を合わせて話してくれる時がある。 だからこそ説得力がある。俺は平気というその言葉。男性恐怖症の彼女が、目を合わせて発してくれたその言葉。 きっと、真実なんだろうな。 「なんで俺は平気なんだ?」 「私にもよくわからないよぉ……。 他の男の人はみーんなダメなんだけど……。 那由太君だけはね、なんか平気なの」 「御伽、お前俺の事男として見ていないんじゃないのか?」 「そんな事ないって! 那由太君は立派な男性だよっ! 背高くって……声低くって……筋肉があって……。 うん、那由太君は男の、人……」 「じゃあなんで……」 「わからない……。こうやって改めて男性だって 意識しても、全然怖くないんだ。怖くないの。 一緒にいて、隣にいて……嫌じゃないの」 「……なんでだろうね?」 「――っ……! さ、さぁ……な……」 また目を合わせてくれた。今度は柔らかな笑顔とともに。 その不意打ちに、俺が目を逸らしたくなってしまう。 「那由太君が相手だと……スーって心が開くんだ。 なんでも話せる気がするの」 「そうなのか?」 「私が男性恐怖症だって事……今まで誰にも話した事 なかった。今日……那由太君に話したのが、初めて」 「それくらい、あなたは特別なの」 「………………」 気恥ずかしいけど、なんだか嬉しいな―― 「――今日は色々ごめんね。面倒見てもらったり、 変な話に付き合わせちゃったり……」 「いや、構わないよ」 「でも……楽しかったし、嬉しかったよ。 男の人とこんなにたくさん一緒にいられて」 「………………」 「那由太君って……不思議。一緒にいるとね、 なんだか落ち着くの。安心出来るんだ」 「ううん……それだけじゃなくって……。 心の奥が……こう、熱くなってきて……」 「私……那由太君となら、変われる気がする……」 「………………」 なぜ俺だけ平気なのか。それは、御伽本人にもわからない事らしい。 それでも。 彼女が今、変わろうとしていて。そして俺が彼女に何かしてあげられるならば。 手を貸してあげたい。俺に出来る事を、全力で―― 休み時間、職員室の前を通ると―― 「はっ…………はぁっ…………!」 呼吸を乱した様子で、御伽が職員室から出てきた。 「御伽……どうかしたか?」 「あ……那由太君……」 なんだか辛そうだ。 「もしかして、また……?」 「あ、う、うん……。担任の……葛籠井先生に用が あったんだけど……見つからなくって……」 「キョロキョロ探してたら、体育の先生に 話しかけられちゃった……。それで……ね……」 「ああ……」 筋肉隆々の体育教師は、男性恐怖症の御伽にとって特別男を意識させられる相手なのだろう。取り乱してしまうのも無理はない。 「大丈夫なのか?」 「うん……葛籠井先生の用事は、体育の先生に 伝えておいたから……」 「その事じゃなくって、御伽の体調の事だよ」 「え? あ……うん、平気、だよ……」 そうは見えない。 「……………………」 彼女が患っている病は、もしかしたら俺が思っている以上に厄介なモノなのかもしれないな……。 その日の放課後。 「へー、じゃあ御伽ちゃんもあの喫茶店行ったんだー」 「うん。静かで、雰囲気のいいお店だよね」 「まあ……私達が行った時は全然静かじゃなかったけどね。 とくにこの子が」 「なんだとー、ずびしっ!」 「ひゃっ……!? もうこら、おみそっ!」 「えへへー♪」 「ふふふっ……」 「あ、じゃあわたし達は音楽室行くから」 「うん。部活頑張ってね」 「喫茶店……今度はゆっふぃんも一緒にどう?」 「ありがとう。私も皆と一緒に行きたいな」 「わーい! その時は誘うねー♪」 「それじゃあ、また明日」 「……………………」 「女子はね、平気なの……」 「……………………」 「……あと、那由太君も」 「なんでだろうなぁ……」 「なんでだろうねぇ……」 「なあ、御伽。一つ聞いていいか?」 「私もね、那由太君に一つ聞きたい事があるの」 「ん?」 「那由太君が先でいいよ」 「ああ、そうか? じゃあ……」 二人でゆっくりと帰路を歩きながら、会話を交わす。 「御伽のその……男性恐怖症って……原因はなんなんだ?」 少し踏み込んだ話だっただろうか。 でも、それがわかれば“なぜ俺だけ平気なのか”という理由が解明できそうな気がして。 「それは……ね。うん…………」 「昔、ちょっと色々あって…………さ……」 あ…………。 どうやら、聞いてはいけない話題だったようだ。 「そ、そっか。で、御伽が聞きたい事って?」 気まずくなるのを避けて、強引に話題転換を急いだ。 「えっとね……ずっと気になってた事なんだけど」 「うん」 「どうして那由太君は……私の事御伽って呼ぶの?」 「え……?」 「みんなゆっふぃんって呼ぶのに。 那由太君はあだ名じゃなくって名前で呼んでくれてる」 「どうしてかなー……って。 前から……気になってた」 「どうして……って……」 改めて問われても、特に理由はない。 「その方が、呼びやすいから……かな」 「ふふっ……ふふふっ」 「な、何笑ってるんだよっ」 「ふふっ、変なのっ……ふふふっ」 変だろうか。 そんなに笑われるような答えをしたつもりは無いんだけど。 まあ……御伽が楽しいなら、それで。 「――男性恐怖症ってね……」 「ん……?」 「男の人と目を合わせられなかったり、 近付けなかったり、心を開けなかったり……」 御伽は、俺の隣で目を合わせながら優しくそう告げた。 「あと……触れられなかったり」 今の言葉は、少しだけ虚ろに。 「私……那由太君は平気なの。 こうして目も合わせられるし、傍にいられるし、 素直に、正直になれる」 「触れたり……出来るのかな」 「……………………」 「こんなに平気なの、那由太君だけなんだよ? 他の男の人は皆……どうしても無理なの。 恐怖症が発動しちゃって」 「那由太君は大丈夫なの。今まで、 怖いって思った事一度もない」 「多分、何しても……大丈夫なんだと、思う……」 たどたどしい口調だが、何を言いたいか少しずつ明瞭にしてくれている。 「那由太君と触れ合った事はまだないけど…… 多分、多分ね……そういう事になっても…… 私は恐怖症を起こさないだろうな……って」 「うん」 「私の勝手な予想だけど……そう、思うんだ。 自信、ある…………」 それまで合っていた互いの目が、いつの間にか離れてしまっていた。 御伽は、どんどんと視線を泳がせていて。 いや、それは俺も同じか。 「あ、別にね、那由太君に嫌な思いさせるつもりは ないんだよっ! 無理矢理……とか、絶対、ダメ……」 「別に……那由太君は、私の男性恐怖症の抵抗力を 試すための存在じゃないし……協力する義理も無い んだから……それは、私もわかってる、し……」 「………………」 「御伽。俺はさ――」 その時の俺は―― 御伽に負けず、たどたどしい態度になってしまった。 全く、こういう時こそカッコよく男らしい言葉を決められればいいのだが。 とはいえ―― 「あ…………う…………」 “こういう事”に、なりました。 「男子部屋、初めて入った……」 「どんな感じ?」 「なんかね……匂いがもう違う」 「げ、臭い?」 「あ、ううん! 違くて! 女子のお部屋ってね、お香とかアロマとか焚いてあって、 いい匂いがするんだけど……」 「ここは何にも匂わない。 男の子って……こんな感じなんだね」 「よく誰かの部屋に遊びに行くのか?」 「うん。クラスメイトの女の子の部屋とか……」 「女の子はね……ホント平気なんだけどねぇ……」 「俺は?」 「今は……ちょっと緊張してる」 「怖いか?」 「平気だよ。信じてるから」 十分だ。 「私……ね。こんな病気を抱えながら…… それでも、人並みに恋愛したいって思ってた」 「男の人が昔から苦手で……出来る限り距離を置いて、 関わらないようにして生きてきたの。それでも、 恋愛願望はあったんだ」 「普通の事だと思う。男性恐怖症だからって、 恋愛恐怖症になるわけじゃないもんな」 「でも……ずっと無理だと思ってた。こんな自分だもん。 男の人に怯えて生きてきて……おかげでいつもおどおど しちゃうような根暗な性格になって……」 「恋なんて、出来るわけない。男性を好きになる事も、 好きになった男性と結ばれる事も、きっと無いって…… そう、考え続けてた。諦めてたんだ」 「でもね。那由太君と出会った。男なのに、怖くない人。 男なのに、一緒にいられる人」 「この人となら、うまくいくんじゃないかって……。 そう思えた。那由太君みたいな人、初めてだったから、 私……舞い上がっちゃって……」 「………………」 「……さっき、帰り道。恥ずかしい事言っちゃったよね。 那由太君となら、触れ合っても平気だと思う、とか。 いきなり……ごめんね」 「いや……」 「こんな怖くない男性……平気な男性……私の人生で、 後にも先にも、那由太君以外いないんじゃないかって 思って……それで」 「だから、那由太君で自分の恐怖症の実験をするとか、 そういうつもりは全然ないんだよ?」 「わかってる」 「きっかけは……確かに“なぜか平気な男子”って とこからだった。この気持ちは、そこから始まった」 「最初は……どうしてあの人だけ平気なんだろうって 考えるようになって、それから少しずつ那由太君の事が 気になって……」 「それで……ね。うん……」 それっきり、御伽は停止した。 言葉にしようと必死で、上手く伝えようと努力して。 本人は手応えを感じていない様子だが。 俺にはしっかりと伝わったよ。全ての言葉が響いた。 「本当に……怖くないんだな?」 「う、うん……今のところは」 「怖かったら、言ってくれ」 「わ、わかった……もしそうなったら……ちゃんと言う」 「――ちゅ」 接近しても動じなかったので、最小限の動作で口付けに至れた。 「ふ…………は…………」 「……どうだ?」 「平気……だもん」 「顔真っ赤だけどな」 「でも、怖くないもん」 「そっか」 「むしろ……嬉しいよ。二つの意味で」 「二つ?」 「男性恐怖症の私でも、きちんとキス出来て…… 異性と触れ合えたって事」 「その異性は、私の好きな人で…… その人のキスは、とても優しいって事」 「……………………」 「好きだから……平気なのかな。 平気だから……好きになったのかな。 えへへ、どっちだろうねぇ」 「どっちだろうなぁ」 因果は俺にはわからないけど。 以前、俺は考えたんだ。 御伽は男性恐怖症で。でも恋愛したくて。普通の女子として異性と触れ合いたくて。 そのために彼女の中の何かが変わるべきなのであれば。 俺は手を貸してあげたい。俺に出来る事を、全力でしてあげたい。 今こそ、その時なんだ―― 「う…………はぁ、うぅぅ…………」 怖くないと言ってくれているけど。 その息は、とても心許なくて、弱弱しい。 「……平気なんだよな?」 「覚悟は……出来てるつもり。でも……」 「でも……?」 「身体がね……勝手に震えて……ひ……あぅ……」 それが男性恐怖症による嫌悪からくるものなのか、それとも初体験による緊張からくるものなのか。 すぐにわかる。 俺が出来る事、それは―― 「優しくするから」 「うん……」 御伽の震えが少し治まった気がした。 「那由太君が優しい人だって事、私……知ってるから。 信じてるから、ね……」 「ありがとう」 「うわ……はぁっ…………!」 少なからず恐怖を感じているのは、間違いない。 だって、彼女は男性恐怖症なんだ。 そんな彼女にとって、男性のシンボルと言えるペニスを近付けられて、冷静でいられるわけがないんだ。 「うぅ……ひぅ……っっ」 「大丈夫……か?」 「う、うん……頑張ってる……」 「私だってね……女の子だもん……。 好きな人の……お、おちんちん……欲しいって気持ち、 ちゃんとあるんだから」 「那由太君のなら……きっと、ううん、絶対大丈夫……。 キスだって出来たもん。平気、だよ……。 自信、あるんだもん……」 「ゆっくり入れるから……無理しないでくれよ」 「う、うん……」 ペニスに怖じ気づいて視線を泳がせる御伽は、正直とても可愛い。女の子として魅力的に思えてしまう。 彼女の恐怖症を少しでも気遣ってあげたいけど……。一方で、こんな可愛い女の子を目の前にして、俺のペニスはどんどんと攻撃性を帯びていってしまう。 優しくしたい。怖がらせたくない。痛くさせたくない。しかしペニスはその想いとは真逆の様相を呈していく。 「入れる、から……」 「う、ん……ゆっくり、ね……」 晒された彼女の膣に、少しずつ接近していって―― 「んっ……ぎっ、ひぃ…………っっ!!」 歯を食いしばりながら、痛みを訴える呻きが響いた。 「ぐっ……きぃぃ……はっ、ふっ……んんっ!! ぐううっ…………!!」 「大丈夫か、御伽っ……!」 「う、ん……おちんちんって……はふっ、ぐうぅ……! こんな硬いんだね……んっ、んっ、んっ……!」 「御伽が、可愛くって……勃起しまくってるんだ」 「そ、っか……はっふっ、くぅ……んっ……! それって、喜ばしい事なのかな……はっ、ぐぅっ」 「もっと小さく萎えさせて、楽にしてあげたいけど……。 そうするには、御伽の顔から目を背けないと……」 「う、ううん……いい、の……ふっ、んっ……あんっ……。 このままで、いいから、はっ、んっ、ぐっ……」 「那由太君との初エッチだもん……。那由太君には…… 私の事、いっぱい見て欲しいし、考えてて欲しい……」 そうは言うけど、行為を続けるには、この屹立のままもっと奥まで捻じ込まないといけない。 まだ半分も挿入していない男根を、これ以上御伽の身体に突き刺す事が出来るだろうか。 「いいから……入れて……」 「御伽……」 「痛いのは……我慢出来るよ。私、女の子だよ……? 好きな人のおちんちんの痛み……むしろ受け入れたい」 「男性恐怖症は……今のとこ大丈夫だから……。 那由太君はそのまま……私を、普通の女の子だと思って、 好きなだけ……おちんちん入れて欲しいな……」 「………………」 御伽の言葉を聞いて、ハッとした。 俺は、御伽が男性恐怖症だから極度に気を遣って優しくしてるわけじゃないんだ。 御伽が好きだから。優しくしてあげたいって思うんだ。 そして、御伽が好きだから、もっと入れたい。もっとしっかり繋がりたい。 その欲を彼女も灯してくれている。 だったら―― 「んっ、ぐぐぐぐっ、ひぎぎぎぎぎっ…………!!」 「少しだけ我慢してくれっ……!」 「うっ、ぐっ、おぢんぢん、くううっ、ぐっ、くうっ!!」 御伽の覚悟に、前進で応えた。 「くひぎっ……うっ、くうっ…………!! や、だぁっ……太ひっ、ひぃんっ……! んっ、んっ……くぎぃ……!」 「熱いのが、奥に、来るっ、くぅ、んぐぅ……! おまんこの、奥っ、ひっ、あぎいっ…………!!」 辛そうだが、ここで手を緩めるわけにはいかない。 「あと少しだから……!」 「ふっ、ぐっ……んんっ、くううっ…………!! うぎぎぎぎぎぎぎ…………!!」 締め上げてくる膣肉の抵抗に逆らって、腰を着実に進めていく。 「うっ……ぐっ!」 「ひぁっ……くっ、んぎぎっひいっ!!」 「全部……入った……」 「はぁっ、はぁっ、う、うん……おまんこ……ヒリヒリぃ」 「どう、だ……? 気分は……」 「んっ、はぐっ、い、痛いけど……嬉しい、よ……。 那由太君と繋がれて……あっふぅ……私……んっ、 ぐぅ……嬉しい……」 「男性恐怖症は……?」 「そんなの……気にしてる余裕無いよぉ……」 それくらいの刺激という事なのだろうか。 「大丈夫なら……このまま続けるぞ」 御伽の反応を伺いながら、腰を動かし始める。 「んっ、はふっ、んっ、んっ……くっ、ふぅ……! おちんちん、出たり……んっ!! 入ったり……」 「そこ、ひあっ……まだ、痛いけど……んっ、くぅん、 なんだか、おちんちんの感触が……気持ちいい、かも、 んっ、ふひぃん……」 「御伽のおまんこも気持ちいいよ……!」 「や、やだもう……那由太君……んっ、はっふぅ……」 恥ずかしがるその仕草が可愛くて、俺はさらに興奮を昂らせてしまう。 「はぁっ……はぁっ……御伽の中、すごい締め付けだ……」 「那由太君のおちんちんが太いからだよぉ……! んっ、くっひっ、うぐっ、ふぅ……!」 「そんなに顔隠すなって」 「んっ、ふっ、ひっ……! だってぇ……! 私こういう事するの初めてなんだよ? ものすごく……恥ずかしくって……」 まあ、男性恐怖症なんだから、今まで処女だったのは当たり前だよな。 その証拠に、真っ赤な破瓜血が結合部から滴っている。 「痛みは……どうだ?」 「もう平気だよ……。気遣わないで、大丈夫」 「おちんちん、好きなだけ動かしていいから……。 那由太君は……おちんちんの望むままにして……」 そう言われてもな……。 この血を見てしまうと、やっぱり思い遣ってしまうよ。 「私のおまんこの事とか、男性恐怖症の事とか……。 那由太君が気を遣う必要なんてないんだよ?」 「そんな事無い。俺は御伽に自分の欲望を ぶつけたりなんかしない」 「御伽が痛がってるなら優しくしたい。 怖がってるなら安心させたい」 「うん……ありがとう。 でも那由太君はすごく優しいし、だから安心出来るよ」 変わらず御伽の顔は真っ赤だ。 でも、恥じらいの中に彼女の強い意志を感じる。 愛を纏った真っ直ぐな気持ちを。 「んっ……はふっ、んっ、あっ、あっ、あっ…………!!」 気付けば、俺は御伽をさらに求めていた。 彼女の様子を確認しながらも。しっかりと膣奥を亀頭で突き上げていた。 「ふはぁあぁんっ! あっ、ふひぃっ、おちんちんっ、 気持ち、いいよっ、はっ、あっ、ああんっ!!」 「俺も……気持ちいいっ……!」 「男の人の身体なのに……こんなに、んっ、あぁっ……! 深いところで、触れ合ってるのに……ひっ、くうっ!」 「全然嫌じゃないよ……むしろ、んっ、嬉しいのぉっ! 好きな人のおちんちんに責めてもらって……くひっ、 私、嬉しい……!」 俺への想いが恐怖症をも超越した、という事なのだろうか。 こんなに嬉しい事は無い。御伽も喜んでくれているが……俺だって嬉しいよ。最高に幸せだ。 「ふっ、はぁっ……あっ、あんっ、あんっ、あんっ……!」 「御伽……俺、もうそろそろ……!」 「う、んっ……きゃふっ、んっ、ひあっ……んっ……! 私も、おまんこ……もう熱過ぎて……はっ、だから……」 「一緒に……イこう……?」 「うん……一緒に……イキたい……」 二人の欲望が絡み合い、一気に頂点へと昇り詰めていく。 「はぁっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ……!! や、だめ、も、もう……んっ、んっ…………! んんん~~~~~~~~~っっ…………!!!」 そして―― 「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、 んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、 んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ!!」 ――そのまま中で、興奮の精を発散させた。 「きゃふうっ、んっ、んんんっ……!! 奥に、ひっ、 熱いのが来てるうっ……んっ、んっ、はあっ……!! あっ、あっ、あっ…………!」 「これが……射精っ、男の人の……おちんちんの……んっ、 精液なの……!? ふっ、くひぃ……熱いよっ……ひっ、 精液、熱いっ……ひあぁっ…………!!」 困惑したその声すらも、今の俺の興奮の一材となる。 可愛い顔で恥ずかしがりながら絶頂を迎える御伽に、俺は最後の一滴まで振り絞る勢いで吐精してしまう。 「んっ、ひゃっ……あぁあんっ……ドクドクって……! おちんちんが……震えて……ひあっ…………!」 「私のおまんこ……変に、なっちゃうよ……ひぃんっ……! こんな、激しい事されて……あっ、あぁん……! 私……もう…………」 「んっ……はふっ、ん…………はっ、はっ…………! セックスって……こんな……すごい事、だったんだ……」 「御伽……どんな気分だ?」 「女の子の夢……叶ったよ……。 好きな人とエッチするっていう夢……」 「私……男性恐怖症のせいで……一生そういう事 出来ないって思ってたから……」 「那由太君と出会って、こうして優しいエッチまで 出来て……すごく嬉しい……幸せ…………」 「そっか…………」 その笑顔を見て、改めて決心出来た。 この行為の責任、しっかり負おう。 彼女にとって俺が唯一の“平気な男性”であるならば―― 俺が全力で、彼女を幸せにしてあげるんだ―― 「――それじゃあ始めるぞ」 「う、うん……」 「ひっ……!?」 「……どうだ?」 「ち、違う……」 「……おお!」 「それじゃあ……次」 「ひえっ……!」 「今度はどうだ?」 「全然違うよ……!」 「マジか」 「それじゃあ最後だ」 「あ、那由太君だ……」 「……正解。もう目隠しとっていいよ」 「ふぅ……」 「すげーなゆっふぃん。全問正解じゃねーか」 「うん……」 「そんなに俺だけ違うものなのか?」 「なんか……ぞわぞわしないっていうか……。 触られて、怖くないっていうか……」 「そんなビビらすような触り方してねーぞ」 「いや、メガのは少し乱暴だったぞ」 あんな強く肩を叩いたら、誰だってわかる。検証にならないじゃないか。 「しかし意外だな。ゆっふぃんにこんな特技があったとは」 「特技なんてもんじゃないよ……。 こんなの……他の男子に失礼だし……」 「那由太だけを百発百中で察知できる透視能力か……。 その力を行使して何か一儲け出来ないだろうか」 「い、嫌だよ、そんなの。 目隠ししたまま男の人に触られるのって、 わかってても物凄く怖いんだよっ……!?」 「……そうなのか?」 「う、うん……だってぇ……」 「………………」 羽瀬にもメガにも、御伽の男性恐怖症の件については詳しく話していない。 これ以上はよくないだろう。 「さて、クイズは終わりだ。昼飯でも買いに行くとするか」 「御伽、コンビニ行こう」 「う、うんっ……」 「なんだ……? 何かを隠されているような……」 「別にどうでもいいし。俺もどっか行くかぁ」 「……気分は大丈夫か?」 「う、うん……平気」 「悪かったな。無理させて」 「ううん、謝らないで。これで那由太君にも信じて もらえたと思うし……私もはっきりさせたかったから」 目を隠された状態でも、俺を識別し、感じ取り、嫌悪を示さなかった。 御伽は、視覚ではない何かで俺の存在を感じているんだ。 羽瀬じゃないが、まさに超能力だ。 「信じてなかったわけじゃないよ。 御伽が俺だけ怖がってないのはわかってたから」 「エッチまで……しちゃったんだもんね」 「………………」 具体的な行為を挙げられると、さすがに恥ずかしい。 御伽は平気なのだろうか。 「………………♪」 ……笑ってる。 案外、大胆なのかもしれないな。 それこそ、俺相手の時のみ“普通の女の子”レベルで。 「――いつから男性恐怖症になったんだ?」 「ん……まあ、ちっちゃい頃、から……」 その歯切れの悪さから、話題の禁忌を察した。 「……いつか治るものなのか?」 「昔は通院したりしてたけど……。 精神病だから、完全に治すのは難しい、って……」 「ふーん……」 休日の人混みの中、なるべく御伽が男性にぶつからないように注意しつつ歩く。 「トラウマ……っていうのかな。そういうやつ」 「そっか。嫌な事あったんだな」 「お医者さんは……それを上回る精神的ショックを 与えれば、男性恐怖症はリセットされるかも…… って言ってたっけ」 御伽のトラウマを上回る精神的ショック……。 「そんな事、起こりそうか?」 「那由太君に期待してみようかな」 繋いだ手が、少しだけ強く握られた。 「那由太君から……色んな事教わりたい。男の人の 温かさとか、優しさとか、幸せとか……たくさん」 「それで恐怖症を上書き出来るのかな」 「少なくとも、私の中で那由太君っていう存在は 恐怖症を上回れると思う」 「だって……ちゅっ」 「――っ!」 「現に、那由太君相手だとこういう事も出来ちゃうし」 「………………」 「これからも那由太君とデートしたり、キスしたり…… ぇ、エッチ……したり……。そういう事繰り返してたら、 この病気は治ったりするのかな」 「………………」 「私が那由太君といる事で受け入れられているのは あくまで那由太君ただ一人であって……男の人への 免疫が薄れているわけじゃない」 「那由太君と一緒にいても、男慣れの一環には ならないのかも……って思うんだ」 「……そうかもしれないな」 「でも、それでいいの。別に……今は……」 「……ん?」 「男の人が全て恐怖の対象だった以前と比べたら、 今こうして好きな人と一緒にいられるのは 大進歩なんだから……」 「その上、男の人全てを受け入れられるように……なんて、 高望み過ぎるよ」 「御伽…………」 「私には……那由太君だけいてくれればそれでいい。 少なくとも……今は…………」 ………………。 “今は”…………か。 「俺も、御伽を抱いた責任はあるって思ってるんだ」 「……うん」 「どうして御伽は俺だけが平気なのか、 さっぱりわからない」 「でも……これも何かの縁だと思うよ。 俺がこうして御伽に選ばれたんだから、 俺にしか出来ない事ってあるんだと思う」 「それを……俺はしたいと思う。してあげたいと思う」 「……うん」 「俺の存在が、男性恐怖症の克服のきっかけになれば いいなって思うし……」 「今まで御伽がその病気のせいで、異性との思い出を 作ってこれなかったのなら、それまでの分も含めて 目一杯遊びたいって思う」 「……俺なんかが相手でよければ、だけど」 「…………ふふっ」 「……一緒にいてあげたいって思うんだ」 「うん」 「病気とかそういうの抜きにしても…… 俺は御伽と一緒にいたい」 「うん」 「俺の好きな人はどうやら男性恐怖症で…… 男と付き合うなんて本来絶対出来ないような 人なんだけど……」 「たまたま俺だけ特別に大丈夫らしい」 「私は男性恐怖症で、男の人と付き合うなんて 怖くて絶対出来ないって思ってたけど……」 「たまたま好きな人だけ特別に大丈夫みたい」 「なんでだろうなぁ……」 「なんでだろうねぇ……」 「これからは恋人同士だね」 「そうだな」 「那由太君さえ傍にいてくれれば……」 「私は、男性恐怖症のままでも構わない」 「……………………」 「――んっ、ちゅ……ちゅぷ、ちゅぅ……!」 「ちゅ…………ちゅっ、ちゅっ…………」 「ちゅぷっ、くちゅっ……んぅっ、はふっ……んんっ、 舌ぁ…………ちゅぷ、ちゅるぅ……!」 「ちゅるっ、ちゅるるるっ、れろっ、ぴちゅっ……! ちゅずずっ、ちゅずりゅっ、ぴちゅりゅぅぅ……!」 「――ぷふっ、ぷはぁっ……! はふっ……んっ、ふぅ。 舌……にゅるにゅるさせ合うの……気持ちいいね」 「はぁ……はぁ……ああ」 二人っきりの時の御伽は、とても積極的だ。 男性恐怖症とは思えないほどに、性を求めて来る。 「……紅茶、出すよ。ちょっと待ってて」 「あ……ううん。大丈夫」 「でも……」 「それより……。那由太君……今日もする?」 「え…………」 「エッチ……する?」 「御伽はどっちがいい?」 「……ふふっ。したい」 「……じゃあしよっか」 いつからか、抱き合う事に戸惑いが無くなった。 いい事なんだと思う。 これまでたっぷり異性を怖がってきたんだ。この積極性は素晴らしい兆候じゃないか。 「――はい。いつもの紅茶」 「ありがとう」 「ホントはすぐ淹れてあげたいんだけど」 「最近は部屋に入ったら真っ先にセックスだもんね」 「最近は……っていうか、最初からずっとそうだった気が」 「ふふっ。でもいいの。エッチした後、こうして お茶飲みながらまったりするの私好きだよ?」 「ああ。俺も……」 「ずずずずーーー…………」 「ずずずーーー……」 「…………ふぅ」 「………………」 「………………」 「………………」 「……お父さんにね、ちょっと」 「………………」 「そういう事、されて」 「……それが原因」 「…………そっか」 「私が生まれてすぐ、お母さんは病気で死んじゃった」 「私はお父さんに育てられてきたの。親戚とかも あんまりいなくて……ずっと二人っきりだった」 「ダメな父親だった。私子供だったから……あの人が なんの仕事してたのかよくわからなかったけど……。 多分、人のためになるような仕事じゃなかったと思う」 「昼間っからお酒飲んで。ご飯だけ置いて突然ふらっと いなくなって。血だらけになって帰って来て」 「背の高い男の人達がよく家に来た。お父さんいるーって。 その時は決まってお父さんはどっか行ってて」 「その男の人達は、すごく大きくて……でも、なぜか 私に優しくしてくれた。ご飯食べさせてくれたり……。 お洋服買ってくれたり」 「私は、その人達が好きだった。私の事放っておいて どっか行っちゃうお父さんよりも」 「その日は、その男の人達は来ない日で。 だからお父さんが家にいる日で」 「随分機嫌悪かったっけ……。 幼心に、何かあったのかなって思った」 「おとうさん……あのね、ごはんー……」 「うるせえっ! それどころじゃねえんだよっ!」 「ひっ……!」 「ちっ……くそっ、全部スッちまった……! 今月どうすりゃいいんだ……!?」 「これ以上はどこからも借りれねえぞ……! 取り立てから逃げるのももう限界だ……!」 「おとう……さん……?」 「こうなりゃ……もう……!」 「あのね……ごはん……。 きのうから……なにもたべてないよぉ……」 「こいつを――」 「え…………」 まだ子供だったけど。 お父さんの手の中に光る刃物が何を意味するか、本能で理解した。 お父さんの狂気じみた顔が、不吉な理解を強要させた。 「お、とう……さん……?」 私に向けられたナイフの先端が、無機質に物語っている。 “金の為だ” “仕方ない” どうして私にナイフを差し向ける事で、お金が発生するんだろう? 私を傷付けたら、どこからかお金が転がってくるのかな? 少しくらいなら我慢出来るつもり。 どれくらい痛いの? その鋭利な凶器で、私をどの程度刻むの? 「ひっ……う、ひっ…………ひぃ……!」 お父さんはいつもお金に困っていて。 私の事をさほど愛していない様子で。 お金のために私を捨てる事だって十分にあり得るって。 そう思えたから、その刃があまりにも現実的で。 「やだよ……? おとうさん、ぼく……それ……やだ……」 「私って言えっ!!」 「ひっ……ごめん、なさいっ……!」 いつものやり取り。いつも間違えてしまって怒られる。 今日の過ちは、文字通り命取りだ。 「ひっくっ……うっ、くっ…………! ひうっ、ぅぅっ……!」 この家庭から、人並みの幸せを享受出来ない事くらい、子供の自分でもわかっているつもりだった。 同級生の友人達に比べて、自分は貧しくて、寂しくて、不自由で、不幸だった。 お父さんに殺されるって思った時だって、何度も。 この時は、特に。 「もともと俺一人で育てるなんて 無理な話だったんだよ……!」 「ガキなんて金かかるだけだ……! お前がいなきゃ、もうちょっとマシな生活が……!」 「おとうさん……おこんないでぇ……っっ」 「どうせ殺すなら、死ぬ前に大人にさせてやる……!」 「いいか……? お前は最後に“女”になるんだ……!」 「なに……いってるの…………?」 「はぁっ……はぁっ…………はぁっ…………!」 「しばらくヤってなかったからな……! お前みたいなガキでも……少しは足しになるだろうよ」 「なんで……ふくぬぐの……?」 「やだよ……おとうさん、やだって……!」 「ひ…………ひっ…………!」 「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!!?」 その行為の意味合いなんて。 理解する必要ないと思った。 久しぶりに触れ合った父の身体は、本能的に冷たく感じられて。 親子だというのに、体温の心地良さはそこにはなく。 ゆえに、気持ちが悪かった。 「ふーっ……ふーっ……ふーっ……」 「ふー…………ふー…………」 「うっ……ううっ、うううっ……ふーっ、ううっ……!」 ――残ったのは。 下半身の痛みと。 鉄の臭いだけだった。 他には何もない。全て失われた。 全て―― 「――お父さんも、色々悩んでたと思うんだ。 お母さんが死んで、貧乏な状況で、 私を養っていかなくちゃいけなくて」 「でも、だからといって私はあの人を許す事は出来ない。 あの人のせいで、私は心も身体も傷付けられて。 トラウマを抱える事になって」 「……それからは?」 「翌日、取り立てに来た男の人達が、拘束された私と…… ぐったりしたお父さんを見つけて……」 「気付いたら私は、警察に保護されてた。 多分……あの人達が通報してくれたんだと思う」 「その人達とはそれっきり。 警察と関わっちゃいけない人達だと思うから。 通報してくれただけでも大変な事だったのかなぁ、って」 「お父さんは?」 「捕まったみたい。詐欺とか、恐喝とか、賭博とか…… あと、虐待とかで」 「死刑になったって聞いた」 「………………」 「私はその後施設に送られて、男性恐怖症の事も 後になって発覚したんだ」 「その施設で、異性に怯えて生きてきた話……する?」 「いや……もういいよ」 御伽の男性恐怖症の根底に、そんな出来事があったなんて知らなかった。 父親による近親相姦。幼い御伽が男性を畏怖の対象に置き換えてしまうには十分な凶事だ。 「……驚いた?」 「そうだな。かなり」 「そうだよね……」 「御伽の当時の家庭環境とか……父親の事とか…… 男性恐怖症になった直接的な引き金の事件とか……。 驚いた事は色々あった」 「でも、一番驚いたのは…… その話を俺にしてくれたって事だ」 「どうして話すつもりになったんだ?」 「那由太君には知ってもらいたくって。 好きな人だから……恋人だから」 「俺に……何が出来るかな」 「私を、幸せにして欲しい」 そのつもりだ。 「……紅茶、淹れようか」 「あ、待って」 「ん?」 「その前に……ね?」 「………………」 紅茶は、色々終わった後で。 「……そっか。わかった」 「いっぱい求めたいの。そんな気分……」 寂しい話を経たからだろうか。 御伽の瞳は少しだけか弱く、それゆえに扇情的だった―― 「御伽……?」 「んっ……はふぅ、あぁぁん……はぁっ……!」 俺のズボンからペニスを抜き取って、甘い息を吐き出す。 「口でしたいの。いい?」 「構わないよ」 「キス魔になる」 幼少期の性行為によって刻まれた男性への嫌悪。 それを今、新しい思い出で上書きする事に必死だ。 こうして御伽と性を重ねる事が実を結ぶかどうかはわからないけど。 気持ちいいから。愛おしいから。いくらでも歓迎したい。 「ん……はふぅ、おちんちん、もうギンギンだぁ……♪」 「くんくんくん……いい匂い……! 鼻の奥につくような……ちょっとすっぱい感じ……。 好きな人の……おちんちんの匂い……!」 股間の至近距離で、御伽の鼻がすーすーと鳴っている。 これからの淫行を予感させる、艶めかしい息遣いだ。 「すんすん……はふぅ、すんすんすん……! すぅーーー…………はぁぁぁぁぁん……。 おちんちん……はぁっ……すんすんすんっ……!」 「先っぽのとこ、ぴゅくぴゅくって動いてる……。 匂い嗅ぐと……くんくんくん、ほら、ぷくーって 反応してるよ……?」 「早くお口でして欲しいのかな……。 ふふっ、なんか可愛いね……。 期待してるおちんちん、もっと観察してたいよ……」 蠱惑的な瞳で亀頭をじっと見つめる御伽。 吐息や鼻息を不自然なほどに先端に浴びせるのは、彼女なりの焦らしの一環なのだろうか。 「くんくんくん……すんすんすん……むはぁっ……! あふぅ、んっ、んふぅ、くんくん、すんすんすんっ……」 「あぁ……おちんちんの匂い嗅ぎまくってたら…… 私、変な気持ちになってきちゃったよ……。 すごく……いやらしい気持ちぃ……」 「焦らすつもりが……もう我慢出来なくなっちゃった。 おちんちん、ちゅーしていいよね……?」 「ああ、俺ももうじっとしてられない……。今すぐ頼む」 御伽の眼前で陰茎をふら付かせて、彼女の欲望を誘った。 「んっ……はぁっ、れろぉぉぉぉぉっ――」 「――っ……!」 「れろぉっ、んれろぉっ、えろぉぉんっ……! れろっ、はふぅ、れろぉぉぉっ、れぇぇぇろぉぉっ!」 甘ったるい刺激が、ようやく下腹部に行き渡った。 「キスじゃないのか……?」 「ん……最初、おちんちんちょっと濡らすの……。 れろぉっ、れろぉぉんっ…………!」 舌を大胆に伸ばし、接地面積を十分に用意してから、しっかりとそれを陰茎に纏わり付かせる。 生温かな感触に包まれたペニスは、すぐに歓喜の反応を示す。 「れろぉっ……あ……またびゅびゅって震えたぁ……♪ おちんちん……可愛い……♪」 「れろれろっ、れろぉぉんっ、ちゅるぅ、れろぉっ! えろぉぉっ、はふぅん……んっ、れろっ、ぴちゅぅ」 首も一緒に動かして、舌の表面を幹に擦り付ける御伽。 「えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ! えろぉっ!」 そのリズミカルな舌奉仕に、着実に理性を蝕まれてしまう。 「はぁっ、んっ、あふぅん……ぴくぴくーって……れろぉ、 たまに、弾けるの……れろっ、これ私好き……れろっ、 おちんちん、可愛くて好きぃ……♪ れろれろっ……」 「れろっ、んれっ……んれっ……ちゅぷぅ、れろぉっ……! んれっ、れっれっれっ……! れろっ、んれっ……!!」 時折舌先で亀頭を突いたりして、御伽なりに責め方に変化を混ぜているようだ。 その積極性も心地良さを促してくれる。舌一つですっかり屹立させられてしまった。 「ん……おちんちん、勃起ぱんぱん……! すごくびーんってなってる……あはぁっ♪」 「匂いは……くんくんくん、すんすんすん……! んはぁ……唾の匂いしかしないー……」 「たくさん舐めてくれたから……」 「うん。いっぱい濡らしたし……キスしよっかな」 雄々しくなったペニスを前後に振って、期待を示す。 「んっ……はふぅぅん……!」 御伽はそれを見て、生温い吐息を一つ漏らした後―― 「ちゅっ……んちゅっ……!」 唇を尖らせて、そのまま陰茎を啄んだ。 「んちゅっ、ちゅっ、ちゅちゅっちゅっ……! はふっ、んっ、んちゅっ、ちゅっ……ちゅちゅっ……!」 「くぅ…………!」 「ちゅちゅっ……んちゅっ、ちゅぅぅっ…………みちゅっ、 ちゅっぷっ、ちゅぷぅ、んちゅっ、ちゅぅっ……! くちゅっ……ちゅっぷっ、くっちゅぅぅ……ちゅぷっ」 唇の粘膜を摩耗させながら、大胆な口付けが下半身に繰り返される。 可愛らしい唇から放たれるそのキス音は、刺激抜きにして音だけで射精したくなるくらい淫蕩だ。 「ちゅっ、ちゅっちゅっ……ちゅぷっ、くっちゅっ……! んくちゅぅ、ちゅぷっ、ちゅくぅ、ちゅぷっ……! ちゅっぷ、ちゅっぴっ……ぴちゅずっ、ちゅぅ……!」 「っ…………はぁっ……!」 「んっ……おちんちんブルンブルンだよぉ……? ちゅー……気持ちいい……?」 「ああ……気持ちいい」 「そっかぁ……ちゅっ、ぴちゅ、ちゅっずっ、ちゅぷっ! んちゅっ、ちゅぅ、ちゅちゅっ、ぴちゅむぅ……!」 「うっ…………っっ……!」 「那由太君……切なそうな顔してる……。 キスでおちんちんふっくらしちゃったんだね……」 「でもやめないよ……私キス魔だもん。 ――ちゅっ、ちゅぷっ、ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ……!」 挑発的に、淫靡な口付けを連発する御伽。 わざと大きなキス音を立てて……俺を惑わしているつもりなのだろう。 「くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ! くちゅっ!」 「はぁっ……っ!」 「ここだぁ……ちゅくちゅくっ! ぴちゅむっ……! ここ気持ちいいんでしょ? ちゅっ、ぴちゅっ……!」 「ここ、唇をにゅにゅって押さえつけて……んっ、 ちゅにゅうっ……そのまま吸いながら引くとぉ…… ちゅぷぅ……ほら、おちんちんぷるーんって」 「ああ、そこ気持ちいい」 「そっかぁ……じゃあもっとしてあげる……♪ ちゅにゅうっ……んっ、んちゅずぅぅっ…………! ちゅにゅうっ……んっ、んちゅずぅぅっ…………!」 「……っ!」 思わず目をグッと瞑ってしまうほどの鋭い刺激だ。 「ちゅっ……ちゅにゅっ、ちゅにゅぅ……ちゅずずずっ! はふぅ、こんな……大きくて、体格もしっかりした人が、 んちゅっ、ちゅにゅぅっ……んちゅずぅぅっ……!」 「おちんちんのここにキスされただけで……ちゅぅ……! ずっちゅっ、ちゅにゅぅぅぅぅ……すごく切なそうな顔 になって……はふっ、んんっ、ちゅぅぅ……!」 「なんだか不思議……おちんちんの刺激って……ちゅぅ、 そんなになっちゃうものなの……?」 「はぁっ……はぁっ……ああ、それだけ気持ちいいんだ」 「そっか……私、おちんちん無いからわかんないよぉ……。 ちゅぅ……むちゅぅぅぅ……!」 下腹部の先端のその快楽が、手足の指先まで行き届くくらい染み渡っていくんだ。 それくらい自分の身体が一気に征服される。ペニスは男の弱点でもあり、最高のオモチャでもある。 「私……男の人、怖いし……苦手だけど……ちゅぷぅ、 みんなここをこうされたらふにゃふにゃになっちゃう のかな……ちゅうっ、ぴちゅぅ……!」 「そうだと思う……」 「だったら……今までより少し怖くなくなるかも……。 こんなわかりやすく骨抜きになってくれるんだもん」 「でも……他の男にこんな事しちゃダメだぞ?」 「あ……うん、そうだね。那由太君にしかしないよ。 おちんちんにキスなんて……好きな人じゃないと したくないもん」 「そっか。安心した」 「でもじゃああんまり気休めにならないね……。 せっかく男の人の弱点知っても……そこを 責められないんだから」 「御伽は別に男の弱点なんか知らなくっていいんだ。 俺が怖い男から守ってやる」 「わ……那由太君かっこいい……! もっかいキス魔になる……! ちゅっ、んちゅっ! ちゅーちゅーちゅーっ……!」 そして再開されるのは、男の弱点への一点集中攻撃。 でも気持ちいいから有難く受け入れよう。御伽を前に骨抜きになったところで、困る事なんかない。 むしろ御伽がそれで喜んでくれるなら、望むところじゃないか。 「唾で……もっと濡らすぅ……。 ぶくぶくぶく……ちゅく、ぶくぶくぶく……」 「れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………! えるろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………!」 口に溜めた唾液を亀頭に垂らし、陰茎の湿り気を増やす御伽。 唾液の糸が亀頭に全て注ぎ切るまでの間の、艶めかしくも無防備な彼女の舌の、なんと淫惑な事か。 「ちゅっ、ちゅぅ、んちゅっ、ちゅっちゅっちゅっ……! くちゅっ、ちゅにゅ……んちゅっ、にゅっちゅっ……! んちゅぅ、ちゅにゅぅ……!」 「んれぇぇぇろっ、んれぇぇぇろっ……ちゅぷっ、ぷちゅ、 ちゅにゅにゅっ、んれぇぇぇろぉぉぉぉっ、ちゅぅ、 ちゅぷ、ちゅぷ、にゅちゅっ、んれぇぇろぉぉ、ちゅっ」 「――あぁぁむぅぅ、むちゅ、ちゅぷ、ぴっちゅぅっ! んもごもごぉ……あむあむっ、ちゅぷずずっ、ちゅっ、 んれろぉっ、あむあむぅ、もぐもぐっ、ちゅっぷぅ」 「ぅ…………ぁっ……!」 ようやく粘性の刺激がペニス全体を包み込んだ。御伽の口の中に、陰茎が収まったのだ。 「ちゅっぱっ、ちゅぷっ、んれろぉっ、ちゅぷぅ……! んちゅずぅ、ちゅずずっ、ぴちゅ、ちゅぷぅ……! んみちゅっ、ちゅっくちゅ、ちゅずずっ……!!」 「はふっ、おひんひん……ちゅぷっ、ちゅっぱっ……! おいひっ……♪ ちゅぷっ、ぴっちゅっ、ちゅぴずっ、 ちゅっずずっ……くちゅずうっ、ちゅぷちゅぅっ……!」 口の中で舌が縦横無尽に巡っているのを感じる。 男性恐怖症とは思えないほどの積極性。これは全部、俺だけのものなんだ。俺にしか向けられる事のない、彼女の秘密なんだ。 「ちゅっずっ、ぴちゅっ、ちゅっぷぅ、あふっ……!? 勃起ぃ……ちゅぷ、おひんひん、もこもこーって 勃起してきたよぉ……? ちゅっぷっ、ちゅむぅ……」 「いい気分なんだ……!」 「あふっ、ちゅぷっ、んっ、ちゅっずっ、ほっかぁ……! いっぱひ……ちゅぷ、ちゅずぅ、れろぉっ……感じて? 私の舌で……口で……ちゅぷ、おひんひん感じてぇ……」 言われなくても、感じまくってるさ……! 「ちゅぷっ、ちゅむぅ、私……おひんひん、もっと 勃起させたひっ……ちゅぷ、ちゅずりゅぅ……! 興奮させまくりたひぃ……ちゅぴちゅむぅ……!」 「だって私も……んちゅっ、おまんこ……ちゅぴっ、 ちゅずっ……興奮、ひてるんらもん……ちゅにゅりゅっ、 あふっ、んっ、んんっ……!」 いつのまにか、腰を突き出した姿勢の御伽。股間をもじもじさせながらフェラに勤しんでいる。 「ちゅぷ、おひんひん……咥えてりゅらけでぇ……ちゅ、 ぴちゅ、おまんこ……感じちゃうんらよぉ……ちゅぱっ、 ちゅっずずっ」 「パンツの中ぁ、もうぐしょぐしょぉ……ちゅずりゅっ、 おまんこ、熱いのぉ……このおひんひんみたいに…… エッチな気持ちで、ホカホカなのぉ……ずずぅっ……!」 「咥えてるだけでそうなるのか……!?」 「うん……はふぅ、ちゅっぷ、らってぇ……好きな人の おひんひんらもん……むちゅぷっ、ぴっちゅっ……! 女の子らったらぁ……興奮するに、決まってるよほぉ」 男性恐怖症の人間とは思えない発言だ。 俺の事に限定すると、御伽は普通の女の子……いや、少しエッチで積極的な女の子に変貌する。 それが俺には嬉しかったり。 「ちゅぷぅ、みちゅっ、ちゅにゅぅ……おひんひん、 ほろほろ……んちゅっ、ちゅずっ、ひゃへい……?」 「そう、だな……そろそろイキそうだ……!」 「うむぅ、いいよぉ、らひて…………ちゅずじゅっ……! わらひの口の中に……全部、出ひてぇ……ちゅっずっ、 んちゅずっ、ぴちゅむぅ……!」 「んじゅっずずっ、んじゅっずずっ、んじゅっずずっ、 んじゅっずずっ、んじゅっずずっ、んじゅっずずっ、 んじゅっずずっ、んじゅっずずっ、んじゅっずずっ」 俺を射精へ導くためか、頬をすぼめた吸引フェラがリズムを刻みながら繰り出された。 「ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ! ずっじゅ!」 「うぅ……っっ!」 「じゅっぶぼ、じゅっぶぼ、じゅっぶぼ、じゅっぶぼ、 じゅっぶぼ、じゅっぶぼ、じゅっぶぼ、じゅっぶぼ、 じゅっぶぼ、じゅっぶぼ、じゅっぶぼ、じゅっぶぼ」 放出のタイミングを窺っている精液が、根元から一気に強制的に吸い上げられてしまう。 留めておく事など出来ない。中身が、全て持っていかれる―― 「出るっ……くぅっ!」 「うん、いひよぉっ、おひんひんイってっ…………! じゅっぼぼっ、じゅっぼぼっ、じゅっぼぼっ……! ひゃへいっ♪ ひゃへいっ♪ ひゃへいっ♪」 「んずずずずずずずずずず~~~~~~~~~~っっ!! じゅっずずずずずずずずじゅじゅじゅじゅじゅっっ!!」 温かな粘膜の世界の中で、欲望に歪んだ亀頭が、その精を瞬時に吐き出した。 「――んじゅっぶぶぶうっ!!? んぐぶううっ!!? んっ、んじゅっぶっ、じゅっぶっ、じゅっぶっ……!! じゅずずずうっ、じゅずりゅっ、ぶっじゅううっ……!」 「じゅぶぅ……じゅぐぶっ、熱ひっ……あふっ……じゅ、 ぎゅぶっ、せいえひっ、ぎゅぶりゅ、じゅぶりゅぅ、 あふあふぅ、ひっ、あひぃ……ちゅぶひぃ……!」 御伽の喉奥に、精液がどんどん注ぎ込まれていく。 一度箍が外れた鈴口は、もう自分の操作下から外れてしまっている。吸引されるがまま、放たれていくだけだ。 「んっ、ごくっ……ごくっ、ごくっ……ぎゅぐっ、 ぐぶうっ、ぎゅっぶっ、ぎゅっぶっ、ぎゅっぶっ……!」 「はっ、ぐふぶっ、ザーメン……飲み辛ひぃ……! ぎゅっぶぎゅっぶぎゅっぶ……ごくごくごくっ……!」 「うっ……御伽……飲まなくても……!」 「らって……ぎゅじゅぶりゅっ……! こんな、んちゅ、 奥に出されたりゃ……飲むひか……ないよほぉ、 ちゅずずっ、じゅっ、ぶじゅぅ……ちゅじゅぅ……!」 「んっぐ、んっぐ、んっぐ、んっぐ……ごくごくごくっ、 ごっく、ごっく、ごっく、ごっく…………ごくんっ!」 「――ぷはぁっ……全部、飲んだ……かなぁ……!?」 口の中を開きながら、舌を口内に巡らせている。“残り物”を探っているのだろうか。 「にゅ、んにゅぅ……あ……歯の裏にちょっと残ってた」 「ん、くちゃ……くちゃくちゃ、にちゃぁ…………! ――ごくんっ」 「はい、完食っ」 綺麗になった口を笑顔で見せつけてくる御伽。 「あ、ああ……全部飲んだんだな……」 「うん、好きな人の精液だったらね……私、全部飲めるよ。 嫌じゃないの。むしろ飲みたいって思うの」 「まだ残ってたりする? 全部出した? 詰まってたりしたら、私が吸い出してあげるよ?」 「いや、もう全部出し切ったから、大丈夫だよ」 「そっかぁ。また溜まったら言ってね。 私が全部搾り出してあげるから」 絶頂直後の股間を疼かせながら、無邪気なその言葉を聞き入れる。 御伽は……こんなにも可愛くて、淫らなんだ。 俺だけが知る御伽の一面。 他の男性には絶対に知る事の出来ない、御伽のもう一つの姿―― ――私が、欲しているもの。 優しい時間。幸せな未来。怯える事のない世界。 そして、過去を払拭できるだけの喜び。 今、全てが“ここ”にある気がする。 まるで、“ここ”は楽園だ。 ずっと“ここ”にいたい。“ここ”から出たくない。 そう願ってる。 そう願ってるはずなのに―― 「――ゆっふぃんさん」 「あ……フーカちゃん」 「お買い物ですか?」 「うん。そうだよー」 「お一人なんですねぇ」 「え……? あ、あはは……嫌だなぁ」 「期招来さんとはよろしくやっていますか?」 「おかげ様で。毎日幸せだよ」 「まあ、御馳走様です。殿方相手に堂々として いらっしゃるゆっふぃんさんは、とても素敵です」 「那由太君はね……特別なの。怖くないんだ」 「素敵な事だと思います。ただ……」 「ただ……?」 「期招来さんの恋人は、なかなか苦労が多いでしょう」 「そんな事無いよ。那由太君、とってもいい人だよ。 優しいんだ」 「いえ、そういう事では無く……」 「さぞ……ライバルも多いでしょうに」 「……………………」 「あの方に惹かれる方は後を絶ちません。 どうか、お気を付け下さいませ」 「……忠告ありがとう。 フーカちゃんもその一人なのかな?」 「ワタシは……ふふっ。言うまでも無い事です。 ゆっふぃんさんもよくご存じでしょう?」 「…………そうだね。うん、わかってる」 「もうお帰りですか?」 「……寄るとこ、あるから」 「そうですか。“お気をつけて”」 「うん、それじゃあまた」 「……………………」 「…………ふん」 なんて―― なんて、言ったかな―― 授業で習った気がする。 長い単語だった。先生が説明してたけど……内容が難しくって。 ぼんやり聞いてたから、思い出せないな―― 確か―― 「――テオドール・ベクトル?」 「そう、“それ”だ」 「寄るとこって、ここ?」 「多分……フーカちゃんも……それ以外の人も…… 皆“それ”で…………」 「私、あなた嫌い」 「こんにちは」 「あなただけじゃない。皆嫌い」 「皆いい子だよ」 「さすがにそれは……笑えない」 「……………………」 事実なのにな。 皆……優しくて、穏やかで。 本当にいい子なのに。 「他人事みたいに言わないで。 あなただって“それ”の影響を受けてる一人でしょ」 「私は違うよ。私は全然違う」 「どうしてそう言えるの?」 「だってこの気持ちは本物の愛情だもん」 「だから――」 「那由太君の事、心の底から愛してるもん」 「――笑えないってば」 「男性恐怖症を乗り越えてしまうくらいの愛なの。 奇跡なんだよ。美談なの。いい話なの」 「変な屁理屈とか、よくわからない理論とかで 私の気持ちを説明しないで」 「性器を失って……ギフトを失って……」 「それでもまだ、あなたは“ここ”で幸せを求めている」 「………………?」 「あなただけじゃない。皆そうだった」 「それが私にとっては、愉快でもあり」 「恐ろしいほどに、空虚でもあり」 「……恨んでるんだね。皆の事」 「うん」 「……………………」 「…………私がそんな胸中である事を知っていて。 何か言う事はないの?」 「……………………」 「………………」 「――ざまあみろ」 ――これでいい。 “私の中”で、まだ残ってる。 ギフトが消えても、憎悪の残滓が“私の中”に漂ってる。 それが完全に消えるまで、私は彼女を―― そして、それが完全に消える事など、あるはずもなく―― 「え…………?」 「スプーン」 「ス……プーン……?」 「そう、スプーン」 「スプーンをね、普段持ち歩いてるのってどう思う?」 「何を……急に…………」 「――どう思う?」 「どうって…………うーん……」 「……そんなもの持ち歩く必要なんて無いと思うよ」 「そう思うよね? 私もそう思ってた」 「……思ってた?」 「うん。以前は」 「でも……あったんだぁ。スプーン使う場面」 「その時は……さすがだなって思ったよ。 まさか、それを想定して持ち歩いてたのかな」 「誰の話だよ?」 「まころん」 「はぁ……!?」 まころ? なんで急にまころの名前が? 「ずずずずーーー…………お砂糖、もっと入れようかな」 「ん? あ、ああ……」 たまに御伽がわからなくなる。意外とマイペースなヤツなのかも……。 「そう言えばさ……那由太君に聞きたいんだけど」 「なんだ?」 「なんかこう……引っ掛かってる事ってある?」 「……?」 「辻褄が合わない事っていうか…… 少し違和感がある事っていうか……」 「まころの話か? なに、あいつって いっつもスプーン持ち歩いてるのか?」 「ああん、そうじゃなくって」 「私の事だよ。私の事で……おかしいなって思う事」 「御伽の事で……? うーん…………」 御伽について、引っ掛かっている事……か……。 さっきみたいにふと話が見えない時もあるが、別にそんなの些細な事だし……。 「……いや、特に無いよ」 「そっか。無いならそれでいいんだ」 「…………?」 「無いなら……うん。それでいいの」 少し寂しそうな瞳だったように思う。 が……本当に気になっている事など無いのだ。 だから、それを正直に返答するしかなくて……。 「…………もう少し、お砂糖入れようかな……」 「もう少し……もう少しだけ…………」 「………………」 「御伽、帰ろう」 「……………………」 「御伽……?」 「那由太君。ほら、誰もいない」 「ん……? ああ、そうだな。もう皆帰っちゃった。 だから俺達も――」 「誰もいないんだからさ……ね?」 「お、おい……御伽……?」 「私を“こう”出来る男は、世界で那由太君だけなんだよ? 他には誰もこんな事出来ない……。私に触れる事すら 出来ない……」 「御伽…………?」 「私が那由太君を愛してるから。 私達がお互い愛し合ってるから。 だから“こんな事”が出来るの」 「愛し合おうよぉ……今すぐ、ここで。 誰も見てないんだし、いいよね……?」 「で、でも……」 「それとも……誰かが見てる方がいい?」 「御伽…………」 挑発的なその表情は―― 「うふふっ……私はどっちでもいいんだよ」 小悪魔の誘い。 獲物を衰弱させ、一気に喰らい尽くす牝の蠱惑。 魅力的な、破戒の堕天使。 睨まれたら、抗う事など出来ない―― 「…………わかったよ」 御伽には不思議な吸引力がある。 物静かで、心優しい性格。男性恐怖症に悩む、控え目な女の子。 それなのに、時折こんなにも真っ直ぐ俺を射抜いて―― そしたら俺は、堕ちるほか無いんだ―― 「はぁ…………はぁ…………はぁ…………!」 「那由太君……?」 「御伽…………綺麗だよっ……!」 「ふふっ……そんなにハアハアして……。 那由太君、獣みたい」 本当にそう思ったんだ。 正直に、心の底から美しいと思ったんだ。 うっとりとした恍惚を浮かべた御伽が、鮮やかなオレンジに照らされている。 何よりも淫靡だ。夕日には人を性的に彩る神秘がある。 「御伽…………」 「んっ、んんっ…………」 夕焼け色に同化していく目の前の少女に見蕩れながら、指を少しだけ伸ばしてみる。 触れた先のその温かさは、彼女の体温によるものか。 それとも夕日の心地良さによるものか。 ああ―― いつか、こんな橙を見たような―― こんな橙を、感じたような―― 「――那由太君」 「あ…………」 「変な事思い出したら、ダメなんだよ?」 「え…………」 俺は今……何を…………。 「はぁん……ぁっ、ふっ……んっ、あぁん♪」 俺の思考を妨げるような、御伽の悶え声。 牡を誘うもじもじとしたまどろみが、目の前で妖しく震えている。 「んっ……はふっ、誰も……来ないといいね……」 「あ、ああ……」 もし誰か来ても、ブレーキなんかかけられない。 きっとその時の俺は、もう歯止めが利かないだろう。 だってもう……こんなにも熱くなってしまって―― 「あんっ……んん……は、ふぅ…………っっ」 御伽の口から、甘い吐息が漏れた。 制服が擦れる音。口の中の粘膜が弾ける音。心臓が跳ねる音。眼球が動く音。時計が刻まれていく音。夕日が差し込む音。 全て俺のものだ。俺は今、この空間の全てを自由に操っている。 「ズボンぱんぱんだよ……? 勃起してるんだね……」 「御伽は……これを望んでるんだろ?」 「うん。おちんちん欲しい。 勃起おちんちんで、今すぐバカになりたい」 「ねえ、那由太君……好きなだけ犯して。 あなたのそのおちんぽで……私のおまんこ、 めちゃくちゃにしてぇ……♪」 全身から火花が飛び散る―― その穴へ、吸い込まれていく―― 「あっ…………はぁぁぁぁっ…………っっ!!」 ねっとりとした嬌声が、教室中に染み渡っていく。 瞬間的に、性に着色されていく感覚。身体の芯から、快楽に蝕まれていく。 「んっ、んんっ、はっふっ、あぁんっ……!! おちんちん……今日もいい具合だね……。 勃起……素敵だよ」 「御伽だって……今日も気持ちいい」 何度この膣に挿入したか覚えていない。 そのたびに気持ち良かった。そして今だって相変わらず気持ちいい。 「私達……身体の相性ばっちりだよね」 「そう思うよ」 「ふふっ……嬉しいんだ。好きな人とこうして セックスを楽しむ事が出来て」 「それが出来ない男性だっているわけでしょ? せっかく愛し合うんだから…… 気持ちいいセックスしたいって思うもん」 「そうだな。俺も、御伽とこんな気持ちのいいセックスが 出来て嬉しいよ」 「身体の相性なんて……付き合ってみないと わからないから」 「付き合う前から心配してたのか?」 「那由太君のおちんちん、どんなのだろうって思ってた」 そんな事考えてたのか……! 「大事だよ? もし好きな人が粗ちんだったり…… 不能だったり……そもそもおちんちん無かったり……。 もしそうだったらどうしようって思うもん」 「無いって事は無いだろ。俺男だぞ?」 「絶対あるとは言い切れないでしょ? 過去に手術で失ってたり、って事だって考えられるよ」 「まあ……そんな可能性の話をし始めたらキリないけどな」 「いずれにしても、身体の……特にあそこの事情なんて 付き合ってセックスするまでわからないんだから。 私にとってはシュレディンガーのおちんちんだよ」 その言葉、使い方それであってるか? 「素敵なおちんちんで良かった……。 ずっとこうしたかったんだよ。 片想いしてる時から、ずっと……」 「今なら何回だって出来る。御伽が飽きるまで、 もういいって言うまで、ずっとセックスし合えるんだ」 「もう十分だなんて思わないよ。私はずっとこうして セックスしていたい。本当に……ずっと……ずっと そう願ってたんだから」 御伽のその言葉から、並々ならぬ重さを感じられた。 本当に強くそう思ってくれていたのだろう。 「那由太君のおちんちん……ずっと求めてた。 憧れてた。ずっと独り占めしたかった……!」 「出来る事なら見せつけたいよ。この教室に誰か来たって 私は中断するつもりない。見せびらかしたい。 私の好きな人のおちんちん。那由太君のおちんちん」 「俺も……止められない気がするよ。 こんな気持ちのいい事。一度始めちゃったら、 もう止まらない……」 「うん……。私達は誰にも止められない。 このおちんちんは誰にも渡さない。 この愛は誰にも理由付けさせない」 「那由太君……もっと奥ちょうだい……。 おまんこのね……奥の方、子宮のとこ…… ぐりぐりって欲しいな……」 猫撫で声がさらに抽送を促す。 御伽が何を求めてきたか。具体的な言葉など、もう脳には届いてこない。 本能でその甘い声に応えるだけだ。どこだって抉ってやる。肉欲の望むまま、腰を振って彼女を貪るだけだ。 「んんっ、あっ…………ひっ…………! あっ、あっ、そ、そこ……あっ、あっ、あっ……!!」 「那由太君……おちんちん、すごいよっ……! それ、気持ちいいっ……はっ、はぁっ……! 子宮の入り口、おちんちんで叩かれるの、気持ちいいっ」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」 「動物みたいに荒々しく……乱暴に腰振ってるの見てると、 んっ、私も、バカになっちゃうの……セックスバカに、 んっ、ふひぃ、なるぅ……あぁぁんっ……!」 「もっとやってぇ、私いっぱいバカになりたいよぉっ! もっと気持ち良くなりたい、エッチなおバカになりたい、 あっ、あぁっ……はぁぁっ……!」 声を抑える事無く、御伽は自ら腰を振って快楽に倒錯している。 「ふっ、ひっ……! へこへこしちゃううっ、んっ、ひっ、 おまんこ、へこへこーって振っちゃうよぉっ、あぁんっ」 俺達の動きに合わせて、ギシギシと机が軋む音が聞こえる。俺と御伽が奏でる、セックスのリズムだ。 「きひいっ、あっ、あっ、くはぁっ……! あぁんっ、あっ、あっ、んっはぁっ、あっひっ! ひあっ、くはっ、くっひゃぁっ……!!」 空間が、どんどんと淫らな音で歪んでいく。 静謐だった放課後の橙色が、その美しさを保ったまま妖艶な鈍色へと滲んでいく。 「はっ…………はっ…………はっ…………!」 性欲は、美しいものを穢していく背徳感に似ている。 こんな美少女を淫らに犯すのだ。柔らかくて華奢なこの肉体を、粗末に、乱暴に、欲望のままに。 背徳の権化だ。でも止められない。なぜなら気持ちいいから。 セックスは、全ての人間の中に潜む破壊欲を刺激するんだ。だから気持ちいいんだ。 「あっはぁっ……おまんこの柔らかいとこに……んっ、 くっ……ふうっ、おちんちん、当たって……きゃひっ、 それ、気持ちいいよぉっ、はっ、あぁっ……!」 「私……ダメになるぅ、おちんちんで、ダメな子になるぅ、 はっ、あぁんっ……! セックス気持ち良過ぎて…… 自堕落になっちゃうのっ、はふっ、ぅんっ……」 御伽の喘ぎは、どんどん声量を帯びながら切羽詰まっていく。 この教室の前を誰かが通りかかったら、きっとすぐにでも異変に気付くだろう。それくらいに包み隠していない。 「御伽……顔、すごい蕩けてる」 「だってぇ、ずっと欲しかったおちんちんだもん。 もう何度もセックスしてるけど……この悦び、 色褪せないよぉ……はぁっ……!」 「このおちんちんがどうしても欲しくて……! “ここ”に来る前から、このおちんちんに 憧れてて……でも、無理な話で……」 「“ここ”ではね、那由太君とセックス出来るの。 私のおまんこに、那由太君のおちんちん突っ込めるの。 最高なんだよ。そう思わない?」 御伽の言い方には少し疑問が残ったが、最後の質問には全面的に同意出来る。 「ああ……最高だね」 「那由太君……そのままおまんこに中出しして……! 憧れのおちんちんに、好きな人の子種だしてもらうの。 女の子の……私の夢なんだよ……」 「何度味わってもたまんないのぉ……! 今日もして……中出し射精で…… 私をとびきりのスケベ女にしてぇっ……!!」 「…………っ!」 そのおねだりが、俺の理性の網を完全に崩落させた。 出したい。イキたい。汚したい。穢したい。 この美少女を、牡の欲望で淫らに染め上げたい―― 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」 「あっ、あっ、激ひっ、あっ、あっ、くひゃっ、あっ、 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ――!」 ピストンの加速を受けて、御伽の嬌声が短く刻まれていく。 「おちんちん、気持ちいいっ、気持ちいいよっ! おちんちん、ガシガシガシガシっ、最高なのぉっ! あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ――」 「はぁっ……イクっ……イクっ……!!」 「出してっ、那由太君のおちんぽ、好きなだけ射精してっ! 私のおまんこ、真っ白にしてぇっ、おちんぽミルクで エロエロにしてぇぇっ!!」 「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、射精っ、射精ぃぃっ! そのままっ、あっ、あっ、一番奥にっ、あ、あ、あ、 お願いっ、あっ、あひっ、あっひいっ!!」 もう止まらない。俺の絶頂を促す淫語混じりのその喘ぎが、最後のトドメとなった。 「くぅぅっ…………っっ!!」 「あひっ!? あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、 あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、 あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、あひっ――」 「あっひいいいいいいいいんんんんんんんんんっっ!!? あっ、あっ、あっ、あっ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、 あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ」 ドクドクと、男根が脈を打ちながら精液を放出していく。 それを受けて御伽も、女性器を波打たせながら淫潮を吹き散らした。 「ひっ、ひっ!? あひっ、あひっ、あひっ、あひっ!? お、おまんこイクっ、イクイクイクイクイクっ……!! 射精で、中出しで、おまんこイカされてるうぅっ!!」 「熱々のザーメン注がれて、おまんこ気持ちいいのぉっ! おちんぽドックンドックンされて、ひっ、私のおまんこ、 幸せ過ぎるのっ、お潮吹きまくっちゃうのぉっ!!」 床にびちゃびちゃと絶頂液が滴り流れていく。 俺の精液と、御伽の絶頂潮。二人の欲望が混ぜ合わさりながら、淫らな水溜まりを作っていく。 「あっふっ、ひぃっ、おちんぽまだドピュドピュしてるぅ、 あひっ!? 熱々ザーメン、いっぱいぃ……子宮、 パンパンだよぉ…………!」 「はぁっ……はぁっ…………くっ!」 「あぁん、まだだよ……まだ抜かないで……! おちんぽに詰まったザーメン、おまんこで…… 搾り出してあげるから……」 「ふっ……ふんっ! んっ、んんっ、ふ~~んっ……! んっ! んっ…………ふんっ!」 御伽が気張ると、その力みに合わせて膣圧が高まった。 「く……あっ……!」 まるで両手でしっかりと陰茎を握り上げられているかのよう。 ぐぐぐっと圧迫されたペニスは、小さな鈴口から残された欲望を一滴残らず搾り奪われてしまう。 「あぁんっ……♪ ちゅるちゅる~って精液出たぁ……♪ おまんこでぎゅーって抱き締めたら……残りの精液 全部出たよぉ……はぁっ……!」 「これ……全部私のものなんだよ……? 一滴残らず全部私がいただいちゃうの……。 だって私、那由太君の彼女だもん」 「このおちんぽも、この金玉も、金玉の中で 作られる精子も……ぜーんぶ私のものぉ……。 誰にも譲ったりしないんだから……はぁぁん♪」 ペニスを引き抜くと、トロリとした白濁が女性器の口から零れ落ちた。 「ん……はふっ、あぁん、勿体無いぃ…………。 那由太君の子種ぇ……溢れちゃったよぉ……はふぅ」 「那由太君、ほら、早く蓋して……? おまんこから精液零れちゃう前に…… おちんぽでまた蓋して欲しいのぉ……」 「そ、それって……」 「あはぁっ……♪ もう一回しよう? おちんぽまだぼっきっきだもんね?  まだ出来るもんね?」 「誰かが来るまでずっとセックスするのぉっ……! 那由太君のザー汁塗れのおまんこ……見せつけて やるんだ。女の子達に……見せびらかしてやるの」 「好きな人とのラブラブセックス……。 那由太君の立派な勃起ちんぽ。ド迫力の中出し射精。 こってり濃厚なザーメンミルク。全部自慢したい……」 「御伽…………」 「ね……? 那由太君もそうしたいよね? このぴっちりおまんこ……たっぷり犯したその成果…… EdEnの皆に自慢したいよね?」 「いいんだよ……。私はあなたの彼女……。 牡の欲望でめちゃくちゃにされる立場……。 色んな人に、彼女の痴態を見せつけて……」 「そのために、その牡ちんぽでもっと私を汚してっ……! 射精しまくって、私をあなた色に染めて欲しいっ……! 私を……ドエロな牝にしてぇっ、あっはぁぁぁっ……!」 射精してせっかく冷えた思考回路が、すぐにどす黒い欲求に塗り潰されていく。 牡になる―― 野獣になる―― 本能を体現していく―― 「御伽っ……!」 「うん……来て、那由太君……!」 再び……その穴へ―― 結局―― その後、教室に誰かがやって来る事は無かった―― 「――ねえ、那由太君」 「……ん?」 「一つ……聞いていい?」 「ああ」 「私達が付き合ってから、どれくらい経ったのかな?」 「そうだな……」 もう、随分な時間が経過したような気がする。 数か月……一年……十年……。 いや、もっと―― 「御伽。俺さ、思うんだ」 「どんなに時間が経っても、俺は止まったままだ」 「そうみたいだね」 「停滞が終わらないんだよ」 「仕方ないよ、それは」 そうか、仕方ないのか。 だったらもう……諦めるしかないか。 忘れちゃいけなかったはずなのに―― 「――そんな事よりさ。ねえ、那由太君……」 「……ん?」 「一つ……聞いていい?」 「ああ」 「何か……気になってる事ってある?」 「気になってる事?」 「そう。私の事で……引っ掛かってる事とか、 おかしいなって思う事」 「……………………」 「無いよ。何も無い」 「そっかぁ……」 「うん」 「ふふっ……そうなんだぁ……」 柔らかな彼女の手を、少しだけ強く握り返す。 「誰に電話してたんだ?」 「え、えっと……実家の家族……」 御伽の家族は――もう―― 「そんなに顔隠すなって」 「んっ、ふっ、ひっ……! だってぇ……! 私こういう事するの初めてなんだよ? ものすごく……恥ずかしくって……」 「んっ、ふっ、ひっ……! だってぇ……! 私こういう事するの初めてなんだよ? ものすごく……恥ずかしくって……」 「んっ、ふっ、ひっ……! だってぇ……! 私こういう事するの初めてなんだよ? ものすごく……恥ずかしくって……」 「……お父さんにね、ちょっと」 「そういう事、されて」 「そういう事、されて」 「そういう事、されて」 御伽の―― 初めての相手は、誰なんだろう――? 「――っ」 握ったその手は―― 「どう…………して…………」 少しだけ、ひんやりとしていて―― 「死んだ……はずなのに……」 まるで、生気を失ったかのように―― 「殺した……はずなのに……」 全てが空虚で―― 「――おとうさん……」 この世界は、夢の中のようで―― 「あれ…………?」 下校前にふと校舎裏に足を運んでみると―― ボーっと空を眺めている筮の姿を見かけた。 「筮、こんなところで何してるんだ?」 「あ……那由太じゃん。ちっすー」 どことなく元気のない挨拶。 「部活は?」 「んー……今休憩中」 「こんなところで休むんだな」 「ちょっと一人になりたくて」 弱々しいその声は、普段の筮らしからぬものだった。 「……何かあったのか?」 「……はぁ」 溜め息で肯定を返された。 「え、えっと……言いたくないなら 無理して話さなくていいけど……」 「……調子、悪いんだ」 「ん……?」 「プレーがね……全然上手くいかないの」 ぽつりと呟かれたその言葉は、俺に向けられたものではないように思えた。 もしかしたら、ずっと誰かに吐露したかったのかもしれない。独り言のように、筮は続けた。 「ボールが手に吸い付かないっていうか……。 ゴールも小さく感じる。シュートに手応えがあっても、 全部リングに弾かれちゃう」 「自主練も……チーム練も、全部しょっぱいんだ……。 全部が思い通り動いてない。自分の身体も、 操るボールも、チームメイトも」 「スランプか」 「たまにあるんだけど……ここまでのは初めてかな」 筮は女子バスケ部のエースだと聞く。そのレベルにあるからこそ、そういった悩みに直面してしまうのかもしれない。 「全然集中出来ないの。情けないよね……。 頭のどっかで、バスケに夢中になれてないって、 自分でわかるんだもん」 「そうなるともう……バスケ、つまんないよね。 楽しめなくなっちゃうよね……」 「……………………」 随分重症のようだ。 ただ、アスリートでもない俺は何て言ってあげていいかわからない。素人の気休め程度な言葉なんて筮は求めていないだろう。 「俺は……嫌だな。筮がバスケを楽しんでないのは」 「あたしだって嫌だよ。楽しむためにやってるのに。 今はそんな余裕無いんだ」 筮の頭の片隅でバスケへの情熱を冷まし続けるものの正体は、いったい何なのだろう。 どうすれば、またバスケに夢中になってくれるだろうか。 「……ねえ、週末空いてる?」 「なんだよ藪から棒に」 「那由太、部活とか入ってないし、どうせ暇でしょ?」 「だから何の話だよ」 「週末、対外試合あるんだけど。見に来てよ」 「え…………」 急な誘いだ。なぜそんな話を……? 「でも……筮、調子悪いんだろ? そんな姿を誰かに見せる気なのか?」 「人に見られてると、プレッシャーになる」 「だったらなおさら――」 「その方が燃えるの。ギャラリーいた方が頑張れるから」 「だから……来てよ。ね?」 「筮…………」 「…………わかった。別に予定無いしさ。 それで筮がスランプ乗り越えられるなら、協力するよ」 「……うん。サンキュ、那由太。やっぱ優しいね」 「優しいってほどじゃ……」 「友達誘って応援に来てよ。多い方がやる気出るから」 「わかった。クラスの連中に声かけてみるよ。 緊張して皆の前で恥かくプレーするなよ?」 「任せとけって。頑張る理由が出来たから。 もう迷わないよ。カッコいいとこ見せまくるんだから」 「その意気だ」 自分をあえて追い込んで、壁を乗り越えようとするその姿が、すでにカッコいい。 きっと筮なら上手くやってくれるだろう。彼女はそれだけの意志力をもった少女だ。 「じゃあ、俺行くわ」 「うん、当日はよろしくね」 踵を返して歩き出した、その時。 誰に向けられたわけでもない声が、背後から聞こえてきた。 「緊張はするよ……意識しちゃう」 「でも……好きな人の前で、カッコいいとこ見せたいもん」 筮のその言葉は、やはりきっと独り言で。 ようやく吐露出来た彼女の表情は、それまでよりいくらか柔らかなものになっていた―― 「んお」 羽瀬だ。 「よう」 「うむ。これから夜遊びか?」 「そういうわけにはいかん。もう門限だ」 楽園欒の規則は厳しいからな。門限破ったらキツい罰が下される。 「権力の監視下にいる立場というのは虚しいものだな。 反乱を企てるくらいしか暇の潰し方がない」 「そんなお前に、いいイベントを教えよう」 「むむ。乱交パーティーか?」 「いや、全然違う」 「全国ロリータコンテスト決勝の部か?」 「そういうのから離れて欲しい」 「全国ロータリーコンテスト準決勝の部か?」 それはそれで気になるイベントだ。 「週末のバスケの試合。一緒に行かないか?」 「おいおい、とんだハッピー野郎だな那由太は。 俺を誰だと心得る?」 「生まれてから一度も運動した事のない、 超絶文化系引きこもり人間の羽瀬久次来だぞ? バスケだと? 俺に突き指させる気か?」 「するんじゃなくって、見に行くんだよ。 筮に誘われたんだ」 「四十九に? ふん……なかなか酔狂な興行じゃないか」 「暇なんだろ? たまにはスポーツ観戦といこうぜ」 「人が汗水流しながら走り回る姿など、 毛の先ほど興味もない」 「が、女子には興味ある。女だらけの球技大会か。 ポロリはあるのか?」 「あると思う」 適当に合わせて、羽瀬のやる気を引き寄せる。 「ならば参加しよう。女人の園に立ち入る事が出来るなら、 人肌脱ごうじゃないか。もって三分が限界だが、 交代も厭わない。酸素ボンベを持参しよう」 「お前は観客だ。出番はないから安心してくれ。 あと人肌じゃなくて一肌な」 誘う人選を間違えた気がするが……。 まあ、いいか。筮も多い方がやる気が出るって言ってたし、乗せやすい羽瀬で一応の頭数は確保出来た。 「旗とか鳴り物とか要るかな? チャントの練習しといた方がいい?」 「やる気満々だな」 帰宅時。 「霍」 小柄なカモが葱背負って帰っている姿を見かけたので、思わず声をかけた。 「む……」 「週末筮の部活の試合見に行こうと思うんだけど、 お前も一緒にどうだ?」 「はぁ……? なんだよぅ、いきなり……」 「いいじゃん。行こうぜ」 「やだよ、めんどいじゃんか」 「そう言うな。行ったらきっと楽しいぞ?」 「でもあたし、別に四十九と友達じゃないし」 「だったらこれを機会に友達になればいい」 「む、無理だよぉ……! 四十九ってなんか気が強そうだし……。 喧嘩っ早そう……」 確かに男勝りなところはあるが、そんな乱暴者な印象を持たれているのか。 まあ、ちんちくりんの霍からしてみれば、筮は少しばかり強大に見えるのかもしれない。 「友達を作るためには、こういうイベントに 積極的に参加した方がいいんだぞ?」 「バカじゃんバカじゃん。あたし別に友達いらないし。 不良はね、一匹狼なんだよ」 望んでそうなるものでもないと思うんだがなぁ。 「うーむ……そうか。 まあどうしても嫌だって言うなら、強制はしないけど」 「休みの日くらい放っておいてよ」 確かに俺は、霍を振り回し過ぎている節があるかもしれない。 それだけこいつの反応が面白く、扱いやすいからって事なんだけど……。 本人が嫌がってる事を無理矢理させるのは可哀想だもんな。ここは霍の考えを尊重しよう。 「わかったよ。一応日時を伝えておくけど、 今週末の日曜、午前10時に校門集合だ」 「だから行かないってば」 「気が変わったら来てくれ。歓迎するから」 「んもう……バカじゃんバカじゃんっ」 参加の同意は得られなかったが、まあこういう事もあるさ。めげずに他を当たろう。 「――那由太君」 登校中、彬白先輩に声をかけられた。 「偶然ですわね。一緒に登校しましょう」 「はい、喜んで」 せっかくだし、筮の試合の件、誘ってみるか。 「彬白先輩、今週末の日曜日って空いてますか?」 「あら、デートのお誘いですか?」 「あ、いや、そういうつもりじゃ……!」 「ふふっ。嬉しいです。那由太君のお誘いでしたら、 いつでもオッケーしちゃいますわ~」 「ほ、ホントですか!?」 「ええ、もちろん。はい、あーん……」 「あ、むぐ」 謎のタイミングで飴ちゃん貰ったぞ。 「え、えっとですね……デートじゃなくって、 女子バスケ部の対外試合がありまして……」 「まあ、筮さん?」 「はい。応援に来いって言われてるんです。 彬白先輩ももしよろしければいかがですか?」 「ええ、是非ご一緒させていただきます~♪」 おお、こんな簡単にオッケーもらえるとは。なんだか拍子抜けだ。 「ですが……一つだけ心配事が」 「なんでしょう?」 「私、バスケットボールのルールってよく 知らないんですの。それでも大丈夫かしら……」 「大丈夫だと思いますよ。ルールはすごく単純ですから、 見ながらすぐに理解できると思います」 「そうですか。ならいいのですが……。 私、スポーツには疎くて……」 ああ、なんかそんな感じする。おっとりしていて、争い事とかには縁の無さそうな人だもんな。 「ボールをリングに入れる競技です。 近くから入れたら2点、遠くから入れたら3点。 点数の多いチームが勝ちです」 「ふむふむ。なんとなく、それくらいはイメージで 把握しています」 「それだけ知ってれば十分ですよ。 むしろ、何がわからないんですか?」 「そうですわね……。バックコート・バイオレーションを 考慮した戦術論や、イリーガル・ユース・オブ・ハンズ の適用範囲などが難解で……」 「他にも、アンスポーツマンライク・ファウルや ディスクォリファイング・ファウルの基準も自分の中で 曖昧なんですの。そんな私でも大丈夫かしら……?」 「だ、大丈夫だと思いますよ……」 この人、めちゃくちゃバスケに詳しいぞ……!? 「つつじ子、ちょっといいか?」 「んー?」 休み時間、つつじ子に声をかけてみた。 「女子バスケ部の対外試合が週末にあるんだ。 筮も出るらしい」 「皆で応援に行こうと思ってるんだが…… つつじ子もどうだ?」 「週末かぁ……うん、空いてるよ」 「じゃあ一緒に行こう」 「そうするー」 よし、応援団一人ゲットだ。 「筮さん、活躍するかなぁ……?」 「俺達の視線次第らしい」 見られてるほど奮起する、と筮の弁だ。 「運動部の応援なんて初めてだよ。 私、特に部活とか入ってないし……」 「俺もだよ。帰宅部はこんな時こそ協力してやらないとな」 「スポーツってね、あんまり見ないんだ」 「そうなのか? あんまり興味ない?」 「ううん。むしろ逆。 見てたら自分もやりたくなっちゃうくらいだよ」 「でも……ほら。この身体だから、やりたくても運動 できないでしょ? だからあんまり見ないの」 「あ……そっか」 つつじ子の気持ちを考慮せず、安易に誘ってしまった。 「ごめん」 「ち、違う違う! 気遣わないで! そういうつもりで言ったんじゃないから」 「本当に、ただ羨ましいだけなの。 スポーツに打ち込んでる人って、すごく眩しくて…… 筮さん、いつもカッコいいよ」 「だからね、応援するんだ。 自分が出来ない事を頑張ってるんだもん。 嫉妬なんてしない。心から応援するよ」 「………………」 つつじ子の言う通りだ。 俺は幸い、スポーツの出来る健康な身体を持ってる。 しかし、だからと言って筮のようにボールを扱えるわけでは無く、ドリブルやシュートが上手いわけでもない。 そういう意味では、俺にとっても筮は“自分の出来ない事を頑張ってる人”に違いない。 憧れや羨ましさはあるけど、別に嫉妬しないもんな。案外つつじ子の心情は俺と近いのかもしれない。 「期招来君もいっぱい応援しようね。 きっと筮さん、それに応えてくれるよ」 「ああ、そうだな」 つつじ子と一緒だと、応援のし甲斐がありそうだ―― 「番号っ! 1!」 「2!」 「3」 「4っ」 「…………5ぉ」 「よし、全員揃ってるな」 試合当日。 誘ったメンバーは誰一人欠ける事無く無事全員集まってくれた。 「うふふっ、楽しみですね~。 筮さん、どんな活躍をしてくださるかしら」 「彬白先輩、一緒に応援頑張りましょうねっ!」 「ええ、もちろんです。喉を枯らす勢いで、 応援するつもりですわっ」 「迷える少女霍くん。君も来たのか」 「う、うっさいっ……」 「ホントは……来るつもりじゃなかったけど……。 な、なんか……その、えっと…………」 「はい、霍ちゃん、あ~ん」 「あ~ん……もぐもぐ」 「霍ちゃんも皆と一緒に応援したいんだよね?」 「うん。あむあむ……」 ホント、単純で扱いやすいヤツめ。 「よし、早速体育館に移動しよう」 「おー、皆揃ってんじゃーん」 試合の準備をしていたらしい筮が俺達に気付いて近付いてきてくれた。 「那由太、こんなにたくさん誘ってくれてあんがとね」 「いえいえ」 「相手のチームは、まだ来てないのかな?」 「もう来てるよ。控室で準備してる」 「邪魔とかしないの? 水に毒入れたり、シューズに針刺したり」 「しないよー! 公式試合ならともかく、 今日はただの練習試合だし」 公式試合ならするのか……!? 「で、相手チームに可愛い子はいたか? 背番号何番だ? 何カップだ? 小学何年生だ?」 「いるか! そんな目的で観戦すんな!」 「あ~……四十九のツッコミは脳にくる~……」 「もー! 那由太、なんでこんなアホ呼んだのよー。 試合前から無駄な体力使っちゃうじゃんかー」 「うむ。すみません」 「羽瀬、あんた変な目で選手を見るの禁止だかんね! うちの部員、結構初心な子多いんだから。 あんたみたいな変態に見られてたら萎縮しちゃう」 「自分だって初心なくせに」 「脳揺らすわよ?」 「ひ~ん、傾いたっ! 脳味噌傾いた~っ!」 「久次来君。一緒に筮さんを応援してさしあげましょう?」 「そう、夜々萌先輩の言う通り! あたしだけを見なさい! で、あたしだけを応援しなさい! 他の子をあんたの 汚れた視線で穢すの禁止!」 「相変わらず羽瀬君には厳しいね、筮さん……」 「あんなにバシバシ叩くなんて……もう不良だよ……!」 とまあ、いつもの調子で会話をして。 「それじゃあ私達は応援席に向かいますね」 「筮さん、頑張ってね!」 「おうっ! いいとこ見せちゃる!」 「筮……」 別れ際、筮にこっそり声をかけた。 「ん? 何さ」 「スランプ、大丈夫そうか?」 「へっ! まー見てなって」 「……そっか」 5人も呼んでしまったから、必要以上にプレッシャーをかけてしまったかもしれないと思っていたが……。 望むところのようだ。さすが筮。男の俺から見てもカッコいい。 「…………好きな人の前でいいとこ見せられない 四十九筮じゃないよ」 「え…………」 「……じゃね。試合終わったらまたちょっと話そう」 「……………………」 まるで、照れ隠しのようにさっさと走り去って行ってしまった。 「………………」 「…………好きな人、か」 「――筮さんっ!」 「んー?」 「私感動したよぉっ!!」 「あはは……」 「私もですっ! まさかこれほどまでに白熱してしまうなんて……! 点が入ったら、自分の事のように喜んでしまいました!」 「こんなに展開が早い競技だとは思いませんでしたわ。 目で追いかけるのだけで精一杯で……。その中で 活躍できる筮さんってすごいんですのね」 「私……スポーツ出来ないけど、見ててすごく のめり込んだよ。自分がプレーしてるみたいに、 一喜一憂出来た」 「そう言ってくれると嬉しいよ。 ありがと、つつじ子、夜々萌先輩」 「あと……霍もね」 「ぐひんっ……ぐずっ……ゔん゙っ!」 「こいつ、ラスト10分からずっと口開けっぱなしで。 筮がスリーポイント決めて逆転した時なんか、 喜ぶの忘れて茫然としてたんだぜ」 「だっでぇ……ずごぐで、ぐひぃ」 「そんなに夢中になってくれたなら、 あたしも頑張った甲斐があったってもんよ」 「ああ。四十九はすごく頑張ってた」 「……なによ、ちょっと真面目じゃん。 他の子に目移りしなかった?」 「お前のプレーに目を奪われっぱなしだったよ」 「ふん。たまに気の利いた事言うんだからこのバカは」 「お世辞じゃないぞ?」 「はいはい。じゃ、あたしこの後片付けあるから」 「そっか。それじゃあ俺達はこれで」 「皆、今日は来てくれてありがとね。 すごく……嬉しかったよ」 「こっちこそ、良いものを見せてもらった。 ありがとな、四十九」 「…………どういたまして」 「……さて。俺達も帰るとするか」 コートを駆ける筮は―― 俺達が普段知っているクラスメイトの四十九筮とは全く異なる姿だった。 大胆なパス。繊細なシュート。疾走感溢れるドリブル。 俺が普段遊んでる時間、彼女は汗を流して練習して。そんな勇猛なプレーを習得して。 立派だな。改めてその姿を目で見て思い知らされた。 筮は――カッコいいよ―― 「………………」 なんとなく、星空を眺めている。 何かを思い出しそうな気がするんだ。 星空を見てると……何か、大切なものを……。 忘れている記憶を―― 「……ん?」 「おや」 「今帰りか?」 「うん。ミーティングとか色々してたから」 「お疲れ様」 「そっちこそわざわざ応援来てくれて、ありがとね」 「いいもの見せてもらったよ」 「……試合、負けちゃったけどね」 「結果じゃないよ」 「スポーツは結果だよ」 最後の最後。ブザービーターを賭けて放たれた筮のシュートは、逆転に至らなかった。 「調子良かったと思うんだ。皆に応援されて…… 全身が躍動した。スランプなんて乗り越えられたって 思った」 「でも、最後外しちゃったね。やっぱ意識してた。 自分で望んだプレッシャーだったけど…… 心のどっかで好きな人の視線、意識してたみたい」 「……筮?」 「ねえ那由太、今暇? ちょっとあたしの部屋来てよ」 「えっ!?」 「話があるんだ。大事な話」 「で、でもお前……試合後で疲れてるだろ?」 「だからだよ。頭ボーっとしてる今のうちに、 全部話しておきたいの」 「……なんだよ」 「冷静になったら言えないような事っ!」 そう言って筮は俺の手を引いて、寮の中へと引っ張って行ったのだった―― 「おお、なんか女子っぽいじゃん」 「あたし女子なんですけど」 もっと男らしい豪快な部屋を想像してた。案外片付いてるんだな。 そして何より、バスケ部らしい部屋だ。 「女子の部屋来んの初めて?」 「ああ、初めて」 「あたしも男子入れんの初めてだよ」 そう言いつつも全く緊張していない様子で、ベッドにボフッと腰を下ろす筮。 かくいう俺もあんまり緊張しない。筮は女子の中でも特に気が置けない友人だからな。 「……話って?」 「あ、早速いっちゃう?」 お、ちょっと緊張した表情。 どうやら話し辛い話題らしい。 「適当に雑談でもするか?」 「ん……まあいいや。夜遅いし。 もう本題に入っちゃおっか」 「どーぞ」 筮は一息ついた後、少しの沈黙を挟んで―― 「……ねえ、あたし今好きな人いるんだ」 「………………」 端的にそう告げた。 恥ずかしげではあるが、それでもはっきりとした口調で堂々と口にしたのは、実に筮らしい。 「あたしの好きな人……誰だかわかる?」 「ああ、わかるよ」 「……そっか」 昼間、あんなにカッコよかった筮が見せるさらに新しい一面。 「羽瀬だろ?」 「……ぅん」 ――乙女の表情。 「よくわかってんじゃん」 「見てればわかるよ」 「うぅ、そうなんだ……恥ずいなぁ」 最後に外したあのシュート。 あれはきっと羽瀬を意識してしまったから。 羽瀬がいなかったらきっとシュートは決まっていた。でも、羽瀬がいなかったらスランプを脱せず、シュートにまで至らなかった。 だから後悔していない。羽瀬を誘った俺も。羽瀬の前で全力を尽くした筮も。 「あいつあたしの気持ち気付いてるのかなぁ……」 「いや、それはないな。 羽瀬ってそういうの苦手そうじゃん」 「だよなぁ……。あたし恋愛事なんて初めてだからさ。 自分の気持ち伝えるなんて出来ないよ」 「だから……相手が察してくれると助かるんだけど。 あーあ、なんであんな鈍感なヤツ好きになっちゃった んだろ」 「それは俺も聞きたいな。あいつのどこがいいんだ?」 「あはは……なんでだろ。自分でもよくわかんないよ」 「そういうのってさ……理屈じゃないじゃん……多分」 まあ……そうだろうな。 「でもね……うーん……強いて言えば……」 「懐かしいんだ。なんか」 「懐かしい……?」 「うん。昔出会った男の子に、雰囲気が似てる気がする」 「だから……惹かれたのかなぁ……」 「――そぃで、おおじさまはわるいかいぶつをたおして、 おひめさまをたすけだしたのでした。 めでたし、めでたし」 「ん……どう? おもしろかった?」 「うん…………」 「あ……ぅ…………」 その病室の空気感は、今でも覚えてる。 ひんやりとしていて、静かで、真っ白で。 だから、とても寂しい世界だった。 「おからだへーき? いたくない?」 「だいじょうぶ……」 「うん…………」 幼馴染の男の子だった。 家が近所で、同い年で、そこから知り合って。 まるで家族のように仲良しだった。時にあたしが姉で、時に彼が兄で。 「こんかいのおはなしはね、わるいやつをやっつける おはなしだから、きもちいいんだよ。スカッとするの」 病弱な人だった。 元々外で遊ぶ事が少なく、家で本を読んだりして過ごす事が多かったな。 その頻度も減って……いつの間にか、彼の“家”は病院になった。 「このね、かいぶつってゆーのはね、りゅーなんだよ。 しってる? どらごん」 「……よくしらない」 「あんね、ひぃはくの。ぼーって。 おっきくって……すんごくつよいの」 「え……かいたぁ」 幼い頃のあたしは、本当に無力で。 唯一してあげられた事と言えば、自作の絵本を彼に読み聞かせてあげる事だった。 それが彼にとってどんな意味合いがあったのか、当時のあたしには知る由も無く。 ただただ、愚直に元気付けてあげてるつもりだった。 「あしたまたくるよ。あたらしいおはなしもってくる」 「だから……まっててね」 「…………わるいやつを」 「え…………?」 「わるいやつをやっつけるような、 スカッとするおはなしがいいな」 「………………」 「……うんっ!」 病名は……なんだったかな。 漢字とカタカナの混ざった、難しい名前だったと思う。 彼の両親は共働きで。お見舞いの時間をなかなか作れなかったようで。 だから、あたしが足繁く通っていた。 嫌じゃ無かったよ。 あの病室はあまりにも寂しい空間だったから。 こんなあたしでも、その寂謬を紛らわすくらいの力になれてると自負出来たから。 「――こうして、せいぎのひぃろぉがわるものを やっつけて、せかいはへいわになったのでしたぁ。 めでたし、めでたし」 「ん……どう、だった……? スカッとした……?」 「……うん。すごく」 「えひひぃ……よかったぁ」 彼を満足させたくて。 少しでも笑って欲しくて。 恋心……じゃなかったと思うんだけどな。まだそんなませた歳でもなかったし。 でも。それでも。 彼の笑顔があたしの全てだった。 「んと……トランプやる? ババぬき」 「うーん……やらない。 ふたりでやってもおもしろくないよ」 「そっかぁ。んー……なんかしたいことある?」 「………………」 「あそこの……」 「んー?」 「あそこの、やま」 「うん」 「いきたいな……」 「うん……」 彼はいつも、窓の外を見ていた。 外出を禁じられた身。外の世界を知らない少年。 わるものにかんきんされたおおじさま。 助けてあげたいと思った。 「じゅんび……できたぁ?」 「うん。いつでもへいきだよ」 「それじゃあ……いこっか」 「うん」 彼の、最初で最後のわがまま。 要求を口にしてくれた事が、当時のあたしには物凄く嬉しい事で。 だから、彼の意図に気付かなかった―― 「どう? たのしい?」 「はぁ……はぁ……はぁ……」 「うん、たのしいよ……! ひさしぶりの……おそとだ」 病院を出て、大空の空気を吸う彼を見たのは、いつ以来だろうか。 脱出作戦は驚くほど上手くいった。 大人達の目を盗んで、裏口を利用して。 彼の望みを叶えるために、大人達を出し抜いた事を、あたしは心から誇らしく思っていた。 「くうきがこんなにおいしいなんてしらなかった……! やまのにおい……びょうしつみたいにツンてして なくて……きもちいいな……」 「うんっ……よかったねっ……!」 「はぁ…………はぁ…………はぁ…………! おそとにつれだしてくれて……ありがとう……!」 「どういたましてっ」 あまり自分の考えを口にする人じゃなかった。 そんな彼が、あたしに外出をねだったんだ。 今思い返せば……その意味はわかる。 彼は――人生の最後に―― 「は、はぁ……はぁっ……ぜえっ、ぜえっ……」 「ちょっと……きゅうけいして、いい……?」 「あ、うん。いーよ」 その場にしゃがみ込む二人。 周囲には鳥の囀りと土の匂いと、葉っぱが擦れる心地良い音だけ。 「ここなら……おとなのひとにみつからないねー」 「はぁ……はぁ……うん、そうだね……」 「みつかったら……つれもどされちゃう?」 「また……あのへやに……」 それは嫌だった。彼もきっと嫌がってる。 あたしがなんとかするんだ。どうにかして彼を満足させてあげるんだ。 「ここにいれば、だれにもみつからないよ。 だれにもおこられないし……きもちいいままだよ」 「はぁ……はぁ……そっか……そうだね……」 「きもちいいままかぁ……。はぁ、はぁ……。 それ、すごくいいよ……!」 休んでいるのに。 彼の呼吸はどんどん乱れる一方で。 「ねえ……きもちよくなってきちゃった」 「うん」 「すこし……ねむっていい?」 「うん。いいよぉ」 「ありがとう」 「どういたましてぇ」 「……おねがいがあるんだ」 「なんでもいって?」 「ずっと……そばにいてほしい」 「いいよぉ」 「………………ありがとう」 …………どういたまして。 「――その時の事、よく覚えてるなぁ……」 「二人っきりで。彼の寝息を聞きながら。 あたしは山の中で黙ってボーっとして」 「とっても……価値のある時間だった気がする」 「……それから?」 「普通だよ。看護婦さんにばれて……見つかって。 病院では大騒ぎになってたみたい。物凄く怒られた」 「その男の子は……?」 「……言う必要ある?」 ……いや。その答えだけで十分だろう。 「変な話だったでしょ。 でもまあ……子供の頃の思い出って事で」 「それが筮のルーツだったんだな」 「そ。昔はね、うじうじしてて大人しい子だった」 「でも……彼がそういう事になって……。 彼の分まで生きようって思った。そのためには、 それまでの自分じゃダメだって思ったんだ」 「筮が男らしいのは、その男の子の魂を 背負ってるからなんだな」 「こらっ! 男らしい言うなっ! 元気で明るいって言えっ!」 などと言いながら勢いよく俺を小突くあたり、十分男らしい。 「でもまあ……元気で明るい筮になってくれて 俺も嬉しいよ」 「あはは……うん。あの出来事は辛かったけど…… そのおかげで変われたのは、良かったって思ってるんだ」 「あたしの大切な思い出なの。その時の幼馴染の存在が、 今のあたしを作ってくれた。すごく大切な人だったの」 「その幼馴染と……羽瀬が似ている、と」 「だから好きになったのかなぁ……って。 ははは……なんかあたし未練タラタラでかっこわりいね」 「いや、そんな事無いよ。別にその幼馴染に恋心を 抱いてたわけじゃないんだろ?」 「うん。お互いまだガキんちょだったしねー」 「いいんじゃないかな。自分の根底になってる存在と 似ている異性に惹かれるなんて、むしろ素敵な事だよ」 「そう? 那由太あんたいい事言うじゃん。 こういう時優しい男って、ポイント稼げると思うよ」 現金な事言うな。 「ねー那由太ー。だからさー、 あたしの恋に協力してよー!」 「なんだよ、急に馴れ馴れしい声出して」 「あたしあんな鈍感なヤツ振り向かせる自信ないんだよー。 うまくいくように、なんとかしてくんない?」 「随分弱気じゃないか。プレッシャーに強い バスケ部エースのくせして」 「スポーツと恋愛は別物! バスケは得意だけど……恋愛はてんでだめ。 男の気持ちとか、全然わかんないんだもん」 「だから……ね? 那由太、協力してよ。 こんなの頼める男子、あんたの他にいないんだよー!」 「そんな事言われてもな……。俺、別に恋愛マスター じゃないし。むしろ俺もそういうの疎い方だから、 力になってあげられるかどうか……」 「男子の意見が必要なんだって。どういう女がモテるのか とか……どうすれば男が喜ぶのかとか……そういうのは 同じ男ならわかるでしょ?」 「まあ……それくらいなら」 俺だって筮と久次来、両者の友人として二人に幸せになって欲しい気持ちはある。 そのために協力してあげたいとは思うさ。 「俺の意見がどこまで羽瀬に適応されるか わかんないけど……」 「どうぞどうぞ」 「例えば、一般的に女の子っぽい性格の方が男ウケは いいって言うよな。だから筮もそういう女子を 目指すといいんじゃないか?」 「なにさっ! あたし男っぽいっつーの!?」 「そういうとこだよ……」 「あ……そか」 「女子力を上げるといいんじゃないか? 羽瀬だって、そういう女子が嫌いって事は無いだろ」 「女子力ぅぅ!? うーん、女子力かぁ……」 あからさまに嫌な顔する筮。そういうのは不得意分野ですと言わんばかりだ。 「女子力なんて考えた事ないよ。どうすればいいのかな」 「それこそ俺にはわかんないって。 女子力高そうな人に相談してみなよ」 「誰よ、女子力高そうな人って」 「うーん……」 筮の相談を茶化さず一緒になって真剣に悩んでくれて。 それでいて女子力の高い人。 俺の知り合いにそんな人いるだろうか……。 ――いた。 「という事で筮。この人に協力を仰いだ」 「どもどもー♪」 「や、夜々萌先輩っ……!?」 「うふふっ、聞きましたよ筮さん。 恋にお悩みだそうで」 「後輩ちゃんのその苦悩、お姉さんが見事丸ごと 解決してさしあげますわ!」 「は、はあ……すごい自信ですね……」 「ああ、少し話しただけでノリノリなんだ」 先輩……こういうの好きなのかな。 「彬白先輩に色々話しちゃったけど……大丈夫だよな?」 「うん。それは平気。先輩ならまあ……頼れると思うし」 「筮さんの女子力向上のため! そしてその先に待つ恋愛成就のため! 私またまた応援頑張っちゃいますよー!」 「あはは……よ、よろしくお願いします……先輩……」 「ではでは! まずは今の筮さんに必要なものは何か、 色んな方の意見を聞きながら考えてみましょう! 筮さん改造計画、レッツスタート♪」 という事で、彬白先輩のご指導の下、筮の女子力向上作戦が始まったのだった―― 放課後。通学路で女子力高そうな少女を見かけた。 「あら皆さん。お揃いで」 「フーカさん……ですか。これはいいお話が 伺えるのではないでしょうか……?」 「はい……?」 確かに、フーカは立派なメイドだからな。女子力もあるだろうし、いいアドバイスが期待出来そうだ。 「実は私達、筮さんの女子力を向上させるために 色々考えているのです。フーカさんからも、 何かご教授お願いできますか?」 「女子力……ですか? はて、なぜまたそのような事を?」 「あはは……まあそれは色々あって……」 ややこしくなるし、筮が羽瀬を好きって事は言わない方がいいだろう。 「なあフーカ。フーカが考える女子力って、 一体どんなものなんだ?」 「そうですねぇ……やはり見た目に対するこだわり ではないでしょうか」 「見た目かぁ……。何にこだわればいいんだろ?」 「例えば、お洋服を女性的なもので 揃えてみてはいかがでしょうか?」 「女性的な洋服って……例えば?」 「まさしくメイド服ですよぉ! この衣服は奉仕精神豊かな女性のみが袖を通す事を 許されている神聖なコスチューム!」 「謙虚に、健気に、従順に! メイド服こそ女性らしさの象徴なのです!」 「メイド服ですか……! うん、筮さんに似合いそうですっ!」 「そ、そうかぁ……!?」 「ちょっと待ってよ! やだよあたしメイド服なんて!」 「メイド服でなくても構いません。 このような形状、または女性としての自覚を強められる 衣服でしたらなんだってよろしいのです」 「ワタシが申し上げたいのは、メイド服のように 女性を美しく彩る衣服こそ、女子力向上の近道と 言えるのではないでしょうか、という事ですよ」 「うーん……言いたい事はわかったけど……。 そういうひらひらしたの、あたし苦手なんだよなぁ」 「筮は普段どんな服着てるんだ?」 「ジーパンとか、ショートパンツとか。 ズボン系が多いかな」 「いけませんよ。筮さんは可愛らしい女の子なんですから、 もっとスカートを穿いて、女性らしさをアピール しませんと」 「スカート落ち着かないんだよ。 動きにくいし……足開いたらパンツ見えちゃうし」 「筮さん。女の子がむやみやたらに足を開いたり するものじゃありませんですわ」 「そうです。女性のお洋服というのは、機能性よりも 見た目を重視したものでないといけません。 多少動き辛くても、可愛ければそれでいいんです!」 「無茶言わないでよ。 スカートでどうやってあぐらかけばいいのさ」 「女子はあぐらなんてかかないのですー! 正座でお行儀よく座るものなのですー!」 「正座なんて足痺れるって! あたしには絶対無理!」 「そう言われましても、座り方というのはそもそも 二種類しか存在しません。男性はあぐら、女性は正座。 太古の時代からそう決まっているのです」 「お二人とも。世の中には女の子座りというものが ありましてね……」 ダメだこりゃ。 「とにかく! 女性らしくなりたいのであれば、 女性らしい衣服を身につける事! これが最も的確で効率的な手段です!」 「よろしいですか、筮さん。 衣服というのは精神を高揚させ、 自意識を促す効果があるのです」 「ワタシもメイド服を着る事でより奉仕精神が高まり ますし……筮さんだって、ユニフォームを着る事で、 運動に対するやる気が普段よりも増すはずですよ?」 「う……確かに。ユニ着ると自分の中で バスケモードのスイッチ入るもんな……」 「そういうものです。見た目から入るという行為は、 とても理に適っているのですよ」 「うーむ……確かにフーカの言う事はもっともだと 思うけど……具体的にどうすりゃいいんだ?」 「それはもちろん決まってますわ! 今から筮さんに 女性らしいお洋服を着ていただくのです!」 「ええっ!?」 「おお、それはよろしいですね、彬白先輩! ワタシ達で筮さんに似合うお洋服をチョイスすれば、 さぞや可愛らしい少女の出来上がりとなるでしょう」 「ええ、ええ。楽しみですわ……! どのようにして、この着せ替え人形ちゃんで 楽しませていただこうかしら……!」 「き、着せ替え人形っ!?」 「ふふふっ……素敵なお顔になってらっしゃいますよ、 彬白先輩……じゅるりっ!」 「あぁら、フーカさんこそ、涎が隠し切れて いませんことよ……んふふぅ……」 「ねえ那由太! なんでこの二人 こんな悪そうな顔してんの!?」 「さ、さあ……」 「よぉし、でしたら早速商店街にゴーですわね!」 「そうしましょう! 筮さん、期待していてくださいね。 ワタシが責任持ってかわゆく彩って差し上げますので!」 「那由太ぁっ! なんか話が変な方向に向かってるー!」 フーカと彬白先輩に挟まれて、連れ去られていく筮。 そんな彼女の情けない様子に同情しながら、俺も商店街へと向かったのだった―― 「筮さん……準備はよろしいですか?」 「うう……くひぃ…………!」 「よろしいようですので……それでは皆さん。 括目してご覧あれ! ワタシのチョイスした 女性らしい衣服を纏った筮さんの登場です!」 「オープンザ・試着室のカーテン!」 「おおっ……!」 「ひ~~んっ!」 現れたのは、これでもかというくらい甘ったるいメイド服を纏って赤面している筮の姿だった。 「こ、こんな筮さん見た事ありませんっ……!! 萌えっ…………萌えっ…………!!」 ご丁寧に、猫耳と尻尾まで装着してやがる。 あの筮が、こんなにも萌えに迎合するなんて……!なんだか見てはいけないものを見てしまった気分。 「やはり筮さんにはこのようなお洋服がよく似合います。 かわゆす……ああ、かわゆすですよぉ、筮さんっ……!」 「なにがかわゆすだよバカあっ……! あたしにこんな服着せて……ひぃ、 これ、なんの意味があんだよぉっ!?」 「言うまでもありません。当初の目的通り、 女子力を向上させるという名目でのプレイの一環です」 「本音と建前がごっちゃになってるぞ!」 「何度も申し上げておりますように、女性らしい衣服を 身に纏う事によって、女子力というものは育まれて いくのです」 「そのためのこの衣装です。やはりこういったひらひら した女性らしい格好こそ、女子としての自覚を高めて くれるのではないでしょうか」 「フーカさっきメイド服は着なくていいって 言ってたじゃんか!」 「心外です。これはメイド服ではありませんよ。 こんなコスプレ衣装、メイド服とは認めません」 「じゃあなんで、よりにもよってこんな服……。 他にもっとちゃんとしたひらひらした服あっただろー? なんでこんなコスプレメイド服なんか……」 「可愛いからです!」 言い切った! 「ぐへ、ぐへへ……筮さん、そのまま握り拳を 頬に持っていって、首をこくんとまげて ポーズをとっていただけますか……?」 「そしてぇ……んぐへぇ、萌え萌えボイスで一言…… “ご主人様、ゆるしてにゃん♪”と言ってみて ください……ぐへへぇ……じゅるりっ」 「誰が言うかバカ!」 「――んぎゃぴっ!」 「ああん、筮さんっ! そんな格好で乱暴しちゃダメですわっ! せっかく可愛い女の子になってるのですから」 「だ、だって……フーカのヤツ、鼻の下伸びっ放しで……」 「コホン……失礼しました。 ワタシとした事が、つい取り乱してしまいました……」 「ポーズやセリフはさておきまして……。 いかがですか、筮さん。こんな可愛いコスプレを着て、 乙女心をくすぐられたりしませんか?」 「むしろ恥ずいって! スカート短過ぎっ! 裾ひらひらしてて煩わしいっ!」 「むむむ~……可愛い服だけでは、筮さんの乙女心は 刺激されませんか……」 「でしたらやはり……ぐひっ、ぐひひっ……! “ご奉仕するにゃん♪”というセリフとともに…… 可愛い子ぶったポーズを一つ……ぐへへぇ……」 「調子に乗るなっ!」 「――ぷぎゅぽっ!」 「あらあら……筮さん。落ち着いてください」 「そのお洋服は筮さんのお気に召さなかったよう ですので……」 「今度は私の番ですわね! 筮さんの女子力がアップする よう、素敵なコーディネートを用意してみました。 お着替えお願いします♪」 再び試着室に入れられる筮。 言うまでも無く二人のオモチャにされている流れだ。 「うへぇ……今度は……なんだよこれぇ……」 「ささっ♪ 早く早くぅ♪」 「うーわ……こんなの着て人前に出るの……? あり得ないって……」 「お着替え終わりましたか……?」 「むっ、無理無理っ、これ無理っ! 全然似合ってないって、ヤバ過ぎっ!」 「おお……カーテン一枚越しから聞こえてくる 筮さんの困惑……想像を掻き立てられてしまいますっ」 「準備完了のようですので…… それではっ! ごかーいちょーっ!」 「わくわくっ♪ わくわくっ♪」 「――ま~~~~あっ♪」 「見てください皆さん! ゴスロリ風の筮さんですわっ!」 「――ぶっ!」 「ああっ! 那由太今笑った! 噴き出したぁ!!」 「い、いや……笑ってないよ……ぷくく……! よく似合ってる……くくくっ」 「笑ってんじゃんかぁ!! んだよこれぇっ!! なんの罰ゲームだよぉっ!!」 「罰だなんてとんでもない。筮さん、とっても素敵です。 お人形さんみたいですよ。そう……まるで着せ替え人形」 「嬉しくないっ! つーか着せ替え人形言うなあっ!!」 「ですが先ほどのメイドコスプレよりも、露出は少ない はずです。恥ずかしさは減ったと思うのですが……」 「確かに露出はないけど……服の中に何枚着込まなきゃ いけないのこれ……。スカートの中、白いやつ何枚も 穿かされてるんだけど……」 「着るの面倒だし、なんか紐みたいなのもやたら多くて どっかに引っ掛かっちゃいそうになるよー……」 「動き回る必要はありませんわ。椅子の上でじっとしてて くだされば、それで十分絵になるのです」 「だからあたし人形じゃないってば!」 「――あひ~~~んっ!」 「おお……筮さん、先輩相手でも容赦なく ツッコむんですねぇ」 「そもそもあたし黒嫌いなの! 暗いイメージになっちゃうし…… もっと明るい色の方がいい!」 「むぅ……ですがゴスロリはやはり漆黒でなければ……。 その方が神秘的で、謎めいた女性を演出出来ますわよ?」 「そんな女になりたくないっ!」 「――あは~~~んっ♪」 「とにかくっ、こんな服なし! 絶対なし!」 「うーむ……ゴスロリ衣装もダメですかぁ……」 「わかりましたわ。とりあえずこれまでの二着の結果を 踏まえまして、男性の意見を聞いてみましょう」 「那由太君、私とフーカさんの衣装のチョイス、 どちらの方が女子力を感じられましたか?」 「どっちもあかん!」 「えーっ!!」 「こんな特殊な衣装を私服にしてる女は、 さすがにあり得ません!」 「ぶーぶーっ! メイド服差別はんたーいっ!!」 「そうですわ。ゴスロリ服を普段着にしてる女の子だって 世の中にいっぱいいるんですのよ? ぶーぶーっ!」 「二人とも、ぶーぶー言わない!」 「うう……わかりましたよぉ……」 「――では気を取り直して第二回戦に参りましょう。 まずはフーカさんのお衣装から」 「えっ!?」 「ワタシは園児服を用意しました。これでおしゃぶりを 咥えながら“うらな、おもらししちゃった~”と 言ってみてくださいな……ぐっへっへぇ!」 「私はバニーガールの衣装をチョイスしましたわ。 引き締まった筮さんの身体を包むレオタードっ! そして網タイツっ! ああ……最っ高っ……!」 「んなもん誰が着るかっ! もうおしまいっ!」 「――ひでぶっ!」 「さて……女子力の高そうな子は……」 「おおっ! 見つけましたわ! 彼女に聞いてみましょう」 彬白先輩が指差したのは―― 「……へ?」 「御伽か……。うん、いいかも」 「確かにゆっふぃんは女の子っぽさぶっちぎってんもんね」 「ええ。ゆっふぃんさんから学べる事は たくさんあると思いますわ」 「えっと……三人とも、何の話かな……?」 「ゆっふぃんさん。筮さんの女子力を上げるためには 何が必要か、一緒に考えてくださいませんか?」 「え……? 筮ちゃんの女子力……?」 「ゆっふぃん。どうすればあたし、 もっと女の子っぽくなれるかな?」 「え、えっと……急なお話だね……。 うん……考えてみるね……」 突然の事で戸惑った様子だったが、状況を把握した御伽はすぐに真剣に熟考してくれた。 「うーん……やっぱり女の子っぽさって、 言葉に出るんじゃないかな」 「つまり、女の子っぽい口調で話すといい という事ですわね」 「んと……具体的にどうすれば……」 「夜々萌先輩みたいな言葉遣いなんてどうかな。 先輩、すっごく穏やかで丁寧で……。 喋り方だけで、大人の女性って感じがするよ」 「まあ、ありがとうございますわ。ゆっふぃんさん」 「まあ、わかりましたわ、ゆっふぃん。 こんな感じでよろしいのかしら?」 「お前ふざけてるだろ」 「ふざけてないし! だって先輩の話し方って こういう感じじゃん!」 「筮ちゃん! 言葉言葉っ!」 「あ……しまった。えっと……おほほほほ。 ワタクシ、全然怒ってなんておりませんことよ?」 「わ、私……普段こんな風に喋ってるように 思われているのかしら……」 「おい筮。先輩にも失礼だぞ?」 「なんだよー、真面目にやってるのに」 「あ、あはは……筮ちゃんには夜々萌先輩みたいな 言葉遣いは難しいみたいだね」 「そうかも……。ねえゆっふぃん。 口調以外は何かあるかな?」 「仕草……とか?」 そう言って小首を傾げる様子がもうすでに女の子っぽい。 「うう……そういうくねくねしたりもじもじしたり する動き、あたし出来ないんだよな……」 「筮は普段の動き一つとっても豪快だもんな」 「うるさいなっ! っていうか、バスケとかやってると こうなっちゃうの!」 「……と言いますと?」 「相手選手を押し退けたり、身体をぶつけ合ったり……。 バスケじゃそういう事が日常茶飯事だから、つい普段 から力加減が出来なくなっちゃうんだよ」 「そもそも……闘争心っていうのかな。 そういうのがスポーツには必要だからさ。 どうしてもそれが仕草に表れちゃうっていうか……」 「競技中はまだしも、バスケしてない時はそんな ギラギラしてなくたっていいんだぞ?」 「わかってるけど! でも癖で……つい……」 「だったらそのままでいいんじゃないかな?」 「え……? でも……」 「筮ちゃんの普段の活発な感じが、バスケで培ったもの なのだとしたら、私はそれってすごくいい事だと思うよ」 「どういう事だ?」 「私、バスケを頑張ってる筮ちゃんって すごくカッコいいって思うもん」 「普段無理して女の子らしくする事で、バスケのプレーに 影響出ちゃうようならそれはそれで問題あるし……。 だったら、今のままでいいと思うんだ」 「確かに……。私も先日筮さんの試合を拝見しまして、 とても感動いたしましたわ」 「あのプレーの大胆さと日常生活の仕草が繋がっている のでしたら……それは切り離すべきではありません」 「………………」 「そういう事です。だから、バスケ選手としては、 今まで通りの筮ちゃんのままでいいんだよ」 「なるほどな。そうかもしれない」 変に女の子っぽくなって、バスケのプレーまでなよなよしちゃったらそれはそれで困るもんな。 「わかりました。口調や仕草による女子力向上は 諦めましょう、バスケ選手としての筮さんを 尊重したいと思いますわ」 「…………だな」 今の筮の良さを潰してまで、付け焼刃の女子力を備えるべきじゃないもんな。 うんうん、御伽と話してみてよかったよ。結果的には何も変わらなかったけど、実にいい議論だった。 「あ、あのさ……ところで、一つ聞きたいんだけど」 「……ん?」 「あたしって……普段からそんなガサツなのかな……?」 「うん」 「………………」 放課後の校庭で―― 帰宅中の志依と遭遇した。 「あら……くっふふふ。面白い組み合わせだこと」 「志依、今日は病院には寄らず直帰か?」 「ええ。そのつもりだったけど……」 けど……? 「これから何かに巻き込まれそうね。くっふふふっ」 とまあ相変わらず全てを見越した上で楽しそうに笑う志依。 「志依さんにも聞いてみましょうか?」 「志依かあ……確かに正しい事言ってくれそうだけど……。 なんかついでにからかわれそう……」 「人の恋路をからかうなんてマネしないから安心なさい」 「さっそくからかわれたっ!」 「くっふふふふっ!」 さすが志依。俺達の目的はお見通しのようだ。 「志依さんは、女子力を上げるための 秘策をご存じないかしら?」 「っていうか……そんな回りくどい聞き方じゃなくてさ。 好きな男を射止める手っ取り早い方法……。 志依なら知ってるでしょ?」 「まあ。四十九さん恋に悩んでるの?」 「からかうのはもういいって」 「くふふ……そうねぇ……。 男なんて、ちょっと優しくしたらイチコロよ。 ね? 期招来君」 「ん? あ、ああ……まあ優しい女性の方がモテるよな」 「優しいって言ったって……どうすればいいのよ?」 「難しく考える必要なんてないわ。 男女限らず、人間は特別視されたい生き物よ」 「あなただけを見ています。 あなただけに優しくしています。 そう伝えられれば、相手は勝手に自分を意識してくれる」 「だからー、そのためのアプローチって何なのさ?」 「くふふ……簡単よ。男の心を掴むにはまずは胃袋から。 手料理、よ」 「手料理……!!」 「そう。料理の提供とは、不特定多数に向けられたもの では無く、その相手だけに向けられた優しさよ。 料理上手な女性的一面もアピールできて一石二鳥でしょ」 「お弁当でも作ってあげなさいな。 そうすれば相手の男はすぐにコロッとしちゃうんだから」 「確かに……いきなり女子から美味しいお弁当を 渡されたら、意識しちゃうかもしれないな」 「ホント!? じゃあその作戦でいこう! あんがと志依っ!」 「気が早いわよ四十九さん。 この方法には一つ問題があるの」 「問題……?」 「つまり……相手に喜んでもらえるようなお弁当を 筮さんが作れるかどうか……」 「あ……」 「四十九さん。料理の腕前は?」 「料理……やった事無い……!」 「マジか……!」 「くっふふっふふふふふっ!!」 「お前いつもご飯どうしてるんだよ!?」 「EDENにも寮にも食堂あるから、大体そこ……。 あとはコンビニで買い食いしたり……」 「そうなのか……」 部活で忙しい筮は料理する時間も余裕も無いのだろうが、それにしたってやった事がないと来たもんだ。 「ですが……どうしましょう? せっかくの名案も、 筮さんがお料理出来ないようでは……」 「た、確かに今はまだ料理は出来ないけど…… 練習すれば、あたしだって……」 「四十九さんらしい前向きな意見ね」 「出来ないからって諦めるのは性に合わないの」 「ちなみに彬白先輩、お料理の方は?」 「人並み程度には……」 「うっし! じゃあ決まりだね!」 「は、はい……? 決まり……とおっしゃいますと?」 「もしかして……」 「これから……」 「特訓だーっ!」 ――という事で、道具や食材を買い込んだ俺達は筮の部屋にやって来た。 「綺麗なキッチン。まるで新品みたい」 「嫌味はいいから、ほら、料理するよ! で、先輩。何から始めればいいですか?」 「そうですわね……まずはお米の準備から……」 「なあ、俺は本当に何もしないでいいのか?」 「あんたは試食係! 男の胃袋の目線から、 あたしの料理を判断すんの」 「わかったよ……」 指示された通りにテーブルの前に座って、料理の完成を一人寂しく待つ。 「……………………」 奥のキッチンから、女子達のかしましい声が聞こえてくる。 「そうそう……包丁はなるべくゆっくり扱って……。 左手は傷付けないように、指先を丸めるんですわ」 「わわわっ! な、鍋から泡溢れてるっ!? 先輩、どうしましょう!?」 「急いで火を消してくださいっ!」 楽しそうだな……。 「……ん? 志依、何入れようとしてるの?」 「恋愛成就のおまじないよ」 「教えてっ!」 「簡単よ。自分の髪の毛や爪を料理にこっそり 入れておくの。恋の隠し味なんだから」 「ふむふむ……なるほどー」 何やってんだ……。 「えっと……お肉を煮込んでる内に、 野菜を盛り付けて……と。 あー、同時進行って難しいな」 「お料理には手際の良さも必要なのです。 同時にいくつものメニューをこなして、 ようやく一人前ですわ」 「理系脳ってヤツね。数学苦手な四十九さんには 難しいかしら」 「うう、おのれ志依め~……うるさいなぁ……」 「筮さんは文系科目が得意なのですか?」 「あ……いや、あたしは勉強全般がダメで……」 「文系脳・理系脳というより脳筋ね。くっふふふっ!」 「こら志依~~っ!」 「ああっ、キッチンで暴れないでください~!」 「………………」 なんだかんだでやっぱり楽しそうだな―― 「出来たーーっ!!」 「ようやくか……もう腹ペコだよ」 「お待たせ那由太。それじゃあまず、 あたしの料理から食べてもらうわよ」 「まず? から?」 「せっかくですし、私達もお料理しましたの」 「だって……四十九さんの料理だけじゃ……ねえ?」 「ふん。見てなさい志依。 すぐに吠え面かかせてあげるんだから」 「自信あるみたいだな」 「夜々萌先輩にちゃんと教わったからね。 はい、どーぞ」 肉料理の入った皿がテーブルの上に置かれた。 「牛のすね肉を柔らかく煮込んだものです。 お弁当にもぴったりですのよ」 おお、なかなか本格的だ。 「やっぱ男に食べさす料理っつったら肉でしょ肉!」 「という事で、那由太。ささ、食べて食べてー」 「お、おう」 さっそく一口頬張ってみると―― 「もぐもぐもぐ……ん?」 「どうよ、あたしの自信作の味は?」 「…………あんま美味くない」 「えーっ!?」 「なんかちょっと硬いな……。 もっと柔らかい方が食べやすいかも」 「煮込みが足りなかったのかな……」 「それに、味もかなり濃いぞ。 しょっぱ過ぎる気がする」 「筮さん。お砂糖ちゃんと入れましたか?」 「あ……忘れたかも」 「そのお料理はお醤油の味をお砂糖で抑えて、 甘辛く味付けするものです。お砂糖が無いと 塩加減が強過ぎますわ」 「くぅ……うっかりうっかり」 「ね? 四十九さんの料理だけじゃ 私達の夕飯が危うかったでしょ?」 「ち、ちくしょーっ! でもいいもんね! 作り方はちゃんと夜々萌先輩から教わったから…… 今度はその通り作るもん!」 「まあ、この段階で失敗を経験出来てよかった と前向きに考えるか」 「ちなみに……私も筮さんのお手伝いの合間を縫って、 一品ご用意しました。よろしければ皆さんでどうぞ」 出てきたのは―― 「ビーフストロガノフです」 片手間に作るようなものじゃねー! 「これ……全部彬白先輩が作ったんですか……!?」 「はい。すね肉が余ってしまいましたので、 それを使って出来る料理を……と思いまして」 これをササッと作れてしまうなんて……!彬白先輩、料理の腕前は人並み程度って自負してたけどとんでもないな。 「さあ、温かいうちに召し上がってください。 皆さんもご一緒に」 「あ……それでは、いただきます」 「いただきますね、彬白先輩」 「あたしもあたしもっ! 美味しそーっ! いっただっきまーすっ!」 「ぱく……」 おおっ、見た目通り……! 「もぐもぐ……美味しい……!」 「はふはふっ、がつがつっ! 美味しいです、夜々萌先生っ!」 先輩から先生に昇格したぞ。 「ふふ……気に入っていただけたようで、 私も嬉しいですわ」 「んぐんぐ……確かにこんな手料理出されたら、 男でなくてもコロッといっちゃうかも……! 夜々萌先生、養って~」 胃袋を攻められて懐柔される筮。恋愛理論でいうと、筮の胃袋は男並の弱点なんだな。 「それでは最後は私の番ね。 期招来君、がっつり食べてちょうだい」 差し出されたのは―― 「お寿司だ」 「肉料理が続いたから、そろそろお魚が 食べたくなる頃かと思って」 「志依が握ったのか」 「足が悪い分、手先は器用なのよ」 そんな志依も、料理上手のオーラが漂ってるもんな。出されたお寿司は見た目ばっちりだし……。 「それじゃあ……いただきます」 手前にあったマグロの握りから口にしてみた。 「もぐもぐ……こ、これは――!?」 美味い……! 美味いのは間違いない……! だけど……なんだ、この感覚は……!? 「な、なんか……身体が熱くなってきたんだけど……」 「あふふ……この薬を入れてるの」 「く、薬っ……!?」 「即効性の精力増強剤よ」 「なっ……!!」 「いいこと、四十九さん。 男なんて欲情させれば、目の前の女に抱き付くもの。 女は男をいかにオスにさせるか。それだけなのよ」 「そ、その手があったか……!!」 「志依さん……なかなかの策士です!」 「お前ら感心するな!」 「くふふっ、ズボン押さえながらだと格好付かないわね」 「おのれ志依め~」 「安心なさい。適量に抑えておいたから。 美女が三人も揃っているんですもの。 いきなり襲い掛かられたら私達も困ってしまうわ」 「私は歓迎いたしますわよ♪」 「あたしは張り倒すけどね」 「くぅ…………!」 ……で。 「うん、こんなもんかな」 「味も見た目もなんとかなったようですわね」 先ほどの反省を踏まえて、明日羽瀬に渡すためのお弁当は、なんとか完成を迎えた。 「先輩のおかげです。ありがとうございました」 「あら、私にお礼は?」 「だって志依、結局その薬くれなかったじゃん」 「これは最終手段よ。これに頼る前に、 まずは自分の実力で勝利を勝ち取ってごらんなさい」 「ドーピングするならこっそりと……って事か。 うん、わかった!」 「全然意味が違うけど……まあ、頑張ってみることね」 「つーかその薬は絶対入れるなよ?」 「髪の毛とか爪は?」 「それも禁止っ!」 ――翌日の昼休み。 「ね、ねえ羽瀬……! ちょっといい……?」 筮は勇気を出して、羽瀬を呼び止めた。 「ん?」 「あ、あの……あのね、今朝……お、おべっべっ…… お弁当、作り過ぎちゃってね……」 「あんたのために作ったんじゃないんだからね!」 「な、なんだ四十九……いきなりテンプレ放って なんのつもりだ……?」 「へ……? 天ぷら……? あ、天ぷらは入ってないよ……」 「と、とにかく、はい、お弁当!」 「弁当……これ、俺に?」 「そうだっつーの! ほら、あげる!」 なんとか渡せたようだ。あとは食べてもらうだけ……! 「うーむ……参ったな……」 「あ、あれ……? 食べていいんだよ?」 「しかし……」 「もしかして、もうお昼済ませちゃった?」 「いや、違うんだが……」 「だったら、ほら……」 「すまん、四十九。俺今日ラマダンなんだ」 「なんとー!? 断食ー!?」 「はぁ……」 筮の溜め息。 まあ、気持ちはわかる。 女子力をアップさせるために色々試してみたが、どれも空回りで、上手くいかなかったからだ。 「この調子で、羽瀬を振り向かせられるのかなぁ……」 「元気を出してください、筮さん。 きっとなんとかなりますわ」 「んな無責任な……」 「まあ、まだ始まったばっかじゃないか。 これからゆっくりと自分に合った方法を 見つけていけばいいさ」 「……だね。あんがと」 俯いた顔を上げて、笑顔を取り戻す筮。 すぐに落ち込んだと思えば、こうしてすぐに立ち直る。その切り替えの早さは彼女の長所だと思う。 「じゃ、あたしこれから部活だから」 「おう、頑張れ」 「また明日、女子力向上のための方法を 皆さんで考えてみましょう」 「おー!」 「……なかなか上手くいかないものですわね」 「覚悟していた事ですけどね」 「私……なんだかやきもきしてしまいますわ」 「あはは……」 でも……女性らしさを身につけるために、ガムシャラに色んな意見に挑んでいく筮が、ちょっと健気にも思えて、それが楽しかったり。 あんなに頑張ってるんだ。筮の恋……上手くいくといいな―― 「さて、俺達もそろそろ帰り――」 「――羨ましいと思いませんか?」 「え…………?」 「那由太君は……筮さんの事、羨ましいと思いませんか?」 「何を……急に……?」 「私は羨ましいですわ。恋に夢中になって…… 好きな人に振り向いてもらうために、 あんなに体当たりで頑張れるなんて……」 「バスケの試合もそうでした。彼女はいつも全力で…… その姿はとても眩しくて、人々を惹き付けて、 そして応援させるのです」 「……………………」 「那由太君にはありますか? 筮さんのように、全力で取り組む事が出来る何かが」 「俺は…………」 なんだろう―― 少し……頭がクラクラする。 「別に、恋とかしてないですし……」 「恋愛に夢中になると、筮さんみたいに 真っ直ぐになれるのかしら」 「さあ…………」 「試してみたいですわ……あなたで」 意識が……ふら付いている。 夕日がやけに眩しい。明る過ぎて……目がくらむ。 「私……前から気になっていたんですの。あなたの事……」 「とっても可愛い男の子……。 ふふふっ……お姉さんが……食べちゃおうかしら……」 「彬白……先輩……?」 「大丈夫ですわ。ぜーんぶ……先輩に任せて」 「二人だけの秘密……ね?」 「え……?」 気付けば、天井を見ていた。 いや、“気付けば”という言い方はおかしい。 まだ、正しく事態を認識できるほど頭は働いていない。思考が覚束ないままだ。 何も気付いていない。何も把握していない。 そんな状態のまま……俺は……。 「ねえ、那由太君……わかるかしら?」 「もう……入ってるんですわよ?」 「っ……!」 その言葉を聞くまで、やはり“気付いて”いなかった。 思い知らされた途端、圧倒的な肉感に襲われる。 「かっ……はっ……!?」 「んっ……はぁぁぁん…………!」 なんで……!? どういう会話を経て、俺達はこんな事をするに至ったんだ……!? 覚えていないというよりも、ひたすらに“わからない”……。 正しい判断が下せない。 本当に……急にぼんやりしてしまい―― 「顔と同じで……可愛いおちんちんしてるんですのね」 「でも……すぐに男らしくなる……! 今はまだお子様ちんちんだけど…… すぐに、私を満足させるくらいの巨根に……!」 まるで、タイムスリップしたような違和感。 全ての過程がごっそり抜け落ちているような。 彬白先輩から誘ったのか?俺がその気にさせたのか? 抵抗は? 躊躇は? 前戯は? 「あっはぁぁぁあ……ホント、可愛い…………!」 全て霧散する。 その濃厚な吐息に、俺の構成物が舞い散らされていく。 自分の感情すら把握できない。俺はこの謎の展開をどう捉えている? 嫌悪? 困惑? 喜悦? 「虐めたく、なっちゃう……」 ダメだ―― やっぱり、霧散する―― 「那由太君は何も考えなくていいんですの。 そのまま……この快楽に、身を委ねて……?」 「男の子ですもんね。セックスしたいですもんね。 猿みたいに……おまんこの中におちんちん突っ込んで、 腰へこへこさせたいですわよね……?」 「はっ、はっ……く、なんで、こんな……!」 「ん……あぁっ、あふあっ……答えなくて結構ですわ……。 私は……あなたのおちんちんに聞いているんですから」 「私とのセックス……嫌? それとも……嬉しい?」 「あはぁぁっ……♪ おちんちんピクンって震えたぁっ♪ 勃起っ……はぁっ、勃起いいっ…………!!」 「素直な男の子……お姉さん大好きですわよ……? んふふ……たっぷり……可愛がってあげますからね?」 「れろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………………」 「ぁ……っ!?」 生温い液体が、粘り気を伴って顔に着水した。 「唾……液……?」 「そう……唾液。私のこの口の中の粘膜で たっぷり熟成した……トロトロの唾液……」 「それを……あなたの可愛い顔に垂らしちゃう。 えろぉぉぉ……れろぉぉぉぉっ…………!」 まるで蜘蛛の糸。 目の前の彼女は、さしずめ女郎蜘蛛か。 「年上のお姉さんの唾液……。 欲しいでしょ? かけられたいでしょ? 心の奥まで……汚されたいでしょ……?」 「してあげる……! 後輩ちゃんのその劣情…… 先輩の私が、満たしてあげますわ……! んっ、んっ……れろぉっ、えろおおぉぉっ…………!」 淫婦の甘い囁きに、理性が腐敗して蕩けていく。 雌蜘蛛の化身に睨まれたんだ。俺みたいな一般人にはもう、どうする事も出来ない。 諦めて、堕ちていく事しか出来ない。 「私の生唾……気持ちいい……?」 「………………」 「…………はい」 「うん、いい子いい子……。素直な子には……はぁっ♪ ご褒美、あげなくちゃね…………」 「んっ、ぶくぶく……じゅぶじゅぶじゅぶ…………! じゅくじゅくじゅくじゅく、ぶくぶくぶじゅぶじゅ……」 「んはぇぇぇぇぇぇ…………えろろぉぉぉぉぉぉぉん……。 へぇぇぇぇぇぇぇぇ…………れれれぇぇぇぇぇぇ……。 あはぁっ、私の搾りたての唾液ですわぁ」 幾筋もの透明な糸が、先輩の舌先と俺の顔を繋ぐ。 顔に蜘蛛の巣が形成され……きっとこの後、俺は彼女に絡めとられていくんだ。 「口の中でぶくぶくさせて、粘り気たっぷりにさせた唾。 私の口の中の温度をそのままにしてお届けしましたわ。 生温かかったでしょぉ……あはっ、んはぁ…………♪」 「今度は……その無防備なお口に注いであげますわ……。 んっ、んっんっんっ……ぶくぶくぶくぅ…………」 「わらくひのらえひ…………のうこうでトロトロな らえひが……あはぁっ、今、このくひの中に…… こんなにたふはん…………」 「ぶくぶく…………じゅぶじゅぶじゅぶ……ぶぶぶっ、 ちゅぶぶっ、ちゅぶくぶく……あはぁっ………… これ……ぜんぶ……欲ひい……?」 「………………」 「はい…………欲しいです……」 「あっはぁっ、いい子ね……ほへじゃあ……ぶくぶく。 ――あえぇぇぇぇぇぇぇぇ…………えろぉぉぉぉぉぉ」 その瞬間、女郎蜘蛛の糸が女王蜂の蜂蜜に変わる。 「えおぉぉぉぉぉ……んへべぇぇぇぇぇぇぇ…………!! おろぉぉぉぉぉぉぉぉん…………んめぇぇぇぇぇぇぇ、 べぉぉぉぉぉぉ…………れるれぇぇぇぇぇ…………!!」 「ぺっぺっぺっ……! んっ、あっはぁぁ…………。 どう……? 私のご褒美の味は……」 「美味しい、です……」 「そうですわよねぇ……。んふふふふっ」 ところで俺は、何を肯定したんだろう。 今の俺の舌では、今の俺の脳では、今の俺の身体では。味覚なんて判別出来ない。何も判断出来ない。 全自動だ。否定する気すら湧いてこないから、無意味に肯定するだけなんだ。 「可愛い……本当に可愛いですわ……」 それってもう―― 操り人形じゃないか―― 「ずっとこうしたかった……。筮さんがあれだけ 頑張ってるんですもの。私も……頑張らないと」 「んふふ……私の可愛い後輩ちゃん……♪ 素直で……何でも言う事を聞く、従順な男の子……♪」 「大好きですわよ……那由太君……♪ るれろおぉぉぉぉぉぉぉ…………♪」 そうか、俺を操っているのは―― この糸―― 「んちゅ……むちゅぅ…………」 「……っ!?」 「んはぁぁん……唇……柔らかぁい……♪ おちんちんはこんなに硬いのに……」 「はぁ……はぁ……」 「私の唾液……直接流し込んであげますわ……」 「――ちゅっ、んちゅぅ、むちゅ……んちゅぶぅ……! んぐぶぐぶ……ぶくぶくぶくぶく……んちゅぅ……」 「はっ……く、ちゅ……んっ、んっ、んっ……!」 温かな蜜が、身体の芯に注がれていく。 魔性のエキス。堕落させ、愚人にするドラッグ。 「んっ、んんっ……!? はふっ……んっ、おちんちん、 またおっきくなりましたわぁ……♪」 「そのまま……どんどん私のおまんこを満たして……! そのおちんちんで、私を気持ち良くさせるんですの。 もっと……もっと…………!」 「はっ……はっ……はっ……はっ……!」 「もっと……もぉぉっと…………!」 「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……!」 淫魔め。 強烈な快楽に、視界がぼやけ、手足の感覚が消えていく。 「あぁんっ、んっ、はあっ、んっ、んっ、んっ……! あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!」 それぞれの器官が機能停止し、その分ペニスだけが鋭敏になる。 「もっとぉっ、腰もっとぉっ! はっ、はっ、はっ、はっ、 ほらっ、もっとへこへこぉっ! あ、あ、あ、あ、あ!」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」 「その調子ですわぁんっ! あふっ、あっふうっ……! あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、 あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ、あんっ」 あえてわざとらしく、喘ぎを刻んでいるんだろう。 そのリズムで俺を挑発しているんだ。 もちろん抗う事など出来ない。 加速度的に堕ちていく。 「んっはぁっ、き、気持ちいいっ……おまんこっ、 はふっ、気持ちいいですわっ、あっ、あぁんっ……!」 「おちんちん、そろそろ射精しそう……!? んっ、はっ、はふぅんっ、どうなんですのぉっ……!? おちんちん、もうイキそうですわよねぇっ……!?」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」 返答したつもり。 唇が正しく動かない。 生殖器以外、どこも機能していないんだ。 「んはふぅん、そう、わかりましたわぁ……! 全部……わかってしまいましたわぁ……! あっはぁぁぁんんっ…………!」 「おちんちん、もう限界なんですのね……」 伝わったらしい。 心が読めるのだろうか?魔女なのだろうか? なんでもいい。なるようにしかならない。 「思いっ切り出させてあげますわ……。 私のおまんこの中で……その、勃起ちんちん……♪」 蓄積された欲望を、吐き出すのみ。 「――ふぅんっ……! んっ、んっ、んっ、んっ、んっ! んんんんんっ…………んんんん~~~~~~~っっ!!」 「がっ…………!」 突如、膣圧が強まった。 下腹部に力を込めたんだ。そのせいで、全方位から柔肉が襲い掛かって来て……! 「このまん肉で……あっ、あっふうっ、んっ、んっ! たっぷり扱いてさしあげます……勃起ちんちん、 おまんこで擦りまくってやりますわぁっ……!!」 「う……ぁっ、あっ……!!」 「んっ、ふぅんっ……シコシコぉっ、んっ、んっ、 おちんちんシコシコぉっ……まん肉シコシコぉっ、 はふっ、んっ、んっ、シコシコシコシコぉっ……!」 「私のこのぷっくりおまんこでっ……勃起ちんちん、 イクがいいですわっ……! まん肉でシコシコされて、 中出し射精するがいいですわっ……!」 「ほら、イキなさい……! お姉さんのぴっちりまんこで、 情けなく勃起ちんぽイキまくりなさぁぁいっ……! ほらっ、イってっ、イってっ…………イケぇっ……!!」 「――っ!!」 「ああっ!!? あっ!? あっ!? あぁっ!? あっ…………あっはあああああああああああっっ!!?」 一際大きな嬌声によって、吸精される。根こそぎ持っていかれる。 「あぁんっ、おちんちん、震えてますわぁっ……!! ドピュドピュっ、射精で震えて……あっ、あはあぁ!!」 「気持ちいいぃっ、はふっ、中出し、気持ちいいっ……! あっ、あっ、あっ……私も、おまんこっ、イクっ、 イってしまいますぅ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!」 お互いが、それぞれの絶頂を迎えて、ビクンビクンと打ち震える。 永遠とも思える脈動。 唯一感覚の残されたペニスから放たれる、火花のような快楽。 「はぁんっ、あっ、あっ、あふっ、あふっ……!! おまんこ、熱くて……ひゃふ、ザーメンの熱で、 おまんこ、火照っちゃいますわっ……あぁんっ……!」 「これ、たまりませんっ……あぁん、年下ちんぽの 後輩ザーメンっ……おまんこに馴染むぅっ……!! 私のおまんこにぴったりの精液ですわぁっ……!!」 やがて、男根の火力が治まり始め―― 「あ…………はぁぁぁぁん…………」 甘ったるい吐息だけが空間に漂う。 いや、鼻をつんざく淫液の匂いも。 どうやら嗅覚は戻って来たようだ。 少しずつ……他の意識も。 「んふぅ……たくさん出してくれましたわね……。 ふふっ、そうでなくっちゃ……♪ あはぁん」 「男らしい中出し射精をしてくれたご褒美はぁ……これ♪」 「んちゅっ…………」 「んっ……むっ……?」 口の中に、何かが混入してきた。 「はい、飴ちゃん」 「はぁ…………はぁ…………」 甘い…………。 蘇ってきた味覚が、警鐘している。 この甘さは、癖になる――と。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」 「参ったな……忘れ物しちった……」 教室に、課題のノートを置き忘れたままだった事に気付いた。 あれがないと課題が出来ない……。まあ、あったところであんまり捗らないと思うけど……。 「……ん?」 教室から物音が聞こえる……。 「こんな時間に……誰かいるのかな」 もうとっくに皆帰ってるもんだと思ってたけど。 誰だろう。そして何してるんだろう。 「………………」 「……え…………?」 様子がおかしい。 なんか……随分いやらしい声。 この声……聞き覚えがある。 まさか…………! 「……ごくり」 中の人物に気付かれないように、そっと扉を開けて様子を見てみると―― 「――ひっ」 「……………………」 「嘘…………」 あたしは―― その日の課題を諦めた―― 「………………」 さっきからずーっと、俺はぼんやりとしている。 「……はぁ」 いつの間にか、部屋にいた。 どうやって自室に戻って来たか、よく覚えていない。 記憶にあるのは―― 間違いない。あれは現実だ。 俺は……彬白先輩とセックスしたんだ。 いまだに経緯は思い出せないけど……。 「………………」 ヤってしまった。イってしまった。 あんな事して……マズかったのではないだろうか。 気持ちよかったのは確かだ。しかし、恋人でもない女性を相手に……中出しまでしてしまって……。 男として、無理にでも中断すべきだったんじゃないのか。 いや、でも……彬白先輩はノリノリだった。むしろ彼女の方から誘って来た気がする。 だとしたら、俺が途中で止めてしまうのは、彼女に恥をかかせてしまう事になるのでは……。 「……どうすりゃよかったんだ……」 考えたところで、結論は出ない。 残された股間の感触だけが、俺の罪悪感を苛み続けるのだった―― ――翌朝。 「……はぁ」 昨日のあの出来事について、結局自分の中でよくわからないままだ。 彬白先輩に会ったら、どんな顔すればいいんだろう。 覚えてないけど……多分、成り行きでああいう事になっちゃったはずだ。 謝れば許してもらえるだろうか。 「……ひゃ」 「……あ、筮」 「あ……う、うう…………っっ」 「おはよう。今日は朝練無いんだな」 「う……ひ……ひ…………」 「ひ~~~~~~~~んっ!!」 「あ、おい、筮っ……!」 なんだ……? 思いっ切り避けられたけど……。 「どうしたんだ、あいつ……?」 昼休み。 「なあ、筮」 「くっひっ!? にゃゅてゃっ!?」 今朝の異変を問い質そうと話しかけると―― 「あ、あたし、昼練あるからっ……!!」 「おい、待てってっ!」 やはり、逃げられてしまった。 「うーん……」 あれ……もしかして俺、知らない間に筮を怒らせるような事しちゃってた、とか? だとしたら謝らないとな。 「……うーん」 彬白先輩の件といい、筮の件といい。 なんだかモヤモヤしてる事が続くな……。 「女難か?」 「元はと言えばお前の鈍感のせいでもあるんだがな」 「何の話だ?」 「……そのうちわかるよ」 でもまあ、俺がやれる事は変わらない。 引き続き、筮の恋愛に協力する。それが筮に対する誠意だ。 「さて…………」 今日も筮の女子力向上作戦が始まる。 しかし……。 「う、うう…………」 相変わらず筮はこの調子だ。 「なんだよ、おい。今朝から様子がおかしいぞ」 「だ、だってぇ……」 「……怒ってるのか? 俺が何かしたんなら、謝るけど」 「い、いや、怒ってないけどさ……」 じゃあなんなんだよ……。 「おっふたっりさーんっ、どもどもですわーっ♪」 「ひぃっ!」 彬白先輩が、満面の笑みでやってきた。 「さあ、今日も一緒に頑張りましょーっ! あれ、筮さん? どうかしたんですの?」 「い、いえ……別に……」 「そうですか……。 筮さん、ご自身の恋愛成就のためですよ? 気合い入れてくださいね?」 「んねー、那由太君?」 「え……あ、はい」 いきなり視線を向けられ、つい戸惑ってしまう。 昨日あんな事があったのに……この笑顔はなんだ?不自然なほどの、いつも以上の馴れ馴れしさはなんだ? この人……まるで、全然気にしてない様子で……。 「う、うん……確かにキョドってる場合じゃないよね……」 「那由太と夜々萌先輩がああいう仲ってのは…… あたしには関係無い事だし……」 「そ、そりゃあまあ驚いたけど……でも、むしろあれを お手本にするくらいの意気込みじゃないとね、うん」 「よ、よし! 今日も頑張りましょう! 夜々萌先輩、よろしくお願いしますっ!」 「はい、その意気ですわっ」 「那由太も……ごめんね。 さっきまでのは……あ、あれ、何でもないから」 「ん……そうなのか?」 「そ、そうなの……あははは……」 どうやら調子は戻ったようだ。 彬白先輩も昨日の出来事について、全く気にしてないみたいだし……。 あんまり気にする必要なかったのかな。 彬白先輩のあの態度はきっと、そういう事なんだ。だったら、俺もあまり考えないようにしよう。 「よし、それじゃあ始めるか」 「う、うんっ!」 「………………」 「…………んふふふっ」 「ちわー」 「あ、筮さん」 「とー、彬白先輩ー」 「と、期招来……」 あからさまに嫌な顔してるヤツが一人。 「はい、入部届三人分ー」 「あはは……晦さん、私達は別に入部しに来たわけでは なくてですね……」 「ていうかあたしバスケ部入ってるからね」 「じゃあなんなのよ。練習中なんだけど」 どう見てもぐうたらお喋り中だったように見えるが、穏便に済ませたいからそこはツッコまないでおこう。 「みんなにちょっと聞きたい事があって」 「とても女性的な質問ですわ」 「性的な質問!? わーわーわー! 禁断のトーク!? 大人の階段上らされる予感だよー!」 「い、いや……女性的な、ね。 女の子相手のアンケートって感じかな」 「で、なんなのよ筮」 「うん。みんなが考える女子力ってのを 聞きたいんだけど……」 「女子力かぁ……。いきなりで難しいね……」 「というか、そんな事聞いてどうするのー?」 「え、えっと……まあ、それは……」 「要するに、好きな男を振り向かせるために どうすればいいか、を聞きたいのですわ」 「おーっ! 恋バナ! 男の落とし方! オトナのオンナになる方法! 愛され系! 意識高い系! 自己実現~! わーわーわー!」 「うっさいわよおみそ!」 「筮さん、もしかして誰か好きな人が……?」 「そこら辺は気にせずに。三人の思う答えを聞かせてくれ」 「う、うん……でもわたし、好きな人とかいた事ないから、 よくわからないかも……」 「小鳥は?」 「あひっ!? あ、あらひ!?」 「小鳥さんは、しっかりしてるし経験豊富そうですわねー」 「わ、私は……と、当然じゃない! 恋愛の一つや二つ……今まで……そ、その……」 「おー、さすが小鳥! 頼れるよー! で? で? どうすりゃいいのかな?」 「お、男の落とし方、でしょ……? そ、それはもちろん……え、えっと……」 「ぷーくすくす!」 「こ、こらそこ、笑うな!」 「助けてあげよっかー?」 「うぐ……」 「ほれほれ、どうなのさー」 「ぐぬぬ……ぐぎぎ…………」 「――あーんっ! おみそ、ヘルプ!」 解答権が晦に移った。 「男を好きにさせればいいんでしょー? 簡単だよー」 「お、おお! すごい自信! 晦、あんた意外とそういうの得意なの!?」 「得意っていうかー。こんなの誰に聞いても答えは 変わらないと思うよー?」 「そんな普遍的な方法があるの!? 教えて教えてっ!」 「いいよー。それはねー……ズバリー……」 「――セクスィーな服を着ればいいんだよー!」 「………………」 「あ…………はは…………」 「あら……あら…………」 「……………………」 「なるほど!」 隣で筮が思いっ切り力強く目から鱗を落としている。 「あんたねぇ……そんな単純なやり方で……」 「こういうのはわかりやすい方がいいんだよー。 色々工夫したところで、相手に伝わらなかったら 意味ないんだしー」 「ま、まあ……相手に自分の気持ちをわかってもらうのが 大切だもんね……」 「そ。セクスィーな服って、見ただけでわかるでしょ? こんなに単純なやり方、他にないよー」 「で、でも……そんなんで男って喜ぶのかな……?」 「それは、男性である期招来君にお答えいただきましょー」 「え、俺!? い、いや……どうだろう……」 答え辛いな……。 「で、でも……まあ、手段の一つではあるかもな。 男はみんな、少なからずそういう服を好んでるわけだし」 「ねー? 男子の太鼓判貰っちゃったよー」 そりゃあいきなり女子が色っぽい服で現れたら驚きはするが……一方で内心喜んでしまうのが男の性だ。 それは変人の羽瀬であっても言えるはず。そういう意味で、晦の意見はそこまで的外れではない。 「そっかぁ、なるほどねぇ……。 でも、セクスィーな服着ろって言われても そんな服持ってないし……どうすればいいんだろ」 「うっふっふー♪ それはもちろん……」 「え……」 「あ……え、えっと……わたし達は部活があるから……」 「え…………?」 「筮……ま、頑張りなさいよ」 「えっ…………!?」 「たっぷり、楽しんじゃってねー」 「えええええええええっっ!!?」 「みそ……そんな無責任な……」 晦のヤツ、ああ見えて結構Sなのか……!? 「という事で、お着替えイベントパート2ですわー!」 「うえ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!?」 またしても、ここにやって来た。 「筮さん。どうですか、サイズの方は」 「スースーする! 寒いっ! 肌色多いーっ!!」 「まあ……! これは楽しみですわねぇ……♪」 悪そうな笑みを浮かべる彬白先輩。相変わらず楽しそうだ。こういう趣味があるのだろうか。 「さて、ではそろそろごかーいちょーのお時間ですわ」 「うう、で、でも那由太もそこにいるんですよね!? これ……男に見られるとなると……」 「何言ってるんですか。男性を落とすために試着して いるんですのよ? 那由太君にもしっかり見てもらって、 男性の意見を聞かなくてはいけません」 「それは……そうですけどぉ……」 「というわけで……四の五の言ってないで、 ごかいちょーです事よーーーっっ!!」 「ひーーーーっ!!?」 「うひょーですわーっ!!」 「……っ!」 こ、これ……服なのか……!? なんつーか……むしろもう、下着……!? 「那由太見んなーーっ!!」 「そ、そう言われても……」 と言いつつ俺の方から目を背けてしまう。 それくらい、“見てはいけない感”満載だ。 「うふふ……お似合いですわ、筮さん。 先日のメイド服やゴスロリもなかなかでしたけど…… こちらも素晴らしいですわねぇ」 「うう……これ違う、絶対違う~……」 今回は俺達三人だけなので、衣服のチョイスは全て彬白先輩にやってもらった。 一応……この人には『女子力高そうだから』という理由で協力してもらっているのだけれど。 「ああ……二の腕……首筋……お腹……太もも……。 どこを見ても綺麗な肌ですわね……うふふふっ♪」 どう見ても楽しんでる。どうしてこうなった……!? 「こ、こんなの洋服の範疇を超えてますって! これ着て街中歩くなんて絶対無理! 好きな人に見せつけるなんて絶対無理ーっ!」 「あらあら、筮さんは普段、露出度の高い服を 着たりしませんの?」 「そりゃあ……まあラフな格好ばっかなんで…… 腕出したり足出したりしてますけど……。 短パンにタンクトップとか……」 「でもこれ、そういうのと全然違いますってばぁっ!! なんかこう……エロい! エロいですーっ!」 「うふふ、それはいい事ですわ。 男性を魅了するのを目的としているのですから、 性的な方が好ましいに決まってます」 「せっかく綺麗な身体してるんですから…… 見せないと損ですわよ? 切れ味のいい日本刀も、 定期的に研がないと錆びついてしまいます」 「あ、あたし別に……自分の身体を そんな目的で使うつもりは……」 「手段を選んでる立場じゃないんですのよ? 持ってる武器を全部使って相手を振り向かせるくらいの 意気込みがありませんと」 「うう、た、確かに……」 「という事で、告白の際は是非その格好で♪」 「やっぱ無理ーーーっ!!」 「では那由太君。男性として、判定をお願いします」 「ナシで」 「ほらーーーっ!!」 「あらら……意外なお答えですわね。 何がいけなかったんでしょうか……」 「いや……いくらなんでもこれは……」 「いけませんか? 胸も強調されて、お股も際どくて、 ドエロいセクスィー加減だと思いますが」 「だって……もうはみ出ちゃってるじゃないですか」 「え゙……?」 「……どことは言わないけど」 「ゔ……ゔゔ……」 「見んなバカーーーっ!!」 さて、いいアドバイザーを求めて昇降口までやって来た。 次に見つけた人物は―― 「あ、メガだ」 あんまり期待出来そうにないヤツだ。 「あいつはスルーで」 「うむ」 と行きたいところだったが……。 「夜々萌さんっ!」 メガの彬白先輩レーダーに引っ掛かってしまった。 「なにやらうだつの上がらないような連中を取り巻きに してますけど……付き合う友達は選んだ方がいいですよ」 「んだとこの! なんちゃってヤンキーめ!」 「ま、まあまあ、筮さん、落ち着いてください……! せっかくですし、メガ君にも聞いてみましょう」 「えー、こいつですかー? こんなヤツの意見なんて聞いても、 意味ないと思いますけど」 「んだよ、バカにすんじゃねえ。 こう見えても結構頭いいんだぞ俺は」 そう。実はこいつ、それなりにテストの点数は高かったりしてるのだ。 まあサボりによる出席日数の少なさから、成績は悪いみたいだけど……。 「勉強の話じゃないから。飯槻には特に縁のない話」 「気になるじゃねーか。話してみろよ」 「男の人からみて……女性からどんな風に告白されたら 嬉しいですか?」 「夜々萌さんからでしたら、何言われても嬉しいでっす!」 「そうじゃなくって! もっと一般的な話!」 「はー? 知らねえよんな事」 「ほれみろ。やっぱりこいつ使えない。 行きましょ、夜々萌先輩」 「うーん、質問が難し過ぎたかもしれません。 もう少し構ってあげましょう?」 構ってあげる、ときたか。 「では……メガ君は、女性とお喋りしていて、 どういう発言をされると嬉しいですか?」 「夜々萌さんとのお喋りでしたら、 どんな話題でも嬉しいでっす!」 「だから! そういう事じゃないんだって!」 「カリカリすんなよ……モテねえぞ」 「むっか! あんたに言われたくないわ!」 「例えばさ、優しい言葉をかけられたら嬉しいとか…… 頼りにされたら嬉しいとか……そういう事って あるだろ?」 「女子のどんな言葉が男子を喜ばせられるか を聞いてんの!」 「けっ! エロい事でも言えばいいんじゃねーの?」 「はぁ…………?」 「エロい……事……?」 「まあまあまあまあっ!!」 なんだか……。 とっても……。 嫌な予感……。 「エロい事ですか! エロい事ですわね!?」 この人の……スイッチが入ってしまった気が……。 「あ、あの……夜々萌先輩……?」 「わかりました。男性の貴重な一意見として、 その考えを尊重したいと思いますわ!」 「今回のは……さすがに参考にならないというか……」 「という事で筮さん。訓練開始ですわーっ!!」 「やっぱりーーーーーっっ!!」 「…………??」 「さあ、人のいない場所を選びました! ここでしたら存分に発声練習出来ますわ!」 「あのー……夜々萌せんぱーい……」 「早速、エッチな言葉を口にする練習をしましょう!」 「ちくしょう……飯槻のやつ、覚えてろよ……!」 こうなった彬白先輩はどうする事も出来ないとわかっている筮は、ここにはいないメガを糾弾する他ない。 「というか……何をもってエロいって判断するんですか?」 「それはもちろん、那由太君のあそこの膨らみ具合ですわ」 「んなっ!?」 「ちょ……先輩、直接的過ぎっ!」 「当然の事です。男性を欲情させるための言葉選び ですのよ? それが届いているかどうかを調べるには、 股間事情に問い質すのが一番ですわ」 「で、でも……そんな……」 顔を真っ赤にして目を泳がせる筮。 俺も同じだ。さすがに恥ずかしい。 「安心してください。なにもズボンを脱がせて 細部まで反応を確かめるような真似はいたしません。 あくまでズボンの上から……ですわ」 「ぜ、全然安心出来ないんですけど……」 「では……筮さんは私の考えるエロエロワードを 那由太君に向かって言ってみてくださいませ。 那由太君は興奮したらそれを股間で示してくださいな」 「我慢したらいけませんわよ? まあ……我慢なんて出来ないでしょうけど……ふふふっ」 なんだその邪悪な微笑みは……!?昨日の事もあるから、全然ジョークになってないぞ!? 「さて、では始めましょう。 まずは……ごにょごにょ……」 俺に聞こえないように、筮に耳打ちする彬白先輩。 すぐに筮の顔が赤くなっていく。さぞ恥ずかしい言葉を聞かされているのだろう。 「う、うう……そんな事言うんですかぁ……?」 「まだまだ序の口ですわ。さあ、どうぞ」 「う、うう……はい、わかりましたよぉ……」 「え、えっと……コホン。 だ、旦那様……あたしの事、好きにしてください……!」 「あらーっ、可愛らしいですわねーっ♪」 「はぁ、はぁ、ぜえ、ぜえ……! な、なにこの……言った後のやっちまった感は……!」 「なんですか今の旦那様ってのは」 「うふふ、若妻をイメージしてみたんですの。 若妻……男子は皆好きですわよね?」 「どういう偏見ですか!」 いや、まあ好きですけども。 「で……どうなのよ那由太。 男として……今の言葉、嬉しかったわけ?」 「う、うーん……」 嬉しかったかと言われても……。 「ズボンを見る限り……別に……といった様子ですわね」 「あ、あんまりそんなとこ見ないで下さい……!」 「そこを見ないと判定出来ませんわ」 その判定方法がいまだに納得出来ないんだ! 「ま、今のはほんの小手調べ。 次は少し本気を出してみましょう」 「ええ……今ので十分恥ずかしかったんですけど……」 「まだまだこれからですわ。さあ、お次はこれです。 ごにょごにょごにょにょ……」 「は、はーーっ!? なんですかそれぇっ……!?」 「これくらい大胆な方が男性の下半身に響くのです。 さあ、自信を持って」 そう言って筮の背中をポンと叩く彬白先輩の表情の無責任っぷりったら……もう…………。 「うう……やらないと終わらないし……。 わ、わかりましたよぅ……くそぉ……」 観念した筮が、深呼吸を終えて口を開く。 今度はどんな言葉が飛び出てくる事やら。 「えっと……コホン。では……」 「――ぁ、あたしのあそこ……もうトロトロなのぉ……! だから……那由太……ちょうだい……?」 「――っ!」 こ、これは…………!! 「ぷはーっ! はぁ……はぁ……あー恥ずかし。 っていうかなんで相手の名前が那由太なんですかぁ!?」 「うふふ。その方が那由太君喜ぶと思って」 「あたし別にこいつを喜ばせたいわけじゃ……!」 「ですが……ほら。効果はあったみたいですわよ?」 彬白先輩が指を差した先は……。 「……あ゙」 「おお、ホントだ」 突き上がった膨らみが……。 「み、見るなああ!!」 「うふふふふっ♪ やっぱり男性はこういう言葉に弱いみたいですわねー」 「こんなもっこりされると……反論のしようがない……!」 「筮、そんなにまじまじと見るなってば!」 「え? あ、ごめん……つい……」 俺も筮も恥ずかしがる。なんだこの状況は!? 「では、もっとレベルの高い言葉を選んでみましょう。 ごにょにょにょごにょにょん……」 「ななな、なんですかその卑猥な言葉は……!? そんなん無理ですってばあ!!」 「何を戸惑っているのですか? 現に先ほど、那由太君の 身体でエロい言葉の破壊力を証明したはずですわよ?」 「男性を落とすためには、これくらい過激な方が よいという事です。さあ、開き直って口にするのです!」 「うひぃ……なんであたしがこんな目に…………」 恨み言を呟きつつ、筮が吐き出した次の言葉は―― 「……コホン。では……いきます」 「あぁん……那由太のズボンの中、あたし見てみた~い♪ 勃起したそれ……生で見てみたいの~……」 「お願い……今すぐズボン脱いで……? 立派に勃起した あ・そ・こ……あたしに……見せてぇ……? ね?」 「ぐっ…………!!」 なんてこった……! こんな筮……初めて見た……!なんでちょっとノリノリなんだよっ……!? ってか、これは……正直、かなり……! 「ぶはーっ! は、恥ずかしーーーっ!! やってらんねーーーっっ!!」 「ですが筮さん! 効果抜群ですわよ! ほらほらほーらっ!」 「って……うおっ!?」 自分でも驚くくらい……勃っちまってる……!! 「ああもう那由太! なんであんたはあんたで 勃たせちゃってんのよーっ!! ばかーっ!!」 「そ、そう言われても……仕方ないだろーっ!?」 「うふふ……先ほどの言葉のどこがお好みでしたか? “あ・そ・こ”……の溜めかしら? それとも最後の“ね?”……かしら?」 「し、知りませんよっ! っていうかなんでまた俺の名前なんだよ!」 「だって夜々萌先輩がそう言えって……。 い、言っとくけど、別にあんたのあれが 本気で見たいわけじゃ…………」 「と言いつつ、視線はしっかりズボンのテントを 捉えている筮さんなのでした」 「おい筮っ!」 「だ、だってぇ……仕方ないじゃんか……! 男子のあれがそんなもっこりしてるのなんて、 初めて見るし……うう……」 筮はその手で赤面顔を隠しつつも、指の隙間から俺の股間を凝視している。 「うふふ……可愛いですわ、筮さん……。 初心ですのね、処女ですのね、純心で純潔ですのね♪」 「う、うっさいですーっ! ……ああもう、恥ずかし過ぎ!」 全面的に同意見だ。 まさか俺までこんな辱めを受けるとは……。 「さて……では最後です。一番ヤバめなのいきますわよ」 「もう……勘弁して……」 「果たしてどこまで声に出せるか……。 もしかしたらピー音だらけになってしまうかも しれません……」 い、いったいどんな言葉を言わせる気なんだこの人は……! 「うふふふふ……さあ、耳を貸してください……。 ごにょごにょごにょにょ、ごにょーんにょ」 「――ひっ……」 「ごにょにょにょにょ…… ごにょにょにょにょにょにょ…… ごにょにょにょにょ……」 「~~~~~~~っっ!!」 「――以上ですわ。ふう……。 さすがに私も……いくら耳打ちとはいえ、 今の言葉は恥ずかしいものがありますわ……」 「ですが、これも筮さんで遊ぶ……もとい、 筮さんの恋を成功(性交)に導くため! さあ、元気よく言ってみましょう!」 「い…………いえ、……いえ…………!」 「言えるかーーーーっっ!!」 「あはん♪」 「ひ~~~~んっ! おーぼえーてろー!」 「あ……行っちゃったよおい……」 あの戸惑いよう。 彬白先輩……筮に何言わせるつもりだったんだろう。気になるな……。 「うふふ……そんなに気になりますか?」 「き、気になりませんっ!!」 その後、逃げ出した筮を捕獲して、再び女子力向上のためのリサーチを続けたのだった―― 「うう……ううう…………」 まだ落ち着きを取り戻せない筮と一緒に、三人で帰寮する。 まあ、筮の動揺は無理もないだろう。なにせ今日は色々あったからな。 「今回はやたらとエロい展開が多かったような……」 「それだけ性的な要素というのは、 恋愛において重要だという事ですわ」 「でも……めっちゃ恥ずかった……!」 俺だって恥ずかしかった。 筮のエロい服とか、エロい言葉とか……。 役得ではあったが、背徳感でいっぱいの時間だった。 「ふーむ……恥じらいも純情可憐な乙女のようで 可愛らしいですが……もっと積極的になりませんと、 男性を落とす事は出来ませんよ?」 「でも……恥ずかしいもんは恥ずかしいんですって……」 「それでは事態は好転しませんわ。 無理矢理キスするくらいの度量がありませんと」 「き、きききき、キスっ……!? キスって…………!!」 「好きな人を振り向かせるためには、それくらいは……」 「いきなりキスとか絶対無理ですって……! 夜々萌先輩、 他人事だと思って無責任な事言わないでくださいよー!」 「無責任だなんて……それくらい容易いですわ」 「え……?」 「ご覧あそばせ……ほら。 ――ちゅっ……」 「んぐっ……!?」 突然、彬白先輩が俺の唇を塞いだ。 「んちゅ……ちゅる、ちゅるぅ……んちゅぶっ、 ちゅれろぉ……れろぉ、ちゅりゅぅ…………!!」 「んちゅ……!? ちゅ、ちゅっ…………!?」 は……? これ…………舌…………!? 「ちゅぷぅ、ちゅるる、はむちゅ……ちゅぅ……! ぴちゅ、ちゅっぷ……ちゅりゅ…………!」 「な…………ななな…………!!」 「――ぷふうぅ……はぁん……。 ね? 見てくださいましたか、筮さん。 このようにしますのよ」 「な、なな……なな…………!」 「はぁ…………はぁ………………」 あまりに突然の事で、抵抗すら出来なかった。 口を開放されて、ようやく現実に戻される。 俺……筮の見てる前で……彬白先輩とキスを…………。 「――いい加減にしてくださいっ! 何やってるんですかっ……!」 「あら……」 「人前で……外で……き、キスだなんて……! 非常識にもほどがありますっ!」 「……二人がそういう関係なのは文句ありませんけど……。 でも……そういった事は誰も見てないところでこっそり とやってください」 「ご、誤解だ筮……! 俺達は別に――」 「…………最低」 「筮…………」 行ってしまった。軽蔑の言葉を残して。 「あぁん、筮さんってば、ほーんと恥ずかしがり屋さん ですわねぇ……ふふっ、だからこそからかい甲斐が あるわけですけど……」 「彬白先輩……なんであんな事したんですか」 「はて? あんな事……とは?」 「キスですよ! 筮の見てる前で……! おかげで誤解されちゃったじゃないですか!」 「――嫌だった?」 「……っ!」 これだ……! この瞳……。 魔女の……瞳…………! 「俺は……こういう事、するために…………」 「…………那由太君」 「筮の恋愛に……協力する事だけを考えてて…… 先輩の事は……俺は……なんとも…………」 「――うるさいですわよ」 「………………」 秩序が、混濁する。 あの時のように……前後関係が、因果関係が崩壊し……。 全ての事態が、事後報告になる―― 「筮さんの言う事も一理ありますわ。 あの子……こう言ってましたわね」 「“誰もいないところで、こっそりと”……。 んふふ、その通りかもしれません」 「う…………あ…………」 「那由太君。今日もやりましょう。 ここで始めましょうか」 「あぁ…………うぁぁ…………」 「期待してたんですの? 昨日私とセックスして…… 今日も出来るかもしれないって、密かに待ち望んで いたんですの?」 「うあ…………ぁぁっ…………」 「………………」 「…………はい」 「ふふっ。いい子ですわね」 「そんないい子には……ちゃんと餌付けしてあげませんと。 お姉さんがしっかり面倒みてあげますわ……」 「ふふふふっ……んふふふふっ…………!!」 「あ………………?」 まただ……。 この前と同じ……。 気付いたら、別世界なんだ……。 「んふふ……今日も可愛らしいちんぽですわねぇ……。 こう……んっふぅ、虐めたくなっちゃうような……」 「那由太君……今更ですが……確認しておきますわ。 私に……ちんぽ、虐められたい……?」 「………………」 「…………はい。虐め、られたい、です……」 渇いた唇が、自分の意志とは無関係に勝手に動く。 そもそも、意志なんて無いんだ。 なぜかわからないけど、俺はこの場に立っていて、彬白先輩に導かれて、彼女の言葉を全て受け入れて。 こうなった事に、自分の能動など関与していない。ここがどこかわからないし、彼女の意図も知らないし、彼女が何者なのかわからないけど……。 「んふっぅ……あっはぁぁ……いい子ですわね……。 ほーんといい子ぉ……」 「私の思い通りに動いてくれる……可愛くて素直な、 操り人形……。んふふふっ……♪」 一つ訂正。 彼女が何者なのか。 ペニスを握るその手つきから、大方予想出来る。 彼女はきっと、魔女。 「この人形を虐めるのが、どれだけ愉快な事か……。 んはぁぁ……今日も……楽しませていただきますわ……」 やはりきっと、魔女。 「まずは焦らしプレイから。 んふふ……おちんぽ……切なくさせてあげる……」 「――はぁぁぁぁぁ…………! あっはぁぁぁぁぁぁ…………!」 ドロッドロの濁った何かが、ペニスに覆い被さった。 「はぁぁぁぁぁぁ…………んっ、はふぅん、はぁぁっ! あはぁぁぁぁぁ…………はああああああああ……!!」 魔女の吐息。 淫靡で穢れた、劣情の気体。 そんなものを、彼女は吐き出せるんだ。 「んはぁぁぁぁぁ……どう? あったかいですわよね? 私の息……もわもわで、むんむんで…… 気持ちいいですわよね……?」 無色透明で、甘い匂いのする息。 普通の人間が浴びたら、たちまち理性を失ってしまう毒ガス。 茫然自失となって、抗う気力を忘れてしまう悪性の媚薬。 「おちんぽの反応を見てたらわかりますわ……。 ふふっ、可愛らしい勃起ぃ……♪ 私の息だけで……こんなに期待しちゃって……!」 「はぁぁぁっ……はぁぁぁっ…………!! はあっ、はあっ、はあっ………………! すぅぅぅぅぅ――はあああああああああっっ……!!」 ガラス窓を曇らせる勢いで。寒空の下、白い息を吐き出して楽しむ子供のように。 大きく吸って、大きく吐き出した。男の性を刺激する、悪魔の瘴気を。 「ふーっ……ふーっ……んふふ、ふー…………! ほら、涼しい……? あったかいのと涼しいの…… どちらがお好みかしら……?」 「どっち、も……気持ち、いい……です……」 「ふー…………ふー…………あはぁん、そう……。 いい答えですわ…………ふー…………ふー…………」 ロウソクの炎を消さないように揺らす。そんな繊細で上品な細い息遣い。 先ほどのむわっとした生温かい息とは違う儚さ。それがまた、艶めかしくそしていじらしい。 「ふー…………ん、ふー…………。 はぁん、おちんぽ……ぴくぴくって……ふー…………。 んふぅん、勃起、してますわぁ……♪」 「きっと……おまんこ入れたくて……まん肉の感触 期待して、情けなくむくむく勃起しちゃったんですのね? ん……ふー…………素直なちんぽ……♪」 「ねえ、那由太君……誰のおまんこに入れたいのかしら? 言ってごらんなさい……ほら、ほぉらぁ……ふー……」 「彬白、先輩、の……おまんこ、に、入れたい、です……」 自分から言ってるのか、それとも言わされてるのか。頭が働かないので、判別出来ない。 この声は、自分にとっては一種の“現象”だ。“そうあるもの”として、客観的に捉えている自分がいる。 「そう……私のおまんこに入れたいんですのぉ……。 ふふふっ……こんなブリブリに勃起したちんぽ…… おまんこに入れたら、さぞ気持ちいいんでしょうね……」 「でも……入れてあげないの。どうしてだかわかる?」 「はい……わかります……」 「答えてごらんなさい」 「俺を……虐めたいから」 この会話も……全て、一つの“現象”……。 「ちゃんとわかってるようねぇ……。 いいですわぁ……虐めてあげる……。 後輩ちんぽ……お姉さんが優しくぶっ壊してあげる……」 「あなたは可愛い男の子として……私に屈服しなさい。 先輩の手捌きにひーひー言いながら、情けなく ちんぽ快楽に敗北しなさい……!」 「私に愉悦を与えなさい……! 私を楽しませなさい、気持ち良くさせなさい……!」 「私のオモチャになりやがれですわぁっ…………!!」 「んあむぅぅぅ…………!!」 「くっ……ぐあっ……!?」 目から、全身の毛穴から、火花が飛び散る――! 「あむあむぅ……んむぅ、んちゅむぅ……! あむぅん……はむちゅ、ぴちゅむぅ……!」 圧倒的な快楽。 これはダメだ。これはマズい。 こんなの味わったら、間違いなく堕落の一途だ。 「んひひぃ……ちんぽ……舐めてもらえると 思いましたぁ……? あむあむぅ……」 「そんな事……してあげませんわぁ……! あなたみたいなオモチャは……玉舐めがお似合い……! フェラはおあずけですの……んむぅ、ちゅむぅ……!」 玉袋が、温かなまどろみに包まれる。 そのせいで、外気に晒され続けている陰茎の、なんと肌寒い事か。 「はむはむ……んっ、金玉……はふぅん……! 咥え甲斐がありますわっ……あむっ、くちゅむぅ」 「玉袋の中にコリコリした舌触りを感じます……! これ……あはぁぁ……精巣……♪ はぁっ、 丸っこくって……舌の上で転がしたくなりますわね」 「う……っっ!」 「精巣……この中で精子がわしゃわしゃ作られてるんです のねぇ……はぁっ、人体の神秘ですわぁ……! あむ、はむちゅぷぅ……んむちゅっ……!」 「この精巣、なかなか歯応えありそう……! このまま……あむっ、奥歯で……噛み砕いたら、 さぞ楽しいんでしょうねぇ……あむくちゅぅ……!」 「はぁっ……はぁっ…………!!」 「んっ、くちゅむ……まあそれは……今度にしてあげます。 今ここで生殖機能破壊して……可愛いオモチャを手放す つもりはありませんので……んふふ……あふむぅ」 「でも私、虐める気は満々ですわよ……? んっふぅ……あむはむぅ、くちゅむぅ……!」 陰嚢を粘膜に覆われるという、体験した事のない刺激。 官能的過ぎだ。人間が知っちゃいけない甘美に違いない。 「んちゅむぅ……この……玉皮……引っ張って みたくなりますわねぇ……ちゅむぅ、ぴちゅむ……!」 「だるだるの玉金……伸びきった金玉袋……! 私に虐めてもらいたがってるようにしか見えません……。 んふ、ふふふ……んちゅむぷぅ……!」 「あぁぁむ…………ちゅむぷ~~~~~~~っっ……!!」 「くあっ……あっ……くっ……!!」 未知の吸引に、脳が揺れ、身体の芯がスパークする。 何かが何かを引っ張っている。それらの正体はわからない。 刺激というデータだけが、俺に送られる。気持ちいいという反応だけを返信する。 「んむ~~~~~~ん…………! ちん皮ぁ……はふぅ、いい伸びっぷりですわぁ……!」 「んっ、ちゅむぅ……ぺっぺっぺっ……! ちん毛が舌に引っ掛かりやがりますけど…… まあ、それくらいは我慢してあげますわぁ……」 「なにせ……後輩の玉金虐められるんですもの……。 細かい事は言いっこなし……! 欲望のまま…… ちんぽ虐め続行ですわぁっ……あっはぁっ……!!」 寂しがってる陰茎が、彼女の細い指に扱かれている。 本当は口の中に突っ込みたいが……それは許されない。なぜか本能的にわかる。 だから、この手コキだけで十分だ。この快感だけで、ペニスは満足出来る。 「んむぅ、あぁぁむぅ……! んふぅ、ちん皮甘噛みされながら勃起だなんて…… なかなかいい感じの無様ちんぽですわねぇ……」 「玉フェラが気持ちいいんですの……? それとも、ちんぽ手コキが気持ちいいんですの……?」 「どっち、も、で、す」 「んっふぅうん……。オモチャらしい答えですわね……。 私のちんぽ虐めも、調子付くというものですわぁ……。 あむあむぅ、くちゅっ、ぴちゅむぅ……」 そこに快楽があるという事だけは、判明しているんだ。 だから、俺はそれに従う。今、何もかもが消失してしまっている俺にとって、快楽だけが唯一の拠り所なのだから。 「あむ~~~……んむっ! あむ~~~……んむっ! あはぁぁ、ちん皮ぁ、玉皮ぁ、引っ張って伸ばすの、 楽しいですわぁ、あっはぁっ……!」 「勃起ちんぽ扱きながら、玉金レイプ……! 素晴らしい愉悦ですわね……はふっ、んちゅむぅ……! いい気分ですわ……あっはぁっ……ちゅずむぅ……!」 「はぁ……はぁ……はぁ…………!」 「んふふ、玉フェラするたびに、ちんぽがブルブル震えて 勃起していきますぅ……あむあむぅ、むちゅむぅ……! バカ正直なちんぽですこと……あはっ、ちゅぷむ」 「くっ……あっ……!」 「んはぁっ……♪ いい声ぇ……! 男のくせに……お姉さんに弱点握られて…… 情けなくおっ勃たせながら喘いじゃうなんて……」 「もぐもぐ……あむちゅぅ、ほぉらぁ……! ここがいいんですのぉ……? この……玉皮越しに 精巣を歯でコリコリされるのが……んふふ、あむあむ」 「うっ……がっ……あっ!」 鋭い刺激。電撃のような迸り。 痛み……というべきだろうか。この快楽の中には、そういった感覚も混ざっているような気がする。 でも、別に構わない。それらを全部ひっくるめて一つの快楽であり、ただの“現象”なのだから。 俺に選択権は無い。 痛かろうが、痒かろうが、もどかしかろうが。ただひたすらに、刺激を受け入れ、魔女の望むままに喘ぐのみ。 「んむぅ……はむぅ、あむっ、ちゅっむぅ、ぴちゅぅ……。 さて……そろそろオシマイにしましょうか……んふっ、 あむあむぅ、ちゅむぅ……!」 「私の口がこんなに間近にあるのに……金玉、こんなに 虐めてもらってるのに……ちゅむ、あむあむぅ……!」 「結局最後までちんぽフェラしてもらえず、手コキだけで 惨めにイカされる……そんな射精でも……あむぅ、 くちゅ……あなたは、いいんですわよね……?」 「イ、キ、た、い、で、す……」 「でしたら、んっ、あふぅん、どうぞぉ……あむあむぅ、 ちんぽ、情けなくイクがいいですわぁっ、あはむぅ!!」 「……っ!」 大口が、俺の陰嚢を大胆に収納した。 その居心地だけで、先端の熱量がすぐに許容範囲を超える。 「あがっ、もがもがぁっ、あがもぉっ、んごもももっ! んちゅぶっ、もぐもぐ、むっぐぐっ、もがががぁっ……」 「ほ、ほら、イっへ、くらひゃいまへえっ、もぐもぐっ、 ひんぽ、ぼっひひんぽぉっ、イヘっ、イヘぇっ……! きんらまフェラで、情けなくイっひまいやがれですわぁ」 「あむあむ、んもごおぉっ、おっごぉぉぉぉぉぉ……!! んぐむむ、むぐぅ~~~~……あむ~~~~~っっ!! んむぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ……………………!!」 「――んきゅっぼぉぅ!! むっ…………はああああぁぁぁぁ………………!!」 「う……あっ……!」 トドメとなったのは、魔性の吐息。 陰部を粘膜でたっぷり温めた後、わざと口から出して冷たい外気に触れさせ……そこに、淫惑な息をかぶせる。 何が何だかわからないうちに、絶頂へと引き上げられてしまった。それほどまでに見事な、悪魔的プレー。 「んっ……んきゅ、きゅぶっ、わぶぶっ……!!? あっ、あはぁっ……精子ぃ、精子が……あふぶっ、 顔に……かかってぇ……あっはぁぁっ……!」 「年下のザーメンっ……! 後輩のちんぽミルクぅ……! この金玉でせっせせっせと作った精子がたっぷり 詰まった、濃厚ちんぽ汁ぅ、顔にかかったぁ、あぁんっ」 出ていくものを止められるほど、器用な身体じゃない。 あらゆるものは受動的に。起こった現象は全て事後承諾。 無能な身体では、射精のタイミングも、その飛ばし先も、自分で決定出来ない。魔女のご機嫌に従うだけだ。 「んっ、ちゅむ……んっ、ごっくごっくごっく……! あはぁあ……いい感じの濃さですわぁ……♪ 金玉……しっかり働いているようで……感心感心」 「んちゅるぅ……れろぉぉんっ、れろれろっ、えろぉんっ。 はふぅ……搾りたてのちんぽミルクの味は、最高ですわ。 年下ちんぽとなると、格別です……れろぉんっ」 顔に付着した精液を、長い舌を廻して舐め取る彬白先輩。 その舌はまるで何かの生き物のようで。淫靡なその仕草すらも、俺にとっては威嚇に思えた。 「んふふ……こんなに射精して……。 また先輩にイカされてしまった気分はいかがかしら?」 「あり、がとうご、ざい、ま、した……」 「ちんぽ虐められてお礼だなんて…… 男として最低に情けないですわよぉ?」 ――最低。 聞いた事ある言葉だ。 どこで聞いたんだっけ……? 「でも……その最低っぷりがいいの。 楽しくて、素直で……私にぴったりのちんぽだわぁ」 ところで、関係無い話だと思うけど。 確か……筮を怒らせた気がする。 「あぁん……! 後輩ちんぽ……年下ちんぽ……。 私の可愛いオモチャちんぽぉぉ……あっはぁっ……!」 謝らないと。筮はどこに行ったんだろう? 「もっともぉぉぉぉぉっと…………!! 虐めて差し上げますわ……。これからも、 私のちんぽ虐めを楽しみにしておく事ね……」 でも……俺、何したんだっけ?どうして筮は怒ったんだっけ? 「そのちんぽは私のもの……。私だけのオモチャ……。 それを使って、明日は何してやろうかしら……」 「んふふ……んふふふふぅ…………!! んひひひひひひひひひっ…………!!」 「はい、ご褒美の飴ちゃん♪」 ああ……口の中に甘い味が拡がる。 誰かに蹂躙されたんだ。俺の口内を、舌を。きっと筮の目の前で。 誰……って。決まってる。 この魔女だ。 彼女が……俺の唇を、筮の琴線を、股間の欲望を。 全て、刺激するんだ―― 「はぁ……」 シャワーで汗を流したのに、全然すっきり出来ない。 「なんだよ……あれ……」 あの二人の、キス……。 なにも、あたしの前でする事無いじゃん。彼氏いない女に見せつけたいってわけ……? 夜々萌先輩……もっと常識ある人だと思ってた。 那由太も那由太だよ。先輩が相手だとしても、男なんだからああいう事はダメってはっきり言わないと。 ……あんなに流されちゃって。無抵抗に……キス、受け入れちゃって。 「……んっ、はふっ……」 キス……キス…………。 「初めて見たよ……大人のキス」 あんなにちゃにちゃいやらしい音するんだ。 唾液も……滴ってたように思う。 舌が絡み合って……どんな感触なのかな。 あたしがもしあいつとそういう事したら……どんな気持ちになるのかな……。 「う……はうぅぅ~~…………」 やだ、ちょっとムラムラしてきた、かも。 どうしよう。寝るにはまだ早いし。 ……アリっちゃアリ、か。 「シャワー浴びて綺麗になったばっかだけど……」 あんなドエロいキス見せつけられて。 このムシャクシャ、何かにぶつけないと治まらないって。 「……うん。いいよね別に。悪い事じゃないもんね」 いつものように、ベッドに横になって―― 「がっつりオナってやる……!」 あたしは就寝前の日課を始めたのだった―― 「んっ……はっ、ふあっ…………!」 部屋着の上から、局部に手を伸ばす。 おっぱいを揉んだり、あそこを弄ったり。その行為にこれといった躊躇は無い。 「はぁっ……うう、またヤってるよ……あたし……。 んっ、んっ、んっ……くふうっ……!」 思えば、ここ最近は毎日オナってる。 いつからこういう事始めたんだっけ。最初のうちはそんなに頻度多くなかったんだけどな。 「これじゃああたし……オナ中みたいじゃん……! んっ、くひっ、んっ、んっ……はっ、ふっ……!」 「ま、まあ……オナニー、好きだけどさ……。 気持ちいいし……嫌な事忘れてスッキリ出来るし……」 少なくとも、片想いするようになってからは、毎晩自慰に耽っている。 おかずは……妄想。好きな人の……あいつの顔とか、声とか。 「でも……今日はさすがに、いつもみたいなオナニー、 んっ、出来る、気がしないよぉ……はふっ、くぅ!」 だって、あんなの見せつけられて……。 「んだよぉ……はぁっ、はぁっ……! あたし、処女 なんだぞぉ……? はふっ、処女にあんなエロいキス 見せたら、んっ、いけないんだぞぉ……?」 「あの二人……普段からあんな事やってんのかな……! 誰かの見てる前だろうが……キスしたくなったら、んっ、 舌出し合って、べろちゅーして……っっ」 「そんなの、いけない事だよ……はふっ、んっ、 バカップルにもほどがあるって……くふっ、あっ、あっ」 あたしはあんな風な恋人にはならないんだから。 あいつと付き合ったとしても、そういう行為は……絶対こっそりと……二人っきりで、落ち着いて……。 だってその方が、人目を気にせず集中して愛し合えるもん。ああいう行為って、誰かに見せるような事じゃないし……。 「んっ、んっ……ふくぅ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ」 いつかあたしも……あいつとそういう事すんのかな。 手を繋いだり……キスしたり……。 せ、セックス……したり……。 「ああんもう……また同じオナネタになるじゃんかぁ……! 今日は……あのキスおかずにしてやるんだから、 あいつの事は考えちゃダメなのっ……!」 油断したらすぐ脳内に顔を覗かせる。 それだけ没頭してる大切な人。 「はふっ、乳首……勃ってきた……かな……? コリコリ……んっ、いい感じ……はっ、あぁんっ」 セックス……か。 あの二人もセックスしてた。 付き合ってもう長いのかな。あの時の夜々萌先輩、那由太の扱いにすごく慣れてる感じがして、初エッチって感じじゃなかったけど。 「んっ、つか……教室ですんなよな……! 誰かに見つかったら、はふっ、んっ、 どうするつもりなんだよぉ……あぁんっ」 現にあたしに見つかったわけだし。 セックスといい、キスといい。夜々萌先輩って、したくなったら我慢出来ずにしちゃう人なのかな。 そして、那由太はそういう行為を断れずに全部受け入れちゃう人なのかな。 「んっ、んっ、わ、わかんないけど……はふっ、 もしかして、セックスとか、キスとかって、 そういうものなのかも……はふっ」 あの二人が非常識なんじゃなくって、セックスやキスという行為は、それだけ人を愚直にさせ、周囲の目を気に出来なくなるくらい中毒性の強いものなのかも。 両方した事ないからあたしには想像出来ない。あたしもあいつとそういう事するようになったら、ブレーキ利かなくなるのかな。 教室だろうが、人前だろうが、燃え盛ったらすぐ始めちゃうような人間になっちゃうのかな。 「んくぅ、それも……あひぃ、いいかもぉ……あへぇ」 ……って、あたし何考えてんだろ。 そんなの変態じゃん。 気持ち良さや嬉しさよりも、恥ずかしさが勝るに決まってる。 やっぱり普通が一番だよ。あたしは普通の付き合いに憧れる。 「あいつは……どうなのかな……はっ、んっ……! 変態だけど……エッチい事も、アブノーマルなのかな、 んっ、ううっ……」 でも紳士な時もあるから。あたしの意見、ちゃんと聞いてくれるかも。 「べ、別にあいつがどうしても……人前でキスしたい、 とか……んっ、教室でエッチしたい、とか、んっ、 言い出したら……はふっ、あたしは…………」 「どうしても……んっ、んっ、ホント、どうしてもって 言うなら……ま、まあ……その時は……はふっ、 してやっても……いいかも……んっ、くふっ……!」 そうやって人ってダメになっていくのかな。カップルってバカになっていくのかな。 これじゃあ那由太と夜々萌先輩を非難出来ないよ。あたしも十分変態の素養あるのかもしれない。 「んっ、はふっ、そもそも……あ、あたし…… 毎晩オナニーしてるような女子なんだから…… 十分変態、かもね……はっ、あぁんっ……」 皆こういう事ヤってんのかな。 クラスの女子とか……部活の女子とか……。あの子達、皆こういう事知ってて、ヤってて……。 毎日ヤってるあたしって、別にそこまでおかしくないのかな。 「そういう話、した事無いからよくわかんないけど…… ふっ、くふぅ、皆、実はあたしみたいにオナ中だったら、 ちょっと笑える、かも……」 EDENでは普通な顔して。可愛い顔して。平然として。寮の自室ではドロッドロのオナニーバカ。 女子ってそういうもんなのかもね。ああ見えて皆ヤる事ヤってんだよ、きっと。 「んっ、んっ、んっ……短パン濡れちゃってる……? まん汁……もう来ちゃったのぉ……?」 中にパンツも穿いてるのに。まだ直に触ってないのに。 もう愛液出始めるとか……今日はかなりのハイペースだ。 「んっ、た、短パンに、まんすじのシミ、付いちゃうよ、 くふうっ、こんなにあそこ濡れちゃったら、あふっ、 エッチな線、浮かび上がっちゃう……!」 「あっ、あっ、あっ、こ、ここ……短パン越しに おまんこの柔らかいとこ、指で感じる……! ここぉっ、ここ、ふにふにしてて、ここ好きぃ……!」 「パンツ穿いてても、短パン穿いてても、指でなぞる だけでわかるぅ、まんすじの中、くりゅくりゅして、 あっ、あぁっ、気持ち、いいよっ、ひいっ……!!」 膣裂があたしの指を受け入れ始めた。 布越しだろうが関係無い。大きな口を開けて、刺激を求め始めている。 それに応えないと―― 「んっ……やっぱり……もう、こりっこり……! 乳首……勃起、やばひっ……!」 「んっ、んっ、おまんこも……結構ぐしょぐしょ……! 短パン越しでかなり擦ったから……はふぅん、 かなり、熱くなってるぅ……!」 「パンツの中、もうほっかほかぁっ……! 短パンも、おまんこのとこあったかいシミ 出来ちゃってるし……はひぃ、エっロぉぉ……!」 屹立した乳首を捏ね繰り回しながら、陰裂を指でなぞる。 「はぁっ……んっ、指、吸い込まれてく、んんっ……! めちゃくちゃ濡れて来てんじゃん……! これ、 いつものオナニーより……早いよぉっ……」 普段はもっと時間かかるのに。 今日は……色々あったからな。 あ、でもこないだのオナニーもあっという間にイっちゃった気がする。 あれは……確か、那由太と夜々萌先輩のセックスを、偶然見ちゃった日だ。 「那由太のちんこ、こっそり見ちゃったよ……! あいつのちんこ見るより前に……那由太の…… 勃起ちんこ……見ちゃった……!」 「初めての、んっ、ちんこ、だったな……! ちんこってあんなグロいんだ……あいつのちんこも、 あんな感じなのかな……」 よく考えれば、あたしの初めては全部那由太だ。 初めてのセックスも、初めての男性器も、初めてのディープキスも。 そこには全部那由太がいた。そして相手は全部夜々萌先輩で……あたしはそれを外野から見てるだけ。 なんか虚しい初めてだな。当事者として、全て味わいたかったのに……。 「で、でも……はふっ、ちんこは事前に見ておいて、 よかった、かも……んっ、んっ、あふっ……!」 「好きな人と……いざセックスするってなった時、 あっ、ふあっ、生でいきなりあんなの見ちゃったら、 さすがに、ビビっちゃうよ……はふっ、くっふぅ!」 「初ちんこ……初セックス……覗きだから、あんまり いい事じゃないけど……でも、見といて、んっ、 正解、だったかもっ、んっ、んっ……!」 それに、こうしておかずにもさせてもらってるわけだし。 「つーか、セックスって、あんな乱暴に、ふっ、ふっ、 するものなの……!? んっ、くふっ……!」 「おまんこって柔らかいのに、んくぅ、ちんこあんな 激しく突っ込んだら、おまんこのお肉、傷付いちゃう じゃんか……ふっ、くひぃ、あひぃ……!」 「那由太も……んっ、そういう事考えながらちんこ 動かしなよっ……夜々萌先輩可哀想……んっ、 あんなガシガシしたら、おまんこ絶対痛いって……」 でも、気持ちよさそうだったな。 それくらい激しい方が相応しいのかな。 あたしは……まあ、オナニーの時は割と激し目だけど。でもちんことは太さが全然違うから、比較にならないよ。 「んはぁっ、ちんこの事ばっか考えてたら…… おまんこ、じゅんじゅんしてきたぁ……はへぇっ」 「トロトロが溢れて来てる……パンツも短パンも…… 汚れちゃうよっ、あっ、あっ、あっ……!」 「せっかくシャワー浴びて着替えたのに…… オナ汁塗れになっちゃう……! これもう……んっ、脱ごっかな……」 我慢出来ない。 いい加減、直接弄ってバカになりたい。 「はぁぁっ……あはぁっ、あっ、あっ、あっ…………んっ」 衣服を脱ぐと、火照った湿りが拡散していった。 「はふっ、すごっ、ひ……おまんこ、むわってしてるぅ、 あぁん……はふっ、短パンの中、こんなに熱籠って たんだ……あぁんっ……!」 「んひぃんっ、指、吸い込まれるよ……にゅるにゅるって、 おまんこの中に入ってくぅ、ひぃ、あっ、あぁんっ……」 あたしはオナニーの際、道具は一切使わない。そういうのは邪道だと思うから。 やっぱり指だよね。人差し指と中指を同時に使うのが一番気持ちいいっていうのが、長年の研究の結果。 「こんな、奥まで……ずっぽし入ってくぅ……! 指の根元まで、全部入るっ、ひっ、全部……くっふっ!」 「おまんこ、ホカホカじゃんっ……オナニーでこんな 柔らかくなったの、初めてかもっ、くひっ……!」 「やっぱ、オナネタがいいから、なのかな……ふっ、ひっ、 キス、エロキスぅっ……! あれ、エロ過ぎて…… オナニー捗りまくるぅ……くうっ、んっひいぃ……!」 あの光景を思い出すだけで、苛立ちが蘇る。 同時に、エッチな気持ちにもなってしまうのだ。 友人の非常識な行為に欲情するなんて悔しいし、未経験者として差を付けられたみたいで情けないけど……。 興奮しちゃうんだもん。仕方ないじゃんか。 「あっ、あっ、あっ、あふっ、くひっ、んひぃ……! あたしもキス、したいよぉ……ふひっ、んひいっ!」 「好きな人と、キスぅ、エロいヤツ、舌とか使う、 思いっ切りエロいキスぅ、したいのぉっ、くうぅっ!」 「あの二人が、羨ましいっ、んっ、くひっ、ムカつくけど、 羨ましいんだよぉっ、あぁんっ、あたしも、あんな 大胆なキス……一度でいいから……あっ、あぁっ!!」 そんな欲望も、今の膣の劣情を前にして妨げられてしまう。 どうやらあたしが優先すべき欲はこっち。目先にある、オナニーでの快楽だ。 「んっ、もう、い、イキそう、かも……あっ、あっ、んっ、 オナニー、イク、あっ、あふっ、ひいっ……!!」 「もう、限っ界っ……イキたいっ、我慢出来ないっ! オナニーで、ド派手に、おまんこイキたいよぉっ!!」 身体の火照りに合わせて、指遣いと息遣いが切羽詰まっていく。 瞬間最大風速の時―― 「あっ、あっ、オナニーっ、オナニーオナニーオナニーっ! 気持ちいいっ、きゃふっ、あたし、オナニー好きぃっ、 イク、イクイクっ、オナニーで、イっちゃうっ、ひっ!」 「イクぅっ、も、もう……あっ、あっ、あっ…………んっ! あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ――!」 「んはあっ!! あっ、イクっ! イクっ!! ああっ! 出てる、出てる出てる出てるぅっ!! ああああっ!! あっはああぁぁぁぁああぁぁああぁああっっ……!!」 大きな痙攣が巡って来たかと思うと、同時に大量の淫液がドバっと膣から吹き荒れた。 「あっ!? あっ!? あっ!? あっ!? あっ!? あっ!? あっ!? あっ!? あっ!? あっ!?」 想像以上の量。想像以上の震え。 想像以上の快楽。 「こんなの初めてえっ、あひっ、ひいっ……!? なにこれ、おまんこ吹っ飛ぶっ、ひっ、ひっ、ひっ!! 出過ぎ、お潮止まんなひっ、あっ! あっ! あっ!」 腰の震えが止まらない。それを煽る指が止まってくれない。 狂ったように放たれる淫液の噴水に、あたしはもう、情けなく善がる事しか出来なかった。 「オナニー! オナニー! オナニー! オナニー! オナニーオナニーオナニーオナニーオナニーオナニー!」 「オナニー気持ちいいよぉっ!! オナバカになるうっ! オナニーオナニーオナニーっ! オナニー大好きぃ!! オナニー最高なのっ、オナニー……あっひいいっ!!」 あの時の二人の淫らな口付けを。 あたしと彼に置き換えて、惨めに一人で自慰に耽ってる。 行為中は、そんな哀しさすら興奮の原動だった。 それが、絶頂を遂げて少しずつ冷めていくと―― 「はぁ…………はぁ…………はぁ…………はぁ…………」 「虚しいよぉ…………うぅぅ…………」 無意味さを思い知らされる。賢者モードなんて無ければいいのに。 「もう……こんな情けないオナニー……耐えらんない……。 あたしだって、キスしたい……好きな人とエッチな事 したい…………」 「オナニーで気を紛らわすなんてもう嫌……。 那由太と先輩を……ムカつきながら…… 内心羨むなんて……もう嫌……」 「あたしだって……あたしだって…………っっ」 目に涙が溢れてきたところで、急いで片付けを済ませて布団の中に潜り込んだ。 睡魔に身を任せて、夢の中に逃げて。 それも今夜までにしよう。 これからは、あたしは―― 「――校舎裏、ですか?」 放課後、彬白先輩から開口一番そんな言葉をかけられた。 「ええ、今日はそこで作戦会議を行う予定なのです」 「ですが私、ちょっと用事がありまして……。 申し訳ないのですが、那由太君は先に行ってて もらえますか?」 「は、はい……わかりました」 「筮さんにはもうすでにその事を伝えてありますのでー。 うふふふふー♪」 「……………………」 やっぱり、普通だ。 昨日の出来事など夢だったかのように、平然と俺に接している。 あんな事をしておきながら。筮にあんなキスを見せつけておきながら。 あの人が何を考えているのか、よくわからない。俺と筮を翻弄して、遊んでるだけなのか? ……とにかく、まずは筮だ。昨日の誤解(と言えるかよくわからないけど)を弁明して、信頼を取り戻さないと―― 「……先輩、まだ来てないか」 夜々萌先輩にメールで呼び出され、練習抜け出して走ってやって来たってのに。 大事な話があるから急いで校舎裏に来て欲しい、との事だ。 「話ってなんだろ……」 まあ……十中八九、昨日のアレだろうな。 あの二人の関係を、はっきり打ち明けるつもりなのかな。それとも人前でキスした事を詫びるつもりなのかな。 そういう事なら、黙って聞き入れたい。 あたしとしてもきちんと話して欲しかったし。ケジメを付けてくれるのなら、むしろ大歓迎だ。 「でも、肝心の先輩がまだ来てないんじゃな……」 「あ、先輩……。遅かったじゃないですか」 「え…………」 なんで――? 「おお、四十九か」 「羽瀬……あんたなんで……」 「彬白先輩にここに来るように言われたんだ」 は……? 何それ……? 「さっき先輩、って言ってたな。 四十九も彬白先輩に呼ばれたのか?」 「え? あ、う、うん……そうだけど……」 あ……! もしかして……これ……! 先輩なりのアシスト……!? 「~~~~っ…………!!」 「どうした、四十九。顔が赤いぞ?」 「な、なんでもないっ……なんでも、ない……よ……」 だとしたら……このチャンス活かさなきゃ……! 今しか……無いんだ。 もうこれ以上、外から眺めてるのは嫌なんだ。 あたしも、当事者になりたいんだ。 「……すー…………はぁ…………」 誰もいないし……勇気を出そう……! 「……先輩まだ来てないみたいだな」 「うん……。でも、ちょうどよかったっつーか……」 「……? どういう意味だ?」 「……あんたと二人っきりで……話したい事があって」 「どうした、かしこまって。珍しいな」 「あはは……まあ、ね……」 出来る限り、緊張を隠しながら。 いつも通り。いつも通り。 「話とは?」 「え、えっと……変な事聞くけど、さ。 あんた……今、誰かと付き合ったりしてんの……?」 「なんだ急に」 「い、いいから答えなさいって」 「む……」 心臓の音が、羽瀬の耳にまで届きませんように。 「……いや、そういう事は無いが。 あいにく執筆業で忙しいからな」 「そ、そっか……やっぱ彼女いないんだね」 一応リサーチしておいた事だけど改めて本人の口から聞けて一安心。 「あたしも、なんだ……彼氏、いないんだよ?」 「だろうな。四十九が男にモテるとは思えん」 不躾な発言に思わず手が出そうになる。 「首と腹同時ガード!」 羽瀬も反射的に両腕使って防御体勢に入ってるけど……。 ここはグッと我慢。今はそういう事しちゃダメな時間。 「何……? 攻撃が降ってこない……? 敵陣営の不発か?」 「……敵じゃないよ。 ……あたし、あんたの味方だよ」 「四十九……?」 「あ、あのさ、彼女いないんだったらさ……」 「――あたしと……付き合わない……?」 「え……?」 「~~っ…………!!」 うわー! うわうわうわーーっ!! 言った……! 言ってしまった……! こ、これで良かったのかな……? あたしのあんなにたくさんの気持ち……。長い時間かけて積み上げてきた真っ直ぐな想い……。 今の短い言葉で全部伝わってる気しないよ……! もっとなんか、なんか色々、ちゃんと言わなくちゃ……! 「あ、あのね、あたしはね、今まであんたの事――」 「………………」 ううっ……沈黙が怖い……! 普段から何考えてるかわかんないやつだけど、今ほどそう感じた事ないよ……! どうすれば……いいんだろ……。 どうすれば……あたしの気持ち、端的に、全部、伝わるのかな……。 そうだ―― 一つだけ、方法があった。 わかりやすくて、簡単なやり方。 これで、あたしの想いを―― 「ちゅ……」 「――っ!?」 あたしだって―― あたしだって――――! 彬白先輩の言葉に従って、校舎裏に向かう。 筮にも通達しておいたと言っていた。もう先に来ているかもしれないな。 「……………………」 筮……。 気まずいけど……昨日の事、きちんと話さないと。 彬白先輩がいないのはむしろ好都合かもしれない。俺だってあの人の意図はさっぱりなのだから。 先輩は、俺や筮をおちょくってるような気がする。 筮の恋心を弄んだり……俺を年下の男として軽んじたり……。 さすがに度を越しているように思う。 そんな話で筮と認識を共有したいな……。 ああ…………。 今日も意識が少し曖昧だ……。 口の中が、甘ったるい―― 「……ん?」 前方から誰かが歩いてきた。 あれは―― 「羽瀬……!?」 どうして……? 「お、おい……!」 一瞥もくれず、行ってしまった。 あいつ今……校舎裏から出てきたよな。 どういう事だ……? 「………………」 嫌な予感を止められない。 自然と、早足になってしまう―― いつの間にか俺は、駆け足で校舎裏に向かっていた。 目的地では―― 「あ…………」 物静かな校舎裏の隅で、聞こえてきてはいけない音が一つ。 控え目に、寂しそうに、響いていた。 「筮……」 健気な、泣き声。 「……っ、那由太……?」 筮は―― 俺の顔を確認しても―― 涙を拭く事はしなかった―― 「あたし……間違っちゃった、のかな……」 「だって……したかったんだもん。 羨ましかったんだもん、しょうがないじゃんかぁ……」 ……何言ってるんだ? ……何泣いてるんだ? 「………………!」 さっき、羽瀬がここから来たって事は……! まさか――! 「――っ!?」 なんだ――!? この――突然の――圧倒的な―― 圧倒的な甘味は、なんなんだ―― 「う……おっ……!?」 舌が焼ける……!脳が溶ける……! 俺を構成する全てが、煮える――! 「……皆さんお集まりですわね」 「夜々萌先輩……!」 「いい頃合いのようで……。 那由太君も。筮さんも」 「筮さん、私の応援、ちゃんと役立ててくださいました?」 「告白……上手くいきましたか?」 「あ、あたし……ううっ……」 「あらあらぁ、もしかして失敗してしまったんですの?」 「んっふふふっ……それはいけませんわねぇ……。 あれだけ色んな人にアドバイス受けたのに。 筮さんが不甲斐ないから、全て水の泡ですわ……!」 「男なんてエッチな誘惑したら、簡単なんですのよ? キスとか……ね。ふふふっ!」 「キス……!」 「ふふっ……もしかして、キスはしたんですの? それなのにっ…………ふふっ、そこまでして ふられちゃったんですの!?」 「あーーっはっはっは、それは傑作ですわっ! あはっ、あーーーっはっはっはっはっはっ!」 「……っ!」 「何度も忠告してます通り、男は性欲さえ 満たしてあげれば簡単に堕ちるんです」 「そんなの……嘘。そんなの間違ってる!」 「間違ってませんわよ。だって……ほら――」 「んっ……んっしょっと。 あはぁぁ……出た出た、ちんぽ出ましたわぁ……♪」 「こうやってぇ……ほぉら、しこしこ、しこしこぉ♪ ちんぽを握って……扱いて……男の性欲を刺激 するんですの。筮さん、ちゃんとこうしました?」 「う……あ……」 何してんの……? 何見せてんの……? こんなの駄目でしょ……いくらなんでも……! 「あら、なに初心いていやがりますの? あの時……こっそり私達の情事を覗いていらしたくせに」 「……っ!」 「ふふっ、知っているんですのよ。 扉の隙間からあんなにガン見して……。 そんなに私達のセックスが羨ましかったのかしら?」 「う、羨ましくなんか……!」 「昨日私達のキスを眺めていた時も 同じような眼差しでしたわね」 「そして……今も」 「ひ……ひぃっ!?」 なに……!? その瞳……!? 夜々萌先輩、普段と全然違う……!? こんなに不気味な人だったっけ……!? こんなに……迫力ある人、だったっけ……!? 「処女で臆病で不器用なあなたにとって、 私と“この子”の行為は刺激的過ぎたかしらねぇ」 「でも……いいんですのよ。 見られる分には、私達は一向に構いません。 好きなだけ目に焼き付けてくださいませぇ……あはぁ♪」 な……何が、目に焼き付けて……よ……。 こんなの……見てられるわけない……! 「な、那由太っ、あんたも断りなさいよっ! こんなとこあたしに見られて、何も感じないの!?」 「あ…………ぁぁ…………ぅぅ…………」 「那由太……? なんか言いなさいよ……」 「ふふ……この子は私の操り人形……。 あなたが何を言っても……もう言葉は届きませんわ」 「どういう……事……」 「見ての通りですわよ……うふふ。 あら、カウパー液出て来ましたわね……ふふっ。 ちんぽいい感じぃ……あはぁぁっ……♪」 那由太の様子がおかしい。 目は虚ろで、口は半開きで。 先輩の言う通り、まるで人形だ。意志を持たず、されるがままに弄ばれているみたい……。 「ほら、ちんぽごらんなさい。 こんなに勃起して……我慢汁垂れ流して……。 筮さん、どう思います?」 「う……っ!」 「ふふっ、ちんぽに釘付け……。 やっぱりあなたもメスですのね……」 「あ、あたしは……」 「どうせ私達のキスやセックスをおかずに、オナニーでも していたのでしょう? 一人惨めにまん肉扱いて…… それで独り身の劣等感を紛らわせていたんですのよね?」 「そ、そんな……事……」 「私にはわかるんですのよ。 だって……ほら、今もこのちんぽ見てばっかり」 「あなたは好きでもない男のちんぽであっても、 そうして無意識に目線を奪われてしまうくらい ちんぽ好きなんです、ちんぽジャンキーなんですっ!」 「違うっ!」 「いいえ、違いませんわ。ふられた直後に 違う男のちんぽ見て目を蕩けさせるなんて、 ちんぽバカ以外の何者でもありませんことよ」 「う……ううっ……」 「ついさっき情けなくふられて、その時の傷心はどこへ 行きましたの? 形振り構わずキスまでしたその勇気は どこへ行きましたの?」 「落ち込んで泣いてたくせに、ちんぽ見たら息荒くして。 ちんぽ脳のメスって頭の中単純なんですのねぇ……。 あっはっはっはっはっ!!」 「う、うる、さい…………黙れ…………」 「ちんぽ大好きっ子ちゃん。 図星突かれて声が渇いてますわよ?」 「んふふ……あなたもこの子同様、なかなかに素直で 単純で扱いやすくて……可愛い後輩ちゃんですわねぇ。 んふふ……んふふふふっ♪」 「もう……やめて……」 ……そうだよ、その通りだよ。 あたしはふられた。キスまでしたのに……受け入れてもらえなかった。 その時のショックと、今の急展開で、あたしの頭の中はもうぐちゃぐちゃ……。 なんで告白断られたんだろう?どうして夜々萌先輩はこんな酷い事ばっか言うんだろう?いつから目の前に那由太のちんこが晒されてるんだろう? 今の思考回路じゃ、どの疑問にも答えを見いだせず……。 「ううっ……くぅ……んっ、はぁ……はぁ……ごくり」 理論武装出来ないあたしは、無防備なまま夜々萌先輩の詰りに困憊させられるだけだ。 「……私、別にあなたを傷付けたいわけじゃ ないんですのよ? たった今申し上げたばかり ですわよね? 可愛い後輩、って」 「私は……虐めたいだけですの。可愛い後輩ちゃんを。 じわじわと……責めて、嬲って、追い詰めて……!」 「だったら……もう十分じゃないですか……! あたし……もうこんなに苦しんでるんですよ……」 「ええ、その悔しそうな顔には満足していますわ。 ですから特別に、許可して差し上げます」 「このちんぽ見ながら……オナニーしてもいいですわ」 「は……」 「したいでしょ? オナニー」 「な、なんで……そんな事……」 「いつもしてたくせに、今さら強がる必要ありませんわよ」 「あなたのオカズは、セックスだったりキスだったり…… 全て私から提供されたもの。 オナネタすら私の手の上なんですわよ?」 「う……ううっ……」 「でも今は……ほら、目の前にちんぽがある。生ちんぽ ですわよ? 妄想や記憶の中のちんぽじゃありません。 手を伸ばせば届くところにある……本物のちんぽです」 「これ見ながらオナりたいですわよね? 思いっ切りまんこ掻き毟って、 オナニーバカになりたいですわよね?」 「あたし……そんな、事……」 「うふふ……我慢せずに素直になりなさいな……。 年上のお姉さんの優しいお誘いですわよ……? 遠慮するなんて勿体無いですわ……」 「ほぉら、こんなにちんぽ勃起して。 赤黒く……ぎんぎんに、ぶりっぶりに勃起してるんです」 「これをオカズにしてまん肉引っ張ったら…… さぞ気持ちいいと思いませんか?」 「………………」 頭が……腐敗していく……。 なんなの、この声……。 夜々萌先輩の声が脳内に反響して、反芻して……あたしの判断力を鈍らせる……。 言葉通りに……堕ちていく……。 「もう一度聞きます。 オナニー……! したい……! ですわよね……!?」 「……………………」 「…………はい」 年上の言葉には、どうしても過敏になってしまう。 体育会系の部活では、たった一つ学年が違うだけでも、先輩の命令は絶対なんだ。 だから……夜々萌先輩の言葉に逆らえない。 ……っていう、情けない言い訳。 情けない……か。 毎晩情けなくオナって。 さっき情けなくフラれて。 今情けなく理由付けして。 あたし……いつからこんなにカッコ悪くなったんだろ―― いつから―― 「んっ……あっ、はぁっ…………!」 自分でも、よくわからない。 何で人前で、屋外で、こんな事……。 「ふっ、んっ……んんっ、くふぅ…………」 夜々萌先輩の声が、あたしの身体を突き動かす。 そんなに言うなら、ヤっちゃっていいのかなって気持ちになって……。 「んっ、あっ、ああんっ……! はぁぁんっ……!」 最終的に、こうなっちゃった―― 「んはっ、あっはぁっ……! そうそう、それでいいんですわよぉっ、あはぁんっ♪」 「あなたは男に恵まれず、惨めにオナる事しか出来ない 子なんです……。ちんぽ入れてもらえないから 代わりに指入れるしかない、可哀想な子なんです……」 「今ここで、貴重な生ちんぽを前にしてオナニー我慢する なんて……オナバカの名折れですものねぇっ……? 素直にオナニーするのが正解ですわぁ……」 「は、はひ……んっ、あたし……んっ、んっ……処女、で、 んっ、今も男にふられて……はふっ、んっ……ちんこに、 縁が無い……可哀想な、女、ですっ……!」 「だから、こうして、んっ、あっ、あっ、オナニー、 するしか、ないのぉ……はぁんっ、あたしのおまんこ、 オナニー専用まんこなのぉ……んんっ……!」 何言っちゃってんだろ……。 なんか、自然と言葉が口をついて出てくるんだ。恥を捨てて、開き直っちゃってるのかな。 「んふぅ……那由太君ほどではないにしろ、 筮さんもかなりキマっているようですわねぇ……。 そんなに飴を与えた記憶はありませんけど」 「はっ……はっ……あ、飴……?」 「ええ。そうです。飴ちゃん♪ あれ、お薬ですの」 那由太のペニスを握りながら、夜々萌先輩は平然と不吉な言葉を続けた。 「理性を蝕む薬品ですわ。効き目のほどは……ほぉら。 “この子”を見ればご覧の通り……!」 「口から涎を垂らしながら、情けなくちんぽを 勃起させています。私の手コキを受け入れる オモチャに成り下がったのです」 「なんで、そ、そんな薬を……」 「あら、入手経路ですか? そんなの知ってどうするんですの?」 「あなたには関係のない話ですわ。今大切なのは…… 那由太君は薬漬けの廃人となり、私のオモチャと なってちんぽを私に捧げているという事……」 「そして、いずれはあなたもそうなるかもしれませんわね。 なにせ……説得だけで公開オナニー始めちゃうくらい、 脳筋オナ中ちゃんなのですから」 「はふっ、んっ、んっ、んっ、くふううっ……!!」 バカにされた……! 脳筋って言われた。オナ中って言われた。 でも、オナニー止められない。 薬のせいなのか、それともこれがあたしの性分なのか。 わからない。ただただ夜々萌先輩に笑われながら、哀しい自慰に没入していくだけだ。 「んっ、んっ、んっ……ほぉら、ちんぽぎぃんぎん……♪ もっと近付いて見てもいいんですのよ? 生ちんぽ見る機会なんてなかなかないのではなくて?」 「この子は私のオモチャですから、 お触りは禁止ですけど……。 見るだけでしたら、いくらでも許可します」 「あ、もちろんスケベオナニー中に限りますけど。 んふふふっ、ふふふふふっ♪」 「なんで……はっ、はっ、那由太を、そんな目に……」 「以前から気に入っていましたの。 可愛いと思いませんか?」 「だったら、薬漬けなんかじゃなくて…… はぁっ、はぁっ、普通に……恋人として……」 「彼氏とか興味ありません。 対等な恋愛なんかクソくらえですわ」 「私が欲しいのは奴隷。この私の言う事をなんでも聞き、 私の性欲を満たすためにいくらでもその身を差し出す ような、手軽なオモチャ」 「ほら……例えば……んっ、ふぅぅぅんんっ……!!」 「ぁっ……ぁぁぁっ…………がぁぁぁっ……!!」 血管を浮き出させるくらい力を込めて、夜々萌先輩はペニスを握り潰した。 「――ぷはぁぁっ! はぁぁん、どうですかこのちんぽ。 思いっ切り握られて、真っ黒に鬱血してます……♪」 「私にはこれが許される。この子は奴隷で、オモチャで、 私のためだけの存在ですから、文句も言わずちんぽ虐め を受け入れる。こんな後輩ちゃんが欲しかったのです」 「あなたは……はぁっ、はぁっ……っ、 何がしたいんですか……!?」 「何が……って、見てわかりませんの?」 「楽しいんですわ。これ」 「ぁ…………」 一瞬で全てを理解した。 同時にその一言で、完膚無きまでに敗北した。 この人は悪魔だ、魔女だ。 だから勝てない。あたしではこの人を凌ぐ事は出来ない。 言いなりなのは当然だ。彬白夜々萌は……凶悪過ぎる。 「さぁ……もっとオナニーバカになりなさい……。 もっともっと、私を楽しませるんです……」 「もっと……もっと……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……! もっともっともっともっともっとおおおおおおっっ!!」 「あぁぁ…………あぁぁぁぁっ…………!!」 夜々萌先輩の艶やかな声に煽られて。ユニフォームを着崩してしまった。 ユニフォームパンツを脱いで、アンダーウエアのスパッツだけになって上から恥部をさする。 羞恥よりも、先輩の声に堕ちる安堵の方が強くて……。あたしは何も考えず、痴態を晒し続けた。 「あはぁっ……いいわぁ、素晴らしいですわよ、筮さんっ、 これぞオナニー狂って感じの情けなさですわっ!」 「ほら、那由太君、見えますか? 目の前で筮さんが オナってますわよ? あなたのちんぽをオカズにして、 必死にまん掻きしてますわよ?」 「ひっ、ひっ、ひっ、あひいっ、ひっ、ひっ……!!」 「オスとして、もっと筮さんを興奮させてあげませんとぉ、 ほらぁ、ちんぽもっといやらしくなさい……! 勃起おしっ! それぇっ!!」 「がっ……あっ……!」 我慢汁と唾液を、それぞれの口からだらだらと滴らせながら、那由太はその握力に屈している。 それでも何も言わない。ゾンビのような声を呻かせて、屹立を大きくさせるだけだ。 「筮さん、オナニーしながらちんぽ実況なさい。 このちんぽがあなたの目にどう映っているのか、 細かく私に報告なさい」 「んっ、ひっ、ひっ、ち、ちんこ……ちんこっ……!」 「那由太のちんこ……先輩の手の中で震えてます……。 あっ、あっ……亀頭のとこ、真っ黒になって……はっ、 はぁっ、苦し、そう、ですっ……!」 「で、でも……勃起、しまくってて……あっ、あぁんっ、 いやらしい、ですぅ……! 先輩の細い指に包まれた 極太ちんこ見てると、興奮、しちゃいますっ……!」 「いい子ですわねぇ、ほぉんと。ほら、あなたの大好きな ちんぽ……もっと虐めますから、存分に善がりなさい。 痛々しいちんぽをたっぷりとオカズにしなさいな……」 「ふんっ……ふんっ! それっ……それっ! ちんぽ……握り潰してやりますわぁっ! それ、それ、それぇっ、きゃっはあっ……!!」 「……っ、くぁっ……!!」 「ひぃ……ちんこの先からカウパー滲んでる……! 搾り上げられてる……ひぃ……!」 「やらし過ぎ……ちんこぉ、やらし過ぎだよぉっ! あっ、あっ、あっ、オナニー進む、まん掻き 気持ち良くなるうっ、ひいっ!!」 「ほらほら、筮さんっ、私の手に虐められて、ちんぽが 涙目になってますわよっ!? ちゃんとご覧になってっ! ふんっ、ふぅんっ!!」 「はひっ、見てますっ、ガン見してますうっ! それ、エロいっ! 鬱血生ちんこっ、最高の迫力で、 これ以上ないくらいのオナネタですうっ!!」 「だったら今度は自分のまんこ事情を実況なさいなっ! オナバカなんですから、それくらいは出来ますわよね!? オナまん報告で私を楽しませなさいっ!」 「はひっ、あっ、あっ、あっ、あひいっ!!」 「ま、まんこっ、スパッツの上から弄ってますっ……! ここ、割れ目のとこ、もうトロトロで……ひっ、ひっ、 指が、スパッツごと入っていくんですぅ……!」 「あっ、あっ、まん筋、くっきりぃ……! ぴっちりスパッツにまんこの形浮かんじゃってて…… そこを指でなぞるだけで……あひっ、気持ち、いいのぉ」 「スパッツの中にパンツは穿いてませんの?」 「スパッツは……ユニフォームのアンダーウエアみたいな ものですから、サポーター穿く時はあるけど、んっ、 今日は……何も穿いてなくて……」 「だから、まんこ直接触ってるような気分で……はぁっ、 気持ち、いい、んですぅ、あひぃ……!」 指が吸い付く。その吸引が、あたしを加速させる。 ただでさえ狂っちゃってるのに。オナニーの快楽が、あたしをどんどん淫らに堕としていく。 「あはっ、くちゅくちゅいやらしい音が響いてますわ。 スパッツそんなに擦って……いやらしいったらない ですわ」 「はひぃ……あたし、いやらしい、です……んっ、んっ、 はっへっ、あっ、あっ、あっ、あぁん、オナニー、 中毒者、ですぅ……くっひぃ……!」 「いいんですわよ。あなたにはその姿がお似合いですわ」 「さあ、そのままオナニーを続けなさい。 猿みたいにまん掻きして……情けなく イキまくるがいいですわぁっ!」 あたしへの命令の意志力を、その拳に込める夜々萌先輩。 「はぁっ……ぐっ、あっ……!」 握力を高めながら扱き続けるその光景に、あたしはすっかり理性を失い―― 「はっ、うひっ、ちんこ、痛そ、ひっ……んっ、そんな 強く握ったら、ちんこ、潰れちゃうっ、くひいっ!」 「でも、そのちんこ見ながらオナると、物凄く気持ち よくて……あっ、那由太、ごめん、今さらだけど、 あんたのその黒ちんこ、オナネタにさせてもらってるっ」 「ほらほらぁっ! オナニーもっとぉっ! 激しくっ、いやらしくっ、情けなくっ! ほらほらほらぁっ!!」 「ひぃ、手コキに合わせて、あたしも指まんも、 速まるぅ、ひっ、ひっ、あっひいっ……!!」 一帯に淫らな肉音が響き渡る。 あたしの自慰によるものか、ペニスの手コキによるものか、それとも両方か。 「んっ、くちゅくちゅって、まんこ鳴ってるうっ! ひっ、スパッツの中でまんこ火照って…… ひいっ、愛液、出まくってるぅ……!」 「スパッツ蒸れ蒸れぇ、ホカホカぁ……ひぃっ!! 熱いっ、よっ、ひっ、熱いぃ……! もう、おまんこ……限界っ、ひっ、くっひっ……!」 「遠慮せずにそのままイっちまうがいいですわっ! 生ちんぽ見ながら、存分にオナイキしなさいっ! あっはぁっ、んっ、んっ、んっ!!」 「い、イクっ、あたしイキますっ……!! ちんぽオカズにして、イクっ、イクうっ……!! スパッツ潮吹き……しちゃうよぉっ!!」 膝が砕け、足元がふらついたその瞬間―― 「あっ、あっ、もうらめぇっ、まんこイっっクううっ!! あっ、あっ、イクイクイクイクっ、ひいいいいっ!! あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ――――」 「イケイケぇっ!! ちんぽもまんこもっ!! はしたなくイって私を楽しませろっ! 思いっ切り無様にイキやがれですわあああああっっ!!」 「――あっひいいいいいいいいいいいいいいいっっ!!? あひいっ! あひいっ! あひいっ! あひいっ! あひいっ! あひいっ! あひいっ! あひいっ!」 ――衝撃的だった。 あたしの潮吹きと同時に、目の前のペニスも射精を迎えた。 あたしは……生まれて初めて見る射精をオカズにしながら、イっているのだ。 こんな贅沢な事は無い―― 「ひっ、ひいっ!? ちんこイってるっ!! 白いのいっぱい出てるっ! 精液っ、精液ぃっ!! ひいいっ!?」 「射精ドピュドピュ、すごひっ、あひっ! こんないやらしいちんこ、見てるだけでまんこイクぅ! オナイキぃ、お潮吹いちゃってるのぉっ!!」 「ちんこ射精見ながらオナイキとか、あひっ、 こんなの初めてっ! 気持ち良過ぎて、くぅっ! お潮止まんないっ、まん筋ほじくりまくっちゃうぅ!!」 「あはぁっ、ほらもっとぉっ! 一滴残さず出しなさいっ! 精液も、お潮も、あなた達は私を楽しませるために、 少しでも長く絶頂し続けなさいなっ、きゃはあっ!!」 「くぅ、くうう…………くうううううっっ……!!」 精液ってあんなに勢いよく、あんなに大量に出るものなの? これも……薬の影響なのかもしれない。 だとしたら、非現実的な射精。日常でありえない性描写。 それをオカズにしてるんだから、潮がとめどなく溢れてくるのも頷ける。 「す、すぱっ、あひっ、スパッツの中でまんこ ぐじゅぐじゅになってるっ、お潮しゅごひっ! おしっこみたいに、どばどば出てるのぉっ!!」 「おもらしスパッツになっちゃうよぉっ! すぱ、スパッツぅ、あぁん、あたしのスパッツ、 エッチなシミ塗れで、ひい、すぱ、すぱ……ひいっ!!」 「あはぁん、筮さんスケベ過ぎですわぁっ……♪ スパッツがぐっしょり……んふふっ」 「しかも、まだ出てますわよ? スパッツの生地越しに、 新鮮なお潮がぴゅっぴゅって……あっはっ! こっちも負けてられないですわねっ……ふんっ!!」 「くぁっ!?」 「ああ……ちんこの射精……まだブクブク……! ちんこ落ち着くまで……あたしの潮吹きも 終わんないよぉ……あっ、あっ、あぁっ……!」 「んっふうぅ……くっさぁい匂いが充満してますわねぇ。 くんくんくん……。潮と……ザーメンの匂い……。 あはぁっ……」 「はぁっ……はぁっ……はぁっ、も、もうらめ……。 全部出した……出し過ぎたぁ……」 おしっこだってこんなに続いた事なかった。 あたし史上最大のオナイキ。身体がおかしくなっちゃったんじゃないかってくらい、おまんこ……ずっと震えてた。 ……正直、満足感しかない。後悔や恥じらいを思い返す余裕なんてない。 気持ち良さが圧倒的過ぎて、余韻としてそれだけが残ってる。 「はぁ……ひぃ、スパッツ……お潮でぺったり、 おまんこにくっ付いちゃってる……。 ぴっちりスパッツ……むっちりスパッツ……」 実際……おかしくなっちゃったんだろうな。こんな潮吹きして……頭も身体も狂っちゃったんだと思う。 「んふふ……このちんぽももう長くないでしょうから。 次は筮さんにオモチャになっていただきましょう……。 うふふっ、うふふふふふっ♪」 煩悩だらけの脳内に、夜々萌先輩の笑い声が響く。 耳を塞ぐ事なんて出来ないあたしは、快楽の余韻に浸りながらその声に溺れるしかなかった―― 「――那由太っ……!」 足腰の力を失った那由太が、夜々萌先輩に蹴り倒されそのまま床に突っ伏した。 「残念ですけど……オモチャというのはいつか壊れるもの。 この子ともっと遊んでいたかったですけど……ちんぽ、 虐め過ぎたかもしれません」 「まあいいですわ。次を見つけましたから。 今度は女の子……こちらも可愛くて…… 虐め甲斐がありそうです……♪」 「う…………ぁ…………」 夜々萌先輩が迫ってくる。 指に……飴を挟んで。 「本当はちんぽ持ちが理想だったんですけど。 仕方ありませんわね。ちんぽがあると……どうしても 過激に虐めたくなってしまいますので」 「私ぃ……んひっ、んひひっ、ドSなんです……。 可愛い後輩を……思いっ切り虐めたくて 仕方ないんです……ひひっ、ひひひひっ!」 「筮さぁぁん……。私の……新しい暇潰しに…… なってくださいますよねぇ……? ねえっ……!?」 「ひっ……!」 震えた足腰のまま、一歩一歩後ずさる。 目の前の凶悪な魔女に怯えて―― いや―― 「――ひ、ひいっ!?」 “その背後”の、もっと強大な存在に怯えて―― ………………。 …………山羊? 「んふふ……そんなに怖がって……。 いい顔ぉ、私のサディスティックな心が…… 満たされていきますわぁ……」 「……ん? あなた……どこを見てますの……?」 「……っ、…………っっ!」 恐ろし過ぎて、声が出ない。 そんな状況下で、なんとか力を振り絞って指を掲げる。 夜々萌先輩の、その背後を指差すために。 夜々萌先輩に、その危険を知らせるために。 「……ぇ」 先輩が振り向く前に、“それ”は起こった。 「――がっ……はっ……!?」 夜々萌先輩の口から、どす黒い血が飛び出した。 同時に、お腹から大量の紅が制服に滲んでいる。 「ひっ…………ひぃっ、ひいっ…………!!」 「んがぁ……? ど、どういう……事、でずの…………!? ごの、私が……あふがぁっ!!」 「彬白夜々萌……あなたはやり過ぎた」 「ぐっ、がぁっ……ぐぶっ、ぐっ……がぶぶっ!」 「運営管理上の判断により、このような措置を下します」 「あ、あなだは――ひっ!? ひいいいいいいいいいいいっっ!?」 あの彬白夜々萌すら愕然とする存在。 全てを超越した圧倒的支配力に、強欲の魔女が屈していく―― 「ひっ……な、ぜ、でずの……ひいっ……!! なぜ私が……ごんな目に……ぐっ、ぐぶぅっ」 「彼にはまだやる事がたくさんあります。 ……それを邪魔しないで」 「私はぁ、た、ただ……彼を虐めだぐで、それで……」 「虐めは……好きじゃない」 「――がっぶばぁっ!?」 明らかな敵意によって、先輩の腹部の傷が拡大した。 「ひ……や、やでず……まだ、死にだぐないっ……!!」 「お願い、だ、ず……ぐぶぶっ、だずげ……ひっ!! だず……げでぇ…………」 「う、筮ざん……私をだずげでぐだざい……! 早ぐ……だず、げ、で……だず……げ……」 「あひ…………ひいぃ…………ひっ、ひっ……!」 無理。絶対に無理。 だって、わかってしまう。本能で察してしまう。 “この存在”が本当に殺したいのは……夜々萌先輩じゃなくって、きっとあたしの方。 だから……何も出来ない。自分の命は“この存在”の手中にある。 逆らえない。どうする事も出来ない。 「今後、またこのような事が起こるのであれば……」 「ゆ、ゆるじで……ぐぶっ、だずげ、ゆるじでぇっ……!」 「あなたをデリートして、別の誰かを送り込むまで」 「やべでっ、ごろざないでぐだざいっ……! おねがひっ、やべで、やだ、だずげで、ゆるじでぇっ!」 「だじ、だじっ……だじげ、だじげでええええええ ええええええぶぼじゅぐぶじゅぶるぶぶっ!!!」 「ぎゅぶるっ!? おぎゅぶぼびゅるるっ!! ぐぶりゅっ、おぼべびゃあっ!!」 「ひいいっ!!」 「彼の残りの殺害回数は、ほんの数回。 それですべてが終わる……。 それまで……どうか、上手く事が運びますように」 たった一瞬で。 夜々萌先輩のはらわたが、多方向に分散した。 「ぶ……げぶっ、ぼ……ば、ぼっ……んぼぉ…………!」 人間離れした呼吸声を伴って―― 「――ぶべぎゅばぁっ!!」 美しかった魔女は、肉塊に成り下がった末、絶命した―― その断末魔こそ、まさしく非人間的で……。 「ひ…………ひぃ…………あひっ、ひぃ…………ひぃ……」 「………………」 「……四十九筮」 「う…………ぁ……」 「あなたは今ここで殺しません」 「いずれもう一度……会う事になるでしょう。 殺害は、その時に」 「はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……!」 「忠告します。その際は……出来る限り残虐に。 血肉を散りばめながら、凄惨に殺すつもりです――」 「――っ!」 化け物は―― 冷酷にそう告げると、那由太の身体を拾い上げてその場から立ち去った―― 夜々萌先輩以上の殺意を、あたしに残して―― 「う…………うう…………」 深いまどろみから、ゆっくりと覚醒する。 「あ……れ……?」 あまりにも長い時間眠っていたようだ。 瞼が重い。身体が鈍い。意識が遠い。 そんな状況下でも、隣に佇む存在に気付いた。 「……おはよう」 「………………」 ここがどこで、今がいつで、なぜ屍が傍にいるのか。 いくら考えても答えなんて見つからないと思った。 「何の……用だよ……」 「恒例となった、お待ちかねのゲームの時間よ。 今回の中身は何かしらね」 屍が取り出したのは―― 「箱…………」 黒い箱だった。 「何が入っているのか、わくわくしない?」 「どういう事だよ……何言ってんだ……?」 「わくわく……しないか。切ないもんね。 悲しいだけだもんね」 「私も……楽しくはないのよ。 あなたを殺して、いい気分になるわけがない」 「は……?」 殺す……? 今、俺を殺すって言ったか……? なんだよ、意味がわからないぞ……!?この箱を開けたら、俺は屍に殺されるのか……!? 「さあ……どうぞ」 俺の混乱を気にせず、箱を差し出す屍。 その瞳は、なぜか辛そうで……。 「……………………」 「……ありがとう」 開けてはいけないと知りつつも。その後自分が殺されると察しつつも。 なぜか箱に手を伸ばしてしまった。なぜか落ち着いた心持ちでいられた。 なぜか――屍にお礼がしたくてたまらなくなった―― 「…………うん」 優しいその声に見守られながら―― ゆっくりと、その箱を開く――  「……っ!」   「なんだ、これ…………」  その中身が何か、瞬時に理解出来なかったが――  すぐにわかった。  と、同時に――  「ハァッ……ハァッ……ハァッ……!」 「今回は……きっと辛かったと思うから……」 「せめて、一思いに――」 ………………。 私は……。 あなたのその……ありがとうという言葉が……、ずっと欲しかったのかもしれない……。           ――この世界は、色彩である。        黒と白が形を成し、鮮やかなモノクロを産む。      眩い闇と沈痛な光に覆われたこの世界は、透過そのものだ。           この世界は、色彩である―― 時間が――止まっている―― 静止した自分は、いまだ動かぬまま。 いつになったら、この刻は動き出す――? もしまた動き始める事が出来たとしたら、そしたら自分は何をしようか。 何を―― ――雑音が、酷い。 耳を塞ぎたくなるほどの喧騒。 自分には程遠い賑やかさだ。 もっと静寂が欲しい。安らぎが欲しい。 なにより、この光景は眩し過ぎる。 眼球が耐えられそうにない。 右目と左目が入れ替わりそうになるほどの点滅。 早く……どこかに逃げたい。 例えるなら、今すぐここで眠って、夢の中の世界に逃げ込みたいような。 そんな心境―― 「なあ――」 ……ん? どうしたの? 「転入生って、誰だっけ――?」 あはは、そんなの決まってるじゃん。 たった今歓迎会したばっかだよ? まったく……何おかしな事言ってるんだか。 「うん」 「そうだよな」 「俺が間違ってた」 「ごめん」 これから、どこに行こう。 俺の居場所はどこにあるんだろう。 会いたい人がいる。 その人は……今どこにいる? ここにいるだろうか。 もしまだ、ここにいてくれるなら。 たくさん優しくしてあげたいな。 消えてしまうその前に―― 朝。 今日もEDENに向かう。 いつもと同じようにベッドで起きて、いつもと同じ時間に登校する。 いつもと同じように、周囲には誰もいない。 静かな通学路。実に落ち着く。 広い校庭が、空間を持て余している。 誰かに足跡を付けてもらうのを心待ちにしているようだ。 当たり前だが、誰もいない。今は登校時間だ。体育の授業の時間になれば、生徒達の姿が見受けられる事だろう。 鍵のかかった扉。恐ろしい。 なるべく見ないようにして、昇降口を通過する。 迷いなく教室へ歩く。 何か目的があるわけでもない。 そういうものなのだ。自分の身体に、そういう機能を埋め込まれているのだ。 日常生活は全てルーティーンの塊だ。イレギュラーを排除し、日課だけで構成されている。 今日も平凡な一日にするべきだし、明日も同様でなければならない。 日常に起伏は必要無い。出来事など、あってはならない。 皆もきっとそう思ってるはずだ。 同意を求めて、いつもより少しだけ強く、教室の扉を開いた。 その行為こそ、“普段と違う事”と知りつつ―― 死体の山で作られた椅子の座り心地。 失墜した人間を見下ろしながら、『自分はそうならずに済んだ』という安堵。 力で奪い取った蜜の甘さ。弱者を傅かせる愉悦。 どれも快楽と言うほか無い。 それを知らない人間なんかいない。 正常な人間なら誰しもそれを求める。 皆、そんな優越が欲しくてたまらないんだ。 それが人間の持ち得た知性の宿命であり、その自己実現のために狂暴が不可欠なんだ。 「――よう」 「なにが“よう”よ。自分の家みたいに入って来て」 「でもお客さんは嬉しいな。歓迎するよ」 「練習中だったか?」 「見ての通りだよー」 いつものごとく、お喋り中だったようだ。 「何の話で盛り上がってたんだ?」 「あのね。くだらない世間話してたわけじゃないのよ? ちゃんと合唱部の今後についての話で……ぺろぺろ」 「ほうほう」 「楽園祭で何やるか、話し合ってたんだー」 「ああ、なるほど」 もうそんな時期だもんな。 「で、今年は何するんだ」 「ふふふー。まだ内緒ー」 「お。って事はもう決まってるのか?」 「んー……そうとも言えないかな……れろれろ」 「なんだよ、それ」 「案は出てるんだ。でも、まだ決定とまでは言えなくて。 色々意見がぶつかっちゃってるの……」 そういう事か。 「でも合唱部なんだから、何か歌うわけだろ?」 「そうね。れろれろ。歌わないわけにはいかないわ」 「じゃあ……曲目で揉めてるとか?」 「んー……それは別に」 「だったら何が問題なんだよ!?」 「あははー、期招来君混乱してるー」 「混乱させてるのはお前達だろっ!」 「まあまあ。本番当日になったらわかる事だよー。 それまでのお楽しみって事でー……ぺろぺろ……」 確かにその通りだ。楽園祭当日を待とう。 「……で、とりあえず今合唱部は楽園祭の準備段階で、 話し合いの最中なんだよな?」 「うん。そうだよ」 「じゃあお前達が手に持ってるそれはなんだよ」 ――アイスクリーム。 どう考えても話し合いに必要なものとは思えない。 三者三様のフレーバーで、なんともカラフルじゃないか。 「こ、これは……おみそが買ってきてくれて……」 「早く食べないと溶けちゃうからね……れろん」 「だろうな。さっきから会話の隙間にぺろぺろボイスが 挟まってたもんな」 「期招来君も食べるー?」 「いや、別にいい……」 「そっか、よかったー。食べるって言われたら どうしようかと思ったよー。れろれろぉ」 「ぺろぺろ……三つしかないからね……」 「じゃあはじめから食べるかどうか聞くな!」 「もし食べたいって答えたら……れろん。 晦達の中のどれかを分ける事になってたねー」 「で、でも……わたしもう舐めちゃってるよ……?」 「期招来君は何味が食べたいー?」 「だ、だから俺は……」 いや、待て。落ち着いて考えてみると……。 まころが舐めまくったバニラか。 はたまた晦が舐めまくったストロベリーか。 それとも小鳥が舐めまくったチョコレートか。 ……うう、いらないと断った事を後悔してしまうくらいに、どれも美味しそうに見えるじゃないか――! 「期招来君、何味が好きなのかな?」 「あ、あくまで味の話をしてるのよっ!? 誰が舐めた アイスを食べたいか、って質問じゃないからねっ!?」 「わかってるよ」 「んー……まあ俺は抹茶が一番好きだな」 「……逃げたわね」 ムカッ。 「嘘。チョコが一番好き」 「――ひいっ!?」 「ことちー、ご指名入りましたー」 「な、なによご指名って!? こいつが言ったのはあくまで味の話で……」 「あー、チョコ味のアイスが食べたいなー! 誰かチョコ味のアイス持ってないかなー!」 「ちょっと、何言ってんのよこのっ!」 「だって何味が好きって聞くから」 「期招来君、ことちーの扱い慣れてきたみたいだね」 「ふふん、まあな」 「ぐぬぬ、生意気な……」 「小鳥ちゃん。期招来君食べたがってるし、 一口くらいいいんじゃないかな?」 「そうだよことちー。たくさん舐め回して唾たっぷり ついたとこ、あげればいいじゃんかー」 「いや!」 「小鳥、一口もらっていいか?」 「だから、いや!」 「間接キスしようぜ」 「絶対、いや!」 「あはははははっ」 「まこ笑うな!」 「あー、チョコ味のアイスが食べたいなー! 小鳥の舐めかけ食べたいなー!」 わざとらしくダダをこねて、小鳥を困らせてみる。初めてやってみたが、なかなかにいい気分だ。 「うう……くぅぅ……!」 「ほれほれ。そうけちけちせずに」 「くひぃ……く、くそぉ…………!」 「溶ける前に、その舐め回した面を俺に捧げるんだ……!」 「ぬぐぐ……ぎぐぐ…………」 「――あーんっ! おみそ、ヘルプ!」 「はいはい。あーーーむっ!!」 「――ひえぇっ!?」 大口を開けた晦が、小鳥のアイスを一口で食べ切った。 「んぐんぐ……うまうまー」 「みそちすごーい……! たった一瞬で……。 大道芸みたいだよー!」 「えへへぇ……♪ でもちょっと冷たひ……。 頭キーンってしてるよー」 「……って、何してくれてんのおみそーーーっ!!」 「こうしたら期招来君のセクハラから逃れられるでしょ?」 「だからって全部食べなくても……!」 「あ、これ間接キスだね。 晦、ことちーと間接キスしちゃったー♪」 「くだらない事言ってんじゃないわよぉっ! うう……私のアイスが……くすん……」 「こ、小鳥ちゃん、わたしの食べる……?」 「お、まころとも間接キスか」 「い、いらないわよバカー! うう、お、おぼえてろー!」 「遅いな……」 盤面にひびの入った腕時計を何度も確認する。 待ち合わせの時間はもう過ぎてるはずなんだが……。 「やっぱアイツの誘いなんかに 乗るべきじゃなかったかなー」 なんてぼやいているところに―― 「よっ!」 ようやくその“アイツ”が現れた。 「おっしゃ、んじゃ行こーぜ」 「ちょ、待てって!」 遅刻に対する謝罪の言葉など一切なしで意気揚々と歩き始めるメガを咄嗟に呼び止める。 「えっと……どこ行くんだよ?」 「あ? 前に言っただろーが」 「いや……色々言われたけどよくわからなくって」 そもそもメガの誘いはこんな感じだった。 「なーおい。明日空いてるか?」 「明日……? 別に空いてるけど。なんだよ急に」 「男のロマンっつーもんを教えてやんよ。 昼の12時に寮の入り口集合な」 「暇だし別にいいけど……そもそも何するんだ?」 「野暮な事聞くんじゃねーよ。ロマンだよ、ロマン。 たまには男同士、熱いロマンを共有しようぜ」 とまあ、突然わけわからない言葉で半ば強引に誘われたわけだ。 「ロマンがどうとか言ってたけど……」 「ああ。楽しみだろー。へへっ。 おめーにも新しい世界を見せてやるよ。 大人の男の世界をな」 それって……もしかして……。 「エロい事とかじゃないだろうな……?」 「くはーっ! 何言ってんだよ!? 誰が今、そんな話をした!?」 「え、違うのか!?」 単純なメガの事だからてっきりそういう……。 「男のロマンって言っただろ! ボトルシップだよ、ボトルシップ!」 「新しい道具が必要になったから買いに行くつもりだった んだけどよ、せっかくだからお前にもこの楽しさを 味わわせてやろうと思って誘ったんじゃねーか!!」 「ああ、ボトルシップか……」 そういう誘いだったのか。 なんかエッチな事を疑ってしまった自分が恥ずかしいぞ。 「ったく……なに変な事考えてんだよ……。ま、まあ…… そっちはそっちで確かに男のロマンだけどよ……」 向こうもまんざらでもなかったらしい。 「でも、それならちょっと楽しみだな。 俺、ボトルシップなんて全然詳しくないから、 色々知るのは面白そうだ」 「だろ? ボトルシップっつーのは男にしか わかんねー世界よ。そして、男なら誰しも 理解出来るエキサイティングな趣味なんだよ」 「おめーもすぐ気に入ると思うぜ。 そしたら、俺達ボトルシッパーズだな!」 「あ、ああ……そうだな……」 メガのヤツ、珍しく随分楽しそうだ。 さてはこいつ、趣味を共有出来る友達が欲しくて俺を誘ったな。 孤高の不良みたいな振る舞いしてるけど、意外とそういうとこあるんだな……。 「うし、それじゃあ行くか!」 「だな」 最初は懐疑的だったが、思いの外いい休日になりそうだ。 「とりあえず、必要な工具類は大体文房具店で揃うんだ。 まずはそこからだな」 「船の素材もそこで仕入れるのか?」 「木片とか竹串とか、糸とか塗料とか。 そこら辺は文房具店で買えるけどよ。 布類は手芸用品店に行った方がいい」 こいつ、この風貌で手芸用品店の奥様方の中に紛れてるのか……! 「まあ、最近は道具や材料が一通り揃ったセット品 なんかも売ってるから、それも紹介するぜ」 「奥が深いんだな……」 などと話していると―― 「あらこんにちは」 私服姿のフーカと遭遇した。 「期招来さんと飯槻さんという組み合わせですか……。 なにやら不穏な気配を感じます。 悪巧みでもしていなければよいのですが」 「変な誤解はよしてくれ。俺は真っ当な人間だ」 「うふふ。不良さんと遊ぶとそう思われるのは当然です」 「けっ。メイド風情が。優等生ぶりやがって」 「で……今日はどんな悪い事を?」 「メガのヤツ、ボトルシップが趣味でさ。 それについて色々教えてくれるって言うんだ」 「まあ、ボトルシップですか! 飯槻さん、なかなか紳士的な趣味をお持ちなのですね」 「し、紳士的ぃ……!?」 「ええ。ボトルシップの作製では、手先の器用さは元より、 細かい作業をこなす安定したメンタルが必要となります」 「西洋ではそんな工程に耐えられる度量を鍛えるための 趣味としても扱われているほどですよ」 「ふーん……そんなつもりはねえけどな」 「確かに難しそうな趣味ではあるけど……。 メガ、やっててイライラしないのか?」 「ねえな。楽しいし。上手く作業出来ないもどかしさも ボトルシップの魅力の一つだぜ」 「器量の大きな方ですのね」 「だってよ、褒められっぱなしじゃん」 「う、うるせえ! おめーみてーなメイドに 褒められても、う、嬉しくねえからな!」 「おお!? 男のツンデレだ!?」 「こ、これは……実に珍しいです。 希少価値が高いゆえ、乙女心をくすぐります」 「まさか飯槻さんにそのような属性があったとは……。 人は見かけによりませんね」 「天然記念物みたいな目で見てんじゃねえよ! ……おら、さっさと行くぞ期招来!」 「フーカもおいでよ」 「よろしいのですか?」 「もう少しカタカナズのやり取りを眺めてたい」 「ええ、是非に。飯槻さん、もっとお話しいたしましょう」 「ぐっ……! あのなぁ……俺達は今から、 男のロマンを求めにだなぁ……」 「萌え萌えメイドの甘く自然な誘いにも靡かない、 殿方同士の友情……! なんという事でしょう……! 飯槻メガさん……完全にノーマークでした……!」 「変な事考えてんじゃねえ! いいか、男の趣味の買い物だからな! メイドがついて来たところで何も楽しくねえぞ!?」 「構いません。お二人の友情を間近で拝見させて いただけたら、それだけで乙女心キュンキュンです。 腐っていくという意味で乙女心フガフガです」 「ち……なんなんだよこいつ……」 「あと、こういう方を褒め殺しにするとどうなるか、 観察してみたいってのもあります」 「それ、俺も気になるな」 「ということで……コホン。 いーけーめんっ! あそーれ、いーけーめんっ!」 「うるせえっ!」 「ひーん、女の子に手を上げましたよこの人! なんだかんだいってやっぱり不良ですー!」 「……はっ!? でも、そういう乱暴なところがいいって 女子もいますよね……DV男が昔からなぜかモテるのは 一定の需要があるから……」 「可愛ゆいメイドよりも友情を重んじ、褒められ下手で、 天然ツンデレで、女子相手でも攻撃的になるポンコツ ダメ男……」 「あれ……? 飯槻さんって女子的萌えポイント満載なんじゃ……?」 「おい何してんだよ、さっさと行くぞこら!」 「これは……原石、見つけちゃいましたー♪」 いい遊び相手が見つかったとばかりに、メガの方へと駆けていくフーカ。 「飯槻さん飯槻さん。見てください、いきますよ? 萌え萌えきゅ~んっ♪」 「くだらねえ事やってんじゃねーよ!」 「あひ~んっ! でも癖になる~っ!」 不良相手でも、果敢に弄って反応を楽しむあたり、フーカって結構頼もしい女子だよな……。 とある日曜日の午後―― 「お」 志依とつつじ子とばったり。 「期招来君だぁ」 「奇遇ね。運命を感じるわ」 「珍しい組み合わせに見えるけど……何してるんだ?」 「買い物帰りよ」 「志依ちゃん髪サラサラでしょ? どんなシャンプー使ってるか教えて欲しくて。 それで一緒に買い物してたの」 へぇ。なんとも女子らしい。 「期招来君には教えてあげないわよ。 シャンプーの香りは乙女の秘密なんだから」 「いや、あんま気になんないって」 気になるといえば……むしろ……。 「ところで、志依って風呂入る時どうしてるの?」 「まあ!」 「き、期招来君っ! 女の子にそんな質問しちゃダメなんだよ!?」 「え……? あ、ご、ごめんっ! そういうつもりじゃなくて……! いつも車椅子だから、お風呂大変だろうなーって……」 「でも、だからって……」 「いいのよ、玖塚さん。足の事が理由であれ、 気にしてもらえるのは光栄な事だわ」 「あのね期招来君。この足でも一人で入浴出来るのよ。 とっておきの方法があるんだから」 「おお、とっておきか……で、どんな?」 「それは……そうねぇ、私と一緒にお風呂に 入ってくれるなら、教えてあげるわ」 「んな……!」 「んもー、志依ちゃんまで……」 「くっふふふふっふっ!」 志依らしい切れ味鋭い冗談だ。 「一人で寮生活してるんですもの。車椅子でも 困らないように色々企業秘密的な工夫があるのよ」 「そうなのか……」 志依の使っている車椅子、見るからに高性能っぽいしな。 なんかタッチパネルとかいっぱいあるし。俺の想像の及ばないようなあっと驚く機能が充実しているのかもしれない。 「ちなみに私は全然企業秘密じゃないから話すけど、 片腕でもシャンプー出来るんだよ」 「それでも大変そうだ」 「もう慣れっこだよぉ」 「そうね。人間慣れてしまえば、不自由な身体なりに 自由に生きていけるのよ」 「重みを感じる言葉だな……」 入浴に限らず、料理、就寝、掃除、排泄……。挙げ始めたらキリが無い。 それらを全て一人で、その身体でこなしてるんだもんな。 改めて考えるとすごい事だ。俺の知らない苦労が二人の人生にはいっぱいあるんだろう。 うちのクラスには身体に不自由のある女子が数人いるけど……。 こういう話を聞くと、いたわってあげないとなって思い知らされる。 「――よしっ! つつじ子っ、荷物持ってやろうっ!」 「え……?」 「志依っ、車椅子押してやるからなっ!」 「あらあら……くふふっ」 つつじ子の荷物を持ちながら車椅子の後ろに立って、ゆっくりと手押しする。 「頼れる介護士の登場ね」 「期招来君パワフル~」 「男ならこれくらい余裕だよ」 二人の苦労が少しでも和らぐなら……なんて気持ちで、寮への道を歩く。 「そんな優しい期招来君に……乙女の秘密、 一つだけ教えちゃおうかしら」 「お、なんだ?」 「この足で……どうやって入浴してるのか。 本邦初公開よ」 「おお、さっきの話か! 教えてくれるのか?」 「実態を知った方が、興味が湧いて 私と一緒にお風呂に入りたくなると思って」 「志依ちゃんったら……」 「くふふっ……。 実はね……この車椅子には裏ワザ的機能があって……」 「ほうほう……」 「ここの赤いボタンを押すと……」 「ふむふむ……」 「ここがこうなってああなって……。 かくかくしかじか……」 「なんと!」 「だからどうしてこうして云々かんぬん……」 「えーーっ!? 知らなかったよー!」 「な、なんてこった……!」 「……で、あるからして、くっふふふなのよ。わかった?」 「な、なるほど……」 知れば知るほど車椅子ってすごいんだな。 そして……興味ある!志依が毎晩入浴の際にそんな事をしていたなんて……! 見たい、見てみたいっ!下心とか抜きにして、男としてその車椅子の秘密をこの目で確かめてみたいっ! 「じゃあ私も……一つだけ秘密教えてあげるっ」 「お?」 「私の右腕って、ほら、ここがほにゃららでぇ……」 「おお!?」 「お手洗いの時とか、腕をこうして…… こうするとあらあらうふふなんだよ?」 「くはー! 刺激的!」 「くふふふふっ! わかるわそれ。お手洗いの時は 特につーつーれろれろなのよねぇ……」 「そうそう……あ、でもそういうのが出来ない トイレも最近はあって、その時は左腕で身体を……」 「おっほー!」 ――とまあこんな感じで、寮に着くまでの時間、彼女達から教えられた障害あるあるは、なかなかに過激だったが、どれも勉強になるものばかりだった。 校庭を歩いていると―― 「……ん?」 体育館で見知った顔達を見かけた。 「よいっしょ……よいっしょ…………!」 「モップ……なかなか重たいですわね……」 「うへ~~……めんどくさ~~……。 なんであたしがこんな事……バカじゃんバカじゃん……」 「……何やってるんだ?」 「あ、那由太君」 「あら、ちょうどいいところに来てくださいましたわね♪」 「はい?」 「期招来も手伝えー!」 「手伝うって……何を?」 「見てわかんでしょー」 「体育館の……」 「お掃除ですわっ♪」 「えぇ…………」 「ふぅ……こっちはおしまい、かな……」 「では、今度はこちらの面ですわね……」 「うー、体育館広過ぎー! こんな広くなくてもいいのにぃ……」 「まったくだ……はぁ、はぁ……」 三人にせがまれ、なぜか俺も掃除を手伝う事になってしまった。 たった四人で、このだだっ広い体育館の床をモップ掛けしている。結構な重労働だ。 「そもそもあたし、別に体育館が汚れてたって構わないし」 「でも、皆が使う場所だから。 感謝の気持ちを持ってお掃除しないとだよ、霍ちゃん?」 「あたし運動部じゃないし! 授業でしか使わないからあんま感謝とかないもん!」 「まあ、俺達全員帰宅部だしな……」 そして、揃いも揃って全員体育が得意そうに思えない。 「……というか、こういうの運動部がやればいいじゃん」 「そもそもなんで掃除する事になったんだ?」 「うふふ……実は私が、先生に頼まれまして」 「どうしてまた?」 「懲罰……のようなものでしょうか」 「先輩、何か悪い事したんですか」 「うふふっ。まあ、ちょびっと羽目を外してしまいまして。 那由太君、その節ではお世話になりました」 「…………?」 なんの話だろう? 「それで、一人で体育館をお掃除しようとしてる 夜々萌先輩を見かけて……私も手伝おうと」 「自らこの役を買って出たのか。殊勝だな御伽は」 「特にやる事も無かったし……。 先輩一人じゃ大変だと思ったからね……」 「でも……こんなに大変だとは思わなかったよぉ……。 はふぅ……」 「で、霍は?」 「なんか巻き込まれた」 だろうな。 そして文句垂らしながらもしっかり手伝うあたり、こいつもこいつでホントいいヤツだよな。 「あ……ボール!」 「ん……?」 体育館の隅で、霍がボールを見つけた。 「……バスケットボールか」 「バスケ部の人が片付け忘れたのかな」 「……………………」 バスケットボール……。 なんか、少しだけ懐かしい気がするな。どうしてだろう……? 俺は別にバスケ部でもないし、バスケ部の友人もいないけど。 そのボールを見てると、何かを思い出すような―― 「しゅーとー!」 「こら、遊ぶな」 「うふふ……ですが、気分転換程度でしたら 少しくらいはいいかもしれませんわよ?」 「そうですね、掃除のご褒美と考えれば……」 「よーし、じゃあバスケで勝負だ!」 「お、霍。珍しくやる気だな」 「掃除してるよりマシじゃんか」 「まあな」 「では2チームに分かれて、対決してみましょうか」 「俺は男子だから、3対1で構わないぞ?」 「あらあら、余裕ですのね。 私の華麗な技の数々をご存じないのかしら」 おお、蝶々の名前を冠した夫人みたいだ。 「3対1なら余裕っしょ。負けたら鼻でスパゲッティね」 伝説の罰ゲームだなおい。 「それじゃあ……試合開始ー!」 「シュートだっ、とりゃーっ!」 「させませんわっ!」 「うお、ブロック!?」 「ゆっふぃんさん、ボールそっちに行きましたわ!」 「はいっ! 夜々萌先輩、パス!」 「カットー!」 「――と見せかけて霍ちゃんにパス!」 「なにー!?」 「よーし、しゅーとー!」 「霍、パンツ見えてるぞ!」 「ぎゃー!?」 「よし、手元が狂ったな……」 「あ、おかげで入った」 「なんだよそれ!?」 「はぁ……はぁ……はぁ……試合……終了だ……」 つ、疲れた……! 女子とはいえ、さすがに三人を相手にするのはキツい……! 「日頃の運動不足を感じるな……」 で、結果は―― 「はあ、はあ、はあ……! も、もうダメ……一歩も動けないよぉ……」 「ま、まさか……私の美技が…… 全く通用しないなんて……!」 「負けた……恐ろしいほどに……ボロ負け……」 完勝させていただきました。 「んじゃ、鼻でスパゲッティな」 「んなー!?」 「ずるずるずる……ふがふが、ずるずるずる……」 「んなー!? どっからスパゲッティが!?」 「ずずず、ふがふがずずず……! ほら、霍ちゃんも……ふがずずずっ!」 「んなー!? 二人ともなんで食べれんの!?」 「言い出しっぺなんだから、霍も頑張れ」 「う、うう……なんだよぅ、この状況……」 「ほれほれ。早くしろって」 「うひぃ、わかったよぅ……やるよぅ……」 「ず、ずずず……ずるずるずる……ぶふっ、ふごごっ!? む、無理無理、無理に決まってんじゃんこんなの!」 「ずずずずずーーーっ♪」 「ふががががーーーっ♪」 「えぇ…………」 「三人とも、それ食べ終わったら掃除再開な」 「はーい。ずるずるふがふが……」 「ずずっ、ずずず……ぶっふっ!? う、うう……何これぇ……バカじゃんバカじゃん……。 ずごごっ、ふごごっ」 そんなこんなで三人は俺の見てる前で見事鼻でスパゲッティを完食したのだった。 「間違ってる……間違ってるよこれぇ……!」 「さてと……そろそろ帰ろうかな」 「っ!?」 なんだ今の物音は……!? 階段から聞こえてきたようだけど……。 「いつつ…………」 「筮……!?」 「あ……那由太?」 筮が階段の踊り場でしゃがみ込んでいる。 周りには散らばった書類。 どうやら足を滑らせて階段から転げ落ちたらしい。 「大丈夫かよっ……!?」 「う、うん……ちょっとドジって……いつつっ!」 「足怪我してるじゃないか……! ちょっと見せてみろ」 腫れた足首を確かめようとすると―― 「ひっ、や、やめて、見ないでっ――!」 「っ!」 力任せに押し返された。 「筮……?」 「え……あ、え、えっと……」 「ご、ごめん、そんなつもりじゃなくて……」 「う、うん……あたしの方こそ……反射的に……ごめん」 「あんまり……その……身体、 じっくり見られるのが嫌で……」 「……うん」 ……そうだよな。 「……俺が荷物運ぶよ。どこに持ってけばいい?」 「……職員室の葛籠井先生のとこまで」 「わかった」 「う、うぅ…………」 その後、なんとなく一緒に帰る事になった。 俺は職員室で書類整理を手伝い、筮は保健室で足の怪我を診てもらい。 「……足、なんともなかったみたいでよかったな」 「そう、だね……。ごめん、迷惑かけて……」 「いや、構わないよ」 遠慮がちな口調で目を細める筮と並んで帰路を歩く。 物静かな時間だった。 「あ、あのさ……改めて言う事じゃないけどさ……」 「ん?」 「……誰かに……身体を見られるの苦手で」 「理由はまあ、わかるでしょ。全身コンプレックスだから」 「………………」 なんて言ってあげるべきだろうか。 続く言葉が見つからなくて、やはり物静かな時間が流れた。 「……それって、その……」 「……うん。火傷の痕」 ……やっぱりそうか。 そうではないかと思っていたが、確認し辛くてあえて聞いていなかった。 火傷……か。過去に何かあったのだろう。 「……聞きたい?」 「……いや、いいよ」 少なからず、その痕の原因に興味はあった。 しかし、筮があまりにも哀しげな表情だったので。 俺は躊躇なく遠慮した。 「こんな包帯だらけの女子……キモいよね」 「そんな事ないよ」 「気休めはよしてよ。この包帯の下見たら 優しい言葉なんて言えなくなるよ」 「なあ筮。趣味とかってあるのか?」 「な、何さ急に……」 「コンプレックスがあるなら、それを忘れるくらい 趣味に没頭すればいいじゃないか」 「スポーツなんかどうだ? 火傷の痕なんか忘れて 走り回ってさ。激しい競技だと、どうせ身体中 擦り傷切り傷だらけになるんだし」 「この身体で運動なんかしたって、 皆から煙たがられるだけだよ」 「部活とか入ってみろよ」 「あたしが? はっ……やるわけないでしょ」 「女子野球部とか、女子サッカー部とか。 動いたら悩みも忘れられて、スッキリすると思うぞ」 「うちの運動部なんて、どこもお遊びみたいなもんじゃん。 あんな身内でのんびりやってる部活に、あたしみたいな のが入る余地ないって」 「そうか? 休みの日は対外試合とかして、 結構充実してるように思えるけどな」 「ここ離島よ? 学校なんてEdEn以外にないんだから、 対外試合とかあるわけないでしょ。 試合しにわざわざ船で数時間かけて本土に行くわけ?」 「あ、そっか……」 あれ? なんで俺対外試合なんて考えたんだろ……。 「あたし……バリバリの文化系だし。 運動より、机とにらめっこしてる方がお似合いだわ」 「………………」 ……ん? 寂しそうな表情ではあったが、その瞳に少しばかり輝きを見出す事が出来た。 「にらめっこって? まさか勉強か?」 「……やだ。勉強苦手」 「じゃあなんだよ」 「……内緒」 ……悪戯っぽくはにかみやがって。 そんな顔出来るんじゃん。 何かは知らないが、それが筮の生き甲斐なのかな。 コンプレックスのせいでいつもネガティブな筮だけど。 その生き甲斐が彼女の人生を鮮やかに輝かせてくれたらいいな……そう思った。 「ん…………?」 ある日の正午。 携帯を耳に当てながら教室を出ていく筮の姿が目に入った。 どこに行くんだろう。食堂かな……? 「……………………」 少し気になったので、追跡してみる事に。 筮が向かった先は―― 「……図書室か」 文化系を自称してたし、読書が趣味なのかもな。 どんな本読むんだろうか。案外少女漫画とかだったりして……。 「うーむ……」 まあそこまで詮索するのは失礼か。 「さて……俺は食堂に向かうとするか」 その日の放課後。 適当に友人たちとお喋りして時間を過ごし、もう帰ろうかと教室に戻ると……。 「……お」 無人のはずの教室から、人の気配を感じた。 中にいるのは―― ――筮だ。 以前本人が言っていた通り、机とにらめっこしている。 熱心な瞳で、ノートにペンを走らせて……俺の入室に気付いていないほど集中している様子だ。 「……何書いてるんだ?」 「うわっ!? な、那由太!?」 とっさにノートを隠された。 「帰らないのか?」 「……なんとなく。寮に戻ってもどうせ一人だし」 「それで、放課後の教室で執筆活動か」 「き、気分転換にいいと思って……」 「ふーん……」 あれだけ真剣な眼差しだったんだ。さぞいい気分転換になっただろう。 「ね、ねえ……見た?」 「いや、ノートの中身までは」 「そ、そっか……よかった」 「日記とか?」 「ち、違う」 「小説?」 「違う……ってか当てにこないでよ!」 どうやら言いたくないらしい。 「……まあ、楽しいならそれでいいけどさ」 「え……? なによ、楽しいならって」 「いや、その物書きの趣味がだよ」 「筮、いつもつまらなそうにしてるからさ。 そういうので楽しい思いしてるなら、 いい事だなって思って」 「………………」 「……ふんだ。ま、そうかもね。 あたし基本人生つまんないし」 「嫌味で言ったんじゃないよ」 「……こんな包帯女が人生楽しめるわけないじゃん」 「いじけるなって。 俺はお前に笑っていて欲しいんだよ」 「なんでよ……。ただのクラスメイトが、 どうしてあたしの人生に意見するのよ」 「意見じゃない。勝手に願ってるだけだ」 「はぁ……?」 「その身体、コンプレックスだって言ってただろ? それを忘れるくらい、趣味を楽しんでくれますように、 って願ってるんだ」 「おかしいか? クラスメイトの幸せを願っちゃ」 「……おかしいよ。 別にただのクラスメイトなだけじゃん」 「そっか。おかしいか……」 でもそれほどまでに、筮は女性として重いものを背負っているんだ。 その分、笑顔でいて欲しいと思うのは当然だろう? 「……筮、執筆は楽しいか?」 「………………」 「……うん。楽しいよ」 「もう少しここで書いてくか?」 「ううん。今日はもう帰る」 「一緒に帰るか?」 「うん。一緒に帰る」 素直ないい子じゃないか。 そんな少女の幸せを願って、それがおかしいわけがない。 たとえ身体が火傷の痕で蝕まれていようと。 そこに幸福の兆しがあるなら、俺は彼女の趣味を応援したいと思う。 「ふう……」 一通り宿題を終えて、自室でのんびりしていると……。 「……ん?」 扉をノックする音が聞こえた。 はて……誰だろうか。 「う、筮っ!?」 「な、なによ……そんなに驚かなくてもいいじゃんか」 「いや、普通に驚くだろ」 男子区画に、まさかの女子。 周囲の目も気になって、思わず慌ててしまう。 「こんな時間に何の用だよ?」 「……部屋、入れてよ」 「あ、ああ……」 「え、えっと……で、どうしたんだ?」 さすがに廊下で話し続けるわけにもいかないし、筮に促されて部屋に入れちゃったけど……。 この時間に女子と自室で二人っきりだなんて、ドキドキするな……! 「とにかく座れよ。えっと……紅茶でいいか?」 「あ、そういうのいいから。 ちょっと頼み事があって来ただけだし」 「頼み事……?」 「う、うん……。 あんたにしか頼めない話……」 なんだろう。他の人には頼めなくて、俺だけに頼める事……。 「あんたさ、言ってくれたじゃん。 あたしには趣味の執筆を楽しんで欲しいって」 「ああ、言ったよ」 「あれ……間違いない? その場の勢いとか、雰囲気とかで言ってない?」 「いや、今もそう思ってるよ」 「そっか……うん、そっか……」 何かを納得した様子で、一人で“そっか”を反芻している。 「じゃあ……協力してよ」 「……何を?」 「あたしね、今ある物語を書いてるんだけど……。 それで、ちょっと気になってる事があって」 「例の趣味でやってる執筆活動か」 「うん。どう書いていいかわからないんだ。 あんたに協力して欲しい」 「いいけど……俺に出来るかな」 とくに文才もないし、俺に筮の趣味の手伝いが出来るとは思えないけど。 「あ、あのね……男子にしかわからない事……っていうか。 そういう事で詰まっちゃってるんだ」 「……ああ。だから俺を頼ってきたのか」 筮は女子だから当然わからないだろうし。 男友達も少ないうえ、その趣味を知ってる男子なんて俺くらいだろうからな。 「いいよ。で、何をすればいいんだ?」 「え、えっと……その、ね…………」 む……? 途端に言葉が詰まり出したぞ? 「言い辛い内容なのか……?」 「ま、まあ……うん……」 ……そりゃそうか。 異性に相談しないといけないくらい追い詰められてるわけだしな。 男性特有の心理や思考は筮には絶対に考えが及ばないから、こうして男性に問い質すしかない。 いくらか質問し辛い内容もあるだろうが、別におかしな事ではないし、そんなに恥ずかしがるものでもないと思うんだけど……。 「おちんちんの事なんだ」 「はああああああああ!!?」 夜だっていうのに、反射的に大声を出してしまった。 「きゅ、急に何言ってんだよお前っ!?」 「だ、だってしょうがないじゃんっ! あたし付いてないんだもんっ、知らないんだもんっ!」 「そういうの調べようがないしっ、そもそもそういう本 読むのも恥ずかしいしっ、それで……あんたしか いなくて……っっ!」 もしかして昼休みに図書室に行ってたのは、その情報を得るためだったのか……!? 「こんなの他の男子に聞けないよっ……! でもどうしても知りたくて、だから……その……」 「ちょ、ちょっと待て! 知りたいって……それ、執筆に必要な情報なのか!?」 「う、うん……」 どういう文章書いてるんだ!?もしかしてポルノ小説なのか!? 「あ、いや、そんないかがわしいものじゃないんだけど! でもまあ……そういう一節も出てくるから、最低限の事 は知っておいた方がいいのかなって……」 一節程度には登場するのか……。プラトニックに徹してない現実的な恋愛小説とかか? 「恥を忍んで頼ってんだからさ……! あんたも少しは理解してよっ……お願い……!」 「わ、わかったよ……。 筮は今そういう窮地で……男の身体についての情報を 入れないと先に進めないってのは理解した」 「内容が内容なだけに何て言っていいかわからないけど、 俺だって筮の執筆には協力したいし、それで筮が 幸せになってくれれば、これ以上の事は無いと思うんだ」 「だから……ま、まあ……頼られたからには なんでもしてやりたいけど……」 「おちんちん見せて」 そういう事になるよなぁ……。 「……見るだけか?」 「触りたい」 「……触るだけか?」 「舐めたい」 「……舐めるだけか?」 「咥えたい」 「……咥えるだけか?」 「射精させたい」 「……射精させるだけか?」 「精液飲んでみたい」 「……精液飲むだけか?」 「……うん。それだけ」 「……………………」 「ひ、一通り! 一通りやってみて色々体感したいの! 感触とか、味とか、見た目とか、迫力とか!」 「そのためには、見て触って舐めて咥えて イカせて飲まないといけないでしょ? あたし間違ってないよね?」 「……………………」 「た、勃たないと始まんないのは知ってるよ!? だから……あたしのあそこでよければ、舐めさせて あげるから……あたしだってあんたの舐めるんだし」 「……………………」 「お股のとこは……普通の女の子と一緒のはずだから。 火傷の痕無いから。キモくないから……」 このタイミングで“気遣う話題”を差し込んでくるなよ……。 「うう、お願いっ! この通りっ! おちんちん情報欲しいのっ! ね? ね、ね、ね?」 「………………」 「……わかったよ。だけど一つだけ条件がある」 「む……な、何よ」 「その文章、出来上がったら読ませて」 「え゙~~~~…………」 思いっ切り嫌な顔された……! 「なんだよ!? 協力したんだからそれくらいいいだろ!? スペシャルサンクスに対しての最低限の礼儀だろ!?」 「う~……あんま人に見せたくないんだけどな……。 誰かに読ませるの想定して書いてるわけじゃないし」 「読ませてくれないなら、情報提供はしません!」 「あ、ああっ! 待って待って! わかったよぉっ! 読ませる、読ませるからっ……!」 「……よし。約束だからな」 「うう……ちんこ生えてるだけのくせして、 なんでそんなに偉そうなんだか」 「お前が持ち出した話だろ!?」 「わ、わかってるって! ちゃんと感謝するから」 「感謝はいいから、ちゃんと約束は守れよ」 「うん……」 「あと丁寧に扱えよ」 「あ……そうなんだ。わかった」 当然、こういう事は初めてなんだろう。 こんな形で筮に局部を晒す事になるとは思ってもみなかったが……。 それでも筮の趣味の理解者として、俺は男の弱点を筮に差し出したのだった―― 「うわ、これがおちんちんか…… ゴツゴツしてて、なんかむわっとしてるね……」 仰向けになって横たわった俺と逆方向に覆い被さるようにして、顔を陰部に近付ける筮。 「まじまじ見られると恥ずかしいな……」 「そ、それはお互い様でしょ……! あたしだって……こんな、パンツ丸出しのお尻を あんたの顔の上に置いてるんだから……」 「ま、まあな……」 声に出して言われると、この状況があまりにも非現実的過ぎて、もはや混乱してくるほどだ。 筮にペニスをガン見されてて……、そして俺の目の前には筮のパンツがあって……。 頭で事態を整理しても、どこかで理解が及ばない。でもその混乱が興奮を引き寄せるんだ。 「ん、それにしても……はぁん、おちんちんすごいね……。 男って皆こんなの生やしてるんだ……なんか変なの……」 「ねえ、触っていい?」 「丁寧にだぞ?」 「うん……ぴと。へえ、見た目通りやっぱ硬いんだね……。 全然ふにふにしてなくて……あ、結構熱い……?」 「おお、押し倒そうとしてもすぐぴょこって 戻ってくるよ……! なにこれ、こんなの 普段どうやってズボンの中に収納してんの?」 「通常時はもっと柔らかくて小さいよ」 「それって、今勃起してるって事?」 「ま、まあ……」 「でもあたしまだ何もしてないよ?」 「こんな事になって、一切勃たせないで いる方が難しいって」 「そういうもんなんだ……じゃあ、もう射精する感じ?」 「いや、そこまでは。気持ち良くさせてくれないと無理」 「うう、そっか……。あたしに出来るかな……ごくっ」 ペニスを凝視しながら生唾を飲み込む筮。 真剣な眼差しだが、ペニスと向き合えば向き合うほど頬の赤みが増す。覚悟と羞恥が正比例しているのだろう。 「あ、あのさ……一応言っとくと…… あたしこういうの初めてだから」 「わかってる」 「ふ、ふん……モテない女扱いして……! ま、事実だけど。こんな包帯女がモテるわけないしね。 ぶつぶつ……ねがねが……」 「ああもう、こんな時にネガティブ発言しないでくれ!」 亀頭に呪詛がかかる! 「別に下手でも構わないからさ。頑張ってみてくれよ」 「う、うん……やるからにはね。 あたしだっておちんちんの事色々知りたいし……」 そう言いながら、筮はゆっくりと先端に顔を近付けていき―― 「――れろっ……」 試しに小さな舌で、一撫でしたのだった。 「……どうだ?」 「……味しないぃ」 風味があるものと思っていたのだろうか。 「舌の感触は……まあ想像通り、かな……れろれろ。 硬さとか熱さとかは……んれろっ、指で触った時と、 変わんない、ね……れろっ」 「そりゃそうだな」 「れろれろっ、おちんちんってさ、れろっ、おしっこ、 出すとこでしょ……? もっと汚いと思ってた……。 おしっこの臭いとか、味とか……するものかと……」 どんだけワイルドな男の排尿を想像してるんだ? 「無味無臭で……なんか、れろれろ、思ってたよりも 平気かも……れろっ、指舐めてるのと変わんないかな。 れろっ、まあ、指より熱くて太いけど……れろっ」 「そっか。抵抗が少ないなら俺も嬉しいよ。 嫌がられたらやっぱショックだから」 「う、うん……れろっ、えろえろぉ……。 あたしから頼んでるんだし、そういうのは失礼だから したくないけど……多少はね……れろれろっ」 「でも、おちんちん舐めるのは、今んとこ平気ぃ……。 れろちゅむぅ、おちんちん怖くないし……むしろ、 れろっ、ぴょこぴょこしててちょっと可愛いかも……」 “可愛い”は別になんとも思わないが、“怖くない”は俺の事を信頼してくれているのがわかって嬉しい。 「れろっ、れろちゅ……あ……」 「ん?」 「あたしこれファーストキスだ……れろちゅ……ぴちゅ」 「唇じゃないからノーカンだ」 「えへへ……そっかぁ……れろれろぉ……。 でもちんこキスは初めてだよ。 ファーストちんこキス……」 変な分類するな。 「あたしが……れろっ、こういう風に、エッチな事出来る なんて思わなかったよ……れろれろっ、んちゅ……」 「こんな身体してるからさ……れろれろっ、一生男に縁が 無い……虚しくて寂しい人生送ってくって思ってた、 れろっ、ぴちゅ……」 「だからネガティブ発言はやめろってば」 「ホントなんだよ。ホントに……おちんちんにキスなんて、 絶対する事無いって思ってたんだ……れろっ、ちゅ……」 「あたしにみたいな女に、おちんちん差し出してくれる男 なんているはずないって諦めてて……れろっ、ぺろっ、 だから……れろれろっ、はふぅん……」 「筮…………」 「れろっ、ちゅ……ま、相手があんたってのは……れろっ、 正直不満だけどね……れろれろっ」 「なんだとー!?」 「ねえ、那由太ぁ……れろれろ」 「ん?」 「あんがとねぇ……れろぉ、ぺろんっ」 その時の筮の表情を確認する事は出来なかったが―― “どういたしまして”の言葉を勃起に乗せて返そう―― 「くひゃっ…………!?」 「ちゅ……んむ、むちゅ……」 「ちょ、きゃひっ、那由太、何やってんのぉ……!?」 「俺も舐めたい」 「や……だめ、あっ……そこ、ダメじゃんかぁ……! あふっ、んっ……!」 「嫌か?」 「嫌っていうか……んっ、今はあたしがおちんちん観察 する時間で……はふっ、ん……そういう事されると、 集中出来ないよ……」 「俺だけ気持ち良くしてもらうのも悪いと思って」 「気持ちはありがたいけど……んっ、んんっ……! そんなとこ舐められると……うくぅ……!」 「筮だって“そんなとこ”舐めてるじゃないか……ちゅっ」 「くっひっ!? あたしは……んっ、ちゃんと 那由太の許可貰ったもん……んっ、あふっ!」 「俺にも許可してくれ」 「う、うう……くひぃ…………」 「わ、わかったよぉ……ちょっと、だけなんだからね……? んっ、はふっ……」 ちょっと、という範囲がどこまでかわかりかねるが、筮からの許諾を得たので心置きなく舐めようじゃないか。 「れろっ、ちゅ……んっ、むちゅ」 「くうぅ、ひっ、ひぃ……や、パンツ越しに……んっ、 那由太の舌が……あそこに、当たるっ……うっくっ!」 「ひっ、そんな……ぺろぺろしないでよぉ……! パンツも、あそこも、綺麗じゃないし……くふっ、ひっ」 「汚いなんて思わないよ」 「で、でもぉ……うひぃんっ……」 「あうぅ……んもう、あたしだって……もっとぺろぺろ、 してやるんだからぁ……んちゅっ、ぺろっ、ちゅむっ」 再び舌奉仕を始める筮。周囲に二人分の舌音が響く。 「ちゅっむっ、んちゅっ、れろれろっ、ぴちゅ……! はふぅ、んっ、おちんちん舐めながら、ちゅぷ、 パンツぅ、舐められてるっ、ぴちゅ、れろれろっ」 「ぺろぺろ……くちゅぅ……」 「あっひっ……ちゅぷ、むっちゅっ……! パンツとちんこの舐め合いっこぉ……ひぃ……! こんなの……ちゅれろ、やらし過ぎ……れろぉっ」 「筮……パンツ濡れてきた」 「ひ、ひいっ!? それ、あんたの唾液でしょぉ……!! れろれろっ、くちゅぷっ!」 「そうかな……どんどんシミが拡がってる……!」 「くひぃ……変な事言うな……バカぁ……ちゅぷ、 くちゅ、れろっ……!」 目の前で、膣裂のもわっとした熱気とミチミチとした肉襞の蠢き音が充満していく。 それを食い止めるべく下着の布一枚が立ちはだかるが、俺の唾液と誰かさんの愛液によって湿らされ、その厚みは効力を失いつつある。 「あ、あんただって……変なお汁出て来てんじゃない……。 これ、あたしの唾と違うわよ……!」 「気持ちよくって我慢汁が溢れてきたんだ」 「う……そ、そんな……素直に気持ちいいって……」 「筮も、俺の舌で気持ち良くなってくれたら嬉しいな」 「ば、バカぁっ! バカバカ、そういう事バカ正直に 言わないでよぉっ、は、恥ずかしいじゃんか……くぅ!」 腰を震わせながら、威勢よくペニスを舐めて照れを隠す筮。 「れろっ、ちゅる、れろっ、くぅ……くひぃ……れろっ、 ねえ那由太ぁ……れろっ、ちゅぷぅ……!」 「おまんこ……れろっ、気持ち良くなってきちゃったぁ。 ぴちゅ、れろっ、これ以上はパンツ濡れちゃうから…… 直舐めして欲しいよ……れろっ、れろぉんっ……」 こんなに素直な女の子がどうしてモテないなんて自虐を言うのだろうか。 シックスナインを通じて改めて思い知らされる。 筮の可愛さ。優しさ。真っ直ぐさ。 火傷の痕なんて気にならないくらいの魅力じゃないか。 「あっ……ひゃっ、きゃひいいっ……!?」 下着を脱ぎ取って、直接割れ目に舌を添える。 すでにその筋は淫らな熱気を帯びており、パンツ越しの自分の唾液だけとは思えないほどに濡れそぼっていた。 「ちゅっ、ずる……ちゅっ……!」 「ひぁっ……!? くぅ、お、おまんこ……直接来たぁ! んっ、舌で……おまんこぺろぺろされてるぅ……!」 「はふっ、ひ……んっ、ちゅぷ、あたひ……ちゅるっ、 おちんこ咥えながら……あっ、んっ、ちゅぶっ…… おまんこ舐められてるっ、ひぃ、ちゅぷ……んちゅっ」 「すごいよこれぇ……スケベ過ぎ、性器の舐め合いっこ なんて、こんなのいけない事だよぉ……ちゅぷ、くちゅ、 はっ、あっ、あっ……」 「嫌だったら言ってくれていいからな。 無理矢理するつもりはないから」 「ううん、嫌じゃないっ、全然嫌じゃないよっ……!」 「むしろ……幸せ、かも……ちゅぷ、こんなあたしでも、 おちんちん咥えさせてもらえて、おまんこ舐めて もらえて……んちゅ、ちゅぱぁっ……!」 「普通の女の子がしてるような、スケベな事……ちゅぷ、 出来てるって思うと……ちゅず、あたひっ、ちゅる、 すごく、幸せな気持ちになるんだよ……? ちゅっ」 いつしか舌だけでなく口腔を使ってペニスを刺激し始めている筮。 それだけ積極的にこの行為を受け入れているのだろう。幸せだなんて言葉を聞いたら、男として喜ばずにはいられない。 「ちゅっ、ずちゅ……ちゅっ!」 「くちゅぷ、はふっ、お、おまんこ……気持ちいいねっ、 ちゅるっ、やっぱ、パンツ越しより、直に舐められた 方が……絶対気持ちいいよっ……くひぃんっ」 「あっ、んっ、恥ずかしいんだよ……? パンツの時ですらかなり顔真っ赤だったのに…… おまんこ目の前に見せつけて、しかも舐められて……」 「でも……はふっ、ちゅぷ、幸せだなんて思っちゃう んだから……おかしいよね、あたし……ちゅぱっ! 変態、なのかな……ちゅぷ、ずちゅっ!」 「もしそうなら、俺も変態だ。筮に気持ち良くして もらって、すごく幸せだよ」 「ああん、変態同士のぺろぺろエッチ……いやらしいねっ、 んちゅ、ちんこ舐めて、まんこ舐められて……はふっ、 幸せ感じて……あたし達変なのぉ……あぁん」 「那由太ぁ……ホントにおちんちん気持ち良くなってる? ちゅむ、ぴちゅ、気遣ってそんな事言ってない……?」 「あたし初めてだから……ちゅぱっ、自信無いよ……。 うまく出来てるのかな……ちゅずっ、あたし、 頑張って那由太のおちんちん気持ち良くさせたいよぉ」 「ああ、上手だよ。さっきより大きくなってるだろ?」 「あふっ、んちゅ……ぴちゅ、あ……ホントだ。 そう言えば、最初よりふっくらしてる……かな」 「舐める前も結構勃起してたみたいだけど、 その時とは桁違いに熱くて硬くて……太い……! あたしが……ちゅぱちゅぱしたから?」 「そう。もっとやって欲しい」 「う、うんっ、うんっ! やる……頑張る……! あたしだけ気持ち良くさせてもらって悪いもんっ……! あたし頑張るよ、おちんちんもっと勃起させるよぉ」 自分だけ気持ち良くさせてもらって悪い――俺がさっき言った言葉だ。 いつしか立場が逆だと自覚してしまうくらい、筮はクンニで欲情してたんだな。 俺だって十分興奮しているのに。筮の口奉仕ですっかり昂っているのに。 「んちゅっぱっ! んちゅっぱっ! 勃起ぃ、勃起ぃっ! んちゅっぱっ! んちゅっぱっ! んちゅっぱっ!」 「もっほ、おひんひん、勃起ひてぇっ、ちゅぷっ、ぴちゅ、 んちゅぅ、くちゅ、ぼっひぼっひっ、ちゅぱぱっ……! おひんひんぼっひひへぇっ、ちゅぷぅ、くちゅむぅ……」 「――んちゅず~~~~~~~~~~っっっっぱ!! ――んちゅず~~~~~~~~~~っっっっぱ!!」 まるでお餅を引き伸ばすかのようにゆっくり首を上昇させ、頬をすぼめながらバキュームフェラで陰茎を吸い上げていく。 「ちゅぷっ、んっ、んちゅむっ……んっ!!」 そのプレイに、俺も激しい舌遣いで応えた。 「くひゃふぅ、ちゅむぅ、おまんこ気持ひいぃ……! ちゅむ、おひんひんフェラしながら、おまんこ 感じちゃってりゅぅ、んちゅぶぅ、ちゅっぷっ!」 「あたひも、その分頑張んないほ……ちゅずずずずっ! じゅっぷちゅむ~~~~~~~~~~っっっっぱ!! じゅっぷちゅむ~~~~~~~~~~っっっっぱ!!」 筮の真心が、ペニスにしっかりと伝わる。 屹立を促し、精道を拡げ、絶頂を導く。 「くちゅむっ、ちゅむっ、ぴちゅぅ、はふっ、ぼっひっ! すごひじゃんこれ……最初と全然違ふっ、ちゅぷむっ、 唇から……はみ出る……ちゅぱっ、んくちゅっ!」 「ちゅずっ、ちゅっ……そろそろ、イキそうだ……!」 「んくふっ、はふちゅ……イクって……ちゅむっ、 射精、するの……? ぴちゅっ、んっちゅっ……!」 「い、いいよっ、来て、待ってたそれっ……! あたし射精見てみたいっ! 普通の女の子がしてる みたいに、おちんちんイカせてあげたいっ……!」 「口の中に出していいからっ……ちゅぷっ、こん中ぁっ、 あむちゅっ、ちゅずずっ、好きなだけ精液で汚ひへ いいからぁっ、あむちゅっぷっ!」 「はぁっ、はぁっ……ちゅっ、ずちゅっ!」 「ちゅぱちゅぱっ、くちゅぱっ! 出ひてっ、イってっ! おひんひんっ、思いっ切り……あらひの口ん中に、 出ひへええっ、むっちゅっず~~~~~~~っっっ!!」 特大の吸引に、充填された精液が勢いよく吊り上げられ―― 「ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん! ずっぽん!」 そのリズムが吐精の脈動と重なった。 「ちゅぷっ、くちゅむっ、ちゅっずっ……ちゅずっ!!」 「んっ、んっ、んちゅずっずずっずずずっずっずっ!!! んんむふじゅぶぶ~~~~~~~~~~っぷぱぁっ!!」 「んっ!? んっ!? ちゅっ!? むちゅっ!? ちゅぶっ!? ぶじゅ!? んちゅぶ!? むちゅ!?」 瞬間、筮の口の中で欲望が勢いよく爆ぜる。 「んちゅぶっ!? 熱ひの来はぁっ!! ちゅむじゅっ! これ、ドロドロの……ちゅぷっ、むちゅずずっ、くひっ、 ちゅっぷっ、みちゅずずっ!! 精液っ……ちゅっ!」 「射精ひてるっ、おひんひん、ビクビクしながら、射精っ、 んちゅむっ、あふっ、待っへ、口ん中にいてっ、ちゅむ、 いい子らから……暴れないれっ……あむあむ、はむぅ!」 同時に、筮の恥部も限界を迎えていた。 「んっ、んっ、んっ……! あふっ、あらひっ、くふうっ、 精液出されながら……あふっ、お潮吹いてる……ちゅ、 ちんこ絶頂受け止めながら、まんこ絶頂してるぅ……」 「んっ、んっ、くふっ、んっ、んっ……あふっ、ちゅっ、 おまんこビクビク止まんないっ、んっ、んっ、んっ、 ちんこのビクビクで、んっ、んっ、おまんこビクビクぅ」 互いの性器が同時に震動し、快楽の波長を伝え合う。 俺はその官能的な時間を一秒でも長く味わおうと、奥底に溜まった淫液を全て吐き出すつもりで大胆に打ち震え続けた。 「んっ、んっ……ちゅぶっ、ぶちゅ……ちゅずずっ……! はふぅ、ずずずずず…………ずずずずずーー…………」 「うっ……あっ…………!?」 「あふっ、んっ、ぶくぶくっ、ぶくぶくぶく…………! あむあむ、んっくんっくんっくんっくん……ごくごくっ、 こくこくこく…………」 「――んっくんっ! ぷはぁっ……はっ、はっ、はっ……。 精液……飲んだぁ……あっふうぅ……んっ、んっ」 「はぁ、はぁ……そこまでしなくてもいいのに……」 「んっ、言ったじゃん……味も知りたいって……。 んっ、はふっ、ちゅぷ……んくちゅぅ……」 「おちんちんは基本味ゼロだったけど……精液は 味すんだね……臭いもツーンてしてて……あふっ、 全体的にエロいよ……」 「筮のお潮は無味無臭だった」 「ひいっ!? 飲んだの!?」 「顔にかかったから、いくらかは」 「ご、ごめんっ、イクつもりなかったんだけど……! まんこ舐められてるの気持ち良くって、フェラ中だし、 なんか変な気分になって……それで…………」 「いや、いいよ。筮も飲んでくれたし」 「う、うん……ごめんね。 あと、いっぱい出してくれてありがとね。 濃厚ザーメン……おいしゅうございました……ちゅっ」 礼儀正しくペニスにキスをして、満足感を示す筮。 その仕草に思わず第二陣の欲望が込み上げて来そうになったが、さすがにそれは自重した―― 「……もう落ち着いたか?」 「う、うん……ごめんね、シャワー借りちゃって」 「あのまま帰すわけにいかないからな」 「色々……ありがと。助かった」 「約束忘れないでくれよ?」 「うん……本、書き上がったらちゃんと見せるよ」 「ホントはかなり恥ずかしいんだけど…… ま、まあ、それよりもっと恥ずかしい事 さっきしたわけだしね」 俯いて目線を泳がせる筮だったが、心なしかどこか嬉しそうに見える。 「それじゃ、また明日」 「ああ、じゃあな」 少しだけ不思議な感じだ。 友人の筮と、男女の関係を築いてしまって……。 でも、筮は笑ってくれた。幸せって言ってくれた。 あの筮が。自虐的で自分に自信を持てていない筮が。 「……………………」 俺が筮にしてあげられる事って……そういう事なのかな。 俺はそれをどう感じてる?厄介か? 面倒か? それとも―― 翌朝、登校すると―― 「……よ」 先に来ていた筮に挨拶された。 「お、おはよう……」 昨日あんな事があって……少し気まずいな。 平然と接するつもりだったけど、本人を前にしてしまうとどうも調子が狂ってしまう。 「なーにビビってんのよっ」 「ぐっ……」 「いいじゃん。楽しかったし。後悔なんてしてないし。 いい思い出にして欲しいな」 「………………」 「……まあ、そうだな」 「ねっ!」 気持ちいいくらいいい笑顔じゃないか。 筮のそんな顔、久しぶりに見た気がする。 昨夜の一件があってのその表情であるならば。あの行為にどれだけの価値が詰まっていた事だろう。 「二人とも、どうしたのー?」 「あ、つつじ子。おはよ」 「朝からなんかニヤニヤしてる?」 「し、してないっ!」 「何かあったのよ、きっと」 「何もないっ!」 「そうやってムキになって否定するところが なんだか怪しいですねぇ……」 「え? 那由太君と筮ちゃんがムキムキになったって?」 「筋肉ダルマ!?」 「へー、おまえらボディビルのコンテストで優勝したのか。 すげーな」 「間違った連想ゲームはやめてくれ!」 朝からトチ狂った弄られ方をされても……。 「……ぇへへ」 なぜか楽しそうな筮なのであった―― 「――勧善懲悪っていうか。 そういうのは意識してる……かな」 筮の自論を聞きながら、帰り道を歩く。 「創作物なんだからさ。読んでて楽しい方がいいでしょ?」 「少し現実離れしてても……スカッと出来るなら まあいいかなって。その方が書きやすいし」 「なるほどねぇ」 「正義のヒーローが、悪者をやっつけるお話とか。 子供っぽいかもしれないけど、基本はそういう 単純なのでいいんだよ。小難しいのは一切ナシ」 「……って、まあ素人のあたしが何偉そうに語ってんだ って話だけどさ……。所詮趣味でやってるだけだし…… ゾンビ女だし……まだ処女だし……うじうじ……」 なんか自虐をギャグにしてないか? 「でもなかなか興味深い話だな。 俺は物語なんて書いた事無いし……周りで創作活動 してるやつなんて筮以外いないし」 「やっぱそういうこだわりみたいなのってあるんだな。 カッコいいじゃん」 「えへへぇ……よせやい、褒めるなやい……♪」 これでもかってくらいにやけてる。表情豊かな筮は可愛いな。 「……うん。いい趣味なんだな」 「んー?」 「いい顔してるもん。楽しそうに話してる。 ネガティブな筮じゃない」 「……執筆には、火傷の痕とか関係無いからね」 「筮が考えてるほど、その傷跡が関係してくる事なんて 多くないよ」 「そうかな。わかんない。 逃げてばっかだったから」 「執筆で得た明るさが、逃げずに一歩踏み出す勇気に 繋がるといいな」 「ふふっ、カッコいいじゃん」 俺の言葉を頭ごなしに否定しないで、聞き入れてくれる筮も十分カッコいいよ。 「勇気かぁ……。うん、そういうの 今までのあたしには全然無かったな」 「すぐに変われる自信はないけど……でも、一個あるかな。 勇気出して、一歩前に踏み出してみたい事」 「へー……どんな事だ?」 「……今日の夜、またお邪魔していい?」 「え…………」 悪戯っぽい口調で軽く言いたかったんだろう。 でもやはり遠慮や緊張が混じってしまったようで。彼女の誘い文句は少しだけ他の言葉よりも宙に浮いていた。 「まさか、また執筆のためのいかがわしい情報収集か?」 「ううん、違う。そういうのは……関係無いかな」 「じゃあなんだよ」 「……今言わないとダメ?」 夕日はどうしてこんなにも女性を美しく彩るのだろう。 「…………わかったよ」 「昨日と同じ時間に。ノックだけするから」 「ああ、わかった」 「……それじゃ、あたし先帰るっ」 「え、おい、筮!?」 「えへへ、あたし今顔赤過ぎて目合わせらんないよ。 熱くて……火傷の痕になっちゃうかもね!」 「あ…………」 俯いたまま走り去ってしまった。 「………………」 勇気を出して踏み出したい事……か。 俺はそれを受け入れてあげられるだろうか。 俺にとって、勇気を出して一歩前に進みたい事ってなんだろうか。 きっと……それは……それらは……。 「……あと2ページか」 課題の英訳をこなしながら、時計をちらちらと確認する。 余計な事は考えず、辞書とノートの往復のみに注力し、ペンを動かし続ける。 不思議と心地よい時間だった。 「……鍵空いてるよ」 唇を舌で湿らせて、ゆっくりと振り返る―― 「……何してた?」 「英語の課題。プリントの英訳のヤツ」 「ああ、あれ」 「もうやったか?」 「ううん。やんない。諦めてる」 「なんでだよっ」 「今日はそういう時間ないから」 「……? 帰ってからこの時間までそんな 忙しかったのか? 何してたんだよ?」 「ずっと悶々としてた」 「はあ?」 「勇気を出す練習。言葉考えたり。 鏡に向かって表情確認したり」 「………………」 「ずーーっとね。頑張ってた。バカみたいでしょ。 ミイラ女のくせにね」 「……すごく素敵だと思う」 「さ……本番だ。練習の成果、見たい?」 「瞬きしないでしっかり見させてもらうよ」 身体をずらして、筮に真っ直ぐと向き合う。 それが彼女を真剣な表情にさせる引き金となる。 「昨日ああいう事して……一つ目標が出来たんだ。 それを聞いて欲しくて」 「うん」 「この身体は、ずっと昔からコンプレックスで…… そのせいであたし、性格ブスになって…… いつもマイナス思考で……」 「でも昨日は楽しかったな。嬉しかったし……幸せだった」 「だからだと思う。 前向きになる事なんて今までなかったけど、 目標とか持つくらいになっちゃって……」 「笑われるの怖いし、嫌われるの怖いし、 ドン引きされるの怖いし。それでまた元通りの ネガティブブスになるの怖いよ」 「でも言うの。今しかないと思うし…… ここで勇気出さないと絶対後悔するし、 一生臆病のままだと思うから」 「――口じゃなくて……自分の身体で…… あそこでっ、イカせてあげたいよぉっ……っっ」 「泣くなよ」 「だっでぇ……ぐずっ、あだじみだいなゾンビーが…… 何言っでんだっで感じじゃん……っっ」 「そんな事ないから」 「もっどもっど……ぐす、男の人を満足させてあげだいっ。 ゼッグズ……じだいっ……!」 「執筆のためとか、そういうんじゃなぐでぇ…… ぐずんっ! 女どじでの、望みでずっ……!!」 「そっか」 「男なら誰でもいいわけじゃないのっ……! 那由太がいいのっ、那由太じゃないどダメなんだよっ?」 「那由太どね? ゼッグズじでね? 気持ぢ良ぐざぜであげだら……ぞれが一番幸ぜ~……」 「おう」 「あだじだっで女だぼんっ……! ぞういう事、望んだっでいいじゃんがぁ……ぐひいっ!」 「そうだそうだ」 「泣がないっで決めでだのに~~~っ」 包帯に涙が滲む。 染み込んでいくその波状が、彼女を蝕む鎖を全て浄化してくれればいいのに。 「よっしゃ、やろう」 「……ホンド?」 「俺、筮の事好きだよ」 「ゔん」 「ちゃんと考えた」 「ぞっが」 「愛してる。だからやろう。おかしくないよな?」 「おがじぐない~」 今夜も筮の許諾をいただいた。 おかしくない、との事だ。 よかった。俺の愛情、本人公認だ―― 「……どうだ?」 「……ん。一応、終わった」 「心の準備、出来てるな?」 「ゔぅぅ……セックスよりも緊張するな……」 「恋人同士なんだからさ。 いつかは知らないといけない事だし」 「……うん」 「……受け入れたいんだ」 「……信じてるもん。だから……平気」 「あたしにとって一番勇気のいる事だけど…… 那由太が相手なら……頑張れる……!」 タイミングは筮に任せてある。 彼女の気持ちが整った時、そのスイッチは押されるだろう。 「すー…………はぁ…………すー…………はぁ…………」 覚悟を示す深呼吸をいくつか経て―― 「那由太……」 「ん」 「愛してる。全部知って」 「俺も愛してるよ。全部教えてくれ」 ――筮は照明のスイッチを押した。 「ううっ……く~~~っ…………!!」 灯りに照らされて真っ先に目に入ってきたのは、筮の恥ずかしそうな顔。 「ひっ……やだ……こ、怖いっ……! ううっ…………うひぃ…………!!」 そして震える身体。 「電気、やっぱり消そうよっ……! この傷見られるの……あたし耐えらんないって……!」 「筮の身体、見たいんだ」 「見せるほどのもんじゃない……ってか、 こんな気持ち悪くて醜い身体なんか……」 「俺の好きな筮を悪く言わないでくれ」 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……! う、うん……」 少しだけ震えが治まっただろうか。 それでもまだ小刻みに怯えている。 それだけ大きいんだ。彼女の苦悩は。 「筮…………」 本当はもっと明るくして、筮の全てを目に焼き付けたいんだけど。 どうしてもこれ以上は明るくしたくないらしい。筮の気持ちもわからなくはないので、今回はその意見を尊重しよう。 「誰にも見せた事無いの……。 ホントに……見せるの嫌で……」 「うん」 「普段も、お風呂に入る時、あんまり鏡見たく ないんだ……目に入れたくないっていうか……」 「うん」 「包帯巻く瞬間が……一番惨めで……。 なんでこんな身体なんだろうって……いっつも……」 「うん」 「――ああもう、話聞いてる!? 本人ですら見たがってない身体なんだよ!? そんなガン見しないでよぉっ!」 「俺はなんとも思わないよ」 「う、嘘だよそれ……気遣ってるだけ……。 少なからず気持ち悪いって思うでしょ……」 「またそういう事言って」 「だって……ネガティブモードにもなるよ……。 正直もう泣きそうなんだもん」 「また?」 「それだけコンプレックスなんだよ……? 好きな人の前で裸になるために…… どれだけ勇気が必要か……」 「服着たままのフェラとか、セックスとかの方が、 まだ怖くないよ……むしろそういうのはあたしの方から 率先してヤりたいくらいだし」 「好きな人でも……むしろ好きな人だからこそ 怖いの……こんな身体じゃ嫌われちゃうって思えて」 「せっかくうまくいった恋心が……この身体のせいで 壊れちゃったら……あたしもうどうしていいか わかんないよ……」 「俺がそんな事で筮を嫌うと思うか?」 「信じてるけどぉ……! でも、那由太がどうこうって 問題じゃなくて……あたしが勝手に弱気になっちゃうの」 「じゃあ泣くか? また泣くか?」 「む……」 「な、泣かないっ……! 泣き虫じゃないもん……! 泣き顔可愛くないし……もう泣かないよっ!」 涙目ではあるが、歯を食いしばって目に溜まった雫を流すまいとしている。 戦っているのだ。自分の弱点と。 長年彼女を追い詰めてきた、コンプレックスと。 「全部終わったら……きっと良かったって思えるよ」 「ホント……?」 「そういうセックスをしよう」 「……うん」 隆起したペニスをゆっくりと彼女の身体に近付ける。 「あ、あのね……あたし、セックス初めてだよ……」 「知ってるよ」 「えへへ……あたしモテないぃ……」 「筮の初めてをもらえて、俺は幸せだ」 「今までずっと寂しかったのも……那由太に初めてを 捧げるためだって考えたら……少しは報われるよ」 その言葉が、男としての責任感を刺激する。 この時間を大切にしよう。優しく、煌びやかなものにしよう。 今まで筮が抱えてきた辛苦を、すべて帳消しにするほどに―― 「くぅ…………ひっ、くひっ……んぐぅ…………!!」 抵抗感に満ちた肉裂を、亀頭でゆっくりと圧し分けていく。 「はぐぅ……んぐっ、ひっ……くうっ、あっ……ぐぅ! ひっ……ひぎぎっ……ぐぎひぃ……いぎぎ…………!!」 「筮っ……大丈夫かっ……!?」 「んっ、平気っ……はっ、はっ、はっ……ぐぅ……! こんなん……肌見られるのよりも、全然……楽だし……」 「はっ、はっ……肉体の痛みなんて……心の痛みに 比べたら……グッて我慢すればいいだけだもんね……!」 「それに……はふっ、この痛みの先には……嬉しい事が、 幸せな事が待ってるから……あっ、はふっ、むしろ、 んっ、どんと来いって感じぃ……ふぎぎっ……!」 破瓜の血が痛々しく散っている。 それでも俺は肉棒を緩めたりしない。 もちろん肉欲が後押ししている部分もあるが……。 何よりも、この結合は筮と深い男女関係になるためのものなんだ。 だから腰を止めない。痛いのをわかってて、もっと奥を目指す。 「ほ、ほら……もっと来なよ……あふっ! 遠慮しないでさ……おまんこの奥……おいでって……」 筮もその覚悟を見せてくれている。余計な優しさは不要だ。 「ああ……ゆっくり入れるから」 「う、ん……くうっ、はっ、はっ……ぐぅ……! 一番奥まで……ちゃんと来てね……はっ、はっ……」 「子宮のとこで……那由太のおちんちんと繋がりたいよ。 おまんこの芯で、おちんちん受け止めたい……!」 「わかった……筮、力抜いてくれ……」 根元までしっかりと結ばれるために、さらに腰を突き出した。 「んっ、ぐっひいっ……はぐうっ、んっ、ふっ……! すご……効くねこれ……! おまんこ、盛り上がるっ、 おちんちんで膨れ上がるよぉっ……!!」 「あんな太い勃起ちんこ入れてんだもん……! あたしのおまんこ、はち切れないか心配……! はっ、はっ、はっ……!」 「筮が思ってるより、中は広大だ……」 「んんっ、だといいんだけど……! 那由太、あたしのおまんこが小っちゃ過ぎて、 勃起我慢するとか無しだよ……?」 「おまんこ破裂させちゃっていいからね……? あたし、好きな人のちんこ遠慮させるくらいなら、 おまんこ破裂させる方がまだマシぃ……」 「気持ちは有難いけど、そんな事させないって……!」 「というか……我慢なんかしてないよ……! 筮の中、気持ち良くって……どんどんおっきくなるっ」 「う、うん……いいよ、勃起大歓迎だよ……。 好きなだけ太くさせて? おまんこ……おちんちんでいっぱいにして……?」 「はっ、ふうっ、フル勃起させたげるから…… あたし何すればいいのかな? おまんこあんまり 自由自在じゃないけど、出来る事してあげたいよぉ」 「はぁ……はぁ……じゃあ、腰動かしていいか……?」 「いいよぉ……平気。もう痛くないから……。 勃起のために……おちんちん好きにして……。 おまんこ好きに使ってぇ…………」 初挿入でふにゃふにゃした筮の顔を可愛く思いながら、俺は少しずつ抽送の幅を大きくしていった。 「んっ……ふぅ…………んっ、んっ……! くふうっ……あっ、あっ……あっ、あっ……!」 「筮、痛くないか?」 「ちょっとヒリヒリするけど……へ、平気……! んっ、あふっ、くふぅ…………!」 「この痛みも……お、女の、喜び、だもんね……! この身体で、それが味わえるんだもん……はふっ、 むしろ、歓迎しなきゃ……あっ、あっ……!」 痛めつけるつもりは毛頭ないので、出来る限り刺激を抑えているのだが……。 そっか。女の喜び、か。初めてを奪うってのは、それだけの事なんだな。 一往復ごとに、男の責任が伴うんだ。それもまた喜びと思って、俺もしっかり噛み締めよう。 「はぐぅ……ん、ち、ちんこ…… またちょっと勃起した……?」 「かも……。中がどんどん熱くなってる……」 「おまんこの中……? そ、そうかな……自分じゃわかんないけど…… 熱くなってんの……?」 「ああ……。いい気持ちだ……」 「う、うん……そっかそっか……。あったかくしてる つもりないんだけど、ちんこ気持ち良くなってる なら……グッジョブあたしのおまんこ……!」 「勃起、いくらでも欲しいから……どんどんふっくら させてね……? 初めてのセックスなんだし…… めちゃくちゃガッツリした思い出にしたいの」 「結構エロいだろ、お前」 「う、うるさいな……! 後から初エッチの事思い出した時、 アツアツでラブラブの方がいいじゃんか……!」 「筮の言うアツアツでラブラブのセックスって、 めちゃくちゃガッツリしてる感じなんだ」 「そういうもんでしょ? 違うの?」 「なんかもっとイチャイチャしてるようなのじゃん?」 「イチャイチャ系は最後でいいの。 入れてる時はガツガツ系がいいの」 そっか。男としては願っても無い事だけども。 「痛かったりもするけど、それ以上に気持ち良くて、 幸せで……そういうエッチ出来たら、あたし…… 自分の身体、少しは好きになれそうで……」 「今のところ、完璧だよぉ……。幸せ過ぎて ふわふわしてる……。飛んでっちゃわないように、 ちゃんとおちんちんで押さえ付けてて」 「任せとけ」 筮はこれまでずっと辛い思いをしてきたはずだ。 きっとその分幸せになっていい。 俺のペニスでそれを導く事が出来るなら、俺が筮を愛した意味はそこにあったと言えるかもしれない。 「んっ、あはあっ! あっ、あっ、くひゃっ……! ひゃふぅっ、あっ、あっ、あっ…………ああっ!」 「はっ…………はっ…………っ、っ……!」 「お、おちんちん、んんんっ、来たっ……! 子宮のとこ、た、多分届いてる……ふくぅっ! 今、当たってるとこ、多分そうっ……!」 「はぁっ、はぁっ、ここが筮の一番奥かっ……!」 「あぁぁんっ、すごっ……んんっ、くううっ! おちんちんで、子宮コツコツされるとか、 あたし史上一番の事件だよっ……うっくぅ!」 「こんな日が来るなんて……はぁっ、はぁっ……! ああっ、那由太ぁっ、あたしおまんこ熱いのぉっ! 身体中が……熱いっ、あっ、あぁんっ、かはあっ!!」 俺だって熱い。 筮の喜悦と快楽を同時に感じられて……興奮しないわけない。燃えるに決まってる。 「きゃふっ、子宮にちんぽぉっ……ひいっ!! ちんぽ気持ちいいっ、あっ、あっ、んっ!!」 「幸せだよっ……んっ、あぁんっ、あたし、ひっ、 ちんぽで、セックスで、すごくあったかい気持ちに なってるっ、ひっ、あひぃんっ……!」 「エロくて、スケベなのかもしんないけどっ……、 あっ、んっ、こんな事今まで無かったから……はふっ、 いっぱい、声出ちゃって、涙も……ちょっと出て……」 「筮っ……! 俺……筮の身体、好きだからっ……!」 「うんっ……はっ、はっ……うんっ……!」 「筮も……俺の好きな筮の身体…… 好きになれるといいなっ……っ!」 「うんっ、うんっ、うんっ……! ありがと……はっ、はっ……そうなりたいっ……!」 理性が性欲で染まっていくから、伝えられる言葉が単調で、率直になる。 やがて言語中枢は崩壊し、行為で直接心を伝える運びとなった。 「あっ、あっ、ち、ちんぽ、激しっ、ひっ……! んぐっ、ふあっ……おまんこに、勃起ちんぽっ、 深く来てるよっ、あっ、あっ、あっ……!!」 「そこっ、子宮のとこっ、お潮の通り道っ、 ちんぽでガシンガシンってされるのいいっ! 初めて、だよっ、こんな気持ちいいのっ、初めてっ!」 「筮……俺も、気持ち良くって……はぁっ、はぁっ、 そろそろ限界だっ……!」 「うんっ、出してっ、イってっ……!! あたし、中出ししてもらいたいっ、こんな立派な おちんぽに中出しされたら、女として嬉し過ぎるよっ!」 「自分のおまんこで、はふっ、好きな人のおちんぽを 射精に導けるって、すごい自信になるのっ……! 胸張って歩けるんだよっ、だ、だから、ひっ!」 「だから精液ちょうだいっ……! おまんこにっ、 濃厚ザーメンいっぱい出してっ、欲しい欲しい欲しいっ! お願いっ、中出しぃっ、中出ししてぇっ……!!」 「はぁっ、はぁっ、もちろん、そのつもりだっ……!」 勇気を出して、涙ながらにお願いされたんだ。ここで応えなきゃ男じゃない。筮の恋人じゃない。 「はっ、はっ、出すぞ、筮っ……!」 「くひっ、ひゃっ……んっ、おまんこの準備、 いつでもオッケーだよぉっ、那由太のザー汁っ、 全部受け止めるからっ、はっ、はっ、ひっ!」 トロトロに蕩けた筮の顔を捉えながら、俺のペニスは一気に頂点へと駆け上がっていき―― 「ああっ! ああっ! ああっ! ああっ! ああっ! ああっ! ああっ! ああっ!」 「ちんぽ来るっ、震えて、ぐぐぐーって、ひいっ!! 射精っ、来るっ、あっ、あっ、あっ、あっ、ちんぽっ、 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あっ――」 「――あああぁあんっ、あっ、あっ、んはああああっ!!? あひっ、熱々ザーメンっ、あっ、あっ、来たあぁっ!! あっ、あっ、ああああああああああああっっ!!?」 彼女の中で、凄まじい熱量が爆弾のように瞬時に弾けた。 「射精来たぁっ!! ちんぽ射精っ、ひっ、あっひっ!? おまんこの中でドクドクしてるっ、脈打ってるっ!! ビュルって震えるたびに、精液出してるうっ!!」 「これが中出しっ、ひあっ、あっ、あっ、ちんぽすごひっ、 こんな、すご過ぎっ、まんこ震えるっ! ちんぽの ドピュドピュで、まんこ揺れまくっちゃうよぉ!」 「はあっ、はあっ、くうっ!!」 脈動が止まらない。 筮への想いが白濁となって、俺の芯から先端へと放たれ続けていく。 「んっひっ、勃起ちんぽっ! 完全勃起ちんぽっ! フル勃起ちんぽっ! まだ出てるよっ、ひあっ!! ドックンってなったら、ブリブリーって精液がっ……」 「あっ、んひっ、あたしのおまんこん中っ、真っ白に なるっ、ザー汁でいっぱいになって、たぷたぷの 精液タンクになっちゃうよほぉっ、あっ、ああんっ!!」 「はっ、はっ、はっくぅ……筮も……はっ、はっ、 イってるのか……!」 「あ、当たり前じゃんかぁ……あふぅ、んっ、こんな、 気持ち良くって幸せなセックスで、イカないおまんこ じゃないって……あふっ、あぁんっ!」 「那由太の精液が嬉し過ぎて……おまんこ、ぴゅぴゅって イっちゃってるのっ、ふひっ、ひぃ、中出し射精で、 まんイキしてるのぉっ、あっ、んんっ……んんっ!!」 ガクガクと下半身を震わせながら、筮は顔や手を当てもなく振り回してその喜悦を表現している。 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……!!」 「んっ……あふっ、んっ、んっ……! おまんこたぷたぷ……ふひっ、ふっひぃ……! お腹、ちょっとぽっこりしちゃってるかも……」 「はぁ、はぁ……かなり出しちゃったもんな……」 「うん……。でも嬉しいよ……。 いっぱい射精してくれてありがとね……。 もらったザーメンは……大切にするから」 「いや、出しちゃっていいから」 「んへえ…………あ、待ってっ! ちんぽ抜かないでっ!」 「え?」 「もうちょっとこのまま……」 「な、なんで……?」 「ダメ……?」 「……ダメじゃないよ」 出し過ぎたからな。すぐに硬さを失ってふにゃふにゃになると思うが、それまでこの温もりを味わっていよう。 「ドエロいセックスした後はね……? こうして……イチャイチャすんの」 「そうだったな」 「後で一緒にお風呂入ろ?」 「お互い汗とかでベタベタだもんな」 「替えの下着持ってきてるんだ。 準備いいでしょ?」 「ヤる気満々で来たってわけだ」 「うん……ちゃんと最後まで全部出来て良かったぁ……」 「パンツだけじゃなくてね、替えの包帯も持って きてるんだよ?」 「あ、巻くのは自分で出来るからね。 こう見えてすごいスピードで巻けるんだよ。 長年の特訓の成果なの……」 「少しでも早く隠したいって思ってて…… そしたら……めっちゃ早くなった……」 「……俺も手伝っていい?」 「………………」 「……うん。今日は那由太に巻いてもらおっかな……」 その夜―― 俺は筮を解放したのだった―― 「――那由太っ」 「ん?」 「もう帰る?」 「ああ、そのつもり」 「じゃあさ、ちょっと付き合って欲しいんだけど」 「……ん?」 「ついて来て」 そう言われて、向かった先は―― 「屋上…………」 夕焼けが世界を染めているのを一望できる場所。 「どうして屋上に?」 「ん……別に二人っきりになれるところなら どこでもよかったんだけど」 「せっかくだし……風を感じられる方が いいかなって思って」 「…………?」 二人っきりになれる場所……。 「もしかして、ここでするつもりか?」 「おお、いいね。開放感あって気持ちよさそう」 「ほんとスケベだな筮」 「なんで、いいじゃんか。 那由太はしたくないの?」 「いや……したいけど」 「んふふ。オトコノコだねぇ」 あれから毎晩セックスのために俺の部屋に通ってる筮に言われたくない。 「でもざーんねん。今はエッチするんじゃないのさ」 「じゃあ何しにここに来たんだよ」 「約束を果たそうと思って」 「約束って……あ、もしかして」 「うん」 恥ずかしそうな、でもそれ以上に嬉しそうな表情だ。 「そっか……楽しみだ」 「那由太のおかげなんだ」 「そうなのか?」 「那由太があたしを受け入れてくれて……。 こんな身体でも、幸せになれるんだって知った」 「まだ全部平気になったわけじゃないけど…… 今は、少しずつ自分を認めるようにしてるよ」 「ああ」 「そんな……喜びとか、嬉しさとか、幸せとか。 そういうのを投影したの。それは、那由太と会って、 変われたから出来た事なんだよ」 「……そっか」 「やっぱ、ハッピーエンドが一番じゃん。 悪いヤツやっつけて……スカッと出来て…… それで最後は楽しい気持ちで終わらなきゃ」 「そのためには、作者のあたしもハッピーじゃなきゃね。 自分の人生が幸福だから、 ハッピーエンドの物語が書けるんだ」 「だから……那由太のおかげ」 「……………………」 筮が今まで知らなかった事。味わわなかった事。逃げてきた事。目を背けてきた事。諦めてきた事。 それらを得て、こんなにも輝いて。力になれた事を心から光栄に思う。 「那由太……ホント色々、ありがとね」 「どういたしまして」 その作品は、きっと今の筮の集大成だ。 最初は興味本位で読みたがったものだけど。今は彼氏として、彼女の隣で幸福を噛み締める立場として。 その作品をしっかりと感じよう。 「えっと……これ、なんだけど……」 筮が取り出したのは―― 「絵本……?」 「う、うん……そう」 「絵本か……そうか、文章だけじゃなくって 絵も描いてたのか……」 「あ、あはは……やっぱ恥ずかしいね。 こう改まっちゃうと……なんか……」 「どうして絵本なんだ?」 「もともとは……幼馴染に読み聞かせてたんだけど。 その名残かな……」 「絵、上手じゃないか」 「は、恥ずかしいってば。照れさせないでよっ……」 セックスした仲で何言ってんだか。 「そんなに長くない話だから…… すぐ読み終えちゃうと思う」 「……今ここで、読んでいいか?」 「うん……」 ゆっくりとその絵本を手に取って―― 俺は、筮の真意に触れた―― 「タイトルは――」 「――“贖罪”」 「ある町に、一人の女の子がいました」 「その子はいっつもぐうたらで、ずるくて、うそつきで。 町の皆に迷惑ばかりかけています」 「怒った町の人達は、その子をこらしめようと考えました」 「女の子をグーで殴ります。女の子はまだ改心しません」 「女の子を火であぶります。女の子はまだ改心しません」 「女の子をペニスで犯します。女の子はまだ改心しません」 「ふてぶてしい女の子は、何をやっても動じないのです」 「それどころか、町で一番の男の子をたぶらかし、 皆にそれを見せつけ始めました」 「それには町の人達もカンカンです。 怒った町の人達は、その男の子に真実を話します」 「あなたは騙されています、あの女の子は悪い子です」 「女の子の正体を知った男の子は、 勇気を出して女の子と戦います」 「えい。えい。えい」 「勇敢な男の子は、見事女の子を殺す事が出来ました」 「こうして、悪者のいなくなった町に 平和が訪れたのでした。めでたし、めでたし――」 「………………」 「…………那由太?」 「……泣いてるの?」 「……ああ」 なんでかわからないけど。 涙が溢れて来るんだ。 「あんまり見ないでくれ……恥ずかしい」 「あ……顔隠さないで。見せて……?」 「嬉しいから。自分の本で…… そんなに感動してくれるのが、ものすごく嬉しいから」 「だから……顔見せて? 涙……拭かないで?」 「………………っっ、……っ」 狂ったくらい嗚咽を漏らした。 筮は俺の前でたくさん泣き顔を見せてきたけど……。 俺も同じだ。泣き虫だ。 この物語で、こんなに心が動いて。 信じられないくらいの量の涙で。 いくらむせび泣いても足りなくて。 無様な俺を―― 「……よしよし」 筮は優しく見守ってくれた。 「ごめん……ごめん、本当に……ごめん、ごめんっ……」 いくら謝ったって、もう許されないのに―― 「――那由太…………」 「那由太、聞いてる……?」 「ねえ、那由太ったら。ねえ――」 「那ー由ー太ーっ!」 「え……? あ、何……? ごめん、聞いてなかった」 「んもう、すぐボーっとしちゃうんだから」 「えっと……何の話?」 「あのねぇ……むふふ。聞いて驚け」 「この前応募したヤツ、一次審査通ったみたいなんだー!」 「おお、すごいじゃないか! これで絵本作家になる夢にまた一歩近づいたな」 「那由太が応援してくれたおかげだよっ」 「そんな事無いって」 「そんな事あるって」 「うん……ホント、そんな事ある。 ずっと何も出来なくて…… 弱かったあたしを那由太が救ってくれて……」 「那由太あのね、今あたし、自分の身体嫌いじゃないよ」 「そっか」 「好きな人が愛してくれてる身体だもん。 自信持って……胸張ってやろうって思えるんだ」 「火傷の痕は消えないけど……素敵な思い出と、 大切な気持ちで上書きしていく事は出来る」 「この身体で、絵を描いて……文章書いて…… 少しでも多くの人を喜ばせてあげたいな」 「那由太があたしにそうしてくれたみたいに、 絵本を通じて、誰かを救ってあげたい」 そう願う筮の横顔の、心の、なんと美しい事か。 どんなに醜い火傷の痕でも、彼女の輝きを妨げる事は出来ない。 筮は勝ったんだ。超越したんだ。 火傷の痕に。そしてコンプレックスに悩む自分に。 「あたし……絶対夢叶えるよっ! 見ててね、那由太っ!」 「ああ、これからも筮の隣で、応援し続けるよ」 「えへへっ……ずっと一緒だよ、那由太っ!」 …………? バスケットボール……? どこから転がって来たんだ……? どこから―― 「……………………」 …………筮? 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」 放課後。 音楽室の扉を、おもむろに開ける―― 「――あ、やっと来たわねみそ。 何してたのよ、遅かったじゃない」 え……!? なんだこの状況……!? 「……って、期招来か。 何よ、紛らわしいわね……」 「……っ、……っっ」 まころ……泣いてる……? 「え、えっと……」 晦はいないようだ。 二人で、何してたんだ……? 「――二人とも、おまたー」 「今度はホントに来たみたいね」 「あれー? 期招来君も来てたのー? だったら急ぐ必要無かったかも……」 「い、いや……俺も今来たとこで……」 「……みそち、何してたのかな?」 「日直のお仕事だよー。晦、今日日直だったんだよ」 「あ……そっか。だから遅れちゃったんだね」 「ごめんごめんー」 「ううん、いいよ。大丈夫」 「………………」 まころ……普段の状態に戻ったな。 随分泣きじゃくってたみたいだけど、あんなに瞬時に切り替わって……。 「……ま。いいわ。 全員揃ったし、打ち合わせ始めよっか」 「うん、そうしよう」 「――とその前に! 期招来、あんたは部外者なんだから退場!」 「え…………」 「こ、小鳥ちゃん……そんな無下に扱う事ない んじゃないかな。せっかく遊びに来てくれたんだし」 「あのねえ、私達これから大事な話し合いするのよ? こいつがいたら気になって進まないでしょ」 「“気になって”っていうのは、もしかして そういう意味ですかー? むふふー」 「ほら見なさい。こんな風に面倒な事になるんだから」 「あ、あはは…………」 「んー、でも晦は期招来君がいた方がいいと思うなー」 「なんでよっ?」 「関係者じゃない人の意見って大事だし……。 そもそも期招来君がいた方が、話が進みそう」 「なんでこいつがいると話が進むのよ?」 「監視役が一人増えるからー」 「ぐぬ……!」 「…………?」 「あはははは……ま、まあ……期招来君がいてくれると、 何事もなく平和に話がまとまるかもね……」 「……ふんっ」 小鳥だけが俺を睨み続けている。 参ったな。状況が全く把握できない。 軽いノリで何気なく遊びに来ただけなんだけど……いきなりのまころの泣き顔で出端を挫かれて……。 どうやら重たい雰囲気らしいところで、さらに何かの話し合いと来た。 正直小鳥の言う通り、俺はいない方がいいと思うのだが。 「え、えっと……よくわからないけど、 大事な打ち合わせなら、俺はお暇するよ」 「……待ちなさいよ」 「え……」 「二人の意見も一理あるし……。 まあ、黙ってるだけなら許すから」 「い、いや、でも……」 「何よ、不満? 部外者のくせに あんたも話し合いに参加したいわけ?」 「そ、そんな事は……無いです……」 そもそも何の話をするのか知らないし。 「一言も発さず、黙って置物みたいにそこで座ってなさい。 それで話がまとまるなら私としても願っても無い事だわ」 「べ、別に一切喋っちゃダメってわけじゃないからね? わたし達の話を聞いて何かあったら遠慮なく話して?」 「あ、ああ……」 「……ふん」 という事で、なぜか合唱部の会議に立ち会う事になってしまった。 「えっとー……じゃあ、せっかく期招来君もいる事だし、 まず今までのおさらいからね」 「うん。わたし達合唱部は、毎年楽園祭の舞台で出し物を していて、今年も何かしようって話になってるの」 「ふむふむ」 楽園祭と言えば、各文化部がその活動報告や、演技・演奏などを発表するイベントだ。 たった一日だけのイベントだが、世俗から隔離されたこの天使島においては、島民がこぞってEDENに押し寄せてお祭り騒ぎになるほどの重要な行事なのだ。 「合唱部にとっては楽園祭が一年で一番の大舞台 だからねー。気合入れて頑張りたいんだー」 「でも……部員三人だけだから出来る事も限られてるし、 どうしようかって話になって……」 「それでね。いっそ独唱にしようって事になったの」 「独唱……」 「三人で歌ってもインパクトに欠けるし……。 逆に一人がバーンって歌った方が、 見栄えいいかなって思ってー」 「なるほど……」 確かにその通りかも……。 歌い手が舞台の真ん中に立って、スポットライトを独占し、その歌唱力を存分に発揮したら。きっと観客は沸き立つに違いない。 三人で歌うよりも大きな衝撃や感動が見込めるかもしれないな。 「……で、誰が歌うんだ?」 「それは――」 「………………」 おずおずと手を挙げたのは―― 「……はい」 まころだった。 「まこちー……がいいかなって」 「そうなのか」 「皆の前で独唱なんてした事無いから…… 自信無いんだけどね。あはは……」 「で、二人は?」 「……私は、ピアノ伴奏よ」 「晦は、歌とか楽器とか特に出来るわけでもないからー、 音響とか照明とか衣装とか、そういう裏方担当だよー」 楽器はともかく、歌は出来るだろ。合唱部員として。 「そっか。今年の合唱部は、三人がそれぞれ違う役割で 楽園祭に臨むんだな」 「う、うん……」 「これ、まだ誰にも言ってない事だから。口外禁止よ」 「わかった」 その場の流れで話を聞く事になっちゃったけど……案外面白そうだ。楽園祭の楽しみが一つ増えたな。 「まあ、こうやって話を聞かせてもらったのも 何かの縁だし。俺で良ければ応援するよ」 「ホントっ?」 「ああ。別に俺、やる事無いし。 帰宅部だから楽園祭で何かするわけじゃないからな」 「じゃあ……そんな暇人の期招来君を、 臨時の合唱部員として受け入れましょー!」 「は、はあ!? 何言ってんのよおみそっ」 「いいじゃん。協力してくれる人が多い方が 助かるでしょー? 期招来君もいいよねー?」 「あ、ああ……でも俺、音楽からっきしだけど、 手伝える事あるかな……」 「そ、そうよ……こいつに何が出来るのよ」 「期招来君にはー……すぺしゃるあどばいざーという 重要な役職を任命しますっ!」 「すぺしゃる……あどばいざー……?」 「晦達の練習を見て、感想を言うのが仕事だよー」 「演奏の良し悪しはもちろん、衣装の着こなしとか、 照明の色合いとか、そういうのにも口出して欲しいなー」 「おいおい……俺素人だぞ? 無責任な事言えないって」 「でも、本番のお客さんは皆素人だから。 同じ目線の人の意見が一番参考になるんだよー」 そ、そういうものだろうか……。 「まこちーもそれでいいよね?」 「うんっ。期招来君がいてくれると心強いなっ♪」 「ことちーもオッケー?」 「……ふんっ。 二人がいいなら、それでいいんじゃないの?」 「という事で、けってー! 期招来君、これから楽園祭当日まで、 晦達の面倒よろしくねー!」 「あ、ああ……」 ――自分でもよくわからないうちに、あれよあれよと妙な役職を任されてしまった。 っていうか“面倒よろしく”って……。アドバイザーとは聞こえがいいが、もしかして雑用係的なものなのか? ……ま、いっか。別に他にやる事無いし。 そんなこんなで、合唱部のすぺしゃるあどばいざーに任命された俺。 その日から毎日、放課後は音楽室に顔を出し、練習を見守る事となった。 「期招来君、これー。 晦なりに色々考えてみたんだー」 「どれどれ……?」 ふむふむ。 照明とか衣装とか、演者の入退場についてとかか。 「うーむ、なるほどー」 「あどばいざーとして、意見をおくれー」 「そうだなぁ……このまころの衣装のところなんだけど」 「ふんふんー」 「赤……は少し派手過ぎないか? まころはもっと 落ち着いた色の方が似合うんじゃないかな。 赤だったら、むしろ小鳥の方が適してると思うぞ」 「それとこの照明のプランだけど……。 ちょっと色を変え過ぎな気がするな。 これだと見てて目が疲れちゃうと思う」 「曲想に応じて配色を変えるってアイデアはわかるけど、 これだとやり過ぎかな。基本は単色で、転調の タイミングで一回変えるくらいで十分だと思うよ」 「それと、入場は暗転からピンスポでまころを追って、 まころが立ち位置について歌い出したら舞台明転、 って感じの方が、ずっと明るいよりいいんじゃないかな」 「はぇ~……」 「わぁ……!」 「お、おお……」 「……ん? えっと……何かおかしな事言ったか?」 「ううん、そ、そんな事無いよー! 期招来君すごいー! 演出家みたいー!」 「あ、あんた……意外と色々考えてるのね。 的外れな事しか言わないナンセンス野郎だと 思ってたわ……」 随分失敬な偏見だ。 「あれから舞台の事ちょっと勉強してみたんだよ。 せっかくすぺしゃるあどばいざーに任命されたんだから、 出来る限りの事はしてあげたいなって思って」 「期招来君……すごく有難いよ……!」 「ふっふっふー。晦はこれを見越して 期招来君を勧誘したのだ!」 「調子に乗るなっ」 「ふにょー」 「ふん。期招来……あんた少しはやるようじゃない」 「それじゃあ今度は演奏の方を見てもらうわよ。 まこ、立ち位置に戻って。頭からやるわよ」 「う、うん。わかった……」 晦と並んで、小鳥のピアノとまころの歌声を聴く。 彼女達のパフォーマンスに適して建設的なアドバイスを必死に探しながら、ふと思う。 部活なんて今までしてこなかったけど……こういうのもアリかもしれないな……なんて。 そんな風に思える、穏やかな時間だった。 「期招来君、今日は遅くまでありがとね」 「いや、俺も一応部員って事になってるわけだし。 改まってお礼する必要無いよ」 「でも、なんか無理矢理巻き込んじゃった感じだから」 「おかげで楽しくやってるよ」 まころと二人で下校する。 「というか、小鳥や晦と一緒に帰らないんだな。 部活も一緒だし、帰る場所も一緒なのに」 「ああ……うん。今日はみそちが用事あるみたいで。 商店街で衣装の買い物をするって言ってた」 「小鳥は?」 「みそちが一緒に帰れない事わかってたから、 先帰っちゃったんだと思う」 「は?」 「みそち、商店街寄るから一緒に帰れないーってわたし達 に伝えてきた時、でも期招来君がいるから平気だねって」 「わたしは……うん、そうだねって答えたんだけど……。 小鳥ちゃんはそれが気に入らなかったみたいで……」 「え、えっと……」 全然意味がわかんないんだけど。 「喧嘩でもしてんのか?」 「し、してないよっ。変な事言わないでよぉ」 だよな。部活の練習風景を見ても、そういう様子は感じ取れないし。 あ……でも……。 「なあ、まころ。 この前……俺が臨時部員になった日の事なんだけど」 「その日は晦が日直の仕事で部室に行くのが遅れてて……。 俺が音楽室に入ったらまころと小鳥の二人っきりで……」 「その時……まころ、泣いてた…………よな?」 「え……?」 「……何かあったのか?」 気になっていた事を、勇気を出して聞いてみた。 「な、泣いてた……? わたしが……?」 「ああ」 「え……そんな事あったかな……。 あの日だよね……え、えっと……え?」 「あれ? 覚えてない?」 「覚えてないっていうか……そんな事今まで一度も……」 おかしいな。確かに泣いてたはずだけども。 「見間違いとかじゃない? 例えば……わたしがあくびをして目が潤んで、 それを手で拭き取ろうとしてたとか」 「いや、そんな事ないよ。 あれは見間違いとかじゃなく、本気で泣いてた」 「えぇ……どういう事ぉ……? 小鳥ちゃんと二人っきりって事は…… 小鳥ちゃんがわたしを泣かせたって事?」 「小鳥ちゃんはそんな事しないよ? 確かに物事をはっきり言う時はあるけど…… でも、人を傷つけるような事はしない子だよ」 「小鳥が関与してるかどうかはわからないけどさ……。 でも……確かにあの時……まころは……」 「うーん……記憶にないし、 そんな事あり得ないと思うよ……」 「そ、そうか……ならいいんだ。変な事聞いてごめん……」 話が全然噛み合わないが、まころの口調や表情はどうも嘘を吐いているとは思えないものだった。 あの出来事を必死で隠してとぼけているというよりは、本気で思い当たる節がなくって困惑しているような……そんな感じだ。 まころの言う通り、俺の勘違いだったのか……? いや、でも確かにあの時まころは……。 「――わたしね、将来音楽系の学校に進学したいんだ」 「え……?」 「あ、急だったかな。ごめん、突然こんな話……」 「い、いや別に……」 「臨時とはいえ、期招来君も合唱部の一員になった わけだし。今さらだけど……自己紹介っていうか、 わたしの事知って欲しくて」 「そしたら……仲間としての絆が生まれるかなって 思ったの。それで……わたしの夢の話」 「夢の……話……」 まころはいつものようにゆっくりと丁寧に。 その可愛らしい声に乗せて、自分の過去と、目標を話し始めた―― 「わたしの実家はね……すごく厳しい家庭なの。 両親は二人とも有名な演奏家で……そのせいで、 小っちゃい頃からずっと音楽のレッスンを受けてきた」 「物心ついた時には、厳しい英才教育の渦中だった……。 歌だけじゃない。楽器も一通り習わされた。 音楽漬けの毎日だったよ……」 「辛かった時ももちろんある。 先生の目を盗んでレッスン逃げ出したりとか…… 子供の時の話だけどね」 「大変だったんだな」 「うん……。両親に音楽を強要される生活は…… それこそこのEDENに入学するまで続いた」 「さすがに家にいるのがきつくなってね。 全寮制のとこ探して……それで、EDENに決めたんだ。 ここなら両親の元を離れられるから」 「天使島はのんびりしてて……音楽のしがらみとは 無縁で……合唱部なんてわたし入れて三人しか いなくて……あ、今は四人だね。ふふふっ」 「あのね、家を飛び出して、一つわかった事があるんだ」 「ん?」 「わたし、音楽が好き。 ずーっと圧し付けられてきたけど。 嫌々やってた時もあるけど」 「今自由になって初めてわかったの。 わたし……こんなにも音楽が好きなんだな……って」 「知ってる? 音楽の世界ってね、汚い事ばっかり なんだよ。有名な先生に気に入ってもらうために 媚び売って。作り笑顔でこっそりお金渡すの」 「結局はコネなんだ。自分が選ばれるために他人を 蹴落とす。そういうとこいっぱい見てきたから…… 音楽を楽しむなんて気持ち、いつからか忘れてた」 「天使島は……音楽をたっぷり味わえる。堪能できる。 合唱部は少人数で、いつもお喋りしてばっかだけど…… でも、それも含めて音楽の楽しさなんだなって思うよ」 「音楽を通じて仲間を作って……その仲間と思い出を 共有するの。それこそわたしの求めてた音楽。 人と人を繋いで、笑顔にする……それが、音楽」 「小鳥ちゃんとみそちと出会って……合唱部でのんびり 活動して……音楽っていいなって思い出したんだ」 「だから……音楽系の学校に進学したい、と?」 「うん。EDENに来た時にはそんな事まったく 思ってなかったのにね。むしろ音楽なんて もういいって考えてたくらい」 「合唱部に入って、楽しい毎日を過ごして。 考えが変わっちゃった。 わたし……また音楽好きになっちゃった」 「…………そっか」 何気なく部活動を過ごしてるように見えても。 まころにとってはそれほどまでに意義のある時間なんだな。 小鳥と晦はその事を知っているのだろうか。今の話を聞いたら、きっと喜ぶに違いない。 「だったらさ、楽園祭は楽しみだな」 「……ん?」 「音楽家、木ノ葉まころの初の独唱ステージじゃないか。 将来プレミアがつくぞ」 「あはは、期招来君ってば。持ち上げ過ぎー」 案外冗談じゃなくて現実になるかもしれない。 まころは真面目で……優しくて。周囲にいい人間が集まる。小鳥しかり、晦しかり。 どこでもうまくやっていけるだろう。だったら……将来、まころはきっと―― 「――絆って言ってたな」 「色々話して……仲間としての絆を深めたい、って……」 「……うん」 「……俺、臨時部員だけどさ。 合唱部の練習楽しんで参加してるよ。 想像以上に居心地がよくて」 「本当の部員になった気になれるんだ。 そしたら……案外部活動って面白いなって感じちゃって」 「俺、勝手に三人の事仲間だって思ってる。 まころも俺の事、今だけでもいいから、 合唱部の仲間だって思ってくれると嬉しい」 「期招来君……」 「俺は夢の話とか具体的な将来の目標とか無いから、 改まった自己紹介とかで皆の心を掴む事は 出来ないかもしれないけど……」 「でも、部活を楽しんでるって気持ちは、 三人と同じくらい、いや、それ以上かもしれないぞ」 「そんな俺を……仲間として迎え入れてくれると嬉しい」 「期招来君は……もうすでに、わたし達の仲間だよ。 あの部活を楽しんでくれる人は……皆仲間……」 「今日だって舞台の事色々提案してくれて…… すごく助かったの。期招来君がいてくれてよかったって」 「あのね……わたしね……」 「楽園祭が終わっても、期招来君が部員として 居続けてくれたらいいな……って、そう思うよ」 「まころ……」 恥ずかしげにそう告げてくれた言葉が二人の中で十分に反芻されたところで、ちょうど時間となった。 「それじゃあ……また明日」 「ああ。色々話してくれてありがとう」 「……うんっ!」 「………………」 なんかいいな、こういうの。 こんな形の青春が俺の中にあってもいいと思える。 楽園祭当日までの残りの日々を、後悔の無いようにしっかり味わおう―― 放課後になった。 「さて、音楽室に行くか」 というところで……。 「あら期招来さん」 「くふふ……こんなところで奇遇ね」 志依とフーカに声をかけられた。 「クラスメイトなんだから、奇遇も何もないだろ」 「今からお帰りですか? だったらワタシ達とお喋りして帰りましょう」 「ごめん、これからちょっと用事があるんだ」 「がびーん……! ふ、フラれてしまいました……」 「どこに行くのかしら」 「音楽室。合唱部の手伝いをちょっとな」 「合唱部……ですか。 もしかして楽園祭の準備ですか?」 「ああ」 「通りで……。最近三人娘とよく一緒にいると思ったわ」 「でーっ、でーっ。意中の子は誰なんですかっ?」 「い、いや、そういうつもりで 手伝ってるわけじゃないって!」 「そうはおっしゃられましても。あれだけ可愛くて 萌え萌えな子ばかりの中で、殿方がそういう気持ちに ならないわけがありません。んねー、志依さん?」 「んねー、マリネットさん?」 くぅ、こいつら俺で遊んでるな?目に見えてわかるぞ……! 「ところで合唱部は今年何をするのかしら」 「企業秘密だ」 「えー! ぶーぶーぶー!」 「期待してくれていい」 「くふふぅ……早速彼女達と秘密の共有が完了して いるようね。異性が親密になる第一段階だわ」 「その“秘密”というものが、だんだん大きくなって いくんですよねー。他愛のない事だったのが……気持ち を重ねる事によって……じわじわいかがわしく……!」 「だからそういうのじゃないってば!」 「性欲や恋愛欲は、いつだって本人の制御下にないものよ。 なるようになってしまうわ。身を委ねる事ね」 「期招来さん。合唱部の出し物楽しみにしてますね! そして、彼女達との仲がどう進展するのかも、 同時に楽しみにしてますね!」 「くっふふふー♪」 「くっふふふー♪」 禍々しい高笑いを残して、二人は姿を消した。 「…………ったく」 飄々としていて、手強いコンビだ。 「……期招来」 「あ、小鳥。もう部室に行ったもんだと……」 「あんたが来ないから様子を見に戻って来たのよ」 「そうか、悪かった。すぐ行くよ」 「……今のやり取り、覗き見してたけどさ」 「え?」 「口外禁止の約束……守ってるんだ」 「そうしろって言ったのは小鳥だろ?」 「もっと口が軽くて主体性のない軟弱者だと思ってたわ」 こいつは当初、俺の事をどんだけ下に見てたんだ!? 「真面目に練習に付き合ってくれて…… 割と参考になる意見とか言ってくれて…… 本番の内容を話さないって約束も守ってくれて……」 「ふ、ふんっ……期招来のくせに、 なかなかやるじゃないっ……!」 期招来のくせに、という一言は余計だ。 「なんか……あんたが手伝うようになってから、 あんたの新しい一面見せつけられてばっか……」 なぜ思いっ切り不満顔……!?また文句を言われるのか……!? 「……ふんだっ!」 「……行っちゃったよ、おい」 なんなんだ……? なぜイライラしてる……? 「ことちーはねぇ、素直じゃないんだよー」 「お、晦」 「でも、そんなことちーが可愛いんだよー」 「う、うーむ……」 可愛い……ねえ……。 「もっと素直になった方が可愛いと思うけどな、俺は」 「あの不器用なことちーの可愛さが見抜けないなんて、 期招来君はまだまだ三流ですなー」 晦にそう言われても、あんまり悔しくないのはなぜだろう。 「さ、音楽室に行くぞ」 「おー」 神出鬼没で事情通な晦と一緒に、その日も部活動に精を出した―― 「ふう……今日も疲れたな」 「あんたは見てるだけだけどね」 「こ、小鳥ちゃんっ……。 期招来君は頑張ってくれてるよ?」 「はいはい」 「むふふー……ことちー可愛いー」 「うっさいぞ、おみそっ」 今日は三人娘勢揃いで下校している。 「そう言えば……期招来君、さっき廊下で フーカちゃんと志依ちゃんから色々質問 されてたみたいだったけどー……」 「ぐっ……小鳥だけじゃなく晦も覗き見してたのか」 「へぇー……どんな事聞かれてたの?」 「合唱部の中で、お目当ての子は誰ですかーって」 「――ぶっ!」 「わわわっ!? な、何その質問ーっ!?」 「お、おい晦……」 確かに聞かれたけど……。 「あー……そんな話してたわね。くだらない」 「で、ででで……その時期招来君は 何て答えたのかなっ……?」 「んー……そこなんだけど、よく聞こえなかったんだー」 「んもうっ、みそちってば肝心なとこを……」 「ことちーはちゃんと聞いてた?」 「あー、どうだったかなー。忘れた。興味ないし」 「そうなんだー。じゃあさ、今改めて、 期招来君に聞いてみよー」 「という事で、期招来君。 晦とまこちーとことちーの三人で、 誰が一番タイプなのかなー?」 「う、うう……みそち、そんな事 直接聞いちゃ……あわわぁ……」 「まこちーも知りたいくせにー」 「わ、わたしは……確かに、ちょっとは知りたいかも だけど……う、うう……」 「とまあこんなド直球な萌えっ子のまこちーか、 それとも素直になれないツンデレ美少女のことちーか、 実は色々抱えてそうな伏線たっぷり感満載の晦か」 「さあ、どの子をご指名ですかーっ!?」 「ひい……ほ、ホントに聞いちゃった……! 答え……気になるよっ…………!」 「ですかーっ!?」 「ど、ドキドキ、ドキドキ……!」 「ですかー……!?」 「……あ、あれ?」 「……期招来君、いないね」 「あいつならさっさと逃げてったわよ」 「えーっ!?」 「あー、寮の中に入って行っちゃった!」 「な、なんと……いつの間に…… 全然気づかなかったよー……」 「……はあ。二人ともおバカなんだから……」 「もうすぐ楽園祭だな……」 カレンダーを眺める。 楽園祭の日が、確実に近づいている。 去年はこんなにそわそわしなかったのに。 今年はこんなにも浮足立っている。 「自分が舞台に立つわけじゃないのになぁ……」 残り一週間ちょっとか……。 後悔の無いように、一日一日を過ごそう。 合唱部員として……彼女達の仲間として、最高の本番を迎えるために―― 今日もいつものように、音楽室で部活に励む。 こんな日常にも慣れてきたところだ。 「あれ……まころは?」 「そう言えばまだ来てないねー」 「待ってたらそのうち来るでしょ。 それよりおみそ、あんた衣装の方どうなってるのよ」 「だいぶ出来上がってるよー」 「ならいいんだけど。 採寸してから随分経ってるから心配してたのよ」 「晦の完全オーダーメイドなんだな」 「うんうん、この世で一つの衣装だよ。 それぞれの体型に合わせたサイズだから、 他の人は着れないのだー」 「ことちーもまこちーもないすばでーで、 採寸の時は晦大興奮だったよー」 「ば、バカ! 男子の前で何言ってんのよこの子は」 「えへへー……でも事実だよー」 小鳥もまころも……ないすばでー……!! 「ちょ、ちょっと期招来、妙な想像しないでよねっ!」 「してないってっ!」 「やだっ、いかがわしい視線でこっち見ないでっ!」 「ひ、ひどいっ!」 「あははー」 「あ、まこちー来た来たー」 「遅いわよまったく……ほら、さっさと練習始めるわよ」 「う、うん……」 「……? まころ、どうかしたのか?」 「……え?」 「なんか元気ないような……」 「そ、そんな事ないよ……平気……」 「そうか? ならいいんだけど……」 表情に陰りがあるように見えるが……。 「……準備出来た?」 「あーあーあー……う、うん」 「それじゃあ頭から。軽くさらってみるわよ」 「すー……はぁ……すー……はぁ…………すーーっ……!」 「っ……、っ……! っっ……!」 「……ん?」 「ちょっとまこ、なにボーっとしてるのよっ。 歌い出しちゃんとして」 「ご、ごめん……」 「はぁ……真面目にやんなさいよ。 もっかい、最初からね」 「っ……うっ、っ……! っっ……」 「まころ……?」 「あんたねぇ、いい加減に――」 「小鳥、ちょっと待った」 「でもまこったら――」 「まころ、どうした?」 「はぁ……はぁ……はぁ…………っっ」 「ま、まこちー……すごい辛そうだよー!?」 「もしかして、風邪か!?」 「う、ううん……違うの、大丈夫だから……」 「でも、息が上がって……」 「はぁ……はぁ……はぁ……。少しゆっくりしたら 落ち着くと思うから……ごめん、ね……」 「まこ……」 「小鳥ちゃんも……ごめん……」 「う、うん……」 「……もう、落ち着いたか?」 「……うん、なんとか」 荒かった息遣いも、だいぶ良くなったようだ。 時間経過で治るって事は……風邪じゃないのだろう。 「まこ……さっきのは……」 「う、うん……実は――」 「え……」 「嘘……」 「そんなぁ……」 まころが発した言葉は、短いものだったが。 俺達を絶望させるには十分な内容だった。 曰く、歌が歌えない……と。 「声が……急に出なくなるの。お喋りはこうして 普通に出来るんだけど、歌う時みたいに、 大きな声を出そうとすると突然喉が閉じて……」 「な、何よそれ……どういう事よ……」 「う、うん……ごめん……ごめんね……」 「ごめんって……あんた……」 「いつからだ?」 「喉の調子が日に日におかしくなってたのには、 うっすら気付いてた。でも……本番も近いから、 なるべく考えないようにしてて……」 「それで……今日、歌おうとしたら……」 「………………」 「練習のし過ぎで喉が腫れちゃった……とかか?」 「そんな事ないでしょ……。 きちんと休憩の時間も挿んでるし……」 「……皆でカラオケ行く時とかは もっと大声で歌いまくってるのに、 まこちー全然喉枯れないもんねー」 「うん……わたし、喉強い方だから……。 練習のせいじゃないと思う」 「そもそも、今だってこんな普通に喋れるのに……。 大きい声だけ出せないなんておかしいじゃない」 「……………………」 「……緊張、してるからだと思う」 「え……?」 「今までは……小鳥ちゃんとみそちが一緒だったから、 人前で歌うのも平気だったけど……」 「でも……今回は一人だから……それで……」 「まこちー……」 「……実は、毎晩怯えてた。本番の日がこのままずっと 来なければいいのにって心のどこかでお願いしてた くらい」 「失敗したらどうしよう……って考えたら、 手足が震えて……声も震えて……」 「本番……舞台の上で、お客さんの前で歌ってる時に…… 声が急に出なくなって、慌てる自分の姿が想像出来るの」 「舞台の上で唖然とするわたしをお客さんは笑って蔑んで。 みそちも小鳥ちゃんも、期招来君も、本番で大失敗した わたしに呆れて、見棄てて……そんな夢、何度も見た」 「そう考えたら、すごく怖くなってきて。そしたら…… わたしの悪夢を正夢にしてやるって言わんばかりに、 喉が……歌声を拒み始めて……」 「………………」 「だ、だったら、曲目を変えてみたらいいんじゃ ないかなー。おっきな声が必要無い曲とかも 探せばあるかも……」 「ううん、意味ないと思う」 「うう、なんでー……?」 「……曲目を変更しても、症状はそのままだと思う。 一人で歌うって事実がある限り、どんな曲になっても 怖い事に変わりはないから……」 「そ、そっかー……」 「うーん……」 まころがそこまで追い詰められていたとは。 その病状は、明らかに精神的なものが原因だ。 緊張……その根本が解決されない限り、小手先だけの変更で誤魔化しても何の意味もないだろう。 「でも、どうしよう……? 緊張しないようにするための方法なんてわからないよー」 「本番が近付けば近付くほど、緊張は増して歌えなくなる。 ホントは少しでも多く練習しないといけないのに」 日を追うごとに練習の重要性は増すのに、それに反比例する形で病状は悪化する。 どうしたらいいんだ……。 「あ、あのね……? 喉の調子がおかしくなり始めてから…… 一応自分なりに考えてみたんだ」 「皆に迷惑かけない方法……。 この喉のままでも、きちんと…… 合唱部として楽園祭を盛り上げられる方法……」 「小鳥ちゃん……歌うの……代わってくれるかな?」 「え……」 「伴奏はわたしがするよ。 ピアノなら歌より緊張しないし……大丈夫」 「な、何言ってるのよ……まこ……」 「小鳥ちゃんだったら、きっと上手く出来るよ。 声綺麗だし、歌上手だし……」 「や、やめてよ……」 「堂々としてるから、わたしみたいに緊張も しないだろうし……責任感もあるから、 最後までしっかりやり通してくれると思う」 「やめてってば」 「みそちも、そう思うでしょ?」 「み、晦は……」 「ね、小鳥ちゃん。だから……。 合唱部のために。わたし達のために。 楽園祭で独唱して欲しいの」 「わたしは……小鳥ちゃんに歌って欲しいな」 「やめてって言ってるでしょっ!!」 小鳥の激昂に、俺も晦もビクンと身体を震わせた。 まころだけが、動じず小鳥の前に佇む。 「こんな形で交代するのは小鳥ちゃんも不本意かも しれないけど……でも、楽園祭の参加を取りやめに するわけにはいかないよ」 「私は嫌よっ……! あなたが歌いなさい……!」 「わたし……もう歌えなくなっちゃったから」 「それでも歌いなさいよ……!」 「歌えないんだ……仕方ないよ。だから小鳥ちゃんが――」 「――っ!」 「……見損なったわ」 「……………………」 「あ、ことちー……!」 「……………………」 「え、えっとー……」 「晦は小鳥を」 「う、うんー」 「……………………」 音楽室に、俺とまころだけが残された。 普段四人で賑やかに過ごしている空間。二人だけでは広過ぎる。静か過ぎる。 「……怒らせちゃった」 頬を叩かれた瞬間も、まころは動じてるように見えなかった。 叩かれる事がわかっていたのだろうか。わかっていて小鳥に交代を提案したのだろうか。 「まころ……」 「期招来君……」 「――今日はもう、帰ろっか」 その日の帰り道。 俺はまころになんて言葉をかけていいかわからず。 まころも、自身の病気に責任を感じていて。 実に寂しく、つまらない時間を過ごしながら、二人で下校した。 翌朝―― 「期招来君~」 教室に入った途端、珍しく困り顔を浮かべた晦に声をかけられた。 「まこちー来てないよー」 「え……?」 まころの席を見てみると……。 「あ、ホントだ。いないな……」 ……空席。 「まだ来てないだけじゃないか? もう少ししたら来るかも」 「まこちー、いつもこの時間には来てるんだよー?」 「心配になってさっきからメールしてるんだけど…… 返信全然なくって……」 「うーん……」 「やっぱり、昨日の事で……」 だろうな。そう考えるのが一番自然だろう。 「ことちー! どうしよー! まこちー不登校のひっきーになっちゃったよー!」 「はあ? なによいきなり」 「まころ、今日休みみたいなんだ」 「あっそ。いいのよ、ほっとけば。 そのうち頭冷やすでしょ」 いともたやすく俺達の焦燥をあしらった。 「元はと言えばあの子が悪いんだし。 私達が何かしてあげる必要なんてないわ。 甘やかしてもあの子のためにならないわよ」 「いや、そういう問題じゃないだろ。 とにかくまずはまころの喉の現状を踏まえて、 楽園祭をどうするか考えないと」 「バカ言わないで。何も変わらない。 歌うのはあの子。私は伴奏」 「で、でもまころは……」 「すぐ逃げて……綺麗事ばっかり言って……。 昔っからあの子は、面倒な仕事を全部私に 圧し付けて来るんだから……」 「え…………?」 昔っから……? 「まこが反省して、もう一度頑張るって言うなら 許してあげる。それまで練習はお休みよ」 「あと……おみそ。あんた余計な事するんじゃないわよ」 「あははー」 なんてこった……。バラバラじゃないか……! 「どうするよ、晦。合唱部のピンチだぞ」 「もちろん、余計な事するよー」 「何かいい手はあるのか?」 「ことちーとまこちーを仲直りさせなきゃ」 「う、うむ……」 確かに本番の成功には、かつての結束を取り戻す事が大切。 二人の仲直りは、いずれどうにかしないといけない難題ではあるが……。 「まころの喉の問題はどうするんだ? そっちも考えておかないと」 「仲直りさえ出来たら、あれはなんとでもなるよー」 「は……?」 「大丈夫大丈夫ー。本番誰が歌うかは、自然に決まるって」 「そ、そうなのか……?」 根拠が全くわからないが、晦の果てしなく呑気な笑顔を見ていると、本当に大丈夫に思えてくるから不思議だ。 「……で、二人を仲直りさせる方法とは?」 「古来から、誰かと誰かをくっつけるには 吊り橋効果が一番なんだよー」 「ほう。吊り橋を渡る時の恐怖を恋愛のドキドキと 勘違いしてしまうってあれか」 「でもそれって恋愛テクだろ? 友達同士の仲直りはまた別の話だと思うが」 「友情も愛情も、基本は変わらないと思うよー」 む……相変わらず呑気な口調のくせして、なかなか深い事を言うな。 「だがな晦、そもそも吊り橋なんてこの辺りにはないぞ?」 「吊り橋じゃなくても構わないんだよー。 二人を同じ場所に呼び出して、 同時に怖がらせてドキドキを共有させればオッケー」 なるほど……吊り橋効果の理論に基づいてはいるな。 「で、どうやって怖がらせる?」 「それはもちろんー……」 「はぁ……。全く……何よおみそったら……。 こんなとこに呼び出して……」 「おみそー、来たわよー! どこにいるのよー!?」 「……? まだ来てないのかしら」 「あ、やっと来たわね、まったく……」 「あ……小鳥ちゃん」 「――げっ、まこ……」 「あはは……そんなはっきり“げっ”だなんて……」 「あんたがここに来たって事は……。 みそのやつ……余計な事はすんなって言ったのに……」 「小鳥ちゃんも、みそちに?」 「……ふん、まあね」 「心配かけちゃってるんだな……」 「わかってるなら、なんとかしなさいよ。  あんたの問題なんでしょ?」 「なんとかって言われても……。 こればっかりは、わたしにはどうする事も出来ないよ」 「……そういうのもういいって」 「え……?」 「ここには私しかいないんだし、 これ以上バカな事言わなくていいって言ってんのよ」 「……そっか。小鳥ちゃん、さすがだね」 「……あれ? 意外と話し合いが出来てるな」 建物の陰から二人の様子を隠れ見ているが、思ってた以上に二人は平和的に会話している。 もっと小鳥は喧嘩腰でまころを攻めると思ったが。 「まこちーもことちーも、そんなに子供じゃないよー」 同じく隣で二人を覗いている晦の達観した一言。晦がそう言うなら、そうなんだろうよ。 「どうする? このまま泳がせてても、 なんとかなりそうな雰囲気だけど……」 「もちろん予定通り、二人を怖がらせるよー?」 「なんで?」 「だって、二人ってばいっつも周り…… 主に晦に迷惑かけてさー」 「だから、少しくらいイタズラしても罰当たらないよー」 「晦……やっぱお前、苦労してるんだな」 「いい機会だし、しっかりちゃっかり怖がらせて、 たっぷりげっそり反省してもらいましょー」 そう言いながら、持参した鼻眼鏡を着用する晦。 ――不良に変装した俺と晦が二人を怖がらせる。これが晦の発案した吊り橋効果の作戦だ。 不良として二人に絡み、十分に怯えさせる。小鳥あたりが反撃してくるだろうから、それをきっかけに不良役の俺達は退散。 恐怖感情を共有した二人の吊り橋効果も望める上に、小鳥の勇気が状況を打破したという事で、まころは小鳥に感謝して仲直りは間違いないだろう、との話だ。 「ホントに上手くいくのかな……」 二人を怖がらせると言っている割に、最終的に小鳥が立ち向かってくる事を前提にしているあたり、即席な作戦特有の粗を感じてしまう。 そもそも結局不良役は追い払われるわけだから、晦の積年のフラストレーションは全く発散されないのでは……? まあ、晦は自分からこの作戦を提案しているわけだし、その辺は覚悟の上なのかもしれないな。 自分を汚れ役にしてまで二人の仲を取り持とうとしているのであれば、晦はなかなか人間の出来た人物と言える。 「っていうかなんだよその鼻眼鏡は」 「えへへー、悪そうでしょー?」 これが晦にとっての“不良の変装”か。 「期招来君の分の鼻眼鏡も持って来てるよー」 「い、いや、俺はいい……」 カツラ被ってマスクしてサングラスして。 まあこんなところだろ。薄暗いしなんとか誤魔化し通せるはず。 「それじゃあそろそろ出るか。 手筈通りだぞ、わかってるな?」 「やっちまいましょうぜ、兄貴ー。ぐへへへへー!」 「兄貴はやめろ、兄貴は」 「えー、なんでー? 不良なんだから そういう呼び方しないとバレちゃうよー?」 「今時の不良がそういう呼び方するか」 というか、晦はこの変装の時点ですでにバレバレなので、正直引っ込んでいた方がいいと思うのだが……。 彼女の意志は固いようだ。友情の鉄槌を下す機会を、彼女に授けてやろうではないか。最後にはやられて逃げる事になるんだけど。 「よし、いくぞ……!」 「へいー!」 「きゃっ……」 「ん……?」 いざ作戦開始という時に、不穏な物音が聞こえてきた。 すぐに二人の方を覗き込むと―― 「ひひひっ……! よっわ……! ちょっと押しただけなのに尻もちついてんの」 「まこっ……!」 「姉御、ちょうどいいカモが見つかりましたねぇ……」 「ちょっとあんた達、なんなのよっ!?」 「ああ!? んだよ、あたしらに逆らおうってのかよ!?」 「いい度胸してんじゃねーか……! あたしらに勝てると思ってんのか、ああん!?」 「くっ……そんな事言って、怖がらせようったって 無駄なんだからっ!」 「小鳥ちゃん、落ち着いて……! わたしは大丈夫だから……」 「まこ……で、でも……」 「そうそう、別に喧嘩したいわけじゃないの。 あたらしらはただ金が欲しいだけなんだぁ。 有り金全部出してくれればそれでいーの」 「つーわけだからぁ、財布ごと渡してくれるかなぁ? ひっひっひぃ……!」 「誰が、あんた達なんかに……!」 「あー、そういう事言うんだー? せっかく穏便に済ましてやろうっつってんのに……! 逆らうならぁ、ひどい事しちゃおっかなー……?」 「おら、ボコボコにされたくなかったら金出せや!」 「くっ……!」 「お、おいおい……! なんだよあの状況は……!?」 不良少女と思われる四人組が、まころと小鳥を囲んでいる。 「どうするよ晦! 本物の不良が出て来ちゃったぞ!?」 「この展開は、晦も予想してなかったよー」 こんな事態だってのに、相変わらず呑気な声してるなお前は。 「ねー、期招来君。聞いた? “姉御”だってー。 やっぱり不良はそういう言葉を使うんだよ。 “兄貴”もおかしくないんだよー」 「んな事今はどうでもいいっ!」 相手は四人か……! いくら相手が女子だからって、まころと小鳥を守りながらとなると無傷は難しいか……!? 「んだよその態度は……! せっかく金だけで許してやろうって思ったのによぉ……」 「姉御、やっぱこいつら虐めちまいましょうぜ」 「特に……こっちの生意気なヤツにはなぁ……! げっへっへぇっ……! とびきり酷い目に……」 「何よ、か、かかってきなさいよっ……!」 「や、やばいっ……!」 くそっ、こうなったら―― 「屍っ、おい屍っ!」 「……なに?」 「わーっ!? いきなり知らない子が登場したよー!」 「緊急事態なんだ。お前なんとか出来ないか?」 「あのね……わたしを便利な青狸か何かと 勘違いしていない?」 「あの二人を助けてくれっ!」 「いやよ。面倒臭い。私あの子大嫌いだし」 「屍の力が必要なんだよ……!」 「ゔ……」 「え、えっと……どこの誰だが存じませぬが…… 晦からもお願いするよー」 「………………」 「頼む、屍……!」 「……はぁ、わかったわよ」 「あなたにそこまで言われたら断れないじゃないの。 今回だけだからね」 「ありがとう!」 「忠告しておくけど、この代償は高くつくからね。 そこのとこ、約束よ?」 代償……? 「あたしらの恐ろしさ……思い知らせてやるよ……! あんた達、やっちまいな!」 「へい、姉御っ!」 「ひっひっひぃ……! まずは生意気そうなあんたからだぁ……!」 「小鳥ちゃんっ……!」 「……っ!」 「ぐへっ、ぐっへっへぇ~~……! おら死ねえええええええええええっっ!!」 「だ、駄目ええええええええええええええっっっ!!!」 「――あひいっ!?」 「え…………? え、え……あれ、あれぇ……?」 「な、なんだよこれ……!? 身体が、う、動かない……!」 「はぁ……はぁ……はぁ……え…………!?」 振り上げられた不良少女達の拳が、宙に掲げられたまま止まっている。 「ど、どうして動かないんだよっ……! ちくしょ……くそっ、ちくしょおっ……!」 「う……ぐっ……!? なんだこれ……くっ! おいあんた達、何してんだい、さっさとやっちまいな!」 「あ、姉御……ひぃ、でも……身体が……あひぃ……」 「ひ、ひいっ!? 助けてっ、あひっ!! な、なんで動かないのぉっ……!? 誰かあたしの身体治してぇっ! ひぃぃぃっ!」 「ど、どういう事……!?」 「おお……!」 屍が何かをしたおかげか。 原理は全くわからんが、相変わらずすごいヤツめ。 「ん」 後は何とかしろ、と屍。 「よし。晦、行くぞ」 「てやんでいっ!」 ダッシュで二人の前に現れて―― 「わ……今度は誰!?」 「はいはい、すいませんねー。 お嬢さん方、ちょっとそこ通してねー」 「よし、そっち持って」 「え……? ちょ、なんだよ、おいっ!? って、あぁぁんっ! どこ触って……あひゃあっ!」 静止した不良の身体を持ち上げる。 「お、おら、何勝手な事してんだ!? 誰だてめえら、許さねえぞ!」 「はーい、どうどう。いい子だから、大人しくしててねー」 「あひゃ、あひゃひゃっ! そこくすぐったひっ! あひひひひっ、らめっ、そこらめえっ、あひひぃんっ!」 「…………みそ」 「ぎく」 「あんた……何やってんのよ……」 「なーに見てんだこらー。 みせもんじゃねーぞこらー」 「って事は……そっちの男は……」 「あ、兄貴、さっさとずらかりましょうぜー」 「あ、ああ……よいしょっと」 最後の一人を抱え上げて―― 「ちくしょ、おいこれどうなってんだよっ……!? てめえら誰だよ、つーかなんで身体動かねーんだよぉ!? くそっ、くそぉっ!」 「撤収!」 「お、覚えてろよ~~っ!」 「覚えてろよー」 ダッシュで二人の前から姿を消したのだった―― 「………………」 「はぁ……はぁ……はぁ……」 「……全く。あの不良達も、みその差し金ってわけ?」 「はぁ、はぁ……え? みそち……?」 「……あんた気付いてないわけ?」 「えっと……何が?」 「……………………」 「…………はあ。 あんたも……おみそも……期招来も……。 ホント全員……バカなんだから……」 「……小鳥ちゃん?」 「大声……出ないんじゃなかったの?」 「え……? あ……そっか」 「あんたねえ……ほんっっっとバカ。 あんたが一番バカだわ」 「……ごめん」 「さすがに今回はムカついた」 「うん、ごめん」 「ほっぺた痛かったでしょ? 奥歯全部持ってくつもりで 思いっ切りビンタしてやったわ」 「効いたよ。小鳥ちゃん、わたしの事 すごく信用してくれてたんだなって感じた」 「ビンタでもしないと伝わんないのね。 期招来にもっと素直になれって散々言われたけど…… あながち間違いじゃないのかもね」 「期招来君の言葉はいつも的確だよ? すぺしゃるあどばいざーだもん」 「……木ノ葉まころっ!」 「は、はいっ!」 「不良から私を守ろうとしてくれて、ありがとう。 そういうとこ大好きよ」 「うん」 「おせっかいで優しいとこも大好きよ。 こんな私のために……ありがとね」 「うんっ」 「……さ、もう気が済んだでしょ? 明日ちゃんとみそと期招来に謝りなさい」 「みそちは全部わかってると思う」 「期招来は……あれはダメね。鈍感でバカだから」 「あはは……。 ……ねえ、小鳥ちゃん?」 「わかってるわよ。一緒に謝ってあげるから」 「ありがと。小鳥ちゃんのそういうとこ大好きだよ」 「……はいはい」 「……なあ、俺鈍感でバカって言われたんだが」 「ことちーは言葉を選ばないタイプだからねー」 「えっと……っていうか全然意味わかんないぞ? まころ、大声出せるんだ?」 「さー?」 「晦、全部わかってるそうじゃないか」 「さー?」 「今すぐ俺に説明しろよ」 「明日、二人の口から明かされる真相を、 楽しみに待ってましょー。 つーことでー、さらばだ、兄貴ー!」 「あ、こら待て!」 意外とすばしっこいなあいつ。 「……………………」 よくわかんないけど……。 もしかして、色々解決したっぽい? 「お、おいこらぁ、あたしら何とかしろよっ! 色々きちんと説明しやがれ~っ!」 「……こっちの処理の方は、お前に任せていいか?」 「好きにしていいの?」 「どうぞ」 「そう。それじゃあ――」 「あひ、ひいいいいいいいっ!!?」 「あ、なにとぞお手柔らかに……」 「心がけます」 「よろしく頼む」 「あ、おいちょっと待てよ! 待てって……。 お、置いてかないでぇぇ~……ひ、ひいっ!?」 「な、何それっ!? 何その太いヤツ!? どっから出したのそんなのぉ!? ってか、そんなの近付けてどうする気だよぉ、ひいっ!」 背後から聞こえてくる悲惨な叫び声が不吉過ぎて、俺は振り返らずにその場を去って行った。 「う、嘘でしょ……それで……まさか、まさか……! ひ、ひいっ、ひいっ!? やめて、なんでもするから、 そ、それだけは……ひ、やめてええっ!!」 「い、嫌だっ……許じでっ、ひ、ひ、ひ、ひ、ひいっ!! だ、だじげでえええ、あっひいいいいいいいっっ!!! 牢獄行きは嫌だよおおぉぉぉおぉぉぉおっっ……!!!」 「――全部嘘でごめんなさいっ」 「うおっ!」 翌日。 朝練があると言われ音楽室に入ると、いきなりまころに深々と謝罪された。 「嘘だったのか……」 「う、うん……心配かけてごめんね」 「喉、平気なんだな?」 「お風呂じゃ毎晩熱唱してます」 「緊張もしない?」 「鋼の心臓って呼ばれてます」 「うーむ……」 そうか、本当に嘘だったのか。 「何が緊張で歌えない、よ。 小っちゃい頃から発表会出まくって、 人前で演奏するのは慣れてるくせに」 「まこちーが緊張してるとこなんて見た事ないよー」 「えっと……どうして嘘吐いたんだ?」 「こうでもしないと……小鳥ちゃんに 歌ってもらえないって思って……」 「は……? 小鳥に……?」 「このバカはね。私に独唱させようとしたのよ」 「な、なんで?」 「えっと……わたしが説明していい?」 「ふん。答え合わせって事? してみなさいよ。聞いててあげるわ」 「あ、あのね。楽園祭で合唱じゃなくって独唱をする って決まった時、当然誰が歌うかって話になって……」 「みそちは辞退して、わたしか小鳥ちゃんのどちらかが 歌う事になった。それから話が進まなくなったの」 「二人とも、独唱役をやりたかった?」 「……逆、かな。 わたしも小鳥ちゃんも、歌いたくなかった」 「……はい?」 「というか、譲りたかった。 わたしは小鳥ちゃんに歌って欲しかったし…… 小鳥ちゃんはわたしに歌わせようって思ってたみたい」 「小鳥ちゃん……独唱役はまこが相応しいって、 いっぱい応援してくれた。何度も何度も、 まこが歌うべきだって……」 「でもね。わたしは小鳥ちゃんが歌った方がいいって 思ってた。いつも部活を頑張ってるし、歌に対しての 熱意も誰よりも大きいし。わたしなんかより、ずっと」 「小鳥ちゃんだって、内心歌いたかったと思うんだ。 でも……気を遣ってわたしを推してくれて……。 それがすごく申し訳なくって……」 「……それで、嘘吐きました。普通に譲ろうとしても絶対 拒否されるってわかってたから、病気って事にして小鳥 ちゃんが独唱役を引き受けざるを得ない状況にしました」 「……以上、木ノ葉まころの懺悔……おしまい」 「お、おお……」 つまり……まころは小鳥を想って、嘘を吐いた……と。 「……だそうだが、小鳥?」 「大体あってるわ。一か所だけ違うとこあったけど」 「……ん?」 「確かに私、歌いたかったわよ。楽園祭ずっと楽しみ だったし、合唱部の一員である以上、歌で音楽を 表現したかったし」 「でもね。私は別に“気を遣って”まこに独唱役を 譲ったんじゃないの。そんな馴れ合いで自分の気持ちを 引っ込めるほど、私の歌への熱意は甘くないわ」 「じゃあ、どうして……?」 「単純な話よ。まこの方が歌上手いから。 私が歌うよりもまこが歌った方がお客さんを 感動させられるから」 「だから私は辞退した。実力のある人間がスポットライト を浴びるべき。私は何一つ後悔してないし、不服も無い」 「それなのにこのおせっかいバカは、余計な事考えて、 優しさと称して嘘吐いて私に歌わせようとして。 だからスーパー小鳥ビンタを喰らわしてやったの」 「あう……すいません」 「実力のある人間はね、それに相応しい場所に 立たなくちゃいけない。そして、そのための 責任も負わなくちゃいけないの」 「まこ。あんた合唱部の中で一番歌上手いんだから。 あんたが合唱部の看板背負って歌いなさい。 逃げるなんて許さないわよ」 「……うん。昨日の事で覚悟決めたから」 「……本番三日前に本気になるって、遅過ぎるのよ」 「みそちも……ごめんね。お騒がせしました」 「いつもの事だよー」 「わたしはわからなかったんだけど…… 昨日、何かしてくれてたみたいで……。 みそち、やっぱりわたしの嘘に気付いてたんだね」 「もちろん。まこちーもことちーも、 素直じゃなくて晦は大変ですー」 「……悪かったわね。いつもみそには感謝してるわよ」 「うむうむー。でも丸く収まってよかったよー」 「うんっ」 「……………………」 え、えっと……なんか……もう……。 まころは小鳥が歌いたい気持ちを察して……独唱役を譲るために嘘吐いて。 小鳥はその優しさに無責任を感じて憤慨して……心の底ではまころの歌唱力に全幅を寄せてて。 晦は全てを知った上で二人のいざこざに付き合って……事が収束するように影で動いて。 なんだこの謎のチームワークは。この三人には暗黙の了解が多過ぎる。 こんな事が日常的に起こっているのか……!?合唱部三人娘……恐るべし! 「……えっと、そういう事だから。 皆……改めて、ごめんなさい」 「こんなわたしだけど……精一杯頑張るから。 全員で……いい本番にしようね」 「まあ、あんたなら大丈夫よ。全力で応援してあげるから。 私の分までしっかり歌いなさいよ」 「裏方は任せろー!」 「えっと……期招来君?」 「……頑張るっす」 正直言って、自信無し。 三人娘の互いの理解度の高さに、自分の無力さを痛感させられてます。 つーか俺なんかが手を貸さなくても、問題無く本番を迎えられるのでは……? 「うん、期待してるよ、期招来君♪」 「……はい」 全てを帳消しにするまころの笑顔に呑み込まれ、俺は無気力な返事をするしかなかった。 まぁ……色々無事解決した事はよしとするか。 今回の一件で合唱部の結束はより高まったと考えたら、決して時間の無駄ってわけでもないし。 本番まであと三日か……やるしかないな。 「――そこの歌い方、もっとダイナミクスを 付けた方がいいわ。頭からもう一回やるわよ」 「わ、わかったっ」 「衣装はなんとか間に合いそうでー……。 照明の流れはもう出来上がっててー……。 うん、準備は大丈夫そうかな……」 「機材の借用書はもう書いたのか?」 「あー、まだだったよー!」 「小鳥ちゃん、間奏のところはもっと ゆっくりでいいんじゃないかな」 「そう? じゃあそうしてみるから、 ちょっと聴いてて」 「うん」 「期招来君ー、晦もう緊張してきたよー! 本番照明間違えそうで不安だよー! 手伝ってー!」 「意外なところに一番のあがり症が!」 「まこ。ここのフレーズのブレス、 ちょっと甘いんじゃないの? ちゃんとタイミング考えなさいよ」 「あ……うん。そうだね。今メモするね……。 そこもう一回練習しよ?」 「期招来君ー! 背景青色にするのって、 何色と何色を混ぜればいいんだっけー!?」 「普通に青色のボタンを押すだけだよ」 「小鳥ちゃん、サビのとこちょっと走っちゃってる」 「あ、ごめん。強弱付け過ぎてつい……」 「落ち着いて表現しよう? もう一回ね」 「う、うんっ」 「期招来君ー! 舞台のセッティング表、一緒に書いてー!」 「はいはい」 ――そんなこんなで、慌ただしい練習が続いた。 本番までの残り時間を数える余裕などなく。目の前の練習をこなすだけで精一杯で。 これが、部活動なんだなって思った―― そして―― ――その日も、晴天に恵まれた。 「うう……いよいよだよー……! 晦、緊張するよー……」 「あんたが緊張してどうするのよ」 「で、でも……照明間違えたらどうしよー」 「安心しろ晦。俺も手伝うから」 「う、うん……助かるよー」 というか、晦が緊張しやすいと判明してから、照明は全て俺が担うつもりだったし。 「これが今日の進行表だ。 本番15分前に体育館の舞台袖集合。 それまでにまころと小鳥は衣装に着替えておけよ」 「うん。みそち、お着替え手伝ってね」 「期招来君も手伝うんだよー」 「ええ!? 俺は無理だろ!」 「何よ期招来。あんたも合唱部の一員なんだから、 手貸してくれたっていいじゃない」 「い、いや、でも着替えは……」 「ふふっ、冗談よ」 ほ……なんだ、冗談か。 「あんたも合唱部の一員だってとこは冗談じゃないわよ」 「………………」 「……ありがとう」 「小鳥ちゃん、指冷えてない? あっためてあげよっか」 「え……? ってこら、何手繋いでるのよ」 「小鳥ちゃんの手あったかーい♪」 「えー、ほんとー? どれどれー」 「ちょ、みそまで……! そもそも冷たくないなら あっためる必要ないでしょうに!」 「ほらー、期招来君もー」 「おっしゃ!」 「えっ!? あ……」 小鳥の指先に、合唱部の手が集まっていく。 「まこちー、掛け声ー」 「え? あ、そうだね……何がいいかな……うーん……」 「は、早くしなさいよっ……! この状況、恥ずかしいんだからっ!」 「んとー……よーし、じゃあ……」 「今日の舞台の成功を祈って! そして、この本番が一生の思い出になる事を願って! せーの――」 ――――――!! 校庭の脇を歩きながら、会場となる体育館へ向かう。 「人いっぱいだねー」 「有難い事だ」 「皆さん、頑張ってくださいねっ」 「どもどもー」 「素敵な舞台を期待しているわ」 「頑張るよっ」 「客席から応援してるね」 「ありがと」 「……な、なんで……期招来が 合唱部に混じってんの……!?」 「い、今さらかよ……」 クラスの皆から、力をもらう。 そして―― 「よし……全員準備出来てるな」 「ばっちりよ」 「お客さん満員だよー!」 「まころ……緊張してないか?」 「さ、さすがにちょっとドキドキするかな……」 「いつもは三人なのに……今日は一人で歌うから……。 緊張しちゃうね」 「一人じゃないわ。皆一緒よ」 「小鳥ちゃん……」 「まこの歌声……伴奏で引き出してみせるから。 あなたは自信を持って歌いなさいよ」 「晦と期招来君は舞台には上がらないけど……。 調光室から見守ってるよー」 「客は全員カボチャだと思え。 まころならきっと上手く出来るさ」 「皆…………」 「うん、ありがとう!」 「あのね、えっと……上手く言えないんだけど……」 「――皆で最高の舞台にしようねっ!」 明るく笑うまころ。 全てを包む彼女の笑顔は、これからの舞台の成功を予感させてくれた―― 「続きまして、合唱部による発表です」 「演目は独唱。曲は“アメイジング・グレイス”」 ――美しい歌声が、館内を白く染め上げていく。 生を謳歌し、希望を恵むこの空間に、誰もが息をのみ、見蕩れていく。 照明のボタンをつまみながら、俺は見てしまった。 そこには確かに、天使がいたのだ。 天使は清らかな旋律に善意を乗せて、地上人の感覚を攫う。 すべてが浄化された瞬間だった―― 「ありがとうございましたー」 体育館の出口から、客のお見送りを行う。 「とても楽しませていただきました。 歌や伴奏はもちろん、衣装も素敵で、照明も綺麗で…… 素晴らしい舞台でしたわー!」 「ありがとうございます、彬白先輩」 「俺にはよくわかんなかったけど…… ま、夜々萌さんが楽しんでたみたいだし よかったんじゃねーの?」 「ふふっ、飯槻にしては十分な感想だわ」 「楽しかったよ。部活っていいね」 「入部したくなったらいつでも言ってねー。 歓迎するよー!」 「えぐっ、ぐひっ……ぐずびっ! う、歌ぁ、ずごぐ、よぐで……ぐひっ!」 「あ、あはは……ありがとね、霍ちゃん……」 ひとしきり客を見送ったところで―― 「……さ、撤収作業するか」 「うん、そうだね」 「……これで終わりじゃないもんね。 ちゃんと片付けまでやらないと」 「でー……その後は……もちろん――」 「かんぱーい!」 音楽室に四人の笑顔が弾けた。 乾杯のグラス音は響かない。紙コップなので。 「は~……無事終わってよかったよ~……」 「まこちーカッコよかったよー! 大成功だったねー!」 「みその衣装もなかなかの評判だったわよ」 「えへへー、どもどもー」 本番の片付けを終えて、一息ついた後。さっそく打ち上げを開始した。 先生に許可をとっているかは謎だが……まあこんな日くらいは大目に見てもらおう。 「期招来君……色々手伝ってくれてありがとね」 「いや、おかげですごく楽しかったよ。 こっちこそ、誘ってくれてありがとな」 「ことちーことちー。今改めてお願いしたら、 期招来君正式に入部してくれるんじゃないかなー」 「知らないわよ、もうっ」 「ふふっ……。でも、期招来君はもう立派な合唱部員だよ」 「まころ……」 「そうだねー。ここはもう期招来君のおうちみたいな ものだから、好きな時に遊びにきていいんだよー」 「……ま、練習の邪魔しないならね」 「………………」 おうち、か。 音楽室が、そんな場所になるなんて思ってもみなかった。 彼女達にそう認められるのは……物凄く光栄だ。 「ぱららぱっぱら~♪ 打ち上げケーキ~♪」 「おっ!」 「こっそり準備しておいたのー。皆で食べよー!」 「あんた相変わらずそういう事の手際はいいわね……」 「それじゃ、わたしが切り分けちゃうね……んしょっと」 「で、デカいっ!」 ホールケーキを、綺麗に四等分! 「女子の胃袋はブラックホールなんだよ」 そう言って、第一象限から順に分配していくまころ。 「どもー」 「ん、ありがと」 巨大なカロリー爆弾を平然と受け取るあたり、彼女達もこのサイズに慣れているという事だろうか。 恐るべし、女子の甘味消化力……! 「もぐもぐ……甘くて美味しー♪」 「こうやって打ち上げを楽しめるのも、頑張って練習して、 いい本番を迎えられたおかげだな」 「んぐんぐ……なによ期招来……もぐもぐ。 あんたいい事言うじゃない……うん、美味しい♪」 「あー、ことちーイチゴを避けながら食べてるよー。 さては好きなものは最後に取っておく派ですなー?」 「う、うっさいわねっ、そんな事ないわよっ!」 なぜ否定する。 「ちなみに晦は好きなものは最初に食べちゃいたい から、イチゴは真っ先にいただいちゃう派だよー」 「俺は中心から弧に向かって食べていく過程で ぶつかった分だけじわじわ食していく派だ」 「まこちーは?」 「わたし? えへへ……わたしはね……」 「小鳥ちゃんと食べ合いっこする派!」 「いや、食べるタイミングの話だよ?」 「はい、あーん」 「えー……マジですか…………」 「あーん、あーん、あーん!」 「うう……あーん……」 「ぱくっ……もぐもぐ……」 「美味しい?」 「ま、まぁ……」 「えっへん!」 「なんであんたが威張んのよぉ……」 「ふんふん、ほいほい、むふー」 自分の口に指を差しながら鼻息を荒立てるまころ。 「おい、小鳥。まころが待ってるぞ」 「うぅ……わ、わかったわよぉ……。 はい、あーん……」 「あーん!」 「ぱくっ! もぐもぐ……」 「ど、どうよ……」 「えへへ、美味しいっ♪」 「え、えっへん……」 なんだこのやり取り。 「っていうかまころ。 スプーンでケーキ食べてるのな」 「スプーン派なの」 いや、ケーキはフォーク一択だと思うが。 「マイスプーンなんだよねー」 「ふーん……」 彼女達のそういう一言一言に、これまで培ってきた友情の深さを感じる。 きっと今まで何度も食事したり、お茶したり。そういう中でそれぞれの癖や好みを明かし合ったんだろうな。 「また……皆でこうしてお喋りしたいね」 「そだねー。これからも皆仲良しでいたいねー」 「期招来、ちゃんとわかってる? 皆って、あんたも入ってるのよ?」 「え……あ、ああ……」 そっか。 俺もこれから、培っていくんだ。 彼女達と、温かい間柄を。 「楽園祭はもう終わっちゃうけど…… 改めてこれからもよろしくね、期招来君っ♪」 「ふ~~~!」 重力に委ねて、ベッドに身を放る。 「つ……疲れた…………」 長い一日だった。 準備して、緊張して、本番を迎えて。 笑って、ハイタッチして、打ち上げで騒いで。 「……………………」 これも全て、合唱部員だったから味わえた事だ。 部活なんて面倒なものだと思ってた。その競技の才能あるヤツだけがやるものだと思ってた。限られた人間だけが楽しむためにあるものだと思ってた。 違った。あったかかった。 こんなに救われた気持ちになったのはいつ以来だろう。 まころの歌声に聞き入る観客の表情を見て、今までの苦労が報われたと思った。 最高の気分だったな……。頑張って来て……本当によかった。 「………………眠い」 おかげで疲労感でいっぱいだ。 このまま……ぐっすりと眠ってしまおう。 楽しかったな……気持ち良かったな……。 あの昂揚を思い出しながら……ゆっくり……たっぷり……。 「…………ぐう……」 俺が部活なんて、あり得ないって思ってた。 だって……俺は……。 合唱部だなんて。以前の自分なら絶対に考えられない。 歌も無理。伴奏も無理。女子ばっかりの空間で、俺には何も出来ない。 あまりにも遠くて、途方もないものだったんだ。 それなのに、彼女達と感動を共有出来て。 不思議な気分だ。ようやく俺は辿り着いたんだな―― 天使達の住む世界に―― 「んちゅ、ちゅぷ……れろっ、ぴちゅ、れろっ……」 「んれろぉぉ……れろっ、ぴちゅむぅ……んちゅむぅ、 れろっ、れろぉっ、あむちゅぅ……」 「んちゅ、ずじゅ……れろっ、ぴちゅれろっ……! くちゅ、ちゅぷ、れろっ、じゅぶっ……」 ……………………。 白くて、でもどこかどす黒い。 そんな不明瞭な感情が、少しずつ芽吹いていく。 「んちゅるぅ、れろれろぉ、あぁぁん……おちんちん、 すごくふっくらしてきたぁ……♪」 「ちゅず、そりゃそうよ……ちゅぷ、みちゅ……。 こんな、ちゅず、美女に囲まれて……れろぉん、 男にとっては最高のハーレムでしょうから……」 「んちゅずっ、はふぅ、三人におちんちんペロペロされて、 嬉しくないわけないよねー、ちゅずぅ、ぴちゅ」 天使の声が、中耳を介さず脳に響く。 違和感はない。初めからそう決まっていたように、自分の身体は自然とそのノイズを受け入れた。 「ちゅむぅ、れろっ、ちゅっぷ、あふぅ、ちゅずず、 んっ、この先っぽの切れ目……おしっこ出すとこかな? ここ舌でペロペロするの、楽しいな……れろぉんっ」 「んっ、あふちゅぅ、ちょっとまこ……私にもそこ、 ちんこのてっぺん、譲りなさいよぉ、ちゅずっ、んっ、 ちゅっぷ……!」 「んちゅむっ、二人が鈴口を取り合ってる隙に、んちゅぅ、 晦は金玉をいただいてしまうのだー、もごもごもごぉ」 「あっ、たまたまいいなっ……! わ、私もっ! んぐむっ、もごもごっ、ちゅむ、もごぉっ!」 形容出来ない感覚が、シミのように広範囲に拡張していく。 下腹部の一点だけだったまどろみが、少しずつ大きく、その力を蓄えていく。 「んちゅぅ、ちゅっぷっ、はふぅ、ちゅぷ、んちゅずっ、 切れ目に舌先を捻じ込んでぇ……ちゅ、にゅりゅにゅっ、 にゅりゅにゅりゅにゅりゅっ……!」 「あっはぁぁっ、にゅりゅぅ、穴拡がったぁ……♪ 舌、入れやすいよぉ、ちゅにゅりゅぅ……んちゅ」 「もぐもぐ、あむあむ……まこちー、鈴口を無理矢理 引き裂いちゃだめなんだぞー、もごもごぉ」 「ちゅっぷ、んくちゅ……だってぇ……ちゅるずっ、 舌、もっと入れたくて……ちゅず、にゅむぅ……」 「ずじゅにゅ……ここ、おしっこの通り道だよね……? じゃあ、にゅむむ、こうして切れ目を大きくしてあげた 方が……おしっこも出やすくなるんじゃないかな……」 「むぐむぐぅ、あむちゅぅ……まあ、ちょっとくらいは 我慢してもらわないとね……ちゅむぅ、なにせ、この 私達が、同時フェラしてあげてるんだから……あむぅ」 我慢する事なんて何一つない。 天使達がこの身体を触り、弄び、分解したいというのなら、いくらでも差し出すつもりだ。 それくらい、ここは心地良くて、落ち着いていて。穏やかな心持ちなのだ。 「くちゅむぅ、ちゅずっ、んっちゅっ……ちょっと しょっぱひぃ……れろっ、残尿、舐めちゃったぁ♪ くふぅん、れろれろっ、にゅむぅ」 「んぐもごぉ、この、玉袋も、もぐもぐ、ちん毛が多くて 舐めるの大変だけど……もぐもぐ、あむあむぅ……」 「でも、んぐむぅ、中のコリコリした精巣が、あむぅ、 舌触り気持ち良くて、あむちゅ、もっと齧り付きたく なるわねぇ……むぐむぐぅ、あむちゅぅ」 「はぶはぶ、ことちー、これ噛み砕いちゃダメなんだよー? これがぶってしちゃうと……んむぅ、あむぅ、精子 出来なくなっちゃうんだよー」 駄目なわけない。禁忌など無い。 何をしても許される。ここはそういう世界だ。 「むちゅむぅ、あむ、はむちゅぅ、金玉ぁ、あふぅ、 もっとコリコリしたひぃ……んちゅむぅ、あむぅ」 「れりゅにゅぅ、わ、わらひも……れにゅぅ、にゅむぅ、 おちんちんの中にある、ちゅりゅりゅぅ…… おしっこ道……もっと拡げらひぃ……ちゅにゅぅ」 「うんうん、みちゅ、むちゅ、こうなったら二人の 好きにするといいよー……ちゅむっ、ちゅっむぅ」 「ん……そうするー……あむあむぅ、むちゅぅ。 この金玉……甘噛みするねぇ……んむぅ……! あぁぁんむぅぅっ……!」 「きゃっ……おちんちんビクって震えたぁ……! 玉袋刺激されて……反応したのかなぁ……んちゅぅ」 「あむあむぅ、もごもごぉ……舌の上で……んもごぉ、 精巣転がすの……楽し……んもごぉ……はふぅ」 「おお、ちんちんブルブルしてるよー。 んむっ、ちゅっむぷぅ……ちゅっずっ……!」 「きっと小鳥ちゃんの舌に急かされて、金玉が慌てて 精子を作ってるんだよ……ふふ、おちんちん可愛いっ♪」 「もぐもぐぅ、れろれろ、ちゅむっ、もごぉ……はふぅ、 ほらぁ、頑張ってたくさん精液作りなさいよほぉ、 はふっ、ちゅぶっ、ずじゅぶぅ、むっちゅ……」 「それじゃあ……わたしも尿道しっかり拡張させて、 射精の時精液がいっぱい飛び出るように してあげなくちゃ……!」 「にゅりゅぅぅん……んにゅっ、にゅりゅずぅ……! にゅっぷっ、んちゅるにゅるぅ、にゅむぅ……!」 「れろれろぉ……どうまこちー……ちゅぅ、にゅちゅ、 おしっこの通り道……拡がってるぅ……? れろぉん」 「ねりゅねりゅううぅ……にゅっぷぅ、にゅりゅぅ……! はふっ、うん……これだけあれば、きっと精液も どっぴゅーって元気に出てくると思うよっ……」 「れろれろぉ、そいつは楽しみですなー……れろっ、ちゅ、 れろぉっ……くちゅりゅぅ……」 三本の舌が、自由に下腹部を巡っている。 その生温かさは、まさにこの世界に相応しいものだ。 ねっとりと絡み付いてくる淫惑は、原始的な刺激で……。 それゆえに、天使の象徴なのだ。余計なものを排除した、無垢な純白。それこそがこの世界の原理なのだ。 「ちゅぬぅ、ちゅむっ、れろぉぉんっ、れろれろぉっ……」 「ひゃっ……んっ、んちゅむぅ……?」 「んちゅれろぉ、私もぉ……れろっ、ちんちん舐めるぅ、 れろれろっ、ぴちゅ、れろれろれろれろっ……!」 「うん、いいよ……一緒にちんちん舐めよう? れろっ、ぴちゅれろっ、れろぉんっ、じゅむぅ」 「んじゃー晦は玉フェラするよー。 あ~~んむっ、もごもごもごぉ……」 巡る巡る。舌があらゆる場所に、無尽に巡る。 呑み込まれていくだけ―― 「れろれろれろっ、れろぉっ、えろぉぉんっ、れろっ……。 ちゅ、れろれろっ、れろぉっ、えろぉんっ、えろぉっ」 「ちゅるるっ、れろっ、ぴちゅむっ、れろっ……! んちゅっずっ、じゅぶぶっ、れろっ、くちゅむぅ……」 「あむあむぅ、れろれろっ、くちゅっ、れろぉっ……! ずじゅっぽぉっ、ちゅずっ、ぶじゅじゅぅ、れろぉっ」 ああ―― 呑み込まれる―― 「んっ、小鳥ちゃん、ほらここ……この、おちんちんの カリ首のとこ、舌で舐め上げると……れろぉぉっ……! ほら、ね……? ピクってなるの、可愛いの」 「ホントだ……れろっ、れろぉぉ……! んはぁっ、 おちんちんピクってなったぁ……れろぉっ、れろぉっ! きゃはっ、なんだか楽しいねっ」 「れろれろっ、れろれろれろれろれろれろれろっ……! れろれろれろれろれろれろれろれろれろれろれろっ!!」 「れろれろれろれろれろれろれろれろれろれろれろれろ れろれろれろれろれろれろれろれろれろれろれろっ!!」 「んはぶちゅぅ、二人とも、そんなに舌ぺろぺろさせて、 子供みたいだよー……んちゅむぅ」 「んっ、ちゅずっ、みそもやってみなさいよ……れろれろ、 舐めるたびにおちんちん弾けて、楽しいわよ……れろっ」 「じゃあ……まずは金玉から……れろれろれろれろぉっ! れろれろれろれろぉっ、んちゅっ、れろれろれろっ!!」 「んはふうぅ、袋の皺が伸び縮みしてるー……! 変なのー……れろれろっ、ちゅむ、れろれろれろっ……」 「ちゅずっ、ちゅっぷ、みちゅぅ、ちゅっずぅ……! みそち、ほら、こんどはおちんちんのカリ首のとこ」 「ほいじゃ、失礼して……れろぉぉぉぉぉぉぉぉっ……! れろぉぉぉっ、れっっっろおおおぉぉんんんっ……!!」 「あはぁぁ、やっぱりピクンって跳ねる……あぁん、 何これ、楽しいな……れろっ、ちゅっ、ちゅっぷぅ」 性器だけでなく、もはや全身が唾液塗れになっている感覚。 ここは、これ以上ない深いところだ。 ついに辿り着いた。彼女達の舌に導かれ、最も美しい世界を知る。 「んっ、くちゅっ、ちゅむぅ、このぴっちぴちのちんこ、 はふっ、ちゅずっ、れろれろ、舌でこうしてると、 なんか、はふっ、変な気持ちになる……んちゅっ」 「わ、わかるよ……れろっ、おちんちん見てるだけで、 なんか……はふちゅ、エッチになっていくっていうか、 ん……んちゅ、ちゅるるっ……」 「ちんこは乙女をスケベにする力があるんだよー。 れろれろっ、れろぉんっ、ぺろんっ!」 その通りだ。 この世界は彼女達を美化し、神聖化し、絶対化し。 全てを許容する力がある。 だからこんなにも気持ちがいいんだ。 「れろれろれろれろれろれろれろれろれろれろれろっ!! ぺろぺろぺろぺろ、えろえろえろえろえろえろえろぉ!」 神の使い達が繰り出す舌技に酔い痴れる。なんて有難い事なのだろうか。 「れろぉぉぉぉっ…………れろぉぉぉぉぉぉぉっ……!! えろおぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~んんんっ……!!」 全身が真っ赤に染まっていくのを感じる。 そのまま……この世界を性の色合いに染め上げたい。そんな欲望が強まっていく。 「あぁん……もっとおちんちんぺろぺろしたいよ……! キス、いっぱいしたいぃ……ちゅる、れろぉっ……!」 「わ、私もぉ……ちゅずっ、ちゅっぷ……れろっ、ちゅ、 この勃起ちんこ……もっと舌でシコシコしたいぃ……」 「れろっ、皆で一斉にちゅぱちゅぱしようよー。 そしたらきっと……ちゅずっ、おちんちん、 すぐに……ちゅ、ちゅっぷ……ぷちゅぅ……」 すぐに―― 「んちゅっ、ちゅぷ、じゅずずっ、ちゅずずっ、 ちゅぱっ、れろっちゅ、ちゅぷ、ぴちゅむっ!」 「ちゅれろっ、にちゅ、ちゅっぷっ、くちゅっ、ちゅっ、 ずっじゅっ、ずじゅうっ、ちゅぱぱっ、ちゅずずっ!」 「んくちゅずずっ、れろっ、じゅっぶっ、ぶじゅずっ、 ぶっじゅっ、じゅびびっ、ぴちゅ、ちゅっぱっ……!」 今すぐに―― 「んじゅぶぴちゅずじゅじゅくちゅじゅばばちゅずりゅず ぷちゅじゅぶじゅずりゅくちゅずじゅぶぐじゅぶっ!!」 「ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ!」 「ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっ ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっ ちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっちゅっ」 結末は当然のごとく。 「んちゅっ、ちゅずずっ!? くちゅっ、んじゅぶうっ! ちゅぶうっ、じゅっぶっ!? んひっ、くちゅっ!?」 これだけ熟成させられて、解放しないでいられない。 「ん、おひんひん、くひっ、ちゅぶっ!? ひゃっ!? ドクドク……ひっ、くひっ、ちゅぶっ、ちゅっぴ!?」 根からたっぷりと淫液を運ぶ。少しでも多く、彼女達に捧げるために。 「ちゅむ、んちゅっ、ちゅぷっ、ちゅずずっ、くちゅ、 んちゅっ……ちゅぷっ。はふ、んふっ……おちんちん、 まだ震えてる、あふっ、射精続いてるー……れろちゅっ」 「くちゅむ、ちゅずずっ、や、んっ、顔にいっぱい かかっちゃった……ちゅれろっ、ザーメン、こんなに、 はっふぅ……」 「わたしもぉ……んちゅずれろっ、口の中にも、れろっ、 ぴちゅ、顔にも、おちんちんミルク、いっぱいぃ……」 元から純白の天使だったんだ。白濁に塗れて、美しくなる事はあれど穢れる事は無い。 「ちゅっ、ちゅぷ……ちゅずずぅ、くちゅれろっ……。 おちんちんの中、まだ精液詰まってるかなー……。 皆で吸い上げてあげようよー」 「そうね……れろぉん、あはぁ、最後の一滴まで 味わいたいもんね……ちゅずっ、くちゅ」 「――んずずずずずずず~~~~~~~~っっ!!! じゅじゅずずずずずずず~~~~~~~っっ!!!」 「んっずううっ、ずずずっ、んぐずずずずずっ……!! はふぅ、おちんちんの奥の精液、全部出てきたよー、 ちゅっずずずずずずずず…………」 「んっ、ずずっ、ちゅずず……ちんこ、こんなに ザーメン詰まってたのね……金玉いっぱい 舌でもぐもぐしたおかげかしら……ちゅずずっ」 「んじゅっずううっ、ずずずっ、んっ、ちゅぶぶっ、 精液、はふっ、口の中いっぱひぃ……ちゅずずっ!」 「んぐんぐっ……精液飲むの難しいー……んぐんぐっ、 喉に引っ掛かるー、ちゅずずっ、んぐんぐんぐっ!」 「んっ、んっ、ごくごく、唾液と混ぜないと飲み込めない、 はふっ、んぶくぶくぶく……ザー汁、喉に引っ掛かる、 んぐぶぶぶっ、ぶくぶくぶく……」 「ちゅぶっ、ごくごくごくっ、ぶっくぶっくぶっくっ、 でも美味しいな……ザーメン、すっごく濃くて…… んぐんぐっ、美味しい……♪ ぶくぶく、ごくっ」 「――ごくごくごくごくごくごくごくごくごくごくっ! んっぐんっぐんっぐんっぐんっぐんっぐんっぐんっぐ!」 彼女達から放たれる精飲の泡音や喉音。 それら全てが下品で、でも彼女達は美しいから上品だ。 「んぷはぁぁっ……あぁん、喉に生臭いザーメンが こびり付いて……はふぅ、あぁん、生フェラごっくん、 すっごくいやらしい……」 「はふぅ、でも……こんなエッチな事、癖になっちゃい そうだよ……はふっ、あっふぅ」 「んぷー……ザーメンって、こんな味するんだねー……。 んっ……ごっくんっ、んっぷ……はふ、うっぷ」 生気をたっぷりと奪い取って、満足げの天使達。 「さて……なんだかフェラですっかり スケベになっちゃったからぁ……」 「次は、わたし達が気持ち良くなる番だね……」 「引き続き晦達のエロエロな姿、 たっぷり見ててもらいましょー」 あ……れ……? 「あ、期招来君。起きたー?」 俺……寝てたのか? 「何よ、だらしない顔ね。 こんなオイシイ場面、二度と見れないわよ?」 さっきまで、不思議な夢を見ていた。 真っ白な世界で、空を飛びながら天使達と戯れていたような。 随分心地良かった。 今は……。 「ほらほらー。どのおまんこが一番好みかなー?」 ――なんだこの光景は……? 「今からね、わたし達オナニーしようと思うの」 「あんたのちんこ舐めてたら……ほら、おまんここんなに トロトロになっちゃったのよ。もう我慢出来ないの」 「期招来君も、晦達のオナニー見たいよねー? 男の子だもんねー、おまんこ眺めたいよねー?」 「……………………」 喉から声が上手く絞り出せない。 そこに並んでいるのは、先ほど夢に見た天使達だ。 俺はまだ、夢の中にいるのか?だから上手く喋れないのか? 「ほら……おまんこに囲まれてるのよ? 寝惚け眼だと勿体ないんだから。 せっかくのオナニーショー、食い入るように見てなさい」 ああ……優しい声だ。先ほどの心地良さを思い出す。 こんなにも非現実的な浮遊感。まだ夢の中なんだ。間違いない。 だったら遠慮なく溺れてしまえばいい。彼女達の誘惑に身を委ねてしまおう。 「んっ……んっ、はふっ……んっ、くぅんっ……!」 それぞれの細い指が、淫穴の中に吸い込まれていく。 「ふぅ……んっ、んっ、んんんっ、んー…………」 その吸引力たるや、高潔な世界のものとは思えない、まさに魔のブラックホールだ。 「はあっ……んっ、あっ、ふっ、んっ、んっ、んっ……」 そしてにちゃにちゃと響くその肉音も、下劣で、猥褻で。 天使の純潔のイメージとはかけ離れた淫靡さだ。 「あはぁっ、んっ、さっきのおちんぽフェラで……んっ、 おまんこトロットロになっちゃったから……指、 ずっぽり入っていっちゃう……はふぅんっ」 「わ、私も……んっ、くっふっ……! まん肉、ちょっと触っただけで、気持ち良くって、 ビクビクって……あっ、ああんっ!」 「はぁぁぁ……んっ、身体中ザーメン塗れのまま オナニーだなんて……スケベ過ぎるよー……あふっ」 そう言えば、彼女達は随分と純白だ。 あの白は、俺が施したのだろうか。よく思い出せない。 「ほ、ほら期招来……んっ、見てないで何か言いなさいよ、 んっ、あぁん、私達のおまんこ……どうよぉ、はぁん、 どうなのよぉ……!」 「……………………」 「んっ、はぁぁっ、ふふ、んふふっ……ありがと……。 期招来君に褒められると……嬉しいな……はふぅんっ」 「そんなに興奮しちゃうなら、またイってもいいんだよー? おちんぽ……んっ、はっふぅ、勃起したくなったら、 いつでもどうぞー……んっ、んっ、んっ……」 「………………」 「はぁっ、んっ……う、うんうん、そうだよねー……。 おちんぽさっき射精したばっかだけど、晦達の ドスケベオナニー見てたら、すぐに勃起しちゃうよねー」 「ふ、ふん……当然じゃない……! ぁっ……んっ、はあ! 私達のオナニー見て、我慢出来るわけないんだからっ、 あっ、ううっ……はぁんっ!」 「オスなら、あっ、んっ、シコりたくなるに決まってるっ、 はっふっ、だから……遠慮なく、勃起ちんぽシコシコ させてもいいんだからねっ……あっ、ふあっ……!」 「んっ、あぁん……ふふっ、小鳥ちゃんってば、 わたし達のオナニーをオカズにして、期招来君に シコってもらいたいの……?」 「ち、ちがっ……私は、ただ……バキバキに勃起した ちんぽ……どうしても我慢出来ないなら……仕方ない かなって……んっ、んんっ!」 「あっ、んっ……んひひー、ことちー、こういう時でも 素直じゃないねー……はふっ、んんっ……!」 「………………」 「あっ、ああぁんっ、うるさいわね、期招来まで……!」 「ふふふ……でも、期招来君……? ホントに遠慮なんてしちゃダメなんだよ……? 勃起ちんぽ……好きにしていいんだからね……?」 「はふぅん……あっ、あっ、このトロトロまんこ見て、 もし期招来君もオナニーしたくなったら…… あっ、あっ、あっ……はふあぁっ……!」 「そ、その時はちんぽシコってもいいんだよ? わたし達と一緒に、猿みたいにオナろ? はぁんっ」 「…………………………」 そうだ。さっきもそうだった。 この世界に禁じられているものなどない。 身体が望めば、その通りにすればいい。どうせ許される。 彼女達がそうしているように、俺もそうすればいいのだ。 「んくうぅ、期招来君のちんぽがもっと勃起するように、 あひぃ、もっとオナりたくなるように……エロエロな おまんこ、いっぱい見せてあげるからねー……」 「ねえねえ、晦のおまんこ今どうなってるかなー……? こんなに濡れてて……指もずっぽりなんだよー……? おちんぽ……入れたくなっちゃうでしょー……」 「期招来君のちんぽなら、いつでも大歓迎なんだよー? 晦のオナまん見て、勃起止まらなくなったら…… セックスしよっかー……ね? あっ、んっ、んっ……」 「……………………」 「あ、ズルいわよおみそっ! 今はオナニータイムでしょ、 セックスの勧誘は御法度なんだからっ!」 「にひひー、この世界に禁止事項はないんだよー。 期招来君がそう言ってたもん」 「う、うう……だったら私だって……! ま、負けないわよ……! あっ、はぁっ……!」 「ほら、期招来、私のおまんこ見なさい! 私のおまんこだけを見なさいっ!」 「んっ、はふぅ……私のおまんこが……あぁんっ、 一番オスちんぽ勃起させられるんだもんっ……! 誰よりもエッチで……いやらしいおまんこなのよっ……」 「だ、だから……はふぅ、私のエロオナまんこで、 セックスしたくなるのは当然で……はぁんっ、もし、 き、期招来がどうしてもっていうなら……特別に――」 「――期招来君、わたしのエッチまんこ見てぇ……!? ほぉら、オナニーでじゅるじゅるだよぉ……見てぇ……」 「ちょ、まこぉ、邪魔しないでよぉ……!」 「あぁん、ねえ期招来君……わたしだってぇ…… いっぱいスケベに出来るよぉ……? 変態おねだり、上手なんだよぉ……?」 「ほら……このトロまん、すごくいやらしいのぉ……! 期招来君の勃起ちんぽが欲しくてぇ……ドロドロに 熟れちゃってるの、完熟まんこなのぉ……」 「入れて欲しいんだよ……? 期招来君のぷりっぷりの 勃起ちんぽで、完熟まんこいっぱいぐちゃぐちゃに して欲しいのぉ……はぁんっ……!」 「想像して……? その立派なガチガチのオスちんぽで、 柔らかいわたしのオナまんこを食い散らかしてく濃厚 セックスを……あはぁっ、気持ちよさそうでしょ……?」 「このむっちりまんこにオスの欲望好きなだけぶつけて いいんだからね……? わたし、大歓迎だよ……? いっぱいオナニーして、準備して、ちんぽ待ってるよぉ」 「…………………………」 三人の誘惑に、俺なりの拙い言葉で一つ一つ返答を送る。 どうやら喜んでくれたみたいだ。天使の笑顔が見られて、俺も嬉しい。 「はぁぁっ……んっ、あっ、あっ、んっ……! 期招来君がそう言うなら……オナニー、 もっと頑張っちゃうよぉ、はふぅ……!」 「ほら、もっと私のおまんこ見てぇ……! オナニーまんこ見て欲しいのぉっ、んっ、んっ、ほら、 あっ、あっ、あっ、ほらほらほらぁっ、あぁんっ!」 「期招来君なら、晦のまんこが一番だって思うよねー? んっ、んっふうぅ……はふっ、いいんだよー? 晦のオナニーに見蕩れて……んっ、んんっ……!」 清らかな水音がさらに加速する。 彼女達の性熱に中てられて、俺の股間も呼応し始めたところで……。 「はぁん……勃起すごひっ……私、勃起ちんぽ眺めながら オナニーしてるぅ……! んっ、私のオナニーで興奮 したちんぽ見て、私も興奮してオナニーしてるのぉ……」 「オナニーの見せ合いっこぉ……はぁっ、んっ、くひっ! 勃起ちんぽオナネタにオナニーする私と……んっ、 トロトロまんこオナネタにオナニーする期招来……はぁ」 「すごくやらしいね……私達、スケベだよっ……! くっふぅ、んっ、こんなスケベなオナニー初めてっ…… 興奮しちゃう、おまんこ、熱くなるっ、はぁっ……!」 「晦も、んっ、んっ、期招来君のシコシコ見ながら おまんこ弄るの、楽しくなってきちゃったよー……! はぁっ、んっ、あっ、あっ、あっ……!」 「晦がおまんこほじくると、期招来君も一緒になって 勃起ちんぽシコシコしてるー……はふぅ、相手の 性器見つめ合いながら、自分の性器触ってるんだよー」 「ほら、おまんこほじほじ、ほじほじぃ……あぁんっ! そしたら期招来君もちんぽシコシコ、シコシコぉ……。 あはぁっ、楽しいね、オナニー楽しいねぇっ……!」 「わたしもオナニー楽しいって思ってるよぉ……! こんな楽しいオナニー初めて……それに、こんな 気持ちいいオナニー初めて……はっ、あぁんっ!」 「そのギンギンのご立派ちんぽ……見てるだけで おまんこからエッチなお汁が溢れちゃうの……! ほら見て……わたしの桃ジュース……はぁんっ!」 「とっても濃厚なんだよ? トロトロで……甘くて、 すっごく美味しいの……んはぁっ……! オナニー しまくって、もっとたくさん搾り出してあげるね……」 「このスケベな香り……きっと期招来君の鼻にも 届くよ……? わたしのまんこネクター、いっぱい プレゼントしてあげる……んっ、はひっ、んひぃ!」 魔性の穴から、ねっとりとした蜂蜜が溢れ始めた。 応じて天使達の指遣いも慌ただしくなり、いよいよの時を予感させる。 「はぁっ、お、オナニーいいっ、おまんこおかしく なっちゃうくらいのオナニーっ! 気持ちいいっ! オナニーオナニーオナニーっ! あっ、あっ、あっ!」 「も、もう、おまんこ限界かもー……はふっ、くっふう! 一番奥の方で、熱いのが溜まってきてるよー……あっ、 んっ、んんっ、んっひいっ……!」 「期招来君……わたし達のエッチなラストスパート 見てて……? おまんこ、とびきりスケベになるからっ、 声も、顔も……全部スケベになっちゃうからぁっ……!」 「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、 んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ!」 「………………」 俺も、その切羽詰まった呼吸に手首の加速で応える。 より一層、下品な肉音と水音が一帯に響き渡った。 そして―― 「あっひっ! あっ、あっ、ああんっ!! お、オナニー止まんないっ、指っ、ひっ!! オナニー気持ち良過ぎて、ゆ、指ぃっ! ひいっ!!」 「オナまんどんどん拡がってくよぉっ、はっふうっ! あっ、お、オナオナになるうっ、おまんこ、オナニーの し過ぎで、オナオナに、ひっ、あぁんっ!!」 「イクっ、イっちゃうよっ、イクイクぅっ……!! オナニーでイクぅっ、おまんこイクっ、あっ、ひっ!! お、オナニーで……オナニーで……イクぅっ!!」 「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、 あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!」 「――あっはああぁぁぁああぁああぁああああぁあああ ああぁあぁああぁああぁあああぁあああっっっ!!!」 嬌声に祝福されながら、熱い飛沫が美しく舞い散った。 「あっはぁぁんっ! ああっ! ああっ! ああっ! ああっ! ああっ! ああっ! ああっ! お、おまんこ熱いっ、出るっ、イってるぅっ!」 「ひぃんっ!! お潮どんどん溢れてくるよーっ! あっ、あっ、おまんこ、イキまくってるーっ、ひーっ! ああんっ! ああんっ! ああんっ! ああんっ!」 「オナニーでこんなに出ちゃうなんて……はひぃ! 初めてだよぉっ、こんなオナイキ初めてっ、んひっ! オナニーで、わたしイキ過ぎぃっ、くひいっ!!」 どこを見ても、キラキラと輝きながら迸る淫液で満たされている。 厳かな光景だ。劣情を忘れてその美麗に浸る。 「はぁっ、はぁっ……んっ……はぁっ、はぁっ……」 「オナニー……ようやく終わったよぉ……! はふぅ、気持ち良かったぁ……」 「んっ、でも……はぁっ、はぁっ……まだおまんこ 満足してないよ……? もっともっと…… 気持ち良くなりたい、スケベになりたい……!」 「そ、そうよぉ……! 自分で弄るのはもうおしまい……。 次はあんたのそのギンギンちんぽでほじくり回して もらうんだから……!」 「………………」 「ふふふっ……期招来君、やる気満々みたいだねー……! これは期待しちゃっていいのかなー?」 「………………」 「一人だけ……? そ、それじゃあもちろんわたしだよね!? わたしの完熟おまんこに挿入したいよね!?」 「何言ってるのよっ!? 期招来のちんぽは私がいただくんだからっ! 誰にも譲ったりしないわよっ!?」 「二人とも、無駄だよー。期招来君、さっきからずっと 晦のおまんこに釘付けなんだよー? 晦とセックス したくてちんぽ疼いてるの、晦気付いてるよー」 「………………」 言い寄ってくる三人の天使。 俺は……ずっと前から選んでいた。心に決めていたんだ。 「期招来、私よね? 私のおまんこに入れたいわよね?」 「ほらほらー、恥ずかしがらずに正直に言って いいんだよー? 晦は心の準備出来てるんだからー」 「期招来君……来て……。わたしを選んで……? お願い……ね……?」 「……………………」 ゆっくり、丁寧に指名する。 俺の答えは―― 「………………」 「………………?」 あれ……? 俺……さっきまで……。 「………………」 自分の部屋だ。 目覚まし時計の針は起床する時間を指している。 「…………夢?」 だとしたら、随分妙な夢だった。 三人とあんな淫らな事をする夢。 リアルな夢だったな……。 「………………」 「……俺、溜まってんのかな」 ……さっさと支度しよう。 「………………」 うう……。 あの夢のせいで、なんだか朝っぱらから変な気分だ。 俺、深層心理で彼女達の事そういう目で見てたのかな。 「あら、期招来」 「うおっ!? 小鳥っ!?」 「何よ、うおって……そんなに驚く事ないじゃない」 「い、いや……」 「楽園祭が終わって……また普通の日常に逆戻りね」 「そ、そうだな」 「あーあ、なんか寂しい感じ。 お祭りの後ってこれだから嫌なのよ」 「………………」 「……普通の日常が送れるって幸せな事だと思うよ」 「……は? 何よジジくさい事言って」 「いや、なんとなく」 「普通……か」 「何が普通で、何が普通じゃないのか。 そんなのわかりっこないのにね」 「え……?」 「周りが決める事でもないし…… だからといって自分じゃ決められない。 普通って何だろう? 普通の日常って……何?」 「……………………」 「ことちー、期招来君、おっはー」 「うおっ!? 晦っ!?」 「うおー、晦だぞー。期招来君何慌ててんのー?」 「な、なんでもないよ……」 「楽園祭終わっちゃったねー。 今日からまた普通の授業だねー」 「すぐに期末テストよ」 「ひえー。考えたくないよー。 もう少しあの楽しかった日の余韻に浸っていたいよー」 「そう言って赤点とって苦しむのはあんたなのよ? 覚悟決めなさい」 「そういうことちーは勉強してるのー?」 「ぐがが……ぎぎぎぎぎ……」 「赤点とったら休み返上で補習三昧だよー。 恐怖だよー。絶望だよー。最悪だよー」 「ごげげげ……ぎゅぐぐぐぐ……!」 「――あーんっ! おみそ、ヘルプ!」 実は晦の方が小鳥より成績が上なのであった。 昼休み―― 「………………」 まころ、誰かと電話してる。誰と話してるんだろ。 「…………ぁ」 「期招来君っ♪」 「うおっ!? まころっ!?」 目が合った途端、通話を切って勢いよく話しかけてきた。 「ねえねえ、もう決心出来た?」 「えっと……何が?」 「正式に合唱部に入部するって話!」 「は、はい……!?」 「いいよね? 同じ釜の飯を食べた仲だし。 もう部員として正式に所属しちゃっても」 釜の飯っていうか、ケーキだったけどな。 「それは……まあ確かに魅力的な話ではあるけど」 「お! じゃあ――」 「でも俺歌上手くないしさ。手伝いとかアドバイスとか ならまだしも、歌うってなると……」 「うーん……そっかぁ……」 「もうちょっと考えてみるよ」 「うん。わかった」 合唱部の正式な入部か……。 全く考えてなかったわけじゃないけど。楽園祭があったから後回しにしてたもんな。 その事について、そろそろ真剣に考えなくては―― 音楽室の前に立つ。ついこの前まで、当然のように行き来していた場所だ。 「おー、来たねー」 「おう。来たぞ」 放課後。俺は晦に音楽室に来るよう呼び出された。 楽園祭の片付けの手伝いで、男手が欲しい、との事だ。 「……あれ? 晦だけか?」 「二人は来ないよー」 「なんで? 片付けするんだろ?」 「ねえ期招来君。入部しないのー?」 「え……? あ、ああ……考え中だ」 「そっかー。晦は歓迎したいんだけどなー」 「あ、でも……二人はどう思うかなー……」 「え…………?」 俺が疑問に思ったのは、晦の含みのある言い方に対してでは無い。 いきなり、こんな状況になっていたからだ。 「は――」 「おー、期招来君のちんぽ、相変わらずご立派ー」 「なに……?」 「期招来君、『え』とか『は』とか『なに』とか、 ノリ悪いよー? 合唱はノリが大事なんだよー?」 「俺は……合唱部員じゃ……」 「そのうち入部する事になるってー♪」 晦ののんびりとした言葉遣いが、今は不安を煽る。 世間話なんて出来ない。するつもりもない。 全てが把握できない。 なぜこうなった? なぜ俺はペニスを晒しているんだ?なぜ晦は俺の上に乗っかっているんだ? なぜ“相変わらず”なんだ――? 「ねー、おちんぽすっごくギンギンだよー? 晦のおまんこに入れたくてたまらないのかなー?」 「セックス……したいのー? ふふ、もちろん晦はオッケーだよー? よかったねー、ちんぽちゃん♪」 「……っ」 晦の言う通り、俺のペニスはすっかり隆起している。 たっぷり前戯を済ませたかのような屹立だ。自分でも不思議なくらい、性熱が一点に籠っている。 「期招来君、ほらー……見えるかなー? 晦のおまんこ、もうトロットロなんだよー……?」 「晦もね……そのちんぽ入れてもらいたくって…… んっ、はふぅ……おまんこ興奮しちゃってるのー……。 ふふっ、お互い様だねー……」 お互い様?俺のこの勃起は、晦に入れたいからって事なのか? どうしてそんな感情になったんだっけ……? 思い出せない。ここ最近、俺の記憶力はさっぱりだ。 大切な事をどんどん忘れて……無意味な人間と化していくだけ……。 「さぁてー……そろそろ挿入しちゃっていいかなー? 準備出来たー?」 「……って、聞くまでも無いよねー。超絶勃起ー。 セックスする気満々って感じだもんねー」 「それじゃあ……遠慮なく、いただいちゃうと しますかねー……んっ、ふん゙っ――」 「んっ、ぐっ…………くぅぅぅ…………!!」 入った……。入れて来た……。 俺……晦と繋がったんだ。ホント意味わからん……! 「くうっ……はっ、はっ……んっ、ぐっ、くぅ……! お、おお……やっぱ……出るんだー……血……!」 「はっ……はっ……ち、血っ……!?」 「そだよー……んっ、くぅ……ほら、おまんこのとこ、 赤いのトローってしてるでしょ、んっ、くふぅ……!」 「これ……血だよぉ……血ぃ…………! 晦……処女だから……はっ、あぁんっ……」 血―― それは知ってる。記憶している。 その赤は、俺の人生にとても馴染み深い色―― 「くぅ……はぁっ、晦……期招来君に初めて 奪われちゃったよー……んっ、はぁぁんっ!」 「奪ったつもりなんてないぞっ……! 晦が勝手に……はあっ、はぁっ……」 「ふふふっ……でもいいんだよー……んっ、はんっ! 晦、期招来君が相手なら……別に後悔してないから……」 「だって……期招来君は……んっ、まこちーと、んっ、 ことちーのオキニで……はっ、あぁんっ、くはぁっ!」 「その人をこうしていただけちゃうなんて……んっ、 女として勝ち点稼いでる気がしますなー、あっ、んっ、 はぁっ…………!!」 「お前、なに、言って……くぅっ……!」 「女三人集まって……んっ、厄介な事にならない方が おかしいんだよー……んはぁっ、あっ、あぁんっ!」 「男の子にはそれがきっとわからないんだねー……んふぅ、 あっ、んっ……期招来君、女子って男の子が思ってる より、はふっ、ずっと……汚い生き物なんだよー……?」 「はぁっ……はぁっ……それは、知ってる……っ!」 「お、おお……! そかそかー……はふぅ、期招来君も お子様じゃないって事かー……」 知ってるさ。女の醜悪さ。誰よりも知ってると思うよ。 でも、その裏付けが思い出せない。本当に俺の頭は記憶喪失並に過去を引き出せなくて、腐ったポンコツ脳味噌だ。 「ちなみに……まこちーとことちー、どっちが悪い子か 知ってるー……?」 「……まころだろ?」 「正解ー♪」 なんで知ってるんだっけ? 「んー、でも厳密に言うとことちーになるのかなぁ……? まこちー本人は良い子で、悪いのはことちーで…… でもそのことちーを所有してるまこちーが悪い子?」 「なんかちゃんと考えるとわからなくなってきたよー。 難しい話はもうやめにして、ちんぽの事だけ考える 事にするよー。今はセックス中だしねー」 俺も、まころや小鳥が悪い子だなんて考えたくない。 あれ? でもそういう事もきちんと向き合わないといけなかった気が……? 「んっ、んん゙っ!」 「――っ」 「へへへー、まんこぎゅーって締めつけてみたのー。 ちんぽ気持ち良かったー?」 「はぁっ、はぁっ……やたら余裕だな、晦……! 処女喪失したばっかなんだろ……?」 「もちろんヒリヒリしてるよー。 血出ちゃってるくらいだもん、痛いに決まってるよー」 「でも……はふぅ、期招来君のちんぽ突っ込んでる んだもん、痛がってるなんて損だよー。 しっかり……んっ、楽しまなきゃ……」 「嬉しい事言ってくれるじゃないか……! 晦、そろそろこの状況を説明してくれ……!」 「晦がねー、きじょーいになって期招来君と セックスしてるのー。晦の処女まんこ、 期招来君のちんぽが犯し中なんだよー」 「はぁっ……はぁっ、もう少し……詳しく教えてくれ。 俺、なんでお前とこんな事してるんだ……?」 「ねえ期招来君。ことちーとまこちーって、 仲悪かったの知ってるー?」 「はぁっ……はぁっ……え?」 話題を強引に変えられたが、そちらの話の内容の方が興味を引くものだったので、すぐに食いついた。 「二人が……不仲だって……? それは……はぁっ、はぁっ……知らないな……」 「期招来君、人を見る目ないねー。 楽園祭の練習とか準備とかで、あんなに一緒に 時間を過ごしたのにー」 「まあ無理もないかー。んっ、いつも晦がいたもんねー。 晦は二人の仲を取り持つのが上手だから……はふぅ、 期招来君が気付かないのもしょうがないかもー、はっ」 「はっ……はっ……冗談……だろ?」 「ホントだよー……んっくぅ……はふぅ、ことちーと まこちーはね……んっ、二人っきりに出来ないんだよー。 だって二人は……すごく仲悪いから……はぁんっ!」 時折混ざる嬌声の甲高さが少しずつ増している気がする。 おかしな話だ。あの二人が仲悪いだって?そんな事無いだろ? だって……路地裏で不良に絡まれた時も、まころは身を挺して小鳥を庇って……。その後、お互い大好きって言い合って……! まころの嘘がバレて仲直りしてから、二人は支え合っていた。打ち上げの時だって、苺の食べ合いっことかしてとても仲良さそうだった。 仲悪いなんてあり得ない。絶対に嘘だ。 「はふぅん、んっ、んっ……期招来君は……あぁんっ、 まこちーとことちーが二人っきりでいるとこ、 見た事あるー?」 「え…………」 「無いよねー? 晦が絶対いたはずだよー? んっ……くふうぅ、だって……二人だけにしてたら、 何し始めるかわかんないもん……あぁんっ」 そう言えば……。 二人の傍には、いつも晦がいたような……。 「晦はねー、ずーっと前から、二人の間を取り持ってるの。 はぁ……はぁ……はふっ、んっ……晦がいないと、 あの二人は……合唱部は成立しないんだよー……」 「疲れる時もあるんだー……。 全部どうでもいいって思う時だって、あるんだよー」 「それで……ヤケになって俺とセックスか……?」 「ふふふっ、いいねそれー。 期招来君、面白いよー」 面白くなんかない。 俺はまだこの事態が飲み込めていなくて……。 余裕たっぷりで全てを知っているかのような晦の表情が気に障るんだ。 「……はふぅん……ねえ、期招来君。 期招来君は晦とまこちーとことちー。 この三人の中で誰が一番好きー?」 「説明……してくれよ、頼むから。 どうして俺、晦とセックスしてるんだよ」 「晦を選んでくれたら嬉しいなー。 あの時、なんて言うつもりだったの? よく聞こえなかったんだー?」 あの時……? あの時っていつだ……? 「晦だって女の子なんだよー? んっ、はふっ、うぅん……他の女子じゃなくって、 晦がいいって言われたら……やっぱり嬉しいよぉー」 「そう思ってもらうために、こうしておまんこいっぱい 力ませて、ちんぽ締め付けて、頑張ってるんだよー。 ふんっ! ふんっ! ふぅぅんっ!」 「ゔ……あっ!」 原因不明の快楽が俺の思考を圧倒する。 何がどうなってこの悦楽が舞い降りているのか、俺にはもう追究出来そうにない。 仰向けでペニスを晒す事すら不本意だって言うのに。この快感の前ではそんな事も受け入れてしまう。 「んっ、勃起ちんぽぉ……気持ちいいよぉ……! まんこがこんなに気持ちいいって事はぁ、はふっ、 はぁっ、ちんぽも同じくらい気持ちいいって事だよねぇ」 「んっ! んっ! ふぅんっ! くひあぁっ……! おまんこでちんぽ抱き締めるの、楽しいねー……はふっ、 んっ、んっ、んっ! 期招来君も楽しんでるー……?」 「はぁっ、はぁっ……おかげ様でな……」 「そっかぁ、それは何よりだよー。はふぅん……くっふ、 晦の初エッチ、いい思い出になりそう……」 思い出……か。 俺に欠けている言葉だ。 せっかく楽しかったのに。皆で一つの目標に向かって、ガムシャラに走って、試行錯誤してそのたびに頑張って。 青春だった。短い時間だったけど、素敵な思い出となった。 それが、失われていく気がする。この行為によって。 またはもとから、その思い出を保存するための記録媒体など持ち合わせていなかった気がする。 いずれにせよ、楽園祭で得た皆の笑顔は……もう―― 「――時間の問題だ」 「それって射精しそうって事ー?」 「そう……かもな……っっ!」 「ふふふっ、いいよー、中出し大歓迎だよー。 あっ、んっ、んんっ……」 「期招来君の精液もらえたら……きっと二人に自慢 出来ちゃうよー……はぁん、あっ、んっ、んっ」 「それに……晦だってこれ、初めてのセックスなんだもん、 ふっ、ぁぁん……中出し〆でお願いしたいよー……。 んっ、くぅ……その方が……大人っぽいからねー……」 「はぁっ……くぅ、どこに出すか…… そもそも俺が選べるようには思えないけどな……!」 「そうかもー……んっ、くひっ、ひぃんっ……! 外に出そうとしたら、おまんこで抱き留めるんだからー。 おちんぽ……逃がさないよー……はっ、あぁんっ!」 「晦のおまんこも、くふぅ、んっ、もう、そろそろ 限界っぽいし……んっ、ふひぃ……仕上げの中出しは 譲れないかなー……んっ、んっ、んっ、んっ、んっ……」 晦の上下運動が、小刻みなものに変わった。 抽送を調節して、絶頂の潮流を作り出しているのだ。 「あっ、ああんっ、あふっ、ひぃ……んっ、ひぃ……! おまんこ、いい感じぃ……あっひっ、ひっ、ひぃんっ! そろそろ……ホントに…………んっ、くうっ……!」 「あっ、あっ、あっ……ひっ、ひぃん! んっ、ひっ! ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、 ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ!!」 そしてそのリズムは、俺の精液を引き上げるのに相応しい鼓動で―― 「も、もうイクっ、まんこイクよぉっ……ひっ、ひっ! ち、ちんぽも、イクよね……!? んっ、んっ、 この勃起だもん、もう射精しちゃうよねっ……!?」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」 「答えられないほどちんぽ射精寸前なんだねー……はふぅ、 そかそかー……んっ、ふっひぃ、あひぃ……!」 「じゃあ、一緒に思いっ切りイっちゃおう……! あっ、あんんっ、そのちんぽの中に詰まった精液…… 晦のおまんこに思いっ切り注ぎ込んでねー……はぁ――」 「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」 「イクイクイクイクイクイクイクイク……あっ、あっ、 あ、あ、あ、あ、あ、ぁ、ぁ、イクイクイクイク……!」 「あっひいっ!! あっひいっ!! あっひいっ!! あっひいっ!! あっひいっ!! あっひいっ!! あっひいっ!! あっひいっ!! あっひいっ!!」 ――俺達は同時に頂点に至った。 俺は無抵抗にまで堕とされたペニスを根こそぎ弄ばれ。 晦は喘ぎ声まで規則的に刻ませてしまうくらい大胆に上下震動し。 淫らなその時を迎えたのだった。 「イってるっ、イってるっ、おまんこイってるよぉっ!! ちんぽ射精で、お潮イクのぉっ、イクイクっ、ひっ!! おまんこイクうっ、はひいっ、ひっ、ひっ、ひいっ!!」 「中出しされてるよぉっ、まんこの奥、子宮のとこっ、 精液、びちゃー、びちゃーってっ、あっひいっ!! 気持ちいいっ、気持ちいいよぉっ、あっ、あぁんっ!!」 「くぅ…………っっ!」 吐精が続く。 因果なんかわからなくても、気持ちいいものは気持ちいいんだ。 その事実だけで、俺はこんなにも精液を放ち続けている。 「ちんぽぉっ、ちんぽすごいねぇっ、くっひぃ、あひっ! 晦の処女まんこ、熱々勃起ちんぽでこんなに気持ちよく させられちゃったのぉっ、ふひぃ、あひぃっ!」 「あっ、あっ、まだ潮出るよー、あっ、あっ、あ、あ、あ! ぴゅーって、ぴゅーってまだ出る、あ、あ、あ、あ…… ああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~………………」 結合部から淫液が漏れ出る。どちらが出したものかわからない、正体不明の液体だ。 まったくもって、わからない事だらけ。 その中で一つ言えるのは、気持ちいいという事だけ。セックスの不確かさと強固さの両面を思い知らされる。 「んっ、んっ……はへぇぇ……あっ……へぇぇ……! お潮……終わっちゃったぁ……あっ、あっ……んっ、 最後の一滴、出たぁ……はぁあんっ……」 「射精も……落ち着いたー……? んっ、ちんぽ、 ぶぶぶーって震えなくなったみたい……。 全部出し切ったみたいだねー……はっ、はへぇ……」 「はぁ……はぁ……一度だけ……一度だけあるぞ」 「……はふっ、はへぇ……ん、んー……?」 「まころと小鳥が……はぁ、はぁ、二人っきりだった事。 あの時晦は……確かにいなかった……」 「えー、そんな事あったかなー? はぁ、はぁ、 晦、いつもまこちーとことちーが二人っきりに ならないように、気を付けてたはずだけど……」 「その時お前は……日直の仕事で 部室に来るのがちょっと遅れてたんだ……」 「そっかー……はぁ、はぁ、で、期招来君は見たのー? まこちーとことちーが二人っきりでいるとこ……」 「……少しだけ、な」 「……何してたー?」 「――まころ、泣いてた」 「あっははははははははははははははははははっっ!!!」 きっと小鳥に泣かされていたんだ。 「あーーーーーーーーはっはっはっはっはっはっっ!!!」 すぐに泣き止んだのは、俺がその場に現れたから。“二人っきり”じゃなくなったから―― 本当に―― わからない事だらけだよ―― 「――わたしね、将来音楽系の学校に進学したいんだ」 「……………………」 「……言ったっけ? この話」 「俺、まころに確認したい事があるんだ」 「期招来君には……わたしの事色々知ってもらいたいな。 楽園祭でいっぱいお世話になったし……。 そもそもそういうの抜きで、個人的に……ね」 「晦から聞いたんだけどさ。 どうしても信じられなくって」 「テオドール・ベクトルって言葉知ってる? 難しい医学用語なんだけど…… 簡単に言うとね、要は――」 「お前、小鳥の事嫌いなのか?」 「――嫌いだよ」 「……そうか」 「でも彼女はわたしに必要な人。 わたしは彼女無しでは、多分生きていけない」 「……そうか」 「汚い事、全部彼女がやってくれる。 わたしがやりたくない事、でもやらなくちゃいけない事。 それが彼女の出番。彼女の仕事」 「彼女だなんて……」 「汚いと言えば……」 「そんな他人行儀に呼ぶなよ」 「知ってる? 音楽の世界ってね、汚い事ばっかり なんだよ。有名な先生に気に入ってもらうために 媚び売って。作り笑顔でこっそりお金渡すの」 「結局はコネなんだ。自分が選ばれるために他人を 蹴落とす。薄汚い、腐り切った、クソみたいな業界なの」 「まころは……蹴落としてきたのか? 今まで、誰かを」 「わたしはした事無いよ。 言ったでしょ? 汚い事は全部、彼女の仕事だって」 だから―― 名前で呼んでやれよ―― ――その日も、わたしはレッスンから逃げていた。 そういう事は、多かったな。 小さい頃は過酷な練習の意義なんてわからなくて。友達と遊ぶ時間を音楽に奪われて……。 レッスンの先生が憎かった。音楽を強要する両親が憎かった。 音楽そのものが……憎かった。 「…………ぶー」 家を飛び出して、一人になって。 大人達に見つかりたくなかったから、街の隅まで行動範囲を広げていた。 背の高い建物の真裏。 まだ幼かったから、迷子になるのも珍しい事じゃなかった。 「また……パパとママに怒られちゃうな……」 でも構わない。厳しい折檻も耐えてみせる。 わたしはこうするしかない。こうする事でしか、自分の抵抗を表現出来ないんだ。 「……………………」 「……はぁ。もうやだよ……。 こんな毎日……やだぁ……」 成長した今ならわかる。その時のわたしは、それ以上レッスンを続けていたら、音楽を愛する事が出来なくなってしまいそうで。 だから、逃避でそれを伝えたかった。わたしから音楽への愛を奪わないでと、大人達に叫びたかった。 でも、幼いわたしにはそんな小難しい心理の機微なんて自分で把握出来ていなくて。 子供なりの、単純な理由だった。 わたしがこんな事してまで表現したかった感情は―― 「…………心配して欲しいよ……」 怒られてばっかり。 もしわたしがこのまま世界から消えたら、両親は、先生はどんな顔をするのかな。 怒り続けるのかな。 それとも悲しんでくれるかな。 迷子になって、心配された事なんて一回も無いよ―― そんな寂しがり屋のわたしだから―― “こう”なる事は、もしかしたら運命だったのかもしれない―― 「――っ!」 人の生き死にはもちろん。 真っ赤な血だって、そんなに見た事のなかった歳だ。 突然現れたぐちゃぐちゃの肉塊に、驚かずにはいられなかった。 「い、いや……何……!? ひっ……!? 何これ……ひぃぃ…………!」 「と、鳥……!? 落ちてきたの……!? う……うひぃ……ひぃぃぃぃ…………」 小さな鳥の死骸は、身体とは真逆の方向に首をかしげていて。 「ひっ……!」 生き物としての活動を終わらせた目の前のたんぱく質の塊に、わたしは意識を奪われた。 「ゔっ……! ゔゔっ……うぶっ、ううっ……!!」 「ゔぶうっ……ゔっ、ゔっ、ゔっ…………ゔぅ」 幼いわたしを気絶させるには十分なほどに、強烈な死だった―― いつだって、降参するのはわたしから。 だって結局、誰もわたしを見つけてくれないんだもん。 大人達は誰も心配してないんだ。心配して欲しいのに……探し出して欲しいのに……。 お腹が空いて家に戻って、待っているのは怒り顔、困り顔、呆れ顔。 おかえりなんて言葉は無かった。 後で気付いた事がある―― わたしが隠れていた、その背の高い建物は―― 病院だったんだ―― 「目が醒めたら、病室のベッドだった。 わたしが隠れていた病院に運ばれたみたい」 「子供の頃の思い出なんてどれも曖昧でしょ? でも……あの時の鮮血は、はっきり覚えてるなぁ……」 「綺麗だったんだ。すごく……真っ赤で……」 「俺は今だって、思い出が曖昧だ」 「なんで血って赤いんだろうね。もし人間の流す血が 赤じゃなくて、黒だったり、青だったりしたら…… きっと美しくないと思う。赤は肌色に映えるよね」 「楽園祭の思い出も、今となっては不確かなんだよ。 あれって……本当にあった出来事なのかな」 「期招来君は……わたしの血、見てみたい?」 「これから重ねていく思い出も、 いずれ有耶無耶になっていくのかな……」 「わたしは……自分の身体の一番大切な場所の出血、 あなたに見てもらいたいんだよ」 「だったら、もう色々どうでもいい気がする――」 ――白い肌を見ていた。 「はぁっ……んっ、いいよ……。 狼になって……野獣になって、わたしを犯して……」 なるほど、まころの言う通りじゃないか。 「わたし……あなたのちんぽに犯されたい……。 レイプされたい……! ずっとそう願ってたんだよ?」 こんな綺麗な肌色に、赤いインクを垂らしたら。 「あなたと出会って、ずっとあなたに惹かれてた。 でもあなたはちんぽが無かったから……。 セックスは夢のまた夢だった」 それはもう、最高の色彩だろうな―― 「それが、ついにこうして……あなたと結ばれる……! いよいよなんだね……嬉しいよぉ、あはぁっ……!」 夢のまた夢……か。 この世界は、夢の世界なのだろうか。 夢のまた夢っていうくらいだから、夢の中の俺が見ているもう一つの夢……? じゃあ、もしこの夢が終わりを迎えたら、意識は誰に戻るんだ? 夢の中で俺が眠っていて、夢を見ていて。その夢の中の俺も眠っていて、さらに夢を見ていて。 それが繰り返されて、夢が続いていった時。 目を覚ました俺が夢の中の俺でないってどう証明出来る? 「俺、なんでまころとエッチするんだろう?」 「わたしがあなたとセックスしたいからだよ」 「まころは、どうして俺とエッチしたがってるんだろう?」 「わたしの事色々知ってもらいたいって言ったでしょ? さっき言ったばっかりだよ。もう忘れちゃったの?」 「ああ……俺、記憶力皆無なんだ」 「……別に構わないよ。あなたの脳味噌、 全部わたしの思い出で染めてみせるから」 「消えていくなら、そのたびに新しい記憶を 上書きしてあげる。そうやって永遠を過ごすの。 素敵な事だと思わない?」 「恐ろしい事だと思う」 「教えて欲しいな。あの時、あなたは誰を選ぶつもり だったの……? よく聞こえなくて……」 「あの時…………」 「ふふっ……それも忘れちゃった? だったら改めて確認してあげる」 「答えなくていいよ。考えなくていい。 あなたは何もしなくていい。 わたしが勝手にちんぽに聞くだけだから」 「名前で呼んでくれよ。他人行儀は嫌だよ」 「――あはぁぁん、……期招来君、その勃起ちんぽで…… わたしをめちゃくちゃにしてぇ……!」 「――んっ……くはぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ……!!」 この身体が、まるで自分のものじゃないように。 勝手に、自然と、自動的にまころの膣へと引き寄せられた。 「うっはぁっ、おちんぽ来た来たぁぁっ……!! んっ、くふぅ、あっ、あひいぃんっ……!!」 「まころっ……血……!」 「んっ、はひぃんっ、あ、当たり前だよぉ……! だってわたし……初めてだもん……んっ、んふぅ!」 純血は、純潔の証。 まころを穢してしまった。牡の欲望で。淫惑な劣情で。 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」 なんだこの征服感は……!? 股間が熱くなる。目の前の肉々しい牝を犯しているという実感が、欲望を膨らませていく。 もっと犯したい。穢したい。出血させたい。 この牝に、淫欲を思いっ切りぶつけたい―― 「あはぁぁん……! いいよぉ……好きなだけ犯して……。 わたしのおまんこ、その素敵なギンギン勃起ちんぽで レイプしまくっていいんだよぉ……」 「さっきまで処女だったピュアまんこ……期招来君に 全部あげる……! 血と……精液で……いっぱい汚して? わたしを……ひーひー喘がせてぇ……!」 「――っ!」 止められるわけがない。 破瓜したての肉壺に激しい抽送は御法度だろう。 そんなの知った事か。 思い遣りも、優しさも。 この性欲の前では等しく無意味だ。 「あっ! あっ! あっ! あっ! あっ! あっ!」 「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……!」 「あっひっ! あっ、あひっ、あっひっ! あっ、あっ! あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、あひっ!!」 「ち、ちんぽぉっ、ちんぽすごいよぉっ、あっはああっ! 処女膜破られたばっかのおまんこの中、ゴツゴツちんぽ がハチャメチャに暴れてるぅ!」 「あっ、ふっぎっ! ひぎっ! ひぎっ! ひぎっ!! そこ……柔らかいとこ、指も入れた事無いとこぉ、 おまんこの奥、勃起ちんぽでそんなにしたら……!」 「ひっぎっ! ひぎぎっ、あぎっ! ひぎいっ!! まん肉ほぐれて……あっ、あぎっ、ひっぎっ! んぎいっ……ひっ、ぎいっ!」 痛々しい叫びだって、可愛らしい喘ぎにしか聞こえない。 まころが望んだ事だ。そうだろう? 「はっ、ふっぎぃ……! レイプぅ、レイプされてるぅ、 わたしのおまんこ、期招来君のちんぽに、レイプ されちゃってるよぉっ、あっ、はぁっ!!」 「う、嬉しいなっ、すっごく嬉しいよぉっ!! 念願のレイプだよぉっ、あひいっ、あっ、ふぎいっ!! 痛いけど……それ以上に、う、嬉しいよぉっ……!!」 喜びの涙を赤い筋として、膣裂から滴らせるまころ。 夥しい出血も、この結合を祝福する観客に過ぎない。 「も、もっとしていいよっ、激しく、ガシガシしちゃって いいからっ……! ちんぽレイプ、ヤりまくってぇ!!」 「ほ、ほらっ、ぬちゃぁぬちゃぁって音が聞こえてくるよ、 まんこが、犯され過ぎて、愛液漏らしてるのっ……! エッチでしょ、スケベでしょぉっ!?」 「その愛液いっぱい使って、ちんぽシコシコさせてねっ、 まんこぬちゃぬちゃさせて欲しいよっ……!! 愛液塗れのちんぽで、いっぱいまん肉貪ってぇっ!!」 「くぅ……くっ、ぐっ……!」 なんだこの牝は……! こんなに……淫靡で……純白で、純血で……! 犯し甲斐、あり過ぎるっ……! 「んっ、そ、その調子ぃ! ちんぽのレイプリズム、素敵だよぉ! あひいっ、あっはぁっ!!」 「そのまま、ほら、そのままちんぽ前後に動かして……! シコシコ、そう、シコシコ~……そうだよっ、 まん肉掻き毟りながら……シコシコ~、シコシコ~……」 「シコシコ、ぬちゃぬちゃ、シコシコ、ぬちゃぬちゃっ! シコシコ、ぬちゃぬちゃ、シコシコ、ぬちゃぬちゃっ!」 快楽の呪文を直接亀頭に吹き掛けられて、射精欲を加速させてしまう。 どうしてまころとこんな事してるんだろうか。ふと過るそんな疑問など、一瞬で性色に塗り潰される。 「あっ、はぁっ……このちんぽは、わたしだけのものぉ、 んっ、くひぃ、誰にもあげないっ、これは……はふぅ、 わたしだけのちんぽなのぉ……!」 「ねえ、期招来君っ……! わたしのおまんこ気持ちいい よね……? はふっ、わたし達、相性抜群だよねっ!?」 「だったら、そのちんぽ、わたし専用のちんぽにしてっ! わたし以外の牝まんこに入れちゃやだぁっ、はぁっ、ん、 わたしのまんこ専用ちんぽがいいのぉっ!」 「はぁっ、はぁっ……!」 まころが何を言っているのかわからない。 どうでもいい独占欲だ。俺は別にまころの彼氏じゃないし、まころだって俺を占有したところで利点など無いはず。 まころが俺に固執する理由なんて無いんだ。 「わたしは、はふぅん、あなたじゃなきゃダメなのっ……! 期招来君がいいっ、あっ、んっ、くふっ……! 期招来君を、独り占めしたいぃ……はぁっ!」 「他の女の子も、くっふっ、んっ、期招来君の事が好きで、 あっ、んっ、だから、きっと羨むよっ……! わたしが期招来君を独占したら、みんな悔しがるっ……」 「皆が羨ましがってる前で、ちんぽ独占したいぃっ! そしたらきっと、もっと気持ち良くなれるっ……! 優越感で……おまんこホカホカになっちゃうはずぅ」 まころ……。 そんな子だったっけ……? 「どうしてこんなに嫉妬深くなってるかわかんないっ……! 他の子の視線、気にして、はふっ、わたし、誰にも負け たくないって、勝ちたいって思ってるっ、んっ、くぅ!」 「なんで、はふっ、こんな気持ちになってるのか……くぅ、 わかんないけど……はっ、ふうっ、でもわたしは…… んっ、元からこういう性格で……」 「ううん……違う……。こういう性格なのは小鳥ちゃん、 ふぅ、くぅ……だから、わたしは綺麗で……はふっ、 薄汚くて腹黒いのは全部小鳥ちゃんで……んっ……」 まころ……何言ってるんだ……? 「わたしの人格が……んくぅ、ギフトに影響されちゃって るのかな……くぅ、はふっ、んっ、んっ、んっ……! おかしいよね、こんなの……ふっ、ひぃっ!」 「おかしいってわかってるけど……んっ、はぁっ! でもちんぽ欲しいのっ、もっと奥に……んっ、 子宮に、ちんぽ欲しいのっ、ちんぽぉっ、ちんぽぉっ!」 その願望だけは、把握できる。 要は、まころは淫乱で、性欲に侵されていて。 だから、もっと責めていいんだ。まころが望んでいる事。もっと貫いていい。 それだけわかる。それだけは、はっきりと理解出来る。 「はっ、ひっ、ふっぎっ! んぎっ、ひぃ……!! そこぉっ、そこがいいっ、そこが一番気持ち良く なれるうっ、ひいっ、あっ、あひいっ!!」 「そこもっと虐めてっ……んっ! いっぱい……ふひっ! ちんぽでガシガシしてぇっ!! わたしの柔らか子宮、 勃起ちんぽでレイプしまくってぇっ!!」 理性を振り払いながら、まころを抉る。 快楽が火花となって、結合部から散りばめられていく。美しく、そして淫靡な光景だった。 「んぎっ!? んぎっ!? んぎっ!? んぎっ!? ふ、ふぎぃっ!? ひぎぃっ!? あぎっ、うぎぃ!?」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」 「んふっぎぃ、ま、まだ勃起するのぉっ……!? 期招来君の本気ちんぽ、こんなにおっきいなんて……! くひっ、知らなかったっ、あっ、ふぎぎっ!」 「きっと、この勃起事情なんて、はふっ、誰も知らない よね……!? これっ、はふぅ、わたしだけが知ってる、 マジ勃起ぃ、んっ、くふぅっ!」 「ちんぽ……太過ぎて、おまんこ苦しいけど……んっ、 でも我慢出来る、嬉しいもん、気持ちいいもんっ!」 「くぅ……っ!」 「期招来君っ、そのまま出して……! マジ勃起ちんぽの まま……思いっ切り射精してぇっ、ひっ、くひいっ!」 「わたし、期招来君の中出し精液、欲しいよっ……! んぐっ、ふぅ、子宮に、ひっ、その子種、いっぱい 植え付けて欲しいっ、くぅ、ひぃ、あっひいっ!!」 こんなに激しく犯されてなお、中出しフィニッシュを要求してくるまころ。 彼女の淫性は底がしれない。 そして俺も、その欲望に中てられて、射精を覚悟してしまう。 「んぎぃっ……くぅ、くっひいっ!? 勃起ぃ、ひいっ! あっ、あっ、勃起っ、ひいっ、ひっ、勃起っ、ひっ、 ひっ、ひっ、勃起っ、勃起っ、ひ、ひ、ひいいいっ!!」 「来るううっ、ちんぽ、射精するうっ!! ひっ、ひい、 勃起すごっ、あっひい!? おまんこ捻じれるっ、 ひいっ、ひ、ひ、あひっ! おまんこ、イカされるっ!」 「はっ、はっ……くっ!!」 「あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、あひっ、あひっ!? い、イクイク、ひっ、ひっ、ひっ、ひ、ひ、ひ、ひ、ひ」 「――ひいいいぃぃ~~~~~~~~~~~っっっ!!? あひいっ!? あひいっ!? あひぃ!? あひぃ!?」 果てた。盛大に果ててしまった。 柔らかい指に、ペニスを握られた感覚。 全方位から纏わり付くその柔襞に、射精を止められない。鈴口を滲ませながら白濁を撒き散らしていく。 「んはあっ、あひいんっ!! 来てるぅ、来てるよぉ!! 精液ぃ、ザーメンっ、ちんぽザーメンっ、あっ、あんっ、 あっはぁぁぁんっ!!」 「奥まで、熱々のザーメンが、わたしのおまんこに、 あひいっ、これ気持ちいいっ……んっ、中出しぃ、 あっ、あっ、あひいっ、あっひいいいぃんっ……!!」 潮を吹き上げながら、中出し射精の悦びを謳うまころ。 俺の知らない痴態だ。 舞台の上で高潔な独唱を見せた彼女からは想像も出来ないくらい、下品な喘ぎ声。 これもまた、木ノ葉まころの姿なのだろうか。 「あひあっ! あひあっ……ひっ、あっひぃっ!! んひぃ、おひいっ、きもひいいっ、ちんぽぉっ、 あひああんっ、ちんぽ中出しぃ、きもひいいのほおぉ!」 「おまんこイカされまくりゅぅっ、中出しレイプちんぽで、 ひいぃ、まん潮吹きまくっひゃううよほおぉぉっ!! あっ、あっ、んあっ、んあっ、んあっ、んあっ、んあっ」 腰を震わせて噴水の潮流を煽るまころ。 永遠と思えたそれも、次第に少しずつ落ち着いていく。 「はふっ、はふっ、ひっ、ひぃ……あっ、あ、あ、あ、あ、 んっ……んんっ、あふぅ……あっ、あっ…………んっ、 あ……ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ…………」 「はぁぁ……もう……お潮出ないかな……? ちんぽは……? 精液……出し尽くした……?」 「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」 「……ああ、出し終えたよ」 「んっ、あふぅ……そっかぁ……えへへ、お疲れ様ぁ♪」 穏やかな声色。俺の知ってるまころだ。 「まころ……俺なんでまころとセックスしたんだっけ?」 「ふふっ……期招来君ってば、忘れんぼさん……。 わたしの事をね、色々知ってもらいたいからなんだよ?」 「そっか…………」 「わたしの事……色々知ってくれた……?」 「………………」 「…………ああ。色んなまころを……知った」 俺の知らないまころだらけだった。 でも、それらは全て―― 「よかったぁ……全部、わたしなんだよ……? スケベな顔したわたしも、下品な声出したわたしも…… 全部、木ノ葉まころなの……」 「だから……どのわたしも……きちんと覚えてて……? 色んな木ノ葉まころを……忘れないでね……?」 すぐに忘れてしまうんだろうな―― 「――あんた達……何、してるのよ……」 それまでのまころの嬌声と比べると、その声はとても静かなものだったが……。 だからだろうか、やけによく響き渡った。 「なんで……? え、セックス……? なんで……?」 「ち…………」 「嘘でしょ……あんた達、そういう、関係……?」 「小鳥ちゃん、邪魔しないでくれるかな? いいとこだったんだ」 「おかしいわよ、こんなの……! だって、期招来は……あの時、私を選んで……」 「今も丁度一発ぶち込んでもらったんだよ? わたしの子宮に……期招来君の特大射精」 「そ、そりゃあ……よく聞こえなかったから…… 聞き間違いかもしれないけど……でも……期招来が、 私以外を選ぶはずないし、そんなの考えらんないし……」 「もう一発お願いしようと思ってたんだ。 まだ勃起足りてるし……期招来君だって もっと気持ち良くなりたいよね?」 「それが……なんでまこと、こんな事してんのよ……! 期招来は私とセックスするはずなのに。期招来にとって 私以外の女なんて全員どうでもいいはずなのに……!」 「そういう事だから、あっち行っててもらえる? あんた、セックスの邪魔」 「あんたばっかり……! あんたばっかり……!」 「……囀ったって無駄。あんたはわたしの汚れ役担当。 嬉しい事は、気持ちいい事は、全部わたしがもらうの。 あんたはその間、どっか行ってるしかないの。ふふっ」 「くっ……この、性悪女っ!」 ああ……。 「性悪はあんただよ。今まで散々、色んな人を傷付けて。 騙して、蹴落として、夢を奪って」 「それは、あんたがしないからっ……! 私がそうするしかないからっ……!」 「うん。感謝してるよ。ありがとね、小鳥ちゃん。 これからもよろしく」 「ざけんなっ……!」 ホントだ……。 晦の言う通りじゃないか。 「私は“ここ”ではあんたの言いなりじゃない! あんたの臭い尻を拭うだけの存在じゃない!」 「自分の幸福を求める事だって出来るの! あんたの幸福を奪う事だって出来るの!」 「……そんな事して何になるの? 意味ないよ。バカみたい」 「見せてやる……! あんたはそこで悔しがってればいいわ。 生まれて初めて、私に苦しめられなさい!」 「………………」 「生まれて初めて……って。あの子の件で わたしは散々あんたに苦しめられてるのにね」 二人とも、すっごく仲悪いんだな―― 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……! あぁん、期招来のちんぽぉ……!」 首筋に淫らな息がかかる。 いつの間にか、やはりいつの間にかだ。 俺は小鳥の身体を抱え込んでいて。 ペニスはまころとセックスした時から、晒されたままだ。 その男根を、小鳥が蕩けた視線で見つめ続けている。 「期招来ぃ……はぅん……もらって、いいよね……? この勃起ちんぽ、私が……私のおまんこが、 頂戴しちゃって……いいよねぇ……!?」 「小鳥ちゃん。わたしの話聞いてなかったのかな? あっち行っててって言ったよね? セックスの邪魔って言ったよね?」 「あんたこそ……私言ったはずよ。 あんたの幸福を奪ってやるって……! あんたを苦しめてやるって……!」 「それが……こういう事?」 「そう……! 私今から期招来とセックスする……! あんたがしたかった事、横取りする……! このちんぽ、私が味わう……!」 「もともと期招来を求めてるのはあんたじゃなくて私。 セックスするべきは、選ばれるべきは私なの……!」 「小鳥ちゃんのその気持ち、よくわかるよ。 ずっとわたしの影で生きてきて…… わたしより目立ちたくなっちゃったんだね」 「音楽の才能もわたしの方が上……。 小鳥ちゃん、汚れ仕事するくらいしか 役に立たないもんね。ホント可哀想な子」 「それで、セックス奪って勝った気でいる……。 はっ、虚しい女……。 一生勝てないんだよ、あんたはわたしに」 「ふん……! そんな事言って、私無しじゃ 音楽の世界で生きていけないくせに……」 「……そうだね。うん、いいよ。 一回だけちんぽ譲ってあげる」 「期招来君だって、一度わたし以外のまんこ味わった方が、 わたしのまんこの気持ち良さを改めて実感するだろうし」 「あんた……ずっと彼のちんぽ欲しがってたもんね。 こういう時でしか、期招来君のちんぽ味わえないもんね」 「いいよ、セックスしなよ。 多分これが最初で最後になると思うけど」 「……どういう事よ」 「全部終わったら、あんたは消えてわたしだけになる。 期招来君と結ばれるのはどっちにしろわたし一人。 あんたは忘れられてそのままおしまい」 「そんな事したら、あんたの音楽の夢が――」 「その夢はもう叶わないから」 「………………」 「ほら、ちんぽ入れてあげなよ。 さっきから夜風に吹かれてちんぽ寒そうだよ? まん熱で温めてもらえなくて寂しそうだよ?」 「あ……ご、ごめん期招来。 今入れてあげるからね……。 私のまんこ、今すぐ欲しいよね? 待ちきれないよね?」 「最後の思い出……どうぞ楽しんで。 どうせすぐ、期招来君は忘れちゃうと思うけど」 そう―― 俺は忘れる―― 大切な事を、大切な人を。 すぐに忘れてしまう―― 「んっ、んっ、くふっ、ひっ、んっ、んんんんっ……!!」 小鳥の身体が小刻みに震える。 同時に滴る赤い筋。彼女もまた、処女だったという事。 「ふひいぃんっ……! あっ、くぅぅ……! これが、んっ、ちんぽっ……期招来の……ちんぽっ!」 「あっ、あぁんっ、おまんこ気持ちいいっ……! 処女なのに、痛みよりも、喜びと快楽が上回るっ……! 期招来のちんぽ、凄過ぎっ……ひんぎぃっ……!」 俺はまたも女の白肌に、鮮血を印してしまったんだ。 「あぁんっ、こんなちんぽに貫かれたら……はふっ、ひっ、 声、出ちゃうっ、あっ、あぁんっ、エッチな喘ぎ声、 止めらんないっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっはぁ!」 「その気持ち……わかるよ。期招来君のちんぽで まんこ犯されたら……頭狂っちゃうよね……? バカになっちゃうよね……?」 「な、なるよっ、バカになるっ……! ちんぽバカに なるうっ、あひいっ、抗えないってっ……! あっ、 あぁん、ぁ、ぁ、ぁ、ちんぽ大好きっ子になるうっ!」 甘く揺れる小鳥の鼓動に腰を合わせて、俺も積極的に快感を求めていく。 身体が勝手にそうしてしまうんだ。 意図が介在出来ない。正しい思考が快楽によって排除されていく。 「あぁぁっ、くひいっ、あっ、あひいぃんっ! んひっ、くっひっ、あっ、ひゃっ……!!」 「ち、ちんぽに抉られるっ、まんこっ、ゴリゴリって、 ひぎっ、奥に、ぐぐぐーって、めりめりーって、 入り込んでくるぅ、くっひぃんっ、あっひっ!!」 「ちんぽが子宮に届くと……おまんこキュンキュン しちゃうよね……? 最高の気分だよね……?」 「その感覚……今のうちにたっぷり味わうといいよ……。 どうせあんたの残り時間は……もう……ね」 小鳥とセックスする理由なんてないのに。まころの妖しい視線が怖いのに。 二人には、仲良しでいて欲しいのに。 そういう優しい気持ちとか、快楽の前ではどうでもよくなる―― 「き、期招来、あんたはどうっ!? ちんぽ、いい感じっ……!? 私のおまんこ、ちゃんと堪能してるっ……!?」 「はぁっ……はぁっ……あ、ああ……気持ちいい……よ」 「そ、そっかぁっ、はふっ、そりゃよかった……んっ、 あぁん……あんたのちんぽを満足させられて…… はぁん、私、嬉しいっ、よっ……!」 「あんたのちんぽのためなら……私、なんでもして あげられるっ……他の女が邪魔して来たら……はふっ、 全員まとめて、蹴落としてやるんだからっ……!」 「期招来のちんぽを気持ち良くさせてあげられるのは、 はぁん、私だけっ、んっ、はふぅ、だって、他の女の まんこは……私が寄せ付けない、全部お断りするっ!」 「だからぁ、このちんぽの居場所は……はひぃん…… 私のまんこだけなのぉ……あっ、んっ、はふぅ、 そうだよねぇ、期招来ぃ……あっ、あっ、あっ……」 「そう……なのかな……そうなのかもしれない……」 思考なんて面倒だ。気持ち良ければなんだっていい。 俺のペニスが誰のものかなんて、別にどうでもいい。彼女が望むなら、その言葉の通りでいいじゃないか。 「あはぁっ……このちんぽは私のちんぽぉ……! 私っ、高梨子小鳥専用ちんぽっ……! 私のまんこに突っ込むための特製ちんぽなのぉっ!!」 「……ちっ、なんかイライラしてきたんだけど。 ちんぽ譲るって言ったけど……そういう勘違い 始めるようじゃ……もう我慢出来そうにないかも」 「……ねえ期招来君、次はわたしの番だよね? こいつとのセックスが終わったらぁ…… もう一回わたしのおまんこに入れてくれるよね?」 「ちょっとまこ、邪魔しないでよっ! 今期招来は私のまんこに夢中なのっ! 横からまんこ誘惑してこないでっ!」 「ねぇ期招来君。そんなまんこさっさと処理してさ、 早くわたしにそのちんぽ頂戴? わたしと楽しい セックスしようよ、ね?」 「今あなたがちんぽ突っ込んでるまんこはね、どうせすぐ 忘れちゃうような、どうでもいい雑魚まんこなんだよ? だからそんなまんこに夢中になるなんてバカげてるよ」 「さっさと射精してさ、わたしとニャンニャンしよ? あ、そのまんこに射精する時はチョロっとでいいよ? 精液勿体無いもん。わたし用にとっておいてね?」 「黙れ性悪っ! 見なさいよこの勃起! 期招来はねえ、 私のまんこが気持ち良くてたまんないのっ! 勃起ギンギンでちんぽのスケベモード全開なのっ!」 「期招来だって、まこのおまんこなんて入れたくない わよね? ちんぽもらえなくて、乾燥し切った カピカピまんこなんて、全然惹かれないわよね?」 「うるさいっ……! わたしのおまんこ、 まださっきの中出しザーメンで潤ってるし! トロットロのプルンプルンだし!」 「あっはぁっ、勃起気持ちーーっ!! ちんぽ最っ高ーーっ! あっ、あっ、あーーっ!! 気持ちー、気持ちー、気持ちーーっ、ひーーっ!!」 「話聞きなさいよっ…………!」 大好きって言ってたはずなのに。 どうして彼女達はこんなに醜くいがみ合っているんだろう。 それも……やっぱりこの快楽の前では、どうでもよくなるのかな……。 「ホント生意気な女……! さっさと終われっ! ちんぽ返してっ! ガリガリガリぃ――」 「――ぐっ、あっ……!? まころっ、くぅ……痛いっ、痛いっ!」 「あ、ちょっとぉ! 私のちんぽに何やってんのよっ!? この後射精してもらうんだから、金玉壊さないでっ! 大事に扱いなさいよぉっ!」 「うっさいっ、んむぅ、もにゅもにゅ……! 何もしないで待ってるの悔しいから…… 玉フェラして楽しんでやるっ……! くにゅくにゅっ」 「う…………ぁっ……!」 新しい刺激が加わった。 こういう感覚は歓迎だ。余計な思考を必要とせず、単純に溺れればいい。 痛くても、もう構わない。難しい思考を要求しないなら、それでいい。 「んむにゅむにゅ……あむぅ、はむはむはむ……! はぁん、この袋ん中にぃ、ザーメン作ってる精巣が、 あむちゅぅ、入ってるんだぁ、あむあむくにゅぅ」 「ちゅむ、ちんぽって不思議ぃ……金玉熱くて……あむぅ、 はむはむしてるだけで、あむちゅぅ、またまんこが 熱くなるぅ……あむぅ、くちゅむくちゅむぅ……!」 「あっ…………あっ…………!」 「期招来っ、こんな女の玉金フェラで善がらないでっ! 私のまん肉奉仕に集中してっ……! ――んちゅっ!」 「――んぐっ!?」 口を塞がれた。 下腹部の生温かさに酔い痴れ、隠す事無く吐き出し続けていた自分の声を制するためだろうか。 「んちゅむっ、くちゅ……ひゃっ、ちゅ、期招来、舌ぁ、 舌出ひてぇっ、あひっ、ちゅれろぉっ、くちゅぅ!」 さらに新しい刺激が、今度は口内に加わった。 蛇のような粘性の生き物が俺の舌を煽って来たので、無抵抗でその誘いに乗った。 「れろぉっ、んちゅれろっ、はっ、ひぃっ……! 舌っ、大人の、れろっ、キスぅ、れろっ、あっ、あぁん、 これ、エッチっ、エロいっ、エロひぃ、れろっ!」 「にゅれろ、舌絡ませながら、セックスひてんのぉっ……! 舌と勃起ちんぽが気持ちよふって、あひっ、えろぉん、 まんこ燃えるぅ、れろぉ、勝手に引き締まるよほぉ!」 「あむあむ、タマキンすっごくざわついてきたよぉ、 んちゅ、れろっ、これ、あむれろっ、射精するって 事だよね……あむぅ、れろぉん」 「だったらさっさとイっちゃってぇっ、あむくちゅぅ、 その消化試合まんこ、一刻も早く終わらせて……んちゅ、 わたしの本命まんこと交代だよお、あむあむぅんっ」 「期招来、ちゅっ、あむちゅ、れろっ、あふっ、ちんぽ 気持ちいいっ、わらひっ、もっとちんぽバカになりゅ、 くちゅぅ、れろれろれろぉんっ!」 「期招来はっ……!? くちゅれろっ、まんこバカに なってるっ!? 勃起ちんぽ、あむれろっ、そろそろ、 限界、かな……!? くちゅれろっ」 「ちゅ、ずちゅ……れろっ、俺……ちゅ、もう……!」 「うん、うんっ……ちゅっむっ、だったら、来てえっ! れろっ、わらひ、期招来のちんぽに、れろ、射精して 欲ひいっ、れろおんっ、ちゅっ、んんっ!」 「こんな立派なちんぽ、射精に導けたなら……れろぉっ、 女として箔がつくもんねっ……あむれろっ、れろっ、 いっぱい、出して、私のまんこに、好きなだけ……」 「はぁっ、はぁっ……イク、はぁっ、れろっ、イクっ!」 「あむちゅぅ……れろぉっ、来て……ちゅるちゅるっ! 好きな人のちんぽ射精、欲しいよ……! ずっと待ってた……! ずっと望んでた……!」 「期招来……あはぁん……。私……私ね……? んっ、はふぅ……ずっと……あんたの事が――」 「――ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ ガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリガリ!!」 「ぐっ、ああああっ!!?」 「――おっ、おひっぎいいいいぃぃいいぃいいっっ!!? おおっ!? おっ、おっ、おっ、おっ、おっ、おっ!? おぉおぉっ!? おっ、おひいっ!? おっひいっ!?」 瞬間的な痛みに襲われ、その鋭い刺激は問答無用で射精を導いた。 「おひぃんっ!? ちんぽぉっ、くひいっ、ちんぽぉ!? ドクドクって、急に、ひいっ!? おっひいっ!? おっ、おっ、おっほおおぉおおぉっ!?」 「射精、来たあっ!! いきなり、射精、ドピューって、 ひいっ!? まんこの奥に、熱々ザーメン、ひいっ!! 勢い、しゅごひっ、おまんこ、浮かびあがるうっ!!」 「んあむあむぅ、はむはむ……! 小鳥ちゃん……あむぅ、 わたしの代わりのくせして……調子乗った発言は、んっ、 あむちゅむぅ、許さないんだからね……? ガリガリぃ」 「ひゃぁあっ、あっひゃぁっ!! おっ、おっひっ!? おまんこしぶくっ、くひっ、中出しすご過ぎてっ、ひ、 潮吹きしちゃうっ、ピューって、ピューってえっ!!」 「おぉおぉぉおぉおおおぉおおおおっ!!? おっ!? おっ!? おっ!? おっ!? おっ!? おっ!? おっ、おっ、おっ、おっ、おっ、おっ、おっ、おっ!?」 今まで味わった事のない圧倒的な快感に翻弄され、小鳥は情けなく呆け声を上げながら潮を漏らしている。 互いの絶頂が続く。その間、知性を剥奪する快楽に理性が敗北し、人は原始的な生物と化す。 「んひゃひいっ、おっひいっ! おおおぉぉおぉっ!! ち、ちんぽ気持ちーーっ、んひゃぁっ、中出しでぇっ、 まんこイっちゃったぁっ、あひいっ、んくひいっ!!」 「こんなの、凄過ぎて、あひえぇっ、やめらんないっ! セックス、クセになるぅっ! くへぇっ、おっひぃ!! 中出し、もっと欲しひっ、ちんぽ射精、してしてしてっ」 「あむちゅぅ、あむあむ、はむぅ、くちゅむぅ……! あんたの出番はもう終わりだよ……残念だったね……。 ちゅむ、あむちゅぅ……」 「ひー……ひー……ひー……ひー…………あっ、はぁん、 んちゅ、ちゅむぅ、れろぉ……ひんぽぉ……ちゅ、 最高らよぉ……ちゅむ、れろれろっ、あひー……」 「んむはぁっ……金玉袋のざわざわ……終わっちゃったぁ。 おちんぽ……落ち着いたかな……?」 「はぁ……はぁ……はぁ……」 「んっ、んはぁっ! じゃあ今度はわたしの番だねっ! ほら、小鳥ちゃん。どいてどいて。用無しまんこは 退場だよー。わたしのまんこの出番なんだから!」 「はぁ……はぁ……んひぃ、おまんこまだジンジンしてる、 はうぅ、んふぅ……中出しの衝撃凄過ぎて……はっ、 ん……震え……治まんないぃ……くひぃ……」 「そういうのいいから。どっか行ってってば。 もう十分ちんぽ堪能したでしょ? さっさと交代して。ほら、早くっ!」 「はひぃー…………んっ、はふぅ……ちゅっ、ちゅぅ、 すっごく……はふぅ、気持ち良かったよぉ……。 ありがとね……期招来……ちゅ、ちゅむぅ」 「――聞いてないしぃ!」 「はぁ…………はぁ…………はぁ…………」 「――え…………」 突然、何かが自分の中に帰って来た。 「あれ……俺、何やって…………」 「あんたはどうせいっぱい出来るんだからいいでしょ!? 私に譲りなさいよっ!」 「嫌だ。一回だけって言ったよねぇ? 約束破るとか、相変わらずやり方汚いんだね」 二人がいがみ合っている。 なんだこれは……? どういう状況だよ……? 「ねえ期招来! 改めて私とまこ、どっちがいいか選んでよ!」 「あ、それいいね。そうしようか。 期招来君、わたし達二人のおまんこ体験してみて、 どっちの方が気持ち良かった?」 「もちろん私よね? あんなにちんぽドクドクイってたもんね? 私のおまんこの方が相性抜群よね?」 「そんなのあり得ないよね? 射精量多かったのは 言うまでも無くわたしのおまんこの方だよね? 圧倒的にわたしの勝ちだよね?」 「私の方がいっぱい出してた!」 「わたしの方が多かったよっ!」 「…………っ」 何……言ってんだよ、ホント……! と、とにかく急いでここを離れよう。 この二人の主張は意味わかんないし……。 何より今は一人になりたい。落ち着いて頭を冷やしたい。 でないと、また何か大切な事を忘れそうな気がするから―― 「あ、こら! 待ちなさい期招来っ!」 「ああん、期招来君、わたしとセックスしようよーっ!」 「はぁっ……はぁっ……!」 「……ったく。なんだったんだ、あの二人」 とりあえず、寮を目指そう。 あそこなら一人になれる。 自分の部屋に着いて、鍵をかけてしまえば色んな面倒事から逃れられるはずだ。 「待ってー!」 「えっ……!?」 追いかけてきてる……!? 「な、なんだよ、なんでそんなに 俺にこだわるんだよっ!?」 「はぁっ、はあっ、はぁっ……!」 「待ってよ期招来君っ……!」 まだ追ってきてる……! 「くそっ……はぁっ、はぁっ! どうして、俺なんかと……!」 「はぁ、はぁ、もう……はぁっ、はぁっ、 このまま二人で、駄目になっちゃおうよっ……!」 「どうせこうなっちゃったんだからっ、はっ、はっ! この世界で……ずっと、わたしと幸せになろっ……!? それでいいじゃんっ……!」 「はっ、はっ……何言ってんだっ……!?」 追われたら逃げたくなる心理。 それだけじゃない。ここでまころに捕まってはいけない、大きな理由があった気がする。 それが何かわからないけど、あいつから逃げないと……俺は“本来の目的”を遂げられない気がするんだ。 「はっ、はっ、はっ、はっ……!」 だから逃げる―― 何かのため――誰かのため―― 「はぁっ、はぁっ……!」 ……あ、あれ? 俺……寮を目指してたはずなのに……。 「……道、間違えた……?」 ……いや、そんな事あるわけない。何度も通った道だ。 そもそもEDENと寮は隣り合わせだから、道に迷うなんて事は絶対に―― このまま――二人で―― 「――っ!?」 くっ……! 「とにかく……逃げなくちゃ……!」 「はぁ、はぁ、はぁ……」 まだ追ってきてるか? 「………………」 振り返ると―― 「…………!!」 追いかけてきてる……! でも……相手は……! 「――屍!?」 なんであいつが!?まころは? 小鳥は? 再び走り出す。 「はぁ、はぁ、はぁ……!」 そもそも屍から逃げる理由なんてない。別に走らなくてもいいじゃないか。 でもどうしてだろう。身体があいつを拒絶する。 捕まりたくない。触れられたくない。目を合わせたくない。 そう思って――        ――気付いたらここにいた。  「はぁ、はぁ、はぁ……」   「はぁ…………はぁ…………」    「……………………」       「――なんだこれ」 ――箱を見つけた。 廃ビルの乱雑な床に転がるには相応しくない美しい光沢を放つ漆黒の立方体。 「……っ!」 屍だ……! 追いつかれたんだ……! どうしよう……!  「……と、とにかく逃げなきゃ」        なぜ逃げる?   「逃げないと……」        なぜ逃げる?    「殺される」        なぜ殺される?    「その前に――」        誰が誰を殺す?        「箱を開けないと」 「……………………」 は……? なんだこれ……? 生臭い……!血みどろで、ぐちゃぐちゃの……。  「……ゔっ!」 内臓の類……だろうか? 見た目からこれが何なのか、全く想像出来ない。      「……っ!」 「屍……」 「……思い出した?」 「何……を……」 「その様子だと、まだ変わってないみたいね」 は……? 変わる……? 「それを見たら思い出してくれると思ったんだけど…… さすがに難題だったかしら」 「これ、なんだよ? お前が用意したものか?」 「今回は……もう終わりにしようかな……」 「何が……どうなってるんだよ……」 「何で俺……記憶が……曖昧なんだよ……!?」 「部活、楽しかった?」 「………………」 楽しかった……。 楽しかったのに……! 皆仲良しのはずなのに……! どうして……! 「私、あの子嫌い」 「あの子……」 「あの二人」 二人……。 誰と誰……? 「なっ……!」 どこから持ってきた……!? 「こういう結末も、仕方ないと思う」 鎌……だよな……!? 「またゼロから……やり直す」 なんで……刃を俺に……!? 「面倒なんかじゃない。あなたのためだから」 「俺を……殺すのか……!?」 「あなたがそう望んだ」 「は…………?」 「殺して欲しいって頼んだのは、あなたじゃない」 「ふ、ふざけるなっ……! そんな事頼むわけないだろっ……!」 冗談のような表情じゃない。 本気で……俺を殺す気なのか……!? 「……くっ!」 こいつは狂ってる! 異常だ、狂人だ! 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」 逃げなきゃ……。 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」 逃げなきゃ……! 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」 逃げなきゃ……!! ――当てもなく逃げる。 背後を確認すると、屍の姿は見当たらなかった。 でも、俺は止まらず逃げ続けた。 姿が見えないからといって、安全とは思えなかったんだ。 どこにいても、屍に捕まる気がする。 そしたら俺は……きっと……。 どこなら安全か―― ……いや、どこなら納得できるか―― 殺されるなら、せめて―― 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」 ここに来てしまった。 誰もいない……静寂に包まれた、無人の音楽室。 死地にするには、相応しい。 「……………………」 だって、俺はかつてここで……。 大切な人達と、楽しい思い出をたくさん作った……。 かすかだけど……そんな気がするんだ。 誰と―― どんな事をしたんだっけ―― わたし、音楽が好き。ずーっと圧し付けられてきたけど。嫌々やってた時もあるけど。 今自由になって初めてわかったの。わたし……こんなにも音楽が好きなんだな……って。 ――皆で最高の舞台にしようねっ! ――ああ。  あの箱の中身は……もしかして―― 俺の時間は―― いつ動き出すんだろう――      「アアアァァァァ……」 ……………………。 ……言ったでしょ? 代償は高くつくって。           ――この世界は、悪意である。           恨みと怨みが憾みを呼び起こし、          憎悪と恐怖は復讐に帰結する。       傷口の鮮血が粘性に滲んだこの世界は、呪縛そのものだ。           この世界は、悪意である―― ――もう誰も。何も言ってくれない。 静かなものだ。こんなにたくさんの仲間がいるのに。 仲間……大切な仲間……。 忘れたくないよ。 俺……誰も忘れてなんかないよな? 全員覚えているよな? 俺の仲間は……この十人だよな? 俺はまた―― 繰り返すのか――? だから“自分”は己の悪意に誇りを持っている。 “自分”達は、当然の過程であり。 必然の現象であり。 正常な狂気なのだ。 “自分”達の存在こそ、人間の肯定だと確信している―― 誰もいない通学路を、一人で歩く。 すれ違う生徒はどこにもいない。 そう。いないんだ。 EDENに“生徒”なんて、初めから―― 「…………ん?」 そんな中、珍しい光景を目にした。 「――がっくんがっくん!」 「あ゙! あ゙! あ゙! あ゙! あ゙! あ゙!」 「……………………」 「…………何やってんだ」 「へへへー、びっくりしたでしょ!?」 「ええ。それはもう。ご機嫌ね、叶深さん」 「いい事あったんだー! あのね、渡航梠がね。あ、渡航梠って弟なんだけど」 「チョコ丸くん買ったら金のエンジェル 当たったんだってー! さっきおもちゃ缶もらって喜んでる写メが来たのー!」 「あら素敵じゃない。心温まる話だわ」 「だからね、気分いいからこうして黒蝶沼虐めてんの。 がっくんがっくん!」 「まあ、私虐められているのね。怖い怖い。 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ!」 「が~~~っ…………急ブレーキッ!」 「あ゙ゔっ!」 「が~~~っ…………急ブレーキッ!」 「お゙お゙っ!」 「わっはっはー! どうだー参ったかー黒蝶沼ー!? 慣性? 慣性?」 「ええ。慣性よ」 「今のあたしは無敵なのだー! がっくんがっくん!」 「お゙っ! お゙っ! お゙っ! お゙っ! お゙っ!」 「ふふーん、黒蝶沼をけちょんけちょんに出来て、 気分いいなあ! ねぇねぇ。黒蝶沼って車椅子から落ちたらどうなんの?」 「どうする事も出来ないわ。這いつくばりながら 上半身の力で無様に車椅子に戻るだけよ」 「ちょっとだけでも立てないの?」 「ええ。残念ながら」 「……立つと足痛いの?」 「痛いというか、感覚がないのよ。だから立てないの」 「ふひぃ……そっか……大変なんだね。 バカじゃんバカじゃん…………」 「でもいい事だってあるのよ? こうして叶深さんと遊んでもらえるんだから」 「こ、これ、遊びじゃなくて虐め……」 「虐めは不幸しか生まない。でも今ここに不幸は 無いのだから、これは虐めじゃないわ」 「むぅ、そっか……。 黒蝶沼って生意気だけど物知りだよね」 「でも誰よりも無力よ。はい、ダージリン」 「わ、いつの間に! どっから出したの!?」 「素敵な午後よ? 一緒に紅茶の味を共有しましょう?」 「最後の一滴まで味わってこそ淑女よ。 零してはいけないの。だから……ね?」 「あ……うん。わかった。もうガタガタしない……」 「ずずず~……あぅ、熱ひぃ……!」 「ん……ん……くふぅ……いい味だわ」 「ふ~ふ~ふ~……ずずず~……。 ぅぅ、お砂糖……欲しい……」 「陽射しが暖かいわね……。こんなのどかな時間が、 果たしてあとどれくらい残されているのかしら」 「……………………」 「……ねぇ、どっか連れてってあげよっか」 「そうね……海の方までお願いしていいかしら」 「うん、いいよぉ」 「最後の最後……この世界が終わるその時まで、 あなたと仲良しでいたいものだわ」 「……? あたしと黒蝶沼、仲良しじゃないよ? 敵同士だよ?」 「そうだったわね、くっふふふふふっ……」 校門を歩く人影はいない。もう全員下校したのだろうか。 日が落ちて夜になると、この門は完全に閉ざされるだろう。 EDENの敷地の中と外を繋ぐ出入り口は、この校門一つしかない。 つまり、一度閉門してしまったら、門が再び開くまでEDENの出入りは不可能となる。 隔離された空間。 世界から見棄てられた天使島の中でなおそびえ立つ陸の孤島。 EDENは、外の世界から切り離された、小さくて寂しい場所なんだ。 だからその中で、人々は身を寄せ合って、独自のルールを形成して、どこからも干渉されない国家を作る。 まるで箱庭を舞台にした実験のようだ。 小さな世界に天使達を閉じ込めたら、果たしてどんな事が起きるか。 結果、起きたのは―― 「あら……?」 背後……EDENの敷地外から、声をかけられた。 フーカとつつじ子だ。 「期招来君。こんなところで何やってるの?」 「………………」 「……さあ。何やってるんだろうな」 目的は無い。 あった気がするけど、忘れてしまった。 俺……なんで“ここ”にいるんだっけ。 「……静かだね」 「いつもの事ですよ」 フーカの言う通りだ。 この島は、どこだって静かだ。 当たり前だ。島民なんてそれほどたくさんいないのだから。 「私……思うんだ……。 この商店街って綺麗だけど……なんだか寂しいなって」 「さびれてる、という事でしょうか」 「そう……なのかな。島の規模を考えると、この商店街 なんてむしろ大きい方なのかもしれないけど」 「でも、もっと色々欲しいよね。 喫茶店とか……レストランとか。 カラオケボックスとかゲームセンターとか」 「ここには、そういうものは何一つない……。 こうやって当てもなく歩いてても、 何一つ面白くない……」 「仕方ないですよ。ここは離島ですもの。 若者向けのお店なんて作っても、誰も訪れません」 「……若者なんて私達だけだもんね」 「ええ、その通りです」 人気のない商店街に足音を響かせながら、二人は乾いた会話を続けた。 「それと……もう一つ。よく考える事があるんだ」 「いずれ……私達がEdEnを卒業したら。 この島はどうなるのかな……って」 「……後輩がやってくるんじゃないでしょうか。 数は少ないかもしれませんが」 「そうやって……次から次へとこの島に 新しい若者がやってきて……EdEnに入って……」 「――EdEnは永遠に続くの?」 ………………。 さあ……な……。 ぼんやりと、思う。 それは俺には関係無い事だ、と。 そしてそれは多分―― フーカにとっても。つつじ子にとっても―― 「あ、那由太」 靴を履き替えようとしているところを、声かけられた。 「……二人とも、今帰りか?」 「うんー。やる事無いしー」 「……ま、帰ってもやる事ないのは変わんないけどね」 「二人とも……は?」 二人とも、部活は? 「……ん?」 「何? よく聞こえなかった」 「えっと……っ、……っ」 二人とも、部活は? あれ……? 俺……今何聞こうとしてたんだっけ? 「……ごめん、何でもない」 「変なの。疲れてるんじゃない?」 「だったら帰ってすぐ寝ちゃうのが一番だよー」 「ま、それもいいかもね。 起きてても特にやる事ないんだし」 「二人とも、部活は?」 「……………………」 「………………は?」 「期招来君……い、今何てー……?」 「……え?」 お、俺……何言ったんだ? 口が勝手に……。 部活……!? 「あんたさ、ホントに疲れてるんじゃないの? 部活なんてやってるわけないじゃん」 「そもそもEDENに部活なんてないよー」 「そ、そうだよな……」 俺だってそんな事は知っている。 なのに……何であんな事聞いちゃったんだ? 「放課後勝手に残って、遊んだり喋ったりしてる子は いるかもしれないけど……」 「あたしもたまに、放課後、教室で本読んだり 文章書いたり絵描いたりする事はあるよ。 でもそれは部活って言わないし……」 「というか、部活なんて危ないよー」 「危……ない……」 「まあ、色んな道具使うわけだしね。 それを誰かが悪用したりするかもしれないでしょ?」 「悪……用……」 「例えば、野球部があったとしてさ。 そしたら野球部員はバット使い放題じゃん」 「部員同士がバットで殴り合いとかするかも しれないんだよー? それは危ないよー」 「バットを隠し持って……ムカつくヤツの頭を グシャッ……とか」 「虐めとかに悪用できそうな道具を使うから、 部活は禁止だよー」 「……那由太もそう思うでしょ?」 「……………………」 「…………そうだな、部活は危険だな」 二人の言う通りだ。 きっと現れる。凶悪な人物が。 道具を用いて、誰かを傷付ける心無い人間が。 ここはそういう場所なんだ。EDENはそういう危険性を孕んでいるんだ。 もし―― 大切な人を、そんな凶事で喪ったとしたら―― そしたら俺は―― 俺は―― ここは、気持ちいい。 屋上で浴びる涼風は格別だ。 どこか……懐かしいんだよな。 この風の匂いを嗅ぐと、少しだけ優しい気持ちになれる。何かを思い出せそうになれる。 でも―― それはそれで、恐ろしい事なのかもしれない―― 「…………?」 ……お。 先客が一人。 「くかー…………ぐがー………………」 メガだ。気持ちよさそうに居眠りしている。 「ま……心地いいもんな」 昼寝したくなる気持ちもわかる。 「ん?」 「あらー、いい景色ですわー」 「風が気持ちいいですねー」 御伽と彬白先輩だ。 「まあ、那由太君じゃありませんか。 こんなところでお会いするなんて、びっくりですわ」 「どうも」 「那由太君……なんで屋上に?」 「んー……なんでっていうか……」 「まあ、なんとなくかな。気持ちいいし、静かだし。 ボーっとするには最適だろ? だから」 「ボーっと……ですか。素晴らしいと思います」 「二人もよくここへ?」 「いえいえ、とんでもありません。 私、屋上へ来たのはこれが初めてです」 「私もだよ。こんな風になってたんだねぇ」 「え……? 初めて……!? そ、そうなのか?」 「ええ。当然でしょう?」 「そもそも屋上なんて普段開放されてないし」 い、いや、そんな事ないだろ。 屋上は生徒が自由に行き来出来る場所で……。 ……あれ? そうだったか?屋上って……入っていい場所だっただろうか。 「屋上に続くそこの扉には、 いつも鍵がかかっているはずですよ」 鍵……。 それじゃあ、自由に行き来出来ない……。 「こんな危険な場所に私達みたいな人間が 自由に出入りしたら、怒られちゃうよ」 危険な場所……。 「危険ですわ。万が一、ここから飛び降りたとしたら…… 絶対に助かりません。私達は鳥や天使などではないの です。羽根の無い私達に……この高さは危険過ぎます」 でも、こうして柵がある。 「飛び降りようとする人にとっては、 柵なんて関係無いんだよ」 そんなヤツ、果たしているだろうか。 「……ここはEDENです。 狂った人がいてもおかしくはありません」 「他にも……誰かを物凄く憎んだとして。 ここでその人を虐めて。その結果、勢い余って 転落死させるって事も十分考えられるよ」 虐め―― …………イジメ。 「ここの柵が必要以上に背が高いのも、 そういう事を防止するためなのかもね」 ………………。 ………………イジメ? 「でも……不思議。なんで今日は鍵開いてたんだろう」 さあな……。 「……あら?」 二人はどうしてここへ? 「……ふふっ。メガ君……ぐっすりさんですわね」 「あ、ホントだー」 屋上がいつも閉まってるって認識なら、そもそもここに来ようとはしないはずだろ。 「ゆっふぃんさん、男性恐怖症の方は大丈夫ですか……?」 「あはは……ぐっすり寝てるみたいなんで。 なんとか平気です」 「ほら、見てください……この気持ちよさそうな寝顔……。 きっと夜々萌先輩の夢でも見てるのかも」 「あらあら、恥ずかしいですわ。 あとで出演料ちゃんといただきませんと」 なんで今日に限って、屋上の扉に手をかけたんだ? 「夢の中で夜々萌先輩と幸せになれるといいね、メガ君♪」 何しにここに来たんだよ。 「でも……夢の中で幸せになったとして……」 「――それって本当に幸せと言えるのかな」 ………………。 「……わかりません。 ですが私は、メガ君に感謝しています」 「メガ君、私の事好いてくれて……ありがとうございます」 「ぐがー……すぴー…………」 「………………あぁ」 「一回だけ……あったな。ここに来た事、一回だけ……」 「そうだぁ……。その時は……皆で来たんだ。 皆で……ここで、青空の下で……たっぷり楽しんで……」 「気持ち良かったなぁ…………“あれ”」 「………………」 夢…………。 夢…………か。 この空も……。この風も……。 美しいものは、全て―― 思い出も、全て―― 下校しようと校庭を歩いていると―― 「お……?」 何者かに、背後から制服の裾を摘ままれた。 「まころ」 「ん……?」 えっと……。 こっちに来いっていう事だろうか。 「まころ、どうしたー?」 そこに何かあるのだろうか。 「ん…………?」 彼女が指差した方を眺めると―― 「おお」 タンポポだ。 黄色い花を咲かせた後の、綿毛を纏った状態で、一本だけ細々と佇んでいた。 「こんなところにタンポポなんて咲いてたんだな」 「もしかして、どこか遠くに咲いていたタンポポの綿毛が、 風で飛ばされてここに辿り着いたのかもしれないな」 「まころ、ふーってしてみなよ」 「平気だよ。どうせそのうち風で 散り散りになっちゃうだろうし」 まころはゆっくりとタンポポに近付いて―― 「ふーっ…………」 静かな息で、白い種子を拡散させた。 「…………綺麗だな」 すぐに目で追えなくなってしまう。まるで分子となってこの空間に滲んでしまったかのように。 「飛んでった種が……いつかどっかで、 綺麗に咲いてくれるといいな」 それを見届ける事は出来ない。 俺の知らない場所で、知らない時間に、あの種子は黄色い花を咲かせるのだろう。 俺がそれを認識できないのならば、それはもう“咲いていない”と同じではないのか。 でも、認識できないからこそ“咲いている”と同じとも言える。 だったら“咲いている”方に賭けたいと思うのが人情だ。 きっと……俺の気付かないところで、色んな花が咲き誇って―― それと同じだけ舞い散って、枯れ果てて―― 「……まころ」 「……一緒に帰ろうか」 その後、俺達は静かにゆっくりと帰寮した―― ある日の昼休み―― 「ん…………」 ふと、まころの姿が目についた。 誰かと通話しているのだろうか。携帯を耳に当ててニコニコしている。 そう。まころは基本的にいつもニコニコしているのだ。 まころの表情は彼女の心理を知るための貴重な手がかりだから、他の人よりもつい意識して確認してしまっているのかもしれないな。 ……行ってしまった。 「………………」 なんとなく気になるな。まころが自分から席を外すのって珍しい気がする。 確か……いつも誰かと一緒にいて―― 「――っ!?」 脳の裏に電流が走った。 「…………っ、くぅ…………」 考えるべきでないと、誰かに警鐘された気分だ。 「……………………」 まあいい。 痛みを紛らわすために、少しまころを追ってみよう。 まころは―― いた。手に何かを持ってるな。 あれは……。 「牛乳……?」 まころらしからぬ、随分と骨太な飲料だ。 あんなものを片手に、どこにいくつもりだろう。 まころを追って辿り着いたのは、校舎裏。 そこでまころは―― 「にゃぁ……」 ネコ……? 随分と小さなネコだ。 どうやらその子ネコに、ミルクを与えているらしい。 「――野良ネコか?」 「――っ!?」 「あ、ごめん。牛乳なんか持って どこ行くのかなーって思って」 まころに受け入れられ、ネコに近付く。 「首輪……してないな。いつから?」 右手の指を三本立てるまころ。 「三日前か」 ちょうどここでまころとタンポポの綿毛を飛ばして……。あれはいつ頃の事だっただろうか。 もう数年も昔の出来事だった気がする。 「にゃぁん……ごろごろ~~」 「おお、まころに懐いてるなぁ……」 まころの手の平に頬を擦りつけている。相当まころに気を許しているのだろう。 「餌とかどうしてるんだ?」 お、サムズアップ。万全の態勢って事か。 それは、裏返せばまころ一人が全てを担っているという事。 「よし! 俺も手伝うよ」 「………………?」 「こいつの世話だよ。まころ一人じゃ大変だろ?」 「………………!」 まころの顔に明るさが拡がっていく。 「えっと……それじゃあ、二人で交代で餌をやるってのは どうだ? あ、あと、普段は何食わせてるんだ? ツナ缶とか?」 「…………ん?」 まころはカバンから何かを取り出そうとしている。 出てきたのは―― 「……譜面?」 ピアノの譜面だ。 「いつも譜面食わせてるのか?」 「じゃあなんで譜面なんか……」 譜面の隅の余白に、ペンを走らせる。 一言、“夢”と。 「夢……?」 「えっと……まころの?」 「……………………」 「ああ、まころって将来ピアニストに なりたいんだっけ?」 確か、どこかでそんな話を聞いた事がある。 音楽推薦か何かで入学してきたんだよな。 それで、EDENで音楽の技術を磨いて、音楽関係の学校に進学して、やがては……。 うーん。これもいつどこで誰に聞いた話か思い出せないな。 頭が痛くなるといけないからこれ以上考えるのはやめておこう。 「で……なんで今夢の話?」 新しい文字を譜面に書き加えるまころ。 たった二文字、完結な言葉だった。 「――仲間……」 まころは自分と俺を指差してから、改めて仲間という二文字を指先で叩いた。 「俺と……まころが、仲間?」 音楽仲間という事だろうか。 いやいや、俺別に楽器出来ないし……。音楽の道に進むつもりもないし……。 「にゃぁ~~ん……」 ネコ……? 「ああ、ネコの世話仲間!」 そういう事か。 そうか、仲間か。 まころはそう形容するんだな。一緒に世話する間柄を。 仲間―― 「……どうして夢の話を?」 「ん…………」 “夢”という文字と“仲間”という文字を交互に指差すまころ。 「……………………」 「仲間だから……夢を教えてくれたのか?」 「……………………」 そうか…………。 それが、まころの誠意。 「……ありがとな、まころ」 その後、この子ネコの世話について、まころと取り決めた。 楽園欒はペット禁止だし、当然EDENでの飼育を公にするわけにはいかない。 しばらくは二人でこっそりと。お金を出し合って定期的に餌を与えようという事になった。 ニコニコ顔で、まころが俺の前にやって来た。 「おう、行くか」 「おーい、まこ太ー」 「――にゃぁ…………」 「お、いたいた」 怯える事無く、俺に近付いてくるまこ太。 俺……というか、まころに。 「なんだよ、俺とも仲良くしてくれよ」 「にゃふー」 ふてぶてしい顔しやがって。 「ほら、ご飯だぞ。今日はツナ缶だ。ノンオイルなんだぞ」 小皿に取り分けて、まこ太の前に差し出す。 「むしゃむしゃ、しゃむしゃむ」 するとまこ太は、これまた怯える事無く意気揚々とツナに齧り付いた。 「食いしん坊め」 「お……」 「……………………」 まころは静かに、丁寧に。まこ太の頭を撫でている。 まこ太もそれを当然のものとして、拒む事無く食事を続けた。 「むちゃむちゃ……にゃむー、ごろごろぉ~」 「まころの手が気持ちいいんだろうな」 「……………………」 そして、まころも気持ちよさそうだ。 「……………………」 俺まで静かにその光景に見入ってしまう。 まころは人間だが、この瞬間だけネコの精霊か何かに思えた。 子供を優しくあやす母親。 まころの穏やかな表情に一切の他意は無く。真っ直ぐな慈しみのみに満ち溢れていた。 これを母性と言わずになんと言おうか。 通じ合っている。まこ太はまころを信頼し、まころはまこ太を巨大な愛で包む。 「そりゃあ……俺よりまころに懐くよなあ……」 寂しくもあるが、悔しくは無かった。 それだけ、まころとまこ太の相思相愛っぷりが美しかったからだ。 「ん……?」 ふと、まころは立ち上がって、ガサゴソとカバンの中を漁り始めた。 取り出したるは―― 「またかい」 ピアノの譜面。 「何か書くのか?」 ペンは持っていない。カバンから出したのは譜面だけだ。 「それじゃあ……?」 まこ太が食事を終えたのを確認して、皿や空き缶を片付けるまころ。 そして、立ち上がるとすぐに―― こっちに来い、という仕草。 「……はいはい」 どこへ連れていくつもりだろうか。 「それじゃあな、まこ太。また放課後に」 「んにゃ~~ん……げぷー」 ひらひらと手を振ってまこ太に挨拶をして、歩き始めるまころ。 そんな彼女の背中を追う―― 「音楽室……?」 あまり入った事のない部屋だ。授業でしか来た事が無い。 「まころ、音楽室の鍵持ってるんだな」 彼女は音楽の推薦でEDENに来ているから、特別に音楽室への出入りを許可されているのかも。 「……で、どうしてここに?」 「しー……」 立てた人差し指を唇に添えて、沈黙を促すまころ。 そしてそのままピアノの椅子に座ると、蓋を開けて背筋を正して―― 「……………………」 ――ピアノ演奏を始めた。 静かに、目を細めて鍵盤の上で幾本の指を走らせている。 曲目は知らない。ただ、彼女の美しい所作から、きっとこの音楽も品格のあるものなのだと予想する。 「…………………………」 将来ピアニストになりたいという夢。 俺なんかには計り知れない、壮大で偉大な夢だ。 こうして難なく演奏するその姿を見ると……。 いつか……本当に彼女の夢は―― 「上手だった。すごいな、まころ」 「まころがピアノ弾いてるとこ、初めて見たよ」 昼休みや放課後なんて音楽室には誰もいないし、そもそも鍵がかかっている。 だから今までまころは、気が向いた時にやって来て、こうして自由にピアノの練習をしていたのだろうか。 「そんだけ弾けるなんて、立派だと思うよ」 「もしかして、その技術を俺に披露したかったのか?」 「あれ……? 俺にピアノ演奏を聞かせたかったって事じゃないの?」 てっきりそのつもりで俺を音楽室に連れ込んだのかと思ったんだが。 「お…………」 取り出したメモに書かれた言葉は……。 「“それもあるけど”……」 けど……? 「………………!」 “そばにいて欲しかったから”―― 「…………まころ……」 まころは、普段から表情豊かな少女だ。 顔だけで自分の感情を表現しないといけないんだ。意図的にわかりやすく、顔に出してくれているのだろう。 今だってこうやって、笑顔で場の空気を暖めてくれている。 でも……この表情は初めて見るな。 すこしだけ俯き気味で、まころらしからぬ不明瞭。 表情で自分の気持ちを相手に伝えないといけないのに、今のまころは全て出し切れていない様子。 何かが邪魔をしている。 それはきっと、照れ。恥じらい。戸惑い。 それが俺にきちんと伝わっているのだから、やっぱりまころの顔は感情表現が上手だと言える。 「まころ……俺、もっとまころのピアノが聞きたいな。 よかったら、もう少し聞かせてくれるかな?」 今度は100%の笑顔。喜びに満ち溢れた様子。 俺も嬉しいよ。静かに、黙って君の演奏を聞こう。 それから放課後になって、再び二人でまこ太に餌をやって。 一緒に帰路を歩いた。のんびりとした時間だった。 「……………………」 ふと、遠い日の事を思う。 EDENに入学する前の事。 もっと……幼少の頃の事。 「………………」 「………………」 「…………やっぱりだ」 痛みが追想の邪魔をする。 自分の過去が遠い。 家族の名前が思い出せない。 俺は……何者だ? どういう経緯でEDENにやって来て、どういう日常を送って来たのだろうか。 昨日の記憶すらあやふやだ。 不安が海馬を蝕んでいく。 不安なんだ。怖いんだ。 何が大事だったか把握できていないから不安で、誰が大切だったか思い当たらないから怖くて。 今、俺の中にある大事なモノ、大切な人。 いつか忘却してしまうのだろうか―― 俺は今までどれだけ、忘却してきたのだろうか―― 「……………………」 せめて確認しろ。 今、俺にとって大事で、大切なのは―― ノックの主は、まころだった。 「こんばんは」 丁寧なお辞儀で挨拶を返すまころ。こんな時間に彼女が自室に訪ねて来るのは初めてだ。 「どうかしたか?」 「ん………………」 手首をぶらつかせて、おいでおいでを示している。 「もう夜なのに、どっか行くつもりなのか?」 当たり前だが、まころは何も答えない。 俺の疑問を保留させたまま、歩き始めてしまった。 「……………………」 どこに行こうと、ついて行くさ。 だってお前は……今の俺に残された、数少ない―― 向かった先は―― まころの部屋だった。 「……入っていいのか?」 いいらしい。 女性がこんな時間に異性を自室に連れ込む意味、果たしてまころはわかっているのだろうか。 屈託ないなあ。わかってないんだろうなあ。 「ここがまころの部屋か……」 入室者の視線を最初に奪うアップライトピアノ。そして本棚にはピアノの教則本や譜面がいっぱい。 さすがピアニスト志望。実にそれらしい雰囲気だ。 「……で、なんで俺をここに呼んだんだ?」 「しーっ…………」 静かに、というジェスチャー。 相変わらず、理由は後回しのようだ。 とりあえず彼女の要望通り、黙って成り行きを待とう。 まころはアップライトピアノの椅子に座り、構えた。 このまま演奏を始めるのだろうか。 「お、おいまころ……。 こんな時間にピアノなんか弾いて、 怒られるんじゃないのか?」 そのサムズアップは、どういう意味の“大丈夫”なのだろうか……。 「………………」 結局、まころはピアノを弾き始めた。 昼に引き続き、上品な光景だ。ピアノの音も、自然と心地良く感じられる。 「……………………」 演奏中、まころは俺の方を向く事無く、その神経の全てを音楽に傾け続けた。 「相変わらずお上手で」 音楽室で一度見聞きしたとはいえ、心を揺さぶられる演奏に変わりは無い。彼女を讃える拍手は当然と言える。 「……ん?」 鍵盤から手を離して、何かを記し始めたぞ。 まころが差し出してきたメモには、こう書かれてあった。 「“そばで見ていて欲しい”……」 音楽室でも同じような言葉をもらったな。 「……………………」 “どうして?”と理由を問うより前に、新しいメモ用紙が渡された。 「“上手に弾ける気がするから”……」 これって…………。 「俺が傍にいると、ピアノが上手く弾けるって事か?」 それこそ“どうして?”だ。 音楽素人の俺は特に何もしていないし、何もしてあげられない。 そんな俺がいるだけで、演奏の調子が良くなるなんて謎過ぎると思うんだが……。 でも……。 「――だったらいくらでも傍にいるよ」 「……っ」 お、照れた照れた。これも二度目だからすぐに気付く。 「目逸らさないでよ」 「……っ、…………っっ」 「まころってば」 「~~~~っ……!」 などと恥ずかしがらせてみる。 ピョンピョンと部屋の隅に逃げていく姿が可愛らしい。 言葉が無い分、表情や動作が豊かな子だな、と思う。 「実は俺も一曲弾けるんだ」 「…………?」 「ピアノ、借りていい?」 承諾をいただいたので、椅子に座る。 「えーーっと……確か最初の音は……」 見慣れない白黒の羅列から、正解と思しき鍵盤を選び、指を立ててみる。 「えっと……むむ、なかなか難しい……」 ネコふんじゃったなんて久しく弾いてないからなあ……。 「おおっ!?」 背中に攻撃を受けた。 紙には“まこ太ふんじゃダメ!”との文字が。 「あはは……ごめんごめん」 まこ太を指してたわけじゃないんだけどな。 でも心優しいまころらしい反応だ。 「それじゃあさ、まころ、何か一曲教えてよ。 俺でも簡単に弾けそうなヤツ」 「え…………?」 何事かと思った。 ピアノを教えて欲しいと言ったから、まず姿勢を正すところから指導するつもりで……? だって、仕方ない。言葉で教えられないから、身体に直接触れるしかないんだ。 だから……これは不可避のスキンシップで……。 「まころ……?」 「……………………」 「……ま、まころ……えっと……ピアノの、曲……。 何か教えて欲しいなって……」 「…………ちゅっ」 「――っ!」 首筋に、柔らかな感触が走った。 同時に、大人びた音も聞こえた。 聞き間違いはあり得ない。彼女から発せられる音なんて、限られているからだ。 「お、おいまころ、なんだよ急に……! わけわかんないって……」 「……ちゅっ、ちゅぅ……」 「まころ、ほら筆談、筆談!」 キョロキョロと周囲を見渡して、紙とペンを探すが、初めて入った部屋という事もあってまごついてしまう。 「……まころ……お前……」 背中をポカポカ叩かれて、距離が近付いて。 背後から抱き締められたのは、彼女なりのスキンシップの延長だとして。 では、この口付けの意味は……? 「………………♪」 「まころ、そこは……!」 後ろに回った手が、俺の股間に伸びてきた。 「お、おい……さすがに……」 力任せに抵抗する事だって出来る。間違いなく、俺の方が腕力や体力では彼女を上回っているだろう。 でも、乱暴は出来ない。まころは自分の意志を瞬時に、的確に発信出来ないんだ。 だから、時間をかけて慎重にコミュニケーションしてあげないといけない。彼女のスピードに合わせてあげないといけない。 無理矢理彼女を振り払うなどして彼女の言い分を無視するのは、きっと不公平だ。 だから……この行為には彼女なりの何かしらの意図があると思うんだけど……。 「~~~♪」 あるとしたら、そんなの一つしか思い当たらない。 「まころ……そんなにそこ触られるとだな……」 「……ちゅっ。ちゅっちゅっちゅっ」 股間を握りながら、首筋に何度もキス。 明らかだ。言葉などいらない。 「……そういうつもり、なのか?」 「えっと……まころはそれでいいのか?」 「そ、そうか……」 まころは俺の確認に答えるだけ。向こうから俺に、何も問うてこない。 紙もペンもいらない。まころは心を開いて、俺を待ってくれている。 「そ、それじゃあ……俺だって……」 先ほどの愛撫で熱が灯ってしまったのは確かだ。あわよくば、という感情は間違いなく溜まっている。 それに……俺、前からまころの事を―― 「――っ!」 そう……だよな。そんな記憶の模索は必要無いよな。 今が大切なんだ。過去に大切だった事なんか、この瞬間にはどうでもいい。 今、まころに優しくしてあげたい。その気持ちを大切にして、そして尊重しよう―― 「……っ、ふぅ……っ」 全裸になって、まころと密着する。 「まころの身体……あったかいな」 初めて見るきめ細やかな白い肌は、思わず手を伸ばしてしまうほどの美しさだ。 「……っ、はぁぁ…………」 甘い息の音が、空間に滲んでいく。 「本当にこのままするのか?」 コクンと頷くまころ。 横たわってセックスするためにベッドに向かおうとしたのだが、まころに制されてしまった。 俺はピアノの椅子に座ったままでいいらしい。 で、俺の目の前に彼女の身体。 このまま繋がるつもりなのだろうか。 「ベッドの方が楽だろ? こんなところでしなくても……」 「ふんふんっ」 「お?」 鼻息を鳴らしながら俺を指差し……。 「ふんふんふんっ」 次にピアノを指差し……。 「ふふ~~~~ん♪」 両手でハートマークを作る。 「…………そっか」 大好きなものに挟まれながらしたいわけね。 「わかったよ。このまましよう」 まころに大好き認定されたのは光栄だ。 「それじゃあ……入れるぞ? 準備はいいか?」 少しだけ、まころの表情に緊張が拡がっていく。 「……初めてか?」 「…………っ、………………」 不明確な返答は、肯定と取ろう。 「優しくするから。信じてくれ」 「………………」 不安げではあるが、首を縦に振ってくれたのが嬉しい。 期待に応えなければ。 「よし。腰上げてくれ」 「ふぅ……んっ…………っ」 ゆっくりと浮かび上がった彼女の腰の下に、自分の股間を滑り込ませる。 「……んっ、んんっ…………っ!」 すでに天を向いた亀頭が、彼女の恥部に触れた。 「ん、はふっ、んっ…………ん~~っ…………」 自分の秘所に未知の器官が触れ、驚いたのだろうか。まころは接触の度にピクンと弾けた。 「少し痛いかもしれないけど……我慢してくれよ」 「んっふぅ…………ふっ、はっ…………ふっ…………」 先端で膣裂をなぞって、挿入穴を感覚で探る。 蜜のような液体に満ちた、温かな窪みを見つけた。 ここが……まころの入り口―― 「まころ、ゆっくりと腰下ろしてくれ」 「はっ…………ふっ、はっ…………んっ、ふぅ…………」 緊迫のせいで、呼吸の乱れを隠し切れていない。 それでもまころは、俺との結合のためにその異質な感触を受け入れてくれた。 「くふっ…………ん、はふっ…………うぅ、はぁっ……!」 「そうだ……ゆっくり……ゆっくり…………!」 ニチャニチャという肉音が耳に入ってくる。 俺の欲望の現物が、まころの肉体を掻き分けている音だ。 少しずつ、だが確実に奥へと侵入していく。 「はっ…………くふっ、んっ、ふっ、んっ、んっ、ふっ!」 抵抗の強い箇所に辿り着いた。それまでよりも硬めの膣肉が、進行を拒んでいる。 そうか。これより先は、処女と引き換えか。 「まころ……」 「ふっ…………ふぅ、ん…………んっ、ふっ、ふぅ……」 「はふぅ…………ん、んふー…………」 長い息で、俺を促してくれた。 「……ありがとう」 きっと痛みで戸惑う事だろう。彼女の下降だけでは奥までには至らない。 俺から繋がりにいこう。腰を上げて……この膜を貫くんだ。 「それじゃ……いくぞ」 「んっ…………ふっ、ふっ、ふぅぅんっ……!!」 「――っ」 「ふっ、ひっ……ふうううう~~~~~~~っっ!!」 長い息を吐き出す間、ずっとその身体が震えていた。 足はぶらつき、手は宙を掻き、首は左右に乱れ。 膣口は血を滴らせた。 「ふっくっ、ふぅぅんっ、んっ、ふぅんっっ!! んっ…………ふっ、うっ…………んっ、はふっ!」 「まころ、痛いかもしれないけど……力抜いて」 「ふぅっ、ふぅっ……んっ、ふっ、うっ、くふっ……!」 異物を奥まで圧し込まれ、力を抜けなんてまころにとっては無理な注文なのかもしれない。 しかしそれでも彼女は俺の言葉に従おうとしてくれている。膣の力加減は調節出来ないにしろ、手や足の震えをなんとか抑えようと、無理矢理止めようとしているのだ。 その心意気から、俺への信頼を感じられる。 言葉なんていらないな、まころ。 「はっ…………はっ…………ふぅ、そう、そのまま……」 「んっ、はっ…………ふっ、ふひぃ…………ひぃ……!」 痛みをこらえつつ、無駄な動きを削っていく。 余計なものが無くなったおかげで、むしろ挿入の刺激が強調されてしまうが……。 「ふぅ…………くっふうぅ……はっ、ふぅ、ふぅ……」 それでもまころは、荒い呼吸を繰り返しながら結合を維持し続けた。 「よし……全部入ったよ」 「んふぅ…………はっ、ふぅ…………?」 「ああ。根元まで全部。まだ痛いか?」 「ふ、ふーー…………ふーー…………んっ、んふー」 大丈夫、という顔を見せようとしてくれているのはわかる。 でも同時に、本当はまだ痛いという本音も察する。 「あんまり無理するなよ。 ほら、ピアノ見て心を落ち着かせろ」 「はふっ…………ん、ふぅ…………ふっひぃ…………」 まころが目の前の鍵盤に視線を向けた瞬間、少しだけ膣の緊迫感が解けた気がした。 いつも見慣れているもの。まころがずっと愛し続けたもの。 それがすぐ傍にあるんだ。心が楽になったのかもしれない。 「あ…………」 少しだけ、納得できた。 セックス中、ピアノが傍にある事を意識して彼女の心が落ち着いたのであれば。 まころがピアノを弾く時、俺に傍にいて欲しいと願うのはそのためか―― 「……………………」 「まころ……動かしていいか?」 「ふ…………ふひ?」 「まころの中で、動かしたくなった」 「…………ふ、ふー」 まころの想いに触れて、ペニスがまころをさらに求めている。 同意も得た事だ。彼女の身体を気遣いながら、この欲に従ってまころをたくさん感じ取ろう―― 「ふっ、はふっ!? んっ、ふうっ、はっ、はっ!?」 「はぁっ…………っ!」 腰を突き上げて、まころの奥を探る。 今まで知らなかった彼女の内部を、俺の肉棒で染めていく。暴いていく。 まころを、知り尽くしていく。 「ふううっ、くっ、んっ、ふっ、ふーっ、ふーっ! ひっ、はっ……ふーっ、ふーっ……んっ、ふーっ!」 「まころっ、締め付け、すごいぞっ……!」 「くっふっ、ふっ…………っ、ふーっ…………んっ!! はっ、はっ、はっ……ふっ、ふっ、ふぅっ…………!!」 身体ごと持ち上げられ、上下に跳ねてしまうまころ。 さすがに支えが必要になったようで、鍵盤に手を伸ばし、バランスをとった。 「ひっくっ、くふーっ……ふっ、ふっ、んんっ!!」 整然からかけ離れた不協和音が響く。まころがこんなにも無秩序に鍵盤を押さえるなんて、きっと珍しい事なのだろう。 「気持ちが乗ったら、そのままなんか一曲 弾いてもいいからな……!」 「ふひーっ! ふひーっ!」 それどころじゃない、と首をブンブン。 俺としても、今この状態でまころの名演奏に聞き入る余裕は無さそうだ。 それだけ、身体が熱い。 「はぁっ、はぁっ、まころ、俺、すごく気持ちいいっ!」 「ふひぃんっ、くっ、くふぅ……んっ、んっ、んっ!! ふっ、ふうっ、くっふぅ……ひーっ……ふーっ!」 「まころはどうだっ……!? 気持ちいいかっ……!?」 「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、 はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ!!」 小刻みな息遣いで欲情を示すまころ。その膣の熱に相応しい乱れっぷりだ。 「もっと感じていいんだからなっ……! 遠慮せずに、一緒に気持ち良くなろう……!」 「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ!! んっ、んんっ……ふっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ!!」 いつの間にか、まころも積極的に腰を上下に動かしてくれている。 まころは今、どんな気持ちなんだろう。 俺を暴いてくれているか?俺を知り尽くしてくれているか? 俺に隠し事は無い。全てを明かすと誓う。 だから、まころも包み隠さず俺にその身を捧げて欲しい。 まころ……何か隠し事は無いか――? 「ふひーっ! ふひーっ! ふひーっ! ふひーっ! ふひーっ! ふひーっ! ふひーっ! ふひーっ!」 「はぁっ、はぁっ……そ、そろそろ……はっ、はっ!」 「ん、んんっ、んーっ! ふっ、ふっくうっ!! ふーっ、くひっ……ふっ、ふっ、ふうっ……!!」 俺の絶頂欲を察してか、それともまころも限界が近いのか。 かつてない上下運動で、性器を擦り合って頂点を目指す。 「まころ、中に出すぞ……!」 「んっ、んっ、ふはっ、ふーっ、んっ、んんっ!!」 蕩けた顔を縦に振って、最大の快楽を待つまころ。 俺は、そんな彼女の中に―― 「くひーっ、ふっ、ふぅ、んっ、んっ、くっふっ!! ふーっ、ふっひっ、ふっ、はっ、はっ、はっ、はっ、 はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、はっ!!」 「……っっ! イクっ!!」 「んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、 んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ、んっ!!」 「ふぅぅうううぅ~~~~~~~~んんんんっっ!!! ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっ、ふっひっ、ひぃ!!」 ――巨大な精の塊を、打ち落とした。 「はっ、はっ、はっふっ、んふっ、ふーっ! ふひっ、 んっ、んんっ…………んっ、んふーーーっ…………!!」 そしてまころも同じく、頂点を迎えた。中出しの刺激が引き金になったのかもしれない。 「ひっ、ひぃ…………ふっ、ふひっ、ひっ、ひっ……! ふひっ、ふひっ、ふひっ、ふひっ、ふひっ、ふひっ、 ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっひっひっひっひっ……!」 鼻腔の隙間から息を鳴らして、痙攣するまころ。 その小刻みの抽送が、絶頂中のペニスには心地良い。 「はぁっ…………くぅ…………! はっ、はぁっ!」 「んっ、んひぃ…………んひっ、ひぃ…………はっ、はっ、 はぁっ…………ふっ、はっ…………はっ、はっ、はっ」 「はあ……はあ…………まころ、いっぱい出したな……」 「ん…………はふ、ふー…………ふひー…………」 恥ずかしがっているのか、視線を合わせてくれない。 裏を返せば、恥ずかしがる程度の余裕を取り戻したようだ。 「俺も……いっぱい出したよ。 まころが気持ち良くしてくれたおかげだ」 「ふ、ふぅ…………ふひぃ……?」 「ああ、ホントだよ。すっごく気持ち良かった」 「ふー……ふー…………んっ、ふー…………」 なら良かった、と少し嬉しそうにはにかむ。 その表情が、まころの優しさと健気さの全てを物語っていたのだった―― その後。 服を着て落ち着きを取り戻したまころは、もう少しだけとピアノ演奏を続けた。 彼女にとっては練習のつもりなのだろうが、俺にとっては一流ピアニストの演奏会も同然だ。 現にまころはプロのピアニストを目指している。こんな間近で彼女のピアノを聞けるこの瞬間は、いつかきっとかけがえのないものになるに違いない。 「うん、やっぱ上手だ」 「初エッチした後でもこれだけ弾けるんだから 大したもんだよ」 「あはは、ごめんごめん」 まころが可愛くって、つい意地悪を言ってしまう。 「あ……もうこんな時間か。 まころ、そろそろ練習はおしまいにしないか?」 「そんな顔するなって。 また明日、練習見ててあげるから」 本当に、表情がコロコロ変わる子だ。見ていてとても楽しい。 「まあ……こんな風に、俺何も手伝ってあげられない けどさ……傍にいるくらいなら、いつだって出来るから」 「だから、ピアノの練習する時になったら、 遠慮なく俺を呼んでくれ」 まころのピアノに聞き惚れて。まころと男女の仲を築いて。 大切な夜になった。 この思い出、忘れたくない。忘れたくないよ。 いつか、やっぱり。俺は忘れてしまうのだろうか。 どうやったら覚えていられるかな―― ――その事故は、唐突だった。 唐突で、不可避だった。 その時の混乱は覚えていない。 幼かったからだろうか。 それとも、俺の記憶力が低いからだろうか。 親族の家を転々と渡った。 そういう事を“たらい回し”と言うらしい。 親族は皆、俺を嫌った。 同時に、俺の背後を付き回すマスコミも嫌った。 確かに俺は奇異の目に晒されるような存在だ。 見た目も。境遇も。 身も心も普通の人間と違う。 そんな異常者がどんな余生を送るのか、世間が知りたがるのも当然だ。 そんなの俺が知りたいよ。 俺はあの事故の後、どんな人生を送ったんだ? 覚えてない―― 覚えてない―― 「…………………………」 「…………夢、か」 変な夢だった。 妙にはっきりしていた。空想などではない……鬼気迫る葛藤がそこにあった。 心臓がドキドキしている。少しだけ何かが怖い。 「………………」 「……事故って、なんだ…………」 今日は何曜日だろう。 登校日か? それとも休日か? 昨日、何があったかな? 大切なモノ。大切な人。きちんと覚えているかな? 忘れたりしてないかな? 「思い……出せない…………」 …………構わない。 いつもの事だ―― 登校時刻だというのに、人影はない。 通学路を歩く人はいない。校門をくぐる人はいない。校庭で朝練をこなす人はいない。 当たり前だ。 ここはとても小さな。そしてとても凶悪な世界。 楽園なんて嘘だ。 狂気と殺戮が渦巻く、悪魔の巣窟だ。 俺に相応しい。帰巣本能に従って、前へ進もう。 教室の扉を開けると―― 「あら、期招来さん。おはようございます」 ほらな―― 「……どうしたの? 期招来君。 そんなところでボーっとして」 悪魔しかいない。 「早く座ったら?」 「……どこ、見てるの?」 どこを見ても。 見つからないんだ。俺の過去が。 「――期招来君」 「…………志依」 「何も見つからないなら、諦めて座ったら?」 「……………………」 「…………ああ。そうだな」 コンクリートの臭いがする。 血の臭いがしないんだ。 おかしいな……。確かここは、EDENという世界は、いつだって血に塗れているはずなのに。 ああ、そうか。 精巧に隠すんだ。 だから俺は気付かなかったんだ。 その悲劇に。 「………………?」 ログワールドで唯一の忘れ物。 最初で……きっと最後の忘れ物。 確か……俺の部屋のどこかに……。 「まころ…………」 「………………」 「……ああ。わかってるよ。餌の時間だよな」 「まこ太ー、出てこーい」 「……………………」 「――にゃ~~ん……」 「お、来た来た」 日課の餌やりだ。まころと一緒に準備を始める。 「ちょっと待ってろよー。缶から中身取り出すからなー」 「ふにゃ~~ん……にゃっふにゃっふ」 缶詰を小皿に取り分けている間、まこ太はまころにべったりだ。 「…………♪」 まころもそんなじゃれ合いを嬉しそうに受け入れている。 「よし、ほら。用意出来たぞ。食え食えー」 「むちゃむちゃはむはむっ」 まころからまこ太を引き寄せられる、数少ない瞬間。 「……しかしよく食うなあ。 キャットフードってそんなに美味しいもんなのかな」 二人ならんで、まこ太の食事を見守る。 ふと、これからの事が頭に過った。 「……俺達がEDENを卒業したら、 まこ太はどうなっちゃうんだろうな」 「…………………」 口に出すべきじゃなかったかもしれない。 まころは表情を一変させ、寂しそうに唇を閉ざした。 俺も、なんとなく遠くを見てしまう。 「……卒業して……いずれ俺達は、 この島を出ていく事になる」 「まこ太は野良ネコだ。俺達がいなくても自分だけで 生きていけるだろうさ」 「しゃむしゃむっ。にゅちゃにゅちゃにゅちゃ」 勢いの変わらないまこ太の咀嚼音だけが、虚しく響き渡る。 「ああ、わかってるよ。 ……離れ離れは嫌だよな?」 「……じゃあ、さ」 「むしゃむしゃ…………ふにゃあ?」 食事中のまこ太を持ち上げる。こんな時くらい嫌がらないでいてくれよ。 「卒業したら、まこ太も一緒に連れていくか」 こいつだけ島に置いていくなんて可哀想じゃないか。 これも何かの縁だ。こうして出会って……二人で世話して……。 最後まで面倒見ないとな。卒業するからもう終わりなんて無責任だよな。 「……でも、どうする?」 「…………?」 「どっちがまこ太を連れてくかって話だよ。 半分こってわけにはいかないだろ」 「……………………」 「…………まころが連れてくか?」 「俺が連れてっていいのか?」 「……そっか」 答えは決まっていた。 だってこいつは。まこ太は。 俺とまころの名前を冠しているのだから―― 「卒業したら……まころ、俺と一緒に暮らそう」 その言葉に、まころはいつものように首を縦に振らず―― 「ちゅ……」 変わりにキスで答えてくれた。 「まこ太、卒業したら俺とまころと……皆で暮らそうな」 「にゃ~~ん」 「――ふっ、ふうぅ……んっ、んっ、んっ…………!! はふっ、はふっ、はふっ、はふっ、はふっ…………!!」 「ふひぃっ、はっ、はぁん…………んっ、んんんっ……! ふっ…………くひっ、ふっ、ふーっ、ふっひーっ!」 「はぁっ……はぁっ、はっ、はっ!」 そして、まころの部屋でセックス。こちらもすっかり日課となった。 「ふぅ、くふううっ……んっ、んんっ、はっ、はっ、はっ、 はっふうっ、ふっ、んっ、ん~~~~~っっ!!」 「まころ……そろそろイクぞっ……!」 「はっふっ、はっふっ、はっふっ、はっふっ、はっふっ、 はっふっ、はっふっ、はっふっ、はっふっ、はっふっ!」 「んっ、んっ、んんんんんんんんんんんんんんっ!! ん、くふぅ~~~~~~~~~~んんんっ…………!!」 何度も入れてきた穴だ。潮吹きのタイミングも大分把握できるようになった。 忘れやすい俺だが、彼女の膣の感度は脳では無く身体で記憶している。 「はぁ……はぁ……。 相変わらずいっぱい出したな……まころ」 「はぁ…………はぁ…………ん、ふひー…………」 「まあ……俺も人の事言えないけど……」 互いの汗が擦れて、柔らかい肌を引き寄せ合う。 この密着の心地良さは、何度味わってもたまらないものだ。 「まころ、このまま一緒にシャワー浴びるか」 「ん、ふー…………♪」 こうしてまころと毎晩のように性に耽って。 こういう日常も悪くない。むしろ素晴らしい。 俺が求めていたのは、きっとこんな毎日―― ――そうじゃ、なくって。 「……え?」 以前一度聞いた事がある気がする、静かな激昂だった。 「鍵の話」 「あ……あ、ああ、そうだったな」 「知らない?」 「だから知らないって。そもそも俺が知るはずないだろ」 「……それもそうか」 まったく……。こいつの言ってる事はいつも意味不明だ。 「………………」 「…………何?」 「…………いや。俺、屍の事はちゃんと記憶してるなって」 「……………………」 「最近色々ダメなんだ。すぐ忘れちゃう。大切な事が、 自分の中からポロポロ剥がれ落ちていくんだ」 「それなのに、なんかお前の事はあんまり 忘れないんだよな……」 彼女の存在は、俺の脳の奥をいつも陣取って離れない。 どういうわけだろうな。妙に印象強いんだ。屍の記憶は。 「……………………」 「……不満そうだな」 「……私の事、ちゃんと記憶してるですって?」 「――どこが?」 「……っ!」 明確だった。 普段あまり感情を見せない彼女の、明確な怒り。 全身が、痛かった。 何より心が痛かった―― 「……まころ、今日は何日だ?」 「俺達が出会ってから、もうどれくらいになる?」 「俺達が結ばれてから、もうどれくらいになる?」 「なあまころ……EDENって知ってるか?」 「…………?」 「確か、そういう場所があったと思うんだ」 「俺……よく覚えてなくて」 「確か……まころと一緒に、大切な思い出を 作った気がするんだ」 まころだけじゃなくて。 たくさんの仲間と。たくさんの思い出を。 「………………」 「あ…………」 まころは、俺の不安の一切を消し飛ばす笑顔を見せながら、俺の手を握ってくれた。 「…………うん。ありがとう」 「行こうか、まころ」 そのまま、俺達は歩き始めた―― でもな、まころ。 俺、あの時の事は覚えてるよ。 ほら、校舎裏でさ……。まころがタンポポの花を見つけて……。 綿毛を、飛ばしたんだ。 穏やかな時間だった―― 「……………………」 特別静かな場所というわけではない。 なぜなら、この島のほとんどがもはや静かな場所で。 むしろ波の音がある分、ここは他と比べて賑やかにすら感じられる。 ……この音は、今の俺にはとても有難い。 涙が出てくる。 「………………?」 「……なんでもないんだ。驚かせてごめん」 「波の音を聞いてると……何かを思い出せそうな 気がして……。そしたら涙が溢れて来るんだよ」 確信している。 俺はある罪を犯した。 たまに泣きたくなる時があるんだ。 心が震えて、果てしなく悲しい気持ちになる時があるんだ。 その時に流す涙は、贖罪の証。 謝りたい。 誰に謝っていいかも忘れてしまったというのに。 その気持ちだけが膨れ上がっていくんだ。 「…………まころ……」 慰めてくれているのだろうか。 温かい抱擁だ。すごく嬉しい。 でも一向に、心の震えは止まらない。 「……ちゅっ」 俺の首筋に彼女の唇が止まった。 対し、背中に回された彼女の手は、何かを探すように上下に動いている。 求められていると気付く。 「………………」 「……ああ、そうだな」 「……しようか、まころ」 うっとりとしたまころの表情に、吸い込まれてしまおうと思った。 ここは神聖な場所なのだと思う。 そういえば、この島にはもう一か所、とても神聖な場所があったような。 朽ち果てた……教会のような場所。 誰と……何しに行った場所だったかな―― 「――ちゅ……ちゅぷ、ちゅっぷ……んちゅず、ちゅぅ」 「……………………」 「ずじゅぅ……ちゅぷ、んちゅ、はっ、はっ、はっ、 んっ、ちゅずずっ、ちゅるぅ、ぴちゅぅ……!」 波音にまころの舌音が混ざる。 俺はひたすら、遠くを見ていた。 「ちゅずりゅ……ちゅっぷ……んくちゅ、ちゅっ、んっ!」 こうしてから、どれだけの時間が経っただろうか。 押し引きを繰り返す波は、その規則性の一切を変えず、無機質に時を刻み続けている。 俺の記憶は、摩耗していくばかりだ。 この瞬間も、やがては消失していく事だろう。 ならば、この刺激に何の意味があるのだろうか。 「まころ…………」 「んちゅ、ちゅぷぅ、くちゅ?」 「……ありがとう。気持ちいいよ」 「ちゅずっ、くっちゅ、ぴちゅ、ちゅぷ、ちゅぷぅ~」 「ああ…………気持ちいい…………」 言葉が空に吸い込まれていく。 何かを思い出したくて、思い出せなくて。 結果、まころの口奉仕に頼る。とても愚かだと思う。 「ちゅぷぅ……くふっ、ふっ、ちゅずっ…………!! んっ、んっ、んちゅ、ちゅっ、ちゅっ…………!!」 「ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ! ちゅっ!」 啄むような口付けだ。 先ほどよりも強くて……俺に何かを訴えているのだろうか。 「ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、 ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、 ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ、ちゅ……」 「……まころ?」 「んっちゅうっ、ちゅずずっ、ちゅぷちゅぷっ! くちゅむぅ……ちゅぷ、ちゅずずっ、ちゅりゅぅ!」 「………………」 そう……かな。 余計な事、考え過ぎかな。 「だって、仕方ないんだ」 「俺は何かを思い出すために、“ここ”に来た気がする」 “ここ”ってどこだ? とても広義な……漠然とした“ここ”……。 俺はいつから“ここ”に来て、どれだけ“ここ”での日々を送り続けている? どれだけ“ここ”で、誰かを傷付け続けている? 「れろぉん、れろっ、ぴちゅ……れろっ、くちゅぅ。 れろれろっ、えろぉぉん…………」 「……っ」 艶めかしい舌の刺激に、一瞬俺の思考が埋没する。 「れろっ、えろぉっ、れろれろっ、ぺろっ……! くちゅぷぅ、れろれろっ、えろぉぉっ、れろぉんっ」 まころはまころで、フェラ刺激で俺を夢中にさせたいのだろう。 俺の記憶の模索を邪魔するかのように。 この神聖な場所では、もしかしたらそんな反抗は禁忌なのかもしれない。 でも彼女の健気さが嬉しくて。 俺は静かに、遠くを見るほかなかった。 「れろぉん……ちゅぷ、ちゅずずっ、ちゅっぷぅ……。 れろれろっ、れろおっ……ちゅ、ちゅぷむぅ……!」 「まころはさ……覚えてるのか?」 「れろぉんっ、ぺろっ、くちゅぅ、ぴちゅ、むちゅぅ。 ちゅずずっ、えろぉっ、えろえろっ、えろぉんっ……」 「俺は覚えてるよ。ほんの少し……だけど」 「れろぉ? れろれろっ、ぺろっ……れろれろぉ……?」 「誰かが言ってたんだ。誰かに教えてもらったんだ。 いつだったかな……誰だったかな……」 「確か……スプーンが……どうとか……」 「れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ! れろっ!」 ああ―― 気持ちいいから、そんな事どうでもいいか―― 「れろれろれろれろれろれろれろれろれろれろれろ……! えろえろえろえろえろえろえろ~~~~~~…………! れろ~~っ、れろ~~っ、れろ~~っ、れろ~~っ……」 これほど神聖な場所で―― 産まれたままの姿になって、根源的な快楽を味わう。 何かに対する冒涜な気がする。ここでこんな事をしたら、誰かを傷付けてしまう気がする。 罪悪感だけが募る。 「――まころ」 「れろれろっ、れろぉ? れろれろぉ?」 それを快楽で圧し潰すべく、悪循環に陥ろう。 「……もっと」 「――んぐぶっ、ぶっふっ……ぐぶふぅ……!! ぐぶっ、ぶふうっ……ぐっ、ぐぶぶっ……!!」 海しか視えない。 “彼女”が今、どんな顔をしているのか。 今の俺には視えない。 「まころ……苦しいか?」 「んぐっぶっ、ぶっふっ、ぎゅぶぶっ……! ちゅぶっふっ、ぶふぐぶぶっ、ぎゅぶじゅぶぶっ!!」 「でも俺、もっと気持ち良くなりたいんだよ。 でないと背徳感で狂っちまいそうなんだ」 「だから……もっと俺を堕としてくれ。 今はひたすら、劣情が欲しいんだ」 「ぎゅっぶうっ、ぐぶっ、じゅっぶぶっ、ぶじゅぶうっ! じゅぐぶっ、ぎゅっぶうっ、ぐぶぶぶっ、じゅぶっ!!」 亀頭が、喉奥の柔らかな粘膜に触れた。 ここはまころのチャームポイント。他人とは違う作りになっている場所。 「――ぐぶぶっ、んぐごごごっ、ぎゅぐぶぼぼぼっ!! じゅずぶぶっ、ぐびごごっ、んぐごごごぼぼっ……!!」 きっと彼女には、あるはずのものがないんだ。 そこを確かめるように、腰を上げて喉を触診する。 「――ぐぼぼぼぼぼぼごぼごぼごぼごごごぼごぼごっ!! じゅぶぼぼぶぶぼびぐびぎぶびっぼぼぼごぼごぼっ!!」 そのたびに彼女の喉の粘膜が削れていく。 最高の気分だった。 「まころ……気持ちいいよ。その調子、その調子……」 「んぎゅっぶっ、ぐっぶっ、ちゅぶぶぶっ、ぎゅっぶっ! ぐぶびいっ、んぐごっ、ぐぶぶぶぼぉっ…………!!」 「はっ……はぐっ、ちゅっ、ちゅっずっ、ぶじゅ……! んぐぐっ、はっ、はっ、はぐっ、じゅぶっ…………!」 「ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、 ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、 ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ、ぐごっ!」 またもリズミカルな音が聞こえてきた。 喉の刺激に慣れたらしい。自ら首を前後に動かして、激しい口淫を繰り出してくれている。 「ありがとうまころ……嬉しいよ」 「んぐぶぶっ、ぎゅっぶぅ……じゅぶぶっ、ぐぶびっ! じゅぎゅぶっ……じゅっ、ふぶぶっ、ぐっぶじゅっ!!」 彼女の頭を強く圧し付けなくても、勝手に動いてくれる。自動的に快楽を与えてくれる。 俺はもう、何もしなくていい。無力な自分に相応しい構図だ。 でも、何かしなくちゃいけないんだ。少なくとも俺は謝らなくちゃいけないんだよ。 だって俺は、罪を犯したのだから。 きっと、恨まれているのだから。 「ちゅぷぅ……くちゅずずっ、んじゅずっ…………!! じゅっずっ、ちゅっぷぅ……くちゅっずずずっ……!!」 「なあ、まころ……」 「ずっちゅっぷぅ……ちゅずぐぶぶっ、んぐぶぅ……! はふっ、はっ、はっ……ちゅずちゅ……んっ、ぐぶっ」 「まこ太、死んじゃったなぁ……」 「じゅっぶぅ、じゅぐぶじゅぶっふぅ……! くちゅっ、 ちゅずずぶっ、んぐっじゅっ、ちゅずっぶぅ……!!」 「まころ……本当はどんな声してるんだ?」 「聞いた事ある気がするんだよな……」 まころの声が聞きたいな……。 まころの歌声が聞きたいな……。 きっと……美しいんだろうな。 「んじゅぶじゅぶぐぅっ、ぎゅぶじゅっぶっぼっ!! ぐぼぼっ、じゅぶぼっ、ぎゅぶごぼっ、ぐぶじゅぶっ! んぐぶっ、じゅぶじゅぶりっ、ちゅぶじゅじゅずっ!!」 涎を滴らせるような、粘膜を消耗させるような。 本来のまころは、こんな下品な音を奏でる少女じゃないはずなんだ。 でも、俺はこのまころしか知らなくて……。 「ちゅっ、んっ、んくっ、ちゅっくっ、ちゅっ、んっ、 はふちゅずっ、んっ、ちゅっ、んっ、ちゅっ、んっ!」 「まころ……お前……」 フェラしながら、自慰してるのか。 形振り構わず、水音を響かせながら。躊躇なく自慰を。 「ふっ、ちゅっずっ、ぴちゅっ、んっ、んっ……! はふっ、ちゅずっ、んっ、んっ、ちゅずっ、ぴちゅ! ちゅっぷっ、くちゅずっ、ちゅじゅじゅっ、んっんっ!」 「……………………」 まころもまた、随分と狂っているんだな。 「んちゅっずっ、んくちゅっ、ちゅっぷっ、んっ、んっ! ちゅぅ…………ちゅずっ、ちゅぷぅ……んんっ……んっ、 ちゅずずずっ……ずじゅじゅじゅじゅじゅ~~……!!」 性に溺れたくなるくらいに、まころにも何か蓋をしたいものがあるのか。 まころのような純粋な少女にも、罪が……? 「ずっじゅじゅじゅじゅじゅじゅじゅ~~~~~……!! じゅるるるるるるるりゅりゅりゅりゅりゅ~~~っ!!」 「構わないからな……。好きにしていい」 「自慰したけりゃすればいいし、 ペニスをもっと深く咥えたけりゃそうすればいい」 「ふっ、ちゅぅ、ふくちゅぅ……ちゅっぷっ、んちゅっ! んぐぶっ……ぐぶぶっ…………んぐじゅぶぶうっ……!」 「ここがどんなに神聖でも…… もう俺達は止められないから」 「じゅっぼっ! じゅっぼっ! じゅっぼっ! じゅっぼっ! じゅっぼっ! じゅっぼっ! んじゅぶぶぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ…………!!」 「だから……好きにしよう。 忘れてしまったんだから、仕方がないよ」 ペニスを貪るその口も、膣肉を弄るその指も。 どんどんと加速している。恐ろしいほどに能動的だ。 「んぐじゅぼぼぼぉ…………ぎゅぶぶっ、ぐじゅっぼぉ! はっ…………ふぅ、じゅぶっ、じゅぶ…………んっ、 んっ、はっ、はっ……れろっ、はっ、はっ…………」 「れろ…………れろれろぉ……れろっ、れろぉ…………。 はふぅ、ふーっ、ふーっ……れろれろれろぉ……」 切なげな息遣いで何かを訴えている。 すぐに察する。今のまころは明瞭だ。 「言っただろ。好きにしていいんだ」 「イキたいなら、イケばいい」 「――ぐじゅっぼぉっ! ぐじゅっぼぉっ! じゅぼぼ! ぐじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼ じゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼじゅぼ…………」 歓喜と欲情を示すように。まころが全力のラストスパートをかけ始める。 「……………………」 「ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ! ぎゅっぼ!」 「……………………」 俺は変わらず、遠い海と、遠い空を見ていた―― 「――んぐぶぶっ、んぐぶっ!? んっ、じゅっぶっ!? ぐじゅぶぶ……ぐじゅぶっ、ぎゅぶぶっ、ふぶぶっ、 んっ、んっ、んじゅっ、んっ、んっ、んぶーーーっ!?」 夕日に染まった海原は―― まるで血の海だ―― 「――んんっ!? んぶふっ!? んっ、んぐっぶ!? んっ!? んっ、んふーーっ!? じゅぶうっ!? じゅっぶっ、じゅっ、ふっ、ふっ、ふっ、じゅぶー!?」 まころの身体が跳ねる。 「はふっ、ちゅっ、ちゅっぶっ…………ちゅずずっ! んちゅっくぅ……ちゅぶっ、ちゅっ、んっ、ちゅぶっ!」 砂と淫液が、視界の中でキラキラと舞った。 ちっとも美しくなかった。 「――んっ、んっ、ごくごくごくっ……んっ、んっ、んっ、 んぐっ、んぐっ、んぐっ…………」 「ぶくぶくぶくぅ~~……ぶくぶくぶくぶくぶく~~……」 「――ごくごくっ、ごくんっ!!」 「――ぷはっ! はっ、はっ、はっ、はっ、はっ…………」 「……………………」 本当にそうなのかもしれない。 本当に、これは血の海なのかもしれない。 だったら―― 「……なあ、まころ。俺まころに聞きたい事あるんだ」 「ずっと気になってた事なんだ。 聞いて……いいかな……?」 「――れろれろ……れろれろ……」 ブクブクと射精の余韻を垂れ流している鈴口を舐め続けるまころに、俺は力無く語りかけた。 「まころは……どうして俺とこんな関係に なる事を望んだんだ?」 「どうして俺が傍にいると落ち着くんだ? どうしてそんなに俺を求めるんだ?」 ――テオドール・ベクトルって言葉知ってる? ああ―― 知ってるよ―― 「――じゃあ、もう一つ。質問させてくれ」 「まころ……お前いっつも昼に電話してるよな?」 「喋れないのに……誰と話してるんだ?」 「そもそも……誰かと話してるのか……?」 ――知ってる?音楽の世界ってね、汚い事ばっかりなんだよ。 そうか―― まころは……ギフトのままでいようとして―― 「……………………」 「……っ、…………っ」 ――贖罪の涙。 この世界の果てで、俺はついに確信してしまった。 この罪は、決して許される事は無い。 今の俺には、止まってしまった時間を、再び動かす事はもう出来ない。 だからこうして、海に拒まれる。 もし俺が……再び動き出したとして。罪を償う機会を得る事が出来たのなら。 その時は、この海が俺を浄化してくれる事だろう――           ――この世界は、悪意である。           恨みと怨みは憾みを呼び起こし、          憎悪と恐怖は復讐に帰納する。      傷口の鮮血が粘性に滲んだこの世界は、呪縛そのものだ。           この世界は、悪意である―― 片付けを、している。 誰かを歓迎したパーティーの、片付けだ。 「……………………」 そう言えば……。 俺はいつからEDENにいるんだっけ……。 「――けっ」 「あら飯槻さん。ご機嫌ななめですか?」 「元からだっつーの。ったくよ…… どうして俺がこんな事しなくちゃなんねーんだよ」 「こんな……事……?」 「片付けだよ! そういうのはおめーらがやれや」 「なにさ、飯槻。あんたも手伝いなさいって。 一人だけサボるのはずるいぞー」 「ふん、言ってろ。俺はもう帰るからな!」 「あらら、行ってしまいました」 「もう、自分勝手なんだから!」 「私が呼び止めて来ましょうか? 優しく言えば、きっと考え直してくれると思いますわ」 「いいよー。いたらいたでうるさいしー」 「まあ、晦さんったら。 …………でもそうですわね」 「残りは私達だけでやろう? 皆でやればすぐ終わるよ」 「……………………」 皆…………。 皆…………か……。 足りない気がする。 もっとたくさんいた気がする。 誰がいないんだ? 何が欠けたんだ? 「わ……帰って来た!」 「なに~? 良心が痛んで戻って来たか~?」 「ちげーよ。くそっ……!」 「じゃあどうして……」 「………………」 「な、なんかよー……様子がおかしいんだよ」 「………………」 「あらま……真っ暗……!」 「電気、消されちゃってるね……」 「もう夜だからかなぁ……」 「にしても、生徒がまだ残っているのに 消灯してしまうなんて酷いですわ」 皆でぶつぶつと言いながら、階段を下りていく。 昇降口が、閉まっているらしい。 シャッターのようなものが降りているせいで、帰る事が出来ない……とメガ。 皆で確かめに行く事になった。 「えっと……電気は……」 電気が点くと、いつものEDENの光景だ。 ただ……なんとなく。どことなく。 気配だけが、いつもと異なっていた。 なにかこう……。 おどろおどろしいというか。 形容出来ない不吉なものを、脳の奥底で感じてしまうのだ。 「………………!」 これは…………! 「なあ? 閉まってんだろ?」 メガの言葉に何一つ間違いは無かった。 下駄箱と廊下の境に、巨大なシャッターが降ろされている。 「わわぁ……何これぇ……初めて見た……」 「私もです。昇降口にこのようなシャッターが あったなんて……!」 「防火シャッターでしょうか……。 何かの拍子に誤作動を起こして……?」 「わー、そんな事したら壊れちゃうよー!」 「っつってもよー! これどうにかしないと帰れねーんだぞ?」 「え、えっと……他に出口は……」 「……無いよね。聞いた事無い」 「うん。EdEnの性質を考えたら、 たくさん出入り口があるのはマズいし……」 「そもそもこの先の下駄箱に俺の靴があるんだからよー! ここが開かなくちゃ困るっつーの!」 叩いたり、蹴ったり、持ち上げたり。 何をしたところで、シャッターは微動だにしなかった。 「……困ったな。これじゃああたし達帰れないじゃんか」 「と言うより、EdEnから出られません」 「……閉じ込められたって事か」 その一言が、暗闇の廊下に響き渡った。 「……とりあえず、いったん教室に戻りましょう。 ここで立ったまま話し合うよりも、教室の方が 落ち着いて考えられますわ」 「……そうですね。そうしましょう」 彬白先輩の提案を受けて、俺達は再び教室に戻った。 「――あら、お帰りなさい。冒険は楽しんだかしら?」 「志依…………」 「その顔は……ボスに勝てずにセーブポイントまで 戻って来たようね。くっふふふっ」 「冗談言ってる場合じゃねーぞ。 どうすんだよこの状況!?」 「そもそも、いつからあんな風に なっちゃったんだろう……? 消灯されて……シャッターが降りて……」 「見た感じ、他の生徒達はもういないみたいだよね。 残ってるのは私達だけみたい」 「じゃあ、他の人達が帰っちゃった後……職員の人が 電気消してシャッター降ろしたって事かなぁ……」 「……………………」 他の生徒……ってなんだ? そもそもEDENに、俺達以外にどんなヤツがいたっけ? 「先生に相談した方がいい気がするよー」 「まだ残っていらしたら……の話ですが」 「そうですわね。それを確認するためにも 職員室に行ってみるのが一番だと思います」 あんなに静かで、あんなに暗かったんだ。 俺達の他に、まだ誰かが残ってるとは考え辛いが……。 「それじゃあ……決まりかな。職員室に行ってみよう」 「――待って」 動き始めた皆を、志依の一言が制す。 「んだよ黒蝶沼……さっさと行くぞ。また留守番か?」 「……木ノ葉さんは?」 「え…………」 言われてみれば……。 「まころが……いない……」 「おーい、まこちーーー!」 「……返事無いね」 「返事無いのは当たり前だろ! あいつ声帯ねーんだから」 「え、えっと……いつからでしょうか……」 「昇降口の様子を見に行った時には 一緒にいたと思うんだけど……」 その通りだ。確かに昇降口のシャッターに皆で驚いている時、俺はまころの姿を確認している。 少なくともその時まではいたって事になる。 「どっかから帰っちまったんじゃねーの? 自分一人だけ出口見つけてこっそり帰るなんて、 あいつなかなか性格わりーな」 「どっかってどこよ。出口は昇降口一つだけなんだよ?」 「知らねーよ。木ノ葉に聞けよ」 「……………………」 まころが単独行動するとは思えない。 だからと言ってここは歩き慣れたEDENの中だ。迷うなんて事あるはずないと思うが……。 「教室に戻ってくる時、階段で転んじゃった……とか?」 「あり得ない話ではないですね。 今日一日、歓迎会の事でまころさんもお疲れでしょうし」 「声が出せないから、助けも呼べずに、 その場にうずくまって……」 「それはいけません! すぐに助けに向かいませんと!」 「じゃあ、とりあえず俺達がさっき 移動したルートをもう一度往復しよう。 そしたらまころと出会えるはず――」 「ねえ、私達は職員室に行く予定だったはずよ。 そっちはどうするのかしら」 「でも、まころが……」 「でしたら、二手に別れましょうか。 大勢で移動しても、あまり意味が無いですし」 「……そうですね。それがいいと思います」 こうして、俺達は夜の校舎を二つのグループに分かれて動く事になった。 昇降口まで再び向かって、その往路にいるであろうまころを探しに行くのは―― 志依と―― 霍と―― 筮と―― 御伽。それに俺を加えた5人だ。 一方、この事態を報告し、大人達の指示を仰ぎに職員室に向かうのは―― 彬白先輩と―― メガと―― フーカと―― つつじ子と―― 晦。この5人だ。 男手はそれぞれに分かれた。メガは非協力的なようにも思えるが、外に出るという目的は同じだし、何かあっても彬白先輩が懐柔してくれるだろう。 グループのリーダーは、職員室組は年上である彬白先輩、こちらはなんとなく流れで志依に決まった。 「よし、それじゃあ移動しよう」 「もしまころさんが怪我をしていた場合は、 保健室に連れて行ってあげてください」 「わかりました。何か進捗があったら、 お互いに連絡を取り合いましょう」 「さて……私達は昇降口に向かいましょうか」 「うう……なんか怖い……」 「夜の校舎って確かにちょっと不気味だよね」 「なーに言ってんのよ。こんだけ人がいるんだから、 別に怖くな――」 「――うひいっ!?」 「ちょ、な、なによ急に……!」 「す、すんません……。 なんかあっちに白い光が見えた気がしたもんで……!」 「脅かさないでよね……もう……」 「ちょ……ちょっとホントに…… 幽霊とかそういうのが来たっぽかったもんで……!」 「叶深さん。怖いなら、手を握りましょうか?」 「な、なんで黒蝶沼なんかと! 黒蝶沼は敵だし! そもそもあたし怖くなんかないし!」 と言いつつ志依の手を握る霍。 「………………」 暗い床を、歩く。 そこに現実感は無かった。 地獄へ続く道を、進んでいるみたいだ。 先に待つのは、きっと絶望。 意外にも、自分にさほど躊躇は無かった―― 「う、う~~…………」 「……く、暗いし、電気点けよっか」 「くっふふふっ! 四十九さん、私の腕はまだ一本空いているわよ?」 「そこ、笑うな!」 「そうだな。大分目は慣れてきたけど…… 明るくした方がまころも出口も見つけやすいし――」 ――え……? あ……れ……? おかしい……。どういう……事だよ……!? 「期招来君、なにをぼーっとしているの?」 「電気……消えてる……」 「……? ええ、そうね」 「……なんで…………」 「……何がおかしいのかしら? さっき教室で、叶深さん や由芙院さんがそう言っていたでしょ? 現にあなたも 昇降口に行った時に消灯を体験したはずじゃ……」 「でもその時、電気を点けたんだ!」 そう、確かつつじ子が……。 「あ……確かに……」 「それなのに、今は消えてる……誰が電気消したんだ?」 「ホントだ……言われてみれば……」 「……さっき昇降口を確認しに行った人達の誰かが、 教室に戻ってくる際に電気を消したという事は?」 「な、なんでそんな事するんだよ……!? なんのために……?」 「……そうね。確かにその必然性は考えられないわ。 一度明るくしたのに、また暗くするだなんて」 「でもでもっ、そもそもさ、教室に戻ってくる時、 廊下は明るいままだったよね?」 「あ……!」 そうだ……! 確かそうだった。 昇降口でシャッターの状況を確認して……彬白先輩の提案に従って皆で教室に戻った時、この廊下の電気はまだ点いていたはずだ。 「って事は……電気が消えたのは、 教室で俺達が話し合っている間……?」 「それじゃあ、電気を消したのは私達以外の誰か って事になるね。先生が消したのかな?」 「それか……あと一人」 「………………」 志依の指摘する、あと一人。 言うまでもない。まころだ。 さっき教室にいなかったまころなら、照明を自由に弄る事が出来る。 でも……まころだとしても、やはり理由がわからない。なんでわざわざもう一度暗くする必要があるのか……。 「え、えっと……っていうかさ、電気点けてから話そうよ。 廊下の電気のボタンってどこにあるんだっけ……」 「確か、階段のところに――」 「――これね」 「……あれ?」 志依が何度もスイッチを押しても、照明は一切変化しない。 「そのスイッチじゃないって事かな」 「そんなはずないわ……。 確かにこのスイッチのはず……」 明るくならない。不気味な暗闇のままだ。 「おかしいわね……。 仮にこのスイッチが廊下の照明のものではないとして、 こうして動かしている以上、どこかが反応するはずよ」 「て、停電って事……!?」 「でも、教室の電気は使用出来ていたわ」 「どういう事だ……? 校舎の特定の場所だけ 電気が通らないなんて事あり得るのか……?」 「そもそもさっきは点いたはずじゃん……! それなのに急に今電気が点かなくなるって 絶対おかしいでしょ……」 その通りだ。さっきまで廊下の照明が機能していたのは間違いない。 急にこのスイッチだけおかしくなった?そんな事ってあり得るのか……!? 「っていうか……なんでちょっと赤っぽいのぉ……?」 「それは……消火栓の非常灯のせいじゃないかしら……」 この建物は、窓を全て埋めてしまっている。 そのせいで窓からの出入りも当然行えないわけだから、こうして出口を探すはめになっているわけだが……。 とにかく、EDENの窓は、日中の太陽の光はもちろん、夜はこうして月明かりや星明かりすら防いでしまう。 電気を消したら光源が一切無くなるのだから、本来は真っ暗になるはずだ。 しかしうっすら赤いのは、志依の言う通り消火栓の非常灯が灯っているから……。 ――か? 「………………」 そんなちっぽけな灯りで、これほどまでに建物内が不気味な赤に侵蝕されるものか? そもそもこの空間の赤は……人工的な照明の残光というより、もっと悪意を持った濁り方で―― 「――っ!」 「な、なんだよ志依。急にどうした?」 「ねえ……今足音が聞こえなかった?」 「ひい、黒蝶沼すぐそういう事言う……」 「まころんかな……」 「いいえ……そんな風ではなかったわ」 「もっとこう……冷静で、淡々とした…… そんな印象の足音だった」 「ば、バカじゃんバカじゃん……! あたしをビビらせようとしてんでしょっ……! あたし平気だかんね、ビビビビビってないしぃ!」 「……聞き間違いならそれでいいのだけれど」 「………………」 志依の緊迫感が、冗談ではない事を伝えている。 もしその足音の主がまころだとしたら、俺達と合流するために、この暗闇とはいえいくらか早足になっているはずだ。 もしくは、躓いて足を怪我しているなどだったら、相応の足音になるはず。 志依の感じた印象は、まころとの足音としては不適切だ。 じゃあ一体誰の足音だ……? 「………………!」 「ひぃ……今……足音……うひぃ……!?」 「あ、あたしにも聞こえた……! 確かに誰かの足音……」 その音に全神経を集中させてしまい、思わず全員が息をするのを忘れて停止した。 足音は……ゆっくりと大きくなっていく。 俺達との距離を縮め、やがて……その姿を現す―― 「う…………お…………!」 声が、出なかった。 強烈―― 負の感情が、強烈―― 「何よ……あれ……」 「ひ、ひえぇぇ…………!?」 本当に地獄に足を踏み入れてしまったのか? 現実離れした瘴気。魔界の生き物だろうか。 ひたすらに邪悪で、向かい合う自分が心細いくらいに無力だと思い知らされる。 それほどの威圧感だった。 「やだ……ちょっと……う、嘘でしょ……!?」 「木ノ葉さん…………!」 「うおぉ………………っっ!」 俺に限らず、誰か一人くらい叫び声を上げていいと思った。 誰も大声を発さなかった。 喉が縮んで震えないのだ。唇が渇いて動かないのだ。 理不尽な混乱のせいで、感情を排出する余力がどこにも無かった。 周囲は真っ暗だというのに―― “それ”は全員の視線を容易く奪う不気味な引力に満ちていた―― 「まころっ……まころっ…………!!」 人間があんな形になっていいものなのか? 許されない。何をもってしても“あの分解”は、絶対に許されてなるものか。 「――対象、発見」 「は…………」 対象……? 何の……? 発見って……まさか……! 俺達を……殺す気か――? まころのように、分解する気か――? 「――那由太、逃げないとっ!」 「あ、ああ……」 そうだ……。逃げる……。 こいつから逃げないと……! 見るからにダメだ。問答無用でこいつはダメだ。 狂気しか感じられない! 「み、皆、逃げろ!」 「あ、待って! でも黒蝶沼が……」 「私はいいから、早く行きなさい!」 「とりあえず、筮と御伽と霍は逃げろ! 俺は志依をなんとかするから!」 「でも……!」 「早くっ!!」 「――っ! う、うん、わかった!」 「くっ……!」 遠ざかる足音を聞きながら、改めて目の前の怪人を睨む。 いや、目が逸らされた瞬間など無かった。こいつが現れてから、ずっと視線を奪われっぱなしだ。 「まころっ……!」 何度見てもまころなんだ。 本物だろうか。偽物であって欲しい。 でも臭うんだよ……! 血の臭いが酷いんだ……! くそ……くそ……! 「誰だよお前っ……!? なんでまころをそんな目に……」 「………………」 「期招来君、今ならまだ間に合うわ! 私を置いて逃げなさい!」 「まころは誰かに殺されるような人間じゃない! まころが何したっていうんだよ!?」 「期招来君、感情的にならないで! 早く逃げて!」 「絶対……許さない……!」 「期招来君……」 当然、恐怖はある。目の前のそれは、得体が知れなさ過ぎて恐ろしい。 でも、それ以上の怒りだ。今俺を苛んでいるのは、怒りなんだ。 クラスメイトをあんな無残な姿にされて……許せない。 怒りと恐怖で感情が混乱し過ぎて、単純になっている。愚直なほどに、怯えながら怒っている。 「――あなたは」 「……っ」 あなた……? 俺の事か? それとも志依の事か? 「……強いて言えば、後回し」 「――なっ……!?」 消えた……!? 一瞬で……。 「……まるで魔法ね」 「どういう理屈だよ……」 「……とりあえず皆と合流しましょう。 散り散りになった叶深さんと四十九さんと由芙院さん。 そして職員室に向かった5人と」 「……ああ、そうだな」 心臓がまだバクバク鳴っている。 一瞬で消えた。 志依の言う通り、あれが魔法の類のような非現実的なものだとしたら。 まころのあの姿も、現実じゃなくなるのかもしれない。夢になるのかもしれない。 でも……。 「……っ」 床に残された血の跡が、それを否定していた―― 「……誰もいないか」 バラバラになってしまった仲間を探して、静かに廊下を歩き回った。 しかし誰もいない。物音一つ聞こえない。 筮と御伽と霍が見つからないのはまあわかる。 あんな奇妙な存在と出会ったんだ。 ヤツに見つからないように、わざと人目の付かない場所に隠れているんだろう。 でも……職員室に向かった5人に出会わないってのは、奇妙だ。 向こうはおそらくあの黒い山羊の存在を知らないはずだから、堂々と歩き回ってるはずなんだけど……。 それとも……向こうも遭遇しているのだろうか?だから避難して、どこかに隠れている? 向こうの5人も、“あれ”を――? 「くっ……!」 今になってまころへの哀しみが襲って来た。 あの謎の黒山羊と対面していた時は、怒りや恐怖でそれどころじゃなかった。 もちろん今だって冷静というわけではないが……。 それでも、まころを悼む気持ちがふつふつと湧いてくる。 「……期招来君」 「……悪い、それどころじゃなかったな」 「いえ、悲しいのは私も同じよ。 でも今は……ね」 「わかってる。早く皆と合流して、状況を確認しよう」 車椅子の押し手を握り、人影に注意しつつ再び歩き出す。 「……期招来君。ありがとう」 「え……?」 「あの時、危険を顧みず、 私の前に立ってくれてありがとう」 「志依……」 「もしあなたが私を助けるために逃げずに、 そして私をかばって傷付いたら…… 私は自分の足を永遠に呪うわ」 「でも……あなたは心強かった。 私を守ろうとしてくれて嬉しかったわ」 「当然だよ。気にするな」 「…………ぽ」 あの不気味な山羊は、まだこの建物のどこかにいるんだ。 気を付けて、探索を続けなければ―― 「ここにも、誰もいないか」 腕時計をちらりと見る。 時計盤は18時15分を示している。 片付けを終えてから、果たしてどれくらいの時間が経過したのだろうか。 体感的には……もうかなり経っているはずだ。きっと外はすっかり日が落ちてしまって……。 「……こんな遅くまでEDENにいるのは初めてだな」 「寮の門限は厳しいですものね」 とにかく心細かった。 骨の髄が痺れるような恐怖を思い知らされて、とにかく仲間に会って安心したかった。 誰でもいい。無事な顔を見せて欲しい。 その一心で仲間を探し続ける。 「にしても……何者なんだ、あいつは」 「わからないわ。目的も正体も不明過ぎるわね」 突然姿を消したのも奇妙だ。何かのトリックだろうか。 「気になる言葉があったわね」 「え……?」 「後回しって」 「あ、ああ……言ってたな……」 「あれって、俺と志依のどっちに向けた 言葉だったんだろうな……」 「わからないわ。それよりも確かなのは……」 「――私達よりも優先される誰かがいるという事」 「………………」 「どうやらあの山羊さんが望む順番があるみたい」 「何の順番だろう……」 「考えたくないわね。殺される順番なんて」 やっぱり……そういう事なのか。 だとしたら、どういう意図で順番を決めているんだろう。 俺……もしくは志依は、どうして後回しなんだ? 「いずれにしても、早く皆と合流した方がいい事は 間違いないわ」 「……そうだな」 気が滅入る。 まころの事……皆になんて説明すればいいんだ……? ヤツが残した数少ない手がかり。 何かの順番―― くそ……考えたくもない……! 「――バフォメット」 「え……?」 「ある宗派における悪魔の一種よ。 山羊の顔をしているの」 「………………」 「両性具有で……サバトを司る恐ろしい存在よ。 ……ふと、そんな神話が頭に過ったわ」 「その……サバトっていうのは……?」 「――暴行……淫行……」 「………………」 本当に―― 気が滅入る―― 「…………ん?」 階段と廊下の境目に、違和感を覚える物陰を見つけた。 奇妙な出っ張り。これは……。 「……霍?」 「――うわあ!?」 やっぱり霍だ。こんなところに隠れてたのか。 「ひえ……期招来か……! 山羊のヤツかと思ったぁ……」 「随分と間抜けなお尻だったわ。可愛い隠れ方するのね」 「黒蝶沼も……二人とも、無事だったんだね。 よかったよぉ……はふぅ……」 ふにゃっと顔を緩めて安心する霍を見て、緊迫し続けていた俺の心もどこか和らいだ。 「お前も無事だったみたいで、安心したよ」 「皆を探しているところなの。 叶深さんもついてらっしゃい」 「なぜか携帯が圏外になっててさ。連絡出来ないんだ。 こうして手当たり次第探すしかなくって――」 「ね、ねえ……さっきのあいつが持ってた生首って、 木ノ葉……だよね」 「………………」 言葉が止まる。せっかく緩和した心が、再び黒く濁る。 「見間違い……じゃないよね……? あれ本物なの!? ねえ、ねえ!」 「とりあえず……みんなと合流しよう」 「うう……っっ! あれなんなのぉ……!? あたしやだよぉ……悲しいの嫌ぁ……!」 「叶深さん…………」 泣きじゃくる霍の手を握った志依と共に、俺達は再び校内を歩き始めた―― 「あ……。明るい……」 灯りがあるだけで少し落ち着くな。 「ここは電気が通ってるのね……どういう事かしら」 確かに不思議だ。 廊下や階段の電気のスイッチは、押しても無反応だったのに。 教室や音楽室は電気が点くのか……。 「……残念。さすがにここには誰もいないみたい。 期招来君の当てが外れたようね」 「ああ……そうだな」 この部屋に関係する人間がいた気がするんだが……よく覚えていない。 「……仕方ない。他を探すか」 音楽室の時計は、20時30分を指している。 もう夜も深まり始める。早く皆の顔が見たい。 「あ、あのさ……二人とも、良く逃げ切れたね。 怖くなかったの?」 「というか、勝手にどっか行っちまったんだ」 「え……どっかって……?」 「わからない。直立してる俺の目の前で姿を消したんだ」 「じゃ、じゃあやっぱり……あいつまだ、 この校舎の中うろついてんの……?」 「その可能性は高い。なにせ出口が“ああ”だからな」 「だ、だったらさ、あたし達こんな風に歩き回ってて いいのかな……!? また見つかるかも……!」 「そうだけど、だからってジッと してるわけにもいかないだろ?」 「でもぉ……うう、こ、怖いじゃんかあいつぅ……」 「あの黒山羊がこれ以上誰かを襲わないように、 全員で行動する必要がある。バラバラだったら、 それこそ危険だろ」 「叶深さんだって、皆と一緒にいた方が心強いでしょ?」 「う、うん……。一緒がいい……」 霍、すっかり弱気だ。天敵の志依に慰められても、素直に弱さを差し出している。 まあ、当然だ。なにせあんな猟奇的なものを見せられたんだから。 「……………………」 ……クソ。思い出したくない。 もうこんな気分はごめんだ。それだけに、これからの行動が大切になるはずだ。 これ以上被害者を出さないためにも……いち早く皆と合流しないと―― 「なるほど……これは出られないわね」 無情なシャッターの前に、志依はポツリと呟いた。 「そうか、志依は昇降口に来てなかったもんな」 「これも黒山羊さんの仕業なのかしら」 「そうかもしれないな」 これだけ非日常が続いているんだ。原因は同じところにあると思いたい。 「こうして私達をEDENに閉じ込めて…… 何をする気なのかしらね」 「……志依」 霍の方に視線を寄せて、志依を促した。 「あら……ごめんなさい。 怖がらせるつもりはなかったのよ」 「うう、でぼぉ……。 ね、ねえ、あだじ達、どうなっぢゃうのぉ……!?」 「……わからない」 ヤツは順番を気にしているようだった。 霍の順番はわからないが、どうやら俺か志依……もしくは俺と志依二人は後回しらしい。 まだヤツの標的にはならないって事だ。だったらその隙に動き回った方がいい。 再びヤツに再会したらどうなるかわからない。順番なんてヤツにとってはただの気紛れなだけで、その言葉に信憑性なんてほとんどないのだ。 それでも、可能性があるなら……。まだ俺や志依が安全圏でいるならば……。 その間に一人でも多くの仲間を救うべきだ。守るために奔走すべきだ。 そうして……最終的にどうなるかなんて、俺もわからない。 「皆と合流したところで、外に出られないと意味が無い。 問題は山積みね」 「このシャッター、壊せないかな」 「どうかしら。頑丈に見えるけれども」 「み、皆でさ……。 バーンって叩いたら壊れたりしないかな……?」 「やってみない事にはわからないな」 ハンマーみたいな道具を使えば、あるいは……。 「私達三人だけじゃ、状況は打開出来ないわ。 引き続き人を探しましょう」 「……はあ。皆一体どこにいるんだ……!?」 捜索を始めてから、もう30分以上は経っているはずだ。 にもかかわらず、筮と御伽は一向に見つからない。それどころか、職員室組の5人とも出会わないなんて。 「ひえっ……!?」 足音……! もしかして、またあいつか……!? 「いいえ、どうやら違うみたいよ」 「え……?」 「あ…………」 メガと彬白先輩だ……! 「ん? おお、お前ら。こんなとこで何やってんだ?」 「皆さん、聞いてください。なぜか廊下の電気が 点かなくって……って、あら。三人だけですか? 筮さんとゆっふぃんさんは……?」 「それは……」 「木ノ葉は見つかったのかよ?」 「………………」 何も知らないからこそ、二人の質問が胸を突く。 「……そっちこそどうして二人だけなんだ?」 「いや、職員室に行ったんだけどよ。 なんか鍵かかってて」 「電気も消えていましたし、ノックしても返事が ありませんでした。おそらく職員室には誰もいないかと」 「だから仕方なく手分けして出口を探す事にしたんだよ」 「え……!?」 手分けして……って……。 「それじゃあ……そっちも バラバラになっちゃったのか!?」 「そ、そうだけど……んだよ。いいだろ別に。 その方が効率的じゃねーか」 「……どうしよう、志依」 「……とりあえず、どこかに移動しましょう。 落ち着いて状況を説明したいわ」 「そうだな。二人とも、俺達について来てくれ」 「あ、あの……何かあったのでしょうか……? 随分深刻なお顔をされているようですけど……」 「…………あとで話します」 「今この場にいないのは……四十九さんと由芙院さんに 加えて、安楽村さんとマリネットさんと玖塚さんね。 5人か……」 「いや、六人だろ。木ノ葉もいねーじゃん」 「………………」 「う、うう……」 「あー? なんだよこの空気……」 「……とりあえず、教室に戻るか」 「私達の教室は避けるべきだわ。向こうの目的は わからないけど、もし私達を探しているのだとしたら 自分達の教室は危険だわ」 「そ、そうか……じゃあ別の教室を使おう」 「む、向こう……?」 二人の疑問を保留しながら、ゆっくりと歩き始めた。 せっかく人数が増えたというのに、心持ちは依然暗い。 付近にあった適当な空き教室に入る。 「……っ!」 物音……!? それに人影が動いたような……! まさか、ここにヤツが――!? 「あ、みんなー」 「な、なんだ……晦か……」 「安楽村さん。どうしてこの教室に?」 「出口を探してたんだよー。職員室行ったら 鍵かかっててねー……仕方ないから手分けして 出口を探そうって話になったんだー」 それでこの部屋を探索してたのか……? 「いや、こんなところに出口なんてあるわけないだろ」 「そっかー。あは、それもそうだよねー」 「でもでも、皆もここに来たって事は…… なんだかんだでここに出口の予感を キャッチしたって事でしょー?」 「いや、違うんだ。そもそも俺達は――」 ん……? 「ち……点かねえな……。ここも死んでんのか」 メガが電気のスイッチを押している。だが、この教室も廊下と同じく電気は使えなくなっているようだ。 「どちらにしろ、明るくするべきではないわ。 相手に居場所を教える事になる」 「はあ!? 誰だよ、相手って――」 「メガ、大きな声出すな」 「んだよ、お前らさっきから何が言いてえんだよ」 「私も気になります……。ご説明お願い出来ますか?」 「実は――」 メガと、彬白先輩と、そして晦も含めて。 俺達が見たものを、言葉を選んで伝えた。 幾つか言葉を濁した。その事について、志依は何も言わず黙認してくれた。 「う、嘘……ですわよね…………!?」 「まこちーが……え……?」 「嘘じゃ……ないんだ。本当なんだ……」 「おいおい……随分ふざけた事 言ってくれるじゃねーか……!」 三人には、顔を隠した怪しい人影がまころを連れ去ったところを目撃した、と伝えた。 まころの容態は不明。出血していた様子で気を失っていた。場合によっては生死に係わっているかもしれない、という内容だ。 その怪しい殺人鬼が黒山羊の姿をしている事、そしてまころの生首を携えていて、つまりどう考えてもまころはもう死んでいる事などは明確に伝えていない。 まころを殺した人物がまころ以外の誰かを順番に狙っている事も、話す事が出来なかった。口に出したくなかったのだ。 「そんな危険な人物が……まだこの建物の中に いるなんて…………!」 あの黒山羊の存在を知っているのは―― 俺と、志依。そして霍だが……。 「……ぐすん。ううぅ……うひぃん…………っっ」 霍は、正直あの惨状をどこまで把握してるのか怪しいな。 御伽と筮も黒山羊と対面しているが、二人が今どこにいるかわからない。 むしろ、まころのあの状態を見てしまったんだ。霍がそうしたみたいに、今も怯えながらどこかに隠れている事が予想される。 安心させてあげたい。一緒にいてあげたい。恐怖と怒りを分かち合いたい。 「とにかく、これからどうするかを考えないとな」 「どうするって……とりあえずここから出るに決まってん だろ! 殺人鬼みたいなヤツがうろついてるんだろ? ならどうにかしてさっさと脱出しねーと!」 「メガ君の声の大きさはもう少し気を付けて欲しい ところですけど、発言の内容には賛成です。 一刻も早くEDENを出るべきですわ」 「で、でも……出るってどうやってー? 昇降口はシャッターみたいなのが降りちゃってて、 進めないんだよー?」 「裏口みたいなものがあればいいんだけどな……」 「そんなものあるはずないよぅ……」 「そう……ですわよね。EDENは、人間が容易に 出入り出来ないように作られているはずです。 こうして窓を打ち付けているくらいに」 「校舎から出るには昇降口を抜けるしかない……。 そして、EDENの敷地から出るには校門を抜ける しかない……関係者ならそれくらい知っているはずです」 「だから……シャッターを使って閉じ込めた……?」 俺達を外に逃がさないため……? という事は、裏を返せばシャッターを降ろした人物は、“昇降口以外にEDENの建物の出口は無い”という事を知っている人物。 EDENの関係者……! 「晦達は手分けして出口を探してみたけど…… やっぱりそんなもの見つからなかったもんねー……」 「つーかよ、出口を探すために手当たり次第うろついて 殺人鬼に出くわすなんて洒落になんねーぞ」 「ですが、ここで待機していたところで、 殺人鬼に追い詰められていくだけです。 見つかる前になんとか脱出しないといけません」 「それじゃあ……やっぱり、 出口を探すしかないって事ー?」 「しかも殺人鬼に見つからないようにこそこそしながら 出口を探すなんて……無理ぃ……」 「いや、待ってくれ。 俺は……まずここにいない仲間を探すべきだと思う」 「は……?」 「特に優先すべきは御伽と筮だ。 今二人はこの建物のどこかで、 殺人鬼の存在に怯えながら逃げ惑ってるはずで……」 「んな事言っても、そいつら見つけてどうすんだよ!? 出口がなきゃ意味ねーんだぞ!?」 「それは……」 「私もお二人をどうにかしてあげたいと思いますが、 大人数になる事のリスクは考えないといけません」 「大勢になったら、その殺人鬼に見つかりやすく なっちゃうって事かぁ……うーん……」 「だ、だからって二人を見棄てるわけには……」 「……おい期招来。 その殺人鬼って顔隠してたんだよな?」 「え……? あ、ああ……」 「だったら……例えば、その二人の内どっちかが 犯人って事はねーだろうなぁ?」 「なっ…………!? 何言ってるんだよっ!?」 犯人……だと……? 「さっきから言ってんだろ。 EDENの出入り口は限られてんだよ。 部外者はそう易々と入って来れねーって話だ」 「じゃあ、その殺人鬼は初めから この建物の中にいた可能性が高いよな。 そしたら容疑者も絞られてくんだろ」 「………………」 ……考えもしなかった。 あんな不気味で異様な存在。知り合いのはずないと思っていた。 だって……まころは殺されてるんだぞ?しかもあんな猟奇的な手段で! クラスメイトの誰かが犯人だなんて……考えられない。 「飯槻君の話ももっともね。大いにあり得るわ」 「志依……!」 「別に由芙院さんや四十九さんを疑ってるわけじゃないの。 例えば……先生とか……他の生徒の誰かとか……」 「今ここにいないヤツも十分怪しいな」 「バカ言うなっ! なんでクラスメイトが まころを殺さなくちゃいけないんだっ!?」 「え……ね、ねえ……まこちーってまだ殺されたって 決まったわけじゃないんだよねー? 大怪我して気絶 させられてる状態で連れ去られてるだけなんだよねー?」 「あ、ああ……。そうだった……ごめん」 「動機は知らねーけど、あくまで可能性としての話だよ。 十分考えられるだろ」 「……少なくとも筮と御伽はあり得ない。 だって二人はその殺人鬼と対峙したんだぞ?」 「それホントかよ。あの暗闇で、しっかりそれぞれの 立ち位置把握出来てんのかよ」 「……っ」 確かあの時は……俺が先頭を歩いて、筮と御伽は背後にいたはず……。 黒山羊が現れてからは、そっちに視線を奪われていたから、その前後で筮と御伽の二人がどういう動きをしていたのかまでは、俺は確認していない。 「で、でも……声は聞いたぞ……! 逃げる時に、二人の声――」 いや……違う。 確か、筮の声だけだ。御伽の声は……聞いてない。 あの現場で黒山羊と確かに向かい合っていたと言えるのは、俺と……志依だけだ。 霍も俺の背後で怯えた声を出していたから、目の前に黒山羊が現れた瞬間に俺の後ろにいたのは筮と同じく間違いない。目では確認していないけど……。 確か霍は志依と手を繋いでいたんだ。志依に確認を取れば、霍も黒山羊と向かい合っていた事が証明できるはず……。 「メイドと玖塚も怪しいよな。 つーか、そいつらが一番クロに近いだろ」 「アリバイの事を言ったら、メガだって……!」 「俺は夜々萌さんとずーっと一緒だったぞ!」 「え、ええ。職員室で皆と解散してからは、 メガ君がしつこく付き纏ってきまして……」 「でもそれって――」 「………………いや、なんでもない」 二人がグルだって事も……と言いかけてやめた。 仲間を疑ってどうする。こういう時こそ協力しないといけないのに。 「おい安楽村、お前職員室の後どこ行ってたんだよ」 「晦を疑うのー!? 晦がまこちーに酷い事するわけないじゃんかー!」 「女の友情なんてこれっぽっちも信用出来ねーよ。 そもそもお前、なんでこんな場所にいたんだよ」 「出口探すとかいって俺達が偶然選んだ 空き教室にいるとか、すっげー怪しいぞ」 「だからそれはたまたまだってばー!」 「……メガ、もういいよ。もうやめようぜ」 「あ? でも――」 「出口を探しながらいなくなった四人を探す。 それだけの話だ。これでいいだろ?」 「………………ち」 「そう……ですわね。犯人捜しはやめましょう。 落ち着いてこの状況をなんとかしませんと」 「……出口が見つかったら、俺はさっさとここを出る からな。四人がどうなってようが知ったこっちゃねー」 「それで構わない」 「……仕切んじゃねーよ、クソ」 「ジッとしてても埒が明かない。こうしてるうちに、 殺人鬼が四人を見つけてるかもしれない」 「そうね。そろそろ動きましょう」 「ですが、こんな大所帯で移動したら、 それこそ殺人鬼に見つかってしまうかも……。 大丈夫でしょうか……」 「ここは固まって移動すべきだわ」 「な、なんでだよ。バラバラの方が効率いいだろ……」 「ここにいる私達の前にもし殺人鬼が現れたら…… 私達の中の誰かが犯人という容疑がいっぺんに 晴れるでしょ?」 「けっ……それで全員殺人鬼に殺されて、 地獄で身の潔白を証明出来た事を喜び合うのかよ」 「……仲間を疑うより、よっぽどましだわ」 「……………………」 理屈じゃなかった。 哀しみに満ちた志依のその一言が、全員を納得させた。 「わかりました。志依さんの言葉に従いましょう」 「これだけ人数がいるんですもの。 男子も二人いますし……さすがに殺人鬼と言えども 力任せに向かってくるとは思えません」 「俺、夜々萌さんだけは守りますんで……!」 「メガ君。私だけじゃなくて皆を守ってください」 「……うす」 疑心暗鬼が完全に消えたわけではないが……。 それでも、仲間を信じて。仲間を救うために。 教室の時計が21時15分を過ぎる頃、俺達は絶望の地獄巡りを再開させた――  ここでのマップ移動範囲は『EDEN』のみのマップとなります。  このシーンで移動できる場所は ・廊下……御伽の殺害シーン ・階段……筮の殺害シーン  の2か所。両方とも回ったらイベント進行です。 ――私は。 曖昧な基準の中で生きてきた。 性別という括りに苛まれて、ふらふらと漂い続けていた。 男なのに女。だから心は男が好きで……。 でも、彼女は女が好きだった。 自分が誰を愛すべきなのか。自分は誰から愛されるべきなのか。 誰もわからない。自分でもわからない。 それが嫌で、無条件に明るくいたくて……。 だから私には、ギフトが必要だったのかもしれない。 当てもなく、校舎の中を彷徨う。 目的が見つからない。那由太君達を探せばいいのか、出口を見つければいいのか。 それとも……あの黒山羊から逃げ続けていればいいのか。 「……………………」 まころんの生首を見て……なんとなく、なんとなくだけど……。 何か思い当たる事があった。 何か、思い出せそうなんだ。 そしてそのわずかな記憶の残滓が警鐘している。 “あの黒山羊から、逃げ切る事は不可能だ”……と。 「……これから、どうしよう」 とりあえず傍の教室に入った。 長々とした廊下を歩き続けるのは、心細くて……。 「20時……15分か……」 教室の時計を見ると、もうそんな時間になっていた。 私……帰れるのかな。那由太君達と無事合流出来るのかな……。 ……いや。 それはきっと、もう無理―― 「……っ!」 「――対象、発見」 「う…………っ、あなた…………!」 また現れた……!まころんを殺した黒山羊……! 机や椅子を押し退けながら、鎌を構えて真っ直ぐ私を目指して接近してくる。 そうか……やっぱり……そうなんだ……! 「あなたの“対象”は……やっぱり私だったんだね――」 「――ぐっ!?」 まるで野獣に跳ね飛ばされたかのように、強烈な力で押し倒された。 「かっ……はっ!? はぁっ!?」 首根っこを掴まれている。身体のバランスが上手くとれない。 「んぐぅ……くっ、かっ……や、やめ……はふっ、ぐっ!」 すごい……握力……! 「がぁっ……く、苦し、い……よっ……はぐうっ……! んっ、んぐぅ…………!」 明確な殺意。 一瞬で距離を詰め、無遠慮に首に手を伸ばし、全力で握り締める。 見た目も、行動も、全てが恐ろしい。 「はっ、がっ……ふぐぅ……う、ぐぐっ、ぐぎぃ……! はっ、ぐぅ……んぐぐぐぐ…………!」 なんとかして相手の手を引き剥がそうと、爪を立てて指を潜り込ませてみても―― 「――ぐがあっ!? ぐぎっ、んぐぎぃ!?」 それを上回る握力で跳ね返されてしまう。 首を握る手に両手で抗っているせいで、振り回されながら押し倒されても、受け身の一つだって取れない。 どうせ力で敵わないんだから、一度首から手を離して身体を支えたり、抵抗するための道具を探したりすべき。 でも、手が勝手に首を守ろうとしてしまう。無駄だとわかっていても、首に手を添えてしまう。 首を絞められるってこういう事なんだ……! 「がふうっ、んぐぐ、や、やべで……やべでよっ……! ぐぅ、なんで、ぐぅ……ぐぎぎっ……!」 それだけ混乱してる。 喉が苦しいにもかかわらず、拒絶の言葉を吐き出さずにはいられない。 だって、目の前には―― 混乱を促す、私にとってあまりにも恐ろしい物体が、黒山羊の衣服の隙間から見え隠れしていて―― 「なんで……ぐぎっ、お、おちんちん――」 「――あぎがあああああっ!!?」 恐怖と痛みと嫌悪と混乱。 すべての感情が乱暴に混ぜ合わさって、私の身体を芯から染め上げていく。 「おっぎいっ!? ぐぎょぎいっ!? がっ、んがあ!? あっ、あっがあっ、がっ、がっ、ぐががぁっ!!」 ペニスバンドなどではない。本物の男性器。 この人、男の人だ……! 男は嫌……! 男性器は嫌……! もうあんな思いするのは……嫌……!! 「ぎゅぐぐぐぶぎゅぶぶぶぎゅぐぐががががぁっ!! かはぁっ、ひっ、うぐぐぎぎっ、がっ、ぎゅぶがあ!!」 身動きが取れないとわかってても、ジタバタと暴れて心境を示す。 「やだっ、ぐっ、やだあぅ!! あがあっ!! おぢんぢんは、やだあっ、あっぎいいっ!!?」 なんで……!? なんで私、挿入されてるの……!? 「おぢんぢんダメなのおっ!! 私っ、ぐっぎいっ!! おぢんぢんだけはっ、ひっぎっ、うぎぎぃ……!! だ、べっ……がはあっ!!」 だって、こんな無理矢理だなんて……! 「あの時と同じいいっ!! や、だっ、がぁぁあっ!!」 自分の中に刻まれた、悪夢が再び蘇る。 それは、私のルーツ。同時に、彼女のルーツ。 「すぐに終わる」 「うっ……くっ、ぐうっ!」 目の前でユラユラと鎌の刃が揺れた。 死を連想させる動き。蛇が舌なめずりしながら艶めかしく近付いて来るような、そんな絶望感。 「はっ……んぐっ、がっ……やべでっ……! おぢんぢんも、抜いでっ、いやあっ、んがあっ!」 無意味とわかっていても、貴重な酸素を消費しながら拒絶を叫んでしまう。本能がそうさせるんだ。 「がぁっ、ぎっ、やなのぉっ! ち、ちんぽは……! うぐっ、ぐっひっ……あががっ、はがあっ! ちんぽは嫌ああっ……!!」 「無理矢理、んぐぐっ、入れられるなんて、がひいっ! そんなのもう二度と、んっ、ぐぎぎぃ……!! されたくなかったのに……はぐっ、くぅ……!」 「なんで、なんでえぇっ……!? なんでまた、がぎいっ、こんな、目に……あがあっ!」 「あなたを苦しませるため」 端的なその答えに、全身が恐怖した。 あまりにも、単純過ぎる。 ああ、だからこんなにも苦しいんだ。首も、おまんこも、苦しいのは……そのせいなんだ。 だって当然だ。この人は……この黒山羊は……私を苦しませようと思ってこうしてるんだもん。 私に対する敵意・悪意・殺意。今の苦しみの裏に、そのすべてが詰まっている。 だから苦しくて、辛いんだ。 「ぐぐう、あっ……んぐっ、ががっ……がっ、はっ!」 喉の痙攣が、唾液が舞い散らせる。 「がっ……ぎぎっ、ぐふっ、ぎ…………! もう、やべで……んっ、ぐっ、お、おばんごも…… もう、ぞれ、やべでぇ……!」 苦痛の中の凌辱。最悪の気分。 「んっ、私を……あぐっ、苦しませる理由って……! はっ、はっ、ぐっ、はぁっ……!」 「どうしてあなたは、あっ、がぁっ……!! 私を苦じばぜだいのぉっ……!? はっ、んっ、ぐくぅ……どう、じで……!?」 「復讐」 「はっ、ぐくぅ……んっ、んぐぐぐぅ……!!」 意識が遠のく。 復讐という言葉が何を指すのか、虚ろな思考では見出せない。 「あ……あ、あなた、は……一体……」 「あががががががががががっっ!!?」 骨が軋んでいく。 信じられないほどの圧迫に、全ての思考が粒となって消える。 「ががっ、あががががっ!? ぐががががああっ!! あぎゃがぎゃががぎゃぎゃっ、ぎゅががががあっ!!」 「ぐるじ、やべ、がががっ、ぎゅっがあっ! ぢ、ぢんぼ、ぢんぼ、ぐるじ、首ぃ、あっ、ぎぎっ!!」 喉の痙攣が頭部全体を揺らす。視界が震えて、意識が乱れる。 「がふがふうっ、ぐぶぶっ!! やべ、あがっ……!! もう、お願ひっ、ぐっ、ぎぎっ、ぎゅぎっ、あぎぎ!!」 「あっ、あっ、がぁっ……首、折れるっ、ぐぅ、ぎっ! はがぁっ……あっ、あっ、あががっ……がはぁっ!」 「ぐぶっ、んぐぶぶっ、がばばぁっ、あがっ、がばあっ! ぎゃばっ……ぐっ、ぎゅばばっ……あががばばあっ!!」 唾液と泡が口から溢れ返る。 眼球は今どこを向いているのかわからない。視界が真っ白だからだ。 「ぐぶばっ……がばっ、ぢんぼ、ぐるじ、がばあっ!! ぎゅぐぶばっ、あがっ、ばっ、ぢ、ぢん、ぼっ、ぎぎっ」 「がっ……んがあっ!? あっ、んがっ!? んがっ!? ぐぎっ……がっ……んっ……がっ!? ががっ!?」 酸素の欠乏で、不規則に身体が跳ね始めた。 首と膣。身体の上部と下部を固定させられながら、私の身体はビクビクと弾け跳ぶ。 「ぎがっ!? ぎがっ!? ぎがっ!? ぎがっ!? んがっ、んがっ、んがっ、んがっ、んがっ、んがっ……」 「あ゙っ、あ゙っ……ぐがあ゙っ……!? んあ゙っ!? あ゙っ、あ゙っ、あ゙っ、あ゙っ……がっ、がっ、がっ! あっがあああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙――」 そして―― 「ひががががががががががががががががががががっ!!?」 一際握力が強まったと同時に、子宮内の脈動が暴走した。 僅かに残った膣の感覚が、それを射精だと教える。 「ぎゃがあぁっ!? ご、ごれ゙っ……あがあっ!? ひっ、ぢんぼ、じゃぜえっ、ひいっ、ぐぎっ、がぶ!!」 「中にぃ、んぎびっ、がびゅっ、ぐぶっ……ぜええぎっ、 あぐうっ、出で、ひっ、おぎっ、がっ、がっ……!!」 「あ゙~~~~~~~~~~~~~~~~…………!!」 身体が弛緩し、傷付けられた膣が白旗を上げて拡がっていく。 嫌悪に基づいて精液を押し流すように、あるいは中に出された事を私に証明するかのように。 白濁の混じった尿が、結合部から力無く滲んでいった。 「あ~~~~~…………あ~~~~~…………。 あっ、あっ、あっ…………あ~~~~~………………」 「――ぐぶがっ!!?」 骨が砕かれる音が、内耳に響いた。 「んがっ……がっ…………ぎゃ……ぎ、げ…………! おげ…………ぎ、ぐべ……び…………ぎび……!」 「ぐ…………ご…………ぼぉ…………び、びぃ…………! ぐび…………が…………が…………が…………」 やがて、意識は静かに終わりを迎える―― 「……………………」 「…………な゙…………な゙…………ぉ、な……お……」 「……?」 「な゙、お゙、は…………あ、なだ……を…………」 「………………」 「――猶は……ぞれ、でも、あなだの事を……」 「…………ここにも、いない……」 誰に向けたわけでもなく。 独り言のように、力のない言葉を吐き出した。 「……次の部屋へ行きましょう」 「……………………」 「…………ああ」 周囲に気を配りながら、いまだ足取りを掴めていない行方不明者を探す。 とりあえず手当たり次第に教室の中を探す方針だ。 「次は……この教室ですね」 彬白先輩が教室の扉に手をかける。 その瞬間、何か心にざわつきを覚えた。 「………………」 まるで、何かに引き寄せられたかのように―― そうなる事が初めから決まっていたかのように―― その部屋に入った――入ってしまった―― 「ゔ……!?」 強烈な異臭。 非現実を訴える、おどろおどろしい空気。 「な、なんだか……他の部屋と雰囲気が違うな……」 そんな中……。 俺達は、部屋の奥の物体に、気付いたのだった―― 「ひっ……!」 上擦った声。止まる呼吸。震える奥歯。 そして高鳴る心臓。 耳に届く音は、それくらいだ。悲鳴などない。 それだけ目の前の彼女の亡骸は、現実離れしている。 「うお………………!」 「お、おい……こい、つ……ゆっふぃん……だよな……?」 肯定出来ない。肯定したくないからだ。 「こんな……の……っっ!」 「ひ、酷過ぎますっ…………!」 誰もが目を背けた。 こんな彼女を、こんな彼女の結末を、見たくないからだ。 それでもただ一人、志依だけが現実を直視し続けた。 「何かしら……あれ」 志依が指差したのは―― 「あ……?」 首を失った御伽の隣に記された、赤い文字列。 アルファベット……? これって……! 「まさか……ダイイングメッセージ…………!?」 それは、おそらく3文字。 暗闇の中だが、かすかに描かれた文字はこう読み取れる。 SEI―― 「んだよ……そんな単語聞いた事ねえぞ……」 「わ、わかりません……。 犯人の正体を示唆する……暗号でしょうか……」 「ううっ、うぐっ、ぐすっ……ぐひんっ……!!」 その英字が何を意味するかわからない。 ただ、これ以上この場にいたくない。彼女の死を思い知らされたくない。 そういう思いから、皆黙ってその場を離れ始めた。 「……………………」 最後に志依が教室から出終えて―― 俺達は御伽との永遠の別れを告げた―― ――あたしは。 後悔ばかりしていた。 幼馴染を救えなかった事を、ずっと悔やんでいた。 あの時、あたしが彼の誘いに乗らなかったら。 もしかしたら彼は助かったかもしれない。死ななかったかもしれない。 そう考え続けて、本を描き続けて。 やがてあたしは、彼のおかげで臆病者を克服した。 だからあたしには、ギフトが必要だったのかもしれない。 「…………はあ」 今一度、携帯を確認する。 デジタル時計が20時5分を表記している隣に、圏外の二文字。 「なんで……? いつもはこんな事無いのに……! どうしてこんな時に限って圏外なんだよ……!」 那由太達は……無事逃げ切れたかな。 突然現れたあの黒い山羊。正体も目的も不明の恐ろしい存在。 まころの首を持っていた。校内で誰かを殺し歩いてるのかな……。 「うっ、ううっ……!!」 背筋がゾクゾクと震えた。 思い出したくない。まころのあんな姿。 そして……考えたくない。クラスメイトが次々に殺されていく姿。 「ど、どうしよう……。どこに行ったらいいんだろ……」 「――っ!?」 足音……! もしかして……。 「那由――」 言いかけて、止まった。 この足音に聞き覚えがあるから。 だってさっき、聞いたはずだから。 「ひ…………ひぃ…………!」 冷静で―― 淡々とした足音―― 「――ひいっ!!」 出た……!! 黒い山羊……!! 「――対象、発見」 対象……!? あたしが……!? 何の対象――!? 「きゃっ!?」 決まってる! 殺しの対象だ! 「や……こ、来ないで……ひっ……!」 相手は躊躇なく大鎌を振り下ろしてきた。 咄嗟に避けたけど……避けなかったらあの刃が胸に刺さってた。殺されてた! 冗談でもなんでもない……! 本気だ! こいつは本気であたしを殺しに来てる! 「くぅ…………っっ!」 逃げなきゃ……! でも……!! 「きゃ……くあっ……!?」 こいつ、強い……! 「なんで、なんであたしを…………!」 不条理な無差別殺人鬼に物言いしようとしたところで、脳内が弾けた。 「くぅ……! 何よ……う、ぐっ……!」 もしかして―― こいつの正体って―― 「ひ…………あ、ひっ!!?」 記憶の糸が繋がったと思われたその合点は―― あたしの目の前に差し出された二本の“棒”によって霧散した―― 「何よ……それ…………!?」 山羊の右手と左手に、それぞれ50センチくらいの棒が握られている。 刃や棘は無い。凶器のようには見えない。鈍器として殴りかかるほど頑丈そうにも見えないし、扱いやすそうにも見えない。 それでも、ただひたすらに恐ろしい。 どう考えても、嫌な予感しかしないから。 「ひっ……やっ……!」 黒山羊が棒の一方を振りかぶった。 反射的に怯んでしまう。 「――あぐっ!?」 棒が、膝に勢いよく降ってきた。 「ぐっ……いっつぅ…………!!」 やっぱり……この棒、叩いて使うため……? 「はぁっ……はぁっ……! くっ……うぅ……!」 足を狙ったのは、動けなくするためだろうか。 でも……正直そこまで痛くない。 鉄のような硬さは無いし、相手の腕力も案外大した事無い。 この棒を振り回すだけなら、なんとか逃げ切れるかも……! 「え゙…………」 何の音……? ジジジ…………って。 「あ…………。あ゙…………!」 「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!?」 まさか―― まさかこれって―― 「あ゙づい゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙ い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙っっ!!!」 この音! あたしの皮膚が、焼ける音! 「や、やめでっ!! あ゙あ゙あ゙!! いっ、いぎいっ!! あ、あづっ、あづひっ!! ひっ、ひいいいいいっ!?」 鈍器じゃなくて……棒状のアイロン……!? 「やべでっ、ぐぎっ、は、放してっ!! あぎひいっ!! 熱いからぁっ、あ、あづいがらああっ!!」 どんどん熱くなってく……! 膝のヒリヒリが止まらない。熱がこんなに苦しいものだなんて知らなかった。 「あづいぃっ!! あづいよほおおぉおおっ!! ひっ、やだ、ああっ、あがああっ!! ひいいっ!!」 「放してぇっ!! それ、どっかやってえええっ!! あぎっ、ぎっひいいっ、早くっ、早くううっ!! 膝焦げるううっ、焦げちゃうよほおおっ!!!」 ふと、棒の圧力が弱まった。 同時に高熱も少しだけ和らいで―― 「あぎゃああっ!!?」 何かが破けた音。 確認するまでもない。 黒山羊は熱した棒を膝から放した。あたしの要求通り、熱の拷問から解放してくれた。 でも、急激に熱せられたあたしの皮膚は、ぶよぶよにただれて……そのまま棒にくっ付いてしまった。 その棒を勢いよく振り上げたもんだから……。 「いがっ……う、ひっ…………! ひっ、ひいっ……!!」 皮膚が剥がされちゃったんだ……! 「や、だあっ……あっ、ひいっ、嘘でしょ……ひっ! あひいぃ……なんで、ひっ……!」 熱のヒリヒリとした苦しさと……皮膚を剥かれたチクチクとした痛み。 膝がとにかく心細い。外気の冷たい風が傷口を嘲笑う。 「火傷……嫌なのに……! これ以上、あたしの身体を、 ひぃ……醜く……しないで…………っ!」 あたしのコンプレックス。 心の弱さの象徴。 殺人鬼は、それを的確に突いてきた。 こいつはもしかして、あたしの事を知ってる……? 「――がぎゃあっ!!」 今度は右肩に棒が振り下ろされた。 「いつ……くっ、ぐうっ…………!!」 初めに鈍痛が拡がる。 そして、だんだんとヒリヒリした刺激が……。 「ぎゃああああああああああああああああああああっ!!」 同じだ。膝の時と。 「あづいいいっ、あづっ、あづっ、ひいいいっ!! ぐひっ、ぎっひいっ、あっ、あががあああっ!!」 今度は右肩。こいつはどんどんあたしの醜悪を増やす気だ。 「やべでよおっ、ひいっ、もうやべでええっ!! あぎっ、ひぎいっ、んぎっ、ひっ、ぎいいっ!!」 手足をばたつかせて抗っても、棒の接着を変えられない。 腕力大した事無いなんて嘘だ。こいつの力はあたしの抵抗力を大きく上回ってる。 「あ、あんたっ、ぐっ、あっつううっ!! あたしが、ひっ、ぐううっ、火傷ダメなの、知ってて こんな事やってんでしょおおっ!!」 「だったらもうやべでよぉっ、お願いだからっ、ひいっ! こんなの酷いよぉっ、酷過ぎるよおおっ、あぎい!!」 「……………………」 棒がさらに強く圧し付けられる。 「あぢぢぢぢぢぢぢぢぢぢいいいいいいっっ!! あっぢいいっ、あぢゃぢゃぢゃぢゃあああっ!!」 「あぢいよほおおっ!! あっぢいいいいっ!! あぢ、あぢぢいいいっ、あひいっ、あぢゃぎいいっ!!」 「いがぎゃああっ!!」 棒が引き剥がされた。 自分の皮膚と引き換えに。一時的に楽になる。 「はあっ、はあっ、はあっ…………あつぅ……! くっ、くひいっ……うっ、ぎぃ…………!」 黒山羊は……明確な殺意をもって、あたしに刻印を残そうとしている。 逃げなきゃ……! 恐ろし過ぎる……! 火傷、怖いよ……!自分が否定されていく―― 「あひいっ!?」 もがきながら逃げ出そうとすると、今度はもう一方の腕が振り上がった。 高く掲げられた棒。 こっちもすぐに、降ろされる―― 「がっ…………ぎがっ!!」 左腕に、棒が直撃した。 「や、めてっ!! これ以上はもう……ひぃ……!!」 あ―― 熱く、ない―― 熱が来ない―― どうして………………。 「――あぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃ ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっっ!!?」 熱い……! 「ぐぎぎぎぎぎぎぎががががががががががあああっ!! あががががががあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!」 熱い、熱いけど……! さっきのアイロンの刺激と違う……! これって―― 電気――! 「やべでげげっげげげえええげげげええええっ!! あがっ、ぎぎぎぎぎぎががああががあがががああ!!」 「し、痺れでるううっ、ぐがあっ、あっ、ぐっがああっ! やだあだだだあだだああやだやだやだだだあだあっ!!」 二本の棒は、同じものじゃなかったんだ。 それぞれ異なる効果。 一本は、熱の棒で。 もう一本は電気の棒。 地獄だ――! 「お願いだがらああっがああっ!! もうやべでえええ!! や、べ……がっ、あぎっ、あっ、あっ、あががあ!!」 「――かっはあっ!!」 視界に拡散していた光の玉がようやく薄れた。 「ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ、ひぃっ……」 初めて味わう呼吸の乱れ。 火傷と電撃で、かつてないほど身体が混乱している。 「もう……くひいっ、やだぁ……ひいっ、ひいっ……」 ずっとこうしてても、助からない。 誰かの救助を待って犬死するくらいなら、強行突破でもなんでもいいから自分の力で逃げないと……! 「――ぁ」 「え………………」 「………………嘘でしょ」 生き延びようと願った矢先。 見てしまった。 見つけてしまった。 黒山羊が隠し持っていた―― 三本目の棒―― 「ひっっっ………………っぎいいいいいいいいいい!!!」 あっという間の出来事だった。 時間が圧縮されたような。そんな感覚。 「ああっ……あっ、ああああっ!? ああっ!? あっ、あっ!? あぁあ!? ああ!?」 いつ自分は性器を晒したのだろう。どうやって性器を晒されたのだろう。 どうして、黒山羊のペニスがあたしのあそこに突き刺さっているのだろう――? 「お、おちんちんっ!? おちんちんっ、おちんちんっ!! や、だっ……くひっ!! あひっ、ひっ、あっひぎいい! こんなの嫌だああっ!!」 どうせ殺すなら、犯して気持ち良くなってから……という事だろうか。 だとしたら、凶悪過ぎる。悪魔だ。こいつは外道だ。 「火傷とか、ぐぎっ、電流とか……あひっ、ひぎい!! その上おちんちんまで……くっ、あっ、あっひい!!」 「ふ、ふざけないでぇっ!! このレイプ魔っ!! 許せないっ、くうっ、うぎぃ、絶対、許せないっ……!」 「ぐええっ!?」 「ぎゅががががががぎぎぎぎあがががががぎががっ!!?」 電流を帯びた棒がまたしてもあたしの身体にあてがわれた。 また左腕……! さらに、ペニスは挿入されたまま。 この悪魔と大切な部位を繋いだまま、強烈な痺れを送り込まれてしまう。 「ひぎぎぎぎぎぎぎぎぎぐぐぎぎぎあががあがあが!! やべでえぇっ、ぐぎっ、あっぎぎぎぎぎぎぎっ!!!」 ペニスの苦痛、嫌悪、恐怖。 それらをわけわからなくさせる、非現実的な電流の刺激。 「やべべべべべべべでええげげげげげあががああっ!! もういやああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!」 下半身と上半身を苛むそれぞれの苦痛が、意味不明なほど不愉快で。 混乱しながら、絶望的な嬌声を叫ぶしかなかった。 「あっぎいいっ!! おばんご痛いっっぎぎぎぎいっ!! ち、ちんこっ、ひいっ、ちんこもう……あぎががっ、 お願いだから……もう、ひっ、ぐっぎぎぎいっ!!!」 「――あがあっ!! かはっ、かはっ、かはっ、かはっ!」 電気の棒が腕から離れた。 ずっと苦しめ続けるだけじゃなく、時折休憩を挟む。そうやってあたしを弄ぶつもりなんだ……! 「がひいっ、がひいっ、がひいっ、がひいっ、がひいっ! ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ、ひっ……」 呼吸が上擦ったまま元に戻らない。 電流の苦痛はまだ身体に残ってるし、何よりペニスは入れられたままだ。 息を整えるどころか、自分の置かれた状況の非現実さが改めて浮き彫りになって、より恐怖してしまうくらいだ。 「あっがっ、あっがっ……ちんこっ、ちんこっ、あがっ、 抜いて、ひっ、あひっ、あっひいっ!!」 「この……悪魔っ……! レイプしながら、ひっ、ひっ、 いたぶるなんて、あぎっ、ひっぎっ、人間の、あがぁ、 する事じゃないっ……!」 「…………………………」 その仮面のせいで、中の人物の感情を読み取る事が出来ない。 一貫して沈黙したままだ。 ただ、あたしに対する殺意だけは明確なようで―― 「ひ…………ひいいいいいいっ!!?」 殺人鬼は、それぞれの棒を握りながら、両手をTの字に広げた。 水平のその構えが、悪意を体現している。あたしをさらに苦しめる何かを繰り出すに違いない。 「がひぃぃ…………がひぃぃ……がひぃぃ……! な、なに……なんなの……がひぃぃ……ひ、ひ――」 それは、すぐに判明した―― 「――ごぎょごごごごごぎょごぎょごごごぎょごっ!!?」 「………………」 「ぎぎょっごごごごごごごごごごごごごごごごごごっ!! ぐごごぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょぎょっ!!?」 二本の棒が、同時にあたしを責め立てた。 「ぐるじじじじじじじいじじじぎぎぎぎぎいぎががが!! んがががががぐががぐががぐががうがうがうあが!!!」 脳を直接攻撃されている感覚。 自我を支える土台から、一気に揺さぶられる。 苦痛に耐えるよりも、意識を失わない事で精一杯だった。 「がげげげげげげえげげげげげげげげげげげげげげえげ げげげげえげげげえっげえげげげげげげっげえげっ!!」 「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬじぬじぬじぬじぬじぬじぬっ!!!」 人間離れした悲鳴。 性器を犯され、皮膚を穢され。人間として醜くなっていくのだから当然だ。 「ぎょごがおがぎぎががいぐごががががぎぎがぐがぎょ ぎぎゅがぐががげぎががぐががぐぎょぐぎょがぐっ!!」 「ぐるじぐるじぐるじぐるじぐるじぐるじぎぎげげげげ げげげげげげぢんぼぢんぼぢんぼぢんぼぢんぼぢんぼ ぢんぼぢんぼぼぼぼぼぼぼぎょぼぼぎょぼぎょぼっ!!」 火傷と淫液塗れの怪物に相応しい声を叫びながら―― あたしは狂っていった―― 「ぐぎびびびびっっ!!? ぎびびびっ!!? がぎびっ、ぎゅびっ、ぎゃぎゃぎびびびびびっ!!?」 膣奥に、熱い戦慄が迸った。 今あたしの顔を歪めているものとは異なる熱さ。異なる嫌悪。異なる悪意。 「ぢんぼぼぼっ、じゃぜぜっ、ぐぎゃあっ!! あぎゃぎゃっ、中出じじじじじじがががああぎゃっ!!」 「やだがががっ、やべべべでででぎががぎゃあがあっ!! ぢんぼぼやべでやべろおおぢぼぢぼぼぼぼぼぼっ!!!」 左右から悪夢のような苦痛を思いっ切り圧し付けられ、それでもあたしの顔と身体は震えてしまう。 痙攣しながら化け物じみた声で生き地獄を謳う。 狂気に満ちた光景―― 「ぎゅぼがぼぢんぼぼぼぢんぼやだやだだががぢぼぢぼ ぐびびっ!! ぐげげげががぎびびぢんぼぼぼぼっ!!」 「――ぎょぶっべええっ!!」 「ぎゃっ……がっ、がっ…………ぎゃがっ、あっ、ぎゃっ、 ぁっ……ぁっ……ぎゃ、ぎゃが……あぎゃ…………」 朽ち果て、震え、精液に染まった四十九筮。 このレイプ魔も十分人間離れした存在だが。 あたしも同じほどに、人間の尊厳を失っていた。 「ぎゅびっ……びびっ、おっ、おっ! び、びび……! おっ…………おっ、おっ…………び、び、び……」 身体に残された電流が、余韻として弾ける。 ひとりでに身体が動く。意識はもうない。 「ぐぎび……ぎびび、いび、びぃ…………ひぎびぃ……! げびび…………げび、げびぃ…………げびびぃ…………」 こんな醜い姿……。 火傷だらけの身体……。 もう……誰にも見せられない……。 一人で、暗い世界で生きていくしか―― 出口と仲間を探して。全員で固まって歩く。 会話が弾む事などない。皆暗い表情のまま、重々しい足取りで進んでいく。 「……………………?」 そんな中、妙な違和感を覚えた。 「何だ……この臭い……!?」 廊下の先から異臭が漂っている。 何かが焦げたような臭い……。 「確かに臭いますね……まさか火事でしょうか……!?」 「た、確かめましょう……!」 火に焼けた臭い。 いや、これはそれだけじゃないぞ。 別の何かの臭いも混ざってる。強烈な悪臭だ。 何の臭いが混ざってる――? 嗅いだ事ある臭い―― 何の臭いだ――? ああ、そうだ……! これ……血の臭いだ……! 肉の焦げた臭いに、血の臭いが混ざってるんだ……! 「……………………」 「……ざけてやがるっ」 「四十九さん……のようね」 頭部がないから、判別に戸惑う。 いや。そういう事じゃなくて。 認めたくないんだ。この遺体が、筮のものだって。 「ゔっ…………うぅっ……!」 充満した悪臭が、吐き気を煽る。 これ以上ここにいたら、身も心も狂ってしまいそうだ。 「筮………………」 目の前の彼女に。 かつて彼女だったはずのタンパク質の塊に。 なんて声をかけていいかわからない。 小さくその名前を呟く事しか出来なかった―― 「――えぐっ、えぐぅ……ひぅ、ひぐ、うえぇんっ……」 「よ、よしよし……。 いい子ですから泣かないでください、霍ちゃん……」 「だっでぇ……四十九も、ゆっふぃんもぉ、ぐずっ、 いいヤツだったじゃんかぁ、ぐずんっ、ぐひんっ、 なんで死ななきゃなんないのぉ……」 「………………」 ひたすらに、全身が重たい。 絶望感が強大過ぎる。歩くだけで精一杯だ。 こんな事があっていいのか……!? 「あの時……バラバラにならなければ……」 黒山羊と初めて対面した時、まころを探索していた俺達5人は、散り散りになってその場を離れた。 それが御伽と筮との今生の別れになるなんて……。 「………………」 後悔が止まらない……。 同時に、怒りが治まらない……! 大切な仲間が……次々とあんな死を強要されて……。 受け入れられるもんか……! 絶対に……許せない――! 御伽と筮を殺害したのは、間違いなくあの黒山羊だ。 首が刈り取られていた。まころの生首を連想せずにはいられない。 おそらく、そういう殺し方をして回っているのだろう。 首を切り落として……しかもそれを、現場から持ち去っている。 なぜヤツが首を集めているのかわからない。 普通に殺すだけじゃなく……生首を持っていくなんて、常軌を逸している。異常にもほどがある。 死を弄びたいほどに、被害者に対しての深い憎悪があるのだろうか。 ………………。 あり得ない。 まころに……御伽に……筮だぞ……!? 人を傷付けるような少女じゃない。首を奪われるほどに、誰かに憎まれるような人間じゃない。 正当な動機なんかあるはずないんだ。あの黒山羊は狂人で……快楽殺人者で……。 だから、あいつは許されない存在なんだ―― 「……………………」 「…………奇妙ね」 「…………志……依?」 硬直した顔の筋肉を最低限動かして、志依の一言に反応した。 「由芙院さんの死体のそばにあったあの血の文字…… あれは本当にダイイングメッセージなのかしら?」 「え…………」 「な、何かおかしいのでしょうか……?」 「もし由芙院さんが書いたものだとしたら、 指先が血で汚れているはず。でも、 彼女の指に血が付着した跡はなかった」 「どういう事だよ」 「それに、由芙院さんの外傷はどこにも見当たら なかったわ。もちろん服の下とか、背中とか…… そこまで確認したわけではないけども」 「つーか外傷なら首が切り落とされてたろ。 あれほどわかりやすいもんを見落としてんじゃねー」 「いいえ、あれは間違いなく致命傷だわ。 首を落とされてダイイングメッセージを 書く余力があるわけないもの」 「つまり……あのメッセージは首が切り落とされる前に、 ゆっふぃんさんが書いたものという事でしょうか?」 「もしあの血文字が由芙院さんによって書かれた ものならば、その血の出所がないとおかしいの」 「そして、何を使って書いたかも不明……。 指が血で汚れていなかったのはやっぱりおかしいわ」 「んーと……。何かの道具を使ったのなら、 それが現場に残ってないとおかしいもんねー」 「犯人がその道具を持ち去った、とか?」 「考えられないわ。そもそも、ダイイングメッセージは 一般的に犯人が現場から立ち去った後に被害者が 残された力でこっそり書くもの」 「あの殺害現場を見る限り即死は間違いない。 もしあの血文字を由芙院さんが書いたとしたら、 首を切られる前に書いた事になるのよ」 「つまり、なんらかの出血をした後に犯人の目を盗んで あれだけ目立つメッセージを残して、その後 犯人によって殺された。そんなのあり得ると思う?」 「それは……考えられませんわ」 「なんでー?」 「もし追い詰められたゆっふぃんさんが犯人の目の前で 咄嗟にメッセージを残そうとしていたら、 それを犯人が見落とすわけありませんもの」 「あ、そっかー。すぐに犯人が気付いて メッセージを消そうとするはずだもんねー」 「おい黒蝶沼。てめえ何が言いてえんだよ」 「あれは由芙院さんが書き残したメッセージじゃないわ。 どう考えてもおかしいもの」 「な…………!」 「で、ですが……それでしたら、 誰が書いたというんですか……!?」 「教室の中に入った時、御伽ちゃんの死体以外 誰もいなかったんだよー?」 「つー事は……まだ見つかってない メイドか……玖塚か……」 「――それとも、犯人自身か……」 「………………」 ――だとしたら。 犯人はあのメッセージに、俺達の誰かに向けた何らかの意図を残した事になる。 “SEI”―― どういう意味なんだ――!? ――私は。 いつだって追う側の人間だった。 求めてばっかり。与えられる事なんかない。 不平等な世の中だと思っていた。 家族と仲良くなりたいと思っていた。 好きな人と手を繋ぎたいって思っていた。 でも、拒絶され、空回って。 だから私には、ギフトが必要だったのかもしれない。 「ここは……電気が点くんだ」 職員室の前で彬白先輩達と別れてから、もうどれくらい経っただろう。 結構な時間が経過してる気がするな……。 「20時……40分かぁ……」 音楽室の時計の針は、もうそんな時刻を指していた。 「そろそろ皆と合流しないと……」 誰かがもう出口を見つけているかもしれない。 まころちゃんの事も心配だし……。 でも……。 「皆……どこに行っちゃったんだろ……」 さっきから誰ともすれ違わない。自分を含めて十一人が校舎の中をうろついてるはずなのに。 もしかして、出口が見つかって……皆もう帰っちゃったのかな……。 だったら、それはちょっと酷いと思うんだ。 せめて、EdEnの出口を教えてくれてもいいのに。 「音楽室には誰もいない……と」 ここにはもう用はない。どこか違う場所を探さないと―― 「あ……」 扉が開かれる音がして、勢いよく振り返る。 「――よかったぁ……! ずっと誰とも会えなくて、寂しかっ――」 「――た……ん…………だ…………」 ……………………。 …………はい? 「え、えっと……誰?」 何、この人……。 「あ、あはは……私を驚かそうとして 誰かが変装してるのかな?」 「だ、だとしたら……うん。ちょっと怖過ぎるよそれ……。 こんな夜中にそんな格好で現れたら…… 誰だって驚くって――」 「え……? あ、あの……」 「――あがっ!?」 突然襲い掛かって来た謎の人物に殴られ。 私はその場に倒れ、気を失ってしまった―― 「ん…………」 意識がゆっくりと起き上がる。 私……何してたんだっけ……? えっと……確か……。 「え――」 目を開けた途端、その異常事態にすぐに頭が覚醒した。 「――っ!? う、動けないっ……くぅ……!」 「何これ……え……? 鎖……!?」 鎖が私の身体を縛っている。 左腕はもちろん、下半身も動かせない。 そんな、自由を奪われた状況で、目の前にいるのは―― 「……………………」 さっきの巨大な山羊。 「何……んっ、くぅ、一体……んっ、んっ……! 何の……つもりっ……!?」 身体をくねらせて鎖の隙間を作りながら、大きな声を発す。 そうしないと……恐怖で心が潰れてしまいそうだから。 「誰だか知らないけど……悪い冗談はもうやめて……! この鎖……早く外して……!」 私の恐怖の原因は、その一点に集中している。 即ち、山羊が持つその鎌。 あれが部屋の照明をキラキラと反射して、おどろおどろしい存在感を放っているんだ。 「……あなたも、対象」 「は……? 何を言って――」 「ひぃっ……!?」 その鎌が振り上げられ―― 「きゃっ……!?」 目の前に弧を描いた。 「な……は…………!?」 風圧を感じるくらいの至近距離……。少しでも身体が前のめりだったら……間違いなくバッサリ……! 「何するのっ!? あ、危なかったよ今っ……!? そんな事……冗談でもしないでっ!」 「ひゃぁっ……!?」 また……風圧……! 「だ、だから……危ないから止めてって――」 「え゙」 その風圧に続いて、赤い飛沫が目の前を通過した。 「え……? あ゙……え゙……?」 左……腕…………! これ……切れてる……!? 「な、な……え、な、え゙……な…………!?」 「なんて事するのっ……!? 切れちゃったじゃんっ! 腕、ここぉ!! 切れちゃったじゃん――」 「――いがあっ!?」 突然頭の中に電撃が走った。 強烈な頭痛……! こんなの初めて……! 「何……今の……! う、うぅ……頭、痛いぃ…………」 「ひゃっ、きゃひいっ!?」 「あっぎいっ!? ぐぎひいっ!?」 鎌が私の前方を舞い踊って。 そのたびに私の身体に切り傷が刻まれた。 「い゙……ったぁっ……! なに……え゙……!? なんで……ええっ……!?」 考えないようにしてたけど……。 どうやら……間違いない……。 これ、冗談とかじゃなくって―― 本当に危険な状況だ――! 「……玖塚、つつじ子」 「ひ……あ゙……!?」 「あなたも、対象」 どうして……私の名前を……? それよりも、さっきも言ってたその言葉……!対象って……何なの……!? 「ひ、ひいいいっ!!?」 再び振り上げられた鎌に、私は思わず声を上擦らせた。 「や、やめてっ……!? いきなり何なの……!? やめてよ、ねえ……やめてぇっ……!!」 「あなた……何者なの……!? 突然現れて……どうしてこんな酷い事するのぉっ!? ひっ、ひぃぃんっ!」 「………………」 黒山羊は答えない。 沈黙を保ったまま、鎌を握っている。 「やめてってっ……それ、痛いからっ! 危ないから……ね、ね? お願いだから……もうやめて……!」 「その鎌、降ろそう……? 床に置こうよ……ね? なんでそんなに怒ってるのか知らないけど、 そんなの持ってたら落ち着いて話し合えないよっ」 「言いたい事があるなら言葉で伝えて……! そんな危険なもので私を怖がらせても……くぅ、何の 解決にもならないよっ? だから……ねえってば――」 「――ひぎゃああっ!?」 「――あぎがあっ!? いっ、いぎゃあっ!!」 「い、いだいよっ、いだいいだいいだいいいっ!!! なんでっ、ひいいっ、にゃんでえええええっ!!?」 「やだって言ってるのにいっ!! あぎひいいっ!! どうして切るのっ、ひっぎいんっ!! あひっ!! もうやだああっ、ひいっ、いっひいいいいっ!!」 無数に切り刻まれた自分の身体が、心を降参に導いた。 話し合おうって言ってるのに、全然聞いてくれない。 それどころか、無情に傷付けて……! 狂ってる……! この人、頭おかしい……! 「痛いからあぁっ、もうやめてっ……! くうっ、こんなのおかしいってっ、あふっ、ひっ! 絶対……間違ってるっ、うぎいっ!!」 「私を鎖で縛って、鎌で切り刻んでっ! あなた狂ってるよぉっ!! ぎゃひいんっ!! どうかしてる、頭イっちゃってるよぉっ!!」 「狂ってるのは……あなたの方」 は……? 私……? 「わ、私が狂ってるわけないでしょうがあっ!! こんな、血だらけにさせられてる私の、 どこが狂ってるって言うのよぉっ!!?」 「無抵抗な女の子を傷付けてるあんたの方が 異常者だよっ!! こんなバカなマネ、 もうやめてっ! いい加減にしてえっ!!」 「……殺す」 「こんなに血が出てるんだよっ!? それ見てあんた何とも思わないのっ!? おかしいよっ、普通の人なら――――え?」 「殺す」 「こ…………ろす……? ころ……す……?」 「あぎがぎがあっ!!?」 殺すって言った。 こいつ……このまま私を……。 私を切り殺す気だ! 「い、いひいっ、いっひいぃいぃいいぃい!!? ひいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっ!!?」 「やだやだやだやだやだあああああああああっっ!! なんで、なんで殺すの!? ひいっ!! なんでなんでなんでなんでにゃんでええっ!!?」 「殺すのやだっ! 殺すのダメええっ!! それだけは絶対ダメなのおおおっ!! ひいいいいっ、あっひいいいいいっっ!!?」 相手の言葉が、冗談でない事はもうわかってる。 これだけなます切りされて、今更殺意が無いなんて方が考えられないんだ。 こいつの狂気性を糾弾したって無駄だ。明確に殺意を持った相手に正論なんて意味が無さ過ぎる。 「やめてよぉっ、殺すなんて……ひいっ!! やめてっ、お願いだから…………ひいっ!!」 鎖で縛られて、異常者と向かい合って。 そんな状態で私が出来る事なんてない。命乞いするくらいしかない。 「ゆ、許してっ……許してよっ……! ねえ、ねえ……! お願いっ、許して……っ!!」 「私が何したのか知らないけど……! あなたが何で怒ってるのか知らないけどっ! でも……でも……!!」 「でも殺すなんてあんまりだよっ!! 謝るから、ちゃんと謝るからっ!! だから殺さないでっ、お願いっ!!」 「……………………」 その仮面の下で、こいつが今どんな顔をしているのか。 全く読み取れない。見上げるほど大きな身体なのに、微動だにしない。感情の機微がこれっぽっちもない。 「ねえ、ちゃんと聞いて……! 私は本気だよ、本気で謝るつもりだよっ……!? 私が悪い事しちゃってたのなら、ちゃんと話してっ」 「も、もしかしたら、誤解してるって事もあるかも! だったらさ、ほら、こんな事無駄だよね……!?」 「それを確認するためにも、ほら、 わけを話して欲しいな……? ね……?」 「………………」 「お願い、だよぉ……! もう私、怒ってないから……! この切り傷の事は見逃してあげるからぁ……!」 「だから……あなたももう怒るのやめてぇっ……! こんな乱暴な事、もうしないでぇ……ひぃ……! 助けてよ、ねえ……助けてってばぁ……!!」 まるで、機械の人形に懇願している気分。 無機質で無感情。 そんな相手に感情的に訴えて、効果があるんだろうか―― 「ひ、ひいいっ……!?」 あ、やっぱ無い。無理だ。 どんなに泣き伏せて救いを求めても。 この狂人には意味のない事だ―― 「やめて……お願い、許してぇ……ひぃぃぃ……!」 それでも。無意味だとわかっていても。 声が勝手に絞り出てしまう。命を乞うてしまう。 喉元に突き付けられたその刃は、これまで以上にはっきりと私に死を意識させるもので。 刃に触れないように全身の震えをなんとか押し殺しながら、思いつくだけの命乞いの言葉を並べた。 「お願いだよぉっ、お願いっ、お願いっ……! どうか……どうか殺さないで……許してってばぁっ! お願いだから……私を助けてぇぇっ……!!」 「助けて…………ひぃ…………お助け…………! 命だけは……どうか…………どうかぁ……! 助けてください、助けてくださいぃ、ひぃ……!」 情けない声で、必死に訴えかけ続ける。 死を目前にして、形振り構っていられない。 私の言葉がこの無情な怪人の心に響くのを願って、声を絞り出し続ける。 「お願いします…………殺さないでぇ……! 命だけは……助けて……ください……ひぃ、 あひぃ……ゆ、許して……ひ、ひぃぃぃ……」 「………………」 「――んがあっ!?」 一瞬の出来事だった。 それこそ、ほんの一秒……。瞬きをしているくらいの時間。 そんな短い間だというのに―― 「あがぁ……あんがぁぁぁぁぁ…………」 ――さらに混乱を招く事態になっていた。 「あひぃ……? ん、んがぁぁ……あがぁぁぁぁ……?」 口が閉まらない。強制的に開かされている。 口に何かをはめ込まれたらしい。鏡が無いから確かめられないけど……。 「あんがぁ……うひぃ……たぁ……たぁ……! たぁ……しゅへ……てへぇ…………あへあぁ……!」 開口具……? 何のため……? 私を黙らせるため……? それでも、こんな事態で黙ってろって方が無理。 だって、静かにしてたところできっと殺されるんだ。感情的になるのも仕方ない。 「おぬぇ…………がひぃ………………! ゆぅひへぇ…………たしゅへてぇ……! おぬぇがひぃ…………らからぁぁ……」 口を動かせる範囲で動かして、まだ命乞いを続ける。 意味ないってわかってても、そうしないと恐怖で意識が飛びそうだから。 「おぬぇがひひまふぅ……たひへへぇ……! ゆうひへぇ……いぬぉひらけはぁ……ろうか……! ろうかたふへへぇぇ…………んはぁぁ…………」 「たしゅへ……たしゅ…………あひっ、あひぃぃぃ……!」 信じられない。 こんな状況で……!いや、もしかしたらこんな状況だからかもしれない。 こいつ……ペニスを出してきた……! 「あひ、おひん、ひん……うほでひょ……!? にゃんれぇ……ほんな、おひんひん、なんか……!」 理由なんかわからない。 でも、きっとそのペニスは―― 「たしゅへへえっ!! たしゅへへよほおっ!! おたしゅへっ、ひいっ!! ゆるひへくらひゃいっ!! おぬぇがひらから……おゆるひっ、ひ、ひいいいい!!」 私のこの、だらしなく開き切った穴へ―― 「ひ、あひあああああああああああ――」 「――あごごごごおおおおおおおっ!!?」 「あぐごおおっ!? んごおっ、おぐごごごおっ!! んごっ、ごぎょごおおっ!! おっ、おおぐっごおっ!」 入って来た。屹立したペニスが。勢いよく。 「おっぐっごぎゅぼおっ!! おぐごんごおおおっ!! んごおっ、んぐごおっ、あぐごごぐごごおおおっ!!」 味も感触も確かめる間もなく。 口の中を乱暴に蹂躙されていく。 「あがひいっ!! たしゅへぐごおぼおぼおおおっ!! だ、だじゅ、だじゅへべべべぐぎゅぎゅじゅぼお!!」 「もうやべへ、くらひゃひっ、おぬぇがひっ、がぼお!! おぐごぼぐごぼぐぼごぐぼぐぼごぐぼごごぶごぐお!!」 勢い付いたペニスが喉の最奥をタッチして、口の中から出ていく。 その隙に酸素を欲していた身体が勝手に呼吸し、少し意識が戻ったところでまたペニスが圧し込まれる。 「お゙っごおんっ!! お゙っごおんっ!! お゙っごおんっ!! お゙っごおんっ!! お゙っごおんっ!! お゙っごおんっ!!」 その繰り返し。 そしてその間隔は、少しずつ加速している。 「やべっごおおっ!! やべでっごおおんっ!! おね、がいひまふうう、だずげへ、んごぼおっ!! おひんひん、ゆうひへぐぼじゅぼごぎょおっ!!」 「――じゅぶごがおごがぎがおぐごあぎごげごぐがごぐぎ ぐじょごがごぎごげげげげげげえげっげげげげげっ!!」 根元まで咥えると、こんなにも奥に到達するんだ……! 先っぽなんか、もうそこ食道……! ペニス……太い……そして長い……! 「んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!? んお゙っ!?」 発したの事のない声。 というか、音。 こんなのもう、ノイズだ。 私の口から、喉から。怪音としか言えないような奇声が漏れている。 「おぐげぇっ!! ぎょげっ!! ぎゅぶごぶげげえっ!! んがっ、ぐがっ!! ぎゅぶりゅぐぶぎょがああっ!!」 自分がこんなにも人間離れした音源に成り下がったのだと、ひたすらに思い知らされる。 目の前の山羊もまた、人間離れした存在。血なんか通っていない、無情の冷徹怪人。 私も、こいつも。非人間的だ。 「おぶぼぉっ!? おぶぼぉっ!? お゙っ! お゙っ! お゙っ、お゙っ、お゙っ、お゙っ、お゙っ、お゙っ、お゙っ」 呼吸の隙が短くなっていき、反して吐き出す鳴き声が大きくなっていく。 失う酸素に対して、補充すべき酸素が明らかに足りない。 「がぐがああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!」 圧倒的に、苦しい。 酸素不足の上、こんな激しく口の中を凌辱されて……。 「だじゅぐぼがっ!! やべぎゅぶべえっ!! いどぢだけばぎゅりゅじゅばぁっ!! おだずげぐごりゅびゅがぎゅぶがばあっ!!」 もう……感じ取れるのは、真っ黒い絶望だけ―― 「んあ゙っ! んあ゙っ! んあ゙っ! んあ゙っ! んあ゙っ! んあ゙っ! んあ゙っ! んあ゙っ――」 「――あ゙ぶばぶばばあばばばびゃびゃがびゃびゃぎゃ ぎゃばばがばぎゃばびゃばばばばばばっっっ!!!」 最奥の食道に、重たいものが流し込まれている。 唾液もろくに分泌出来ていないもんだから、正常に嚥下できない。 「んがばばばっ!!? ぎゅぶばっ!!? おっばっ!? おごぼぼぼごばっ!? ぎゅごおっ!? おっ、おっ?」 「おっぼおっ!! おっぼおっ!! おごごご…………! おっ、おっ…………おっ、おっ……おっ、おごごっ……」 それでも、注がれている。 それは、言うまでもなく、精液。 胃に直接、産み落とされている―― 「おっ……おぉぉぉ…………おっ、おっ、おっ…………! おっ、おっ、おっ、おっ…………おっ、おっ、おっ……」 まるでオットセイが鳴いてるみたい。 とにかく酸素が欲しくって。唾液そっちのけで、必死に呼吸している。 意味なんて多分もうない。 だって意識は、いつの間にかもうどっか行っちゃってるから。 「――かっはっ!! かはーっ! かはーっ、かはーっ!」 その口が解放された時には―― 「はぶぶっ、はっぐっぶっ!! かふぐぶぶぶぶぶっ!! あぐぶぶごぼごぼごぼぐぶぶぶ…………かふぶ……!!」 私の視界は真っ黒に染まっていて、思考はどこにもなかった。 「かぐはーっ、ぐぶぶはーっ、はーーぶぶぶぶっ!! くぶーっはーーっ、かふーぶぶっ、ぎゅぶっはーっ!!」 大量の白濁を口の中に溜め込みながら、それでも本能で酸素を欲する。 「――おっ、げぷっ!? お゙ぎょぼっ……!!? おっ、おっ、お゙お゙お゙お゙お゙……………… おろろろろろろろろろろろろろろろろろろ…………!!」 そして、本能で戻してしまう。 「おぼろろろげろろろろろげっろろろおろろろろろっ!! おげろろろろろおぉおぉぉお~~~~~っっ…………!」 「おっ、おぎゅぼろろろろ…………!! お、おろろっ! おぐろろろろ…………お゙っ…………お゙ろっ……!! お゙っ…………お゙っ…………お゙…………お゙おぉ……」 「――うえ゙っぶっ……! お゙お゙…………お゙ー…… お゙、お゙…………お゙ーー…………お゙ぉ…………。 お゙……………………お゙ー…………」 「お゙ーー…………お゙ーーー………………」 「……………………」 「お゙ーーーーーーー――」 「あのー…………」 彬白先輩が、怪訝そうに口を開いた。 「あっちの方、何か明るくないですか……?」 「え……? ――っ!」 本当だ……! 廊下の一番先。ぼんやりと光が見える。 この暗闇だから、かなり距離があってもその光を確認する事が出来る。 「あ、あの部屋って……!」 「音楽室、じゃん……! さっき入ったよ?」 霍の言う通りだ。 彬白先輩とメガと合流する前、俺と志依と霍で一度音楽室に入っている。 その時は電気を消して部屋を出たはずだが……。 「……明るいって事は、誰かがいるのかしら?」 「フーカか、つつじ子か……」 ……それとも犯人か。 「……………………」 いずれにしても、確かめに行く必要がある。 「……行ってみよう」 「………………!」 「これは…………!」 「ゔ……わ…………!」 何度味わっても慣れない。 何度だって悲しい。 凄惨過ぎて、頭が追いつかない。 それでも心は、ひたすらに悲しく。 「今度は玖塚かよっ…………!!」 「もうやだぁぁ…………! うっ、くぅぅ……!」 まったく、本当にその通りだ。 もう……嫌だ……! こんなの、耐えろって方が無理なんだ。 仲間をぐちゃぐちゃにされて。 頼む。頼むから。 せめてもう少しだけ―― 時間をかけて―― ゆっくり悲しませてくれ―― ――ワタシは。 長い間、孤独と戦い続けていた。 知らない人。知らない土地。知らない世界。 耳を塞いで生きていくしかないと思っていた。 でも本当は、そんな生き方が耐え難くって……。 誰かと話したかった。誰かと遊びたかった。 誰かに……すがりたかった。 誰でもいい。誰でもいいから……。 孤独を癒す存在がどうしても欲しい……。 だからワタシには、ギフトが必要だったのかもしれない。 「ふぬぬぬぬ…………!」 「ぷはあっ! ふひー! やはり一人の力では動きませんか……」 このシャッター、なかなか強敵です……! 「ここを突破出来ると話は早いんですが……。 そう簡単にはいきませんね……」 それにしても……誰もいない……。 出口があるとしたら、やはり一階のどこかを考えるはず。 この辺りを探すのが普通かと思うんですが……どうして誰もいないんでしょうか……? 「皆さん……どこに行ってしまったのでしょう……?」 時計を見ると、もう20時50分を回っています。これ以上一人で探索しても、成果は得られないでしょう。 加えて、まころさんの件も気がかりですし……。 「一度合流して、状況を確認したいのですが……」 どこへ向かったらよいのでしょう? 「うーむ……困りましたねぇ……」 「……はて?」 今……前方から足音が……。 「ちょうど良かったですっ。一人では心細くて……」 「どなたでしょうかーっ!? フーカはここですよー! シャッターのとこにいらしてくださいましー!」 ………………。 あれ……誰も来ませんね……。 「おーい、どなたかいませんかー? おーい、おー…………」 「――ひっ!?」 ど、どうして……!? どうして背後に人影が……!? 「なっ…………!!」 誰……!? というか……いつからそこに……!? だって……ワタシの後ろにはシャッターしかなくて……!そこは通行不可能で……! どうやってシャッターに背を向けているワタシの後ろから……!? 「対象……発見」 「ど、どなたですかっ……!? どうやって、ワタシの背後に……」 「……っ!? 鎌……!? ほ、本物……!?」 暗闇の中で光を反射したその刃は、まるで夜空に浮かぶ三日月のよう。 光源なんてどこにもないのに! 「きゃあっ!?」 三日月が、容赦なくワタシ目掛けて振り下ろされました。 「はっ……はっ……え……? はっ、はっ、はっ……」 反射神経で避けたのではありません。 恐怖で腰が砕けて……そのおかげでなんとか刃から免れたのです。 「な、なぜそんな……え……?」 「……………………」 「誰……なんですか…………!? 何を、するおつもり、なんですか……!?」 「………………」 「どうして、何も……おっしゃらないんですかっ……!?」 「………………」 まるで、これが答えだと言わんばかりの一薙ぎ。 簡潔で、明確な示威行為。 この方……ワタシを殺す気です……! 「……っ!」 そう考えた時、ワタシの足は勝手に駆け出していました。 走りながら……ようやく感情が追いつく。この異常事態に恐怖してしまう。 「はっ、はっ……な、なんなんですか、一体っ……!」 振り返ると……。 「はぁっ、はぁっ…………え…………!?」 いない……! シャッターの前、誰もいない。 暗いから、見えてないだけ……?あの黒い姿が闇に紛れただけ……? い、いいえ……でも鎌の光は確認出来るはず……! それでも見当たらない。さっきまでそこにいたはずの山羊の姿が……どこにも……。 「一体……どこに消えて――」 「あひ…………」 また……この気配……! 「きゃっ……!! また、後ろに…………!!」 確かにいなかった。ほんの1秒前まで、そこに誰もいなかった。 一度前を向いて、咄嗟に後方を振り返って……。 そのわずかな間で、こんなにも距離を詰める事なんて出来っこありません……! 「あ…………な、な…………は…………!?」 まるで瞬間移動――!逃亡は不可能だと、本能的に思い知ってしまう――! 「………………」 「……対象、発見」 そして、山羊はそのまま―― 「――んきゃああっ!!?」 ワタシを力任せに押し倒して―― 「……殺す」 最悪の一言をもって、攻勢に出たのです―― 「――あ゙ああっ!!?」 逃げようとするワタシの髪を、乱暴に掴む黒山羊。 「はっ、はっ、くぅ……れ、レディの髪を…… そんな風に扱うなんて、穏やかじゃありませんよっ……」 「………………」 四つん這いになりながら、必死にもがいて前進しようと試みるも……。 「くっ、あぎぎっ……くっぎいっ……!!」 握られた髪の毛を思いっ切り引っ張り返されてしまうのです。 「は、放してくださいっ……何するんですかっ……! くっ、くぎぎ……ひっ、んぎぃ…………!」 「あなたは……一体何者なんですかっ……!? どうしてこんな事を……くっ、ぐぅっ……!!」 「殺す」 「どうしてワタシを殺そうとしてるんですかっ……!?」 「殺す」 「だから、どうして……っ!!」 「くぁっ!? あっ…………かっはっ……!?」 今……頭の中が、ガツンって……!! これほど追い詰められて、恐怖で脳味噌がどうにかなってしまったのでしょうか……!? 「うぅ……くぅ……あ、頭が……痛い…………! うっ……うっぐっ…………ぐうぅ…………!」 ピリピリと脳漿が弾けていく感覚。 まるで、脳内を炭酸水で満たされたような……。 「あ……? あ、あ…………?」 だから、気付くのが一瞬遅れてしまった。 山羊の手に握られている“それ”がワタシの視界に入って来たのは―― 「――がっぎゃあああっ!!?」 ――刺さってからの事でした。 「ぐっ、あっ……!! んがあっ!! くひっ、ぎっ……な、ナイフっ……!?」 いつ鎌から持ち替えたのか。 「くっぎっ…………ナイフが、あっ、かはぁっ……! 太ももに、あっ、くうっ…………ぐぐうっ……!!」 その鋭い刃は、ワタシの太ももに大きく突き刺さっていて。 血が……溢れてくる。 自分の部位とは思えないくらい、足が熱い。ドクドクとした脈動が、身体全体に異常事態を通達している。 「なんて事……するんですかぁっ……! くぅ、ぐうっ、ぐっ、あぐぐっ、くっぐうぅ……!!」 殺す、とは言われていた。 その殺意に、疑いは無かった。 でも……まさか本当にやるとは。 流血―― 取り返しのつかない攻撃―― 「あぐっ、足が……くっ、痛いっ…………! あぎいぃ……い、痛いですっ、くうっ……!!」 「こんな痛み……初めて……くぐううっ…………!! 感覚が、無くなるくらい……痛いっ……!」 脂汗が止まらない。 この一撃で、山羊の殺意が本物だと改めて思い知らされた。 逃げなくちゃいけない。 でも……! 「放してえっ……! 放してくださいっ……!! もう、こんな事……くうっ、はぐっ、ぐぎいっ……!!」 髪の毛を束で握られていて、逃げようにも上手く動けない……! そして、足の痛みがどんどんと抵抗力を削いでいく。失血が、意識を少しずつ奪っていく。 「はっ、はっ、はっ、はっ……こんな……はぐっ、うぐぅ、 痛い、痛いぃ……はっ、はっ、はっ……!」 呼吸が切羽詰まって来たところで―― 「――ぐぎぃええええっ!!?」 肩に新しい刃が突き刺さった。 「はっがあぁっ!!? あっ、があがああっ!!? くがあっ、あっ、ぎゃっ…………ぎゃがあっ!!?」 呼吸の乱れがさらに加速する。 「くぎゃあっ!!? あっ、がっ、がががっ…………!? ひっ、がひいっ! んっ、くぎいっ……ぎっぎいっ!!」 激痛が倍になった。 高熱も、痙攣も、眩暈も。 全ての害悪が、ワタシにもう一度降りかかってくる。 「肩ぁっ、がだあっ!! がっ、ぐがぁっ!! い、いだひっ、くうっ、んっ、んががあっ……!!」 太もも程深く刺さってはいないみたいですが、その分硬質な刺激がジクジクと疼いています。 鋭利な先端が、骨に突き刺さっているような……。そんな恐ろしい予感……! 「あっぎぃ……肩、はふっ、いっぎっ……! 痛いっ、腕が痺れて……感覚が、はっ、ひいっ!!」 痛みよりも、不安が大きい。 太ももも肩も、傷口より下の感覚が薄れているんです。 痺れて……動かせなくなっていくんです。 これ、ちゃんと治るのでしょうか。ワタシの腕は、足は、きちんともう一度動くようになるのでしょうか。 こんなに損傷されて……元に戻らないのでは……? 「あがああああああああああっっ!!! あっ、あっ、がぁあぁぁあぁぁぁあぁああっっ!!!」 だから叫ぶのです。 脳が勝手に、絶叫を命じるのです。 「うがああぁあぁああっ、あぎゃぁああぁあんんんっ!! いっぎいいいっ、ひぎぎぎぎぎいいいいいっっ!!!」 不安から目を背けるため。死の恐怖を一時的に忘れるため。 鬼気迫る咆哮で、精神を有耶無耶にしていくのです。 「ぐががっ……よ、よくもっ……!! ワタシの身体を、こんなっ……はっ、はっぎぃ、 穴だらけにしてっ…………!!」 「ゆ、許しませんよっ……!! 治療費、しっかり支払っていただくんですからっ……! んっ、ぐっ……ぐぎっ、ひぃ…………!!」 相手への非難を口に出来るくらい、ワタシの精神はまだ折れていませんでした。 ワタシは心のどこかで、まだ助かると思っているのです。 病院で治療して、傷を癒して、元の生活に戻れると思っているのです。 それは楽観とかではなく……この非常時にそう思っていないと心が死んでしまうから。 「はぁっ、はぁっ…………もう、こんな事は おやめくださいっ……くぐぎぎっ、ぎっひっ……! これ以上、ワタシを傷付けて……何になるのですかっ!」 「その狂気を自覚して……がぎっ……しっかり 反省するべきですっ……くっ、うっ、ぐっ……! はっ、はっ、はっ、はっ、はっ…………!」 怖いけど。立ち向かわないと―― されるがままだと、本当に殺されてしまう―― 「………………」 少しだけ、モゾモゾとした音。 布が擦れる音のような……。 また何か取り出した――? 「――お゙っぶっ!!?」 一瞬、ふわりと身体が持ち上がりました。 腰を突き上げられたから。 「え゙…………ぐっ、ごっ……!?」 なにで――? 「い、いだぁっ……いだひっ……!! おっ……ぎっ、ぎっ…………!?」 ペニスで―― 「あ、あなだ……ぐぎっ、ま、まざが……ぐぎぎっ! おっ、ごぉ…………!!」 どこに――? 「わ、ワダジの……おぐぅ……あぞごに……! おぢんぢんを――!」 肛門に―― 「――おじりに、おぢんぢんをっ!!」 「――ぐっっっっっっぎいいいいいいいいいいいい!!? おじりっ、おじりにおぢんぢんがぁああああああっ!!」 「何やっでんでずがあっ!! こんな時にっ、おぎっ!? 血だらけのメイド捕まえてっ、おじりぃっ、おじっ、 ひっ、アナルゼッグズだなんでえええっ!!」 「痛いでずうっ!! やべでぐだざひいいっっ!! おじり、ワダジの処女アナルっ、何勝手に 奪っぢゃっでるんでずがああっっ!!」 グリグリと巨大な棍棒のようなペニスが、肛門を圧し拡げて侵入してくる。 明らかな異物感。痛覚で、本能的に感じる。これは絶対人体に挿れてはいけないもの。 「出してくだざいいっ!! その汚いっ、ぢんぢんっ!! 狂人ぢんごおっ!! そんなもので、ワタシのお尻を 穢さないでぐだざいましいいっ、ひっぎいっ!!」 「………………」 「くぎぎぎっ……こ、こんな相手のために…… アナル処女を守って来たわけじゃありませんのに……! くっ……あぐぎっ、ひんぎっ……!!」 「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いっ!! お尻もっ、肩も、太ももも、全部痛いっ!! 何するんですかっ、このぉっ!!」 黒山羊は相変わらず沈黙を保ったまま。 しかし先ほどよりも意気揚々とした様子で、腰を前後に動かし始めるのです。 「ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ! ひんぎっ!」 快楽を求めるため……? 「ひがっひがっひがっひがっひがっひがっひがっひ ひがっひがっひがっひがっひがっひがっひがっひ ひがっひがっひがっひがっひがっひがっひがっひ」 いいえ、きっと違う。 まるで調教師が家畜舎の動物を鞭で世話するかのように。 「んがっ!? んがっ!? んがっ!? んがっ!? んがっ!? んがっ!? んがっ!? んがっ!? んがっ!? んがっ!? んがっ!? んがっ!?」 そのペニスで、情けない鳴き声を響かせるため―― 「おぐごっ、おぐごっ、おぐごっ、おぐごっ、おぐごっ! ぐぎゃぎ! ぐぎゃぎ! ぐぎゃぎ! ぐぎゃぎ! うごごっ、ぐごごっ、ぐぎぎっ、ごぎぎっ、がげげっ!」 ただひたすらに、ワタシを辱め、弄ぶため―― 「お゙ーーーーっ! お゙ーーーーっ! お゙ーーーーっ! お゙ーっ、お゙ーっ、お゙ーっ、お゙ーっ、お゙ーっ、 お゙っ、お゙っ、お゙っ、お゙っ、お゙っ、お゙っ――――」 「お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙ お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙ お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!!」 人間からかけ離れた奇声。 これまで積み上げてきたフーカ・マリネットの全てを否定するような、尊厳の一切を失った怪声。 「お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙っっ!!? お゙っ!? お゙お゙お゙お゙っ…………!?」 「お゙おぉぉ…………! お゙っ、お゙っ、お゙ぉっ……! おぉぉぉっぉぉぉ………………おぉぉぉぉぉ…………!」 その声も、少しずつ鎮まっていきます。 状況を把握しましたから。 「お、お腹ぁ…………! あ゙……お腹でずがぁっ……! お腹に……三本目ぇ……あふ、ぐっ……ナイフぅ……!」 脇腹に突き刺さった、死を誘う刃物。 希望を奪う冷徹な輝き。 「また刺ざればじだぁ…………! な、なんでずがごれ゙……がはぁぁ…………! なんが……出でばずっ……?」 ピンク色の管が、こじ開けられた脇腹の傷口から零れ落ちてしまっているのがチラリと見えました。 「だ、だいへん、でずっ……! しまわなきゃ……! んっ、ごれ……内臓の、どこか……じばわなぎゃ……!」 「――がふっ!! ごふっ、げっふうううっ!!」 「ぶふっ……はっ、はっ、はぁ…………はぁ…………! ああ……ワタシの……内臓がぁ……あひぃ…………!」 なぜか喉奥から血が込み上げてくるのです。 そういう器官を傷付けられたからに違いありません。 こういうの……テレビとかで見た事あります。 人が死ぬ直前の……そんな場面。 「はぁ、あひぃ……内臓……ひぃ……どこに、あひっ、 しまえばいいんでしょうか……ひっ、ひぃ……!」 いよいよ、絶叫すら失われてしまいました。 体力が低下し、精神力も低下し。いやでも死を直視せざるを得ない事態。 「死んで、しまいます……これ、出したままだと……! あひっ、ひぃ……死んで、しまう……ワタシが…… ひ、ひぃ…………ひぃ…………!」 このピンク色のブヨブヨした腸を辿って行って―― 「し、死にたく、ありませんっ…………! こんな、死に方……いや……でずっ……ぐぎひぃ……!」 その管の出口の中で待っているのは―― 「死にたくない……! 死にたくないっ……! 死にたくっ、ないぃっ…………! ひぃぃぃっ!!」 ――黒山羊のペニス! 「――ぐぐえぎゃぐえぎげぎゃぎげえぐげえええええええ ええええええええ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙!!!」 なんという事でしょう。 まだ叫べました、ワタシ。 「ぐぎゃぎゃぎゃがががぎゃがががあがががあぁっ!!? ぐがあっ!? あっ、んがぎがぎがぎがぎがぎがあ!!」 「はがああああああっっ!! はああっ!! があっ!! んがああっ!! あがあっ!! くがああっ!! ああっ、ああっ、ああっ、ああっ、ああっ、ああっ!!」 勝手に身体が声を絞り上げるのです。 まるで最後の力を振り絞るかのように。 「はっ、はっ、ひいいっ、背中っ、背中痛いっ!! おおっ、おおっ、死ぬっ、これ、死にまずっ!! おおおっ、死ぬ死ぬ死ぬ、おおおおっ!!」 全身が苦痛を訴えています。本能が恐怖を拒んでいるのです。 「――んひょおっ!? おっ!? おほおっ!!? おひっ!? ち、ちんぽっ、ちんぽおおっ!!?」 その絶叫に煽られるかのように、お尻の中のペニスも躍動を再開させ―― 「や、べでっ、ぐげひいっ!? ぢ、ぢんぼおっ!? ぢんぼでアナルっ、おぎひいっ!? ぢ、んぼおっ!! やだ、じぬ、じぬっで、おひ、ぢんぼでじぬうっ!!」 ワタシは露出した腸をブルブルと震わせながら―― 「おっぼっ!? おっぼっ!? おっぼっ!? ぢ、ぢんぼシコシコ、だずげで、くぎひっ!? おぼぼっ、ぐごおっ、もう、おひぎっ、ぎひいっ!?」 無数にこじ開けられた傷口から鮮血をピュッピュッと噴き上げながら―― 「あ、あ、あ、あ、勃起ぢんぼ、やべでぐだざひっ!! おっ、死ぬがらっ、死んじゃうがらぁっ!! おっ!! ぢんぼ、だずげで、ぐだざいまひいっ、んひいっ!!」 今際の刻みを、狂人の劣情で染め上げられたのです―― 「ひ、ひ、ひ、ひっ!! やだ、おっ、おおおおぉおおお おおぉぉぉおぉぉおぉぉぉおぉおぉ~~~~~っ!!?」 「おじりいっ!? おっ、おおっ!? おじりにっ!! アナルにっ!! おっ、ぢんぼがっ、ひいいっ!! じゃぜっ、おっ、おぎぎぎいいっ!!」 「あっ、だべっ、ぞれ、だべでずううっ!! んぎひいっ、おっ、やべで、おっ、やで、ずっ!! お゙っ、おおうっ!! お゙っほおおううううっ!!」 腸内に大量の白濁が注がれていくのを感じます。 「おっ、ひぎぃ…………!! ぐる、じっ…………!! ごぼばあっ!! がっふっ、がっふぶうっ!! 血っ、ぢいっ、止ばりばぜんっ、がっふうっ!!」 「げふっ、おごっ、ぎゃふっ、んぎっひいっ…………!! げっふうっ、ひんぎ、おぎ…………お、ぢ、ぢんぼ、 もう……勘弁、じで……ぐだざひ…………ひぎぃ……」 排泄と逆方向の注入に、嫌悪感が肥大化し―― 「あっぎ……身体の力が……あぐ、ひぎっ……!! お、おぎひ……おっ、おっひっ……ぐひっ……!! ん、んがぁぁ…………!」 それがワタシの残りわずかとなった意識を根こそぎ奪うトドメとなったのでした―― 「が、がひゅー…………がひゅー…………! がひゅ、がひゅ…………あんが、がひゅー……!」 もう、何かを感じ取る理性などほとんどなく。 「ひゅー……ひゅー…………! い、いや……でず……おぶ、ぶふ…………! お、おぐぶっ、ワダジ…………死ぬ…………おぉ……」 血の臭いがすごいな、とか……。さっきまであれだけ熱かったのに、今はもうすっかり寒いな、とか……。 そういう事しか考えられなくて。 「がふっ、げふっ……! がひゅー……がひゅー…………。 ひゅー…………ひゅー…………ひゅー…………ひゅー」 ワタシは、最後の一本に気付きませんでした。 「――んがっ」 「………………」 「お、おお…………んが…………が、がぁ…………! がぁ…………が…………がが…………が…………」 「が…………が…………が…………んがぁ……――」 「………………」 ――絶望の扉。 ――希望を拒む隔壁。 おそらく……このシャッターは、俺達をEDENに閉じ込めるために、殺人鬼が用意したのだろう。 「くそっ! なんなんだよ一体っ……!!」 苛立ちをシャッターにぶつけるメガに、もはや誰も声をかけない。 人がたくさん死んだ。わけわからないまま……大切な仲間が死んだ。 このシャッターさえ無ければ、きっとこんな事にはならなかったはずだ。 いや……もっと前から。 もとを正せば……例えば歓迎会なんてしなければ。 転入生なんていなければ。 転入生……。 転入生―― 転――入――生――? 「――ね、ねえ……あれ、何……?」 「………………」 霍の言葉に、ふと顔を上げた。 声を出す力はもうない。 首をゆっくり動かしながら、霍の指差す方向をユラリと眺めた―― 「ぁ……」 彼女は、他の生徒と違って―― 「あぁぁ………………」 トレードマークがあるから―― 「ああああっ…………!」 トレードマークが“あった”から―― 「うう…………う、うう………………」 すぐにわかる。わかってしまうんだ。 その血塗れのメイド服のおかげで―― 「フー……カ……さん…………」 頭部が無くても、彼女だとわかる。 優しくて、健気で、たまにふざけてくれて。 こんな事になっていい少女じゃなかった。 「ちっ…………」 シャッターを叩いた音が、静寂の地獄にこだました。 フーカの死をこれ以上直視していいかどうかわからなくて。ぼんやりと無防備に視線を泳がせて。 そしたら隣でメガが瞳に溜まった涙を拭いているのが見えて。 もう一度、不条理な悲しみに襲われた―― 思考が、覚束ない。 足取りが重く、眩暈が酷い。 自分が今、何をしているのかすら把握できていない。 「……………………」 5人が死んだ。5人が。 まころが。筮が。御伽が。つつじ子が。フーカが。 5人だぞ? その喪失感だけが、自分をどす黒く塗り潰していく。 こんな……まるで廃人のような状態で。 何が出来るだろう……。 もう……ここから逃げる事も……。 誰かを守る事も……。 生き延びる事も……。 「……………………」 「……あ…………れ…………?」 ――ふと気付くと。 周囲に誰もいなかった。 「え…………? あれ……? え……?」 まるで、皆が静かにこの暗闇に飲み込まれていったように。 ゆっくりと消失したかのように。 俺だけが、地獄に残された。 「皆……? どこ、行ったんだ……?」 まさか……! 皆も、あの黒山羊に―― 「…………」 ……足音だ。 はぐれた誰かがこっちに近付いているのかも―― 「――っ!」 違う……! この足音……! あの、黒山羊の―― 「…………っ!!」 「………………」 「……対象、発見」 「なっ……!」 対象……! 俺を―― 殺す気だ――! 「――っ!」 何よりもまず、足が動いていた。 あんなに茫然と彷徨っていたのに。 リアルな死の危険を目前にして、危機意識が警鐘を鳴らし、全身を奮い立たせたのだ。 「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……!!」 とにかく、逃げなくちゃ……! どこでもいい! こいつから、少しでも離れた場所へ! 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!!」 振り返る余裕もなく。順路を考える余裕もなく。 無我夢中で、目の前の道を全力で走り続けた。 そして、辿り着いたのは―― 「――はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……!」 「……なんだ、ここは……」 そこは、地獄にお似合いの狂った世界だった。 「なんだよ……どうなってんだよ……!」 夜……というにはあまりにも赤い。 この赤は何の赤だろうか。 ここが地獄である以上、きっと血の赤に違いない。 「いつから……こんな……世界が、おかしく……」 「――っ!」 背後から、地獄の主の足音が聞こえてくる。 「……………………」 ゆっくりと。一段ずつ踏みしめながら。屋上へ接近している。 「く……そっ……!」 この先に道はない。 逃げ場はないんだ……! だって……こんな世界。きっとEDENから出られたとしても。 この島を覆う赤は、天使が住むにはあまりにも禍々し過ぎる。 EDENも……天使島も……。 もう、おしまいだ―― 黒山羊は―― 地獄に舞い落ちた俺を歓迎するための土産物を用意してくれていた―― 「あ゙…………あぁぁ…………!」 5人の首……! 彼女達の死を再認識させる明確な証拠品。 表情が……もう……どれも、あまりにも絶望的で……! 「くっ…………ううっ…………くぅぅっ!!」 苦しみながら死んでいったんだ!優しい少女達なのに! 他人を傷付けるような人間じゃなかった!周りを不幸にさせるような人間じゃなかった!誰一人として、こんな終わり方を迎えていいはずなかった! 不条理な怒りと悲しみが―― 「ゔ……ぁぁ…………!」 目の前の巨悪によって暴力的に書き換えられていく。 “恐怖”に。 俺ももうすぐ……あんな顔になるのだろうか―― 「……………………」 「……もう終わり」 え…………? 「……私の復讐は、もう終わり」 「この世界も、もう終わり」 「…………っ!」 その鎌が、振り上げられた。 黒い殺意に、足が竦む。 逃げられない。 「………………」 「……さようなら」 殺される――! 「……………………?」 生き……てる……? なんで……? 「――っ!」 「――屍……っ!!」 意味がわからなかった。 だって彼女が俺を救うなんて、到底思えなくて。 「なんで……お前が、ここ、に……」 ただただ恐怖の対象として、自分の中で刻まれている存在。 いつだって本当に謎で。誰も彼女を正しく認識出来なくて。 「何しに、来たんだ……?」 俺はなぜか……なぜか屍が怖い。 「まさか、お前……また――」 俺を殺す存在だから……? 「俺を……殺しに……?」 だとしたら、最悪の組み合わせじゃないか―― 「……もう、いいから」 「え…………?」 「もう十分だから」 屍が、黒山羊に何かを呼びかけている。 知り合い、なのか……? 「これ以上は、誰も喜ばない」 「あなたがそれを判断する事は出来ない」 「それは……そう……だけど……」 「それでも私は……少なからず、オリジナルの意志を 継いでいて……」 「まがい物なりに……わかる事だってある……!」 「………………」 「私は……こんな事、もう……喜ばない」 「これは……期招来那由太が望んだ事」 え…………? 俺が……? この状況を、自分から……? 「彼は自ら、苦しみを欲した。 罪滅ぼしの機会を欲し、そのたびに死を欲した」 「すべては期招来那由太の望み。 だからこうして――」 「――もう……解放してあげようよ…………!!」 「………………」 屍…………! なんで……泣いてるんだよ……!? 「――ねえ……」 「ねえ……ちゃんと聞いて」 「…………え……?」 「前にも言った……私の気持ち。 心から、本当にそう思うの」 「今の私の言葉だから……偽物かもしれないけど……。 あなたの心には、届かないかもしれないけど……」 「それでも……こんな世界で、こんな器で、 こんな状況で……どうしてもあなたに 伝えたいから……だから……ちゃんと聞いて」 「――那由太、私ね……怨んでないから……!」 「――ううっ…………!!」 「うおおっ……うっ、おっ、おぉぉ…………!!」 そうだよ……! そうだったじゃないか……! 俺が勝手に勘違いして、すべてを背負った気になって……! 彼女は俺を恨んでいないんだ――! どうして俺は、その事を―― ああ―― 俺も彼女と、まるで同じだ―― 涙が止まらないんだよ―― だって俺の名前、初めて呼ばれた。 ……いや、違う。 前にも、その声で―― 優しい声で――優しい笑顔で―― 今さら気付いたよ。 この世界は、悪意なんかじゃない―― ああ……あったかい。とても安心できる。 ありがとう。ありがとう。 俺を救おうとしてくれて、ありがとう。 君のその優しさが。すごく嬉しくて。  ずっと後悔してたんだ。  この罪を、どうにかしたかったんだ。  君に許される事だけを夢見て――   君はもう、俺を殺してくれない――   俺の中のギフトは、完全に消え去って――   でもね、思うんだ。   ギフトは消えても、罪は消えない――        だから、俺は――  罪人として、俺がこれからしなくちゃいけない事は――           ――この世界は、  である。        が  を  し、  が  し合っている。        の  が  する時、世界は  へと変性する。           この世界は、  である―― ねえ……。 「……ん?」 大切な人の事、ちゃんと覚えてる? 「ああ……もちろんだよ」 「フーカに……つつじ子に……御伽に…… 筮に……まころに……」 「メガに……彬白先輩に……晦に……霍に……志依……」 「大丈夫。一人も忘れてないよ」 「大切な人の事、忘れたりするもんか」 そっか……うん、そうね。だったら……もうここから出ましょう。 ここは楽園の島……。天使でもない人間が……ずっといるべき場所じゃないわ。 「ここから出て……どこに行くんだ?」 あなたの在るべき場所へ。 「どうやって行けばいいんだ?」 扉があるわ。そこから出ればいい。……でもその扉には鍵がかかってるの。 「鍵……?」 ええ。鍵が無いと、その扉は開かないのよ。 「どうしよう……俺、鍵なんて持ってないよ」 安心して。あなたの部屋にちゃんとあるから。 「そうなのか……?」 ええ……あなたにとって、もうこの世界が必要無いなら……鍵は、簡単に手に入るはず。 鍵を見つけて、その鍵で扉を開けるだけよ。そしたら……。 「そしたら……?」 その時は、本当のさよならね―― 「――ん…………」 教室の喧騒で目が醒める。 「やばい……寝てた……」 気が付けば熟睡。 いつから寝てたんだっけ……。 「――出席をとります」 「被験番号0060 飯槻メガ君」 ああ、そうか―― 「被験番号0068 彬白夜々萌さん」 俺……夢を見ていて―― 「被験番号0070 叶深霍さん」 本当に本当に……長い夢で―― 「被験番号0084 安楽村晦さん」 大切な人……忘れたくないよ―― 「被験番号0100 黒蝶沼志依さん」 行かなくちゃ―― 「…………そして……」 「期招来……那由太君…………」 「……………………」 「…………はい」 静かにそう返答した後―― 俺は教室を後にした―― 「よお」 「メガ……」 「行こうぜ」 「……ああ」 「俺よ……船に憧れてんだよ」 「……どうして?」 「この島は、俺には狭過ぎんだよ。 まるで監獄じゃねえか」 「なあ……もういいだろ。 そろそろこんなとこ、おさらばしちまってもよ」 「………………」 「ああ……そうかもな」 「お嬢様、見てください。男同士の友情ですよ」 「いいねえ、熱いねえ……!」 「……なあ、期招来よお」 「……ん?」 「俺達、いいダチだったよな!」 「………………」 「ああ。親友だ――」 あの場所へ行くのは、気が進まない。 だから、途中まで―― 「……………………」 この先は神聖な場所。気軽に立ち入ってはいけない。 神聖……か。 もう一か所。この島に神聖な場所があったな。 どこ……だったかな。 とても広くて――静かで―― 「ねえつつじ子。こういう時、何て言うか知ってる?」 「うん、知ってるよ。 “コートゥリーヌレータルシァ・サバト・リフォシェス” だよね、お姉ちゃん」 ああ、そうだ―― 海の見える、あの場所だ―― 「期招来……」 「よう、霍」 「どこ行くー?」 「……あっちはどうだ?」 「うん。いいよー」 「あたしさー。実家に弟とか妹とかがいんのね」 「うん」 「こうして一人で島で生活してると…… 家族の皆に会いたくなる時がある。 一人だとね、寂しいんだ」 「だから、早く病気治して……おうち戻んの! ね!?」 「家族を大切に出来るって……羨ましいな」 「ゆっふぃん先輩には猶が付いてるじゃないですかー!」 「期招来も、早くおうちに戻れるようになるといいね!」 「そうだな……ありがとう」 家に戻る前に……俺がまず戻るべきは―― 「ようこそ、那由太君」 「彬白先輩」 「私の懺悔……聞いてくださいますか?」 「私も……例に漏れず、愚かなギフトなんです」 「どうも、スイッチが入ってしまうと…… こう……可愛い後輩ちゃんにちょっかいを 出したくなってしまうというか……」 「ちょっかいっていうか…… あれはもう、ドSな女王様って感じだったよ」 「無論、俺はアリだがな」 「その節では、ご迷惑おかけしてしまい…… 申し訳ございませんでしたわ」 「いえ、気にしてませんよ。大丈夫です」 「どうやら、私がEDENを卒業するには もう少し時間が必要なようですわね」 俺に必要なのは、時間じゃなくて―― 「期招来君ー」 「晦……」 「えへへー。なんだか懐かしいねー」 「そう……かもな」 「期招来君は……楽しかった時の事、 ちゃんと覚えてるー?」 「……ごめん。思い出せないんだ。 何も……覚えてない」 「そっかー……でも仕方ないよー」 「過ごした時間は、本物だよ」 「四人で部活頑張った事、私の誇りよ」 「いつか……色々思い出せるといいねー」 「……そう、だな」 辛い事ばかり、思い出してしまいそうだ―― 「………………」 ……それでも俺は。 愚かしいほどに、何も覚えていなくて。 何かを忘れている気がする。 でもその“何か”がわからない。 だからそもそも、別に何も忘れていないのかもしれない。 忘却の有無すら、自覚出来ない。 何も忘れてなければいいな。 だって、俺には今の仲間で、十分だ。 「フーカに……つつじ子に……御伽に…… 筮に……まころに……」 「メガに……彬白先輩に……霍に……晦に……志依……」 ……うん。十分過ぎる。 俺なんかには勿体無いくらいの仲間達だ。 誰一人欠けずに、今日まで迎えられてるはずなんだ―― 「あ…………」 ふと、ある疑問が頭に湧き起こった。 「そう言えば……転入生って誰だったんだろうな……」 こんな離れ小島にやってくる転入生なんて。普通あり得ない。 いつか、誰かが、女子だと言っていた。 彼女もまた、患っていたのだろうか―― 「……ふう」 随分と疲れている気がする。 何も考えずにこのまま眠ってしまいたい。 永遠に……眠ってしまいたい。 「……………………」 「………………鍵……」 なぜか、その事だけは頭の中にくっきりと残っている。 鍵が……必要らしいんだ。 どこかの扉を開けるための鍵。 それはもう、すぐそこにあるって……とても優しい人が、そう教えてくれた。 特にこれといった確証があったわけではない。 しかし、ここしかないと思った。 「…………あった……!」 銀色で無骨な形の鍵が、机の引き出しの中から見つかった。 「…………どこの扉の鍵だろ……?」 というか……そもそも俺、なんで鍵なんか―― 「…………ん?」 引き出しの奥に、ピンク色の何かが入っているのを見つけた。 「なんだ……これ…………?」 封……筒…………? 誰からだろう……?住所も、差出人の名前も無い。 「………………」 開けて、確かめる事にした。 出てきたのは、一通の手紙―― 「あ………………」 この言葉―― 前に一度、言われた事がある―― 大切な人が遺してくれた、大切な言葉―― 「ああ…………あああっ…………!!」 俺は―― なんて愚かな事を―― 「――あら…………」 「はあっ! はあっ! はあっ!」 「期招来君。どうしたの? そんなに慌てて……」 「志依――! どうしよう……! 俺…………俺…………!!」 「きゃっ!? お、落ち着いて、期招来君っ……!」 「大切な人を忘れてて、ずっと思い出せてなくて……!」 「すごくいけない気がする……! こんな事、許されない気がする……!」 「わ、わかったからっ……一度落ち着きなさい……」 「俺…………俺っ…………!」 「………………」 「――泣いているの?」 「……うん」 「……そう。いいのよ。泣いたっていいの」 「涙を流すくらい弱虫になれるのは、 優しい人間だけに許された権利よ。 遠慮せずに、誰かに優しくしてあげなさい」 「その誰かを……俺は……」 「……思い出してはいけない事だってあるわ。 忘れる事でしか強くなれない人だっているの」 「忘れちゃいけない事だった気がする……!」 「でも……忘れてしまったんでしょう?」 「思い出せないっ……!」 でも……でも……! 「彼女の笑顔は、俺なんかより よっぽど優しかった気がする……!」 「…………何か思い出した?」 「……一つだけ。たった……一つだけ、だけど……」 「十分だわ。聞かせて?」 「……この腕時計は、俺が壊したんだ。 あの時、必死で……あいつと戦いながら……」 「この時刻だけは、忘れちゃいけないって思った。 自分が消えても、意識が奪われても…… 気付いた時には全て終わっていたとしても……」 「あの時の……あの瞬間だけは……! 絶対に……忘れたくなくて……!!」 そうだ……。 消えゆく自我の中で、俺はそう心に決めて……! 「偉いわ……本当に偉い。 大切な事……ちゃんと思い出せたじゃない」 「俺の時間は、あの日から止まったままなんだ」 「ええ……でもまたすぐに動き出す。 いい、期招来君。よく聞きなさい」 「どんなに真っ直ぐ生きていても、たった一つの失敗で、 積み上げてきた信頼が壊れてしまう事もある」 「だからって、それが真っ直ぐ生きる事を やめる理由にはならないのよ」 「……頭を出しなさい」 「……うん」 「……いい子いい子。本当に……いい子なのよ、あなたは」 「だから……これ以上苦しまないで。 優しいあなたのままでいて……」 フーカに……つつじ子に……御伽に……。 筮に……まころに……メガに……彬白先輩に……。 晦に……霍に……そして、志依……。 ああ……。 足りない気がする―― 他にも、たくさんの仲間がいた気がする―― 俺はもしかして……。 大切な仲間を、忘れてしまっているのか――? 「……もう大丈夫?」 「……うん。頑張って、一人で歩いていく」 「どこに行くの?」 「本当の自分がいるところ」 「そう……素敵だわ。出来れば私も一緒に行きたい」 「……でも無理ね。 そこに私の居場所は……きっとないもの」 「志依…………」 「そんな顔しないで。私なりに…… 最後にあなたに優しく出来て、嬉しかったわ」 「私はあなたに幸せになって欲しいけれど…… それを決めるのはあなただから。 だから、私からはこれ以上何も言えないわ」 「さようなら。楽しかったわ。 あなたの事、忘れない」 「……………………」 ……ありがとう、志依。 こんな俺が、幸せになる方法は―― おそらく、ただ一つだけ―― 「じゃあな、親友!」 ありがとう、メガ―― 「那由太君……色々お世話になりました」 ありがとう、彬白先輩―― 「ばいばいー、期招来君ー」 ありがとう、晦―― 「へへへ、期招来。あんたいいヤツじゃん」 ありがとう、霍―― 「……………………」 ――進むんだ。 ケジメをつけに。 「……………………」 「……行こう」 「お待ちしておりました」 う―― 「私……早く元の場所に帰りたいよ」 うああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! 「……そう……だな」 「準備は、出来てる?」 あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!! 「ああ……」 「それじゃ、さっさと行きましょ」 うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!! 俺は―― うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!!! 彼女達に案内されて、扉の前へ―― なんで……なんで皆の首が…………!!? 「鍵はお持ちですか?」 「ああ。あるよ」 フーカは最初、眼帯なんてしてなかったはずだ! 「それさえあれば、ここはちゃんと開くから……」 つつじ子だって右腕はあった! 「私達がお見送りできるのは、ここまで」 御伽は本当は男性で――! 「……そうなのか?」 「これから先は、自分一人で行ってらっしゃい」 筮は火傷なんかしてなくて――! まころは喋る事が出来た――! 「……………………」 「……そっか。わかった」 この世界はおかしい! 狂ってる!! 「それじゃあ……皆。さようなら」 どうして身体の部位が失われていくんだよ!? どうして仲間がいなくなっていくんだよ!? 真っ暗の中、階段をゆっくり下る。 長い一本道を経た後―― 一つの扉が見えた。 「………………」 手をかけて、ゆっくりと開く。 止まってしまった時間を―― もう一度、動かすために―― そして俺は―― すべてを思い出した―― ――私は、その世界をログワールドと名付けた。 ログ(log)とは、現代脳科学において記録や記憶を意味する単語だ。 この事件は、彼の脳のログが大きな手掛かりとなった。 いや、彼のものだけではない。 彼女達のログも、また。 私の最終的な動機は、そこにある。 彼女達のログを暴いた時、この世界の必要性を痛感した。 ――ログワールド。脳の記憶……記録の世界。 ログには、もう一つの意味がある。 それは―― 「――ゅにん……しゅ……にん……」 「葛籠井主任……葛籠井主任――」 「…………ん?」 「どうしたんですか? ボーっとして……」 「…………なんでもないわ」 「そう……ですか。 お疲れでしたら今日はもう帰られた方が」 「そういうわけにいかないわ。仕事は山積みだもの。 週末の本部への定期報告書をまとめておかなくちゃ」 「主任のその情熱、私尊敬します。 本部の人達にも、きっと伝わってると思いますよ」 「……ありがとう。でも、いいのよ。 何度も言ってきてるけど…… キャリアアップはもう諦めてるから」 「そ、そんな事ないですって! ここでしっかり成果を出したら、きっと――」 「――今日の分のカルテは?」 「……主任」 「本当に、もういいから」 「……それでも私は、主任の事尊敬してますから」 「EdEn計画を考案して、現場の道を選んで。 研究者として、とても立派だと思います。 EdEnの職員は皆そう思ってるはずですよ!」 「脳科学の発展と、障害の理解、差別の撲滅……。 私達は皆、主任の意志に従いたいって思って この島に来てるんです」 「そう言えば聞きましたよ。EdEnって名前、 End of disorder, End of neglectの頭文字だそうですね」 「障害を終わらせよう、虐待を終わらせよう……。 人格障害者達の楽園を目指す主任の優しい心が 十分に表れた、とってもいい名前だと――」 「――カルテを」 「………………すみません」 「……あまり無理はしないでくださいね。 今日の被験者観察記録、ここに置いておきますので」 「………………ふう」 すっかり冷めきったコーヒーを啜って、時刻を確かめる。 うんざりしているわけではない。研究チームの部下にそう言ってもらえるのは、確かに嬉しい。 しかし私は、このプロジェクトの評価など本当に求めていないのだ。 本土での生活が懐かしく思える日だってある。 かつて脳科学研究で数々の成功を修めた私は、確かにエリートだった。 本部の研究に招集され、政府関係者にも優待され、脳科学分野における役員キャリアの邁進を期待された。 それでも私は、現場を選んだ。自分の知的欲求を優先した。 EdEnでの研究の計画書は……上層部に対しての、半ば決別書のようなものだった。 自分で島流しを選んだ。自分からエリートの道を閉ざした。 誘惑を拒み、研究に没頭するための方便。EdEn計画にはそんな一面も、少なからずある。 そう―― 私は“彼ら”に、興味があるのだ―― EdEnにある唯一の門をくぐる。 裏口や通用門などはない。出口を増やすとそれだけ被験者脱走の可能性が高まる。 我々職員も含めて、この施設への行き来はここを跨ぐしかないのだ。 早朝という事もあって、人影はほとんど見受けられない。 私は、朝のEdEnの空気を密やかに好んでいる。 この施設が優しい顔を見せる唯一の時間。 静かに感傷出来る数少ない刻。 「……まるで学校の教員ね」 そう例えるなら、EdEnに通う被験者達は患者ではなく生徒と呼べるだろうか。 現在このEdEnには26名の被験者が在籍している。 と言っても、名簿リストに並ぶ名前はその二倍の52名分。 26名それぞれを奇数番号に振り分け、その一つ後の偶数が、その人物の所有するギフトの被験番号に該当する。 ギフトも在籍者として人数に含める。煩わしい人権団体との協議の末だ。 ここの被験者は、様々な病を持っている。それは、奇数番号の主人格もそうだし、偶数番号のギフトももちろんそう。 制服を拒否してメイド服を着ている者。妹なのに長女だと思い込んでいる者。足が悪いと思い込み車椅子で生活している者。性同一性障害者。同性愛者。本当に様々だ。 振り返ると、治療を終えて“卒業”した患者達の数も随分と増えてきた。被験者の番号が少しずつ大きくなっている事が、ここの実績の積み重ねを物語っている。 被験番号で言えば……もちろん、彼だけは特別。 その重度に合わせる形で、特殊な番号を割り振った。 EdEnを学校っぽい建物に要請したのは私だ。 若い被験者が中心となるこの建物において、教育施設として、最低限の教育カリキュラムを施す事を理由としている。 正当な理由である一方で、建前である事も否めない。 被験者に擬似的な学園生活を送らせたらどうなるか。そんな好奇心が私の中にあるからだ。 研究は、順調に進んでいる―― 仕事場に到着してまず最初に行うのは、コーヒーメーカーのスイッチを入れる事。 私の脳も、この閉鎖的空間のルーティンで随分異常をきたしているようだ。 「……ずずず」 甘くもなく、苦くもなく。 「今日の検査は……10時からか」 今朝は少し余裕がありそうだ。 だからだろうか。 胸ポケットに忍ばせている家族の写真をふと取り出した。 「………………」 隙だらけの顔を晒す。 自分が冷徹な研究者から一人の人間へと解凍される、数少ない瞬間。 病死した夫。本土に残してきた娘。 空想で塗り固められたドラマや映画に登場する理想的な家族のような。 そんな優しい一枚だった。 今の私には、遠い異国のおとぎ話から切り取られた一場面にしか見えないほどの不慣れな眩しさだ。 この写真を眺めている時だけ……妻として。母として。女として。自分を探訪する事ができる。 胸に潜ませたこの一枚は、家族を捨てて研究に逃げた自分を咎めてくれる、有難い存在なのだ。 「――どうぞ」 「失礼します。これ、今日の分の脳波資料です」 「朝早いのね」 「葛籠井主任こそ。……ご家族、ですか?」 「え……? ああ、いいのこれは。気にしないで」 すぐに写真をポケットにしまう。 「離島ですからね……。主任くらい忙しい立場になると なかなか本土に帰れないでしょうから、お気持ちは お察しします」 「いいのよ。自分で選んだ事だから」 「この島は薄暗すぎます。本土に比べて何もない。 あるのは……我々研究者と、悲しい運命を背負った 若者だけです」 「悲しい運命なら、きっと私達も背負っているわ」 「商店街にあるこの島唯一のレストランには 行かれてますか? 私、全部のメニューもう 食べ尽くしちゃいましたよ」 「EdEnは言うなれば患者の隔離施設よ。 それを受け入れてくれただけでも、 島民に感謝しなくちゃ」 「その際、莫大なお金が政府から流れたって噂ですけど」 「さあ……どうかしらね」 無味乾燥なコーヒーの味が、話題をリセットしてくれる。 「――この被験者」 「え……? ああ、はい」 「今日も一応、検査をしておきましょう」 「一昨日済ませたばかりですよ?」 「……ちょっと、確認したい事があってね」 「……確かにステージレベルはかなり危険域ですけど。 身体の事もありますし、暴力性はそこまで特殊じゃ ないと思いますけどね……」 「まあ……一応、よ――」 ――5歳の時だった。 家族を失った。 一人になった。 飛行機事故だった。 奇跡的な生還者と持て囃されて、何一つ嬉しくなかった。 両親を失う代わりに、大きな後遺症を得た。 長い長い余生が、絶望に変わった―― 「……………………」 ――ゆっくりと、目を覚ます。 いつもの日常が始まる。 天使島での、EdEnでの意味のない毎日。 ただ、自分にとっては少しだけ心地が良かった。 自分は普通に生きていく事が出来ない人間だから。 むしろこうして、世間から異分子扱いされて離島に隔離された方が、安心できる。 自分には自分なりの生き方がある。それは、一般人が溢れる社会では実現出来ない。 異常者たちの集まるこの島の方が、俺にはよっぽど有難い。 だから、ここで十分だ。この小さな世界で、俺は満足なのだ。 天使島は――EdEnは――この世界は―― 楽園である―― 「――那由太君っ」 あ、御伽だ。 「ふふっ、朝から那由太君に会えるなんてラッキーだな♪」 相変わらずの笑顔。同性とは思えない華やかさだ。 「那由太君は今週の検査もう済んだんだよね? 私明日なんだー。あー、憂鬱だよー」 「検査の時上半身裸にさせられるでしょ? それが嫌なんだよぉ。なんだか恥ずかしくって」 確かに……。俺もあんまり裸になりたくない。 先生が女性だから、なおさら意識しちゃうんだ。 「でもま、那由太君の前だったら裸になっても いいんだけどね。ほら、私のおっぱい見てみる?」 「――!」 「あはは、赤くなってるー! 可愛いなあ、那由太君は」 男相手に何考えてるんだ俺は……! 「あ、待ってよ那由太くーん!」 ばつが悪くなった俺は、その場から逃げ出した。 「あ、那由太じゃん。おはよっ!」 校門前で筮とすれ違った。 ……って、なぜすれ違う!? 「ああ、これから商店街に行くんだ。 ノート買っておくの忘れてて。 まだ時間あるし今のうちに一っ走りってね」 「昨日お店に行ったんだけどさ。 被験証部屋に置きっぱにしてて買えなかったんだよ」 俺達被験者は、島で何かの買い物をする時には必ず被験証を店に提出しなくてはならない。 そうする事で、被験証の個人データに買い物履歴が残る。同時にそのデータがEdEnの研究班に送られる。 EdEnの研究者達は、俺達がいつ何を購入したのか常にチェックしているのだ。 おそらく危険なものを入手していないかどうか、目を光らせているのだろう。 「……って、あ……ごめん。 那由太は買い物しちゃいけないんだったよね。 変な話しちゃった。気にしないで!」 「それじゃ、行ってくんね。 那由太、また後で教室でっ!」 朝から元気な筮を見送って、俺は再び校舎へ歩き出した。 「あら、期招来さんじゃありませんか。ごきげんよう」 丁寧にスカートの裾をちょこんと摘まんでお辞儀をするフーカ。 「本日はお日柄よく……那由太く、期招来さんも いつものごとくイケメンです事ねえ。 おほほほほほほほ」 「………………?」 なんかフーカ、ちょっと様子がおかしいような……。 「うう……フーカの喋り方って 慣れないんだよなぁ……」 「ま、まあともかくですね! 今日もワタシはメイドらしく、メイドパワー全開で 頑張りますです事よ! おほほほほっ!」 「………………」 うーん、やっぱりなんかおかしい。 でも実は、それは今日に始まった事じゃない。ちょっと前からずっとあんな感じなんだよな。 イメチェンしようとしているのかも。 教室に入ると、もうすでに何人かの被験者が席に座っていた。 被験者の症状レベルは様々だ。 例えばこじらせ過ぎて、日常生活を送るだけで精一杯の人間もいる。 そういうヤツとは、喋ったり、コミュニケーションしたりという事は基本出来ない。 誰と会話する事も無く。まるで機械のように、EdEnと寮の行き来を漠然と繰り返している。 授業中突然暴れたり、奇声を発したり。そんなヤツもいる。 職員も扱いに慣れているから、別に驚いたりしない。俺達被験者も“ああ、またか”くらいにしか思わない。 とはいえ、そういうヤツがたくさんいる事を考えると、自分の病状はもしかしたら恵まれてる方なのかもしれないと考えてしまう。 ……ステージレベルは最悪なのに。 「期招来君、おはよう。ねえ、あの話もう聞いた?」 つつじ子が意味深な話題を持ちかけてきた。 「うちの子が昨日の夜、路地裏で暴れたって話だよ」 「寮を抜け出して徘徊してたみたい。 暴れてるところを警備員に見つかって 取り押さえられたんだって」 「牢獄行き……だよね」 「………………」 牢獄とは、俺達被験者が勝手に名付けている場所だ。 ギフトを発動させ暴走した被験者は、日常生活を正しく送れないとみなされ、EdEnの被験対象から除名され、別処遇となる。 職員によって牢獄のような場所に閉じ込められて、強制的に脳をいじられるって噂だ。真相はわからない。 「また島の人達に怖がられちゃう。 同じ被験者でも、真面目に生活してる私達は そんな事しないのに」 「あ、そうだ。期招来君、薬足りてる? 私のあげよっか?」 大丈夫だよと手を振ろうとするよりも早く、俺のポケットに薬を入れてくるつつじ子。 「はいっ。ふふっ……お礼は今度でいいから♪」 「……………………」 ……全く、調子のいいヤツだ。毎日チャイム聞いてるから、薬なんて必要無いのに。 そんなところで、葛籠井先生が教室に入って来て、朝のHRとなった。 「――それでは、出席をとります」 「被験番号0051 四十九筮さん――」 ……さて。授業も終わったし、帰るとしようか。 「あ、期招来君。丁度良かった」 廊下を出た途端、まころに話しかけられた。どうやら俺を探していたみたいだ。 「あのね、葛籠井先生が呼んでたよ? 保健室に来て、だって」 ……? 何の用だろう。 「……もしかして何かいたずらでもしたー? 期招来君、意外と子供っぽい?」 まさか、そんな事はないと思うが。 しかし……葛籠井先生に呼び出されるとなると、おそらくこの症状の事についてだろう。あまりいい話じゃなさそうだ。 「葛籠井先生、期招来君の事いっつも目にかけてるよね。 レベルが高いからなのかもしれないけど……」 「ねえ、期招来君。何かされたらいつでもわたしに 教えてね。相手が職員だからって我慢する必要は 無いんだよ? わたしが守ってあげるんだから」 まころ……なんだか葛籠井先生をライバル視してる? 「………………」 それはともかく。 言われた通り、先生のところへ行かなくては。 「――どうぞ」 保健室に入ると、いつものごとく独特の薬品臭が鼻の奥をつんざいた。 「……ここに座って」 どこの国の言語かわからない文字が並んでいる書類。用途のわからない埃をかぶったガラス瓶。 そんないつもの光景を眺めながら、言われた場所に腰を下ろす。 「一昨日の検査の続きだと思って。 大した事はしないわ。すぐに終わる」 「いつもの問診よ。そう身構えないで」 簡単な頭脳テストだ。計算問題や、情報処理問題。脳の動きを確かめるためのものだろう。 先生の見ている前で、静かに問題を解いていく。 心理テストみたいな問題もいくつかあって、それが俺は嫌いなんだ。 きちんとした解答がないから、答えに自信が持てない。健常者の感覚に近いものを選べているだろうか……。つい先生の顔色を窺ってしまう。 「……出来た? じゃあこんどはこの紙に、今日一日で コミュニケーションをとった被験者の名前を書いて」 これも恒例となっている質問だ。えーと……今日は……誰と会ったっけな。 一通りの名前を記したところで、紙を先生に渡す。 「……ご苦労様。脳波は一昨日計測したから、 今日はもうこれでおしまいよ」 ……だそうだ。思いの外簡単な検査だった。 「それじゃあ、もう帰りなさい。 ……わかっているとは思うけど、 極力外出は控えるようにね」 「必要なものがあったら遠慮なく職員に伝えなさい。 ちゃんと用意してあげるから。だから自分一人で 買い物に出かけない事。いいわね?」 しぶしぶ……というわけでもないが、ゆっくりと首を縦に振る。 自分がどれだけ異常な人間か、理解しているつもりだ。 こんな心と身体で、他の被験者と同じ扱いを受けられるとは思っていない。 むしろ感謝しているくらいだ。 だって、こんな俺が。 こうして学園生活まがいの日常を送っている。 クラスメイトという名の被験者と仲良く過ごしている。 この世界は、本当に楽園だ―― ――現代の一般生活における脳の負荷は、過去のそれと比べものにならないと言われている。 文化は多様化し、情報は錯綜し、共存力は希薄化し。 現代人の脳は、常に大きな負担を強いられている。 ゆえに、脳活動に支障をきたす者が次々に現れ始め、同時に脳医学が発達していった。 人間は今、新しい病に直面している。 脳の病……すなわち精神障害だ。 意識障害や記憶障害、性別障害に思考障害など様々な症状が一般的になった。 中でも最も現代人を襲ったのが、解離性同一性障害。 つまり、二重人格である―― 「……………………」 外の明暗を遮っているこのEdEnにおいて、夜の闇は無関係だ。 ここに閉じ籠りっきりでいると、日光を浴びないせいで体内時計が狂っていく。 おかげで夜中特有の倦怠感は無い。深夜でも日中と同じだけの心持ちで仕事と向き合う事が出来る。 冷め切ったコーヒーで唇を湿らせてから、彼のカルテを取り出す。 「期招来……那由太……」 かつてこの国を震撼させた、最悪の飛行機事故。“全航社135便墜落事件”の唯一の生存者。 そして、過覚醒狂暴人格障害で最も危険な領域に足を踏み入れている患者。 事故を生き延びた幸運と、その代償として病を課せられた不運。 彼の人生はあまりにも数奇であり、それゆえに私の研究欲を刺激する―― ――ある時期から、二重人格の症状は、老若男女問わず世界中の現代人の中で表面化し始めた。 そんな中、従来のものに比べてさらに危険な症状が最近発見された。 二重人格患者の中で、前例のないある特徴的な脳波を叩き出す者が現れたのである。 主人格の一定の精神状態に基づいた数値を刻みつつ、別人格が現れた瞬間に安定係数は失われ、脳波グラフが不規則に乱れ始める。 しかし奇妙な事に、時間経過によって肉体が別人格との人格交代を受け入れると、脳波はあるステージに集約されていくのだ。 そしてそのステージこそが、この病の最大の特徴。 ――過活動で現実検討能力の低い象限。 つまり、別人格と入れ替わると、凶暴で社会的な判断を失った人間になってしまうのである。 そんな恐ろしい別人格を持つ新種の二重人格症状を、過覚醒狂暴人格障害と命名された。 その人格障害を患った人間の脳波グラフが大胆な円を描きながら回転曲線を描く事から、その病は脳科学者の中でこう呼ばれるようになった。 通称“《花》ブルーメ・シンドローム”―― 先日の検査で期招来那由太が回答を記した紙を、なんとなく眺める。 “今日一日、どの被験者とコミュニケーションをとったか。 名前を記せ” そこに書かれていたのは―― 「由芙院御伽……」 ――ブルーメ・シンドロームはまだ謎の多い精神病だ。 現代社会の複雑な人間生活には、精神に影響をもたらす要因が多過ぎる。一つに絞る事は出来ないし、そもそもどの精神病も原因は一つとは言えない。 ブルーメ・シンドロームについて分かっている事はほんの数点のみ。 まず、別人格は決まって凶暴であり、症状が重ければ重いほどその凶暴性も比例して高くなる。 その別人格との人格交代のタイミングはよくわかっておらず、精神に負担がかかった場合に多いとされているが、正しい因果関係は現在調査中。 また、全ての患者の過去にある共通点が見受けられた。 患者達は皆、脳の第一次発達が終わる6歳までに、誰かしらの人間の死に直面しているのである。 さらなる共通点として、その死を目の当たりにしたまま24時間以上孤独で居続けてしまった……という出来事を皆、幼少期に経験しているのだ。 死というショッキングなものに対してのケアを誰からもしてもらえなかった場合、脳が無理矢理それらの恐怖を中和させるために別人格を作ってしまうという事がある。 おそらくブルーメ・シンドロームの別人格作成はそこに理由があるだろうとするのが一般的な説だ―― 「四十九筮……」 ――もともと二重人格というのは、孤独感や恐怖感と密接に結びついた精神病である。その点はブルーメ・シンドロームも同じだろう。 幼児であるにもかかわらず、人間の死という非現実な恐怖に苛まれながら一人で放置させられ続け、その寂しさを24時間癒されなかったという状況。 そんな悲劇が発症条件の一つとなっているであろう事が、現代の脳科学の研究で判明している。 上記の過去を持たないブルーメ・シンドローム患者は存在しない。幼少期の精神ショックが脳になんらかの影響を与えているのは間違いないのだ。 また、ブルーメ・シンドローム患者の別人格は往々にして何らかの人格モチーフが存在している。その点も一般的な二重人格障害と異なる特徴だ。 つまり、目の当たりにしたその“死者”を別人格に割り当てているという例もいくつか挙がっているのだ。 あまりのショックで脳からその死を消去する事が出来ず、その出来事が肥大化していき……やがては別人格を形成するまでに至る。 “死者”は、新しい肉体と凶暴な性格を得て、現世に蘇ってしまうのである―― 「フーカ・マリネット……」 ブルーメ・シンドローム患者が抱える、主人格の陰に隠された凶暴な別人格。 それを我々脳科学者は、“ギフト”と命名した。 神から送られたもう一つの魂という概念を尊んだと表向きはされているが、実際には《毒》Giftというドイツ語に由来している。 ギフトにはその人格だけの自我が存在している。 名前・性別・性格……すべて主人格に依存せず独立しているのである。 ギフトの性格は凶暴、残忍、卑劣……。 欲望に忠実である事が多く、人間が社会生活で抑制されている破壊欲に従う凶悪な性格となっている。それを止めるための理性は無い。 つまり、ギフトは極めて恐ろしい人格なのである。 そのため、ブルーメ・シンドローム患者は世間から恐れられ、そして疎まれる。 患者が正常な人間生活を送るためには、一刻も早くそのギフトを脳から除去しなくてはいけない―― 「玖塚つつじ子……」 主人格、ギフト、共に自分の肉体の中にもう一方の人格が存在している事は認識している。 しかし、一方の人格が表に出ている間、もう一方の人格は脳の奥で眠っているため、その間の記憶共有はできていない。 その性質を逆手にとって、ギフトが眠っている隙に、ギフトを取り除いてこの病を治そうというのが、このEdEnの目的である―― 「木ノ葉まころ……」 ……期招来那由太が記した、5人の名前。 この5人は、間違いなく話しかけた側だ。期招来那由太に話しかけられたとは考えられない。そんな事あり得ない。彼女達から言い寄ったのだ。 好意があるのだろうか……。 由芙院御伽は男性だ。しかしギフトは女性である。 四十九筮のギフトは男性だ。しかし四十九筮本人は女性である。 この5人が期招来那由太に好意を持っているという事は、十分に考えられる。 5人に同時に好意を寄せられる。それは……つまり……。 「――テオドール・ベクトル……。 あれ……本当なのかしら……」 私の期招来那由太に対する関心は、日に日に増していった。 ブルーメ・シンドロームには障害レベルが国から規定されている。 ホワイト、ホワイト+、グレー、グレー+、ブラック。 そして極めて危険と言えるレベルがブラック+。 今のところその最重度危険領域に認定された人間はいない。そういう事になっている。 しかし私だけは知っている。 期招来那由太……彼はブラック+に分類すべき脳波数値を示しているのである。 この事は、本部はもちろんEdEnの研究チームにも内緒にしている。 ブラック+のギフトを持つなんて外部に知られたら、すぐに彼はギフトの強制除去を施されてしまうだろう。 強制除去は脳に強力な電磁波を送り、脳細胞を死滅させながら長い時間をかけて人格を消失させていく。 ――そう。つまり、最新の医学技術を用いれば、ギフトは取り除く事が出来るのだ。 しかしそれでは脳に負担もかかるし、何より人道的な観点から、それは大々的に許可されていない。 ギフトも人格である以上、人権がある……というのが現代社会の考え方だ。それを強制的に除去する事はすなわち、ギフトにとっての死刑を意味する。 EdEnでの治療はギフトを脳の奥に眠らせる方法を目指している。 二度とギフトが表面化しないという点は強制除去と同じだが、ギフトそのものを消失させるわけではなく、あくまで脳内の安全な場所に眠らせるという考え方だ。 つまり、ずっと主人格を表に出し続ければいいという事。それによって、ギフトを殺処分する事無く存在を抑制出来るというわけだ。 期招来那由太程の危険なギフトを持つ患者は、問答無用で強制除去を施すのが世間のためなのかもしれない。 しかしそれは、私から言わせたら勿体無いの一言に尽きる。 期招来那由太……。あれだけの異常な存在。研究者として、これ以上の研究対象は無い。 今後の脳科学の発展のために。そして何より私の知識欲を満たすために。 彼を本部には渡さない。彼は貴重なサンプルなのだから。 パソコンのメールフォルダに、新着メールが届いている事に気付いた。 「本部からのメールだわ……」 メールを開いてみる。 そこに書かれていたのは“例の件”に対する返信だった。 「……“興味深い”……か」 彼らもまた、私と同じ無情な人間。 被験者をモルモットとしか見ていない、知識欲の権化。 「…………ん?」 メールの続きには、こう書かれてあった。 「“ただし、健常者はそちらで用意しろ”……」 ………………。 「……私は…………」 ふと、胸ポケットに手が伸びている自分に気付いた。 「……私も……同類。彼らと同じ……無情な人間」 「でも……それでも…………私は…………」 娘が――恋しくて―― こうして私は―― 知識欲を親子愛で、愚かに正当化したのだった―― 昼休み。 それまで静かだった教室が、突然賑やかになる……といった事は特にない。 被験者の中には、授業中だろうが構わずふら付く者もいる。行儀よく授業を聞いている人間なんてほとんどいない。 休み時間の区分なんて、あってないようなものなんだ。 視界につつじ子が映った。携帯を耳に当てている。誰かと通話しているのだろうか。 被験者は携帯の使用が許可されている。 いくら危険な人格を抱えた患者とはいえ、ギフトを表に出していない時は普通の人間。携帯の所持くらい問題無いはずだ。 ……まあ、主人格の時点で普通じゃないくらい精神をやられている人間もたくさんいるが。 ブルーメ・シンドロームを患うくらいの脳障害を持った患者達だ。色んな精神病を併発させている者も少なくない。 主人格が正常を保ったままの被験者は、この教室ではほんの数人程度。 自分も一応その中に入っている……と、信じたい。 「ねえ、期招来君! あの噂もう聞いた?」 つつじ子もまたその一人。 彼女のギフトがどのような人格か知らないが、主人格はこの通り普通の女の子だ。 「EdEnにね、転入生が来るんだって!」 「……!」 転入生……! つまり……新しい被験者……! 「女の子だって話だよー。 どんな子かな……ふふっ、楽しみ♪」 「歓迎会とかするのも面白いかもね。 転入生……きっと不安でいっぱいだと思うから。 笑顔でお迎えして、安心させてあげたいよ」 そうだろうな……。こんな隔離施設に送り込まれるんだ。不安だらけに決まってる。 「皆でパーティーみたいな事が出来たら 素敵だと思うんだけど……。 多分……無理、だよね……」 「……でもでも! 新しい仲間と仲良く出来たらいいね!」 「………………」 転入生、か……。 つつじ子の言う通り、仲良くしていくべきなんだと思う。 でも……俺なんか……きっと相手にされないさ。 だって俺は―― 「那ー由太っ!」 筮に背中をポンと叩かれた。 「なに暗い顔してんのさ。元気出しなって」 「明るくなる話してあげよっか。 なんと、明日転入生が来るらしいよ!」 筮もその話を知っているらしい。 「ま、転入生っていってもうちはほら、 普通の学校とかじゃないから。 まともにお喋り出来ないような子かもしれないけど」 「被験者って基本的に減ってく一方だからねー。 完治して卒業してく子もたまーにいるけど。 まあほとんどはバカやって牢獄行き……」 「そう考えると、どんな人間だろうと来てくれるだけで 有難いのかもねー。凝り固まった日常に吹く刺激の風 ってヤツですよ」 確かに、すっかり決まりきった人間と顔を合わせる毎日だもんな。 自分はきっとその子と関与する機会が無いと思うけど……それでも新顔が増えるのは望ましい事なのかもしれない。 「せめて……話が通じるタイプでありますように……」 俺も願った。この平和な日常が変わらない程度の新風でありますように、と―― 翌朝。 教室に入ると、ソワソワしている者を数人見受けられた。 「転入生かぁ……どんな子だろうねぇ……。 コホン。どんな子なんでありましょうかしら……」 「女子だってー。可愛い子だったらどうしよう。 まころんまころん、ライバル出現だよ?」 「……ふん。まぁ、期招来は渡さないけどね」 「まころちゃん、ギフト出ちゃってるよ! マズいって!」 「フーカちゃんもね……」 こそこそ何かを喋ってる……。 やっぱり転入生の話題なんだろうな。 転入生―― 何か、不思議な予感がするんだ。 その存在が、自分の日常を大きく変えてしまう。そんな予感が―― 「皆、席に着いて」 「知っている人もいるかもしれないけれど……今日、 このEdEnに新しい仲間を迎え入れる事になったわ」 俺のこの、平和な日常。 小さいけれど、とても大切な楽園。 「レベルはグレー。ここでは軽度にあたるから、 ほとんど健常者と同じように接する事が出来るはずよ」 どうか壊れませんように。 「何度も注意するけれど……被験仲間同士、 きちんと仲良くする事。協力して回復に努めなさい」 どうか変わりませんように。 「それじゃあ、入って来ていいわよ」 ああ―― 「――初めまして。私の名前は葛籠井樺音です」 きっと変わっていく―― 「えっと……名字からわかると思いますが、 葛籠井雫流先生の娘です」 自分のちっぽけだった楽園が、一瞬で別の色に彩られていく。 「EdEnの事は、お母さんから聞いています。 優しい人達がいっぱいいるって……」 「色々不安はあるけれど……。 この天使島で楽しく過ごせたらなと思います。 皆さん、よろしくお願いします」 もう決して静かな日常には戻れないだろう―― 一目惚れだった―― ――幼い頃、父と死別して。 母と二人暮らしの生活は、いつも静かなものだった。 父の喪失を仕事にぶつける母を責める事なんて出来ない。 いつも……一人だったな……。 二年前、母はある計画を理由に家を離れた。研究拠点を天使島、というところに移すらしい。 少なかった会話が、さらに少なくなった。 メールのやり取りも次第に減り……。私は本土での一人暮らしに慣れ始めていた。 そんな頃だった。母から“あの”依頼メールをもらったのは。 嬉しくて、すぐに了承の返事を送った。 母から頼りにされたのが、初めてだったから―― 「私も……なんだかんだ言って、寂しかったんだな……」 「……何か言った?」 「ううん。何でもない。説明続けて」 「ええ。と言っても、話は大体済んだわ。あとは……」 「被験者の詳細リスト。 目を通しておいて損はないでしょう」 「……うん。読んでおく」 口頭で情報伝達しないのは昔っからだ。こうして面と向かって会ってるんだから、言葉で伝えればいいのに。 「ギフトの危険性はあなたも十分知ってると思うけど。 まあ、その点に関してはEdEnの被験者達は安全よ。 チャイムもあるし、薬もあるし」 「むしろ主人格の方に重い精神病を持ってる子が たくさんいるから。そういう被験者にはなるべく 近付かない事」 「ギフトよりもそっちに注意しないといけないんだ……」 「ブルーメ・シンドロームを患うくらいだから。 そもそも脳に何の問題も無い被験者なんて 数えるくらいしかいないわ」 確かに。 さっき教室で挨拶した時も、視線が定まっていなかったり、ジッとしていられなかったりって被験者が何人も存在した。 あれはギフトが発動してるんじゃなくて、そもそも主人格の方で精神病を患っているからなんだ。 「部屋のスピーカーは、うるさかったら電源切っちゃって いいから。あなたには必要無いものだしね」 「うん、わかった。えっと……もう一度確認するけど、 ここの職員さんは私の事本当の患者だって思ってる んだよね?」 「そうよ」 ゔ……。 い、いいのかな……。大人を騙すなんて……自信無い。 「私の方で上手く誤魔化しておくわ。心配しないで」 「私は……普通に生活してるだけでいいんだよね?」 「その通りよ。基本的にはEdEnのルールに則って。 何か困った事があれば連絡しなさい」 「うん……わかった」 そのルールに従うと、そろそろ寮の自室に戻らないといけない時間だ。門限があるらしい。 「それじゃあ……私、もう行くね」 「――樺音」 部屋を出ようとした瞬間、呼び止められた。 「…………ごめんなさいね、巻き込んでしまって」 「…………ううん。お母さんの頼みだもん。気にしないで」 「…………私に――」 「お母さんなんて呼ばれる資格が、あるのかしら」 「ここが……楽園欒……」 被験者達の居住施設。 彼らの自活力や社会性を養うために厳しい規則で縛られた、小さな箱庭。 「えっと……私の部屋は……」 突然の転入という事もあって、寮の一番奥の空き部屋を急遽使用する事にしたらしい。 それまでは、物置だったとか。 「ここね……」 「これは……なかなか……」 荷物や生活用品は全て準備してあるって聞いてたけど……。 「殺風景過ぎて、心が落ち着くわ……」 皮肉を言うくらいは許されるかなと思った。 「ここも窓埋めされてるのね……」 精神異常者が脱走出来ないように。ガラスが割れて危険が及ばないように。 関係施設はどこも厳重な対処が施されている。 室内にいる限り、太陽の光を一切浴びる事が出来ない。ジメジメした日常になりそう。 壁には……例のチャイムを放送するためのスピーカー。 あれ、電源切れるって言ってたな。あとで操作を確認しておこう。 「頑丈な壁……外の音が一切聞こえない」 世界から隔離された一室。まるで牢獄だ。 ……そう言えば、そんな場所があるって聞いたような。 ギフトを暴走させたり、精神異常によって重度の奇行に走った者は、強制的に牢屋に入れられる……とか。 本当にそんなところがあるのかな。 お母さんは知っているのかもしれない。 お母さんがそういう被験者を牢に閉じ込めているのかもしれない。 安全のため……治療のため……だもんね。 「……はあ。この部屋だって十分牢獄だし。 ここと似たような場所なのかも」 ベッドに転がってみたものの、寝心地はあまり良くなかった。 「天使島……EdEn…………牢獄……」 この部屋だけじゃない。この島全体が、世界から隔離された牢獄だ。 楽園……か。 とても言い得て妙だ。 精神異常者の集う隔離施設。 確かに、ここは天使の住む楽園なのかもしれない。 世間から危険視されるブルーメ・シンドローム患者にとって……。 天使達本人にとって……。 ここは……本物の楽園だ。 「フーカ・マリネット……。 国外で誘拐事件に遭い、家族を失う……。 のち、孤児院を経て日本へ……」 お母さんからもらった被験者情報を眺める。 「玖塚つつじ子……。 敬虔な宗教家庭出身……」 EdEnの被験者は皆グレーレベル以上である。 「由芙院御伽……。性別は男性。 主人格は性同一性障害者であり、 ギフトは同性愛者……」 そもそも主人格が正常という人間の方が少ない。 「四十九筮……。 絵本などの執筆を好む。 ギフトは男性……」 まともにコミュニケーションがとれそうなのは―― 「木ノ葉まころ……。 厳しい音楽教育を受けてきた。 絶対音感の持ち主……」 この5人か……。 いや、それともう一人。 「期招来……那由太……」 あの全航社135便墜落事件については、当時子供だった私もよく覚えている。 エンジントラブルによるジャンボジェット機の墜落。死者526名。生存者……私と同い年の少年1名。 お母さんから話は聞いているし、そもそも彼の事は事故から数年経った今でもネットでの噂話が絶えない。 とびきり危険なギフトを持つと言われてる被験者だ。 この島に来る前に、入念に彼の事についてお母さんからメールで色々忠告された。 確かに異質だった。自己紹介で壇上に立った時、教室の隅っこに座っていたにもかかわらず、すぐに彼の存在に気付いた。 他の被験者とは全く違う。当たり前だけど……どうしても視界に入ってしまう。 「目が……合った気がしたな……」 被験者の中でもとりわけ特殊な存在だからだろうか。隣の席が丁度空いていて……そのおかげで、私の座席はそこに決まった。 「主人格は……物静かで平和主義者。 職員に従順で、この島での生活に満足している様子」 穏やかな人なんだ……。ギフトの狂暴性と比例しないのかな。 過去にあんな悲劇的な事故に遭ったのに、主人格の精神は一切やられてないなんて、すごいな。 いや……むしろその時の心的外傷の全てをギフトに押しつけているのかも。だからギフトの危険性が異様に高いとか……? 「ふう……そういうの、考えるの止めよ……」 葛籠井雫流の娘として。母のような脳科学者を目指す者として。 どうしても被験者をそういう観点で測ってしまう。 人間をそんな風に見るなんて、良くない事だ。 ここでは私も被験者なんだ。彼らの仲間として、妙な偏見は捨てよう。 「一緒に……仲良く過ごせたらいいな」 そして……。 「……期招来那由太君……か」 母をはじめ、多くの脳科学者の興味を惹く特異存在。 そんな彼に私も関心を持っているのは、やっぱり私が脳科学者の血を引いているからなのかな……。 それとも―― 楽園……か。 とても言い得て妙だ。 ここにはサンプルが溢れている。人間社会から弾き出された脳を持つ、上質な研究対象達が。 知的欲、研究欲に塗れた科学者にとって……。 ここは……本物の楽園だ。 ――誘惑に負けた。 いや、研究者としては正しい判断だったのかもしれない。 人間として、母として、自分が愚かだという事は自覚している。 それでも……後悔していないのだから、私もここの精神異常者達と同じく、いや、それ以上の狂人だ。 この楽園の甘美な自由がそうさせたのかもしれない。 ここで長く研究をしているうちに、気になり始めてしまったのだ。 あの異常者たちの生態を、もっと知りたくなってしまったのだ。 悪魔の実験を思いついてしまった。 “被験者達の中に、健常者を紛れさせたらどうなるだろう” 本部の研究班に相談したところ、興味深いという同調を得た。 健常者を自分で用意出来るのなら、その実験を遂行して構わないとの許可を得た。 自分の中で、何かの箍が外れていくのを感じた。 樺音は出来た娘だ。 研究に没頭する私を許してくれている。幼くして父親を失っているにも関わらず、一度も弱音を吐いた事がない。 樺音が将来私のような脳科学者になりたいと言ってくれた時、救われたような気分になった。 本土に娘を置いて、ここで機械のように研究に打ち込んで。 そういった日が続いたからこそ、こんな私でも人の優しさを欲したのかもしれない。 娘に会って、人間味に触れたくなったのかもしれない。 だから私は、樺音に協力を頼んだ。 自分の脳の奥底で。愚かな。無慈悲な。邪な。 最低最悪に下劣な研究欲が満たされて悦んでいる事に気付きながら―― 「……まさか……葛籠井主任の娘さんが ブルーメ・シンドロームだったなんて」 「逆よ。ブルーメ・シンドロームの娘を持ったから、 こういう研究をするようになったの」 「ああ、そういう事ですか……。 でも……初めて知りましたよ」 「娘の事、黙ってて悪かったわ。 家庭と仕事は切り離したくて」 「あ、い、いえっ! 主任が謝られる必要はありません!」 「これからも同じよ。家庭と仕事は切り離していく つもりだから。娘だからって甘やかしたりしない」 「わ、わかりました……。 では、とりあえず樺音ちゃ――樺音さんの資料、 ここに置いておきますね……失礼します」 「………………」 ――偽名も考えた。 自分の娘という事を内密にしたまま樺音をここに潜入させる。 葛籠井雫流の娘という事を大っぴらにすると、研究班の皆への説明が何かと面倒だから。 とはいえ、詐称の方が危険性は高い。 なにせEdEnへの入所は戸籍が重要視されるから……。審査を通過できるほどの偽装戸籍を用意するとなると、いよいよ犯罪に手を染める事になる。しかも娘と一緒にだ。 そのリスクを考えると、正直に娘だと明かして入所させた方が賢明だと判断した。 ただでさえ健常者を患者と偽っているのだ。その上に嘘を塗り固めるのは得策ではない。 本部の研究者達もこの実験には興味を示しているから、これくらいの嘘は揉み消してくれるだろうけど……。 「はぁ……ホント、情けない母親ね」 久しぶりに樺音に会う事で心が安らぐかと思ったら、むしろ実験に付き合わせた罪悪感で余計に心労が溜まっている自分に気付く。 「……久しぶりにワインでも飲みたい気分だわ」 バーの一つもない島の商店街の閑散を、こんな形で恨む事になるとはね―― ――正午。 この時刻になると、特別なチャイムが施設内に響く。EdEnの特徴だ。 いや、EdEnだけではない。島の全土にスピーカーが張り巡らされていて、そのチャイムが昼を伝えてくれる。 島民にとっては時報のようなものだろうか。 しかし、被験者にとっては少しだけ意味合いが違う。 このチャイムが耳から脳に刺激を与え、ギフトの発動を抑えているのである。 チャイムには特定の電波が含まれている。それが脳波と調和する事で、被験者の脳は安定を取り戻す。 効き目は約30時間。つまり、島内に毎日流れるこの電波チャイムを聞く事で、ギフトが表に出る事を避けられるのだ。 当然休日もこのチャイムを耳に入れる必要がある。 そのため、EdEn内はもちろん、寮の自室、寮の廊下、島の港、商店街……あらゆるところに点在するスピーカーがそれを補完している。 耳を塞いだとしても、脳波レベルの電子音を防ぐ事は不可能。つまり、普通に生活していてこのチャイムを聞き逃す事はまずありえない。 もちろん被験者は皆、このチャイムの効果を知っている。治療の過程でギフトを発動させないために、このシステムを一番最初に説明させられるくらいだ。 万が一という場合に備え、被験者には薬が渡されている。チャイムを聞き逃したとしてもその薬を服用すれば一時的にギフトの人格表面化を止める事が出来る。 チャイムと薬の併用。それによって被験者は、この島内でギフトの人格交代を回避出来ているのだ。 「…………すっかり聞き慣れちゃったな。このチャイム」 健常者の私には、なんの影響もないけど……。 こんなチャイムだけで、脳の暴走を操る事が出来るなんて驚きだ。改めて脳科学の精緻を感じる。 まあ……被験者にとっても、このチャイムなんて日常の中の一瞬なんだろうな。 フーカさんも、つつじ子さんも、チャイム中に携帯で誰かとお話してる。 そういう被験者が他にもちらほら……。それだけ、今更身構えてまで聞くようなものじゃないって事なのかもしれない。 「ん……? あ……」 ふと、“彼”の姿が目に留まった。 「荷物、それ……私が持とうか?」 次の授業で使う教材を廊下のロッカーに運ぼうとしてるみたい。 「えっと……転入生の葛籠井樺音です」 皆の前で自己紹介したけど……。 個人的にこうして話すのは初めてだったから、一応。 「期招来那由太君……だよね。 うん、お母さんからお話聞いてるよ」 「あ……えっと、お話って変な意味じゃなくって! いつも真面目に授業受けてるとか、そういう事!」 「あと……それと……事故の事、とか……」 彼を語る上で無視出来ない話題。 触れずにいる方が不自然かと思い、初対面の今のうちに思いを口にしてみた。 「大変だったよね……。 当時のニュースはあの事件の話題で持ち切りで……」 「でも、こうしてEdEnで元気に生活してるって知って、 安心したよ。ここでしっかりギフトを除去して、 病気……完治できるように一緒に頑張ろうね!」 彼は―― 「………………」 穏やかな笑顔だけ見せて、立ち去っていった。 「……ふう」 初めての会話、終了。 うん……少し緊張したけど、大丈夫みたい。 優しい雰囲気だった。最重度指定患者とは思えないほどに。 興味本位で接近するのは失礼な事かもしれないけど……。 やっぱり気になるし、積極的にコミュニケーションとってみよう。 事故による精神ショックとか、重いギフトを押さえ続ける脳負担とか、もしかしたら色々教えてくれるかもしれない。 何より……あんな不幸な事故を経験したんだもん。優しくしてあげないと。 「……あ。だから荷物私が運ぶってばっ!」 「…………ふん。転入生、調子乗ってるっぽいわね」 「案外明るい子なんだね。 もっと暗くてボソボソした子だと思ってた」 「期招来君は私達のものなんだよ……!? それなのに……新入りのくせに……生意気……!」 「だよねだよね……。 私達を差し置いてああいう事するのは…… さすがにちょっと、許せませんざますっ……!」 「……あのね、メイドらしい丁寧語って 別にざます口調じゃないからね?」 「えー? うーん、難しいんだよなぁ……」 放課後には毎日、掃除の時間が設けられている。 教室はそれほど汚くないけど、一般社会人としての清掃の習慣を身につけるため、との理由だ。 こうしてEdEnで数日過ごしてみて、改めて思う。本当に、学園生活みたいだ。 授業受けて、休み時間にご飯食べて、放課後にお掃除して。 それをまともにこなしてる被験者はごくわずかだけど……。 例え擬似的な生活でも。そういうカリキュラムを組んでいる事から、EdEnが被験者に対する教育機関の側面を持っているという事が実感出来る。 「えっと……このゴミ箱を……」 校庭の脇にあるゴミ置き場に運ぶんだっけ。 「よいしょ……っと」 「――きゃっ!?」 「あー、ごめんなさい。足、引っ掛かっちゃったぁ」 「え……? あ、木ノ葉さん……!」 「……くくくっ。情けなく転んじゃって……痛かったぁ?」 「う、ううん……平気。 こっちこそ足元見てなくてごめんなさい……」 「――って、あらら。樺音ちゃんパンツ丸見え」 「え……ひゃっ!!」 「おー、咄嗟に隠すその仕草。そそりますなあ……!」 「え、えっと……私、ゴミ捨てに行くから!」 「……ふん。挨拶代わりよ、葛籠井樺音……! まだまだこんなもんじゃ済まさないんだから……!」 ――翌朝。 「あ……期招来君だ……」 登校していると、偶然彼の姿を見かけた。 やっぱり目に留まりやすいな……。 「おはよう、期招来君。今日もいいお天気だね」 声をかけると、驚いた素振りなど無く私と目を合わせて、穏やかに頬を緩ませてくれた。 「天使島って空気が美味しいね。 本土と違って自然がいっぱいあるからかな……」 「あ、荷物私が持つよ? ほら、貸して――」 「え……」 彼に差し出した私の手を叩き落したのは―― 「期招来君の荷物は……私が運ぶから。 あなたは余計な事しなくていい」 「玖塚……さん……」 「ほら、期招来君。行こ」 「あ…………」 やっぱり……彼は色んな人に気を遣われてるんだな……。 正午のチャイム―― やっぱり今日も、携帯で誰かと会話してる……。何話してるんだろ……。 「………………」 あれ……? 唇……動いてない……? 会話してるわけじゃないのかな……? 「――えっと……フーカ・マリネットさん。 ちょっといいかしら?」 「は、はい? 葛籠井先生……なんでしょうか?」 「この教材を体育倉庫に運んで欲しいの。 お任せしていいかしら?」 「え、えっと……どうして私が?」 「きちんと職員の指示を聞ける被験者、 限られてるでしょ?」 「え、ええ……まあ……。 わかりましたざます……」 「……ざます?」 「い、いえっ! わかりましたっ! メイドとして、しっかりご奉仕いたしますっ!」 「……お願いね」 「…………むぅ」 「――樺音さん?」 「あ、フーカさん……」 「これ、体育倉庫にお運びあそばせ!」 「え……は、はい?」 「いいから! これ全部あなたが運べって言ってんのー!」 え、えっと……。 「べ、別に構わないけど……」 「ふふん。はい。じゃ、そういう事で――」 「――うっ!」 これ、結構な量……!一人で運びきれるかな……! 「え……? 期招来君……?」 「ちょ、な、なんで那由太く、期招来さんがっ!?」 もしかして……私を手伝ってくれてる……? 「いいんですわよ、期招来さんはこんな子手伝わなくて! これはこの子の仕事なんですから! そもそも期招来さんは荷物運びなんか――」 「あ、待って期招来君っ!」 「ぐっ、ぐぬぬ……! お、覚えてろ、葛籠井樺音……ですわっ!」 「……空回ってるねぇ」 「……ふんだ。 そういうあなたはどうでございますですの!?」 「俺は別に。性欲さえ満たせれば」 「……そっか。ま、目的が違っても敵が同じなら 私はそれで構わないんだけどねぇ……」 「ふー……! あ、あの、ありがとう、手伝ってくれて……」 「普通……逆、だよね。 私があなたの事気遣ってあげないといけないのに……」 ……玖塚さん、今朝みたいに強引に期招来君の身体を思い遣ってあげるなら、こういう時こそ手伝ってくれればいいのに。 「今度……ちゃんとお礼させて。 優しくしてくれた……お礼…………」 「………………」 あ、目が合った……! なんか私……すごいドキドキしてる……! こんなところで二人っきりで……優しくすべき相手に、逆に優しくされて……! 「あ、あの……その…………」 う、うう……沈黙が辛いっ……! 「そ、それじゃあ私、もう行くねっ」 結局、私は強引にその空間を終わらせた。 「手伝ってくれてありがとうっ! ってこれさっき言ったね、あはは……」 「……………………」 「う、うう……」 あの時、彼に助けられて……。 ここにきて、初めて被験者に優しくされたな。 温厚で平和主義っていうのは本当だったんだ……。 なんだか他の子達が少し攻撃的な気がするせいで、期招来君の優しさが余計に身に沁みる……。 「…………期招来、那由太君……か」 ………………。 ――って私、何呟いてるのよ……!? 「ベッドに横たわって……天井眺めながら 名前を口にするなんて……」 これじゃあまるで―― 「うう……気を付けなきゃ……」 まるで、片想いだ―― 自分という存在が形成されたのは、いつからだっただろうか―― 覚えていない。だってそれは、とても幼い時の事だったから。 「ど、どうするよこいつ……! 親がいなきゃ身代金もせびれねーぞ……?」 「仕方ねえ……いっそ人買いにでも売るか……。 奴隷くらいにはなんだろ」 ギフトなんて、皆似たようなものなんだろうな。 気付いたらそこにいる。世の中から忌み嫌われる対象として。 「でも、だったら今すぐガキ売っぱらって トンズラこかねーと!」 「わかってるよ……ちくしょうっ……!」 「お、おい……ならさっさと行動に――」 「うっせえんだよっ!」 「ひっ!?」 「……………………」 その時の、誘拐犯の会話を―― 「くそっ……あたしら二人殺っちまってるんだぞ……? こんなはずじゃなかった……ガキ攫って…… その分の金かっさらうだけで終わるはずだった」 「でも、人殺しちまった! もし捕まったらヤべえ……! マジで終わりだって……」 フーカ・マリネットはどこか他人事のように聞き流していた―― 「それはそうだけど……。 今そんな事言っても意味ねえって……。 誘拐も人殺しもこの際大して変わんねえよ」 「全然ちげーよ!」 ボーっと。ただボーっと。 「でも仕方なかったんだって! あいつらがあたしらを追いかけて来るから……」 「てめえが上手く逃げなかったからだろうが!」 「あ、あたしのせいにしてんじゃねーよ! あんただってもっと見つかりにくい場所に ガキをおびき寄せてたら……」 「言い訳すんじゃねーよっ!」 「んだとっ!? てめえが殺したんだっ! あたしには関係ねえっ!」 静かに成り行きを待っていた。 「この計画はあんたが言い出したんだろ!? 責任は全部あんたにあるんだよ!」 「てめえ、それ以上言うとぶっ殺すぞ!?」 ボーっと。ただボーっと。 「望むところだよ! あたしをなめやがって。 あんた前から気に入らなかったんだよ!」 静かに成り行きを待っていた。 「んだとこら……!」 ボーっと。 「ざけんなっ!」 ただボーっと。 「あがっ……ひぎゃっ……!!」 「ぐげっぇ…………おっ……ぎょ…………!」 ――ある時から。 私は、フーカ・マリネットの中に存在するようになったんだ。 目的は、ずっと変わらない。 この肉体を乗っ取って……私が主人格になるんだ……! 姫市天美として―― 「――という事で、私の代わりに お掃除頑張ってくださいませ」 「う、うん……それは構わないけど」 ふふん。最近知った。こいつ割と従順。 反抗的な態度見せないし……そもそも揉め事が嫌いな性格なのかも。 だったら好都合。それに付け込んでもっと虐めてやるもんね。 「さ、期招来さん。 こんなヤツほっといて、行きましょざます」 彼の背を押し、私と那由太君は二人っきりの旅路へ。 多分こいつも、那由太君の事が好きなんだろうな。 ――少し前に、どっかの脳科学者が発表した話を思い出す。 私達の患うこのブルーメ・シンドロームってやつは、幼少期の孤独感が潜在的な引き金になってるらしい。 つまり、この病気に苦しむ同族・同類の患者とは高い親和性を持つ……とかなんとか。 要は、ブルーメ・シンドローム患者同士は惹かれ合ってしまうのだ。症状レベルが重いほど引き寄せる力が強まるみたい。 だから、那由太君はそりゃあもうモテモテ。詳しいレベルまでは確認した事無いけど……那由太君、かなり重たいって噂だ。 だから私は彼に惹かれてる……のかな。自分じゃよくわからない。 この恋心が精神障害によるものなのか。それとも純粋なものなのか。確かめようがないのだから。 ただ、一つ言える事は。 同じブルーメ・シンドローム患者である葛籠井樺音もその法則に従って那由太君に恋してる可能性が高い。 それは、私にとってとても好ましくない事。葛籠井樺音は邪魔な存在。 追い詰めてやる。ここにいられなくしてやる。 ギフトは凶暴な性格? 望むところだ。この憎悪がギフトによるものならば、私はギフトとしてこの感情を受け入れる。 受け入れて……そしてぶつけてやる。ギフトとして狂化して、葛籠井樺音に精神異常者の恐ろしさを教えてやる。 那由太君は……絶対に渡さない――! それにしても―― 「フーカのふりするの、難しいよ~。 メイドってどんな喋り方すればいいのかな……」 うまく成りきれてない感満載だけど……。 まだ、誰にも怪しまれてない……よね? 「探検だー!」 ――今日も、神へ祈る。 私にとっても、つつじ子にとっても、祈りは赦しを請う行為。 つつじ子は、姉の死に縛られ続けている。 あれから何年も経った今でも、つつじ子はひたすらに祈るのだ。 そうする事で、姉を……私を美化させて、病を治し、家庭に円満に戻れる未来を夢見ているのかもしれない。 玖塚あざみ子は確かに死んだ。あの時の事故で。 それがきっかけでつつじ子はブルーメ・シンドロームを患い……私というギフトを作った。 つつじ子は、私の人格をあざみ子と名付けた。いつの間にか、私はあざみ子としての自我を植え付けられて今に至る。 つつじ子の意図はわからない。共有している脳から、主人格の全てを暴く事は出来ない。 でも……主人格であるつつじ子が無意識の状態であれ、私を……あざみ子を形成したという事は……。 やっぱり……深層心理であざみ子の死を、何らかの形で償いたいって思っているからなのかな。 「神様……つつじ子を許してあげてください。 コートゥリーヌレータルシァ・サバト・リフォシェス」 今日も祈る。つつじ子の解放を。 罪滅ぼしの矛先をギフトに向けて、今もなお罪悪感に苛まれながら神に赦しを請う愚かな妹の幸福を。 「わっ、ひゃ…………あああああああああああっっ!!?」 「……………………」 「お人形、ダメになっちゃった……」 主人格のフォローを忘れた事はない。一応この肉体は彼女のものなわけだしね。 ギフトは凶暴って世間では言われてる。人の気持ちを考えられない、狂った悪人格。 でも私はそんな事無い。 つつじ子の優しさは十分理解してるつもり。それは彼女の贖罪から産まれた自分が一番よくわかってる。 いずれ、“目的”が済んだら、この肉体も彼女に返してあげるつもり。 ギフトは主人格から器である肉体を奪って、占有しようとするのが一般的らしいけど……。私はそんな事しないからね、つつじ子。 私は他のギフトとは違う。 ――私は心優しいギフト。 主人格にも優しくしてあげられるような、思い遣りのある人格なんだ―― 「――え……はい。神様……それは本当ですか?」 お告げだ……。 私の中の神様は、最近とても不機嫌でいらっしゃる。焦っていらっしゃる。怒っていらっしゃる。 「新入りを……? はい、わかりました……」 今まで通りのやり方じゃ、ヌルかったらしい。 私もそう思っていたところだ。神様のお告げに従って、もっと激しい感じでいこう。 「……かしこまりました。徹底的に“滅ぼし”ます」 十字架は、罪と罰の象徴。 あの女に、十字架を。 彼女の存在はあまりにも罪深く。 それゆえ、多くの罰を受けなくてはいけない。 愚か者に、十字架を。 ヤツの罪の重さと、罰の必然は―― この私が、思い知らせてやるんだ―― 「え、えっと……玖塚さん? こんな場所で……何の用かな……?」 「ふん……。あんた……生意気っ!」 「きゃっ……!?」 「あんた今朝、期招来と一緒に登校してたでしょ!? あれどういう事よ、説明しなさいよぉっ!!」 「あ、あれは……たまたま、通学路で出会って……」 「嘘っ! どうせ待ち伏せしてたんでしょっ! 意地汚い女っ! ムカつくっ、ムカつくぅっ!」 「きゃあっ!? ちょ……玖塚さん、やめてっ……!」 「鞄持ちはぁっ! 私の仕事なのにぃっ!! 期招来は私に鞄持たせるのが一番安心できるのにぃ!!」 「あんたなんかにっ、新入りのあんたなんかにっ……! 期招来は絶対渡さないんだからぁ!!」 「――っ!!」 「はぁー…………はぁー…………!」 私の“目的”―― 期招来と結ばれる事―― つつじ子が眠っている間に、その夢を――! 「はぁ……はぁ……これ以上調子に乗ったら…… 私、何するかわかんないから……!」 「神様がね……おっしゃってるの……! あんた……生意気だから潰せって……」 「私の目的邪魔するヤツは……天罰が下るわよ……!」 ――私は心優しいギフト。 つつじ子……あと少ししたらこの身体、ちゃんと返すからね。 憎き邪魔者を排除して、期招来と“永遠に”結ばれて……。 そうしたら、その時は、ちゃんと……。 私は、そんなささやかな夢を見る、穏やかで優しいギフトなんだ―― 「ひっ……う、ひっ…………ひぃ……!」 ビビッと来た。 まるで全身に電流が走ったような。 そんな感覚。 めっちゃタイプだった―― 「やだよ……? おとうさん、ぼく……それ……やだ……」 樺音ちゃんを見てると、ちんぽがドキドキするんだ―― 昔、ああいう事があって。 由芙院御伽は、男でありながら男が苦手になった。 自らを女性的に彩って……恐怖の対象である男性要素を自分の身体から追い出した。 由芙院御伽のギフトが女性――しかもレズ――になったのは、そういう理由からだと思う。 あの時の、部屋に充満した血の臭い。 今でもよく覚えてる。 行為に夢中になっていた父親は、脅すためのナイフを手放してしまうほどに、由芙院御伽のお尻を犯す事に夢中で。 だから、反射的に殺す事が出来た。 手足を拘束されたままでも、絶頂を遂げた父親の身体はあまりにも無防備で。 怒りと、恐怖に後押しされて。思いっ切り―― 血の香りが漂うあの一室が、猶のルーツ。 主人格の由芙院御伽は、その事件以来男性恐怖症に陥ってしまった。 だからギフトである猶には女性人格と、女性愛願望が割り当てられたのだろう。 この器は確かに男だけど……心は主人格同様女で……。 猶はレズだから、女の子が好き。女の子とエッチしたい。女の子のおまんこ舐めたい。 この肉欲は、女でありながらまるで牡のそれだ―― 「――ひゃっ……!?」 「ふひっ……おっぱい気持ちいい……」 「ちょ……由芙院さんっ……!? や、やめてっ……そんな、とこ、触らないでっ……!」 「いいじゃん別にぃ……! 女同士だよ? 揉み合いっこしようよぉ……!」 「由芙院さんは……くひっ、男の人でしょぉっ……!?」 主人格の生物学上の性別はそうかもしれないですけど……ギフト発動中の今は根っからの女人格なんですよ。 「猶の……私の身体も、触りたかったら触って いいんですよぉ……? ほれほれぇ……ふひぃ♪」 「い、いいってば…………ひっ!?」 あ…………! 「も、もうっ! 冗談が過ぎるよっ……!」 「しまった……ちんぽ勃っちゃった……」 調子に乗って無意識に樺音ちゃんの身体に股間コスコス当てちゃってたみたい。 「えへへ……失敗失敗……」 でも……。 「あ゙ーーーっ、滾るよーーーっ!! ちんぽ突っ込みたひーーーっ!!」 勃った肉棒をスカートの上から扱きまくってしまう。 「我慢なんか出来っかーーっ! ひーーーっ!! 今すぐオナりたいよほーーーっ!! 樺音ちゃん可愛ひーーーーーっ!!」 場所なんか気にせず、勃ったらシコる。 我慢出来ないんだ。我慢しようとも思わない。 ギフトは欲望を抑える理性が無いらしいけど……こういう事なのかな。 揉みたくなったら揉んじゃうし、扱きたくなったら扱いちゃうし。 最近欲望が止まんないんだ。どんどん肥大化していく。 レイプしたい。犯したいよ、滅茶苦茶にしたい……! 「んっ……んっひっ、おほおぉぉ…………!!」 テントを張ったスカートの頂点が滲んでいく。 あっという間の絶頂だ。樺音ちゃんのオナネタオカズパワー半端ない……! 「はふぅ……んっ、あぁ……うひ、イカ臭ぁ……! いっぱい出た出た……♪ オナイキ、いい感じですぅ」 他の子達も樺音ちゃんに固執してるのは知っている。 あの四人。猶と同じで今ギフトが出てるんですもんね。 皆で打ち合わせた。ギフトのままでいようって。この裏ワザ……内緒にしようって。 四十九筮のギフトは……男子だけど。他の三人のギフトは女子だから、かなり期招来那由太って人に恋しちゃってるみたい。 テオドール……なんたら、でしたっけ?そのせいで皆彼に惹かれるんだ。 それは樺音ちゃんも同じだと思う。あの子もギフトを持ってる以上は、潜在的に重度のブルーメ・シンドローム患者に吸い寄せられて……。 「ふひっ♪ もう一発イっときますかねぇ……じゅるり!」 あの子が期招来那由太と仲良くしてるから……皆嫉妬してるんだよね。 猶はレズだから、ぶっちゃけ彼に全く興味ない。 でも……樺音ちゃんにちょっかい出すのは大賛成です。あの子そそり過ぎ。勃起促進力高過ぎ。 「あ゙ーーーっ、あ゙ーーーっ、あ゙ーーーっ! 樺音ちゃん樺音ちゃん樺音ちゃんっ……!!」 きっと苦労するだろうな……。凶悪なギフト達に目付けられちゃったんだもん。 猶も逃がさないですよ。このレイプ欲……たっぷりぶつけさせてもらうんですから。 「ん゙っ…………くうぅ~~~~っ……ふひ~~っ……!」 ああ……二発目だってのに……いい感じのドクドク具合です……! これ……中出しだったらもっと出ちゃうんだろうな……。 「ああ……樺音ちゃん……! レイプしたいです……レイプさせてぇ……!」 人格は女。身体は男。 このアンバランスが、自分のレイプ欲を満たすためにはむしろ好都合。 女として……好きな女をちんぽで犯せる。 由芙院御伽の身体は、猶にとっては最高の器だ。絶対に返してやるもんか。 樺音ちゃんを孕まし尽くすまで……この身体は猶のもんなんだ……! 「ああ……樺音ちゃん……。猶、樺音ちゃんの事 考えるだけでまた勃起しちゃいます……!」 「おまんこどんな感触なんだろう……? 乳首は何色なんだろう……? どんな声で喘いでくれるんだろう……?」 「もっと知りたいな……樺音ちゃんの事……」 ――という事で。 ――放課後。 廊下の陰で葛籠井先生が保健室から出ていくタイミングを待った。 「ちゃーーーんす…………!」 「えっと……樺音ちゃんの被験者カルテは……」 いつもここで検査を受けているから知ってる。被験者は皆、個人情報の記されたカルテがあるはずです。 どこだろう……!?葛籠井先生が帰ってくる前に、はやくそれを―― 「あ、あった……! これ……かな…………」 間違いない。樺音ちゃんのカルテだ……! ここに……樺音ちゃんの秘密が……! 「はぁ……はぁ……樺音ちゃん……! どんなギフト持ってるんですか……!? 出来れば女子がいいです、可愛い萌えっ子ギフト希望っ」 場合によっては、樺音ちゃんにも裏ワザ教えて、ギフト化させてからイチャイチャなんて事も……! 「…………ぇ」 カルテには、彼女のギフトの情報は記されていなかった。 変わりにそこに書かれていたのは―― 「嘘…………でしょ…………」 これが本当なら―― すぐに皆に知らせなきゃ――! ――この身体の、なんともどかしい事か。 男として、性欲は高まり続けている。 「おからだへーき? いたくない?」 「だいじょうぶ……」 「うん…………」 女を犯したい。女を貪りたい。 普通の性交よりも暴力的なレイプを望むのは、ギフトの凶暴性ゆえだろう。 全身が凌辱を求めている。 にもかかわらず、この身体には勃起するものがない。女を犯すための一番大切な部位が欠けているのだ。 主人格……四十九筮が女であるせいで、俺はこんなにももどかしい思いを強要させられている。 ペニスで女を犯したいのに……!この身体には、穴に突き入れるための肝心の刃がないなんて……! 「羽瀬君、検査の時間ですよ」 自分という人格が男性なのは―― 主人格である四十九筮が、かつての幼馴染の死を拭い切れていないから。 その残滓が、俺というギフトを形成した。 おかげでアンバランスだ。俺にとってこの肉体は、あまりにも小さ過ぎる。扱い辛くて……欲望を体現出来ない。 四十九筮という臆病者のおかげで、俺はギフトとして生まれる事が出来た。 しかし四十九筮という牝肉体のせいで、俺は永遠の苦しみを強いられている。 四十九筮……俺の主人格。 愚かで、弱くて、情けない女―― 犯せるなら誰でもいい。 フーカ・マリネットだろうと、玖塚つつじ子だろうと、木ノ葉まころだろうと。 しかし、奴らはギフトだ。敵に回すべきじゃない。そのリスクは、ギフトである自分が一番よく理解している。 犯す相手は慎重に選ぶべきだ。欲望に忠実なギフトだからこそ、俺はその目的のために現実的な手段を選ぶ。 そんな中、いい獲物が現れたじゃないか――! 「――きゃっ……!?」 「あー、ごっめーん。どうでも良過ぎて気付かなかったー」 「う、うう……あいたたた……」 「……大丈夫? ほら、手貸すよ」 「え……? あ、四十九さん……ありがとう……」 握り返されたその手の感触。 ああ……なんて柔らかいんだ……。 気持ちいい……! もし今の俺の身体にペニスがあったら、その手で扱きまくって欲しい……! 「い、痛いっ……痛いよっ、四十九さんっ……!?」 「――え? あ、ああ……ごめんごめん」 つい夢中になってその手を強く握ってしまった。 手を握っただけで、こんなに興奮出来るんだ。 レイプなんて事になったら、それはもう―― 「ぐへ…………ぐへへへへっ……!」 「つ、四十九さん……? なんだか……鼻の下、思いっ切り伸びてるよ……?」 「うへへっ……したいなぁ……! こんなに美味しそうなんだから……したいっ……! 思いっ切り……メチャクチャに……!」 「え、えっと……? あの……私、もう行くね……。 助けてくれて……ありがとね……」 「ぐひひ……げへへ…………って、あれ? 葛籠井樺音……どっか行っちゃった……」 「まあ……いいか。あいつを犯すには、 それなりの準備が必要だし」 葛籠井樺音――葛籠井先生の娘。 職員の監視下にいる我々被験者にとっては、一見標的にし辛い存在に思える。 しかし……彼女はこの施設に入ってまだ間もない。何も知らない無垢な被験者として、我々先輩がアプローチするという構図は実に合理的だ。 そしてなによりあの美貌。見逃すには惜しい。 バレなきゃいいんだ。職員に見つからなければ、それでいい。 「……待ってろ、葛籠井樺音……! すぐに……その身体、俺がいただいてやるからな……! ぐひひ……ふへへへへ……!」 我々ギフトの5人は、一つの目的のために結託した。 葛籠井樺音を好きにする。そのために5人は協力体制を組んでいる。 一部のギフトは、嫉妬心を動機としている。 葛籠井樺音の存在は、期招来那由太を愛する者からしてみれば邪魔に思えるのだろう。恋心の成就のため、葛籠井樺音を排除する……という意志。 自分は違う。自分は今、男だ。葛籠井樺音が期招来那由太と仲良くしようと、何とも思わない。(主人格の四十九筮がどう思うかは知らないが) 自分の願望はただ一つ。性欲。女を犯したいという肉欲。 由芙院御伽もそうらしい。彼のギフトは女性であり、同性愛者であり……。俺と同じく葛籠井樺音を狙っている、との事。 占有するつもりはない。協力して欲望を満たせられれば、それで十分だ。 ゆえに、俺と由芙院御伽のギフトは、嫉妬連中との利害を一致させ、協力体制に入った。 それにしても……由芙院御伽が羨ましい。 「ちんぽ……欲しいっ……! 俺にも……葛籠井樺音を犯すための……ちんぽっ……!」 由芙院御伽のギフトはさぞ幸せだろうな。凌辱欲に最適の性器を、主人格が所有してくれているのだから。 「くぅ……四十九筮……! どうしてお前は女なんだ……!」 主人格のせいで……俺の欲望が完全に満たされる事は無い。 だから、俺は四十九筮を恨んでいる。憎んでいる。 臆病で消極的だった彼女。絵本などという愚物でしか自己表現出来ないちっぽけな存在。 「ようやく人格を奪う事に成功したんだ……! この肉体……絶対に四十九筮に返さないからな……!」 そして、愚かな女体なら女体なりに、俺の欲望を完遂してやる。 「そのための秘密兵器は、もう用意してあるのだからな。 くくくくく…………!」 ――誰にも譲らない。譲りたくない。 私は本気で彼を愛してる。この愛は絶対に誰にも負けないはずだ。 だから、私が彼と結ばれるべきだし、それが一番自然で、一番正しくて、一番正義なんだ。 他の連中は私にとっての踏み台でしかない。 「……………………」 「……はぁ。もうやだよ……。 こんな毎日……やだぁ……」 葛籠井樺音……あんな女、彼に相応しくない。 これ以上彼に近付いて私に不愉快な思いをさせるなら。もっと酷い目に遭わせてやる。 それこそ殺すつもりで、虐めてやる―― 「い、いや……何……!? ひっ……!? 何これ……ひぃぃ…………!」 私の主人格である木ノ葉まころは、綺麗事ばかり並べているような人間。 不器用で、競争から逃げて、自分を押し殺して。生きるのが下手糞な女だった。 あの時だってそう。空から飛び降り自殺した少女を、鳥だと自分に言い聞かせて。 現実を偽って。恐怖から目を背けて。 「ゔっ……! ゔゔっ……うぶっ、ううっ……!!」 「ゔぶうっ……ゔっ、ゔっ、ゔっ…………ゔぅ」 私が“小鳥”という名前を木ノ葉まころから授かったのは、その時の潜在的な記憶を圧し付けられたからだろう。 ある日、彼女は期招来那由太に恋をした。 でも、勇気のない彼女に恋愛は出来ない。苦悩に溺れるしかない、無意味な毎日を送り続けていた。 そしてある日、ついに彼女は私に助けを求めた。 汚れ役はいつも私。他人を蹴落として勝利するずる賢さを持った私。 木ノ葉まころに出来ない生き方。でも、人間が幸せになるために必要な生き方。 EdEnで私を除去しようとしているにもかかわらず、木ノ葉まころは頭のどこかで理解しているのだ。私がいないと、真の意味で幸せになれない事を。 今まで“私達”はそうやって生きてきた。綺麗事囀って、くっさいポイントを稼ぐ仕事は彼女が担う。他人を出し抜き、裏切り、騙す仕事は私が担う。 私は、木ノ葉まころにとっての必要悪。切っても切れない両輪の一端。 木ノ葉まころにの恋の成就に、私の力が不可欠だった。 だから、木ノ葉まころは。ギフトを消去させる施設であるこのEdEnの中で。無謀にも、私を呼び起こす計画を企てたのだ―― 正午に流れる特殊なチャイム。ギフトの発症を防ぐ脳電波。 木ノ葉まころは自身の絶対音感の力を利用して、その音波を中和させる着信メロディを作ったのだ。 チャイムが流れている間、携帯を使ってそのメロディを耳に流す。 チャイムとは逆位相の着信メロディが、チャイムを無効化させる。 結果、木ノ葉まころはギフトを発動させる事に成功した。私が現れたのだ。 私は、この着信メロディをフーカ・マリネットと玖塚つつじ子と由芙院御伽と四十九筮の四人に提供した。もちろん主人格の彼女達には効果を内緒で。 チャイム中にこれを聞くと面白いよ、など適当な事を言って、彼女達のギフトを発動させた。 ギフトと交代した彼女達には着信メロディの真実を話し、以降私達は毎日チャイム時にこのメロディを耳に当て続けている。 ギフトを維持するために。自分が自分で居続けるために。 「期招来君、お母さ――葛籠井先生が呼んでたよ。 少し確かめたい事がある……って」 「また検査かな……? 大変だろうけど、頑張ってね」 「……ふん。葛籠井樺音……また調子付きやがって……」 木ノ葉まころと人格を交代して。久々に世界を見渡して、改めて気付いた事がある。 木ノ葉まころの男を見る目は、実に素晴らしい。さすが私の主人格といったところだ。 彼女が愛した男……期招来那由太。彼は私から見て、あまりにも素敵な男性だった。 言うまでもなく私も彼に恋をした。誰にも譲りたくない。この野心。この競争心。絶対に負けるもんか。 今までそうしてきたように。今回も私は自分の願望を成就させてみせる。敵が誰であろうと、負けるものか。 そう……たとえその恋敵が、自分の主人格だろうと。 私と交代したのが運の尽き。期招来那由太は私がいただく。 私からしたら、木ノ葉まころなんて全く怖くない存在だけど。彼女に勝ちを譲って、さらにその上人格交代させられるなんてごめんだ。 初めて体験した恋の味。これを知ってしまったら、もう脳の奥で眠る事なんて出来ない。 二度と木ノ葉まころは現れないだろう。私はこの身体で、ずっと生きていく。彼とともに。この愛に生きるんだ。 「…………? 木ノ葉さん……?」 「ひゃっ……!? え……!?」 「あらら。つまずいちゃった。うっかりうっかり」 「バケツの……水……!? なんでそんなもの……」 「あ~あ、あんたのお弁当、水浸し。 スープみたいになっちゃった」 「でも私、マイスプーン持ってるの。 お詫びに貸してあげる」 「な、何を――」 「ほらほら、飲みなさいよぉっ!! おらおらおらあっ!!」 「んぐっ、ぐぐっ……や、やめてっ、はぐうっ!!」 「何抵抗してんのよっ……! 私が親切でその水浸しになったきったない弁当 食べるの手伝ってやってんでしょぉっ!?」 「おらぁっ、大人しくしなさいよぉっ!! このっ、このこのこのっ、ふんぐっ!」 「や、やべでっ……ぐぐっ、あぐぐっ!」 いっつも期招来に媚びへつらって、いい子ぶって。 醜い女。こんなヤツに絶対に負けたくない。 「ぶはあっ! はぁっ……はぁっ……! ひ、酷いよ……木ノ葉さん……」 「ふん……ざまあみろ」 「……あなたなかなかエグい事するわね。 もう隠す気ゼロじゃない」 「ま、気持ちはわかるけどね。 あいつ見てたら歯止め利かなくなるんだよね。 もっと酷い事したくなる……!」 「……私達、そういう目的で同盟組んでるんだから。 ボーっと見てないで、あなた達も葛籠井樺音虐めを 手伝ってよね」 「いや、手伝いいらないでしょあれ……」 彼女達のギフトを引き上げてやったのは、期招来那由太との恋の協力者が欲しかったから。 ギフト発動という恩を売る代わりに、私の恋が上手くいくように協力させるつもりだった。 なのに……こいつらときたら、期招来那由太に恋しやがって。 彼は私のものなのに……!私のおかげでギフトになれたにもかかわらず、恩を仇で返すようなマネを……! 失敗したと思った。邪魔者を増やしただけだった。 私を嫉妬させるだけの存在。 憎たらしい……。すぐにこいつらをなんとかしないと……。 そんな時、あのクソ女が現れた。 フーカ・マリネットと玖塚つつじ子とは一時休戦。由芙院御伽と四十九筮の性欲も相まって、私達は同じ目的の元、同盟を組む事になった。 葛籠井樺音を陥れ、排除するための協力関係。 まずはあのクソ女を虐めて、嬲って、いたぶって。 たっぷり懲らしめて、二度と期招来那由太に近付けないようにしてやるんだ。 ギフトは凶暴な人格と言われている。自分は全然そんな事無いけど……あの四人はなかなかの屑っぷりだ。 葛籠井樺音を陥れるための同盟として、実に頼もしい。彼女達をギフト化させておいてよかったとようやく思えた。 でもまあ、心から信頼してるわけじゃないけど。 葛籠井樺音を消したら、次は彼女達の番。特にフーカ・マリネットと玖塚つつじ子は私の恋路の邪魔者となる。 同盟中はしばらく仲間の振りをして……頃合いが来たら切り捨てるつもりだ。事情を知っている由芙院御伽と四十九筮も、まとめて。 もっといい中和音を作ったとか何とか言って嘘吐いて、チャイムを無力化出来ない着信メロディを聞かせてギフトを閉じ込めてしまえばいい。 それだけで私の一人勝ち。簡単な話だ。 「私は……誰も信用しない。 どうせ皆敵なんだ……!」 「今まで、裏切りながらライバルを蹴落としてきた。 仲間なんて無意味な存在。絶対に信じたりするもんか」 「最後に笑うのはこの私……! 葛籠井樺音も……あの四人も…… 私の恋心のために、死んでもらうんだから……!」 奴らの狂気性を使って、同士討ちさせて監獄行き……。そういうのも面白いかもしれないな。 まあ、その場合は職員の連中に中和音の事をばらされる可能性がある。私に危険が及ぶ事も常に考えておかないといけない。 なにせ奴らはずる賢いギフトで、心から信頼するに値しない人間性で。 そして何より、もし何らかの形で私が木ノ葉まころに戻ってしまったら、おそらく二度と私は表面化出来ずにEdEnの治療システムによって除去されてしまうだろう。 だから、ここでこうやって木ノ葉まころを押し退けていられる今は、最後にして最大のチャンスなんだ。 あらゆる邪魔者を排除して。期招来那由太を自分のものにしてやる――! 下校時間。下駄箱を開けると―― 「うっ……う、うぅ…………」 靴が……無い……。 「やっぱこれって……」 彼女達の仕業……だよね。 最近特に風当たりが強くなってきた気がする。 ブルーメ・シンドロームの患者同士は、好意を持ちやすいって話は聞いた事がある。 テオドール・ベクトル。“神の定めし矛先”という意味を持つ、ドイツ語の精神医学用語だ。 あの子達は皆、期招来君に好意を持っていて……。だから、私に嫉妬してるのかな。 確かに私は彼に興味を持っている。彼の不幸を知っているから、出来る限りサポートしてあげたいと思ってる。 それは恋心というものではなくて、人間として当然の優しさのつもりなんだけど……。 それでも彼女達にとっては、気に入らないように思えちゃうのかな……。 「まあ……少し我慢したら、なんとかなるよね」 ただの嫉妬なんだ。そこまで気にする事はない……はず。 「でも、靴……どうしようかな」 「あら、お靴がないんでございますですの?」 「う…………」 出た……! 虐めっ子……! 「私達がぁ……一緒に探してあげよっか?」 「わたし、思い当たる場所が一つだけあるんだけど……。 教えて欲しい?」 「いや、別に……」 「そこまで言うんだったら、特別に教えて 差し上げます事よ? ついてくるざます」 「えぇ…………」 半ば強制的に連行されてしまった。 やって来たのは、人目の少ない校舎裏。 そこで、由芙院さんと四十九さんが待ち構えていた。 明らかに、よからぬ雰囲気。 「連れてきたよ」 「はぁ……樺音ちゃん、今日もかわゆす。 猶……すでにちんぽギンギンです」 「ああ……俺も、心のちんぽが絶賛勃起中……!」 何、この雰囲気……!? 5人がまるで舌なめずりをするかのように、ドロドロとした視線で私を見つめてる……! 「あの……それで、靴は……?」 「わかってると思うけど、隠したのわたし達だから」 「うん……だから、返して欲しいんだけど」 「そこの草の茂みに捨てといたから。 後で取りに行けば?」 「……………………」 明確な敵意。5人も揃うと、いよいよ彼女達の憎悪が直接的になってくる。 「……そっか。場所、教えてくれてありがとう。 それじゃあ私行くから。 こういう事、もう二度としないでね」 「待ちなよ。これで済むわけないだろ」 「……っ! ちょ……痛い…………」 「そうそう。言ったよね? もうちんぽがブリブリだって」 「ヤっていいんだよな? 犯しまくってオッケーなんだよな?」 「ふふふ……いいですわよ。好きにしちまえざます」 「放して……ねえ、放してよっ!」 「それは……あんたの嘘をはっきりさせてからだよ」 嘘……!? 「ねえ、あんたさ……実は健常者でしょ?」 「――っ!」 「きゃぁっ……!?」 背中を強く押され、前のめりに倒れてしまう。 「何するのっ……っ!」 「うっさい、このスパイっ子!」 「スパイって、何の事っ……!?」 「ゆっふぃんから聞いたわよ。 ブルーメ・シンドローム患者だなんて真っ赤な嘘。 本当は健常者なんでしょ?」 「それ……は……!」 「しらばっくれても無駄なんだから!」 私が精神病を患っていないという事……! どうして……彼女達がそれを知ってるの……!? 「保健室に忍び込んで、樺音ちゃんの被験者カルテを 見たんです」 「あ~あ……樺音ちゃんがどんなギフト持ってるか 楽しみだったのにな……。まさか一般人ちゃん だったなんて」 「うっ……くぅ……!」 これはマズい……! 知られたくない人達に知られちゃった……! 「ま、ちゅーこって。これはお仕置き案件ですよね? 嘘吐いて猶にギフト期待させた樺音ちゃんには、 おちんぽレイプの刑ですよね!?」 「そういう事だ。さあ樺音くん。 レイプ声を出す準備は出来たかな……?」 レイプ……!? 背後に立ってる由芙院さん……。股間が……そそり立ってて……! 目の前の四十九さんの目も、物凄く血走ってる……! まさかこの人達、これから私を―― 「ちょっと待って、二人とも。 レイプはいいけど、喋れなくなる前に 聞きたい事聞いとかなきゃ」 「むぅ……早く早くですー。 我慢汁もうだらだらなんですよぉ。 渇いて亀頭かぴかぴになっちゃう……」 「あんた、健常者のくせにEdEnに何しに来たのよ?」 「…………っ!」 「精神病のふりして被験者に加わって……。 こんな異常者ばっかりのところに体験入学して、 何が楽しいわけ?」 「私達みたいな頭おかしい患者を笑いに来たって事? だとしたら……あんた最悪っ!」 「ち、違うっ……私は、そんなつもりじゃ……!」 「私達があんたを虐める理由、これでわかったでしょ? 健常者が遊び半分でEdEnに来て、被験者を内心で バカにしてるのが許せないってわけ!」 「あと……那由太君とイチャついてるのもすっげー ムカつくからそれも虐めポイントの一つだけど……。 つーかそれがほぼ全てだけど……」 「ちなみに俺達は性欲組ね」 「とにかく! 健常者が紛れてるってだけで、私達は 気に入らないわけ! どうせ私達の事、珍獣みたいに 思ってるんでしょ!? 動物園にでも来たつもり!?」 「そんな事ないっ! あなた達をバカになんかしないっ!」 「じゃあ何しに来たんだか……。 葛籠井先生の娘ってのと、何か関係があるのかな……?」 「……そ、それは……」 「葛籠井先生に頼まれて、患者のフリして ここにやって来たわけ? 何のため?」 「どうせ私達をバカにするためでしょ。 そうに決まってる……ムカつく女っ! 性格悪過ぎっ……!」 「…………っ」 私の事、バレてるみたい……。 だったら余計な嘘は逆効果だ……。きちんと事情を話そう……。 「確かに……私は健常者だよ。 ブルーメ・シンドロームを患ってはいない……」 「私がここに来たのは……あなた達の言う通り、 お母さんに頼まれたから。だから転入してきた。 お母さんに偽称を協力してもらって」 「やっぱり……。で、そこまでしてここに来て、 何がしたかったっていうのよ?」 「それは……お母さんは何かの実験だって言ってた。 詳しくはわからない……。私は被験者のフリをして、 普通に生活してるだけでいいって」 「はぁ、何それ……? そんなんでこういうとこ来るかな、普通」 「実験って何よ。ちゃんと答えないと酷いわよ!」 「知らないっ……本当によく知らないのっ!」 「信じられるわけないでしょっ! 事情を教えて もらえないまま、どうして精神異常者の集まる 施設に来ようと思えるのよ!? やっぱりあんた――」 「お母さんに会えるからっ……だからっ……!」 「うぐっ……!」 「私、ずっと一人で……家族……誰もいなくて……。 寂しくて……」 「初めてお母さんに頼りにされたから……。 だから……引き受けた。本当にそれだけなの……」 「は、はあ……!? だからってわざわざEdEnに――」 「実験の内容なんて私にはどうでもよかった……。 目的を教えてくれないのは、きっとお母さんにも 事情があるからだと思う……」 「私はそれでいい。私にとって大切なのは…… お母さんが私を必要としているって事。 そして……協力すればお母さんに会えるって事」 「だから言われた通り、被験者のフリしてここに来た。 ……本当に、それだけよ」 「な、何それ……そんなの理由になんないよっ」 「うう……離れ離れになってたお母さんのため……! くぅ……私にはその気持ちわかり過ぎるわ~……! ち、ちくしょ~……!」 「ふ、ふん……! 今まで私達を騙してきたくせに! 今の話だって、どこまで信じていいんだか……」 「そ、そうだよねっ……実は全部嘘だって事も……! こ、このホラ吹きスパイっ子!」 「嘘なんて吐いてないっ! 本当に……私は、お母さんの事が――」 「……ねえ、もういいですかね。 いい加減、猶のちんぽがボッキボキでヤバいんですけど」 「って、ひいっ!? スカートもっこり!?」 「これ以上のおあずけはごめんです。 樺音ちゃんがスパイだろうがなんだろうが、 猶は別に構いませんしね……。まんこ萌え萌えだし」 「ゆっふぃん勃起すっご……! スカートちょーもっこりしてんじゃん……! 純情乙女達の前で、よくそんなバキバキ君晒せるね……」 「ああん、フーカちゃん。 今は猶猶ですよぉ。同じ純情乙女ですぅ」 「純情乙女はそんなにちんぽ勃起させないと 思うんだけど……」 「ぐひひっ、じゅるりっ……! 仕方ないですって……! だって……ほぉら――」 「きゃっ……ひっ!?」 スカート、無理矢理……! 「見てくださいよこの可愛い四つん這いポーズ……! そしてキュンキュンのぷりぷりまんこぉ……!」 「こんなに扇情的な肉まん見せつけられたら…… ちんぽの一本や二本、激勃起するに決まってるじゃ ないですかぁ……ぐへへぇ、じゅるじゅるっ」 「ゆっふぃん、すごい涎だぞ……じゅるるっ、ふひぃ」 「筮ちゃんこそ……牡モードガンガンって感じですねぇ。 ぐへへぇ……!」 由芙院さんと四十九さんが、蕩け切った視線で私の恥部を見つめている。 あの瞳……精神医学書で見た事ある……! 異常性欲者の目だ……! 「おお……! 私ちんぽ初めて見たよぉ……! ゆっふぃん……美少女顔のくせにあんなご立派君を……」 「わ、私も生ちんぽ初めてだから…… 見ててちょっと恥ずかしい……かも……うう」 「ちんぽって、あんな勃起するものなのね……。 赤黒くなって……だ、男子ってあんなの股間に 生やしてるの……!?」 「ぐひひっ……ギャラリー多い方がちんぽもおっ勃つ ってもんですよぉ……! 処女の皆さんはそこで 猶のちんぽテクに見蕩れててください……!」 「なにせこれから猶の勃起ちんぽが、目の前にあるこの 柔らかピュアまんこにずぷずぷ入ってって、 まん肉をぐちょぐちょにしちゃうわけですから……!」 「恋敵がひーひー言ってるの見られるわけですからね……。 お三人さんはさぞ爽快だと思いますよ……ぐへへぇ」 「た、確かに……! あんな凶器みたいなちんぽで 葛籠井樺音がめちゃくちゃにされちゃうなら…… これ以上の見世物は無いわね……」 「なんか楽しみになって来た……! ゆっふぃん頑張れー! ちんぽいけー!」 「今は猶ですってば……! ふひひ、あと別の意味で ちんぽイキますから、期待しててくださいねぇ……」 「や、やめて……そんなの近付けないでよっ……!」 にじり寄る由芙院さんから逃れようとしても、四十九さんが私の身体を押さえ付けていて、うまく身を捩る事が出来ない。 「それでは……いっただっきまーすっ♪」 「くっ……がっ、ぎっ…………!?」 股間に鋭い刺激が走った。 「嘘……んっ、がぁっ……や、だっ……! やめて……ひっ、くひいっ!!」 本当に入れた……! 由芙院さんが、ペニスを……! 「ひゃっはーーーーーーっ!! 樺音ちゃんのまんこゲットーーーーーっ!!」 「あっぎいっ、い、痛いっ……痛いよっ……! くうっ、い、痛いってばぁっ……!!」 「ああ、レイプレイプレイプレイプレイプううっ!! ようやくいただいちゃいましたっ! 樺音ちゃんの萌えまんこ、奪っちゃいましたあっ!!」 「あっひぃ……最高の締め付け……! 想像以上の名器ですよこれぇっ……! ああ、腰止まんないですうっ、ふひーっ!!」 私の声なんか聞き入れず。自身の快感に酔い痴れている。 「こんな事……くぎっ、ひぃ……もうやめてぇっ……! あっ、くっ、んがあっ!!」 「う……わぁ……まんこあんな膨らんで……! あれ……ちんぽ入れてるからだよね……?」 「ま、まんこって……ちんぽ入れるとあんなに 太るんだ……初めて知ったわ……す……ご……!」 「ふ、ふん……! ざまあ……! 葛籠井、ざまあっ……!」 誰も助けてくれない。 今まで何度も彼女達に虐められてきたけど……こんなに酷い事は初めてだ。 凌辱なんて……狂ってる……! 「おっほっ……!? なんか血出てますよ……!? もしかして樺音ちゃん、処女だったり?」 「くぅ……ぐっ、んぐっ……くぅっ…………!!」 「んひょーーーーっ! だから締め付け抜群なんですねっ、 うっひーっ! 処女まんこ……ああん、 処女まんこかぁ……ぷはー、たまんねーですー!」 「由芙院さん……くぐっ、ぎっ……お願いだから、 もう……抜いて……おちんちん、抜いてぇっ……!」 「無理無理、こんな勃起したちんぽ、まんこ挿入だけで 終われるわけないじゃないですかぁっ、あへ、あへへっ」 「最後までたっぷりヤらせていただきますよぉっ! 樺音ちゃんの処女散らした猶のレイプちんぽでっ! しっかり責任取ってあげますからねぇっ!!」 「そんな……くがあっ!!」 「ほれほれぇっ、樺音ちゃん、喘いじゃっても いいんですよぉ……? レイプだからって 苦しんでばっかの必要ありませんからっ……!」 「うひひっ……そうねぇ。私も葛籠井樺音が 情けなく喘いでるとこ見てみたいわ……!」 「そうそう。レイプちんぽで気持ち良くなってるとこ、 私達に見せてみなさいよ。初生ちんぽで牝顔晒して あんあん喘ぎなさい! 遠慮せず善がりなさいよぉ!」 「んぎっ……あっ、ぐがっ……! や、そこ……あぎぎっ、痛いっ、痛いよっ……! くっ、あっがぁっ……!!」 破瓜の出血なんて気にせず、自分の快楽のために由芙院さんは乱暴に腰を振り続ける。 痛過ぎて足腰が震える。こんなの……全く気持ち良くない……! 「やい、葛籠井樺音っ! 喘ぎなよ、ほらぁっ! ほら、あへーって言え、あへーって」 「あへーーーーっ! きんもちーーーーっ!! あへーーっ、あっへっへーーーーっ!!」 「んもう、ゆっふぃんが言ってどうすんのさー!」 「はっ、はっ……くっ、ぎっ、い、痛いっ……! くぅ、おちんちん、そんな激しくしないでっ……!」 「んな事言われたって無理ですよーっ! まんこ良過ぎて、ちんぽシコシコ 止めらんねーですよーっ!」 「はふっ、あひっ、そ、そもそも……! これは取引なんですからっ……! ふっひぃ、レイプくらい我慢してもらわないと……」 「んぎっ、ぐぎぃ……と、取引……!?」 「そうよ。あんたのスパイごっこは黙っててあげるって事」 え……? 「あんたが健常者だって事、これからも知らないフリして あげるから安心しなさい。誰にも言わないから」 「でも、その代わりぃ……ぐひひっ! わかってんよなぁ……? 私達がこういう事してんの、 職員にちくんなよぉ……? ぐっひひひ~っ♪」 「なっ……!」 「そういう事よ。つまり、今まで通りね。 あんたはこれまで同様その実験とやらのために スパイ活動出来るし……」 「私達は今までみたいに、これからもあんたを 虐めて、犯して、泣かせちゃうって事ぉっ! おーっほっほっほっほっ!」 「そういう取引なんですーっ……! だからこのレイプは正当な行為なんですーっ! ちょっとくらい乱暴にしたって許されるんですーっ!」 「そんな……くっ、あぐっ、ぎっ……!」 「愛するお母さんのためだもんね? 実験に迷惑かけたくないもんね?」 「せっかく自分を頼ってきてくれたんだから…… 協力してあげなくちゃ……。そのためには……ね? ふふ、私達に口止め料、支払わないと」 「あっ……がっ……ぎあっ……! く、ぎぎっ、ふがががあぁっ……!!」 私が健常者だって事をばらされて、お母さんに迷惑をかけないようにするためには……。 この凌辱を……黙って受け入れないといけないの……!? 「そんな……くぎっ、だからって……あぐっ、ぎっ! こんなの、いくらなんでも……酷過ぎっ……んっ!」 「はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」 「はっ、はっ、はっ……もう俺……はっ、はっ、はっ! 我慢出来ない……! はっはっはっはっはっ……! この牝、ちんぽで犯したい……!」 「ひ、ひいっ!?」 「あらら、筮ちゃんすごい顔……! ワンコみたいに舌出しながらハァハァしちゃって……」 「はぁ、はぁ、はぁ……もういいだろう……? 健常者だって事は認めさせたし…… 取引の件は伝えたし……!」 「もう……こいつの口、塞いでもいいだろう……!? はっはっはっはっはっ……!!」 「……そうね。いいわよ、筮。好きに犯しなさい」 「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ……! あぁぁぁ…………あぁぁ~~~~~~…………!!」 股間にペニスを突き入れられたまま。 私の目の前で、四十九さんが呻き声のような悶えを漏らしながら、自分の制服に手をかけ始めた。 彼女の股間に、何かが仕込まれている……! “何か”……そんなもの、すぐに判明する。 この状況で、彼女が私に差し向けるものなんて―― 「――んぐううっ、んぐぶじゅぶぶううっ!!?」 巨大な異物が、口の中に捻じ込まれていく。 「んがっ!? 何これ……んっ、スパッツの中に…… んっ!? ちゅぶっ、硬いのが……じゅぶずうっ!?」 「んっほーーーっ! あぁっ、あへあぁっ……! これぞ秘密兵器っ!! これで気分はAV男優!」 「ぎゅぶっ、んっ、んぐぶーーーーーっ!!」 「やっぱりいいっ……女を犯すのはちんぽに限るっ! 股間のちんぽで牝をレイプしてるという感覚が、 男心をくすぐるのだっ……!」 「んっ、んっ、猶にはその男心はよくわかりませんけど、 はふっ、んっ、でも、ちんぽの快感はよくわかりますっ、 んっ、んくぅ……!」 「ぐっぶっ、んっ、ぐるじいっ、はっ、ぐぶぶうっ!!」 なんで……!? 四十九さんは女子なのに……! どうして股間に……男性器が……!? 「ふふふ……ふひっ、ふひひひひひっ……! まさかのちんぽ二本責め展開……。 驚くのも無理はない……はっ、はっ、はっ……!」 「ペニスバンドだよ樺音くん。 スパッツの中にペニスバンドを仕込んでいるのさ」 「んぐぶっ……!? ペニスバンド……! じゅっぶっ!」 「あはぁ……偽ちんぽなのに、こんなに興奮 してしまう……! まるで本物のちんぽを 口まんこに突っ込んでる気分だっ……!」 「さっきからずっと筮ちゃんの下半身 膨らみまくってたもんねぇ」 「もっこりスパッツ凄過ぎ……! ちんぽの形がスパッツにくっきり……! どんなぶっといの仕込んでるのよ……」 「この身体……ちんぽが無くて気に入らないが…… はぁっ、はぁっ、んっひぃんっ……! ペニバンでも 十分レイプの臨場感が味わえるじゃないか……!」 「自分の中にある、心のちんぽが勃起していく気分……! あぁ~っ、心のちんぽがぴょんぴょんするんじゃ~っ!」 「んぐっぶっ、ぐるじっ、ぎゅぶうっ、や、やべでっ、 もう、んぐがっ、ごんな事っ、ぐっびいっ!!」 不愉快な舌触り。すぐにでも吐き出したくなるものの、それはむしろ奥へと前進してくる。 私の苦悶の声を塞ぐかのように喉を抉るその腰遣いは、ところどころ意識が遠のくほど有害だった。 「ってか……あのペニバン、どこで手に入れたんだろ。 島であんなの売ってるっけ?」 「あるわけないでしょ。 そもそも島で買い物したら履歴が全部 職員に通達されちゃうのよ?」 「という事は……まさか……!」 「くっくっくっ……! その通りっ! こいつぁ対葛籠井樺音専用、 自作の特製ちんぽなのだぁぁっ!!」 「なんと!」 「型を作って、そこにシリコンを流す。ペニスの形状は 女を犯すのに最適の巨根サイズを選んだ。 執筆で鍛えた妄想力が活きたな」 「相変わらず器用で変態でバカね……」 「ちなみにあらかじめ白濁液を仕込んで、 程よい頃合いで発射させる仕組みを現在開発中。 次回エッチシーンを乞うご期待」 「おお! ゆっふぃん以外の射精キャラゲットだね!」 「そして大量生産画策中。そっちも乞うご期待」 「んぐっ、ぐじゅぶぶっ、にゅぶぶぶぶぶっ……!!」 何が乞うご期待よ……! こんなもの……こんなもの……! 「くひひっ、げひひっ、噛み千切りたければ そうするがいいさ……意味ないと思うがなぁ」 「そのちんぽは偽物だって事忘れるなぁ……? 傷付けたところで俺は痛くも痒くもないんだぞ?」 「くうぅ……ぐっ、ぎゅぶっ、じゅっぶうっ……! んぐぶっ、ぐっぶうっ……!」 意味がない事くらいわかってる。そもそも喉が痛過ぎて顎に力が入らない。 何度も胃液が込み上げて来て、そのたびにペニスバンドの先端が力ずくで喉奥へと押し戻していく。 苦痛だけが確実に積み重なっていく。 股間と喉を貫く耐え難い刺激に、ただただもがく事しかできない。 「ああ……いい顔だ……! ちんぽに犯されて、 苦痛にゆがんだその表情……! 俺に勃起してくれと 言わんばかりじゃないか……!」 「んっ、んっ、こっちの……まんこも、んっ、んっ……! 勃起ポイント高いですよぉ……はふっ、あっ、あっ! すっごく、いい気分ですぅ、はひぃぃんっ……!」 「じゅぶっ、ぐじゅっ、も、もうやべでよぉっ……! はぐっ、ぶじゅ……お願い、らから……ぐふぶうっ!!」 「ん……はふぅ……な、なんか……レイプ されまくってる葛籠井樺音見てたら……ちょっと オナりたくなってきた……かも……んっ、んっ!」 「それ……わかるわよ……。はぁんっ……! 正直滾るのよね……あいつのやられ顔……! だってほら、こっちなんか……」 「んっ、んっ、ざまあっ! 葛籠井樺音っ、ざまあっ! あっ、あっ、あっ、あっ、ふひいっ!!」 「まころちゃんめっちゃオナニーしてる……!」 「んっ、はっ、はっ、あっ、あっ、あっ……! あはぁっ、どうぞどうぞ……ギャラリーの皆さんっ、 好きなだけオナニーしててください……!」 「なにせこんな可愛いんですっ! オナるなってほうが無理ですよっ……! こんなん……最高のオナネタですもんねぇっ!!」 「はっ、はっ、あっ、あっ……もっと奥だっ……! 俺のちんぽ、もっと奥まで、はっ、はっ、はっ、 く、咥えろぉっ……あっ、ああんっ!!」 「んっ、んぐっ、ぐぶぶっ、じゅっぶっ……! あぐっ、じゅぶっ、ぐじゅぶぶぶっ!!」 「うわ……涎だらだら……まん汁も垂れて…… え、エロ過ぎだよこれ……はぁんっ……」 「んっ、んっ……い、いい気味ね……んっ! 天罰よ……はっ、ああん……! はっふっ、 神様は……ちゃんと見てるんだから……あっ、んんっ」 「イクっ、イクっ……私、葛籠井のレイプ顔で……! おまんこ……もう、我慢、ひ、ひい、出来ないっ……! パンツの上から……まんスジ擦りまくっちゃうっ……!」 その場の誰もが、自身の欲望に忠実で。 その下劣さは、まさに人間のものとは思えない。 まるで理性を失った動物。 まさか――彼女達は―― 「――ふひっ、おっひひひっ! あーっ、猶もうイクーっ! いやぁ、もう勃起止まりません、射精止められませんっ! 出しちゃいますよぉっ、ふひひ、おっひひひっ!!」 「猶の精液……子宮目掛けてぶっ飛ばしますからぁ! 樺音ちゃん、覚悟しててくださいっ、ちゃぁんと 赤ちゃん作ってくださいねぇっ!?」 「やべでっ、中は……ぐぶっ、ぐびっびいっ!!」 「しっかり妊娠汁ぶっかけますからねぇっ! 安心してください、猶は悪いレイパーじゃないですから! 責任もって育てますよ、ヤる気満々ですっ!」 「姿も心も女ですけどぉ、あはぁ、戸籍は男ですからっ! 結婚、全然オッケーですよねっ!? ぐひひっ!! 中出しレイプ、許されますよねぇっ!?」 「俺も……あっひっ、もう、イク……! ちんぽ突っ込んで……身体が、イク……! おまんこが……勝手に……あっ、あっ、あっ!」 「ちんぽでイキたいのに……ひっ、代わりに、まんこが、 あっ、あっ、あぁん、イクイクっ、あっ、あっ、あっ! もう……イグぅぅぅっ!!」 ――二人の腰遣いは、一瞬で私の思考を奪った。 「あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ! あ゙っ!」 明らかにそれまでと異なる震動。 何かを求めてもがき掴もうとするペニス達。 異臭と不快感が、二人の絶頂到達を知らせた。 「ひーっ、ひーっ!! イクイクーっ! ちんぽっ!! 猶のちんぽ、イキまくってますうっ、んひいっ!! 子宮、ザーメンでパンクさせろーーっ!!」 「うおおっ、おっ、おっほおぉおぉぉんっ……!! こ、こんな潮吹き、初めてぇ、おおっ、んひいっ!! レイプで、まんこが……こんなに……ひっ!!」 「んじゅっぶぶぶっ!! ぐ、がっ、熱いのっ、ぐうっ! 来でるうっ、ひっ、ぐびいっ、ひいいっ!!」 滲み渡るような粘液の感触なのに、気道を塞ぐ性具のおかげで落ち着いて青ざめる事さえ許されない。 にゅるにゅると、まるでミミズのような紐状の生物が子宮の奥を目指して侵入してくる感覚。 これが中出し……! 「おっほおっ!! もっと、もっと出しますからねっ! 金玉に溜めておいた精子、全力開放中ですからっ!! どれか一匹でもいい、猶の精子頑張れ! 着床着床っ!」 「おっ……おひいっ……! まだ出るっ……!! まん潮……止まらないっ……! レイプ最高過ぎるぅ! おっ、おっ、おっ、おっ、おぉぉぉ~~~~……!」 「んっ、じゅっぶっ……ぐっ、や、だ……!! 熱いのドクドク、やだよ……んぶっぐうっ!!」 私……こんな場所で、こんな相手に……こんな形で大切な場所を……! 「お……お゙、お゙、お゙、お゙、お゙、お゙、お゙、お゙……! 生出し、最高っ……! おほっ、おほほぉ……! まだ出ますよっ、まだ終わりじゃないですからっ……!」 「んっ…………くっひゃっ! お゙ほぉ~~~…………! 中出しはやっぱ生ですねぇ……! スパッツとか、 コンドームとか要りません……生ちんぽが一番……!」 「ゆっふぃん……身体めっちゃガクガクさせてる……! はぁ……はぁ…………はふっ、んっ……! 射精ってあんなに足腰砕けちゃうものなのかな……」 「筮さんだって、んっ、スパっ、スパッツからっ、はふ、 ビュルビュルお潮滲ませて……んっ、お漏らしみたいに、 なってる……! んっんっんっ!」 「普通のオナニーじゃあんなに出ないよね……! あっ、んんっ……やっぱ、あいつ虐めながらだと…… くっ、んっ、興奮が違うって事なのかな……んっ!」 「――ぶはあっ!! はっ、はっ、げほっ、げっほおっ! ぐっ、げほげほっ、おひっ、ひっ、ひぃ…………!!」 ようやく口が解放された時、周囲はすっかり性の酸っぱい臭いが充満していた。 「――んっ……はふぅ、あぁ……こうやって亀頭で 中身を掻き混ぜてぇ……妊娠しろ~妊娠しろ~……! 出来れば女の子希望……樺音ちゃん似の女の子希望……」 「はへぇ…………おひぃぃ…………!! これ…… もし本物のちんぽだったら……食道通じて……あひっ、 幽門から肛門まで精液でいっぱいになってただろうな」 「んっ……んん~~~~~~~~っっ…………!! ――くはぁっ!! はぁっ、はぁっ、う、うう…… パンツ脱いでヤるべきだったかも……パンツ濡れ濡れぇ」 「はぁ……はぁ…………はぁ…………! ひ、ひぃ……はひぃ、ひぃ…………!」 膣内を淫液で浸され、喉の粘膜を削られ。 苦しさと恥ずかしさと悔しさで、頭がどうにかなってしまいそうだった。 「ふひひ、樺音ちゃぁん……二人の愛の結晶…… 猶達の赤ちゃんの名前……賢者タイム中に一緒に 考えましょっか……女の子前提でお願いしますぅ」 「うわ……私もちょいイキしちゃったかも……! 見てるだけなのに……! 想像以上のオナネタだったって事ね……」 「筮ちゃん……今度私にもそのペニバン貸して~……! あっはぁあん……私も……ちんぽでそいつ……虐めたい」 「はふぅ、あっ、はぁぁっ……! 射精機能に期待するべし……あはぁぁん……」 「――げっほげほおっ!!」 咳と一緒に赤い唾液が口から飛び出た。 唇を切っちゃったみたい。膣内も口内も、すっかり血だらけだ。 「はぁ……はぁ……はぁ……うっ、うぅ……はぁっ……!」 「どう……? これでわかった……? 私達を怒らせたら、どうなるか……」 「EdEnはね、私達のために作られた世界なの。 健常者が調子乗って足を踏み入れていい場所じゃ ないのよ」 「それと……これ以上那由太君に近付くなら もっともぉぉぉっと酷い事してやっからなぁ……? 覚悟しとけよぉ……? うひひひひっ♪」 足音……? 「あ…………!」 「――っ!」 「那由太……!」 ボロボロになった私に、彼はゆっくりと歩み寄ってきた。 そして、優しく私の肩に触れてから、5人に強い眼差しを向けた。 「お、俺は別に……虐めとかそういうんじゃなくて、 ただ犯したかっただけで……!」 「猶も同じですっ……! むしろ樺音ちゃんの事が大好きだから…… ちんぽ気持ち良くして欲しくて、それで……」 急いで股間を隠す二人。 残りの三人も慌てふためいた様子だけど……。 「き、期招来君、聞いて! この子ったら実は健常者だったんだよ!? ブルーメ・シンドロームの患者だなんて嘘だったの!」 「そんな……! 誰にも言わないって取引で……!」 「私達精神異常者を笑いものにするために、 EdEnにやってきたんですわ……! 酷いと思わないざますか……?」 「期招来君も、こいつと仲良くしてたみたいだけど…… 心の中でバカにされてきたのかもしれないよ?」 「ち、違うってば……! そんな事ない……! 私はただお母さんに協力したくて……それで……」 「わたし達は悪くない……! こいつがわたし達をバカにするから……仕返しで、 ちょっと痛めつけてやっただけだもん……!」 「期招来君、なにもおかしくないよね? こいつは虐められて当然だし、私達は悪くないよね?」 「……………………」 「ひ…………うひぃ…………」 彼は、無言で5人を牽制し続けた。 その間、私の肩に添え続けられた彼の左手が、とても心強くて……。 「ふ、ふん……わかったわよ……。 期招来君が止めるなら…… 今日のところはここら辺にしといてあげる」 「そ、そうだね……。 私だって期招来君に嫌われたくないし……」 「うう……猶はもっとイキたかったけど…… 続きはオナニーで我慢かぁ……ちぇー」 「これだけ気持ち良くなれたんだ……! 絶対にまた……レイプしてやる……!」 「覚えてなさい、葛籠井樺音……! 次はこんな程度じゃ済まないんだからねーだ!」 「はぁ……はぁ……うっ、はあ!」 足から力が消えて、その場に倒れてしまった。 彼女達が去った事で、気が抜けたのかもしれない。 「あ、あはは……期招来君に…… 恥ずかしいとこ、見られちゃったね……」 「えっと……気にしないで。 私にも非はあるの。彼女達が言ってた…… 私が健常者って話……あれ……ホントだから」 「あ、でもだからって皆をバカにはしてないのよ!? あの子達の事も……もちろん期招来君の事も、 心の中で笑ったりなんかしてない……!」 伝わるかな……。 施設の研究主任の娘という立場を利用して好奇心で現場に入り込んだって思うのが普通だよね。 彼女達みたいに……嫌な気分になるよね。 私は……もう、彼とは―― 「ご、ごめん、靴……取りに行かなきゃ……。 私もう行くね……。それじゃあ――」 「あ…………」 さっきまで、不愉快な接触を強いられ続けて。 「期招来……君……?」 人肌がこんなに恋しいなんて、知らなかった。 「……………………」 静かに包んでくれる、彼の体温。 穢れた私が、清まっていく。 「あ、あの……私……私ね……」 何を言えばいいんだろう。 さっき……あんな酷い事されて……。情けないところ彼に見られて……。健常者だってバレて、きっと誤解されて……。 混乱しっぱなしだ。落ち着いてゆっくり考える事が出来ない。 強がれない。正直になっちゃうよ―― 「今……優しくされたら……困る……」 あの子達が期招来君を好きなのは知ってる。 ここで、これ以上の言葉を告げたら、きっともっと酷い虐めに遭うのも予想出来る。 それなのに……止められない。 言ってしまう。この先の一言がもうすぐそこまで―― 「そんなに優しくされると……もっと好きになっちゃうよ」 「……………………」 優しい抱擁が止まらない。 包まれ続けて、私という存在が溶けていく。 このまま彼と同化したいと望んでしまう。 「ただでさえ……すごく好き、なのに……」 いつからだったかな……。 彼に優しくしてもらって。 ここには……EdEnには、辛い虐めがあっても、それを覆す清らかな存在があって……。 だから耐えられた。支えられて、くじけずにいられた。 私は、いつの間にか、勝手に彼の事を……。 「辛く……ないんだよ。本当に……平気なの」 「だって、あなたが優しくしてくれるから……。 感謝してるんだよ……」 ありがとうって言いたいのに……先に、好きって言っちゃった……。 順番を選ぶほど心に余裕がないから。 だから一緒に……思ったままに、全部まとめて―― 「期招来君……いつもありがとう……! 大好き……!」 例えば、受けた苦痛の分だけその先に幸福が待っているのだとしたら。 今日の虐めは特に酷かったから。 だからそれだけ、幸せになってもいいのかなって思った。 彼の呼吸と体温を間近に感じて―― “ここ”に来た意味を見出した気がした―― 「……………………」 港のベンチに座って、ボーっと海の向こうを眺める。 本土での生活を、正直俺はあまり覚えてない。 忘れてしまいたくなるくらいに悲劇的だったんだろう、と思ってしまう。 あの大規模な墜落事故において唯一の生還者。“奇跡の子供”なんて言われていたようだ。 でもすぐ……ブルーメ・シンドロームの発症条件を満たしている事が発覚して……。案の定俺はその病に侵されていて……。 世間は奇跡の子供への関心を失っていった。 家族を失い、奇病を患い。奇跡の子供は、不幸を体現した存在に生まれ変わった。 誰しも、腫物なんか扱いたくない。 臭い物に蓋をするかのように、奇異の視線すら遮断し。 皆、俺を忘れていった。 そんな人生だった。 自分のこれまでの人生。そして、これからの人生。 果たして価値があるのかなって思う。 確かにあの事故で俺は生き残ったけど……。 こんな人生、死んでいるのと同じじゃないかって思う事があって―― だーれだ? ああ―― あったかい―― 「ふふっ……ちゃんと私だってわかってくれた?」 当たり前だ。樺音の温もりを間違えるわけがない。 「もしかして待たせちゃったかな……? だとしたらごめんなさい」 礼儀正しく頭を下げる樺音。俺が早く来ただけなのに……。 「わざわざ待ち合わせないといけないなんて不便よね。 本当は寮から二人で移動出来たらいいんだけど……」 どちらかというと、こちらの方を謝りたがっている様子だ。 でも、それは樺音が悪いわけじゃない。俺だって……いや、むしろ全ての責任は俺にある。 樺音が、フーカやまころ、つつじ子達から嫌がらせを受けているのは知ってる。 その理由に、自分が関わっているという事も。 彼女達には、俺の方からこれ以上樺音に関与しないようにとは伝えてある。 けど……どこまで約束を守ってくれるか。 俺達は一応の対策として、彼女達の見てる前ではあまり接触しないようにする事を決めた。 EdEn内、寮内、通学路……。いつ彼女達に見られているかわからない。 出来る限り注意を払いつつ、各々行動するようにしている。 でも……樺音はいつも俺を気遣ってくれる。 彼女達の目を盗んで、俺を助けてくれる。 それが嬉しくて。 樺音とこうして恋人になって良かったと思えるんだ―― 「さて、それじゃあ……どこ行こっか」 「と言っても、この島で遊べるような場所なんて ほとんどないよね……商店街も歩き尽したし、 うっかり彼女達に遭遇したらマズいし……」 確かに、寮に近付くのは避けた方がいいかもしれない。 なるべく人のいないところ、となると―― 「ねえ、海の方は?」 樺音の笑顔に、肯定で応えた。 だって、二人で見る海は、きっと―― ――きっと、それまでの悲しい人生が浄化されていくと思ったから。 ずっと否定し続けてきた自分の過去。 樺音と並んで波の音を聞くと、なぜか優しい気持ちになれる。 過去の全てを肯定する事は出来ないけど……。 受け入れて、前に進んでみようって思えるんだ。 「綺麗だね……海……」 夕焼けに照らされた海面が、オレンジの粒を放つ。 キラキラ輝く境界線が、世界を海と空に分かつ。 ――神聖な場所だと思えた。 「私、海が好きなんだ」 潮風に靡いた樺音の黒髪が、生き物のようにざわめいた。 毛先までが美しく波打ち、優しく背中に戻っていく。目で追わずにはいられなかった。 「泳ぐのはあんまり得意じゃなくて…… 見てるだけでいいの。 こうして……静かに見てるだけで……」 「一つ一つ、波が違うでしょ? 大きな波もあれば、小さな波もあって…… 優しかったり、たくましかったり……」 「海を眺めているとね、自分のちっぽけさを感じるの。 こんな大きな海を前にしたら、自分の悩みなんて 大した事無いんだな……って」 今一度、潮風が樺音を丁寧に撫でた。 樺音の言葉を肯定しているかのようで。 「本土は……あっちかな。遠過ぎて全然見えないね」 「……向こうではずっと一人だった。 お母さんは天使島に住み込みで研究してるし…… お父さんはそもそも死んじゃってるし」 「小っちゃい時は親戚の人に育ててもらってたの。 当時からお母さんは忙しくて……年に何回かしか 会えなかったな……」 「進学を機に、一人暮らしを始めたんだ。いつまでも親戚 にお世話になってちゃダメだって思って。お母さんも 一人で頑張ってるんだし、私も自立しなきゃって」 それは……すごいな。 俺もずっと一人だったけど……そんな力は無かった。 ブルーメ・シンドロームが発覚してからは、病院や施設をたらい回しにされて。 天使島の計画が始動したのを機に、ここに半ば強制的にやって来た。 患者として、ここの生活は気に入ってる。ここに楽園を作ってくれた葛籠井雫流先生には感謝してる。 だから、不思議な気分だよ。こんな形でその娘さんと二人っきりで、海を眺める事になるなんて。 「ここは……確かに、辛い事もあるけど……」 「でもね。来て良かったって思ってるよ。 お母さんもいるし……それに……」 夕焼けを吸い込んだ樺音の瞳が、俺を真っ直ぐに捉えた。 吸い込まれそうなのは、その眼よりも―― 「ねえ、キス……しよっか」 その唇―― 「――那由太に会えたから。 だから、ここに来て良かったって思えるんだよ」 二人きりの時だけの、特別な呼び方。 そんなささやかな秘密が、なんだか気恥ずかしくて。 でもすごく心地良くて。 「――ちゅっ……」 樺音の存在は、自分の人生で初めて見えた光だった―― 「ふぅ…………」 ベッドに身を放り投げるこの瞬間が、とても心地良い。 全てを忘れて無防備になれる。張り詰めていたものを緩められる数少ない時間だ。 だって、いつどこに彼女達が現れるかわからないから。 難癖や言いがかりはどうしようもないけど……出来る限り、自分の身を守るだけの事はしたいと思う。 大好きな人の前で、これ以上の穢れた身体を晒さないようにするために。 「はぁ……そうなんだよな……。 私……もう処女じゃないんだ……」 ショックではある。 でも、私の初めてを一番にもらって欲しい相手に捧げる事は、不可能だって知っていた。 だからってあんな凌辱で奪われたのは不本意だけど……。 初めての相手が那由太になる事は初めからあり得ないわけだし。あの日の出来事は、もう忘れた方がいいのかもしれない。 いや……あの凌辱の一件で、忘れてはならない事が一つだけある。 見過ごせない事。聞き捨てならない事。 彼女達は、あまりに狂暴で、凶悪で、欲望に忠実だった。 いくらなんでも、嫉妬や性欲という動機であんな事をしでかすだろうか。 確かに彼女達の取引は理に適っている。私を脅迫する条件として、健常者の秘密を明かさないという約束は、私への抑制に値するものだ。 でも……それと引き換えに彼女達が得たものは……虐めの正当化。それだけだ。 虐めたい、虐げたいという欲望を満たすために、取引を持ち出したのだ。 そこまで加虐的な人間なのだろうか? いくら精神病を患っているからといって、5人があれほど情緒不安定に欲望を曝け出すとは思えない。集団心理が手伝っても、だ。 とはいえ、私には心当たりがある。あまりにもわかりやすい答えがそこにある。 狂暴で凶悪で欲望に忠実で加虐的。 それって……ギフトの特徴じゃないか。 彼女達はブルーメ・シンドローム患者。ギフトを抱えている者達だ。 でも……ギフトはチャイムで抑制しているし、薬という保険もある。まず表面化しないはず。 主人格は皆、非人道的なギフト人格を眠らせておきたいと思うのが普通である。 だってギフトが表面化したら、主人格が脳の奥で眠っている間に、何をしでかすかわからない。 自分の身体を別の悪人に乗っ取られてしまうのだから、当然主人格はギフトの発動を回避しようとするはずだ。 だから……このEdEnにおいて、主人格が意図的にギフトを表面化させようとしない限り、ギフトが発症する事はあり得ないと思うんだけど……。 「でも……彼女達の凶悪性は……」 ギフトというより他はない。 だったら―― 彼女達は自らの意志でギフトを発動させて、それを何らかの方法で維持し続けている――? 「どうしよう……。もし本当に彼女達がギフトなら…… お母さんに相談した方がいいよね……」 ……いや、でもまだ確定じゃない。 下手に職員に協力を仰いで、彼女達を刺激しない方がいい気がする。 虐めが過激化するのは嫌だけど……なにより、自分が健常者である事を職員にバラされたくない。 彼女達の事だ。もし本当にギフトだとしたら、追い詰められた時に私の秘密を手当たり次第ばら撒くだろう。 それはお母さんに迷惑をかける事になる。 そして……もし実験が中止になったら……きっと私は、本土に戻される……。 「そしたら……那由太とも……」 無意識に、指先が唇に触れた。 「ずっと一緒にいたいよ……」 そのために、慎重に行動しないと。 彼女達が本当にギフトなのだとしたら、発症を維持させている方法があるはず。 お母さんに報告するのは、それを確かめてからでも遅くはないだろう。 あんまり彼女達を注視するのは気が進まないけど……明日、彼女達の行動をこっそり監視してみよう。何かわかるかもしれない。 「……………………」 朝から彼女達の様子を観察している。 特別おかしな点は見受けられない。 ギフトを無理矢理発動させ続ける特殊な薬みたいなものを飲んでるのかと思ったけど……そうじゃないみたい。 いや、それとも自室でこっそり服用してる?だとしたら確かめようがないな……。 正午のチャイムだ。 もしギフトが発症したとしても、これを聞いてしまえば主人格に戻るはずなんだけどな……。 耳を塞いでチャイムの音を回避しているわけでもないし。 そもそもこのチャイムは、耳を塞ぐ程度じゃ効果を防ぐ事は出来ないはず。 むしろ木ノ葉さんなんか、携帯で通話しながらチャイムを聞き流してるくらいに、余裕を見せている。 「…………ん?」 木ノ葉さんだけじゃない。 他の四人も……携帯を使ってる……。 「え…………?」 皆……口が動いてない。 喋ってない……通話してない……。 何かを……聞いてるって事……? 「……………………」 あの携帯にどんな仕組みがあって、どんな効果が得られるのかわからない。 でも……間違いなくあの携帯に秘密がある。チャイムを無力化させる秘密が……。 裏付けはもう十分だ。 この事をお母さんに知らせないと―― 「…………くくくっ」 「――ちょっと待ちなさい」 教室を出るとすぐに、木ノ葉さんに声をかけられた。 「……何か用?」 「しらばっくれなくていいわよ。 私達がギフトだって事、もう気付いてるんでしょ?」 「え…………!」 そんな……!? あっさり認めた……!? 「あんたの考えてる通りよ。 携帯電話の着信メロディを改造したの。 チャイムを無効化する音波が流れるようにね」 「まころがやったの。私を呼び起こすために。 好きな人を振り向かせたくて、邪魔者を蹴落としたくて、 私の力が必要だったみたいね」 「どうして……」 「他の四人も同じやり方でギフト中。 恩を売って後々利用するために、 私がギフトを呼び出しておいたの」 「どうして、全部……私に話すの……!?」 「ふふ……気付いてたわよ? あんたが私達を怪しんでた事」 「ま、あれだけこっ酷く虐めたわけだしね。 ギフトじゃないかって疑うのが普通よね」 「隠す気……ないんだ」 「そういう事。だからわざとらしくあんたが見てるの わかってて、堂々とこれ見よがしに着メロ聞いてたの。 バカなあんたがいつ気付くかなーって思ってたんだけど」 「いつから、ギフトに?」 「あんたが転入してくる前からよ。私達5人は、 ずっとギフトを維持し続けてきた。一応人前では 主人格の真似してるから、案外バレないものね」 おかしい……。 彼女、まったく焦る素振りが無い……! 「……もう一度聞いていい? どうして全部私に話すの……?」 「決まってるじゃない。また“取引”よ」 「は……?」 取引……? それは……おかしいよ。 だって、彼女達がギフトであるという情報は、彼女達にとって知られたくないはずの秘密。 それを知った私に主導権があるはずなのに……どうしてあんな余裕顔で、取引だなんて言えるの……? 主導権のある私が取引を持ち掛けるならまだしも……どうして彼女が……? 「言うつもりでしょ。母親に。私達の事」 「……そのつもりだけど」 「そしたら私達おしまいね。牢獄行きにでもなって…… ギフト人格は、強制的に除去されちゃうのかな」 「最終的に、私という存在はこの世からいなくなる。 主人格は生き続けても、そんなの私にとっては関係ない。 ギフトの除去は、私にとっては死を意味する」 「何が言いたいの?」 「簡単な話。このままあんたを野放しにしてたら、 私という人格が殺されてしまう」 「だから、私は全力で止める。 殺されるくらいなら殺してやるって言ってんの」 「なっ……!」 「私達がギフトだって事職員の誰かにばらしたら…… 仕返しにあんたの母親殺すから」 お母さんを殺す……!? なんてことを……! 「親を殺されたくなかったら、私の言う事聞きなさい。 わかりやすいでしょ?」 これが……彼女の言う取引……! 「言っとくけど……私本気だから」 それは間違いない。 だって彼女はギフトなんだ。 本能的で野性的で攻撃的で。理性の箍が外れ切った異常精神を背負った人格。 憎悪や怨念さえあれば、人を殺すなんて十分にあり得る話だ。ブルーメ・シンドロームの患者の傷害事件の前例なんて数え切れないほど。 そして、彼女達の凶悪性は私が一番よく知っている。 殺す……その突拍子もない意志に、偽りはない。 そうと決めたら絶対に実行する人格なんだ、ギフトというのは。 「それじゃあさっそく取引ね。 私について来なさい」 「……取引というより……もはや命令ね」 「そう思ってくれて構わないけど? こっちは自分の命が懸かってるんですもの。 形振り構っていられないし」 「……………………」 これは……マズい。 ギフトである事を告発したら、人格除去による死と引き換えに、お母さんを道連れにされてしまう。 彼女達は、自分がギフトである事を初めから私に隠すつもりなかったんだ。 開き直るために――! 「――お、来た来た。新しい取引、上手くいった?」 「ここにノコノコついて来てるって時点でお察しでしょ」 「そうだよねぇ……くひゃひゃっ! 家族は大切よね? 見捨てたくないわよね? ひひひひっ、くひゃひゃひゃひゃっ!!」 屋上……。 「こんなところで……何する気?」 「あはぁ……言わなくてもわかって欲しいですけどぉ。 ほらほらぁ、フル勃起でもっこりテント中の 猶のスカートが大ヒントですよぉ……ぐへへぇ……」 「屋上、鍵かかってるはずなんだけど」 「転入生にEdEnを案内したいって職員に 頼んだ。葛籠井先生の娘が友人達と溶け込んでる のを想像したらしく、容易く鍵を手渡してくれたぞ」 「転入してから大分経ってるのに、今更案内? 笑わせないで」 「おーおー、葛籠井樺音さんよぉ~。 ちょっとナマ言っちゃってんじゃないの~? 喧嘩売りたいのかなぁ?」 「好戦的なのはそっちでしょ。 私もあなた達がギフトだってわかって、 ようやく覚悟が決まったの」 「――あなた達に、負けないから」 屈服なんてしない。理解も示さない。 強い意志を視線に乗せて、5人を睨み返した。 「おっひっ……んっ、お゙っ、お゙っ、お゙っ……!? ふひぃ……猶、今のでちょっとイっちゃったかも……」 「あはぁ……なんだよそれぇ……あぁぁぁっ……! 鋭い目……反抗的な態度……! 犯し甲斐あり過ぎるだろぉ、あぁ……ああっ……!」 ……勝てないのはわかってる。 相手はギフトなんだ。常識や慈悲や真心は持ち合わせていない。 どうせ酷い事されるなら―― せめて私は、彼女達と対照的に―― 人間の尊厳を胸に―― 「私さ……あんたの事嫌いでさ……」 「期招来は私のものなの。 でもそれを横取りしようとして。 醜い泥棒猫……ホントムカつく」 「憎くて憎くて……ムカつくたびに虐めてた」 「……でもね、最近はちょっと違うの」 「憎いからってのももちろんあるんだけど…… それ以上にね、楽しいの。楽しいから虐めてるの」 「は……」 「私達も同じなんだよ? なんかねぇ……あんたがグチャグチャになってると、 ものすごく興奮出来るんだよ……なんでだろうね」 「この前レイプされてるの見て、目覚めちゃったみたい。 もっと本格的に……ボロボロにさせたくなっちゃう。 神様が言ってた“滅ぼす”って、こういう事なのかしら」 「俺は初めからそのつもりだったがな。嫉妬とか 憎悪とかそういうの一切無し。葛籠井樺音は レイプ欲をぶつけるためだけのダッチワイフ」 「猶の虐めは愛情表現です。 唯一の生ちんぽ持ちとして、しっかりこの気持ちを 樺音ちゃんの穴という穴に注ぎ込みたいのです!」 「そう……だからこうしてやろうと思って――」 「――きゃあああっ!!?」 突然、仰向けに押し倒された。 5人が一斉に私に群がったせいで、誰が押したのかわからない。 「痛ぁっ……ひ、ひっ!?」 周囲を見て、思わず声を引き攣らせてしまう。 幾本のペニスが……私の方を向いている……! 「ぐふふぅ……予告通りさ……。いい眺めだろう……? これだけのちんぽに囲まれるなんて、メスにとっては 最高の気分じゃないか……?」 「見てるだけじゃつまんないからね……。 殴る蹴るも考えたけど……やっぱり、 虐めの真骨頂と言ったらこれでしょこれ……」 5本の悪意の塊を前に、少しでも距離を置こうと本能が腰を浮かせるものの……。 「暴れるんじゃないわよっ! 逃がさないんだからねぇ……! くっひっひっ!」 私の手首を掴んだ玖塚つつじ子の握力が、それを許してくれない。 「はぁっ……はぁっ……ぐ、ひぃ……!」 木ノ葉まころの言う“こうしてやろう”の真意。 確認するまでもない。 人間の尊厳を守り切ろうという私の覚悟を、打ち砕くつもりなのだろう。 「どこまでも……歪んでるわねっ……!」 「ギフトだからねぇ……うひひひひっ!」 加虐の愉悦に下卑た笑いを浮かべる少女達に、後ろめたさなど一切感じられない。 これがギフト――! 改めて、その異常人格の恐ろしさを知った気分だ。 「んはへぇっ、あっへぇ、樺音ちゃんのおっぱひぃ……! おひっ、おっひぃ、気ん持ちいひいぃ……あへはぁ……」 「うっ……や、なに、ひっ……!?」 私の下敷きになってる由芙院御伽が、手を回してきた。 「樺音ちゃん、おっぱい何カップですかぁ……? んはぁ、そのサイズのブラ、きっとすぐ使い物に ならなくなりますよぉ……ぐひぃ、ぐっひひ、じゅるり」 「だってぇ、猶がいっぱい揉んで大きくしちゃいますから。 猶の愛撫で女の子ホルモン出させまくって、樺音ちゃん を変態巨乳っ子にしちゃいます、おひひいっ!!」 「やめ、てっ……んっ、はぁっ、手つきやらしいっ! あっ、くひっ、んひいっ……!」 その手だけじゃない。 耳元にかかる生温かい吐息が甘ったるくて、ひらすらに不快感を煽る。 「はぁ……ただでさえブリブリぼっきっきな猶のちんぽが、 もっともーっとエログロスケベちんぽに変身しちゃい ますぅ……ふかふかおっぱいでふっくらちんぽぉ……♪」 乳房の形が変わるんじゃないかってくらい乱暴に揉みしだいてくる。この握力、由芙院御伽が男性である事を思い出させる。 いや……というより、私の下腹部に構えられた本物のペニスが我慢汁を滴らせているところを見ると……。 「ひ、ひぃ……おちんちん、また……!?」 「そうですよぉ、ぐへ、ぐへへっ……! またです、また入れちゃいます……!」 「どうですか皆さん、ちんぽの準備出来てますかぁ……? 勃起させて……ちん皮から頭出して……ちゃんと レイプちんぽモードになってますかぁ……!?」 「これペニバンだから初めからフル勃起だよ、ゆっふぃん」 「おひ♪ 皆さん犯す準備ばっちりって感じですねぇ……! それじゃあ……おひ、おひひひひっ……! ヤっちゃいますか……おひひいっ!!」 皆、陰茎を握りながらドロリとした視線を私に送っている。 そして―― 「ちんぽ挿入ーーーーーーっっ!! ひゃっはーーーーーーーっっ!!」 「――あっぎっ!? くっ、ひっぎっ……!!?」 身体が浮き上がってすぐ、嫌悪感が滲む。 同時に、目を見開くほどの苦痛に襲われた。 「ひっぎいいっ、んひぎいっ、ひっ、あぎいっ……!! ひっ…………っぎいいいいいいぃいいいぃいっ……!!」 「おっほっ! やっぱ“ここ”に入れるとひぎーって 喘ぐんですねっ! エロゲーみたいで萌え萌えですぅ!」 「あっ、がぁっ、あぎぎっ、くぎっ……!! いぎぎ……い、ひぎっ、ひぎぃぃっ、んっぎっ!!」 やっぱり挿入されてしまった。 嫌なのに……那由太と結ばれたからなおさら、こんな事したくないのに……! 「うはぁぁぁ……おほぉぉ……おっ、おっ、おっほおぉ! ふ、ふぅぅ、んふうぅ、ふ、ふぅ…………ひぃ……」 「おひっ、おっひっ!! おっ、おひっ、んひいっ!! お、おぉぉぉ……おっ、おっ、おっ♪」 なぜか、異物感が以前のそれと違う。 痛みも桁違い……これって、まさか―― 「ひっ、ぎぎぎぎっ……お、お尻っ……!? おちんちん、お尻に……入ってるのっ……!?」 「おほぉ……樺音ちゃんのケツ穴、あったかいなりぃ……。 おほぉぉぉぉ…………」 「い、痛いっ!! 痛いっ、んぎっぎいっ!! 痛いよっ、や、やめて……ひっ、あっぎいっ!!」 嘘でしょ……!? 由芙院御伽のあの巨根……今、私の肛門に入っちゃってるの……!? 「ぬ、抜いてえっ、ひいっ、痛いっ、痛いからぁっ!!」 「ダメですよぉっ! この穴は猶のものですぅ……! 樺音ちゃんのうんちだろうと、通行止めしてやりますっ! このアナルは、猶がいただいちゃうんですっ、いひひ!」 お尻が異常な熱を帯びながら、ヒリヒリとした刺激を訴え続けている。 明らかに有害な接続だ。今すぐにでも抜いてもらわないと……! 「いやぁっ、抜いてってばっ! お尻におちんちんだなんて……くっ、あっぎっ! ひ、ぎっ、いぎぎ……こんな痛いの、初めてっ!」 「おほほぉっ、その反応っ! 樺音ちゃんもしかしてアナルは初めてですかぁ!?」 「まあそりゃそうですよね、ついこの前まで処女 だったんですもんね、アナルだって純潔おケツ に決まってますよねえ!?」 「ひひっ、いっひひひっ! って事は猶、樺音ちゃんのまんことアナル、 両方の初めてをもらっちゃったって事ですかあ!?」 「いやあ光栄ですっ! 猶のちんぽ、樺音ちゃんの前後の 穴を塞いだ世界で唯一のちんぽです! 樺音ちゃんの 初めての味を知ってるちんぽっ、猶の誇りーっ!」 「はっ、はっ、ぐっ、ぎいっ……!! そんな事どうでもいいから……おちんちん抜いてぇ!」 「はっ、はっ、尻穴ばっかりに気を取られているが…… あはぁっ、まんこ挿入中のちんぽにも反応を示したら どうだぁ? あっ、あっ、んっ……!」 「ひっ……くあっ、んがぁっ……!!」 お尻の痛みが強過ぎて気付かなかった……! 四十九筮のペニスバンドが、私のあそこに……! 私……お尻とあそこ、両方いっぺんに犯されちゃってる……!? 「あひひひぃ……ざまあみなさい、葛籠井樺音っ……! ギフトなめんじゃないわよ、ぎゃひひひひっ!!」 「おっ、おふぅ……こっちの穴は初めてじゃない はずだが……あへぇ、まん肉が進行の邪魔をして、 やはり入れ慣れてない感たっぷりだ……」 「ああ……ちんぽ圧し込むたびに抵抗がぐいぐい 跳ね返ってくる……! 感触としては、 処女まんこ認定してもいいくらいの締まり具合だ……!」 「だってさぁ、よかったね。 まだビッチまんこ化してないみたいで」 「まあ、これからもどんどんレイプしていく予定だから。 すぐにまん肉、びろびろになっちゃうと思うわよ」 「かはっ……くっ、んっ、ぐぅ……ひっ、ぐうっ!!」 挿入をしていない三人は、私を取り囲み自由を奪いつつ乱暴を仕向けている。 「私達は穴に入れたいわけじゃないからねぇ。 ちんぽは虐めるための道具っ。ほれほれぇ、 ちんぽでひーひー言うがいいさ、ほほほほー!」 「それえっ! ちんぽでブサイク顔になりなよぉっ!! ちんぽに顔擦られて、もっとゴミみたいな顔になれっ! それ、それ、それえっ!!」 「んぐっ、ぐぶっ、わぶうっ! やべでぇっ……! そんなもの、圧し付けないでっ、くぶっ、あぎぎっ!」 「うるさい、黙りなっ! あんたなんか…… ちんぽ塗れのドブスビッチ顔がお似合いだよっ! ほら、もっとちんぽで顔歪めなっ!」 「お、おお……なんかまころちゃん張り切ってんね……。 まあ気持ちはわかるよ。ムカつく相手をブサイクに させるのって楽しいもんねっ」 「うひひっ♪ レイプする男って皆こんな気分 なのかしらね……苦しんでる牝見てると…… 自然とちんぽ扱きたくなってきちゃう……あへぇ」 「皆さんもレイプする側の面白さ、理解してくれた みたいですねぇっ……やっぱちんぽって偉大!」 「んぶぶっ、い、痛いっ、あそこも、お尻も……ぐぶぅ! 痛いよっ、そんな激しく……あぎぎっ、しないでぇっ!」 それぞれが自由に私の身体を弄ぶ。 憎悪、嫉妬、愉悦、性欲、狂愛。 どの劣情もギフトにぴったりの禍々しさだ。 「それにしてもぉ、初アナルセックスでローション無し なんてすごいですよぉ! 猶と樺音ちゃんの身体の 相性抜群ですね、結婚いつにしますか?」 「はへっ、はへっ、ろ、ローションなんて無くても…… ゆっふぃんのちんぽはカウパー出しまくりで、 いつもヌルヌルだからな……はへぇっ!」 「んっ、んっ、それだけ愛情が半端ないって事ですよぉ! いよ……っと! もっかい……よっと!」 一突き一突きが重い。 二つの穴を同時に突かれると、下腹部が収縮していく錯覚に陥るほどだ。 「あっ、ん、樺音ちゃん、猶のちんぽ感じてますかぁ? この我慢汁の一滴一滴が猶の純愛の証なんですよほぉ?」 「ふ、ふざけないで……んぐっ、ぐぎぎぃ……!」 「こんなの……はっ、はっ……純愛じゃないっ……! あなた達ギフトが……愛なんて語らないでっ……!」 「ああっ!? んだとこらっ! 私の期招来君への愛情なめんなクソメスっ!!」 「あぎゃああああっ!!?」 髪の毛を、思いっ切り引っ張られた。 「あはは、いいぞいいぞー! やったれつつじ子ちゃん!」 「あんたの方こそ、新参のくせして何、生意気 かましてんだよっ……! 期招来君への気持ちは…… 絶対私の方が上なのにっ! このっ、このぉっ!!」 「私だって那由太君の愛情なら誰にも負けないんだから! ほらぁっ、負けを認めないとちんぽもっとグリグリ するぞ~!? グリグリグリ~~っ!!」 「んぐぐっ、ぐがっ、ぎひぃ……! こ、こんな事されても……私は負けないっ……! 那由太への想いだって……あなた達なんかには……!」 「――おい葛籠井」 過激な凌辱の中で、冷え切った一声がその場を征服した。 「さっきから何言ってんのよ。何抗ってんのよ」 「あんた自分の役割わかってないわけ? この時間が何のためのものか自覚してないわけ?」 「はっ……はっ……な、何を……!」 「うひひ……わかってないみたいだよ。 まあ……“だからこそ”健常者っていうか」 「私達があんたに何を求めてるか……それすら知らずに 虐められてるわけ? あんた頭おかしいんじゃない?」 「あなた達が……はぁっ、はぁっ…… 私に、求めているもの……!?」 「あのね、虐めの醍醐味って、やっぱり相手を ぐちゃぐちゃにするところにあると思うの」 「身体だけじゃない。心も……そして未来も。 つまり、人生そのものをぐちゃぐちゃにするの」 「昔虐められてて……その反動で大人になってから 立派になるとかあるでしょ? あれは認めない。 物凄くつまんない」 「だって、虐めてるこっちの立場になって考えて みなさいよ。虐めた相手が将来成功してたら、 虐めてる側がすごく惨めじゃないの」 一体……何の話……!? 「あんたは私のために、腐った人生送らないとダメなの。 そうしないと私達が虐めてる意味ないでしょ?」 「虐められた側は……んっ、虐めた側に人生捧げる 気持ちでいなきゃ……はっ、はっ……それが…… んはっ……虐められる人間の役割……!」 「あんたはここで虐められて、心に傷を負って、 人間不信になって、引きこもって、社会性を失って、 結婚適齢期棒に振って、無様な姿で孤独死するの」 「私達はね、んっ、はぁん……そんなあんたの 無意味な人生を同窓会でネタにして笑うの……。 んっ、んっ、んっ……!」 ペニスを扱きながら、彼女達は徐々に口角を歪ませていく。 まるで悪意を口元から零すかのように。 「はふっ、そ、その時の私達は、素敵な大人になってて、 んっ、それぞれがそれぞれの幸せを手にしてるの……! あんたの事なんて同窓会でしか思い出さないの……!」 「わかる? それが正しくて健全な虐めなんだよ……。 んっ、はふっ、虐めてる私達は成功して……あっ、 ふひぃ……虐められてるあんたは失墜するのさ……」 「虐めって、幸せの奪い合いみたいなものなの……んっ! 奪った分だけ私達は幸福になって……はっ、はっ…… 奪われた分だけあんたは不幸になる……はぁっ……!」 「虐められてるあんたが幸せになる事なんて あり得ないんだよっ……! そんなの……あっ、はあっ、 私達が絶対許さない……あはぁっ……!」 「うっ…………くっ…………!!」 当然のように。まるで息を吸うように。 ギフトは人間を穢す。 こんな考え方がまかり通ってたまるか。 それを許す人格を野放しにしてたまるか。 彼女達は……顕在しちゃいけない存在だったんだ……! 「わかった? 私達があんたに求めてる事。つまり――」 「――あっはああっ!! 私達を幸せにさせろぉぉっ!! 人生崩壊して、未来の私達の嘲笑のネタになれええ!! あっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃあああっっ!!!」 はっきりと判明した。 ギフトには、“相手”が介在しないんだ。 自分の欲望を振りかざした結果、周囲がどうなるかなんて少しも考えないんだ。そこが欠落してるんだ。 笑うために陥れたい。射精するために凌辱したい。気持ち良くなるために虐めたい。 一時の快楽が彼女達の全てで……獲物がどうなろうと知った事ではない。考えもしない。 あまりにも刹那的な。 自分の幸せしか見えていないんだ。 動物ですらない。 ただの―― 「――化け物っ!!」 「あはぁっ♪ あひひっ、げひゃひゃひゃひゃあっ!!」 「もっと私達を愉しませなさいよぉっ!! ぐひひひひへへへへええっっ!!」 悪人じゃない。それを超えた存在。 人間たらしめる大切な感情が大きく欠落していて。それゆえに人間を形成出来ていなくて。 別人格……イマジナリーフレンドなんて単純なものじゃない。 ギフトは、人間からその器を乗っ取った悪魔のごとき化け物だ―― 「んほぉ……さっきからその会話、最高過ぎるんです けど……樺音ちゃんのキリッとした反抗ボイスなんか、 もう大勃起もんですよぉぉ…………!」 「おっ、おっ、おぉぉぉっ、おほぉぉぉ…………! 非挿入組も盛り上がってるみたいだな……! そろそろイキ時か……?」 「筮っ……! これ射精出来るって言ってたわねっ! どうやんのっ!?」 「扱いた摩擦で温度が上昇すると、中に詰まった液体が 飛び出す仕組みだ」 「ぐふふっ、何それ本物のちんぽみたい……! 最高の射精機能だわ……!」 「あっ、あっ、シコシコぉ、シコシコシコぉっ!! 初めから……虐め楽しくて、シコってるっちゅーの……! シコシコシコぉ……!」 陰茎を握る三人の手が、前後に加速していく。 身体に突き刺さった二本のペニスも同様に―― 「んひっ! んひっ! あはぁっ、樺音ちゃんのおケツの 中で、ちんぽ膨らみまくりますうっ、あひひいっ!! 勃起ノンストップぅっ!!」 「はっ、はっ、はっ……俺も……はっ、はっ……! 腰が止められないっ……! ひっ、ひっ……んひっ! まんこ……もっとグチャグチャにしたいっ……!」 「きゃぎっ、あっ、ひがっ……! いだひっ、くっ……! 破裂、するっ……太過ぎて……あそこも、お尻も…… くひっ、引き……千切れるっ……!」 「大丈夫です、人工肛門になっても猶の愛情は不変ですよ! むしろそっちの方がアナルセックスしまくれていいかも しれませんよぉ? おっほぉ……ふひひぃ……!」 「んっ、んっ……はっ、あへっ、ひっ……! ちんぽ……シコってたら熱くなってきたんだけど…… はふっ、これ、そろそろ……んっ、んっ……!」 「そういう事だ……! ザー汁、たっぷりぶっかけてやれ……!」 「いぎっ、ひっ……や、めて、そんなもの…… こっち向けないで……! あっ、んぎっ……!」 性熱が瘴気となって辺りに充満していく。 異常な狂気がいよいよ高まっていき―― 「はぁっ、はぁっ、い、イク、イキますよ樺音ちゃんっ、 あへっ、んへぇっ、腸の中……全部猶のザーメンで 真っ白にしてやりますからねっ……!!」 「はっ、はっ……ちんぽでまんこ穢す……! これぞレイプ……ああ、俺のレイプ欲が……あへぇ、 ようやく……あっ、あっ、ああああああっ!!」 「あっ、ぎあっ、あっ、あっ、やめてっ、あっ、あっ!! あひっ、ひっ、ひいいいいいいいいいいいいいっっ!!」 「喘げっ! 苦しめっ! ぶち犯されろぉぉっ!! ブス顔晒して私達をもっと気持ち良くさせなさいよ おおおおあああああああああああああっっっ!!!」 「――ひぎゃっ……あっ、っぎゃあああああああああ あああああああああああああああああっっっ!!!」 瞬間的に、世界が真っ白に染まった。 純白じゃない。濁った黄ばみを含んだ白だ。 「んぎひぎぎぎぎいぎぎいぎいっ……!! お尻いっ!! お尻の中に、ひがぎっ、熱いのが……あっぎいっ、 ひっ、くぎいっ……!!」 「あそこの奥にも……一緒に、ドクドクって……んっ、 きゃふっ、ぎっ……やだ、出さないで、出さないでぇ!」 こんな精液欲しくないのに。入れられたらダメなのに。 だって……私には那由太がいて。 それなのに……こんな……こんな……! 「んはぁっ、おっ、おっ、おぉっ!? 出まくりますこれえっ!? アナル射精っ!! 止まりませんなあっ、たまりませんなあっ!!」 「いくらでも搾り出せますよぉっ、んっ、んっ、おほお! 直腸だけじゃ収まり切りませんっ……! 猶の精液よ、樺音ちゃんの十二指腸へ届けっ!!」 「はあっ、はあっ、恥丘が精液でもっこり 膨れ上がってる……! あっ、あはあっ!! 気持ちいひっ、ひっ、ひいっ、ひっ、ひっ、ひっ!!」 「これが精液注ぐ人間の視点……! 犯しながら牝を見下す立場の快感……! ああっ、レイプレイプレイプレイプレイプううっ!!」 「どうよ葛籠井、どうなのよぉっ!!? ザーメン塗れにされた感想は……!? 悔しがれっ、情けない声早く聞かせなさいよぉっ!!」 「あひっ、あひっ、何これ、ホントに射精してるみたいっ、 ちんぽ、震える、ビュルビュル……このペニバン、 虐めに最適過ぎぃ、あへええっ!!」 「シコシコシコシコシコシコぉっ! 虐め楽しいっ! 虐め興奮するっ! 虐め勃起するっ! 虐めてると ちんぽシコシコ止まんなくなるシコ~~~っ!!」 「あぐっ、ぐぶぶっ、ぶふうっ!! あっ、かはぁっ……あっ、あっ、ひっ、ひぃっ!! んぎっひぃぃぃぃ…………!!」 彼女達は全員、何もかも忘れ自身の絶頂だけに集中していた。 人間離れした表情を浮かべ、人間離れした声を上げて。 きっと彼女達は、今自分がどれだけ人間からかけ離れてしまっているか、気付いていない。 自我を忘れる絶頂の瞬間こそ……ギフトの本性、つまり化け物じみた恐ろしさを曝け出す時なのだ。 「はぁっ……はぁっ……ゔぶっ!!? うひ、ひぃ……臭い…………!? 何この臭い……」 「くくくくく……それ全部本物の精液だからな」 「え……!? ひぃ……うひぃ……ど、どうして……」 「猶がオナニーで出したヤツをペットボトルに 溜めておいたんです。こってり熟成ザーメンですよぉ」 「それじゃあ……お、おまんこに出されたのも……!?」 「もちろん♪ 今樺音ちゃんの子宮に詰まってる精液は 猶の子種ちゃん達ですぅ。あは、着床着床!」 「そん……な…………」 那由太、ごめんなさい……。 私……また……! 「――あはぁぁ……♪ その顔……そそるぅ……! じゅるり……」 これはもう、ただの虐めじゃない。 ――ギフトの暴走。 これがブルーメ・シンドロームの真の恐ろしさ。 白濁に染まりながら、彼の事だけが気がかりだった。 だって……那由太も同じ病を患っていて。 那由太にもギフトがいて。そしておそらくは彼女達のものよりもさらに凶悪で。 そんな那由太の幸せの行く末だけを、ずっと考えていた―― 「――いらっしゃい」 ――そこには、本当に樺音がいた。 ここは樺音の部屋なんだから当たり前だけど……。 でも、違和感はあるな。 「ふふっ……おかしな部屋でしょ。 でも住んでみたら意外と快適なのよ?」 無骨で無機質な閉鎖空間。 落ち着いた性格の樺音には、もしかしたらこういう部屋の方が合っているのかもしれない。 「適当に座って構わないわ。 今何か用意するから……」 今日は月に一度の集団検査日だった。 授業などはなく、被験者全員が簡単な検査を受ける。 その後、一か月分の日常報告書を提出して終わり。午前中で帰る事が出来る、のんびりとした一日だ。 EdEnから帰る際、樺音に呼び止められた。 いつものような、デートの誘い。 ただ、違う点が一つ。 待ち合わせ場所……樺音の部屋……。 「……那由太の部屋も、窓塞がれちゃってるの?」 紅茶を準備しながら、樺音が問い掛けてきた。 「朝日を浴びずに起きなくちゃいけないのは辛いわよね。 ずっと部屋に閉じこもり続けてたら……昼夜の感覚を 忘れちゃいそうになる」 「なるべく外に出るようにしてるの。 太陽の光を浴びない生活なんて、人間らしくないでしょ」 人間らしく……か。 俺はどうなんだろうな。 この身体、この病気。 人間としての条件を、きちんと満たせているのかな。 「……と言いつつ、今日は部屋でゆっくりしたいの。 はい、どうぞ」 丁寧な動作でお茶を差し出す樺音。 「あの……ね。ちょっと聞きたい事があってね……」 「改めて聞くのもなんか変かなって思うんだけど…… 今までちゃんと確認した事無かったから……一応……」 「ねえ那由太……。私達って……恋人……なの、かな?」 少しだけ、心臓が跳ねた。 「だ、だってほら……抱き締めてくれた……でしょ? あの時……校舎裏で……」 「それに……砂浜で、キスも……。 そういう風に……優しくされるって事はさ、 やっぱり私達って、その――」 「――ちゅっ……?」 抱き締めながら、キスをした。 優しく。ただただ、優しく。 「…………ありがと」 樺音の瞳に涙が滲んでいるように見える。 どうしてだろう。どういう意味の涙だろう。 もっと優しくしてあげたいな。 「……渡したいものがあるの」 目に溜まった雫を自然と拭った樺音は、気持ちを切り替えるようにして何かの箱を取り出した。 「え、えっとね……これなんだけど」 その箱に入っていたのは―― 「腕時計……」 クラシカルで上品なデザイン。 樺音らしい大人っぽいチョイスだ。 「那由太……普段、腕時計してないみたいだったから」 嬉しい。本当に嬉しい。 でも……何かの記念日でもないのに、こんなものもらってしまってよいのだろうか。 「えっと……恋人になった記念って事、で……」 「でも……良かったよ。 私達別に恋人じゃないなんて言われたら、 時計……無駄になっちゃうとこだったから」 恥じらいながらのその一言が、全身に沁み込んでいく。 ああ……この人を好きでよかった。 俺も今度、樺音に何かプレゼントしよう。 何がいいだろうか。難しいけど……たっぷりと悩みたい。 その末に樺音の喜んでくれる顔があるのなら、いくらでも悩んであげたくなるんだ。 「早速巻いてあげる。腕出して」 左の手首に腕時計が巻かれた。 その丁寧な扱いから、樺音の想いを感じ取る事が出来る。 これで、樺音がいない時間でも彼女の温もりを忘れずにいられるだろう。 「今日は……ここでお喋りしよう? ゆっくり……お互いの事、いっぱい話そう?」 お喋りか……。 俺にどこまで出来るかわからないけど、樺音がそう言うならそれもいいだろう。 俺達は、ベッドに座って穏やかに時間を過ごし続けた。 自分達の過去の事、今の事、そしてこれからの事。そんな話題を語り……。 やがて、無言の割合が増えていった。 その沈黙が心地良くって。 いつしかお互い、静寂を尊ぶようになっていた。 「……………………」 穏やかな樺音の呼吸。 絡めた指が、少しだけざわつく。 「…………んっ、ん…………」 吐息が有声になり、やがて色気となる。 それでも上品なままなのは、この静寂が温かいからだろうか。 「あ…………お昼……」 正午を告げるチャイムだ。スピーカーがある以上、この部屋にも流れるらしい。 もうそんなに時間が経っていたのか。 無言で肩を寄せ合っているだけで。こんなにも時間は早く進むんだな。 「……………………」 「…………もうすぐ……か……」 「………………?」 「私と那由太の時間。少しずつ……無くなっていく」 樺音……? 「……最後の瞬間、あなたと一緒で嬉しかった」 「那由太も……同じ事考えてくれてると嬉しいな」 何を言っているんだ……? 最後……? どうしてそんな寂しい事言うんだよ……? どうしてそんな笑って言えるんだよ……? 「……那由太、あのね」 「行きたいところがあるんだ」 そう言った樺音の指先が小さく揺れて。 その震えが何かに怯えているかのようで。俺は強く握り返すしかできなかった―― それから少しした後、私達は寮を出発して。 もう随分長い事歩いてるな。すっかり日も暮れてしまった。 それでも那由太は何かを訴える事無く、静かについて来てくれている。 私は……彼が変わってしまわないか不安で。 一応時間は計っているけど……。 「……もう少しよ。だから……」 お母さんからこっそり教えてもらった。 那由太は重度のブルーメ・シンドローム患者。 表向きはグレー+って報告されてるけど……。 実際は、ブラック+。過去最高の危険度。 テオドール・ベクトルで彼女達を引き寄せるだけの事はある。 ――私は考える。 彼女達ですら“ああ”なんだ。 それ以上の重度を持つ那由太のギフトは、きっと……。 「……………………」 私はきっと殺される。 彼女達によって。きっとすぐにでも。 ギフトはそういうものなのだ。殺人という行為の意味なんか考えない。 目の前にある目的のため。幸せのため。障害物を排除する。倫理や道徳なんか一切考慮不要。 単純で短絡的な思考回路。でも、機械のように一貫的で無慈悲。 彼女達は私を外敵だと認定している。 恋路を邪魔する存在。そして、ギフトである秘密を職員に報告して、強制除去をもたらす存在。 彼女達からしてみれば、私こそ殺人鬼に思えるのだろう。 だから彼女達は、私を殺そうとする。 そして、彼女達の中では、その殺戮に快感が伴う。だからこそなおさらその殺意は揺るがない。 大人に助けを求めたら、彼女達はお母さんを殺すと脅してきている。相手は暴徒となったギフト5人だ。全員を無力化するのはいくら大人達でも難しいだろう。 彼女達がお母さんを殺してもなんの得もない。でも違うんだ。ギフトは損得勘定じゃない。 気持ちいいかどうか、ただそれだけ。 お母さんを殺して私に悲劇をもたらす事で、彼女達は悦ぶだろう。それで十分動機となる。 だから……殺されるなら、せめて―― 「那由太……ごめんね……」 「…………?」 「……もう着いちゃった」 無人の廃教会。 退廃的で、それでいて神聖。 自分の死地に相応しいと思った。 「……那由太、今何時?」 その質問に、那由太は左腕を差し出して応えてくれた。 私があげた腕時計。 「……そっか」 いい頃合いだ。 「那由太……あのね、大切な話があるの。 聞いてくれるかな」 後悔の無いように。 全てを彼にぶつけよう。 「私は、身を持ってギフトの恐ろしさを知った。 あの人格は……絶対に野放しにしてはいけない。 色んな人を傷付ける……きっと自分自身も傷付ける」 「那由太……あなたのギフトはとても狂暴なもの。 そのギフトがある限り、残念ながらあなたは 幸せにはなれない」 「那由太がこの先幸せな人生を送るためには…… ギフトがあっちゃいけないの」 そのために、ここに来た。 自分の命と引き換えに、那由太のギフトを―― 「私が……あなたから、ギフトを取り除いてあげる」 「本当はずっと一緒にいたかった。 その身体を……支え続けてあげたかった」 「でも……那由太を蝕んでいるのは、 事故の怪我じゃなくって……そのギフト」 「恋人として、その治療に協力できるなら…… それが一番だよ。後悔なんてしない……!」 「……………………」 那由太は驚くかもしれない。怒るかもしれない。 でも、間違っていないと思うんだ。 だから、怖くないの。 「私は……知っての通り健常者。 お母さんに言われてここにやって来た」 「そして……那由太と出会って……恋に落ちて」 「この気持ちは、テオドール・ベクトルなんかで 説明出来ない。だって私健常者だもん。 誰にも負けない、本当の愛情なの」 「――あなたを想うこの気持ち、真実だって誓うよ」 これが言いたかった。 那由太が那由太じゃなくなる前に、これだけは必ず伝えておきたかった。 「言えてよかった――」 たとえ、欠損だらけの身体でも。 孤独でも。重度のギフトを抱えていても。 私は彼を心から愛してる。 お母さん……それがこの実験の答えだよ―― 「EdEnはね、治療機関でもあり、研究機関でもあり、 そして……実験機関でもある」 だからきっと……あなたの病は治らない。 EdEnは那由太を手放さないだろう。貴重なサンプルとして死ぬまでその脳は蹂躙され続ける。 だから那由太は、ここにいては幸せになれない。 那由太が、ギフトとEdEnから解放されて。 その上で幸せな未来を掴む方法……。 それは―― 「……中へ」 「……静かだね。綺麗で……優しい場所」 ここは小さな島のはずなのに。 とても騒がしい日々だった。 汚いものをたくさん見てしまった。 この教会は、天使島にあって、天使島でない世界。 神聖だ。 「チャイムの効き目は……約30時間。 個人差はあるけど、大体それくらい」 「私の部屋はね、防音がしっかりしてるの。 倉庫だったから、壁が分厚く出来てるみたい」 ゆっくりと……。 ゆっくりとだけど……。 「さっきのチャイムは、ダミーなの」 那由太の表情が少しずつ驚きを示していった。 「あなたが部屋に来る前に……12時に偽物のチャイムが 流れるように、スピーカーをセットしておいた」 そして、ゆっくりと……。 「本物のチャイムが鳴ってた頃…… 私達は防音の部屋で偽物のチャイムを聞いていた。 つまり――」 「――那由太は今日……まだチャイムを聞いてないの」 豹変していく―― 「――っ」 これが……那由太のギフト……! 「恋人同士かどうか聞いた時……すごく緊張してたんだよ? 違うって言われたらどうしようって……」 「もし……那由太が私を拒んだら……私はあの時、 チャイムのセッティングを解除して…… そのあとで……一人で死ぬつもりだった」 「だって……これから私があなたにする事は…… 全部余計なお世話になっちゃうから」 「那由太……私を受け入れてくれてありがとう」 「ハァッ…………ハァッ……ハァッ……!!」 大丈夫……。 あの醜いギフト達に比べたら、全然怖くない。 「……初めまして。私の名前は葛籠井樺音です」 「あなたの主人格、期招来那由太の恋人です」 どうか……どうか……。 「――ちゅ…………」 その身体を、那由太に返してあげて―― ――目が醒めると、そこは病院だった。 今までそこにあった感覚が、いくつか足りていない事に気付く。 自分で確認するよりも先に、医者が教えてくれた。 右目、右腕、性器、皮膚、声帯が、失われてしまったらしい。 驚きや悲しみを示そうとしたところで、医者が続けた。 でも命は助かった。 だから君は幸せなんだ、と。 家族を失い。身体を失い。 それでも自分は、幸せらしい。 脳の奥が疼いた気がした―― 「……それじゃあ、資料は全部置いていくから。 後は任せたわよ」 「はい……」 「…………そんな顔しないで。 私はもう大丈夫だから」 「でも…………」 自分で言ってて笑えてくる。 大丈夫? 何が? 「主任がいなくなってしまうのは……正直不安です」 「も、もちろん……主任にこれ以上ここにいてもらうのは 私達も心苦しいですし……本部の判断は、間違って ないと思います。けど……」 「………………」 事件を受けて、本部は私を招集した。 娘を失って、現場での主任指揮はもう無理と判断したのだ。 そして同時に、これを機会に本部の研究施設でこれまでの実績を還元させようというのだ。 事件の原因は私にあるにもかかわらず、更迭には破格の好条件が提示された。 事実上の昇進。 本部は失いたくないのだ。私という研究者を。 自暴自棄になって研究職から離れるなんて言わせないように、先手を打って引き止めてきたのだ。 その条件を呑み込み、本部のいいなりになる私を。誰が暖かい言葉で慰めてくれるだろうか。 もっと蔑んでほしい。この愚か者を。 「ここは……EdEnは……どうなるのでしょうか」 「さあ……でもなくなったりしないわ」 「今回の事で、ギフトの危険性はより浮き彫りになった。 彼らはどこかに隔離しておくしかないのよ」 「EdEnが無くなっても、また新しい別の 隔離施設が出来るだけ……」 「彼らにとって、ここはまるで監獄ですね」 「とんでもない。これ以上ないほどの楽園よ」 ――目が醒めると、そこは病院だった。 今までそこにあった存在が、一人だけ足りていない事に気付く。 脳が妙にすっきりしている。人一人分の空白が心地良い。 脳科学が発展し、同時に脳に障害を持つ人間の増えた現代では。 ギフトは単独の人権を持つ。主人格と人権を共有しない。 ギフトの罪は、ギフトが背負う。ギフトの罰は、ギフトが受ける。 ギフトが人を殺した場合の刑は、ただ一つ。 極刑。 脳からギフトを強制的に除去する。 こうして―― 俺のギフトは死んだ―― ――こんな話を聞いた事がある。 ギフトの強制除去の精度は、まださほど高くない。ゆえに、完全な処分は不可能だというのだ。 詰まる所、脳とは記憶の蔵庫。ギフトとは記憶の集合体。 記憶は脳の各所に行き渡っており、それを現代の医学技術で全て取り除く事は不可能なのだ。 脳の隅にある、人間の科学の及ばない記憶の隠れ家。 それを、ブラックボックスと言う。 もしそのブラックボックスに、ギフトの残滓が存在したら―― ――目が醒めると、そこは病院だった。 今までそこにあった存在が、一人だけ足りていない事に気付く。 俺の左手を、いつも握ってくれていた存在。 不幸な事故に遭って。でも生き延びたから幸福で。 幸せってなんだろうってずっと思ってた。 そんな事をすべて超越したところに、本当の幸せはあった。 全て彼女がもたらしてくれた。 ……いつの間にか、自分が人殺しになってたんだ。 この恐怖、誰がわかる?突然意識を失って……気が付くと大切な人がいなくなってたんだぞ? 裁判も、処置も、全部終わってて。なんにもなかったんだ。 本当に……なんにもなかった。樺音はもう……どこにもいなかった。 また……一人になってしまった……! 自分は殺人犯で……恋人を殺して……。 でも殺したのはギフトで……。本当は俺自身じゃなくて……。別の人格で……。 でもこの肉体が樺音の息の根を止めて……。樺音の体温を感じ続けた左手で、樺音の身体をバラバラに引き裂いて……。 でも――でも――でも―― 俺は自分で自分が許せない。 そんなに自分を責めないで。 自分のギフトが許せない。 法的な処分はもう済んでいるわ。 自分に復讐したい。 あなたはもう自由なの。恐ろしい病から解放されて……、これから好きに生きていけるの。 一人じゃ生きていけない。 大丈夫。那由太ならきっと生きていけるわ。あなたはとても……優しいから。 手紙を書いたんだ。 誰に? 葛籠井先生に。 やめて。 罪滅ぼしをしようと思う。 やめて。 樺音を殺してしまった贖罪をするんだ。 もう……やめて―― 「あなたの中のギフトはもう、その大部分を殺処分された。 だから、もう二度とギフトが発症する事は無い」 ――後悔はある。 「完全な除去じゃなくてもいいの。法的処置の目的は “もう二度とギフトを表面化させない”って事だから」 自分の研究に娘を巻き込んでしまった。 なぜこの島に呼んでしまったのか。なぜ娘を守ってあげられなかったのか。 後悔してないわけないじゃない。 「あなたの身体にギフトが宿る事はもうないって 保証されているのよ」 ――怨恨もある。 悪しきギフトを宿した青年。 彼が娘を殺した。 頭ではわかってる。彼は悪くない。悪いのは全部ギフト。彼もまた被害者の一人。 それでも……私の負の感情は、どうしても彼に……。 「それでも……やるの……?」 その問いに―― 「…………そう」 彼は首を縦にも横にも振らず、私を真っ直ぐ見つめ続けた。 あなたの言う通り、あなたの復讐相手はまだ脳内にほんの少しだけ残っている。 除去し切れなかった一部。 もうギフトを形成する事は無いけれど……それでも、あなたの脳には確かに“彼”がまだ少しだけ残っているの。 樺音に代わってそのギフトに復讐したいと言ったわね。 樺音は復讐を望んでいるのかしら? 樺音は……優しい子だったから……。 でも……一方で私は憎悪が消えなくて……。 私も……復讐を…………。 ――ルールを決めましょう。 すでにあなたの中のギフトの残滓は少ない。それを集めてもう一度ギフトを呼び起こすのは不可能よ。 もしあなたがその復讐相手と対峙したいのなら……ギフトの残滓が存在する脳の中で行うしかない。 だからあなたの主観も、脳の中に向かう。                  脳の……中…………。 そうよ。その仮想世界の中で、あなたは好きなだけギフトを苦しませ続けなさい。           どうやって……ギフトを苦しめる? 事件の記憶を甦らせるのが一番ね。事件のインパクトを強調させて脳に刺激を与える事で、あなたの中の残滓が一時的に反応するはずよ。            事件の記憶を甦らせるには……? 箱を……用意しておいたから。それを開けなさい。        現れたギフトは、好きにしていいですか? 脳の中でいくら傷付けようと、現実世界での肉体に損傷はないわ。               ギフトに復讐を下すのは、             樺音が相応しいと思います。 ……………………。 ……たとえ仮想世界であっても、娘を殺人鬼にさせるわけにはいかないわ。                      でも――! ……樺音と同じ姿形をしたアバターを用意させます。                  ……………………。             ギフトの残滓をどれだけ殺せば、               完全に除去できますか? 脳内の人格精神値が一定数を下回れば完遂と言えるわ。何度も繰り返す事ね。その分脳に負担をかける事になるけど……。                     構いません。 ……一つだけ、忠告よ。 仮想世界は夢みたいなもの。そして、主観を脳内に没入させることで、記憶が一時的に混乱するはず。 つまり、あなたは記憶を大きく失った状態で仮想世界に入る事になるわ。突然日常が始まるの。 自分がなぜその世界に存在しているか、理解出来ないでしょうね。疑問すら抱かないと思うわ。              ……それでも構わないです。 何も知らない世界を彷徨いながら……箱を探して……ギフトを甦らせて……そして樺音のアバターに殺される。それを……何度も何度も繰り返す……。             それでいいです。最高の罰です。 ……………………。 愚か者は、お互い様ね―― 「準備はいい……?」 「……………………」 「装置が作動すると、あなたはゆっくりと意識を失う。 睡眠状態と似ているわ。そして主観は脳の中へ」 「私はここで仮想世界の様子を管理する。 もしイレギュラーな事象が起きたら、 何かのアバターの姿を借りて軌道修正するわ」 「きっと……あなたが思っているよりも、辛い世界よ。 記憶が混在して……正しいものと間違っているものが 同時に成立してしまう」 「ギフトを除去していく事によって……つまり、 目的の達成に近付く事によって、あなたは 正しい記憶認識を取り戻す」 「それはおそらく……あなたがその世界で得た 色々な大切なものを失っていくという事」 「……………………」 強いのね。それだけもう一人の自分を恨んでいるという事? それだけ……娘を愛してくれていたという事? 「――その腕時計」 「警察の調書を読んだわ。 事件の前日に樺音が商店街で購入したものらしいわね」 「樺音からの……最後のプレゼント」 どういう気持ちで、あの子はこれを……。 「時計の表面……乱暴に叩き付けられたかのように 砕けてしまっている。まるで誰かが意図的に、 その時間で止めようとしたみたいに」 「動かなくなった時計盤の針が指している時刻は、 18時15分」 「あの子の死亡推定時刻と……ほぼ同じ……」 もう、彼の耳に私の声は届いていないかもしれない。 彼は、絶望の待つ世界の中へ……ゆっくりと……。 「誰が……どうして、その時間に腕時計を止めたの……?」 その答えは――きっと―― ――私は、その世界をログワールドと名付けた。 ログ(log)とは、現代脳科学において記録や記憶を意味する単語だ。 この事件は、彼の脳のログが大きな手掛かりとなった。 いや、彼のものだけではない。 彼女達のログも、また。 私の最終的な動機は、そこにある。彼女達のログを暴いた時、この世界の必要性を痛感した。 ――ログワールド。脳の記憶……記録の世界。 ログには、もう一つの意味がある。 それは―― loss of gift―― ――頭が痛い。 ここはどこだろう。 長い夢を見ていた気がする。 瞼が重い。 もうしばらく、このまま暗闇に意識を沈めていたい……。 でも―― それでも―― 「失礼ね。私あなたの事大好きなのよ? 好きな人にちょっかい出す事がそんなにおかしい?」 「私は……」 「あなたのその……ありがとうという言葉が…… ずっと欲しかったのかもしれない……」 「――もう……解放してあげようよ…………!!」 ――那由太に会えたから。だから、ここに来て良かったって思えるんだよ。 もう、行かなくちゃ―― 「…………………………」 久しぶりに開かれた左眼に、外気が沁みる。 目を細めながら、静かに呼吸を整える。 ――醒めたんだ……ようやく。 「………………」 まだ意識が覚束ないまま、周囲を見渡した。 誰も……いない。 薄暗い研究室に、自分一人だけだ。 俺は確か……葛籠井先生に罪滅ぼしを頼んで……。 ……そうだ。罪。俺は罪人なんだ。 俺の中のギフトは、完全に消えたのだろうか。 俺が抱えている罪は、もう赦されたのだろうか。 ……わからない。 不可思議な世界にあれだけ長く迷い込みながら……それでも何かを成し遂げたという自覚が持てない。 樺音……今もどこかで、俺を見守ってくれているだろうか。 天国に近いこの島で、樺音の声が聞こえてくる気がする。 樺音の、その声は―― 「……っ!?」 今の音……。 この研究室の奥の部屋からだ……。 「………………」 あっちに誰かいるのだろうか? 葛籠井先生……? 「…………」 ――行こう。色々と確かめなければ。 その部屋は―― 「………………起きたのね」 不気味なほどに―― 「いつから記憶を失っているか、はっきりしていないと 思うわ。それだけ今……脳波は混乱を示している」 悪意に満ちていた―― 「そんな中で、今すぐに……どうしても今すぐに。 聞いておきたい事があるの」 先生の言葉は、俺にではなく―― 「……何か私に言う事はある?」 彼女達に向けられていた―― 「はあっ……はあっ……はあっ……はあっ……はあっ! こ、ここは……現実……!?」 肩で息をしている、全裸の少女達。 彼女達は―― 「はっ、はっ、はっ……あ、あるっ……! 私の右腕……ちゃんと、ある……!」 「生えてる……! な、なんで……!? さっきまで女だったのに……ちゃんとあるよ……!?」 「あたしも……火傷の痕消えてる……! 今まで見てたのは、な、なんだったの……!?」 「げほげっほぉっ……はっ、はっ、喋れる……!! はぁ……はぁ……よ、よかったぁ…………!」 まだ状況が掴めていない様子だが、それでも自分達の身体に異常がない事を確認して、安堵を繰り返している。 なんで5人が、ここに……? 「ログワールドでは日常的な学園生活を舞台に設定したわ。 期招来君にとっては、そうそう体験出来るものじゃない でしょうからね」 「そこでの生徒のモチーフは……彼女達自身と…… そして彼女達のギフトと……あとは、このEdEnに いる被験者数人……」 「彼女達も、あなたと同じく、ログワールドを見ていたの」 「………………」 見ていた……? その言い方……何か引っかかる。 「あなたと決定的に違うのは……あなたは、ログワールド では自由に行動出来るという事。なぜなら、あの世界は あなたの脳の中にあるものだから」 「彼女達は……見る事しか出来ないの。ログワールドの 中の自分は、あくまで期招来君の中の存在でしかない。 彼女達はそれを自分の意志で動かす事が出来ない」 「夢を見ているのと同じね。その世界の情報を、無条件に 浴び続ける。たとえどんな恐ろしい事が起きようと、 逃げる事は出来ない」 「ま、まさしく……悪夢、でした……! 自分の事なのに……なにも出来ない……! まるでワタシの形をした別人です……」 「お姉ちゃんがなぜか生きてて……でもいなくなって、 私の右腕が消えて……」 「自分が男だか女だか、まだよくわからないよ……! おちんちん、ちゃんとある……私男なんだよねぇ!? 女じゃないよねぇ!?」 「ログワールド内で、あなた達のギフトをそのまま 擬人化したわ。もちろん、凶暴な人格は抑えて」 「期招来君のギフトの残滓が一つずつ消えていくのと 同時に……あなた達のギフトも除去された……。 あなた達はもう、ブルーメ・シンドローム患者ではない」 「そ、それじゃあ……あたしの中の、あの男の子は……! 羽瀬久次来は、いなくなったって事……!?」 「はぁ……はぁ……な、なんで……そんな事……はぁっ、 勝手に……! わたし、ギフトの強制除去なんか、 頼んでないのに……」 「罰よ。そして救済」 「………………」 「あなた達のギフトは凶悪だった。 法がその人格を認めても、私は認めない。 一刻も早く消すべきだと思った」 「い、いいんですか……そんな事勝手にして……! ギフトにも人権はあるんですよ……!? 勝手に除去するのは、重罪のはず……」 「罪なら、もうすでに犯している」 「どういう、事、ですか……」 「あなた達の脳を暴いたわ。 期招来君をログワールドに送った後、 あなた達5人を捕まえてね」 「私達の脳を……どうして……!?」 「現場に何者かの精液が見つかったわ。 期招来君のものであるはずがないから調べてみると、 由芙院御伽のものだとわかった」 「わ、私ぃっ!?」 「あなた達が事件に関係していると確信したわ。 そして、由芙院御伽の記憶から、他の四人の 行動も芋づる式に発覚して……“こう”なったのよ」 「い、意味わかりませんっ……! あたし達が何したっていうんですか……!」 「………………」 一瞬、葛籠井先生が言葉を飲んだ。 ひそめた眉を元に戻して、再び流暢に唇を動かす。 「……本来人間の脳の記憶をサルベージする事は法で 禁じられているの。プライバシーの問題もあるし、 何よりこんな風に悪用出来るから」 「悪……用…………」 「私は本当に愚かよ。 頭ではわかってるのに……憎しみが消えないの」 「悪いのはギフト。娘を殺したのはギフト。 でも……それはわかっていても…… どうしてもあなた達に罰を与えたかった――」 「――ね、ねえ……ホント!? ホントに那由太君が……葛籠井樺音を殺したの……!?」 「そう……みたい……。ここからじゃよく見えないけど。 首をこう、ギュッと絞めて……」 「うはぁ……期招来のギフト、ワイルドでカッコいい……! ああ、あれ私のものだよ……全部私のものぉ……!」 「猶にも見せて欲しいですうっ! 皆さん、ちょっとどいてっ! 交代ですよぉっ!」 「しっ! 那由太が出てくる……!」 「わ……あ……! 那由太君……目イっちゃってた……! そうとうゴッツいギフトだねありゃ」 「それよりどうする? 葛籠井樺音の件。 那由太に先越されてしまったぞ?」 「ふ、ふん……。私達が殺すはずだったけど…… 手間が省けたわ。ざまあみろってところね」 「はぁ……はぁ……私、中入ってみる……。 葛籠井樺音の死体、見てみたい……!」 「あ、まころちゃん、ちょっとぉ!」 「ふひぃ……猶も樺音ちゃんのデスマスク見たいですよぉ。 じゅるるっ……んはぁ、涎が止まりませんっ!」 「んもう、ゆっふぃんまで……」 「俺達も行くか」 「うん、そうだね」 「お……おっほぉ…………!!」 「何これ……何これ何これ何これ……!」 「はは……ははは、ひひひひひっ……! 狂うよ……こんなの……狂うに決まってるって――!」 「……本当に、死んでいるのか?」 「そう、みたいだね……。これ、那由太君がヤったんだ。 たった一瞬で……葛籠井樺音の命を、プツッと……」 「ず、随分綺麗に殺したわね……。 あんな重そうなギフトなんだから、 もっとぐちゃぐちゃにするかと思ったんだけど」 「少なくとも私達はそうするつもりだった。 そもそも、どうして葛籠井樺音は那由太君を ギフトにさせたんだろう?」 「俺達に殺されるくらいなら、那由太に殺されようって 思ったんじゃないか?」 「あはぁ……そんな事どうでもいいですよ猶は……! 樺音ちゃんのこんな綺麗な死に顔が見れただけで…… もう……猶的には……十分満足です」 「はぁ……はぁ……はぁっ……!」 「……まころちゃん? どしたん……?」 「ひ、ひひ……! ねえ皆……。 こ、このままだとマズいと思わない……?」 「え……何が……?」 「だ、だってさぁ……はぁ、はぁ……私達、 こいつを殺す動機、十分なんだよ……? それに、はぁ、はぁ、ひひひ、アリバイだってない……」 「それは……当たり前だな。そもそも俺達は こいつを殺すつもりだったわけだし」 「それで全員でこっそり葛籠井樺音を尾行してたら、 こんなところに着いて……何するのかと思ったら、 那由太君のギフトを発動させてそのまま殺されちゃった」 「私達、人目を気にせずかなりガンガン虐めてたから…… はぁ、はぁあん……! こいつを殺した犯人として、 んっ、はふぅ、怪しまれてもおかしく、ない……かも」 「確かに……本来は私達が手を下してたわけだしね……。 警察は、私達を疑うかも……」 「そ、それはマズいって! 殺したのは私達じゃ なくって、あくまで那由太君なんだよ!? もし私達がヤったなんて事になったら……きっと……!」 「強制除去……!」 「ゔ……それは、困ります……! 猶はずっと……この身体のまま自由でいたい……」 「だから……さ……は、はぁ、この殺しは私達がヤった んじゃない……はぁっ……期招来那由太がヤったんだ っていう痕跡を残した方が……いいと思わない?」 「そ、それって……もしかして……」 「はぁ……はぁ……た、確かにそうね……! ふふ、ひひ……ふっひひひひ……!」 「幸い……あ、あはぁ……! 凶器はちゃんと 持参してるわけですし……おっひひひひぃ……!」 「はぁ……はぁ……ごくっ……! なるほどな……そいつは……いい……!」 「わ、私ね……あひ、あひひひひ……! いつも、ひひ、マイスプーン持ち歩いてんの……! ひ、ひひ……はぁ、はぁ……ほら、これぇ……」 「これで、さ……ひ、ひ、期招来が殺したっていう感じに、 死体を、ひひ、作り変えた方がいいわよねぇ……!? そうすべきよねぇ……!? 絶対……絶対っ……!?」 「あ、あはあっ、私達が疑われないようにっ! 死体工作しないとっ! ひひっ! 仕方ないって! 警察に疑われたくないからっ、仕方ないのぉっ!!」 「あっはああっ!! あはっ、あっひゃひゃひゃっ!! 葛籠井樺音のぉぉ、眼球ううっふううううっっ!! げっっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃああっ!!!」 「ま、まころちゃん……何それ……そんな……あひ、 ひひ……そんなの……!」 「そんなのちょー面白いじゃんっ!! 私もっ、私もやるううっ、うっひゃひゃひゃひゃあ!!」 「そ、そうよ……そうよおおぉっ!! そうした方がいいって、あひぃ、死体、ぐちゃぐちゃ、 絶対そうすべきだってぇっ!! あひゃひゃひゃあ!!」 「仕方ないわよねぇっ!? こうしないと、あひゃひゃ! 私達が疑われちゃうからっ!! げひひひひっ!! ちゃんと、無実の後を残しておかないと、ぐへへえ!」 「あひゃひゃっ! 殺したのは那由太なんだっ!! いひゃひゃひゃひゃあっ、俺じゃないっ!! 俺は殺してないから、別にこうして構わないんだっ!!」 「子宮は猶のもんですよおっほっ!! おひひひっ!! 樺音ちゃんの赤ちゃんゾーン、猶がいただいちゃい ますうっふっ、うひゃひゃひゃ、げひひひっひひっ!!」 「――ん、んはあっ……! 最高だよ……最高だよぉ……あへぁ……!!」 「樺音ちゃん……さっきよりもっと可愛くて綺麗ですよぉ、 あひ、んひ、おっひひっひひっひぃ…………!!」 「あはぁ……いい匂い……! くんくん、すんすんすん、 鉄分たっぷりの血の匂い……私この匂い大好き……! すごく……落ち着く……あへ、あへぇ……」 「那由太の身体と同じ欠損……くひ、ひひひ……! この死体を見たら……誰でも那由太を連想する、 那由太が犯人だって思う……あっひひぃ……!」 「実際那由太君が犯人なんだから……あはぁ…… おかしくなんかないよね……? んっ、あふぅ、 これでよかったんだよぉ……あはぁ、あへっ……!」 「はぁ……はぁ……葛籠井……樺音……。 あんたにはわからないかもしれないけど……」 「虐めってのはね……ただの現象なの……。 呼吸とか食事とか睡眠とか……そういうのと同じ……。 私達にとっては、すごく当然の行為なの……」 「なんでだろうね……私にはわかんない。 でも……こうしないといけないんだ。 こうしないと気が済まないの。“そういうもの”なの」 「ああ……気持ち良かったわよ……。 ありがとう……葛籠井樺音……」 「……ゆっふぃん、何してんの?」 「だって、勿体無いですよぉ……! こんな芸術品、きちんと……飾らなきゃ……! んっしょっ……っと」 「おお……! これは……!」 「ふひ、ふひひひひ……! 樺音ちゃん……ああ、樺音ちゃん…………!!」 「なかなかいいじゃない、これ。 鎖持ってきて正解だったわね……!」 「これも那由太がしたって事か。 まあ、左腕一本でも出来なくはないだろう」 「葛籠井樺音……! こうして改めて見ると…… あんたってホント…………」 「虐めたくなる顔してるわ……!」 「――お゙お゙おっ!? おっほっ!? おっ!? おほおっ!? んひょっ! おっひょっ!? おほおっ!? おっ、おっ、おっ、おっ、おっ……!?」 「って、わわわあっ!? ちょ、ゆ、ゆっふぃんっ!? ビクビクして……スカートの中から白いのぽたぽた 零れてるよぉ!?」 「だ、だってぇ……あひい、ち、ちんぽ、こんな可愛いの、 見てるだけで、勃起……しちゃって……おっひい!? あへぇ、可愛過ぎ、樺音ちゃんいいよぉ、あへえ……」 「おへぇぇ……ちんぽ触らなくても……勝手に、んほぉ、 射精、しちゃいますぅ……オート射精ぇ……! たまんねぇ……たまんねぇですよぉ……おほぉ……!」 「ゆ、ゆっふぃん……精液ちゃんと拭いておきなさいよね。 証拠残したら面倒なんだから」 「はぁ……でもまあ……あはぁ……! わかるわ……その気持ち……」 「葛籠井……いい、すごくいい……! ひ、ひひひ……! ちんぽないけどさ……あったら勃起もんよ、これ……」 「皆の牝ちんぽの勃起分は、猶が代わりにしっかりと 受け取ってますよぉ……! まだまだイキまくり ですぅ……おっひ!? おっ、おおっ!!?」 「はぁ……は、あぁん……! ね、ねえ……もう一つ、もう……一か所だけ……」 「こ、こんだけ血塗れなんだもん……! 少し手加えたって……問題無いわよね……? 私達がヤったってバレないわよね……?」 「え……? で、でも……那由太君の身体の欠損は これで全部のはず……」 「大丈夫……大丈夫だからぁ……! あは、あははははぁ……あひひひひぃ……!」 「おほぉ……! おお……! おっ、おっほっ……!? お、おほぉ…………おほぉぉぉぉぉぉ…………!!」 「はぁ、はぁ……あはぁ……ほ、ほら……! あひぃ、この方が、ひひ、さっきよりいい……! 絶対こっちの方が、いい……! ひひぃ……!」 「樺音ちゃん樺音ちゃん樺音ちゃんんんんっ……! おっ、おっ、おっ、おっ、おっ、おっ、おっ……!!」 「ひ、ひひ……ホントだ……! いい、ね……! 最っ……高っ……ひひひ…………!」 「もし今……俺の身体にちんぽがあったら……あへぇ、 と、とんでもない事になってるはず……あへあぁ……」 「ふ、ふふ、ぐふ、いい匂い……ぐふふ、ぐひひっ! ぐちゃぐちゃ……ぐちゃぐちゃぁっ……!! ぐひひひひひひひひっ……!!」 「あーーーっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!! げひゃひゃひゃひゃひゃ、ひひひひひひっ!! ぐっひゃっひゃっひゃっぐぇっひゃっひゃっ!!」 「――あなた達の脳から、そんな事実が判明した」 「私の娘の死体を辱めたのは……期招来君じゃなかった。 5人のギフトだった。それを知った時、私はあなた達も ログワールドに行くべきだと思った」 「だから……5人の脳も期招来君の脳内にアクセスさせた。 主観を乖離させて……自分という存在を客観的に見続け ていくもどかしさを味わわせた」 「――罰なのよ、これは」 「ひ、ひぃ……だから……あひ、ひぃ……! 身体の、欠損も……!」 「あなた達が娘に施したものを、 ログワールド内で同じように施した」 「そんな……で、でも、それをしたのは私じゃなくって、 はぁ、はぁ……あくまで、ギフトで……!」 「わかっているわ。それは……わかっている」 「それじゃあどうして――」 「そういうものなのよ。人間は」 「……………………」 俺も、同じだ。 人間の中に二人の人格がいて。 たとえ一方の人格による罪だと頭でわかっていても、どうしても一人の人間の行為だと考えてしまう。 俺だって、樺音を殺した罪の重さを割り切るなんて出来ない。 いくら自分の中の別人格がやった事であっても……。 やっぱり……期招来那由太という人間が犯した罪に変わりはなくて……。 「あなた達のギフトは強制的に除去したわ。 余計なお世話だったとしても……そうすべきだと思った」 「それは……脳科学者としてですか。 それとも、母親としてですか」 「人間としてよ」 「…………正直、わたしはまだよくわかっていません。 確かにわたしは着メロを作って……自分の意志で ギフトを引き出しました」 「けどっ……! 葛籠井樺音って子の事も、 今初めて聞いたくらいだし……。 ましてや、そんな虐めとか、殺人とかなんて……」 「あたしもっ……! EdEnで治療してたはずなのに、 いつの間にかギフトが出て、記憶が消えて…… 気付いたら今……こんな状況で……」 「本当に……ワタシ達が、先生の娘さんを殺した のですか……!? ワタシ達のギフトが……」 「……現場で血だらけになった娘の死体が 見つかったわ。同時に、ギフト化した期招来君が 砂浜周辺で見つかって……」 「あなた達のギフトの目論見通り、娘を殺し、 バラバラにしたのは期招来君一人による 犯行だと認められた」 「ギフトによって切断された各部位は…… 教会内に乱暴に棄てられていた」 「でも……一つだけ、ある部位だけが見つからなかった。 警察の捜査でも、それは最後まで発見されなかった」 「頭がね……無いのよ」 「頭……! もしかして……それ……」 「……私は、当然知ってるわ。 あなた達の記憶を覗いたから」 「――食べたのね。五等分して」 「――お゙、お゙え゙え゙え゙え゙ええっっ!! うっぶっ、うげえ゙え゙え゙え゙え゙ええっ!!」 「ひ、ひい……! ゔっ、ゔゔっ…………! 私の胃袋の中に……うぶっ、女の子の生首が……ゔっ」 「う、嘘ですっ……! はぁっ、はぁっ、 そんな事、信じられませんっ……!」 「……これでわかったでしょう? ギフトの恐ろしさが」 「その異常性を知って、科学者として、親として。 それ以前に人間として、ギフトの存在を許す事なんて 出来なかったの」 「そんな……恐ろしいものが、ずっとあたしの中に……! う、ひ、ひぃっ……!」 「う、ううっ……わたしは……ただ、彼女に……はぁっ、 ひぃ、自分が出来ない生き方を、手伝ってもらう つもりで、はぁっ、それで…………」 「わたしは……わたしはっ……うっ、うぅ……!!」 「――わたし……なんて事を……!」 「………………」 ――彼女達の悔恨をもってして。 ようやく……私の復讐は終わった―― 「――ぐずっ……うっ、うう……ひぐっ、ぐすっ……」 「フーカちゃん……ほら、もう泣き止んで……?」 「だ、だってぇ……ワタシ達……ぐずっ、葛籠井先生の、 ぐひぃ、娘さんを……ひっ、ぐっ……」 「……実感……湧かないね。 ここにあるのは、自分達の罪だけ。 犯した人格も、記憶も、もうどこにもない」 「それでも、あたし達の中の……もう一人の自分が やったんだ。信じられないけど……事実なんだよね」 「………………」 機器から解放されて、服を着て、前を向いて歩く彼女達の足取りは重い。 皆、伝聞の罪に囚われているんだ。 俺と同じ。目が醒めたら殺人者。 自覚も記憶も一切ないまま、多くの人を傷付けた。 哀しみも、悔しさも。ぶつける当てを見出せないまま肥大化していくばかりだ。 「……私があなた達に何かを言える立場じゃ ないのかもしれないけど」 「あなた達に“もう”罪はないわ。 ギフトの無いあなた達は今や普通の人間よ」 「それぞれが……それぞれの幸せを見つけて、 生きて欲しい。それだけよ」 「………………」 「本当に……もう、ギフトはいなくなったんですか?」 「……ええ。ログワールドで一人ずつ除去していったわ。 あなた達の脳の中に、もうあの悪魔達は生きていない」 「でもね。今の医療技術では完全な除去は出来ないの。 人格発症は無くても……ほんの少しだけ、その人格の 残滓が存在しているはず」 「それじゃあ今も……わたしの脳の中に、 ギフトのかけらが……?」 「表面化しない程度よ。日常生活に支障はないわ」 「私達は……残虐で凶悪な人格のかけらを 脳の中に抱えて……少女の頭を胃の中に抱えて…… ここを出ていくんですね」 「………………」 俺のギフトも、消え切ってはいないだろう。 ログワールドの中で、何度も屍は俺を殺してくれた。 箱の中身を見て、事件を思い出した俺を。すなわち、ギフトを表面化させた俺を、何度も何度も。 俺のギフトが殺されていくさまを、俺の脳は俯瞰的に眺め続けた。 それこそが、俺の求めていた罰だ、と喜びながら。 それでも……ギフトが完全に消滅する事はない。 あれだけ屍に殺してもらっても、まだ俺の中には少なからず存在するのだ。 ヤツが―― 「……一人で生きていこうとしなかった罰……か。 わたしの弱さが……悲劇を生んでしまった……」 彼女達も、悲しい境遇の持ち主。ブルーメ・シンドロームを患うほどに、幼少期に辛い経験を脳に刻んでいる。 俺も……事故に遭って、家族を失って。 それが精神障害の引き金になって、その病が新しい悲劇を起こして。 そんな俺が、どうやって幸せを探せばいいんだろう―― 大切な人をこの手で殺しておきながら、それでももがくなんて……もう……。 「――期招来君……?」 「………………」 さっきからずっと―― 聞こえてるんだ――頭の中で、響き続けているんだ―― 天国に近いこの島で―― 樺音の声が聞こえてくる―― 樺音の、その声は―― ああ……。 そうだ……。 「ダメよ」 樺音のいない世界なんて、耐えられない。 「私はもう死んだの」 もう一度、樺音と一緒に……。 「もう一度なんてないの」 樺音を殺したのは俺だ。だからこそ……。 「お願いだから……」 永遠に……樺音に縛られ続けたい―― 「私の事は忘れて、幸せになって……!」 「あ、あなた……もしかして――」           ――この世界は、楽園である。        無垢な天使が舞い、崇高の羽が祝福している。         歓喜に覆われた世界は、平和そのものだ。           この世界は、楽園である―― ――て……ねえ…………お、……て……。 起きて……ねえ、起きてってば……。 もう……時間だよ―― 「ん…………」 窓から差し込む陽射しに、眉を潜ませる。 暑くもなく、寒くもなく。随分と気持ちがいい。 「さっき……誰かに起こされたような…………」 周りには誰もいない。 でも……確かに声が聞こえた気がするんだけどな……。 「寝ぼけてるのかな……」 腕時計を見る。 今日は大切な用事がある。 でも……それが何なのか思い出せない。 いつどこで何をするんだっけ? 相変わらず……記憶力は不確かなままだ。 それでも、行かなくちゃいけない。 停滞してちゃダメなんだ。 進まなきゃ……。 「そのために……俺は…………」 風が首筋を撫でた。 ここの風は、潮の香りがして。 靡かれると、少しだけ懐かしい気持ちになれるんだ。 「ここかな……」 今日もたくさんの人で賑わっている。 カラオケボックスやゲームセンターに入ると、きっとたくさんの友人を見つける事が出来るだろう。 うーん…………。 「……ここじゃない気がする」 もっと人の少ない場所だったように思う。 潮風をたくさん感じる事の出来る場所。 船の汽笛が遠くに聞こえる。 水平線上の船が、あんなにも小さくなって。 きっとここからすごい離れているんだろうな。 俺は……そんな場所には……。 「……ここじゃない気がする」 もっと別の場所―― ザワザワと、風に揺れて擦れる葉の音が耳に届く。 夕焼けを吸った土の匂いが、少しだけ甘酸っぱい。 「この……中に…………」 ――いいや、違う。それはない。 だってここは、ダメなんだ。 許されないよ、きっと。 「……ここじゃない気がする」 きっともう―― 二度とここには来ないだろう―― 風音と波音が混じる空間。 孤独を優しく思い知らせてくれる、唯一の場所。 「ここで昔……俺は……」 砂のさらさらとした踏み心地が、心を不安定にさせる。 「ここは……少し危ないもんな……」 これ以上ここに居続けたら……この海原に身を沈めたい欲望に駆られてしまいそうだ。 誰かに手を握っててもらわないと、俺はきっと遠くへと流されてしまうだろう。 そうなったらおしまいだ。世界は広い。またここに戻って来る事は出来ないだろう。 「……ここじゃない気がする」 しっかりと力を込めて。 その場をあとにした―― 何か言わなくちゃいけない事があったんだ。 大切な言葉。 自分の感情を、わかりやすく言い表した一言。 すぐに思い出せると思うんだ。 だってほら……前に進むたびに、言葉がそこまで溢れて来て……。 希望。夢。未来。幸福。 それらを真っ直ぐに繋ぐ、たった一言。 とても簡単で―― あまりにも必然で―― 風が首筋を撫でた―― ここの風は、潮の香りがして―― 靡かれると、少しだけ懐かしい気持ちになれるんだ―― 「話があるんだ」 「結婚しよう」 ――はい。 「はぁっ……あっ、はぁっ……はぁぁぁんっ……!」 樺音の甘い吐息が、潮風に混ざる。 「那由太ぁ……はっ、あぁんっ……あはぁぁっ……!」 この島で最も気高く美しい声が、中耳を撫で回す。 今この瞬間、この場所は、何にも勝る芸術と化す。 「ずっと一緒に暮らすんだ。 これから毎日……死ぬまで、ずっと……」 「死んでからも一緒だよ……?」 「……そうだね。永遠だ」 終わりのない誓いが、全身を泡立たせてくれる。 好きな人と、永遠に愛し合えるなんて。これほどの幸せがあるだろうか。 「私、那由太のお嫁さんになるの……。 那由太のために生きたい。なんだって出来る」 「俺も同じ気持ちだよ。 樺音のために存在し続けたい」 ずっとずっと。お互いがお互いのために。 そうして世界は成り立つんだ。世界が永遠になるんだ。 「はっ、ふあぁっ……那由太……今日も……」 「わかってる。そのつもりだよ」 準備は出来ている。 すでに全身の細胞が一点に集中して、樺音を求めて止まないんだ。 今日も、と言われた。 昨日もした。きっと明日もするだろう。 でも、一日という区切りなんてそもそも必要だろうか。 昨日ってなんだ?いつ昨日が終わって、いつから今日が始まった? ずっと今日だ。ずっとこの日を続けていけばいいじゃないか。 わかりやすい永遠の秩序。昨日も、明日も無い。今日だけ……今この瞬間だけがあれば、それでいい。 その繰り返し。だからずっと一緒にいられる。だから永遠の幸福。 永遠の――結合―― 「――くっ……ひっ、あひっ、くっひいっ…………!!」 膣膜を突き破ると、愛液に混じって赤い小川が溢れ流れてきた。 「んっ、はっ、ぁはぁっ……! おちんちん、くふぅ、 ひ、太い、ね……んっ、んんんっ……!」 処女膜を失った印。破瓜の鮮血だ。 「ああ……樺音の中、やっぱりあったかいね……」 「んっ、那由太のおちんちんも、くひっ、相変わらず、 はっ、ぁぁん……太くて、熱いのぉ……くふうっ……」 これまでもう何度も樺音とセックスしている。 数え切れないほど、結ばれた。 そのたびに樺音は赤い筋を垂らし、俺のペニスを受け入れてくれた。 きっとこれからもそうだろう。 次、この穴に入れる時も、やはり血を滴らせながら樺音は喘ぐ。 樺音は永遠に純潔であり。永遠に性に溺れるのだ。 「もっと奥に来て……? 私……んっ、はっ…… 深いところでおちんちんを感じたいの……」 「ああ、わかった……」 「んっ、くぅ! はっ、あっ、くひゃっ、あぁぁっ……!」 ずぶずぶと陰茎を進ませて、樺音との接続面積を増やす。 体温の上昇に伴って、樺音の嬌声が零れ出た。 「あぁぁんっ! あっ、おちんちんっ、おちん……ちんっ、 はっ、あぁっ……くひっ、あぁぁんっ……!」 「おちんちん、気持ちいいよぉ……あふぅ、あそこの、 一番奥で……熱々のおちんちんが、こん……こん…… って……くふっ、ひぃ……」 子宮の入り口。樺音の秘密の部屋の扉を、亀頭で叩く。 「んっ、んっ、んっ……んっ、んっ……んっ、んんっ! はっ、んっ、はっ、はっ、はぁっ……んっ、はぁんっ!」 短い喘ぎ声が小気味いい。 彼女をもっと善がらせるべく、ペニスで最深部をさらに訪ねた。 「はぁっ、あっ、あっ、あぁん……! おちんちん、 んっ、ずんっ、ずんってなってるうっ、はっ、んっ!」 「ずんっ、ふあっ、ずんっ……おちんちん、ずんずんっ! くひぃ、あっ、あっ、胎盤まで、響いちゃうよぉっ!」 「樺音の子宮……最高の居心地なんだ……」 「そこはね……那由太の新しい精液タンクなんだよぉ……。 はふっ、今、たまたまちゃんに溜めてる精液を…… 全部子宮に注いで欲しいのぉ……」 「私の子宮……はぁぁん、那由太のザーメンでたぷたぷに して欲しい……はふぅん……精液、いっぱい……んっ、 流し込んでぇ……くぅ、はぁぁんっ……!」 「だってっ……私那由太のお嫁さんだもん……! お嫁さんの子宮は、旦那さんの新しいザーメンタンクの はずだよ……? 私が精液保管するんだよ……?」 「那由太の精液は……私の子宮に出すためのもの……! はぁっ、いっぱいそこで射精して……? 着床したいよ……私、赤ちゃんの種欲しいっ……!」 腰を振って、子種をねだる樺音。 これもまた、いつもの事。 今までもそうだったように、これからも求め続けるのだろう。 「構わないよ……。何度だって出してあげるさ」 俺の身体の隅々まで、全て樺音のものなんだ。永遠なんだ。 「んはぁんっ、おちんちん、勃起きてるぅ……! はっ、あっはっ、きゃはぁぁんっ……勃起っ、あはっ!」 「勃起ぃ、勃起勃起勃起ぃっ……! 子宮がキュンキュンするよぉ、おちんちんムクムク 膨れ上がって……子宮が弾けちゃうぅ……!」 「中で……ひくひく動いてる……!」 「うん……。嬉しいの、離したくないの。 いつまでもぎゅーってしていたいの……」 その望みは容易く叶う。なにせ俺達は永遠なのだから。 「ふうぅんっ、あっ、ふぅ……おちんちん……! 私の……んっ、おまんこで……はふぅ、ずっと 抱きしめてたい……はぁぁんっ!」 屹立していく肉棒に、柔肉が纏わりついてくる。 その襞一つ一つが、樺音の愛情なんだ。 ペニスはその愛を全方位に受けながら、抽送を繰り返した。愛に応えるつもりで、激しく、力強く。 「んっ、んっ、んひいっ、あっはぁっ!! おちんちん、すごひよっ、あっ、はぁぁんっ!」 「おまんこ、んんっ、拡げてくうぅ……! はふっ、あっ、あぁっ! ひゃ、ひゃ、あ、あ、あっ!」 腰を揺らすと、同時に樺音の声も可愛く震えた。 それが楽しくて、何度もピストンを繰り出して樺音の喘ぎを堪能してしまう。 「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、 あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ」 「はぁっ、はぁっ……くっ、はぁっ……!」 「ひゃ、ひゃぁ、おちんちんずんずん、ひぃんっ、 気持ちいいよぉ、あっあっあっあっあっあっあっ……!」 「樺音のその声を聞くと……はあ、腰が…… 勝手に動いちゃうんだ、暴れちゃう……!」 「ひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃ、ひゃっ、ひゃっ、ひゃっ! んっ、んひっ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃ、ひぃっ!!」 樺音もそのリズムを楽しんでいる様子だ。 二人の鼓動が世界と調和して、少しずつ永遠に近付いていく。 快楽が全てを覆い尽くす―― 「はぁっ、はぁっ、那由太あっ、おちんちん、はふっ、 おちんちんいいのぉ、おちんちん大好きぃ、あっ、 んっ、んっ……!」 夢中になって肉欲を貪る俺の手に、樺音の細い指が絡まってきた。 温かい掌。血の通った体温と性熱に満ちた指先。 「んっ、んっ、手……繋ぎながらエッチしたい……! あっはぁぁっ、那由太の熱……もっといっぱい 感じたいのぉ、あっ、ふあぁっ!」 性器だけじゃ足りない、と樺音。 俺も指を強く握り返して、その気持ちを肯定した。 「あぁん、あっ、あっ、おちんちん好きぃ……! 那由太とセックスしてると……身体がふわふわ してきて……はっ、あっ、はぁぁぁんっ……!」 「私、んっ、空飛んじゃいそうだよぉっ……! くふっ、はぁっ、気持ち良くて……このまま、 空に……んっ、あっ、あっ……!」 それはまるで天使だ。 でもそうなのだ。樺音は天使なのだ。 その羽で空に舞い飛ぶのであれば、俺も一緒について行きたい。 だって俺達はずっと一緒だから。この手は離したくない。この手を握り続けていれば、空を飛ぶ事だって出来るんだ。 いつか樺音と、楽園の空へ―― 「はぁっ、あっ、あぁんっ、あぁんっ、あんっ、あんっ、 あんっ、あんっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、あっ、 あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ、ぁ――」 「――れろっ、ちゅれろぉっ……!」 「……っ」 絡めた指を、ねっとりとした舌が撫でた。 「樺音……?」 「ちゅっ、んちゅぷ、あふぅ、だ、だってぇ……ちゅ、 おちんちんずぽずぽされてたら、んちゅっ、はふぅ、 もう……興奮が止まんなくて……ちゅれろぉっ!」 「那由太の事、もっと欲しくなっちゃう……ちゅるる、 れろぉ、おちんちんだけじゃなくて……全部、れろっ、 ぴちゅ、那由太の……れろ、全部ぅ……!」 構わない。俺の全部は樺音のためにあると断言できる。 樺音が望むなら……指だけじゃなく、身体の部位全てを捧げる覚悟なんだ。 「ぴちゅ、れろぉ……はっ、あぁんっ……お、おまんこ、 んっ、私の、おまんこ……れろぉ、どんどん、んちゅ、 熱く、なって……はふっ、ひっ……!」 「子宮のお口、くぱくぱ開いちゃうっ……! れろれろぉ、ち、ちんちん、おちんちん欲しくて…… おまんこ緩んじゃうの、はっ、あぁぁんっ!」 少しでも深く突き入れてもらうために、股を大胆に開いて膣肉を広げる樺音。 俺も、樺音をより多く貪りたくて……隆起が止まらない。中でどんどん膨らんでいく。 「んひっ、おひいっ!! おまんこの、奥の……ひあっ、 か、硬いところに、おちんちんごっつんこってぇ……! してるよ、届いてるよぉ……あひぃっ!」 「気持ち、いひいっ、れろっ、ぴちゅむぅ、あはぁっ! もっとぉ、もっと叩いてっ、あっ、あっ、おちんちん、 突っ込んで欲しいっ、はっ、ちゅぷ、れろぉっ!」 「わかってる……いっぱい感じてくれ、樺音っ……!」 「うん……那由太も……私のおまんこで……はっ、ふぅ、 おちんぽ……いっぱい気持ち良くなってね……?」 その優しさが、今は甘いまどろみとなって、腰を突き動かす原動力となる。 「ひゃっ、あっ、あぁっ!? あっ、あひいっ!? んっ、あっ、あっ、あっ、あぁんっ、あはあっ!!」 樺音への欲望が抑えられない。いくら腰を突いても、次から次へと湧いて出てくる。 俺はそのまま樺音を犯し尽くす勢いで、がむしゃらに股間を往復させ続けた。 「あっひっ! ち、ちんぽっ、ちんぽっ! あっ、あはっ、ひっ、ちんぽぉぉっ!!」 「ちんぽ、気持ちいいっ、あっ、あっ、あぁんっ!! おまんこの奥に、ちんぽがガンガンって響いてっ、 私、おっ、おひいっ、おかしくなっひゃうよぉっ!!」 「可愛いよっ、樺音っ、はっ、はっ……!」 「勃起ちんぽガシガシされ過ぎて、あふっ、ひっ! 私のおまんこ、あっ、あっ、お嫁さんまんこになるうぅ、 あっ、あはあっ、あっひゃあっ!!」 「那由太のちんぽ専用のまんこっ……! あっ、あっ! 旦那さんの精液をたくさん浴びてすくすく育つ……んっ、 スケベな……お嫁さんまんこなのぉ……!」 「んはぁっ、いっぱい欲しいよぉ、旦那さんのザーメン、 はふっ、私のおまんこ、それがないと困るのぉっ! おまんこ枯れちゃうの、生きていけないのぉっ!!」 「ここに……出して欲しいんだね……?」 「欲しいっ……! ザーメン欲しいっ……! おまんこの一番奥に……栄養いっぱいちょうだいっ……! 真っ白なちんぽミルク飲ませてっ、あっ、はぁっ!」 いつもそうだ。躊躇なく淫語を叫びながら、樺音は性に堕ちていく。 ここではそれが許される。一緒に淫溺しよう。永遠にそれを繰り返そう。 「れろっ、ぴちゅむ、ちゅずずっ、ひ、ひんぽぉっ! ひんぽイっへっ……出ひへぇっ、射精っ、んちゅっ、 中出ひ、ひへえっ!! れろっ、ぴちゅむぅ!」 「はあっ、はあっ、はあっ、はあっ!!」 「私のお嫁さんまんこ、れろっ、ぴちゅむっ、ちゅっずっ! んっ、ひあっ! 那由太のちんぽ射精でっ、れろっ、 もっとキュンキュンにしてえっ、ちゅずむむむっ!」 膣圧が波打っている。俺の絶頂を促しているのだろう。 樺音の欲が直接俺のペニスに伝わって。精液が物凄い勢いで駆け上ってくる。 「くぅっ…………っっ!」 「んっ、お、ひっ、ちんぽぶるぶるーってっ! ひぃっ、震えてる、射精の前兆、あっ、ひゃぁっ!!」 「いいよ、イっていいからっ! ちゅぷ、れろっ、 はふぅ、だってっ、だって私も……あっ、ひあっ! あっ、あっ、あっ、あっ、あっ…………!!」 「樺音もイキそうなのか……? だったら……!」 「うん……一緒にイクっ……! 那由太のちんぽと 一緒に……おまんこ、潮吹きしたいっ、ちゅっぷっ!」 蕩け切ったその表情は、限界が間近に控えている事を訴えており……。 「あっ、んっ、私、もうイっちゃうっ……! おまんこ我慢出来ないよっ、はっ、れろっ、ひぃっ!」 「那由太も来てっ……! このまま、んっ、お願いっ! 射精してっ、おちんぽ、出しちゃってえっ、あはあっ!」 そんな淫らな彼女の顔を眺めながら、俺も股間にラストスパートを施した。 そして―― 「い、イクっ、イクイクイクイクイクうっ……!! おまんこイっちゃうっ、あっ、あっ、あっ、ああんっ!」 「ちんぽいいのおっ! イっちゃうよっ、もう……はあっ! れろっ、ぺろぉっ、ちゅむ、イクイク、れろれろっ! イクイクれろっ、ちゅずずイクれろイクれろれろイクぅ」 「あぁん、んっ、んっ、んっ、んっ、ちゅむっ、んっ、 んっ、んっ、ちゅずっ、ずりゅ、んっ、んっ、ぷちゅ、 んっんっんっんっれろれろんっんっんっんっんっ――!」 「――あっっっ…………っひゃああああああああああぁあ ああぁぁぁぁぁああぁあぁああぁあんんんんっっ!!!」 俺達は同時に、最高の瞬間を迎えた。 「んっ、ひゃひっ、来てるっ、あぁっ、ドクドクってっ! あっ、あっ、おちんぽっ、いっぱい、あっ、あっ!!」 「おまんこの中あったかくてっ、ひぃっ、あっひいっ!! お潮、出ちゃうっ、イクっ、イクっ! イっちゃうのっ! あっ! あっ! ひっ! ひっ! ひっ!」 白濁を蓄える代わりに、透明な淫潮を吹き漏らす樺音。 彼女の小刻みな震えがペニスに心地良く響く。とめどなく吐精を繰り出してしまう。 「んっ、はぁぁっ、気持ち良過ぎぃっ!! 中出し射精、最高だよぉっ、おまんこイクのぉっ!! お潮、出るっ、あっ、あっ、あっ…………んんっ!!」 樺音の膣痙攣も一向に治まらない。 潮を漏らしながら、ひたすらに蕩け堕ちていく。 「んっ、おちんぽまだ震えてるぅ、びゅるるるーっ!! ひあっ、射精、いっぱひっ、くっ、あっ、ひいっ!!」 「はあっ、はあっ……くっ!!」 「――あっくああっ!? ちんぽ、また出てるっ!! 精液また、子宮に、びちゃ、びちゃって、凄い勢いで、 ひあっ、くっひっ!?」 「おまんこ、膨れちゃうっ! ザーメンで、たぷたぷぅ、 あっ、ひゃぁあっ、熱々で、こんなの、あはあっ! 幸せ過ぎるのぉっ、あっ、あぁあんっ!!」 喜悦の潮を吹き上げて、快楽を叫ぶ樺音。 そんな彼女と一つになりながら、俺は最後の一滴までしっかりとその奥へと注ぎ続けたのだった。 「はぁっ、はぁっ……んっ、ちんぽぉ……はふぅ、 いっぱい、出したねぇ……はっ、あぁぁんっ……」 「樺音も……いっぱい出してた」 「ちゅむ、れろぉっ、ぴちゅぴちゅ……私のおまんこ、 ちゅず、那由太の精液でいっぱい……れろっ……! 絶対妊娠しちゃうよ……はふぅん」 「そのつもりで射精したんだ。 二人で一緒に育てよう」 「うん……ちゅぷ、私……子供二人欲しい……ちゅぷ、 男の子と、女の子……ちゅる、那由太と……私に 似た子だと、れろっ、嬉しいな……ぴちゅむ」 樺音は俺の指を舐め回して、絶頂後の余韻に浸っている。 彼女が描く穏やかな未来は。 とても優しく、とてもささやかで。 そしてとても儚く思えた。 でもきっと叶う。 この世界は永遠だから。俺達二人のためのものだから。 ずっと一緒にいられる。ずっと愛し合っていける。 その夢だって、きっと―― 「――那由太……?」 今日が何月何日で―― 「寝ちゃった……?」 ここに来てからどれだけの時間が経っていて―― 「……ううん。起きてるよ」 樺音と何度身体を重ねたか―― 「色々……思い出せないんだ」 「怖いの?」 「大切な事を忘れてる気がする……。 大切な事から逃げてる気がする……」 「怖いなら、キスしようか」 「しよう」 「……ちゅっ」 その感触が、全てを溶かす。 ただ一つの事実だけを浮き彫りにさせる。 すなわち、ここは―― 「――ここは、楽園そのものだ」 純白の天使がいる。それだけで全てが肯定されるんだ。 ねえ、那由太……。 ここに本当の幸せはあるのかな……? どこに本当の幸せがあるのかな……? そんなもの―― どこにあるのかわからない。 だから俺は甘美な世界に目を背け続けたいのに。 それでも……。 それでも俺は……樺音に逃げてはいけないのか……? 彼女はもういない。 その事実は変わらない。 そして……その犯人である俺のギフトも、この身体から消える事は無くて……。 それじゃあ、俺は―― この先、どうやって生きていけば――? ……そう。浄化 「二人でこうして海を見てると……なんだか、 それまでの悲しい人生が浄化されていく気がするんだ」 「ずっと辛かったんだ。一人で……誰も助けてくれなくて」 「寂しかった。この身体とこの病を呪い続けた。 自分の運命を、世の中の全てを恨み続けた」 「そんな中、樺音に出会ったんだ」 「救われたんだ。希望だと思った」 「でも樺音はもういない」 「俺が殺したんだ」 「俺の希望は……もう、どこにも……」 彼女を奪った自分のギフトを、俺は憎んでいる。 そんなギフトを産み出した境遇を、俺は憎んでいる。 憎悪に満ちた人生には、希望の光はもう及ばない。 ――樺音の傍にいたいよ。 そのために、全てを失っても構わない。 そうだ。 俺に一番必要なのは、ギフトへの復讐じゃない。 一人ぼっちで過ごす空虚な人生じゃない。 俺が求めているのは……彼女そのもので―― 「樺音……俺、ようやくわかった気がする」 「こんな自分が出来る、唯一の罪滅ぼし」 「凶悪なギフトを産み出してしまった俺が、 樺音にしてあげられる一番のケジメ」 それは――やっぱり―― 愛してるよ、樺音―― ――あの一件の後、私は天使島を離れ、本土に戻った。 そして、本部に用意された新ポストも辞任した。 白衣を脱ぐ事を決めたのだ。 EdEnは、結局そのままとなった。 隔離施設としての存在価値はやはり必然であり、やむを得ず続行措置するしかないと判断されたのだった。 ギフトを除去された彼女達は、EdEnを離れ本土に戻ったと聞いた。 同じくギフトの無い期招来那由太は―― 「……感謝してもいるのよ」 「あなたのギフトはとても狂暴だったはず。 ブラック+の化け物……。残酷と殺戮の権化」 「だから娘を殺した……」 でも……それでも……。 「綺麗なままにしてくれたのね。 どうも……ありがとう」 凶悪なギフトが、死を尊重するわけがない。 きっと……ギフトに意識を奪われながらも、“あなた”が懸命に―― Thank you for play ChronoBox.